以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
アプリケータは、生体内に任意の活性成分(例えば薬剤)を投与するためのマイクロニードルを皮膚に適用するために用いる補助器具である。使用者はアプリケータを用いることで、手で直接にマイクロニードルを適用する場合よりも適切な力でマイクロニードルを皮膚に適用することができる。「マイクロニードルを皮膚に適用する」という表現は、マイクロニードルを皮膚に当接または穿刺させることである。
図1〜図7を参照しながら、本実施形態に係るアプリケータ1の構造を説明する。図1はアプリケータ1を上方から見た斜視図である。図2はアプリケータ1を下方から見た斜視図である。図3はアプリケータ1の分解図である。図4は筐体10を下方から見た斜視図である。図5は筐体10の内部を説明するための断面図である。図6は持ち上げ機構40の斜視図である。図7は作動ボタン50を下方から見た斜視図である。
図1および図2に示すように、アプリケータ1は全体として略円柱状を呈する。図3に示すように、アプリケータ1は筒状の筐体10、コイルばね(弾性部材)20、ピストン30、持ち上げ機構40、および作動ボタン50を備える。本実施形態では、アプリケータ1は、複数のマイクロニードルを備えるマイクロニードル・デバイスを皮膚に適用するために用いられる。具体的には、ピストン30がコイルばね20の弾性力(コイルばね20による付勢力)により作動してマイクロニードル・デバイスに衝突することでその弾性力がマイクロニードル・デバイス(複数のマイクロニードル)に伝わり、マイクロニードルが皮膚に刺さる。ピストン30は係止状態と解放状態という二つの状態になり得る。係止状態とは、ピストン30がコイルばね20の弾性力に抗して筐体10内で固定されている状態をいい、このときコイルばね20は圧縮されて弾性力を蓄えた状態にある。一方、解放状態とは、ピストン30がコイルばね20の弾性力により作動した後の状態をいい、このときコイルばね20は伸びた状態にある。ピストン30は作動ボタン50の作用により係止状態から解放状態に移り、持ち上げ機構40の作用により解放状態から係止状態に移る。アプリケータ1は繰り返し使用することができる。
筐体10の一端は閉じられ、本実施形態ではその閉じられた端部を天板11という。この天板11を覆うように作動ボタン50が筐体10に取り付けられる。筐体10の他端は開いており、この開口12(図4参照)の寸法および大きさはピストン30に対応する。筐体10内の天板11の側にはコイルばね20が収容され、そのコイルばね20に接するかたちでピストン30が収容される。開口12から筐体10の内部を見ると、コイルばね20はピストン30で隠れて見えない。持ち上げ機構40は開口12の周縁を覆うように筐体10に取り付けられ、持ち上げ機構40の一部は筐体10に収容される。
本実施形態では、作動ボタン50の側をアプリケータ1の上側と定義し、持ち上げ機構40の側をアプリケータ1の下側と定義する。また、アプリケータ1の中心を通り上下方向に沿って延びる軸を中心軸Cと定義し(図1参照)、この中心軸Cが延びる方向をアプリケータ1の軸方向と定義する。この軸方向は高さ方向ともいうことができる。さらに、中心軸Cの周に沿った方向をアプリケータ1の周方向と定義し、中心軸Cと直交する方向をアプリケータ1の径方向と定義する。
図4および図5は筐体の構造を示す。筐体10の内部には、周方向に沿って90度の間隔ごとに、軸方向に沿って延びる4個のガイド13が設けられる。このガイド13はピストン30を軸方向に沿って案内するための構造であり、後述するピストン30の第1突起34と対応する。本実施形態ではガイド13は開口であるが、溝でもよい。各ガイド13の上端は、周方向に沿って延びる支持台14とつながる。この支持台14はピストン30の第1突起34を載せるための部分であり、第1突起34が支持台14に載ることでピストン30が係止状態になる。軸方向における支持台14の位置は、コイルばね20の圧縮率が所望のものになるように決められる。
開口12の周囲には、所定の間隔をおいて4個の円弧状の周縁孔15が設けられる。また、筐体10の内周面の上部には、径方向内側に向かって延びる一対の支持突起16が互いに向かい合うように設けられる。これらの周縁孔15および支持突起16は持ち上げ機構40の構造に対応する。
