発明の分野
本発明は、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に結合することのできる抗体分子およびその機能性フラグメントと、その製造方法と、その治療への利用に関する。
TNFαはホモ三量体炎症促進サイトカインであり、免疫系の細胞によって放出されて免疫系の細胞と相互作用する。TNFαは、多数のヒト疾患で上方調節されていることもわかっている。その疾患には、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症などの慢性疾患が含まれる。
TNFαに対する抗体が内毒素性ショックの予防と治療のために提案されている(Beutler他、Science、第234巻、470〜474ページ、1985年)。Bodmerら(Critical Care Medicine、第21巻、S441〜S446ページ1993年)とWherryら(Critical Care Medicine、第21巻、S436〜S440ページ、1993年)は、敗血症性ショックの治療における抗TNFα抗体の治療薬としての可能性を論じている。抗TNFα抗体を敗血症性ショックの治療に利用することは、Kirschenbaumら(Critical Care Medicine、第26巻、1625〜1626ページ、1998年)によっても論じられている。コラーゲンによって誘導される関節炎は、抗TNFαモノクローナル抗体を用いて効果的に治療することができる(Williams他(PNAS-USA、第89巻、9784〜9788ページ、1992年))。
抗TNFα抗体を関節リウマチとクローン病の治療に利用することは、Feldmanら(Transplantation Proceedings、第30巻、4126〜4127ページ、1998年)、Adoriniら(Trends in Immunology Today、第18巻、209〜211ページ、1997年)、Feldmanら(Advances in Immunology、第64巻、283〜350ページ、1997年)によって論じられている。そのような治療で以前に用いられたTNFαに対する抗体は、一般にキメラ抗体(例えばアメリカ合衆国特許第5,919,452号に記載されているもの)である。
TNFαに対するモノクローナル抗体が先行技術に記載されている。Meagerら(Hybridoma、第6巻、305〜311ページ、1987年)は、組み換えTNFαに対するマウスモノクローナル抗体を記載している。Fendlyら(Hybridoma、第6巻、359〜370ページ、1987年)は、組み換えTNFαに対するマウスモノクローナル抗体を用いてTNFα上のエピトープを中和することを記載している。さらに、国際特許出願WO 92/11383には、TNFαに対して特異的な組み換え抗体(CDRグラフィティング抗体を含む)が開示されている。Rankinら(British J. Rheumatology、第34巻、334〜342ページ、1995年)は、そのようなCDRグラフィティング抗体を関節リウマチの治療で用いることを記載している。アメリカ合衆国特許第5,919,452号には、抗TNFαキメラ抗体と、それを利用してTNFαの存在に関係する病変を治療することが開示されている。さらに、抗TNFα抗体は、Stephensら(Immunology、第85巻、668〜674ページ、1995年)、イギリス国特許出願公開第GB-A-2 246 570号、第GB-A-2 297 145号、アメリカ合衆国特許第 8,673,310号、アメリカ合衆国特許出願公開第2014/0193400号、欧州特許第EP 2 390 267 B1号、アメリカ合衆国特許第 8,293,235号、アメリカ合衆国特許第 8,697,074号、WO 2009/155723 A2、WO 2006/131013 A2に開示されている。
従来の組み換え抗TNFα抗体分子は、一般に、超可変領域またはCDRの由来源である抗体と比べてTNFαに対する親和性が低下している。現在市販されているTNFα阻害剤はすべて、毎週、またはそれよりも長い間隔でボーラス注射として静脈内投与されるか皮下投与される。その結果として、出発濃度が大きく、次回の注射までその濃度が着実に低下していく。
現在認可されている抗TNFα生物学的製剤に含まれるのは、(i)キメラIgG抗ヒトモノクローナル抗体であるインフリキシマブ(Remicade(登録商標);Wiekowski M他:「Infliximab (Remicade)」、『Handbook of Therapeutic Antibodies』、WILEY-VCH社;ヴァインハイム、2007年1月1日、885〜904ページ);(ii)IgG1 FcとのTNFR2二量体融合タンパク質であるエタナーセプト(Enbrel(登録商標));(iii)完全ヒトモノクローナル抗体(mAb)であるアダリムマブ(Humira(登録商標);Kupper H他:「Adalimumab (Humira)」、『Handbook of Therapeutic Antibodies』、WILEY-VCH社;ヴァインハイム、2007年1月1日、697〜732ページ);(iv)PEG化されたFabフラグメントであるセルトリズマブ(Cimzia(登録商標);Melmed G Y他:「Certolizumab pegol」、Nature Reviews. Drug Discovery、Nature Publishing Group、イギリス国、第7巻、第8号、2008年8月1日、641〜642ページ);(v)ヒトIgGIKモノクローナル抗体であるゴリムマブ(Simponi(登録商標);Mazumdar S他:「Golimumab s」、mAb、Landes Bioscience, US、第1巻、第5号、2009年9月1日、422〜431ページ)である。しかしさまざまなバイオシミラーが開発中であり、Remsimaとして知られるインフリキシマブのミミックが欧州ですでに認可されている。
インフリキシマブはL929アッセイにおいてTNFαに対する親和性が比較的小さい(KD>0.2 nM;Weir他、2006年、Therapy 第3巻:535ページ)ため、中和能力は限定されている。それに加え、インフリキシマブは、カニクイザルまたはアカゲザルからのTNFαとの交差反応性を実質的に示さない。しかし抗TNFα抗体にとって、サルからのTNFαと交差反応することが非常に望ましい。というのも、交差反応性があると、多くの側面でヒトでの状況を反映した動物試験を霊長類で実施できるからである。
エタナーセプトは2価の分子であるにもかかわらず、エタナーセプト1分子につき三量体1個の割合でTNFαに結合するため、大きな抗原-生物学的製剤複合体を形成することができない(Wallis、2008年、Lancet Infect Dis、第8巻:601ページ)。エタナーセプトは、単球内でLPSによって誘導されるサイトカインの分泌を抑制しない(Kirchner他、2004年、Cytokine、第28巻:67ページ)。
セルトリズマブの効力はインフリキシマブの効力よりもわずかに大きいが、それでも満足すべき効力ではない。セルトリズマブは、MLRの中でT細胞増殖を抑制しない(Vos他、2011年、Gastroenterology、第140巻:221ページ)。
欧州特許出願公開第EP2623515 A1号には、ヒト化抗TNFα抗体とその抗原結合(Fab)フラグメントが開示されている。開示されている実施例から明らかになるように、L929中和アッセイにおいて得られるヒト化Fabフラグメントの効力は、インフリキシマブの効力と同等である(表2と表5を参照されたい)。交差反応性に関して調べた抗TNFαIgG抗体だけが、アカゲザルTNFαに弱く結合する([0069];図3を参照のこと)。カニクイザルTNFαとの交差反応性は調べられていない。さらに、ヒトTNFβへの弱い結合が存在する(図3参照)。したがって欧州特許出願公開第EP2623515 A1号には、L929細胞においてTNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する効力がインフリキシマブの効力よりも大きくて、アカゲザルTNFαおよびカニクイザルTNFαと交差反応する抗TNFα抗体またはその機能性フラグメントは開示されていない。
WO 2012/007880 A2には、1つ以上の標的(例えばTNFα)に結合する1つ以上の単一抗原結合ドメインと、リンカーと、1つ以上のポリマー分子を含む融合タンパク質の形態の修飾された単一ドメイン抗原結合分子(SDAB)が開示されている。与えられている唯一の具体例はSDAB-01と名づけられており、可撓性リンカーで接続されていてTNFαに結合する2つの抗原結合ドメインと、部位特異的PEG化をサポートするC末端システインを含んでいる(図3参照)。WO 2012/007880 A2は、L929細胞系中和アッセイでSDAB-01の効力を既知のTNFα抗体(例えばインフリキシマブ)と比較しておらず、他のSDAB-01特異的パラメータ(例えばTNFα-TNFRI/II相互作用阻止の有効性、TNFβよりもTNFαのほうに結合する選択性)も評価していない。ヒトTNFαを過剰発現する多関節症のトランスジェニックマウスモデルでSDAB-01を用いた治療とインフリキシマブを用いた治療を比較するアッセイ(54ページ、実施例8参照)において、両者は、関節炎のさらなる進行を阻止するのに同様に有効であるように見える(例えば図17と図18)。しかしこの実施例に示されている用量は誤解を招く。というのもSDAB-01の分子量はインフリキシマブの分子量の半分未満だからである。したがってWO 2012/007880 A2には、L929細胞でTNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する効力がインフリキシマブの効力よりも大きい抗TNFα抗体は開示されていない。
WO 2015/144852 A1では、「scFv1」と名づけられた抗TNFαscFvの特性が調べられている。このscFvは、PK-15細胞アッセイにおいて、インフリキシマブに匹敵するTNFα中和能力を示した([0236]参照)。それに加え、このscFvは、アカゲザルとカニクイザルからのTNFαに対する交差反応性をいくらか有するように見える(実施例8参照)。親和性のデータは、WO 2015/144852 A1には報告されていない。しかし中程度の親和性(KD=157 pM;Urech他 2010年 Ann Rheum Dis 第69巻:443ページを参照されたい)しか持たないことが知られている一本鎖抗体フラグメントDLX105(ESBA 105としても知られる)は、scFv1よりもTNFαのほうに結合する(WO 2015/144852 A1の図1参照)。したがってWO 2015/144852 A1には、ヒトTNFαに対する大きな親和性(KD<125 pM)を持つ抗TNFα抗体は開示されていない。
WO 2015/065987 A1には、抗TNFα抗体と、抗IL-6抗体と、2つの抗原に結合する二重特異性抗体が記載されている。いくつかの抗TNFα抗体は、カニクイザルからのTNFαとの交差反応性をいくらか示した(図17)。しかしそれら抗TNFα抗体は、L929中和アッセイにおいてインフリキシマブよりも有意に小さな効力を示した([0152];図5)。したがってWO 2015/065987 A1には、L929細胞においてTNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する効力がインフリキシマブの効力よりも大きい抗TNFα抗体は開示されていない。
Drugs in R&D、第4巻、第 3号、2003年、174〜178ページには、親和性が大きなモノクローナル抗TNFα抗体として、ヒト化抗体「Humicade」(CDP 571;BAY 103356)が記載されている。しかしHumicadeがL929細胞の中でTNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する効力は限定されているように見える(例えばアメリカ合衆国特許出願公開US 2003/0199679 A1の[0189]を参照されたい)。したがってこの参考文献には、L929細胞においてTNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する効力がインフリキシマブの効力よりも大きい抗TNFα抗体は開示されていない。
Saldanha J W他:「Molecular Engineering I: Humanization」、『Handbook of Therapeutic Antibodies』、第6章、2007年1月1日、WILEY-VCH社、ヴァインハイム、119〜144ページには、モノクローナル抗体をヒト化するためのさまざまな戦略(CDRグラフティング、リサーフェシング/外装(veneering)、SDR移動・脱免疫化技術が含まれる)が開示されている。
慢性炎症性疾患(例えば炎症性腸疾患)を治療するための改善された抗体分子が必要とされている。その抗体分子は、少なくとも、(i)ヒトTNFαに対する大きな親和性(すなわちKD<1 nM、特に<100 pM)、(ii)L929細胞においてTNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する大きな効力、(iii)LPSによって誘導されるサイトカインの分泌を抑制する大きな効力、(iv)カニクイザルとアカゲザルからのTNFαに対する大きな親和性(例えばKD<1 nM)、(v)熱アンフォールディング実験で求まる可変ドメインの高い融解温度(例えばTmが少なくとも60℃、詳細には少なくとも63℃、より詳細には少なくとも66℃)を持たねばならない。
本出願の発明者は、いくつかの抗TNFα抗体とその機能性フラグメントが、2つ以上の好ましい特性の組み合わせを示すことを見いだした。好ましい特性に含まれるのは、ヒトTNFαに対する親和性が大きいこと(すなわちKD<1 nM、特に<100 pM)、および/またはL929細胞においてTNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する効力がインフリキシマブの効力と同等であること、特にその力価よりも大きいこと、および/またはLPSによって誘導されるサイトカインの分泌を抑制する効力がアダリムマブの効力よりも大きいこと、および/または動物(例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)および/またはアカゲザル(Macaca mulatta))からのTNFαに対する親和性が大きいこと(KD<1 nM)である。それに加え、その抗体とその機能性フラグメントは、可変ドメインの熱アンフォールディングアッセイで明らかになるように、TNFβへの結合が有意でなく、大きな安定性を示すという意味で、TNFαに対して特異的である。
本発明により、抗体分子とその機能性フラグメントが提供される。
したがって本発明は、以下に示す項目(1)〜(47)に規定した主題に関する。
(1)ヒト腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に結合することができて、(i)配列ID番号1に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR1領域と、配列ID番号2に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR2領域と、配列ID番号3に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメインと;(ii)配列ID番号4に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR1領域と、配列ID番号5に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR2領域と、配列ID番号6に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含む抗体またはその機能性フラグメント。
(2)(i)配列ID番号7に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR1領域と、配列ID番号2に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR2領域と、配列ID番号8に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメインと;(ii)配列ID番号9に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR1領域と、配列ID番号10に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR2領域と、配列ID番号11に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含む、項目(1)に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(3)配列ID番号12〜14に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列を有するVHドメインを含む、項目(1)〜(2)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(4)配列ID番号15〜17に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列を有するVLドメインを含む、項目(1)〜(3)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(5)ヒトTNFαに特異的に結合する、項目(1)〜(4)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(6)TNFβへの結合が有意でない、項目(1)〜(5)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(7)(i)1 nM未満、詳細には750 pM未満、より詳細には100 pM未満の解離定数(KD)でヒトTNFαに結合する;および/または
(ii)アカゲザルTNFαおよびカニクイザルTNFαと交差反応する;および/または
(iii)TNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する効力をL929アッセイによって求めるとき、インフリキシマブの効力の少なくとも10%であり、特にインフリキシマブの効力よりも大きい;および/または
