図1ないし図3は、本発明を回転切削工具としてのドリルに適用した場合の第1の実施形態を示すものである。本実施形態において、工具本体1は、多結晶ダイヤモンド焼結体よりは硬度の低い超硬合金等の硬質材料によって軸線Oを中心とした概略円柱状に形成され、その後端部(図1において右側部分)は円柱状のままのシャンク部2とされるとともに、先端部(図1において左側部分)は切刃部3とされる。このようなドリルは、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りに工具回転方向Tに回転されつつ、該軸線O方向先端側に送り出され、切刃部3によって被削材に穴あけ加工を行う。
切刃部3の外周には、工具本体1の先端に開口して後端側に向かうに従い工具回転方向Tとは反対側に捩れる2つの切屑排出溝4が軸線Oに関して180°回転対称に形成されている。これらの切屑排出溝4の先端部における工具回転方向Tを向く壁面はすくい面5とされ、このすくい面5と、該切刃部3の工具回転方向Tとは反対側に連なる切刃部3の先端面である先端逃げ面6との交差稜線部に切刃7が形成されている。切刃7には、工具本体1の外周側に向かうに従い後端側に向かうように先端角が与えられている。
そして、この切刃7と、該切刃7に連なる部分のすくい面5および先端逃げ面6とは、多結晶ダイヤモンド焼結体8上に形成されており、この多結晶ダイヤモンド焼結体8は、本実施形態では工具本体1の内周側の内周層8Aと外周側の外周層8Bとを備えていて、これら内周層8Aと外周層8Bとではその組成が異なっている。
ここで、この多結晶ダイヤモンド焼結体8において内周層8Aと外周層8Bの組成が異なるとは、第1に、多結晶ダイヤモンド焼結体8におけるダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量が内周層8Aと外周層8Bとで異なる添加量であることであってもよい。このような場合には、多結晶ダイヤモンド焼結体8は、内周層8Aが外周層8Bよりもダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量が多くされていてもよい。ここで、このような多結晶ダイヤモンド焼結体8に添加されるバインダーとしては、コバルト、鉄、ニッケルのような第VIII属の遷移元素や、それからなる合金であり、その中に炭化タングステンのような炭化物や窒化チタンのような窒化物を第三元素として加えてもよい。
その場合は、例えば、内周層8Aにおける多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量が5vol%〜20vol%であるのに対し、外周層8Bにおける多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量は0vol%〜10vol%とされ、さらに内周層8Aと外周層8Bとで多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量の差が3vol%以上とされるのが望ましい。
また、第2に、内周層8Aと外周層8Bとで、多結晶ダイヤモンド焼結体8におけるダイヤモンド粒子の平均粒径が異なることにより、組成を異なるものとしてもよい。このような場合には、多結晶ダイヤモンド焼結体8は、外周層8Bが内周層8Aよりもダイヤモンド粒子の平均粒径が大きくされていてもよい。
その場合には、内周層8Aにおける多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子の平均粒径は0.5μm〜15μmであるとともに、外周層8Bにおける多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子の平均粒径が6μm〜30μmであり、内周層8Aと外周層8Bとで多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子の平均粒径の差が3μm以上とされる。
