JP2020023753A - 熱処理鋼管 - Google Patents

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Abstract

【課題】めっき層の有するAl含有量が多い場合であっても、3DQ工法を適用することが可能であり、かつ、優れた化成処理性を実現することが可能な、熱処理用鋼管、熱処理鋼管の製造方法、熱処理鋼管を提供すること。【解決手段】本発明に係る熱処理用鋼管は、鋼管の内面又は外面の少なくとも一方の面上に位置し、片面当たり50質量%以上のAlを含有するめっき皮膜層と、当該めっき皮膜層上に位置し、粒状の金属化合物を含有する表面皮膜層とを備える。【選択図】なし

Description

本発明は、熱処理用鋼管、熱処理鋼管の製造方法及び熱処理鋼管に関し、より詳細には、自動車用部材として好適に利用可能な熱処理用鋼管、熱処理鋼管の製造方法及び熱処理鋼管に関する。
近年、自動車構造用鋼材には、地球環境への配慮から、軽量で、かつ、引張強さが780MPa以上であり、更には900MPa以上という、従来とは全く異なるレベルの高強度を有することが強く要請される。また、衝突時の車体の安全性を高めて安全性を向上するため、衝突時における自動車用部材のエネルギー吸収特性を高めるための開発も推進されている。特に、鋼管や鋼板を素材として、例えば曲げ方向が任意の向きに変化する、多岐にわたる曲げ形状からなる最適な形状を有する成形品とする発明が開示されている。
以下の特許文献1により、鋼材の曲げ方向が3次元的に変化する連続曲げの場合であっても、3次元に移動自在に配置されたローラダイスを用いて、効率的に曲げ加工、更には曲げ加工と同時に鋼材の焼入れを行うための曲げ加工方法(本明細書では、かかる曲げ加工方法を「3DQ:3 Dimensional hot bending and Quench」と略記する。)が開示されている。3DQでは、高周波加熱コイルにより、被加工材である鋼材を、大気中でAc3変態点以上まで急速に加熱した直後に、急冷して焼入れるとともに、加熱されて高温になり変形抵抗が低下した部分に可動ローラダイスにより曲げモーメントを与えて塑性変形させる。
一方、自動車用部材には、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板又は電気亜鉛めっき鋼板等の亜鉛系めっき鋼材が、使用環境における必要十分な耐食性を有するとともにコスト面で優れることから、多用される。なかでも、鋼板を連続的に溶融亜鉛めっきした後に500〜550℃程度の温度で熱処理してめっき層全体をFe−Znの金属間化合物層に変化させた合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板や電気亜鉛めっき鋼板に比較すると、めっき層が電気化学的に幾分貴となって犠牲防食能は僅かに低下するもののめっき層の塗装膜との密着性が向上する。そのため、かかる合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、化成処理及び電着塗装を行われて使用される自動車用部材に多用される。
このため、3DQにおいて被加工材として合金化溶融亜鉛めっき鋼材を用いることができれば、被加工材の加熱による酸化を防止して、高い耐食性を有するめっき熱処理鋼材を提供できることが期待される。しかしながら、(1)合金化溶融亜鉛めっき鋼材をAc3変態点以上に加熱すると、亜鉛の蒸気圧が例えば200mmHg:788℃、400mmHg:844℃と温度の上昇とともに急増するために、急速加熱過程で気化する可能性があること、大気中での加熱に伴い亜鉛の酸化が生じること、更には、(2)合金化溶融亜鉛めっき鋼材が600℃以上、特にΓ相(FeZn10)が分解する660℃を超える温度に加熱されると、鋼素地のフェライト中へのZnの固溶現象が顕著になって、めっき層が失われる可能性があること、等に起因して、めっき層としての機能が喪失するおそれがある。
このように、被加工材として合金化溶融亜鉛めっき鋼材を用いて3DQにより自動車用部材を量産する場合の課題は、焼入れのために母材である亜鉛系めっき鋼材を約870℃以上に加熱する必要があるとともに、合金化溶融亜鉛めっき皮膜は約950℃で消失するため、被加工材の加熱温度の許容範囲が約870〜950℃と狭いことである。
以下の特許文献2には、合金化溶融亜鉛めっき又は溶融亜鉛めっきされた高周波焼入用鋼板を、Ar3変態点以上1000℃以下の焼入温度で、かつ、加熱開始から350℃に冷却されるまでのヒートサイクルタイムを60秒間以内(同文献の実施例においては、約3秒)に制限して加熱及び冷却する、高周波焼入による強化部材の製造方法が開示されている。しかしながら、引用文献2では、昇温速度及び冷却速度は、開示されていない。
引用文献2に開示された方法によれば、高周波焼入強化部材として焼入用鋼板を素板とする亜鉛系めっき鋼板を用いて、強度を向上させる部位に高周波焼入を施しても、焼入部にめっき層を残存させることができ、しかも、めっき層中のFe濃度が35%以下(本明細書では、特に断りがない限り、「%」は「質量%」を意味する。)に制御され、塗装性及び耐食性にも優れる自動車用部材を提供できるとされているものの、特許文献2には、めっき材は溶融亜鉛めっきの利用のみが開示されており、上記特許文献1と同様に、めっき焼失の問題がある。
本発明者らは、特許文献3により、少なくとも片面に55%Al−Zn−1.5%Si溶融めっき皮膜を有する鋼材の少なくとも一部をAc3変態点以上に10℃/秒以上の昇温速度で加熱し、加熱された部分の少なくとも一部の表面に液相が存在しないうちに30℃/秒以上の冷却速度で急冷することにより、この加熱及び冷却を行われた部分の少なくとも一部の表面に、亜鉛及び/又は酸化物層、並びに、鉄−アルミニウムが合金化された固溶相を有し、耐食性を有するとともに高温で潤滑機能を確保し得る皮膜を形成して、めっき熱処理鋼材を製造する発明を開示した。このめっき熱処理鋼材は、上述の条件で熱処理を行われても、自動車用部材としての適正な塗装後の耐食性を有するとともに、熱処理に伴うスケールの発生を抑制でき、更には、スケールの発生を抑制できるとともに、硬質であることから高温での加工時にも優れた潤滑性を示す。
ここで、上記特許文献3に開示された製品を自動車部品に利用する場合、鋼材のプレス成形品と同様に、良好な化成処理性を有することが求められる。その際に、上記特許文献3に開示された製品に対して、上記特許文献1に開示されている3DQ工法を施すことが考えられる。
