JP2020007277A - 抗菌性を有する液状組成物、及びその製造方法、並びにコーティング層の形成方法 - Google Patents

抗菌性を有する液状組成物、及びその製造方法、並びにコーティング層の形成方法 Download PDF

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Abstract

【課題】容易に製造可能で、UV又は塩化物イオンに晒されても変色したり抗菌性を損なったりしにくく、液状の銀系抗菌剤もしくはその配合原料としてか又は銀系抗菌剤の他に例えばコーティング剤などの他用途の工業製品もしくはその配合原料として用いやすい、抗菌性を有する液状組成物、その製造方法、及び抗菌性を有するコーティング層の形成方法を提供する。【課題を解決するための手段】溶媒と、分子内にアミン構造を有さず前記溶媒に可溶な、有機酸銀塩、及び無機酸銀塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物である銀塩と、分子内にアミン構造を複数有し前記溶媒に可溶な、ポリカチオン、塩基性ペプチド、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物であるカチオン性重合体と、が混合されて成ることにより、前記カチオン性重合体を銀イオンの配位子として形成される銀錯体が前記溶媒に可溶である、抗菌性を有する液状組成物である。【選択図】図1

Description

本発明は、銀錯体を含有して抗菌性を有する液状組成物、及びその製造方法、並びに抗菌性を有するコーティング層の形成方法に関する。
銀錯体は、銀イオン(Ag)が配位子として機能する有機化合物に配位されて成る化合物である。銀錯体に限らず、分子内に銀原子または銀イオンを有する化合物(以下「銀化合物」という。)は、抗菌性を有するにも関わらず人体への毒性が弱く比較的に安全であるから、銀系抗菌剤に配合される有効成分として活用されてきた。銀化合物が抗菌作用を奏する作用機構は十分に解明されていないものの、銀化合物から遊離する銀イオンが、細菌等の細胞内に取り込まれてタンパク質側鎖のチオール基に安定的に結合して、この細胞での代謝を阻害することに因るといわれている。
銀系抗菌剤は、そのまま抗菌消臭に用いられるだけでなく、例えば、創傷や医療器具を消毒するのに用いられたり、抗菌性を付与するための原料として塗料もしくは化粧品に配合されたり、または、繊維、洗濯機、フィルム、衛生セラミックス、台所用品、シンク、スマートフォン、乳幼児製品、もしくは移植用の生体組織などにコーティングを施すのに用いられたりしている。
銀系抗菌剤として用い得る組成物の例として、特許文献1では、ヒスチジンを銀イオンの配位子として形成された銀錯体(以下「His銀錯体」という。)、および、ヒドロキシカルボン酸または多価カルボン酸(例えば、クエン酸など)を含有する液状組成物が開示されている。特許文献2では、セルロース系繊維などの水不溶性担体にポリエチレンイミン(Polyethylenimine、以下「PEI」という。)を結合させた結合体に、更に抗菌性を有する物質(例えば、His銀錯体など)を結合させることで、水に逸散しないようにした微生物菌体吸着媒が開示されている。特許文献3では、PEI等のアミン官能性カチオン性ポリマー化合物と、塩化銀などのハロゲン化銀と、を含有する抗微生物性アイオノマー組成物が開示されている。特許文献4では、ピロリン酸ジルコニウムを含有する銀系無機抗菌剤が開示されている。
国際公開第2009/098850号 国際公開第2016/114280号 特表2014−525481号公報 国際公開第2010/134566号
しかし、液体中で遊離する銀イオンは、紫外線(ultraviolet、以下「UV」という。)により還元されて金属銀(Ag)となり析出したり、又は塩化物イオン(Cl)と反応して不溶性の塩化銀(AgCl)を形成して凝集したりしやすい。このため、液状の銀系抗菌剤では、UVまたは塩化物イオンに晒されると、変色しやすいか又は沈殿物を生じやすいという問題や、遊離し得る銀イオンの含有量が著しく減少するから抗菌性を損ないやすいという問題がある。例えば、本発明者が試験したところ、特許文献1に記載されたHis銀錯体を含有する液状組成物では、塩化物イオンに晒されると変色しやすい問題や抗菌性を損ないやすい問題を十分に解決できていなかった。特許文献2では、His銀錯体を有する吸着媒が開示されているが、これらの問題について何ら検討されていない。
また、特許文献3に記載されたアイオノマー組成物は、粘度が高く接着性に優れる凝集物であるから、液状の銀系抗菌剤として用いにくいと考えられる。例えば、チラーにより配管内を循環させる冷却水に抗菌性を付与するために、この冷却水に高粘度かつ接着性を有する凝集物を添加すれば、配管が詰まる原因になり得る。あるいは、このような凝集物を配合したコーティング剤を調製する場合には、他に配合される原料(有機溶媒、樹脂組成物など)と略均一に混合するのが難しく、コーティング剤中で凝集物が沈殿しやすい。このような均一性に劣るコーティング剤を用いると、形成されるコーティング層では、銀化合物の分布にムラが生じて抗菌性を十分に発揮できない部分が生じやすい。
特許文献4に記載された銀系無機抗菌剤を製造するには、各種の原子を特定の比率で有するようにピロリン酸ジルコニウムを調製するから、特別な技術を要する。この銀系無機抗菌剤に限らず、無機粒子を配合して液状の抗菌剤などを調製する場合には、無機粒子が沈殿しやすい。例えば、銀原子を有する無機粒子が配合されたコーティング剤を用いる場合には、その使用直前に念入りに撹拌しなければ、形成されるコーティング層で無機粒子の分布にムラが生じて抗菌性を十分に発揮できない部分が生じやすい。
上記した諸問題に鑑み、本発明の課題は、容易に製造可能であり、UVまたは塩化物イオンに晒されても変色したり抗菌性を損なったりしにくく、液状の銀系抗菌剤もしくはこれに配合される原料としてか又は銀系抗菌剤の他に例えばコーティング剤などの他用途の工業製品もしくはこれに配合される原料として用いやすい、抗菌性を有する液状組成物、及びその製造方法、並びに抗菌性を有するコーティング層の形成方法を提供することにある。
本発明者は、上記した課題を解決しようとして、次のように鋭意検討した。特許文献2に記載された吸着媒は、例えば「水不溶性担体−PEI−His銀錯体」という構造であるから、この吸着媒を構成するPEIや銀錯体を、更に溶媒に溶解させたり、更に樹脂組成物などと略均一に混合させたりしようとしても、結合された水不溶性担体により妨げられてしまう問題がある。この問題を避けるため、本発明者は、溶媒に可溶なPEIを銀イオンの配位子として形成される銀錯体(以下「PEI銀錯体」という。)を含有する液状組成物を試作して、評価試験を行った。その結果、意外にも、このPEI銀錯体を含有する液状組成物の方が、His銀錯体を含有する液状組成物よりも、塩化物イオンに晒されても変色したり抗菌性を損なったりしにくく、強い抗菌性を有することを発見した。したがって、液状の銀系抗菌剤もしくはこれに配合される原料としてか又は銀系抗菌剤の他に例えばコーティング剤などの他用途の工業製品もしくはこれに配合される原料として用いやすい、抗菌性を有する液状組成物を提供できることを、本発明者は見出した。
すなわち、前述した課題を解決するために、本発明に係る液状組成物は、銀錯体を含有して抗菌性を有する液状組成物であって、少なくとも、溶媒と、分子内にアミン構造を有さず前記溶媒に可溶な、有機酸銀塩、及び無機酸銀塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物である銀塩と、分子内にアミン構造を複数有し前記溶媒に可溶な、ポリカチオン、塩基性ペプチド、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物であるカチオン性重合体と、が混合されて成ることにより、前記カチオン性重合体を銀イオンの配位子として形成される前記銀錯体が、前記溶媒に可溶である液状組成物である。
本発明に係る液状組成物は、ハロゲン化銀を含んで成る沈殿物を実質的に含有せず、遊離アミノ酸またはその塩を銀イオンの配位子として形成されたアミノ酸銀錯体を実質的に含有しないものであり得る。
本発明に係る液状組成物での前記銀塩が、シュウ酸銀、酢酸銀、及び炭酸銀からなる群より選ばれた1種以上の化合物であり得る。
本発明に係る液状組成物での前記溶媒が、低級アルコール、低級ケトン、及び水からなる群より選ばれた1種以上の化合物であり得る。
本発明に係る液状組成物において、20℃での前記溶媒の比誘電率が2.3以上かつ19.0以下であり、前記カチオン性重合体が、ポリエチレンイミン、及びその塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物であり得る。
本発明に係る液状組成物は、液状の銀系抗菌剤、又はこれに配合される原料として用いられ得る。
本発明に係る液状組成物は、さらに、紫外線(UV)硬化性を有する樹脂組成物が混合されて成り、コーティング剤、又はこれに配合される原料として用いられ得る。
本発明に係る液状組成物の製造方法は、銀錯体を含有して抗菌性を有する液状組成物の製造方法であって、溶媒、並びに、分子内にアミン構造を有さず前記溶媒に可溶な、有機酸銀塩、及び無機酸銀塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物である銀塩、並びに、分子内にアミン構造を複数有し前記溶媒に可溶な、ポリカチオン、塩基性ペプチド、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物であるカチオン性重合体を準備する工程と、前記溶媒の存在下で前記銀塩および前記カチオン性重合体を混合する工程と、を含むことにより、前記カチオン性重合体を銀イオンの配位子として形成される前記銀錯体が前記溶媒に可溶である液状組成物の製造方法である。
本発明に係るコーティング層の形成方法は、抗菌性を有するコーティング層の形成方法であって、コーティング剤として用いられる前記液状組成物、及び前記溶媒に不溶な担体を準備する工程と、前記液状組成物を前記担体に付着させる工程と、前記担体に付着した前記液状組成物にUVを照射して硬化させる工程と、を含むコーティング層の形成方法である。