また、このように多結晶ダイヤモンド焼結体8が内周層8Aと外周層8Bとによって構成されている場合には、図2に示すように軸線Oから切刃7に沿って該切刃7の外周端までの長さL1と、この外周端から工具本体1の後端側に延びる稜線(すくい面5の外周側の稜線)の多結晶ダイヤモンド焼結体8上の長さL2との和をL(=L1+L2)としたとき、内周層8Aと外周層8Bとの境界は軸線Oから0.05×L〜0.95×Lの範囲にあるのが望ましい。各層が占める範囲が0.05×L未満の多結晶ダイヤモンド焼結体8を製造するのは困難である。なお、内周層8Aと外周層8Bとの境界は、光学顕微鏡または電子顕微鏡で確認することができる。
ただし、多結晶ダイヤモンド焼結体8は、上述のような内周層8Aと外周層8Bとの2層構造だけでなく、内周層8Aと、この内周層8Aとは組成の異なる外周層8Bと、さらにこれら内周層8Aと外周層8Bとの間に位置して組成が内周層8Aと外周層8Bとの中間である少なくとも1つの中間層とによって構成された3層以上の構造とされていてもよい。なお、こうして中間層を設ける場合でも、中間層の層数は8層までとして、内周層8Aおよび外周層8Bと合わせて10層までとするのが、効果的である。
このような場合には、2層の場合と同じく軸線Oから切刃7に沿って該切刃7の外周端までの長さL1と、この外周端から工具本体1の後端側に延びる稜線(すくい面5の外周側の稜線)の多結晶ダイヤモンド焼結体8上の長さL2との和を長さL(=L1+L2)としたとき、内周層8Aと中間層との境界は軸線Oから0.05×L〜0.90×Lの範囲にあり、中間層と外周層8Bとの境界は、内周層8Aと中間層との境界よりも外周層8B側にあって軸線Oから0.10×L〜0.95×Lの範囲にあることが望ましい。なお、中間層が複数の場合も含めて、各層が占める範囲が0.05×L未満の多結晶ダイヤモンド焼結体8を製造するのは困難となる。
なお、これら多結晶ダイヤモンド焼結体8におけるダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量と、多結晶ダイヤモンド焼結体8におけるダイヤモンド粒子の平均粒径との双方を上述のように異なるものとして、内周層8Aと外周層8B、および場合によっては中間層とが異なる組成となるようにしてもよい。
ここで、このような異なる組成を有する内周層8Aと外周層8B、またはこれらに加えて中間層とを有する多結晶ダイヤモンド焼結体8を備えた多結晶ダイヤモンド焼結体付き切削工具を製造するには、まず図4に示すように超硬合金よりなる円柱状の圧粉成形体11を成形し、この圧粉成形体11に2つの切屑排出溝4の捩れに沿って傾斜した溝11Aを形成した後に円筒状のカプセル12に収容する。
次いで、このカプセル12に収容された圧粉成形体11の溝11Aに、多結晶ダイヤモンド焼結体8の外周層8Bを形成する組成のダイヤモンド粉末粒子と必要に応じてバインダー粒子とを含有した原料粉末Aを上面が水平になるように充填した後、その上に内周層8Aを形成する組成のダイヤモンド粉末粒子と必要に応じてバインダー粒子を含有した原料粉末Bを充填する。中間層を備える場合には、これら外周層8Bと内周層8Aの間に中間層を形成する組成のダイヤモンド粉末粒子と必要に応じてバインダー粒子を含有した原料粉末を充填すればよい。
次に、この圧粉成形体11の溝11Aにダイヤモンド粉末粒子、バインダー粒子が充填されたカプセル12を超高温超高圧発生装置に収容して超高温超高圧条件下で焼結することにより、図5に示すように超硬合金に多結晶ダイヤモンド焼結体8が一体に接合されたブランク15を製造する。
そして、このブランク15を、焼結された超硬合金よりなる円柱状の軸部16の先端部に図6に示すようにろう付けによって接合した後、図7に示すように軸線Oを中心とした円柱状になるように外周を研磨し、さらに切屑排出溝4を研削により形成するとともに、先端逃げ面6を図8に破線で示すように研削して上述のような先端角を有する切刃7を形成する。これにより、多結晶ダイヤモンド焼結体8において工具本体1の内周側には内周層8Aが露出するとともに外周側には外周層8Bが露出するので、図1ないし図3に示したように内周層8Aと外周層8Bとで組成が異なる多結晶ダイヤモンド焼結体8上に切刃7が形成されたドリルを製造することができる。
