特許文献1の成形面ファスナー70は、上述したように、ダイホイールを備えた成形装置で一次成形体を成形した後、その一次成形体の一次係合素子の上端部を加熱押圧装置で加熱・押圧することによって製造されている。
一方、近年では、成形面ファスナーの生産効率を高めるために、特許文献1の成形面ファスナー70の製造方法で行われていた加熱押圧装置による二次加工工程を行わずに、ダイホイールを備えた成形装置によって、係合頭部が起立部から互いに反対方向に延出して形成される第1係合素子及び第2係合素子を備えた成形面ファスナーを直接成形して製造することが行われている。
この場合、ダイホイールの外周面部に形成する複数のキャビティ空間によって第1係合素子及び第2係合素子の成形が行われるため、各キャビティ空間の形状が、例えば特許文献1で用いるダイホイールのキャビティ空間に比べて、大きく曲がるように形成され、ダイホイールからその成型体を引き剥がす際に引き抜き難い形状となる傾向にあった。
このため、例えば図11及び図12に示すように、反時計回り方向に回転するダイホイール90から成形面ファスナー80を引き剥がす際に、例えば係合頭部82がダイホイール90の回転方向92とは反対向き(すなわち、時計回り方向)に延出する係合素子81をダイホイール90のキャビティ空間91から引き抜く場合は、比較的円滑に引き抜きを行うことが可能である。
一方、係合頭部82がダイホイール90の回転方向92と同じ向きに延出する係合素子81をダイホイール90のキャビティ空間91から引き抜く場合は、係合素子81(特に係合頭部82)がダイホイール90に引っ掛かるため、一対の挟持ローラーによって成形面ファスナー80を引っ張ることによって、ダイホイール90に引っ掛かった係合素子81を強引に(無理矢理に)引き抜くことが行われる。その結果、このように強引に引き抜かれた係合素子81が引き抜き時に変形し、係合頭部82の曲がり具合(曲率)が小さくなることや、係合素子81の基材部からの最大高さ寸法が大きくなることなど等が生じていた。
その結果、製造された成形面ファスナー80と雌型面ファスナーである不織布とを係合させた状態から引っ張って剥離する場合に、成形面ファスナー80における長さ方向の一方側から剥離するときと、長さ方向の他方側から剥離するときとでは、成形面ファスナー80の剪断強度及び剥離強度に大きな差が生じてしまい、成形面ファスナー80に剪断強度及び剥離強度の方向性が発生するという不具合があった。このため、成形面ファスナー80を衣類などの商品に取り付ける際に、剪断強度及び剥離強度の方向性を考慮して成形面ファスナー80を所定の向きで取り付けることが必要となり、取り付け作業の効率を低下させていた。
更に、ダイホイール90から引き剥がされた成形面ファスナー80では、係合頭部が互いに異なる方向を向く第1係合素子と第2係合素子との間で、基材部からの最大高さ寸法が互いに異なっていた。このため、成形面ファスナー80の表面側を触ったときに、ざらざらとした感触があり、成形面ファスナー80の肌触りを低下させるという欠点もあった。
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、加熱押圧装置による二次加工工程を行わずに、ダイホイールを備えた成形装置によって、係合頭部が互いに反対方向に延出する第1係合素子及び第2係合素子を備えた成形面ファスナーを直接製造する方法において、不織布を剥離する方向の違いによる剪断強度の差及び剥離強度の差が生じ難く、また、第1係合素子と第2係合素子との間で最大高さ寸法に差が生じ難い成形面ファスナーを製造することが可能な成形面ファスナーの製造方法を提供すること、及び、その製造方法に用いられるダイホイールを備えた成形装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明により提供される成形面ファスナーの製造方法は、平板状の基材部と、前記基材部における一方の表面に立設される複数の係合素子とを有し、各係合素子は、前記基材部から起立する起立部と、前記起立部の上端部から湾曲しながら延出する係合頭部とを有し、前記係合素子は、前記係合素子の側面視において、前記係合頭部が前記基材部の長さ方向の一方である第1方向に向き、且つ、前記係合素子の素子背面が前記長さ方向の他方である第2方向に向く第1係合素子と、前記係合頭部が前記第2方向に向き、且つ、前記素子背面が前記第1方向に向く第2係合素子とを含む成形面ファスナーを製造する製造方法において、前記係合素子を成形する複数のキャビティ空間が外周面部に形成されたダイホイールを回転させるとともに、前記ダイホイールの前記外周面部に溶融した合成樹脂を流し込むことにより前記成形面ファスナーの成形を行う工程を含み、前記ダイホイールとして、前記キャビティ空間のキャビティ面が、前記第1係合素子の頂端面を形成する第1頂端面形成部と、前記第1係合素子の前記素子背面を形成する第1背面形成部と、前記第2係合素子の頂端面を形成する第2頂端面形成部と、前記第2係合素子の前記素子背面を形成する第2背面形成部とを有し、前記ダイホイールのホイール外周面から前記第1頂端面形成部までの径方向に沿った第1深さ寸法の最大値が、前記ホイール外周面から第2頂端面形成部までの径方向に沿った第2深さ寸法の最大値に対して105%以上120%以下の大きさを有し、前記第1背面形成部が前記ホイール外周面に対して傾斜する第1傾斜角度が、前記第2背面形成部が前記ホイール外周面に対して傾斜する第2傾斜角度よりも小さく、前記第1傾斜角度と前記第2傾斜角度の差が3°以上7°以下であるものを用いることを最も主要な特徴とするものである。
本発明に係る成形面ファスナーの製造方法は、前記ダイホイールとして、それぞれが所要の厚さを備えるとともに前記ダイホイールの回転軸方向に重ねて積層される複数のドーナツ状リングプレートを有し、且つ、前記係合素子の成形に用いる1枚の前記リングプレートの外周縁部には、前記第1係合素子を成形する第1キャビティ空間及び前記第2係合素子を成形する第2キャビティ空間の一方のみが形成されているものを用いることを含むが好ましい。
また本発明の成形面ファスナーの製造方法は、前記ダイホイールとして、それぞれが所要の厚さを備えるとともに前記ダイホイールの回転軸方向に重ねて積層される複数のドーナツ状リングプレートを有し、且つ、前記係合素子の成形に用いる1枚の前記リングプレートの外周縁部には、前記第1係合素子を成形する第1キャビティ空間及び前記第2係合素子を成形する第2キャビティ空間の両方が形成されているものを用いることを含んでいても良い。
本発明に係る成形面ファスナーの製造方法は、前記ダイホイールの外周面部で成形される前記成形面ファスナーを、前記成形面ファスナーを挟持しながら互いに反対方向に回転する一対の挟持ローラーを用いて、前記ダイホイールから引き剥がすことを含むことが好ましい。
次に、本発明により提供される成形装置は、平板状の基材部と、前記基材部における一方の表面に立設される複数の係合素子とを有し、各係合素子は、前記基材部から起立する起立部と、前記起立部の上端部から湾曲しながら延出する係合頭部とを有し、前記係合素子は、前記係合素子の側面視において、前記係合頭部が前記基材部の長さ方向の一方である第1方向に向き、且つ、前記係合素子の素子背面が前記長さ方向の他方である第2方向に向く第1係合素子と、前記係合頭部が前記第2方向に向き、且つ、前記素子背面が前記第1方向に向く第2係合素子とを含む成形面ファスナーの製造に用いられる成形装置において、前記係合素子を成形する複数のキャビティ空間が外周面部に形成されたダイホイールと、前記ダイホイールの前記外周面部に溶融した合成樹脂を流し込むノズル部とを有し、前記キャビティ空間のキャビティ面が、前記第1係合素子の頂端面を形成する第1頂端面形成部と、前記第1係合素子の前記素子背面を形成する第1背面形成部と、前記第2係合素子の頂端面を形成する第2頂端面形成部と、前記第2係合素子の前記素子背面を形成する第2背面形成部とを有し、前記ダイホイールのホイール外周面から前記第1頂端面形成部までの径方向に沿った第1深さ寸法の最大値が、前記ホイール外周面から第2頂端面形成部までの径方向に沿った第2深さ寸法の最大値に対して105%以上120%以下の大きさを有し、前記第1背面形成部が前記ホイール外周面に対して傾斜する第1傾斜角度が、前記第2背面形成部が前記ホイール外周面に対して傾斜する第2傾斜角度よりも小さく、前記第1傾斜角度と前記第2傾斜角度の差が3°以上7°以下であることを最も主要な特徴とするものである。
