本開示は、レーザ光によってステンレス鋼よりなる板金を加工するレーザ加工機及びレーザ加工方法に関する。
レーザ発振器より射出されたレーザ光によって板金を切断して、所定の形状を有する製品を製作するレーザ加工機が普及している。近年、レーザ加工機で使用するレーザ光を射出するレーザ発振器としては、大型及び高コストのCO2レーザ発振器と比較して、小型で低コストであるファイバレーザ発振器またはダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)が広く用いられている。
CO2レーザ発振器が射出するレーザ光の波長は10μm程度であるのに対し、ファイバレーザ発振器またはDDL発振器が射出するレーザ光の波長は1μm程度である。よって、ファイバレーザ発振器またはDDL発振器が射出するレーザ光はビームウエストが小さく、レーザ光の照射によって製品の周囲に形成される溝のカーフ幅は狭い。
JANUARY 2017 The FABRICATOR 67, Shaping the beam for the best cut
レーザ加工機が1μm帯のレーザ光を射出するレーザ発振器を用いて板厚3mm以上のステンレス鋼よりなる板金を切断する際に、板金に照射されるレーザ光(レーザビーム)の集束点を板金の上面に位置させたとする。この場合、板金に形成されるカーフ幅が非常に狭いので溶融した金属を排出することができず、加工不良となることがある。
そこで、従来においては、集束点を板金の上面よりも上方または下方に位置させるデフォーカスの状態とすることによってカーフ幅を広くして板金を切断する。すると、エネルギ密度が小さくなり、板金の切断速度が遅くなってしまう。切断速度を速くするためにレーザパワーを増大させることが考えられるが、レーザパワーを増大させることは省エネルギの点から好ましくない。
非特許文献1には、レーザビームを板金のカーフ幅内で切断進行方向と平行方向に振動させながら、板金を切断することが記載されている。以下、レーザビームを切断進行方向と平行方向に振動させる振動パターンを平行振動パターンと称することとする。
しかしながら、非特許文献1には、カーフ幅を広げる振動パターンを用いた特定の条件で切断速度が向上することが記載されるものの、平行振動パターンを用いた場合の系統的な考察は記載されていない。平行振動パターンを用いてステンレス鋼よりなる板金を切断面の品質が良好で高速に切断する好ましい条件を特定することが求められる。
1またはそれ以上の実施形態の第1の態様によれば、ステンレス鋼の板金を切断するためのレーザビームを射出する加工ヘッドと、前記板金の面に対する前記加工ヘッドの相対的な位置を移動させる移動機構と、前記移動機構によって前記加工ヘッドの相対的な位置を移動させて前記板金を切断するとき、前記板金の切断進行方向と平行方向にレーザビームを振動させるビーム振動機構と、前記板金の板厚ごと予め求められ、前記板金を切断可能な、前記移動機構によって前記加工ヘッドを相対的に移動させるときの移動速度と、前記ビーム振動機構によるレーザビームの振動周波数との関係を加工条件として記憶するデータベースと、前記加工ヘッドを前記加工条件に基づいて選択した移動速度で相対的に移動させるよう前記移動機構を制御し、かつ、前記レーザビームを前記加工条件に基づいて選択した振動周波数で振動させるよう前記ビーム振動機構を制御する制御装置とを備え、前記加工条件には、前記板金を切断可能な最大移動速度に対して、前記板金を切断可能な1つの特定の振動周波数が設定され、前記板金を切断可能な最小移動速度以上前記最大移動速度未満の移動速度に対して、前記板金を切断可能な最大周波数から最小周波数までの複数の振動周波数が設定され、前記制御装置は、前記加工ヘッドを前記最大移動速度で相対的に移動させるときには、レーザビームを前記特定の振動周波数で振動させるよう前記ビーム振動機構を制御し、前記加工ヘッドを前記最小移動速度以上前記最大移動速度未満のいずかの移動速度で相対的に移動させるときには、レーザビームを前記最大周波数から前記最小周波数までの複数の振動周波数のうちから選択した振動周波数で振動させるよう前記ビーム振動機構を制御することを特徴とするレーザ加工機が提供される。
1またはそれ以上の実施形態の第1の態様によれば、ステンレス鋼の板金を切断するためのレーザビームを加工ヘッドより射出して、前記板金に照射し、前記板金の面に対する前記加工ヘッドの相対的な位置を移動させることにより前記板金を切断し、前記板金を切断するときに前記板金の切断進行方向と平行方向にレーザビームを振動させ、前記板金の板厚ごと予め求められた、前記板金を切断可能な、前記加工ヘッドを相対的に移動させるときの移動速度と、レーザビームの振動周波数との関係を示す加工条件を参照し、前記加工ヘッドを、参照した前記加工条件に基づいて選択した移動速度で相対的に移動させ、かつ、前記レーザビームを、参照した前記加工条件に基づいて選択した振動周波数で振動させ、前記加工条件には、前記板金を切断可能な最大移動速度に対して、前記板金を切断可能な1つの特定の振動周波数が設定され、前記板金を切断可能な最小移動速度以上前記最大移動速度未満の移動速度に対して、前記板金を切断可能な最大周波数から最小周波数までの複数の振動周波数が設定され、前記加工ヘッドを前記最大移動速度で相対的に移動させるときには、レーザビームを前記特定の振動周波数で振動させ、前記加工ヘッドを前記最小移動速度以上前記最大移動速度未満のいずかの移動速度で相対的に移動させるときには、レーザビームを前記最大周波数から前記最小周波数までの複数の振動周波数のうちから選択した振動周波数で振動させることを特徴とするレーザ加工方法が提供される。
1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、1μm帯のレーザビームを平行振動パターンで振動させることによって、ステンレス鋼よりなる板金を切断面の品質が良好で高速に切断することができる。
図1は、各実施形態のレーザ加工機の全体的な構成例を示す図である。
図2は、各実施形態のレーザ加工機におけるコリメータユニット及び加工ヘッドの詳細な構成例を示す斜視図である。
図3は、ビーム振動機構によるレーザビームの板金への照射位置の変位を説明するための図である。
図4は、レーザビームの平行振動パターンを示す図である。
図5は、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振幅量の適切な範囲をどのように決定すべきかを説明するための図である。
図6Aは、レーザビームの振幅量が最小の状態を示す図である。
図6Bは、レーザビームの振幅量が最大の状態を示す図である。
図7は、レーザビームを平行振動パターンの最小振幅量で振動させて板金を切断するときの、加工ヘッドの移動速度と振動周波数とがとる好ましい範囲を示す図である。
図8は、レーザビームを平行振動パターンの最大振幅量で振動させて板金を切断するときの、加工ヘッドの移動速度と振動周波数とがとる好ましい範囲を示す図である。
図9は、実施例を表形式で示す図である。
図10は、平行振動パターンを用いることにより板金を高速に切断することができることを示す、板厚と加工速度との関係を示す図である。
以下、各実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法について、添付図面を参照して説明する。第1実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法は、板厚3mm以上のステンレス鋼よりなる板金を切断するために、レーザ光(レーザビーム)を平行振動パターンで振動させるときの適切な振幅量を設定する。第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法は、板厚3mm以上のステンレス鋼よりなる板金を切断するためにレーザビームを平行振動パターンで振動させるときの適切な振動周波数を設定する。
<第1実施形態>
図1において、レーザ加工機100は、レーザ光を生成して射出するレーザ発振器10と、レーザ加工ユニット20と、レーザ発振器10より射出されたレーザ光をレーザ加工ユニット20へと伝送するプロセスファイバ12とを備える。
また、レーザ加工機100は、操作部40と、NC装置50と、加工プログラムデータベース60と、加工条件データベース70と、アシストガス供給装置80とを備える。NC装置50は、レーザ加工機100の各部を制御する制御装置の一例である。
レーザ発振器10としては、レーザダイオードより発せられる励起光を増幅して所定の波長のレーザ光を射出するレーザ発振器、またはレーザダイオードより発せられるレーザ光を直接利用するレーザ発振器が好適である。レーザ発振器10は、例えば、固体レーザ発振器、ファイバレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、ダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)である。
レーザ発振器10は、波長900nm〜1100nmの1μm帯のレーザ光を射出する。ファイバレーザ発振器及びDDL発振器を例とすると、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm〜1080nmのレーザ光を射出し、DDL発振器は、波長910nm〜950nmのレーザ光を射出する。
レーザ加工ユニット20は、加工対象の板金Wを載せる加工テーブル21と、門型のX軸キャリッジ22と、Y軸キャリッジ23と、Y軸キャリッジ23に固定されたコリメータユニット30と、加工ヘッド35とを有する。板金Wはステンレス鋼よりなる。第1実施形態においては、板金Wの板厚は3mmから25mmのうちのいずれかであるとする。
X軸キャリッジ22は、加工テーブル21上でX軸方向に移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ23は、X軸キャリッジ22上でX軸に垂直なY軸方向に移動自在に構成されている。X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23は、加工ヘッド35を板金Wの面に沿って、X軸方向、Y軸方向、または、X軸とY軸との任意の合成方向に移動させる移動機構として機能する。
加工ヘッド35を板金Wの面に沿って移動させる代わりに、加工ヘッド35は位置が固定されていて、板金Wが移動するように構成されていてもよい。レーザ加工機100は、板金Wの面に対する加工ヘッド35の相対的な位置を移動させる移動機構を備えていればよい。
加工ヘッド35には、先端部に円形の開口36aを有し、開口36aよりレーザ光を射出するノズル36が取り付けられている。ノズル36の開口36aより射出されたレーザ光は板金Wに照射される。アシストガス供給装置80は、アシストガスとして例えば窒素を加工ヘッド35に供給する。板金Wの加工時に、アシストガスは開口36aより板金Wへと吹き付けられる。アシストガスは、板金Wが溶融したカーフ幅内の溶融金属を排出する。
図2に示すように、コリメータユニット30は、プロセスファイバ12より射出された発散光のレーザ光を平行光(コリメート光)に変換するコリメーションレンズ31を備える。また、コリメータユニット30は、ガルバノスキャナユニット32と、ガルバノスキャナユニット32より射出されたレーザ光をX軸及びY軸に垂直なZ軸方向下方に向けて反射させるベンドミラー33を備える。加工ヘッド35は、ベンドミラー33で反射したレーザ光を集束して、板金Wに照射する集束レンズ34を備える。
