以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の構成要件および実施の形態等について以下に詳細に説明するが、これらは本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に限定されるものではない。なお、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は、室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で行う。
本発明の一形態は、2または3またはそれ以上、すなわち、2以上のフタロシアニン骨格が、酸素原子を介して、二価または三価の有機基によって連結されてなるフタロシアニン系化合物であって、前記酸素原子は、前記フタロシアニン骨格を構成する炭素原子と結合してなり、700nm以上に最大吸収波長を有する、フタロシアニン系化合物に関する。なお、本明細書では、上記フタロシアニン系化合物を、単に「フタロシアニン系化合物」あるいは「本発明に係るフタロシアニン系化合物」とも称する。
本発明の一形態に係るフタロシアニン系化合物は、以下の(i)および(ii)を満たす;
(i)2または3またはそれ以上、すなわち、2以上のフタロシアニン骨格が、酸素原子を介して、二価または三価の有機基によって連結されてなる構造を有し、上記酸素原子は、フタロシアニン骨格を構成する炭素原子と結合している;
(ii)700nm以上に最大吸収波長を有する。
上記(i)および(ii)を満たすフタロシアニン系化合物は、良好な熱線吸収能および可視光透過率を有することに加え、優れた耐光性を発揮することが判明した。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、従来技術によるフタロシアニン系化合物と比較して、樹脂と混合した場合であっても、可視光透過率が非常に高い。すなわち、樹脂と混合した場合であっても、高い透明性を有する。さらに、上記(i)および(ii)を満たすフタロシアニン系化合物は、耐熱性にも優れ、光照射後の黄変もまた抑制される。
上記のように本発明に係るフタロシアニン系化合物が良好な熱線吸収能および可視光透過率を低下させることなく、高い耐光性を示す理由は不明であるが、下記のように推測される。なお、本発明は、下記推測に限定されない。
一般に、平面性を有する分子化合物の耐光性は、当該化合物がその平面性を保持しながら互いに積層する形態をとることにより、向上する傾向にある。ここで、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記(i)に示されるように、適切なリンカーによってフタロシアニン骨格を構成する炭素原子同士が連結されてなる、フタロシアニン骨格の多量体(例えば、二量体および三量体またはそれ以上)である。このように、特定の形態で連結された多量体は、一分子中で、それぞれのフタロシアニン骨格が一平面中(同一平面内)に並んだ平面性の高い分子構造を有していると推測される。したがって、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、多量体(例えば、二量体および三量体またはそれ以上)におけるフタロシアニン骨格が、それぞれ一平面中(同一平面内)において並んだ状態を保持しながら、このように高い平面性を保持した状態で各分子が互いに積層しやすいために、高い耐光性を発揮できると推測される。
一方で、高い平面性を有し、共役が拡張したフタロシアニン化合物は、吸収スペクトル(吸収帯)がブロード化する。すなわち、吸収スペクトル(吸収帯)の幅が広くなる。その結果、可視光領域にまで吸収が広がってしまうことで、可視光透過率が低下することがある。しかしながら、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、適切なリンカーを介してフタロシアニン骨格が2つまたは3つまたはそれ以上(すなわち、2つ以上)連結された構造を有することから、上記のような吸収スペクトル(吸収帯)のブロード化を適度に抑制することができる。したがって、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、良好な可視光透過率を有すると考えられる。
加えて、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記(ii)に示されるように、700nm以上に最大吸収波長を有する。したがって、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、太陽光の熱線吸収能に大きく関与する波長領域(670〜850nm)の吸収が大きいことから、良好な熱線吸収能が得られる。
[フタロシアニン系化合物]
本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記(i)の通り、2または3またはそれ以上、すなわち、2以上のフタロシアニン骨格が、酸素原子を介して、二価または三価の有機基によって連結されてなる構造を有する。この際、上記酸素原子は、フタロシアニン骨格を構成する炭素原子と結合している。
なお、本明細書中、「フタロシアニン骨格」とは、下記式で表される構造を核として有する構造をいう:
なお、フタロシアニン骨格としては、上記無金属フタロシアニンの他、金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物等を中心に有するフタロシアニンも含まれる。
また、「フタロシアニン系化合物」とは、フタロシアニン化合物に加え、上記式で表されるフタロシアニン骨格の一部がナフタロシアニン骨格に置換されたナフタロシアニン化合物および下記構造(b’)がフタロシアニン骨格の隣接する二つの部位に導入されるフタロシアニン化合物も含む。
フタロシアニン系化合物において、上記(i)に示されるように、二価または三価の有機基は、酸素原子を介して、2つ以上(例えば、2つまたは3つまたはそれ以上)のフタロシアニン骨格を連結する。なお、本明細書中、「有機基」とは、炭素原子を含む基をいう。ここで、有機基に含まれる炭素原子数は特に制限されないが、1〜50であると好ましく、3〜30であるとより好ましい。かような有機基が酸素を介してフタロシアニン骨格を連結することで、平面性の高い状態で分子同士が積層しやすくなり、耐光性が向上する。加えて、熱線吸収に適した最大吸収波長(λmax)が得られやすくなるため、好ましい。
また、本明細書中、二価または三価の有機基および酸素原子を、まとめて「リンカー」または「連結基」とも称することがある。当該リンカーは、両末端(二価の有機基の場合)または3つの末端(三価の有機基の場合)に酸素原子を有し、当該酸素原子が、フタロシアニン骨格を構成する炭素原子とそれぞれ結合する。かような構成により、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、高い平面性を維持したまま各分子が互いに積層した状態を形成しやすくなり、高い耐光性を発揮できる。
また、上記(ii)に示されるように、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、その最大吸収波長(λmax)が700nm以上である。なお、本明細書中、「最大吸収波長」は、可視光領域から近赤外領域(360〜850nm、特に400〜850nmの波長域)での最大吸収波長を意味し、後述の実施例に記載の方法で測定された値をいう。すなわち、以下の方法による値が最大吸収波長として採用される。まず、フタロシアニン系化合物の含有率が1.6重量%(フタロシアニン系化合物と樹脂との総量に対して)になるようにポリビニルブチラール樹脂と混合する。次いで、上記混合物に固形分濃度が20重量%となるように溶剤としてのテトラヒドロフランを加え、溶解することで塗料溶液を得る。そして、得られた塗料溶液を、60番のバーコーターを用いてガラスに塗布し、室温で乾燥させる。その後、さらに100℃で10分間乾燥させ、フタロシアニン系化合物含有ブチラール塗膜を形成する。当該塗膜について、分光光度計を用いて吸光度を測定し、最大吸収波長(λmax)を求める。なお、上記分光光度計としては、例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「U−2910」などを用いることができる。
より具体的には、本発明に係るフタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)は、700nm以上といった長波長領域に存在し、好ましくは720〜850nm、より好ましくは725〜840nm、さらにより好ましくは735〜830nm、特に好ましくは740nm〜800nmの波長域に存在する。よって、かような範囲に最大吸収波長が存在することから、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、良好な熱線吸収能を有する。このため、本発明に係るフタロシアニン系化合物を含む熱線吸収材は、好ましくは720〜850nm、より好ましくは725〜840nm、さらにより好ましくは735〜830nm、特に好ましくは740〜800nmの波長域の光を選択的に吸収することができ、例えば、乗り物(例えば、自動車、バス、電車等)や建物の窓などの熱線吸収合わせガラス(合わせガラス遮熱中間膜)、熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽樹脂ガラス、熱線反射ガラスに使用すると、車内や室内の温度の上昇を有効に抑制することができる。
加えて、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、可視光領域のうち、400〜650nmにおける透過率が高く、特に510nm付近において高い透過率を有する。このように、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、特に人間の目の視感度の高い510nm付近の緑色の光の透過率に優れることから、熱線吸収合わせガラス等に用いた際、良好な視認性が得られる。より具体的な例としては、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、特に510nm付近の波長の光(青色光〜緑色光)を透過させやすいことから、青色光〜緑色光を発するLEDランプの視認性を向上させることができる。よって、例えば、LEDを用いたヘッドライトや外灯の視認性が向上するため、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、乗り物のフロントガラス(熱線吸収合わせガラス)の中間膜に好適に使用できる。
良好な熱線吸収能および可視光透過率を有すると共に、耐光性に優れるという観点から、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、下記式(1)または下記式(2)または下記式(3)で表される化合物であると好ましい:
上記式(1)、(2)および(3)中、
A1〜A16は、それぞれ独立して、*で表される各結合部位のいずれかに結合し、残部は、それぞれ独立して、水素原子を表し、
R1は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR2;R2は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)、または、−R3−C(=O)OR4(R3は、炭素原子数1〜20のアルキレン基、R4は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし、
pは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、
mは、それぞれ独立して、1〜15の整数であり、
m’は、それぞれ独立して、1〜14の整数であり、
Xは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を表し、
nは、それぞれ独立して、0〜4の整数であり、
kは、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、
qは、それぞれ独立して、0〜3の整数であり、
oは、それぞれ独立して、0〜6の整数であり、
a1は、1〜6であり;
Mは、それぞれ独立して、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物であり、
Yは、二価または三価の酸素原子を有してもよい有機基であり、
下記式(b)または(b’):
で表わされる構造(b)または(b’)の*で表わされる結合部位は、前記式(1)〜(3)中のA1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、A13〜A16の隣接する二つの置換基として結合する。
すなわち、本発明に係るフタロシアニン系化合物の好ましい形態としては、上記式(1)で表される二量体および上記式(2)で表される三量体および上記式(3)で表される多量体である。
なお、本明細書中、上記式(1)〜(3)中、A1、A4、A5、A8、A9、A12、A13およびA16の置換基を単に「α位の置換基」とも称する、またはA1、A4、A5、A8、A9、A12、A13およびA16を総称して「α位」とも称する。また、同様にして、上記式(1)〜(3)中、A2、A3、A6、A7、A10、A11、A14およびA15の置換基を単に「β位の置換基」とも称する、またはA2、A3、A6、A7、A10、A11、A14およびA15を総称して「β位」とも称する。
上記式(1)〜(3)中、A1〜A16は、それぞれ独立して、各置換基、各構造、各ハロゲン原子もしくはリンカー上の、「*」で表される結合部位のいずれかに結合するか、または水素原子を表す。すなわち、A1〜A16は、それぞれ独立して、各置換基、各構造、各ハロゲン原子もしくはリンカー上の、「*」で表される結合部位のいずれかに結合し、残りのA1〜A16は、水素原子を表す。ここで、各置換基、各構造、各ハロゲン原子およびリンカー(Y(O)2−((Y(−O−)2または−O−Y−O−)またはY(O)3−(Y(−O−)3)))が結合するフタロシアニン骨格上の結合部位(すなわち、A1〜A16)ならびに水素原子の位置は、各フタロシアニン骨格において同じであっても異なっていてもよい。例えば、式(2)において、リンカーの一方の末端が一方のフタロシアニン骨格のA1に結合した場合、リンカーの他方の末端は、他方のフタロシアニン骨格のA1に結合してもよいし、その他の結合部位(すなわち、A2〜A16のいずれか一つ)に結合してもよい。
また、一分子中に含まれる複数のフタロシアニン骨格において、置換される置換基、各構造、各ハロゲン原子の種類およびこれらの数は、互いに同じであっても異なっていてもよい。例えば、式(1)で表される二量体において、一方のフタロシアニン骨格上に、以下の式(a)で表される置換基(a)がA1、A5、A9、A13にそれぞれ置換されている一方で、他方のフタロシアニン骨格上に置換される置換基(a)は、A2、A6、A10、A14にそれぞれ置換した形態であってもよい。さらに、これらの置換基(a)上に置換されるR1およびpは、それぞれ、互いに同じであっても異なっていてもよい。ただし、合成の容易性や吸収スペクトル(吸収帯)のブロード化を抑制し、良好な可視光透過率を得ることを考慮すると、複数のフタロシアニン骨格上に置換される置換基、各構造、各ハロゲン原子の種類およびこれらの数は、互いに同じであると好ましい。
一つのフタロシアニン骨格上のA1〜A16のうち、いずれか1個は、リンカー(Y(−O−)2またはY(−O−)3)に付された「*」で表される各結合部位のいずれかに結合する。残りのA1〜A16は、それぞれ下記式(a)で表される置換基(a)、下記式(b)で表される構造(b)の結合部位、下記式(b’)で表される構造(b’)の結合部位、「X」で表されるハロゲン原子および水素原子のいずれか一つに結合する:
上記式(a)中、
R1は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR2;R2は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)、または、−R3−C(=O)OR4(R3は、炭素原子数1〜20のアルキレン基、R4は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし、
pは、0〜5の整数である。
上記式(b)および(b’)中、*は、前記式(1)〜(3)中のA1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、A13〜A16の隣接する二つの置換基として結合する部位を表す。本明細書では、上記式(b)で表わされる構造(b)を有する置換基を、「置換基(b)」とも称する。同様にして、上記式(b’)で表わされる構造(b’)を有する置換基を、「置換基(b’)」とも称する。
以下、フタロシアニン骨格上に置換する置換基(a)、構造(b)、構造(b’)、「X」で表されるハロゲン原子、リンカーおよび「M」で表される中心金属についてそれぞれ説明する。
(置換基(a))
上記式(1)〜(3)における置換基(a)は、上記の式(a)で示される、置換または無置換のフェノキシ基である。
上記式(a)中、R1は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR2;R2は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)、または、−R3−C(=O)OR4(R3は、炭素原子数1〜20のアルキレン基、R4は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)である。なお、R1が同一のフェノキシ基中に複数存在する(pが2〜5の整数である)場合に、R1は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
R1として、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基をフェノキシ基に導入すると、この導入による共役系の拡張や、電子供与性に起因して、フタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)が長波長側へシフトする。その結果、良好な熱線吸収能を維持しつつ、可視光透過率が向上する。さらに、上記のような共役系の拡張により、分子内における電子的な安定性が増す。これにより、熱線吸収材に樹脂等の媒体を使用した場合、紫外線の照射に起因する媒体とフタロシアニン系化合物との相互作用が抑制でき、その結果、フタロシアニン系化合物の分解を有効に抑制・防止できる。よって、このようなフタロシアニン系化合物を用いた熱線吸収材は耐光性がさらに向上する。
また、R1として、ハロゲン原子、炭素原子数2〜21のエステル基または−R3−C(=O)OR4(R3は、炭素原子数1〜20のアルキレン基、R4は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)をフェノキシ基に導入すると、電気吸引性や立体障害が大きくなることなどに起因して吸収スペクトル(吸収帯)がシャープになり、可視光透過率が向上する。加えて、溶剤や樹脂への相溶性が向上する。