本発明に係る成形装置において、前記ダイホイールは、それぞれが所要の厚さを備えるとともに前記ダイホイールの回転軸方向に重ねて積層される複数のドーナツ状リングプレートを有し、前記係合素子の成形に用いる1枚の前記リングプレートの外周縁部には、前記第1係合素子を成形する第1キャビティ空間及び前記第2係合素子を成形する第2キャビティ空間の一方のみが形成されていることが好ましい。
また本発明に係る成形装置において、前記ダイホイールは、それぞれが所要の厚さを備えるとともに前記ダイホイールの回転軸方向に重ねて積層される複数のドーナツ状リングプレートを有し、前記係合素子の成形に用いる1枚の前記リングプレートの外周縁部には、前記第1係合素子を成形する第1キャビティ空間及び前記第2係合素子を成形する第2キャビティ空間の両方が形成されていても良い。
本発明に係る成形装置において、前記ダイホイールの外周面部で成形される前記成形面ファスナーを前記ダイホイールから引き剥がす剥離ローラー部が、前記ダイホイールの外周面から離間して配され、前記剥離ローラー部は、前記成形面ファスナーを挟持するとともに互いに反対方向に回転する一対の挟持ローラーを有することが好ましい。
本発明に係る成形面ファスナーの製造方法では、係合素子が、係合素子の側面視において、係合頭部が基材部の長さ方向の一方(第1方向)に向き、且つ、係合素子の係合頭部とは反対側に配される素子背面が長さ方向の他方(第2方向)に向くJ字状の第1係合素子と、係合頭部が上記第2方向に向き、且つ、素子背面が上記第1方向に向くJ字状の第2係合素子とを含む成形面ファスナーを、係合素子を成形する複数のキャビティ空間が外周面部に形成されたダイホイールを回転させるとともに、そのダイホイールの外周面部に溶融した合成樹脂を流し込むことにより成形する工程を行い、且つ、加熱押圧装置による加熱を伴う二次加工工程を行わずに製造する。この場合、ダイホイールに形成されるキャビティ空間には、第1係合素子の成形を行う第1キャビティ空間と、第2係合素子の成形を行う第2キャビティ空間とが含まれる。
また、回転するダイホイールにおいて、複数のキャビティ空間のキャビティ面が、第1係合素子の頂端面を形成する第1頂端面形成部と、第1係合素子の素子背面を形成する第1背面形成部と、第2係合素子の頂端面を形成する第2頂端面形成部と、第2係合素子の素子背面を形成する第2背面形成部とを有する。また、ダイホイールのホイール外周面から第1頂端面形成部までの径方向に沿った第1深さ寸法の最大値が、ホイール外周面から第2頂端面形成部までの径方向に沿った第2深さ寸法の最大値に対して105%以上120%以下の大きさ、好ましくは115%以上120%以下の大きさを有する。更に、第1背面形成部がホイール外周面に対して傾斜する第1傾斜角度が、第2背面形成部がホイール外周面に対して傾斜する第2傾斜角度よりも小さく設定されているとともに、第1傾斜角度と第2傾斜角度の差が3°以上7°以下である。
上述のような関係を有する複数のキャビティ空間を備えたダイホイールを用いて合成樹脂の成形を行うことによって、例えば係合頭部がダイホイールの回転方向とは反対向きに延出する係合素子(第1係合素子)をダイホイールのキャビティ空間(第1キャビティ空間)から円滑に引き抜くことができる。
一方、係合頭部がダイホイールの回転方向と同じ向きに延出する係合素子(第2係合素子)をダイホイールのキャビティ空間(第2キャビティ空間)から引き抜く場合は、係合素子(特に係合頭部)がダイホイールに引っ掛かって変形するものの、当該係合素子の変形を予め考慮して上述のような関係で複数のキャビティ空間が形成されている。このため、第1キャビティ空間から引き抜かれた第1係合素子と、第2キャビティ空間から変形して得られる第2係合素子とを、互いに略対称的な形状で、且つ略同じ大きさで(特に同じ高さ寸法で)、基材部に設けることができる。特に本発明の場合、製造される成形面ファスナーにおける第1係合素子の基材部からの最大高さ寸法と、第2係合素子の基材部からの最大高さ寸法との間の差を、30μm以下に、好ましくは15μm以下に小さくすることができる。
それによって、製造された成形面ファスナーと雌型面ファスナーであるニットループ又は不織布等のループ部材とを係合させた状態から引っ張って剥離する場合に、長さ方向の一方側から剥離するときと、長さ方向の他方側から剥離するときとの間にて、成形面ファスナーの剪断強度及び剥離強度に差を生じさせ難くすることができる。このため、製造された成形面ファスナーを、衣類などの商品に取り付ける際に、剪断強度及び剥離強度の方向性を考慮しなくても良くなるため、成形面ファスナーの取り付け作業性を向上させるとともに、その取り付け作業を効率化することができる。また、成形面ファスナーの剪断強度及び剥離強度において方向性の強弱を小さくできる又は無くすことができることにより、製造される成形面ファスナーが所望の品質をより安定して備えることができる。
更に、本発明の製造方法によって製造される成形面ファスナーでは、第1係合素子の基材部からの最大高さ寸法と、第2係合素子の基材部からの最大高さ寸法との間の差を上述のように小さくすることができるため、成形面ファスナーの表面側において良好な肌触りを安定して得ることができる。
このような本発明の製造方法において、成形面ファスナーの成形を行うダイホイールとして、それぞれが所要の厚さを備えるとともにダイホイールの回転軸方向に重ねて積層される複数のドーナツ状リングプレートを有する。また、係合素子の成形に用いる1枚のリングプレートの外周縁部に、第1係合素子の成形を行う第1キャビティ空間及び第2係合素子の成形を行う第2キャビティ空間のうちの一方のみが形成されているダイホイールを用いる。これにより、1枚のリングプレートにキャビティ空間を所定の形成ピッチで安定して形成でき、また、その形成ピッチの制御も行い易くすることができる。これにより、成形面ファスナーの基材部に第1係合素子や第2係合素子を所要の形成密度で安定して設けることができるため、所望の品質を安定して有する成形面ファスナーを円滑に製造することができる。
また、本発明の製造方法において、成形面ファスナーの成形を行うダイホイールとしては、それぞれが所要の厚さを備えるとともにダイホイールの回転軸方向に重ねて積層される複数のドーナツ状リングプレートを有しており、且つ、係合素子の成形に用いる1枚のリングプレートの外周縁部に、第1キャビティ空間及び第2キャビティ空間の両方が形成されているダイホイールを用いることもできる。
これにより、基材部の長さ方向に沿って形成される1列の素子列に第1係合素子と第2係合素子とが様々なパターンで混在した成形面ファスナーを製造することができる。その結果、例えば種々のループ部材毎に、より適切に係合することが可能な最適な成形面ファスナーを製造することも可能となる。また、ダイホイールを形成する複数のリングプレートを、第1キャビティ空間及び第2キャビティ空間が互いに同じ形成パターンで設けられるように形成することが可能となるため、ダイホイールの作製費用等の削減を図ることができる。
