JP2020034565A - 繊維鑑別方法 - Google Patents

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正夫 高柳
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Norio Yoshimura
季織 吉村
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Toru Yamagata
暢 山形
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Takeshi Ando
健 安藤
麻奈美 菅野
Manami Kanno
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Abstract

【課題】鑑別操作が比較的簡単で客観性を有し、検査員の経験やノウハウに頼ることなく同系異種繊維の鑑別をすることのできる繊維鑑別方法を提供する。【解決手段】セルロース系繊維を大分類・中分類・小分類などの2群の比較繊維に分類する。繊維の種類が既知の複数の単一繊維及びこれらを一連の混用率で混合した混合繊維を比較繊維とし、各比較繊維に対して近赤外線を除く波数4000cm−1〜500cm−1の範囲内の赤外線を照射してそれぞれの吸収スペクトルを求める。これらの吸収スペクトルから所定の波数域におけるスペクトルデータを抽出して多変量解析して得られた解析データ群をデータベースとして蓄積する。次に、繊維の種類が未知の繊維を被検繊維とし、当該被検繊維の吸収スペクトルから解析データを求め、データベースのデータ群と照合して、被検繊維の種類及び混用率を鑑別する。【選択図】図3

Description

本発明は、繊維製品或いは織編物などに使用されている繊維の種類や混用率を鑑別する繊維鑑別方法に関するものである。特に、セルロース系繊維や獣毛系繊維など同系に分類される同系異種繊維を鑑別する繊維鑑別方法に関するものである。
市場には多くの繊維製品が広い用途に流通している。また、繊維製品の生産地と消費地がグローバルに展開される今日においては、繊維製品の輸出入の際に取引の安全や信頼を確保するために、各国の繊維関係の検査機関で繊維鑑別が行われている。
これらの検査機関では、例えば日本においては、JIS L 1030‐1(繊維製品の混用率試験方法‐第1部:繊維鑑別)、及び、JISL 1030‐2(繊維製品の混用率試験方法‐第2部:繊維混用率)に基づいて鑑別を行っている。
例えば、JIS L1030‐1(繊維製品の混用率試験方法‐第1部:繊維鑑別)における鑑別方法には、燃焼試験、繊維中の塩素の確認試験、繊維中の窒素の確認試験、顕微鏡試験、よう素‐よう化カリウム溶液による着色試験、キサントプロテイン反応試験、赤外吸収スペクトルの測定試験などがある。
これらの試験法はそれぞれ有効なものであり、これらを組み合わせることにより多くの繊維が鑑別できる。しかし、化学的組成が同じ繊維(以下「同系異種繊維」という)、例えば、綿、各種麻、各種レーヨン、銅アンモニアレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維などのセルロース系繊維や、カシミヤ、ウール、ヤク、モヘア、アンゴラ、アルパカ、ビキューナ、キャメル、リャマなどの獣毛系繊維は、上記各試験法のうち化学的試験法では同一繊維或いは類似繊維と鑑別される。従って、これらの化学的試験法では同系異種繊維を明確に区別することはできない。
また、上記試験法には赤外吸収スペクトルの測定試験も含まれる。しかし、この測定試験は、専ら化学的組成が異なる繊維(以下「異系繊維」という)を鑑別するものであり、同系異種繊維を明確に区別することはできないとされている。
そこで、これらのセルロース系繊維や獣毛系繊維などの同系異種繊維の鑑別には、主にその外観的特徴の違いを指標とする顕微鏡試験が有効であり、広く行われている。この顕微鏡試験による繊維鑑別を行うには、検査員が光学顕微鏡を用いて目視により検査対象の繊維を標準写真見本と対比させて行っている。また、この鑑別方法において混合繊維の混用率を求めるには、検査員が光学顕微鏡を用いて目視により検査対象の混合繊維に含まれる異種の繊維の本数や直径を求め、或いは、分別してそれぞれの重量を測定するなどの方法で行っている。
従って、これらの方法においては、各検査機関の検査員の経験とノウハウの違いによる鑑別結果のばらつきが生じるという問題があった。また、混用率を求める場合には、検査員による非常に煩雑で長時間に亘る作業を伴うという問題があった。更に、高価な獣毛系繊維などには手の込んだ偽装が行われていることがあり、上記方法のみでは正確な鑑別が行えないという問題があった。
更に、セルロース系繊維の中でもテンセル(登録商標)、リヨセル(登録商標)などの溶剤紡糸セルロース繊維(以下、代表して「リヨセル」ともいう)の外観的特徴は、銅アンモニアレーヨン(以下「キュプラ」ともいう)とほぼ同じ円形断面をしている。また、獣毛系繊維の中でも特に高級品とされるカシミヤを用いた繊維製品には、カシミヤと見分けが付きにくいヤクの毛を混合し、或いは、ウールのスケールを除去(「脱スケール」という)して混合するなど手の込んだ偽装が行われている。このような場合には、顕微鏡試験に経験を積んだ検査員でも正確な判断が困難である。
これに対して、下記特許文献1においては、セルロース系の同系異種繊維である繊維素繊維(溶剤紡糸セルロース繊維に同じ)とキュプラの鑑別方法が提案されている。この鑑別方法は、両繊維が61%以上の硫酸に浸漬した時の溶解状態を顕微鏡下で観察してセルロース系の同系異種繊維を鑑別するというものである。
また、下記特許文献2においては、獣毛系の同系異種繊維に対する繊維鑑別方法および繊維鑑別装置が提案されている。この繊維鑑別方法は、一般の赤外線より波長の長い電磁波を利用したテラヘルツ分光法を用いて獣毛系繊維の細胞構造(一次構造)や細胞の集合形式(高次構造)を解析して獣毛系の同系異種繊維を鑑別するというものである。
更に、下記非特許文献1においては、本発明の発明者により、一般の赤外線より波長の短い近赤外分光法を用いた布地材質の判別が提案されている。この判別方法は、近赤外分光法にフーリエ変換によるスペクトルのゆらぎ解析の手法を応用したものである。
また、下記非特許文献2においては、本発明の発明者により、近赤外分光法による混紡繊維布地の繊維鑑別と混用率測定が提案されている。この鑑別方法は、近赤外分光法とケモメトリックス(化学を示すchemistryと計量学を示すmetricsからなる造語)を用いた解析手法を応用したものである。
特開平10−332684号公報 特開2011−203138号公報
分光研究、第53巻、第4号、P.249−256(2004) 分光研究、第58巻、第6号、P.268−274(2009)
上記特許文献1の鑑別方法は、繊維の溶解状態を顕微鏡下で観察するというものであり、この場合にも検査員の経験とノウハウの違いによる鑑別結果のばらつきが生じるという問題があった。また、繊維に染色や樹脂加工などが施されている場合には、溶解状態が変化して正確な鑑別が行えないという問題があった。
また、上記特許文献2の繊維鑑別方法においては、鑑別対象である繊維をテラヘルツ電磁波の波長より十分に小さいサイズ(10μm程度)にしなければ、入射テラヘルツ電磁波が散乱して検出器に入射するテラヘルツ電磁波の強度が減衰する。その為、粉砕に伴う温度上昇を防ぎながら凍結粉砕する方法が要求される。これらの操作は煩雑であり、また、粉砕により繊維の高次構造が破壊され、情報量が減少するという問題があった。
一方、上記非特許文献1の判別方法においては、判別の可能性は示唆されるものの、未だ正確な鑑別をするには至っていない。また、上記非特許文献2の鑑別方法においては、主に異系繊維である綿‐ポリエステル混紡布地の混用率を求める可能性を示唆するものであり、同系異種繊維の鑑別や混用率の鑑別を提案するものではない。
そこで、本発明は、上記問題に対処して、鑑別操作が比較的簡単で客観性を有し、検査員の経験やノウハウに頼ることなく同系異種繊維の鑑別をすることのできる繊維鑑別方法を提供することを目的とする。
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、テラヘルツ分光法や近赤外分光法に比べ吸収スペクトルの情報量が豊富な一般の赤外分光法を採用し、得られた吸収スペクトルから特定の波長範囲のスペクトルデータを抽出し、この情報を統計処理することで同系異種繊維を鑑別できることを見出し、本発明の完成に至った。
即ち、本発明に係る繊維鑑別方法は、請求項1の記載によると、
セルロース系繊維に分類される繊維を下記の各組合せ、
(1)天然繊維、対、再生繊維、
(2)綿、対、麻類、
(3)亜麻、対、苧麻、
(4)ビスコース系レーヨン、対、銅アンモニアレーヨン又は溶剤紡糸セルロース繊維、
(5)銅アンモニアレーヨン、対、溶剤紡糸セルロース繊維、
に係る2群の比較繊維に分類し、
当該2群に分類される繊維の種類が既知の複数の単一繊維を起源とする複数の比較繊維として準備し、
各比較繊維に対して近赤外線を除く波数4000cm−1〜500cm−1の範囲内の赤外線を照射してそれぞれの吸収スペクトルを求め、
これらの吸収スペクトルから前記比較繊維の組合せに対して予め定められた1又は2以上の所定の波数域におけるスペクトルデータを抽出し、当該スペクトルデータを多変量解析して得られた解析データ群を各組合せに係る鑑別モデルのデータベースとして蓄積するデータベース作成工程と、
繊維の種類が未知の繊維を被検繊維とし、前記データベース作成工程と同様にして当該被検繊維から得られた吸収スペクトルから、当該被検繊維を比較しようとする前記2群の比較繊維と同様の所定の波数域におけるスペクトルデータを抽出した解析データを求め、
前記被検繊維の解析データを前記データベースの各組合せに係る鑑別モデルのデータ群と照合して、前記解析データと前記データベースのデータ群との一致性を指標として、前記被検繊維の種類を鑑別する鑑別工程とを有することを特徴とする。
