JP2020019901A - セルロースナノファイバー樹脂複合体およびその製造方法、ならびに、被覆セルロースナノファイバーおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
特許文献2に開示された技術は、SCCBCを利用した基材の表面の改質を目的とするものであり、凝集しやすいセルロースナノファイバーと樹脂との複合体の添加剤としてのSCCBCの利用には更なる検討の余地があった。
係る状況下、本発明は、セルロースナノファイバーの凝集が抑制され、優れた機械物性を有するセルロースナノファイバー樹脂複合体およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーおよびその製造方法を提供することである。
<1> セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しており、前記被覆セルロースナノファイバーを含む組成物(1)と、前記樹脂とを混合し組成物(2)を調製する被覆CNF樹脂混合工程を有するセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<2> 前記共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーにおいて、前記セルロースナノファイバーに対する前記共重合体の質量比が1質量%以上100質量%以下である<1>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<3> 前記樹脂は、疎水性樹脂である<1>または<2>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<4> 前記組成物(1)は、前記被覆セルロースナノファイバーと有機溶媒とを含む組成物である<1>から<3>のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<5> 前記有機溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレン、エタノール、プロパノール及びブタノールからなる群から選択される1種以上である<4>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<6> 前記被覆CNF樹脂混合工程の前に、前記共重合体と、前記セルロースナノファイバーと、前記有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させることによって、前記被覆セルロースナノファイバーと前記有機溶媒とを含む組成物を調製する被覆CNF調製工程を有する<4>または<5>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<7> 前記反応液の含水率が、20質量%以下である<6>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<8> 前記被覆CNF調製工程において、前記反応液を110℃以上に加熱し、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させる<6>または<7>に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
<9> セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しているセルロースナノファイバー樹脂複合体。
<10> セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーの製造方法であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記共重合体と、前記セルロースナノファイバーと、有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とをエステル結合させる工程を有する被覆セルロースナノファイバーの製造方法。
<11> セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーであって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成している被覆セルロースナノファイバー。
また、本発明によれば、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーおよびその製造方法が提供される。
本発明は、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しており、前記被覆セルロースナノファイバーを含む組成物(1)と、前記樹脂とを混合し組成物(2)を調製する被覆CNF樹脂混合工程を有するセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法(以下、「本発明のCNF樹脂複合体の製造方法」と称する場合がある。)に関する。
また、「本発明に用いる共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバー」を、「共重合体被覆CNF」と称する場合がある。
本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバーと、樹脂とを混合すると、本発明に用いる共重合体の(メタ)アクリル酸に由来する部位とセルロースナノファイバーとの相互作用に比べて、本発明に用いる共重合体のモノマー(A)に由来する部位とポリスチレンやポリオレフィンのような疎水性樹脂との相互作用が強く働き、セルロースナノファイバー同士の凝集を十分に抑制できない場合がある。本発明のCNF樹脂複合体の製造方法では、予め共重合体により被覆された共重合被覆CNFを含む組成物(1)を樹脂と混合することで、セルロースナノファイバー同士の凝集を抑制し、共重合被覆CNFを樹脂中に分散することができる。
