JP2020022712A - 押子または外筒、医療器具、押子の製造方法、およびコーティング剤 - Google Patents

押子または外筒、医療器具、押子の製造方法、およびコーティング剤 Download PDF

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Abstract

【課題】潤滑成分を含まず、摺動性、気密性および耐薬品性に優れた医療器具を構成できる押子ならびに外筒、医療器具、押子の製造方法、およびコーティング剤を提供する。【解決手段】摺動部材12を有する押子10であって、該摺動部材12は、該摺動部材12の少なくとも一部を被覆するコーティング層14を有し、該コーティング層14は含フッ素重合体を含み、該コーティング層14の全質量に対するフッ素原子の含有割合が0.1〜80質量%であることを特徴とする押子10である。【選択図】図1

Description

本発明は、押子または外筒、医療器具、押子の製造方法、およびコーティング剤に関する。
押子と外筒とを有する医療器具は、押子の少なくとも一部において外筒の内壁と密接することで、押子と外筒の内壁との間に薬液等を保持できる。このような状態で押子を摺動させると、医療器具において、押子は気密を保持しながら薬液を押し出す役割を果たす。上記医療器具としては、具体的には、医療用注射器が挙げられる。
上記医療器具において、押子の、外筒の内壁と密接して摺動する部位における摺動性が良好であることが求められている。引用文献1には、押子が、熱可塑性合成樹脂ともに潤滑成分を含むガスケットを有することよって、摺動性が向上する発明が開示されている。
特開平5−57018号公報
一方で、上記押子は、薬液とも接する。そのため、ガスケットが潤滑成分を含む場合、薬液と所定時間接すると、ガスケットから潤滑成分が溶出して薬液中に混入する場合があることを、本発明者らは知見した。
本発明は、上記課題に鑑みて、潤滑成分を含まず、摺動性、気密性および耐薬品性に優れた医療器具を構成できる押子または外筒、医療器具、押子の製造方法、およびコーティング剤の提供を目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、押子における、外筒の内壁と密接して摺動する部位の少なくとも一部を、フッ素原子の含有割合が所定範囲内であるコーティング層で被覆することにより、潤滑成分を含ませなくとも、摺動性および気密性が向上し、かつ耐薬品性に優れる医療器具を構成できることを見出し、本発明に至った。
また、本発明者らは、外筒において、押子が摺動する際に密接する内壁の少なくとも一部を、上記コーティング層で被覆することによっても、潤滑成分を含ませなくとも摺動性および気密性が向上し、かつ耐薬品性に優れる医療器具を構成できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できるのを見出した。
[1]摺動部材を有する押子であって、上記摺動部材は、上記摺動部材の少なくとも一部を被覆するコーティング層を有し、上記コーティング層は含フッ素重合体を含み、上記コーティング層の全質量に対するフッ素原子の含有割合が0.1〜80質量%であることを特徴とする押子。
[2]上記含フッ素重合体が親水性基を有する単位を含む[1]の押子。
[3]上記コーティング層において、硬化剤によって上記含フッ素重合体が架橋している[1]または[2]の押子。
[4]上記含フッ素重合体が、フルオロオレフィンに基づく単位と、フッ素原子を有さない、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、および(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種に基づく単位と、を含む[1]〜[3]のいずれかの押子。
[5]上記フルオロオレフィンが、CF=CF、CF=CFCF、CF=CFCl、CH=CF、CFCH=CHFおよびCFCF=CHからなる群から選択される少なくとも一種である、[1]〜[4]のいずれかの押子。
[6]上記コーティング層の全質量に対する上記含フッ素重合体の含有割合が、1〜99質量%である、[1]〜[5]のいずれかの押子。
[7]上記コーティング層の層厚が、0.01〜1,000μmである、[1]〜[6]のいずれかの押子。
[8]上記摺動部材が、基材と、上記基材の先端部に装着されているガスケットからなる、[1]〜[7]のいずれかの押子。
[9]上記ガスケットが、エラストマーからなる、[8]に記載の押子。
[10][1]〜[9]のいずれかの押子および外筒を有する医療器具。
[11]医療用注射器として用いられる、[10]の医療器具。
[12]摺動部材を有する押子の製造方法であって、含フッ素重合体を含み、フッ素原子の含有割合が0.01〜80質量%であるコーティング剤を上記摺動部材の表面の少なくとも一部に塗布し、0℃以上50℃以下で乾燥させてコーティング層を有する押子を得ることを特徴とする、押子の製造方法。
[13]上記含フッ素重合体は架橋性の親水性基を有し、上記コーティング剤はさらに硬化剤を含み、0℃以上50℃以下で乾燥させた後、50℃超200℃以下で加熱硬化させる、[12]の製造方法。
[14]摺動部材を有する[1]〜[9]のいずれかの押子の、上記摺動部材の表面の少なくとも一部を被覆するコーティング層の形成に用いられる、フッ素原子の含有割合が0.01〜80質量%であるコーティング剤。
[15]外筒と押子とを有する医療器具に用いられる外筒であって、上記外筒の内壁の少なくとも一部を被覆するコーティング層を有し、上記コーティング層は含フッ素重合体を含み、上記コーティング層の全質量に対するフッ素原子の含有割合が0.1〜80質量%であることを特徴とするコーティング層付き外筒。
[16]上記含フッ素重合体が、フルオロオレフィンに基づく単位と、フッ素原子を有さない、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、および(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種に基づく単位と、を含む[15]のコーティング層付き外筒。