しかしながら、上記特許文献3に開示されている鋼材は、めっき層にAlが多く含まれるため、3DQ加熱後はめっき表面に強固なアルミナ皮膜が形成され、化成処理性に劣るという欠点がある。化成処理とは、自動車部品において、塗装の下地処理として鋼材表面にリン酸塩の結晶の皮膜を形成させる処理である。また、化成処理性が劣るとは、現行の化成処理条件で健全なリン酸塩結晶皮膜が形成されないことを意味している。
なお、特許文献4には、Alめっき鋼板の上層に、ZnOを含む層を形成し、炉加熱し、室温の金型でプレスすることで成形と金型冷却による焼入れ硬化を同時に行い、また、ZnOを含む層の効果により、その後の化成処理性を確保する方法が開示されている。
国際公開第2006/093006号 特開2000−248338号公報 特開2010−265515号公報 特許4590025号
しかしながら、上記特許文献4に開示されている方法は、いわゆるホットスタンプ法では問題がないと考えられるが、上記特許文献1に開示された3DQ工法では、おそらく昇温速度が大きいために、塗布量が過大となると推定されるという問題がある。また、上記特許文献4では、ZnO以外の化合物について規定されていないという問題がある。
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、めっき層の有するAl含有量が多い場合であっても、3DQ工法を適用することが可能であり、かつ、優れた化成処理性を実現することが可能な、熱処理用鋼管、熱処理鋼管の製造方法及び熱処理鋼管を提供することにある。
なお、熱処理、並びに、化成処理及び電着塗装を経た時点で耐食性に優れた部材を得るためには、熱処理前の時点での皮膜において、金属酸化物及び樹脂成分の種類・粒径・含有量等を適切に選択することが必要である。しかしながら、熱処理前の時点での皮膜は、実際の部材に供されるまでに熱処理・化成処理・電着塗装という諸工程が施され、熱処理の温度の影響、化成処理液の薬液中の成分の違いによるエッチング力の違い、電着塗装における処理条件の僅かな変動等といった様々な要因が組み合わさることで、製品時点での皮膜も様々に変化する。そのため、部材となった時点での分析により本発明を遺漏なく限定することは、非常に困難である。加えて、様々な要因に起因して変化した皮膜のそれぞれについて、その特性を個々に特定していく作業を行うことは、著しく過大な時間を要し、実際的ではない。そこで、以下で詳述する本発明では、熱処理前の鋼材の皮膜について規定した熱処理用鋼管を規定するとともに、かかる熱処理用鋼管を用いた熱処理方法、及び、かかる熱処理用鋼管に対して特定の熱処理方法を適用することで製造される部材について規定する。
本発明者は、特許文献3により開示した55%Al−Zn−1.5%Si溶融めっき層を有する鋼材を素材とする熱処理鋼材を更に詳細に検討した結果、以下の発明を得るに至った。
(1)鋼管の内面又は外面の少なくとも一方の面上に位置し、片面当たり50質量%以上のAlを含有するめっき皮膜層と、当該めっき皮膜層上に位置し、粒状の金属化合物を含有する表面皮膜層と、を備える、熱処理用鋼管。
(2)前記粒状の金属化合物は、ZnO、Mg化合物、ZrO、CaO、TiO又はSiOの何れか一種以上である、(1)に記載の熱処理用鋼管。
(3)前記ZnOの片面当たりの付着量は、Znとして、0.2g/m〜7g/mであり、前記ZnOは、粒径が50nm〜300nmである、(2)に記載の熱処理用鋼管。
(4)前記Mg化合物は、MgOであり、前記MgOの片面当たりの付着量は、Mgとして、0.2g/m〜2.4g/mであり、前記MgOの粒径は、5nm〜100nmである、(2)に記載の熱処理用鋼管。
(5)前記Mg化合物は、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、又は、硫酸マグネシウムの何れかであり、前記塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、又は、硫酸マグネシウムの何れかの片面当たりの付着量は、Mgとして、0.2g/m〜2.4g/mである、(2)に記載の熱処理用鋼管。
(6)前記ZrOの片面当たりの付着量は、Zrとして、0.4g/m〜2.0g/mであり、前記ZrOは、粒径が10nm〜200nmである、(2)に記載の熱処理用鋼管。
(7)前記粒状の金属化合物は、ZrOとCaOの混合物、又は、ZrOとMgOの混合物であり、前記混合物の片面当たりの付着量は、ZrとCaの合計、又は、ZrとMgの合計として、0.4g/m〜2.0g/mである、(2)に記載の熱処理用鋼管。
(8)前記粒状の金属化合物は、TiO、SiO、又は、TiOとSiOの混合物であり、前記TiO、SiO又はTiOとSiOの混合物の片面当たりの付着量は、Ti、Si、又は、TiとSiとの合計として、0.4g/m〜2.0g/mであり、前記TiO及びSiOの粒径は、5nm〜30nmである、(2)に記載の熱処理用鋼管。
(9)前記表面皮膜層は、前記粒状の金属化合物に加えて、樹脂成分、及び/又は、シランカップリング剤を含有し、前記樹脂成分、及び/又は、シランカップリング剤の含有量は、前記粒状の金属化合物の質量に対して、5質量%〜35質量%である、(1)〜(8)の何れか1つに記載の熱処理用鋼管。
(10)前記めっき皮膜層は、(50〜60)質量%Al−Zn−(1〜2.5)質量%Si溶融めっきからなる、(1)〜(9)の何れか1つに記載の熱処理用鋼管。
(11)前記めっき皮膜層は、Al−(0〜15)質量%Si溶融めっきからなる、(1)〜(9)の何れか1つに記載の熱処理用鋼管。
(12)(1)〜(11)の何れか1つに記載の熱処理用鋼管を用いた熱処理鋼管の製造方法であって、前記熱処理用鋼管の少なくとも一部に対して、焼き入れを行う焼き入れ工程を有し、前記焼き入れ工程では、前記熱処理用鋼管の前記めっき皮膜層及び表面皮膜層を有する少なくとも一方の面において、100℃から最高加熱温度まで、平均で100℃/秒以上の昇温速度で、850℃〜1300℃の温度域内の当該最高加熱温度に加熱し、850℃以上に加熱されてから2秒以内に冷却を開始し、前記最高加熱温度から350℃まで、平均で1000℃/秒以上の冷却速度で、350℃以下の温度域まで冷却する、熱処理鋼管の製造方法。