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載の繊維鑑別方法であって、
前記比較繊維の各組合せのうち、前記(1)天然繊維、対、再生繊維の2群に分類して鑑別する大分類鑑別操作を行い、
次に、前記大分類鑑別操作において天然繊維と鑑別された前記被検繊維を前記(2)綿、対、麻類の2群に分類して鑑別する第1の中分類鑑別操作、又は、
前記大分類鑑別操作において再生繊維と鑑別された前記被検繊維を前記(4)ビスコース系レーヨン、対、銅アンモニアレーヨン又は溶剤紡糸セルロース繊維の2群に分類して鑑別する第2の中分類鑑別操作を行い、
次に、前記第1の中分類鑑別操作において麻類と鑑別された前記被検繊維を前記(3)亜麻、対、苧麻の2群に分類して鑑別する第1の小分類鑑別操作、又は、
前記第2の中分類鑑別操作において銅アンモニアレーヨン又は溶剤紡糸セルロース繊維と鑑別された前記被検繊維を前記(5)銅アンモニアレーヨン、対、溶剤紡糸セルロース繊維の2群に分類して鑑別する第2の小分類鑑別操作を行うことを特徴とする。
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1に記載の繊維鑑別方法であって、
前記複数の単一繊維を起源とする複数の比較繊維に加え、予め準備した同系異種繊維を一連の混用率で混合した混合繊維からなる一連の比較繊維を準備し、各比較繊維に対して前記データベース作成工程と同様にして得られた一連の解析データ群を各組合せに係る混用率の鑑別モデルのデータベースとして蓄積し、
前記被検繊維の解析データを前記データベースの各組合せに係る鑑別モデルのデータ群と照合して、前記被検繊維の種類、前記被検繊維が少なくとも2種類の同系異種繊維が混合されたものであること、前記被検繊維に混合されている同系異種繊維の種類、及び/又は、前記被検繊維の混用率を鑑別することを特徴とする。
また、本発明は、請求項4の記載によると、請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法であって、
セルロース系繊維において、天然繊維と再生繊維との鑑別には主に波数1200〜850cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする。
また、本発明は、請求項5の記載によると、請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法であって、
セルロース系繊維において、綿と麻類との鑑別には主に波数1400〜900cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする。
また、本発明は、請求項6の記載によると、請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法であって、
セルロース系繊維において、再生繊維どうしの鑑別には主に波数1400〜800cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする。
また、本発明は、請求項7の記載によると、請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法であって、
セルロース系繊維において、銅アンモニアレーヨンと溶剤紡糸セルロース繊維との鑑別には主に波数1250〜900cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする。
また、本発明は、請求項8の記載によると、請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法であって、
セルロース系繊維において、亜麻と苧麻との鑑別には主に波数3500〜3000cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする。
また、本発明は、請求項9の記載によると、請求項1〜8のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法であって、
セルロース系繊維において、比較繊維及び被検繊維に対してアルカリ性物質による前処理を施してから吸収スペクトルを求めることを特徴とする。
また、本発明は、請求項10の記載によると、請求項1〜9のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法であって、
前記多変量解析は、主成分分析、又は、主成分回帰、PLS回帰などの重回帰分析であることを特徴とする。
また、本発明は、請求項11の記載によると、請求項1〜10のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法であって、
前記比較繊維及び前記被検繊維の吸収スペクトルを求める方法は、ATR法(全反射測定法)であることを特徴とする。
上記構成によれば、本発明は、セルロース系繊維に分類される同系異種繊維を鑑別する繊維鑑別方法である。化学的組成が同じ繊維であって起源を異にする繊維どうしを赤外吸収スペクトルにより鑑別することができる。上記構成によれば、まず、セルロース系繊維に分類される繊維を(1)天然繊維、対、再生繊維、(2)綿、対、麻類、(3)亜麻、対、苧麻、(4)ビスコース系レーヨン、対、銅アンモニアレーヨン又は溶剤紡糸セルロース繊維、(5)銅アンモニアレーヨン、対、溶剤紡糸セルロース繊維、に係る2群の比較繊維に分類する。
次に、データベース作成工程において、これら2群に分類される繊維の種類が既知の複数の単一繊維を起源とする複数の比較繊維として準備し、各比較繊維に対して近赤外線を除く波数4000cm−1〜500cm−1の範囲内の赤外線を照射してそれぞれの吸収スペクトルを求める。これらの吸収スペクトルから比較繊維の組合せに対して予め定められた1又は2以上の所定の波数域におけるスペクトルデータを抽出し、当該スペクトルデータを多変量解析して得られた解析データ群を各組合せに係る鑑別モデルのデータベースとして蓄積する。
また、上記構成によれば、続く鑑別工程において、鑑別対象である繊維の種類が未知の繊維を被検繊維として準備する。次に、データベース作成工程と同様にして当該被検繊維の吸収スペクトルから所定の波数域におけるスペクトルデータを抽出して解析データを求める。この被検繊維の解析データをデータベースの各組合せに係る鑑別モデルのデータ群と照合する。このことにより、被検繊維の種類を客観的に鑑別することができる。
また、上記構成によれば、比較繊維の各組合せのうち、まず、(1)天然繊維、対、再生繊維の2群に分類して鑑別する大分類鑑別操作を行う。次に、大分類鑑別操作において天然繊維と鑑別された被検繊維を(2)綿、対、麻類の2群に分類して鑑別する第1の中分類鑑別操作、又は、大分類鑑別操作において再生繊維と鑑別された被検繊維を(4)ビスコース系レーヨン、対、銅アンモニアレーヨン又は溶剤紡糸セルロース繊維の2群に分類して鑑別する第2の中分類鑑別操作を行う。
次に、第1の中分類鑑別操作において麻類と鑑別された被検繊維を(3)亜麻、対、苧麻の2群に分類して鑑別する第1の小分類鑑別操作、又は、第2の中分類鑑別操作において銅アンモニアレーヨン又は溶剤紡糸セルロース繊維と鑑別された被検繊維を(5)銅アンモニアレーヨン、対、溶剤紡糸セルロース繊維の2群に分類して鑑別する第2の小分類鑑別操作を行う。このことにより、被検繊維の種類を客観的に且つ正確に鑑別することができる。
また、上記構成によれば、データベース作成工程において、複数種類の同系異種繊維として、単一繊維を起源とする複数の比較繊維に対するデータベースに加え、予め準備した同系異種繊維を一連の混用率で混合した混合繊維からなる一連の比較繊維に対するデータベースを作成するようにしてもよい。次に、鑑別工程において、被検繊維の解析データをデータベースの一連の解析データ群と照合する。このことにより、被検繊維が少なくとも2種類の繊維が混合されたものであっても、混合されている繊維の種類とその混用率を客観的に鑑別することができる。
従って、上記構成によれば、客観的な繊維鑑別をすることができ、被検繊維の種類を正確に鑑別することができる。これらの操作は比較的簡単であり、また、機器分析であることから、検査員の経験とノウハウの違いによる鑑別結果のバラツキが生じるということがない。
また、上記構成によれば、比較繊維及び被検繊維の解析データを求める際に、鑑別対象とする同系異種繊維の組合せにより抽出する所定の波数域のスペクトルデータを変化させるようにしてもよい。このように、解析に用いる波数域を選択することで鑑別の精度を更に向上させることができる。
また、上記構成によれば、比較繊維及び被検繊維に対してアルカリ性物質による前処理を施してから吸収スペクトルを求めるようにしてもよい。このように、前処理を施すことにより鑑別の精度を更に向上させることができる。
よって、本発明によれば、鑑別操作が比較的簡単で客観性を有し、検査員の経験やノウハウに頼ることなく同系異種繊維の鑑別をすることのできる繊維鑑別方法を提供することができる。