レーザ加工機100は、ノズル36の開口36aより射出されるレーザビームが開口36aの中心に位置するように芯出しされている。基準の状態では、レーザビームは、開口36aの中心より射出する。ガルバノスキャナユニット32は、加工ヘッド35内を進行して開口36aより射出されるレーザビームを、開口36a内で振動させるビーム振動機構として機能する。ガルバノスキャナユニット32がレーザビームをどのように振動させるかについては後述する。
ガルバノスキャナユニット32は、コリメーションレンズ31より射出されたレーザ光を反射するスキャンミラー321と、スキャンミラー321を所定の角度となるように回転させる駆動部322とを有する。また、ガルバノスキャナユニット32は、スキャンミラー321より射出されたレーザ光を反射するスキャンミラー323と、スキャンミラー323を所定の角度となるように回転させる駆動部324とを有する。
駆動部322及び324は、NC装置50による制御に基づき、それぞれ、スキャンミラー321及び323を所定の角度範囲で往復振動させることができる。スキャンミラー321とスキャンミラー323とのいずれか一方または双方を往復振動させることによって、ガルバノスキャナユニット32は、板金Wに照射されるレーザビームを振動させる。
ガルバノスキャナユニット32はビーム振動機構の一例であり、ビーム振動機構は一対のスキャンミラーを有するガルバノスキャナユニット32に限定されない。
図3は、スキャンミラー321とスキャンミラー323とのいずれか一方または双方が傾けられて、板金Wに照射されるレーザビームの位置が変位した状態を示している。図3において、ベンドミラー33で折り曲げられて集束レンズ34を通過する細実線は、レーザ加工機100が基準の状態であるときのレーザビームの光軸を示している。
なお、詳細には、ベンドミラー33の手前に位置しているガルバノスキャナユニット32の作動により、ベンドミラー33に入射するレーザ光の光軸の角度が変化し、光軸がベンドミラー33の中心から外れる。図3では、簡略化のため、ガルバノスキャナユニット32の作動前後でベンドミラー33へのレーザ光の入射位置を同じ位置としている。
ガルバノスキャナユニット32による作用によって、レーザビームの光軸が細実線で示す位置から太実線で示す位置へと変位したとする。ベンドミラー33で反射するレーザビームが角度θで傾斜したとすると、板金Wへのレーザビームの照射位置は距離Δsだけ変位する。集束レンズ34の焦点距離をEFL(Effective Focal Length)とすると、距離Δsは、EFL×sinθで計算される。
ガルバノスキャナユニット32がレーザビームを図3に示す方向とは逆方向に角度θだけ傾ければ、板金Wへのレーザビームの照射位置を図3に示す方向とは逆方向に距離Δsだけ変位させることができる。距離Δsは開口36aの半径未満の距離であり、好ましくは、開口36aの半径から所定の余裕量だけ引いた距離を最大距離とした最大距離以下の距離である。
NC装置50は、ガルバノスキャナユニット32の駆動部322及び324を制御することによって、レーザビームを板金Wの面内の所定の方向に振動させることができる。レーザビームを振動させることによって、板金Wの面上に形成されるビームスポットを振動させることができる。
以上のように構成されるレーザ加工機100において、NC装置50は、加工プログラムデータベース60より加工プログラムを読み出し、加工条件データベース70に記憶されている複数の加工条件のいずれかを選択する。NC装置50は、読み出した加工プログラム及び選択した加工条件に基づいて板金Wを加工するよう、レーザ加工機100を制御する。レーザ加工機100は、レーザ発振器10より射出されたレーザ光によって板金Wを切断して所定の形状を有する製品を製作する。
ガルバノスキャナユニット32は、図4に示すようにレーザビームを振動させる。板金Wの切断進行方向をX方向、板金Wの面内でX方向と直交する方向をY方向とする。図4は、振動パターンを理解しやすいよう、加工ヘッド35をX方向に移動させない状態での振動パターンを示している。
図4に示すように、ガルバノスキャナユニット32は、NC装置50による制御に基づいて、ビームスポットBsをビームスポットBsの進行によって形成された溝Wk内でX方向に振動させる。この振動パターンを平行振動パターンと称する。実際には、加工ヘッド35が切断進行方向に移動しながらレーザビームが平行振動パターンで振動させられる。
ビームスポットBsを切断進行方向と平行方向に振動させる周波数をFx、切断進行方向と直交する方向に振動させる周波数をFyとすれば、平行振動パターンはFx:Fyが1:0の振動パターンである。溝Wkのカーフ幅K1は、ビームスポットBsを平行振動パターンで振動させないときのカーフ幅と同じである。
次に、図5を用いて、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振幅量をどのような範囲とすべきかについて検討する。図5において、レーザ加工機100は、加工ヘッド35を白抜き矢印で示す切断進行方向に移動させながら、かつ、板金Wに照射するレーザビームを平行振動パターンで振動させながら、板金Wを切断する。
LB1及びLB2は、それぞれ、切断進行方向に対して最も後ろ側及び最も前側に変位した位置のレーザビームを示している。レーザビームは、切断進行方向に振幅量Qxで振動する。振幅量Qxは、板金W上でのレーザビームLB1及びLB2の焦点位置の間隔である。第1実施形態及び後述する第2実施形態においては、従来のようにレーザビームをデフォーカスの状態とする必要はなく、集束点を板金の上面またはその近傍に位置させるジャストフォーカスの状態とすればよい。
但し、デフォーカスの状態を利用することを排除するものではない。板金Wの板厚が8mmよりも厚い場合に、溶融した金属を良好に排出させるために、カーフ内にフォーカスさせるいわゆるインフォーカスという状態のデフォーカスを利用してもよい。
従来のレーザ加工機が1μm帯のレーザビームを平行振動パターンで振動させずに板金Wを切断するとき、加工不良となりやすいのは、幅の狭いカーフ内の溶融した金属が短時間のうちに冷却されて粘度が増大して、排出されにくくなるからである。
板金Wを切断するには、板金Wに次の2つ要件を満足するのに必要充分で断続的なエネルギが供給されることが必要である。第1の要件として、振動するレーザビームの一度の照射時間内で金属が溶融し、溶融した金属が排出されるまでの時間内に振動するレーザビームが溶融した金属に複数回照射されて溶融状態(特に粘度)が維持される。第2の要件として、切断面(カーフの内面)が過剰に溶融しない。
第1実施形態においては、レーザビームを平行振動パターンで振動させることによって、上記の2つの要件を満足し、溶融した金属の粘度が低い状態が従来よりも長い時間維持される。従って、カーフ幅K1が従来と同じであってもカーフ内の溶融した金属が排出されやすくなるので、切断面の品質が良好となる。
レーザビームの進行方向それぞれの位置における断面積のうち、実際に金属の溶融に寄与するのは、断面積における全光エネルギのうちの中心側のほぼ86%の光エネルギを占める面積を有する円形領域である。板金Wの上面では、上面でのレーザビームの断面積(即ち、ビームスポットBsの面積)のうちの中心側の86%の光エネルギを占める面積を有する円形領域top86が板金Wを溶融させる。板金Wの下面では、下面でのレーザビームの断面積のうちの中心側の86%の光エネルギを占める面積を有する円形領域bottom86が板金Wを溶融させる。
図5に示すように、カッティングフロントCFの板金Wの面に沿った方向の距離をΔLとする。カッティングフロントCFの角度θはおおよそ85°であるので、角度θは85°とみなせばよい。距離ΔLは、板金Wの板厚tをtanθで除算することによって求められる。
図6Aは、振幅量Qxが最小の状態を示している。図5は、図6Aの状態に相当する。このとき、距離ΔLは、振幅量Qxと、円形領域bottom86の半径rbottomと、円形領域top86の半径rtopとを用いて式(1)で表すことができる。図6A及び図6Bにおける36ctrは、ノズル36の中心を示している。
ΔL=Qx+rbottom+rtop …(1)
図6Bは、振幅量Qxが最大の状態を示している。円形領域bottom86の中心からカッティングフロントCFの下端部までの距離は半径rtopに等しい。よって、図6Bにおける距離ΔLは振幅量Qxと等しくなる。
よって、振幅量Qxが取るべき範囲は式(2)で表すことができる。
ΔL−bottom−rtop≦Qx≦ΔL …(2)
NC装置50が、ガルバノスキャナユニット32によって、式(2)を満たすようにレーザビームを振動させれば、カッティングフロントCFの全体にレーザビームを照射させることができ、板金Wを良好に切断することができる。板厚tが厚くなるほど距離ΔLが長くなるから、板厚tが厚くなるほど振幅量Qxを大きくする必要がある。
ところで、カッティングフロントCFの角度θは、金属のエネルギ吸収率が最も高い角度であるブリュースター角度であってもよいし、ブリュースター角度でなくてもよい。振動するレーザビームの一度の照射時間内で金属が溶融する要件として、ブリュースター角度は必須ではない。エネルギ密度と金属の溶融に要する時間との関係が、一度の照射時間内に成り立てばよい。また、溶融した金属の粘度とカッティングフロントCFの角度θとの関係から、溶融した金属が流れ落ちればよい。
以上説明したように、第1実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振幅量を適切な範囲で選択して、板厚3mm以上のステンレス鋼よりなる板金を切断することができる。
<第2実施形態>
第2実施形態のレーザ加工機の構成は、図1に示すレーザ加工機100と同じである。第2実施形態においては、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振動周波数をどのような範囲とすべきかについて検討する。
本発明者の検証により、板金Wを切断するときの加工ヘッド35の移動速度(板金Wの加工速度)に応じて、板金Wを切断することができる振動周波数の範囲が存在することが明らかとなった。また、板金Wを切断することができる振動周波数の範囲は、板厚tに応じて異なることが明らかとなった。
図7は、式(2)に基づく最小の振幅量Qx、即ち、Qx=ΔL−rbottom−rtopとしてレーザビームを振動させて板金Wを切断するときの、移動速度と振動周波数とがとる好ましい範囲を示している。図7及び後述する図8は、レーザ発振器10をファイバレーザ発振器とし、レーザパワーを2kWとして、板金Wとして4mm、6mm、8mmのステンレス鋼を切断したときの実験結果を示している。
板厚tが4mmであるとき、最大移動速度は111.7mm/sであり、最大移動速度111.7mm/sのときに選択可能な振動周波数f40は2200Hzのみである。