本発明の製造方法では、ダイホイールの外周面部で成形される成形面ファスナーを、成形面ファスナーを挟持しながら互いに反対方向に回転する一対の挟持ローラーを用いて、ダイホイールから引き剥がす。この場合、一対の挟持ローラーに加熱手段等は設けられていない。
このように成形面ファスナーを一対の挟持ローラーで引っ張ることによりダイホイールから円滑に安定して引き剥がすことができる。また、成形面ファスナーを一対の挟持ローラー間で挟持することによって、第1係合素子及び第2係合素子を上方から同じように押さえ付けることができるため、第1係合素子の基材部からの最大高さ寸法と、第2係合素子の基材部からの最大高さ寸法との間の差をより小さくすることが可能となる。
本発明の製造方法では、ダイホイールの外周面部で成形される成形面ファスナーを、成形面ファスナーを挟持しながら互いに反対方向に回転する一対の挟持ローラーを用いて、ダイホイールから引き剥がす。この場合、一対の挟持ローラーに加熱手段等は設けられていない。
このように成形面ファスナーを一対の挟持ローラーで引っ張ることによりダイホイールから円滑に安定して引き剥がすことができる。また、成形面ファスナーを一対の挟持ローラー間で挟持することによって、第1係合素子及び第2係合素子を上方から同じように押さえ付けることができるため、第1係合素子の基材部からの最大高さ寸法と、第2係合素子の基材部からの最大高さ寸法との間の差をより小さくすることが可能となる。
次に、本発明に係る成形装置は、複数のキャビティ空間が外周面部に形成されたダイホイールと、ダイホイールの外周面部に向けて溶融した合成樹脂を流し込むノズル部とを有する。この場合、ダイホイールに形成されるキャビティ空間には、第1係合素子の成形を行う第1キャビティ空間と、第2係合素子の成形を行う第2キャビティ空間とが含まれる。
また、このダイホイールでは、複数のキャビティ空間のキャビティ面が、第1係合素子の頂端面を形成する第1頂端面形成部と、第1係合素子の素子背面を形成する第1背面形成部と、第2係合素子の頂端面を形成する第2頂端面形成部と、第2係合素子の素子背面を形成する第2背面形成部とを有する。また、ダイホイールのホイール外周面から第1頂端面形成部までの径方向に沿った第1深さ寸法の最大値が、ホイール外周面から第2頂端面形成部までの径方向に沿った第2深さ寸法の最大値に対して105%以上120%以下の大きさ、好ましくは115%以上120%以下の大きさを有する。更に、第1背面形成部がホイール外周面に対して傾斜する第1傾斜角度が、第2背面形成部がホイール外周面に対して傾斜する第2傾斜角度よりも小さく設定されているとともに、第1傾斜角度と第2傾斜角度の差が3°以上7°以下である。
このような本発明の成形装置では、上記関係を有する複数のキャビティ空間を有するダイホイールを用いて合成樹脂の成形を行うことにより、係合頭部が起立部から長さ方向の一方に向けて延出する第1係合素子と、係合頭部が起立部から長さ方向の他方に向けて延出する第2係合素子とを有する成形面ファスナーを、加熱押圧装置による二次加工工程を行わずに製造する場合に、係合頭部がダイホイールの回転方向とは反対向きに延出する係合素子(第1係合素子)をダイホイールのキャビティ空間(第1キャビティ空間)から円滑に引き抜くことができる。
一方、係合頭部がダイホイールの回転方向と同じ向きに延出する係合素子(第2係合素子)をダイホイールのキャビティ空間(第2キャビティ空間)から引き抜く場合は、係合素子(特に係合頭部)がダイホイールに引っ掛かって係合素子が変形する。しかし、当該係合素子の変形を予め考慮して上述のような関係で第1キャビティ空間及び第2キャビティ空間が形成されているため、第1キャビティ空間から引き抜かれた第1係合素子と、第2キャビティ空間から変形して得られる第2係合素子とを、互いに略同じ形状及び略同じ大きさで基材部に設けることができる。特に本発明の場合、製造される成形面ファスナーにおける第1係合素子の基材部からの最大高さ寸法と、第2係合素子の基材部からの最大高さ寸法との間の差を、30μm以下に、好ましくは15μm以下に小さくすることができる。
それによって、本発明の成形装置により製造された成形面ファスナーと雌型面ファスナーであるループ部材とを係合させた状態から引っ張って剥離する場合に、長さ方向の一方側から剥離するときと、長さ方向の他方側から剥離するときとの間にて、成形面ファスナーの剪断強度及び剥離強度に差を生じさせ難くすることができる。このため、製造された成形面ファスナーを、衣類などの商品に取り付ける際に、剪断強度及び剥離強度の方向性を考慮しなくても良くなるため、成形面ファスナーの取り付け作業性を向上させるとともに、その取り付け作業を効率化することができる。更に、製造された成形面ファスナーの表面側において、良好な肌触りを安定して得ることができる。
このような本発明の成形装置において、ダイホイールは、それぞれが所要の厚さを備えるとともにダイホイールの回転軸方向に重ねて積層される複数のドーナツ状リングプレートを有する。また、係合素子の成形に用いる1枚のリングプレートの外周縁部には、第1係合素子の成形を行う第1キャビティ空間及び第2係合素子の成形を行う第2キャビティ空間のうちの一方のみが形成されている。これにより、1枚のリングプレートにキャビティ空間を所定の形成ピッチで安定して形成でき、また、その形成ピッチの制御も行い易くすることができる。これにより、成形面ファスナーの基材部に、第1係合素子や第2係合素子を所要の形成密度で安定して設けることができるため、所望の品質を安定して有する成形面ファスナーを円滑に製造することができる。
また、本発明の成形装置では、ダイホイールが、それぞれが所要の厚さを備えるとともにダイホイールの回転軸方向に重ねて積層される複数のドーナツ状リングプレートを有し、且つ、係合素子の成形に用いる1枚のリングプレートの外周縁部には、第1キャビティ空間及び第2キャビティ空間の両方が形成されていても良い。
このような成形装置によれば、基材部の長さ方向に沿って形成される1列の素子列に第1係合素子と第2係合素子とが様々なパターンで混在した成形面ファスナーを製造することができる。その結果、例えば種々のループ部材毎に、より適切に係合することが可能な最適な成形面ファスナーを製造することも可能となる。また、ダイホイールを形成する複数のリングプレートを、第1キャビティ空間及び第2キャビティ空間が互いに同じ形成パターンで設けられるように形成することが可能となるため、ダイホイールの作製費用等の削減を図ることができる。
本発明の成形装置では、ダイホイールの外周面部で成形される成形面ファスナーをダイホイールから引き剥がす剥離ローラー部が、ダイホイールの外周面から離間して配されている。また、この剥離ローラー部は、成形面ファスナーを挟持するとともに互いに反対方向に回転する一対の挟持ローラーを有する。
このような剥離ローラー部を本発明の成形装置が有することにより、成形面ファスナーをダイホイールから円滑に安定して引き剥がすことができる。また、成形面ファスナーを一対の挟持ローラー間で挟持することによって、第1係合素子及び第2係合素子を上方から同じように押さえ付けることができる。このため、第1係合素子の基材部からの最大高さ寸法と、第2係合素子の基材部からの最大高さ寸法との間の差をより小さくすることが可能となる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。例えば、以下の実施形態において、成形面ファスナーに設けられる第1係合素子及び第2係合素子の個数、配設位置、及び取り付けピッチなどは特に限定されるものではなく、任意に変更することが可能である。