各種セルロース系繊維の吸収スペクトル(平均スペクトル)を示す図である。 図1の各スペクトルを1次微分したスペクトル(微分スペクトル)を示す図である。 第1実施形態において被検繊維を鑑別する解析手順を表す鑑別フロー図である。 図3の鑑別フロー図の一部を抽出した部分フロー図である。 実施例1で得られた「天然繊維」と「再生繊維」の主成分スコアの散布図である。 実施例1で得られた「綿」と「麻類」の主成分スコアの散布図である。 実施例1で得られた「リネン」と「ラミー」の主成分スコアの散布図である。 実施例1で得られた「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」の主成分スコアの散布図である。 実施例1で得られた「キュプラ」と「リヨセル」の主成分スコアの散布図である。 第2実施形態において被検繊維を鑑別する解析手順を表す鑑別フロー図である。 実施例2において被検繊維の主成分スコアをプロットした「天然繊維」と「再生繊維」の主成分スコアの散布図である。 実施例2において被検繊維の主成分スコアをプロットした「綿」と「麻類」の主成分スコアの散布図である。 実施例2において被検繊維の主成分スコアをプロットした「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」の主成分スコアの散布図である。 実施例2で求めた被検繊維の混用率を従来法と比較した図である。 実施例3において被検繊維の主成分スコアをプロットした「天然繊維」と「再生繊維」の主成分スコアの散布図である。 実施例3において被検繊維の主成分スコアをプロットした「綿」と「麻類」の主成分スコアの散布図である。 実施例3において被検繊維の主成分スコアをプロットした「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」の主成分スコアの散布図である。 実施例3において被検繊維の主成分スコアをプロットした「キュプラ」と「リヨセル」の主成分スコアの散布図である。 実施例3で求めた被検繊維の混用率を従来法と比較した図である。
本発明において、繊維とは、一般に衣料や産業資材など各種繊維製品に使用される全ての繊維をいう。例えば、合成繊維としては、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどが挙げられる。半合成繊維としては、アセテートなどが挙げられる。天然セルロース繊維としては、綿、及び、亜麻(リネン)、苧麻(ラミー)、黄麻(ジュート)、大麻(ヘンプ)などの麻類が挙げられる。再生セルロース繊維としては、ビスコースレーヨン、ハイウェットモジュラスレーヨン(「HWMレーヨン」ともいう)、ポリノジックレーヨン、銅アンモニアレーヨン(キュプラ)、溶剤紡糸セルロース繊維(テンセル及びリヨセル)などが挙げられる。以下、これらの再生セルロース繊維のうちビスコース法により再生される繊維であるビスコースレーヨン、ハイウェットモジュラスレーヨン(HWMレーヨン)、及び、ポリノジックレーヨンを「ビスコース系レーヨン」ともいう。
更に、タンパク質繊維としては、絹の他に、ウール(羊の羊毛)、カシミヤ(カシミヤ山羊の毛)、ヤク(牛の一種ヤクの毛)、モヘア(アンゴラ山羊の毛)、アンゴラ(アンゴラ兎の毛)、アルパカ(小型こぶなしラクダのアルパカの毛)、ビキューナ(小型こぶなしラクダのビクーニャの毛)、キャメル(ラクダの毛)、リャマ(小型こぶなしラクダのリャマの毛)、フォックス(キツネの毛)、ミンク(イタチの一種ミンクの毛)、チンチラ(ネズミの一種チンチラの毛)、ラビット(ウサギの毛)などの獣毛系繊維が挙げられる。
これらの繊維の中で、本発明においては、化学的組成が同じ繊維を「同系異種繊維」として定義する。この同系異種繊維としては、例えば、上述の天然セルロース繊維と再生セルロース繊維とに含まれる繊維群をセルロース系繊維とする。また、上述の絹以外のタンパク質繊維に含まれる繊維群を獣毛系繊維とする。
これらの同系異種繊維は、化学的組成が同じであり鑑別が容易ではない。特に、操作が簡単で客観的な鑑別法である赤外吸収スペクトルなどの光学的測定法は、化学的組成が異なる異系繊維の鑑別に効果を発揮するが、同系異種繊維の鑑別は難しいとされてきた。これに対して、本発明は同系異種繊維であるセルロース系繊維どうし、或いは、獣毛系繊維どうしの鑑別などにおいて効果が発揮される。
例えば、セルロース系繊維においては、天然セルロース繊維と再生セルロース繊維との識別が可能となる。また、同じ天然セルロース繊維である綿と麻類との識別が可能となる。また、同じ麻類である亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)との識別などが可能となる。更に、同じ再生セルロース繊維であるビスコース系レーヨンと「キュプラ及びリオセル」との識別が可能となる。また、同じ再生セルロース繊維であり繊維断面形状が円形であり顕微鏡観察では判定し辛い、キュプラとリヨセルとの識別が可能となる。更に、獣毛系繊維においては、高級なカシミヤとこれに酷似するヤク、脱スケールしたウールとの識別が可能となる。
ここで、本発明においてデータベースを作成する際に、繊維の種類が既知の繊維(以下「比較繊維」という)、及び、鑑別対象である繊維(以下「被検繊維」という)から赤外吸収スペクトルを得る方法について説明する。この方法は、一般に赤外分光法(以下「IR分光法」という)といわれ、測定対象の物質に赤外線を照射し、透過光或いは反射光を分光することでスペクトルを得て対象物の特性を知る方法である。このIR分光法は、対象物の分子構造や状態を知るために使用され、化学的組成が異なる有機物の分析には極めて一般的な方法である。
一般に分光法は、ラジオ波からガンマ線まで広く電磁波の放出或いは吸収を測定する方法であって、その中でIR分光法は、多くの産業において研究部門だけでなく製造部門、品質管理部門でも広く普及している。一般に赤外線は、近赤外線、中赤外線、及び遠赤外線として区別されるが、更に細かく区別する場合もあり、その波長範囲の定義が明確でない。そこで、本発明においては、IR分光法で使用する波長範囲として、近赤外線を除く2500nm〜20000nmとする。また、IR分光法では、波長よりも波数(本発明においては「WN」ともいう)を使用することが多く、本発明において使用する波数範囲は、近赤外線を除く4000cm−1〜500cm−1の範囲内となる。
ここで、近年各産業において鑑別への使用が提案されている近赤外分光法(以下「NIR分光法」という)との違いについて説明する。一般に、NIR分光法で使用される波長範囲は、800nm〜2500nm(波数範囲で12500cm−1〜4000cm−1)である。NIR分光法は、一般のIR分光法に比べ吸収が極めて小さいため、非破壊・非接触での測定が可能である。一方、化学的組成との直接的な関連付けは困難であり、また、一般のIR分光法に比べ情報量が極めて少ない。しかし、多変量解析によるケモメトリックスの発展により、近年では定量分析への応用が可能となった。
ここで、IR分光法とNIR分光法とで使用する波数域の境界は、4000cm−1とされている。従って、4000cm−1自体が近赤外線であるのか、或いは、中赤外線であるのかで疑義が生じる場合がある。そこで、本発明においては、「近赤外線を除く4000cm−1〜500cm−1の範囲内」という意味を厳格に解釈する必要があるときには、「波数(WN)が4000cm−1>WN≧500cm−1の範囲内」とすることができる。
上述のように、NIR分光法は、繊維の鑑別への利用が提案されている(上記特許文献1及び2)。しかし、その情報量の少なさから同系異種繊維の実用的な鑑別や混用率の正確な鑑別には至っていない。そこで、本発明は、繊維から得られる情報量が多いにもかかわらず、これまで化学的組成が異なる異系繊維の鑑別のみに利用され、同系異種繊維の鑑別に利用されていない一般のIR分光法を利用するものである。また、本発明に使用する赤外分光光度計は、多くの産業で使用されていることから廉価であり、鑑別のための設備投資やメンテナンスの費用が抑えられる。
本発明においては、一般に使用されているフーリエ変換赤外分光光度計(以下「FT/IR分光光度計」という)を使用することができる。比較繊維及び被検繊維の吸収スペクトルを得るには、繊維を微粉砕して臭化カリウム(KBr)粉末と共に錠剤を形成して、その透過光を測定するKBr錠剤法で測定してもよい。或いは、織編物を破壊することなくそのまま反射光を測定できるATR法(全反射測定法)で測定するようにしてもよい。また、得られた吸収スペクトルは、必要により通常の方法により大気補正、ベースライン補正、平滑化補正、潜り込み深さ補正などを行うことが好ましい。
なお、KBr錠剤法において繊維を粉砕する場合には、ハサミでの切断、ミルによる粉砕、或いは、凍結粉砕などを利用することができる。また、粉砕後の繊維の長さ及び径は任意でよいが、微粉砕することが好ましい。また、KBr錠剤法とATR法のいずれを採用する場合であっても、繊維の吸湿状態を制御することが好ましい。特に、吸湿性の高いセルロース系繊維や獣毛系繊維においては、同系異種繊維間で吸湿性が異なり吸収スペクトルが繊維中の自由水の影響を受けることがあるからである。
ここで、セルロース系繊維を例として、これに含まれる綿、麻類(リネン及びラミー)、ビスコース系レーヨン(以下、単に「レーヨン」という)、キュプラ、リヨセルの各繊維の吸収スペクトルを比較する。図1は、各種セルロース系繊維の吸収スペクトル(平均スペクトル)を示す図である。図1の各吸収スペクトル(1〜6)は、FT/IR分光光度計のATR法で波数4000cm−1〜500cm−1の範囲内で測定した。なお、図1においては、標準サンプルとして結晶セルロース(6)であるアビセル(登録商標、旭化成工業)を標準サンプルとして各繊維(1〜5)と比較した。これらの吸収スペクトルは、標準偏差で規格化した平均スペクトルである。
図1において、3600cm−1〜3100cm−1にかけて、再生繊維であるレーヨン(3)、キュプラ(4)、リヨセル(5)の吸収スペクトルは、天然繊維である綿(1)、麻類(2)に比べ、広いピーク幅を示している。また、天然繊維である綿(1)、麻類(2)には、3330cm−1に鋭いピークが現れるが、再生繊維であるレーヨン(3)、キュプラ(4)、リヨセル(5)には現れない。更に、1200cm−1〜800cm−1にかけて現れるメインピークにおいて、天然繊維である綿(1)、麻類(2)には頂点に2つのピークが現れるが、再生繊維であるレーヨン(3)、キュプラ(4)、リヨセル(5)には1つのピークしか現れない。
このように、波数4000cm−1〜500cm−1の範囲内の吸収スペクトルを詳細に観察することにより、天然繊維と再生繊維とを鑑別できる可能性がある。しかし、これらの吸収スペクトルを比較するだけでは、セルロース系繊維において、天然繊維と再生繊維とを明確に鑑別することは容易ではない。また、同じ天然繊維である綿と麻類との鑑別、同じ麻類であるリネンとラミーとの鑑別、再生繊維どうしの鑑別、及び形状の類似したキュプラとリヨセルとの鑑別などは難しい。