(13)前記熱処理用鋼管の850℃以上の箇所に曲げ加工を施す、(12)に記載の熱処理鋼管の製造方法。
(14)表面にAl合金のめっき皮膜層を備えたマルテンサイト組織を有する鋼管であって、前記めっき皮膜層の最表面から0.1μmまでの領域における酸素を除く元素の割合のうち、Alの割合が20質量%以下である、熱処理鋼管。
(15)焼き入れされた部位の最表面から、当該最表面から0.1μmまでの深さにおける、Zn、Mg、Zr、Ti又はSiの含有量が、質量%で、50%以上である、(14)に記載の熱処理鋼管。
以上説明したように、本発明によれば、めっき層の有するAl含有量が多い場合であっても、3DQ工法を適用することが可能であり、かつ、優れた化成処理性を実現することが可能な、熱処理用鋼管、熱処理鋼管の製造方法及び熱処理鋼管を提供することが可能となる。
本発明の実施形態に係る被覆熱処理鋼材を製造するための製造装置の構成を例示する説明図である。 本発明の実施形態に係る被覆熱処理鋼材を製造するための製造装置における高周波加熱コイル及び冷却装置の構成の概略を例示する断面図である。 本発明の実施形態に係る被覆熱処理鋼材の製造に用いることができる可動ローラダイスの形状を例示する説明図であり、2つの加圧ロールにより構成される場合を図示している。 本発明及び比較例の鋼材を化成処理した後の化成結晶皮膜のSEM写真である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
以下で詳述する本発明に従って、(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき皮膜層、又は、Al−(0〜15)%Si溶融めっき皮膜層を有し、更に、これらめっき皮膜層の表面に金属化合物を含有する表面皮膜層を有する鋼管を被加工材として用い、3DQ工法により熱処理鋼管を製造することで、化成処理性にも優れためっき熱処理鋼材を得ることが可能となる。
<熱処理用鋼管について>
まず、本発明の実施形態に係る熱処理鋼管に用いられる、熱処理用鋼管について、説明する。
(熱処理用鋼管の母管)
本実施形態に係るめっき熱処理用鋼管の素材である母管として、例えば、高強度鋼管を採用することが可能である。かかる高強度鋼管を採用し、鋼管表面に下記のめっき皮膜層を設けた上で、以下で詳述する条件に則した加熱及び冷却を施した後に、その表面に自動車用部材としての下地化成被膜及び塗装被膜を施すことで、塗装後耐食性を備える高強度のめっき熱処理鋼管鋼材とすることができる。
また、上記母管として、例えば、焼入性を有する鋼管鋼材を使用することも可能である。かかる低強度の鋼管を出発材料として、鋼管表面に下記のめっき皮膜層を設けた上で、以下で詳述する条件の加熱及び冷却を行うことにより焼入れて、引張強度を例えば1200MPa以上に高め、高強度のめっき熱処理鋼管鋼材とすることもできる。
かかる焼入性を有する鋼管鋼材として、例えば、その化学組成が、質量%で、C:0.1%以上0.3%以下、Si:0.01%以上0.5%以下、Mn:0.5%以上3.0%以下、P:0.003%以上0.05%以下、S:0.05%以下、Cr:0.1%以上0.5%以下、Ti:0.01%以上0.1%以下、Al:1%以下、B:0.0002%以上0.004%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなり、必要に応じて、Cu:1%以下、Ni:2%以下、Mo:1%以下、V:1%以下、及び、Nb:1%以下から選ばれた1種又は2種以上が含有された鋼管が、例示される。
(めっき皮膜層)
上記のような母管(3DQ工法が施される前)の内面又は外面の少なくとも一方には、例えば、(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき皮膜、又は、Al−(0〜15)%Si溶融めっき皮膜が、本実施形態に係るめっき皮膜層として形成されている。
この(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき皮膜層、又は、Al−(0〜15)%Si溶融めっき皮膜層のめっき付着量は、片面当たり30g/m〜200g/mであることが、熱処理後の塗装後耐食性を十分に確保する観点から、好ましい。かかる(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき皮膜層、又は、Al−(0〜15)%Si溶融めっき皮膜層の付着量は、更に好ましくは、40g/m以上80g/m以下である。
上記のような成分からなるめっき皮膜は、いずれも溶融めっき鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板と比較して高温でのめっき残留に優れるが、かかるめっき皮膜をそのまま高温に加熱すると表面にアルミナ皮膜が形成し、優れた化成処理性を示さない。そこで、本実施形態では、かかるめっき皮膜層上に、金属化合物を含有する層を形成した後に3DQを施すことで、化成処理性を向上させている。
なお、本実施形態に係る母管に施されるめっきは、上記(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき、又は、Al−(0〜15)%Si溶融めっきに限定されるものではなく、Alを50質量%以上含有するめっきであれば適宜利用することが可能である。
(表面皮膜層)
また、この(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき皮膜、又は、Al−(0〜15)%Si溶融めっき皮膜の表面には、粒状の金属化合物を含有する皮膜が被覆されている。以下では、上記のようなめっき皮膜層の表面に被覆されている皮膜層を、「表面皮膜層」と称することとする。本実施形態に係る熱処理用鋼管では、かかる表面皮膜層に含有されている粒状の金属化合物は、ZnO、Mg化合物、ZrO、CaO、TiO又はSiOの何れか一種以上であることが好ましい。
[ZnOを含有する表面皮膜層]
表面皮膜層に含有される粒状の金属化合物として、ZnOを用いることが可能である。かかるZnOの片面当たりの付着量は、Znとして、0.2g/m〜7g/mであることが好ましく、ZnOの粒径(平均粒径)は、50nm〜300nmであることが好ましい。また、表面皮膜層中に、上記ZnOに加えて、樹脂成分及び/又はシランカップリング剤が、ZnOに対する質量比率で5%〜35%含有されていてもよい。