(iv)化学量論(抗体:TNFα三量体)が少なくとも2でヒトTNFα三量体に結合することができる、項目(1)〜(6)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(8)100 pM未満、特に75 pM未満のKDでヒトTNFαに結合する、項目(1)〜(7)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(9)1 nM未満のKDでアカゲザルからのTNFαに結合する、項目(1)〜(8)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(10)1 nM未満のKDでカニクイザルからのTNFαに結合する、項目(1)〜(9)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(11)TNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する効力をL929アッセイで求めてインフリキシマブの効力と比較すると5超(相対効力)であり、その相対効力は、L929アッセイにおけるインフリキシマブのIC50値(単位はng/ml)に対するL929アッセイにおけるscFv形式の抗体のIC50値(単位はng/ml)の比である、項目(1)〜(10)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(12)scFv形式の前記抗体の可変ドメインの融解温度を示差走査蛍光定量法によって求めると少なくとも60℃である、項目(1)〜(11)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(13)scFv形式の前記抗体の可変ドメインの融解温度を示差走査蛍光定量法によって求めると少なくとも63℃である、項目(1)〜(12)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(14)scFv形式の前記抗体の可変ドメインの融解温度を示差走査蛍光定量法によって求めると少なくとも66℃である、項目(1)〜(13)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(15)単量体含量の損失が、5回の連続的凍結-解凍サイクルの後に0.2%未満である、項目(1)〜(14)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(16)単量体含量の損失が、4℃で、2日間保管した後に、詳細には少なくとも1週間保管した後に、より詳細には少なくとも2週間保管した後に、最も詳細には少なくとも4週間保管した後に1%未満である、項目(1)〜(15)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(17)ヒトTNFαとTNF受容体I(TNFRI)の間の相互作用を阻止する効力を抑制ELISAで求めてインフリキシマブの効力と比較すると少なくとも2(相対効力)であり、その相対効力は、scFv形式の抗体のIC50値(単位はng/ml)に対するインフリキシマブのIC50値(単位はng/ml)の比である、項目(1)〜(16)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(18)ヒトTNFαとTNF受容体II(TNFRII)の間の相互作用を阻止する効力を抑制ELISAで求めてインフリキシマブの効力と比較すると少なくとも2(相対効力)であり、その相対効力は、scFv形式の抗体のIC50値(単位はng/ml)に対するインフリキシマブのIC50値(単位はng/ml)の比である、項目(1)〜(17)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(19)混合リンパ球反応物の中で末梢血単球細胞の細胞増殖を抑制することができる、項目(1)〜(18)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(20)LPSによって誘導されてインターロイキン1βがCD14+単球から分泌されるのを抑制することができる、項目(1)〜(19)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(21)LPSによって誘導されるインターロイキン1βの分泌を抑制するIC50値が1 nM未満である、項目(20)に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(22)LPSによって誘導されるインターロイキン1βの分泌を抑制する前記IC50値が、モルベースでアダリムマブのIC50値よりも小さい、項目(21)に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(23)LPSによって誘導されてTNFαがCD14+単球から分泌されるのを抑制することができる、項目(1)〜(22)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(24)LPSによって誘導されるTNFαの分泌を抑制するIC50値が1 nM未満である、項目(23)に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(25)LPSによって誘導されるTNFαの分泌を抑制する前記IC50値が、モルベースでアダリムマブのIC50値よりも小さい、項目(24)に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(26)免疫グロブリンG(IgG)である、項目(1)〜(25)のいずれか1項に記載の抗体。
(27)一本鎖可変フラグメント(scFv)である、項目(1)〜(25)のいずれか1項に記載の機能性フラグメント。
(28)前記scFvが、配列ID番号18〜20に示したアミノ酸配列から選択されたアミノ酸配列を含むか、そのアミノ酸配列からなり、特に前記scFvが、配列ID番号20に示したアミノ酸配列から選択されたアミノ酸配列を含むか、そのアミノ酸配列からなる、項目(27)に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(29)二量体抗体(diabody)である、項目(1)〜(25)のいずれか1項に記載の機能性フラグメント。
(30)配列ID番号12〜14に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号14に示したアミノ酸配列を有するVHドメインと、配列ID番号15〜17に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号17に示したアミノ酸配列を有するVLドメインを含む抗体としてヒトTNFα上の実質的に同じエピトープに結合し、特に上記の項目(1)〜(25)で言及した特徴の1つ以上を示す抗体またはその機能性フラグメント。
(31)項目(1)〜(30)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメントにおいて、(i)その抗体またはその機能性フラグメントの軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域I〜IIIの中で、配列ID番号33〜35(表6参照)を持つそれぞれのヒトVκ1コンセンサス配列とは異なるアミノ酸の数と、(ii)その抗体またはその機能性フラグメントの軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域IVの中で、配列ID番号36〜39(表7参照)から選択された最もよく似たヒトλ生殖細胞系列に基づく配列とは異なるアミノ酸の数の和が7未満、好ましくは4未満である、抗体またはその機能性フラグメント。
(32)項目(1)〜(31)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメントにおいて、その抗体またはその機能性フラグメントの軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域I〜IIIが、配列ID番号33〜35を持つヒトVκ1コンセンサス配列からなり、フレームワーク領域IVが、配列ID番号36〜39から選択したヒトλ生殖細胞系列に基づく配列からなる、抗体またはその機能性フラグメント。
(33)項目(1)〜(32)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメントをコードする核酸。
(34)項目(33)の核酸を含むベクターまたはプラスミド。
(35)項目(33)の核酸を含むか、項目(34)のベクターまたはプラスミドを含む細胞。
(36)項目(1)〜(32)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメントを調製する方法であって、項目(35)に記載の細胞を、培地の中で、その抗体またはその機能性フラグメントをコードする核酸の発現を可能にする条件下にて培養し、その細胞またはその培地からその抗体またはその機能性フラグメントを回収することを含む方法。
(37)項目(1)〜(32)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメントと、場合によっては医薬として許容可能な基剤および/または賦形剤を含む医薬組成物。
(38)TNFαが関係する障害または疾患、特に炎症性の障害または疾患を治療する方法で利用するための、項目(1)〜(32)のいずれか1項に記載の抗体またはその機能性フラグメント。
(39)TNFαが関係する前記障害または疾患が、下記の「治療対象の障害」に列挙した疾患と障害のリストから選択される、項目(38)に従って利用するための、抗体またはその機能性フラグメント。
(40)項目(38)または(39)に記載した利用のための抗体またはその機能性フラグメントであって、前記方法が、その抗体またはその機能性フラグメントを対象に経口投与することを含む、抗体またはその機能性フラグメント。
ヒト化プロセスの概略図である。
scFv(2.5 g/l)の精製したヒト化scFv調製物のSE-HPLCクロマトグラム。単量体scFvは8.5〜9.5分の保持時間で溶離するのに対し、二量体scFvは、約7.8〜8.3分の保持時間で溶離し、緩衝液の諸成分は10分間が過ぎてから溶離する。カラムのデッドボリュームからそれぞれのscFv単量体までのすべてのピークを凝集体/オリゴマーとして積分し、相対ピーク面積の計算に用いた。
scFvコンストラクトのDSF測定からの熱アンフォールディング曲線。各コンストラクトについて2回反復した測定の結果を示す。得られたTm値は、データをボルツマン方程式にフィットさせて転移の中点を得ることによって求めた:16-19-B11-sc01: 67.8℃。
scFvコンストラクトのDSF測定からの熱アンフォールディング曲線。各コンストラクトについて2回反復した測定の結果を示す。得られたTm値は、データをボルツマン方程式にフィットさせて転移の中点を得ることによって求めた: 16-19-B11-sc02:66.4℃。
scFvコンストラクトのDSF測定からの熱アンフォールディング曲線。各コンストラクトについて2回反復した測定の結果を示す。得られたTm値は、データをボルツマン方程式にフィットさせて転移の中点を得ることによって求めた:16-19-B11-sc06: 64.6°C。
L929アッセイにおいてscFvがヒトTNFαを中和する効力。scFvと参照抗体インフリキシマブに関する用量-応答曲線を示す。scFvとインフリキシマブの最高濃度と陰性対照を、100%増殖と0%増殖に設定した。
L929アッセイにおいてscFvが非ヒト霊長類とヒトのTNFαを中和する効力。ヒト、カニクイザル、アカゲザルのTNFαの中和に関する用量-応答曲線を示す。scFvの最高濃度と陰性対照を、100%増殖と0%増殖に設定した。
抗TNF可変ドメイン16-19-B11-sc06を含む四重特異性抗体コンストラクトPRO357を用いたMATCH形式のTNF結合化学量論の決定を示す(特異性(3))。
抗TNF可変ドメイン16-19-B11-sc06を含む四重特異性抗体コンストラクトPRO357を用いたMATCH形式のTNF結合化学量論の決定を示す(特異性(3))。
発明の詳細な説明
本発明は、ヒトTNFαに結合することのできる抗体とその機能性フラグメントに関する。
本出願の文脈では、「抗体」という用語は、「免疫グロブリン」(Ig)の同義語として使用されていて、クラスIgG、IgM、IgE、IgA、IgD(またはその任意のサブクラス)に属するタンパク質と定義され、一般に知られているあらゆる抗体とその機能性フラグメントを含んでいる。本発明の文脈では、抗体/免疫グロブリンの「機能性フラグメント」は、親抗体の抗原結合フラグメントまたは他の誘導体であって、上記の項目(1)〜(40)で言及したような親抗体の特性の1つ以上を実質的に維持しているものと定義される。抗体/免疫グロブリンの「抗原結合フラグメント」は、抗原結合領域を保持しているフラグメント(例えばIgGの可変領域)と定義される。抗体の「抗原結合領域」は、典型的には、抗体の1つ以上の超可変領域、すなわちCDR-1、および/またはCDR-2、および/またはCDR-3の中に見いだされる。本発明の「抗原結合フラグメント」には、F(ab')2フラグメントとFabフラグメントのドメインが含まれる。本発明の「機能性フラグメント」には、scFv、dsFv、二量体抗体、三量体抗体(triabody)、四量体抗体(tetrabody)、Fc融合タンパク質が含まれる。F(ab')2またはFabを操作し、CH1ドメインとCLドメインの間で起こる分子間ジスルフィド相互作用を最小にするか完全になくすことができる。本発明の抗体または機能性フラグメントは、二機能性コンストラクトまたは多機能性コンストラクトの一部であってもよい。例えば抗体またはその機能性フラグメントは、例えば2価二量体抗体、F(ab')2、IgGにおけるように1つの結合特異性の多数のコピーを含むコンストラクトの形態、または4価四量体抗体、TandAbにおけるように4価のコンストラクトの形態にすることができる。あるいは抗体またはその機能性フラグメントは、例えば2つ以上の結合特異性を含む二重特異性二量体抗体や融合タンパク質におけるように、2つ以上の結合特異性を含むコンストラクトの一部であってもよい。最後に、抗体またはその機能性フラグメントは、抗体をベースとする1つ以上の結合ドメイン(本発明の抗体または機能性フラグメントが含まれる)や、抗体をベースとしない1つ以上の結合ドメイン(抗体をベースとしない標的ドメインやエフェクタードメイン、例えば毒素が含まれる)を含む多機能性コンストラクトの一部であってもよい。
本発明の好ましい機能性フラグメントは、scFvと二量体抗体である。
scFvは一本鎖Fvフラグメントであり、そのフラグメントでは、軽鎖可変ドメイン(「VL」)と重鎖可変ドメイン(「VH」)がペプチド架橋によって連結されている。
二量体抗体は、リンカーなどによって互いに接合された可変領域をそれぞれが有する2つのフラグメント(今後は二量体抗体形成フラグメントと呼ぶ)からなる二量体であり、典型的には、2つのVLと2つのVHを含有する。二量体抗体形成フラグメントには、VLとVH、VLとVL、VHとVHなどからなるフラグメントが含まれるが、VLとVHが好ましい。二量体抗体形成フラグメントでは、可変領域を接合するリンカーは特に限定されないが、同じフラグメント内の可変領域の間の非共有結合を回避するため十分に短いことが好ましい。そのようなリンカーの長さは、当業者が適切に決定することができるが、典型的にはアミノ酸が2〜14個、好ましくはアミノ酸が3〜9個、特にアミノ酸が4〜6個である。この場合、同じフラグメント上にコードされているVLとVHは、同じ鎖上のVLとVHの間の非共有結合を回避することと、一本鎖可変領域フラグメントの形成を回避することを目的として十分に短いリンカーを通じて接合されているため、別のフラグメントと二量体を形成することができる。二量体は、二量体抗体形成フラグメントの間の共有結合と非共有結合の一方または両方を通じて形成することができる。
さらに、二量体抗体形成フラグメントは、リンカーなどを通じて一本鎖二量体抗体(sc(Fv)2)を接合することができる。約15〜20個のアミノ酸という長いリンカーを用いて二量体抗体形成フラグメントを接合することにより、同じ鎖上に存在する二量体抗体形成フラグメントの間に非共有結合を形成して二量体を形成することができる。二量体抗体を調製するのと同じ原理に基づいて3つ以上の二量体抗体形成フラグメントを接合することによって重合した抗体(例えば三量体や四量体)も調製することができる。
本発明の抗体またはその機能性フラグメントは、TNFαに特異的に結合することが好ましい。本明細書では、抗体またはその機能性フラグメントがヒトTNFαを「特異的に認識する」、またはヒトTNFαに「特異的に結合する」のは、その抗体またはその機能性フラグメントがヒトTNFαと1つ以上の参照分子を識別できるときである。参照分子のそれぞれへの結合に関するIC50値は、特に実施例2の2.1.4項に記載してあるように、TNFαへの結合に関するIC50値よりも少なくとも1,000倍大きいことが好ましい。「特異的な結合」は、最も一般的な形態(と特定の参考文献に言及しない場合)では、例えば従来から知られている特異性アッセイ法に従って調べたとき、抗体または機能性フラグメントがヒトTNFαとそれとは無関係の生体分子を識別する能力を意味する。そのような方法の非限定的な例に含まれるのは、ウエスタンブロットとELISA試験である。例えば標準的なELISAアッセイを実施することができる。典型的には、結合特異性は、単一の参照生体分子ではなく、約3〜5個の無関係な生体分子(例えば粉乳、BSA、トランスフェリンなど)のセットを用いて判断する。一実施態様では、結合特異性は、抗体またはフラグメントがヒトTNFαとヒトTNFβを識別する能力を意味する。
本発明の抗体、または本発明の機能性フラグメントは、VLドメインとVHドメインを含んでいる。VLドメインは、1つのCDR1領域(CDRL1)、1つのCDR2領域(CDRL2)、1つのCDR3領域(CDRL3)、複数のフレームワーク領域を含んでいる。VHドメインは、1つのCDR1領域(CDRH1)、1つのCDR2領域(CDRH2)、1つのCDR3領域(CDRH3)、複数のフレームワーク領域を含んでいる。
「CDR」という用語は、抗体の可変領域の中にあって抗原の結合に主に寄与する6つの超可変領域のうちの1つを意味する。6つのCDRに関して最も一般的に用いられている定義の1つは、Kabat E. A. 他、(1991年)「免疫学的に興味あるタンパク質の配列」NIH Publication 91-3242に提示された。本明細書では、CDRに関するKabatの定義は、軽鎖可変領域のCDR1、CDR2、CDR3(CDR L1、CDR L2、CDR L3、またはL1、L2、L3)と、重鎖可変領域のCDR2、CDR3(CDR H2、CDR H3、またはH2、H3)にだけ当てはまる。しかし重鎖可変領域のCDR1(CDR H1またはH1)は、本明細書では、(Kabatの番号づけで)位置26から始まって位置36よりも前で終わる残基によって定義される。
VLドメインのCDR1領域は、配列ID番号1に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列からなる。VLドメインのCDR1領域は、配列ID番号7、配列ID番号21、配列ID番号22からなるグループから選択したアミノ酸配列からなることが好ましい。最も好ましいのは、VLドメインのCDR1領域が配列ID番号7からなることである。
VLドメインのCDR2領域は、配列ID番号2に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列からなる。
VLドメインのCDR3領域は、配列ID番号3に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列からなる。VLドメインのCDR3領域は、配列ID番号8、配列ID番号23、配列ID番号24からなるグループから選択したアミノ酸配列からなることが好ましい。最も好ましいのは、VLドメインのCDR3領域が配列ID番号8からなることである。
VHドメインのCDR1領域は、配列ID番号4に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列からなる。VHドメインのCDR1領域は、配列ID番号9、配列ID番号25、配列ID番号26からなるグループから選択したアミノ酸配列からなることが好ましい。最も好ましいのは、VHドメインのCDR1領域が配列ID番号9からなることである。
VHドメインのCDR2領域は、配列ID番号5に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列からなる。VHドメインのCDR2領域は、配列ID番号10、配列ID番号27、配列ID番号28からなるグループから選択したアミノ酸配列からなることが好ましい。最も好ましいのは、VHドメインのCDR2領域が配列ID番号10からなることである。
VHドメインのCDR3領域は、配列ID番号6に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列からなる。VHドメインのCDR3領域は、配列ID番号11と配列ID番号29からなるグループから選択したアミノ酸配列からなることが好ましい。最も好ましいのは、VHドメインのCDR3領域が配列ID番号11からなることである。
特別な一実施態様では、本発明の抗体、または本発明の機能性フラグメントは、(i)配列ID番号1に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR1領域と、配列ID番号2に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR2領域と、配列ID番号3に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメインと;(ii)配列ID番号4に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR1領域と、配列ID番号5に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR2領域と、配列ID番号6に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含んでいる。