[17]上記フルオロオレフィンが、CF=CF、CF=CFCF、CF=CFCl、CH=CF、CFCH=CHFおよびCFCF=CHからなる群から選択される少なくとも一種である、[15]または[16]に記載のコーティング層付き外筒。
[18]上記外筒とコーティング層との間にさらに下塗り層を有し、
上記下塗り層の層厚が前記コーティング層の層厚よりも大きい、[15]〜[17]のコーティング層付き外筒。
[19]上記下塗り層の層厚が、上記コーティング層に対して100〜1,000倍である、[18]のコーティング層付き外筒。
[20]上記下塗り層が、アクリル樹脂、シリコーン樹脂およびアクリルシリコーン樹脂からなる群からなる群から選択される少なくとも一種である、[18]または[19]のコーティング層付き外筒。
[21][15]〜[20]のコーティング層付き外筒および押子を有する医療器具。
[22]医療用注射器として用いられる、[21]に記載の医療器具。
本発明によれば、潤滑成分を含まず、摺動性と気密性とを具備し、かつ耐薬品性に優れた医療器具を構成できる押子または外筒、医療器具、押子の製造方法、およびコーティング剤を提供できる。
本発明の押子を有する医療用注射器の一態様を示す概略断面図である。 本発明のコーティング層付き外筒を有する医療用注射器の一態様を示す概略断面図である。
本発明における用語の意味は以下の通りである。
「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
「単位」とは、単量体が重合して直接形成された、上記単量体1分子に基づく原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(モル%)は、重合体を核磁気共鳴スペクトル法により分析して求められる。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの総称であり、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」の総称である。
「加水分解性シリル基」とは、加水分解してシラノール基となる基である。
「平均粒子径」は、ELS−8000(大塚電子株式会社製)を用いて動的光散乱法により求められるD50の値である。なお、D50は、動的光散乱法により測定した粒子の粒度分布において、小さな粒子側から起算した体積累計50体積%の粒子直径値である。
「数平均分子量」および「重量平均分子量」は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値である。「数平均分子量」は、「Mn」ともいい、「重量平均分子量」は、「Mw」ともいう。
「酸価」と「水酸基価」は、それぞれ、JIS K 0070−3(1992)の方法に準じて測定される値である。
コーティング層の層厚は、渦電流式膜厚計(商品名「EDY−5000」、サンコウ電子社製)を用いて測定される値である。
コーティング層におけるフッ素原子の含有割合は、コーティング層の全質量に対するフッ素原子の質量の割合(質量%)を意味する。コーティング層におけるフッ素原子の含有割合は、自動試料燃焼装置−イオンクロマト法(AQF−IC法)によって、下記条件にて測定して得られる。
<分析条件>
・自動試料燃焼装置
装置:三菱ケミカルアナリテック社製、自動試料燃焼装置AQF−100
燃焼条件:固体試料用モード
試料量:2〜20mg
・イオンクロマトグラフ
装置:Thermo Fisher SCIENTIFIC社製
カラム:IonpacAG11HC+IonpacAS11HC
溶離液:KOH10mN(0−9min)、10−16mN(9−11min)、16mN(11−15min)、16−61mN(15−20min)、60mN(20−25min)
流速:1.0mL/分
サプレッサ:ASRS
検出器:電導度検出器
注入量:5μL
含フッ素重合体におけるフッ素原子の含有割合は、含フッ素重合体の全質量に対するフッ素原子の質量の割合(質量%)を意味する。含フッ素重合体におけるフッ素原子の含有割合は、含フッ素重合体を核磁気共鳴スペクトル(NMR)法により分析して求められる。
本発明の押子は、摺動性と気密性とを具備し、かつ耐薬品性に優れる医療器具を構成できる。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明の押子は、フッ素原子の含有割合が所定範囲内であるコーティング層を有するため、コーティング層表面における表面自由エネルギーが好適となり、摺動性と密着性とがバランスすると考えられる。さらには、所定量のフッ素原子を含むことにより薬液が浸透しにくく、耐薬品性にも優れると考えられる。
本発明のコーティング層付き外筒は、摺動性と気密性とを具備し、かつ耐薬品性に優れる医療器具を構成できる。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明のコーティング層付き外筒は、押子が摺動する際に密接する内壁にフッ素原子の含有割合が所定範囲内であるコーティング層を有するため、コーティング層表面における表面自由エネルギーが好適となり、摺動性と密着性とがバランスすると考えられる。さらには、所定量のフッ素原子を含むことにより薬液が浸透しにくく、耐薬品性にも優れると考えられる。
以下、本発明の押子の一態様として、医療用注射器を構成する態様を、図面を用いて説明する。
図1に示す医療用注射器30は、外筒20と押子10とを有する。押子10は、摺動部材12と、摺動部材12の表面の一部を被覆するコーティング層14を有し、コーティング層14の一部において、外筒20の内壁と密接しながら摺動する。摺動部材12は、基材16と、基材16の先端部に装着されているガスケット18とを有している。
本発明におけるコーティング層は、含フッ素重合体を含み、コーティング層の全質量に対するフッ素原子の含有割合が0.1質量%以上80質量%以下である。上記含有割合は、摺動性の点から、0.1質量%以上であるのが好ましく、3質量%以上であるのがより好ましく、10質量%以上であるのが特に好ましい。また、上記含有割合は、気密性の点から、50質量%未満であるのが好ましく、30質量%未満であるのがより好ましく、20質量%未満であるのが特に好ましい。