筐体10の下端にはフランジ17が形成され、このフランジ17には、周方向に沿って90度の間隔ごとに4個の係合爪17aが設けられる。係合爪17aは、後述するカートリッジ100をアプリケータ1に取り付けるための構造である。
天板11には2種類の貫通孔が設けられる。一つは、天板11の中心に位置する孔(中心孔)11aであり、もう一つは、その中心孔11aを挟んで向かい合うように設けられる一対の円弧状の孔(円弧孔)11bである。それぞれの円弧孔11bは周方向に沿って延びるように形成される。これら2種類の孔は作動ボタン50の構造に対応する。
筐体10の側面には、互いに向かい合うように一対の凹部18が設けられる。凹部18は筐体10の下端から上側に向かって略台形状に窪んだ部分である。周方向に沿って延びる凹部18の上端は、径方向外側に延びるように隆起し、本実施形態ではこの隆起した上端を庇部19という。一対の凹部18は作動ボタン50の構造に対応する。
コイルばね20は、円錐台を呈するように巻かれた非線形の圧縮ばねである。コイルばね20は中心軸Cを囲みかつ軸方向に沿って延びるように設けられる。コイルばね20の材料は特に限定されないが、例えばステンレス鋼線、鉄線、または銅線であってもよい。
ピストン30は、コイルばね20の弾性力をマイクロニードル・デバイス(複数のマイクロニードル)に伝達するための円板状の部品である。図2および図3に示すように、ピストン30は、アプリケータ1の作動時にマイクロニードル・デバイスに衝突する下面31と、コイルばね20の下端と接する上面32とを備え、一定の厚み(軸方向に沿った長さ)を有する。本実施形態では、下面31は平らに形成されるのに対して、上面32の周縁には土手32aが設けられる。この土手32aは、コイルばね20が上面32上でずれるのを防ぐための構造である。ピストン30の中心には軸方向に沿って延びる貫通孔33が設けられる。
図3に示すように、ピストン30の外縁には、それぞれが径方向外側に延びる第1突起34および第2突起35が設けられる。第1突起34および第2突起35はいずれも、ピストンの他の部分よりも径方向の長さが大きい部分である拡径部の一例である。本実施形態では、ピストン30は4個の第1突起(第1拡径部)34および一対の第2突起(第2拡径部)35を備える。4個の第1突起34は周方向に沿って90度ごとに設けられ、一対の第2突起35は、貫通孔33を挟んで向かい合うように、且つ周方向に沿って第1突起34から45度離れた位置に設けられる。本実施形態では、これらの第1突起34および第2突起35はいずれも外縁の上側に設けられる。本実施形態では、第1突起34は、コイルばね20の弾性力に抗した状態でピストン30を筐体10内で支持するために設けられ、第2突起35はピストン30を周方向に沿って回転させるために設けられる。
持ち上げ機構40は、コイルばね20の弾性力に抗してピストン30を軸方向に沿って筐体10の開口12から離れる方向に移動させるための部品である。図6に示すように、持ち上げ機構40は、径方向に沿って所定の幅を有するリング部41と、そのリング部41の内周縁から上に延びる筒部42とを備え、全体としてハットのような形状を呈する。筒部42は筐体10内に収容されるのに対して、リング部41は開口12の周縁を覆うように筐体10から露出する。図6に示すように、本実施形態では筒部42の側面の下側の一部が切り欠かれており、そのため、筒部42は、周方向に沿って90度の間隔をおいて設けられる4個の柱を含むような形を成す。持ち上げ機構40は、個々の柱が筐体10の周縁孔15を通るように筐体10に取り付けられ、周方向に沿って少し回転することができる。
筒部42の内周面には、軸方向に沿って延びる複数の縦溝43が形成される。この縦溝43は、筐体10内に収容されるピストン30の第2突起35の位置に対応して設けられる。縦溝43は所定の幅(周方向に沿った長さ)を有し、その幅は下部よりも上部の方が大きい。軸方向に沿って延びる縦溝43の縁は、段の部分が周方向および軸方向に対して斜めに形成された段付き形状を呈する。本明細書ではこの斜めの段を傾斜部という。傾斜部44は筒部42の内周面において周方向に沿って延びる。アプリケータ1が組み立てられたときには、傾斜部44は、その面が筐体10の開口12から離れるほど支持台14から遠ざかるように、設けられる。筒部42の外周面の上部には、径方向外側に沿って延びる一対の係止突起45が設けられる。この一対の係止突起45は筐体10の支持突起16に対応する。
