JP2020028929A - 立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具 - Google Patents
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Abstract
Description
しかし、cBN焼結体からなるcBN工具に求められる性能は、被削材の種類、加工条件等に応じて異なるので、必要とされる性能に対応させるべく、従来からいくつかの提案がなされている。
そして、前記複合焼結体中において、結合材を構成する相対的に微粒の第1成分は、耐クレータ摩耗性と靭性を低下させるものの、耐衝撃チッピング性を向上すること、一方、結合材を構成する相対的に粗粒の第2成分は、耐衝撃チッピング性を低下させるものの、耐クレータ摩耗性および靭性を向上することから、結合材が前記第1成分と第2成分の組合せからなる複合焼結体は、耐衝撃チッピング性と耐クレータ摩耗性との両者が向上するとされている。
そして、粒径が0.1μm以下の前記第1微粒成分は、耐欠損性を向上させ、一方、粒径が0.1μmより大きく0.25μm以下の第2微粒成分は耐摩耗性を向上させることから、前記複合焼結体の耐欠損性と耐摩耗性が向上するとされている。
そこで、高硬度鋼の断続切削加工条件に供した場合であっても、すぐれた耐クレータ摩耗性と耐チッピング性を発揮するcBN工具の開発が望まれている。
即ち、cBN焼結体の結合相を構成するTi化合物粒子の粒径を微細化した場合には、前述のとおり、耐チッピング性と耐クレータ摩耗性の両立を図ることは困難であるが、cBN焼結体の結合相組織として、結合相中にW成分とCo成分が共存するW−Co相を形成し、さらに、このW−Co相が、Ti化合物粒子の界面およびTi化合物粒子とcBN粒子との界面に存在し、cBN粒子間の熱伝導路を形成するようにcBN粒子相互を繋ぐ組織構造を形成した場合には、cBN焼結体の熱伝導性が向上し、その結果、cBN工具の耐クレータ摩耗性が向上することを見出したのである。
まず、Ti化合物からなる結合相形成用粉末を粉砕し、この粉砕粉に、ナノW粉末とナノCo粉末とcBN焼結体の硬質成分であるcBN粒子粉末の混合粉末を投入したのち混合し、圧粉成形体を作製し、次いで、この圧粉成形体を超高圧焼結条件下で焼結することによって、Ti化合物粒子からなる結合相粒子の界面およびTi化合物粒子とcBN粒子との界面に、W−Co相が存在し、かつ、このW−Co相がcBN粒子相互を繋ぎ熱伝導路の作用をする結合相組織を有するcBN焼結体を作製することができる。
次いで、前記で作製したcBN焼結体を、WC基超硬合金製インサート本体のろう付け部(コーナー部)にろう付けし、必要に応じ、研磨加工、ホーニング加工等を施すことにより、少なくとも刃先が前記cBN焼結体で構成された所望のインサート形状をもったcBN工具を作製することができるのである。
そして、前記で作製したcBN工具は、所定の結合相組織を備えることから、高熱発生を伴い、刃先に高負荷が作用する高硬度鋼の断続切削条件等に供した場合、すぐれた耐チッピング性と耐クレータ摩耗性を兼ね備えるため、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮し、工具の長寿命化が図られる。
「(1)硬質相として立方晶窒化ほう素粒子を含有し、結合相としてTi化合物粒子を含有する立方晶窒化ほう素基焼結体によって少なくとも刃先が形成されている立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具において、
前記Ti化合物粒子の平均粒径は250nm以下であり、
前記Ti化合物粒子の界面およびTi化合物粒子とcBN粒子との界面には、W成分とCo成分が共存するW−Co相が存在し、
前記W−Co相は、立方晶窒化ほう素粒子相互間に途切れることなく存在することで、熱伝達路を構成していることを特徴とする立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。