本発明におけるコーティング層の層厚は、耐薬品性の点から、0.01〜1,000μmであるのが好ましく、0.02〜0.08μmであるのが特に好ましい。
本発明における含フッ素重合体は、フッ素原子を有する単位を含む。フッ素原子を有する単位としては、フルオロオレフィンに基づく単位(以下、「単位F」ともいう。)が好ましい。
フルオロオレフィンは、水素原子の1個以上がフッ素原子で置換されたオレフィンである。フルオロオレフィンは、フッ素原子で置換されていない水素原子の1個以上が塩素原子で置換されていてもよい。
フルオロオレフィンの具体例としては、CF=CF、CF=CFCl、CF=CHF、CH=CF、CF=CFCF、CF=CHCF、CFCH=CHF、CFCF=CH、式CH=CX(CFn1(式中、XおよびYは、独立に水素原子またはフッ素原子であり、n1は2〜10の整数である。)で表される単量体が挙げられる。フルオロオレフィンとしては、耐薬品性の点から、CF=CF、CF=CFCF、CF=CFCl、CH=CF、CFCH=CHFおよびCFCF=CHからなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、CF=CFまたはCH=CFがより好ましく、CF=CFClが特に好ましい。フルオロオレフィンとしては、二種以上を併用してもよい。
含フッ素重合体は、フッ素原子を有する単位として、単位Fのみを含んでもよく、フルオロオレフィン以外のフッ素原子を有する単量体に基づく単位を含んでもよく、フルオロオレフィン以外のフッ素原子を有する単量体に基づく単位と単位Fとの両方を含んでもよい。
単位Fのみを含む含フッ素重合体としては、フルオロオレフィンの単独重合体、フルオロオレフィンの二種以上の共重合体等が挙げられ、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオリド共重合体、ポリビニリデンフルオリド等が挙げられる。
フルオロオレフィン以外のフッ素原子有する単量体に基づく単位と単位Fとの両方を含む含フッ素重合体としては、フルオロオレフィン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等が挙げられ、具体的には、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等が挙げられる。
本発明における含フッ素重合体は、気密性の点から、フッ素原子を有する単位と、フッ素原子を有さない単位とを含むのが好ましく、単位Fと、フッ素原子を有さない単位とを含むのが特に好ましい。
単位Fと、フッ素原子を有さない単位とを含む含フッ素重合体としては、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン−ビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン−ビニルエーテル−ビニルエステル共重合体、クロロトリフルオロエチレン−ビニルエステル−アリルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニルエステル共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニルエステル−アリルエーテル共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
単位Fの含有量は、コーティング層の耐薬品性の点から、含フッ素重合体が含む全単位に対して、20〜100モル%であるのが好ましく、30〜70モル%であるのがより好ましく、40〜60モル%であるのが特に好ましい。
含フッ素重合体は、コーティング層の柔軟性に優れ、本発明の医療器具の気密性が向上する点から、フッ素原子を有さない単位として、アルケン、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、および(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種(以下、「単量体D」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位D」ともいう。)を含むのが好ましく、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、および(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種を含むのが特に好ましい。
単量体Dとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、エチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、ピバル酸ビニルエステル、ネオノナン酸ビニルエステル(HEXION社製、商品名「ベオバ9」)、ネオデカン酸ビニルエステル(HEXION社製、商品名「ベオバ10」)、安息香酸ビニルエステル、tert−ブチル安息香酸ビニルエステル、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
単位Dは、摺動部材に対するコーティング層の密着性の点から、親水性基を有する単位(以下、「単位H」ともいう。)を含むのが好ましい。上記親水性基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、加水分解性シリル基、式−OSO h1 で表される基、式−COOh1 で表される基(式中、Xh1 はそれぞれ独立にNaまたはNH である。)等が挙げられる。上記親水性基としては、コーティング層の耐薬品性の点から、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。単位Hは、親水性基の二種以上を有していてよい。
単位Hは、親水性基を有する単量体に基づく単位であってもよく、含フッ素重合体が側鎖に有する官能基(上述した親水性基や、親水性基以外の、エポキシ基等の反応性基)の少なくとも一部が、親水性基に変換されて得られる単位であってもよい。このような単位としては、ヒドロキシ基の少なくとも一部が、ポリカルボン酸やその酸無水物(無水コハク酸等)によってカルボキシ基に変換されて得られる単位が挙げられる。
