以下、複数の実施形態を用いて、本発明の歯科連結部材およびマウスピースを説明する。
なお、以下の説明において、「前方」および「後方」は、それぞれ、マウスピースを装着した使用者の前方に向かう方向(口腔内で舌体から見て口唇側に向かう方向)および後方に向かう方向(口腔内で舌体から見て喉側に向かう方向)を意味し、「下方」は、マウスピースを装着した使用者の下方に向かう方向(使用者が直立したときに頭頂から足下へ向かう方向)を意味し、「左右方向」は、マウスピースを装着した使用者の上顎の正中を基準として、使用者に前方に向かって左右の方向(具体的には上顎の正中からみて両側の頬に向かう方向)を意味し、「外側」および「内側」は、それぞれ、マウスピースを装着した使用者の体表に近い側および体表から遠い側を意味する。
また、以下の説明において、マウスピースを装着した使用者が閉口しているときを「閉口時」といい、マウスピースを装着した使用者が開口しているときを「開口時」という。閉口時には、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースは、互いの対向面が略平行となるように配置され、開口時には、下顎マウスピースが円弧状の軌道上を移動することにより、上顎マウスピースおよび下顎マウスピースは、互いの対向面が最大で約45°程度の角度を有するように非平行に配置される。
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係るマウスピース100は、マウスピース100の構成を示す模式的な正面図である図1、ならびに閉口時の側面図である図2Aおよび開口時の側面図である図2Bに示すように、対向する一対の上顎および下顎マウスピース、ならびに上顎および下顎マウスピースを連結する左右一対の歯科連結部材200を有する。上顎マウスピース110は使用者の上顎に、下顎マウスピース120は使用者の下顎に、それぞれ装着可能に構成されている。
上顎マウスピース110は、使用者の上顎の歯列に装着可能な歯列型取部112が形成されて、使用者の上顎に装着可能に構成される、上顎マウスピース本体部114を有する。また、下顎マウスピース120は、使用者の下顎の歯列に装着可能な歯列型取部122が形成されて、使用者の下顎に装着可能に構成される、下顎マウスピース本体部124を有する。また、下顎マウスピース120は、その一方の端部が上顎マウスピース本体部114の側面116に取り付けられ、他方の端部が下顎マウスピース本体部124の側面126に取り付けられた、歯科連結部材200によって、対向して配置された上顎マウスピース110に連結される。
歯科連結部材200は、その模式的な側面図である図3Aならびに側面視における断面図である図3Bおよび図3Cに示すように、アウター210、インナー230およびストッパ240を有する。なお、図3Bは、インナー230がアウター210に対して最大限に挿入されたときの様子を示す歯科連結部材200の断面図であり、図3Cは、インナー230がアウター210に対して最大限に引き出されたときの様子を示す歯科連結部材200の断面図である。歯科連結部材200は、インナー230がアウター210に対してスライド可能に保持されるため、アウター210に対するインナー230の位置は、図3Bと図3Cの間の任意の位置となることができる。これにより、歯科連結部材200は、図3Bと図3Cの間の長さに伸縮することができる。
アウター210は、上顎マウスピース110に取り付けられる上取付部212と、貫通穴214を有する筒状部215と、を有する。アウター210が有する上取付部212は、筒状部215に対して側方の、貫通穴214が延在する方向(以下、「筒状部215の軸方向」または単に「軸方向」ともいう。)からずれた位置に、配置される。インナー230は、下顎マウスピース120に取り付けられる下取付部232と、アウター210が有する筒状部215の内部にスライド可能に挿入され得るロッド状の挿入部235と、を有する。インナー230が有する下取付部232は、挿入部235が延在する方向と略同一直線上に、配置される。インナー230が有する挿入部235は、アウター210が有する筒状部215の内部に挿入されて、スライド可能にアウター210に保持される。これにより、アウター210とインナー230とは連結される。