上記置換基のなかでも、熱線吸収能、透明性(可視光透過率の向上)、耐光性および溶媒溶解性などを考慮すると、R1は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、および炭素原子数6〜30のアリール基からなる群から選択されると好ましい。
さらに、熱線吸収能と可視光透過率とをバランスよく向上させることに加え、耐光性をさらに向上させるという観点から、R1は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択されることがより好ましく、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選択されることが特に好ましい。
また、上記式(a)において、pは、それぞれ独立して、0〜5の整数であり、R1がフェノキシ基に導入される数は特に制限されない。より可視光透過率を向上させるという観点から、pは、それぞれ独立して、0〜3の整数であると好ましく、0〜2の整数であるとより好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、上記式(1)〜(3)中、R1は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または炭素原子数6〜30のアリール基を表わし;pは、0〜3の整数である。本発明のより好ましい形態では、上記式(1)〜(3)中、R1は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、または炭素原子数6〜10のアリール基を表わし;pは、0〜2の整数である。さらに、耐光性を向上させるという観点から、pは、1または2の整数であると特に好ましい。すなわち、本発明の特に好ましい形態では、上記式(1)〜(3)中、R1は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜5のアルキル基、または炭素原子数6〜10のアリール基を表わし;pは、1または2である。また、置換基R1のフェノキシ基への結合位置もまた特に制限されない。例えば、pが1である場合には、置換基は、フェノキシ基の酸素原子に対し、オルト位(2位)、メタ位(3位)またはパラ位(4位)のいずれかの位置に配置されうる。これらのうち、特定波長域への選択的な吸収、溶媒溶解性などを考慮すると、2位、4位が好ましく、2位がより好ましい。pが2である場合には、置換基は、フェノキシ基の酸素原子に対し、2,3位、2,4位、2,5位、2,6位、3,4位、3,5位のいずれかの位置に配置されうる。これらのうち、可視光透過率などを考慮すると、2,4位、2,5位、2,6位が好ましく、2,5位、2,6位がより好ましい。
ここで、R1で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、可視光透過率、耐光性を向上させるという観点から、フッ素原子または塩素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
R1で表される炭素原子数1〜20のアルキル基としては、特に制限はないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、2−テトラオクチル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、2−ヘキシルデシル基、n−ヘプタデシル基、1−オクチルノニル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−イコシル基などの直鎖または分岐鎖のアルキル基;シクロヘキシル基、シクロオクチル基等の環状のアルキル基などが挙げられる。これらのうち、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が特に好ましく、メチル基が最も好ましい。上記アルキル基を有することで、最大吸収波長が特定波長領域に存在しやすくなり、良好な熱線吸収能を発揮することができる。
R1で表される炭素原子数6〜30のアリール基としては、特に制限はないが、例えば、フェニル基、ビフェニル基などの非縮合炭化水素基;ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基などの縮合多環炭化水素基が挙げられる。これらのうち、フェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。上記アリール基を有することで、最大吸収波長が特定波長領域に存在しやすくなり、良好な熱線吸収能を発揮することができる。また、電子が非局在化することから、耐光性もまた向上する。
R1で表される炭素原子数2〜21のエステル基は、式:−C(=O)OR2で表される。この際、R2は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす。ここで、炭素原子数1〜20のアルキル基は、特に制限されず、上記と同様のアルキル基が挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、R2は、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
R1で表される置換基−R3−C(=O)OR4において、R3は、炭素原子数1〜20のアルキレン基、R4は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす。ここで、R3としての炭素原子数1〜20のアルキレン基としては、特に制限はないが、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などの直鎖または分岐鎖のアルキレン基が挙げられる。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、R3は、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基がより好ましく、メチレン基が特に好ましい。また、R4としての炭素原子数1〜20のアルキル基は、特に制限されず、上記と同様のアルキル基が挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、R4は、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
本発明に係る上記式(1)〜(3)のフタロシアニン系化合物において、両末端のフタロシアニン骨格内の上記置換基(a)は、各フタロシアニン骨格上に1〜15個導入される。すなわち、上記式(1)〜(3)におけるmは、それぞれ独立して、1〜15の整数である。良好な熱線吸収能、可視光透過率に加え、耐光性をより向上させるという観点から、置換基(b’)が存在しない(oが0である)場合には、mは、それぞれ独立して、5〜15の整数であると好ましく、8〜15の整数であるとより好ましく、10〜15の整数であると特に好ましい。また、置換基(b’)が存在する(oが1以上である)場合には、良好な熱線吸収能、可視光透過率に加え、耐光性をより向上させるという観点から、上記式(1)〜(3)におけるmは、それぞれ独立して、5〜7の整数であると好ましい。
また、本発明に係る上記式(3)のフタロシアニン系化合物において、中央部のフタロシアニン骨格内の上記置換基(a)は、各フタロシアニン骨格上に1〜14個導入される。すなわち、上記式(3)におけるm’は、それぞれ独立して、1〜14の整数である。良好な熱線吸収能、可視光透過率に加え、耐光性をより向上させるという観点から、置換基(b’)が存在しない(oが0である)場合には、m’は、それぞれ独立して、5〜7の整数であると好ましい。また、置換基(b’)が存在する(oが1以上である)場合には、良好な熱線吸収能、可視光透過率に加え、耐光性をより向上させるという観点から、m’は、それぞれ独立して、3〜5整数であると好ましい。
これらのうち、少なくとも1個以上の置換基(a)は、フェノキシ基(すなわち、上記式(a)において、p=0である置換基)、4−フルオロフェノキシ基(すなわち、上記式(a)において、R1がフッ素原子、p=1である置換基)、2,5−ジメチルフェノキシ基(すなわち、上記式(a)において、R1がメチル基、p=2である置換基)、2,6−ジメチルフェノキシ基(すなわち、上記式(a)において、R1がメチル基、p=2である置換基)、または2−フェニルフェノキシ基(すなわち、上記式(a)において、R1がフェニル基、p=1である置換基)であると好ましく、2,5−ジメチルフェノキシ基(すなわち、上記式(a)において、R1がメチル基、p=2である置換基)、2,6−ジメチルフェノキシ基(すなわち、上記式(a)において、R1がメチル基、p=2である置換基)、または2−フェニルフェノキシ基(すなわち、上記式(a)において、R1がフェニル基、p=1である置換基)であるとより好ましい。これらの置換基は、一つのフタロシアニン骨格上に一種のみ導入されてもよいし、2種以上が導入されていてもよい。また、置換基(b’)が存在しない(oが0である)場合には、これらの置換基は、一つのフタロシアニン骨格上に8個以上導入されていると好ましく、10個以上であるとより好ましい。このような構造のフタロシアニン系化合物は、熱線吸収能および可視光透過率が向上することに加え、耐光性がさらに向上する。また、置換基(b’)が存在する(oが1以上である)場合には、これらの置換基は、一つのフタロシアニン骨格上に5〜7個であると好ましい。
(構造(b)(置換基(b))
上記式(1)〜(3)における構造(b)(置換基(b))は、上記式(b)で示される。上記式(b)中の「*」で表される結合部位が、フタロシアニン骨格上のA1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、A13〜A16のうち、隣接する二つの置換基として結合することにより、ナフタロシアニン骨格が形成される。
構造(b)を導入することにより、より高い平面性を有する分子を形成することができるため、平面性が高い状態で各分子が互いに積層しやすくなる。その結果、高い耐光性を発揮できるフタロシアニン系化合物が得られる。
また、上記構造(b)の導入による共役系の拡張により、分子内における電子的な安定性が増す。これにより、熱線吸収材に樹脂等の媒体を使用した場合、紫外線の照射に起因する活性酸素、ラジカルなどによるフタロシアニン系化合物への攻撃が抑制でき、その結果、フタロシアニン系化合物の分解を有効に抑制・防止できる。よって、このようなフタロシアニン系化合物を用いた熱線吸収材は耐光性に優れる。
さらに、上記のような共役系の拡張により、フタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)は長波長側へシフトする。その結果、良好な熱線吸収能を維持しつつ、可視光透過率が向上する。
なお、本明細書中、「隣接する二つの置換基」とは、一つのベンゼン環上において、ある置換基と、当該置換基を基準として、オルト位(2位)に存在する他の置換基と、を指す。例えば、「隣接する二つの置換基」としては、A1とA2、A2とA3、A3とA4等である。したがって、「構造(b)の*で表わされる結合部位は、前記式(1)〜(3)中のA1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、A13〜A16の隣接する二つの置換基として結合する」とは、A1〜A16のうち、一つのベンゼン環上において、隣り合う置換基の一方が上記式(b)で示される構造(b)の一方の結合部位(「*」で表される部分)に結合し、隣り合う置換基の他方が上記式(b)で示される構造(b)の他方の結合部位に結合した形態をいう。
本発明に係るフタロシアニン系化合物において、上記構造(b)は、各フタロシアニン骨格上に0〜3個導入される。すなわち、上記式(1)〜(3)におけるkは、それぞれ独立して、0〜3の整数である。吸収スペクトル(吸収帯)がブロード化することを抑制し、良好な可視光透過率を得るという観点から、kは、それぞれ独立して、0〜2の整数であると好ましく、0または1であるとより好ましい。さらに、耐久性をより向上させるという観点からは、kは、1であると特に好ましい。
構造(b)の導入位置は特に制限されない。例えば、A1〜A4の中で、A1に構造(b)の一方の結合部位が結合し、A2に構造(b)の他方の結合部位が結合した形態(α位−β位)であってもよいし、A2に構造(b)の一方の結合部位が結合し、A3に構造(b)の他方の結合部位が結合した形態(β位同士)であってもよい。なかでも、良好な熱線吸収能および可視光透過率を維持し、同時により高い耐光性を得るため、構造(b)は、互いに隣接するβ位同士に架橋するように形成されると好ましい。すなわち、上記式(b)で示される構造(b)により置換される、隣接する二つの置換基は、A2〜A3、A6〜A7、A10〜A11、A14〜A15の組み合わせから選択されると好ましい。
(構造(b’)(置換基(b’))
上記式(1)〜(3)における構造(b’)(置換基(b’))は、上記式(b’)で示される。上記式(b’)中の「*」で表される結合部位が、フタロシアニン骨格上のA1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、A13〜A16のうち、隣接する二つの置換基として結合する。
構造(b’)を導入することにより、より高い平面性を有する分子を形成することができるため、平面性が高い状態で各分子が互いに積層しやすくなる。その結果、高い耐光性を発揮できるフタロシアニン系化合物が得られる。
また、上記構造(b’)の導入による共役系の拡張により、分子内における電子的な安定性が増す。これにより、熱線吸収材に樹脂等の媒体を使用した場合、紫外線の照射に起因する活性酸素、ラジカルなどによるフタロシアニン系化合物への攻撃が抑制でき、その結果、フタロシアニン系化合物の分解を有効に抑制・防止できる。よって、このようなフタロシアニン系化合物を用いた熱線吸収材は耐光性に優れる。
さらに、上記のような共役系の拡張により、フタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)は長波長側へシフトする。その結果、良好な熱線吸収能を維持しつつ、可視光透過率が向上する。
なお、本明細書中、「隣接する二つの置換基」とは、一つのベンゼン環上において、ある置換基と、当該置換基を基準として、オルト位(2位)に存在する他の置換基と、を指す。例えば、「隣接する二つの置換基」としては、A1とA2、A2とA3、A3とA4等である。したがって、「構造(b’)の*で表わされる結合部位は、前記式(1)〜(3)中のA1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、A13〜A16の隣接する二つの置換基として結合する」とは、A1〜A16のうち、一つのベンゼン環上において、隣り合う置換基の一方が上記式(b’)で示される構造(b’)の一方の結合部位(「*」で表される部分)に結合し、隣り合う置換基の他方が上記式(b’)で示される構造(b’)の他方の結合部位に結合した形態をいう。
下記式(b’)の構造(b’)において、qは、2個のフェノキシ基(−O−Ph;Ph=フェニル基)を連結するアルキレン基(−CqH2q−)の炭素原子数を表わす。qは、それぞれ独立して、0〜3の整数である。吸収スペクトル(吸収帯)がブロード化することを抑制し、良好な可視光透過率を得るという観点から、qは、好ましくは0または1であり、特に好ましくは0である。
また、上記構造(b’)において、2個のフェノキシ基を連結する位置は、特に制限されない。具体的には、一方のフェノキシ基の2位と他方のフェノキシ基の2位と、一方のフェノキシ基の3位と他方のフェノキシ基の3位とが連結することが好ましく、一方のフェノキシ基の2位と他方のフェノキシ基の2位とが連結することがより好ましい。すなわち、置換基(b’)は、下記構造を有することが好ましい。
本発明に係るフタロシアニン系化合物において、上記構造(b’)は、各フタロシアニン骨格上に0〜6個導入される。すなわち、上記式(1)〜(3)におけるoは、それぞれ独立して、0〜6の整数である。吸収スペクトル(吸収帯)がブロード化することを抑制し、良好な可視光透過率を得るという観点から、oは、それぞれ独立して、0〜5の整数であると好ましく、0(構造(b’)を持たない)または3〜4であるとより好ましい。なお、構造(b)および(b’)が共存する場合の、構造(b)および(b’)のフタロシアニン骨格への合計導入数(oとkとの合計)は、特に制限されないが、吸収スペクトル(吸収帯)がブロード化することを抑制し、良好な可視光透過率を得るという観点から、3〜5の整数であると好ましく、4であるとより好ましい。
構造(b’)の導入位置は特に制限されない。例えば、A1〜A4の中で、A1に構造(b)の一方の結合部位が結合し、A2に構造(b)の他方の結合部位が結合した形態(α位−β位)であってもよいし、A2に構造(b)の一方の結合部位が結合し、A3に構造(b’)の他方の結合部位が結合した形態(β位同士)であってもよい。なかでも、良好な熱線吸収能および可視光透過率を維持し、同時により高い耐光性を得るため、構造(b’)は、互いに隣接するβ位同士に架橋するように形成されると好ましい。すなわち、上記式(b’)で示される構造(b’)により置換される、隣接する二つの置換基は、A2〜A3、A6〜A7、A10〜A11、A14〜A15の組み合わせから選択されると好ましい。
(ハロゲン原子)
上記式(1)〜(3)における「X」は、ハロゲン原子を表す。Xで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのうち、可視光透過率、耐光性を向上させるという観点から、フッ素原子または塩素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
本発明に係るフタロシアニン系化合物において、ハロゲン原子は、各フタロシアニン骨格上に0〜4個導入される。すなわち、上記式(1)〜(3)におけるnは、それぞれ独立して、0〜4の整数である。最大吸収波長(λmax)を長波長化し、より良好な熱線吸収能を得るという観点から、nは、それぞれ独立して、0〜2の整数であると好ましく、0または1であるとより好ましく、0であると特に好ましい。
(a1)
上記式(3)のフタロシアニン系化合物は、置換基(a)、(b)及び(b’)ならびにハロゲン原子(X)を特定数導入されたフタロシアニン骨格が3以上[(a1+2)個]、リンカー(−O−Y−O−)を介して連結する構造を有する。ここで、このようなフタロシアニン骨格の総連結数は、3〜8個であり、3〜6個であることが好ましい。すなわち、上記式(3)中のa1は、1〜6であり、1〜4であることが好ましく、1であることがより好ましい。このような連結数であれば、溶解性や良好な熱線吸収能および可視光透過率を維持しつつ、耐光性をさらに向上できる。
なお、以下に詳述するが、本発明に係るフタロシアニン系化合物を製造する際には、原料(フタロニトリル化合物、フタロニトリル化合物誘導体)を所望の割合において混合する。この際、製造されたフタロシアニン系化合物は、様々な構造を有する混合物のような形態となっている場合がある。このため、上記式(3)中のa1は小数点となることがある。同様にして、単一のフタロシアニン系化合物としては、フタロシアニン骨格上に置換する置換基(a)、構造(b)、構造(b’)、「X」で表されるハロゲン原子は整数である。一方、製造されたフタロシアニン系化合物が混合物である場合には、混合物全体を分析する、または理論的には、フタロシアニン骨格上に置換する置換基(a)、構造(b)、構造(b’)、「X」で表されるハロゲン原子の導入(置換)数は小数点で表れる。