(2)前記立方晶窒化ほう素基焼結体の断面を走査型電子顕微鏡による元素マッピングで観察した場合、前記W−Co相が途切れずに、W−Co相を介して相互に繋がっている立方晶窒化ほう素粒子の個数は、観察視野に存在する立方晶窒化ほう素粒子の総個数の20%以上であることを特徴とする前記(1)に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。
(3)前記W−Co相を構成するWとCoが、前記立方晶窒化ほう素基焼結体に占める合計含有量は、2質量%以上10質量%以下であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。
(4)前記Ti化合物粒子は、TiN粒子、TiCN粒子およびTiC粒子の内から選ばれる何れか一種または二種以上であることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。」
を特徴とする。
また、本発明のcBN工具は、cBN焼結体の結合相を構成するTi化合物粒子の界面に形成された前記W−Co相が、Ti化合物粒子の粒成長抑制作用を有し、結合相粒子の粗大化を抑制することから、cBN焼結体における結合相粒子の粒径を、例えば、平均粒径250nm以下に微細化することができ、これによって、cBN工具の耐チッピング性を向上させることができ、しかも、結合相粒子が微細であっても、前記W−Co相がcBN粒子間の熱伝導路を形成していることによって、cBN焼結体の熱伝導性が低下することはなく、その結果、cBN工具の耐クレータ摩耗性を低下させることもない。
よって、本発明のcBN工具は、高熱発生を伴い、刃先に高負荷が作用する切削条件に供した場合でも、耐チッピング性、耐摩耗性ともにすぐれ、工具寿命の延命化が図られる。
主たる結合相成分はTi化合物粒子であるが、これに加えて、製造工程で不可避的に混入する不純物成分であるWC等のW化合物、あるいは、焼結時の反応生成物であるAl2O3、AlN、TiAlN等のAl化合物等が結合相中に含有されることは許容される。
本発明のcBN焼結体において、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合が40体積%未満となった場合には、cBN粒子同士が接触し結合相と十分に反応できない未焼結部分の形成は少なくなるが、その反面、cBN焼結体の硬さが低下し、工具としての寿命も低下してしまうため、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、40体積%以上とすることが好ましい。
一方、cBN粒子の含有割合が85体積%を超えるようになると、cBN粒子同士が直接接する部分が多くなることで高熱伝導性を有するものの、切削加工用工具として使用した場合に、焼結体中にクラックの起点となる空隙が生成しやすくなり、耐欠損性が低下するので、cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、85体積%以下とすることが好ましい。
したがって、cBN粒子の含有割合は、40〜85体積%とすることが好ましく、より好ましくは、45〜80体積%である。
また、cBN粒子の含有割合を少なくして、cBN工具としての最高の特性を発揮するのに適したcBN粒子の含有割合は、好ましくは50〜75体積%、より好ましくは、50体積%以上60体積%以下の範囲である。
cBN焼結体に占めるcBN粒子の含有割合は、cBN焼結体の断面をSEMによって観察して得た二次電子像内のcBN粒子に相当する部分を画像処理によって抜き出し、画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出し、その値を画像総面積で除することでcBN粒子の面積比率を算出する。そして、この面積比率を体積%とみなすことで、cBN粒子の含有割合(体積%)を測定することができる。
また、この測定では、SEMで得られた倍率5、000の二次電子像の少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をcBN粒子の含有割合(体積%)としている。
なお、画像処理に用いる観察領域は、cBN粒子の平均粒径の5倍の長さの一辺をもつ正方形の領域とすることが望ましく、例えば、cBN粒子の平均粒径が3μmの場合、15μm×15μm程度、また、cBN粒子の平均粒径が6μmの場合、30μm×30μm程度の観察領域が望ましい。