作動ボタン50は、コイルばね20の弾性力に抗した状態で支持されたピストン30を作動させるための部品である。図3および図7に示すように、作動ボタン50は、軸方向に沿って見たときに天板11を覆う程度の寸法を有する円板状の押圧部51と、この押圧部51を挟んで向かい合うように設けられ、かつそれぞれが押圧部51の縁から下に向かって延びる一対のアーム部52とを備える。この押圧部51および一対のアーム部52により、作動ボタン50は全体として略C字状を呈する。
押圧部51の下面51aの中心には、軸方向に沿って延びる中央突起53が設けられる。中央突起53は、根元側が太く先端側が細い段付き形状を呈する。ピストン30が係止状態にあるときには、中央突起53の細い先端部53aがピストン30の貫通孔33に入る。
下面51aにはさらに、中央突起53を挟んで向かい合うように一対のトリガ54が設けられる。トリガ54は、下面51aから下方に突き出た板状の部分であり、先端に向かうにつれて細くなる略三角形状を呈する。本明細書では、軸方向に対して傾斜したトリガ54の部分を傾斜部54aといい、この傾斜部54aは周方向に沿って延びるように設けられる。
各アーム部52の裏面(筐体10と向かい合う面)の下端付近には係合部55が設けられる。係合部55はその裏面から突き出た鉤状の部分である。周方向に沿ってみた場合の係合部55の端面または断面は、上に向かうにつれて細くなる略三角形状を呈する。本実施形態では、係合部55の下面55aは傾斜し係合部55の頂面55bは押圧部51とほぼ平行に延びるが、下面55aおよび頂面55bの双方が傾斜してもよい。なお、「下面(または頂面)が傾斜する」とは、下面(または頂面)が押圧部51と交差するように延びることを意味する。ピストン30を係止状態で維持している間は係合部55の下面55aが庇部19に接した状態(係合部55が庇部19に載ったような状態)にあり、ピストン30を作動させるために作動ボタン50が押下された場合には、係合部55は庇部19よりも下の位置に移動する。
作動ボタン50は、中央突起53および一対のトリガ54がそれぞれ中心孔11aおよび円弧孔11bに嵌まりかつ一対のアーム部52が一対の凹部18に位置したかたちで、筐体10に取り付けられる。コイルばね20は、一端が作動ボタン50の中央突起53の段に接し他端がピストン30の上面に接したかたちで筐体10内に収容される。ピストン30は、それぞれの第1突起34がガイド13に嵌まったかたちで筐体10内に収容される。持ち上げ機構40は、筒部42が筐体10内に収容されリング部41が開口12を囲むかたちで筐体10に取り付けられる。持ち上げ機構40の傾斜部44の位置はピストン30の第2突起35の位置に対応する。
アプリケータ1を作製するための材料は限定されない。例えば、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの合成または天然の樹脂素材を用いて筐体10、ピストン30、持ち上げ機構40、および作動ボタン50を作製してもよい。あるいは、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、または金属(ステンレス、チタン、ニッケル、モリブデン、クロム、コバルト等)を用いてそれらの構成要素を作製してもよい。構成要素の材質は同一でもよいし互いに異なってもよい。
次に、アプリケータ1と共に用いられるマイクロニードル・デバイス90の構成を説明する。マイクロニードル・デバイス90は、ピストン30の下面31に対応する基板上に形成された複数のマイクロニードル91を備える。個々のマイクロニードル91は基板の面とほぼ直交する。マイクロニードル・デバイス90の材質は限定されず、例えば、ステンレス鋼、ポリエチレンテレフタレート(PET)、他の金属、他の樹脂、生分解性素材、セラミック、または生体吸収性素材のいずれかによって、またはこれらの材質を組み合わせることによって形成されてもよい。マイクロニードル91の長さは例えば10μm〜1000μmであり、マイクロニードル91の密度は例えば0.05本/cm2〜10000本/cm2である。