ヒドロキシ基を有する単量体としては、ヒドロキシ基を有する、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、(メタ)アクリル酸エステル、アリルアルコール等が挙げられる。
ヒドロキシ基を有する単量体の具体例としては、CH=CHO−CH−cycloC10−CHOH、CH=CHCHO−CH−cycloC10−CHOH、CH=CHO−CH−cycloC10−CH−(OCHCH15OH、CH=CHOCHCHOH、CH=CHCHOCHCHOH、CH=CHOCHCHCHCHOH、CH=CHCHOCHCHCHCHOHが挙げられる。ヒドロキシ基を有する単量体としては、フルオロオレフィンとの共重合性の点から、CH=CHCHOCHCHOHおよびCH=CHOCHCHCHCHOHであるのが好ましい。
なお、「−cycloC10−」はシクロへキシレン基を表し、「−cycloC10−」の結合部位は、通常1,4−である。
カルボキシ基を有する単量体としては、不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸、上述したヒドロキシ基を有する単量体のヒドロキシ基にポリカルボン酸やその酸無水物を反応させて得られる単量体等が挙げられる。
カルボキシ基を有する単量体の具体例としては、CH=CHCOOH、CH(CH)=CHCOOH、CH=C(CH)COOH、HOOCCH=CHCOOH、CH=CH(CHn2COOHで表される単量体(ただし、n2は1〜10の整数を示す。)、CH=CHO(CHn3OC(O)CHCHCOOHで表される単量体(ただし、n3は1〜10の整数を示す。)が挙げられる。カルボキシ基を有する単量体としては、フルオロオレフィンとの共重合性の点から、CH=CH(CHn2COOHで表される単量体であるのが好ましい。
親水性基を有する単量体は、二種以上を併用してもよい。
単位Hの含有量は、含フッ素重合体が含む全単位に対して、0.5〜40モル%であるのが好ましく、3〜30モル%であるのがより好ましく、5〜25モル%であるのがさらに好ましく、5〜20モル%であるのが特に好ましい。
単位Hが有する親水性基は、架橋性の親水性基であってもよい。つまり、単位Hが有する親水性基の少なくとも一部は、後述する硬化剤と架橋していてもよい。この場合、コーティング層は、硬化剤によって含フッ素重合体が架橋している。
コーティング層中の含フッ素重合体において、架橋性の親水性基の少なくとも一部が架橋せずに残存していると、摺動部材に対するコーティング層の密着性に優れ、架橋性の親水性基の少なくとも一部が架橋していると、コーティング層の耐薬品性に優れる。架橋性の親水性基としては、上述した架橋性基のうち、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、加水分解性シリル基等が挙げられる。
単位Dは、上述した単位H以外に、エポキシ基、グリシジル基等の疎水性の架橋性基を有する単位を含んでいてもよい。この場合、含フッ素重合体は、上記疎水性の架橋性基において、後述する硬化剤等と架橋していてもよい。上記疎水性の架橋性基は、二種以上が併用されていてもよい。
単位Dの含有量は、含フッ素重合体が含む全単位に対して、0.5〜60モル%であるのが好ましく、10〜50モル%であるのが特に好ましい。
単位Dは、単位Hと、親水性基も疎水性の架橋性基も有さない単位(以下、「単位D1」ともいう。)と、の両方を含むのが好ましい。
含フッ素重合体が、単位Fおよび単位Dを含み、かつ単位Dが単位Hおよび単位D1を含む場合、摺動性および気密性がバランスする点から、単位F、単位Hおよび単位D1の含有量は、含フッ素重合体が含む全単位に対してそれぞれこの順に、40〜60モル%、0.5〜35モル%および10〜50モル%であるのが好ましい。
含フッ素重合体としては、市販品が用いられていてもよく、具体例としては、「ルミフロン」シリーズ(旭硝子社製)、「Fluon」シリーズ(旭硝子社製)、「Kynar」シリーズ(アルケマ社製)、「ゼッフル」シリーズ(ダイキン工業社製)、「Eterflon」シリーズ(エターナル社製)、「Zendura」シリーズ(Honeywell社製)が挙げられる。
含フッ素重合体は、公知の方法で製造されればよい。含フッ素重合体の製造方法としては、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等が挙げられる。
含フッ素重合体の製造においては、重合開始剤、重合安定剤、重合禁止剤および界面活性剤等の成分を使用できる。したがって、コーティング層には、本発明の効果を損なわない範囲内で、含フッ素重合体の製造において使用された上記成分が、残存成分として含まれていてもよい。
コーティング層の全質量に対する前記含フッ素重合体の含有割合は、本発明の効果に優れる点から、1〜99質量%であるのが好ましく、20〜90質量%であるのが特に好ましい。
含フッ素重合体が架橋性の親水性基を有する場合、コーティング層の耐久性および耐薬品性の点から、コーティング層は、硬化剤によって含フッ素重合体が架橋しているのが好ましい。
上記硬化剤としては、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、エポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、β−ヒドロキシアルキルアミド基または加水分解性シリル基等を1分子中に2以上有する化合物が好ましい。硬化剤の種類は、含フッ素重合体が有する架橋性の親水性基の種類に合わせて適宜選択されればよい。例えば、上記親水性基がカルボキシ基である場合、エポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基またはβ−ヒドロキシアルキルアミド基を1分子中に2以上有する化合物が硬化剤として好ましく使用される。上記親水性基がヒドロキシ基である場合、イソシアネート基またはブロック化イソシアネート基を1分子中に2以上有する化合物が硬化剤として好ましく使用される。
硬化剤は、二種以上を併用してもよい。
