JP2020012194A - 金属−炭化珪素質複合体及びその製造方法 - Google Patents
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以下の説明において、「〜」という記号は「以上」及び「以下」を意味する。例えば「A〜B」とは、A以上でありB以下であるという意味である。また、「主面」とは平板上に形成された金属−炭化珪素質複合体の上下いずれかの面を意味する。
図1に示したように、本実施形態に係る金属−炭化珪素質複合体1は、炭化珪素粒子へアルミニウム又はマグネシウムのいずれか1つ以上を主成分とする金属を含浸してなる平板状の金属−炭化珪素質複合体1であって、金属−炭化珪素質複合体1は複合化部2及び複合化部2の主面に設けられた表面層3a、3bからなり、表面層3a、3bはアルミニウム又はマグネシウムのいずれか1つ以上を主成分とする金属を含む材料からなり、複合化部2に含まれる炭化珪素粒子について、粒径300μm以上の粒子が5体積%以下であることを特徴とする。
金属−炭化珪素質複合体の原料である炭化珪素粉末は、それを構成する粒子が高熱伝導性であることが望まれ、炭化珪素成分が99質量%以上の高純度の、一般的に「緑色」を呈する炭化珪素粉末を用いることが好ましい。また、本発明の目的を達成するためには、前記原料の炭化珪素粉末から充填率が50〜80体積%、好ましくは60〜75体積%の炭化珪素質多孔体が得られれば良い。多孔体の炭化珪素の充填率、すなわち金属−炭化珪素質複合体中の炭化珪素含有量を高めるためには、炭化珪素粉末は適当な粒度分布を有するものが良く、この目的から2種類以上の粉末を適宜配合しても良い。
粒径300μm以上の粒子が5体積%以上である場合、炭化珪素質多孔体表面の凹凸が大きくなる。これは炭化珪素自体の硬度が高いため、図2に示す様に炭化珪素質多孔体の面出し加工を行う際に、粗大粒子が残留した箇所は凸、炭化珪素質多孔体から粒子が除外されるように加工された箇所は凹となるためである。一方、粒径300μm以上の粒子が5体積%以下の場合、炭化珪素質多孔体表面の凹凸を小さくすることができる。炭化珪素質多孔体表面の凹凸は、金属を含浸した後の金属−炭化珪素質複合体の表裏に形成される表面層の厚みに大きく影響し、凹凸が少ない程表裏の表面層の厚みの差が小さくなる。前記の通り、表裏の表面層の厚みの差が大きければ大きいほど、それぞれの層の熱膨張係数差により熱サイクルにより熱応力が生じ、反りの変化が生じる。反りの変化が生じることにより、反り形状が変化する。このような金属−炭化珪素質複合体をパワーモジュール用のヒートシンクとして用いた場合、冷却フィンとの間にギャップが生じ、放熱特性が大きく低下するため、金属−炭化珪素質複合体の表面層の厚みは均一かつ表裏で差がないことが好ましい。
原料炭化珪素粉末の粒子径はJIS ZZ8825:2013に従ってレーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置によって測定することができる。
金属−炭化珪素質複合体内の炭化珪素粒子径は、次のようにして求められる。まず、得られた金属−炭化珪素質複合体について、金属部のみを溶解する薬品に浸すことで金属部を完全に溶解し、ろ過によって炭化珪素粒子を回収する。得られた粒子について、JIS ZZ8825:2013に従ってレーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置によって測定することができる。
本発明の一実施形態に係る金属−炭化珪素質複合体中の金属はアルミニウム又はマグネシウムのいずれか1つ以上を主成分とする金属である。例えば、99.8質量%以上のAl及び不可避的不純物からなる純アルミニウム、添加元素と残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金、99.8質量%以上のMg及び不可避的不純物からなる純マグネシウム、添加元素と残部がMg及び不可避的不純物からなるマグネシウム合金等を用いることができる。アルミニウム合金及びマグネシウム合金においては、含浸時に金属溶湯の管理を行いやすくするため、なるべく融点が低いことが好ましい。このような合金として、例えば、Siを5〜25質量%含有したアルミニウム合金が挙げられる。Siを5〜25質量%含有したアルミニウム合金を用いることにより、金属−炭化珪素質複合体の緻密化が促進されるという効果を得ることができる。
本発明の一実施形態では、湿式成形法にて高充填率を有する炭化珪素質多孔体を得るため、原料炭化珪素粉末にシリカゾルを添加することを特徴とする。シリカゾルとしては、市販されている固形分濃度20質量%程度のものを用いることができる。シリカゾルの配合量としては、炭化珪素100質量部に対して、固形分濃度で0.5〜10質量部程度で十分であるが、好ましくは1〜5質量部である。0.5質量部以上であると、得られる成形体の強度が焼成後も十分となる。一方、添加する量が10質量部以下の場合、得られる成形体における炭化珪素の充填率が高く、所望の特性を発揮できる。