生体に投与される活性成分が予めマイクロニードル91にコーティングされてもよいし、そのコーティングが行われなくてもよい。マイクロニードル91に予め活性成分をコーティングしない場合には、活性成分を皮膚に塗ってからアプリケータ1を用いてマイクロニードル・デバイス90をその部分に適用することで、当該活性成分を投与してもよい。あるいは、アプリケータ1を用いてマイクロニードル・デバイス90を皮膚に適用してから活性成分をその適用箇所に塗ることで、当該活性成分を投与してもよい。
本実施形態では、マイクロニードル・デバイス90はカートリッジ100に取り付けられたかたちで提供される。図8はカートリッジ100の斜視図である。カートリッジ100は、アプリケータ1に対して着脱可能なリング状の部品である。カートリッジ100の外縁101はL字状に形成され、その外縁101が延びる方向がカートリッジ100の上側に相当する。外縁101で囲まれた部分のカートリッジ100の径は、アプリケータ1の下端に取り付けることができるように設定される。外縁101の内側には、筐体10の係合爪17aに対応する爪受け102が設けられる。マイクロニードル・デバイス90は、マイクロニードル91が下を向くかたちで粘着テープ103によりカートリッジ100の中央に設けられる。カートリッジ100の下面にはマイクロニードル・デバイス90を覆うためのカバー(図示せず)がテープや粘着剤などの貼付手段により着脱可能に設けられてもよい。
アプリケータ1およびカートリッジ100の提供方法は限定されない。例えば、アプリケータ1およびカートリッジ100のセットが穿刺キットとして提供されてもよいし、アプリケータ1およびカートリッジ100が別々に提供されてもよい。カートリッジ100はアプリケータ1の構成要素ではなく、アプリケータ1と共に用いることができる部品である。カートリッジは使い捨て可能な製品であり、使用者はカートリッジ100を取り換えながらアプリケータ1を使い続けることができる。
次に、図9〜図12を参照しながら、アプリケータ1の使用方法について説明する。特に、解放状態にあるピストン30を係止状態にセットし、その後にピストン30を作動させるという一連の手順を説明する。図9および図10はいずれもピストン30の解放状態から係止状態への遷移を示す断面図であり、図9は中心軸Cと平行な平面で切って得られる断面を示し、図10は図9のA−A線断面図である。ただし、図10ではコイルばね20および作動ボタン50を省略している。図11はカートリッジ100が取り付けられたアプリケータ1を下方から見た斜視図である。図12はピストン30が作動した後のアプリケータ1を示す断面図である。
使用者はピストン30を係止状態にするために持ち上げ機構40を筐体10内に押し込む。この操作により持ち上げ機構40が軸方向に沿って筐体10に向かって移動すると、傾斜部44(より具体的には、傾斜部44の上端付近)がピストン30の第2突起35に接してその第2突起35を上へと動かす。この結果、図9に示すように、ピストン30が筐体10内を上がり、これに応じてコイルばね20が縮む。使用者が持ち上げ機構40を最後まで押し込むと、ガイド13に沿って上がっていたピストン30の第1突起34が該ガイド13の上端を越える。これは、第1突起34が周方向に沿って移動可能な位置に至ったこと、すなわちピストン30が筐体10内で回転可能な状態になったことを意味する。この時点になると、第2突起35が傾斜部44に沿って滑って傾斜部44の下端付近まで移動するが、これは、第2突起35が周方向に移動することを意味する。第2突起35のこの移動により、図10に示すように、ピストン30が周方向に回転して第1突起34が支持台14に載り、この結果ピストン30が係止状態になる。ピストン30をこのように固定する際に、持ち上げ機構40そのものは軸方向に沿って動くのみであり、周方向に回転しない。すなわち、持ち上げ機構40が、回転することなく、軸方向に沿って筐体10に向かって移動すると、第2突起35が傾斜部44に沿って滑ることで第1突起34が支持台14に載り、これによりピストン30がコイルばね20の弾性力に抗した状態で固定される。
続いて、使用者は、ピストン30を作動させる際に第2突起35が傾斜部44に当たってピストン30の動きが妨げられることが起きないように、対応する第2突起35から傾斜部44が離れるように持ち上げ機構40を回す。この操作により持ち上げ機構40の係止突起45が筐体10の支持突起16の上に載り、持ち上げ機構40はリング部41がフランジ17(すなわち、筐体10の下端)に最接近した状態で固定される。