コーティング層は、本発明の効果を損なわない範囲内で、後述するコーティング剤が含んでよい添加剤を含んでいてもよい。また、コーティング層は、本発明の効果を損なわない範囲内で、後述するコーティング剤が含んでよい、フッ素原子を有さない樹脂(以下、「非フッ素樹脂」ともいい、常温で固体の樹脂を指す。)を含んでいてもよい。
ただし、本発明におけるコーティング層であれば、潤滑成分(シリコーンオイル、脂肪酸アミド系滑剤、流動パラフィン、金属石鹸、ポリエチレンワックス等の炭化水素系滑材等)を含まなくとも、本発明の医療器具に充分な摺動性を発現することができる。
本発明におけるコーティング層は、含フッ素重合体を含むコーティング剤を用いて形成するのが好ましい。コーティング剤が含む含フッ素重合体は、以下の物性を有することが好ましい。
含フッ素重合体が、カルボキシ基を有する含フッ素重合体である場合、含フッ素重合体の酸価は、摺動部材に対するコーティング層の密着性の点から、1〜150mgKOH/gであるのが好ましく、5〜50mgKOH/gであるのが特に好ましい。
含フッ素重合体が、ヒドロキシ基を含む含フッ素重合体である場合、含フッ素重合体の水酸基価は、摺動部材に対するコーティング層の密着性の点から、1〜150mgKOH/gであるのが好ましく、5〜50mgKOH/gであるのが特に好ましい。
含フッ素重合体は、酸価または水酸基価のどちらか一方のみを有してもよく、両方を有してもよい。
含フッ素重合体のTgは、コーティング層の耐久性の点から、1〜120℃であるのが好ましい。
含フッ素重合体のMnは、コーティング層の柔軟性の点から、3,000〜200,000であるのが好ましい。
含フッ素重合体の全質量に対するフッ素原子の含有割合は、摺動性および気密性がバランスし、かつ耐薬品性に優れる点から、10〜80質量%であるのが好ましく、15〜30質量%であるのが特に好ましい。
上記以外に関しては、上述したコーティング層における含フッ素重合体と同様であるので、詳細を省略する。
コーティング剤の全質量に対する含フッ素重合体の含有量は、コーティング層が均一に形成される点から、5質量%以上95質量%以下であるのが好ましく、40質量以上60質量%以下であるのが特に好ましい。
コーティング剤の全質量に対するフッ素原子の含有割合は、摺動性および気密性がバランスし、かつ耐薬品性に優れるコーティング層を形成できる点から、0.01〜80質量%であるのが好ましく、1〜20質量%であるのが特に好ましい。
コーティング剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で、非フッ素樹脂を含んでもよい。非フッ素樹脂としては、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エポキシポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、変性ポリエステル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
コーティング剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で、添加剤および上述した硬化剤を含んでもよい。添加剤としては、各種媒体(水、有機溶剤等)、触媒(硬化触媒等)、フィラー(樹脂ビーズ等)、顔料(有機顔料、無機顔料等)、光安定剤、紫外線吸収剤、つや消し剤、分散剤、消泡剤、表面調整剤、脱ガス剤、熱安定剤、増粘剤、界面活性剤、帯電防止剤、防錆剤、シランカップリング剤、低汚染化処理剤、可塑剤、接着剤等が挙げられる。
コーティング剤は、潤滑成分を含んでもよいが、潤滑成分の溶出と薬液への混入を防ぐ点からは、潤滑成分を含まないことが好ましい。
コーティング剤は、含フッ素重合体が各種媒体(水、有機溶剤等)に溶解または分散している溶液または分散液であってもよく、含フッ素重合体を含む固体であってもよい。
コーティング剤が溶液または分散液である場合、コーティング層は、摺動部材の表面の少なくとも一部に、コーティング剤をウェットコーティング法(刷毛、ローラー、ディッピング、スプレー、ロールコーター、ダイコーター、アプリケーター、スピンコーター等を用いる方法)により塗布し、乾燥により溶媒を除去し、必要に応じて加熱処理して製造できる。
コーティング剤が固体である場合、コーティング層は、摺動部材の表面上の少なくとも一部に、コーティング剤をドライコーティング法により表面処理または塗装し、必要に応じて加熱処理して製造できる。
コーティング剤は、摺動部材に対するコーティング層の密着性およびコーティング層の層厚を好適に調節できる点から、含フッ素重合体を含む塗料であるのが好ましく、含フッ素重合体が有機溶剤に溶解している溶剤型塗料であるか、含フッ素重合体が水に分散している水性塗料であるのが好ましい。
コーティング剤が含フッ素重合体を含み、硬化剤を含まない一液型の塗料(架橋を必要としない塗料)である場合、本発明におけるコーティング層は、摺動部材の表面の少なくとも一部に、上記コーティング剤を塗布し、0℃以上50℃以下で乾燥させて形成するのが好ましい。このような一液型の塗料は、コーティング層の形成が簡易であるため、生産性が高い。
コーティング剤が架橋性基を有する含フッ素重合体および硬化剤を含む二液硬化型の塗料(架橋が可能である塗料)である場合、本発明におけるコーティング層は、摺動部材の表面の少なくとも一部に、上記コーティング剤を塗布し、0℃以上50℃以下で乾燥させ、次いで50℃超200℃以下で加熱処硬化させて形成するのが好ましい。このような二液硬化型の塗料は、形成されるコーティング層の強度および耐久性に優れ、耐薬品性により優れる。
摺動部材12は、押圧部16aを有する基材16と、基材16の、押圧部と反対側の先端部に存在する接続部16bに装着されているガスケット18を有する。
基材の材質や形状は、特に限定されない。基材としては、例えば、ガラスや合成樹脂等の、一般的な注射器の押子を主として構成する材料を採用できる。基材の形状には、使用する外筒に対応して、公知の押子を構成する形状(棒状、筒状、円筒状、円柱状等)を採用できる。