本発明に係る液状組成物によれば、溶媒、銀塩、及びカチオン性重合体を混合することで容易に製造可能である。本発明での銀塩は、分子内にアミン構造を有さず溶媒に可溶な有機酸銀塩などであるから、溶媒の存在下で銀イオンを遊離させやすい。本発明でのカチオン性重合体は、溶媒に可溶である、ポリカチオン、塩基性ペプチド、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の高分子化合物であり、その分子内に複数のアミン構造を有している。アミン構造は、銀イオンと配位結合することができる。このため、本発明に係る液状組成物によれば、溶媒の存在下でカチオン性重合体を銀イオンの配位子とする銀錯体が形成されやすく、この銀錯体を含有することで、UVまたは塩化物イオンに晒されても、変色しにくく、沈殿物が生じにくく、抗菌性を損ないにくい。
本発明に係る液状組成物によれば、溶媒に可溶なカチオン性重合体を銀イオンの配位子とするから、形成される銀錯体が溶媒に可溶であり溶媒の広範囲にわたり略均一に分散されやすいため、液状の銀系抗菌剤またはこれに配合される原料として用いやすいものになっている。本発明に係る液状組成物によれば、同様の理由により、例えば有機溶媒や樹脂組成物と略均一に混合させてコーティング剤を調製するのが容易であり、このコーティング剤により形成されるコーティング層で銀化合物の分布にムラが生じにくいから抗菌性を有さない部分が生じにくい。
同様の理由により、本発明に係る液状組成物の製造方法によれば、UVまたは塩化物イオンに晒されても変色したり抗菌性を損なったりしにくく、液状の銀系抗菌剤もしくはこれに配合される原料として用いやすいか又は銀系抗菌剤の他に例えばコーティング剤などの他用途の工業製品もしくはこれに配合される原料として用いやすい、抗菌性を有する液状組成物を、容易に製造することができる。
同様の理由により、本発明に係るコーティング層の形成方法によれば、溶媒、銀塩、カチオン性重合体、及びUV硬化性を有する樹脂組成物が混合された液状組成物を、前記溶媒に不溶な担体に付着させてUVを照射することにより、この担体でムラが生じにくく抗菌性を有するコーティング層を容易に形成させることができる。
本発明に係る液状組成物の製造方法について、その実施態様の一例を示すフローチャートである。 本発明に係るコーティング層の形成方法について、その実施態様の一例を示すフローチャートである。 実施例2から実施例6、及び比較例3のいずれかに係る液状組成物を配合されたコーティング剤Aからコーティング剤E、又はコーティング剤Xに関して、いずれかのコーティング剤を用いて形成されたコーティング層を有するフィルム切片をそれぞれ調製して、このフィルム切片のいずれかを載せた培地で大腸菌を培養してからフィルム切片を染色したときに、各々フィルム切片の外観の写真を示す図である。コーティング層が強い抗菌性を有するほど、フィルム切片が染色されにくい。 実施例6に係る液状組成物を付着させた綿布切片F、又は比較例4に係る液状組成物を付着させた綿布切片Yを、それぞれ別の培地に載置して大腸菌を培養したときに、培地それぞれの外観の写真を示す図である。液状組成物が強い抗菌性を有するほど、綿布切片の周囲に径の大きい阻止円が形成される。
<液状組成物>
本発明に係る液状組成物(以下「本組成物」という。)は、銀錯体を含有して抗菌性を有する液状の組成物である。本組成物に含有される銀錯体は、カチオン性重合体を銀イオンの配位子として形成される銀錯体(以下「本銀錯体」という。)である。本銀錯体を形成させて含有するために、本組成物は、少なくとも、溶媒、銀塩、及びカチオン性重合体が混合されて成る。なお、溶媒は溶剤とも称される。抗菌性とは、細菌数を減少させるか又は細菌を死滅させるかして、細菌が増殖するのを阻止する性質である。
本組成物での溶媒は、20℃前後で液状であり、少なくとも銀塩の一部とカチオン性重合体の一部を溶質として溶解可能な化合物1種または2種以上の混合物である。銀塩の一部とカチオン性重合体の一部を溶解可能であれば、本組成物での溶媒は、極性溶媒と無極性溶媒の一方を分散質とし他方を分散媒として形成されるエマルションを有する乳濁液であっても良い。溶質として用いる化合物やその配合量に応じて、溶質を十分に溶解可能な溶媒を適宜選択するのが好ましい。本銀錯体の形成に関わらない余剰な銀塩やカチオン性重合体の量が多くなるのを避ける観点から、本組成物での溶媒は、混合される銀塩の全量とカチオン性重合体の全量を溶質として溶解させることが可能な化合物1種または2種以上の混合物であるのがさらに好ましい。
本組成物での極性溶媒は、20℃での比誘電率が6.2以上である、比較的に親水性を示す化合物1種または2種以上の混合物である。比誘電率は、真空の誘電率εに対する溶媒の誘電率εの比εであり、つまりε/ε=εである。本組成物での極性溶媒として、例えば、水、ギ酸、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸、ジメチルスルホキシド、アセトン、又はテトラヒドロフラン等の化合物が挙げられる。本組成物での無極性溶媒は、20℃での比誘電率が6.2未満である、比較的に疎水性を示す化合物1種または2種以上の混合物である。本組成物での無極性溶媒として、例えば、酢酸エチル、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエン、又はベンゼン等の化合物が挙げられる。
後述するカチオン性重合体の一種であるPEIは、20℃での比誘電率が2.3以上の溶媒に可溶である。このため、カチオン性重合体を溶解可能である観点から、本組成物での溶媒は、極性溶媒であるか又は無極性溶媒であるかを問わず、20℃での比誘電率が2.3以上である化合物1種または2種以上の混合物であるのが好ましい。このような化合物として、例えば、水、ジメチルホルムアミド、ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、又はキシレン等が挙げられる他、分子内の炭素数が比較的に少ない、アルコール、ケトン、エーテル、又はエステルが挙げられる。
20℃での比誘電率が2.3以上であるアルコールとして、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ヘキシレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、ベンジルアルコール、又は2−エチルヘキサノール等の化合物が挙げられる。
20℃での比誘電率が2.3以上であるエーテルとして、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、グリセリンモノメチルエーテル、グリセリンモノエチルエーテル、グリセリンモノプロピルエーテル、グリセリンモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジグリセリンモノメチルエーテル、ジグリセリンモノエチルエーテル、ジグリセリンモノプロピルエーテル、又はジグリセリンモノブチルエーテル等の化合物が挙げられる。
20℃での比誘電率が2.3以上であるケトンとして、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、又はメチルイソブチルケトン等の化合物が挙げられる。20℃での比誘電率が2.3以上であるエステルとして、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸エチル、酪酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、又は乳酸ブチル等の化合物が挙げられる。
銀塩やカチオン性重合体を更に溶解させやすい観点から、本組成物での溶媒は、さらに好ましくは極性溶媒から選ばれた1種以上の化合物であり、さらにより好ましくは、低級アルコール、低級ケトン、及び水からなる群より選ばれた1種以上の化合物である。低級とは、分子内の炭素数が5以下であることを意味する。低級アルコールには、例えばエチレングリコール等の、分子内の炭素数が5以下である多価アルコールも含まれる。
あるいは、有機溶媒やこれに可溶な樹脂組成物が配合された工業製品としての用途、例えばコーティング剤などの用途で本組成物を更に用いやすくする観点から、本組成物での溶媒は、極性溶媒であるか又は無極性溶媒であるかを問わず、20℃での比誘電率が2.3以上かつ19.0以下である化合物1種以上が好ましく、例えば、前述した無極性溶媒、テトラヒドラフラン、1−ブタノール、又は2−プロパノール等が挙げられる。同様の観点に加えて、アルコール等よりも安定な化合物である観点から、本組成物での溶媒は、さらに好ましくは20℃での比誘電率が6.2以上かつ19.0以下である低級ケトンから選ばれた化合物1種以上であり、例えば、メチルエチルケトン、又はジエチルケトン等が挙げられる。
本銀錯体を効率よく形成させる観点から、本組成物での溶媒は、分子内にアミン構造を有しない化合物1種または2種以上の混合物であるのが好ましい。アミン構造は、アンモニア(NH)の水素原子の一部または全部を炭化水素基または芳香族原子団で置換した構造であり、例えばアミノ基、又はアミド基などが挙げられる。アミン構造を構成する窒素原子は、孤立電子対を有するから、銀イオンと配位結合する配位座として機能し得る。溶媒が分子内にアミン構造を有しない化合物である場合には、溶媒が銀イオンと配位結合しにくいから、後述するカチオン性重合体が有するアミン構造が銀イオンと配位結合するのを溶媒に妨げられにくいため、本銀錯体が効率良く形成されやすいと考えられる。