続いて、使用者はカートリッジ100をアプリケータ1の下端に取り付ける。具体的には、使用者はカートリッジ100のそれぞれの爪受け102が筐体10の係合爪17aと対応するようにカートリッジ100をアプリケータ1に対して位置合わせする。そして、使用者は、係合爪17aが爪受け102と係合するようにカートリッジ100をアプリケータ1に対して回転させる。この一連の操作により、図11に示すように、マイクロニードル・デバイス90付きのカートリッジ100がアプリケータ1に取り付けられる。
以上の操作により、アプリケータ1(ピストン30)を作動させる準備が整う。この時点では(作動ボタン50が押される前は)、係合部55の下面55aが筐体10の庇部19の上端に接しているので、係合部55が庇部19によって支持され、作動ボタン50は下に向かって自動的には移動しない。
続いて、使用者はカートリッジ100と一体化したアプリケータ1を皮膚S上に置き、作動ボタン50(より具体的には押圧部51)を押下する。この操作により、係合部55が庇部19を越えて下に移動し、作動ボタン50が下がり、トリガ54の傾斜部54aがピストン30の第2突起35に当たる。上述したようにトリガ54は先端に向かって細くなっているので、第2突起35に当接するトリガ54の幅がトリガ54の進入度合に応じて徐々に大きくなり、第2突起35が周方向に押される。この第2突起35の移動に伴ってピストン30が周方向に回転することにより、第1突起34が支持台14から外れてガイド13に入り込む。この結果、図12に示すように、ピストン30の係止状態が解除されて、ピストン30がコイルばね20の弾性力により開口12に向かって移動し、マイクロニードル・デバイス90に衝突する。この衝突によりマイクロニードル91が皮膚Sに刺さる。
マイクロニードル・デバイス90に衝突するピストン30の速度は特に限定されないが、例えばその速度の下限は4m/sまたは5m/sでもよく、その速度の上限は30m/s、15m/s以下、または12m/s以下でもよい。その速度が12m/s以下である場合には、一般的に使用されるピストンの速度よりも小さい。すなわち、本実施形態のマイクロニードル・デバイス90が受ける運動量は、マイクロニードル・デバイスが一般的に受ける運動量と比較して小さい。
以上説明したように、本発明の一側面に係るアプリケータは、皮膚にマイクロニードルを適用させるためのアプリケータであって、弾性部材と、該弾性部材の弾性力をマイクロニードルに伝達するピストンとを収容する筒状の筐体と、少なくとも一部が筐体内に収容される持ち上げ機構であって、筐体の軸方向に沿って筐体に向かって移動することで、ピストンを筐体の開口から離れる方向に移動させかつピストンを筐体の周方向に沿って回転させる該持ち上げ機構とを備え、ピストンが、それぞれが径方向外側に向かって延びる複数の拡径部を有し、筐体が支持台を有し、複数の拡径部のうちの第1拡径部が該支持台に載ることで、ピストンが弾性部材の弾性力に抗した状態で固定され、持ち上げ機構が筐体に向かって移動してピストンが回転することで、第1拡径部が支持台に載る。
このような側面においては、使用者は持ち上げ機構を軸方向に沿って筐体に向けて動かすだけで、弾性部材の弾性力に抗してピストンを固定することができる。すなわち、使用者はピストンを作動可能な状態に容易にセットできる。この持ち上げ機構の少なくとも一部は筐体内に収容され、これはアプリケータの小型化に寄与する。以上の理由により、ピストンを作動可能な状態にセットすることが容易な小型のアプリケータを実現できる。
他の側面に係るアプリケータでは、持ち上げ機構が、筐体の周方向に沿って延びる傾斜部を有し、第1拡径部と複数の拡径部のうちの第2拡径部とから選択された一つの拡径部が傾斜部に載った状態で持ち上げ機構が筐体に向かって移動すると、選択された拡径部が傾斜部に沿って滑ることでピストンが回転し、これにより第1拡径部が支持台に載ってもよい。この傾斜部を採用することで、持ち上げ機構によりピストンを回転させる仕組みを簡易な構成で実現できる。
他の側面に係るアプリケータでは、第2拡径部が傾斜部に載った状態で持ち上げ機構が筐体に向かって移動すると、第2拡径部が傾斜部に沿って滑ることでピストンが回転し、これにより第1拡径部が支持台に載ってもよい。支持台に対応する拡径部と傾斜部に対応する拡径部とを別にすることで、個々の拡径部に作用する力が分散されるので、ピストンの製品寿命、ひいてはアプリケータの製品寿命を長くすることが可能になる。