基材は、押子を摺動させる際に押圧を助ける押圧部を有してよい。また、基材は、摺動部材がガスケットを有する場合は、先端部にガスケットを装着するための接続部を有してよい。基材は、コーティング層との密着性をより向上させる点から、公知の表面処理方法(活性化処理、化成処理、プライマー処理等)で表面処理されていてもよい。
本発明におけるコーティング層は、基材の表面上に直接形成する場合でも、基材との密着性および基材への追従性に優れる。
ガスケットは通常、基材の先端部に装着される。ガスケットの材質や形状は、特に限定されない。ガスケットとしては、公知の弾性材料(エラストマー)を採用でき、具体的には、熱硬化性エラストマー(ブチルゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等)、熱可塑性エラストマー(スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、アミド系エラストマー等)等を採用できる。ガスケットの形状には、使用する外筒および基材に対応して公知の形状(円柱状等)を採用できる。ガスケットは、コーティング層との密着性をより向上させる点から、公知の表面処理方法(活性化処理、化成処理、プライマー処理等)で表面処理されていてもよい。
本発明におけるコーティング層は、柔軟性にも優れるため、ガスケットの表面上に直接形成する場合でも、ガスケットとの密着性およびガスケットへの追従性に優れる。
本発明における摺動部材は、上述したコーティング層に被覆されて押子を形成する部材であればよい。したがって、本発明における摺動部材は、基材のみからなってもよく、基材の先端部にガスケットを有してもよい。摺動部材は、気密性により優れる点からは、ガスケットを有するのが好ましい。
押子10は、摺動部材12と、摺動部材12の一部を被覆するコーティング層14を有している。摺動部材およびコーティング層については、上述した本発明における摺動部材およびコーティング層と同様であるので、詳細な説明を省略する。
本発明の押子において、コーティング層は、摺動部材の表面の全面を被覆していてもよく、一部のみを被覆していてもよい。押子は、コーティング層の少なくとも一部において、外筒の内壁と密着して摺動すればよい。
押子の形状は、特に限定されない。押子の形状としては、例えば、筒状や円柱状等であり、必要に応じて端部に押圧部を有する一般的な押子の形状を採用できる。
外筒20は、液出口202、フランジ204aおよび204bを有している。
本発明における外筒は、公知の外筒を採用できる。外筒の材質や形状は、特に限定されない。外筒としては、例えば、ガラス、合成樹脂(ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート)等の、一般的な注射器の外筒を主として構成する材料が採用できる。外筒の形状は、液出口部を有し、任意にフランジを有する、一般的な注射器の外筒として用いられる形状であればよい。外筒は、必要に応じて、液出口部において注射針等と接続して用いられる。
医療用注射器30は、外筒20および押子10を有している。外筒および押子については、上述した本発明における外筒および押子と同様であるので、詳細な説明を省略する。
本発明の医療用注射器は、外筒の内壁と押子のコーティング層との接触箇所において気密を保持しながら摺動することで、外筒の内壁と押子との間に保持された薬液等を、外筒の液出口を通して押し出すことができる。
本発明の医療器具は、押子が有するコーティング層によって、外筒の内壁と、気密を保持しながら好適に摺動でき、さらに耐薬品性にも優れるため、医療用注射器として好適に使用できる。
以上、本発明の医療器具を、医療用注射器を例にとって説明したが、本発明の医療器具は、医療用注射器に限定されない。本発明の医療器具は、押子と外筒とを有する医療器具であって、押子と外筒の内壁との間の摺動性および気密性が求められる器具であれば、好適に利用できる。
本発明の医療器具は、基材またはガスケット自体がフッ素樹脂からなる医療器具等と比較して安価に製造できるため、使い捨て用の医療器具としても好適に使用できる。また、潤滑成分を含まなくとも摺動性に優れるため、薬液に潤滑成分が溶出することがなく、異物の混入が避けられるべき医療器具として特に好適に使用できる。
次に、本発明のコーティング層付き外筒の一態様として、医療用注射器を構成する態様を、図面を用いて説明する。
図2に示す医療用注射器31は、外筒20と押子10とを有する。外筒20は、内壁にコーティング層14を有し、コーティング層14において、押子10を内壁と密接しながら摺動させることができる。
本発明のコーティング層付き外筒におけるコーティング層は、本発明の押子の一態様にて上述した本発明におけるコーティング層と同様であり、その形成方法も同様であるので、説明を省略する。
コーティング層は、含フッ素重合体が、含フッ素重合体が有する親水性の架橋性基において硬化剤等によって架橋しているのが好ましい。この場合、外筒とコーティング層との密着性が向上する。
本発明における外筒は、本発明の押子の一態様にて上述した本発明における外筒と同様であるので、説明を省略する。
外筒の内壁とは、押子を密着させて摺動させる場合に押子と接触する部分および本発明の医療用注射器において薬液と接触する部分を指す。外筒は、図2に示すように、外筒の内壁の全面がコーティング層によって被覆されていてもよく、部分的に被覆されていてもよい。コーティング層によって外筒の内壁が部分的に被覆されている場合、少なくとも押子を密着させて摺動させる場合に押子と接触する部分が被覆されていればよい。
本発明のコーティング層付き外筒は、外筒とコーティング層との間に下塗り層を有することが好ましい。特に、外筒の材料がガラスである場合、上記下塗り層を設けると、コーティング層と下塗り層との密着性が向上する。
下塗り層の層厚は、コーティング層の層厚よりも大きいことが好ましい。これにより、コーティング層と下塗り層との密着性および医療器具の気密性が向上する。下塗り層の層厚は、コーティング層に対して100〜1,000倍であることが好ましい。
下塗り層としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂およびアクリルシリコーン樹脂からなる群からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、密着性の点から、アクリル樹脂が特に好ましい。