本発明において、化学的組成が同じセルロース系繊維である天然繊維と再生繊維とがIR分光法で得られた吸収スペクトルから鑑別できる理由は、これらの繊維を構成するセルロースの結晶状態が異なることによるものと思われる。一般にセルロース系繊維の結晶構造については、天然繊維がI型結晶であり、再生繊維がII型結晶を構成している。また、セルロース分子の配向状態について、天然繊維は分子の還元末端を同一方向に向けるパラレル構造を示し、再生繊維は分子の還元末端が交互に位置を変えるアンチパラレル構造を示している。
これらの結晶状態の違いにより、天然繊維と再生繊維の吸収スペクトルにおいては吸収位置のシフトや吸収強度の変化が生じるものと思われる。更に、本発明者らは、同じセルロース系天然繊維である綿と麻類において、或いは、同じセルロース系再生繊維であるレーヨン、キュプラ、リヨセルにおいても、結晶化度、結晶の大きさ、結晶の分布が異なることから、IR分光法の吸収スペクトルに何らかの情報が含まれているものと予測した。
以下、本発明に係る繊維鑑別方法について、各実施形態により詳細に説明する。なお、本発明は、下記の各実施形態にのみ限定されるものではない。本発明においては、各種類の比較繊維のスペクトルデータを多変量解析し、得られた解析データ群をデータベース(「鑑別モデル」ともいう)として蓄積する。この工程を「データベース作成工程」という。次に、同様にして被検繊維のスペクトルデータから得られた解析データをデータベースの解析データ群と照合する。この照合において、被検繊維の解析データと比較繊維のデータベースのデータ群との一致性を指標として、被検繊維の種類及び混用率を鑑別する。この工程を「鑑別工程」という。
《第1実施形態》
本第1実施形態においては、複数種類の単一繊維に対して、各単一繊維間の鑑別を行うものである。例えば、セルロース系繊維においては、天然繊維と再生繊維との鑑別、綿と麻類との鑑別、リネンとラミーとの鑑別、再生繊維どうしの鑑別、及び、キュプラとリヨセルとの鑑別などについて説明する。
(1)データベース作成工程
本第1実施形態においては、鑑別しようとする繊維の組合せ、例えば、綿と麻類との鑑別を行う場合には、これらの繊維を比較繊維として吸収スペクトルを求める。なお、これらの吸収スペクトルに対しては、所定の方法で各種補正を行うようにしてもよい。これらの補正としては、例えば、波数の変化による赤外光の潜り込み深さの補正、或いは、乗算的散乱補正(MSC)などがある。
ここで、綿の吸収スペクトルを求める場合には、綿からなる複数の試料を1つのグループとしてそれぞれの吸収スペクトルを求める。また、麻類の吸収スペクトルを求める場合にも、麻類からなる複数の試料を1つのグループとしてそれぞれの吸収スペクトルを求める。ここで、麻類としてリネン、ラミー、ジュート、ヘンプなどを1つの麻類グループとして吸収スペクトルを求めるようにしてもよい。また、例えば、リネンとラミーとを別グループとして吸収スペクトルを求め、それぞれのグループを綿のグループと鑑別するようにしてもよい。
また、セルロース系繊維製品の場合には、織編物となった段階で染色性や物性を向上させるためにアルカリ性物質による繊維加工が施されることがある。この繊維加工としては、一般にアルカリ水溶液、又は、液体アンモニアなどによる浸漬処理が行われる。特に、綿に対する水酸化ナトリウム水溶液による浸漬処理を「マーセライズ加工」といいい、広く行われている。なお、鑑別対象であるセルロース系繊維にアルカリ性物質による繊維加工が施されているか否かにより、赤外吸収スペクトルが若干変化することがある。従って、アルカリ性物質による繊維加工の有無が混在した試料群による鑑別を行うと、鑑別精度が低下する場合がある。
また、市場にはアルカリ性物質による繊維加工が施されたセルロース系繊維製品とアルカリ性物質による繊維加工が施されていないセルロース系繊維製品が流通する。そこで、本発明者らは、比較繊維及び被検繊維に対して所定濃度のアルカリ性物質による前処理をしてから赤外吸収スペクトルを求めることにより、鑑別精度が向上することを見出した。すなわち、アルカリ性物質による繊維加工の有無が混在した比較繊維及び被検繊維に対してアルカリ性物質による前処理を行うことにより、これらがアルカリ性物質による繊維加工が施されたセルロース系繊維として統一され、吸収スペクトルが近似して鑑別精度が向上する。
このアルカリ性物質による前処理の条件は、特に限定するものではなく、使用するアルカリ性物質の種類や濃度、処理する繊維の種類などにより適宜選定すればよい。例えば、セルロース系繊維が綿である場合には、通常のマーセライズ加工と同様にアルカリ性物質として8重量%〜24重量%濃度、好ましくは10重量%〜20重量%濃度、更に好ましくは15重量%〜20重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を使用し、室温にて浸漬処理することにより鑑別精度が向上する。
なお、データベースを作成する際の比較繊維、及び、鑑別対象である被検繊維に対して上記のアルカリ性物質による前処理を施した赤外吸収スペクトルと施していない赤外吸収スペクトルの両方を求め、これらを併用して鑑別することにより鑑別精度は更に向上する。
更に、各繊維には、織編物の区別、糸の太さの違い、染色の有無、繊維加工剤の有無などがある。従って、これらの情報が吸収スペクトルに与える影響と、解析に使用する波数域(後述する)との関係を考慮して各グループの吸収スペクトルを求めるようにする。
本第1実施形態においては、比較繊維の吸収スペクトルを求める際にFT/IR分光光度計を使用する。FT/IR分光光度計は、多くの産業で使用されていることから廉価であり、鑑別のための設備投資やメンテナンスの費用が抑えられるからである。また、本第1実施形態においては、測定にATR法を使用する。鑑別しようとする繊維は、多くの場合、既に繊維製品として織編物の状態にあり、この織編物の状態のまま非破壊で鑑別できるという利点があるからである。なお、ATR法に使用するプリズムの種類は、特に限定するものではないが、繊維試料の場合、一般にZnSeプリズムを使用することが好ましい。
本第1実施形態においては、近赤外線を除く波数4000cm−1〜500cm−1の範囲内の赤外線を照射してそれぞれの吸収スペクトルを求める。ここで、「近赤外線を除く」とは、吸収スペクトルを測定する際に「近赤外線部分の吸収スペクトルを測定しない」という意味に解するものではない。「鑑別に使用する吸収スペクトルの範囲が波数4000cm−1〜500cm−1の範囲内のものである」と解するものである。
また、本第1実施形態においては、波数4000cm−1〜500cm−1の範囲内の全ての領域の吸収スペクトルで解析を行うものではない。本第1実施形態においては、所定の波数域におけるスペクトルデータを解析に使用する。解析に使用する波数域を限定することにより、鑑別に必要な赤外吸収が強調されると共にノイズを排除して鑑別精度が向上するからである。
ここで、所定の波数域におけるスペクトルデータの抽出には、予め測定領域を決めておき、その範囲内でのみ吸収スペクトルを求めるようにしてもよい。しかし、一般には使用する分光光度計の全測定領域で得られた吸収スペクトルから解析に必要とする所定の波数域のスペクトルデータを抽出することが好ましい。
なお、ここでいう所定の波数域は、鑑別する繊維の種類と組み合わせにより適宜選択することが好ましい。例えば、セルロース系繊維において、天然繊維と再生繊維との鑑別、綿と麻類との鑑別、リネンとラミーとの鑑別、再生繊維どうしの鑑別、及び、キュプラとリヨセルとの鑑別などにおいて、それぞれに適切な波数域が存在する。なお、鑑別に使用される所定の波数域については、1つの波数域だけで解析するようにしてもよく、或いは、2又はそれ以上の複数の波数域を組み合わせて解析するようにしてもよい。
ここで、比較繊維のスペクトルデータを解析するに当たり、まず、スペクトルデータの前処理をすることが好ましい。前処理には、例えば、1次微分、2次微分、或いはそれ以上の高次微分処理などを行うことが好ましい。これらの微分処理により、スペクトルに埋もれたピークの先鋭化やバックグランドの影響の消去など、スペクトル情報の増強を行うことができるからである。微分処理で使用する方法と次元は、特に限定するものではなく、鑑別する繊維の種類と組み合わせにより適宜選択することが好ましい。一例として、図1の各スペクトル(1〜5)をSavitzky-Golay法により1次微分した各スペクトル(1〜5)を図2に示す。
次に、得られた微分スペクトルから解析に有効な所定の波数域のスペクトルデータを抽出する。スペクトルデータを抽出する方法は特に限定するものではない。鑑別する繊維の種類と組み合わせに対して、解析に必要と考えられる特定の官能基による波数域を選定するようにしてもよい。また、解析に対してノイズを有すると考えられる波数域のスペクトルデータを積極的に排除するようにしてもよい。例えば、セルロース系繊維の場合には、波数2750〜1850cm−1の範囲内のスペクトルデータを解析に使用しないようにしてもよい。この波数域からは解析に有効な情報が少なく、逆に、COの吸収などがノイズとして現れることが考えられるからである。
例えば、セルロース系繊維の鑑別においては、波数3500cm−1〜3000cm−1の範囲内(O-H)のスペクトルデータ、及び、波数1200cm−1〜1000cm−1の範囲内(C-OH、C-O-C、C-C)のスペクトルデータなどが重要と考えられるので、これらを組み合わせて解析するようにしてもよい。但し、吸湿性の高いセルロース系繊維の鑑別においては、波数3500cm−1〜3000cm−1の範囲内のスペクトルデータが吸湿状態の影響を受けやすく、これらを排除して鑑別することも考えられる。
一方、スペクトルデータを抽出する他の方法として、PCR Moving Windowなどの各種解析ソフトを利用して波数域選定を行うようにしてもよい。ここで、PCR Moving Windowにおいては、まず、決まった幅のスペクトルを端から切り出してその部分で主成分回帰(PCR)を実行して検量モデルを作成する。この検量モデルから導出される予測値と実測値とを比較し、その残差二乗和を記録する。次に、スペクトル1点分隣の領域へ切り出す領域を移動して同様の操作を行う。これを全波数域に亘って行うことにより、予測値と実測値との差が小さくなる部分を解析に必要な波数域として選定する。