特別な一実施態様では、本発明の抗体、または本発明の機能性フラグメントは、(i)配列ID番号7に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR1領域と、配列ID番号2に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR2領域と、配列ID番号8に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVLドメインと;(ii)配列ID番号9に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR1領域と、配列ID番号10に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR2領域と、配列ID番号11に示したアミノ酸配列に従うアミノ酸配列を有するCDR3領域を含むVHドメインを含んでいる。
より好ましい一実施態様では、本発明の抗体、または本発明の機能性フラグメントは、配列ID番号12〜14に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号14に示したアミノ酸配列を有するVHドメインを含んでいる。別のより好ましい一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、配列ID番号15〜17に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号17に示したアミノ酸配列を有するVLドメインを含んでいる。最も好ましいのは、本発明の抗体、または本発明の機能性フラグメントが、(i)配列ID番号12〜14に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号14に示したアミノ酸配列を有するVHドメインと、(ii)配列ID番号15〜17に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号17に示したアミノ酸配列を有するVLドメインを含んでいることである。
特別に好ましい一実施態様では、機能性フラグメントは、配列ID番号12〜14に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号14に示したアミノ酸配列を有するVHドメインと、配列ID番号15〜17に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号17に示したアミノ酸配列を有するVLドメインを含む一本鎖抗体(svFv)である。VHドメインとVLドメインは、ペプチドリンカーによって連結されることが好ましい。ペプチドリンカー(今後は「リンカーA」と呼ぶ)は、典型的には、長さが約10個〜約30個のアミノ酸、より好ましくは約15個〜約25個のアミノ酸である。リンカーAは、典型的にはGly残基とSer残基を含むが、他のアミノ酸も可能である。好ましい実施態様では、リンカーは、配列GGGGS(配列ID番号30)の多数回の繰り返しを含んでいる(例えば配列ID番号31に示したアミノ酸配列の連続した2〜6回、または3〜5回、または4回の繰り返し)。最も好ましいのは、リンカーAが配列ID番号32に示したアミノ酸配列からなることである。scFvは、以下の構造(N末端が左側、C末端が右側):
VL-リンカーA-VH;または
VH-リンカーA-VL
を持つ。
最も好ましいのは、機能性フラグメントが、配列ID番号18〜20から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号20に示したアミノ酸配列からなる一本鎖抗体(scFv)であることである。
別の特に好ましい一実施態様では、機能性フラグメントは、配列ID番号12〜14に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号14に示したアミノ酸配列を有するVHドメインと、配列ID番号15〜17に示したアミノ酸配列から選択したアミノ酸配列、特に配列ID番号17に示したアミノ酸配列を有するVLドメインを含む二量体抗体である。VHドメインとVLドメインは、ペプチドリンカーによって連結されることが好ましい。ペプチドリンカー(今後は「リンカーB」と呼ぶ)は、長さが約2個〜約10個のアミノ酸、より好ましくは約5個のアミノ酸であることが好ましい。リンカーBは、典型的にはGly残基とSer残基を含むが、他のアミノ酸も可能である。最も好ましいのは、リンカーBが配列ID番号30に示したアミノ酸配列からなることである。
二量体抗体は、二重特異性二量体抗体であること、すなわち2つのエピトープに向かうことが好ましい。二量体抗体は、ホモ二量体であることが好ましい。二量体抗体として、互いに非共有結合した2本のポリペプチド鎖のヘテロ二量体が可能である。2本の単量体鎖として、以下の構造(*は第2の特異性を示す):
VL-リンカーB-VH*とVL*-リンカーB-VH;または
VH-リンカーB-VL*とVH*-リンカーB-VL;または
VL-リンカーB-VL*とVH*-リンカーB-VH;または
VL*-リンカーB-VLとVH-リンカーB-VH*
を持つポリペプチド鎖が可能である。
さらに、二量体抗体形成フラグメントは、リンカーAなどを通じて接合して一本鎖二量体抗体(sc(Fv)2)を形成することができる。約15〜20個のアミノ酸からなる長いリンカーを用いて二量体抗体形成フラグメントを接合することにより、同じ鎖上に存在する二量体抗体形成フラグメントの間に非共有結合を形成して二量体を形成することができる。一本鎖二量体抗体の配置の例には以下のものが含まれる。
VH-リンカーB-VL*-リンカーA-VH-リンカーB-VL
VL-リンカーB-VH-リンカーA-VL-リンカーB-VH
本発明の二量体抗体は、以下の構造:
VL-リンカーB -VH-リンカーA-VL-リンカーB-VH
を持つことが好ましい。
リンカーBは、配列ID番号30に示したアミノ酸配列からなること、および/またはリンカーAは、配列ID番号32に示したアミノ酸配列からなることが好ましい。最も好ましいのは、リンカーBが配列ID番号30に示したアミノ酸配列からなり、かつリンカーAが配列ID番号32に示したアミノ酸配列からなることである。
二量体抗体を調製するのと同じ原理に基づき、3つ以上の二量体抗体形成フラグメントを接合することによって重合した抗体(例えば三量体または四量体)を形成することもできる。
別の特別な一実施態様では、本発明の抗体は、免疫グロブリン、好ましくは免疫グロブリンG(IgG)である。本発明のIgGのサブクラスは限定されず、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれる。本発明のIgGは、サブクラス1、すなわちIgG1分子であることが好ましい。
親和性
本発明の抗体または機能性フラグメントは、ヒトTNFαに対する大きな親和性を有する。「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を意味する。典型的には、本発明の抗体または機能性フラグメントは、例えばBIACORE装置で表面プラズモン共鳴(SPR)技術を利用して求めた解離平衡定数(KD)が、約2×10-10M、好ましくは1×10-10M未満、好ましくは5×10-11M未満またはそれ未満でヒトTNFαに結合する。具体的には、KDは、実施例2、2.1.1項に記載されているようにして求める。
カニクイザルまたはアカゲザルからのTNFαに対する交差反応性
特別な実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、動物(例えばカニクイザル(Macaca fascicularis)および/またはアカゲザル(Macaca mulatta))からのTNFαに対する大きな親和性を有する。これは有利である。というのも抗TNFα抗体の臨床前試験(例えば毒性研究)は、そのような動物を用いて実施することが好ましいからである。したがって本発明の抗体または機能性フラグメントは、動物(例えばカニクイザルおよび/またはアカゲザル)からのTNFαと交差反応することが好ましい。親和性の測定は、実施例2、2.1.1項に記載されているようにして実施する。
一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、カニクイザルからのTNFαと交差反応する。本発明の抗体または機能性フラグメントは、カニクイザルに対する親和性が、ヒトTNFαに対する親和性と20倍未満、特に10倍未満、それどころか特に5倍未満異なっていることが好ましい。典型的には、本発明の抗体または機能性フラグメントは、カニクイザルからのTNFαに、(i)カニクイザルからのTNFαに対する結合に関するKDの(ii)ヒトTNFαに対する結合に関するKDに対する比Rカニクイザルが20未満となる解離平衡定数(KD)で結合する。
Rカニクイザルは、20未満、特に10未満であることが好ましく、5未満であることがより一層好ましい。
別の一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、アカゲザルからのTNFαと交差反応する。本発明の抗体または機能性フラグメントは、アカゲザルのTNFαに対する親和性が、ヒトTNFαに対する親和性と20倍未満、より詳細には10倍未満異なっていることが好ましい。典型的には、本発明の抗体または機能性フラグメントは、アカゲザルからのTNFαに、(i)アカゲザルからのTNFαに対する結合に関するKDの(ii)ヒトTNFαに対する結合に関するKDに対する比Rアカゲザルが20未満となる解離平衡定数(KD)で結合する。
Rアカゲザルは、20未満、特に10未満であることが好ましい。
さらに別の一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、カニクイザルからのTNFαおよびアカゲザルからのTNFαと交差反応する。本発明の抗体または機能性フラグメントは、カニクイザルTNFαに対する親和性が、ヒトTNFαに対する親和性と20倍未満、特に10倍未満異なっていることが好ましく、それどころか5倍未満異なっていることがより好ましく、アカゲザルのTNFαに対する親和性が、ヒトTNFαに対する親和性と20未満、特に10未満異なっていることが好ましい。抗体または機能性フラグメントの比Rカニクイザルは、20未満、特に10未満であることが好ましく、それどころか5未満であることがより一層好ましく、抗体または機能性フラグメントの比Rアカゲザルは、20未満、特に10未満であることが好ましい。
TNFαによって誘導されるL929細胞のアポトーシスを抑制する効力
本発明の抗体または機能性フラグメントは、TNFαによって誘導されるL929細胞のアポトーシスを抑制する効力が大きく、既知の抗体であるインフリキシマブの効力の少なくとも10%である。特別な一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、TNFαによって誘導されるL929細胞のアポトーシスを抑制する効力がインフリキシマブの効力よりも大きい。
インフリキシマブと比較した効力は、本出願の実施例2、2.1.2項に記載されているL929アッセイで求めることができる。本発明の抗体または機能性フラグメントの相対効力は、インフリキシマブの効力の少なくとも10%であり、特にインフリキシマブの効力よりも大きく、1.5よりも大きいことが好ましく、2よりも大きいことが好ましく、3よりも大きいことがさらに好ましく、5よりも大きいことがさらに好ましく、7.5よりも大きいことがさらに好ましく、それどころか10よりも大きい。ただし相対効力は、(i)L929アッセイにおけるインフリキシマブのIC50値の(ii)L929アッセイにおける本発明の抗体または機能性フラグメントのIC50値に対する比であり、IC50は、TNFαによって誘導されるL929細胞のアポトーシスの50%抑制を達成するのに必要な各分子の濃度(単位はng/ml)を示している。
別の一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントの相対効力は、インフリキシマブの効力の少なくとも10%であり、特にインフリキシマブの効力よりも大きく、1.5よりも大きいことが好ましく、2よりも大きいことが好ましく、3よりも大きいことがさらに好ましく、5よりも大きいことがさらに好ましく、7.5よりも大きいことがさらに好ましく、それどころか10よりも大きい。ただし相対効力は、(i)L929アッセイにおけるインフリキシマブのIC90値の(ii)L929アッセイにおける本発明の抗体またはその機能性フラグメントのIC90値に対する比であり、IC90は、TNFαによって誘導されるL929細胞のアポトーシスの90%抑制を達成するのに必要な各分子の濃度(単位はng/ml)を示している。
LPSによって誘導されるサイトカイン分泌の抑制
典型的には、本発明の抗体または機能性フラグメントは、LPSによって誘導される単球からのサイトカインの分泌を抑制することができる。LPSによって誘導される単球からのサイトカインの分泌は、実施例7に記載されているようにして求めることができる。
一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、LPSによって誘導されるCD14+単球からのインターロイキン-1βの分泌を抑制することができる。LPSによって誘導されるインターロイキン-1βの分泌抑制に関するIC50値は、1 nM未満および/または100 pg/ml未満であることが好ましい。LPSによって誘導されるインターロイキン-1βの分泌抑制に関するIC50値は、モルベースおよび/または体積当たりの重量ベースで、アダリムマブのIC50値よりも小さいことが好ましい。
別の一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、LPSによって誘導されるCD14+単球からのTNFαの分泌を抑制することができる。LPSによって誘導されるTNFαの分泌抑制に関するIC50値は、1 nM未満および/または150 pg/ml未満であることが好ましい。LPSによって誘導されるTNFαの分泌抑制に関するIC50値は、モルベースおよび/または体積当たりの重量ベースで、アダリムマブのIC50値よりも小さいことが好ましい。
細胞増殖の抑制
本発明の抗体または機能性フラグメントは、典型的には、混合リンパ球反応物の中の末梢血単球細胞の細胞増殖を抑制することができる。細胞増殖の抑制は、実施例6に記載されているようにして求めることができる。本発明の抗体または機能性フラグメント(例えばscFvまたは二量体抗体)の刺激指数は、実施例6に従って求めると、5未満であることが好ましく、4.5未満であることがより好ましい。特別な実施態様では、本発明の抗体(例えばIgG)の刺激指数は、4未満、それどころか3未満である。
TNFαとTNFα受容体の間の相互作用の抑制
典型的には、本発明の抗体または機能性フラグメントは、ヒトTNFαとTNFα受容体I(TNFRI)の間の相互作用を抑制することができる。ヒトTNFαとTNFRIの間の相互作用の抑制は、下記の実施例2、2.1.3項に記載されているようにして抑制ELISAで求めることができる。
本発明の抗体または機能性フラグメントがヒトTNFαとTNFRIの間の相互作用を抑制する効力は、抑制ELISAで求めると、インフリキシマブの効力と比べて(相対効力)少なくとも2であることが好ましい。ただしその相対効力は、抗体またはその機能性フラグメントのIC50値(単位はng/ml)に対するインフリキシマブのIC50値(単位はng/ml)の比である。
典型的には、本発明の抗体または機能性フラグメントは、ヒトTNFαとTNFα受容体II(TNFRII)の間の相互作用を抑制することができる。ヒトTNFαとTNFRIIの間の相互作用の抑制は、下記の実施例2、2.1.3項に記載されているようにして抑制ELISAで求めることができる。
本発明の抗体または機能性フラグメントがヒトTNFαとTNFRIIの間の相互作用を抑制する効力は、抑制ELISAで求めると、インフリキシマブの効力と比べて(相対効力)少なくとも2であることが好ましく、少なくとも3であることがより好ましい。ただしその相対効力は、抗体またはその機能性フラグメントのIC50値(単位はng/ml)に対するインフリキシマブのIC50値(単位はng/ml)の比である。
化学量論と架橋
本発明の抗体または機能性フラグメントは、典型的には、ヒトTNFα三量体に、少なくとも2という化学量論(抗体:TNFα三量体)で結合することができる。化学量論(抗体:TNFα三量体)は、2よりも大きいこと、または少なくとも2.5、または少なくとも3であることが好ましい。一実施態様では、化学量論(抗体:TNFα三量体)は約3である。化学量論(抗体:TNFα三量体)は、下記の実施例4に記載されているようにして求めることができる。
別の一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、ヒトTNFαと複合体を形成することができる。その複合体は、ヒトTNFαを少なくとも2分子と、抗体または機能性フラグメントを少なくとも3分子含んでいる。この実施態様の機能性フラグメントは、TNFαのための少なくとも2つの別々の結合部位(例えば二量体抗体)を含んでいる。複合体の形成は、下記の実施例5に記載されているようにして明らかにすることができる。
一実施態様では、抗体はIgGであり、TNFαと少なくとも600 kDaの複合体を形成することができる。別の一実施態様では、機能性フラグメントは二量体抗体であり、TNFαと少なくとも300 kDaの複合体を形成することができる。
標的選択性
いくつかの実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、大きな標的選択性を有する。すなわちTNFαとTNFβを識別することができる。実施例2、2.1.4項に記載したようにして競合ELISAで求めたTNFβのIC50値は、TNFαのIC50値よりも少なくとも1,000倍大きいことが好ましい。実施例2、2.1.4項に記載したようにして競合ELISAで求めたTNFβのIC50値は、TNFαのIC50値よりも少なくとも5,000倍大きいことがより好ましく、少なくとも10,000倍大きいことが最も好ましい。
発現収率とリフォールディング収率
別の実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメント(scFvまたは二量体抗体が好ましい)は、微生物(例えば細菌)または他の細胞の中で、高収率で組み換え発現させることができる。実施例2に記載したようにして求められる大腸菌の中での発現収率は、少なくとも0.25 g/lであることが好ましい。このことは、特にscFvなどの機能性フラグメントに当てはまる。
実施例2に記載したようにして求められるリフォールディング収率は、少なくとも5 mg/lであり、少なくとも10 mg/lであることがより好ましく、少なくとも15 mg/lであることがより好ましく、少なくとも20 mg/lであることが最も好ましい。このことは、特にscFvなどの機能性フラグメントに当てはまる。
安定性
典型的には、本発明の抗体または機能性フラグメント、好ましくはscFvまたは二量体抗体は、大きな安定性を有することが好ましい。安定性は、さまざまな方法で評価することができる。本発明の抗体または機能性フラグメントの可変ドメインの「融解温度」Tmは、実施例2、2.2.4項に記載したように示差走査蛍光定量法(DSF)によって求めると、少なくとも60℃であることが好ましく、少なくとも63℃であることがより好ましく、少なくとも66℃であることが最も好ましい。本明細書では、「可変ドメインの融解温度」は、配列VL-リンカーA-VHからなるscFvの融解温度を意味する(ただしリンカーAのアミノ酸配列は、配列ID番号32のアミノ酸配列からなる)。例えばscFvとは異なる形式の抗体(例えばIgG)の可変ドメインの融解温度は、上に定義した対応するscFvの融解温度と定義される。
4℃で4週間保管した後の単量体含量(濃度10 g/l;初期単量体含量95%超)の損失を実施例2、2.2.5項に記載した分析サイズ排除クロマトグラフィによって求めると、5%未満であることが好ましく、3%未満であることがより好ましく、1%未満であることがより好ましく、0.5%未満であることが最も好ましい。-20℃で4週間保管した後の単量体含量(濃度10 g/l;初期単量体含量95%超)の損失を実施例2、2.2.5項に記載した分析サイズ排除クロマトグラフィによって求めると、5%未満であることが好ましく、3%未満であることがより好ましく、1%未満であることがより好ましく、0.5%未満であることが最も好ましい。-65℃で4週間保管した後の単量体含量(濃度10 g/l;初期単量体含量95%超)の損失を実施例2、2.2.5項に記載した分析サイズ排除クロマトグラフィによって求めると、5%未満であることが好ましく、3%未満であることがより好ましく、1%未満であることがより好ましく、0.5%未満であることが最も好ましい。