ZnOを含有する表面皮膜層は、例えば、ZnO粒を含有する塗料の塗布処理、及び、その塗布後の焼付け・乾燥による硬化処理を行うことで、めっき皮膜層上に形成可能である。ZnOの塗布方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ZnOを含有するゾルと所定の有機性のバインダ(binder)とを混合してめっき皮膜層の表面に塗布する方法、粉体塗装による塗布方法などが挙げられる。所定の有機性バインダとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シランカップリング剤などが挙げられる。これらは、ZnOを含有するゾルと溶解できるように、水溶性とすることが好ましい。こうして得られた塗布液を、めっき鋼板の表面に塗布する。
ZnOの片面当たりの塗布量(すなわち、ZnOの片面当たりの付着量)は、上記のように、Znに換算して、0.2g/m〜7g/mであることが好ましい。ZnOの付着量が0.2g/m未満となる場合には、化成処理性を確保することができず、好ましくない。また、ZnOの付着量が7g/m超過となる場合には、塗布ムラが起きやすくなるため、好ましくない。なお、上記特許文献4においては、0.5g/m〜7g/mと規定されているが、本願の熱処理は、以下で詳述するように、上記特許文献4の熱処理に比べて昇温速度が速く短時間加熱であるため、下限値が相違する。なお、ZnOの片面当たりの付着量は、より好ましくは、0.5g/m〜3g/mである。
ZnOの微細粒の粒径は、直径50nm〜300nmであることが好ましい。ZnOの粒径としては、粉末自体の粒径と、粉末をゾルにした際のゾル中の粒径の2種類があるが、ゾル中の径として記述する。一般にゾル中で微細粉末の二次凝集が起こるため、ゾル中の粒径は、粉末自体の粒径よりも大きくなる。粉末自体の粒径が50nm未満である場合には、混練しにくいだけでなく、二次凝集し易くなるため、結果的にゾル中の径は粗大化する。そのため、ゾル中の径として50nm未満とすることは事実上困難である。また、ゾル中の粒径が300nm超過となる場合には、沈殿し易くなるため、やはりムラが発生する。ZnOのゾル中の粒径は、50〜150nm程度とすることがより好ましい。
塗布後の焼付け・乾燥方法としては、分散媒(主として水)を揮発させることが可能な方法であれば特定の方法に限定されるものではなく、例えば、熱風炉・誘導加熱炉・近赤外線炉などを利用しても良いし、これらを組み合わせて利用してもよい。ここで、過度に高温で加熱すると表面処理層の均一性が低下することが懸念され、逆に、過度に低温で加熱すると生産性の低下が懸念される。従って、優れた特性を有する表面処理層を安定的かつ効率的に製造するためには、塗布後の表面処理層を、80℃〜150℃程度の温度で5秒〜20秒程度加熱することが好ましい。この際、塗布に使用されるバインダの種類によっては、塗布後の焼付け・乾燥の代わりに、例えば紫外線・電子線などによる硬化処理が行われてもよい。所定の有機性バインダとしては、例えば、ポリウレタンやポリエステル、アクリルあるいはシランカップリング剤などが挙げられる。しかしながら、ZnOを含む表面皮膜層の形成方法は、上記のような例に限定されるものではなく、様々な方法を利用可能である。
[MgOを含有する表面皮膜層]
表面皮膜層に含有される粒状の金属化合物として、MgOを用いることが可能である。かかるMgOの片面当たりの付着量は、Mgとして(Mgに換算して)、0.2g/m〜2.4g/mであることが好ましく、MgOの粒径(平均粒径)は、5nm〜100nmであることが好ましい。また、表面皮膜層中に、上記MgOに加えて、樹脂成分及び/又はシランカップリング剤が、MgOに対する質量比率で、5%〜35%含有されていてもよい。
ここで、MgOの片面当たりの付着量は、より好ましくは、0.5g/m〜1g/mである。
MgOの粒径は、ZnOとは異なり、ゾル中の径ではなく、原料の粒径(すなわち、一次粒径)として5nm〜100nmとする。一次粒径が5nm未満である場合には、二次凝集が顕著になり、結果的に粗大化して、塗膜中に均一に分散しない。一方、一次粒径が100nm超過である場合には、沈殿しやすくなるため、ムラが発生し、分散液の寿命が短くなる。MgOの一次粒径は、より好ましくは、10nm〜50nmである。
かかるMgOを含有する表面皮膜層は、ZnOを含む表面皮膜層と同様に形成することが可能である。
[塩化Mg、硝酸Mg又は硫酸Mgを含有する表面皮膜層]
表面皮膜層に含有される粒状の金属化合物として、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム又は硫酸マグネシウムの何れかを用いることが可能である。かかる塩化Mg、硝酸Mg又は硫酸Mgの何れかの片面当たりの付着量は、Mgとして(Mgに換算して)、0.2g/m〜2.4g/mであることが好ましい。塩化Mg、硝酸Mg又は硫酸Mgの何れかの片面当たりの付着量は、より好ましくは、0.5g/m〜1g/mである。また、表面皮膜層中に、上記Mg化合物に加えて、樹脂成分及び/又はシランカップリング剤が、これらMg化合物に対する質量比率で、5%〜35%含有されていてもよい。
これらのMg化合物を含む表面皮膜層は、上記ZnOを含む表面皮膜層と同様に形成することができる。
[ZrOを少なくとも含有する表面皮膜層]
表面皮膜層に含有される粒状の金属化合物として、ZrO、ZrOとCaOの混合物、又は、ZrOとMgOの混合物の何れかを用いることが可能である。これら金属化合物の片面当たりの付着量は、Zr、ZrとCaとの合計、又は、ZrとMgとの合計として、0.4g/m〜2.0g/mであることが好ましく、これら金属化合物の粒径(平均粒径)は、10〜200nmであることが好ましい。また、表面皮膜層中に、上記金属化合物に加えて、樹脂成分及び/又はシランカップリング剤が、これら金属化合物に対する質量比率で、5%〜35%含有されていてもよい。
ここで、ZrO、ZrOとCaOの混合物、又は、ZrOとMgOの混合物の片面当たりの付着量は、より好ましくは、0.5g/m〜1.0g/mである。
ZrOの粒径は、ゾル中の径として(すなわち、二次粒径として)、10nm〜200nmであることが好ましい。ZrOの粒径が10nm未満である場合には、二次凝集が顕著になり、結果的に粗大化して、塗膜中に均一に分散しない。また、ZrOの粒径が200nm超過である場合には、沈殿しやすくなるため、ムラが発生し、分散液の寿命が短くなる。ZrOの二次粒径は、より好ましくは、20nm〜50nmである。