移動速度が103.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f41max及び最小周波数f41minはそれぞれ3560Hz及び1100Hzである。移動速度が103.3mm/sであるとき、1100Hz〜3560Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が90.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f42max及び最小周波数f42minはそれぞれ3560Hz及び700Hzである。移動速度が90.0mm/sであるとき、700Hz〜3560Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が76.7mm/sであるときに選択可能な最大周波数f43max及び最小周波数f43minはそれぞれ3560Hz及び50Hzである。移動速度が63.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f44max及び最小周波数f44minはそれぞれ3560Hz及び50Hzである。移動速度が50.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f45max及び最小周波数f45minはそれぞれ3560Hz及び50Hzである。移動速度が76.7mm/s〜50.0mm/sであるとき、50Hz〜3560Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
板厚tが6mmであるとき、最大移動速度は54.2mm/sであり、最大移動速度54.2mm/sのときに選択可能な振動周波数f60は1200Hzのみである。
移動速度が53.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f61max及び最小周波数f61minはそれぞれ1400Hz及び1000Hzである。移動速度が53.3mm/sであるとき、1000Hz〜1400Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が50.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f62max及び最小周波数f62minはそれぞれ2490Hz及び500Hzである。移動速度が50.0mm/sであるとき、500Hz〜2490Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が43.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f63max及び最小周波数f63minはそれぞれ3360Hz及び400Hzである。移動速度が43.3mm/sであるとき、400Hz〜3360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が36.7mm/sであるときに選択可能な最大周波数f64max及び最小周波数f64minはそれぞれ3360Hz及び300Hzである。移動速度が36.7mm/sであるとき、300Hz〜3360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が30.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f65max及び最小周波数f65minはそれぞれ3360Hz及び100Hzである。移動速度が23.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f66max及び最小周波数f66minはそれぞれ3360Hz及び100Hzである。移動速度が30.0mm/s〜23.3mm/sであるとき、100Hz〜3360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
板厚tが8mmであるとき、最大移動速度は33.3mm/sであり、最大移動速度33.3mm/sのときに選択可能な振動周波数f80は700Hzのみである。
移動速度が30.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f81max及び最小周波数f81minはそれぞれ1000Hz及び400Hzである。移動速度が30.0mm/sであるとき、400Hz〜1000Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が25.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f82max及び最小周波数f82minはそれぞれ3020Hz及び200Hzである。移動速度が25.0mm/sであるとき、200Hz〜3020Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が20.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f83max及び最小周波数f83minはそれぞれ3020Hz及び100Hzである。移動速度が15.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f84max及び最小周波数f84minはそれぞれ3020Hz及び100Hzである。移動速度が10.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f85max及び最小周波数f85minはそれぞれ3020Hz及び100Hzである。移動速度が20.0mm/s〜10.0mm/sであるとき、100Hz〜3020Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
図7において、最大周波数f41max〜f45max、f63max〜f66max、f82max〜f85maxがそれぞれ一定値であるのは、ガルバノスキャナユニット32によってスキャンミラー321及び323を物理的に振動させる周波数には限界があるからである。上記のように板厚tが厚くなるほど振幅量Qxを大きくしなければならないので、板厚tが厚くなるほど物理的な限界としての最大周波数が低くなる。
ガルバノスキャナユニット32の技術改良によってスキャンミラー321及び323を振動させる物理的な周波数の上限が高くなった場合には、スキャンミラー321及び323の物理的な最大周波数以内であって、板金Wを切断可能な最大周波数を求めればよい。
図7に示すように、板厚tが4mm、6mm、8mmにおける最大移動速度のときの振動周波数f40、f60、f80は、横軸の移動速度をx、縦軸の振動周波数をyとすると、式(3)に示す近似式上に位置する。
y=−0.0335x2+23.566x−10.277 …(3)
NC装置50は、式(3)に基づき、板厚tが4mm、6mm、8mm以外の板厚であるとき、最大移動速度のときに選択可能な振動周波数を計算によって求めることが可能である。
図8は、式(2)に基づく最大の振幅量Qx、即ち、Qx=ΔLとしてレーザビームを振動させて板金Wを切断するときの、移動速度と振動周波数とがとる好ましい範囲を示している。
板厚tが4mmであるとき、最大移動速度は113.3mm/sであり、最大移動速度113.3mm/sのときに選択可能な振動周波数f40は2900Hzのみである。
移動速度が103.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f41max及び最小周波数f41minはそれぞれ3120Hz及び2300Hzである。移動速度が103.3mm/sであるとき、2300Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が90.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f42max及び最小周波数f42minはそれぞれ3120Hz及び1600Hzである。移動速度が90.0mm/sであるとき、1600Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が76.7mm/sであるときに選択可能な最大周波数f43max及び最小周波数f43minはそれぞれ3120Hz及び1400Hzである。移動速度が76.7mm/sであるとき、1400Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が63.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f44max及び最小周波数f44minはそれぞれ3120Hz及び800Hzである。移動速度が63.3mm/sであるとき、800Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である
移動速度が50.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f45max及び最小周波数f45minはそれぞれ3120Hz及び50Hzである。移動速度が50.0mm/sであるとき、50Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
板厚tが6mmであるとき、最大移動速度は54.2mm/sであり、最大移動速度54.2mm/sのときに選択可能な振動周波数f60は1050Hzのみである。
移動速度が53.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f61max及び最小周波数f61minはそれぞれ1300Hz及び900Hzである。移動速度が53.3mm/sであるとき、900Hz〜1300Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が50.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f62max及び最小周波数f62minはそれぞれ1600Hz及び400Hzである。移動速度が50.0mm/sであるとき、400Hz〜1600Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が43.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f63max及び最小周波数f63minはそれぞれ2670Hz及び300Hzである。移動速度が43.3mm/sであるとき、300Hz〜2670Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が36.7mm/sであるときに選択可能な最大周波数f64max及び最小周波数f64minはそれぞれ2670Hz及び200Hzである。移動速度が30.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f65max及び最小周波数f65minはそれぞれ2670Hz及び200Hzである。移動速度が23.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f66max及び最小周波数f66minはそれぞれ2670Hz及び200Hzである。移動速度が36.7mm/s〜23.3mm/sであるとき、200Hz〜2670Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