連続した5回の凍結-解凍サイクルの後の単量体の損失は、実施例2に記載されているようにして求めると、5%未満であり、1%未満であることがより好ましく、0.5%未満であることがより好ましく、0.2%未満(例えば0.1%または0.0%)であることが最も好ましい。
抗体と機能性フラグメント
本発明の特別な実施態様は、本明細書に記載した抗体の機能性フラグメントに関する。機能性フラグメントの非限定的な例に含まれるのは、F(ab')2フラグメント、Fabフラグメント、scFv、二量体抗体、三量体抗体、四量体抗体である。機能性フラグメントは、一本鎖抗体(scFv)または二量体抗体であることが好ましい。scFvまたは二量体抗体の非CDR配列はヒト配列であることがより好ましい。
ヒトで免疫原性の可能性を最少にするため、選択する受容体足場は、ヒトコンセンサス配列またはヒト生殖細胞系列配列に由来するフレームワーク領域で構成することが好ましい。特に、軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域I〜IIIは、配列ID番号33〜35のヒトVκ1コンセンサス配列と、配列ID番号36〜39から選択したλ生殖細胞系列配列のフレームワーク領域IVからなる。ヒトコンセンサス残基またはヒト生殖細胞系列残基ではない残基は免疫反応を引き起こす可能性があるため、各可変ドメイン(VHまたはVL)内のそのような残基の数はできるだけ少なくする必要があり、7個未満が好ましく、4個未満がより好ましく、0個であることが最も好ましい。
抗体はモノクローナル抗体であることが好ましい。本明細書では、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術を通じて作製された抗体に限定されない。「モノクローナル抗体」という用語は、単一のクローンに由来する抗体を意味し、真核生物のクローン、原核生物のクローン、ファージのクローンをすべて含んでいて、それを作製する方法は問わない。モノクローナル抗体は本分野で知られている多彩な技術を利用して調製することができ、その技術には、ハイブリドーマ技術、組み換え技術、ファージ提示技術や、これらの組み合わせが含まれる。(HarlowとLane、『Antibodies, A Laboratory Manual』CSH Press社 1988年、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク州)。
ヒトにおける抗TNFα抗体の生体内利用に関する実施態様を含む別の実施態様では、キメラ抗体、霊長類化抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体のいずれかを用いることができる。好ましい一実施態様では、抗体は、ヒト抗体またはヒト化抗体であり、より好ましいのはモノクローナルヒト抗体またはモノクローナルヒト化抗体である。
本明細書では、「キメラ抗体」という用語は、非ヒト免疫グロブリンに由来する可変配列(例えばラットまたはマウスの抗体)と、典型的にはヒト免疫グロブリン鋳型から選択したヒト免疫グロブリン定常領域を有する抗体を意味する。キメラ抗体を作製する方法は本分野で知られている。例えばMorrison、1985年、Science 第229巻(4719):1202〜1207ページ;Oi他、1986年、BioTechniques 第4巻:214〜221ページ;Gillies他、1985年、J. Immunol. Methods第125巻:191〜202ページ;アメリカ合衆国特許第5,807,715号;第4,816,567号;第4,816397号を参照されたい。なおこれらの全内容が参照によって本明細書に組み込まれている。
当業者は、さまざまな組み換え法を利用して非ヒト(例えばマウス)抗体をよりヒトらしくすることができるが、そのとき、そのような非ヒト免疫グロブリンに由来する最少配列を含有する免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはそのフラグメント(例えばFv、Fab、Fab'、F(ab')2や、抗体の他の標的結合部分配列)をさまざまな組み換え法を利用して作製することによってヒトらしくする。一般に、得られる組み換え抗体は、少なくとも1つ(典型的には2つ)の可変ドメインの実質的にすべてを含んでいて、その可変ドメインでは、CDR領域のすべての、または実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域のすべての、または実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列(特にヒト免疫グロブリンコンセンサス配列)のFR領域になっているであろう。CDRグラフィティング抗体は、非ヒト種で元々生成させた抗体に由来していて望む抗原に結合する1つ以上の相補性決定領域(CDR)と、ヒト免疫グロブリン分子からのフレームワーク(FR)領域を有する抗体分子である(欧州特許第EP239400号;PCT公開WO 91/09967;アメリカ合衆国特許第5,225,539号;第5,530,101号;第5,585,089号)。「ヒト化」と呼ばれるプロセスでは、ヒトフレームワーク領域内のフレームワーク残基がCDRドナー抗体からの対応する残基でさらに置換されて抗原の結合が変化する(好ましくは改善される)ことがしばしばある。これらフレームワーク置換は、本分野において周知の方法によって同定される(例えばCDRとフレームワーク残基の相互作用をモデル化して抗原の結合にとって重要なフレームワーク残基を同定することによって、または配列を比較して特定の位置の例外的なフレームワーク残基を同定することによって同定される)。例えばRiechmann他、1988年、Nature第332巻:323〜327ページと、Queen他、アメリカ合衆国特許第5,530,101号;第5,585,089号;第5,693,761号;第5,693,762号;第6,180,370号を参照されたい(そのそれぞれの内容全体が参照によって組み込まれている)。抗体は、本分野で知られている多彩な追加技術を用いてよりヒトらしくすることができる。そのような技術に含まれるのは、例えば、外装またはリサーフェシング(欧州特許第EP592106号;第EP519596号;Padlan、1991年、MoI. Immunol、第28巻:489〜498ページ;Studnicka他、1994年、Prot. Eng. 第7巻:805〜814ページ;Roguska他、1994年、Proc. Natl. Acad. Sci. 第91巻:969〜973ページ)や鎖シャッフリング(アメリカ合衆国特許第5,565,332号)であり、これらの内容全体が参照によって本明細書に組み込まれている。CDRグラフィティング抗体またはヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)(典型的には選択されたヒト免疫グロブリン鋳型のFc)の少なくとも一部も含むことができる。
いくつかの実施態様では、ヒト化抗体は、Queen他、アメリカ合衆国特許第5,530,101号;第5,585,089号;第5,693,761号;第5,693,762号;第6,180,370号(そのぞれぞれの内容全体が参照によって組み込まれている)に記載されているようにして調製される。
いくつかの実施態様では、抗TNFα抗体はヒト抗体である。完全な「ヒト」抗TNFα抗体は、ヒト患者の治療にとって望ましい可能性がある。本明細書で「ヒト抗体」に含まれるのは、ヒト免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体、ヒト免疫グロブリンライブラリから単離された抗体、1つ以上のヒト免疫グロブリンに関するトランスジェニック動物であって、内在性免疫グロブリンを発現しない動物から単離された抗体である。ヒト抗体は、本分野で知られている多彩な方法によって作製することができ、方法には、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリを用いる上記のファージ提示法が含まれる。アメリカ合衆国特許第4,444,887号と第4,716,111号;PCT公開WO 98/46645;WO 98/50433;WO 98/24893;WO 98/16654;WO 96/34096;WO 96/33735;WO 91/10741を参照されたい(そのそれぞれの内容全体が、参照によって本明細書に組み込まれている)。ヒト抗体は、機能する内在性免疫グロブリンを発現することはできないがヒト免疫グロブリン遺伝子は発現することのできるトランスジェニックマウスを用いて作製することもできる。例えばPCT公開WO 98/24893;WO 92/01047;WO 96/34096;WO 96/33735;アメリカ合衆国特許第5,413,923号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,569,825号;第5,661,016号;第5,545,806号;第5,814,318号;第5,885,793号;第5,916,771号;第5,939,598号を参照されたい(これらの内容全体が、参照によって本明細書に組み込まれている)。選択されたエピトープを認識する完全なヒト抗体は、「ガイドされた選択」と呼ばれる技術を利用して作製することができる。このアプローチでは、選択された非ヒトモノクローナル抗体(例えばマウス抗体)を用い、同じエピトープを認識する完全なヒト抗体の選択をガイドする(Jespers他、1988年、Biotechnology第12巻:899〜903ページ)。
いくつかの実施態様では、抗TNFα抗体は霊長類化抗体である。「霊長類化抗体」という用語は、サルの可変領域とヒトの定常領域を含む抗体を意味する。霊長類化抗体を作製する方法は本分野で知られている。例えばアメリカ合衆国特許第5,658,570号;第5,681,722号;第5,693,780号を参照されたい(これらの内容全体が、参照によって本明細書に組み込まれている)。
いくつかの実施態様では、抗TNFα抗体は誘導体化抗体である。その非限定的な例は、グリコシル化、アセチル化、PEG化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/阻止基による誘導体化、タンパク質溶解開裂、細胞リガンドや他のタンパク質への連結などによって修飾された誘導体化抗体である(抗体複合体の説明に関しては下記参照)。多数ある化学的修飾のうちのどれかを既知の技術によって実施することができる。そのような技術の非限定的な例に含まれるのは、化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成などである。それに加え、誘導体は、1つ以上の非古典的アミノ酸を含有することができる。
さらに別の側面では、抗TNFα抗体は、その1つ以上の超可変領域に挿入された1個以上のアミノ酸を有する。これについては例えばアメリカ合衆国特許出願公開第2007/0280931号に記載されている。
抗体複合体
いくつかの実施態様では、抗TNFα抗体は抗体複合体である。その抗体複合体は、例えば任意のタイプの分子を抗体に共有結合させることによって修飾されているが、その共有結合がTNFαへの結合に干渉することのないようにされている。エフェクタ部分を抗体に共役させるための技術は本分野で周知である(例えばHellstrom他、『Controlled Drag Delivery』、第2版の623〜653ページ(Robinson他編、1987年));Thorpe他、1982年、Immunol. Rev. 第62巻:119〜158ページ;Dubowchik他、1999年、Pharmacology and Therapeutics第83巻:67〜123ページを参照されたい)。
一例では、抗体またはそのフラグメントは、場合によってはN末端またはC末端の位置で共有結合(例えばペプチド結合)を通じて別のタンパク質のアミノ酸配列(またはその一部;そのタンパク質の少なくとも10個、または20個、または50個のアミノ酸部分が好ましい)に融合される。抗体またはそのフラグメントは、その抗体の定常ドメインのN末端の位置で別のタンパク質に連結されることが好ましい。例えばWO 86/01533と欧州特許第EP0392745号に記載されているように、組み換えDNA手続きを利用してそのような融合体を作製することができる。別の一例では、エフェクタ分子が生体内半減期を長くすることができる。このタイプのエフェクタ分子の適切な例に含まれるのは、WO 2005/117984に記載されているようなポリマー、アルブミン、アルブミン結合タンパク質、アルブミン結合化合物である。
いくつかの実施態様では、抗TNFα抗体は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)部分に付着させることができる。例えば抗体が抗体フラグメントである場合には、その抗体フラグメントの中に位置する利用可能な任意のアミノ酸側鎖または末端アミノ酸官能基(例えば自由な任意のアミノ基、イミノ基、チオール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基)を通じてPEG部分を付着させることができる。そのようなアミノ酸は、抗体フラグメントの中に自然に生じることもあれば、組み換えDNA法を利用してフラグメントの中に生じさせることもできる。例えばアメリカ合衆国特許第5,219,996号を参照されたい。多数の部位を利用して2つ以上のPEG分子を付着させることができる。PEG部分は、抗体フラグメントの中に位置する少なくとも1つのシステイン残基のチオール基を通じて共有結合されることが好ましい。チオール基を付着点として用いる場合には、適切に活性化されたエフェクタ部分(例えばマレイミドなどのチオール選択誘導体や、システイン誘導体)を用いることができる。
別の一例では、抗TNFα抗体複合体は修飾されたFab'であり、そのFab'は、例えば欧州特許第EP0948544号に開示されている方法に従ってPEG化されている(すなわちPEG(ポリ(エチレングリコール))が共有結合している)。『Poly(ethyleneglycol) Chemistry, Biotechnical and Biomedical Applications』(J. Milton Harris(編)、Plenum Press社、ニューヨーク、1992年);『Poly(ethyleneglycol) Chemistry and Biological Applications』(J. Milton HarrisとS. Zalipsky, 編、American Chemical Society、ワシントンD. C、1997年);『Bioconjugation Protein Coupling Techniques for the Biomedical Sciences』(M. AslamとA. Dent編、Grove Publishers社、ニューヨーク、1998年);Chapman、2002年、Advanced Drug Delivery Reviews 第54巻:531〜545ページも参照されたい。
医薬組成物と治療
疾患の治療には、何らかの臨床段階にあるか何らかの臨床徴候を示す何らかの形態の疾患を持つとすでに診断されている患者を治療すること;および/または疾患の症状または兆候の開始または進行または重症化または悪化を遅延させること;および/または疾患の予防および/または疾患の重篤度を下げることが包含される。
抗TNFα抗体またはその機能性フラグメントを投与される「対象」または「患者」として、哺乳動物、例えば非霊長類(例えばウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットなど)または霊長類(例えばサル、ヒト)が可能である。いくつかの側面では、ヒトは小児患者である。別の側面では、ヒトは成人患者である。
抗TNFα抗体と、場合によっては1つ以上の追加治療剤(例えば下記の第2の治療剤)を含む組成物を本明細書で説明する。組成物は、典型的には、医薬として許容可能な基剤を含む無菌医薬組成物の一部として供給される。この組成物は、(患者に投与する望ましい方法が何であるかに応じた)適切な任意の形態にすることができる。
抗TNFα抗体と機能性フラグメントは、多彩な経路(例えば経口、経皮、皮下、鼻腔内、静脈内、筋肉内、髄腔内、局所)で患者に投与することができる。所与のケースに最も適した投与経路は、具体的な抗体、対象、疾患の性質と重篤度、対象の物理的状態に依存することになろう。典型的には、抗TNFα抗体またはその機能性フラグメントは、静脈内投与されることになろう。
特に好ましい一実施態様では、本発明の抗体または機能性フラグメントは、経口投与される。投与が経口経路を通じてなされる場合には、機能性フラグメントは、一本鎖抗体(scFv)、二量体抗体、IgGのいずれかが好ましい。
典型的な実施態様では、抗TNFα抗体または機能性フラグメントが、体重1 kgにつき0.5 mg〜20 mgで静脈内投与できるようにするのに十分な濃度で医薬組成物の中に存在している。いくつかの実施態様では、本明細書に記載した組成物と方法で用いるのに適した抗体またはフラグメントの濃度の非限定的な例に含まれるのは、0.5 mg/kg、0.75 mg/kg、1 mg/kg、2 mg/kg、2.5 mg/kg、3 mg/kg、4 mg/kg、5 mg/kg、6 mg/kg、7 mg/kg、8 mg/kg、9 mg/kg、10 mg/kg、11 mg/kg、12 mg/kg、13 mg/kg、14 mg/kg、15 mg/kg、16 mg/kg、17 mg/kg、18 mg/kg、19 mg/kg、20 mg/kg、またはこれらのうちの任意の値の間の値、例えば1 mg/kg〜10 mg/kg、または5 mg/kg〜15 mg/kg、または10 mg/kg〜18 mg/kgである。
抗TNFα抗体または機能性フラグメントの有効用量は、治療対象の疾患、投与経路、対象の年齢、体重、状態に応じ、1回(例えばボーラス)の投与、または多数回の投与、または連続投与で約0.001〜約750 mg/kgの範囲にすること、すなわち1回(例えばボーラス)の投与、または多数回の投与、または連続投与で0.01〜5000μg/mlの血清濃度を実現すること、またはこの範囲内の任意の有効な範囲または値にすることができる。いくつかの実施態様では、各用量は、体重1 kgにつき約0.5 mg〜約50 mg、または体重1 kgにつき約3 mg〜約30 mgの範囲にすることができる。抗体は水溶液として製剤にすることができる。
医薬組成物は、1回の投与ごとに所定量の抗TNFα抗体または機能性フラグメントを含有する剤形で提供できると便利である。このようなユニットは例えば0.5 mg〜5 gを含有できるが、それに限定されることはなく、1 mg、10 mg、20 mg、30 mg、40 mg、50 mg、100 mg、200 mg、300 mg、400 mg、500 mg、750 mg、1000 mg、またはこれらの任意の2つの値の間の任意の範囲、例えば10 mg〜1000 mg、または20 mg〜50 mg、または30 mg〜300 mgを含有することができる。医薬として許容可能な基剤は、例えば治療対象の疾患または投与経路に応じて多彩な形態を取ることができる。
抗TNFα抗体またはその機能性フラグメントの有効用量、全投与回数、それを用いた治療期間の決定は、十分に当業者の能力範囲であり、標準的な漸増研究を利用して決定することができる。
本明細書に記載した方法に適した抗TNFα抗体と機能性フラグメントの治療用製剤は、凍結乾燥製剤または水溶液として保管できるよう、望む純度を持つ抗体を、場合によっては本分野で典型的に使用される医薬として許容可能な基剤、または賦形剤、または安定剤と混合すること、すなわち緩衝剤、安定剤、保存剤、等張剤、非イオン性洗浄剤、抗酸化剤、他のさまざまな添加剤(これらすべてを本明細書では「基剤」と呼ぶ)と混合することによって調製することができる。『Remington's Pharmaceutical Sciences』、第16版(Osol編 1980年)を参照されたい。このような添加剤は、使用する用量と濃度ではレシピエントにとって非毒性でなければならない。