(置換基等の好ましい形態)
本発明に係るフタロシアニン系化合物は、良好な熱線吸収能および可視光透過率に加えて、優れた耐光性を得るという観点から、各フタロシアニン骨格が、上記置換基(a)を9〜11個有すると共に、上記構造(b)を少なくとも一つ有する;または上記置換基(a)を4〜7個、上記構造(b)を0または1個、及び上記構造(b’)を3または4個を有することが好ましい。加えて、このような置換基の配置をとることによって、740〜850nmの範囲にフタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)が存在できる。よって、本形態に係るフタロシアニン系化合物は、上記特定の波長域の光を選択的に吸収することができ、優れた熱線遮蔽効果を発揮できる。また、このような置換基を有するフタロシアニン系化合物は、特に、樹脂と混合した際の可視光透過率に優れる。さらに、本形態に係るフタロシアニン系化合物は、耐光性、耐候性に優れるため、建物や自動車などの熱線吸収材に使用されても、優れた耐久性を発揮する。
さらに、同様の観点から、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記式(1)〜(3)において、A1〜A16のうち、11個が置換基(a)であると共に、1個の構造(b)を有し、かつ、A1〜A16の残部は、水素原子である;上記置換基(a)を5個、上記構造(b)を1個および上記構造(b’)を3個を有する;または上記置換基(a)を7個、上記構造(b)を0個および上記構造(b’)を4個を有することが特に好ましい。すなわち、上記式(1)〜(3)中、A1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、A13〜A16の隣接する二つの置換基のうち、1組が上記式(b)で示される構造(b)であり(k=1)、残りのA1〜A16のうち、11個が置換基(a)であり(m=11)、nが0である;A1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、A13〜A16の隣接する二つの置換基のうち、1組が上記式(b)で示される構造(b)であり(k=1)、3組が上記式(b’)で示される構造(b’)であり(o=3)、残りのA1〜A16のうち、5個が置換基(a)であり(m=5)、nが0である;またはA1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、A13〜A16の隣接する二つの置換基のうち、4組が上記式(b’)で示される構造(b’)であり(o=4)、残りのA1〜A16のうち、7個が置換基(a)であり(m=7)、nが0であると好ましい。
上記置換基(a)の置換する位置、および構造(b)の位置、および構造(b’)の位置は、特に制限されない。A1〜A16への置換基(a)ならびに構造(b)および(b’)の導入位置や種類は、均一であっても不均一であってもよいが、置換基(a)ならびに構造(b)および(b’)が、実質的に均一に(1種もしくは2種の導入位置や種類)導入されることが好ましく、全体に均一に導入されることがより好ましい。詳細には、A1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、およびA13〜A16を含む各構成単位を、それぞれ、構成単位A、B、CおよびDとすると、構成単位A〜Dは、それぞれ同じ置換基(a)を有していると好ましい。このような形態とすることにより、吸収スペクトル(吸収帯)をよりシャープにし、可視光透過率を向上させることができると共に、耐光性のさらなる向上などが達成されうる。
(リンカー)
上記式(1)〜(3)におけるリンカーを表す「Y(O)2−」または「Y(O)3−」は、各フタロシアニン骨格を連結する。このとき、リンカー中に含まれる末端の酸素原子は、各フタロシアニン骨格を構成する炭素原子に結合する。リンカー中に含まれるYは、酸素原子を有してもよい二価または三価の有機基である。ここで、有機基は、炭素原子および必要であれば酸素原子を含む基であれば特に制限されないが、良好な熱線吸収能および可視光透過率を有すると共に、耐光性に優れるフタロシアニン系化合物を得るという観点から、以下の構造を有していると好ましい。すなわち、前記式(1)〜(3)中、Yは、
炭素原子数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基、炭素原子数3〜20の環状のアルキレン基、下記式(3−1):
[上記式(3−1)中、
R11は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR12;R12は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし、
qは、0〜3の整数である]で表されるアリーレン基、および下記式(3−2):
[上記式(3−2)中、
R13は、−C(R14)(R15)−(R14およびR15は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または炭素原子数6〜30のアリール基を表す)、または−SO2−を表わし、
R16およびR17は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR18;R18は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし;rおよびsは、それぞれ独立して、0〜2の整数である]で表される芳香環含有基からなる群から選択される二価の有機基;または、
炭素原子数1〜20の直鎖もしくは分岐鎖の三価の脂肪族炭化水素基、炭素原子数3〜20の環状の三価の脂肪族炭化水素基、下記式(4−1):
[上記式(4−1)中、
R21は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR22、この際、R22は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし;tは、0〜2の整数である]で表される三価の芳香族炭化水素基、下記式(4−2):
[上記式(4−2)中、
R23は、水素原子、または炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし;
R25〜R27は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR28;R28は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし;u、vおよびwは、それぞれ独立して、0〜2の整数である]で表される芳香環含有基、および下記式(4−3):
[上記式(4−3)中、
R28、R29およびR30は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR32;R32は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし;
x1’およびx4’は、それぞれ独立して、1〜4の整数であり;
x2’およびx5’は、それぞれ独立して、1または2であり;
x3’は、0〜3の整数であり;
y1’およびy2’は、それぞれ独立して、0〜2の整数である]で表される芳香環連結基からなる群から選択される三価の有機基である。
以下、Yの構造について、二価の有機基と三価の有機基である場合に分けて詳説する。
≪Y(二価の有機基)≫
Yが二価の有機基である場合、Yは、以下の構造を有していると好ましい。すなわち、二価の有機基Yは、炭素原子数1〜20の直鎖状または分岐状のアルキレン基、炭素原子数3〜20の環状のアルキレン基、下記式(3−1)で表されるアリーレン基、または下記式(3−2)で表される芳香環含有基であると好ましい:
上記式(3−1)中、
R11は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR12;R12は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし、
qは、0〜3の整数である。
上記式(3−2)中、
R13は、−C(R14)(R15)−(R14およびR15は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または炭素原子数6〜30のアリール基を表す)、または−SO2−を表し、
R16およびR17は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR18;R18は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし;rおよびsは、それぞれ独立して、0〜2の整数である。
・炭素原子数1〜20の直鎖状または分岐状のアルキレン基
上記式(1)〜(3)中、二価の有機基Yとしての炭素原子数1〜20の直鎖状または分岐状のアルキレン基としては、特に制限はないが、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などの直鎖または分岐鎖のアルキレン基が挙げられる。これらのうち、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、二価の有機基Yとしての炭素原子数1〜20の直鎖状または分岐状のアルキレン基は、炭素原子数2〜8の直鎖または分岐鎖のアルキレン基が好ましく、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基がより好ましく、トリメチレン基が特に好ましい。
・炭素原子数3〜20の環状のアルキレン基
上記式(1)〜(3)中、二価の有機基Yとしての炭素原子数3〜20の環状のアルキレン基としては、特に制限はないが、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、アダマンチレン基などの環状のアルキレン基が挙げられる。これらのうち、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、二価の有機基Yとしての炭素原子数3〜20の環状のアルキレン基は、炭素原子数4〜10の環状のアルキレン基が好ましく、シクロヘキシレン基がより好ましく、o−シクロヘキシレン基またはp−シクロヘキシレン基がさらにより好ましく、p−シクロヘキシレン基が特に好ましい。
・式(3−1)で表されるアリーレン基
上記式(3−1)中、R11は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR12;R12は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)である。なお、R11が同一のフェニレン基中に複数存在する(qが2〜3の整数である)場合に、R11は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
R11として、炭素原子数1〜20のアルキル基をフェニレン基に導入すると、この導入による共役系の拡張や、電子供与性に起因して、フタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)が長波長側へシフトする。その結果、良好な熱線吸収能を維持しつつ、可視光透過率が向上する。さらに、上記のような共役系の拡張により、分子内における電子的な安定性が増す。これにより、熱線吸収材に樹脂等の媒体を使用した場合、紫外線の照射に起因する活性酸素、ラジカルなどによるフタロシアニン系化合物への攻撃が抑制でき、その結果、フタロシアニン系化合物の分解を有効に抑制・防止できる。よって、このようなフタロシアニン系化合物を用いた熱線吸収材は耐光性がさらに向上する。
また、R11として、ハロゲン原子、または炭素原子数2〜21のエステル基をフェニレン基に導入すると、電子吸引性や立体障害が大きくなることなどに起因して吸収スペクトル(吸収帯)がシャープになり、可視光透過率が向上する。加えて、溶剤や樹脂への相溶性が向上する。
上記置換基のなかでも、熱線吸収能、透明性(可視光透過率の向上)、耐光性および溶媒溶解性などを考慮すると、qが1以上である場合、R11は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜20のアルキル基、および炭素原子数2〜21のエステル基からなる群から選択されると好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基および炭素原子数2〜10のエステル基からなる群から選択されると特に好ましい。
なお、R11としてのハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基および炭素原子数2〜21のエステル基の具体例は、特に制限されず、上記R1に係る具体例と同様のものが挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、qが1以上である場合、R11は、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基および炭素原子数2〜10のエステル基からなる群から選択されると好ましく、メチル基、エチル基、または−COOCH3がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
また、上記式(3−1)において、qは、0〜3の整数である。良好な可視光透過率を維持し、耐光性を向上させるという観点から、qは、それぞれ独立して、0または1の整数であると好ましく、0であるとより好ましい。また、qが1以上である場合、置換基R11のフェニレン基への結合位置は、特に制限されない。また、リンカーを構成する酸素原子のフェニレン基に対する結合位置も特に制限されないが、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、リンカーを構成する二つの酸素は、それぞれ1,2位(オルト位)または1,4位(パラ位)に置換すると好ましく、1,4位(パラ位)に置換すると特に好ましい。
・式(3−2)で表される芳香環含有基
上記式(3−2)中、R13は、式:−C(R14)(R15)−で表される置換基、または−SO2−である。
この際、R14およびR15は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または炭素原子数6〜30のアリール基を表す。なお、R14およびR15は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
R14またはR15として、炭素原子数1〜20のアルキル基または炭素原子数6〜30のアリール基を導入すると、この導入による共役系の拡張や、電子供与性に起因して、フタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)が長波長側へシフトする。その結果、良好な熱線吸収能を維持しつつ、可視光透過率が向上する。さらに、上記のような共役系の拡張により、分子内における電子的な安定性が増す。これにより、熱線吸収材に樹脂等の媒体を使用した場合、紫外線の照射に起因する活性酸素、ラジカルなどによるフタロシアニン系化合物への攻撃が抑制でき、その結果、フタロシアニン系化合物の分解を有効に抑制・防止できる。よって、このようなフタロシアニン系化合物を用いた熱線吸収材は耐光性がさらに向上する。
上記置換基のなかでも、熱線吸収能、透明性(可視光透過率の向上)、耐光性および溶媒溶解性などを考慮すると、R14およびR15は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜20のアルキル基から選択されると好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基から選択されると特に好ましい。
なお、R14およびR15としての炭素原子数1〜20のアルキル基および炭素原子数6〜30のアリール基の具体例は、特に制限されず、上記R1に係る具体例と同様のものが挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、R14およびR15は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
以上より、R13は、式:−C(R14)(R15)−で表される置換基(R14およびR15は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基)、または−SO2−であると好ましく、式:−C(R14)(R15)−で表される置換基(R14およびR15は、メチル基)、または−SO2−であるとより好ましい。
上記式(3−2)中、R16およびR17は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR18;R18は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)である。なお、R16およびR17が、それぞれ同一のフェニレン基中に複数存在する(rおよび/またはsが2である)場合に、R16およびR17は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
なお、R16およびR17としてのハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基および炭素原子数2〜21のエステル基の具体例は、特に制限されず、上記R1に係る具体例と同様のものが挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、rおよび/またはsが1以上である場合、R16およびR17は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
また、上記式(3−2)において、rおよびsは、それぞれ独立して、0〜2の整数である。良好な可視光透過率を維持し、耐光性を向上させるという観点から、rおよびsは、それぞれ独立して、0または1の整数であると好ましく、0であるとより好ましい。また、rおよび/またはsが1以上である場合、置換基R16およびR17のフェニレン基への結合位置は、特に制限されない。また、リンカーを構成する酸素原子のフェニレン基に対する結合位置も特に制限されないが、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、リンカーを構成する二つの酸素は、R13を基準として、それぞれ4位(パラ位)に置換すると好ましい。
≪Y(三価の有機基)≫
Yが三価の有機基である場合、Yは、以下の構造を有していると好ましい。すなわち、三価の有機基Yは、炭素原子数1〜20の直鎖または分岐鎖の三価の脂肪族炭化水素基、炭素原子数3〜20の環状の三価の脂肪族炭化水素基、下記式(4−1)で表される三価の芳香族炭化水素基、下記式(4−2)で表される芳香環含有基、または下記式(4−3)で表される芳香環連結基であると好ましい:
上記式(4−1)中、
R21は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR22、この際、R22は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし;tは、0〜2の整数である。
上記式(4−2)中、