本銀錯体を効率良く形成させる観点から、本組成物での溶媒は、ハロゲン分子またはハロゲン化物を実質的に含有しない化合物1種または2種以上の混合物であるのが好ましい。ハロゲン分子として、フッ素(F)、塩素(Cl)、又は臭素(Br)等が例示される。ハロゲン化物として、ハロゲン化水素、又はハロゲン化鉱物などが例示される。ハロゲン化水素として、フッ化水素、塩酸、又は臭酸などが例示される。ハロゲン化鉱物として岩塩(NaCl)等が例示される。「実質的に含有しない」とは、本発明の目的に反しない程度の微量であれば使用前の本組成物に混入しても許容されることを意味し、又は好ましくは使用前の本組成物を機器分析にかけても検出できない程度の混入量に抑えられていることを意味する。例えば、一般的な水道水は岩塩を幾らか含有するから塩化物イオンを含有しているが、水道水と銀塩を混合して生じ得る塩化銀の沈殿物が目視で確認できない程度の微量に過ぎない場合には、更にカチオン性重合体を混合すれば塩化物イオンにほとんど妨げられることなく本銀錯体を形成させることができるから、この場合の水道水を本組成物での溶媒として用いても許容される。
溶質をなるべく多く溶解させる観点から、本組成物での溶媒の含有量は、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上である。なお、本組成物が本銀錯体を比較的に高濃度で含有する場合には、例えば、使用者が必要に応じて希釈してから用いる液状の銀系抗菌剤として、本組成物を活用することができる。このため、本組成物で本銀錯体をなるべく多く形成させる余地を残す観点から、本組成物での溶媒の含有量は、好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは96質量%以下である。
本組成物での銀塩は、分子内にアミン構造を有さず溶媒に可溶な、有機酸銀塩、及び無機酸銀塩からなる群より選ばれた1種以上の銀化合物である。溶媒として用いる化合物に応じて、溶媒に十分に溶解可能な銀塩やその配合量を適宜選択するのが良い。この銀塩の分子内での有機酸の部分または無機酸の部分は、アミン構造を有しないから銀イオンと配位結合しにくく、主にイオン結合により銀イオンと結合している。このため、本組成物での銀塩は、溶媒の存在下で電離すれば銀イオンを遊離させやすい。
なお、例えば、塩化銀などのハロゲン化銀や、酸化銀(AgO)は、不溶性であるから溶媒の存在下で電離しにくく銀イオンを遊離させにくいため、本組成物での銀塩に含まれない。His銀錯体などのアミノ酸銀錯体は、その分子内にアミン構造を有するから配位結合により銀イオンを遊離させにくいため、本組成物での銀塩に含まれない。ヒスチジンは高価であるから、His銀錯体と比べて、本組成物での銀塩は安価で済む。
本組成物での有機酸銀塩は、分子内にアミン構造を有さず溶媒に可溶な有機銀化合物であり、例えば、カルボン酸銀塩、又は有機スルホン酸銀塩などが挙げられる。このようなカルボン酸銀塩として、例えば、プロピオン酸銀、グリコール酸銀、乳酸銀、ピルビン酸銀、シュウ酸銀、コハク酸銀、クエン酸銀、リンゴ酸銀、又は酒石酸銀などが挙げられる。このような有機スルホン酸銀塩として、1−プロパンスルホン酸銀などが例示される。本組成物での有機酸銀塩は、銀イオンが電離した後に生じる遊離の有機酸が細菌等に栄養素として代謝されにくい観点から、分子内の炭素数が2以下である有機銀化合物がさらに好ましく、ギ酸銀、酢酸銀、メタンスルホン酸銀、又はエタンスルホン酸銀などが例示される。あるいは、更に銀イオンと配位結合しにくいために銀イオンを遊離させやすい観点から、本組成物での有機酸銀塩は、分子内に窒素原子およびチオール基を有さず溶媒に可溶な有機銀化合物1種以上が好ましい。
本組成物での無機酸銀塩は、溶媒に可溶な無機酸が有する水素原子の一部または全部を銀原子に置換した無機銀化合物である。このような無機酸銀塩として、硝酸銀(AgNO)等が例示される。更に銀イオンを遊離させやすい観点から、本組成物での無機酸銀塩は、分子内に窒素原子を有さず溶媒に可溶な無機銀化合物1種以上が好ましく、例えば、硫酸銀(AgSO)、リン酸銀(AgPO)、又は炭酸銀(AgCO)等が挙げられる。
本組成物での銀塩は、銀イオンを遊離させた後に細菌等に栄養素として代謝されにくい観点、水や有機溶媒への溶解性に優れる観点、UVおよび熱の暴露に対する安定性に優れる観点、並びに安価に入手可能な観点から、シュウ酸銀、酢酸銀、及び炭酸銀からなる群より選ばれた銀化合物1種以上がさらに好ましい。これらの銀化合物のうちでは、本組成物が強い抗菌性を有しやすい観点から酢酸銀がさらにより好ましく、無臭であり取り扱いやすい観点からシュウ酸銀および炭酸銀からなる群より選ばれた銀化合物1種以上がさらにより好ましい。
銀塩として用いる化合物によるが、本組成物での銀塩の含有量は、抗菌性を発揮させやすい観点から、好ましくは1.0×10−6質量%以上、さらに好ましくは5.0×10−6質量%以上、さらにより好ましくは1.0×10−5質量%以上である。溶媒として用いる化合物と銀塩として用いる化合物の組み合わせによるが、本組成物での銀塩の含有量は、配合される銀塩の全量を溶媒に溶解させやすい観点から、10質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましく、2.0質量%以下であるのがさらにより好ましい。
本組成物でのカチオン性重合体は、分子内にアミン構造を複数有し溶媒に可溶な、ポリカチオン、塩基性ペプチド、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の高分子化合物である。本組成物でのカチオン性重合体は、その分子内にアミン構造を複数有するから、溶媒の存在下で銀イオンの配位子として機能させ得る高分子化合物である。溶媒として用いる化合物に応じて、溶媒に十分に溶解可能なカチオン性重合体やその配合量を適宜選択するのが良い。
本組成物でのポリカチオンは、分子内にアミン構造などのカチオン性基を複数有することにより、分子全体としてカチオン性を示す合成ポリマーである。分子内にカチオン性基とアニオン性基をそれぞれ複数有する合成ポリマーでも、分子全体としてカチオン性を示す場合には、銀イオンの配位子として機能し得るから本組成物でのポリカチオンとして扱う。分子内に有するアミン構造の数が多い(配位座の数が多い)ために銀イオンの配位子として更に機能させやすい観点から、ポリカチオンは、溶媒に可溶であり、アミン構造を有するモノマー同士が重合して成る、カチオン性を示す合成ホモポリマーであるのが好ましい。このような合成ホモポリマーとして、例えば、PEI、ポリアリルアミン、又はポリビニルアミン等が挙げられる。
本組成物での塩基性ペプチドは、その構成アミノ酸に塩基性アミノ酸を複数含み、20℃での等電点がpH7.0より高くかつpH11.0未満であるペプチドである。この塩基性ペプチドを構成する塩基性アミノ酸として、例えば、リジン、ヒスチジン、アルギニン、又はオルニチン等が挙げられる。塩基性ペプチドとして、例えば、プロタミン、ペプトン、又はポリペプトン等が挙げられる。分子内に多数のアミン構造を有するために銀イオンの配位子として更に機能させやすい観点から、塩基性ペプチドは、10分子以上の塩基性アミノ酸を含む多数の遊離アミノ酸同士が重合して成るペプチドであるのが好ましい。あるいは、同様の観点から、本組成物での塩基性ペプチドは、溶媒に可溶である塩基性アミノ酸のホモポリマーが好ましく、例えば、ポリアルギニン、ポリオルニチン、又はε−ポリリジン等が挙げられ、これらホモポリマーは10分子以上の塩基性アミノ酸同士が重合して成るものがさらに好ましい。なお、ε−ポリリジンでの「ε」は、その構成アミノ酸であるリジン残基でのε位の炭素原子に結合されたアミノ基がカルボキシル基との間でペプチド結合していることを意味する。
抗菌性を有する高分子化合物をカチオン性重合体として用いることで本組成物に更に強い抗菌作用を奏させる観点、および、分子内に第二級アミン構造または第三級アミン構造を複数有する化合物であるために銀イオンの配位子として更に機能させやすい観点から、本組成物でのカチオン性重合体は、溶媒に可溶な、PEI、ε−ポリリジン、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物であるのが好ましい。同様の観点から、本組成物でカチオン性重合体2種を組み合わせて用いる場合に、その好適な例としてPEIとε−ポリリジンの組み合わせが挙げられる。同様の観点に加えて、極性溶媒と無極性溶媒の両方に溶解させやすい観点から、本組成物でのカチオン性重合体は、溶媒に可溶な、PEI、及びその塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物(以下「PEI化合物」という。)であるのがさらに好ましい。
PEI化合物は親水性の高分子化合物であるが、20℃での比誘電率が2.3であるキシレンに可溶である。このため、本組成物でカチオン性重合体としてPEI化合物を用いる場合に、本組成物での溶媒は、極性溶媒であるか又は無極性溶媒であるかを問わず、20℃での比誘電率が2.3以上であるものが好ましい。同様の理由に加えて、後述する樹脂組成物を溶解させて本組成物をコーティング剤などの他用途の工業製品またはこれに配合される原料として更に用いやすい観点から、本組成物でのカチオン性重合体はPEI化合物であり、かつ、本組成物での溶媒は20℃での比誘電率が2.3以上かつ19.0以下であるのがさらに好ましく、この場合に本組成物の相溶性を更に高める観点から20℃での溶媒の比誘電率が6.2以上かつ19.0以下であるのがさらにより好ましい。
分子内に多数のアミン構造を有する(多数の配位座を有する)ために銀イオンの配位子として更に機能させやすい観点から、PEI化合物の数平均分子量(number average molecular weight、以下「Mn」という。)は、好ましくは200以上であり、さらに好ましくは500以上であり、さらにより好ましくは5,000以上である。同様の観点に加えて、本組成物に殺菌性を付与する観点から、PEI化合物のMnは30,000以上であるのがさらにより好ましい。殺菌性とは、細菌などの微生物を死滅させる性質である。本組成物で溶媒として極性溶媒を用いる場合にPEI化合物を溶解させやすくする観点から、PEI化合物のMnは、好ましくは100,000以下である。本組成物で溶媒として無極性溶媒を用いる場合にPEI化合物を溶解させやすくする観点から、PEI化合物のMnは、好ましくは20,000以下、さらに好ましくは3,000以下である。