本発明の金属−炭化珪素質複合体を半導体素子のヒートシンクとして用いる場合、複合体両面にアルミニウム又はマグネシウムを含有する金属を含む材料からなる表面層3が存在することが望ましい。これにより複合体両面にめっき処理を施す場合の密着性向上の効果が望める。更に、複合体両面の表面粗さが改善するという効果も得られる。
金属−炭化珪素質複合体内の両主面を覆う表面層の厚みは、次のようにして求められる。図3内の点線にて示す、端部から複合体全長の20%内側を通る直線、及び複合体の中線に沿って、金属−炭化珪素質複合体をダイヤモンド加工治具で切断する。その後、図3内○の箇所について、表面部分を走査型電子顕微鏡で100倍にて観察した。最表面から炭化珪素粒子までの距離を200μm間隔で5箇所測定し、5点の平均を計算することで表面層の厚みとした。ここで表面層とは、両主面の最表面に位置する金属AまたはBからなる領域である。また、表面層の厚み差は前記の方法で得た両主面表面層の厚みの差の絶対値、すなわち|(表主面の表面層の厚み)−(裏主面の表面層の厚み)|(μm)で求められる。
金属−炭化珪素質複合体の反りは、次のようにして求められる。接触式3次元測定機で複合体の主面中線上の任意の10cm長を測定し、開始点をA、終了点をBとする。図4における線分ABに対する極大点までの距離(矢印部)を金属−炭化珪素質複合体の反りとする。
以下、本発明の一実施形態に係る金属−炭化珪素質複合体について、溶湯鍛造法による製造方法を説明する。しかしながら、本発明に係る金属−炭化珪素質複合体は、溶湯鍛造法によって製造されるもののみに限定されるわけではない。
炭化珪素粉末を分級し、粒子径300μm以上の炭化珪素を5体積%以下とすることで分級粉末を得る。分級の方法としては、ふるい網、重力場分級、慣性力場分級、遠心力場分級等の公知の方法を用いることができる。この工程により、本発明の一実施形態に係る金属−炭化珪素質複合体に適した炭化珪素粒子を得ることができる。
前記炭化珪素粉末に対し、所定量のシリカゾルを添加混合し、所望の形状に成形する。成形の方法としては、乾式プレス成形、湿式プレス成形、押し出し成形、鋳込み成形等を用いることができる。
前記成形工程で得られた成形体を、大気中又は窒素等の不活性ガス雰囲気中、温度800〜1100℃で加熱し、炭化珪素質多孔体を得る。成形工程、仮焼工程を経ることで面出し加工を行うことができる。
面出し加工の方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、フライス加工等が挙げられる。また、面出し加工工程において、炭化珪素質多孔体に対しダイヤモンド加工治具を用いて面出し加工を施すことにより、炭化珪素質多孔体の厚み調整を行うことができる。この工程により、複合化した際の金属−炭化珪素質複合体について、所望する厚みや表面粗さを有するものが得られる。
面出し加工を行った炭化珪素質多孔体は、熱衝撃による割れ等を防止するため、予め加熱し、融点以上の温度に加熱した金属成分からなる溶湯を高圧で含浸させ、その後冷却することで金属−炭化珪素質複合体を得る。この工程により、本発明に係る金属−炭化珪素質複合体について、所望する熱伝導率を有するものが得られる。
本発明の一実施形態の金属−炭化珪素質複合体に対して、ヒートサイクル試験を行った際の反りの変化量が±50%以内である形態を挙げることができる。ここで、反りの変化量は[(ヒートサイクル試験後の反り量)−(ヒートサイクル試験前の反り量)]/(ヒートサイクル試験前の反り量)×100(%)である。
なお、ヒートサイクル試験を行った際の反り変化量は、好ましくは±30%以内であること、より好ましくは±20%以内であることが望ましい。また、ヒートサイクル試験の条件は、例えば、−40℃に保持した気相に30分間さらし、その後125℃に保持した気相に30分間さらすことを1回とするサイクルを100回繰り返すことが挙げられる。
ヒートサイクル試験を行った際の反りの変化量が±50%以内であれば、金属−炭化珪素質複合体をヒートシンクとして用いる場合において、熱サイクルを経た後も、ヒートシンクと冷却フィンとの間のギャップが生じにくく、放熱特性の低下を防止できる。
市販されている高純度の炭化珪素粉末を分級し、炭化珪素粉末A(粒子径300μm以上)、炭化珪素粉末B(粒子径100μm以上300μm未満)、炭化珪素粉末C(粒子径50μm以上100μm未満)、炭化珪素粉末D(粒子径1μm以上50μm未満)、炭化珪素粉末E(粒子径1μm未満)を得た。これらの炭化珪素粉末を表1に示すような組成で配合し(実施例1〜8及び比較例1〜2)、シリカゾルを3wt%添加した後、撹拌混合機で30分混合した。各炭化珪素粉末の粒径は、JIS ZZ8825:2013に従い、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置(ベックマン・コールター社製、製品名「LS230」、以下同様)によって測定した。混合物を100mm×100mm×6mmの形状に10MPaの圧力で成形した。