このような製造方法の一例によって製造される上記構成の多結晶ダイヤモンド焼結体付き切削工具では、切刃7が形成される多結晶ダイヤモンド焼結体8において、軸線O回りに回転される工具本体1の内周側の内周層8Aと外周側の外周層8Bとで組成が異なるので、軸線Oからの距離に応じた周速の相違による切削特性の相違に応じた切削性能を切刃に与えることが可能となる。このため、層によって材質が異なる積層材等に切削加工を行う場合でも工具本体1の内周側での切刃7の欠損や外周側での切刃7の偏摩耗を防ぐことができる。
例えば、本実施形態のようなドリルやボールエンドミルにおいて、上述のように多結晶ダイヤモンド焼結体8の内周層8Aが外周層8Bよりもダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量が多くされていたり、または多結晶ダイヤモンド焼結体8の外周層8Bが内周層8Aよりもダイヤモンド粒子の平均粒径が大きくされていたり、あるいはその双方であったりした場合には、内周層8Aに形成された切刃7に耐衝撃性に優れた切削性能を与えることができるとともに、外周層8Bに形成された切刃7には耐摩耗性に優れた切削性能を与えることができる。
このため、周速が遅くて大きなスラスト荷重が作用する工具本体1の内周側では切刃7に欠損が生じるのを防ぐことができるとともに、周速が速くて切削長が長くなる工具本体1の外周側では切刃7の耐摩耗性の向上を図ることができ、シャープエッジを維持して高い面精度を長期に亙って得ることができる。従って、上記構成の多結晶ダイヤモンド焼結体付き切削工具によれば、工具本体1の損傷を防いで寿命を延長するとともに、安定した切削加工を行うことができる。
また、このように多結晶ダイヤモンド焼結体8において内周層8Aと外周層8Bとで組成が異なるようにして切削性能も異なるようにするのに、多結晶ダイヤモンド焼結体8において、内周層8Aと外周層8Bとでダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量を異なるようにした場合に、このダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量(vol%)を多くすれば、ダイヤモンド粒子のクッションとなるバインダーが増えることによって耐衝撃性が向上し、逆のバインダーの添加量を少なくすれば、バインダーよりも硬度の高いダイヤモンド粒子の含有量が増えるので、耐摩耗性が向上する。
従って、本実施形態のようなドリルやボールエンドミルのように工具本体1の先端の切刃7の全長が切削に使用される多結晶ダイヤモンド焼結体付き切削工具では、多結晶ダイヤモンド焼結体8において内周層8Aが外周層8Bよりもダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量を多くすることにより、大きなスラスト荷重する工具本体1の内周側における耐衝撃性を向上させることによって切刃7に欠損が生じるのを防ぐとともに、切削速度が高くて切削長が長い工具本体1の外周側では耐摩耗性を確保して偏摩耗を抑制することができる。
さらに、内周層8Aにおける多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量を5vol%〜20vol%とするとともに、外周層8Bにおけるダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量を0vol%〜10vol%とし、しかも内周層8Aと外周層8Bとの多結晶ダイヤモンド焼結体8におけるダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量の差を3vol%以上とすることによって、上述した内周層8Aにおける耐衝撃性と外周層8Bにおける耐摩耗性とを高水準で両立させることができる。
すなわち、内周層8Aにおけるバインダーのダイヤモンド粒子に対する添加量が上記範囲を下回ると、内周層8Aに必要な耐衝撃性を確保することができなくなるおそれがある一方、内周層8Aにおけるバインダーのダイヤモンド粒子に対する添加量が上記範囲を上回ると、内周層8Aのダイヤモンド粒子の含有量が少なくなりすぎ、必要な切削性能を確保することが困難となるおそれがある。
また、外周層8Bにおけるバインダーのダイヤモンド粒子に対する添加量が上記範囲を下回ると、外周層8Bに衝撃が作用したときに欠損が生じるのを防ぐことができなくなるおそれがある一方、外周層8Bにおけるバインダーのダイヤモンド粒子に対する添加量が上記範囲を上回ると、外周層8Bにおけるダイヤモンド粒子の含有量が少なくなりすぎ、耐摩耗性を向上させることが困難となるおそれがある。