本発明のcBN焼結体におけるcBN粒子の平均粒径は、特に限定するものではないが、0.2〜8μmの範囲とすることが好ましい。
これは次の理由による。
cBN焼結体を切削加工工具の刃先として使用する場合、平均粒径が0.2〜8μmのcBN粒子が焼結体内に分散することにより、工具使用中に工具表面のcBN粒子が脱落して生じる刃先の凹凸形状を起点とするチッピングの発生を抑制することができる。それに加え、工具使用中に刃先に加わる応力により生じるcBN粒子と結合相との界面から進展するクラック、あるいはcBN粒子を貫通して進展するクラックの伝播を、焼結体中に分散したcBN粒子により抑制することができる。そのため、このような切削加工工具は優れた耐欠損性を有する。
したがって、本発明のcBN焼結体におけるcBN粒子の平均粒径は、0.2〜8μmの範囲とすることが好ましく、より好ましい範囲は、0.5〜6μmである。
cBN粒子の平均粒径の測定・算出は、以下のようにして求めることができる。
cBN焼結体の断面の所定の領域(例えば、cBN粒子の平均粒径3μmの場合、15μm×15μm(cBN粒子の平均粒径の5倍角)の領域)をSEMで観察し二次電子像を得る。得られた画像を2値化処理してcBN粒子に相当する部分を画像処理にて抜き出し、画像解析により抜き出した各粒子に相当する部分の最大長を各粒子の直径として求める。この直径から、各粒子を球として各粒子の体積を計算する。求めた各粒子の体積を基に、粒子径の積算分布を求める。つまり、各粒子について、その体積とその粒子の直径以下の直径を有する粒子の体積の総和を積算値として求める。各粒子について、全粒子の体積の総和に対する各粒子の上記積算値との割合である体積百分率(%)を縦軸とし、横軸を各粒子の直径(μm)としてグラフを描画し、体積百分率が50%となる粒子の直径(メディアン径)の値を1画像におけるcBN粒子の平均粒径とする。そして、少なくとも3画像に対し上記の処理を行って求めた平均粒径の値の平均値を、cBN焼結体のcBN粒子の平均粒径(μm)とする。
本発明のcBN焼結体は、結合相としてTi化合物粒子を含有するが、cBN焼結体の断面を、SEM−EDS(エネルギー分散型X線分析法)を用いて元素分析すると、結合相を構成するTi化合物粒子の界面およびTi化合物粒子とcBN粒子の界面には、W成分とCo成分の存在が検出される。
このことから、結合相を構成するTi化合物粒子の界面およびTi化合物粒子とcBN粒子の界面には、W成分とCo成分とが共存するW−Co相が形成されていることがわかる。
前記W−Co相は、Ti化合物粒子よりも熱伝導率が高く、cBN粒子相互間に途切れなく存在することで、熱伝達路としての機能を備えるため、cBN焼結体の熱伝導性の向上が図られるとともに、結合相粒子の粗大化を抑制することによって、cBN焼結体の強度の維持向上が図られる。
cBN焼結体の熱伝導性を向上させるためには、cBN焼結体の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、元素マッピングを求めた場合、W−Co相を介して相互に繋がっているcBN粒子の個数は、観察視野に存在するcBN粒子の総個数の20%以上、より好ましくは55%以上である。20%未満である場合には、cBN焼結体の熱伝導性向上効果を期待できない。
また、cBN焼結体の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて定性・定量分析を行い、定性分析で検出された元素についてZAF定量分析法によりWとCoの含有量(質量%)を求めた場合、cBN焼結体全体でTi,Al,B,N,C,O,W,Coの合計を100質量%としたときに占めるWとCoの合計含有量は、2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
これは、WとCoの合計含有量が2質量%未満であると、熱伝導性向上効果が得られず、一方、10質量%以上になると、W−Co相の粗大凝集粒が形成され、これがチッピングの発生起点となり、耐チッピング性が低下するという理由による。