例えば、PCR Moving Windowを使用して、下記のようなスペクトルデータを抽出することができた。例えば、天然繊維と再生繊維との鑑別において、波数1200〜850cm−1の範囲内(C-OH、C-O-C、C-C)のスペクトルデータを抽出した。また、綿と麻類との鑑別において、波数1400〜900cm−1の範囲内(O-H、C-OH、C-O-C、C-C)のスペクトルデータを抽出した。また、リネンとラミーとの鑑別において、波数3500〜3000cm−1の範囲内(O-H)のスペクトルデータを抽出した。また、再生繊維どうしの鑑別すなわちレーヨンと「キュプラ及びリヨセル」との鑑別において、波数1400〜800cm−1の範囲内(O-H、C-OH、C-O-C、C-C)のスペクトルデータを抽出した。また、キュプラとリヨセルとの鑑別において、波数1250〜900cm−1の範囲内(C-OH、C-O-C、C-C)のスペクトルデータを抽出した。
なお、PCR Moving Windowを使用して抽出したスペクトルデータについては、抽出した範囲をそのまま解析に使用してもよく、又は、更に解析精度を向上させるために抽出した範囲内の近傍の範囲内を解析に使用するようにしてもよい。すなわち、PCR Moving Windowで抽出した範囲(例えば、波数1250〜900cm−1)に対して、解析には若干広い範囲内(例えば、波数1300〜850cm−1)、或いは、若干狭い範囲内(例えば、波数1200〜1000cm−1)を使用するようにしてもよい。
次に、抽出したスペクトルデータを多変量解析して解析データ群を求める。多変量解析に使用する解析法は、特に限定するものではなく、ケモメトリックスに使用される解析法であればどのような方法を採用するようにしてもよい。一般に、多変量解析法としては、主成分分析、重回帰分析、独立成分分析、因子分析、判別分析、数量化理論、クラスター分析、多次元尺度構成法などの方法がある。本発明においては、これらの中で、主成分分析(PCA)、又は、主成分回帰(PCR)、PLS回帰などの重回帰分析を使用することが好ましい。特に、本第1実施形態において各単一繊維間の鑑別を行う際には、主成分分析(PCA)を使用することが好ましい。なお、各分析に使用するソフトは、特に限定するものではない。
本第1実施形態において、主成分分析(PCA)を使用した鑑別について説明する。具体的には、鑑別すべき2つの繊維グループ(例えば、綿と麻類)の吸収スペクトルから抽出した1又は2以上の波数域のスペクトルデータ群に対して主成分分析を行い、各主成分スコアを求める。主成分分析に使用する解析ソフトについては、特に限定するものではない。本第1実施形態においては、市販のプログラム作成ソフトにより発明者自らが構成したプログラムを使用して解析した。また、鑑別すべき2つの繊維グループ(例えば、綿と麻類)を予め層別したうえで、主成分分析で層別解析を行うようにしてもよい。この場合には、鑑別すべき一方の繊維(例えば、綿)を「1」とし、他方の繊維(例えば、麻類)を「0」とするダミー変数を設定してから主成分分析を行うようにしてもよい。
このようにして求めた各繊維グループの組み合わせのスペクトルデータを主成分分析したときの解析データ群をデータベース(鑑別モデル)として蓄積する。なお、これらの鑑別モデルについては、下記の実施例1において詳述する。
(2)鑑別工程
本第1実施形態の鑑別工程においては、まず、鑑別しようとする被検繊維の吸収スペクトルを求める。吸収スペクトルを求める方法、吸収スペクトルに各種補正をする方法、及び、得られた吸収スペクトルに微分処理などの前処理を行う方法は、上述の比較繊維に対する方法と同様である。次に、求めた微分スペクトルから比較繊維と同じ波数域のスペクトルデータを抽出し、比較繊維と同様にしてスペクトルデータから各主成分スコア(後述する)を求める。次に、得られた被検繊維の主成分スコアをデータベース(鑑別モデル)の主成分スコアと比較して、被検繊維がいずれの繊維グループに属する繊維であるかを鑑別する。或いは、抽出した被検繊維のスペクトルデータを比較繊維のスペクトルデータと合体して主成分分析を行うようにしてもよい。
なお、本鑑別工程においては、被検繊維の種類は未知であるが、比較的簡単な顕微鏡法などで被検繊維がセルロース系繊維であることが判明している。しかし、被検繊維がセルロース系繊維のうちのいずれの繊維であるかが不明である。そこで、本第1実施形態においては、次のような手順で繊維鑑別することが好ましい。
図3は、本第1実施形態において被検繊維を鑑別する解析手順を表す鑑別フロー図である。図3において、まず、被検繊維が天然繊維であるか再生繊維であるかを鑑別する。このときには、天然繊維と再生繊維とから得られた鑑別モデルを使用する。ここで、被検繊維が天然繊維であると鑑別された場合には、続いて被検繊維が綿であるか麻類であるかを鑑別する。このときには、綿と麻類とから得られた鑑別モデルを使用する。更に、被検繊維が麻類であると鑑別された場合には、続いて被検繊維がどのような麻であるかを鑑別する。なお、図3においては、麻類として最も一般的なリネンであるかラミーであるかを鑑別する。このときには、リネンとラミーとから得られた鑑別モデルを使用する。
同様に、図3において、被検繊維が再生繊維であると鑑別された場合には、続いて被検繊維がレーヨンであるか「キュプラ又はリヨセル」であるかを鑑別する。このときには、レーヨンと「キュプラ及びリヨセル」とから得られた鑑別モデルを使用する。ここで、被検繊維が「キュプラ又はリヨセル」であると鑑別された場合には、続いて被検繊維がキュプラであるかリヨセルであるかを鑑別する。このときには、キュプラとリヨセルとから得られた鑑別モデルを使用する。
また、図4は、図3の鑑別フロー図の一部を抽出した部分フロー図である。図4において、被検繊維が天然繊維であるか再生繊維であるかを鑑別した際に、天然繊維と再生繊維とから得られた鑑別モデルでは対応できないものがある。この場合、図4の判別不可の被検繊維は、天然繊維と再生繊維の混合繊維であるか、或いは、セルロース系繊維以外の繊維が混合されている可能性がある。天然繊維と再生繊維の混合繊維である場合には、後述の第2実施形態による混用率の鑑別を行うことが必要となる。
このようにして、図3の鑑別フロー図に従って鑑別を行うことにより、被検繊維の種類を客観的に鑑別することができる。次に、本第1実施形態の鑑別方法を実施例1により具体的に説明する。
本実施例1は、上記第1実施形態に係る各単一繊維間の鑑別を行うものであり、複数の被検繊維に対して鑑別フロー図(図3参照)に従って鑑別を行うものである。なお、各被検繊維は、いずれも顕微鏡法などの予備鑑定においてセルロース系繊維であることが判明している。
(1)データベース作成工程
本実施例1においては、まず、綿9点、リネン6点、ラミー3点、レーヨン9点、キュプラ9点、リヨセル9点、合計45点の織編物の吸収スペクトルを得た。なお、綿に関しては室温において水酸化ナトリウム水溶液による前処理を行った。吸収スペクトルの測定は、FT/IR分光光度計VIR‐9550(日本分光株式会社)を使用し、ZnSeプリズムによるATR法で、波数4000cm−1〜500cm−1の吸収スペクトルを測定した。次に、乗算的散乱補正(MSC)後の各吸収スペクトルをSavitzky-Golay法により1次微分して微分スペクトルを得た。
次に、これらの吸収スペクトル(微分スペクトル)を次の各グループに分類した。
・第1グループ(A1):天然繊維(綿、リネン及びラミー)
・第2グループ(A2):再生繊維(レーヨン、キュプラ及びリヨセル)
・第3グループ(B1):綿
・第4グループ(B2):麻類(リネン及びラミー)
・第5グループ(C1):リネン
・第6グループ(C2):ラミー
・第7グループ(D1):レーヨン
・第8グループ(D2):キュプラ及びリヨセル
・第9グループ(E1):キュプラ
・第10グループ(E2):リヨセル
上記第1グループ(A1)〜第10グループ(E2)のうち2つずつ組み合わせて、5組の組み合わせとした。次に、これらの微分スペクトルから各組み合わせを特徴付ける所定の波数域のスペクトルデータをPCR Moving Windowを利用して抽出した。抽出した波数域で主成分分析を行い、各鑑別モデルA〜Eを得た。本実施例1において、各鑑別モデルA〜Eと抽出した波数域を下記に示す。
・鑑別モデルA:「天然繊維」と「再生繊維」
第1グループ(A1)と第2グループ(A2):波数1200〜850cm−1
・鑑別モデルB:「綿」と「麻類」
第3グループ(B1)と第4グループ(B2):波数1400〜900cm−1
・鑑別モデルC:「リネン」と「ラミー」
第5グループ(C1)と第6グループ(C2):波数3500〜3000cm−1
・鑑別モデルD:「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」
第7グループ(D1)と第8グループ(D2):波数1400〜800cm−1
・鑑別モデルE:「キュプラ」と「リヨセル」
第9グループ(E1)と第10グループ(E2):波数1250〜900cm−1