さらに、内周層8Aと外周層8Bとの多結晶ダイヤモンド焼結体8におけるダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量の差が上記範囲よりも小さいと、内周層8Aと外周層8Bの組成の違いが小さくなり、内周層8Aにおける耐衝撃性と外周層8Bにおける耐摩耗性を両立させることが困難となるおそれがある。
一方、多結晶ダイヤモンド焼結体8において内周層8Aと外周層8Bとで組成が異なるようにして切削性能も異なるようにするのに、多結晶ダイヤモンド焼結体8において、内周層8Aと外周層8Bとでダイヤモンド粒子の平均粒径を異なるようにした場合、平均粒径を小さくすれば衝撃が作用した際に脱落するダイヤモンド粒子も小さくなるので耐衝撃性を向上させることができるとともに、平均粒径を大きくすれば粒径が大きくて脱落し難いダイヤモンド粒子によって切削が行われるために耐摩耗性が向上する。
従って、本実施形態のようなドリルやボールエンドミルでは、多結晶ダイヤモンド焼結体8において、外周層8Bを内周層8Aよりもダイヤモンド粒子の平均粒径を大きくすることにより、工具本体1の内周側の切刃7におけるスラスト荷重に対する耐衝撃性を向上させることができるとともに、外周側の切刃7には切削長の違いに基づく偏摩耗に対する耐摩耗性を確保することができる。
また、内周層8Aにおける多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子の平均粒径を0.5μm〜15μmとするとともに、外周層8Bにおける多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子の平均粒径を6μm〜30μmとし、しかも内周層8Aと外周層8Bとで多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子の平均粒径に3μm以上の差をつけることにより、内周層8Aにおける耐衝撃性と外周層8Bにおける耐摩耗性とを高水準で両立させることが可能となる。
すなわち、内周層8Aにおける多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子の平均粒径が上記範囲を下回ると、大きなスラスト荷重によってダイヤモンド粒子の脱落が連続してしまうおそれがある一方、内周層8Aにおけるダイヤモンド粒子の平均粒径が上記範囲を上回ると、ダイヤモンド粒子が脱落した際に大きな脱落痕が形成されて切刃7の欠損に至るおそれがある。
また、外周層8Bにおける多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子の平均粒径が上記範囲を下回ると、ダイヤモンド粒子が十分に保持されずに摩耗が促進されるおそれがある一方、外周層8Bにおけるダイヤモンド粒子の平均粒径が上記範囲を上回ると、摩滅したダイヤモンド粒子が脱落せずに切削抵抗の増大を招くおそれがある。
さらに、内周層8Aと外周層8Bとの多結晶ダイヤモンド焼結体8のダイヤモンド粒子の平均粒径の差が上記範囲よりも小さいと、内周層8Aと外周層8Bの組成の違いが小さくなり、内周層8Aにおける耐衝撃性と外周層8Bにおける耐摩耗性を両立させることが困難となるおそれがある。
さらにまた、多結晶ダイヤモンド焼結体8が内周層8Aと外周層8Bとの2層により構成されている場合には、軸線Oから切刃7に沿って該切刃7の外周端までの長さL1と、この外周端から工具本体1の後端側に延びる稜線(すくい面5の外周側の稜線)の多結晶ダイヤモンド焼結体8上の長さL2との和を長さL(=L1+L2)としたとき、内周層8Aと外周層8Bとの境界を軸線Oから0.05×L〜0.95×Lの範囲に位置させることにより、内周層8Aと外周層8Bにおける切刃7に必要な切刃長を確保することができる。