カチオン性重合体としてポリカチオンの塩または塩基性ペプチドの塩を用いる場合に、凝集しにくい観点から、この塩は、ナトリウム塩、及びカリウム塩からなる群より選ばれた1種以上の塩であるのが好ましい。本銀錯体の形成に関わらない銀原子(銀イオン)が生じるのをなるべく避ける観点から、カチオン性重合体は、その分子内にハロゲン原子を実質的に有しないのが好ましい。この場合、使用前の本組成物に含有される銀イオンがハロゲンイオンと反応してハロゲン化銀を形成するのを避けやすいため、銀イオンを本銀錯体の形成に関わらせやすい。
本組成物でのカチオン性重合体の含有量は、本銀錯体を形成させやすい観点から、好ましくは1.0×10−6質量%以上、さらに好ましくは5.0×10−6質量%以上、さらにより好ましくは1.0×10−5質量%以上である。溶媒として用いる化合物とカチオン性重合体として用いる化合物との組み合わせによるが、本組成物でのカチオン性重合体の含有量は、配合された全量を溶媒に十分に溶解させやすい観点から、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下、さらにより好ましくは2.0質量%以下である。
本組成物で、カチオン性重合体の銀塩に対する質量比(カチオン性重合体の質量/銀塩の質量)は、本銀錯体を形成させやすい観点から、好ましくは0.50以上、さらに好ましくは1.0以上、さらにより好ましくは2.0以上である。本銀錯体の形成に関わらない余剰なカチオン性重合体の量が多くなるのを避ける観点から、この質量比(カチオン性重合体の質量/銀塩の質量)は、好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下、さらにより好ましくは5.0以下である。
以上に説明した本組成物によれば、溶媒、銀塩、及びカチオン性重合体を混合することで容易に製造可能である。本組成物での銀塩は、分子内にアミン構造を有さず溶媒に可溶な有機酸銀塩などであるから、溶媒の存在下で銀イオンを遊離させやすい。本組成物でのカチオン性重合体は、溶媒に可溶である、ポリカチオン、塩基性ペプチド、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の高分子化合物であり、その分子内に複数のアミン構造を有している(銀イオンと配位結合する配位座として機能し得る部分を分子内に複数有している)。このため、本組成物によれば、溶媒の存在下でカチオン性重合体を銀イオンの配位子とする銀錯体が形成されやすく、この銀錯体を含有することで、UVまたは塩化物イオンに晒されても、変色しにくく、沈殿物が生じにくく、抗菌性を損ないにくい。
本組成物によれば、溶媒に可溶なカチオン性重合体を銀イオンの配位子とするから、形成される銀錯体が溶媒に可溶であり溶媒の広範囲にわたり略均一に分散されやすいため、液状の銀系抗菌剤またはこれに配合される原料として用いやすいものになっている。本組成物によれば、同様の理由により、例えば有機溶媒や樹脂組成物と略均一に混合させてコーティング剤を調製するのが容易であり、このコーティング剤により形成されるコーティング層で銀化合物の分布にムラが生じにくいから抗菌性を有さない部分が生じにくい。
UVまたは塩化物イオンに晒されたときにHis銀錯体よりも本銀錯体の方が高い安定性を示す原因は不明であるが、カチオン性重合体は重合体であるからヒスチジンよりも分子内にアミン構造(配位座)を多数有する余地があり、この多数のアミン構造に起因するキレート効果により銀イオンを適度に脱離させにくくなっていることに因るのであろうと考えられる。また、分子内にアミン構造を複数有する分子(例えば、His銀錯体、又はPEIなど)はアミン構造に由来して正電荷を帯びやすいから、このような分子同士は正電荷同士で反発し合って接近しにくい場合があるのに対して、本組成物での銀塩は分子内にアミン構造を有していないから、複数のアミン構造を有するカチオン性重合体と反発し合いにくく接近しやすいため、本組成物では銀イオンが銀塩から遊離してから比較的に短時間でカチオン性重合体に配位され保護されやすいのであろうと推定される。本銀錯体では銀イオンがその周囲をカチオン性重合体の主鎖により幾重にも包囲されて保護され得るから、塩化物イオンが主鎖に阻まれて銀イオンに接近しにくいため、高い安定性を示すのであろうとも推察される。これらを考慮すると、本銀錯体は、塩化物イオンに限らず、他のハロゲンイオン(例えば、フッ化物イオン、又は臭化物イオン等)に晒された場合でも高い安定性を示すであろうと考えられる。
本組成物での溶媒に関して水道水の例で説明したのと同様の理由により、本銀錯体を効率よく形成させる観点から、本組成物は、ハロゲン分子およびハロゲン化物を実質的に含有しないのが好ましい。その結果として、本組成物は、ハロゲン化銀を含んで成る沈殿物を実質的に含有しないのが好ましい。
本銀錯体を効率よく形成させる観点から、本組成物は、遊離アミノ酸、及びその塩からなる群より選ばれた化合物1種以上を銀イオンの配位子として形成されるアミノ酸銀錯体を実質的に含有しないのが好ましい。仮に、本組成物に遊離アミノ酸またはその塩が多く混入した場合には、アミノ酸銀錯体が形成され得るから、本銀錯体の形成に関わり得る銀イオンや銀原子の量が幾らか減少してしまう。また、His銀錯体などのアミノ酸銀錯体は、本銀錯体と比べて、塩化物イオンに晒されたときの安定性に劣る。アミノ酸銀錯体は、銀イオンを電離させた後に遊離アミノ酸になるから、菌体にとって代謝しやすい栄養素となる。このため、アミノ酸銀錯体を含有する液状組成物を長期にわたり使用した場合には、菌体内に銀イオンが取り込まれ続けて銀イオンの含有量が減少したときに、相対的に遊離アミノ酸の含有量が増しているから却って微生物を繁殖させるおそれがあると考えられる。これらの問題を避ける観点からも、本組成物での溶媒は、アミノ酸銀錯体を実質的に含有しないのが好ましい。
上記したアミノ酸銀錯体に関して説明したのと同様の観点から、本組成物ではカチオン性重合体を除けば、分子内にアミン構造を有する化合物およびその塩を実質的に含有しないのがさらに好ましい。また、分子内にチオール基または窒素原子を有する化合物は銀イオンの配位子として機能する可能性があるから、これを避ける観点から、本組成物ではカチオン性重合体を除けば、分子内にチオール基または窒素原子を有する化合物およびその塩を実質的に含有しないのがさらにより好ましい。
本組成物は、本銀錯体を含有するから、抗菌性を有するにも関わらず人体への毒性が弱く比較的に安全性が高い。このため、本組成物は、そのまま抗菌消臭に用いられても良いし、創傷や医療器具を消毒するのに用いられても良いし、抗菌性を付与するための原料として化粧品に配合されても良いし、または、繊維、洗濯機、フィルム、衛生セラミックス、台所用品、シンク、スマートフォン、乳幼児製品、もしくは移植用の生体組織などにコーティングを施すのに用いられても良い。
本銀錯体が溶媒に可溶であるという特徴を活かす観点から、本組成物は、液状の銀系抗菌剤として用いられるか又はこれに配合される原料として用いられるのが好ましい。液状の銀系抗菌剤は、例えば希釈された上で、金属加工油剤、洗浄剤、循環冷却水、又は製紙用の産業用水などに添加されて、抗菌作用および消臭作用を奏する。液状の銀系抗菌剤に含有される本銀錯体は溶媒に可溶であるから、銀系抗菌剤を添加された産業用水などを撹拌しなくても、この産業用水などの広範囲にわたり本銀錯体が略均一に分散して満遍なく抗菌作用を発揮しやすい。また、本銀錯体は産業用水などに溶解しやすいから、本組成物を産業用水などに添加しても配管などを詰まらせる原因になりにくい。
本組成物は、溶媒に不溶な担体に対して、抗菌性を付与する加工(以下「抗菌加工」という。)を施すのに用いられても良い。このような担体として、例えば、セルロース系繊維製の担体、溶媒に不溶なカルボニル基を有する合成樹脂製の担体、フェノール性水酸基を有する担体、又はシラノール基を有する担体などが挙げられる。セルロース系繊維製の担体として、例えば、綿繊維、レーヨン、紙、又はパルプなどが挙げられる。溶媒に不溶なカルボニル基を有する合成樹脂製の担体として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、及びポリウレタンからなる群より選ばれた1種以上の合成樹脂、又はこの合成樹脂を含んで成る製品が挙げられる。フェノール性水酸基を有する担体として、例えば、おがくず、又はフェノール樹脂などが挙げられる。例えば、本組成物により抗菌加工されたおがくずは、抗菌性を付与された緩衝材、又は動物飼育用の腐敗しにくい床敷材などとして好適に利用可能である。シラノール基を有する担体として、例えば、シリカゲル、ガラス、又は陶磁器などが挙げられる。
本組成物はUVまたは塩化物イオンに晒されても抗菌作用を発揮しやすい観点から、上記した溶媒に不溶な担体は、使用時に塩化物イオンを含有する液体(例えば、水道水、海水など)に触れるか若しくは屋外で日光や潮風に晒される製品またはその構成材が好ましい。このような製品として、例えば、防水加工された製品、台所用品、風呂用品、浴槽、浴室の内装、釣具、漁具、船具、潜水用品、又はマリンレジャー用品などが挙げられる。
溶媒に不溶な担体に抗菌加工を施す場合に、この担体を本組成物に30分以上浸漬させてから、担体を引き揚げてエタノール等のアルコールで洗浄して、洗浄された担体を60℃以上の雰囲気下に1時間以上晒してこの担体の表面にカチオン性重合体が更に結合されるように、本組成物を用いるのが好ましい。担体の洗浄にアルコールを用いると、担体に担持されていない余分な銀錯体を回収するのが容易である。
本銀錯体は溶媒に可溶であるから、本組成物は水または有機溶剤との相溶性に優れる。この特徴、及び本銀錯体が、熱、UV、又は塩化物イオンに晒されても安定性が高いという特徴を活かす観点から、本組成物は、溶媒、銀塩、及びカチオン性重合体に加えて更に樹脂組成物が混合されて成り、塗料もしくはこれに配合される原料、又はコーティング剤もしくはこれに配合される原料として用いられるのが好ましい。なお、塗料は、防腐、錆止め、艶出し、着色などを目的として、担体上に塗布または噴霧などして塗膜を形成させることにより、この担体の塗装に用いられる組成物である。コーティング剤は、フィルム等の樹脂基材または塗装の艶出しまたは保護などを目的として、この樹脂基材または塗膜の表面に塗布または噴霧などされてコーティング層を形成させるように用いられる組成物である。本組成物は相溶性を有するから、銀化合物の分布にムラが生じにくく抗菌性を有する塗膜またはコーティング層を容易に形成させることができる。形成される塗膜またはコーティング層で更にムラを生じさせにくい観点から、さらに混合される樹脂組成物は、好ましくは溶媒に可溶なものであり、さらに好ましくは配合される全量を溶媒に溶解させることが可能なものである。