図5〜図9は、本実施例1で得られた各鑑別モデルA〜Eに対する主成分スコアの散布図である。図5は、鑑別モデルA:「天然繊維」と「再生繊維」の主成分スコアの散布図であり、第1主成分(PC1)を横軸とし第2主成分(PC2)を縦軸として、「天然繊維」と「再生繊維」の2つの繊維グループが明確に層別された。なお、「天然繊維」と「再生繊維」とを区別する線形判別関数(L1)を図5に記載した。図6は、鑑別モデルB:「綿」と「麻類」の主成分スコアの散布図であり、第1主成分(PC1)を横軸とし第2主成分(PC2)を縦軸として、「綿」と「麻類」の2つの繊維グループが明確に層別された。なお、「綿」と「麻類」とを区別する線形判別関数(L2)を図6に記載した。図7は、鑑別モデルC:「リネン」と「ラミー」の主成分スコアの散布図であり、第2主成分(PC2)を横軸とし第3主成分(PC3)を縦軸として、「リネン」と「ラミー」の2つの繊維グループが明確に層別された。なお、「リネン」と「ラミー」とを区別する線形判別関数(L3)を図7に記載した。図8は、鑑別モデルD:「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」の主成分スコアの散布図であり、第2主成分(PC2)を横軸とし第3主成分(PC3)を縦軸として、「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」の2つの繊維グループが明確に層別された。なお、「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」とを区別する線形判別関数(L4)を図8に記載した。図9は、鑑別モデルE:「キュプラ」と「リヨセル」の主成分スコアの散布図であり、第2主成分(PC2)を横軸とし第3主成分(PC3)を縦軸として、「キュプラ」と「リヨセル」の2つの繊維グループが明確に層別された。なお、「キュプラ」と「リヨセル」とを区別する線形判別関数(L5)を図9に記載した。このようにして求めた解析データ群を各組合せに対する鑑別モデルとして本実施例1のデータベースとして蓄積した。
(2)鑑別工程
本実施例1の鑑別工程においては、セルロース系繊維の単一繊維からなる5つの被検繊維X1〜X5を準備した。まず、データベース作成工程と同様にして、鑑別しようとする被検繊維X1〜X5の吸収スペクトルを求め、微分スペクトルを得た。
まず、被検繊維X1〜X5が「天然繊維」と「再生繊維」のいずれのグループに属するかを鑑別した。具体的には、求めた微分スペクトルからデータベースと同様の波数域(波数1200〜850cm−1)のスペクトルデータを抽出し、各主成分スコアを得た。このようにして得られた被検繊維X1〜X5の各主成分スコアを「天然繊維」と「再生繊維」のデータベース(鑑別モデルA)と照合した。また、被検繊維X1〜X5の主成分スコアを図5の主成分スコアの散布図にプロットした(図5のX1〜X5)。図5において、本実施例1の被検繊維X1〜X5のうち、被検繊維X1とX2は「天然繊維」の第1グループ(A1)に属する繊維であることが分かる。一方、被検繊維X3〜X5は「再生繊維」の第2グループ(A2)に属する繊維であることが分かる。
次に、「天然繊維」と鑑別された被検繊維X1、X2が「綿」と「麻類」のいずれのグループに属するかを鑑別した。具体的には、求めた微分スペクトルからデータベースと同様の波数域(波数1400〜900cm−1)のスペクトルデータを抽出し、各主成分スコアを得た。このようにして得られた被検繊維X1、X2の各主成分スコアを「綿」と「麻類」のデータベース(鑑別モデルB)と照合した。また、被検繊維X1、X2の主成分スコアを図6の主成分スコアの散布図にプロットした(図6のX1、X2)。図6において、本実施例1の被検繊維X1、X2のうち、被検繊維X1は「綿」の第3グループ(B1)に属する繊維であることが分かる。一方、被検繊維X2は「麻類」の第4グループ(B2)に属する繊維であることが分かる。
次に、「麻類」と鑑別された被検繊維X2が「リネン」と「ラミー」のいずれのグループに属するかを鑑別した。具体的には、求めた微分スペクトルからデータベースと同様の波数域(波数3500〜3000cm−1)のスペクトルデータを抽出し、主成分スコアを得た。このようにして得られた被検繊維X2の主成分スコアを「リネン」と「ラミー」のデータベース(鑑別モデルC)と照合した。また、被検繊維X2の主成分スコアを図7の主成分スコアの散布図にプロットした(図7のX2)。図7において、本実施例1の被検繊維X2は「リネン」の第5グループ(C1)に属する繊維であることが分かる。
一方、「再生繊維」と鑑別された被検繊維X3〜X5が「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」のいずれのグループに属するかを鑑別した。具体的には、求めた微分スペクトルからデータベースと同様の波数域(波数1400〜800cm−1)のスペクトルデータを抽出し、各主成分スコアを得た。このようにして得られた被検繊維X3〜X5の各主成分スコアを「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」のデータベース(鑑別モデルD)と照合した。また、被検繊維X3〜X5の主成分スコアを図8の主成分スコアの散布図にプロットした(図8のX3〜X5)。図8において、本実施例1の被検繊維X3〜X5のうち、被検繊維X3は「レーヨン」の第7グループ(D1)に属する繊維であることが分かる。一方、被検繊維X4、X5は「キュプラ及びリヨセル」の第8グループ(D2)に属する繊維であることが分かる。
次に、「キュプラ及びリヨセル」と鑑別された被検繊維X4、X5が「キュプラ」と「リヨセル」のいずれのグループに属するかを鑑別した。具体的には、求めた微分スペクトルからデータベースと同様の波数域(波数1250〜900cm−1)のスペクトルデータを抽出し、各主成分スコアを得た。このようにして得られた被検繊維X4、X5の主成分スコアを「キュプラ」と「リヨセル」のデータベース(鑑別モデルE)と照合した。また、被検繊維X4、X5の主成分スコアを図9の主成分スコアの散布図にプロットした(図9のX4、X5)。図9において、本実施例1の被検繊維X4、X5のうち、被検繊維X4は「キュプラ」の第9グループ(E1)に属する繊維であることが分かる。一方、被検繊維X5、は「リヨセル」の第10グループ(E2)に属する繊維であることが分かる。
以上説明したように、本第1実施形態においては、単一繊維からなる被検繊維に対して、繊維の種類を容易かつ正確に鑑別することができた。よって、本発明においては、鑑別操作が比較的簡単で客観性を有し、検査員の経験やノウハウに頼ることなく同系異種繊維の鑑別をすることのできる繊維鑑別方法を提供することができる。
《第2実施形態》
本第2実施形態においては、被検繊維として各単一繊維間の鑑別を行うものではなく、2種以上の繊維が混合されている場合を対象とする。つまり、顕微鏡法などの予備鑑定においてセルロース系繊維であるが、2種以上の繊維が混合されていると判明している場合に採用する。また、上記第1実施形態の鑑別工程において、被検繊維のスペクトルデータを解析したデータが繊維の種類が既知のいずれの単一繊維の領域にも適合せず、或いは複数の単一繊維に適合すると鑑別された場合など、繊維の種類を明確に鑑別できない場合に採用する。
(1)データベース作成工程
本第2実施形態においては、例えば、綿とレーヨンの2種の単一繊維、及び、これらの繊維を一連の混用率で混合した混合繊維を一連の比較繊維として準備する。次に、これらの比較繊維に対して、それぞれ、各吸収スペクトルを求める。なお、吸収スペクトルを求める方法、吸収スペクトルに各種補正をする方法、及び、得られた吸収スペクトルに微分処理などの前処理を行う方法は、上記第1実施形態のデータベース作成工程と同様である。また、上記第1実施形態のデータベース作成工程と同様にして、各吸収スペクトルから1又は2以上の波数域のスペクトルデータを抽出する。
次に、抽出したスペクトルデータを多変量解析して解析データ群を求める。多変量解析に使用する解析法は、特に限定するものではなく、上記第1実施形態と同様に主成分分析(PCA)、又は、主成分回帰(PCR)、PLS回帰などの重回帰分析を使用することが好ましい。特に、混合繊維の鑑別を行う際には、上記第1実施形態の主成分分析(PCA)に替えて、PLS回帰分析を使用することが好ましい。なお、各分析に使用するソフトは、特に限定するものではない。
本第2実施形態において、PLS回帰分析を使用した鑑別について説明する。具体的には、鑑別すべき2つの繊維グループ(例えば、綿とレーヨン)を一連の混用率で混合した一連の比較繊維の吸収スペクトルから抽出した1又は2以上の波数域のスペクトルデータ群に対してPLS回帰分析を行い、鑑別モデル(「定量モデル」ともいう)を求める。PLS回帰分析に使用する解析ソフトについては、特に限定するものではない。本第2実施形態においては、市販のプログラム作成ソフトにより発明者自らが構成したプログラムを使用して解析した。
このようにして求めた一連の比較繊維(各混合繊維)のスペクトルデータをPLS回帰分析したときの解析データ群をデータベース(鑑別モデル)として蓄積する。なお、これらの鑑別モデルについては、下記の実施例2及び実施例3において詳述する。
(2)鑑別工程
本第2実施形態の鑑別工程においては、まず、鑑別しようとする被検繊維の吸収スペクトルを求める。吸収スペクトルを求める方法、吸収スペクトルに各種補正をする方法、及び、得られた吸収スペクトルに微分処理などの前処理を行う方法は、上述の比較繊維に対する方法と同様である。次に、求めた微分スペクトルから比較繊維と同じ波数域のスペクトルデータを抽出する。PLS回帰分析においては、抽出した被検繊維のスペクトルデータを解析データとして使用し、鑑別モデル(定量モデル)に当該解析データを適用する(乗じる)ことにより、被検繊維の混用率を求める。
なお、本鑑別工程においては、被検繊維に混合されている繊維の種類と共にその混用率は未知であるが、比較的簡単な顕微鏡法などで被検繊維がセルロース系繊維であることが判明している。そこで、本第2実施形態においては、次のような手順で繊維鑑別することが好ましい。
図10は、本第2実施形態において被検繊維を鑑別する解析手順を表す鑑別フロー図である。図10において、まず、被検繊維に対して上記第1実施形態で説明した単一繊維の鑑別手法を行う。その結果、単一繊維ではないこと、及び、混合されている繊維の種類が判明する。混合されている繊維の種類が分かれば、この被検繊維に最適な鑑別モデル(定量モデル)を選択する。次に、上述のように、被検繊維のスペクトルデータを解析データとして使用し、選択した鑑別モデル(定量モデル)に当該解析データを適用する(乗じる)ことにより、被検繊維の混用率を鑑別する。
このようにして、図10の鑑別フロー図に従って鑑別を行うことにより、被検繊維に混合されている繊維の種類、及び、その混用率を客観的に鑑別することができる。次に、本第2実施形態の鑑別方法を実施例2及び実施例3により具体的に説明する。