R23は、水素原子、または炭素原子数1〜20のアルキル基を表わし;
R25〜R27は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR28;R28は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし;u、vおよびwは、それぞれ独立して、0〜2の整数である。
上記式(4−3)中、
R28、R29およびR30は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR32;R32は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし;
x1’およびx4’は、それぞれ独立して、1〜4の整数であり;
x2’およびx5’は、それぞれ独立して、1または2であり;
x3’は、0〜3の整数であり;
y1’およびy2’は、それぞれ独立して、0〜2の整数である。
・炭素原子数1〜20の直鎖または分岐鎖の三価の脂肪族炭化水素基
上記式(1)〜(3)中、三価の有機基Yとしての炭素原子数1〜20の直鎖または分岐鎖の三価の脂肪族炭化水素基としては、特に制限はない。例えば、メタン、エタン、n−プロパン、n−ブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、3−メチルヘキサン等直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素から三つの水素原子を除いた残基(アルキルトリイル基)が挙げられる。これらのうち、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、三価の有機基Yとしての炭素原子数1〜20の直鎖または分岐鎖の三価の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数2〜8の直鎖または分岐鎖の三価の脂肪族炭化水素基が好ましい。
・炭素原子数3〜20の環状の三価の脂肪族炭化水素基
上記式(1)〜(3)中、三価の有機基Yとしての炭素原子数3〜20の環状の三価の脂肪族炭化水素基としては、特に制限はない。例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、アダマンタンなどの環状の脂肪族炭化水素から三つの水素原子を除いた残基(シクロアルキルトリイル基)が挙げられる。これらのうち、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、三価の有機基Yとしての炭素原子数3〜20の環状の三価の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数5〜10の環状の三価の脂肪族炭化水素基が好ましい。
・式(4−1)で表される三価の芳香族炭化水素基
上記式(4−1)中、R21は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR22;R22は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)である。なお、R21が同一のベンゼン環上に複数存在する(tが2の整数である)場合に、R21は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
上記置換基のなかでも、熱線吸収能、透明性(可視光透過率の向上)、耐光性および溶媒溶解性などを考慮すると、tが1以上である場合、R21は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜20のアルキル基、および炭素原子数2〜21のエステル基からなる群から選択されると好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基および炭素原子数2〜10のエステル基からなる群から選択されると特に好ましい。
なお、R21としてのハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基および炭素原子数2〜21のエステル基の具体例は、特に制限されず、上記R1に係る具体例と同様のものが挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、tが1以上である場合、R21は、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
また、上記式(4−1)において、tは、0〜2の整数である。良好な可視光透過率を維持し、耐光性を向上させるという観点から、tは、それぞれ独立して、0または1の整数であると好ましく、0であるとより好ましい。また、t=1以上である場合、置換基R21のベンゼン環上の結合位置は、特に制限されない。また、リンカーを構成する酸素原子のベンゼン環に対する結合位置も特に制限されないが、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、リンカーを構成する三つの酸素は、互いに1,3,5位にそれぞれ置換すると好ましい。
・式(4−2)で表される芳香環含有基
上記式(4−2)中、R23は、水素原子、または炭素原子数1〜20のアルキル基である。
R23として、炭素原子数1〜20のアルキル基を導入すると、この導入による共役系の拡張や、電子供与性に起因して、フタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)が長波長側へシフトする。その結果、良好な熱線吸収能を維持しつつ、可視光透過率が向上する。さらに、上記のような共役系の拡張により、分子内における電子的な安定性が増す。これにより、熱線吸収材に樹脂等の媒体を使用した場合、紫外線の照射に起因する活性酸素、ラジカルなどによるフタロシアニン系化合物への攻撃が抑制でき、その結果、フタロシアニン系化合物の分解を有効に抑制・防止できる。よって、このようなフタロシアニン系化合物を用いた熱線吸収材は耐光性がさらに向上する。
また、R23として、熱線吸収能、透明性(可視光透過率の向上)、耐光性および溶媒溶解性などを考慮すると、R23は、炭素原子数1〜20のアルキル基から選択されると好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基から選択されると特に好ましい。
なお、R23としての炭素原子数1〜20のアルキル基の具体例は、特に制限されず、上記R1に係る具体例と同様のものが挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、R23は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
上記式(4−2)中、R25〜R27は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR28;R28は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)である。なお、R25〜R27が、それぞれ同一のベンゼン環上に複数存在する(u、vおよびwのいずれかが2である)場合に、R25〜R27は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
なお、R25〜R27としてのハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基および炭素原子数2〜21のエステル基の具体例は、特に制限されず、上記R1に係る具体例と同様のものが挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、R25〜R27は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
また、上記式(4−2)において、u、vおよびwは、それぞれ独立して、0〜2の整数である。良好な可視光透過率を維持し、耐光性を向上させるという観点から、u、vおよびwは、それぞれ独立して、0または1の整数であると好ましく、0であるとより好ましい。また、置換基R25〜R27のベンゼン環上への結合位置は、特に制限されない。また、リンカーを構成する酸素原子のベンゼン環に対する結合位置も特に制限されないが、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、リンカーを構成する二つの酸素は、R23が置換した中心炭素を基準として、それぞれ4位(パラ位)に置換すると好ましい。
・式(4−3)で表される芳香環連結基
上記式(4−3)中、R28、R29およびR30(R28〜R30)は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、または、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR32;R32は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)である。なお、R28〜R30が、それぞれ同一のベンゼン環上に複数存在する(x1’、x3’およびx4’のいずれかが2以上である)場合に、R28〜R30は、それぞれ、同じであってもあるいは異なるものであってもよい。
なお、R28〜R30としてのハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基および炭素原子数2〜21のエステル基の具体例は、特に制限されず、上記R1に係る具体例と同様のものが挙げられるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、可視光透過率、耐光性、耐久性、溶媒溶解性、樹脂との相溶性を向上させるという観点から、R28〜R30は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
また、上記式(4−3)において、x1’およびx4’は、それぞれ独立して、1〜4の整数である。良好な可視光透過率を維持し、耐光性を向上させるという観点から、x1’およびx4’は、それぞれ独立して、0または1の整数であると好ましく、1であるとより好ましい。また、置換基R28〜R30のベンゼン環上への結合位置は、特に制限されない。例えば、x1’およびx4’が1である場合には、置換基は、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子に対し、オルト位(2位)、メタ位(3位)またはパラ位(4位)のいずれかの位置に配置されうる。これらのうち、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、置換基は、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子に対し、4位に配置されることが好ましい。
また、下記式(4−3−1)構造(「構造(4−3−1)」とも称する)および下記式(4−3−2)構造(「構造(4−3−2)」とも称する)において、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子(下記構造中の左側の結合手)とアルキレン基(下記構造(4−3−1)中の−(CH2)y1’−、および下記構造(4−3−2)中の−(CH2)y2’−)との配置(連結関係)は、特に制限されない。例えば、アルキレン基(下記構造中の−(CH2)y1’−)は、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子(下記構造中の左側の結合手)に対し、オルト位(2位)、メタ位(3位)またはパラ位(4位)のいずれかの位置に配置されうる。これらのうち、アルキレン基は、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子に対し、2位に配置されることが好ましい。同様にして、アルキレン基(−(CH2)y2’−)は、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子(下記構造中の右側の結合手)に対し、オルト位(2位)、メタ位(3位)またはパラ位(4位)のいずれかの位置に配置されうる。これらのうち、アルキレン基は、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子に対し、2位に配置されることが好ましい。
上記式(4−3)において、x2’およびx5’は、それぞれ独立して、1または2であり、1であることが好ましい。
また、y1’およびy2’は、それぞれ独立して、0〜2の整数であり、1であることがより好ましい。
上記式(4−3)において、x3’は、0〜3の整数である。良好な可視光透過率を維持し、耐光性を向上させるという観点から、x3’は、0または1の整数であると好ましく、1であるとより好ましい。また、置換基R29のベンゼン環上への結合位置は、特に制限されない。例えば、x3’が1である場合には、置換基は、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子に対し、オルト位(2位)、メタ位(3位)またはパラ位(4位)のいずれかの位置に配置されうる。これらのうち、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、置換基は、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子に対し、4位に配置されることが好ましい。
また、下記構造において、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子(下記構造中の右上側の結合手)と構造(4−3−1)に結合する結合手(下記構造中の左側の結合手)と構造(4−3−2)に結合する結合手(下記構造中の右側の結合手)との配置(連結関係)は、特に制限されない。フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、構造(4−3−1)に結合する結合手および構造(4−3−2)に結合する結合手は、フタロシアニン骨格に結合する酸素原子(下記構造中の右上側の結合手)に対し、それぞれ、2,6位に配置されることが好ましい。
したがって、式(4−3)で表される芳香環連結基の好ましい例としては、下記構造を有するものがある。
・リンカー(二価または三価の有機基)の好ましい形態
上記の中でも、耐光性を向上させるという観点から、Yは、上記式(3−1)で表されるアリーレン基、上記式(3−2)で表される芳香環含有基、上記式(4−1)で表される三価の芳香族炭化水素基、上記式(4−2)で表される芳香環含有基および上記(4−3)で表される芳香環連結基から選択されると好ましい。これらのリンカーによれば、共役系の拡張により電子が非局在化しやすくなり、電子的な安定性が増すことから、耐光性がさらに向上する。同様の観点から、上記式(3−1)で表されるアリーレン基であるとより好ましい。さらに同様の観点から、上記式(3−1)で表されるアリーレン基の中でも、1,2位(オルト位)または1,4位(パラ位)がリンカーを構成する酸素原子(フタロシアニン骨格の炭素原子と結合する酸素原子)に結合していると好ましく、1,4位(パラ位)がリンカーを構成する酸素原子と結合しているとより好ましい。
(中心金属(M))
上記式(1)〜(3)における中心金属を表すMは、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物である。ここで、金属としては、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、錫等が挙げられる。金属酸化物としては、チタニル、バナジル(VO)等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、塩化アルミニウム、塩化インジウム、塩化ゲルマニウム、塩化錫(II)、塩化錫(IV)、塩化珪素等が挙げられる。好ましくは、中心金属Mは、銅、亜鉛、バナジウムならびにこれらの金属酸化物およびハロゲン化物から選択される。なかでも、良好な可視光透過率を得るという観点から、中心金属Mは、銅、亜鉛およびバナジルから選択されると好ましい。これらからMを選択することにより、吸収スペクトル(吸収帯)をよりシャープにし、可視光透過率をさらに向上させることができる。また、耐光性をさらに向上させるという観点からは、中心金属Mは、銅またはバナジルであると好ましく、銅であるとより好ましい。特に、銅は、他の原子を伴うことなく(例えば、バナジルであればV以外に酸素原子を伴うため、平面性は低下する)、二価イオンとしてフタロシアニン骨格内に存在できることから、高い平面性を有するフタロシアニン系化合物を得ることができる。そのことにより銅は複数の分子が積層しやすく、色素分子が安定化しやすい。このような観点からも耐光性の向上に寄与していると考えられる。一方で、可視光透過率を向上させ、また、溶媒等に対する溶解性を向上させるといった観点からは、中心金属Mは、亜鉛またはバナジルであると好ましく、亜鉛であるとより好ましい。
《好ましい形態》
本発明に係るフタロシアニン系化合物は、高い平面性を維持しながら分子同士が積層しやすく、高い耐光性を得るという観点から、ナフタレン骨格を含む形で、酸素原子を介して二価または三価の有機基によって連結されていると好ましい。さらに、同様の観点から、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記式(1)および(2)において、kが1である形態であるとより好ましい。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記式(3)において、kが1であるフタロシアニン骨格を少なくとも2つ(特に3つ)有することがより好ましい。
他の好ましい形態としては、上記式(1)および(2)において、k、mおよびnの和(k+m+n)が10〜15であると好ましく、12〜15であるとより好ましい。また、上記式(1)〜(3)において、k、m、nおよびoの和(k+m+n+o)が9〜11であると好ましい。かような形態であれば、良好な熱線吸収能および可視光透過率を維持しながら、高い耐光性が得られる。さらに、上記式(1)および(2)において、kが1であり、mが11〜13であるとより好ましく、kが1であり、mが11であると特に好ましい。また、上記式(1)〜(3)において、kが1であり、mが4〜6であり、oが2〜4である;kが0であり、mが6〜8であり、oが3〜5である;とより好ましく、kが1であり、mが5であり、oが3である;kが0であり、mが7であり、oが4であると特に好ましい。また、上記式(3)において、kが1であり、m’が3〜5であり、oが2〜4である;kが0であり、m’が5〜7であり、oが3〜5である;とより好ましく、kが1であり、m’が4であり、oが3である;kが0であり、mが6であり、oが4であると特に好ましい。かような形態であれば、良好な熱線吸収能および可視光透過率を維持しながら、高い耐光性が得られる。
さらに他の好ましい形態としては、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、二つのフタロシアニン骨格が、酸素原子を介して、二価の有機基によって連結されてなると好ましい。さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記式(1)で表されるとより好ましい。または、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、Yが上記式(4−3)で表される芳香環連結基である上記(2)で表されるとより好ましい。かような形態であると、分子の平面性が高まり、分子が重なりやすくなることから耐光性が向上する。