また、セルロースナノファイバーと本発明に用いる共重合体とがエステル結合を形成していることで、樹脂混合時や乾燥時などにセルロースナノファイバー同士が凝集することも抑制できる。
被覆CNF樹脂混合工程は、セルロースナノファイバーが本発明に用いる共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーを含む組成物(1)と、樹脂とを混合し組成物(2)を調製する工程である。
組成物(1)に含まれる被覆セルロースナノファイバー(共重合体被覆CNF)は、本発明に用いる共重合体の少なくとも一部とセルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成した構造である。具体的には、セルロースナノファイバーの表面の少なくとも一部のOH基と、本発明に用いる共重合体の(メタ)アクリル酸に由来する構造ユニットのカルボキシル基(COOH基)の少なくとも一部とでエステル結合を形成しているものである。エステル結合の有無は、IRスペクトル分析等を用いて確認することができる。
なお、共重合体被覆CNFは、本発明に用いる共重合体により完全に被覆されている必要はなく、共重合体被覆CNFが樹脂に分散できれば、本発明に用いる共重合体により被覆されていない部分があってもよい。
また、組成物(1)は水を含む場合もあるが、含まれる水の量が多すぎると、樹脂と混合しにくくなる場合があるため、組成物(1)の含水率は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
本発明に用いる共重合体は、上記のように、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体である。
すなわち、本発明に用いる共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構造単位(以下、「構造ユニット(A)」と称する場合がある)と、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位(以下、「構造ユニット(B)」と称する場合がある)とを有する共重合体である。
なお、本願において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタアクリレートを指し、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミドおよび/またはメタアクリルアミドを指し、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸および/またはメタアクリル酸を指す。
一方、その上限は、共重合体として重合することができ、本発明に用いる共重合体とセルロースナノファイバーとの反応を阻害しない範囲で適宜設定することができる。現実的には24以下が好ましく、22以下がより好ましい。アルカン鎖が大きすぎると共重合体として適当な立体構造がとれなかったり、重合条件の設定が難しくなったりする場合がある。
モノマー(A)由来の構造に対応する分子量が小さすぎると、セルロースナノファイバーを被覆する本発明に用いる共重合体と樹脂との相互作用が小さく、セルロースナノファイバー同士が凝集しやすくなる場合がある。500以上であることで、本発明に用いる共重合体と樹脂との相互作用により、セルロースナノファイバーの凝集を安定して抑制することができる。本発明に用いる共重合体と樹脂との相互作用を強め、セルロースナノファイバーの分散性を向上させるためには、モノマー(A)由来の構造に対応する分子量は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。
また、(メタ)アクリル酸由来の構造に対応する分子量が500以上であることで、セルロースナノファイバーと安定して結合を形成したものとすることができる。被覆面積の向上や、共重合体被覆CNF調製時の反応性を向上させるためには、(メタ)アクリル酸由来の構造に対応する分子量は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることが好ましい。
ブロック共重合体とすることで、構造ユニット(A)は樹脂とより相互作用しやすく、構造ユニット(B)は、安定してセルロースナノファイバーと結合したものとなる。そのため、本発明に用いる共重合体が少量であっても、セルロースナノファイバーを樹脂中に分散させることができる。また、共重合体被覆CNF調製時にも、構造ユニット(B)とセルロースナノファイバーとの反応性が向上するため好ましい。
例えば、まず、任意のモノマー(A)を重合溶媒に開始剤と共に混合してモノマー(A)混合溶液を調製するモノマー(A)混合溶液調製工程を行う。次に、この混合溶液調製工程で調製されたモノマー(A)混合溶液を、適当な重合温度(例えば約90〜120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(A)重合工程を行い、モノマー(A)ブロック重合体を得る。さらに、このモノマー(A)ブロック重合体を混合させている溶液に、別途(メタ)アクリル酸を混合して、溶液中のラジカル等によってさらに(メタ)アクリル酸を重合させる(メタ)アクリル酸重合工程を行う。これにより、モノマー(A)由来ブロック(構造ユニット(A))と(メタ)アクリル酸由来ブロック(構造ユニット(B))を有するブロック共重合体を得ることができる。モノマー(A)と(メタ)アクリル酸との重合を行う順序は、重合させようとするモノマー種や分子量、それぞれの重合条件等に応じて変更してもよい。
共重合体被覆CNFを構成する、セルロースナノファイバー(CNF)は、セルロース繊維がナノオーダーレベルまで微細化した繊維であり、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーであればよい。通常、平均繊維径が4〜1000nm程度、平均繊維長が10〜1000μm程度の繊維である。