板厚tが8mmであるとき、最大移動速度は31.7mm/sであり、最大移動速度31.7mm/sのときに選択可能な振動周波数f80は700Hzのみである。
移動速度が30.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f81max及び最小周波数f81minはそれぞれ900Hz及び300Hzである。移動速度が30.0mm/sであるとき、300Hz〜900Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が25.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f82max及び最小周波数f82minはそれぞれ2360Hz及び150Hzである。移動速度が25.0mm/sであるとき、150Hz〜2360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が20.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f83max及び最小周波数f83minはそれぞれ2360Hz及び100Hzである。移動速度が15.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f84max及び最小周波数f84minはそれぞれ2360Hz及び100Hzである。移動速度が10.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f85max及び最小周波数f85minはそれぞれ2360Hz及び100Hzである。移動速度が20.0mm/s〜10.0mm/sであるとき、100Hz〜2360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
図8において、最大周波数f41max〜f45max、f63max〜f66max、f82max〜f85maxがそれぞれ一定値であるのは、図7と同じ理由である。同様に、ガルバノスキャナユニット32の技術改良によってスキャンミラー321及び323を振動させる物理的な周波数の上限が高くなった場合には、スキャンミラー321及び323の物理的な最大周波数以内であって、板金Wを切断可能な最大周波数を求めればよい。
図8に示すように、板厚tが4mm、6mm、8mmにおける最大移動速度のときの振動周波数f40、f60、f80は、横軸の移動速度をx、縦軸の振動周波数をyとすると、式(4)に示す近似式上に位置する。
y=0.0848x2+15.654x+27.482 …(4)
NC装置50は、式(4)に基づき、板厚tが4mm、6mm、8mm以外の板厚であるとき、最大移動速度のときに選択可能な振動周波数を計算によって求めることが可能である。
図7及び図8より分かるように、加工ヘッド35の移動速度と振動周波数とで決まる板金Wを切断する際の好ましい範囲は、ガルバノスキャナユニット32がレーザビームを切断進行方向に振動させるときの振幅量Qxによって決まる。最小から最大までの複数の振幅量Qxごとに、板金Wを切断することができる移動速度と振動周波数とで決まる範囲を予め実験しておき、加工条件データベース70に加工条件として記憶させておけばよい。
振幅量Qxを式(2)を満たす1つの振幅量Qxに固定すれば、その固定した振幅量Qxのみで板金Wを切断することができる移動速度と振動周波数とで決まる範囲を求めればよい。
ところで、図7と図8との板厚tが8mmのときの振動周波数f80における加工ヘッド35の移動速度を比較すると、移動速度は振幅量Qxが最大のときよりも最小のときの方が速い。これは次の理由による。図6Bに示す円形領域bottom86のうち、カッティングフロントCFよりも切断進行方向の後方側の部分は、板金Wに対して無駄な加熱を与える。よって、加熱が必要な箇所への加熱時間が短くなるので、振幅量Qxが最大のときの方が移動速度の最高速が低くなる。
また、図7と図8との板厚tが4mmのときの最小周波数f41min〜f45minを比較すると、振動周波数は振幅量Qxが最小のときよりも振幅量Qxが最大のときの方が高い。これは次の理由による。円形領域bottom86のうちのカッティングフロントCFよりも切断進行方向の後方側の部分による加熱は、ドロスを増加させるように作用する。そこで、振動周波数を高くして一回の加熱時間を短くすることによって、ドロスの増加を抑えることができる。
NC装置50は、加工条件データベース70に記憶された加工条件を参照し、参照した加工条件に基づいて選択した移動速度で加工ヘッド35を相対的に移動させるよう移動機構を制御する。これに併せて、NC装置50は、参照した加工条件に基づいて選択した振動周波数でレーザビームを振動させるようガルバノスキャナユニット32を制御する。
第1の例として、オペレータは、操作部40を操作して加工ヘッド35の移動速度を設定することができる。オペレータが板金Wを切断可能な最大移動速度を設定したときには、NC装置50は、ガルバノスキャナユニット32によって、板金Wを切断可能な1つの特定の振動周波数でレーザビームを振動させればよい。
また、オペレータが板金Wを切断可能な最小移動速度以上、最大移動速度未満の移動速度に設定したときには、NC装置50は、ガルバノスキャナユニット32によって、それぞれの移動速度に応じて決まる、板金Wを切断可能な最大周波数と最小周波数との間のいずれかの周波数でレーザビームを振動させればよい。NC装置50は、板金Wを切断可能な最大周波数でレーザビームを振動させるのがよい。
オペレータが板金Wを切断不可である最大移動速度より大きい移動速度または最小移動速度より小さい移動速度を設定したときには、NC装置50は、図示していないディスプレイに加工不可である旨を表示して、板金Wの切断を開始しないようにレーザ加工機100を制御すればよい。
第2の例として、オペレータは、操作部40を操作して、加工ヘッド35の移動速度と振動周波数との組を設定してもよい。NC装置50は、移動速度と振動周波数との組によって板金Wを切断可能であると判断すれば、板金Wを切断するようレーザ加工機100を制御する。NC装置50は、移動速度と振動周波数との組によって板金Wを切断不可であると判断すれば、図示していないディスプレイに加工不可である旨を表示して、板金Wの切断を開始しないようにレーザ加工機100を制御する。
以上のように、第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振動周波数を適切な範囲で選択して、各種の板厚のステンレス鋼よりなる板金を切断することができる。
以上説明した第1実施形態で説明したレーザビームの振幅量と、第2実施形態で説明したレーザビームの振動周波数との双方を満足しなくてもよく、いずれか一方のみを満足するだけでも十分効果的である。勿論、第1実施形態で説明したレーザビームの振幅量と第2実施形態で説明したレーザビームの振動周波数との双方を満足することが好ましい。
後述するように、第1及び第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によって板金Wを切断すると、レーザビームを振動させない通常の加工方法によって板金Wを切断するときと比較して、加工速度を向上させることができることが明らかとなった。第1及び第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法においては、レーザビームをジャストフォーカスの状態で板金Wに照射することができるので、加工速度を向上させることができる。
通常の加工方法によれば、板厚4mm、6mm、8mmのときの最大加工速度(最大移動速度)は、それぞれ、50.0mm/s、23.3mm/s、10mm/sである。第1及び第2実施形態による加工方法によれば、板厚4mm、6mm、8mmのときの最大加工速度は、図7に示す最小の振幅量Qxのときを例とすれば、それぞれ、111.7mm/s、54.2mm/s、33.3mm/sである。
ここでは、板金Wの板厚が4mm、6mm、8mmのいわゆる中板を例としたが、板厚が3mmであっても、板厚8mmより厚い中板または板厚10mm以上の厚板であっても同様に切断可能である。いずれの板厚であっても、板金Wを切断することができる移動速度と振動周波数とで決まる範囲を予め実験しておき、加工条件データベース70に加工条件として記憶させておけばよい。
第1及び第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、板金Wの板厚が3mm以上であっても、後述する実施例より分かるように、切断面の品質が良好に板金Wを切断することができる。さらに、第1及び第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、加工速度を従来のレーザ加工機及びレーザ加工方法による切断よりも高速とすることができる。
図9は、番号1〜12で示す具体的な実施例を示している。図9は、レーザ発振器10のレーザ出力を4kWまたは2kWとして各板厚を有する板金Wを図示の条件で切断したときの、ドロス高さと、表面粗さの一例としての算術平均粗さRaを示している。算術平均粗さRaにおいて上部とは、板金Wの表面から1mmの位置における切断面の算術平均粗さRaを示しており、下部とは、板金Wの表面から板厚の1/3の位置、2/3の位置、または、下面から1mmの位置における算術平均粗さRaのうち、最も大きい値を切断面の算術平均粗さRaとして示している。
なお、上記の算術平均粗さRaの評価方法は、国際規格ISO9013で規定されている測定方法を基本とし、この基本の測定方法に板厚の2/3の位置と下面から1mmの位置との測定を追加して評価したものである。
切断面の品質の良否判断は板厚により変化する。例えば、板厚3mmのとき、ドロス高さが0.1mm以下、算術平均粗さRaが4.9μm以下であれば、切断面の品質は良好であると判断できる。板厚12mmのとき、ドロス高さが0.5mm以下、算術平均粗さRaが19.6μm以下であれば、切断面の品質は良好であると判断できる。図9に示すように、番号1〜12の全ての実施例において、切断面の品質が良好である。
図10に示すように、レーザ発振器10のレーザ出力を4kWとした場合、2kWとした場合のいずれも、平行振動パターンを用いることによりステンレス鋼よりなる板金Wを高速に切断できることが分かる。
第1実施形態で説明したレーザビームの振幅量と第2実施形態で説明したレーザビームの振動周波数との少なくとも一方、好ましくは双方を満足することにより、板金Wを切断面の品質が良好で、しかも高速に切断することができる。
本発明は以上説明した第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
10 レーザ発振器
12 プロセスファイバ
20 レーザ加工ユニット
30 コリメータユニット
31 コリメーションレンズ
32 ガルバノスキャナユニット(ビーム振動機構)
33 ベンドミラー
34 集束レンズ
35 加工ヘッド
36 ノズル
36a 開口
40 操作部