具体的に、耐衝撃性が求められるならば、このように内周層8Aと外周層8Bを有するドリルでは、L1:L2=2:1のとき、L1+L2=Lとするならば、内周層8Aと外周層8Bの境界は軸線Oから0.4×Lの位置にあることが望ましい。また、ダイヤモンド粒子の平均粒径とバインダーの添加量は、内周層8Aでは平均粒径が4μmかつバインダーの添加量は5vol%、外周層8Bでは平均粒径が15μmかつバインダーの添加量は2.5vol%であることが望ましい。
一方、耐摩耗性が求められるならば、内周層8Aと外周層8Bを有するドリルでは、L1:L2=2:1のとき、L1+L2=Lとするならば、内周層8Aと外周層8Bの境界は軸線Oから0.6×Lの位置にあることが望ましい。また、ダイヤモンド粒子の平均粒径とバインダーの添加量は、内周層8Aでは平均粒径が8μmかつバインダーの添加量は2.5vol%、外周層8Bでは平均粒径が15μmかつバインダーの添加量は2.5vol%であることが望ましい。
また、多結晶ダイヤモンド焼結体8が、内周層8Aと外周層8Bと、これら内周層8Aと外周層8Bの間の組成を有する少なくとも1つの中間層とを備えた3層以上の層構造を有している場合には、軸線Oから切刃7に沿って該切刃7の外周端までの長さL1と、この外周端から工具本体1の後端側に延びる稜線(すくい面5の外周側の稜線)の多結晶ダイヤモンド焼結体8上の長さL2との和を長さL(=L1+L2)としたとき、内周層8Aと中間層との境界を軸線Oから0.05×L〜0.90×Lの範囲に位置させ、中間層と外周層8Bとの境界は、内周層8Aと中間層との境界よりも外周層8B側にあって軸線Oから0.10×L〜0.95×Lの範囲に位置させることにより、やはり内周層8Aと外周層8B、そして中間層における切刃7に必要な切刃長を確保することができる。
次に、図9ないし図13は、本発明の多結晶ダイヤモンド焼結体付き切削工具の第2の実施形態を示すものであって、本発明をスクエアタイプのエンドミルに適用した場合を示すものである。この第2の実施形態の多結晶ダイヤモンド焼結体付き切削工具においても、工具本体21は超硬合金等の硬質材料によって軸線Oを中心とした概略円柱状に形成され、その後端部(図9において右上部分。図10においては右側部分)は円柱状のままのシャンク部22とされるとともに、先端部(図9において左下部分。図10においては左側部分)は切刃部23とされる。このようなエンドミルは、シャンク部22が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りに工具回転方向Tに回転されつつ、通常は軸線Oに直交する方向に送り出され、切刃部23によって被削材に肩削りや溝削り等の切削加工を行う。
切刃部23の外周には、工具本体21の先端に開口して後端側に向かうに従い工具回転方向Tとは反対側に捩れる4つの切屑排出溝24が軸線Oに関して90°ずつ回転対称に形成されている。これらの切屑排出溝24の切刃部23における工具回転方向Tを向く壁面はすくい面25とされ、このすくい面25と、該切刃部23の工具回転方向Tとは反対側に連なる切刃部23の先端面である先端逃げ面26Aとの交差稜線部には切刃27として底刃27Aが、またすくい面25と切刃部23の外周面である外周逃げ面26Bとの交差稜線部には切刃27として外周刃27Bが形成されている。底刃27Aには、工具本体21の外周側に向かうに従い僅かに先端側に向かうように傾斜(中低角)が与えられている。また、4つの外周刃27Bは、軸線Oを中心とした円筒面上に位置している。
そして、これらの切刃27と、該切刃27に連なる部分のすくい面25、先端逃げ面26Aおよび外周逃げ面26Bとは、多結晶ダイヤモンド焼結体28上に形成されており、この多結晶ダイヤモンド焼結体28は、本実施形態では工具本体21先端部の切刃部23の先端内周側の内周層28Aと、切刃部23の先端外周側から外周先端側にかけての外周層28Bとを備えていて、これら内周層28Aと外周層28Bとで、その組成が異なっている。
これら第2の実施形態の多結晶ダイヤモンド焼結体28における内周層28Aおよび外周層28Bの組成も、第1の実施形態の内周層8Aおよび外周層8Bと同様に、ダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量が異なるものであってもよく、またはダイヤモンド粒子の平均粒径が異なるものであってもよく、あるいはこれらの双方が異なるものであってもよい。