なお、セルロースナノファイバーの平均繊維径や平均繊維長は、特に限定されず、例えば、平均繊維径が4〜500nmや10〜100nm、平均繊維長が10〜500μmや100〜500μmのセルロースナノファイバーを用いることができ、その調製方法については特に限定されない。
一般的に、木材チップからリグニンを除いて得られる繊維状パルプは、その主成分がセルロース繊維であり、この繊維状パルプがセルロース繊維として好適に用いられる。このセルロース繊維を解繊処理し、ミクロファブリル化した微細なセルロース繊維が、セルロースナノファイバーである。解繊処理は、水中で、高圧ホモジナイザー、水中対向衝突法、グラインダー法、ボールミル法、2軸混練法等を用いた物理的手法や、TEMPO触媒酸化法を用いた化学的手法等で行われるため、セルロースナノファイバーは水分散物として通常提供されている。例えば、本発明においては、このセルロースナノファイバーは、特開2007−231438号公報における微小繊維状セルロースに相当するもの等を使用することができる。
本発明において、被覆CNF樹脂混合工程で、組成物(2)を調製するために被覆セルロースナノファイバーを含む組成物(1)と混合するものとして、樹脂が用いられる。樹脂は、本発明に用いる共重合体のモノマー(A)に由来する構造ユニットと相互作用できる構造であれば特に限定されない。
具体的には、この樹脂として疎水性樹脂を用いることができる。疎水性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンやポリスチレン等を用いることができる。これらの1種の樹脂を用いてもよいし、異なる複数の樹脂を用いてもよい。これらの樹脂に、適宜、成形助剤や顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の添加剤が含まれたものを用いてもよい。本発明のCNF樹脂複合体の製造方法に用いる樹脂の形状も特に限定されず、粉末状やペレット状のものを用いることができる。
組成物(1)と樹脂との混合比は、組成物(1)の組成や樹脂の種類等に応じて適宜調整すればよい。樹脂に対する共重合体被覆CNFの質量比(共重合体被覆CNFの質量/樹脂の質量×100)は、小さすぎると、機械物性の向上の効果が小さい。そのため、樹脂に対する共重合体被覆CNFの質量比が0.05質量%以上となるように組成物(1)と樹脂とを混合することが好ましく、0.1質量%以上となるように組成物(1)と樹脂とを混合することがより好ましい。また、樹脂に対する共重合体被覆CNFの質量比は、大きすぎると、セルロースナノファイバーの凝集が起こりやすくなり、得られる複合体の機械物性等にばらつきが生じやすくなるため、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
組成物(2)は、その他の成分として有機溶媒を含むものとすることができ、被覆CNF樹脂混合工程において、樹脂を任意の有機溶媒に溶解や分散させた後、組成物(1)と混合し、組成物(2)を調製してもよい。また、組成物(1)と樹脂との混合時にさらに有機溶媒を加えて、組成物(2)を調製してもよい。一方で、有機溶媒を含む組成物(1)と樹脂とを混合させる方が、共重合体被覆CNFを有機溶媒により均一に分散させた状態で樹脂と混合可能なので、共重合体被覆CNFと有機溶媒とを含む組成物と樹脂とを混合することが好ましい。
一方、加熱温度が高すぎると、セルロースナノファイバーや樹脂が分解したり、得られる組成物(2)に有機溶媒が含まれる場合には有機溶媒が揮発し、セルロースナノファイバーが凝集しやすくなる。加熱温度は、180℃以下が好ましく、150℃以下が好ましい。
被覆CNF調製工程は、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバーと、有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させることによって、前記共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと前記有機溶媒とを含む組成物を調製する工程である。
また、本発明に用いる共重合体の溶解性等を考慮して、セルロースナノファイバーが凝集しない範囲で、水分散物の水の一部を有機溶媒に置換した分散物を用いてもよい。
また、適宜、分散剤等の添加剤を添加してもよい。
セルロースナノファイバー水分散物を用いる場合は、水分散物の固形分濃度を考慮し、セルロースナノファイバー水分散物中のセルロースナノファイバーに対して、本発明に用いる共重合体が上記範囲となるようにすればよい。
有機溶媒は、セルロースナノファイバーの分散性や、本発明に用いる共重合体の溶解性、混合される樹脂の溶解性等を考慮して、通常、親水性の有機溶媒である。
また、反応液の含水率は、セルロースナノファイバーの凝集が抑えられる範囲で有機溶媒の種類等に応じて適宜調整すればよい。例えば、1質量%以上や3質量%以上、5質量%以上とすることができる。
被覆CNF調製工程では、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバーと、有機溶媒とを混合した反応液を110℃以上に加熱し、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させることが好ましい。加熱することで、触媒を使用しない場合でも反応しやすく、触媒を用いる場合でもその使用量を低減することができる。そのため、得られる共重合体被覆CNFやこれを用いて製造するセルロースナノファイバー樹脂複合体に不純物として残存する触媒の量を低減できる。