本発明に係るフタロシアニン系化合物の好ましい具体例としては、下記式(I)〜(V)で表される化合物が挙げられる。なお、下記式(I)〜(V)において、A1、A2、C1およびC2はそれぞれフタロシアニン骨格のβ位に結合し、B1、B2、D1およびD2はそれぞれフタロシアニン骨格のα位に結合している置換基を表す。また、A1、A2、B1、B2、C1、C2、D1およびD2としての置換基は、それぞれ独立して、以下に示すR−1〜R12のいずれかを表す。なお、これら置換基は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。また、A1、A2、C1またはC2が置換基R−12であるとは、qが0である構造(b’)(置換基(b’))が互いに隣接するβ位同士に架橋することを意味する。すなわち、A1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、およびA13〜A16を含む各構成単位が、以下に示されるような構造を有する。なお、下記構造において、α位には置換基が存在しないが、下記表1に示される置換基が導入される。
また、Xは、リンカーを表し、以下に示すX−1〜X−13のいずれかを表す。ただし、下記式(I)および(II)におけるリンカーXは、二価の有機基を有するX1〜X10から選択され、下記(III)および(IV)におけるリンカーXは、三価の有機基を有するX11〜X13から選択される。a、b、cおよびdは、A1またはC1、A2またはC2、B1またはD1、B2またはD2の個数をそれぞれ示す。これら置換基およびその個数ならびにリンカーの好ましい組み合わせを下記の表1に示す。
本発明に係るフタロシアニン系化合物のさらに好ましい例としては、下記化合物がある。以下のフタロシアニン系化合物の略称において、β位の置換基、α位の置換基、(含まれる場合にはナフタレン骨格、)リンカー、中心金属、の順序で略号を記載する。略称中、Phはフェニル基、フェニレン基または三価のベンゼン環を、Meはメチル基を、Prはトリメチレン基を、Cyhはシクロヘキシレン基を、Pcはフタロシアニン核を、Npはナフタレン骨格を、それぞれ表わす。また、(2,2’−PhOPhO)は、A1〜A4、A5〜A8、A9〜A12、およびA13〜A16を含む各構成単位が、以下に示されるような構造を有する。なお、下記構造において、α位には置換基が存在しないが、それぞれで規定される置換基が導入される。
さらに、(4−CH3PhO)CH2(4−CH3PhO)CH2(4−CH3PhO)は、上記X−13の3価のリンカーを表わす。Pcの直前の記載は中心金属を示す。さらに、(中心金属−Pc)の直前の記載は、リンカーを示す。なお、ナフタレン骨格はフタロシアニン核の一部を占めるものであり、厳密にはフタロシアニン核にナフタレン骨格が別途結合したものではないが、ナフタレン骨格が含まれていることを示すために、便宜上、Npとして記載する。
なお、フタロシアニン化合物(i)については、略称で示される化合物のうち、代表的な化合物を構造式として例示するが、以下の略称に示した化合物は、置換位置の異なる異性体がいくつか存在する。すなわち、フタロシアニン系化合物の各置換基の数が同数であれば、その置換位置はα、β位以外は限定されるものではない。なお、以下の化合物番号は、実施例の項における化合物に関しても共通である。
フタロシアニン化合物(ii)
[(2,5−Me2PhO)16(2,6−Me2PhO)8(2,5−Me2PhO)6(1,4−OPhO)(CuPc)2](略称)
フタロシアニン化合物(iii)
[(2,5−Me2PhO)12(2,6−Me2PhO)6(2,5−Me2PhO)4(Np)2(1,4−OPhO)(CuPc)2](略称)
フタロシアニン化合物(iv)
[(2−PhPhO)12(PhO)6(2−PhPhO)4(Np)2(1,2−OPhO)(CuPc)2](略称)
フタロシアニン化合物(v)
[(4−FPhO)6(2−PhPhO)6(2−PhPhO)10(Np)2(1,4−OPhO)(CuPc)2](略称)
フタロシアニン化合物(vi)
[(2,5−Me2PhO)18(2,6−Me2PhO)9(2,5−Me2PhO)6(Np)3(Ph(O)3)(CuPc)3](略称)
フタロシアニン化合物(vii)
[(2,5−Me2PhO)12(2,6−Me2PhO)6(2,5−Me2PhO)4(Np)2(1,4−OCyhO)(CuPc)2](略称)
フタロシアニン化合物(viii)
[(2,5−Me2PhO)12(2,6−Me2PhO)6(2,5−Me2PhO)4(Np)2(1,3−OPrO)(CuPc)3](略称)
フタロシアニン化合物(ix)
[(2,5−Me2PhO)24(2,6−Me2PhO)12(2,5−Me2PhO)9(C(Me)(Ph)3(O)3)(CuPc)2](略称)
フタロシアニン化合物(xvi)
[(2,2’−PhOPhO)7(2−PhPhO)7(PhO)5(1,4−OPhO)Np(CuPc)2](略称)
フタロシアニン化合物(xvii)
[(2,2’−PhOPhO)1621(2,6−(CH3)2PhO)1621(PhO)11(1,4−OPhO)5(Np)3(CuPc)6](略称)
フタロシアニン化合物(xviii)
[(2,2’−PhOPhO)11(2−PhPhO)11(PhO)8{(4−CH3PhO)CH2(4−CH3PhO)CH2(4−CH3PhO)}Np(CuPc)3](略称)。
上記フタロシアニン系化合物の中でも、フタロシアニン化合物(iii)〜(viii)および(xvi)〜(xviii)は、特に高い耐光性有するという観点から、好ましい。
[フタロシアニン系化合物の製造方法]
本発明に係るフタロシアニン系化合物の製造方法は、特に制限されず、例えば、特開2000−26748号公報、特開2001−106689号公報、特開2005−220060号公報に記載の方法などの従来公知の方法を適宜修飾して適用することができる。具体的には、本発明に係るフタロシアニン系化合物の製造方法は、溶融状態または有機溶媒中で、フタロニトリル化合物およびフタロニトリル化合物の二量体または三量体(フタロニトリル化合物誘導体)、ならびに必要に応じて用いられるジシアノナフタレン誘導体(ナフタロニトリル化合物)と、金属化合物と、を用いて環化反応させる方法が好ましく使用できる。
以下、本発明に係るフタロシアニン系化合物の好ましい製造方法を記載する。しかしながら、本発明は、下記好ましい実施形態に制限されるものではない。
本発明に係るフタロシアニン系化合物は、下記式(A)〜(C):
上記式(A)〜(C)中、Z1〜Z12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、下記式(a):
[上記式(a)中、R1は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、炭素原子数2〜21のエステル基(−C(=O)OR2;R2は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)、または、−R3−C(=O)OR4(R3は、炭素原子数1〜20のアルキレン基、R4は、炭素原子数1〜20のアルキル基を表わす)を表わし、
pは、0〜5の整数である]で示される置換基(a)、または下記式(b):
[上記式(b)中、*は、前記式(A)〜(C)中のZ1〜Z4、Z5〜Z8、Z9〜Z12の隣接する二つの置換基として結合する部位を表す]で表される構造(b)、または下記式(b’):
[上記式(b’)中、*は、前記式(A)〜(C)中のZ1〜Z4、Z5〜Z8、Z9〜Z12の隣接する二つの置換基として結合する部位を表し、qは0〜3の整数である]で表される構造(b’)を表し、
この際、Z1〜Z12のうち、少なくとも1個は、前記置換基(a)である;
で表されるフタロニトリル化合物(A)〜(C)と、
下記式(D):
上記式(D)中、Z13〜Z18は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、前記置換基(a)、前記構造(b)、または前記構造(b’)であり、前記式(b)および(b’)中、*は、前記式(D)中のZ13〜Z15、Z16〜Z18の隣接する二つの置換基として結合する部位を表し、Yは、二価の有機基である;で表されるフタロニトリル化合物誘導体(D)、または
下記式(D’):
上記式(D’)中、Z19〜Z27は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、前記置換基(a)、前記構造(b)、または前記構造(b’)であり、前記式(b)および(b’)中、*は、前記式(D’)中のZ19〜Z21、Z22〜Z24、Z25〜Z27の隣接する二つの置換基として結合する部位を表し、Yは、三価の有機基である;で表されるフタロニトリル化合物誘導体(D’)と、
金属、金属酸化物、金属アルコキシド、金属カルボニル、金属ハロゲン化物または有機酸金属(本明細書中、一括して「金属化合物」とも称する)と、を反応させることを含む、製造方法によって製造されると好ましい。
したがって、本発明の他の形態として、上記フタロニトリル化合物(A)〜(C)と、金属、金属酸化物、金属アルコキシド、金属カルボニル、金属ハロゲン化物または有機酸金属との反応(環化反応)によって得られる、フタロシアニン系化合物の混合物もまた提供されうる。
なお、上記式(A)〜(C)中のZ1〜Z12、上記式(D)中のZ13〜Z18、および上記式(D’)中のZ19〜Z27は、所望のフタロシアニン系化合物の構造によって規定される。上記式(A)〜(C)で表されるフタロニトリル化合物(A)〜(C)は、同じであっても異なっていてもよい。
上記式(A)〜(C)において、Z1〜Z12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、上記式(a)で表される置換基(a)、上記式(b)で表される構造(b)、または上記式(b’)で表される構造(b’)を表す。この際、Z1〜Z12のうち、少なくとも1個は、前記置換基(a)である。ここで、上記ハロゲン、置換基(a)、構造(b)および構造(b’)は、上記[フタロシアニン系化合物]の項においてA1〜A16に関して説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
上記式(D)および(D’)において、Z19〜Z27は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、上記式(a)で表される置換基(a)、上記式(b)で表される構造(b)、または上記式(b’)で表される構造(b’)を表す。また、上記式(D)において、Yは、二価の有機基であり、上記式(D’)において、Yは、三価の有機基である。ここで、上記ハロゲン、置換基(a)、構造(b)および構造(b’)は、上記[フタロシアニン系化合物]の項においてA1〜A16に関して説明したものと同様であり、二価または三価の有機基としてのYもまた、上記[フタロシアニン系化合物]の項におけるYと同様であるため、ここでは説明を省略する。なお、フタロニトリル化合物誘導体(D)または(D’)が構造(b)または(b’)を有する場合、上記式(b)、(b’)中における「*」で示される結合部位は、上記式(D)中のZ13〜Z15、Z16〜Z18、上記式(D’)中のZ19〜Z21、Z22〜Z24、Z25〜Z27の隣接する二つの置換基として結合する部位を表す。
上記式(1)または(3)で表される形態のフタロシアニン系化合物を製造する場合、上記式(A)〜(C)で表されるフタロニトリル化合物(A)〜(C)と、上記式(D)で表されるフタロニトリル化合物の二量体(フタロニトリル化合物誘導体)と、金属化合物と、を用いて環化反応を行う。
上記式(2)で表される形態のフタロシアニン系化合物を製造する場合、上記式(A)〜(C)で表されるフタロニトリル化合物(A)〜(C)と、上記式(D’)で表されるフタロニトリル化合物の三量体(フタロニトリル化合物誘導体)と、金属化合物と、を用いて環化反応を行う。
なお、所望のフタロシアニン系化合物が、構造(b)を有するとき、フタロニトリル化合物(A)〜(C)として、ジシアノナフタレン誘導体(ナフタロニトリル化合物)(例えば、2,3−ジシアノナフタレン)を用いてもよい。また、所望のフタロシアニン系化合物が、構造(b’)を有するとき、フタロニトリル化合物(A)〜(C)として、ジヒドロキシビフェニル化合物(例えば、2,2’−ジヒドロキシビフェニル)を用いてもよい。
出発原料である上記式(A)〜(C)で示されるフタロニトリル化合物(A)〜(C)は、特開昭64−45474号公報、特開2009−242791号公報、特開2011−12167号公報、特開2002−302477号公報等に開示されている従来既知の方法により合成でき、また、市販品を用いることもできる。また、置換基(a)を有するフタロニトリル化合物は、好ましくは、ハロゲン化フタロニトリル化合物と、式(a’):
で表される化合物とを適宜反応させることによって得られる。なお、上記式(a’)中のR1およびpは、上記[フタロシアニン系化合物]の項において説明した置換基(a)に係る定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
上記ハロゲン化フタロニトリル化合物としては、以下に制限されないが、テトラフルオロフタロニトリル、テトラクロロフタロニトリル等が挙げられる。なかでも、置換基の位置選択性を考慮すると、テトラフルオロフタロニトリルが好ましい。
また、上記フタロニトリル化合物として、ナフタロニトリル化合物(2,3−ジシアノナフタレンまたはその誘導体)またはジヒドロキシビフェニル化合物(2,2’−ジヒドロキシビフェニルまたはその誘導体)を用いる場合には、従来既知の方法によって合成してもよいし、また、市販品を用いてもよい。
出発原料である上記式(D)および(D’)で示されるフタロニトリル化合物誘導体(D)および(D’)は、特開昭64−45474号公報、特開2009−242791号公報、特開2011−12167号公報、特開2002−302477号公報等に開示されている従来既知の方法を適宜修飾して適用することにより合成できる。
具体的には、ハロゲン化フタロニトリル化合物と、上記式(a’)で表される化合物と、以下の式(d)で表されるジヒドロキシ化合物、または以下の式(d’)で表される三価のヒドロキシ化合物とを、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム等の塩基性化合物の存在下でカップリングさせることにより合成すると好ましい。
フタロシアニン系化合物を得るための環化反応において用いられる金属化合物としては、特に制限されないが、上記式(1)〜(3)における(中心金属(M))の項で例示された金属;これら金属の金属酸化物;これら金属のアルコキシド;これら金属の金属カルボニル;これら金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化物;これら金属の有機酸金属;これら金属の錯体化合物等が挙げられる。
具体的には、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、錫等の金属;一酸化バナジウム、三酸化バナジウム、四酸化バナジウム、五酸化バナジウム、二酸化チタン、一酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄、酸化マンガン、一酸化ニッケル、一酸化コバルト、三二酸化コバルト、二酸化コバルト、酸化第一銅、酸化第二銅、三二酸化銅、酸化バラジウム、酸化亜鉛、一酸化ゲルマニウム、及び二酸化ゲルマニウム等の金属酸化物;メトキシインジウム等の金属アルコキシド;コバルトカルボニル、鉄カルボニル、ニッケルカルボニル等の金属カルボニル;塩化バナジウム、塩化チタン、塩化銅、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化鉄、塩化インジウム、塩化アルミニウム、塩化錫、塩化ガリウム、塩化ゲルマニウム、塩化マグネシウム、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛、ヨウ化コバルト、ヨウ化インジウム、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化ガリウム、臭化銅、臭化亜鉛、臭化コバルト、臭化アルミニウム、臭化ガリウム等の金属ハロゲン化物;酢酸銅、酢酸亜鉛、酢酸コバルト、安息香酸銅、安息香酸亜鉛等の有機酸金属;上記金属のアセチルアセトナート錯体等の錯体化合物等が挙げられる。
これらのうち、好ましくは金属、金属酸化物および金属ハロゲン化物であり、より好ましくは金属ハロゲン化物であり、さらに好ましくは、塩化バナジウム、ヨウ化バナジウム、塩化銅、ヨウ化銅、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛であり、より好ましくは、塩化バナジウム、塩化銅およびヨウ化亜鉛である。
また、環化反応は、無溶媒中でも行なえるが、有機溶媒を使用して行なうのが好ましい。有機溶媒は、出発原料としてのフタロニトリル化合物およびナフタロニトリル化合物との反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、o−クロロトルエン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、ベンゾニトリル等の不活性溶媒;メタノール、エタノール、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ル、1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−ペンタノール、1−オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール;ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、1−オクタノール、ジクロロベンゼン、ベンゾニトリルが、より好ましくは、1−オクタノール、ベンゾニトリルが使用される。これらの溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。有機溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、式(A)〜(C)で表されるフタロニトリル化合物(A)〜(C)および式(D)で表されるフタロニトリル化合物誘導体(D)または式(D’)で表されるフタロニトリル化合物誘導体(D’)の合計濃度(総量)が、2〜80重量%となる量であると好ましく、10〜70重量%となる量であるとより好ましく、15〜60重量%となる量であると特に好ましい。
フタロニトリル化合物(A)〜(C)、フタロニトリル化合物誘導体(D)または(D’)、および金属化合物との反応条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではない。例えば、反応温度は、100〜240℃であると好ましく、130〜200℃であるとより好ましい。反応時間も特に制限はないが、1〜72時間であると好ましく、3〜48時間であるとより好ましく、5〜30時間であると特に好ましい。また、添加される金属化合物の量は特に制限されないが、フタロニトリル化合物(A)〜(C)と、フタロニトリル化合物誘導体(D)または(D’)との合計4モルに対して0.8〜2モルであると好ましく、1.0〜1.5モルであるとより好ましい。