本組成物を塗料またはこれに配合される原料として用いられる場合に、さらに混合される樹脂組成物は、塗装用の樹脂組成物であるのが好ましい。塗装用の樹脂組成物として、例えば、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、シリコン樹脂、又はアクリルシリコン樹脂などが挙げられる。本銀錯体を効率よく形成させる観点から、塗装用の樹脂組成物は、その分子内にアミン構造およびハロゲン原子を実質的に有しないものがさらに好ましい。塗装用の樹脂組成物は、溶媒に不溶な担体上に塗布または噴霧などされてから、溶媒が揮発するか乾燥したときに固化して、形成される塗膜の主な構成成分となる。
本組成物がコーティング剤またはこれに配合される原料として用いられる場合に、さらに混合される樹脂組成物は、熱硬化性、電子線硬化性、またはUV硬化性を有する樹脂組成物が好ましい。例えばHis銀錯体と比べて、本銀錯体は安定性が高く、熱、電子線、またはUVに晒されても銀イオンが還元されにくいように保護して金属銀を析出させにくいため、金属銀により濁っておらず抗菌性を有するコーティング層を形成させやすい。なお、UV硬化性とは、UVを照射されると比較的に短時間で重合反応または架橋反応が起こることにより、液状から固体状へ硬化する性質である。
コーティング剤の取り扱いが容易な観点、及びさらに金属銀を析出させにくい観点から、さらに混合される樹脂組成物は、溶媒に可溶でUV硬化性を有する樹脂組成物であるのがさらに好ましい。この場合のコーティング剤は、ハードコート剤とも称される。ハードコート剤は、コーティング剤の一種であり、樹脂基材または塗装の表面に付着させてUV又は電子線により硬化されて、耐摩耗性に優れたコーティング層を形成させるのに用いられる組成物である。取り扱いが容易である観点から、UV硬化性を有する樹脂組成物は、UVを照射されると励起する光重合開始剤、及びこの光重合開始剤が励起したことに起因して重合反応または架橋反応を起こして高分子化されるモノマー又はオリゴマーを含有する組成物であるのが好ましい。
光重合開始剤として、例えば、励起によりラジカルを生じさせる光ラジカル重合開始剤、励起によりカチオン(酸)を生じさせる光カチオン重合開始剤、又は励起によりアニオン(塩基)を生じさせる光アニオン重合開始剤などが挙げられる。本銀錯体が形成されるのを妨げにくい観点から、光重合開始剤は、分子内に窒素原子およびハロゲン原子を実質的に有しない光ラジカル重合開始剤であるのがさらに好ましい。このような光ラジカル重合開始剤として、例えば、アセチルベンゼン、ジフェニルエタンジオン、又はジフェニルケトン等が挙げられる。
UV硬化性を有する樹脂組成物に関して前述したモノマー又はオリゴマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸エステル若しくはこれが重合したオリゴマー、又はイソシアネート化合物とポリオール化合物の組み合わせ等が挙げられる。本銀錯体が形成されるのを妨げにくい観点、及び主に(メタ)アクリル樹脂により形成されたコーティング層は透明性が高いために、塩化物イオンに晒されても白濁しにくいという本組成物の特徴を活かしやすい観点から、このモノマー又はオリゴマーは、分子内にアミン構造およびハロゲン原子を実質的に有しない(メタ)アクリル酸エステル又はこれが重合したオリゴマーであるのが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとして、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、又は(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。
使用者が本組成物を更に取り扱いやすい観点、及びカチオン性重合体や本銀錯体を更に溶媒に溶解させやすい観点から、本組成物の20℃でのpHは、7.0よりも大きく11.0未満であるのが好ましい。このためには、本発明の目的に反しない限りの少量であれば、本組成物はさらにpH調整剤が混合されて成るものであっても良い。
本組成物は、溶媒、銀塩、カチオン性重合体、樹脂組成物、及びpH調整剤の他にも、本発明の目的に反しない限りの少量であれば、必要に応じて、界面活性剤、キレート剤、又は増粘剤などが混合されても良い。界面活性剤として、カチオン性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤からなる群より選ばれた1種以上の剤が挙げられる。以下、ポリオキシエチレン鎖をPOEといい、ポリオキシプロピレン鎖をPOPという。
カチオン性界面活性剤として、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、塩化ジステアリルジメチルジアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルモルホニウム塩、POE−アルキルアミン、アルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミノアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、又は塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。アルキルトリメチルアンモニウム塩として、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、又は塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等が例示される。アルキルピリジニウム塩として、塩化セチルピリジニウム等が例示される。
非イオン性界面活性剤として、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、硬化ひまし油誘導体、グリセリンアルキレート、POE−ソルビタンエステル類、POE−脂肪酸エステル類、POE−アルキルエーテル類、プルロニック類、POE・POP−アルキルエーテル類、テトロニック類、POE−ひまし油誘導体、アルカノールアミド、POE−プロピレングリコールエステル、POE−アルキルアミン、POE−脂肪酸アミド、又はショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。分子内にアミン構造およびハロゲン原子を実質的に有しない化合物である場合が多いために本銀錯体を形成するのを妨げにくい観点から、本組成物での界面活性剤は、非イオン界面活性剤から選ばれた1種以上の化合物であるのが好ましい。
非イオン界面活性剤に関して、ソルビタン脂肪酸エステルとして、例えば、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、又はソルビタントリオレエート等が挙げられる。グリセリン脂肪酸エステル類として、例えば、モノエルカ酸グリセリン、セスキオレイン酸グリセリン、又はモノスレアリン酸グリセリン等が挙げられる。プロピレングリコール脂肪酸エステル類として、例えば、モノステアリン酸プロピレングリコール等が挙げられる。POE−ソルビタンエステル類として、例えば、POE−ソルビットラウレート、POE−ソルビットモノオレエート、又はPOE−ソルビタンモノステアレート等が挙げられる。POE−アルキルエーテル類として、例えば、POE−ラウリルエーテル、POE−オレイルエーテル、又はPOE−ステアリルエーテル等が挙げられる。POE・POP−アルキルエーテル類として、例えば、POE・POP−モノセチルエーテル、POE・POP−モノブチルエーテル、又はPOE・POP−グリセリンエーテル等が挙げられる。POE−ひまし油誘導体として、例えば、POE−ひまし油、POE−硬化ひまし油、又はPOE−硬化ひまし油モノイソステアレート等が挙げられる。アルカノールアミドとして、例えば、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、又は脂肪酸イソプロパノールアミド等が挙げられる。
キレート剤として、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸四ナトリウム塩、エテト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、アスコルビン酸、グルコン酸、クエン酸、コハク酸、アジピン酸、又はスベリン酸、等を挙げることができる。本銀錯体を効率よく形成させる観点から、キレート剤は、分子内にアミン構造およびハロゲン原子を有しない化合物であるのが好ましい。
増粘剤として、例えば、アラビアゴム、カラギーナン、カラヤガム、トラガカントガム、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、グアーガム、タマリントガム、キサンタンガム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ベントナイト、ヘクトライト、又はラポナイト等が挙げられる。本銀錯体を効率よく形成させる観点から、増粘剤は、分子内にアミン構造およびハロゲン原子を有しない化合物であるのが好ましい。
本組成物は、容易に製造可能な観点から、以下に説明する方法で製造されたものが好ましい。
<液状組成物の製造方法>
本発明に係る液状組成物の製造方法(以下「本製造法」という。)は、前述した本組成物を製造する方法である。本製法を説明するにあたり、前述した本組成物と共通する事項の説明を概ね省略して、異なる事項を主に説明する。本製法は、図1に示すように、原料準備工程S1、混合工程S2、及び充填工程S3を含む。