上顎マウスピース本体部114は、その外側面116に、アウター210を取り付けて保持するための上保持部130を有する。また、下顎マウスピース本体部124は。その外側面126に、インナー230を取り付けて保持するための下保持部140を有する。下保持部140は、閉口時に上保持部130より前方となる位置に配置される。
上保持部130は、上顎マウスピース本体部114の側面116に固定されて側面116から外部方向に延出する略円柱状の上軸体132と、上軸体132の先端からさらに外部方向に延出する柱状の上フランジ部134と、を有する。上フランジ部134の底面は、長軸および短軸を有する角丸長方形形状であり、上記長軸の長さは、上軸体132の底面を構成する円の直径よりも大きい。上記長軸は、上顎マウスピース110が下顎マウスピース120に対向する対向面に対して60°〜120°の傾斜角を有すればよい。本実施形態では、上記長軸は、上記対向面に対して約90°傾斜する。
下保持部140は、下顎マウスピース本体部124の側面126に固定されて側面126から外部方向に延出する略円柱状の下軸体142と、下軸体142の先端からさらに外部方向に延出する柱状の下フランジ部144と、を有する。下フランジ部144の底面は、長軸および短軸を有する角丸長方形形状であり、上記長軸の長さは、下軸体142の底面を構成する円の直径よりも大きい。上記長軸は、下顎マウスピース120が上顎マウスピース110に対向する対向面に対して60°〜120°の傾斜角を有すればよい。本実施形態では、上記長軸は、上記対向面に対して約90°傾斜する。
アウター210の上取付部212は、略円柱形の貫通孔を有するアイレットとなっている。上記貫通孔を構成する上記円柱は、その底面の直径が、上保持部130が有する上フランジ部134の長軸の長さと略同一である。また、アウター210の上取付部212の厚みは、上保持部130が有する上軸体132の厚み(上顎マウスピース本体部114の側面116から延在する高さ)と略同一であるか、または上軸体132の厚みよりもわずかに薄い。
また、インナー230の下取付部232も、略円柱形の貫通孔を有するアイレットとなっている。上記貫通孔を構成する上記円柱は、その底面の直径が、下保持部140が有する下フランジ部144の長軸の長さと略同一である。また、インナー230の下取付部232の厚みは、下保持部140が有する下軸体142の厚み(下顎マウスピース本体部124の側面126から延在する高さ)と略同一であるか、または下軸体142の厚みよりもわずかに薄い。
歯科連結部材200は、アウター210の上取付部212が有する貫通孔に上保持部130が有する上フランジ部134を挿入して通過させ、上保持部130の軸体にアウター210の上取付部212を引っ掛けることにより、上顎マウスピース110に取り付けられる。また、歯科連結部材200は、インナー230の下取付部232が有する貫通孔に下保持部140が有する下フランジ部144を挿入して通過させ、下保持部140の軸体にインナー230の下取付部232を引っ掛けることにより、下顎マウスピース120に取り付けられる。歯科連結部材200は、使用者がマウスピース100を装着したときには、上保持部130が有する上軸体132にアウター210の上取付部212が引っ掛かり、下保持部140が有する下軸体142にインナー230の下取付部232が引っ掛かっているため、マウスピース100から離脱しにくい。
また、このとき、歯科連結部材200は、アウター210の上取付部212が、回動可能に上保持部130が有する上軸体132に引っ掛かり、インナー230の下取付部232が、回動可能に下保持部140が有する下軸体142に引っ掛かる。そのため、マウスピース100は、これを装着した使用者の開口および閉口を制限しにくい。
歯科連結部材200は、開口時または閉口時において、上顎マウスピース110が有する上保持部130と下顎マウスピース120が有する下保持部140との間の距離を所定の範囲に保つことにより、下顎マウスピース120の後方への変位を規制する。このとき、上記距離の最小値が、下顎マウスピース120が後方へ変位できる限界を規定する。