緩衝剤は、pHをほぼ生理学的条件の範囲に維持するのに役立つ。緩衝剤は、約2 mM〜約50 mMの範囲の濃度で存在することができる。適切な緩衝剤には、有機酸と無機酸の両方とその塩が含まれ、例えば、クエン酸塩緩衝液(例えばクエン酸一ナトリウム-クエン酸二ナトリウム混合物、クエン酸-クエン酸三ナトリウム混合物、クエン酸-クエン酸一ナトリウム混合物など)、コハク酸塩緩衝液(例えばコハク酸-コハク酸一ナトリウム混合物、コハク酸-水酸化ナトリウム混合物、コハク酸-コハク酸二ナトリウム混合物など)、酒石酸塩緩衝液(例えば酒石酸-酒石酸ナトリウム混合物、酒石酸-酒石酸カリウム混合物、酒石酸-水酸化ナトリウム混合物など)、フマル酸塩緩衝液(例えばフマル酸-フマル酸一ナトリウム混合物、フマル酸-フマル酸二ナトリウム混合物、フマル酸一ナトリウム-フマル酸二ナトリウム混合物など)、グルコン酸塩緩衝液(例えばグルコン酸-グルコン酸ナトリウム混合物、グルコン酸-水酸化ナトリウム混合物、グルコン酸-グルコン酸カリウム混合物など)、シュウ酸塩緩衝液(例えばシュウ酸-シュウ酸ナトリウム混合物、シュウ酸-水酸化ナトリウム混合物、シュウ酸-シュウ酸カリウム混合物など)、乳酸塩緩衝液(例えば乳酸-乳酸ナトリウム混合物、乳酸-水酸化ナトリウム混合物、乳酸-乳酸カリウム混合物など)、酢酸塩緩衝液(例えば酢酸-酢酸ナトリウム混合物、酢酸-水酸化ナトリウム混合物など)がある。それに加え、リン酸塩緩衝液、ヒスチジン緩衝液、トリメチルアミン塩(例えばトリス)を用いることができる。
保存剤を添加して微生物の増殖を遅延させることができ、保存剤は0.2%〜1%(w/v)の範囲の量で添加することができる。適切な保存剤に含まれるのは、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ハロゲン化(例えば塩化、臭化、ヨウ化)ベンザルコニウム、塩化ヘキサメトニウム、アルキルパラベン(例えばメチルパラベン、プロピルパラベン)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノールである。時に「安定剤」として知られる等張剤を添加して液体組成物の等張性を保証することができる。等張剤に含まれるのは、多価糖アルコール(3価またはより多価の糖アルコールが好ましい)である例えばグリセリン、エリトリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトールである。安定剤は広い範囲の賦形剤を意味し、機能が、増量剤から、治療剤を溶解させる添加剤、変性の阻止を助ける添加剤、容器の壁への接着の阻止を助ける添加剤までにわたる可能性がある。典型的な安定剤として、多価糖アルコール(上記のもの);アミノ酸(アルギニン、リシン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アラニン、オルニチン、L-ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸、トレオニンなど)、有機糖または糖アルコール(例えばラクトース、トレハロース、スタキオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、リビトール、ミオイニシトール、ガラクチトール、グリセロールなどであり、その中には、イノシトールなどのシクリトールが含まれる);ポリエチレングリコール;アミノ酸ポリマー;イオウ含有還元剤(尿素、グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール、チオ硫酸ナトリウムなど);低分子量ポリペプチド(例えば10個以下の残基からなるペプチド);タンパク質(ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなど);親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど);単糖(キシロース、マンノース、フルクトース、グルコースなど);二糖(ラクトース、マルトース、スクロースなど)、三糖(ラフィノースなど);多糖(デキストランなど)が可能である。安定剤は、1重量部の活性タンパク質につき0.1〜10,000重量部の範囲で存在することができる。
非イオン性界面活性剤または洗浄剤(「湿潤剤」としても知られる)を添加して治療剤を可溶性にするとともに、治療用タンパク質が撹拌によって誘導される凝集から保護するのを助けることができる。そうすることで、製剤を、タンパク質の変性を引き起こすことなく剪断表面応力に曝露することも可能になる。適切な非イオン性界面活性剤に含まれるのは、ポリソルベート(20、80など)、ポリオキサマー(184、188など)、プルロニックポリオール、ポリオキシエチレンソルビタンモノエーテル(トゥイーン(登録商標)-20、トゥイーン(登録商標)-80など)である。非イオン性界面活性剤は、約0.05 mg/ml〜約1.0 mg/mlの範囲、または約0.07 mg/ml〜約0.2 mg/mlの範囲で存在することができる。
追加のさまざまな賦形剤に含まれるのは、増量剤(例えばデンプン)、キレート剤(例えばEDTA)、抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、メチオニン、ビタミンE)、プロテアーゼ阻害剤、共溶媒である。
本明細書の製剤は、抗TNFα抗体またはその機能性フラグメントに加え、第2の治療剤も含有することができる。適切な第2の治療剤の例は下に提示する。
投与計画は、多数の臨床因子(疾患のタイプ、疾患の重篤度、抗TNFα抗体または機能性フラグメントに対する患者の感度)に応じて1ヶ月に1回から毎日までの可能性がある。特別な実施態様では、抗TNFα抗体またはその機能性フラグメントは、毎日、1週間に2回、1週間に3回、2日に1回、5日に1回、10日に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、1ヶ月に1回、またはこれらの任意の2つの値に挟まれた任意の範囲(例えば4日に1回〜毎日、または10日に1回〜2週間に1回、または1週間に2〜3回など)投与される。
投与する抗TNFα抗体または機能性フラグメントの用量は、具体的な抗体、対象、疾患の性質と重篤度、対象の物理的状態、治療計画(例えば第2の治療剤を使用するかどうか)、選択した投与経路によって変わるであろうが、適切な用量は、当業者が容易に決定することができる。
抗TNFα抗体またはその機能性フラグメントの個々の投与の最適量と間隔は、治療対象の疾患の性質と状態、投与の形態、経路、部位、個々の治療対象の年齢と状態によって判断されることと、使用する最適な用量を医師が最終的に判断することを当業者は認識しているであろう。投与は、適切な回数繰り返すことができる。副作用が生じる場合には、通常の臨床上の慣行に従って投与の量および/または頻度を変えるか減らすことができる。
治療対象の障害
本発明は、対象におけるヒトTNFαに関係する疾患を治療または予防する方法に関するものであり、この方法は、その対象に本明細書に規定した抗体または機能性フラグメントを投与することを含んでいる。「TNFαに関係する障害」または「TNFαに関係する疾患」という用語は、症状または疾患状態の開始、進行、持続にTNFαの関与が必要とされるあらゆる障害を意味する。TNFαに関係する障害の非限定的な例に含まれるのは、慢性状態および/または自己免疫状態の炎症全般、免疫が関与する炎症性障害全般、炎症性CNS疾患、炎症性疾患で、目、関節、皮膚、粘膜、膜、中枢神経系、胃腸管、尿管、肺を冒すもの、ぶどう膜炎の状態全般、網膜炎、HLA-B27+ぶどう膜炎、ベーチェット病、ドライアイ症候群、緑内障、シェーグレン症候群、糖尿病(糖尿病性ニューロパチーを含む)、インスリン抵抗性、関節炎の状態全般、関節リウマチ、変形性関節炎、反応性関節炎とライター症候群、若年性関節炎、強直性脊椎炎、多発性硬化症、ギラン-バレー症候群、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症、サルコイドーシス、糸球体腎炎、慢性腎臓疾患、膀胱炎、乾癬(乾癬性関節炎を含む)、化膿性汗腺炎、脂肪織炎、壊疽性膿皮症、SAPHO症候群(滑膜炎、ざ瘡、膿疱症、過骨症、骨炎)、ざ瘡、スウィート病、天疱瘡、クローン病(腸外の徴候を含む)、潰瘍性大腸炎、気管支喘息、過敏性肺臓炎、一般的なアレルギー、アレルギー性鼻炎、アレルギー性副鼻腔炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、ウェゲナー肉芽腫症、川崎病、巨細胞性動脈炎、チャーグ-ストラウス症候群、結節性多発動脈炎、火傷、移植片対宿主病、宿主対移植片反応、臓器または骨髄の移植後の拒絶エピソード、全身状態と局所状態の血管炎全般、 全身性エリテマトーデスと皮膚エリテマトーデス、 多発性筋炎と皮膚筋炎、強皮症、子癇前症、急性と慢性の膵臓炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、目の手術(例えば白内障(目の硝子体の交換)または緑内障の手術)後などの手術後炎症、関節手術(関節鏡視下手術を含む)、関節関連構造(例えば靭帯)の部位の手術、口および/または歯の手術、最少侵襲性心臓血管手術(例えばPTCA、アテローム切除、ステント交換)、腹腔鏡および/または内視鏡での腹部内と婦人科の手術、内視鏡泌尿器科手術(例えば前立腺手術、尿管鏡検査、膀胱鏡検査、間質性膀胱炎)、周術期炎症(予防)全般、水疱性皮膚炎、好中球性皮膚炎、中毒性表皮壊死症、膿疱性皮膚炎、脳性マラリア、溶血性尿毒症症候群、同種移植片拒絶、中耳炎、ヘビ咬傷、結節性紅斑、骨髄異形成症候群、原発性硬化性胆管炎、血清反応陰性脊椎関節炎、自己免疫性溶血性貧血、口腔顔面肉芽腫、増殖性化膿性口内炎、アフタ性口内炎、地図状舌、移動性口内炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ベル麻痺、クロイツフェルト-ヤコブ病、神経変性病全般である。
がんに関係する骨溶解、がんに関係する炎症、がんに関係する疼痛、がんに関係する悪液質、骨転移、急性と慢性の形態の疼痛が含まれ、これらが、TNFαの中枢効果または末梢効果によって起こるかどうかや、炎症性疼痛、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、座骨神経痛、腰痛、手根管症候群、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、痛風、帯状疱疹後神経痛、線維筋痛症、局所疼痛状態、転移性腫瘍に起因する慢性疼痛症候群、月経困難症に分類されるかどうかとは関係がない。
具体的な治療対象の障害に含まれるのは、関節炎の状態全般、関節リウマチ、変形性関節症、反応性関節炎、若年性関節炎;乾癬(乾癬性関節炎を含む);炎症性腸疾患(クローン病を含む)、潰瘍性大腸炎(直腸炎、S状結腸炎、左側大腸炎、広範囲の大腸炎、全大腸炎を含む)、鑑別できない大腸炎、顕微鏡的大腸炎(膠原線維性大腸炎、リンパ球性大腸炎、結合組織疾患における大腸炎、空置性大腸炎、憩室症における大腸炎、好酸球性大腸炎、回腸嚢炎を含む)である。
併用療法と他の側面
抗TNFα抗体またはその機能性フラグメントで治療する対象の患者は、従来からある別の薬でも治療することが好ましい。例えば炎症性腸疾患を患っている患者は、特に中程度から重度の疾患を有する場合、一般にメサラジン、またはその誘導体、またはそのプロドラッグ、コルチコステロイド(例えばブデソニド、プレドニゾロン(経口または静脈内))、免疫抑制剤(例えばアザチオプリン/6-メルカプトプリン(6-MP)またはメトトレキサート、シクロスポリンまたはタクロリムス)でも治療されている。患者に同時に投与することのできる他の薬に含まれるのは、生物製剤(例えばインフリキシマブ、アダリムマブ、エタナーセプト、セルトリズマブペゴールなど)である。患者に同時に投与することのできるさらに別の薬には、安定かつより長期の寛解を維持するための免疫抑制剤(例えばアザチオプリン/6-MP、メトトレキサート、経口シクロスポリン)が含まれる。本発明のさらに別の1つの側面は、上記の抗TNFα抗体または機能性フラグメントを利用した炎症の軽減である。
本発明のさらに別の側面は、炎症性疾患を患っている患者の炎症を軽減するのに用いるための、上記の抗TNFα抗体または機能性フラグメントである。
本発明のさらに別の側面は、炎症性疾患を治療する方法であり、この方法は、治療を必要とする患者に、上記の抗TNFα抗体または機能性フラグメントの有効量を投与することを含んでいる。炎症性疾患は、上記の疾患の1つであることが好ましい。
本発明のさらに別の側面は、炎症性疾患を予防する方法であり、この方法は、予防を必要とする患者に、上記の抗TNFα抗体または機能性フラグメントの有効量を投与することを含んでいる。炎症性疾患は、上記の疾患の1つであることが好ましい。
実施例1:ヒトTNFαに対するウサギ抗体の作製
1.結果
1.1 免疫化
精製した組み換えヒトTNFα(Peprotech社、カタログ番号300-01A)でウサギを免疫化した。免疫化の間、抗原に対するポリクローナル血清抗体の検出可能な結合がまだ生じている各ウサギの血清の最大希釈度(力価)を求めることにより、抗原に対する液性免疫反応の強さを定量的に評価した。酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA、2.2.1参照)を利用し、免疫化された組み換えヒトTNFαに対する血清抗体力価を評価した。3羽のウサギすべてが10×106倍希釈の血清で非常に大きな力価を示し、ELISAで(バックグラウンド対照として用いたナイーブな無関係の動物からの血清で得られた信号よりも少なくとも3倍大きい)陽性信号がまだ得られた。それに加え、マウスL929細胞に基づくアッセイを利用し、異なるウサギ血清がTNFαの生物活性を抑制する能力を評価した(2.2.3参照)。3つの血清すべてが、TNFαによって誘導されるマウスL929線維芽細胞のアポトーシスを抑制した。ウサギ#3が最も強力な中和活性を示し、1:155,000の血清希釈度で50%抑制(IC50)に達した。ウサギ#2とウサギ#1は、ウサギ#3と比べてそれぞれ約1/3の活性と約1/21の活性を示し、1:55,500と1:7,210の血清希釈度で50%抑制に達した。
3羽のウサギすべての脾臓から単離したリンパ球を、その後のヒット同定手続きで使用するために選択した。L929アッセイにおいてTNFαの生物活性を抑制する効力に基づいてウサギに優先順位をつけた。したがって培養したヒットの数はウサギ#3に由来するものが最多であり、ウサギ#1に由来するものが最少であった。
1.2 ヒットの同定
1.2.1 ヒットのソーティング
ヒット同定手続きの前にフローサイトメトリーに基づくソーティング手続きを開発し、高親和性TNFα結合B細胞を特異的に検出して単離できるようにした(2.1参照)。
3羽のウサギすべてに由来する合計で33×106個のリンパ球(単離した全リンパ球の1.5%に対応)を2回の独立なソーティングキャンペーンで特徴づけた。分析した33×106個のリンパ球から、TNFα特異的抗体(IgG)を発現する合計3452個のB細胞を単離した。クローニングしたリンパ球の数は3羽のウサギで異なっていた。というのも、L929アッセイにおいて血清がTNFαの強い抑制を示したウサギからはより多くの細胞を単離したからである。単離したB細胞のうちで792個のクローンはウサギ#1に由来するものであり、1144個のクローンはウサギ#2に由来するものであり、1408個のクローンはウサギ#3に由来するものであった。108個のクローンに関しては出所となるウサギがわからない。なぜならそれらクローンは、バイアルから少量のリンパ球をできるだけ回収できるようにするため3羽のウサギすべてからの残ったリンパ球を混合した物に由来するからである。
1.2.2 ヒットのスクリーニング
スクリーニング段階で得られた結果は、抗体分泌細胞(ASC)の培養物上清からの精製していない抗体で実施したアッセイに基づいている。というものハイスループット培養のスケールでは個々のウサギ抗体の精製ができないからである。そのような上清を用いて多数の抗体を互いにランク付けしたが、結合親和性を除いて(例えばTNFαの生物活性の抑制に関する)絶対値は得られなかった。ASCの上清を、組み換えヒトTNFαへの結合に関してハイスループットELISAでスクリーニングした。TNFαに結合する上清を、カニクイザルTNFαへの結合に関してはELISAと結合キネティクスによって、ヒトTNFαの生物活性を中和する能力に関してはL929アッセイでさらに特徴づけた。ハイスループットスクリーニングで報告された値は、結合キネティクスを除き、「肯定」または「否定」による回答として解釈されるべきである(それらの回答は、単一の点での測定(用量-応答ではない)に基づいている)。カニクイザルとマウスのTNFαに対する親和性を、抗体の重鎖と軽鎖の可変ドメインを増幅してシークエンシングするために選択した合計102個のクローンで分析した。
1.2.2.1 ヒトTNFαへの結合
一次スクリーニングの目的は、ヒトTNFαに対して特異的な抗体を産生するASCクローンを同定することである。その目的で、3452個のASCクローンの細胞培養物の上清をELISAによって分析し、ヒトTNFαに対する抗体の存在を探した(2.2.1参照)。利用したELISA法では、組み換えヒトTNFαに結合するIgGサブタイプの抗体の「量」が評価されるが、抗体の親和性や濃度に関する情報は得られない。このアッセイでは、894個のASCクローンからの上清が、明らかにバックグラウンドよりも大きい信号を発生させた。スクリーニングにおけるヒット率は、ウサギ#1とウサギ#2では同程度であり、ウサギ#1から同定された792個のうちの153ヒット(19.3%)と、ウサギ#2から同定された1144個のうちの225ヒット(19.7%)であった。ウサギ#3は、34.4%と有意に大きいヒット率を示し、1408個のうちで484個のヒットが同定された。この一次スクリーニングで同定された合計894個のヒットに対してSPRによる結合キネティクスの測定を実施した(二次スクリーニング)。
1.2.2.2 TNFα結合キネティクス
二次スクリーニングの目的は、表面プラズモン共鳴(SPR、2.2.2参照)により、一次スクリーニングからの各ヒットについて、標的への結合の質に関する定量情報を得ることである。一次スクリーニングで利用したELISAとは異なり、この方法では標的への結合のキネティクスを時間の関数として評価する。こうすることで、抗体が対応する標的と会合する速度定数(ka)と、抗体が対応する標的から解離する速度定数(kd)を求めることができる。比kd/kaから、抗体の対応する標的に対する親和性を反映する平衡解離定数(KD)が得られる。一次スクリーニングで同定された894個のヒットのうちで、839個のモノクローナルウサギ抗体についてヒトTNFαに対する結合親和性を求めることができた。残る55個の抗体では親和性を測定することができなかった。なぜならASC上清中の抗体濃度が、各設定でのSPR装置の検出限界未満だったからである。測定できた839個の抗TNFα抗体は、1.36×10-13M〜1.14×10-8M 未満の範囲の解離定数(KD)を示した。分析した全抗体の69%で、KDが0.5 nM未満であった。
スクリーニングでウサギ#2とウサギ#3から同定されたヒットに関する2.21×10-10Mと2.09×10-10MというKD中央値は似た値であったのに対し、ウサギ#1は約2倍大きな値を示し、KD中央値は4.65×10-10Mであった。中和スクリーニングでのヒットだけを考えると、親和性の分布は3羽のウサギすべてで同様であり、KD中央値はより小さな値であった(KD中央値は1.4×10-10M〜1.27×10-10M)。ウサギ#1、#2、#3のスクリーニングでのヒットの5%で、それぞれ0.041 nM未満、0.029 nM未満、0.026 nM未満の親和性が測定された。上清の2%では、親和性はさらに小さいピコモルの範囲であった(6.2 pM未満、7.9 pM未満、11 pM未満)。二次スクリーニングから得られる高親和性抗体の収率が優れていることで、ヒト化と再構成(reformatting)のための最適な抗体を選択するための広い土台が提供される。
1.2.2.3 効力
効力を評価するため、細胞に基づくアッセイ(L929アッセイ)を開発した(2.2.3参照)。選択された894個の抗体のうちの506個(56.6%)が、L929アッセイにおいて、TNFαによって誘導されるアポトーシスを50%超抑制した。力価分析の間に得られた結果と一致するように、中和スクリーニングでのヒットの割合が最高だったのはウサギ#3でヒット率が62.8%であり、次いでウサギ#2ではヒット率が56.4%であり、ウサギ#1ではヒット率が最低で39.9%であった。これら中和抗体の親和性は、1.36×10-13M〜1.19×10-9Mの範囲であった。
1.2.2.4 種交差反応性(カニクイザル)