原料準備工程S1では、本組成物の原料として、少なくとも、溶媒、銀塩、及びカチオン性重合体を準備する。準備する溶媒に応じて、この溶媒に可溶な銀塩と、この溶媒に可溶なカチオン性重合体を適宜選択する。本発明の目的に反しない限り、本組成物の原料として必要に応じてさらに、樹脂組成物、pH調整剤、界面活性剤、キレート剤、及び増粘剤からなる群より選ばれた1種以上の原料を準備しても良い。
混合工程S2では、少なくとも、溶媒の存在下で銀塩とカチオン性重合体を混合して、混合液を調製する。このためには、溶媒に銀塩を混合してから更にカチオン性重合体を混合しても良いし、溶媒にカチオン性重合体を混合してから更に銀塩を混合しても良いし、銀塩とカチオン性重合体を混合してから更に溶媒を混合しても良いし、溶媒と銀塩とカチオン性重合体を同時に混合しても良い。混合により、溶媒の存在下で銀塩から電離して遊離した銀イオンにカチオン性重合体が配位して、本銀錯体が形成される。混合工程S2で調製された混合液は、溶媒に可溶な本銀錯体を含有するから、抗菌性を有する。なお、例えばMnが500以上であるPEI化合物など、カチオン性重合体として用いる化合物によっては、混合液が幾らか粘性を有する場合がある。この場合には、銀塩やカチオン性重合体を溶媒に十分に溶解させる観点、及び溶媒と銀塩とカチオン性重合体を略均一に混合させて効率よく本銀錯体を形成させる観点から、混合工程S2で必要に応じて混合液を撹拌するのが好ましい。
混合工程S2では、溶質を十分に溶解させる観点から、混合液での溶媒の含有量が、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%、さらにより好ましくは90質量%以上となるように溶媒を混合する。本組成物で本銀錯体を多く形成させる余地を残す観点から、混合液での溶媒の含有量が、好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは96質量%以下となるように溶媒を混合する。抗菌性を発揮させやすい観点から、混合液での銀塩の含有量が、好ましくは1.0×10−6質量%以上、さらに好ましくは5.0×10−6質量%以上、さらにより好ましくは1.0×10−5質量%以上となるように銀塩を混合する。配合した全量を溶媒に十分に溶解させやすい観点から、混合液での銀塩の含有量が、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは5.0質量%以下となるように銀塩を混合する。
混合工程S2では、本銀錯体を形成させやすい観点から、混合液でのカチオン性重合体の含有量が、好ましくは1.0×10−6質量%以上、さらに好ましくは5.0×10−6質量%以上、さらにより好ましくは1.0×10−5質量%以上となるようにカチオン性重合体を混合する。配合した全量を溶媒に十分に溶解させやすい観点から、混合液でのカチオン性重合体の含有量が、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは5.0質量%以下となるようにカチオン性重合体を混合する。銀錯体を形成させやすい観点から、混合液でカチオン性重合体の銀塩に対する質量比(カチオン性重合体の質量/銀塩の質量)が、好ましくは0.50以上、さらに好ましくは1.0以上、さらにより好ましくは2.0以上になるように銀塩およびカチオン性重合体を混合する。銀錯体を形成しない余剰なカチオン性重合体の量が多くなるのを避ける観点から、混合液でこの質量比(カチオン性重合体の質量/銀塩の質量)が、好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下、さらにより好ましくは5.0以下になるように銀塩およびカチオン性重合体を混合する。
混合工程S2では、本発明の目的に反しない限り必要に応じてさらに、樹脂組成物、pH調整剤、界面活性剤、キレート剤、及び増粘剤からなる群より選ばれた1種以上の原料を溶媒の存在下で混合して、銀塩およびカチオン性重合体と混合された混合液を調製しても良い。
充填工程S3では、使用前の混合液に異物が混入するのを避ける観点、使用前の混合液が熱、光、又はハロゲンに晒されるのをなるべく避ける観点、及び取り扱いやすく市場に流通させやすい観点から、先の混合工程S2で調製した混合液を容器に充填して、本組成物を製造する。容器の形態としては、例えば、樹脂製もしくはガラス製の遮光ボトル、金属製の缶、又は樹脂製の遮光袋などが挙げられる。製造工程を簡略化させる観点から、先の混合工程S2で、溶媒、銀塩、及びカチオン性重合体を各々容器内に充填して混合することにより、混合工程S2と充填工程S3を一時に行っても良い。混合工程S2で調製した混合液を直ちに液状の銀系抗菌剤、塗料、コーティング剤、又はこれらに配合される原料として用いる場合には、この混合液を本組成物として扱い充填工程S3を省略しても良い。
本組成物について前述したのと同様の理由により、本製法によれば、UVまたは塩化物イオンに晒されても変色したり抗菌性を損なったりしにくく、液状の銀系抗菌剤もしくはこれに配合されるか又は銀系抗菌剤の他に例えばコーティング剤などの他用途の工業製品もしくはこれに配合される原料として用いやすい、抗菌性を有する液状組成物を、容易に製造することができる。
<コーティング層の形成方法>
本発明に係るコーティング層の形成方法(以下「本コーティング法」という。)は、本組成物を用いて、抗菌性を有するコーティング層を形成させる方法である。本コーティング法を説明するにあたり、前述した本組成物と共通する事項の説明を概ね省略して、異なる事項を主に説明する。本コーティング法は、図2に示すように、コーティング準備工程S6、付着工程S7、乾燥工程S8、及び硬化工程S9を含む。
コーティング準備工程S6では、溶媒、銀塩、カチオン性重合体、及びUV硬化性を有する樹脂組成物が混合されて成る場合の本組成物と、溶媒に不溶な担体を準備する。この場合の本組成物は、本発明の目的に反しない限り必要に応じて、さらに、pH調整剤、界面活性剤、キレート剤、及び増粘剤からなる群より選ばれた1種以上が混合されて成るものでも良い。
付着工程S7では、準備した本組成物を、準備した担体に付着させる。このためには、例えば、本組成物を担体の表面に塗布しても良いし、スプレーを用いて本組成物を担体の表面に噴霧しても良いし、担体を本組成物に浸漬させてから引き揚げても良い。
乾燥工程S8では、担体に付着させた本組成物を乾燥させることにより、この本組成物での樹脂組成物や本銀錯体の含有量を相対的に高める。乾燥中に本組成物が凍結することでコーティング層にムラが生じやすくなるのを避ける観点から、担体に付着させた本組成物を0℃よりも高温の雰囲気下に置いて、溶媒を徐々に気化させて乾燥させるのが好ましい。同様の観点に加えて、なるべく短時間で乾燥させる観点、及び本銀錯体が担体上に結合する反応を促す観点から、例えば乾燥機を用いる等して本組成物が付着した担体を、さらに好ましくは35℃よりも高温の雰囲気下、さらにより好ましくは60℃以上の雰囲気下に置いて乾燥させる。また、乾燥中に本組成物が自然発火するのを避ける観点から、150℃以下の雰囲気下で乾燥させるのが好ましい。同様の観点に加えて望ましくない熱変性を避ける観点から、例えば乾燥機を用いる等して本組成物が付着した担体を、さらに好ましくは120℃以下の雰囲気下、さらにより好ましくは100℃以下の雰囲気下に置いて乾燥させる。まだ十分に乾燥していない本組成物が意図せず硬化するのを避ける観点から、なるべく日光やUVに晒されない場所で乾燥させるのが好ましい。
硬化工程S9では、担体の表面に付着した本組成物にUVを照射して硬化させることにより、担体の表面に抗菌性を有するコーティング層を形成させる。このためには、担体に付着した本組成物を日光で照らしても良いが、短時間で十分に硬化させる観点から、UV照射装置によりUVを照射して硬化させるのが好ましい。
本コーティング法で、溶媒の含有量が比較的に少ない場合の本組成物を用いるのであれば、例えば、60℃より高温かつ120℃以下の雰囲気下で、担体に付着した本組成物に日光またはUVを照射することにより、乾燥工程S8と硬化工程S9を一時にまとめて行っても良い。一方、形成されるコーティング層で更にムラを生じにくくさせる観点から、本コーティング法では、コーティング準備工程S6で溶媒の含有量が50質量%以上である場合の本組成物を準備し、担体に付着させたこの本組成物を十分に乾燥させてからUVを照射して硬化させるのが好ましい。
以上に説明した本コーティング法によれば、少なくとも、溶媒、銀塩、カチオン性重合体、及びUV硬化性を有する樹脂組成物が混合された液状組成物を、溶媒に不溶な担体に付着させてUVを照射することにより、この担体で銀化合物の分布にムラが生じにくく抗菌性を有するコーティング層を容易に形成させることができる。本コーティング法により形成されたコーティング層は、溶媒に不溶な担体上で、本銀錯体と硬化された樹脂組成物を含んで成る。
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。同一の作用または効果が生じる範囲内で、いずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
<実施例1>
ビーカーに蒸留水94.0gを注ぎ、これに酢酸銀(和光純薬工業株式会社製)1.0g、及びエポミンP−1000(純正化学工業株式会社製、エポミンは株式会社日本触媒の登録商標)5.0gを混合してスターラーで撹拌し、PEI銀錯体を含有する黄色透明の溶液を得た。この溶液を、実施例1に係る液状組成物とした。なお、エポミンP−1000は、次の表1に示すように、PEIを約30質量%含有する溶液である。
表1に記載された各種の溶媒での20℃での比誘電率について、水は80、酢酸エチルは6.0、テトラヒドラフランは7.5、トルエンは2.4、n−ヘキサン(ノルマルヘキサン)は2.0といわれている。20℃での低級アルコールの比誘電率は、化合物ごとに異なり、例えば1−ブタノールは18、エタノールは24、メタノールは33といわれている。また、エポミンに含有されるPEIは、次の式(I)に例示するように、エチレンイミン同士が重合して成り、その分子内に第一級アミン構造、第二級アミン構造、及び第三級アミン構造を含む分岐構造を有する合成ホモポリマーである。
<実施例2から実施例5>