また、歯科連結部材200は、後述するように、インナー230がアウター210に対してスライド可能に連結されて伸縮可能な構造となっており、かつ、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120に取り付けたときに、インナー230がアウター210より前方に配置される。そのため、歯科連結部材200は、マウスピース100を装着した使用者の下顎の後方への変位を抑制しつつ、インナー230がスライド可能な範囲内での、使用者による前方または下方への下顎の自由な移動を可能として、使用者の違和感を低減させることができる。
なお、上記した上保持部130と下保持部140との間の距離の最小値は、アウター210が有する筒状部215に対してインナー230が有する挿入部235が挿入され得る深さ(長さ)によって調整可能である。このとき、筒状部215の内部での挿入部235のスライド量を制限して、挿入部235が筒状部215に挿入され得る最大の深さ(以下、単に「最大挿入量」ともいう。)をより浅く(短く)することで、上保持部130と下保持部140との間の距離の最小値をより長くして、下顎マウスピース120をより前方に配置することが可能である。また、上記最大挿入量をより深く(長く)することで、上保持部130と下保持部140との間の距離の最小値をより短くして、下顎マウスピース120をより後方まで変位できるようにすることが可能である。上記スライド量は、ストッパ240の位置によって調整される。
アウター210は、略円柱状の貫通穴214を有する筒状部材である筒状部215を有する。筒状部215は、インナー230の挿入部235が挿入される側の端部(以下、単に「挿入側端部」ともいう。)に、塑性変形により貫通穴214の開口径を小さくした小径部216を有する。また、筒状部215は、軸方向における略中央部から挿入側端部とは反対側の端部(以下、単に「反対側端部」ともいう。)側にかけての貫通穴214の内周面に、ねじ山を形成した雌ねじ部217を有する。
インナー230は、ロッド状の挿入部235を有する。挿入部235は、略円柱状の形状を有し、上記円柱の底面を構成する円の直径は、筒状部215が有する小径部216の開口径よりも小さい。また、挿入部235には、突起部236が形成されている。突起部236は、略円盤状の部材であり、上記円盤の底面を構成する円の直径は、筒状部215が有する貫通穴214の径より小さく、かつ小径部216の開口径より大きい。突起部236は、マウスピース100を装着した使用者が下顎を動かして、インナー230がアウター210から抜き出される方向にスライドするとき、筒状部215の小径部216に当接してインナー230のさらなるスライドを規制し、アウター210からのインナー230の離脱を抑止する(図3C参照)。
本実施形態において、ストッパ240は、アウター210が有する筒状部215の内部に挿入されて、筒状部215の内部に軸方向に沿って位置調整可能に配置される。
ストッパ240は、インナー230が有する挿入部235の先端238と対向する対向部242、筒状部215が有する雌ねじ部217と螺合する雄ねじ部244、および、ねじ回しと係合可能なねじ穴が形成された頭部246を有する、略円筒状のねじ部材である。対向部242および頭部246は、いずれも略円柱形であり、上記円柱の底面を構成する円の直径は、筒状部215が有する貫通穴214の径よりも小さく、かつ、雌ねじ部217の底面を介して対向する位置に配置されたねじ山の山間の距離よりも小さい。
対向部242は、ストッパ240のうち、筒状部215の内部に挿入されたときにインナー230と対向する側の端部(以下、単に「対向側端部」ともいう。)に配置される。対向部242は、マウスピース100を装着した使用者が下顎を動かして、挿入部235が筒状部215の軸方向に沿ってより深く挿入される方向にインナー230がスライドするとき、挿入部235の先端238に当接して挿入部235のさらなる挿入を規制し、インナー230のスライド量を制限する。これにより、ストッパ240は、筒状部215に対する挿入部235の最大挿入量を規定する(図3B参照)。
雄ねじ部244は、ストッパ240のうち、対向部242と頭部246との間に配置される。雄ねじ部244は、筒状部215が有する雌ねじ部217と螺合することにより、ストッパ240が回転したときには筒状部215の軸方向に沿ってストッパ240を移動させ、ストッパ240が回転しないときには筒状部215に対してストッパ240を位置固定する。このようにして、雄ねじ部244は、筒状部215に対してストッパ240を位置決めする。