図1は、本実施形態において、成形面ファスナーの製造方法で用いる製造装置を模式的に示す模式図である。図2は、成形面ファスナーを成形するダイホイールのホイール部を模式的に説明する模式図である。図3及び図4は、ダイホイールの外周縁部に設けられる第1キャビティ空間及び第2キャビティ空間をそれぞれ拡大して示す断面図である。図5は、本実施形態で製造される成形面ファスナーを示す斜視図であり、図6は、図5に示した成形面ファスナーの一部を拡大して示す側面図である。
なお、以下の説明において、成形面ファスナーについての前後方向とは、後述するように長尺に成形される成形面ファスナー(特に基材部)の長さ方向である。また、前後方向は、成形面ファスナーの製造工程において成形面ファスナーが成形及び搬送される機械方向(M方向)MDに沿った方向である。
成形面ファスナーの左右方向とは、長さ方向に直交し、且つ、成形面ファスナーの基材部の上面(又は下面)に沿った幅方向である。この場合、左右方向及び幅方向は、機械方向MDに直交する直交方向(C方向)CDである。上下方向(高さ方向)とは、長さ方向に直交し、且つ、成形面ファスナーの基材部の上面(又は下面)に直交する高さ方向である。
図5及び図6に示した本実施形態の製造方法で製造される成形面ファスナー1は、図1に示す成形装置11を備えた製造装置10を用いて、熱可塑性を備えた合成樹脂の成形を行うことにより製造されている。この成形面ファスナー1は、平面視において、製造装置10の機械方向MDに細長く延びた長尺の形状に製造される。
なお、本発明の成形面ファスナー1の長さ寸法及び幅寸法は特に限定されず、例えば成形面ファスナー1を適宜切断することにより、任意に変更することができる。また、成形面ファスナー1を形成する合成樹脂の種類も特に限定されないが、成形面ファスナー1の材質としては、例えばポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート、又はそれらの共重合体などの熱可塑性樹脂を好適に採用できる。
製造される成形面ファスナー1は、薄い平板状の基材部30と、その基材部30の上面に立設される複数の係合素子40と、幅方向(直交方向)に隣接する係合素子40間に配される補強リブ45とを有する。基材部30は、適切な強度が得られる所定の厚さを有して形成されており、基材部30の上面と下面は、平坦で互いに平行に形成されている。
本実施形態の係合素子40は、成形面ファスナー1を幅方向から見た側面視において、略逆J字を呈する形状を有する。また、各係合素子40は、基材部の上面から上方に向けて立ち上がる起立部43と、起立部43の上端部から長さ方向に湾曲しながら延出する係合頭部44とを有する。係合素子40は、係合素子40を幅方向側から見た側面視において(図6を参照)、係合頭部44の延出方向に向く素子正面43aと、素子正面43aの反対側に配される素子背面43bと、上方に露呈するとともに機械方向MDに沿って凸条に湾曲する頂端面(上面)44aとを有する。
係合素子40の素子正面43aは、係合素子40の側面視において、基材部30の上面に滑らかに連続するように湾曲面状に形成される基端側正面と、係合頭部44の下面に滑らかに連続するように湾曲面状に形成される頭部側正面と、基端側正面及び頭部側正面間に配される略平面状の中央正面とを有する。
係合素子40の素子背面43bは、素子正面43aと同様に、基材部30の上面に滑らかに連続するように湾曲面状に形成される基端側背面と、係合頭部44の上面に滑らかに連続するように湾曲面状に形成される頭部側背面と、基端側背面及び頭部側背面間に配される中央背面とを有する。この場合、起立部43の素子背面43bにおける中央背面は、係合素子40の側面視において直線状を呈するような平面に形成されている。
本実施形態におけるJ字状の係合素子40には、係合頭部44が起立部43から長さ方向の一方である後方(第1方向)に向けて延出し、素子背面43bが長さ方向の他方である前方(第2方向)を向く第1係合素子41と、係合頭部44が起立部43から長さ方向の他方である前方(第2方向)に向けて延出し、素子背面43bが長さ方向の一方である後方(第1方向)を向く第2係合素子42とが含まれている。
この場合、第1係合素子41の形状と第2係合素子42の形状とを比べてみると、第1係合素子41は、第2係合素子42に対し、第2係合素子42の形状を長さ方向に直交する平面で反転させたような略面対称な形状を有する。なお本発明では、長さ方向の一方(後方)の向きを正方向と、長さ方向の他方(前方)の向きを逆方向と言うこともできる。
本実施形態の成形面ファスナー1において、係合頭部44が後方に向く複数の第1係合素子41は、長さ方向(機械方向MD)に沿って、一定の間隔(形成ピッチ)で1列に整列して配されていることにより、第1素子列46が形成されている。また、複数の第1素子列46が、幅方向(直交方向CD)に一定の間隔を開けて、互いに平行に設けられている。
また、第2係合素子42も第1係合素子41と同様に、複数の第2係合素子42が、長さ方向(機械方向MD)に沿って、一定の間隔(形成ピッチ)で1列に整列して配されていることにより、第2素子列47が形成されているとともに、複数の第2素子列47が、幅方向(直交方向CD)に一定の間隔を開けて、互いに平行に設けられている。
特に本実施形態の場合、第1素子列46と第2素子列47とが、幅方向に沿って1列ずつ交互に設けられている。また、第1係合素子41及び第2係合素子42は、第1素子列46及び第2素子列47のそれぞれに、互いに同じ形成ピッチで長さ方向に沿って配されている。この場合、第1係合素子41と第2係合素子42とは、互いに長さ方向の略同じ位置(対応する位置)に配置されており、成形面ファスナー1を幅方向の外側から見た側面視(図6)において、第1係合素子41の起立部43と第2係合素子42の起立部43とは、互いに略重なり合うように設けられている。
幅方向に隣り合って配される第1係合素子41と第2係合素子42との間には、本実施形態の補強リブ45が設けられている。各補強リブ45は、第1係合素子41及び第2係合素子42に連結して、第1係合素子41及び第2係合素子42と一体的に形成されている。このため、本実施形態の場合、成形面ファスナー1の幅方向には、第1素子列46、補強リブ45が配されるリブ形成列、第2素子列47、及び補強リブ45が配されるリブ形成列が、順番に繰り返して設けられている。
上述のような補強リブ45が設けられていることにより、第1係合素子41及び第2係合素子42の強度を高めることができる。なお本発明において、補強リブ45の形状や大きさは特に限定さるものではなく、任意に変更することが可能である。また、本発明の成形面ファスナー1は、補強リブ45を設けずに形成されていても良い。
上述のような第1係合素子41及び第2係合素子42を有する本実施形態の成形面ファスナー1は、図1に示した製造装置10を用いて製造される。
この図1に示した成形面ファスナー1の製造装置10は、熱可塑性の合成樹脂を用いて成形面ファスナー1を成形する成形装置11によって形成されており、本実施形態の製造装置10には、例えば後述するダイホイール12で成形された成形体に対し、加熱及び押圧を行うことによって成形体の一部を塑性変形させるような二次加工を行う加熱押圧装置が設置されていない。
本実施形態の成形装置11(製造装置10)は、一方向に駆動回転するダイホイール12と、ダイホイール12の外周面に対向して配置されるとともに溶融した合成樹脂を連続的に押し出してダイホイール12の外周面部に流し込むことが可能な押出ノズル部13と、押出ノズル部13よりもダイホイール12の回転方向18の下流側に位置するとともにダイホイール12の外周面から離間して配される剥離ローラー部14(ピックアップローラー部と呼ばれることもある)とを有する。