本実施例2は、上記第2実施形態に係る2種以上の繊維が混合されている混合繊維の鑑別を行うものであり、複数の被検繊維に対して鑑別フロー図(図10参照)に従って鑑別を行うものである。なお、本実施例2においては、綿とレーヨンが混合された織編物(混紡織編物)を例にして説明する。
(1)データベース作成工程
まず、セルロース系繊維を2種類ずつ所定の割合で混合した一連の混合繊維を準備する。本実施例2においては、綿とレーヨンを100:0〜0:100に混紡した織編物46点を準備し、これらについて吸収スペクトルを得た。吸収スペクトルの測定は、FT/IR分光光度計VIR‐9550(日本分光株式会社)を使用し、ZnSeプリズムによるATR法で、波数4000cm−1〜500cm−1の吸収スペクトルを測定した。次に、乗算的散乱補正(MSC)後の各吸収スペクトルをSavitzky-Golay法により1次微分して微分スペクトルを得た。
次に、これらの吸収スペクトル(微分スペクトル)について、綿とレーヨンとの混用率を鑑別するのに最適と考えられる波数域のスペクトルデータをPLSR Moving Windowを利用して抽出した。綿とレーヨンとの混用率を鑑別するには、波数1200〜850cm−1の波数域を選択した。この波数域でPLS回帰分析を行い、求めた解析データ群を綿とレーヨンとの混合繊維の鑑別モデル(定量モデル)として本実施例2のデータベースとして蓄積した。
(2)鑑別工程
本実施例2の鑑別工程においては、綿とレーヨンとが種々の割合で混合された6つの被検繊維Y1〜Y6を準備した。これらの混用率は、鑑別段階においては不明であった。まず、データベース作成工程と同様にして、鑑別しようとする被検繊維Y1〜Y6の吸収スペクトルを求め、微分スペクトルを得た。
まず、被検繊維Y1〜Y6を上記第1実施形態の鑑別フロー(図3参照)に従って、各単一繊維の組み合わせ(上記実施例1の鑑別モデルA〜E)に従って鑑別した。その結果、上記5つの鑑別モデルのうち、鑑別モデルA(天然繊維と再生繊維)、鑑別モデルB(綿と麻類)、鑑別モデルD(再生繊維どうし)の各鑑別結果から綿とレーヨンの混合繊維であると判断した。
図11は、被検繊維Y1〜Y6の主成分スコアをプロットした「天然繊維」と「再生繊維」の主成分スコアの散布図(鑑別モデルA)である。図12は、被検繊維Y1〜Y6の主成分スコアをプロットした「綿」と「麻類」の主成分スコアの散布図(鑑別モデルB)である。図13は、被検繊維Y1〜Y6の主成分スコアをプロットした「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」の主成分スコアの散布図(鑑別モデルD)である。
被検繊維Y1〜Y6は、図11において線形判別関数L1を跨いで「天然繊維」と「再生繊維」の中間付近にプロットされた。また、図12において線形判別関数L2の「綿」側にプロットされたが、図13においては線形判別関数L4を跨いで「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」の広い範囲に分布している。これらのことから、被検繊維Y1〜Y6は綿とレーヨンとが混合されていると判断した。
そこで、被検繊維Y1〜Y6の各スペクトルデータを解析データとして使用し、選択した綿とレーヨンとの混合繊維の鑑別モデル(定量モデル)に当該解析データを適用する(乗じる)ことにより、被検繊維Y1〜Y6の混用率を鑑別した。また、並行して従来のJISL 1030‐2の方法で混用率を鑑別した。本実施例2の結果と従来法の結果を比較して表1に示す。
表1から分かるように、各被検繊維Y1〜Y6の混用率は、操作が煩雑な従来法と比較しても、ほぼ同様の値を示していた。また、図14に表1の結果をプロットしたグラフを示す。図14において、本実施例2の結果は従来法と比較して良好な相関を示している。
本実施例3は、上記実施例2と同様に2種以上の繊維が混合されている混合繊維の鑑別を行うものであり、複数の被検繊維に対して鑑別フロー図(図10参照)に従って鑑別を行うものである。なお、本実施例3においては、綿とリヨセルが混合された織編物(混紡織編物)を例にして説明する。
(1)データベース作成工程
まず、セルロース系繊維を2種類ずつ所定の割合で混合した一連の混合繊維を準備する。本実施例3においては、綿とリヨセルを100:0〜0:100に混紡した織編物41点を準備し、これらについて吸収スペクトルを得た。吸収スペクトルの測定は、FT/IR分光光度計VIR‐9550(日本分光株式会社)を使用し、ZnSeプリズムによるATR法で、波数4000cm−1〜500cm−1の吸収スペクトルを測定した。次に、乗算的散乱補正(MSC)後の各吸収スペクトルをSavitzky-Golay法により1次微分して微分スペクトルを得た。
次に、これらの吸収スペクトル(微分スペクトル)について、綿とリヨセルとの混用率を鑑別するのに最適と考えられる波数域のスペクトルデータをPLSR Moving Windowを利用して抽出した。綿とリヨセルとの混用率を鑑別するには、波数1300〜800cm−1の波数域を選択した。この波数域でPLS回帰分析を行い、求めた解析データ群を綿とリヨセルとの混合繊維の鑑別モデル(定量モデル)として本実施例3のデータベースとして蓄積した。
(2)鑑別工程
本実施例3の鑑別工程においては、綿とリヨセルとが種々の割合で混合された6つの被検繊維Z1〜Z6を準備した。これらの混用率は、鑑別段階においては不明であった。まず、データベース作成工程と同様にして、鑑別しようとする被検繊維Z1〜Z6の吸収スペクトルを求め、微分スペクトルを得た。
まず、被検繊維Z1〜Z6を上記第1実施形態の鑑別フロー(図3参照)に従って、各単一繊維の組み合わせ(上記実施例1の鑑別モデルA〜E)に従って鑑別した。その結果、上記5つの鑑別モデルのうち、鑑別モデルA(天然繊維と再生繊維)、鑑別モデルB(綿と麻類)、鑑別モデルD(再生繊維どうし)、鑑別モデルE(キュプラとリヨセル)の各鑑別結果から綿とリヨセルの混合繊維であると判断した。
図15は、被検繊維Z1〜Z6の主成分スコアをプロットした「天然繊維」と「再生繊維」の主成分スコアの散布図(鑑別モデルA)である。図16は、被検繊維Z1〜Z6の主成分スコアをプロットした「綿」と「麻類」の主成分スコアの散布図(鑑別モデルB)である。図17は、被検繊維Z1〜Z6の主成分スコアをプロットした「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」の主成分スコアの散布図(鑑別モデルD)である。図18は、被検繊維Z1〜Z6の主成分スコアをプロットした「キュプラ」と「リヨセル」の主成分スコアの散布図(鑑別モデルE)である。
被検繊維Z1〜Z6は、図15において線形判別関数L1を跨いで「天然繊維」と「再生繊維」の中間付近にプロットされた。また、図16において線形判別関数L2の「綿」側にプロットされたが、図17においては線形判別関数L4を跨いで「レーヨン」と「キュプラ及びリヨセル」の広い範囲に分布している。更に、図18において線形判別関数L5の「リヨセル」側にプロットされたがかなり広い範囲に分布している。これらのことから、被検繊維Z1〜Z6は綿とリヨセルとが混合されていると判断した。
そこで、被検繊維Z1〜Z6の各スペクトルデータを解析データとして使用し、選択した綿とリヨセルとの混合繊維の鑑別モデル(定量モデル)に当該解析データを適用する(乗じる)ことにより、被検繊維Z1〜Z6の混用率を鑑別した。また、並行して従来のJISL 1030‐2の方法で混用率を鑑別した。本実施例3の結果と従来法の結果を比較して表2に示す。
表2から分かるように、各被検繊維Z1〜Z6の混用率は、操作が煩雑な従来法と比較しても、ほぼ同様の値を示していた。また、図19に表2の結果をプロットしたグラフを示す。図19において、本実施例3の結果は従来法と比較して良好な相関を示している。
以上説明したように、本第2実施形態においては、2種類の単一繊維が混合された被検繊維に対して、各混合繊維の混用率を容易かつ正確に鑑別することができた。よって、本発明においては、鑑別操作が比較的簡単で客観性を有し、検査員の経験やノウハウに頼ることなく同系異種繊維の鑑別をすることのできる繊維鑑別方法を提供することができる。
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施形態においては、化学的組成が同じ繊維どうしの鑑別例としてセルロース系繊維で説明するものであるが、これに限るものではなく、タンパク質繊維としての各種獣毛系繊維どうしの鑑別や、その他の化学的組成が同じ繊維どうしの鑑別を行うようにしてもよい。
(2)上記各実施形態においては、2つの繊維グループ間の鑑別を多変量解析するものであるが、これに限るものではなく、3つ或いはそれ以上の繊維グループ間の鑑別を同時に多変量解析するようにしてもよい。
(3)上記各実施形態においては、IR分光分析により得られる吸収スペクトルにより鑑別を行うものであるが、これに限るものではなく、IR分光分析により得られる透過スペクトルにより鑑別を行うようにしてもよい。
(4)上記各実施形態においては、波数4000〜500cm−1の範囲内の吸収スペクトルを測定し、これから解析に使用する所定の波数域におけるスペクトルデータを抽出するものであるが、これに限るものではなく、解析に使用する1つ又は2つ以上の所定の波数域における吸収スペクトルのみを測定するようにしてもよい。
(5)上記第1実施形態においては、主成分分析によりスペクトルデータを解析し、上記第2実施形態においては、PLS回帰分析によりスペクトルデータを解析するが、これに限るものではなく、いずれの鑑別においても、主成分回帰(PCR)、PLS回帰などの重回帰分析、或いは、その他の多変量解析によりスペクトルデータを解析するようにしてもよい。
(6)上記各実施形態においては、ATR法により吸収スペクトルを求めるものであるが、これに限るものではなく、その他の方法、例えば、比較繊維或いは被検繊維を微粉砕してからKBr錠剤法などで吸収スペクトルを求めるようにしてもよい。