また、上記反応は、大気雰囲気中で行なってもよいが、金属化合物の種類により、不活性ガスまたは酸素含有ガス雰囲気(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、または酸素/窒素混合ガスなどの流通下)で、行なわれることが好ましい。
上記環化反応後は、従来公知の方法に従って、晶析、ろ過、洗浄、乾燥を行なってもよい。このような操作により、フタロシアニン系化合物を効率よく得ることができる。また、用いるフタロニトリル化合物(A)〜(C)およびフタロニトリル化合物誘導体(D)または(D’)の種類に応じて、置換基の位置や導入数が異なる副生成物が生じるが、所望のフタロシアニン系化合物と、それ以外のフタロシアニン系化合物とを分離する操作を行ってもよい。かような分離手段として、例えば、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
上記方法によって製造されるフタロシアニン系化合物および副生成物を含む混合物(本明細書中、単に「フタロシアニン系化合物の混合物」または「混合物」とも称することがある)は、吸収スペクトル(吸収帯)の重ね合わせによって、混合物の吸収スペクトルの吸収帯の幅が広くなる。よって、上記方法によって製造されるフタロシアニン系化合物の混合物は、熱線吸収効果がさらに向上すると推測される。
[熱線吸収材]
本発明に係るフタロシアニン系化合物は、良好な熱線吸収能および可視光透過率を有すると共に、高い耐光性を有する。すなわち、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、光強度の高い近赤外域の光を選択的に吸収し、可視光波長域での透過率を高くして(即ち、透明性を確保しつつ)、太陽光からの熱の吸収/遮断を効果的に行うという作用効果に優れることに加え、当該作用効果の持続性に優れる。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、耐熱性にも優れ、光照射後の黄変もまた抑制される。
さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、従来のフタロシアニン系化合物と比較して、樹脂と併用した際、特に高い可視光透過率を示す。さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、樹脂との相溶性に優れ、かつ耐光性、耐熱性、耐候性に優れ、その特性を損なうことなく熱線吸収材として優れた作用効果を奏する。
したがって、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記作用効果を熱線吸収材に付与することができる。よって、本発明の他の形態として、上記フタロシアニン系化合物を含む、熱線吸収材が提供される。さらに、当該他の形態のより好ましい形態としては、上記式(1)または(2)または(3)で表されるフタロシアニン系化合物を含む、熱線吸収材が提供される。なお、上記式(1)で表されるフタロシアニン系化合物および上記式(2)で表されるフタロシアニン系化合物および上記式(3)で表されるフタロシアニン系化合物は、熱線吸収材中、それぞれ単独で含まれていてもよいし、2種以上の混合物の形態で含まれていてもよい。また、上記式(1)〜(3)で表されるフタロシアニン系化合物は、それぞれの1種以上を組み合わせて熱線吸収材中に含まれていてもよい。
本発明に係る熱線吸収材は、良好な熱線吸収能および透明性を維持しながら、高い耐光性を有する。ゆえに、本発明の熱線吸収材は、乗り物(例えば、自動車、バス、電車等)や建物の窓などの熱線吸収合わせガラス(合わせガラス遮熱中間膜)、熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽樹脂ガラス、熱線反射ガラスに好適に用いることができる。例えば、自動車や建物の窓などの熱線吸収ガラスに使用すると、車内や室内の温度の上昇を有効に抑制することができると共に、良好な視界が確保できる。本発明に係る熱線吸収材は、400〜600nmにおける透過率が高く、特に、460nmおよび510nm付近の波長の光(青色光〜緑色光)を透過させやすい。ゆえに、青色光〜緑色光を発するLEDランプの視認性を向上させることができる。よって、例えば、LEDを用いたヘッドライトの視認性が向上するため、本発明に係る熱線吸収材は、乗り物のフロントガラス(熱線吸収合わせガラス)の中間膜に好適に使用できる。
本発明に係る熱線吸収材は、本発明に係るフタロシアニン系化合物(好ましくは、上記式(1)または(2)または(3)で表されるフタロシアニン系化合物)を含む。したがって、当該フタロシアニン系化合物を使用する以外は、本発明に係る熱線吸収材は、従来と同様の熱線吸収材として適用できる。
本発明に係る熱線吸収材の形態は、特に制限されず、公知のいずれの形態であってもよいが、用途を考慮すると、通常の形態として、本発明に係るフタロシアニン系化合物(好ましくは、上記式(1)または(2)または(3)で表されるフタロシアニン系化合物)に加えて、樹脂を含む。よって、本発明に係る熱線吸収材は、本発明に係るフタロシアニン系化合物に加え、樹脂をさらに含んでいると好ましい。以下、フタロシアニン系化合物および樹脂を含む組成物を「樹脂組成物」とも称することがある。
特に、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、従来技術によるフタロシアニン系化合物と比較して、樹脂と混合した場合であっても、可視光透過率が非常に高いことが判明した。この詳細な理由は不明であるが、以下のように考察される。従来のフタロシアニン系化合物は、樹脂中において吸収スペクトル(吸収帯)がブロード化することにより、可視光透過率が低下する傾向にある。しかしながら、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記(i)または(ii)を満たす構造を有することにより、樹脂中における吸収スペクトル(吸収帯)のブロード化が抑制されるためであると考えられる。
さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、溶媒溶解性や樹脂との相溶性に優れ、耐光性、耐熱性、耐候性等の諸特性に優れる。このため、プラスチックフィルムなどへの塗布性に優れ、工業的に大面積への塗布(大量生産)が可能である。また同じく、樹脂に直接練り込むこともできることから、大型成形(大量生産)も可能である。
熱線吸収材におけるフタロシアニン系化合物の含有量は、用途または樹脂の厚みによって適宜選択されるが、樹脂の固形分100重量部に対して、0.0005〜20重量部であると好ましく、0.001〜10重量部であるとより好ましい。このような範囲とすることにより、用途にあった熱線吸収能および可視光透過率を有すると共に、優れた耐光性を有する熱線吸収材を得ることができる。本発明に係る熱線吸収材の好ましい可視光線の透過率としては、70%以上であり、より好ましくは80%以上である。また、好ましい460nmの光の透過率としては、70%以上であり、より好ましくは80%以上である。なお、当該透過率は、実施例記載の方法により測定される値を採用する。
熱線吸収材に含まれる樹脂としては、一般に光学材料に使用しうるものであれば特に制限されないが、透明性の高いものが好ましく、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、カルボキシル化ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン、シクロオレフィンポリマー等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;(メタ)アクリル酸エステル系樹脂;酢酸ビニル系樹脂;ハロゲン化ビニル系樹脂;ポリビニルアルコール等のビニル系樹脂;ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリアリレート(PAR)等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;エポキシ系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン等のポリアリールエーテル系樹脂;ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのうち、溶融または溶液化が可能であるものが好ましく使用される。この際、溶融が可能な樹脂を使用し、フタロシアニン系化合物を練りこむことで成形加工が可能な樹脂組成物が得られる。ここで、本発明に係るフタロシアニン系化合物は耐熱性にも優れるため、熱可塑性樹脂を用いて、射出成形、押出成形等の生産性に優れた成形方法を採用することができる。
なかでも、本発明に係る熱線吸収材に含まれる樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂;酢酸ビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリアリールエーテル系樹脂;ポリビニルアセタール系樹脂から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物との相溶性に優れ、また、特に高い可視光透過率が得られることから、熱線吸収材に含まれる樹脂は、エーテル結合を有すると好ましい。さらに同様の観点から、熱線吸収材に含まれる樹脂は、ポリビニルアセタール系樹脂を含むと特に好ましい。特に、熱線吸収材が上記式(1)または(2)または(3)で表されるフタロシアニン系化合物を含む場合、ポリビニルアセタール系樹脂に含まれるエーテル結合や水酸基が、フタロシアニン系化合物中のフェノキシ基(置換基(a))等と相互作用しやすいため、上記効果がより効果的に得られると推測される。
また、溶液化が可能な樹脂にフタロシアニン系化合物を溶液化することで、コーティング可能な樹脂組成物を得ることができる。このような樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
上記樹脂の分子量は特に制限されないが、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1万以上であると好ましく、2万以上であるとより好ましい。他方、分子量の上限は特に制限されないが、50万以下程度であると好ましい。
上記樹脂のポリマー構造に制限はなく、直鎖型または分岐型であってもよいが、直鎖型よりも分岐型の方が樹脂は割れにくくなり耐久性が高くなるため好ましい。分岐構造にすると高分子量化した場合でも樹脂の粘度が低く、取り扱いが容易になる。分岐型の樹脂を得るためにはマクロモノマー、多官能モノマー、多官能開始剤、多官能連鎖移動剤が使用できる。
また、上記樹脂は、粘着剤もしくは接着剤、またはこれらの混合物であってもよい。粘着剤や接着剤を用いた場合、他の機能性フィルムと貼りあわせることができるため、簡便かつ経済的に熱線吸収材を製造することができる。
上記の粘着剤として好適な樹脂としては、アクリル系、シリコン系、SBR系等が挙げられる。特に好ましくはエチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等を主成分として重合したポリマーであり、具体的にはアクリセット(登録商標)AST((株)日本触媒製)等が挙げられる。さらに、好適な粘着剤は、シクロヘキシル基、イソボルニル基等の脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合したアクリル系樹脂である。また、カルボキシル基等の酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合することも可能である。
上記の接着剤として好適な樹脂としては、一般的なシリコン系、ウレタン系、アクリル系、エチレン−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル化ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン等のポリオレフィン系が挙げられる。
熱線吸収材は、さらに溶剤を含んでいてもよい。かような溶剤としては、本発明に係るフタロシアニン系化合物および樹脂を溶解または分散できる溶剤であれば限定されない。例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族系;トルエン、キシレン等の芳香族系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトニトリル等のニトリル系;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2−メトキシエタノール等のアルコール系;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル系;ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系:トリエチレングリコールジ−(2−エチル)ブチレート、トリエチレングリコールジ−(2−エチル)ヘキサノエート等のエーテルエステル系;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系が挙げられる。これらは、単独で使用されても、または混合して使用されてもよい。耐久性を向上させるためには、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等の沸点が100℃以下の溶媒が好適である。また、コーティング時の塗膜外観を向上させるためには、トルエン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル等の沸点が100〜150℃の溶媒が好適である。塗膜の耐クラック性を向上させるためには、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の沸点が150〜200℃の溶媒が好適である。
本発明に係る熱線吸収材は、可視光吸収色素、近赤外線吸収剤、紫外線吸収剤(以下、一括して、「他の吸収剤」とも称する)をさらに含んでいてもよい。このように他の吸収剤をさらに使用することによって、本発明に係るフタロシアニン系化合物が吸収できない、または吸収が十分でない波長域の光を吸収できる。なかでも、熱線吸収効率を向上させるため、近赤外線吸収剤を含むとより好ましい。
ここで、可視光吸収色素としては、特に制限されず、シアニン系、テトラアザポルフィリン系、アズレニウム系、スクアリリウム系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、オキサジン系、アジン系、チオピリリウム系、ビオローゲン系、アゾ系、アゾ金属錯塩系、ビスアゾ系、アントラキノン系、ペリレン系、インダンスロン系、ニトロソ系、金属チオール錯体系、インジコ系、アゾメチン系、キサンテン系、オキサノール系、インドアニリン系、キノリン系等従来公知の色素を広く使用することができる。例えば、アデカアークルズ(登録商標、以下同じ)TW−1367、アデカアークルズSG−1574、アデカアークルズTW1317、アデカアークルズFD−3351、アデカアークルズY944(いずれも(株)ADEKA製)、NK−5451、NK−5532、NK−5450(いずれも林原生物化学研究所製)等が挙げられる。可視光吸収色素は溶媒に溶解する染料であってもよいし、ヘイズが問題にならない程度に微粒化した顔料であってもよい。
また、近赤外線吸収剤としては、特に制限されず、用途によって所望される最大吸収波長によって公知の近赤外線吸収剤が適宜選択されうる。ここで、近赤外線吸収剤の最大吸収波長は、750nm以上であると好ましく、800nm以上であるとより好ましい。ここで、最大吸収波長の最大値は特に制限されないが、1500nm以下であると好ましく、1000nm以下であると特に好ましい。当該波長域の光を吸収する近赤外線吸収剤を使用することによって、本発明に係るフタロシアニン系化合物が吸収できない、または吸収が十分でない波長域の光を吸収できるため、熱線遮蔽効果をさらに向上できる。なお、他の吸収剤としての近赤外線吸収剤は、本発明に係るフタロシアニン系化合物とは異なる色素である。このような他の吸収剤としての近赤外線吸収色素としては、特に制限されず、所望の吸収スペクトルが得られるように適宜選択できる。より具体的には、特開2000−26748号公報、特開2001−106689号公報、特開2004−018561号公報、特開2007−56105号公報、特開2011−116918号公報等に記載されるフタロシアニン化合物を用いてなる近赤外吸収色素などが挙げられる。また、他の吸収剤としての近赤外線吸収色素は、市販品を用いてもよい。市販品としては、IR−915、IR−12、IR−14、IR−20、HA−1(いずれも、株式会社日本触媒製のフタロシアニン化合物)等が挙げられる。
また、紫外線吸収剤としては、特に制限されず、公知の紫外線吸収剤が使用できる。具体的には、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系の化合物が好適に使用される。特にヒンダードアミン系が好ましい。
上記他の吸収剤は単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を混合して使用してもよく、用途によって適宜選択することが出来る。好ましくは、本発明に係る熱線吸収材は、近赤外吸収色素をさらに含むことが好ましく、800nm以上の最大吸収波長を有する近赤外吸収色素をさらに含むことがより好ましい。
熱線吸収材中における上記他の吸収剤の含有量は特に制限されず、用途により要求される吸収波長域、可視光透過率および日射透過率が異なるため、一概には決定することはできない。上記他の吸収剤の含有量の一例としては、樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは0.001〜10重量部、より好ましくは0.005〜8重量部である。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物との混合比もまた、特に制限されないが、本発明に係るフタロシアニン系化合物100重量部に対して、他の吸収剤は1〜1000重量部含まれていると好ましく、10〜500重量部含まれているとより好ましい。かような範囲であれば、可視光線の透過率に影響することなく、日射透過率を下げることができる。好ましい可視光線の透過率としては、70%以上であり、より好ましくは80%以上である。
また、本発明に係る熱線吸収材は、800nm以上に最大吸収波長を有する熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)をさらに含んでいてもよい。このように熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)を使用することによって、本発明に係るフタロシアニン系化合物による吸収能力の低い近赤外領域での熱線吸収能力を向上できる。すなわち、上記熱線吸収材において、800nm以上に最大吸収波長を有する熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)をさらに含む形態も本発明の好ましい形態の一つである。また、熱線吸収材が800nm以上の最大吸収波長を有する近赤外吸収色素および800nm以上に最大吸収波長を有する熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)の少なくとも一方をさらに含む形態も本発明の好ましい形態の一つである。