下塗り層は、例えばアクリル樹脂を含む下塗り剤を塗布して形成されればよい。
本発明のコーティング層付き外筒における押子は、特に限定されず、一般的な注射器等の医療器具に用いられる押子であればよく、上述した本発明の押子であってもよい。
医療用注射器31は、外筒20および押子10を有している。
本発明のコーティング層付き外筒を有する医療用注射器は、コーティング層付き外筒と押子とが、外筒の内壁に形成されたコーティング層と押子との接触箇所において気密を保持しながら摺動することで、外筒の内壁と押子との間に保持された薬液等を、外筒の液出口を通して押し出すことができる。
本発明の医療器具は、外筒が有するコーティング層によって、気密を保持しながら好適に摺動でき、さらに耐薬品性にも優れるため、医療用注射器として好適に使用できる。
以上、本発明の医療器具は医療用注射器に限定されない。本発明の医療器具は、押子と外筒とを有する医療器具であって、押子と外筒の内壁との間の摺動性および気密性が求められる器具であれば、好適に利用できる。
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、例1〜5は実施例であり、例6は比較例である。
<略称一覧>
・CTFE(CF=CFCl)
・TFE(CF=CF
・HBVE(4−ヒドロキシブチルビニルエーテル)
・HEAE(ヒドロキシエチルアリルエーテル)
・EVE(エチルビニルエーテル)
・CHVE(シクロヘキシルビニルエーテル)
・VV(バーサチック酸ビニル)
・VBn(安息香酸ビニル)
・VA(酢酸ビニル)
・EVE(エチルビニルエーテル)
<コーティング剤の製造に使用する成分>
(含フッ素重合体)
・含フッ素重合体1:含フッ素重合体が含む全単位に対して、CTFEに基づく単位、EVEに基づく単位、CHVEに基づく単位、HBVEに基づく単位をこの順に、50モル%、25モル%、15モル%、10モル%含む重合体
・含フッ素重合体2:含フッ素重合体が含む全単位に対して、CTFEに基づく単位、CHVEに基づく単位、HBVEに基づく単位をこの順に、50モル%、40モル%、10モル%含む重合体
・含フッ素重合体3:含フッ素重合体が含む全単位に対して、CF−CH=CHFに基づく単位、VVに基づく単位、EVEに基づく単位、HBVEに基づく単位をこの順に、67モル%、12モル%、14モル%、7モル%含む重合体
・含フッ素重合体4:含フッ素重合体が含む全単位に対して、TFEに基づく単位、HEAEに基づく単位、VVに基づく単位、VBnを含に基づく単位、VAに基づく単位をこの順に、45モル%、14モル%、31モル%、6モル%、4モル%含む重合体
・含フッ素重合体5:ポリフッ化ビニリデン
<コーティング剤の製造>
以下の成分を混合し、各コーティング剤を得た。なお、硬化剤としては、イソシアネート基を2以上有する化合物を用いた。添加剤としては、消泡剤、ワックス、レベリング剤、酸触媒の混合物を用いた。
・コーティング剤1:含フッ素重合体1(55g)、酢酸ブチル(40g)、添加剤(4g)、および硬化剤(20g)、コーティング剤の全質量に対するフッ素原子の含有割合13質量%
・コーティング剤2:含フッ素重合体2(55g)、酢酸ブチル(40g)、および添加剤(4g)、コーティング剤の全質量に対するフッ素原子の含有割合13質量%
・コーティング剤3:含フッ素重合体3(55g)、酢酸ブチル(40g)、添加剤(4g)、および硬化剤(20g)、コーティング剤の全質量に対するフッ素原子の含有割合20質量%
・コーティング剤4:含フッ素重合体4(55g)、酢酸ブチル(40g)、添加剤(4g)、および硬化剤(20g)、コーティング剤の全質量に対するフッ素原子の含有割合12質量%
・コーティング剤5:含フッ素重合体5(55g)、酢酸ブチル(40g)、および添加剤(4g)、コーティング剤の全質量に対するフッ素原子の含有割合34質量%
<コーティング層の製造と評価>
[例1、3および4]
基材である熱可塑性のスチレン系エラストマー(SEBS系樹脂板。150mm×50mm×20mm。)の一方の面上に、表1に示すコーティング剤をアプリケーターを用いて塗布し、25℃にて30分乾燥させ、次いで80℃で5分間加熱硬化させて、基材上にコーティング層(平均層厚5μm)を形成させ、コーティング層付き基材を得た。
[例2および5]
基材である熱可塑性のスチレン系エラストマー(SEBS系樹脂板。150mm×50mm×20mm。)の一方の面上に、表1に示すコーティング剤をアプリケーターを用いて塗布し、25℃にて2週間乾燥させて、基材上にコーティング層(平均層厚5μm)を形成させ、コーティング層付き基材を得た。
[例6]
基材である熱可塑性のスチレン系エラストマー(SEBS系樹脂板。150mm×50mm×20mm。)の一方の面上に、シリコーンオイルを塗布してシリコーン被膜を形成させ、シリコーン被膜を有する基材を得た。
<コーティング層の評価>
例1〜6で得た基材を、それぞれ試験片1〜6として、以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。表1中、フッ素原子含有割合(%)は、コーティング層の全質量に対するフッ素原子の含有割合である。
(基材密着性)
クロスカット法(JIS K 5600−5−6)によって判定した。試験片のコーティング層を1mm間隔100マスの碁盤目状にカットし、その上に粘着テープを貼付し、続けてその粘着テープを剥離したときに、100マスのうち、粘着テープによって剥離しなかったマス目の数(マス数/100)から、以下の基準で密着性を評価した。
A:マス数が90超である。
B:マス数が50以上90以下である。
C:マス数が50未満である。
(摺動性)
試験片のコーティング層上にて、ポリプロピレン樹脂片を押し付けながら摺動させる際の摺動性を、以下によって評価した。
S:摩擦抵抗がなく、滑らかに摺動できる。
A:摩擦抵抗が多少あるが、滑らかに摺動できる。
B:摩擦抵抗があるが、滑らかに摺動できる。
C:摩擦抵抗があり、滑らかに摺動できない。
(気密性)
JIS Z0208に準拠し、以下の基準にてコーティング層の水蒸気透過性を評価した。
A:水蒸気透過率が60g/m/day以下である。