ここで、内周層28Aと外周層28Bとが多結晶ダイヤモンド焼結体28におけるダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量が異なるものである場合は、第1の実施形態と同様に周速が遅い工具本体21の内周側の内周層28Aのダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量を、周速が速い外周側の外周層28Bよりも多くするのが望ましく、内周層28Aと外周層28Bの添加量およびこれら添加量の差も第1の実施形態と同様にするのが望ましい。
また、内周層28Aと外周層28Bとが、多結晶ダイヤモンド焼結体28におけるダイヤモンド粒子の平均粒径が異なるものである場合にも、第1の実施形態と同様に周速が速い外周層28Bのダイヤモンド粒子の平均粒径が周速の遅い内周層28Aのダイヤモンド粒子の平均粒径よりも大きいのが望ましく、内周層28Aと外周層28Bの平均粒径およびこれらの平均粒径の差も第1の実施形態と同様にするのが望ましい。
さらに、内周層28Aと外周層28Bの間に中間層が備えられている場合も含めて、軸線Oから切刃27に沿って該切刃27の外周端までの長さL1と、この外周端から工具本体21の後端側に延びる稜線(外周刃27B)の多結晶ダイヤモンド焼結体28上の長さL2との和を長さLとしたとき、この長さLに占める内周層28Aと外周層28Bおよび中間層の範囲も、第1の実施形態と同様にするのが望ましい。
このような第2の実施形態の多結晶ダイヤモンド焼結体付き切削工具を製造するには、第1の実施形態と同様に、超硬合金よりなる円柱状の圧粉成形体11を成形して切屑排出溝24の捩れに沿って傾斜した溝11Aを形成した後に図示されない円筒状のカプセルに収容する。
次いで、図14に示すように、このカプセルに収容された圧粉成形体11の溝11Aの外周部に、多結晶ダイヤモンド焼結体28の外周層28Bを形成する組成のダイヤモンド粉末粒子と必要に応じてバインダー粒子を含有した原料粉末Aを上面が水平になるように充填した後、圧粉成形体11の先端部中央に内周層28Aを形成する組成のダイヤモンド粉末粒子と必要に応じてバインダー粒子を含有した原料粉末Bを充填する。その後は、第1の実施形態と同様に上記カプセルを超高温超高圧条件下で焼結して超硬合金に多結晶ダイヤモンド焼結体28が一体に接合されたブランクを製造し、このブランクを超硬合金よりなる軸部の先端部にろう付け接合した後、切屑排出溝24と先端逃げ面26Aと外周逃げ面26Bを研削して切刃27を形成する。
このような第2の実施形態の多結晶ダイヤモンド焼結体付き切削工具においても、軸線O回りに回転される工具本体21の内周側の内周層28Aと外周側の外周層28Bとで組成が異なるので、軸線Oからの距離に応じた周速の相違による切削特性の相違に応じた切削性能を切刃に与えることができ、層によって材質が異なる積層材等に切削加工を行う場合でも工具本体21の内周側での切刃27の欠損や外周側での切刃27の偏摩耗を防ぐことができる。
ただし、本実施形態のようなスクエアエンドミルでは、工具本体21先端の切刃27としての底刃27Aに上述のような傾斜(中低角)が与えられており、ランピング加工のように被削材を軸線O方向先端側に彫り込むような加工を行う場合以外の、工具本体21を軸線Oに直交する方向に送り出す通常の加工では、工具本体21内周側の中央部の底刃27Aは切削に使用されることは少ない。その一方で、工具本体21の外周側の底刃27Aおよび外周刃27Bによる切削は断続切削となるため、これらが被削材に食いつく度に衝撃的な切削負荷が作用する。
そこで、このような場合には、第1の実施形態の内周層8Aおよび外周層8Bの組成とは逆に、外周層28Bのダイヤモンド粒子に対するバインダーの添加量を内周層28Aよりも多くしたり、外周層28Bのダイヤモンド粒子の平均粒径を内周層28Aのダイヤモンド粒子の平均粒径よりも小さくしたりして、外周層28Bに高い耐衝撃性を与えるようにしてもよい。
また、被削材が積層材である場合などには、内周層28Aと外周層28Bとの間に中間層を設けて、この中間層と外周層28Bとに外周刃27Bが形成されるようにし、これら中間層と外周層28Bの軸線O方向の長さと組成を、被削材である積層材の各層の軸線O方向の長さと被削性に合わせたものとすることにより、このような被削材のトリミング加工を効果的に行うこともできる。