上記熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)としては、熱線吸収能または紫外線吸収能を有するものが好ましい。具体的には、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、セシウムドープ酸化タングステン(CsWO3)等のアルカリ金属ドープ酸化タングステン、酸化アンチモン、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、アンチモン酸亜鉛、六ホウ化ランタン等が挙げられる。熱線吸収能を有する熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)は本発明に係るフタロシアニン系化合物や有機色素では吸収することのできない波長域である900nm以上、好ましくは1100nm以上、より好ましくは1200nm以上を吸収することができ、可視光透過率を維持したまま日射透過率を下げることができる。より好ましくは、アルカリ金属ドープ酸化タングステン、酸化インジウムスズまたはアンチモンドープ酸化スズである。具体的には、アルカリ金属ドープ酸化タングステンとしては、SG−IRC90SPM(Sukgyung社製)等がある。酸化インジウムスズとしては、PI−3(三菱マテリアル製)等がある。アンチモンドープ酸化スズとしては、SNS−10M、SNS−10T、SN100P、SN−100D、FS−10P、FS−10D(いずれも石原産業製)等がある。これらは微粒子状であり、平均分散粒子径は0.001〜0.2μmであると好ましく、0.005〜0.15μmであるとより好ましい。かような範囲であると透明性を損なわないので好ましい。
熱線吸収材中における上記熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)の含有量は特に制限されず、用途により要求される吸収波長域、可視光透過率および日射透過率が異なるため、一概には決定することができない。上記熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)の含有量の一例としては、本発明に係るフタロシアニン系化合物100重量部に対して、好ましくは1〜1000重量部、より好ましくは10〜500重量部である。かような範囲であれば、可視光線の透過率に影響することなく、日射透過率を下げることができる。
さらに、熱線吸収材には、その性能を失わない範囲でイソシアネート化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、オキサゾリン化合物、シランカップリング剤、UV硬化剤等の樹脂硬化剤を使用してもよい。ただし、硬化剤を使用しない樹脂組成物の方が、コーティング液のポットライフが長くエージングが不要になるため、より好ましい。
さらにまた、熱線吸収材にはフィルムやコーティング剤等に使用される公知の添加剤を用いることができ、該添加材としては、分散剤、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤、つや消し剤、粘着付与剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定化剤、消光剤、硬化剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、滑り剤等が挙げられる。
本発明に係る熱線吸収材の使用形態は、特に限定されず、公知のいずれの形態であってもよい。具体的には、熱線を吸収/遮蔽することが好ましい対象物(透明基材)上に、フタロシアニン系化合物を含む塗膜またはフィルムが形成されてなる形態(形態(a));2枚の対象物(透明基材)の間にフタロシアニン系化合物含有中間層を設けてなる積層体の形態(形態(b));上記対象物中にフタロシアニン系化合物を含有してなる形態(形態(c))などが挙げられる。これらのうち、上記形態(a)および(b)が好ましく、上記形態(b)が特に好ましい。さらに上記形態(b)としては、樹脂組成物で2枚の透明基材を接着してなる形態が好ましい。
本発明に係る熱線吸収材の厚みについて、特に制限はなく、目的、用途に応じて適宜決定される。熱線吸収材の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは0.1μmから20mm、より好ましくは0.1μmから10mmである。また熱線吸収材に含まれるフタロシアニン系化合物の含有量も目的、用途に応じて、適宜決定される。熱線吸収材の厚みに関係なく、フタロシアニン系化合物の含有量を表示するとすれば、上方からの投影面積中の質量と考えて、0.01〜2.0g/m2の配合量であると好ましく、さらに好ましくは0.05〜1.0g/m2である。かような範囲とすることにより、可視光線の透過率が高く、また、十分な熱線吸収効果が得られる。可視光透過率は用途により異なるが、好ましい可視光線の透過率としては、70%以上である。より好ましくは80%以上である。
熱線を吸収/遮蔽することが好ましい対象物(透明基材)は、一般に光学材に使用しうるものであって、実質的に透明であれば特に制限はない。具体的な例としてはガラス、シクロポリオレフィン、非晶質ポリオレフィン等のオレフィン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系エステル樹脂、ポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、PETやPAR等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリールエーテル系樹脂等が挙げられる。透明基材として、ガラス等の無機基材を使用する場合にはアルカリ成分が少ないものが色素の耐久性の観点から好ましい。
透明基材として樹脂系材料を使用する場合には、樹脂に公知の添加剤、耐熱老化防止剤、滑剤、帯電防止剤等を配合することができ、公知の射出成形、Tダイ成形、カレンダー成形、圧縮成形等の方法や、有機溶剤に溶融させてキャスティングする方法等で所望の形状に成形される。かかる透明基材は、必要に応じて延伸したり、他の樹脂と積層したりしてもよい。また、透明基材は、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理等の従来公知の方法による表面処理や、アンカーコート剤やプライマー等のコーティングを施してもよい。
上記樹脂組成物を透明基材に塗布する際には公知の塗工機が使用できる。例えばコンマコーター等のナイフコーター、スロットダイコーター、リップコーター等のファウンテンコーター、マイクログラビアコーター等のキスコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター等のロールコーター、フローコーター、スプレーコーター、バーコーター、スピンコーターが挙げられる。塗布前にコロナ放電処理、プラズマ処理等の公知の方法で基材の表面処理を行ってもよい。乾燥、硬化方法としは熱風、遠赤外線、UV硬化等公知の方法が使用できる。乾燥、硬化後は公知の保護フィルムとともに巻き取ってもよい。
樹脂組成物を塗布する場合、その塗膜の厚みに制限はないが、目的に応じて適宜決定される。塗膜の厚みは、好ましくは0.1μmから20mm、より好ましくは0.1μmから10mm、さらに好ましくは1μmから10mmである。
上記形態(a)において、本発明に係る熱線吸収材がフィルム形態である場合、透明基材としてはPETフィルムが好ましく、特に易接着処理をしたPETフィルムが好適である。具体的にはコスモシャイン(登録商標)A4300(東洋紡績製)、ルミラーU34(東レ製)、メリネックス705(帝人デュポン製)等が挙げられる。
上記フィルム形態である場合は、熱線吸収材に使用する樹脂は粘着剤樹脂またはUV硬化樹脂であると好ましい。粘着剤樹脂またはUV硬化樹脂を使用した場合、塗膜はフィルムの片面に形成してもよいし、両面に形成してもよいが、好ましくは片面に塗布する。フィルムに塗膜を形成する場合は、樹脂組成物の塗工液を透明基材上に直接塗布してもよいし、離型性のある基材上に塗布した樹脂組成物の塗膜を透明基材上に転写してもよい。また、フィルムの反対面にUV硬化性の塗膜を形成してもよい。その場合は、上記フタロシアニン系化合物、UV硬化性モノマーまたはオリゴマー、光重合開始剤を含む塗工液を透明基材上に塗布するのがよい。また、フィルムの反対面に粘着剤を塗布してもよい。
上記形態(b)において、熱線吸収材が、上記樹脂組成物で2枚の透明基材を接着させてなる形態である場合、透明基材としてはガラス、PETフィルムが好ましい。2枚のガラス基材を接着する際の樹脂組成物に含まれる樹脂としては、接着性の観点から、ポリビニルアセタール樹脂(特にポリビニルブチラール樹脂)を使用すると好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂(特にポリビニルブチラール樹脂)は、上記のように、可視光透過率を向上させるという観点からも好ましい。
熱線吸収材を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、(1)樹脂組成物を混練、加熱成形する方法、(2)フタロシアニン系化合物と、硬化性モノマーあるいはオリゴマーおよび重合開始剤とともに型枠の中で重合し、成形する方法等が利用できる。
樹脂組成物を混練、加熱成形する際の成形条件は樹脂の種類により異なるが、通常、フタロシアニン系化合物を熱可塑性樹脂の粉体に溶融し混練後にペレット化してフタロシアニン系化合物濃度の高いマスターバッチとする。このマスターバッチをさらに該熱可塑性樹脂で希釈、溶融、混練、成形する方法が挙げられる。
本発明に係る熱線吸収材に用いられるフタロシアニン系化合物は、従来の赤外線吸収剤と比較して、耐熱性に優れているため、熱可塑性樹脂を用いて、射出成形、押出成形といった、樹脂温度が200〜350℃という高温まで上昇する成形方法を採用することが可能であり、透明性に優れ、熱線遮蔽性能に優れた成形品を得ることができる。
上記熱可塑性樹脂としては、シクロポリオレフィン、非晶質ポリオレフィン等のオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、PETやPAR等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリールエーテル系樹脂等が挙げられる。
また、フタロシアニン系化合物と、硬化性モノマーあるいはオリゴマー、および重合開始剤とともに型枠の中で重合し成形する方法(上記(2)の方法)で用いられる硬化性モノマーあるいはオリゴマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド等を生成するモノマーまたはオリゴマー等が挙げられる。重合開始剤はモノマーやオリゴマーに応じて好適なものが使用できる。
樹脂組成物を成形する際、上記熱線吸収材は形状に制限はなく、用途に応じて適宜形成できる。平板状、フィルム状、波板状、球面状、ドーム状等様々な形状のものが含有される。厚みは、特に制限されないが、0.05〜20mmが好ましい。このような範囲であれば、熱線吸収材として十分な強度や安全性が得られる。
本発明に係る熱線吸収材は、建築物や車輌用のウインドーフィルム、熱線吸収合わせガラス(合わせガラス遮熱中間膜)、熱線吸収樹脂グレージング、採光建材等に好適である。フィルム状の透明基材上に本発明に係る樹脂組成物の塗膜を形成してなる熱線吸収材は、ウインドーフィルムとして使用できる。ウインドーフィルムは建築物の内側に貼っても外側に貼ってもよい。ウインドーフィルムとして使用する場合は上記フタロシアニン系化合物を含む層の日射側に紫外線吸収層を設けることが好ましい。また、採光建材等のシート状の成形体として使用する場合は、多層押し出し方式により最外層に紫外線吸収材を添加し、内部層に本発明に係る熱線吸収材を使用するのが好ましい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。下記において、特記しない限り、室温は、25±5℃を意味する。
[合成例1−1:二量化フタロニトリル中間体(a)(フタロシアニン化合物(i)合成用中間体)の合成]
まず、特開2002−302477号公報の実施例1に記載された方法に準じて3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルを得た。
次いで、50mlの反応器に、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル4g、ビスフェノールA0.91g、炭酸カリウム1.22gおよびアセトニトリル25gを投入し、80℃で約12時間反応させた。反応液を熱時濾過し、無機成分を除去後、濾液から溶媒を減圧留去した。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社社製)を行い、目的とする二量化フタロニトリル中間体(a)を得た。生成物について蛍光X線分析(装置名ZSX Primus、株式会社リガク社製)を行ったところ、残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析(装置名:La Chrom、株式会社日立ハイテク社製;カラム:ODS−4、溶媒:アセトニトリル:水=9:1)においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(a)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例1−2:二量化フタロニトリル中間体(b)(フタロシアニン化合物(ii)、(iii)合成用中間体)の合成]
ビスフェノールA0.91gをヒドロキノン0.44gに変更したこと以外は、合成例1−1と同様にして、二量化フタロニトリル中間体(b)を得た。分析についても合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(b)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例1−3:二量化フタロニトリル中間体(c)(フタロシアニン化合物(iv)合成用中間体)の合成]
50mlの反応器に、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル1.6g、2−フェニルフェノール2.72g、およびアセトニトリル25gを投入した。当該混合物を5℃に保持した状態で炭酸カリウム2.43gを逐次投入し、その後、50℃に昇温して約2時間反応させた。その後、フェノール0.75g、炭酸カリウム1.22gを追加し、80℃に昇温してから更に4時間反応させた。その後、カテコール0.44g、炭酸カリウム1.22gを追加し、80℃で約17時間反応させた。反応液を熱時濾過し、無機成分を除去後、濾液から溶媒を減圧留去した。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、目的とする二量化フタロニトリル中間体(c)を得た。分析については合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(c)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例1−4:二量化フタロニトリル中間体(d)(フタロシアニン化合物(v)合成用中間体)の合成]
50mlの反応器に、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル1.5g、4−フルオロフェノール0.84g、およびアセトニトリル25gを投入した。当該混合物を5℃に保持した状態で炭酸カリウム1.14gを逐次投入し、その後、50℃に昇温して約2時間反応させた。その後、2−フェニルフェノール2.55g、炭酸カリウム2.28gを追加し、80℃に昇温してから更に4時間反応させた。その後、ヒドロキノン0.413g、炭酸カリウム1.14gを追加し、80℃で約15時間反応させた。反応液を熱時濾過し、無機成分を除去後、濾液から溶媒を減圧留去した。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行った。得られた二量化フタロニトリル中間体(d)は、分析については合成例1−1と同様にして分析を行い、フッ素原子が一分子中8個分検出された。また、高速液体クロマトグラフィー分析では原料ピークの消失を確認でき、中間体(d)の純度は99%以上であった。
[合成例1−5:三量化フタロニトリル中間体(e)(フタロシアニン化合物(vi)、(ix)合成用中間体)の合成]
ビスフェノールA0.91gをフロログルシノール0.336gに変更したこと以外は、合成例1−1と同様にして、三量化フタロニトリル中間体(e)を得た。分析についても合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(e)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例1−6:二量化フタロニトリル中間体(f)(フタロシアニン化合物(vii)合成用中間体)の合成]
ビスフェノールA0.91gを1,4−シクロヘキサンジオール0.465gに変更したこと以外は、合成例1−1と同様にして、二量化フタロニトリル中間体(f)を得た。分析についても合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(f)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例1−7:二量化フタロニトリル中間体(g)(フタロシアニン化合物(viii)合成用中間体)の合成]
ビスフェノールA0.91gを1,3−プロパンジオール0.304gに変更したこと以外は、合成例1−1と同様にして、二量化フタロニトリル中間体(g)を得た。分析についても合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(g)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例1−8:三量化フタロニトリル中間体(h)(フタロシアニン化合物(ix)合成用中間体)の合成]
ビスフェノールA0.91gを1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン0.817gに変更し、炭酸カリウム量を1.22gに変更したこと以外は、合成例1−1と同様にして、三量化フタロニトリル中間体(h)を得た。分析についても合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(h)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例2−1:単量体フタロニトリル中間体(a’)(フタロシアニン化合物(i)〜(iii)、(vi)〜(ix)合成用中間体)の合成]