頭部246は、筒状部215の内部に挿入されたときにインナー230とは対向しない側の、筒状部215の反対側端部を向いた側の端部(以下、単に「開口側端部」ともいう。)に配置される。頭部246は、開口側端部を向いた面にねじ穴を有し、上記ねじ穴に係合したねじ回しの回転により、ストッパ240を回転させる。
上記構成により、ストッパ240は、ねじ回しにより回転させられると、雄ねじ部244が雌ねじ部217に螺合したまま筒状部215の内部を移動させられて、筒状部215の軸方向に沿った所定の位置に位置決めされる。ストッパ240が位置調整されることにより、筒状部215の内部での挿入部235のスライド量を所望の程度に制限することができる。
上顎マウスピース110および下顎マウスピース120は、ヒトの通常の咬合力によって破損しにくい材料から形成される。
たとえば、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120は、JIS T 6501に準じて測定される曲げ弾性率が2000MPa以上3000MPa以下の単一の硬い材料(たとえばアクリル樹脂)や、10MPa以上300MPa以下の柔らかい材料と1000MPa以上3000MPa以下の硬い材料とを組み合わせた材料から形成されてもよい。
また、上顎マウスピース110および下顎マウスピース120は、使用者の歯への追従性を高めるため、引張強度150N以上2000N未満、好ましくは150N以上500N以下の比較的柔らかい材料から形成されてもよい。
なお、引張強度は、ニッシン標準模型を用いて作製したマウスピース(厚さ3mm)の上顎マウスピースにおける歯列6番にφ1.5mmの穴を開け、臼歯方向(後方)に引張試験をした際に、上記上顎マウスピースが裂けた強度を意味する。
上記引張強度150N以上2000N未満の材料の例には、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、およびアクリル系ゴム樹脂が含まれる。これらのうち、オレフィン系樹脂が好ましい。
オレフィン系樹脂は、オレフィンを単独重合してなる重合体、またはオレフィンと他の単量体とを重合してなる共重合体である。上記オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルペンテン、およびヘキセンなどを含む炭素数が2〜6のオレフィンが好ましい。上記他の単量体の例には、酢酸ビニルなどが含まれる。
上記オレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリプロピレン系樹脂、およびエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)などが好ましく、ポリエチレン(PE)、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリプロピレン系樹脂などがより好ましい。
ポリエステル系樹脂は、多価カルボン酸(ジカルボン酸など)とポリアルコール(ジオールなど)との重縮合体である。上記ポリエステル系樹脂の例には、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが含まれる。
ウレタン系樹脂は、イソシアネート基を有する化合物と水酸基を有する化合物との重縮合体である。上記ウレタン系樹脂の例には、熱可塑性ポリウレタン(TPU)などが含まれる。
ポリアミド系樹脂は、アミド結合によって多数のモノマーが結合してできた(共)重合体である。上記ポリアミド系樹脂の例には、ナイロン、パラ系アミド、およびメタ系アミドなどが含まれる。
アクリル系ゴム樹脂は、アクリル系ゴムを主成分とした(共)重合体である。上記アクリル系樹脂の例には、メタクリル酸メチルとアクリル酸ブチルのブロック共重合体などが含まれる。
引張強度150N以上2000N未満の材料としては、プライムポリマー株式会社製のF327(ポリプロピレン系樹脂)などの市販されているものを用いてもよい。
歯科連結部材200は、チタンまたはチタンを含む合金、鉄(ステンレスを含む鋼など)、ならびに金、銀、白金、コバルトおよびクロムなどの合金などの金属材料、ならびに、JIS T 6501に準じて測定される曲げ弾性率が1000MPa以上3000MPa以下の硬い樹脂材料(たとえばポリカーボネート樹脂)などから形成することができる。なお、上記金属材料は、化成皮膜などにより耐食性を高められていてもよい。