以下に、本発明の実施例を挙げて、本発明の効果について実証する。まず、第1の実施例では、上記第1の実施形態に基づく切刃7の直径が10mmの2種のドリルを製造し、厚さ10mmの炭素繊維強化プラスチック材と厚さ10mmのTi−6Al−4Vのチタン合金材とを積層した積層材に、切削速度15m/min、送り速度0.05mm/rev、湿式で穴あけ加工を行い、その寿命を判定した。これらを実施例1、2として、寿命の結果とともに表1に示す。
なお、実施例1のドリルは多結晶ダイヤモンド焼結体8が内周層8Aと外周層8Bの2層構造のものであり、実施例2のドリルは多結晶ダイヤモンド焼結体8が内周層8Aと外周層8Bと、その間の中間層との3層構造のものであり、各層のダイヤモンド粒子の平均粒径、バインダー(コバルト)の添加量を表1に合わせて示す。ここで、実施例1では内周層8Aと外周層8Bとの境界は軸線Oから0.4×Lの位置であり、実施例2では内周層8Aと中間層との境界は軸線Oから0.3×Lの位置、中間層と外周層8Bとの境界は軸線Oから0.6×Lの位置であった。また、寿命は、切刃7が欠損した場合は欠損するまでの穴数とするとともに、先端逃げ面6が摩耗した場合は、先端逃げ面6の摩耗幅を測定顕微鏡で測定して200μmに達した穴数を寿命とした。
さらに、これら実施例1、2に対する比較例として、多結晶ダイヤモンド焼結体が単層(例えば内周層8Aだけのもの)である一般的なドリルも製造し、実施例1、2と同じ条件で寿命を判定した。これを比較例1として、同じく表1に示す。従って、この比較例1では、境界は存在しない。
この表1の結果より、多結晶ダイヤモンド焼結体8が単層の比較例1では寿命の穴数が22穴であったのに対し、3層構造の実施例2では寿命の穴数が148穴、2層構造の実施例1では寿命の穴数が193穴と、6.7倍〜8.7倍もの寿命の延長を図ることができた。すなわち、ドリルの場合の第1の実施例では、実施例1のように多結晶ダイヤモンド焼結体8が2層構造で、内周層8Aが軸線Oから0.4×Lの位置にあり、外周層8Bは0.4×Lから1.0×Lにあり、内周層8Aはダイヤモンド粒子の平均粒径が4μm、コバルト添加量が5vol%、外周層8Bはダイヤモンド粒子の平均粒径が15μm、コバルト添加量が2.5vol%の場合に良好な結果が得られることが分かった。
次に、上記第2の実施形態に基づく切刃27の直径が10mmの2種のスクエアエンドミルを製造し、編み方および含有する樹脂が異なる2種の厚さ10mmの炭素繊維強化プラスチック材よりなる被削材に切削速度200mm/min、送り速度700mm/min、切り込み量1mm、エアブローによる乾式でトリミング加工を行い、その寿命を判定した。これらを実施例11、12として、各層のダイヤモンド粒子の平均粒径、バインダー(コバルト)の添加量を、表2に寿命の結果と合わせて示す。ここで、これら実施例11、12では内周層8Aと外周層8Bの境界は軸線Oから0.6×Lの位置であった。
ここで、第1の被削材が含有する樹脂は130度硬化型エポキシであり、編み方は1層毎に繊維の延びる方向が90°ずつずらされている。また、第2の被削材が含有する樹脂は180度硬化型エポキシであり、編み方は1層毎に繊維の延びる方向が0°、90°、+45°、−45°…−45°、+45°、90°、0°とずらされている。
なお、これら実施例11、12は多結晶ダイヤモンド焼結体28が内周層28Aと外周層28Bの2層構造のものである。また、判定の基準は実施例1、2および比較例1と同じであり、ただし摩耗については外周逃げ面26Bも含まれていて、切削長を寿命としている。
さらに、これら実施例11、12に対する比較例として、多結晶ダイヤモンド焼結体が単層(例えば内周層28Aだけのもの)である一般的なドリルも製造し、実施例11、12と同じ条件で寿命を判定した。これを比較例11として、同じく表2に示す。従って、この比較例11でも、境界は存在しない。
この表2の結果より、多結晶ダイヤモンド焼結体が単層の比較例11では寿命の切削長が64mであったのに対し、2層構造の実施例12では寿命の切削長が77m、実施例11では寿命の切削長が80mと、1.2倍〜1.25倍の延長を図ることができた。