成形装置11のダイホイール12は、金型部材となるホイール部15と、ホイール部15を所定の速度で一方向に回転させる回転駆動ローラー16とを有する。回転駆動ローラー16は、ホイール部15を形成する後述の複数のリングプレート20を、同心状に同時に且つ同じ回転速度で回転させることが可能である。
ホイール部15は、図2に示すように、所要の厚さを有する複数のドーナツ状のリングプレート(金型プレート)20を、ダイホイール12の回転軸方向に重ねて積層することによって、中心部が刳り貫かれたような円柱状に形成されている。この場合、複数のリングプレート20の内径及び外径は、互いに同じ大きさに設定されている。
ダイホイール12におけるホイール部15の外周面部には、成形面ファスナー1の上述した係合素子40(第1係合素子41及び第2係合素子42)と補強リブ45とを成形するための複数のキャビティ空間25が形成されている。この場合、1枚のリングプレート20に設けられる各キャビティ空間25は、例えば図3及び図4に示すように、第1係合素子41、第2係合素子42、及び補強リブ45の何れか1つの部分を成形可能に形成されており、例えば1つの第1係合素子41と1つの補強リブ45の両方を同時に成形するようには形成されていない。各リングプレート20におけるそれぞれのキャビティ空間25は、ワイヤーカット放電加工、レーザ加工、エッチング加工など従来から公知の技術によって、リングプレート20の外周縁部の所定の位置に設けられている。
このダイホイール12のホイール部15において、成形面ファスナー1の長さ方向に沿って設けられる各第1素子列46は、図3に示すような第1係合素子41を成形するための複数の第1キャビティ空間26が形成された1枚のリングプレート20を用いて形成される。また、成形面ファスナー1における各第2素子列47及び各リブ形成列についても同様に、第2係合素子42を成形するための複数の第2キャビティ空間27が形成された1枚のリングプレート20、及び補強リブ45を成形するための複数の図示しない第3キャビティ空間25(リブ用キャビティ空間25)が形成された1枚のリングプレート20をそれぞれ用いて形成される。
すなわち、本実施形態のダイホイール12において、1枚のリングプレート20の外周縁部には複数のキャビティ空間25が形成されているものの、1枚のリングプレート20に1つの種類のキャビティ空間25しか形成されておらず、1枚のリングプレート20に形成される複数のキャビティ空間25は、互いに同じ形状を有する。
またこの場合、本実施形態のダイホイール12の直交方向CDにおいて、成形面ファスナー1の第1素子列46、第2素子列47、及びリブ形成列を実際に成形する成形範囲では、複数の第1キャビティ空間26のみが外周縁部に形成された図3に示す第1リングプレート21(正方向リングプレートと言うこともできる)、複数の第3キャビティ空間25のみが外周縁部に形成された図示しないリブ用リングプレート、複数の第2キャビティ空間27のみが外周縁部に形成された図4に示す第2リングプレート22(逆方向リングプレートと言うこともできる)、及び複数の第3キャビティ空間25のみが外周縁部に形成された図示しないリブ用リングプレートが、ダイホイール12の回転軸方向に順番に繰り返して重ね合わされている。
なお本発明では、成形面ファスナー1の各第1素子列46、各第2素子列47、及び各リブ形成列を成形するために、1枚のリングプレート20のみを用いるのではなく、互いに同じ形状を有するとともにダイホイール12の回転軸方向に直接重ね合わされる複数枚のリングプレート20を用いることも可能である。
本実施形態において、第1リングプレート21に設けられる各第1キャビティ空間26は、図3に示すように、第1リングプレート21の外周面21aから径方向の内側に向けて切り込まれた形状に形成されている。また、第1キャビティ空間26は、第1リングプレート21の外周縁部に、第1リングプレート21の周方向に一定の形成ピッチ(等間隔)で形成されている。
ここで、リングプレート20に設けるキャビティ空間25の形成ピッチとは、1つのキャビティ空間25における所定部位(例えば第1リングプレート21の外周面21aに開口する第1キャビティ空間26の開口部における周方向の一端部)と、その空間に対してリングプレート20の周方向に隣接して設けられる次のキャビティ空間25における所定部位との間の周方向に沿った離間距離を言う。また、第1リングプレート21の外周面21a及び後述する第2リングプレート22の外周面22aは、ダイホイール12の外周面を形成する。
各第1キャビティ空間26は、図3に示すように第1リングプレート21を回転軸方向側から見たときに、第1係合素子41の側面視における形状と略対応する形状を呈する。すなわち、各第1キャビティ空間26は、第1係合素子41の起立部43を成形する起立側空間部26aと、第1係合素子41の係合頭部44を成形する湾曲した頭部側空間部26bとを有しており、第1キャビティ空間26の頭部側空間部26bは、起立側空間部26aから、ダイホイール12の回転方向18とは反対の方向に向けて延びている。
この第1キャビティ空間26のキャビティ面は、第1係合素子41における上述した素子背面43bの平面状の部分(中央背面)を成形する第1背面形成部(第1背面形成面)26cと、第1係合素子41における上述した頂端面44aを成形する第1頂端面形成部(第1頂端面形成面)26gとを少なくとも有する。
第1リングプレート21において、第1リングプレート21の外周面21aから第1キャビティ空間26の第1頂端面形成部26gまでの径方向に沿った寸法を第1深さ寸法とした場合、第1深さ寸法の最大値D1は、第1リングプレート21の外周面21aから第1キャビティ空間26の最深部までの径方向に沿った寸法である。以下、第1深さ寸法の最大値D1を、第1最大深さ寸法D1と略記する。本実施形態において、第1キャビティ空間26の第1最大深さ寸法D1は、第1係合素子41における基材部30の上面からの高さ寸法(高さ方向の寸法)の最大値と略同じ大きさを有する。
例えば本実施形態において、第1キャビティ空間26の第1最大深さ寸法D1は、0.70mm以上0.95mm以下に設定されている。また、第1キャビティ空間26の先端部において、第1リングプレート21の外周面21aから第1キャビティ空間26の先端部下面までの径方向に沿った寸法の最小値R1は、0.50mm以上0.70mm以下に設定されている。
なおこの場合、第1キャビティ空間26の先端部とは、第1係合素子41の係合頭部44を成形する空間部(頭部側空間部26b)のうち、第1リングプレート21の外周面21aと係合頭部44の下面を形成するキャビティ面との間の間隔が最も大きくなる部位よりも先端側の領域を言う。また、キャビティ空間25における上下方向とは、リングプレート20の径方向に沿った方向を言い、特に、リングプレート20の中心に向かう径方向に沿った方向を上方とし、リングプレート20の外周面に向かう径方向に沿った方向を下方とする。
第1キャビティ空間26において、上述した第1背面形成部26cは、第1係合素子41の素子背面43bの面形状に対応して、平面状に形成されている。この場合、平面状の第1背面形成部26cが第1リングプレート21の外周面21aに対して傾斜する角度を第1傾斜角度(第1背面傾斜角度)θ1と規定した場合、平面状の第1背面形成部26cは、第1傾斜角度θ1が100°以上110°以下を示すように、第1リングプレート21の外周面21aに対して斜めに形成されている。