本実施形態によれば、より小型の歯科連結部材が提供される。
また、本実施形態によれば、ストッパ240の雄ねじ部244とアウター210が有する筒状部215の雌ねじ部217との螺合により挿入部235のスライド量を無段階に制限できるので、使用者の個人差により適合させて、下顎マウスピース120の前進量を設定することができる。
また、本実施形態によれば、インナー230をアウター210に連結させたまま、貫通穴214にねじ回しを差し込んでストッパ240を回転させて挿入部235の最大挿入量を設定できるので、下顎マウスピース120の前進量の設定が容易である。
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るマウスピースは、歯科連結部材300の構成のみが、第1の実施形態に関するマウスピース100とは異なる。そのため、以下、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することがある。
歯科連結部材300は、図3Bと同様の断面を示す断面図である図4Aおよび図3Cと同様の断面を示す断面図である図4Bに示すように、アウター310、筒状のスリーブ320、インナー330、およびストッパ340を有する。
アウター310は、上顎マウスピース110に取り付けられる上取付部312と、略円柱状の貫通穴314を有する筒状部材である筒状部315と、を有する。筒状部315は、挿入側端部に、塑性変形により貫通穴314の開口径を小さくした小径部316を有する。また、筒状部315は、軸方向における略中央部から反対側端部側にかけての貫通穴314の内周面に、ねじ山を形成した雌ねじ部317を有する。
スリーブ320は、挿入側端部に形成された、略円筒形の本体部325と、反対側端部側に形成された、略円柱形の拡径部326と、を有する。本体部325は、上記円筒の底面を構成する円の直径が、筒状部315が有する小径部316の開口径よりも小さい。拡径部326は、上記円柱の底面を構成する円の直径が、筒状部315が有する貫通穴314の径より小さく、かつ小径部316の開口径より大きい。スリーブ320は、本体部325と拡径部326とが一体的にスライド可能に、アウター310が有する筒状部315の内部に挿入される。
本体部325は、略円柱状の挿入穴324を有する筒状部材である。本体部325は、挿入側端部に、塑性変形により挿入穴324の開口径を小さくした小径部328を有する。
拡径部326は、マウスピース100を装着した使用者が下顎を動かして、スリーブ320がアウター310から抜き出される方向にスライドするとき、筒状部315の小径部316に当接してスリーブ320のさらなるスライドを規制する(図4B参照)。これにより、拡径部326は、スリーブ320およびインナー330の挿入部335(本実施形態において、挿入部335は、スリーブ320の内部にスライド可能に挿入されている)の、アウター310からの離脱を抑止する。
インナー330は、下顎マウスピース120に取り付けられる下取付部332と、スリーブ320の内部に挿入されてスリーブ320に係合するロッド状の挿入部335と、を有する。挿入部335は、略円柱状の形状を有し、上記円柱の底面を構成する円の直径は、スリーブ320の本体部325が有する小径部328の開口径よりも小さい。また、挿入部335には、突起部336が形成されている。突起部336は、略円盤状の部材であり、上記円盤の底面を構成する円の直径は、スリーブ320の本体部325が有する挿入穴324の径より小さく、かつ小径部328の開口径より大きい。突起部336は、マウスピース100を装着した使用者が下顎を動かして、インナー330がスリーブ320から抜き出される方向にスライドするとき、本体部325の小径部328に当接してインナー330のさらなるスライドを規制し、スリーブ320からのインナー330の離脱を抑止する(図4B参照)。挿入部335は、スリーブ320の内部にスライド可能に挿入されることにより、スリーブ320が挿入されたアウター310に保持される。これにより、アウター310とインナー330とは連結される。