50 NC装置(制御装置)
60 加工プログラムデータベース
70 加工条件データベース
80 アシストガス供給装置
100 レーザ加工機
321,323 スキャンミラー
322,324 駆動部
W 板金
本開示は、レーザビームによってステンレス鋼よりなる板金を加工するレーザ加工機及びレーザ加工方法に関する。
レーザ発振器より射出されたレーザビームによって板金を切断して、所定の形状を有する製品を製作するレーザ加工機が普及している。近年、レーザ加工機で使用するレーザビームを射出するレーザ発振器としては、大型及び高コストのCO2レーザ発振器と比較して、小型で低コストであるファイバレーザ発振器またはダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)が広く用いられている。
CO2レーザ発振器が射出するレーザビームの波長は10μm程度であるのに対し、ファイバレーザ発振器またはDDL発振器が射出するレーザビームの波長は1μm程度である。よって、ファイバレーザ発振器またはDDL発振器が射出するレーザビームはビームウエストが小さく、レーザビームの照射によって製品の周囲に形成される溝のカーフ幅は狭い。
JANUARY 2017 The FABRICATOR 67, Shaping the beam for the best cut
レーザ加工機が1μm帯のレーザビームを射出するレーザ発振器を用いて板厚3mm以上のステンレス鋼よりなる板金を切断する際に、板金に照射されるレーザビームの集束点を板金の上面に位置させたとする。この場合、板金に形成されるカーフ幅が非常に狭いので溶融した金属を排出することができず、加工不良となることがある。
そこで、従来においては、集束点を板金の上面よりも上方または下方に位置させるデフォーカスの状態とすることによってカーフ幅を広くして板金を切断する。すると、エネルギ密度が小さくなり、板金の切断速度が遅くなってしまう。切断速度を速くするためにレーザパワーを増大させることが考えられるが、レーザパワーを増大させることは省エネルギの点から好ましくない。
非特許文献1には、レーザビームを板金のカーフ幅内で切断進行方向と平行方向に振動させながら、板金を切断することが記載されている。以下、レーザビームを切断進行方向と平行方向に振動させる振動パターンを平行振動パターンと称することとする。
しかしながら、非特許文献1には、カーフ幅を広げる振動パターンを用いた特定の条件で切断速度が向上することが記載されるものの、平行振動パターンを用いた場合の系統的な考察は記載されていない。平行振動パターンを用いてステンレス鋼よりなる板金を切断面の品質が良好で高速に切断する好ましい条件を特定することが求められる。
1またはそれ以上の実施形態の第1の態様によれば、ステンレス鋼の板金を切断するためのレーザビームを射出する加工ヘッドと、前記板金の面に対して前記加工ヘッドを相対的に移動させる移動機構と、前記移動機構によって前記加工ヘッドを相対的に移動させて前記板金を切断するとき、前記板金の切断進行方向と平行方向にレーザビームを振動させるビーム振動機構と、前記板金の板厚ごと予め求められ、前記板金を切断可能な、前記移動機構によって前記加工ヘッドを相対的に移動させるときの移動速度と、前記ビーム振動機構によるレーザビームの振動周波数との関係を加工条件として記憶するデータベースと、前記加工ヘッドを前記加工条件に基づいて選択した移動速度で相対的に移動させるよう前記移動機構を制御し、かつ、前記レーザビームを前記加工条件に基づいて選択した振動周波数で振動させるよう前記ビーム振動機構を制御する制御装置とを備え、前記加工条件には、前記板金を切断可能な最大移動速度に対して、前記板金を切断可能な1つの特定の振動周波数が設定され、前記板金を切断可能な最小移動速度以上前記最大移動速度未満の移動速度に対して、前記板金を切断可能な最大周波数から最小周波数までの複数の振動周波数が設定され、前記制御装置は、前記加工ヘッドを前記最大移動速度で相対的に移動させるときには、レーザビームを前記特定の振動周波数で振動させるよう前記ビーム振動機構を制御し、前記加工ヘッドを前記最小移動速度以上前記最大移動速度未満のいずかの移動速度で相対的に移動させるときには、レーザビームを前記最大周波数から前記最小周波数までの複数の振動周波数のうちから選択した振動周波数で振動させるよう前記ビーム振動機構を制御するレーザ加工機が提供される。
1またはそれ以上の実施形態の第1の態様によれば、ステンレス鋼の板金を切断するためのレーザビームを加工ヘッドより射出して、前記板金に照射し、前記板金の面に対して前記加工ヘッドを相対的に移動させることにより前記板金を切断し、前記板金を切断するときに前記板金の切断進行方向と平行方向にレーザビームを振動させ、前記板金の板厚ごと予め求められた、前記板金を切断可能な、前記加工ヘッドを相対的に移動させるときの移動速度と、レーザビームの振動周波数との関係を示す加工条件を参照し、前記加工ヘッドを、参照した前記加工条件に基づいて選択した移動速度で相対的に移動させ、かつ、前記レーザビームを、参照した前記加工条件に基づいて選択した振動周波数で振動させ、前記加工条件には、前記板金を切断可能な最大移動速度に対して、前記板金を切断可能な1つの特定の振動周波数が設定され、前記板金を切断可能な最小移動速度以上前記最大移動速度未満の移動速度に対して、前記板金を切断可能な最大周波数から最小周波数までの複数の振動周波数が設定され、前記加工ヘッドを前記最大移動速度で相対的に移動させるときには、レーザビームを前記特定の振動周波数で振動させ、前記加工ヘッドを前記最小移動速度以上前記最大移動速度未満のいずかの移動速度で相対的に移動させるときには、レーザビームを前記最大周波数から前記最小周波数までの複数の振動周波数のうちから選択した振動周波数で振動させるレーザ加工方法が提供される。
1またはそれ以上の実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、1μm帯のレーザビームを平行振動パターンで振動させることによって、ステンレス鋼よりなる板金を切断面の品質が良好で高速に切断することができる。
図1は、各実施形態のレーザ加工機の全体的な構成例を示す図である。
図2は、各実施形態のレーザ加工機におけるコリメータユニット及び加工ヘッドの詳細な構成例を示す斜視図である。
図3は、ビーム振動機構によるレーザビームの板金への照射位置の変位を説明するための図である。
図4は、レーザビームの平行振動パターンを示す図である。
図5は、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振幅量の適切な範囲をどのように決定すべきかを説明するための図である。
図6Aは、レーザビームの振幅量が最小の状態を示す図である。
図6Bは、レーザビームの振幅量が最大の状態を示す図である。
図7は、レーザビームを平行振動パターンの最小振幅量で振動させて板金を切断するときの、加工ヘッドの移動速度と振動周波数とがとる好ましい範囲を示す図である。
図8は、レーザビームを平行振動パターンの最大振幅量で振動させて板金を切断するときの、加工ヘッドの移動速度と振動周波数とがとる好ましい範囲を示す図である。
図9は、実施例を表形式で示す図である。
図10は、平行振動パターンを用いることにより板金を高速に切断することができることを示す、板厚と加工速度との関係を示す図である。
以下、各実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法について、添付図面を参照して説明する。第1実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法は、板厚3mm以上のステンレス鋼よりなる板金を切断するために、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの適切な振幅量を設定する。第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法は、板厚3mm以上のステンレス鋼よりなる板金を切断するためにレーザビームを平行振動パターンで振動させるときの適切な振動周波数を設定する。
<第1実施形態>
図1において、レーザ加工機100は、レーザビームを生成して射出するレーザ発振器10と、レーザ加工ユニット20と、レーザ発振器10より射出されたレーザビームをレーザ加工ユニット20へと伝送するプロセスファイバ12とを備える。
また、レーザ加工機100は、操作部40と、NC装置50と、加工プログラムデータベース60と、加工条件データベース70と、アシストガス供給装置80とを備える。NC装置50は、レーザ加工機100の各部を制御する制御装置の一例である。
レーザ発振器10としては、レーザダイオードより発せられる励起光を増幅して所定の波長のレーザビームを射出するレーザ発振器、またはレーザダイオードより発せられるレーザビームを直接利用するレーザ発振器が好適である。レーザ発振器10は、例えば、固体レーザ発振器、ファイバレーザ発振器、ディスクレーザ発振器、ダイレクトダイオードレーザ発振器(DDL発振器)である。
レーザ発振器10は、波長900nm〜1100nmの1μm帯のレーザビームを射出する。ファイバレーザ発振器及びDDL発振器を例とすると、ファイバレーザ発振器は、波長1060nm〜1080nmのレーザビームを射出し、DDL発振器は、波長910nm〜950nmのレーザビームを射出する。
レーザ加工ユニット20は、加工対象の板金Wを載せる加工テーブル21と、門型のX軸キャリッジ22と、Y軸キャリッジ23と、Y軸キャリッジ23に固定されたコリメータユニット30と、加工ヘッド35とを有する。板金Wはステンレス鋼よりなる。第1実施形態においては、板金Wの板厚は3mmから25mmのうちのいずれかであるとする。
X軸キャリッジ22は、加工テーブル21上でX軸方向に移動自在に構成されている。Y軸キャリッジ23は、X軸キャリッジ22上でX軸に垂直なY軸方向に移動自在に構成されている。X軸キャリッジ22及びY軸キャリッジ23は、加工ヘッド35を板金Wの面に沿って、X軸方向、Y軸方向、または、X軸とY軸との任意の合成方向に移動させる移動機構として機能する。
加工ヘッド35を板金Wの面に沿って移動させる代わりに、加工ヘッド35は位置が固定されていて、板金Wが移動するように構成されていてもよい。レーザ加工機100は、板金Wの面に対して加工ヘッド35を相対的に移動させる移動機構を備えていればよい。
加工ヘッド35には、先端部に円形の開口36aを有し、開口36aよりレーザビームを射出するノズル36が取り付けられている。ノズル36の開口36aより射出されたレーザビームは板金Wに照射される。アシストガス供給装置80は、アシストガスとして例えば窒素を加工ヘッド35に供給する。板金Wの加工時に、アシストガスは開口36aより板金Wへと吹き付けられる。アシストガスは、板金Wが溶融したカーフ幅内の溶融金属を排出する。
図2に示すように、コリメータユニット30は、プロセスファイバ12より射出された発散光のレーザビームを平行光(コリメート光)に変換するコリメーションレンズ31を備える。また、コリメータユニット30は、ガルバノスキャナユニット32と、ガルバノスキャナユニット32より射出されたレーザビームをX軸及びY軸に垂直なZ軸方向下方に向けて反射させるベンドミラー33を備える。加工ヘッド35は、ベンドミラー33で反射したレーザビームを集束して、板金Wに照射する集束レンズ34を備える。