またこの場合、第1キャビティ空間26の平面状の第1背面形成部26cと第1リングプレート21の外周面21aとは、図3に示した断面において、湾曲面状のキャビティ面26dを介して滑らかに連続して形成されている。更に第1キャビティ空間26において、平面状の第1背面形成部26cと、第1係合素子41の係合頭部44の頂端面を成形する第1頂端面形成部26gとの間には、図3に示した断面において、湾曲面状のキャビティ面26eが形成されている。また、第1係合素子41における上述した素子正面43aの上端部分(頭部側正面)を成形する正面側上部キャビティ面と、第1キャビティ空間26の先端部下面との間には、図3に示した断面において、下方に向いた湾曲面状のキャビティ面26fが形成されている。
本実施形態のダイホイール12において、第2リングプレート22に設けられる各第2キャビティ空間27は、図4に示すように、第2リングプレート22の外周面22aから径方向の内側に向けて切り込まれた形状に形成されている。また、第2キャビティ空間27は、第2リングプレート22の外周縁部に、第2リングプレート22の周方向に一定の形成ピッチ(等間隔)で形成されている。第2キャビティ空間27は、第2リングプレート22を回転軸方向側から見たときに、第2係合素子42の側面視における形状とは異なる形状を呈し、また、上述した第1リングプレート21の第1キャビティ空間26を周方向に反転させたときの形状とも異なる形状を呈する。
すなわち、本実施形態の成形装置11では、後述するようにダイホイール12の外周面部で成形面ファスナー1を成形するとともにその成形面ファスナー1をダイホイール12から引き剥がす場合、第2キャビティ空間27から第2係合素子42を引き抜くときに、当該第2係合素子42に変形を生じさせる。このため、第2リングプレート22では、第2係合素子42の引き抜き時に生じる変形を考慮して、変形した後の第2係合素子42と、第1リングプレート21の第1キャビティ空間26からスムーズに引き抜かれた第1係合素子41とが互いに略対称的な形状を有するように、第2キャビティ空間27が以下のような形状及び大きさで形成されている。
具体的に説明すると、本実施形態の第2キャビティ空間27は、第2係合素子42の起立部43に対応する部分を成形する起立側空間部27aと、第2係合素子42の係合頭部44に対応する部分を成形する湾曲した頭部側空間部27bとを有する。この場合、第2キャビティ空間27の頭部側空間部27bは、起立側空間部27aから、ダイホイール12の回転方向18と同じ方向に向けて延びている。
また、第2キャビティ空間27の頭部側空間部27bは、第2係合素子42の係合頭部44に比べて、より大きく湾曲した形状に形成されている。このため、第2キャビティ空間27の先端部下面と第2リングプレート22の外周面22aとの間の間隔は、成形される第2係合素子42の係合頭部44の先端部と基材部30の上面との間の間隔よりも小さい。
この第2キャビティ空間27のキャビティ面は、第2係合素子42における上述した素子背面43bの平面状の部分(中央背面)を成形する第2背面形成部(第2背面形成面)27cと、第2係合素子42における上述した頂端面44aを成形する第2頂端面形成部(第2頂端面形成面)27gとを少なくとも有する。
第2リングプレート22において、第2リングプレート22の外周面22aから第2キャビティ空間27の第2頂端面形成部27gまでの径方向に沿った寸法を第2深さ寸法とした場合、第2深さ寸法の最大値D2は、第2リングプレート22の外周面22aから第2キャビティ空間27の最深部までの径方向に沿った寸法である。以下、第2深さ寸法の最大値D2を、第2最大深さ寸法D2と略記する。本実施形態において、第2キャビティ空間27の第2最大深さ寸法D2は、上述した第1キャビティ空間26の第1最大深さ寸法D1の83%以上87%以下の大きさを有する。言い換えると、第1キャビティ空間26の第1最大深さ寸法D1は、第2キャビティ空間27の第2最大深さ寸法D2の105%以上120%以下(好ましくは115%以上120%以下)の大きさを有する。
より具体的には、第2キャビティ空間27の第2最大深さ寸法D2は、第1キャビティ空間26の第1最大深さ寸法D1の83%以上87%以下で、且つ、0.60mm以上0.85mm以下の範囲内で設定されている。特にこの場合、第2キャビティ空間27の第2最大深さ寸法D2は、第1キャビティ空間26の第1最大深さ寸法D1の約86%に設定されている。言い換えると、第1キャビティ空間26の第1最大深さ寸法D1は、第2キャビティ空間27の第2最大深さ寸法D2の約116%の大きさに設定されている。
また、第2キャビティ空間27の先端部において、第2リングプレート22の外周面22aから第2キャビティ空間27の先端部下面までの径方向に沿った寸法の最小値R2は、0.30mm以上0.55mm以下に設定されている。
第2キャビティ空間27において、上述した第2背面形成部27cは、第2係合素子42の素子背面43bの面形状に対応して、平面状に形成されている。この場合、第2キャビティ空間27の第2背面形成部27cが第2リングプレート22の外周面22aに対して傾斜する角度を第2傾斜角度(第2背面傾斜角度)θ2と規定した場合、第2キャビティ空間27の第2傾斜角度θ2は、上述した第1キャビティ空間26の第1傾斜角度θ1に対して、3°以上7°以下の角度差を有して大きくなるように設定されている。言い換えると、第1キャビティ空間26の第1傾斜角度θ1は、第2キャビティ空間27の第2傾斜角度θ2に対して、3°以上7°以下の角度差を有して小さくなるように設定されている。
例えば本実施形態において、第2キャビティ空間27の第2傾斜角度θ2は、第1キャビティ空間26の第1傾斜角度θ1に対して3°以上7°以下の角度差を有して大きくなり、且つ105°以上115°以下を示すように設定されている。具体的には、第1キャビティ空間26の第1傾斜角度θ1が例えば106°に設定されているのに対し、第2キャビティ空間27の第2傾斜角度θ2は、110°に、すなわち、第1キャビティ空間26の第1傾斜角度θ1よりも4°大きい角度に設定されている。言い換えれば、第1キャビティ空間26の第1傾斜角度θ1は、第2キャビティ空間27の第2傾斜角度θ2よりも4°小さい角度に設定されている。
またこの場合、第2キャビティ空間27の平面状の第2背面形成部27cと第2リングプレート22の外周面22aとは、図4に示した断面において、湾曲面状のキャビティ面27dを介して滑らかに連続して形成されている。更にこの第2キャビティ空間27において、平面状の第2背面形成部27cと、第2係合素子42の係合頭部44の頂端面を成形する第2頂端面形成部27gとの間には、図4に示した断面において、湾曲面状のキャビティ面27eが形成されている。また、第2係合素子42における上述した素子正面43aの上端部分(頭部側正面)を成形する正面側上部キャビティ面と、第2キャビティ空間27の先端部下面との間には、図4に示した断面において、下方に向いた湾曲面状のキャビティ面27fが形成されている。
本実施形態の成形装置11において、ダイホイール12の回転駆動ローラー16の内部には、冷却液を流通させる図示しない冷却ジャケットが設けられている。これによって、ダイホイール12の外周面部で成形される成形面ファスナー1を効率的に冷却することができる。
成形装置11の剥離ローラー部14は、ダイホイール12の周面部で成形される成形体を上下から挟持して引っ張る一対の上側挟持ローラー14a及び下側挟持ローラー14bを有する。上側挟持ローラー14aと下側挟持ローラー14bとは所定の間隔を開けて対向して配されている。このような剥離ローラー部14の上側挟持ローラー14a及び下側挟持ローラー14bが、図1に示すようにそれぞれ所定の方向に所定の速度で回転することにより、成形された成形面ファスナー1をダイホイール12から連続的に引き剥がしながら下流側に円滑に送り出すことができる。