蒸留水50.0mLにシュウ酸二水和物6.3gを溶解させて、50mmolのシュウ酸溶液を調製した。また、蒸留水50.0mLに硝酸銀17.0gを溶解させて、100mmolの硝酸銀溶液を調製した。この硝酸銀溶液を撹拌しながら、調製したシュウ酸溶液の全量を混合して、さらに1時間かけて撹拌し続けた。その後、遠心分離機により4℃の雰囲気下で5,000rpmの条件で10分間にわたり遠心分離にかけて、形成された沈殿物を採取して蒸発乾固させて、白色の粉末状であるシュウ酸銀20.0gを得た。このシュウ酸銀のうちの1.0g、及びPEI溶液(表1で前述したエポミンSP−003、エポミンSP−006、エポミンSP−018、又はエポミンSP−200)3.0gをビーカーに採り、これにエタノール96.0gを注いで混合することにより、各々PEI銀錯体を含有する実施例2から実施例5に係る液状組成物を調製した。
<実施例6>
酢酸銀1.0g、及び3.0gのエポミンSP−006をビーカーに採り、これにエタノール約60gを注いでスターラーで撹拌した。酢酸銀の全量が溶解したのを目視で確認した後、溶液の質量が合計100gとなるように更にエタノールを注いで混合して、得られた溶液を実施例6に係る液状組成物とした。
<比較例1から比較例4>
蒸留水99.0gに酢酸銀1.0gを溶解させて、比較例1に係る液状組成物を得た。また、蒸留水95.0gと、5.0gのエポミンP−1000を混合して、比較例2に係る液状組成物を得た。蒸留水95.7g、酸化銀(AgO)1.0g、L−ヒスチジン2.9g、及びクエン酸三ナトリウム0.40gを混合して、比較例3に係る液状組成物を調製した。この比較例3は、特許文献1に記載された液状組成物を本発明者が再現したものである。エタノール97.0gと、3.0gのエポミンSP−006を混合して、比較例4に係る液状組成物を調製した。これらの試作した液状組成物の配合をまとめると、次の表2に示すとおりである。
<液状組成物での塩化物イオン耐性の評価試験>
実施例1、及び比較例1から比較例3のいずれかに係る液状組成物から0.10mL採取して、生理食塩水(0.9質量%塩化ナトリウム水溶液)100mLに添加して撹拌し、得られた混合液を5分間放置してからその外観を目視で観察して、次の基準により液状組成物の塩化物イオン耐性を評価した。評価結果を後述する表3に示す。
〇:混合液の外観に変化は認められなかった(塩化物イオン耐性が認められた)。
△:わずかであるが、混合液に濁りが認められた。
×:混合液が白濁した(塩化物イオン耐性が認められなかった)。
<液状組成物での光安定性の評価試験>
実施例1、及び比較例1から比較例3のいずれかに係る液状組成物の一部を採取して、別個に蓋付きの透明なガラス製容器に入れて、室内で日光に当たりやすい場所に放置した。そのまま1月経過後、液状組成物の外観を目視で観察して、次の基準により光安定性を評価した。評価結果を後述する表3に示す。
〇:試験開始前と比べて、液の外観に変化が認められなかった(光安定性が認められた)。
△:わずかであるが、液に着色、沈殿物、又は析出物が認められた。
×:液に著しい着色、沈殿物、又は析出物が認められた(光安定性が認められなかった)。
<液状組成物での熱安定性の評価試験>
実施例1、及び比較例1から比較例3のいずれかに係る液状組成物の一部を採取して、別個に蓋付きの透明なガラス製容器に入れて、この容器ごと50℃に保たれた恒温槽内に放置した。そのまま2週間経過後、液状組成物の外観を目視で観察して、次の基準により熱安定性を評価した。評価結果を後述する表3に示す。
〇:試験開始前と比べて、液の外観に変化が認められなかった(熱安定性が認められた)。
△:わずかであるが、液に着色、沈殿物、又は析出物が認められた。
×:液に著しい着色、沈殿物、又は析出物が認められた(熱安定性が認められなかった)。
<液状組成物での相溶性の評価試験>
実施例1、及び比較例1から比較例3のいずれかに係る液状組成物1.0mLを採取して、エタノール99.0mLと混合して、得られた混合液を室内で放置した。そのまま1日経過後、この混合液の外観を目視で観察して、次の基準により相溶性を評価した。評価結果を後述する表3に示す。
〇:放置前と比べて、混合液の外観に変化が認められなかった(相溶性が認められた)。
△:わずかであるが、混合液に着色、沈殿物、又は析出物が認められた。
×:混合液に著しい着色、沈殿物、又は析出物が認められた。
<液状組成物での殺菌性の評価試験>
実施例1、及び比較例1から比較例3のいずれかに係る液状組成物を採取して、水道水に添加することにより、いずれかの液状組成物の含有量が1.0ppm(1.0×10−4質量%)から100ppm(0.010質量%)までの範囲内で段階的に異なる多数の混合液をそれぞれ調製した。これらの混合液の各々に、大腸菌(Escherichia coli、保存番号:IFO3301)を含有する菌液をその生菌数が約1.0×10CFU/mLとなるように添加して接種し、接種後の混合液を25℃に保たれた恒温室内で1時間にわたり120rpmで振とうした。1時間後、それぞれの混合液から0.10mLずつ採取して、別個にシャーレ内で平板状に固形化された普通寒天培地に滴下して接種した。接種された培地それぞれを、35℃に保たれた恒温槽内で48時間載置して、48時間経過後に培地の外観を目視で観察して、大腸菌のコロニーが形成されているか調べた。コロニーが認められなかった培地での液状組成物の含有量に基づいて、液状組成物での最小殺菌濃度(minimum bactericidal concentration、以下「MBC」という。)を評価した。評価結果を次の表3に示す。
表3に示すように、比較例1に係る液状組成物では、銀イオンの配位子として機能し得る有機化合物が配合されていないため、塩化物イオン耐性、光安定性、及び熱安定性が認められず、この液状組成物の含有量が100ppm以下では殺菌性が認められなかった。比較例2に係る液状組成物では、銀化合物が配合されていないため、この液状組成物の含有量が100ppm以下では殺菌性が認められなかった。比較例3に係る液状組成物では、His銀錯体が形成されているが、塩化物イオン耐性や相溶性が認められず、この液状組成物の含有量が100ppmでようやく殺菌性が認められた。一方、PEI銀錯体が形成された実施例1に係る液状組成物では、塩化物イオン耐性、光安定性、熱安定性、及び相溶性が認められ、この液状組成物の含有量6.2ppm(6.2×10−4質量%)で殺菌性が認められた。なお、実施例1に係る液状組成物はPEIを約1.5質量%配合されたことから計算すると、水道水では約9.3×10−6質量%以上のPEIに由来して形成されたPEI銀錯体により殺菌性が示されたと考えられる。同様に、実施例1に係る液状組成物は酢酸銀を1.0質量%配合されたことから計算すると、水道水では6.2×10−6質量%以上の酢酸銀から遊離した銀イオンに由来して形成されたPEI銀錯体により殺菌性が示されたと考えられる。
水道水は幾らか岩塩(NaCl)を含有するにも関わらず、実施例1に係る液状組成物を添加された水道水が比較的に強い殺菌性を示したため、塩化物イオンに晒されてもPEI銀錯体が安定性を保ったことが示唆された。表3に示す実施例1、比較例1及び比較例2での各々の結果を比較して考慮すると、実施例1に係る液状組成物では、PEI銀錯体を構成する銀イオンとPEIの相乗効果により強い殺菌性が示されたといえる。また、表3に示す結果を考慮すると、比較例1から比較例3のいずれかに係る液状組成物と比べて、実施例1に係る組成物では、大腸菌の最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration、MIC)も大幅に低い値であろうと推定されるため、比較的に強い抗菌性を有すると考えられる。
<コーティング剤の試作>
コーティング剤に配合する原料として、表2で前述した実施例2から実施例6、及び比較例3のいずれかに係る液状組成物をそれぞれ準備した。コーティング剤に配合する有機溶媒として、メチルエチルケトンを準備した。メチルエチルケトンの20℃での比誘電率は、18.5といわれている。UV硬化性を有する樹脂組成物として、製品名IRGACURE184(BASFジャパン株式会社製)と、製品名A−9550(新中村化学株式会社製)をそれぞれ準備した。IRGACURE184は、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトンを含有する光ラジカル重合開始剤である。A−9550は、液体状であり、次の化学式(II)に示すジペンタエリスリトールポリアクリレートを含有する多官能性アクリレートである。
メチルエチルケトン57.4g、40.0gのA−9950W、及び1.6gのIRGACURE184を混合して、1時間かけて撹拌して略均一な混合液を得た。この混合液に、実施例2から実施例6、及び比較例3のいずれかに係る液状組成物1.0gを添加して、更に10分間かけて撹拌することで、コーティング剤Aからコーティング剤E、及びコーティング剤Xをそれぞれ調製した。これらコーティング剤は、UV硬化性を有するからハードコート剤であるともいえる。これらコーティング剤の配合を、次の表4に示す。
<コーティング層での抗菌性の評価試験>
ポリエステル製フィルムとして、コスモシャインA4100(東洋紡株式会社製、コスモシャインは同社の登録商標)を準備した。自動塗工機として、No.542−ABオートマチックフィルムアプリケーター(株式会社安田製作所製)を準備した。この自動塗工機には、各種形状の冶具が付属している。準備したフィルムを自動塗工機の作業台上に載置して、このフィルムの側に、棒状であるNo.5の冶具を置いた。表4に示すコーティング剤のいずれか約0.3mLを、棒状の冶具に沿ってフィルム上面に線状に塗布してから、直ちにこのフィルム上を通過するように棒状の冶具を動かすことにより、コーティング剤をフィルム上面に塗布した。
塗布されたフィルムを自動塗工機から取り出し、約100℃に保たれた乾燥機内に1分間にわたり載置したことで、フィルムに塗布されたコーティング剤からメチルエチルケトンを気化させて除去した。さらに、紫外線照射装置(JU−C1500コンベア型、株式会社ジャテック製)により、このフィルムにUVを照射して、メチルエチルケトンを除去されたコーティング剤を硬化させて、フィルム上面にコーティング層を形成させた。このコーティング層は、耐摩耗性に優れているため、ハードコート層であるともいえる。このコーティング層が形成されたフィルムを切断して、サイズが5cm×5cmであるフィルム切片を得た。