110℃以上に加熱することで、エステル結合形成の反応で生じた水やセルロースナノファイバー水分散物中の水が蒸発するため、エステルを形成する反応を促進することができる。加熱温度は、110℃以上が好ましく、120℃以上で加熱することがより好ましい。一方、加熱温度が高すぎると、有機溶媒も揮発し、セルロースナノファイバーが凝集したり、有機溶媒の揮発を抑制するため特殊な装置が必要となる場合がある。加熱温度は、180℃以下が好ましく、150℃以下が好ましい。
反応時間は、例えば、1時間以上や10時間以上、20時間以上とすることができる。また、50時間以下や30時間以下であってもよい。
図2は、本発明のCNF樹脂複合体の製造方法の一例のフローを説明するための図である。図2に示すフローに従い、セルロースナノファイバー樹脂複合体を製造できる。
このように反応液の含水率や加熱温度を調製することにより、エステル結合を形成させることができる。
エステル結合を形成すれば、セルロースナノファイバーのOH基に由来するピークが減少する。そのため、OH基に由来するピーク強度を、原料のセルロースナノファイバーと共重合体被覆CNFとで比較することで、エステル結合の有無を確認できる。
また、エステルのC=Oに由来するピーク強度や、カルボキシル基のOHに由来するピークの強度を、原料の共重合体と共重合体被覆CNFとで比較することで確認することもできる。
また、セルロースナノファイバーと、本発明に用いる共重合体とを混合しただけのもののIRを測定し、このIRチャートと共重合体被覆CNFのIRチャートとを比較してもよい。
ピーク強度の増減は、例えば、1000cm-1付近に観察されるピークを基準として、OHに由来するピークやエステルのC=Oに由来するピークの強度を比較することで確認することができる。
本発明は、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆されたセルロースナノファイバーと樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体であって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記共重合体により被覆されたセルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部はエステル結合を形成しているセルロースナノファイバー樹脂複合体(以下、「本発明のCNF樹脂複合体」と記載する場合がある。)に関する。本発明のCNF樹脂複合体は本発明のCNF樹脂複合体の製造方法で得ることができる。
このような本発明のCNF樹脂複合体は、セルロースナノファイバーが、本発明に用いる共重合体により被覆されているので、凝集が抑制されることに加えて、樹脂と接着力も強いものとなる。これにより、本発明のCNF樹脂複合体は、セルロースナノファイバーに由来する優れた引張特性等の機械特性を有し、また、セルロースナノファイバーと樹脂との界面で剥離等が抑制されることで全体的に優れた機械特性を有する。また、軽量で成形性に優れたものとなる。
また、本発明のCNF樹脂複合体は、顔料や色素等の着色剤を混合することで、着色することができるため、目的や用途に応じて、本発明のCNF樹脂複合体を所望の色とすることもできる。
具体的な用途としては、例えば、自動車・電車・船舶・航空機等の輸送機の筐体や内装材、外装材、パソコン・テレビ・電話等の電子機器の筐体や部材、スポーツやレジャー用品の部材等に用いることができる。
また、本発明の被覆セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーが共重合体により被覆されたセルロースナノファイバーであって、前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、前記共重合体の少なくとも一部とセルロースナノファイバーの少なくとも一部はエステル結合を形成している被覆セルロースナノファイバーとすることができる。
これは、上記の本発明のCNF樹脂複合体に含まれる共重合体被覆CNFであり、本発明に用いる共重合体とセルロースナノファイバーとが強固に接着しているので、樹脂混合時や乾燥時などにセルロースナノファイバー同士が凝集することを抑制できる。
また、本発明の被覆セルロースナノファイバーの製造方法は、本発明に用いる共重合体と、セルロースナノファイバーと、有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させる工程を有する製造方法とすることができる。
本発明の被覆セルロースナノファイバーの製造方法は、上記被覆セルロースナノファイバーの好適な製造方法である。また、本発明の被覆セルロースナノファイバーの製造方法は、上記の本発明のCNF樹脂複合体の製造方法の被覆CNF樹脂混合工程の方法と同様にすることができ、好ましい態様も同様である。
ステアリルアクリレート(STA)6.6g、酢酸ブチル6.6g、重合開始剤(BlocBuilder(登録商標) MA)0.386gを混合した溶液を、重合温度約105℃、リアクターの撹拌速度75rpm、窒素雰囲気下でリビングラジカル重合することにより、STAのブロック重合体を製造した。さらに、これにより得られたSTAのブロック重合体の溶液に、アクリル酸(AA)を3.415g、酢酸ブチルを3.42g投入してSTAのブロック重合体に、AAのブロック重合体が結合したブロック共重合体である共重合体(P1)を得た。
得られた共重合体(P1)の分子量(Mw:重量平均分子量)を、GPCにより測定し、ポリスチレン換算にて求めた。STA由来の構造は推算値として約4,519(g/mol)、AA由来の構造が約3,371(g/mol)の共重合体であった。
[原料]
・共重合体:上記で合成した共重合体(P1)(ステアリルアクリレートとアクリル酸とのブロック共重合体、STA−AA)
・セルロースナノファイバー水分散物(CNF水分散物):セリッシュ(ダイセルファインケム株式会社製KY100G、固形分濃度10%)
・樹脂:ポリスチレン(PS)(東洋スチレン株式会社、トーヨースチロールGP G200C)
・有機溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)