(7)上記各実施形態においては、FT/IR分光光度計を使用するものであるが、これに限るものではなく、分散型赤外分光光度計を使用するようにしてもよい。
(8)上記実施例1〜実施例3においては、PCR Moving Window 又はPLSR Moving Windowで抽出した特定の波数域のスペクトルデータを使用するものであるが、これに限るものではなく、その他の解析ソフトによる波数域の抽出、或いは、解析に必要と考えられる特定の官能基による波数域の抽出をするようにしてもよい。
(9)上記実施例1においては、解析に第1主成分と第2主成分との組合せ、或いは、第2主成分と第3主成分との組合せを使用した。しかし、解析に使用する主成分の組合せは、これらに限るものではなく、どのような主成分の組合せを使用するようにしてもよい。また、3つ以上の主成分を用いて3次元以上で解析するようにしてもよい。
(10)上記実施例1においては、天然繊維と再生繊維との鑑別に波数1200〜850cm−1の範囲内のスペクトルデータのみを使用するものであるが、これに限るものではなく、例えば、波数3500〜3000cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内のスペクトルデータを組み合わせて使用するようにしてもよい。
(11)上記実施例1においては、綿と麻類との鑑別に波数1400〜900cm−1の範囲内のスペクトルデータのみを使用するものであるが、これに限るものではなく、例えば、波数3500〜3000cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内のスペクトルデータを組み合わせて使用するようにしてもよい。
(12)上記実施例1においては、リネンとラミーとの鑑別に波数3500〜3000cm−1の範囲内のスペクトルデータのみを使用するものであるが、これに限るものではなく、例えば、波数1200〜850cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内のスペクトルデータを組み合わせて使用するようにしてもよい。
(13)上記実施例1においては、再生繊維どうしの鑑別に波数1400〜800cm−1の範囲内のスペクトルデータのみを使用するものであるが、これに限るものではなく、例えば、波数3500〜3000cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内のスペクトルデータを組み合わせて使用するようにしてもよい。
(14)上記実施例1においては、キュプラとリヨセルとの鑑別に波数1250〜900cm−1の範囲内のスペクトルデータのみを使用するものであるが、これに限るものではなく、例えば、波数3500〜3000cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内のスペクトルデータを組み合わせて使用するようにしてもよい。
市場には多くの繊維製品が広い用途に流通している。また、繊維製品の生産地と消費地がグローバルに展開される今日においては、繊維製品の輸出入の際に取引の安全や信頼を確保するために、輸出入の際に迅速、且つ、正確な鑑別方法が望まれている。特に、化学的組成が同じセルロース系繊維どうしの過誤混入や、化学的組成が同じカシミヤなどの高級獣毛系繊維と安価な他の獣毛系繊維との正確な鑑別が望まれている。
本発明は、このような市場の要求に対して的確な鑑別手段を提供するものであり、また、従来法のように検査員の経験やノウハウに頼ることがない。特に、化学的組成が同じ繊維どうしの種類を客観的に鑑別できること、また、過誤混入や偽装がなされていても正確な鑑別結果が得られるということは、これまでにない画期的な鑑別手段となる。
このことから、本発明は、市場の安定や国際間の公正取引に有効な鑑別手段を提供するものであり、単に従来法であるJISL 1030‐1(繊維製品の混用率試験方法‐第1部:繊維鑑別)、及び、JISL 1030‐2(繊維製品の混用率試験方法‐第2部:繊維混用率)を補完する鑑別手段に留まらず、国際標準として利用可能な鑑別手段を提供することができる。
1…綿、2…麻類、3…レーヨン、4…キュプラ、5…リヨセル、6…結晶セルロース、
A〜E…鑑別モデル、
A1…天然繊維のグループ、A2…再生繊維のグループ、
B1…綿のグループ、B2…麻類のグループ、
C1…リネンのグループ、C2…ラミーのグループ、
D1…レーヨンのグループ、D2…キュプラ及びリヨセルのグループ、
E1…キュプラのグループ、E2…リヨセルのグループ、
L1〜L5…線形判別関数、
X1〜X5、Y1〜Y6、Z1〜Z6…被検繊維。

Claims (11)

  1. セルロース系繊維に分類される繊維を下記の各組合せ、
    (1)天然繊維、対、再生繊維、
    (2)綿、対、麻類、
    (3)亜麻、対、苧麻、
    (4)ビスコース系レーヨン、対、銅アンモニアレーヨン又は溶剤紡糸セルロース繊維、
    (5)銅アンモニアレーヨン、対、溶剤紡糸セルロース繊維、
    に係る2群の比較繊維に分類し、
    当該2群に分類される繊維の種類が既知の複数の単一繊維を起源とする複数の比較繊維として準備し、
    各比較繊維に対して近赤外線を除く波数4000cm−1〜500cm−1の範囲内の赤外線を照射してそれぞれの吸収スペクトルを求め、
    これらの吸収スペクトルから前記比較繊維の組合せに対して予め定められた1又は2以上の所定の波数域におけるスペクトルデータを抽出し、当該スペクトルデータを多変量解析して得られた解析データ群を各組合せに係る鑑別モデルのデータベースとして蓄積するデータベース作成工程と、
    繊維の種類が未知の繊維を被検繊維とし、前記データベース作成工程と同様にして当該被検繊維から得られた吸収スペクトルから、当該被検繊維を比較しようとする前記2群の比較繊維と同様の所定の波数域におけるスペクトルデータを抽出した解析データを求め、
    前記被検繊維の解析データを前記データベースの各組合せに係る鑑別モデルのデータ群と照合して、前記解析データと前記データベースのデータ群との一致性を指標として、前記被検繊維の種類を鑑別する鑑別工程とを有することを特徴とする繊維鑑別方法。
  2. 前記比較繊維の各組合せのうち、前記(1)天然繊維、対、再生繊維の2群に分類して鑑別する大分類鑑別操作を行い、
    次に、前記大分類鑑別操作において天然繊維と鑑別された前記被検繊維を前記(2)綿、対、麻類の2群に分類して鑑別する第1の中分類鑑別操作、又は、
    前記大分類鑑別操作において再生繊維と鑑別された前記被検繊維を前記(4)ビスコース系レーヨン、対、銅アンモニアレーヨン又は溶剤紡糸セルロース繊維の2群に分類して鑑別する第2の中分類鑑別操作を行い、
    次に、前記第1の中分類鑑別操作において麻類と鑑別された前記被検繊維を前記(3)亜麻、対、苧麻の2群に分類して鑑別する第1の小分類鑑別操作、又は、
    前記第2の中分類鑑別操作において銅アンモニアレーヨン又は溶剤紡糸セルロース繊維と鑑別された前記被検繊維を前記(5)銅アンモニアレーヨン、対、溶剤紡糸セルロース繊維の2群に分類して鑑別する第2の小分類鑑別操作を行うことを特徴とする請求項1に記載の繊維鑑別方法。
  3. 前記複数の単一繊維を起源とする複数の比較繊維に加え、予め準備した同系異種繊維を一連の混用率で混合した混合繊維からなる一連の比較繊維を準備し、各比較繊維に対して前記データベース作成工程と同様にして得られた一連の解析データ群を各組合せに係る混用率の鑑別モデルのデータベースとして蓄積し、
    前記被検繊維の解析データを前記データベースの各組合せに係る鑑別モデルのデータ群と照合して、前記被検繊維の種類、前記被検繊維が少なくとも2種類の同系異種繊維が混合されたものであること、前記被検繊維に混合されている同系異種繊維の種類、及び/又は、前記被検繊維の混用率を鑑別することを特徴とする請求項1に記載の繊維鑑別方法。
  4. セルロース系繊維において、天然繊維と再生繊維との鑑別には主に波数1200〜850cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法。
  5. セルロース系繊維において、綿と麻類との鑑別には主に波数1400〜900cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法。
  6. セルロース系繊維において、再生繊維どうしの鑑別には主に波数1400〜800cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法。
  7. セルロース系繊維において、銅アンモニアレーヨンと溶剤紡糸セルロース繊維との鑑別には主に波数1250〜900cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法。
  8. セルロース系繊維において、亜麻と苧麻との鑑別には主に波数3500〜3000cm−1の範囲内若しくはその近傍の範囲内を含む1又は2以上のスペクトルデータを解析に使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法。
  9. セルロース系繊維において、比較繊維及び被検繊維に対してアルカリ性物質による前処理を施してから吸収スペクトルを求めることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法。
  10. 前記多変量解析は、主成分分析、又は、主成分回帰、PLS回帰などの重回帰分析であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法。
  11. 前記比較繊維及び前記被検繊維の吸収スペクトルを求める方法は、ATR法(全反射測定法)であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の繊維鑑別方法。
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