上述したダイホイール12を有する図1の成形装置11(製造装置10)を用いて、本実施形態の成形面ファスナー1を製造する場合、先ず、溶融した合成樹脂を押出ノズル部13からダイホイール12の外周面に向けて連続的に押し出す。このとき、ダイホイール12のホイール部15は、回転駆動ローラー16の駆動によって一方向(図1の反時計回り方向)に所定の回転速度で回転している。
これにより、押出ノズル部13から流し込まれた溶融状態の合成樹脂により、押出ノズル部13とダイホイール12との間にて、成形面ファスナー1の基材部30が成形される。それとともに、ダイホイール12の外周面部に形成された複数のキャビティ空間25に溶融状態の合成樹脂が充填されることにより、成形面ファスナー1の第1係合素子41、第2係合素子42、及び補強リブ45が基材部30と一体的に成形される。
ダイホイール12の外周面部で成形される成形面ファスナー1は、ダイホイール12の外周面に担持されて冷却されながら回転することにより硬化(固化)する。更に、成形面ファスナー1は、剥離ローラー部14の近傍までダイホイール12とともに移動した後、剥離ローラー部14によってダイホイール12の外周面部から連続的に引き剥がされる。
このとき、ダイホイール12の外周面部に形成されている複数の第1キャビティ空間26は、図3に示すように、その頭部側空間部26bを、起立側空間部26aからダイホイール12の回転方向18と反対の方向に向けて延ばして形成されている。このため、剥離ローラー部14によって成形面ファスナー1を連続的に引っ張ることにより、各第1キャビティ空間26内で成形された第1係合素子41を、当該第1キャビティ空間26に引っ掛かることなく(又は引っ掛かり難い状態で)、第1キャビティ空間26から比較的円滑に引き抜くことができる(例えば図11を参照)。
また、ダイホイール12の外周面部に形成されている複数の第2キャビティ空間27は、図4に示すように、その頭部側空間部27bを、起立側空間部27aからダイホイール12の回転方向18と同じ方向に向けて延ばして形成されている。このため、剥離ローラー部14によって成形面ファスナー1を連続的に引っ張ったときに、第2係合素子42(特に第2係合素子42の係合頭部44)が第2キャビティ空間27の頭部側空間部27b等に引っ掛かりながら、第2キャビティ空間27から強制的に引き抜かれる。
これにより、第2係合素子42の一部(特に係合頭部44)に変形が生じ、第2キャビティ空間27から抜出した第2係合素子42は、図4に示した第2キャビティ空間27の形状とは異なる形状を有する。具体的には、第2キャビティ空間27から抜出した第2係合素子42は、第2キャビティ空間27の形状に比べて、係合頭部44が上向きに延びる(立ち上がる)とともに全体の高さ寸法が大きくなる形状に形成される。
一方、本実施形態の成形装置11では、第2リングプレート22の第2キャビティ空間27が、上述したように第2係合素子42の引き抜き時に生じる変形を予め考慮して、第1キャビティ空間26に対して非対称的な形状で、且つ異なる所定の大きさで形成されている。特に本実施形態の場合、第1リングプレート21の第1キャビティ空間26と、第2リングプレート22の第2キャビティ空間27とが、少なくとも上述した第1及び第2最大深さ寸法D1,D2と第1及び第2傾斜角度θ1,θ2の点において、互いに一定の範囲の関係をもって形成されている。
これにより、本実施形態で製造される成形面ファスナー1では、第2係合素子42が第2キャビティ空間27からの引き抜き時に変形することによって、第1キャビティ空間26から引き抜かれた第1係合素子41と、第2キャビティ空間27から変形しながら引き抜かれた第2係合素子42とを、互いに略対称的な形状及び略同じ大きさで基材部30に設けることができる。特に本実施形態の場合、第1係合素子41の基材部30からの最大高さ寸法と、第2係合素子42の基材部30からの最大高さ寸法との間の差が30μm以下、好ましくは15μm以下と極めて小さい成形面ファスナー1が製造される。
更にその後、剥離ローラー部14では、成形面ファスナー1をダイホイール12から引き剥がした直後に、その成形面ファスナー1を一対の上側挟持ローラー14a及び下側挟持ローラー14b間に挟み込みながら下流側に向けて搬送する。このとき、成形面ファスナー1を上側挟持ローラー14a及び下側挟持ローラー14bで挟持することによって、第1係合素子41及び第2係合素子42を上方から同じように押さえ付けることができるため、第1係合素子41の基材部30からの最大高さ寸法と、第2係合素子42の基材部30からの最大高さ寸法と同じ大きさに合わせ易くすることができる。
最後に、剥離ローラー部14から送り出された機械方向MDに長尺の成形面ファスナー1は、回収ローラー等にロール状に巻き取られて回収され、或いは、図示しない切断部に向けて搬送され、同切断部にて所定の幅寸法及び/又は長さ寸法に切断されて回収される。
以上のように本実施形態の製造装置10(成形装置11)を用いて成形面ファスナー1を製造することによって、その製造された成形面ファスナー1では、係合頭部44が互いに反対方向に延びる第1係合素子41と第2係合素子42とを、互いに略対称的な形状及び略同じ大きさで基材部30の上面に設けることができる。
これにより、製造された成形面ファスナー1を、雌型面ファスナーであるループ部材に係合させたときに、成形面ファスナー1をループ部材から長さ方向の一方側から剥離する場合と、成形面ファスナー1をループ部材から長さ方向の他方側から剥離する場合との間で、剪断強度や剥離強度に違いを生じさせ難くすることができる。
その上、本実施形態で製造される成形面ファスナー1では、第1係合素子41の基材部30からの最大高さ寸法と、第2係合素子42の基材部30からの最大高さ寸法との間の差を、上述のように30μm以下、特に15μm以下に小さくすることができるため、成形面ファスナー1の表面側において良好な肌触りを安定して得ることができる。
なお、上述した実施形態のダイホイール12に使用される複数のドーナツ状リングプレート20において、1枚のリングプレート20には、第1係合素子41を成形する第1キャビティ空間26、第2係合素子42を成形する第2キャビティ空間27、及び補強リブ45を成形する図示しない第3キャビティ空間のうちの何れか1種類のキャビティ空間しか形成されていない。
このように1枚のリングプレート20に形成するキャビティ空間25の種類を1つのみに制限することによって、同じ形状を有する複数のキャビティ空間25をリングプレート20の外周縁部に所定の形成ピッチで安定して形成することができる。また、キャビティ空間25の形成ピッチの制御を行い易くすることができる。
なお本発明では、ドーナツ状の1枚のリングプレート20に対して、第1係合素子41を成形する第1キャビティ空間26、第2係合素子42を成形する第2キャビティ空間27、及び補強リブ45を成形する図示しない第3キャビティ空間のうちのすくなくとも2種類以上のキャビティ空間25を組み合わせて設けることも可能である。例えばダイホイール12に使用されるリングプレートの変形例を図7に示すように、ドーナツ状のリングプレート(金型プレート)23の外周縁部に、第1係合素子41を成形する第1キャビティ空間26と、第2係合素子42を成形する第2キャビティ空間27とを一定の間隔で交互に設けることも可能である。