ビスフェノールA0.91gを2,5−ジメチルフェノール0.98gに変更したこと以外は、合成例1−1と同様にして、単量体フタロニトリル中間体(a’)を得た。分析についても合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(a’)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例2−2:単量体フタロニトリル中間体(b’)(フタロシアニン化合物(iv)合成用中間体)の合成]
カテコール0.44gを2−フェニルフェノール1.36gに変更したこと以外は、合成例1−3と同様にして、単量体フタロニトリル中間体(b’)を得た。分析については合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(b’)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例2−3:単量体フタロニトリル中間体(c’)(フタロシアニン化合物(v)合成用中間体)の合成]
ヒドロキノン0.413gを2−フェニルフェノール1.28gに変更し、炭酸カリウム量を1.14gに変更したこと以外は、合成例1−4と同様にして、単量体フタロニトリル中間体(c’)を得た。分析については合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(c’)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例2−4:単量体フタロニトリル中間体(d’)(比較フタロシアニン化合物(i)合成用中間体)の合成]
ビスフェノールA0.91gをフェノール0.75gに変更したこと以外は、合成例1−1と同様にして、単量体フタロニトリル中間体(d’)を得た。分析についても合成例1−1と同様にして分析を行い、生成物については残存フッ素原子が検出されなかった。また、高速液体クロマトグラフィー分析においても原料ピークの消失が確認でき、中間体(d’)の純度は99%以上であることが確認された。
[合成例3−1:単量体フタロニトリル中間体(a”){(2,2’−PhOPhO)(2−PhPhO)(PhO)PN}(フタロシアニン化合物(x)(xii)合成用中間体)の合成]
50mlの反応器に、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル2g、2,2’−ジヒドロキシビフェニル1.86g、アセトニトリル30gを投入し、約5℃を保ちながら炭酸カリウム2.9gを投入し30分撹拌した。その後、60℃に昇温して1時間反応後、2−フェニルフェノール1.7gおよび炭酸カリウム1.52gを投入し、80℃で約6時間反応させた。その後さらにフェノール0.94gおよび炭酸カリウム1.52gを追加し、80℃で約6時間反応させた。反応液を熱時濾過し、無機成分を除去後、濾液から溶媒を減圧留去した。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社社製)を行い、目的とするフタロニトリル中間体(a”)を得た。
[合成例3−2:単量体フタロニトリル中間体(b”){(2,2’−PhOPhO)(2,6−(CH3)2PhO)(PhO)PN}(フタロシアニン化合物(xi)合成用中間体)の合成]
合成例3−1において、2−フェニルフェノールの代わりに、2,6−ジメチルフェノール1.22gを使用した以外は、合成例3−1と同様に操作して、目的とするフタロニトリル中間体(b”)を得た。
[合成例3−3:二量化フタロニトリル中間体(c”){(2,2’−PhOPhO)2(2−PhPhO)2(2,4−OPhO)PN}(フタロシアニン化合物(x)合成用中間体)の合成]
合成例3−1において、フェノールの代わりに、ヒドロキノン0.55gを使用した以外は、合成例3−1と同様に操作して、目的とする二量化フタロニトリル中間体(c”)を得た。
[合成例3−4:二量化フタロニトリル中間体(d”){(2,2’−PhOPhO)2(2,6−(CH3)2PhO)2(2,4−OPhO)PN}(フタロシアニン化合物(xi)合成用中間体)の合成]
合成例3−2において、フェノールの代わりに、ヒドロキノン0.55gを使用した以外は、合成例3−2と同様に操作して、反応を行った。反応終了後、反応液を水70gに投入し、結晶を析出させた。吸引濾過後、再度水70gで撹拌洗浄し、80℃で一晩乾燥して、目的とする二量化フタロニトリル中間体(d”)を得た。
[合成例3−5:三量化フタロニトリル中間体(e”)[(2,2’−PhOPhO)3(2−PhPhO)3{(4−CH3PhO)CH2(4−CH3PhO)CH2(4−CH3PhO)}PN] (フタロシアニン化合物(xii)合成用中間体)の合成]
合成例3−1において、フェノールの代わりに、2,6−ビス[(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メチル]−4−メチルフェノール1.16gを使用した以外は、合成例3−1と同様に操作して、目的とする三量化フタロニトリル中間体(e”)を得た。
<実施例1:フタロシアニン系化合物(i)[(2,5−Me2PhO)16(2,6−Me2PhO)8(2,5−Me2PhO)6(OPhC(Me2)PhO)(CuPc)2]の合成>
50ml反応器に上記合成例1−1で得られた二量化フタロニトリル中間体(a)1.2g、合成例2−1で得られた単量体フタロニトリル中間体(a’)3.65g、塩化銅(I)0.218g、ベンゾニトリル5gおよび1−オクタノール3gを投入し、窒素ガス雰囲気下190℃で12時間撹拌した。混合物を25℃に冷却後、反応液をメタノールに滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥により粗生成物を得た。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、フタロシアニン化合物(i)2.79g(中間体(a)に基づく収率64モル%)を得た。
<実施例2:フタロシアニン化合物(ii)[(2,5−Me2PhO)16(2,6−Me2PhO)8(2,5−Me2PhO)6(1,4−OPhO)(CuPc)2]の合成>
二量化フタロニトリル中間体(a)1.2gを、合成例1−2で得られた二量化フタロニトリル中間体(b)1.08gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フタロシアニン化合物(ii)2.37g(中間体(b)に基づく収率56モル%)を得た。
<実施例3:フタロシアニン化合物(iii)[(2,5−Me2PhO)12(2,6−Me2PhO)6(2,5−Me2PhO)4(Np)2(1,4−OPhO)(CuPc)2]の合成>
単量体フタロニトリル中間体(a’)の量を2.43gに変更し、さらに中間原料として2,3−ジシアノナフタレン0.356gを加えたこと以外は、実施例2と同様にして、フタロシアニン化合物(iii)2.8g(中間体(b)に基づく収率71モル%)を得た。
<実施例4:フタロシアニン化合物(iv)[(2−PhPhO)12(PhO)6(2−PhPhO)4(Np)2(1,2−OPhO)(CuPc)2]の合成>
二量化フタロニトリル中間体(b)1.08gを、合成例1−3で得られた二量化フタロニトリル中間体(c)1.22gに変更し、単量体フタロニトリル中間体(a’)2.43gを合成例2−2で得られた単量体フタロニトリル中間体(b’)2.9gに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、フタロシアニン化合物(iv)2.6g(中間体(c)に基づく収率59モル%)を得た。
<実施例5:フタロシアニン化合物(v)[(4−FPhO)6(2−PhPhO)6(2−PhPhO)10(Np)2(1,4−OPhO)(CuPc)2]の合成>
二量化フタロニトリル中間体(b)1.08gを、合成例1−4で得られた二量化フタロニトリル中間体(d)1.26gに変更し、単量体フタロニトリル中間体(a’)2.43gを合成例2−3で得られた単量体フタロニトリル中間体(c’)2.97gに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、フタロシアニン化合物(v)2.1g(中間体(d)に基づく収率60モル%)を得た。
<実施例6:フタロシアニン化合物(vi)[(2,5−Me2PhO)18(2,6−Me2PhO)9(2,5−Me2PhO)6(Np)3(Ph(O)3)(CuPc)3]の合成>
二量化フタロニトリル中間体(b)1.08gを、合成例1−5で得られた三量化フタロニトリル中間体(e)1.59gに変更し、単量体フタロニトリル中間体(a’)の量を3.65gに変更し、2,3−ジシアノナフタレンの量を0.535gに、塩化銅(I)の量を0.327gに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、フタロシアニン化合物(vi)2.1g(中間体(e)に基づく収率36モル%)を得た。
<実施例7:フタロシアニン化合物(vii)[(2,5−Me2PhO)12(2,6−Me2PhO)6(2,5−Me2PhO)4(Np)2(1,4−OCyhO)(CuPc)2]の合成>
二量化フタロニトリル中間体(b)1.08gを、合成例1−6で得られた二量化フタロニトリル中間体(f)1.09gに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、フタロシアニン化合物(vii)2.7g(中間体(f)に基づく収率68モル%)を得た。
<実施例8:フタロシアニン化合物(viii)[(2,5−Me2PhO)12(2,6−Me2PhO)6(2,5−Me2PhO)4(Np)2(1,3−OPrO)(CuPc)3]の合成>
二量化フタロニトリル中間体(b)1.08gを、合成例1−7で得られた二量化フタロニトリル中間体(g)1.05gに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、フタロシアニン化合物(viii)2.7g(中間体(g)に基づく収率69モル%)を得た。
<実施例9:フタロシアニン化合物(ix)[(2,5−Me2PhO)24(2,6−Me2PhO)12(2,5−Me2PhO)9(C(Me)(Ph)3(O)3)(CuPc)2]の合成>
二量化フタロニトリル中間体(a)1.2gを、合成例1−8で得られた三量化フタロニトリル中間体(h)1.77gに変更し、単量体フタロニトリル中間体(a’)の量を5.48gに変更し、塩化銅(I)の量を0.327gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フタロシアニン化合物(ix)3.2g(中間体(a)に基づく収率42モル%)を得た。
<実施例10:フタロシアニン系化合物(xvi)[(2,2’−PhOPhO)7(2−PhPhO)7(PhO)5(1,4−OPhO)Np(CuPc)2]の合成>
50ml反応器に、上記合成例3−3で得られた二量化フタロニトリル中間体(c”)0.53g、上記合成例3−1で得られた単量体フタロニトリル中間体(a”)2.85g、2,3−ジシアノナフタレン0.178g、塩化銅(I)0.11g、ベンゾニトリル5gおよび1−オクタノール3gを投入し、窒素ガス雰囲気下190℃で12時間撹拌した。反応液を25℃に冷却後、反応液をメタノールに滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥により粗生成物を得た。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、フタロシアニン化合物(xvi)2.17gを得た。
<実施例11:フタロシアニン系化合物(xvii)[(2,2’−PhOPhO)21(2,6−(CH3)2PhO)21(PhO)11(1,4−OPhO)5(Np)3(CuPc)6]の合成>
50ml反応器に、上記合成例3−4で得られた二量化フタロニトリル中間体(d”)1.42g、上記合成例3−2で得られた単量体フタロニトリル中間体(b”)1.69g、2,3−ジシアノナフタレン0.157g、塩化銅(I)0.11g、ベンゾニトリル5gおよび1−オクタノール3gを投入し、窒素ガス雰囲気下190℃で12時間撹拌した。反応液を25℃に冷却後、メタノールに滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥により粗生成物を得た。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、フタロシアニン化合物(xvii)1.74gを得た。
<実施例12:フタロシアニン系化合物(xviii)[(2,2’−PhOPhO)11(2−PhPhO)11(PhO)8{(4−CH3PhO)CH2(4−CH3PhO)CH2(4−CH3PhO)}Np(CuPc)3]の合成>
50ml反応器に、上記合成例3−5で得られた三量化フタロニトリル中間体(e”)1.78g、上記合成例3−1で得られた単量体フタロニトリル中間体(a”)4.56g、2,3−ジシアノナフタレン0.178g、塩化銅(I)0.11g、ベンゾニトリル5gおよび1−オクタノール3gを投入し、窒素ガス雰囲気下190℃で12時間撹拌した。反応液を25℃に冷却後、メタノールに滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥により粗生成物を得た。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、フタロシアニン化合物(xviii)3.86gを得た。
<比較例1:比較フタロシアニン化合物(i)[(2,5−Me2PhO)8(2,6−Me2PhO)4(PhO)4CuPc]の合成>
50ml反応器に、上記合成例2−4で得られた単量体フタロニトリル中間体(d’)4g、塩化銅(I)0.19g、ベンゾニトリル5gおよび1−オクタノール3gを投入し、窒素ガス雰囲気下190℃で10時間撹拌した。25℃に冷却後、反応液をメタノールに滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥により粗生成物を得た。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、以下の構造を有する比較フタロシアニン化合物(i)3.0g(中間体(d’)に基づく収率73モル%)を得た。
<比較例2:比較フタロシアニン化合物(ii)[(2,5−Me2PhO)8(2,6−Me2PhO)4(F)4CuPc]の合成>
特開2014−28950号公報の合成例4に記載の方法に従って得られた、以下の構造を有するフタロシアニン化合物を比較フタロシアニン化合物(ii)とした。
<比較例3:比較フタロシアニン化合物(iii)[(2−PhPhO)6(2−PhPhO)6NpCuPc]の合成>
特開2014−122205号公報の実施例15に記載の方法に従って得られた、以下の構造を有するフタロシアニン化合物を比較フタロシアニン化合物(iii)とした。
なお、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記のように、原料(フタロニトリル化合物および/またはナフタロニトリル化合物、ならびに、二量化フタロニトリル中間体または三量化フタロニトリル中間体)を所望の割合において混合することによって製造する。この際、製造されたフタロシアニン系化合物は、各置換基が異なる位置に導入される場合や、また、リンカーとなる二量化フタロニトリルまたは三量化フタロニトリルを複数取り込む形で環化反応が進行する場合があるため、様々な構造を有する混合物の形態となりうる。このため、各置換基の数は、これらの平均値として記載されるため、小数となりうる。
≪最大吸収波長(λmax)および可視光透過率の測定≫
上記実施例1〜9で得られたフタロシアニン化合物(i)〜(xii)および比較例1〜3で得られた比較フタロシアニン化合物(i)〜(iii)について、下記方法に従って、最大吸収波長(λmax)、460nm、510nmおよび610nmの可視光透過率ならびに耐光性を測定した。その結果を下記表2に示す。なお測定は、以下のように行った。
(塗料溶液の調製と塗膜の作製)
実施例および比較例で得られたフタロシアニン化合物を、含有率が1.6重量%になるようにポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製:エスレック(登録商標)BL−S、重量平均分子量 約23,000)にそれぞれ加えた。さらに溶剤としてテトラヒドロフランを加え、固形分濃度が20重量%となるように調節し、溶解することで塗料溶液を得た。得られた塗料溶液を、60番のバーコーターを用いてガラスに塗布し(膜厚:90μm)、室温で乾燥させた。その後、さらに100℃で10分間乾燥させ、フタロシアニン化合物含有ブチラール塗膜(膜厚:約20μm)をそれぞれ形成した。
(最大吸収波長(λmax)および吸光度の測定、ならびに透過率補正値の算出)
得られたフタロシアニン化合物含有ブチラール塗膜の吸光度を分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製:U−2910)を用いて最大吸収波長(λmax)を測定した。また、以下の式を用いて最大吸収波長(λmax)の透過率を0%に換算した際の各波長における透過率を補正値として求めた:
透過率の補正値(%)={(B−A)/B}×100
上記式において、各波長(460nm、510nm、610nm)における吸光度をA、最大吸収波長(λmax)における吸光度をBとする。結果を下記表2に示す。
(耐光性の評価)
上記で得られたフタロシアニン化合物含有ブチラール塗膜が形成されたガラス板を耐光性試験機(スガ試験機株式会社製:SUGAキセノンウェーザーメーターX75SC)を用いてガラス面から光を照射して耐光性を測定した。耐光性の評価は、最大吸収波長(λmax)における初期吸光度と150時間後の吸光度をそれぞれ測定し、初期吸光度に対する150時間後の吸光度の残存率で評価した。また、300時間後の吸光度についても同様に評価した。結果を下記表2に示す。なお、表中の「−」は、測定を行っていないことを示す。
上記表2より、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、良好な可視光透過率を維持しながら、優れた耐光性を有することが示された。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、長波長領域(具体的には、740nm以上)において最大波長を有することから、良好な熱線吸収能をも有する。
よって、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、熱線吸収合わせガラス(中間膜)等に好適に利用できる。例えば、自動車のフロントガラス用の中間膜に用いた場合には、高い透明性(可視光透過率)を確保しながら、太陽光の熱線を効果的に遮蔽し、冷房効率を向上できる。また、この際、耐光性も高いことから、長期間に渡り安定的にその熱線遮蔽効果を維持できると考察される。
上記表2において、実施例1、2および9(ナフタレン骨格非含有)と、実施例4〜8(ナフタレン骨格含有)との対比により、フタロシアニン骨格にナフタレン環が含まれる構造の方が、より耐光性に優れることが示唆される。
また、実施例3と実施例6とは、フタロシアニン骨格上の置換基が共通しているが、これらの対比より、三量体と比較して、二量体の方が、良好な耐光性を示した。さらに、実施例1および実施例2と、実施例9とは、フタロシアニン骨格上の置換基が共通しているが、これらの対比より、三量体と比較して、二量体の方が、良好な耐光性を示した。