他の側面に係るアプリケータでは、持ち上げ機構が、開口の周縁を覆うリング部と、該リング部から軸方向に沿って延びる筒部とを備え、傾斜部が該筒部の内周面に形成されてもよい。持ち上げ機構がリング部を備えることで、その持ち上げ機構を筐体に向かって動かすことが容易になる。このことはアプリケータの操作性の向上に寄与する。
本発明の一側面に係る穿刺キットは、上記のアプリケータと、複数のマイクロニードルを有するマイクロニードル・デバイスを備え、かつアプリケータに対して着脱可能なカートリッジとを備える。この場合には、カートリッジ(マイクロニードル・デバイス)を取り替えながらアプリケータを使い続けることができる。
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
上記実施形態では第1突起34および第2突起35がピストンの拡径部に相当するが、拡径部は突起または爪のような形状に限定されるものではない。例えば、周方向に沿った長さが大きい拡径部が採用されてもよい。
上記実施形態では、ピストン30が、支持台14に対応する第1突起34と傾斜部44に対応する第2突起35とを備えるが、一つの拡径部が支持台および傾斜部の双方に対応してもよい。例えば、上記実施形態のピストン30の変形として、第2突起を有することなく第1突起を備えるピストンを考える。この変形例において、第1突起が傾斜部に載った状態で持ち上げ機構が筐体に向かって移動すると、第1突起が傾斜部に沿って滑ってピストンが回転し、これによりその第1突起が支持台に載ってもよい。すなわち、ピストンの第1拡径部が傾斜部から支持台に移ることでピストンが係止状態になってもよい。
上記実施形態ではピストン30を回転させるための仕組みとして持ち上げ機構40の傾斜部44を示したが、傾斜部44以外の構造または仕組みによりピストンを回転させてもよい。
持ち上げ機構の構造および形状は上記実施形態に限定されない。例えば、リング部41を持たない持ち上げ機構が用いられてもよい。
マイクロニードル・デバイスの提供方法はカートリッジ100に限定されない。例えば、使用者はマイクロニードル・デバイスそのものを皮膚上に置き、そのマイクロニードル・デバイスにピストン30が当たるようにアプリケータ1を皮膚上に置いた上で、アプリケータ1を作動させてもよい。あるいは、マイクロニードル・デバイスそのものが予めテープや粘着剤などの貼付手段によりピストン30の下面に貼り付けられてもよい。このように、カートリッジを用いることなくマイクロニードル・デバイスが提供されてもよい。
上記実施形態では弾性部材として非線形のコイルばね20を示したが、弾性部材は線形のコイルばねであってもよい。また、弾性部材はばねに限定されるものではなく、ゴムなどの他の弾性体であってもよい。
アプリケータの外観(全体的な形状)および寸法は上記実施形態に限定されない。アプリケータの外観および寸法は、使い易さ、活性成分の投与量、デザイン、マイクロニードル・デバイスの形状などを考慮して任意の方針で決めることができる。例えば、上記実施形態ではアプリケータ1の高さが抑えられているが、アプリケータは縦長であってもよい。また、アプリケータ1は略円柱状であるが、アプリケータは角柱状を呈してもよい。
作動ボタン50が筐体10に向かって押され始めてからピストン30の第1突起34が支持台14から外れるまでの間にコイルばね20がさらに圧縮されるように、アプリケータ1が構成されてもよい。この構成では、持ち上げ機構40によりピストン30が係止状態に遷移した時点ではコイルばね20は最大限に圧縮されず、したがって、該時点でのコイルばね20の弾性力は相対的に小さい。そのため、ユーザはより小さい力でピストン30を係止状態に移すことができる。この変形例でも、作動ボタン50の押下によりコイルばね20がさらに圧縮された上でピストン30が作動するので、上記実施形態と同様にマイクロニードル91は適切な力で皮膚に適用される。
アプリケータの個々の構成要素の具体的な構成は上記実施形態に限定されない。例えば、ピストンの第1突起および第2突起と、筐体のガイドおよび支持台と、持ち上げ機構の傾斜部と、作動ボタンのアーム部とについて、その位置および個数を任意に決めてよい。