これにより、基材部30の長さ方向に沿って形成される1列の素子列に第1係合素子41と第2係合素子42とが混在した成形面ファスナーなどを製造することが可能となるように、1つの成形面ファスナーに配置する第1係合素子41と第2係合素子42の配置パターンを大幅に増大させることができる。その結果、例えば種々のループ部材毎に、より適切に係合することが可能な最適な成形面ファスナーを製造することが可能となる。また、ダイホイール12を形成する複数のリングプレートとして、第1キャビティ空間26及び第2キャビティ空間27が同じパターンで形成された単一のリングプレート23のみを用いて成形面ファスナーを製造することが可能となるため、例えばダイホイール12の作製費用等の削減を図ることができる。
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。
(実施例1〜3及び比較例)
実施例1〜実施例3として、上述したように第1キャビティ空間26と第2キャビティ空間27とが互いに非対称的な形状に形成されている図1〜図4に示した製造装置10を用いて、成形面ファスナー1を製造した。すなわち、実施例1〜実施例3では、第1キャビティ空間26と第2キャビティ空間27とは、第1及び第2最大深さ寸法D1,D2が互いに異なる大きさで、且つ第1及び第2傾斜角度θ1,θ2が互いに異なる角度で形成されている。
具体的には、実施例1の場合、第1最大深さ寸法D1は、第2最大深さ寸法D2の約116%の大きさに設定され、第1傾斜角度θ1は、第2傾斜角度θ2よりも4°小さい角度に設定されている。実施例2の場合、第1最大深さ寸法D1は、第2最大深さ寸法D2の約107%の大きさに設定され、第1傾斜角度θ1は、第2傾斜角度θ2よりも3°小さい角度に設定されている。実施例3の場合、第1最大深さ寸法D1は、第2最大深さ寸法D2の約120%の大きさに設定され、第1傾斜角度θ1は、第2傾斜角度θ2よりも7°小さい角度に設定されている。
一方、比較例として、第1キャビティ空間と第2キャビティ空間とが互いに対称的な形状に形成されている図示しない製造装置を用いて成形面ファスナーを製造した。この場合、比較例の第2キャビティ空間は、図4に示した第2キャビティ空間27と同じ形状及び大きさで形成されている。また、第1キャビティ空間は、図4に示した第2キャビティ空間27を機械方向MDに反転させた形状で形成されている。このため、第1キャビティ空間と第2キャビティ空間とは、第1及び第2最大深さ寸法D1,D2が互いに同じ大きさを有し、且つ、第1傾斜角度θ1及び第2傾斜角度θ2が互いに同じ角度を有して形成されている。つまり、第1最大深さ寸法D1は第2最大深さ寸法D2の100%の大きさに設定され、第1傾斜角度θ1と第2傾斜角度θ2の角度差は0°である。
実施例1〜3の製造装置と比較例の製造装置とを用いて成形面ファスナーをそれぞれ製造した後、それぞれの条件で得られた各成形面ファスナーに対し、基材部の長さ方向の一方と他方の両方向について剪断強度及び剥離強度を測定する試験を行った。
剪断強度の試験は、図8に示すように、先ず、製造された成形面ファスナーを所定の幅寸法に切断して、成形面ファスナーの試験片5を作製し、その試験片5を複数のループが形成されている所定のループ部材6に係合させる。次に、成形面ファスナーの試験片5の長さ方向における一端部(後端部)とループ部材6の長さ方向における他端部(前端部)とをそれぞれ一対のクランパー7で把持し、その後、一対のクランパー7を互いに成形面ファスナーの長さ方向に沿った向きで、且つ互いに離間する向きに一定の速度で移動させることによって、係合状態にある成形面ファスナーの試験片5及びループ部材6に対して徐々に負荷を加える。
そして、成形面ファスナーの試験片5とループ部材6の係合状態が外れたときの負荷を測定することによって、成形面ファスナーの長さ方向の一方側における剪断強度を求めた。次に、成形面ファスナーの試験片5及びループ部材6を把持する一対のクランパー7の向きを反対にして、上述と同じように係合状態が外れたときの負荷を測定することによって、成形面ファスナーの長さ方向の他方側における剪断強度を求めた。
剥離強度の試験は、図9に示すように、先ず、製造された成形面ファスナーを所定の幅寸法に切断して、成形面ファスナー1の試験片5を作製し、その試験片5を複数のループが形成されている所定のループ部材6に係合させる。次に、成形面ファスナー1の試験片5の長さ方向における一端部(後端部)とループ部材6の長さ方向における一端部(後端部)とをそれぞれ一対のクランパー7で把持し、その後、一対のクランパー7を互いに成形面ファスナーの上下方向(高さ方向)に沿った向きで、且つ互いに離間する向きに一定の速度で移動させることによって、係合状態にある成形面ファスナーの試験片5及びループ部材6に対して徐々に負荷を加える。
そして、成形面ファスナーの試験片5とループ部材6の係合状態が外れたときの負荷を測定することによって、成形面ファスナーの長さ方向の一方側における剥離強度を求めた。次に、成形面ファスナーの試験片5の長さ方向における他端部(前端部)とループ部材6の長さ方向における他端部(前端部)とをそれぞれ一対のクランパー7で把持し、上述と同じように係合状態が外れたときの負荷を測定することによって、成形面ファスナーの長さ方向の他方側における剥離強度を求めた。
更に、実施例1及び比較例の各成形面ファスナーについて、上述した剪断強度及び剥離強度を測定する試験をそれぞれ10本ずつ行い、測定された剪断強度及び剥離強度の平均値を求めた。その結果、実施例1の成形面ファスナーの場合、成形面ファスナーの長さ方向の一方側と他方側における剪断強度の平均値は、それぞれ18.60N/cm2及び18.77N/cm2であり、両測定値の差は0.17N/cm2と小さかった。また、成形面ファスナーの長さ方向の一方側と他方側における剥離強度の平均値は、それぞれ1.20N/cm及び1.13N/cmであり、両測定値の差は0.07N/cmと小さかった。
これに対して、比較例の成形面ファスナーの場合、成形面ファスナーの長さ方向の一方側と他方側における剪断強度の平均値は、それぞれ21.10N/cm2及び18.96N/cm2であり、両測定値の差は2.14N/cm2と実施例1に比べて非常に大きな数値となった。また、成形面ファスナーの長さ方向の一方側と他方側における剥離強度の平均値は、それぞれ2.00N/cm及び1.22N/cmであり、両測定値の差は0.78N/cmと実施例1に比べて非常に大きな数値となった。
以上のような試験により、実施例1の成形面ファスナーは、比較例の成形面ファスナーに比べて、成形面ファスナーをループ部材に対して長さ方向の一方側から剥離する場合と、成形面ファスナーをループ部材に対して長さ方向の他方側から剥離する場合との間で、剪断強度や剥離強度に違いが生じ難くなっていることが明らかになった。
また、実施例1〜3の成形面ファスナーと比較例の成形面ファスナーとにおいて、係合頭部が互いに異なる方向に延びる第1係合素子と第2係合素子について、基材部の上面から係合素子の最も高い上端部までの最大高さ寸法を測定した。なお、この最大高さ寸法の測定は、10個の第1係合素子及び10個の第2係合素子について行い、その平均値を求めた。
そして、第1係合素子の最大高さ寸法の平均値と、第2係合素子の最大高さ寸法の平均値との差を計算した結果、実施例1の成形面ファスナーにおける第1係合素子と第2係合素子の高さ寸法の差は15μmであった。また、実施例2及び3の成形面ファスナーにおける第1係合素子と第2係合素子の高さ寸法の差は、それぞれ10μm及び6μmであった。すなわち、実施例1〜実施例3の成形面ファスナーの場合、第1係合素子と第2係合素子の高さ寸法の差は、何れも、良好な肌触りが得られ易くなる30μm以下であることが判った。
一方、比較例の成形面ファスナーにおける第1係合素子と第2係合素子の高さ寸法の差は140μmであり、実施例1〜3の成形面ファスナーに比べて非常に大きかった。