一次スクリーニングで同定された894個のヒットすべてでカニクイザルTNFαに対する交差反応性を分析した(2.2.1参照)。この追加スクリーニングの目的は、カニクイザルTNFαと交差反応することが知られているASCクローンを選択できるようにすることである。利用したELISA法によって組み換えカニクイザルTNFαに結合するIgGサブタイプの抗体の「量」が評価されるが、抗体の親和性または濃度に関する情報は得られない。414個(46%)のASCクローンからの上清が、明確な信号(光学密度(OD)≧1)を出した。カニクイザルTNFαと交差反応するヒットの割合はウサギ#1とウサギ#3で同様であり、ウサギ#1から同定された153個のうちの81ヒット(52.9%)、ウサギ#3から同定された484個のうちの236ヒット(48.8%)であった。ウサギ#2は交差反応するヒットの割合がわずかに小さい37.8%であり、225個のうちの82ヒットであった。
1.2.2.5 RT-PCRのためのクローンの選択
ヒットの確認、遺伝子配列の分析、その後のウサギ抗体のヒト化のための前提条件として、ウサギ抗体可変ドメインをコードする遺伝子情報を回収する必要がある。これは、それぞれのメッセンジャーRNAを相補的DNA(cDNA)に逆転写(RT)した後、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって二本鎖DNAを増幅することによって実現した。RT-PCRを実施するASCクローンの選択は、主に親和性と中和活性に基づいていた。追加の基準として、カニクイザルTNFαに対する交差反応性を考慮した。合計で102個のASCクローンが、RT-PCRによる遺伝子クローニング用に選択された。最初に、(親和性に関して)KDが80 pM未満であってL929アッセイにおいてTNFαの活性を50%超抑制し、カニクイザルTNFαへの有意な結合を示した最高ランクの93個のASCを選択した。それに加え、KDが20 pM未満であってTNFα活性を50%超中和したが、それでもカニクイザルTNFαには結合しなかった9つの最高ランクのASCクローンも選択した。それぞれのウサギ#1、#2、#3からの合計で12個、13個、66個のASCクローンの増幅とシークエンシングに成功した。
1.2.2.6 望む特性を持つ関連するクローンの同定
単離されたASCクローンの遺伝的多様性を特徴づけるため、相補性決定領域(CDR)の配列を抽出し、多重配列アラインメントを実施することで、系統発生ツリーの中での配列クラスター化が可能になるようにした。
この分析により、ヒト化と再構成の実験へと進むクローン配列のさまざまなセットを選択することが可能になる一方で、ウサギで一般的な親B細胞クローンを共有するように見えるクローン配列の相同クラスターも同定される。これら配列クラスターの特徴は、CDRにおける大きな配列相同性と、薬力学特性の一貫したパターンである。これらの特徴の両方を、4つのクローンのクラスターについて表2と表3にまとめてある。この配列クラスターの機能が保存されているにもかかわらず、表3のコンセンサス配列から、CDRのある程度の変動性が許容されていて、それでも望む薬力学プロファイルになることが明らかになる。
1.2.2.7 (SPRによる)カニクイザルとマウスのTNFαに対する交差反応性
TNFαを強力に中和した高親和性ヒットの数が多いという理由で、RT-PCRを実施したすべてのウサギモノクローナル抗体について種交差反応性を評価し、ヒットを確認するためのASCクローンの選択が容易になるようにした。カニクイザルTNFαへの親和性を、上に記載したのと同様にしてSPR測定によって求めた(2.2.2も参照のこと)。カニクイザルTNFαに関して試験した93個の抗体の親和性は、9.6×10-12M〜2.1×10-9Mの範囲であった。その93個の交差反応性抗体のうちの38個が、ヒトとカニクイザルのTNFαに似た親和性で結合した(KDの差が2倍未満)。さらに、ヒトとカニクイザルの間の親和性の差は、その93個の交差反応性抗体のうちの79個で20倍未満であり、そのうちの62個で10倍未満であった。そのためこれら抗体をカニクイザルでの臨床前開発で受け入れることができる。
2.方法
2.1 ソーティングアッセイ
Lalor ら(Eur J Immunol.1992年;第22巻:3001〜3011ページ)が概説しているようにしてフローサイトメトリーに基づくソーティング手続きを実施し、抗原特異的B細胞をウサギリンパ組織から単離した。
2.2 スクリーニングアッセイ
2.2.1 TNFα結合ELISA(ヒトとカニクイザルのTNFα)
組み換えヒトTNFα(Peprotech社、カタログ番号300-01)で96ウエルの微量滴定ELISAプレートを覆った。固定化されたTNFαへのASC培養物上清の中のウサギ抗体の結合を、HRPで標識した二次抗ウサギIgG(JacksonImmuno Research社、カタログ番号111-035-046)によって検出した。TMB基質(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン、KPL社、カタログ番号53-00-00)を添加した後、発色反応をH2SO4の添加によって停止させた。微量滴定プレート読み取り機(Infinity reader M200 Pro、Tecan社)を用いて波長450 nmでプレートを読み取った。
市販の陽性対照抗TNFαウサギポリクローナル抗体(AbD Serotec社、カタログ番号9295-0174)によってスクリーニングキャンペーン中のアッセイの性能をモニタした。その目的で、各スクリーニングプレート上でその陽性対照抗体を100 ng/mlと250 ng/mlで2回反復してテストした。陽性対照の反応のロバストさと正確さを各プレートについてモニタした。最終アッセイ条件では、バックグラウンドに対する信号の比は、250 ng/mlの陽性対照では30〜40であり、その陽性対照の変動係数(CV)は10%未満であった。250 ng/mlの陽性対照と比べて光学密度が100%以上の信号を一次スクリーニングのヒットと見なした。
血清の力価を求めるため、ELISAの設定を上に記載したのと同じにした。免疫血清の結合信号がナイーブな無関係なウサギの信号と比べて少なくとも3倍大きいとき、血清希釈物を陽性であると見なした。
上に記載したのと同様のELISAを利用してカニクイザルに対する種交差反応性を調べた。組み換えカニクイザルTNFα(Sino Biological社、カタログ番号90018-CNAE)で96ウエルの微量滴定ELISAプレートを覆った。固定化されたカニクイザルTNFαへのASC培養物上清の中のウサギ抗体の結合を、HRPで標識した上記の二次抗体によって検出した。ウサギ#2からの免疫血清を1:80,000と1:320,000の希釈度で陽性対照として用いた。陽性対照の反応のロバストさと正確さを各プレートについてモニタした。最終アッセイ条件では、バックグラウンドに対する信号の比は、1:80,000の希釈度の陽性対照では30〜40であり、その陽性対照のCVは10%未満であった。
2.2.2 SPRによるTNFαへの結合キネティクス(ヒト、カニクイザル)
MASS-1 SPR装置(Sierra Sensors社)を用い、ヒトTNFαに対する抗体の結合親和性を表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定した。この装置の性能を、標準参照溶液によってと、参照抗体-抗原相互作用(例えばインフリキシマブ- TNFα相互作用)の分析によって定性評価した。
親和性スクリーニングのため、ウサギIgGのFc領域に対して特異的な抗体(Bethyl Laboratories社、カタログ番号A120-111A)を、標準的なアミンカップリング手続きを利用してセンサーチップ(SPR-2 Affinity Sensor、High Capacity Amine、Sierra Sensors社)の表面に固定化した。その固定化された抗ウサギIgG抗体によってASC上清の中のウサギモノクローナル抗体を捕獲した。モノクローナル抗体を捕獲した後、ヒトTNFα(Peprotech社、カタログ番号300-01)をフローセルの中に90 nMの濃度で3分間注入し、センサーチップの表面に捕獲されたIgGからそのタンパク質を5分間解離させた。各注入サイクルの後、10 mMのグリシン-HClを2回注入して表面を再生した。MASS-1分析ソフトウエア(Analyzer、Sierra Sensors社)で一対一ラングミュア結合モデルを利用して見かけの解離速度定数(kd)と見かけの会合速度定数(ka)と見かけの解離平衡定数(KD)を計算し、相対χ2(分析物の最大結合レベルの外挿値に規格化したχ2)に基づいてフィットの質をモニタした。相対χ2は、曲線フィッティングの質に関する1つの指標である。ヒットの大半について相対χ2値が15%未満であった。リガンド結合に関する反応単位(RU)が抗体捕獲に関するRUの少なくとも2%である場合に結果を有効であると見なした。リガンド結合に関するRUが抗体捕獲に関するRUの2%未満であるサンプルは、捕獲された抗体へのTNFαの特異的結合を示さないと見なした。
アッセイの設定とTNFαの濃度を同じにし、同じ品質測定を適用して、カニクイザルTNFα(Sino Biological社、カタログ番号90018-CNAE)に対する種交差反応性を測定した。相対χ2は、分析したASC上清の大半で15%未満であった。
2.2.3 L929線維芽細胞の中でTNFαによって誘導されるアポトーシス
マウスL929線維芽細胞(ATCC/LGC Standards、カタログ番号CCL-1)を用い、ASC培養物上清からのウサギIgGが組み換えヒトTNFαの生物活性を中和する能力を評価した。1μg/mlのアクチノマイシンDを添加することにより、L929細胞をTNFαによって誘導されるアポトーシスに対して敏感な状態にした。細胞を、96ウエル平底微量滴定プレートの中で、50%ASC培養物上清と100 pM(5.2 ng/ml)のヒトTNFα(Peprotech社、カタログ番号300-01)の存在下にて24時間培養した。ヒットのスクリーニングには、ASC上清の存在下で、精製した抗体よりも大きな濃度のTNFαを用いる必要がある。細胞の生存を、WST-8(2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム一ナトリウム塩)細胞増殖試薬(Sigma Aldrich社、カタログ番号96992)を用いた比色アッセイによって調べた。WST-8は、細胞のデヒドロゲナーゼによって還元されてオレンジ色のホルマザンが生成する。生成するホルマザンの量は、生きている細胞の数に正比例する。Softmaxデータ分析ソフトウエア(Molecular Devices社)を用いて4パラメータロジスティック曲線フィットでデータを分析し、36.3 ng/mlの濃度でTNFαによって誘導されるアポトーシスを50%中和するのに必要なインフリキシマブの濃度(IC50)を計算した。したがってこのアッセイに関する検出の推定下限値は30〜40 ng/mlである。この値は、検出限界に関する大まかな推定値にすぎない。というのもTNFαを阻止する能力は、モノクローナル抗体の濃度だけでなく、標的に対する抗体の親和性にも依存するからである。しかし大半のASC上清中のIgGの濃度は40 ng/mlよりも大きいため、アッセイの感度はASC上清のスクリーニングには十分である。TNFαによって誘導されるアポトーシスを50%中和する上清を陽性と見なした。
スクリーニングキャンペーン中にアッセイの性能がロバストであることを確認するため、各スクリーニングプレート上で陽性対照抗体インフリキシマブを115 ng/ml(0.8 nM)と58 ng/ml(0.4 nM)で2回反復してテストした。この陽性対照に関する反応の抑制率と精度を各スクリーニングプレートについてモニタした。各プレートに関する合格基準は以下のように設定した:その陽性対照抗体が115 ng/mlの濃度で少なくとも60%の抑制率であり、変動係数(CV)が20%未満。
実施例2:scFvのヒト化と作製
1.結果
1.1 ヒットの確認と、ヒト化のためのヒットの選択
ヒットのスクリーニング中に親ウサギ軽鎖可変領域と親ウサギ重鎖可変領域の73個の特別なセットを回収し、配列アラインメントによって分析した。個々のウサギIgGクローンのスクリーニングアッセイの結果と配列相同性に基づき、ヒットを確認するための30個の候補を選択した。29個のモノクローナル抗体を作製し、親和性と効力に関する性能が最高のクローンをヒト化とリード候補作製のために選択した。クローンの選択基準は、i)L929アッセイにおけるヒトTNFαの中和、ii)ヒトTNFαに対する大きな親和性、iii)カニクイザルとアカゲザルのTNFαに対する交差反応性、iv)配列の多様性であった。1つのクローン(16-19-B11)が、ヒト化するために選択された。それは、L929アッセイにおいてヒトTNFαを中和する能力に関して最高ランクのIgGの1つである。結合強度に関しては、可能な最高の親和性が望ましい。というのも、ヒト化とscFv形式への再構成の結果として親和性がある程度失われることを想定する必要があるからである。
IgGクローン16-19-B11に関するデータを下記の表4にまとめてある。
1.2 ヒト化scFvフラグメントの作製と選択
WO 2014/206561に記載されているようにして、相補性決定領域(CDR)をコードする配列を、CDRループのグラフティングによってインシリコでヒト可変ドメイン足場配列の上に移した。それに加え、ウサギのクローンごとに第2のコンストラクトを作製した。このコンストラクトは、構造的に免疫グロブリンドメインとCDRの位置決めに関係する位置にドナー配列からの追加アミノ酸を移した。それぞれのヒト化一本鎖抗体Fv(scFv)をコードする(細菌で発現させるためコドンの利用が最適化された)人工遺伝子を(対応する軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインから)合成した。次にそのポリペプチドを産生させた後、ヒットの確認中に、説明したのと同様のアッセイを利用して特徴づけた。
1.2.1 ヒト化scFvのヒト化と作製(API)
選択されたクローンのヒト化には、WO 2014/206561に記載されているようにしてウサギCDRをVκ1/VH3タイプのscFvアクセプタフレームワークの上に移すことが含まれていた。図1に概略を示したこのプロセスにおいて、6つのCDR領域のアミノ酸配列がドナー配列(ウサギmAb)上に同定され、それらをアクセプタ足場配列の中にグラフトすると、「CDRグラフト」と呼ぶコンストラクトが得られた(クローン16-19-B11 sc01;配列ID番号18参照)。
それに加え、2つの追加のグラフトを設計した(クローンクローン16-19-B11 sc02とクローン16-19-B11 sc06;それぞれ配列ID番号19と20を参照)。その中には、いくつかのフレームワーク位置にウサギドナーからの追加アミノ酸修飾が含まれていた。それらアミノ酸は、CDR位置決めに、したがって抗原の結合に影響を与える可能性があることが記載されている(Borras他、2010年;J. Biol. Chem.、第285巻:9054〜9066ページ)。これらヒト化コンストラクトを「構造(STR)グラフト」と呼ぶ。これら3つの初期コンストラクトに関する特徴づけデータの比較からSTRコンストラクトの顕著な利点が明らかになった場合には、CDRがグラフトされたVLと、STRがグラフトされたVHを組み合わせた追加のバリアントを設計することができる。この組み合わせは、STRグラフトの活性を十分に保持していることがしばしばあることが明らかにされている(Borras他、2010年;J. Biol. Chem.、第285巻:9054〜9066ページ)ため、一般に好ましいと考えられる。というのも、ヒトアクセプタ足場の中にあるヒトとは異なる変化がより少ないと、安定性が損なわれるリスクが低下し、免疫原性の能力も低下するからである。
前項に記載したインシリコでのコンストラクトの設計が完了すると、対応する遺伝子を合成し、細菌発現ベクターを構成した。発現コンストラクトの配列をDNAのレベルで確認し、コンストラクトを遺伝子発現と精製のプロトコルに従って作製した。
タンパク質の異種発現を大腸菌の中で不溶性封入体として実施した。発現培養物に指数関数的に増殖している出発培養物を接種した。培養は、市販のリッチ培地を用い、オービタルシェイカーの中の振盪フラスコの中で実施した。細胞を増殖させてOD600を規定値の2にし、1 mMのイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて一晩発現を誘導した。発酵の終了時に細胞を遠心分離によって回収し、超音波処理によって均質にした。この時点でさまざまなコンストラクトの発現レベルを細胞ライセートのSDS-PAGEによって求めた。細胞残屑と他の宿主細胞不純物を除去するための何回かの洗浄工程が含まれる遠心分離プロトコルにより、均質化した細胞ペレットから封入体を単離した。精製した封入体を変性緩衝液(100 mMトリス/HCl pH 8.0、6 M塩酸グアニジン、2 mM EDTA)の中で可溶化し、リフォールディングプロトコルによってscFvを再び折り畳ませると、数ミリグラムの量の元通り折り畳まれた単量体scFvが生成した。標準化されたプロトコルを利用してscFvを精製した。このプロトコルには以下の工程が含まれていた。再び折り畳まれた後の生成物を、Capto Lアガロース(GE Healthcare社)を用いたアフィニティクロマトグラフィによって捕獲すると、精製されたscFvが得られた。最初の試験で親和性と効力の基準を満たしたリード候補を、HiLoad Superdex75カラム(GE Healthcare社)を用いたポリッシングサイズ排除クロマトグラフィによってさらに精製した。精製プロトコルの後、タンパク質を緩衝化生理食塩水溶液の中で製剤化し、下記のようなさまざまな生物物理学的方法、タンパク質相互作用法、生物学的方法によって特徴づけた。このバッチについて精製されたタンパク質の最終収率を求め、その値を1lのリフォールディング体積に規格化することによって異なるコンストラクトの生産性を比較した。
1.2.2 ヒト化scFvの生物物理学的特徴づけ
scFvコンストラクトの生産性と安定性は、下記の項に記載したようなさまざまな記録点によって特徴づけることができる。
以下に説明するように、scFvはいくつかの基準に関して調べることができる。
生産性の基準により、選択されたscFvを十分な量で発現させ、再び折り畳ませ、精製し、その後のリード分子の開発をサポートすることが保証される。規定されている基準は、発酵ブロス1l当たりのscFvの発現収率(SDS-PAGEによって評価される)と、一般的な実験室スケールのプロセスで実現される精製収率(精製されたタンパク質の量をUV分光分析で測定することによって評価される)であり、それらが計算によってリフォールディング溶液1lの値にされる。
安定性の基準は、分子の作製プロセスにおいて凝集する傾向と、保管中とその後の取り扱い中に構造が完全であることを評価することを目的としている。SE-HPLCによって求まる単量体含量により、精製プロセスの間の分子のコロイド安定性を評価することができる(2.2.3)。その後の安定性研究において、単量体含量を、1 mg/mlおよび10 mg/mlと、4℃、-20℃、-65℃未満での保管について、4週間までの期間にわたって調べることができる。それに加え、タンパク質のコロイド安定性を5回の凍結-解凍サイクルの後に調べることができる。追加の安定性指示パラメータとして、熱アンフォールディングの中点を示差走査蛍光定量法(DSF)(2.2.4)によって求め、リード候補のコンホメーション安定性の読み出し値を提供することができる。
1.2.2.1 生産性の評価
リード候補scFv分子は、バッチモードにおいて振盪フラスコでの発酵により発現させ、一般的な実験室スケールのプロセスによって精製することで、さらに特徴づけるためのタンパク質を生成させることができる。このプロセスの間、いくつかの重要な性能パラメータをモニタして候補分子を比較し、開発するのが難しい可能性のあるコンストラクトを同定することができる。発現力価は、細胞を遠心分離によって回収した後に粗大腸菌ライセートのレベルで求めることができる。回収の間に細胞がわずかに失われることが予想されるが、この因子は、生産性のより控えめな推定を優先し、発現量の計算では無視することを選択できる。ライセートに含まれるscFv生成物を定量するのにクーマシー染色還元SDS-PAGE(2.2.1)を選択することができる。それは、この方法が大きな特異性を有するため、生成物をサンプル中の宿主細胞のタンパク質から識別できるからである。