結合相を構成するTi化合物粒子の大きさは、cBN焼結体の強度、熱伝導性に影響を与え、平均粒径が250nmを超えると、熱伝導性が向上する反面、cBN焼結体の強度の低下を招き、また、cBN工具として使用した場合にチッピングを発生しやすくなることから、Ti化合物粒子の平均粒径は250nm以下であることが好ましく、50〜200nmの範囲であることがより好ましい。
なお、Ti化合物粒子の平均粒径が250nm以下、あるいは、50〜200nmに微細化され、Ti化合物粒子間の界面の長さが増加した場合であっても、本発明では、cBN粒子相互間に途切れなく存在し、熱伝達路としての機能を備えるW−Co相の存在によって、cBN焼結体の熱伝導性の低下は防止され、その結果、耐クレータ摩耗性の低下が防止される。
まず、cBN焼結体の断面の観察領域を、TEMに付属する結晶方位解析装置を用いて観察する。より具体的に言えば、透過型電子顕微鏡にTi化合物粒子を観察するために結晶粒径と同程度の厚さ(50nm)以下に研磨された切片をセットし、200kVに加速された電子線を前記切片に照射することで、400nm×500nmの範囲で観察を行う。
前記の範囲で結晶方位のマップデータを得る解析方法は以下の通りである。
前記の切片に、0.5〜1.0度に傾けた電子線をPrecession照射しながら、電子線を任意のビーム径及び間隔でスキャンし、連続的に電子線回折パターンを取り込み、個々の測定点の結晶方位を解析する。なお、本測定に用いた回折パターンの取得条件は、カメラ長20cm、ビームサイズ2.2nmで、測定ステップは2.0nmである。
次に、得られた電子線回折パターンから個々の結晶粒を判別するための解析方法は、以下の通りである。
まず、測定点の隣接点同士の結晶方位が5度以上離れている場合に粒界とし、粒界以外の部分を結晶粒、つまりTi化合物粒子と定義した。
この画像を縦4枚×横4枚で連結させて縦1600nm×横2000nmの画像とし、cBN粒子の平均粒径を求めるための前述の手順と同様の手順でTi化合物粒子の平均粒径を求める。
このような測定・算出を複数(3箇所以上)の観察領域で実施し、その平均値を、Ti系化合物粒子の平均粒径(nm)とする。
本発明のcBN焼結体は、前記の結合相組織を有することによりすぐれた熱伝導性を有するが、具体的なcBN焼結体の熱伝導率κの測定法は以下のとおり。
まず、cBN焼結体から測定試料を切り出し、切り出した測定試料の寸法を測定し、次いでアルキメデス法によって密度ρを測定する。
ついで、Xeフラッシュアナライザーを用いたレーザーフラッシュ法によって熱拡散率αと比熱容量CPを測定し、次の式を用いて熱伝導率κを算出する。
熱伝導率κ(W/m・K)
=熱拡散率α(mm2/sec)×密度ρ(g/cm3)×比熱容量CP(J/(K・g)
本発明のcBN焼結体は、好ましくは、0.2〜8μmの平均粒径のcBN粒子と、好ましくは、250nm以下の平均粒径のTi化合物粒子を、好ましくは、cBN粒子の体積割合が40〜85体積%(より好ましくは、50体積%以上60体積%以下)となるように配合した混合粉末を作製し、これを超高圧条件下で焼結することによって作製することができる。
まず、結合相を構成する原料粉末(TiN粉末、TiCN粉末、TiC粉末、TiAl3粉末、Al2O3粉末など)を準備する。これらの原料粉末を、例えば、超硬合金製容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、ボールミルにより粉砕及び混合を行う。
その後、cBN焼結体中でW−Co相を形成するナノW粉末(粒径:800nm以下)とナノCo粉末(粒径:30nm以下)、さらに、cBN焼結体の硬質相となる平均粒径0.2〜8μmのcBN粒子を添加して、さらに、ボールミルによって混合し、混合粉末を得る。
次いで、この混合粉末を、例えば、5GPa以上の圧力、かつ、1200〜1600℃以上の温度の焼結条件で所定時間超高圧焼結することによって、結合相を構成するTi化合物粒子の粒子間界面に、W−Co相が存在する結合相組織が形成されたcBN焼結体を作製することができる。
なお、結合相中には微量のAl化合物、W化合物が形成されていても構わない。
次いで、上記で選択した結合相形成用原料粉末を、例えば、超硬合金製容器内に超硬合金製ボールとアセトンと共に充填し、ボールミルにより96時間〜120時間粉砕及び混合を行う。