※2 ヒートサイクル −40℃⇔125℃(各30分)×100サイクル後の反り変化量
実施例9では、実施例2の含浸する金属を、99.8質量%以上がマグネシウム、残部が不可避的不純物からなる市販の純マグネシウムとし、その他は実施例3と同じ操作にて複合体を作製した。複合体の密度は2.69g cm−3であり、表裏の表面層の平均厚みは表面が90μm、裏面が98μmであった。また、熱伝導率は197W m−1K−1、熱膨張係数は7.5ppm K−1、複合体の主面長さ10cmに対する反り量は46μmであった。更に、実施例1〜6と同様にヒートサイクル試験を行った。その結果、反り変化量は8%であった。即ち、含浸する金属として、マグネシウムを主成分とする金属を用いても、アルミニウムを成分とする金属を用いた場合と同様の結果が得られた。
実施例3で作製した炭化珪素質多孔体について、離型剤を塗布したステンレス製(SUS304)の板によって各試料10枚の間を区切る際に、炭化珪素質多孔体とステンレス製板の間に金属板を配置した。また、金属板のサイズは長さ100mm、幅100mm、厚み50μmとした。配置した金属板、及び含浸した金属溶湯の材質は表4に示す。その他は実施例3と同様の手順にて複合体を作製した。表裏の表面層の平均厚みを表5に、各複合体の密度、室温の熱伝導率、室温から150℃の熱膨張係数、複合体の主面長さ10cmに対する反り量及び、実施例1〜8と同様にヒートサイクル試験を行った後の反り変化量を表6にそれぞれ示す。含浸する金属と、含浸する金属とは異なる金属の金属板とを用いて金属−炭化珪素質複合体を作製した場合でも、実施例1〜8と同様に、表面及び裏面の厚み差が小さい金属−炭化珪素質複合体が得られ、また、ヒートサイクル試験を行った後も反り変化量が小さく、かつ低い熱膨張係数、高い熱伝導率を有する金属−炭化珪素質複合体が得られた。
実施例2で作製した金属−炭化珪素質複合体に無電解Niめっき処理を行い、複合体表面に5μm厚のめっき層を形成した。めっき処理した複合体表面に100μm厚のはんだペーストをスクリーン印刷し、実施例12では市販の窒化アルミニウム基板を、実施例13では市販の窒化珪素基板をそれぞれ搭載し、温度300℃のリフロー炉で5分間加熱処理してセラミックス基板を接合した。また、比較例3では、銅板に対し実施例12及び13と同様の手順にて、めっき処理後、窒化アルミニウム基板を接合した。これらのセラミックス基板を接合した複合体を用いて、−40℃〜125℃の温度幅で1000回のヒートサイクル試験を行った。実施例12及び13では、ヒートサイクル試験後もセラミックス基板の回路間のクラックや回路の剥離は見られず、放熱部品として好適な信頼性を示した。一方、比較例3に関しては、ヒートサイクル30回でセラミックス基板の回路間にクラックが発生した。
2 複合化部
3a、3b 表面層
Claims (5)
- 炭化珪素質多孔体へアルミニウム又はマグネシウムのいずれか1つ以上を主成分とする金属を含浸してなる金属−炭化珪素質複合体であって、金属−炭化珪素質複合体の両主面がアルミニウム又はマグネシウムのいずれか1つ以上を主成分とする金属を含む表面層で被覆されており、金属−炭化珪素質複合体内部に含まれる炭化珪素粒子について、粒径300μm以上の粒子が5体積%以下であることを特徴とする、金属−炭化珪素質複合体。
- 金属−炭化珪素質複合体の両主面を被覆する表面層について、表側と裏側の厚みの差が50μm以内である、請求項1に記載の金属−炭化珪素質複合体。
- ヒートサイクル試験を行った際の反り変化量が±50%以内であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属−炭化珪素質複合体。
- 下記1)〜5)の工程を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の金属−炭化珪素質複合体の製造方法:
1)炭化珪素粉末を分級し、粒子径300μm以上の炭化珪素を5体積%以下とすることで分級粉末を得る原料分級工程と、
2)前記分級粉末へシリカゾルを添加し混合後、混合物を加圧成形することで成形体を得る成形工程と、
3)得られた成形体を大気中又は窒素等の不活性ガス雰囲気中で800〜1100℃に加熱し、炭化珪素質多孔体を得る仮焼工程と、
4)得られた炭化珪素質多孔体をダイヤモンド加工治具にて面出し加工を行う面出し加工工程と、
5)得られた炭化珪素質多孔体に対し金属溶湯を含浸し、その後冷却することで金属−炭化珪素質複合体を得る含浸工程。 - 請求項1から3のいずれか一項に記載の金属−炭化珪素質複合体を用いてなることを特徴とする放熱部品。
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