本実施形態においても、ストッパ340は、アウター310が有する筒状部315の内部に挿入されて、筒状部315の内部に軸方向に沿って位置調整可能に配置される。
ストッパ340は、スリーブ320が有する拡径部326の先端329と対向する対向部342、筒状部315が有する雌ねじ部317と螺合する雄ねじ部344、および、ねじ回しと係合可能なねじ穴が形成された頭部346を有する、略円筒状のねじ部材である。対向部342および頭部346は、いずれも略円柱形であり、上記円柱の底面を構成する円の直径は、筒状部315が有する貫通穴314の径よりも小さいく、かつ、雌ねじ部317の底面を介して対向する位置に配置されたねじ山の山間の距離よりも小さい。
対向部342は、ストッパ340の対向側端部に配置される。なお、本実施形態において、対向側端部とは、ストッパ340のうち、筒状部315の内部に挿入されたときにスリーブ320と対向する側の端部である。対向部342は、マウスピース100を装着した使用者が下顎を動かして、挿入部335が筒状部315の軸方向に沿ってより深く挿入される方向にインナー330がスライドするとき、スリーブ320が有する拡径部326の先端329に当接してスリーブ320のさらなるスライドを規制する。これにより、ストッパ340は、スリーブ320のスライド量を制限して、筒状部315の内部でのインナー330の挿入部335のスライド量を制限する。また、これにより、ストッパ340は、筒状部315に対する挿入部335の最大挿入量を規定する(図4A参照)。
雄ねじ部344は、ストッパ340のうち、対向部342と頭部346との間に配置される。雄ねじ部344は、筒状部315が有する雌ねじ部317と螺合することにより、ストッパ340が回転したときには筒状部315の軸方向に沿ってストッパ340を移動させ、ストッパ340が回転しないときには筒状部315に対してストッパ340を位置固定する。このようにして、雄ねじ部344は、筒状部315に対してストッパ340を位置決めする。
頭部346は、ストッパ340の開口側端部に配置される。頭部346は、開口側端部を向いた面にねじ穴を有し、上記ねじ穴に係合したねじ回しの回転により、ストッパ340を回転させる。
上記構成により、ストッパ340は、ねじ回しにより回転させられると、雄ねじ部344が雌ねじ部317に螺合したまま筒状部315の内部を移動させられて、筒状部315の軸方向に沿った所定の位置に位置決めされる。ストッパ340が位置調整されることにより、筒状部315の内部でのスリーブ320のスライド量も制限され、筒状部315の内部での挿入部335のスライド量も所望の程度に制限することができる。
本実施形態によれば、インナー330の挿入部335がスリーブ320の本体部325に対してスライド可能に挿入されるため、歯科連結部材300が伸縮可能な長さをより長くすることができる。
また、本実施形態によれば、インナー330をアウター310に連結させたまま、貫通穴314にねじ回しを差し込んでストッパ340を回転させて挿入部335の最大挿入量を設定できるので、下顎マウスピース120の前進量の設定が容易である。
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係るマウスピースは、歯科連結部材400の構成のみが、第1の実施形態に関するマウスピース100とは異なる。そのため、以下、第1の実施形態と共通する構成については説明を省略することがある。
歯科連結部材400は、図3Bと同様の断面を示す断面図である図5Aおよび平面図である図5B、ならびに図3Cと同様の断面を示す断面図である図5Cに示すように、アウター410、筒状のスリーブ420、インナー430、およびストッパ440を有する。
アウター410は、上顎マウスピース110に取り付けられる上取付部412と、略円柱状の貫通穴414を有する筒状部材である筒状部415と、を有する。筒状部415は、少なくともその中央部から挿入側端部にかけて、貫通穴414の開口径が略同一である。また、筒状部415は、反対側端部側に、貫通穴414の開口径を小さくした反対側小径部418を有する。また、アウター410の筒状部は、挿入側端部から軸方向に沿って形成されたスリット419を有する。