ビーカーに、DMF50g、CNF水分散物2.5g、共重合体(P1)0.25gを入れ、115℃で24時間撹拌することによって、共重合体(P1)とセルロースナノファイバーとをエステル結合させ、被覆セルロースナノファイバーを含む反応液を得た。得られた反応液を組成物(1−1)とした。(被覆CNF調製工程)
前記組成物(1−1)に、PS47.5g、DMF100gを加え、115℃で20分間撹拌した。この溶液を組成物(2−1)とした。(被覆CNF樹脂混合工程)
組成物(2−1)をガラス板上に塗布した後、脱イオン水に浸漬させ、膜を析出させた。この膜に、手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC−180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3−1)を得た。(溶媒除去工程)
ビーカーに、DMF150g、PS47.5g、CNF水分散物2.5gを入れ、115℃で20分間撹拌した。この溶液を比較組成物(2’−1)とした。
比較組成物(2’−1)をガラス板上に塗布した後、脱イオン水に浸漬させ、膜を析出させた。この膜に、手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC−180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’−1)を得た。
セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3−1)(実施例1)およびセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’−1)(比較例1)の膜内部を偏光顕微鏡(カートン光学株式会社製、CS−T15)で観察した。図3にセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3−1)(実施例1)及びセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’−1)(比較例1)の偏光顕微鏡写真を示す。
図3に示すように、比較例1の共重合体(P1)を添加していない膜の内部では、パルプが塊となって存在することが確認された。一方、実施例1の共重合体(P1)を添加した膜の内部は、パルプ同士の間に隙間ができているのが確認され、セルロースナノファイバー同士の凝集が抑制されていることがわかる。
この結果から、共重合体(P1)を添加することで、セルロースナノファイバーの外部に側鎖結晶性部分(STAの側鎖に由来する部分)が露出し、ポリスチレンとの相溶性が向上したと推察される。
ビーカーに、DMF20g、CNF水分散物2g、共重合体(P1)0.02gを入れ、110℃で24時間撹拌することによって、共重合体(P1)とセルロースナノファイバーとをエステル結合させ、被覆セルロースナノファイバーを含む反応液を得た。得られた反応液を組成物(1−2)とした。(被覆CNF調製工程)
前記組成物(1−2)に、PS20gを加え、110℃で20分間撹拌した。この溶液を組成物(2−2)とした。(被覆CNF樹脂混合工程)
組成物(2−2)をガラス板上に塗布した後、真空乾燥した。この膜に、手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC−180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3−2)を得た。(溶媒除去工程)
ビーカーに、DMF20g、CNF水分散物2g、PS20gを入れ、110℃で20分間撹拌した。この溶液を比較組成物(2’−2)とした。
比較組成物(2’−2)をガラス板上に塗布した後、真空乾燥した。この膜に、手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC−180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’−2)を得た。
ビーカーに、DMF50g、PS50gを入れ、110℃で20分間撹拌した。この溶液を比較組成物(2’−3)とした。
比較組成物(2’−3)をガラス板上に塗布した後、脱イオン水に浸漬させ、膜を析出させた。この膜に手動油圧加圧プレス(株式会社井元製作所、IMC−180C)を用いて、40MPa、180℃、2分間のプレス成形を3回行い、ポリスチレン膜を得た。
セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3−2)(実施例2)、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’−2)(比較例2)およびポリスチレン膜(比較例3)の外観写真を図4に示す。
図4に示すように、比較例2のセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’−2)は、セルロースナノファイバーが樹脂中で凝集していることがわかる。一方、共重合体(P1)を用いたセルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3−2)は、セルロースナノファイバーの凝集が抑えられ、ポリスチレン膜と同等の外観であり、成形性に優れていた。
セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3−2)(実施例2)、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’−2)(比較例2)およびポリスチレン膜(比較例3)をJIS K 7113 2(1/3)号試験片形状に打ち抜き作成した。引張試験器は株式会社島津製作所の小型卓上試験機EZ−LXを使用し、チャック間距離30mm、伸張速度1mm/minで引張試験を行った。