シャーレ内に平板状に固形化された普通寒天培地に、大腸菌(保存番号:IFO3301)を接種して、35℃に保たれた恒温槽内でこの培地を24時間にわたり載置して培養した。24時間経過後、白金耳により培地から菌体を採取して、滅菌された生理食塩水に懸濁させて、吸光度計により波長660nmでのこの懸濁液の吸光度(OD660)を測定することで、この懸濁液での大よその菌数を算出した。算出された菌数に基づいて、菌数が約1.0×10CFU/mLとなるように懸濁液を生理食塩水で希釈した。希釈された懸濁液から0.5mLを採取して、別途、シャーレ内で平板状に固形化された普通寒天培地の上面に滴下した。
滴下後、直ちに、フィルム切片をそのコーティング層が下側になるように、滴下された普通寒天培地の上面に載置した。このため、普通寒天培地上で、大腸菌および塩化物イオンを含有する懸濁液が、コーティング層5cm×5cmの全体にわたり穏やかに押し広げられた。シャーレの蓋を閉じて、35℃に保たれた恒温槽内に、このシャーレをフィルム切片ごと約24時間にわたり載置した。約24時間経過後、このフィルム切片を、普通寒天培地の上面から剥がして取り出し、乾燥させてから、クリスタルバイオレットを0.1質量%含有する染色液に浸漬して染色させた。染色されたフィルム切片を染色液から引き揚げて、流水で洗浄することで余分な染色液を除去して、再び乾燥させた。再度の乾燥後の染色されたフィルム切片の外観を、図3に示す。
コーティング層が有する抗菌性が弱いほど、フィルム切片の全体で大腸菌が増殖して、その結果としてクリスタルバイオレットによりフィルム切片の全体が濃い青紫色に染色される。この抗菌性が強いほど、大腸菌の増殖が抑えられるため、フィルム切片が染色されにくくなる。図3に示すフィルム切片が染色された程度を目視で観察して、次の基準により、抗菌性の強さを10段階評価した。評価結果を、表5に示す。
・10点:フィルム切片がほとんど染色されていなかった。
・ 7点:フィルム切片に、わずかに染色されている部分があった。
・ 4点:フィルム切片に、濃く染色されている部分が幾らかあった。
・ 1点:フィルム切片のほとんど全体が濃く染色されていた。
図3に示すように、コーティング剤Xを用いて得られたフィルム切片は、その全体が濃い青紫色に染まっていた。表5に示すように、コーティング剤Xに含有されているのはHis銀錯体である。このため、His銀錯体をコーティング剤に配合しても、コーティング層に抗菌性を付与するのは難しいことが示唆された。その原因として、His銀錯体がメチルエチルケトンにほとんど溶解しなかったから、コーティング層でHis銀錯体がほとんど分散されなかったのであろうと推定される。また、UV照射時に、His銀錯体を構成する銀イオンがUVで還元されて金属銀となり析出して、His銀錯体や銀イオンの含有量が著しく少ないコーティング層が形成されて、抗菌性を発揮できなかったのであろうと推察される。あるいは、表3で前述したようにHis銀錯体が塩化物イオン耐性に劣るから、塩化物イオンを含有する懸濁液に触れている状態では抗菌作用を発揮できなかったものと考えられる。
これに対して、図3に示すように、コーティング剤Aからコーティング剤Dのいずれかを用いて得られたフィルム切片は、あまり染色されていなかった。コーティング剤Eを用いて得られたフィルム切片に至っては、ほとんど染色されていなかった。表5に示すように、コーティング剤Aからコーティング剤Eに含有されているのは、PEI銀錯体である。このため、PEI銀錯体をコーティング剤に配合すれば、コーティング層に十分な抗菌性を付与しやすいことが示唆された。PEI銀錯体がメチルエチルケトンに十分に溶解したことと、UV照射時にPEI銀錯体を構成する銀イオンがあまり還元されなかったことにより、PEI銀錯体や銀イオンの含有量が多くこれらが略均一に分散されたコーティング層が形成されたものと推察される。また、表3で前述したように、PEI銀錯体が塩化物イオン耐性に優れるから、塩化物イオンを含有する懸濁液に触れている状態でも抗菌作用が発揮されやすかったと考えられる。表5に示すコーティング剤Aからコーティング剤Eの比較により、PEI銀錯体を構成するPEIのMnが大きい方がコーティング層に付与される抗菌性が強くなりやすいことと、シュウ酸銀よりも酢酸銀を用いる場合の方がこの抗菌性が強いことが示唆された。
<液状組成物を付着させた担体での抗菌性の評価試験>
綿布を切断して、5cm×5cmのサイズの綿布切片を8つ準備した。表2で前述した実施例6又は比較例4に係る液状組成物に、この綿布切片4つずつを30分間にわたり浸漬させた。30分経過後、液状組成物から綿布切片をそれぞれ引き揚げて、エタノールで洗浄してから、60℃に保たれた恒温槽内に1時間にわたり載置したことで、綿繊維にPEI銀錯体を結合させた綿切片F、及び綿繊維にPEIを結合させた綿切片Yを、各々4つずつ調製した。
別途、大腸菌(保存番号:IFO3301)の生菌数が約1.0×10CFU/mLとなるように生理食塩水で希釈された懸濁液を準備して、シャーレ内で平板状に固形化された普通寒天培地2個に対して、この懸濁液を1.0mLずつ滴下して接種させた。この培地に滴下された懸濁液の液滴上に、4つの綿切片F、又は4つの綿切片Yを載置して、シャーレごと37℃に保たれた恒温槽内に48時間にわたり載置することで大腸菌を培養した。48時間経過後のシャーレの外観を、図4に示す。
図4に示すように、綿繊維にPEIを結合させた綿切片Yを載せた培地では、大腸菌の増殖が阻害された様子は観察されなかった。これに対して、綿繊維にPEI銀錯体を結合させた綿切片Fを載せた培地では、4つの綿切片Fの周囲にそれぞれ阻止円が形成されたため、大腸菌の増殖が阻害された様子が認められた。この結果からも、His銀錯体と比べて、PEI銀錯体は、塩化物イオンに晒されても安定しており強い抗菌性を発揮しやすいことが示唆された。

Claims (9)

  1. 銀錯体を含有して抗菌性を有する液状組成物であって、
    少なくとも、溶媒と、
    分子内にアミン構造を有さず前記溶媒に可溶な、有機酸銀塩、及び無機酸銀塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物である銀塩と、
    分子内にアミン構造を複数有し前記溶媒に可溶な、ポリカチオン、塩基性ペプチド、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物であるカチオン性重合体と、
    が混合されて成ることにより、前記カチオン性重合体を銀イオンの配位子として形成される前記銀錯体が、前記溶媒に可溶であることを特徴とする液状組成物。
  2. ハロゲン化銀を含んで成る沈殿物を実質的に含有せず、遊離アミノ酸またはその塩を銀イオンの配位子として形成されたアミノ酸銀錯体を実質的に含有しない請求項1に記載された液状組成物。
  3. 前記銀塩が、シュウ酸銀、酢酸銀、及び炭酸銀からなる群より選ばれた1種以上の化合物である請求項1又は請求項2に記載された液状組成物。
  4. 前記溶媒が、低級アルコール、低級ケトン、及び水からなる群より選ばれた1種以上の化合物である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された液状組成物。
  5. 20℃での前記溶媒の比誘電率が2.3以上かつ19.0以下であり、
    前記カチオン性重合体が、ポリエチレンイミン、及びその塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された液状組成物。
  6. 液状の銀系抗菌剤、又はこれに配合される原料として用いられる請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された液状組成物。
  7. さらに、紫外線(UV)硬化性を有する樹脂組成物が混合されて成り、
    コーティング剤、又はこれに配合される原料として用いられる請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された液状組成物。
  8. 銀錯体を含有して抗菌性を有する液状組成物の製造方法であって、
    溶媒、並びに、分子内にアミン構造を有さず前記溶媒に可溶な、有機酸銀塩、及び無機酸銀塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物である銀塩、並びに、分子内にアミン構造を複数有し前記溶媒に可溶な、ポリカチオン、塩基性ペプチド、及びこれらの塩からなる群より選ばれた1種以上の化合物であるカチオン性重合体を準備する工程と、
    前記溶媒の存在下で前記銀塩および前記カチオン性重合体を混合する工程と、
    を含むことにより、前記カチオン性重合体を銀イオンの配位子として形成される前記銀錯体が前記溶媒に可溶であることを特徴とする液状組成物の製造方法。
  9. 抗菌性を有するコーティング層の形成方法であって、
    請求項7に記載された液状組成物、及び前記溶媒に不溶な担体を準備する工程と、
    前記液状組成物を前記担体に付着させる工程と、
    前記担体に付着した前記液状組成物にUVを照射して硬化させる工程と、
    を含むことを特徴とするコーティング層の形成方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2020045454A (ja) * 2018-09-20 2020-03-26 株式会社ネオス 硬化性組成物、硬化塗膜ならびに硬化塗膜を備えた物品および抗菌方法
JP2020175178A (ja) * 2020-01-21 2020-10-29 株式会社大都技研 遊技台
KR20220022292A (ko) * 2020-08-18 2022-02-25 재단법인대구경북과학기술원 항균 및 항바이러스 성형체의 제조방법 및 이를 포함하는 성형체

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