ZrO、ZrOとCaOの混合物、又は、ZrOとMgOの混合物を含む表面皮膜層は、上記のZnOを含む表面皮膜層と同様に形成することができる。
[TiO又はSiOを含有する表面皮膜層]
表面皮膜層に含有される粒状の金属化合物として、TiO、SiO、又は、TiOとSiOの混合物の何れかを用いることが可能である。これら金属化合物の片面当たりの付着量は、それぞれ、Ti、Si、又は、TiとSiとの合計として、0.4g/m〜2.0g/mであることが好ましく、これら金属化合物の粒径(平均粒径)は、5nm〜30nmであることが好ましい。また、表面皮膜層中に、上記金属化合物に加えて、樹脂成分及び/又はシランカップリング剤が、これら金属化合物に対する質量比率で、5%〜35%含有されていてもよい
ここで、TiO、SiO、又は、TiOとSiOの混合物の何れかの片面当たりの付着量は、より好ましくは、0.5g/m〜1g/mである。
TiOの粒径、及び、SiOの粒径は、ゾル中の径として(すなわち、二次粒径として)、5nm〜30nmであることが好ましい。TiOやSiOの粒径が5nm未満である場合には、二次凝集が顕著になり、結果的に粗大化して、塗膜中に均一に分散しない。また、TiOやSiOの粒径が30nm超過である場合には、沈殿しやすくなるため、ムラが発生し、分散液の寿命が短くなる。TiO、SiOの二次粒径は、より好ましくは、10nm〜20nmである。
TiO、SiO、又は、TiOとSiOの混合物の何れかを含む表面皮膜層は、上記のZnOを含む表面皮膜層と同様に形成することができる。
以上、本実施形態に係る表面皮膜層について、詳細に説明した。
<付着量及び粒径の測定方法>
本実施形態に係るめっき皮膜層の付着量の測定方法は、特に限定されるものではなく、例えば重量法や蛍光X線法により測定することが可能である。重量法とは、面積の規定されためっきサンプルの重量を測定した後、塩酸等でめっき層のみ溶解させて、溶解後の重量との差分から付着量を求める方法である。また、蛍光X線法とは、予め重量法等の手段によって付着量既知のサンプルで検量線を作成しておき、着目する試料の蛍光X線強度から付着量を算出する方法である。
また、本実施形態に係る表面皮膜層の付着量の測定方法は、特に限定されるものではなく、例えば、表面処理層に含有されている化合物が上記のような化合物であることを断面エネルギー分散型X線(Energy Dispersive X−ray:EDX)分析等で確認したうえで、皮膜を溶解して、ICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)発光分光分析法などを用いることで測定が可能である。
また、本実施形態に係る表面皮膜層に利用される金属化合物の粒径(一次粒径や二次粒径)は、レーザ回折式粒径測定装置等の公知の装置を用いて測定することが可能である。
<熱処理鋼管の製造方法について>
続いて、以上説明したような本実施形態に係る熱処理用鋼管を利用した、熱処理鋼管の製造方法について、詳細に説明する。
本実施形態に係る熱処理鋼管の製造方法では、以上説明したような熱処理用鋼管の少なくとも一部に対して、焼き入れを行う焼き入れ工程を施すことにより、熱処理鋼管とする。この焼き入れ工程は、以下で詳述するように、加熱工程及び冷却工程からなる。
より詳細には、内面又は外面の少なくとも一方の面に(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき皮膜層、又は、Al−(0〜15)%Si溶融めっき皮膜層が形成され、これらめっき皮膜層の表面に粒状の金属化合物を含有する表面皮膜層が形成された鋼管(熱処理用鋼管)は、加熱工程と、冷却工程と、を順次経て、めっき熱処理鋼管(熱処理鋼管)とされる。
加熱工程では、上記めっき皮膜層及び表面皮膜層を有する熱処理用鋼管を、焼入れが可能な温度域としてAc3変態点以上に加熱する。このときの熱処理パターンとしては、めっき層の表面温度において、100℃から最高加熱温度まで、平均で100℃/秒以上の昇温速度で、850〜1300℃の温度域内の最高加熱温度まで加熱する。鋼管が850℃以上に加熱されてから2秒以内に、冷却工程が開始される。その後の冷却工程では、最高加熱温度から350℃まで、平均で1000℃/秒以上の冷却速度で、350℃以下に温度域まで冷却する。
昇温速度が平均で100℃/秒未満である場合には、加工精度が低下して好ましくなく、冷却速度が平均で1000℃/秒未満である場合には、焼入れが出来なくなるため好ましくない。
鋼管が850℃以上に加熱されてから冷却が開始されるまでの時間は、2秒以内とする。換言すれば、850℃以上に加熱されてから鋼管に冷媒(冷却水)が接触するまでの時間は、2秒以内である。鋼管が850℃以上である時間が長くなると、めっき皮膜が蒸発したり、鉄との金属間化合物が生成されたりして、耐食性が低下する問題が生じる。
上述した特許文献1により開示した発明に基づいて、本発明に係るめっき熱処理鋼管を3DQ工法により製造する場合には、特許文献1と同様に、この熱処理は、素材である鋼管を、その長手方向へ向けて断続的又は連続的に送りながら、鋼管が第1の支持手段により支持されるとともに、加圧ロールが、第1の支持手段の下流側に配置されるとともにその位置が二次元又は三次元に移動自在である第2の支持手段によって回転自在に支持され、更に、この鋼管の加熱が、この第2の支持手段と第1の支持手段との間であって、この鋼管の外周にこの鋼管から離間して配置される加熱手段によって行われるとともに、冷却が、この加熱手段と第2の支持手段との間に配置される冷却手段によって行われることが望ましい。更に、鋼管の加熱された部分において曲げ加工が施される(かつ、該当部分は焼き入れされる。)ことで、二次元又は三次元に曲げ加工が施された熱処理鋼管が得られる。
以上のようにして製造される、本実施形態に係る熱処理鋼管のめっき皮膜層には、(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき皮膜、又は、Al−(0〜15)%Si溶融めっき皮膜の何れを用いた場合であっても、Fe−Zn金属間化合物(いわゆる、ζ相、δ相、Γ相等)は存在しない。これは、Al−Si溶融めっきAl−(0〜15)%Si溶融めっきにおいてはZnが存在しないためであり、(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっきにおいては、900℃超過の加熱温度は、Fe−Zn系の金属間化合物であるζ相(FeZn13)、δ相(FeZn)、Γ相(FeZn21)及びΓ相(FeZn10)の何れの融点又は分解温度よりも高いために、加熱中にこれらの層が分解するためと解される。