生産性を評価するための第2の基準は、リフォールディング溶液1l当たりで計算したscFvの精製収率である。このパラメータは、タンパク質リフォールディング工程を含む予想される製造プロセスにおける潜在的なボトルネックに関係している。リフォールディング手続きの効率は同等の製造プロセスにおける制約であることがわかっているため、異なるコンストラクトの性能は、規定されたリフォールディング体積に規格化した生産性で比較することができる。収率を計算するため、各バッチからの最終タンパク質サンプルをUV吸光度によって定量し(2.2.2)、各精製の実際のリフォールディング体積で割る。
1.2.2.2 安定性の評価
scFvコンストラクトのコンホメーション安定性、単分散性、構造完全性の評価は、さまざまな分子の開発可能性ランキングにとって1つの重要な要素である。さまざまなコンストラクトの比較に意味があるようにするための前提条件は、似た品質の精製分子を用意することである。SE-HPLCによって求まる基準「単量体の純度」は、異なる試験物質の品質の適合性を保証することを目的としている。SE-HPLC分析に加え、タンパク質の純度とタンパク質が何であるかを明らかにするSDS-PAGEを実施し、調べた調製物が同等な品質であることを確認した。
scFv精製物のSE-HPLCの結果から、どの調製物も、精製により、純度が97%超で、少なくとも97%相対ピーク面積の単量体含量にできることが明らかになる(図2)。
示差走査蛍光定量法(DSF)によってリード候補の熱アンフォールディングの挙動を調べ、分子を予想されるコンホメーション安定性に関してランクづけできるようにした。蛍光生データの規格化されたプロットを図3に示す。この図は、各サンプルを2回反復して測定した結果を示している。協同的なアンフォールディングの挙動が観察された。3つの分子16-19-B11-sc01、16-19-B11-sc02、16-19-B11-sc06が、それぞれ67.8℃、66.4℃、64.6℃というTmを示した。
安定性評価の第2の方法では、異なる温度で4週間の期間にわたって分子の単分散性をモニタすることができる。scFvコンストラクトは、濃度10 mg/mlでの各出発値に対して単量体が最少で95%を超え、5%未満の単量体を失うことが予想される。-20℃と-65℃未満の凍結状態では、サンプルは、時間が経過してもほんのわずかの差しか示さないことが予想される。最も厳しい条件(4℃)では、scFvコンストラクトは、4週間の間に単量体が0.5%未満失われることが予想される。それに加え、温度37℃、scFvの濃度10 mg/mlで4週間までストレス安定性研究を実施することができる。この条件では、異なるコンストラクトが凝集する傾向がより厳しく識別されると予想される。それに加え、scFvサンプルを合わせて5回繰り返して凍結-解凍することができる。分析SE-HPLCによる単量体含量の定量結果から、2つのサンプルで変化がないことが明らかになることが予想される。
それに加え、2つのscFvコンストラクトの単分散性を、(TNFαとは異なる抗原に対する第2の特異性を持つ)二重特異性一本鎖二量体抗体の文脈で、さまざまな条件にてモニタした:(A)10 mg/mlで20℃を8時間;(B)10 mg/mlで48℃を8時間;(C)10 mg/mlで4℃を4週間;(D)10 mg/mlで複数の凍結/解凍サイクル。すべてのクラスで2.5%のモノマーの損失が観察され、(A)、(B)、(D)の場合には損失が1%未満にさえなった。
3つのscFv についてSDS-PAGE分析を実施してUV吸光度による定量を支持するデータを生み出すことでサンプル調製物の純度を確認し、そのことによって含量の定量に特異性を与えることができる。この分析の別の1つの側面では、SDS-PAGEの結果から、安定性研究(4℃、濃度10 mg/mlで28日間を、0日目から-65℃未満で保管したサンプルと比較)中のタンパク質分解の不在を明らかにできる可能性がある。これは、開発可能性の見通しという観点からして重要な1つの特徴である。
この評価の範囲で提案されたさまざまな研究が、タンパク質安定性についての明確に異なるさまざまな機構的側面を取り扱っていることに注意することが重要である。タンパク質の熱アンフォールディング温度を求めると、高温で保管したときのSE-HPLCによる単分散性の測定とは相補的な結果が得られるであろう。両方の方法は潜在的な製品寿命と安定性の推定結果を与えるよう設計されているが、取り扱う機構は大きく異なっている。熱アンフォールディングによって評価される転移の中点(Tm)は、タンパク質ドメイン安定性の1つの定性的指標である(ΔGを熱力学的に求めることはできない)。非常に安定なタンパク質ドメイン(高いTm)は、周囲温度で自発的にアンフォールディングする傾向がより小さいため、アンフォールディング状態のドメインの相互作用によって推進される不可逆的な凝集/沈殿がより起こりにくい。大きなドメイン安定性は、アミノ酸残基が密に充填されていることを示す。そのことは、プロテアーゼによる切断に対する抵抗性とも相関している。他方でSE-HPLCによる評価から単量体分画の含量と可溶性オリゴマー/凝集体の含量が定量的に求まる。そのような可溶性オリゴマーは、正しく折り畳まれたタンパク質の間の静電相互作用または疎水性相互作用によって推進される可逆的で比較的ゆるい会合状態であることがしばしばある。特に「境界線」安定性を持つタンパク質にとって、熱アンフォールディングによって評価されるTmと、SE-HPLCによって評価されるオリゴマー/凝集体の形成の間にはいくらか相関がある。約60℃という所定の閾値Tmよりも高温では、周囲温度でのドメインの部分的なアンフォールディングを理由とする凝集/沈殿とタンパク質分解に対して抗体可変ドメインは一般に十分に安定で抵抗性を有する。しかし表面残基の疎水性相互作用および/または静電相互作用によって推進されるオリゴマー化がそれでも起こる可能性がある。重要なことだが、安定性に関する高温(例えば37℃)での加速(ストレス)研究では、オリゴマーの形成と沈殿のさまざまな機構が同時に生じる可能性がある。
1.2.3 ヒト化scFvのインビトロでの結合と活性の特徴づけ
本項では、ヒト化scFvを、標的への結合の特性と効力に関してインビトロで特徴づけた。ヒトTNFαへの結合キネティクス(ka、kd、KD)と、TNFαによって誘導されるL929線維芽細胞のアポトーシスを中和する効力を分析した。それに加え、ELISAによるカニクイザル(Macaca fascicularis)とアカゲザル(Macaca mulatta)のTNFαによって誘導されるアポトーシスを抑制する効力ならびにヒトTNFαとTNFRI/TNFRIIの間の相互作用を抑制する効力と、TNFβよりもTNFαのほうに結合する標的選択性を求めることができる。
下記の結果を理解する上で、ウサギCDRがヒト可変ドメイン足場の上に移動することと、形式が完全長IgGからscFvフラグメントへと変化することの両方が薬学的特性に影響を与える可能性があることに注意することが重要である。例えばヒト化には、通常、親和性のある程度の喪失が伴う。さらに、scFvはIgGと比べてサイズが小さくなるため、scFvが立体障害を通じて相互作用パートナーに干渉する能力は大きく低下する。最後に、だが重要度が最低というわけではなく、親IgGは、ホモ三量体TNFαへの結合が2価モードであるため、報告されているIgGの親和性は大きすぎる可能性がある(SPRアーチファクト)ことに注意されたい。その帰結として、親である2価ウサギIgGとヒト化モノクローナルscFvの間の親和性を比較すると、報告されている「親和性の喪失」は過大評価されている可能性がある。
1.2.3.1 親和性
ヒトTNFαへのヒト化scFvの親和性をSPR測定によって求めた(2.1.1も参照されたい)。親和性は、各scFvの2倍段階希釈液を用いて求めた。scFvは、ウサギモノクローナル抗体に由来するものであった。上記のようにして異なるscFvバリアントを作製し、「CDR」(CDR)と「構造的グラフト」(STR)と名づけた。
scFv 16-19-B11-sc01(CDR)、16-19-B11-sc02(STR)、16-19-B11-sc06(STR)は、それぞれ7.0×10-10M、2.2×10-10M、5.9×10-11Mの親和性で結合した。
1.2.3.2 効力
L929アッセイを利用してヒト化scFvがヒトTNFαを中和する能力を分析した(2.1.2も参照されたい)。TNFαによって誘導されるアポトーシスを中和する効力(IC50とIC90)を16-19-B11に由来するscFvについて分析し、参照抗体インフリキシマブの効力と比較することで、異なるアッセイプレートからのIC50値およびIC90値と直接比較できるようにした。相対的なIC50値およびIC90値を計算し、インフリキシマブとscFvの質量単位(ng/ml)で表わした。異なるロットの抗体フラグメントを用いて異なる日に効力の分析を数回実施した。図4は、3つのscFvうちの1つに関する1つの実験からの代表的な用量-応答曲線を示している。
1.2.3.3 種交差反応性(カニクイザルとアカゲザルのTNFα)
上位ランクのscFvに関する種交差反応性は、2つの方法によって調べることができる。その方法とは、1)L929アッセイにおいてカニクイザルとアカゲザルのTNFαを中和する効力を調べる方法と、2)SPRによってカニクイザルとアカゲザルのTNFαの親和性を調べる方法である。異なる種からのTNFαを中和する効力は、ヒトに関して上に記載したのと同様にして、カニクイザルとアカゲザルのTNFαをそれぞれ用いてL929アッセイによって求めることができる(図5参照;2.1.2も参照されたい)。両方の種からのTNFαが、L929のアポトーシスを誘導する非常によく似た効力を示すことが予想される。したがってヒトとサルのTNFαを同じ濃度で用いて種交差反応性を試験する。それに加え、カニクイザルとアカゲザルのTNFαに対する(SPRによる)結合キネティクスが、ヒトTNFαに関するのと同様のアッセイを利用して求められる(2.1.1も参照されたい)。
クローン16-19-B11に由来するすべてのscFvが、カニクイザルとアカゲザルのTNFαに対して交差反応性を示すことが予想される。親和性は、カニクイザルとアカゲザルで同様であることが予想される。ヒトとサルのTNFαの間の親和性の差は、約2倍〜約10倍以内であることが予想される。カニクイザルとアカゲザルとヒトのTNFαを中和する効力は、それぞれのTNFαへの親和性と相関することが予想される。
1.2.3.4 TNFα- TNFRI/II相互作用の阻止
L929アッセイに加え、それぞれのヒト化scFvがヒトTNFαと TNFRI/IIの間の相互作用を抑制する効力をELISAによって評価することができる(2.1.3参照)。L929アッセイと同様、各プレート上の個々のIC50値を、やはり各プレート上にある参照分子インフリキシマブのIC50で較正し、相対的なIC50値とIC90値を計算してインフリキシマブとscFvの質量単位(ng/ml)で表わす。
中和アッセイでは、標的阻止抗体の効力を識別することができるが、それは、それら抗体が対応する標的に、効力アッセイで用いる標的濃度よりも大きい平衡結合定数(KD)で結合する場合(KD>標的濃度)だけである。L929アッセイでは濃度5 pMのTNFαを用いるのに対し、TNFRI/II抑制ELISAでは濃度960 pMのTNFαを用いる。したがって理論的には、L929アッセイではKD>5 pMであるscFvの間の効力を識別することができるのに対し、抑制ELISAではKD>960 pMであるscFvの間の効力だけを識別することができる。分析したscFvはすべてが960 pM未満のKDを示したため、親和性が異なるscFvの間の効力は、L929アッセイでしか識別することができない。
1.2.3.5 標的特異性(TNFαへの結合とTNFβへの結合の選択性比較)
scFvの特異性がTNFβよりもTNFαに対して大きいことは、各scFvへのTNFαの結合を半数抑制するTNFβの能力をTNFαと比較して評価することによって確認でき、その特異性は競合ELISAで測定される(2.1.4も参照されたい)。組み換えヒトTNFβの品質は、このタンパク質の製造者によって、1)SDS-PAGE分析とHPLC分析による純度と、2)マウスL929細胞毒性アッセイにおける生物活性に関して分析されている。scFvのそれぞれとビオチニル化TNFαの間の相互作用は、無標識TNFαによって60〜260 ng/mlの範囲のIC50値で阻止されるのに対し、TNFβは、試験した最高濃度(1250μg/ml)のTNFβでさえ、有意な効果をまったく示さないことが予想される。したがって分析したすべてのscFvがTNFαに特異的に結合するが、それに最も近いホモログであるTNFβには結合しないことが予想される。TNFβは、試験した濃度ではscFvへのTNFαの結合を有意に抑制しないことが予想される。したがってTNFαの結合を半数抑制するのに必要なTNFβの濃度は、アッセイで用いたTNFβの最高濃度(1250μg/ml)よりも有意に大きいはずである。scFvへのTNFαの結合を半数抑制するのに必要なTNFαとTNFβの濃度を比較するとき、試験したすべてのフラグメントで、TNFαへの結合の選択性がTNFβへの結合よりも約5000〜20,000倍大きいことが予想される。したがってどのscFvも、標的以外に結合することは非常に起こりにくいように思われる。
2.方法
2.1 リード特徴づけアッセイ
2.1.1 SPRによる結合キネティクスと種交差反応性
MASS-1 SPR装置(Sierra Sensors社)を用い、ヒトTNFαに対するscFvの結合親和性を表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定する。SPRアッセイの性能は、参照抗体-抗原相互作用(例えばセルトリズマブ- TNFα相互作用)の分析によって定性評価する。PEG化したFabフラグメントであるセルトリズマブを参照として選択する。その理由は、セルトリズマブが、scFvの結合モードと似た1価結合モードだからである。scFvの親和性測定に関するのと同じアッセイ設定を利用すると、TNFαに対するセルトリズマブの親和性に関して9.94×10-11Mという値が求まる。この値は、公開されているKDの値9.02±1.43×10-11M(BLAセルトリズマブ;BLA番号:125160;提出日:2007年4月30日)とよく一致している。
scFvの親和性を測定するため、ヒトTNFα(Peprotech社、カタログ番号300-01A)をアミンカップリングによってセンサーチップ(SPR-2 Affinity Sensor、High Capacity Amine、Sierra Sensors社)上に固定化すると、固定化のレベルが50〜100 RUに達した(SPR中に達成された固定化レベルは40〜120 RUであった)。第1の工程では、1つの濃度(90 nM)のscFvだけを用いてscFvの親和性スクリーニングを実施した。第2の工程では、最高性能のscFvについて、異なる濃度の6つの分析物サンプルをMASS-1システムの8つの平行なチャネルのそれぞれに同時に注入することによる単一注入サイクルから、単一注入サイクルキネティクス(SiCK)を測定した。親和性スクリーニングのため、ヒト化scFvをフローセルに90 nMの濃度で3分間注入し、解離を12分間モニタした。その後のより正確な親和性測定のため、45 nMから1.4 nMまでの範囲のscFv の2倍段階希釈液をフローセルに3分間注入し、センサーチップの表面に固定化されたTNFαからのタンパク質の解離を12分間進行させた。MASS-1分析ソフトウエア(Analyzer、Sierra Sensors社)で一対一ラングミュア結合モデルを利用し、見かけの解離速度定数(kd)と見かけの会合速度定数(ka)と見かけの解離平衡定数(KD)を計算し、相対χ2に基づいてフィットの質をモニタした。χ2は、曲線フィッティングの質の1つの指標である。χ2値が小さいほど、一対一ラングミュア結合モデルへのフィットが正確である。親和性スクリーニングのため、分析した濃度でχ2が10未満である場合を有効な結果であると見なした。いくつかの濃度のscFvを分析する場合、試験したすべての濃度で平均が10未満である場合を有効な結果であると見なした。試験したすべてのscFvが合格基準を満たしていた。
ヒトTNFαに関して上に説明したのと同じアッセイ設定を利用するとともに同じ品質指標を適用し、カニクイザル(Sino Biological社、カタログ番号90018-CNAE)とアカゲザル(R&D Systems社、カタログ番号1070-RM-025/CF)のTNFα(Peprotech社、カタログ番号315-01A)に対する種交差反応性を測定した。カニクイザルとアカゲザルのTNFαについて、それぞれ50〜180 RU、90〜250 RUという固定化レベルが達成された。濃度が45 nMから1.4 nMまでの範囲のscFv の2倍段階希釈液を用いてscFvを分析した。平均χ2値は、試験したすべてのscFvで10未満であった。
2.1.2 L929線維芽細胞においてTNFαによって誘導されるアポトーシス(ヒトと非ヒト霊長類のTNFαのscFvによる中和)
scFvが組み換えヒトTNFαの生物活性を中和する能力は、マウスL929線維芽細胞(ATCC/LGC Standards、カタログ番号CCL-1)を用いて評価することができる。1μg/mlのアクチノマイシンDを添加することにより、L929細胞をTNFαによって誘導されるアポトーシスに対して敏感な状態にした。抗TNFα参照抗体またはscFvの3倍段階希釈液(3000〜0.05 ng/ml)と5 pMの組み換えヒトTNFα(Peprotech社、カタログ番号300-01)を室温で1時間あらかじめインキュベートした。使用したTNFαの濃度(5 pM)によってL929の準最大のアポトーシスが誘導される(EC90)。アゴニスト/阻害剤混合物を添加した後、細胞を24時間インキュベートする。細胞の生存を、WST-8(2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム一ナトリウム塩)細胞増殖試薬(Sigma Aldrich社、カタログ番号96992)を用いて比色アッセイによって求める。WST-8は細胞のデヒドロゲナーゼによって還元されてオレンジ色のホルマザン生成物になる。生成するホルマザンの量は、生きている細胞の数に正比例する。Softmaxデータ分析ソフトウエア(Molecular Devices社)で4パラメータロジスティック曲線フィットを用いてデータを分析し、TNFαによって誘導されるアポトーシスを50%と90%中和するのに必要な参照抗体またはscFvの濃度(IC50とIC90)を計算する(図4も参照のこと)。異なる日に、または異なるアッセイプレートで実施した実験間でIC50値とIC9値を直接比較できるようにするため、参照抗体インフリキシマブに対して較正する。反応の正確さを制御するため、用量-応答曲線を2回反復して分析する。標準偏差とCVを各測定点について計算する(CV<20%)。
ヒトTNFαに関して上に説明したのと同じアッセイ設定を利用するとともに同じ品質指標を適用し、カニクイザル(Sino Biological社、カタログ番号90018-CNAE)とアカゲザル(R&D Systems社、カタログ番号1070-RM-025/CF)のTNFαに対する種交差反応性を測定する。ヒトの場合と同様、L929の準最大のアポトーシスを誘導するTNFαの濃度(EC90)を種交差反応性の試験で用いる。両方の種からのTNFαは、ヒトTNFαがK929マウス線維芽細胞のアポトーシスを誘導するのと非常によく似た効力を示すことが予想される。したがって、試験する両方の種で同じ濃度のTNFα(5 pM)を用いる。種交差反応性試験の間、2回反復して測定する大半の点のCVは10%未満であることが予想される。
2.1.3 TNFα抑制ELISA
TNFαとTNFRI/TNFRIIの間の相互作用だけを再現する生化学的方法であるELISAを利用してリガンド結合に対するscFvの抑制効果を評価する。