また、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3−2)(実施例2)の伸び(Extension)−荷重(Force)曲線を図5に、セルロースナノファイバー樹脂複合体膜(3’−2)(比較例2)の伸び(Extention)−荷重(Force)曲線を図6に、ポリスチレン膜(比較例3)伸び(Extention)−荷重(Force)曲線を図7に示す。
ビーカーに、DMF50g、CNF水分散物2.5g、共重合体(P1)0.25gを入れ、115℃で24時間撹拌した。得られた反応液を吸引ろ過し、ろ物を真空乾燥することで、共重合体被覆CNF(P1−CNF)を得た。
共重合体被覆CNF(P1−CNF)のIRスペクトルを測定した。なお、IRスペクトルは、Perkin Elmer社製フーリエ変換赤外分光分析装置「Spectrum two(登録商標)」を用いて測定した。共重合体被覆CNF(P1−CNF)のIRスペクトルでは、1726cm-1にエステル基に由来するピークが観察され、2800〜3000cm-1付近に、共重合体(P1)を構成するSTAの側鎖のアルカン鎖に由来するピークが観察された。
また、共重合体(P1)に比べて、共重合体被覆CNF(P1−CNF)のIRでは、1726cm-1のエステル基のCOに由来するピークが増加した。また、3000〜3800cm-1OHに由来するピークが減少した。
Claims (11)
- セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法であって、
前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、
前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しており、
前記被覆セルロースナノファイバーを含む組成物(1)と、前記樹脂とを混合し組成物(2)を調製する被覆CNF樹脂混合工程を有するセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。 - 前記共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーにおいて、前記セルロースナノファイバーに対する前記共重合体の質量比が1質量%以上100質量%以下である請求項1に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
- 前記樹脂は、疎水性樹脂である請求項1または2に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
- 前記組成物(1)は、前記被覆セルロースナノファイバーと有機溶媒とを含む組成物である請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
- 前記有機溶媒が、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、トルエン、キシレン、エタノール、プロパノール及びブタノールからなる群から選択される1種以上である請求項4に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
- 前記被覆CNF樹脂混合工程の前に、前記共重合体と、前記セルロースナノファイバーと、前記有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させることによって、前記被覆セルロースナノファイバーと前記有機溶媒とを含む組成物を調製する被覆CNF調製工程を有する請求項4または5に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
- 前記反応液の含水率が、20質量%以下である請求項6に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
- 前記被覆CNF調製工程において、前記反応液を110℃以上に加熱し、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部をエステル結合させる請求項6または7に記載のセルロースナノファイバー樹脂複合体の製造方法。
- セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーと、樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂複合体であって、
前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、
前記被覆セルロースナノファイバーは、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成しているセルロースナノファイバー樹脂複合体。 - セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーの製造方法であって、
前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、
前記共重合体と、前記セルロースナノファイバーと、有機溶媒とを混合した反応液の中で、前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とをエステル結合させる工程を有する被覆セルロースナノファイバーの製造方法。 - セルロースナノファイバーが共重合体により被覆された被覆セルロースナノファイバーであって、
前記共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体であり、
前記共重合体の少なくとも一部と前記セルロースナノファイバーの少なくとも一部とがエステル結合を形成している被覆セルロースナノファイバー。
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