ここで、本実施形態に係る熱処理鋼管のめっき皮膜層の目付量は、32g/m〜1000g/mであることが好ましい。また、めっき皮膜層のFe含有量は、めっき皮膜層全体の質量に対して、5%〜80%であることが例示される。本実施形態に係る熱処理鋼管のめっき皮膜層の目付量は、より好ましくは45g/m〜320g/mであり、めっき皮膜層のFe含有量は、より好ましくは、10%〜75%である。
本発明に係る熱処理鋼管は、この鋼管の少なくとも一部が、本発明で規定する条件を満足するものであればよい。例えば、本発明に係る熱処理鋼管であって、その用途として自動車用の曲げ部材を想定した場合に、この部材の全てに曲げ加工や焼入れが施される必要はない。例えば、鋼管の端部において曲げ加工も焼入れも行われない部材も、本発明に係る熱処理鋼管の対象となる。このような場合には、部材の一部に(例えば3DQ工法による)曲げ加工や焼入れが施されることになるが、この部材の全ての部分において、本発明で規定する皮膜を有する必要はない。すなわち、部材として特に重要な面や部分についてのみ、本発明で規定する条件を満足すれば、本発明に係る熱処理鋼管に包含される。
本実施形態に係る熱処理鋼管の製造方法において、実用的な価値が高いのは、例えば、素材である鋼管として、内面又は外面の一方又は双方に、(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき皮膜層を有し、当該めっき皮膜層の表面に、ZnOを含有する皮膜を有する熱処理用鋼管を、自動車用の長尺部材の素材として用い、焼入れ若しくは加熱後に曲げ加工、又は、3DQにより焼入と曲げ加工とを同時に施すことにより、本実施形態に係る熱処理鋼管を製造することである。
<3DQ工法について>
図1は、本実施形態に係る熱処理鋼管1bを製造するための製造装置7の構成を例示する説明図である。
図1に例示する製造装置7では、被加工材1を、例えば、(50〜60)%Al−Zn−(1〜2.5)%Si溶融めっき鋼板を素材とする溶接鋼管のめっき皮膜層上に、粒状の金属化合物を含有する表面皮膜層の形成された熱処理鋼管(以下、単に「熱処理用鋼管」という。)とし、被加工材である熱処理用鋼管1aを逐次連続的に加熱し、局部的な加熱部に対して可動ローラダイス4を用いて塑性変形を生じさせ、その直後に冷却することにより、熱処理鋼管1bを製造する。
このため、熱処理用鋼管1aを支持するための二組の回転可能な支持手段である支持ロール2の上流側には、熱処理用鋼管1aを断続的又は連続的に送り移動させる送り装置3が配置される。一方、二対の支持ロール2の下流側には、熱処理用鋼管1aを支持し、この支持位置及び/又は移動速度を制御させるための可動ローラダイス4が配置される。図1に示すように、可動ローラダイス4は、熱処理用鋼管1aの表面に当接する孔型ロールである加圧ロール4a,4bを備える。
可動ローラダイス4の入り側には、熱処理用鋼管1aの外周に熱処理用鋼管1aから離間して配置され、かつ、熱処理用鋼管1aを部分的に急速に加熱する高周波加熱コイル5と、高周波加熱コイル5により急速に加熱された熱処理用鋼管1aに冷却媒体を噴射することによって熱処理用鋼管1aを急速に冷却する冷却装置6と、が配置される。
図2は、この製造装置7における高周波加熱コイル5及び冷却装置6の構成の概略を例示する断面図である。加熱部を形成すべき熱処理用鋼管1aの外周に対して、この熱処理用鋼管1aから離間させて環状の高周波加熱コイル5を配置し、この高周波加熱コイル5により熱処理用鋼管1aを部分的に急速に加熱し、次いで、必要に応じて、冷却装置6から冷却媒体(例えば水など)を噴射することにより、高周波加熱コイル5により急速に加熱された熱処理用鋼管1aを急速に冷却する。この加熱〜冷却の過程において、加熱コイルの出力や送り速度等の条件を適正化して、鋼管外面側の温度履歴を上述した条件とする。
更に、このとき、二組の支持ロール2を通過した熱処理用鋼管1aを可動ローラダイス4の加圧ロール4a,4bにより支持し、熱処理用鋼管1aの外周に配置した高周波加熱コイル5及び冷却装置6を用いて、熱処理用鋼管1aを局部的に加熱及び冷却しながら、可動ローラダイス4の位置と傾きとを制御するとともに、その移動速度も適宜調整する。これにより、熱処理用鋼管1aにおける部分的に高温にある部分に曲げモーメントを与えて曲げ加工を行うことができるとともに、加熱装置5による加熱速度及び加熱温度と冷却装置6による冷却速度とを適宜調整することによって、熱処理用鋼管1aの所望の部分に焼入れを行うことができる。その結果、所望の高強度を有するとともに所望の曲率の二次元又は三次元の曲げ加工部を有する熱処理鋼管1bを製造することができる。
図3は、本発明に係る熱処理鋼管1bの製造に用いることができる可動ローラダイス4の形状を例示する説明図である。図3(a)は、熱処理用鋼管1aが丸管などの閉断面材である場合に、可動ローラダイス4を2ロールで構成した場合を模式的に示している。図3(b)は、熱処理用鋼管1aが矩形管などの閉断面材、又は、チャンネルなどの開断面材である場合に、可動ローラダイス4を2ロールで構成した場合を模式的に示している。図3(c)は、熱処理用鋼管1aが矩形管などの閉断面材、又は、チャンネルなどの異型断面材である場合に、可動ローラダイス4を4ロールで構成した場合を模式的に示している。
図3(a)に示したように、この可動ローラダイス4は、熱処理用鋼管1aを支持するために、2つの加圧ロール4a,4bにより構成される。可動ローラダイス4における加圧ロール4aは、熱処理用鋼管1aの表面に当接して駆動し、熱処理用鋼管1aをその長手方向へ送りながら熱処理用鋼管1aを保持する。高温域により熱処理用鋼管1aの表面におけるめっき皮膜層及び表面皮膜層の表面性状が悪化しても、加圧ロール4aを用いて加圧力を付与しながら熱処理用鋼管1aの表面を押圧することができる。これにより、表面皮膜層の表面粗さRaを調整することができる。その結果、その表面にめっき皮膜層及び表面皮膜層を残存させた熱処理鋼管1bの皮膜の粗度を、所望の範囲内にすることができる。曲がった鋼管の表面の粗度を別工程で調整する場合ではロールの位置と鋼管の曲げがずれると加工に支障をきたすのに対し、可動ローラダイスによる粗度調整ではそのような恐れが無い。