B:水蒸気透過率が60g/m/day超100g/m/day未満である。
C:水蒸気透過率が100g/m/day以上である。
(耐薬品性)
イオン交換水および試薬特級の塩酸により5%塩酸水溶液を調製し、得られた塩酸水溶液を、上記試験片上に5mLずつ滴下した後に蓋をして、4時間保持した後、水洗した。その後、塗膜上のスポット跡を目視観察し、以下の基準に基づいて耐塩酸性、耐硝酸性を評価した。
A:変化なし。
B:試験片表面に滴下跡が生じている。
C:試験片表面に滴下跡が生じ、着色している。
10 押子
12 摺動部材
14 コーティング層
16 基材
16a 押圧部
16b 接続部
18 ガスケット
20 外筒
202 液出口
204a、204b フランジ
30、31 医療用注射器

Claims (22)

  1. 摺動部材を有する押子であって、
    前記摺動部材は、前記摺動部材の少なくとも一部を被覆するコーティング層を有し、
    前記コーティング層は含フッ素重合体を含み、
    前記コーティング層の全質量に対するフッ素原子の含有割合が0.1〜80質量%であることを特徴とする押子。
  2. 前記含フッ素重合体が親水性基を有する単位を含む請求項1に記載の押子。
  3. 前記コーティング層において、硬化剤によって前記含フッ素重合体が架橋している請求項1または2に記載の押子。
  4. 前記含フッ素重合体が、フルオロオレフィンに基づく単位と、フッ素原子を有さない、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、および(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種に基づく単位と、を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の押子。
  5. 前記フルオロオレフィンが、CF=CF、CF=CFCF、CF=CFCl、CH=CF、CFCH=CHFおよびCFCF=CHからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の押子。
  6. 前記コーティング層の全質量に対する前記含フッ素重合体の含有割合が、1〜99質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の押子。
  7. 前記コーティング層の層厚が、0.01〜1,000μmである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の押子。
  8. 前記摺動部材が、基材と、前記基材の先端部に装着されているガスケットからなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の押子。
  9. 前記ガスケットが、エラストマーからなる、請求項8に記載の押子。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項に記載の押子および外筒を有する医療器具。
  11. 医療用注射器として用いられる、請求項10に記載の医療器具。
  12. 摺動部材を有する押子の製造方法であって、
    含フッ素重合体を含み、フッ素原子の含有割合が0.01〜80質量%であるコーティング剤を前記摺動部材の表面の少なくとも一部に塗布し、0℃以上50℃以下で乾燥させてコーティング層を有する押子を得ることを特徴とする、押子の製造方法。
  13. 前記含フッ素重合体は架橋性の親水性基を有し、
    前記コーティング剤はさらに硬化剤を含み、
    0℃以上50℃以下で乾燥させた後、50℃超200℃以下で加熱硬化させる、請求項12に記載の製造方法。
  14. 摺動部材を有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の押子の、前記摺動部材の表面の少なくとも一部を被覆するコーティング層の形成に用いられる、フッ素原子の含有割合が0.01〜80質量%であるコーティング剤。
  15. 外筒と押子とを有する医療器具に用いられる外筒であって、
    前記外筒の内壁の少なくとも一部を被覆するコーティング層を有し、
    前記コーティング層は含フッ素重合体を含み、
    前記コーティング層の全質量に対するフッ素原子の含有割合が0.1〜80質量%であることを特徴とするコーティング層付き外筒。
  16. 前記含フッ素重合体が、フルオロオレフィンに基づく単位と、フッ素原子を有さない、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、アリルエステル、および(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される少なくとも一種に基づく単位と、を含む請求項15に記載のコーティング層付き外筒。
  17. 前記フルオロオレフィンが、CF=CF、CF=CFCF、CF=CFCl、CH=CF、CFCH=CHFおよびCFCF=CHからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項15または16に記載のコーティング層付き外筒。
  18. 前記外筒とコーティング層との間にさらに下塗り層を有し、
    前記下塗り層の層厚が前記コーティング層の層厚よりも大きい、請求項15〜17のいずれか一項に記載のコーティング層付き外筒。
  19. 前記下塗り層の層厚が、前記コーティング層に対して100〜1,000倍である、請求項18に記載のコーティング層付き外筒。
  20. 前記下塗り層が、アクリル樹脂、シリコーン樹脂およびアクリルシリコーン樹脂からなる群からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項18または19に記載のコーティング層付き外筒。
  21. 請求項15〜20のいずれか一項に記載のコーティング層付き外筒および押子を有する医療器具。
  22. 医療用注射器として用いられる、請求項21に記載の医療器具。
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