次に、cBN粒子粉末とTi化合物粒子粉末の合量を100体積%としたときのcBN粒子粉末の含有割合が50〜75体積%の範囲内となるように平均粒径3μmのcBN粒子を配合し、さらにW−Co相となる平均粒径500nm〜900nmのナノW粉末と平均粒径20nm〜40nmのナノCo粉末を添加した後に、12時間〜24時間湿式混合し、乾燥した。
その後、油圧プレスにて成形圧1MPaで直径:50mm×厚さ:1.5mmの寸法にプレス成形して成形体を得た。
次いで、この成形体を、圧力:1Paの真空雰囲気中、1000〜1300℃の範囲内の所定温度に30〜60分間保持して熱処理し、次いで、通常の超高圧焼結装置に装入し、圧力:5GPa、温度:1400℃の条件で超高圧高温焼結することにより、本発明cBN焼結体1〜11を作製した。
ただし、比較例cBN焼結体1〜3,6,7については、実施例の製造工程における「ナノW粉末およびナノCo粉末を添加する工程」を、「ナノW粉末およびナノCo粉末のいずれも添加しない工程」に変更して、比較例cBN焼結体1〜7を作製した。
ついで、実施例と同様の手法で、ISO規格CNGA120408のインサート形状をもった表2に示す比較例cBN工具1〜7を作製した
cBN粒子の含有割合は、cBN焼結体の断面をSEM−EDSによって観察して得た元素マッピングのcBN粒子に相当する部分を画像処理によって抜き出し、画像解析によってcBN粒子が占める面積を算出し、その値を画像総面積で除することでcBN粒子の面積比率を算出し、そして、この面積比率を体積%とみなすことで、cBN粒子の含有割合(体積%)を測定・算出した。
また、この測定では、SEMで得られた倍率5,000の二次電子像の少なくとも3画像を処理し求めた値の平均値をcBN粒子の含有割合(体積%)とした。
なお、画像処理に用いた観察領域は、cBN粒子の平均粒径の5倍の長さの一辺をもつ正方形の領域(cBN粒子の平均粒径が3μmの場合、15μm×15μm程度の観察領域)とした。
表1、表2に、cBN粒子の含有割合(体積%)を示す。
例えば、図1は、本発明cBN焼結体の断面を、SEM(倍率:50,000倍)−EDSで観察して得た元素マッピングの一例の模式図を示すが、Ti化合物粒子相互の界面にW−Co相が存在することが確認される。
次いで、W−Co相の存在が確認された場合には、W−Co相を介して繋がっているcBN粒子の個数をカウントし、該領域に存在するcBN粒子の全個数に占める割合を求めた。
また、cBN焼結体の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザー)を用いて定性・定量分析を行い、定性分析で検出された元素についてZAF定量分析法によりcBN焼結体全体でTi,Al,B,N,C,O,W,Coの合計を100質量%としたときに占めるWとCoの合計含有量(質量%)を測定した。
表1、表2に、W−Co相を介して繋がっているcBN粒子の個数割合(%)とWとCoが占める合計含有量(質量%)を示す。
cBN焼結体の断面をSEM(倍率:50,000倍)−EDSでW、Co、B、Nの元素マッピングを行い、各マッピング像は対象元素が存在しない部分を黒、存在する部分を白とし、黒を0、白を255の256段調のモノクロ像にて取得し、各々のモノクロ像において元素が存在する位置が白となるように、画像解析ソフトImageJのThresholdツールのAuto機能を用いて閾値を決めて2値化処理を行うことで各元素の元素マッピング像を得る。
図2(a)に示すように得られた像のBとNを重ね、重なった領域を抽出することでBとNの元素マッピング像を得る。同様の手法で、図2(b)に示すように、WとCoを重ね、重なった領域を抽出することでWとCoの元素マッピング像を得る。得られた図2(a)はcBN粒子を抽出した、図2(b)はW-Co相を抽出した像である。図2(a)と図2(b)を重ね合わせることで、cBN粒子とW-Co相が一体化した像である図2(c)が得られる。