ここで、図3(b)に示したように、可動ローラダイス4が2つの加圧ロール4c,4dにより構成される場合や、図3(c)に示したように、可動ローラダイス4が4つの加圧ロール4e,4f,4g,4hで構成される場合であっても、上記と同様にして加工を行うことで、熱処理鋼管1bの皮膜の表面性状を改善することが可能である。
また、可動ローラダイス4が、上下方向へのシフト機構、左右方向へのシフト機構、上下方向に傾斜するチルト機構、あるいは左右方向に傾斜するチルト機構を具備すること、望ましくは更に前後方向への移動機構を具備することによって、3次元的に熱処理用鋼管1aを支持し、必要により曲げモーメントを付与することができる。
図3に示す可動ローラダイス4による加圧によって熱処理用鋼管1aの表面皮膜層の表面粗度を調整するには、具体的には、熱処理用鋼管1aに対する加圧ロール4aの押圧力を制御することによって行えばよい。その際の押し付け圧は、加圧ロール4aのロール径が30mm程度である場合には、例えば、線荷重として1kgf/mm以上100kgf/mm以下(ここで、1kgfは、約9.8Nである。)であることが好ましい。押圧力は、可動ローラダイス4に油圧シリンダーやエアシリンダーを装着して制御することが例示される。
このようにして、本実施形態によれば、熱処理用鋼管1aに高温加熱及び冷却による熱処理を施す場合であっても、所定のめっき付着量及び集合組織を備えるめっき皮膜層と、所定の金属化合物を含有する表面皮膜層と、を残存させることができ、これにより、熱処理鋼管1bの表面性状(表面粗さRa)の改善を図ることが可能である。このようにして製造される熱処理鋼管1bは、自動車用部材としての塗装後の適正な耐食性を確保することができる。
以上、図1〜図3を参照しながら、本実施形態に係る熱処理鋼管の製造方法において好適に利用可能な3DQ工法について、詳細に説明した。
<熱処理鋼管について>
続いて、上記のような本実施形態に係る熱処理用鋼管を利用して、上記のような熱処理鋼管の製造方法に則して製造される熱処理鋼管について、簡単に説明する。
本実施形態に係る熱処理鋼管は、上記のような所定の熱処理用鋼管を利用して、上記のような特定の焼き入れ工程を施すことによって、表面にAl合金のめっき皮膜層を備えたマルテンサイト組織を有する鋼管となる。かかる熱処理鋼管は、焼き入れされた部位が、以下で詳述するような特徴を示すようになる。
すなわち、本実施形態に係る熱処理鋼管のうち焼き入れが施された部位を、グロー放電発光分光分析法(Glow Discharge Spectroscopy:GDS)等により、焼き入れ部位の最表面から、当該最表面より深部に向かって0.1μmまでの深さまで、元素ごとの含有量を測定する。この場合に、かかる測定範囲における酸素以外の元素の含有量(平均の含有量)が、質量%で、Al:20%以下となっている。また、かかる測定範囲におけるZn、Mg、Zr、Ti又はSiの含有量(平均の含有量)は、質量%で、50%以上となっていることが好ましい。
例えば、熱処理鋼管の製造に用いられた熱処理用鋼管において、表面皮膜層にZnOが含有されている場合、かかる測定範囲における酸素以外の元素の含有量は、Al:20%以下、かつ、Zn:50%以上となる。
同様に、熱処理鋼管の製造に用いられた熱処理用鋼管において、表面皮膜層にMgOが含有されている場合、かかる測定範囲における酸素以外の元素の含有量は、Al:20%以下、かつ、Mg:50%以上となり、熱処理鋼管の製造に用いられた熱処理用鋼管において、表面皮膜層にZrOが含有されている場合、かかる測定範囲における酸素以外の元素の含有量は、Al:20%以下、かつ、Zr:50%以上となる。
また、熱処理鋼管の製造に用いられた熱処理用鋼管において、表面皮膜層にTiOが含有されている場合、かかる測定範囲における酸素以外の元素の含有量は、Al:20%以下、かつ、Ti:50%以上となり、熱処理鋼管の製造に用いられた熱処理用鋼管において、表面皮膜層にSiOが含有されている場合、かかる測定範囲における酸素以外の元素の含有量は、Al:20%以下、かつ、Si:50%以上となる。
上記のような測定範囲において、Alの平均の含有量が20%以下となることで、本実施形態に係る熱処理鋼板は、優れた化成処理性を示す。上記のような測定範囲において、Alの平均の含有量の下限値は、特に規定するものではなく、Alの平均の含有量が低いほど、化成処理性に好ましい。また、上記のような測定範囲において、Alの平均の含有量は、好ましくは、10%以下である。
以上、本実施形態に係る熱処理鋼管について、簡単に説明した。
<自動車車体用強度部材について>
続いて、上記のような本実施形態に係る熱処理用鋼管を利用して製造される、自動車車体用強度部材について、簡単に説明する。
上記のような本実施形態に係る熱処理用鋼管を利用して、上記のような熱処理鋼管の製造方法に則して熱処理を適切に施すことで、自動車車体用強度部材を製造することができる。このような自動車車体用強度部材については、特に限定されるものではないが、例えば、フロントピラー、シートクロス、シートフレーム等を挙げることが可能である。
以下に、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る熱処理用鋼管、熱処理鋼管の製造方法及び熱処理鋼管について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る熱処理用鋼管、熱処理鋼管の製造方法及び熱処理鋼管の一例にすぎず、本発明に係る熱処理用鋼管、熱処理鋼管の製造方法及び熱処理鋼管が下記の例に限定されるものではない。
(母管)
本試験例では、鋼材として、C:0.22%,Si:0.21%,Mn:1.25%,P:0.012%,S:0.002%,Al:0.040%,Cr:0.25%,Ti:0.030%,B:0.0015,残部Fe及び不純物からなる化学組成を有する鋼板を