最初の抑制ELISAでは、ヒトIgGのFc領域に融合させたTNFRIの細胞外ドメイン(R&D Systems社、カタログ番号372-R1)を0.5μg/mlの濃度にして96ウエルのMaxisorp ELISAを覆う。第2の抑制ELISAでは、ヒトIgGのFc領域に融合させたTNFRIIの細胞外ドメイン(R&D Systems社、カタログ番号726-R2)を2μg/mlの濃度にして覆う。その後のすべての工程は、両方のアッセイで同じである。TNFRIとTNFRIIへのTNFαの結合を検出するため、TNFαをビオチニル化した後に使用する。最初に、ビオチニル化ヒトTNFα(960 pM、50 ng/ml)を3倍段階希釈した抗TNFα scFvおよびインフリキシマブ(10,000 ng/ml〜0.2 ng/ml)とともに室温で1時間インキュベートする。TNF受容体が固定化されたプレートにTNFα/抗体フラグメント混合物を移し、ビオチン結合ストレプトアビジン-HRP(SDT Reagents社、カタログ番号SP40C)とともに室温で20分間インキュベートした後、固定化されたTNFα受容体へのブロックされていないTNFαの結合を検出する。3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)基質の添加により、TNFRIとTNFRIIへのTNFαの結合に比例した比色測定の読み出し結果が得られる。ビオチニル化TNFαの生物活性を、競合ELISAで使用する前にL929アッセイで確認する。ビオチニル化TNFαのIC50は、無標識TNFαのIC50と同等である(データは示さない)。上記のL929アッセイと同様、Softmaxデータ分析ソフトウエア(Molecular Devices社)で4パラメータロジスティック曲線フィットを用いてデータを分析し、TNFαとTNFRの間の相互作用を50%と90%抑制するのに必要なscFvの濃度(IC50とIC90)を計算する。異なる日に、または異なるアッセイプレートで実施した実験間でIC50値とIC9値を直接比較できるようにするため、参照抗体インフリキシマブに対して較正する。
反応の正確さを制御するため、用量-応答曲線を2回反復して分析する。標準偏差とCVを各測定点について計算する(CV<25%)。
2.1.4 標的特異性
抗TNFα scFvの特異性を確認するには、同じファミリーの最も相同なメンバーであるTNFβに対する結合を評価することができる。ビオチニル化TNFαとscFvの相互作用を無標識のTNFβ(Peprotech社、カタログ番号300-01B)とTNFα(Peprotech社、カタログ番号300-01)が抑制する能力を競合ELISAによって分析する。その目的で、scFvを1μg/mlの濃度にして96ウエルのMaxisorp ELISAプレートを覆う。上記のようにビオチン結合ストレプトアビジン-HRP(SDT Reagents社、カタログ番号SP40C)を用い、覆ったscFvへのビオチニル化TNFα(75 ng/ml)の結合を、5倍段階希釈した無標識のTNFα(50μg/ml〜0.00013μg/m)またはTNFβ(1250μg/ml〜0.00013μg/ml)の存在下で検出する。TNFαの用量-応答曲線について、Softmaxデータ分析ソフトウエア(Molecular Devices社)で4パラメータロジスティック曲線フィットを用いてデータを分析し、ビオチニル化TNFαと覆ったscFvの相互作用を50%阻止するのに必要な無標識TNFαの濃度(IC50)を計算する。TNFβは、ビオチニル化TNFαとscFvの相互作用を有意に抑制しないことが予想される。TNFβが各scFvへのTNFαの結合を抑制する能力をTNFαと比べた相対能力を定量するため、TNFαと比べてTNFβが相互作用を抑制するIC50を計算する。TNFβをTNFαのIC50よりも約5,000〜20,000倍大きい濃度で用いるときには有意な抑制が観察されないことが予想されるため、TNFβよりもTNFαに結合する選択性が5,000〜20,000倍よりも有意に大きいことがわかる。反応の正確さを制御するため、用量-応答曲線を2回反復して分析する。標準偏差とCVを各測定点について計算する(試験したTNFα/βの濃度では、1つの濃度を除いてCV<25%)。すべてのscFvがこの基準を満たすことが予想される。
2.2 CMC分析
2.2.1 還元SDS-PAGE
ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)は、定性的に特徴づけるためと、タンパク質の純度を制御するために用いられる分析技術である。アメリカ合衆国薬局方(USP)(USP第1056章)によれば、分析ゲル電気泳動は、薬物質の中のタンパク質の均一性を同定して評価するための適切かつ定型的な1つの方法である。
この方法を用いて大腸菌ライセートからのscFv産物の量を定量し、発酵後の発現率を導出する。この方法の別の応用は、試験物質が何であるかを、その分子量を理論値に照らし合わせることに基づいて確認するというものである。サポートの目的で、この方法を利用して、試験サンプルの純度を、方法に関係する不純物(宿主タンパク質)と産物に関係する不純物(分解産物または付加物)について定量する。
Bio-Rad Laboratories Inc.社から入手した市販のプレキャストゲルシステム「Mini Protean」でSDS-PAGE分析を実施した。ヒト化scFvを「Any kD」分離ゲル(#456-9036)上で分析した。両方のケースで製造者が推奨するトリス/グリシン緩衝液系を使用した。タンパク質バンドを検出するため、SimplyBlue(商標)染色溶液(Life Technologies Corp.社、#LC6060)でのクーマシー染色、またはPierce Silver Stain Kit(Thermo Fisher Scientific Inc. 社、#24612)での銀染色を利用した。染色手続きに関しては、各供給者のプロトコルに従った。
ドキュメンテーションシステムChemiDoc XRS System(Bio-Rad Laboratories Inc.社、#170-8265)とソフトウエアImage Lab、バージョン4.0.1(Bio-Rad Laboratories Inc.社、#170-9690)を用い、染色したタンパク質ゲルのドキュメンテーションと分析を実施した。
ライセートサンプルの力価決定
SDS-PAGEにより、宿主細胞タンパク質の混合物に含まれる興味あるタンパク質の特異的な検出が可能になる。この方法の(事前に決めた)線形範囲内の参照基準希釈系列がすべてのゲル上に含まれていた。線形回帰を利用して参照基準の設定(nominal)濃度と(濃度測定法によって測定した)バンド強度の関係を示す標準曲線を計算で求め、今度はそれを用いてサンプル中のscFvの含量を外挿した。
産物の濃度が未知のライセートサンプルを、方法の線形範囲内に少なくとも1つのscFv濃度があるさまざまな希釈度(希釈緩衝液の中で少なくとも1:10)にして装填した。scFvのバンド強度の測定値に基づいて産物の量を計算し、サンプル調製物の希釈因子を用いて濃度を求めた。標準曲線の線形範囲内にあった値を全サンプルについて平均した。
この方法がライセートサンプルの定量に適していることをさらに調べるため、既知量の参照基準を含むライセートサンプルを添加することによって抑制/刺激試験を実施した。希釈緩衝液の中で1:10にしたサンプル希釈液で添加回収率を計算すると、95.4%という値になった。これは。希釈緩衝液中の参照基準で観察されたのと同じレベルの精度である。したがって細胞ライセート中の有意なマトリックス干渉は観察されず、この方法は細胞ライセート中のscFvの定量に適していると見なした。
タンパク質の純度と含量
この方法が試験サンプルの含量を求めるのに適していて、そのため試験サンプルの純度を求めるのにも適していることを示すため、参照scFvに関する検出の下限(LOD)を設定負荷0.02μgにて目視で(タンパク質バンドを同定することにより)求める。各レーンの強度ヒストグラムの評価から、この負荷での信号対雑音比が約2であることがわかる。それに加え、主バンドを濃度測定で分析することによって定量の線形範囲を求めた。
データを線形回帰でフィットさせると決定係数(R2)が0.9998になるため、これはフィットが優れていることを示している。フィットの全体的な質に加え、個々のデータ点の相対誤差を求め、選択した範囲内でこの方法が適していることを実証した。相対誤差は、全データ点について10%未満である。これは、この方法の精度がよいことを示している。
2.2.2 280 nmでのUV吸光度
280 nmでのUV吸光度を測定する方法は、USPの第1057章に概説されている全タンパク質アッセイである。タンパク質溶液は、芳香族アミノ酸が存在するために波長280 nmのUV光を吸収する。UV吸光度は、タンパク質中のチロシン残基とトリプトファン残基の含量の関数であり、タンパク質の濃度に比例する。未知のタンパク質溶液の吸光度は、USPの分光学に関する第851章に従い、ベールの法則:A=ε*|*C(ただし吸光度(A)はモル吸光係数(ε)と吸収経路長と物質の濃度の積に等しい)を適用して求めることができる。scFvのモル吸光係数は、ソフトウエアVector NTI(登録商標)(Life Technologies Corporation社)を用いて計算した。
Nanoquantプレート(Tecan Group Ltd.社)を備えたInfiniteリーダーM200 ProでUV吸光度の測定を実施する。タンパク質サンプルの吸光度を280 nmと310 nmで測定する。後者の波長は、280 nmでの信号から差し引く参照信号として機能する。サンプルマトリックスが干渉する可能性を考慮するため、ブランクの引き算を各測定で実施する。タンパク質サンプルで得られる最終吸光度信号を用い、ランベルト-ベールの法則を用いてタンパク質濃度を計算する。
すべての測定を、0〜4 ODの測定範囲において、装置の仕様書に与えられている範囲内で実施する。再現性1%未満、一様性3%未満が、製造者によって指定されている。
2.2.3 SE-HPLC(サイズ排除高圧液体クロマトグラフィ)
SE-HPLCは、USPの第621章に概説されているように、固体固定相と液体移動相に基づく分離技術である。この方法では、疎水性固定相と水性移動相を利用して、分子を、そのサイズと形に基づいて分離する。分子の分離は、特定のカラムの排除体積(V0)と全浸透体積(VT)の間で起こっている。SE-HPLCによる測定は、自動化されたサンプル注入器と、波長280 nmで検出するように設定されたUV検出器とを備えるChromaster HPLCシステム(Hitachi High-Technologies Corporation社)で実施する。この装置は、ソフトウエアEZChrom Elite(Agilent Technologies社、バージョン3.3.2 SP2)によって制御される。このソフトウエアは、得られるクロマトグラムの分析もサポートする。タンパク質サンプルを遠心分離によって分離し、自動サンプラーの中で6℃の温度に維持した後に注入する。scFvサンプルを分析するため、カラムShodex KW402.5-4F(Showa Denko Inc.社、#F6989201)を、標準化緩衝化生理食塩水移動相(50 mM酢酸ナトリウム pH 6.0、250 mM塩化ナトリウム)を推奨流速である0.35 ml/分にして用いる。1回の注入での標的サンプル装填量は5μgであった。サンプルを波長280 nmでUV検出器によって検出し、適切なソフトウエアスイートによって記録する。得られるクロマトグラムをV0からVTまでの範囲で分析することにより、10分超の溶離時間を持つピークに関係するマトリックスを除外する。
この方法の室内再現精度を保証するため、各HPLCシークエンスの最初と最後に参照基準を測定することを習慣にする。このシステム適合性試験で用いる参照基準は、バッチとして作製したものを各測定時点で使用するためアリコートにしたscFvである。
2.2.3 DSF(示差走査蛍光定量法)
DSF法は、温度に依存したタンパク質のアンフォールディングを測定するための非公定法である。DSFによる熱アンフォールディング温度の測定は、492/610 nmでの励起/放出フィルタセットを備えていて、MX Proソフトウエアパッケージ(Agilent Technologies社)によって制御されるMX3005P qPCR機械(Agilent Technologies社)を用いて実施する。反応は、Thermo fast 96 white PCRプレート(Abgene社;#AB-0600/W)の中で生じる。タンパク質のアンフォールディングを検出するため、染料SYPROオレンジ(Molecular Probes社;# S6650)という市販の貯蔵溶液を1:1,000の最終希釈度で用いる。アンフォールディングを測定するため、タンパク質サンプルを標準化緩衝化生理食塩溶液の中で希釈して最終濃度50μg/mlにする。熱によるアンフォールディングは、25℃から始まって96℃まで30秒間の持続時間で1℃ずつ上昇する温度プログラムによって実施する。この温度プログラムの間、各サンプルの蛍光放出を記録する。記録した生データをMicrosoft Excelテンプレートのパッケージで処理して評価し(Niesen、Nature Protocols 2007年、第2巻、第9号)、プログラムGraphPad Prism(GraphPad Software, Inc.社)を用いてボルツマン方程式に蛍光データをフィットさせ、転移の中点(Tm)を得る。
アンフォールディングの中点を信頼性よくロバストに測定するため、測定を少なくとも2回反復して実施する。データの質に関し、フィットのよさ(R2)が0.9900超で、しかもTmの95%信頼区間が0.5%未満の測定だけを考慮する。
室内再現精度を評価するため、すべての測定に参照基準(特徴づけられている既知のscFv)を含めることで、日が異なるアッセイの性能を比較できるようにする。
2.2.4 安定性の研究
さまざまなscFvコンストラクトの安定性をこれら分子の開発可能性を探るための読み出しとして評価するため、短期安定性研究プロトコルを設計することができる。単純緩衝化生理食塩水製剤(上記参照)の中でタンパク質コンストラクトを濃縮して1〜10 mg/mlの標的濃度にする。単量体の含量をSE-HPLCによって求め、純度が成功基準である95%を超えていることを確認する。その後、タンパク質サンプルを-65℃未満、-20℃、4℃、37℃で4週間の期間にわたって保管し、アリコートをさまざまな時点で分析する。一次読み出しは、SE-HPLCによる分析である。この分析によってより大きな分子量の可溶性オリゴマーと凝集体の定量が可能になる。これをサポートする測定として、タンパク質の含量を280 nmでのUV吸光度によって求める。これは、保管期間中にタンパク質が沈殿によってかなりの量失われたかどうかの1つの指標となる。保管するため、アリコートごとに充填量が30〜1500μgのスクリューキャップチューブ(Sarstedt社、カタログ番号72.692.005)を用いる。それに加え、純度をSDS-PAGEによって求める。純度は、分解に関するコンストラクトの安定性、または共有結合による多量体化に関するコンストラクトの安定性を示す。
実施例3:ヒト化二量体抗体とヒト化IgGの作製
可変ドメインをVLA-L1-VHB-L2-VLB-L3-VHAの構成に配置することによって一本鎖二量体抗体コンストラクトを設計した。これらコンストラクトでは、VLAドメインとVHAドメインとVLBドメインとVHBドメインが合わさってTNFαのための結合部位を形成する。可変ドメイン同士を接続するペプチドリンカーL1〜L3をグリシン/セリン反復で構成した。2つの短いリンカーL1とL3は単一のG4S反復単位で構成する一方で、長いリンカーL2は配列(G4S)4で構成する。ヒト化可変ドメインをコードするヌクレオチド配列(実施例2;1.2.1)を新たに合成し、pET26b(+)骨格(Novagen社)に基づいていて大腸菌での発現に適合させたベクターにクローニングした。発現と精製は、実施例2;1.2.1にscFvに関して記載したようにして実施した。
リーダー配列とそれぞれの定常ドメインを含有する、一過性異種発現のための適切な哺乳動物発現ベクター(例えばpFUSE-rlgGベクター(Invitrogen社))に可変ドメインをクローニングすることによってヒト化IgGを構成した。重鎖と軽鎖をコードするベクターをFreeStyle(商標)MAX系とともにCHO S細胞にトランスフェクトすることによって機能性IgGの一過性発現を実施した。これら抗体分泌細胞の上清を数日間培養した後、回収して精製した。その後、分泌されたIgGをプロテインAセファロース(GE Healthcare社)によってアフィニティ精製した。溶離分画を、SDS-PAGEと、280 nmでのUV吸光度と、SE-HPLCによって分析した。
抗体分子の親和性は、Biacore装置を実施例2の2.1.1項に記載されているようにして用いて求めることができる。
抗体分子の効力は、L929アッセイで求めることができる(その方法は、実施例2の2.1.2項に記載されている)。
実施例4:TNFα結合の化学量論の決定
(抗TNF可変ドメイン16-19-B11-sc06を4つの特異性の1つとして含む四重特異性抗体コンストラクトPRO357の文脈における)16-19-B11のTNFαに対する結合化学量論を、SE-HPLCを利用して求めた。この四重特異性コンストラクトとTNFαを2通りの異なるモル比、すなわち1:1と4.5:1のモル比でインキュベートした。TNFαは溶液中に三量体で存在するため、記載したモル比はTNFα三量体に関するものである。したがって4.5:1の比では、四重特異性コンストラクトの中の16-19-B11の結合ドメインは過剰であるため、すべてのTNFα三量体結合位置を占めるはずであり、その結果として1つのTNFα三量体と3つのscFvからなる複合体になる。しかし等モル条件では、16-19-B11の結合ドメインが十分に存在せず、3つの理論的TNFα結合部位がすべて飽和することはない。したがって結合した結合ドメインが3つ未満の複合体バリアントも予想される。TNFαと四重特異性コンストラクトを室温で2時間インキュベートし、複合体の形成が可能になるようにした。次にサンプルを4℃で10分間遠心分離した。10μlの各サンプルをSE-HPLCで分析した。SE-HPLC分析を実施するに当たり、溶離液として50 mMリン酸塩緩衝液(pH 6.5)と300 mMのNaClを0.35 ml/分の流速で用いた。溶離したタンパク質のピークを波長280 nmで検出した。見かけの分子量を求める前にGE Healthcare社からのゲル濾過較正キット(LMW、HMW)を用いてカラムを較正した。
図6の下のグラフには、四重特異性コンストラクトとTNFαを同じモル量にしたときの溶離プロファイルを、TNFα三量体だけのプロファイルおよび四重特異性コンストラクトだけのプロファイルに重ね合わせて示してある。溶液中ではTNFαが三量体になっていることが理由で、理論的には、各三量体上に存在する16-19-B11の結合ドメインのための3つまでの同等な結合部位が存在する。したがって四重特異性コンストラクトには制約がある。このような条件下において、3つの複合種(3:1、2:1、1:1)がすべて同定された。図6の上のグラフは、四重特異性コンストラクトの量が過剰な複合体の溶離プロファイルを示している。結合しない余分な四重特異性コンストラクトは、予想される保持時間で溶離した。TNFαのピークは複合体を形成するのに大量に消費されたため完全に消失した。この複合体のピークはより短い保持時間のほうにシフトし、モル量を同じにした設定の最大分子量を持つピークの保持時間とよく相関していた。それが理由で、四重特異性コンストラクトを過剰に利用できる場合には、TNFαで利用できる全結合部位が16-19-B11によって占領され、したがって結合化学量論は3:1であると結論された。
これらの定性的観察に加え、見かけの結合化学量論も、SE-HPLCによって求めた複合体の見かけのMWに基づいて計算することができる。保持時間に基づき、見かけのMWを以下の式:
に従って計算することができる。
実施例5:細胞増殖の抑制
16-19-B11のさまざまな抗体形式とアダリムマブが末梢血単球細胞(PBMC)の増殖を抑制する能力を混合リンパ球反応物(MLR)の中で調べた。2人の健康なドナーからのPBMCを1:1の比にして96ウエルのプレートの中で37℃/5%CO2にて48時間培養した。活性化させた後、細胞を37℃/5%CO2にてさらに5日間、抗TNFα抗体またはIgG対照抗体(すべてが最終濃度10μg/ml)で6回反復して処理した。インキュベーションが終わる24時間前にBrdU(20μl/ウエル)を各ウエルに添加し、市販の細胞増殖ELISA(Roche Diagnostics社)を用いてBrdUの取り込みを測定することによって増殖を求める。刺激指数は、抗体で処理した細胞とマイトマイシンC(25 ng/ml)で処理した細胞のBrdU取り込みの比を計算することによって求める。
実施例6:LPSによって誘導されるサイトカイン分泌の抑制
RPMI1640の中のCD14+単球を96ウエルのプレートに播種し、湿潤にしたインキュベータの中で37℃/5%CO2にて16時間インキュベートする。次に、最終濃度が2〜2000 ng/mlの範囲の抗体を用いて細胞を抗TNFα抗体またはIgG対照抗体で1時間、2回反復して処理する。単球を細胞培地で3回洗浄した後、LPS(100 ng/ml)とともに37℃/5%CO2にて4時間インキュベートする。市販のELISAキット(R&D Systems社)を用いて細胞培養物上清の中のIL-1βとTNFαの濃度を求める。