レーザ加工機100は、ノズル36の開口36aより射出されるレーザビームが開口36aの中心に位置するように芯出しされている。基準の状態では、レーザビームは、開口36aの中心より射出する。ガルバノスキャナユニット32は、加工ヘッド35内を進行して開口36aより射出されるレーザビームを、開口36a内で振動させるビーム振動機構として機能する。ガルバノスキャナユニット32がレーザビームをどのように振動させるかについては後述する。
ガルバノスキャナユニット32は、コリメーションレンズ31より射出されたレーザビームを反射するスキャンミラー321と、スキャンミラー321を所定の角度となるように回転させる駆動部322とを有する。また、ガルバノスキャナユニット32は、スキャンミラー321より射出されたレーザビームを反射するスキャンミラー323と、スキャンミラー323を所定の角度となるように回転させる駆動部324とを有する。
駆動部322及び324は、NC装置50による制御に基づき、それぞれ、スキャンミラー321及び323を所定の角度範囲で往復振動させることができる。スキャンミラー321とスキャンミラー323とのいずれか一方または双方を往復振動させることによって、ガルバノスキャナユニット32は、板金Wに照射されるレーザビームを振動させる。
ガルバノスキャナユニット32はビーム振動機構の一例であり、ビーム振動機構は一対のスキャンミラーを有するガルバノスキャナユニット32に限定されない。
図3は、スキャンミラー321とスキャンミラー323とのいずれか一方または双方が傾けられて、板金Wに照射されるレーザビームの位置が変位した状態を示している。図3において、ベンドミラー33で折り曲げられて集束レンズ34を通過する細実線は、レーザ加工機100が基準の状態であるときのレーザビームの光軸を示している。
なお、詳細には、ベンドミラー33の手前に位置しているガルバノスキャナユニット32の作動により、ベンドミラー33に入射するレーザビームの光軸の角度が変化し、光軸がベンドミラー33の中心から外れる。図3では、簡略化のため、ガルバノスキャナユニット32の作動前後でベンドミラー33へのレーザビームの入射位置を同じ位置としている。
ガルバノスキャナユニット32による作用によって、レーザビームの光軸が細実線で示す位置から太実線で示す位置へと変位したとする。ベンドミラー33で反射するレーザビームが角度θで傾斜したとすると、板金Wへのレーザビームの照射位置は距離Δsだけ変位する。集束レンズ34の焦点距離をEFL(Effective Focal Length)とすると、距離Δsは、EFL×sinθで計算される。
ガルバノスキャナユニット32がレーザビームを図3に示す方向とは逆方向に角度θだけ傾ければ、板金Wへのレーザビームの照射位置を図3に示す方向とは逆方向に距離Δsだけ変位させることができる。距離Δsは開口36aの半径未満の距離であり、好ましくは、開口36aの半径から所定の余裕量だけ引いた距離を最大距離とした最大距離以下の距離である。
NC装置50は、ガルバノスキャナユニット32の駆動部322及び324を制御することによって、レーザビームを板金Wの面内の所定の方向に振動させることができる。レーザビームを振動させることによって、板金Wの面上に形成されるビームスポットを振動させることができる。
以上のように構成されるレーザ加工機100において、NC装置50は、加工プログラムデータベース60より加工プログラムを読み出し、加工条件データベース70に記憶されている複数の加工条件のいずれかを選択する。NC装置50は、読み出した加工プログラム及び選択した加工条件に基づいて板金Wを加工するよう、レーザ加工機100を制御する。レーザ加工機100は、レーザ発振器10より射出されたレーザビームによって板金Wを切断して所定の形状を有する製品を製作する。
ガルバノスキャナユニット32は、図4に示すようにレーザビームを振動させる。板金Wの切断進行方向をx方向、板金Wの面内でx方向と直交する方向をy方向とする。図4は、振動パターンを理解しやすいよう、加工ヘッド35をx方向に移動させない状態での振動パターンを示している。
図4に示すように、ガルバノスキャナユニット32は、NC装置50による制御に基づいて、ビームスポットBsをビームスポットBsの進行によって形成された溝Wk内でx方向に振動させる。この振動パターンを平行振動パターンと称する。実際には、加工ヘッド35が切断進行方向に移動しながらレーザビームが平行振動パターンで振動させられる。
ビームスポットBsを切断進行方向と平行方向に振動させる周波数をFx、切断進行方向と直交する方向に振動させる周波数をFyとすれば、平行振動パターンはFx:Fyが1:0の振動パターンである。溝Wkのカーフ幅K1は、ビームスポットBsを平行振動パターンで振動させないときのカーフ幅と同じである。
次に、図5を用いて、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振幅量をどのような範囲とすべきかについて検討する。図5において、レーザ加工機100は、加工ヘッド35を白抜き矢印で示す切断進行方向に移動させながら、かつ、板金Wに照射するレーザビームを平行振動パターンで振動させながら、板金Wを切断する。
LB1及びLB2は、それぞれ、切断進行方向に対して最も後ろ側及び最も前側に変位した位置のレーザビームを示している。レーザビームは、切断進行方向に振幅量Qxで振動する。振幅量Qxは、板金W上でのレーザビームLB1及びLB2の焦点位置の間隔である。第1実施形態及び後述する第2実施形態においては、従来のようにレーザビームをデフォーカスの状態とする必要はなく、集束点を板金の上面またはその近傍に位置させるジャストフォーカスの状態とすればよい。
但し、デフォーカスの状態を利用することを排除するものではない。板金Wの板厚が8mmよりも厚い場合に、溶融した金属を良好に排出させるために、カーフ内にフォーカスさせるいわゆるインフォーカスという状態のデフォーカスを利用してもよい。
従来のレーザ加工機が1μm帯のレーザビームを平行振動パターンで振動させずに板金Wを切断するとき、加工不良となりやすいのは、幅の狭いカーフ内の溶融した金属が短時間のうちに冷却されて粘度が増大して、排出されにくくなるからである。
板金Wを切断するには、板金Wに次の2つ要件を満足するのに必要充分で断続的なエネルギが供給されることが必要である。第1の要件として、振動するレーザビームの一度の照射時間内で金属が溶融し、溶融した金属が排出されるまでの時間内に振動するレーザビームが溶融した金属に複数回照射されて溶融状態(特に粘度)が維持される。第2の要件として、切断面(カーフの内面)が過剰に溶融しない。
第1実施形態においては、レーザビームを平行振動パターンで振動させることによって、上記の2つの要件を満足し、溶融した金属の粘度が低い状態が従来よりも長い時間維持される。従って、カーフ幅K1が従来と同じであってもカーフ内の溶融した金属が排出されやすくなるので、切断面の品質が良好となる。
レーザビームの進行方向それぞれの位置における断面積のうち、実際に金属の溶融に寄与するのは、断面積における全光エネルギのうちの中心側のほぼ86%の光エネルギを占める面積を有する円形領域である。板金Wの上面では、上面でのレーザビームの断面積(即ち、ビームスポットBsの面積)のうちの中心側の86%の光エネルギを占める面積を有する円形領域top86が板金Wを溶融させる。板金Wの下面では、下面でのレーザビームの断面積のうちの中心側の86%の光エネルギを占める面積を有する円形領域bottom86が板金Wを溶融させる。
図5に示すように、カッティングフロントCFの板金Wの面に沿った方向の距離をΔLとする。カッティングフロントCFの角度θはおおよそ85°であるので、角度θは85°とみなせばよい。距離ΔLは、板金Wの板厚tをtanθで除算することによって求められる。
図6Aは、振幅量Qxが最小の状態を示している。図5は、図6Aの状態に相当する。このとき、距離ΔLは、振幅量Qxと、円形領域bottom86の半径rbottomと、円形領域top86の半径rtopとを用いて式(1)で表すことができる。図6A及び図6Bにおける36ctrは、ノズル36の中心を示している。
ΔL=Qx+rbottom+rtop …(1)
図6Bは、振幅量Qxが最大の状態を示している。円形領域bottom86の中心からカッティングフロントCFの下端部までの距離は半径rtopに等しい。よって、図6Bにおける距離ΔLは振幅量Qxと等しくなる。
よって、振幅量Qxが取るべき範囲は式(2)で表すことができる。
ΔL−bottom−rtop≦Qx≦ΔL …(2)
NC装置50が、ガルバノスキャナユニット32によって、式(2)を満たすようにレーザビームを振動させれば、カッティングフロントCFの全体にレーザビームを照射させることができ、板金Wを良好に切断することができる。板厚tが厚くなるほど距離ΔLが長くなるから、板厚tが厚くなるほど振幅量Qxを大きくする必要がある。
ところで、カッティングフロントCFの角度θは、金属のエネルギ吸収率が最も高い角度であるブリュースター角度であってもよいし、ブリュースター角度でなくてもよい。振動するレーザビームの一度の照射時間内で金属が溶融する要件として、ブリュースター角度は必須ではない。エネルギ密度と金属の溶融に要する時間との関係が、一度の照射時間内に成り立てばよい。また、溶融した金属の粘度とカッティングフロントCFの角度θとの関係から、溶融した金属が流れ落ちればよい。
以上説明したように、第1実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振幅量を適切な範囲で選択して、板厚3mm以上のステンレス鋼よりなる板金を切断することができる。
<第2実施形態>
第2実施形態のレーザ加工機の構成は、図1に示すレーザ加工機100と同じである。第2実施形態においては、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振動周波数をどのような範囲とすべきかについて検討する。
本発明者の検証により、板金Wを切断するときの加工ヘッド35の移動速度(板金Wの加工速度)に応じて、板金Wを切断することができる振動周波数の範囲が存在することが明らかとなった。また、板金Wを切断することができる振動周波数の範囲は、板厚tに応じて異なることが明らかとなった。
図7は、式(2)に基づく最小の振幅量Qx、即ち、Qx=ΔL−rbottom−rtopとしてレーザビームを振動させて板金Wを切断するときの、移動速度と振動周波数とがとる好ましい範囲を示している。図7及び後述する図8は、レーザ発振器10をファイバレーザ発振器とし、レーザパワーを2kWとして、板金Wとして4mm、6mm、8mmのステンレス鋼を切断したときの実験結果を示している。
板厚tが4mmであるとき、最大移動速度は111.7mm/sであり、最大移動速度111.7mm/sのときに選択可能な振動周波数f40は2200Hzのみである。