スリーブ420は、挿入側端部に形成された、略円筒形の本体部425と、反対側端部側に形成された、略円柱形の拡径部426と、を有する。本体部425は、上記円筒の底面を構成する円の直径が、筒状部415が有する貫通穴414の径よりも小さい。拡径部426は、上記円柱の底面を構成する円の直径が、筒状部415が有する貫通穴414の径より小さい。スリーブ420は、本体部425と拡径部426とが一体的にスライド可能に、アウター410が有する筒状部415の内部に挿入される。
本体部425は、略円柱状の挿入穴424を有する筒状部材である。本体部425は、挿入側端部に、塑性変形により挿入穴424の開口径を小さくした小径部428を有する。また、本体部425は、軸方向における略中央部から反対側端部側にかけての挿入穴424の内周面に、ねじ山を形成した雌ねじ部427を有する。
また、本体部425は、その外側面に、筒状部415が有するスリット419に挿入される突起429を有する。突起429は、スリット419に挿入されることにより、筒状部415の内部でのスリーブ420の回転を規制し、ストッパ440を位置調整するためのストッパ440の回転を容易にする(図5B参照)。なお、突起429は、スリーブ420が筒状部415の軸方向に沿ってスライドするときには、スリット419に挿入されたまま同期してスライドするため、スリーブ420のスライドを制限しにくい。また、突起部429は、マウスピース100を装着した使用者が下顎を動かして、スリーブ420がアウター410から抜き出される方向にスライドするとき、筒状部415の挿入側端部に当接してスリーブ420のさらなるスライドを規制する。これにより、突起部429は、スリーブ420およびインナー430の挿入部435の、アウター410からの離脱を抑止する(図5C参照)。
また、拡径部426は、本体部425の反対側端部側に形成されて、マウスピース100を装着した使用者が下顎を動かして、インナー430が有する挿入部435がアウター410に挿入される方向にスライドするとき、筒状部415の反対側小径部418に当接してスリーブ420のさらなるスライドを規制する(図5A参照)。これにより、拡径部426は、スリーブ420およびインナー430の挿入部435(本実施形態において、挿入部435は、スリーブ420の内部にスライド可能に挿入されている)の、アウター410からの離脱を抑止する。
インナー430は、下顎マウスピース120に取り付けられる下取付部432と、スリーブ420が有する本体部425の内部にスライド可能に挿入され得るロッド状の挿入部435と、を有する。挿入部435は、略円柱状の形状を有し、上記円柱の底面を構成する円の直径は、スリーブ420の本体部425が有する小径部428の開口径よりも小さい。また、挿入部435には、突起部436が形成されている。突起部436は、略円盤状の部材であり、上記円盤の底面を構成する円の直径は、スリーブ420の本体部425が有する挿入穴424の径より小さく、かつ小径部428の開口径より大きい。突起部436は、マウスピース100を装着した使用者が下顎を動かして、インナー430がスリーブ420から抜き出される方向にスライドするとき、本体部425の小径部428に当接してインナー430のさらなるスライドを規制し、スリーブ420からのインナー430の離脱を抑止する(図5C参照)。挿入部435は、スリーブ420の内部にスライド可能に挿入されることにより、スリーブ420が挿入されたアウター410に保持される。これにより、アウター410とインナー430とは連結される。
本実施形態において、ストッパ440は、スリーブ420が有する本体部425の内部に挿入されて、本体部425の内部に軸方向に沿って位置調整可能に配置される。
ストッパ440は、インナー430が有する挿入部435の先端438と対向する対向部442、スリーブ420の本体部425が有する雌ねじ部427と螺合する雄ねじ部444、および、ねじ回しと係合可能なねじ穴が形成された頭部446を有する、略円筒状のねじ部材である。対向部442および頭部446は、いずれも略円柱形であり、上記円柱の底面を構成する円の直径は、本体部425が有する挿入穴424の径よりも小さく、かつ、雌ねじ部427のねじ山間の距離よりも小さい。