次に得られた図2(c)を1ピクセルが2nm角になるように画像編集ソフト(Adobe Photoshop)でサイズ変更する。サイズ変更した図2(c)をグラフ作成ソフト(HULINKS IGOR PRO)で数値のマトリックスに変換する。このとき白い領域のピクセルは数値255、黒い領域のピクセルは数値0となる。得られたマトリックスにおいて、数値255であるピクセルの周りを囲む8つのピクセルのうち1つでも数値255である場合、それら数値255であるピクセルは連続している、つまり元素は連続的に存在していて繋がっていると定義する。言い換えると数値255であるピクセルと数値255であるピクセルの間に数値0であるピクセルが1つでも存在する場合、不連続となり繋がっていないことを意味する。
次にW−Co相を介して繋がっているcBN粒子を数値のマトリックスから求める方法は以下のようになる。
図2(a)を図2(c)と同様に1ピクセルが2nm角になるようにサイズ変更し、数値のマトリックスに変換する。ここで得られたマトリックスの数値255であるピクセルは全てcBN粒子の領域であり、この数値255であるピクセルから任意に1ピクセルを選ぶ。
図2(a)で選んだピクセルと同じ位置の図2(c)のピクセルの数値を例えば255から160に変更する。つまり、図2(c)における任意の1つのcBN領域内の1つのピクセルの数値を255から160に変更する。この変更したピクセルを囲む8つのピクセルのうち数値が255であるピクセルを160に置き換える。ここで160に置き換えられたピクセルを囲む8つのピクセルのうち数値が255であるピクセルを160に置き換える作業を繰り返す。得られた0と160と255の数値のマトリックスを画像として出力する。数値160は灰色となるため、得られる画像は図2(d)、(e)に示すように、灰色であるBN粒子はW-Co相を介して繋がっているcBN粒子であるとし、その個数をカウントし、cBN粒子の総個数から割合を算出する。cBN粒子の総個数は図2(a)を画像解析し、得ることができる。
例えば、図2(c)をW-Co相が途切れている場合、つまり数値が255であるピクセルと数値が255であるピクセルの間に1つ以上の数値が0であるピクセルが存在し不連続になっている場合、図2(e)で示すように繋がっていないcBN粒子は黒のままで灰色に変換されない。
つまり、図2(d)では、4個のcBN粒子のすべてがW−Co相を介して繋がっているとして扱い、一方、図2(e)によれば、4個のcBN粒子の内の3個はW−Co相を介して繋がっているが、残りの1個(図中右上のcBN粒子)はW−Co相を介して繋がってはいないとして扱った。
画像解析ソフトImageJのFlood Fill Toolを用いることで、任意の1つのcBN粒子に対してW-Co相を介して繋がっているcBN粒子を同様に判別することができる。
W−Co相によって繋がっているcBN粒子の個数割合(個数%)は倍率50,000倍で測定し、縦8μmx横12μmになるように画像を連結させて1視野としたのちに画像処理および画像解析を行い、少なくとも3視野の平均値とする。
表1、表2に、W−Co相によって繋がっているcBN粒子の個数割合(個数%)を示す。
まず、cBN焼結体の断面の観察領域を、TEMに付属する結晶方位解析装置を用いて観察する。より具体的に言えば、透過型電子顕微鏡にTi化合物粒子を観察するために結晶粒径と同程度の厚さ(50nm)以下に研磨された切片をセットし、200kVに加速された電子線を前記切片に照射することで、縦400nm×横500nmの範囲で観察を行う。
前記の範囲で結晶方位のマップデータを得る解析方法は以下の通りである。
前記の切片に、0.5〜1.0度に傾けた電子線をPrecession照射しながら、電子線を任意のビーム径及び間隔でスキャンし、連続的に電子線回折パターンを取り込み、個々の測定点の結晶方位を解析する。なお、本測定に用いた回折パターンの取得条件は、カメラ長20cm、ビームサイズ2.2nmで、測定ステップは2.0nmである。
次に、得られた電子線回折パターンから個々の結晶粒を判別するための解析方法は、以下の通りである。
まず、測定点の隣接点同士の結晶方位が5度以上離れている場合に粒界とし、粒界以外の部分を結晶粒、つまりTi化合物粒子と定義した。
この画像を縦4枚×横4枚で連結させて縦1600nmx横2000nmの画像とし、cBN粒子の平均粒径を求めるための前記手順と同様の手順でTi化合物粒子の平均粒径を求める。
このような測定・算出を複数の観察領域(3領域以上)で実施し、その平均値を、Ti系化合物粒子の平均粒径(nm)とする。