移動速度が103.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f41max及び最小周波数f41minはそれぞれ3560Hz及び1100Hzである。移動速度が103.3mm/sであるとき、1100Hz〜3560Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が90.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f42max及び最小周波数f42minはそれぞれ3560Hz及び700Hzである。移動速度が90.0mm/sであるとき、700Hz〜3560Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が76.7mm/sであるときに選択可能な最大周波数f43max及び最小周波数f43minはそれぞれ3560Hz及び50Hzである。移動速度が63.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f44max及び最小周波数f44minはそれぞれ3560Hz及び50Hzである。移動速度が50.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f45max及び最小周波数f45minはそれぞれ3560Hz及び50Hzである。移動速度が76.7mm/s〜50.0mm/sであるとき、50Hz〜3560Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
板厚tが6mmであるとき、最大移動速度は54.2mm/sであり、最大移動速度54.2mm/sのときに選択可能な振動周波数f60は1200Hzのみである。
移動速度が53.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f61max及び最小周波数f61minはそれぞれ1400Hz及び1000Hzである。移動速度が53.3mm/sであるとき、1000Hz〜1400Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が50.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f62max及び最小周波数f62minはそれぞれ2490Hz及び500Hzである。移動速度が50.0mm/sであるとき、500Hz〜2490Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が43.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f63max及び最小周波数f63minはそれぞれ3360Hz及び400Hzである。移動速度が43.3mm/sであるとき、400Hz〜3360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が36.7mm/sであるときに選択可能な最大周波数f64max及び最小周波数f64minはそれぞれ3360Hz及び300Hzである。移動速度が36.7mm/sであるとき、300Hz〜3360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が30.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f65max及び最小周波数f65minはそれぞれ3360Hz及び100Hzである。移動速度が23.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f66max及び最小周波数f66minはそれぞれ3360Hz及び100Hzである。移動速度が30.0mm/s〜23.3mm/sであるとき、100Hz〜3360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
板厚tが8mmであるとき、最大移動速度は33.3mm/sであり、最大移動速度33.3mm/sのときに選択可能な振動周波数f80は700Hzのみである。
移動速度が30.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f81max及び最小周波数f81minはそれぞれ1000Hz及び400Hzである。移動速度が30.0mm/sであるとき、400Hz〜1000Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が25.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f82max及び最小周波数f82minはそれぞれ3020Hz及び200Hzである。移動速度が25.0mm/sであるとき、200Hz〜3020Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が20.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f83max及び最小周波数f83minはそれぞれ3020Hz及び100Hzである。移動速度が15.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f84max及び最小周波数f84minはそれぞれ3020Hz及び100Hzである。移動速度が10.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f85max及び最小周波数f85minはそれぞれ3020Hz及び100Hzである。移動速度が20.0mm/s〜10.0mm/sであるとき、100Hz〜3020Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
図7において、最大周波数f41max〜f45max、f63max〜f66max、f82max〜f85maxがそれぞれ一定値であるのは、ガルバノスキャナユニット32によってスキャンミラー321及び323を物理的に振動させる周波数には限界があるからである。上記のように板厚tが厚くなるほど振幅量Qxを大きくしなければならないので、板厚tが厚くなるほど物理的な限界としての最大周波数が低くなる。
ガルバノスキャナユニット32の技術改良によってスキャンミラー321及び323を振動させる物理的な周波数の上限が高くなった場合には、スキャンミラー321及び323の物理的な最大周波数以内であって、板金Wを切断可能な最大周波数を求めればよい。
図7に示すように、板厚tが4mm、6mm、8mmにおける最大移動速度のときの振動周波数f40、f60、f80は、横軸の移動速度をx、縦軸の振動周波数をyとすると、式(3)に示す近似式上に位置する。
y=−0.0335x2+23.566x−10.277 …(3)
NC装置50は、式(3)に基づき、板厚tが4mm、6mm、8mm以外の板厚であるとき、最大移動速度のときに選択可能な振動周波数を計算によって求めることが可能である。
図8は、式(2)に基づく最大の振幅量Qx、即ち、Qx=ΔLとしてレーザビームを振動させて板金Wを切断するときの、移動速度と振動周波数とがとる好ましい範囲を示している。
板厚tが4mmであるとき、最大移動速度は113.3mm/sであり、最大移動速度113.3mm/sのときに選択可能な振動周波数f40は2900Hzのみである。
移動速度が103.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f41max及び最小周波数f41minはそれぞれ3120Hz及び2300Hzである。移動速度が103.3mm/sであるとき、2300Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が90.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f42max及び最小周波数f42minはそれぞれ3120Hz及び1600Hzである。移動速度が90.0mm/sであるとき、1600Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が76.7mm/sであるときに選択可能な最大周波数f43max及び最小周波数f43minはそれぞれ3120Hz及び1400Hzである。移動速度が76.7mm/sであるとき、1400Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が63.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f44max及び最小周波数f44minはそれぞれ3120Hz及び800Hzである。移動速度が63.3mm/sであるとき、800Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である
移動速度が50.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f45max及び最小周波数f45minはそれぞれ3120Hz及び50Hzである。移動速度が50.0mm/sであるとき、50Hz〜3120Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
板厚tが6mmであるとき、最大移動速度は54.2mm/sであり、最大移動速度54.2mm/sのときに選択可能な振動周波数f60は1050Hzのみである。
移動速度が53.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f61max及び最小周波数f61minはそれぞれ1300Hz及び900Hzである。移動速度が53.3mm/sであるとき、900Hz〜1300Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が50.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f62max及び最小周波数f62minはそれぞれ1600Hz及び400Hzである。移動速度が50.0mm/sであるとき、400Hz〜1600Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が43.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f63max及び最小周波数f63minはそれぞれ2670Hz及び300Hzである。移動速度が43.3mm/sであるとき、300Hz〜2670Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が36.7mm/sであるときに選択可能な最大周波数f64max及び最小周波数f64minはそれぞれ2670Hz及び200Hzである。移動速度が30.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f65max及び最小周波数f65minはそれぞれ2670Hz及び200Hzである。移動速度が23.3mm/sであるときに選択可能な最大周波数f66max及び最小周波数f66minはそれぞれ2670Hz及び200Hzである。移動速度が36.7mm/s〜23.3mm/sであるとき、200Hz〜2670Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