対向部442は、ストッパ440の対向側端部に配置される。なお、本実施形態において、対向側端部とは、ストッパ440のうち、本体部425の内部に挿入されたときにインナー430の挿入部435と対向する側の端部である。対向部442は、マウスピース100を装着した使用者が下顎を動かして、挿入部435が本体部425の軸方向に沿ってより深く挿入される方向にインナー430がスライドするとき、インナー410が有する挿入部435の先端438に当接してインナー430のさらなるスライドを規制する。これにより、ストッパ440は、インナー430のスライド量を制限して、スリーブ420の本体部425の内部でのインナー430の挿入部435のスライド量を制限して、筒状部415の内部でのインナー430の挿入部435のスライド量を制限する。また、これにより、ストッパ440は、筒状部415に対する挿入部435の最大挿入量を規定する(図5A参照)。
雄ねじ部444は、ストッパ440のうち、対向部442と頭部446との間に配置される。雄ねじ部444は、本体部425が有する雌ねじ部427と螺合することにより、ストッパ440が回転したときには本体部415の軸方向に沿ってストッパ440を移動させ、ストッパ440が回転しないときには本体部425に対してストッパ440を位置固定する。このようにして、雄ねじ部444は、スリーブ420の本体部425に対してストッパ440を位置決めする。
頭部446は、ストッパ440の開口側端部に配置される。頭部446は、開口側端部を向いた面にねじ穴を有し、上記ねじ穴に係合したねじ回しの回転により、ストッパ440を回転させる。
上記構成により、ストッパ440は、ねじ回しにより回転させられると、雄ねじ部444が雌ねじ部427に螺合したままスリーブ420の本体部425の内部を移動させられて、本体部425の軸方向に沿った所定の位置に位置決めされる。ストッパ440が位置調整されることにより、本体部425の内部での挿入部435のスライド量も所望の程度に制限することができる。
本実施形態によれば、アウター410が有する筒状部415の内部でスリーブ420がスライド可能な長さをより長くし、かつ、挿入部435をスリーブ420の内部にスライド可能に配置することにより、マウスピース100を装着した使用者の下顎が前方または下方へと自由に移動できる範囲をより広くして、使用者の違和感をより低減させることができる。
また、本実施形態によれば、インナー430をアウター410に連結させたまま、貫通穴414にねじ回しを差し込んでストッパ440を回転させて挿入部435の最大挿入量を設定できるので、下顎マウスピース120の前進量の設定が容易である。
[その他の実施形態]
なお、上述の実施形態はそれぞれ本発明の一例を示すものであり、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において、他の種々多様な実施形態も可能であることは言うまでもない。
たとえば、上述の各実施形態では、歯科連結部材は、インナーがより前方に位置し、アウターがより後方に位置すうように、マウスピースに取り付けられていたが、歯科連結部材は、インナーがより後方に位置し、アウターがより前方に位置すうように、マウスピースに取り付けられてもよい。
また、上述の各実施形態では、歯科連結部材は上顎および下顎マウスピースの外側面に設けられているが、歯科連結部材は、上顎および下顎マウスピースの内側面に設けられていてもよい。
また、上述の各実施形態では、ストッパは、雄ねじ部の螺合により位置調整および位置決めされていたが、ねじの螺合ではなく、ストッパの外周面に配置した皿ばねなどの弾性部材を筒状部またはスリーブの内周面に形成した突起に係合させて位置決めする構成であってもよい。
また、上述の各実施形態では、ストッパは、当接部が挿入部の端部に当接することにより、インナーのさらなるスライドを抑止していたが、ストッパはインナーに当接しなくてもよく、たとえば磁石を配置して、磁力などで非接触にインナーのスライドを抑止してもよい。
また、上述の各実施形態では、上顎マウスピース本体部および下顎マウスピース本体部には、歯列に装着可能な歯列型取部が形成されている。しかし上顎マウスピース本体部および下顎マウスピース本体部は、歯列が収まる形状であれば歯列型でなくてもよいし、上顎マウスピース本体部および下顎マウスピース本体部の一部だけ歯列型取部にしてもよい。
また、上顎および下顎マウスピースは複数の材料から構成されていてもよく、有機物で構成される部分と無機物で構成される部分との組み合わせで作られていても良い。