表1、表2に、その結果を示す。
cBN焼結体から測定試料を切り出し、切り出した測定試料の寸法を測定し、次いでアルキメデス法によって密度ρを測定する。
ついで、Xeフラッシュアナライザーを用いたレーザーフラッシュ法によって熱拡散率αと比熱容量CPを測定し、次の式を用いて熱伝導率κを算出する。
熱伝導率κ(W/m・K)
=熱拡散率α(mm2/sec)×密度ρ(g/cm3)×比熱容量CP(J/(K・g) 表1、表2に、測定値を示す。
表1、表2に、これらの値を示す。
《切削条件》
被削材:JIS・SCM420の(HRC58−62)丸棒
(ただし、被削材の軸方向に等間隔で2本のスリットあり)
切削速度:150m/min、
送り:0.15mm/rev、
切込み:0.15mm、
の条件での、外周加工の乾式断続切削加工試験を行った。
上記の断続切削加工試験において、耐チッピング性の指標として、刃先チッピング発生までの衝撃回数を測定した。(衝撃回数が大であれば、耐チッピング性は優れると判定される。)
また、耐クレータ摩耗性の指標として、切削開始から150秒経過後のすくい面をレーザー顕微鏡で観察し、予め観察しておいた切削開始前のすくい面との比較からクレータ摩耗の最大深さを測定した。(最大深さが小さいほど、耐クレータ摩耗性は優れると判定される。)
表3、表4に、切削試験結果を示す。
なお、クレータ摩耗良否判定の欄中の記号は、以下を意味する。
◎:耐クレータ摩耗性は優れる(クレータ摩耗の最大深さが20μm未満)
○:耐クレータ摩耗性は良い(クレータ摩耗の最大深さが20μm以上30μm未満)
△:耐クレータ摩耗性は劣る(クレータ摩耗の最大深さが30μm以上40μm未満)
×:耐クレータ摩耗性は非常に劣る(クレータ摩耗の最大深さが40μm以上)
よって、高熱発生を伴い、刃先に高負荷が作用する切削条件下であっても、すぐれた耐チッピング性、耐クレータ摩耗性が長期の使用にわたって発揮される。
これに対して、比較例cBN工具においては、結合相粒子が微細なものであっても、W−Co相が形成されていない場合には熱伝導性の低下により耐クレータ摩耗性が低下し、また、結合相粒子を粗粒にして熱伝導性を高めたものは、チッピング発生により工具寿命が短命であり、さらに、W−Co相を形成したものであっても、結合相粒子が粗粒の場合には、耐クレータ摩耗性に少し改善はみられるものの、耐チッピング性が十分であるとはいえない。
Claims (4)
- 硬質相として立方晶窒化ほう素粒子を含有し、結合相としてTi化合物粒子を含有する立方晶窒化ほう素基焼結体によって少なくとも刃先が形成されている立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具において、
前記Ti化合物粒子の平均粒径は250nm以下であり、
前記Ti化合物粒子の界面およびTi化合物粒子とcBN粒子との界面には、W成分とCo成分が共存するW−Co相が存在し、
前記W−Co相は、立方晶窒化ほう素粒子相互間に途切れることなく存在することで、熱伝達路を構成していることを特徴とする立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。 - 前記立方晶窒化ほう素基焼結体の断面を走査型電子顕微鏡による元素マッピングで観察した場合、前記W−Co相が途切れずに、W−Co相を介して相互に繋がっている立方晶窒化ほう素粒子の個数は、観察視野に存在する立方晶窒化ほう素粒子の総個数の20%以上であることを特徴とする請求項1に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。
- 前記W−Co相を構成するWとCoが、前記立方晶窒化ほう素基焼結体に占める合計含有量は、2質量%以上10質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。
- 前記Ti化合物粒子は、TiN粒子、TiCN粒子およびTiC粒子の内から選ばれる何れか一種または二種以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の立方晶窒化ほう素基焼結体製切削工具。
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