板厚tが8mmであるとき、最大移動速度は31.7mm/sであり、最大移動速度31.7mm/sのときに選択可能な振動周波数f80は700Hzのみである。
移動速度が30.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f81max及び最小周波数f81minはそれぞれ900Hz及び300Hzである。移動速度が30.0mm/sであるとき、300Hz〜900Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。移動速度が25.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f82max及び最小周波数f82minはそれぞれ2360Hz及び150Hzである。移動速度が25.0mm/sであるとき、150Hz〜2360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
移動速度が20.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f83max及び最小周波数f83minはそれぞれ2360Hz及び100Hzである。移動速度が15.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f84max及び最小周波数f84minはそれぞれ2360Hz及び100Hzである。移動速度が10.0mm/sであるときに選択可能な最大周波数f85max及び最小周波数f85minはそれぞれ2360Hz及び100Hzである。移動速度が20.0mm/s〜10.0mm/sであるとき、100Hz〜2360Hzの範囲のいずれかの振動周波数が選択可能である。
図8において、最大周波数f41max〜f45max、f63max〜f66max、f82max〜f85maxがそれぞれ一定値であるのは、図7と同じ理由である。同様に、ガルバノスキャナユニット32の技術改良によってスキャンミラー321及び323を振動させる物理的な周波数の上限が高くなった場合には、スキャンミラー321及び323の物理的な最大周波数以内であって、板金Wを切断可能な最大周波数を求めればよい。
図8に示すように、板厚tが4mm、6mm、8mmにおける最大移動速度のときの振動周波数f40、f60、f80は、横軸の移動速度をx、縦軸の振動周波数をyとすると、式(4)に示す近似式上に位置する。
y=0.0848x2+15.654x+27.482 …(4)
NC装置50は、式(4)に基づき、板厚tが4mm、6mm、8mm以外の板厚であるとき、最大移動速度のときに選択可能な振動周波数を計算によって求めることが可能である。
図7及び図8より分かるように、加工ヘッド35の移動速度と振動周波数とで決まる板金Wを切断する際の好ましい範囲は、ガルバノスキャナユニット32がレーザビームを切断進行方向に振動させるときの振幅量Qxによって決まる。最小から最大までの複数の振幅量Qxごとに、板金Wを切断することができる移動速度と振動周波数とで決まる範囲を予め実験しておき、加工条件データベース70に加工条件として記憶させておけばよい。
振幅量Qxを式(2)を満たす1つの振幅量Qxに固定すれば、その固定した振幅量Qxのみで板金Wを切断することができる移動速度と振動周波数とで決まる範囲を求めればよい。
ところで、図7と図8との板厚tが8mmのときの振動周波数f80における加工ヘッド35の移動速度を比較すると、移動速度は振幅量Qxが最大のときよりも最小のときの方が速い。これは次の理由による。図6Bに示す円形領域bottom86のうち、カッティングフロントCFよりも切断進行方向の後方側の部分は、板金Wに対して無駄な加熱を与える。よって、加熱が必要な箇所への加熱時間が短くなるので、振幅量Qxが最大のときの方が移動速度の最高速が低くなる。
また、図7と図8との板厚tが4mmのときの最小周波数f41min〜f45minを比較すると、振動周波数は振幅量Qxが最小のときよりも振幅量Qxが最大のときの方が高い。これは次の理由による。円形領域bottom86のうちのカッティングフロントCFよりも切断進行方向の後方側の部分による加熱は、ドロスを増加させるように作用する。そこで、振動周波数を高くして一回の加熱時間を短くすることによって、ドロスの増加を抑えることができる。
NC装置50は、加工条件データベース70に記憶された加工条件を参照し、参照した加工条件に基づいて選択した移動速度で加工ヘッド35を相対的に移動させるよう移動機構を制御する。これに併せて、NC装置50は、参照した加工条件に基づいて選択した振動周波数でレーザビームを振動させるようガルバノスキャナユニット32を制御する。
第1の例として、オペレータは、操作部40を操作して加工ヘッド35の移動速度を設定することができる。オペレータが板金Wを切断可能な最大移動速度を設定したときには、NC装置50は、ガルバノスキャナユニット32によって、板金Wを切断可能な1つの特定の振動周波数でレーザビームを振動させればよい。
また、オペレータが板金Wを切断可能な最小移動速度以上、最大移動速度未満の移動速度に設定したときには、NC装置50は、ガルバノスキャナユニット32によって、それぞれの移動速度に応じて決まる、板金Wを切断可能な最大周波数と最小周波数との間のいずれかの周波数でレーザビームを振動させればよい。NC装置50は、板金Wを切断可能な最大周波数でレーザビームを振動させるのがよい。
オペレータが板金Wを切断不可である最大移動速度より大きい移動速度または最小移動速度より小さい移動速度を設定したときには、NC装置50は、図示していないディスプレイに加工不可である旨を表示して、板金Wの切断を開始しないようにレーザ加工機100を制御すればよい。
第2の例として、オペレータは、操作部40を操作して、加工ヘッド35の移動速度と振動周波数との組を設定してもよい。NC装置50は、移動速度と振動周波数との組によって板金Wを切断可能であると判断すれば、板金Wを切断するようレーザ加工機100を制御する。NC装置50は、移動速度と振動周波数との組によって板金Wを切断不可であると判断すれば、図示していないディスプレイに加工不可である旨を表示して、板金Wの切断を開始しないようにレーザ加工機100を制御する。
以上のように、第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、レーザビームを平行振動パターンで振動させるときの振動周波数を適切な範囲で選択して、各種の板厚のステンレス鋼よりなる板金を切断することができる。
以上説明した第1実施形態で説明したレーザビームの振幅量と、第2実施形態で説明したレーザビームの振動周波数との双方を満足しなくてもよく、いずれか一方のみを満足するだけでも十分効果的である。勿論、第1実施形態で説明したレーザビームの振幅量と第2実施形態で説明したレーザビームの振動周波数との双方を満足することが好ましい。
後述するように、第1及び第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によって板金Wを切断すると、レーザビームを振動させない通常の加工方法によって板金Wを切断するときと比較して、加工速度を向上させることができることが明らかとなった。第1及び第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法においては、レーザビームをジャストフォーカスの状態で板金Wに照射することができるので、加工速度を向上させることができる。
通常の加工方法によれば、板厚4mm、6mm、8mmのときの最大加工速度(最大移動速度)は、それぞれ、50.0mm/s、23.3mm/s、10mm/sである。第1及び第2実施形態による加工方法によれば、板厚4mm、6mm、8mmのときの最大加工速度は、図7に示す最小の振幅量Qxのときを例とすれば、それぞれ、111.7mm/s、54.2mm/s、33.3mm/sである。
ここでは、板金Wの板厚が4mm、6mm、8mmのいわゆる中板を例としたが、板厚が3mmであっても、板厚8mmより厚い中板または板厚10mm以上の厚板であっても同様に切断可能である。いずれの板厚であっても、板金Wを切断することができる移動速度と振動周波数とで決まる範囲を予め実験しておき、加工条件データベース70に加工条件として記憶させておけばよい。
第1及び第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、板金Wの板厚が3mm以上であっても、後述する実施例より分かるように、切断面の品質が良好に板金Wを切断することができる。さらに、第1及び第2実施形態のレーザ加工機及びレーザ加工方法によれば、加工速度を従来のレーザ加工機及びレーザ加工方法による切断よりも高速とすることができる。
図9は、番号1〜12で示す具体的な実施例を示している。図9は、レーザ発振器10のレーザ出力を4kWまたは2kWとして各板厚を有する板金Wを図示の条件で切断したときの、ドロス高さと、表面粗さの一例としての算術平均粗さRaを示している。算術平均粗さRaにおいて上部とは、板金Wの表面から1mmの位置における切断面の算術平均粗さRaを示しており、下部とは、板金Wの表面から板厚の1/3の位置、2/3の位置、または、下面から1mmの位置における算術平均粗さRaのうち、最も大きい値を切断面の算術平均粗さRaとして示している。
なお、上記の算術平均粗さRaの評価方法は、国際規格ISO9013で規定されている測定方法を基本とし、この基本の測定方法に板厚の2/3の位置と下面から1mmの位置との測定を追加して評価したものである。
切断面の品質の良否判断は板厚により変化する。例えば、板厚3mmのとき、ドロス高さが0.1mm以下、算術平均粗さRaが4.9μm以下であれば、切断面の品質は良好であると判断できる。板厚12mmのとき、ドロス高さが0.5mm以下、算術平均粗さRaが19.6μm以下であれば、切断面の品質は良好であると判断できる。図9に示すように、番号1〜12の全ての実施例において、切断面の品質が良好である。
図10に示すように、レーザ発振器10のレーザ出力を4kWとした場合、2kWとした場合のいずれも、平行振動パターンを用いることによりステンレス鋼よりなる板金Wを高速に切断できることが分かる。
第1実施形態で説明したレーザビームの振幅量と第2実施形態で説明したレーザビームの振動周波数との少なくとも一方、好ましくは双方を満足することにより、板金Wを切断面の品質が良好で、しかも高速に切断することができる。
本発明は以上説明した第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
10 レーザ発振器
12 プロセスファイバ
20 レーザ加工ユニット
30 コリメータユニット
31 コリメーションレンズ
32 ガルバノスキャナユニット(ビーム振動機構)
33 ベンドミラー
34 集束レンズ
35 加工ヘッド
36 ノズル
36a 開口
40 操作部
50 NC装置(制御装置)
60 加工プログラムデータベース
70 加工条件データベース
80 アシストガス供給装置
100 レーザ加工機
321,323 スキャンミラー
322,324 駆動部
W 板金