めっき母材とするZn−55%Al−1.6%Siガルバリウム溶融めっき鋼板(目付量:50.1g/m)、及び、Al−10%Si溶融アルミニウムめっき鋼板(目付量:70g/m)を用い、かかるめっき鋼板の両端を溶接することで溶接鋼管とした。得られた溶接鋼管を、熱処理用鋼管の母管として利用した。なお、以下の表1において、めっき種が「GL」となっているものが、Zn−55%Al−1.6%Siガルバリウム溶融めっきに対応し、めっき種が「Al−Si」となっているものが、Al−10%Si溶融アルミニウムめっきに対応している。
(金属化合物)
試薬メーカーから、所定の粒径を有する所定化合物の微粒子を購入した。又は、所定のゾル径で既に溶媒に分散されたゾル状態の試薬を購入した。(樹脂:ウレタン系樹脂エマルション(第一工業製薬(株)スーパーフレックス(登録商標)E−2000)、架橋剤(シランカップリング剤:チッソ(株)サイラエースS510))を用い、購入した試薬を、所定化合物試薬と樹脂及び架橋剤とが固形物の質量比で表1の値になるように混合し、バーコータで上記母管の表面に塗布し、約80℃で焼きつけることで、表面皮膜層を形成した。なお、購入した金属化合物の詳細及び平均粒径は、以下の通りである。
ZnO:シグマ−アルドリッチ社製、ゾル粒径70nm(カタログ値)
MgO:シグマ−アルドリッチ社製、一次粒径50nm(カタログ値)
塩化マグネシウム:シグマ−アルドリッチ社製、粒径70nm(カタログ値)
硝酸マグネシウム:シグマ−アルドリッチ社製、粒径70nm(カタログ値)
硫酸マグネシウム:シグマ−アルドリッチ社製、粒径70nm(カタログ値)
ZrO(1):シグマ−アルドリッチ社製、ゾル粒径50nm(カタログ値)
ZrO(2):シグマ−アルドリッチ社製、ゾル粒径500nm(カタログ値)
CaO:シグマ−アルドリッチ社製、一次粒径50nm(カタログ値)
TiO(1):シグマ−アルドリッチ社製、ゾル粒径10nm(カタログ値)
TiO(2):シグマ−アルドリッチ社製、ゾル粒径100nm(カタログ値)
SiO(1):日産化学工業社製、ゾル粒径10nm(カタログ値)
SiO(2):日産化学工業社製、ゾル粒径100nm(カタログ値)
得られた表面皮膜層を分析し、金属化合物の付着量を、皮膜溶解−ICP溶液分析法により測定した。また、表面皮膜層中の金属化合物とバインダ(すなわち、樹脂及び架橋剤)との質量比率を表面皮膜層の質量を塗布前後の質量の比較により求め、金属化合物量を皮膜溶解−ICP溶液分析法により測定した。得られた結果は、表1にまとめて示した。
(熱処理鋼管の製造)
図1〜図3に示したような製造装置7により、100℃から最高加熱温度まで平均昇温速度300℃/sで表1に示す最高温度まで加熱し、0.1秒保持した後、水冷を行った。この際に、上記の試験材の一部分に対して、上記冷却を開始する前に、曲げ加工を実施した。なお、最高加熱温度から350℃までの平均冷却速度は、すべて1000℃/s以上であった。
以上のようにして熱処理鋼材(番号1〜53)を作製し、以下のようにして化成処理性を評価した。
(評価方法)
化成処理性は、試験材を脱脂及び水洗した後、表面を調整して、化成処理を施した。用いた化成処理液は、日本ペイント社製サーフダイン6370である。その後、曲げ加工部位について、蛍光X線分析装置により化成結晶付着量を測定するとともに、試験材の表面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により観察して、結晶の形態を撮影した。
ここで、化成付着量は、2.5g/m以上を合格とした。また、結晶の形態については、化成結晶が緻密に試験材を覆っていれば合格とし、覆っていなければ不合格とした。化成付着量と結晶形態のいずれも合格であれば、以下に示す表1の「化成処理性」の欄に○を記入し、いずれかが不合格であれば×を記入した。得られた結果を、以下の表1に示す。
上記表1から明らかなように、比較例に該当する試験材では、優れた化成処理性が得られなかったのに対し、本発明例に係る試験材では、優れた化成処理性が実現できていることがわかる。
また、図4に、本試験例で作製した化成結晶皮膜のSEM写真を示す。図4から明らかなように、本発明例であるNo.3の表面は、板状の化成結晶皮膜で緻密に覆われているが、比較例であるNo1の表面は、板状の化成結晶皮膜で緻密に覆われていないことが分かる。
次に、3DQ工程後であり、かつ、化成処理をしていない試験材を利用し、GDSで表面から深さ方向の元素ごとの質量比を測定し、深さ100nmまでの範囲で、酸素を含めず、Zn,Al,Fe,Siの平均濃度を求めた。得られた結果を、以下の表2に示した。
上記表2から明らかなように、本発明例であるNo.3の試験材では、表面から深さ100nmまでの範囲では、Znが50%以上、かつ、Alが20%以下であり、この試験材の表面は、ZnOが主体であると推定される。一方、比較例であるNo.1の試験材では、表面から深さ100nmまでの範囲では、Znが50%未満、かつ、Alが20%超過となっており、この試験材の表面は、アルミナが主体であると推定される。同様に、本発明例であるNo.6、No.11、No.16、No.21、No.23の試験材では、表面から深さ100nmまでの範囲では、それぞれZn、Mg、Zr、Ti、Siが50%以上、かつ、Alが20%以下であり、これらの試験材の表面は、それぞれ、ZnO、MgO、ZrO、TiO、SiOが主体であると推定される。一方、比較例であるNo.5の試験材では、表面から深さ100nmの範囲では、Zn、Mg、Zr、Ti、Siが50%未満、かつ、Alが20%超過となっており、この試験材の表面は、アルミナが主体であると推定される。このような主体となる成分の違いが、本発明例と比較例とで化成処理性が異なる理由であると推定される。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 被加工材
1a 熱処理用鋼管
1b 熱処理鋼管
2 支持ロール
3 押し出し装置
4 可動ローラダイス
5 高周波加熱コイル
6 冷却装置
7 製造装置

Claims (2)

  1. 表面にAl合金のめっき皮膜層を備えたマルテンサイト組織を有する鋼管であって、
    前記めっき皮膜層の最表面から0.1μmまでの領域における酸素を除く元素の割合のうち、Alの割合が20質量%以下である、熱処理鋼管。
  2. 焼き入れされた部位の最表面から、当該最表面から0.1μmまでの深さにおける、Zn、Mg、Zr、Ti又はSiの含有量が、質量%で、50%以上である、請求項1に記載の熱処理鋼管。
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