<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る車両走行制御装置1を搭載する車両Vの構成を示す図である。
車両Vは、動力発生源であるエンジンEと、エンジンEの出力軸と図示しないトルクコンバータを介して連結された自動変速機TMと、これらエンジンE及び自動変速機TMを制御する車両走行制御装置1と、を備える。自動変速機TMは、それぞれ異なる変速比を有する複数のギヤを備え、車両走行制御装置1によって選択されるギヤ段に応じた変速比でエンジンEの出力を変速して駆動輪Wに伝達する多段自動変速機である。なお以下では、車両Vの動力発生源としてエンジンEを備えるものについて説明するが、車両Vの動力発生源の種類及び数はこれに限らない。車両Vの動力発生源としては、エンジンの代わりに電動機を用いてもよいし、エンジンと電動機とを組み合わせたものでもよい。
車両走行制御装置1は、運転者が操作可能なアクセルペダルAPと、運転モード切替スイッチSWと、エンジンE及び自動変速機TMを総括的に制御する自動運転制御装置2(以下、「AO−ECU2」との略称を用いる)と、運転者によるアクセルペダルAPの操作又はAO−ECU2からの指令に基づいてエンジンEを操作するエンジン制御装置3(以下、「FI−ECU3」との略称を用いる)と、運転者によるアクセルペダルAPの操作又はAO−ECU2からの指令に基づいて自動変速機TMを操作する変速機制御装置4(以下、「TM−ECU4」との略称を用いる)と、車両V又はその周囲の状態に関する情報を取得する複数のセンサによって構成されるセンサユニット5と、を備える。
運転モード切替スイッチSWは、運転者が車両Vの運転モードを切り替える際に操作するスイッチである。車両走行制御装置1では、運転者による運転モード切替スイッチSWの操作に応じて、車両Vの運転モードを、マニュアル運転モード又は自動運転モードの何れかに切り替えることが可能となっている。マニュアル運転モードとは、運転者によるアクセルペダルAP等の操作に基づいてエンジンE及び自動変速機TMを操作する運転モードである。また自動運転モードとは、主としてAO−ECU2における演算に基づいてエンジンE及び自動変速機TMを操作する運転モードである。以下では、運転モードとして自動運転モードが選択されている場合における車両走行制御装置1の機能について詳細に説明する。
センサユニット5は、車速センサ51と、前後加速度センサ52と、車間距離センサ53と、アクセルペダルセンサ54と、を備える。
車速センサ51は、車両Vの車体の速度である車速を検出し、検出値に応じた信号をAO−ECU2、FI−ECU3、及びTM−ECU4へ送信する。車速センサ51には、例えば、駆動輪Wの車軸の回転数に比例したパルス信号を生成するエンコーダが用いられる。
前後加速度センサ52は、車体に取り付けられ、車体の進行方向に沿った加速度を検出し、検出値に応じた信号をAO−ECU2に送信する。前後加速度センサ52には、例えば、1軸の加速度センサであって、その検出軸が車体の進行方向と平行になるように車体に取り付けられたものが用いられる。
車間距離センサ53は、自車と、自車の進行方向前方側に存在する先行車との間の距離である車間距離を検出し、検出値に応じた信号をAO−ECU2に送信する。この車間距離センサ53には、例えば、ミリ波レーダが用いられる。
アクセルペダルセンサ54は、運転者によって操作されるアクセルペダルAPの開度であるアクセル開度を検出し、検出値に応じた信号をAO−ECU2、FI−ECU3、及びTM−ECU4へ送信する。
AO−ECU2は、運転モードとして自動運転モードが選択されている場合に、エンジンE及び自動変速機TMを総括的に制御するマイクロコンピュータである。より具体的には、AO−ECU2は、運転モードとして自動運転モードが選択されている場合には、車速センサ51、前後加速度センサ52、及び車間距離センサ53等の検出信号を用いた車間距離制御を行うことによって、駆動輪Wに伝達される駆動トルクに対する要求に相当する要求駆動トルクを算出する。この車間距離制御では、AO−ECU2は、後に図3を参照して説明するように、自車と先行車との間の車間距離が所定値で維持されるような要求トルクをFI−ECU3へ入力するものとTM−ECU4へ入力するものとに分けて算出する。以下では、AO−ECU2における車間距離制御によって算出される要求駆動トルクであって、FI−ECU3へ入力するものをエンジン用要求駆動トルクといい、TM−ECU4へ入力するものを変速機用要求駆動トルクという。
FI−ECU3、アクセルペダルセンサ54又はAO−ECU2からの入力に応じてエンジンEを操作するマイクロコンピュータである。より具体的には、FI−ECU3は、後に図2を参照して説明するように、アクセルペダルセンサ54の検出値に基づいて算出されるドライバ要求駆動トルク又はAO−ECU2から入力されるエンジン用要求駆動トルクに基づいてエンジンEの燃料噴射量、吸入空気量、及び点火時期等を操作する。
TM−ECU4は、アクセルペダルセンサ54又はAO−ECU2からの入力に応じて自動変速機TMを操作するマイクロコンピュータである。より具体的には、TM−ECU4は、後に図2を参照して説明するように、アクセルペダルセンサ54の検出値に基づいて算出されるドライバ要求駆動トルク又はAO−ECU2から入力される変速機用要求駆動トルクに基づいて目標ギヤ段を決定し、決定した目標ギヤ比が実現するように自動変速機TMを操作する。
図2は、運転モードとして自動運転モードが選択されている場合におけるFI−ECU3及びTM−ECU4の演算手順を示す機能ブロック図である。
FI−ECU3は、除算部31と、擬似開度算出部32と、調停部33と、擬似駆動トルク算出部34と、フィルタ35と、目標エンジントルク算出部36と、エンジン制御部37と、を備える。
除算部31は、AO−ECU2における車間距離制御によって算出されるエンジン用要求駆動トルクを、エンジンEの出力軸と自動変速機TMの入力軸とを連結するトルクコンバータにおけるトルク増幅率で除算することによって、制御用要求駆動トルクを算出する。この制御用要求駆動トルクは、FI−ECU3における演算のために定義される駆動トルクであり、エンジン用要求駆動トルクからトルクコンバータによる増幅分を除いたものに相当する。
擬似開度算出部32は、制御用要求駆動トルクと、車速センサ51によって算出される車速である実車速と、自動変速機TMにおいて現に選択されているギヤ段である実ギヤ段と、を用いることによって、擬似アクセル開度を算出する。この擬似アクセル開度とは、AO−ECU2における車間距離制御を、運転者によるアクセルペダルAPの操作によって実現しようとした場合におけるアクセル開度に相当する。
擬似開度算出部32には、図2に示すように、アクセル開度と車速と駆動トルクとを関連付けるマップがギヤ段ごとに複数設けられている。擬似開度算出部32では、これら複数のマップの中から自動変速機TMにおいて現に選択されているギヤ段に応じたマップを選択し、制御用要求駆動トルクと実車速とに基づいて、選択したマップを検索することによって擬似アクセル開度を算出する。
調停部33は、アクセルペダルセンサ54によって検出される実アクセル開度と擬似開度算出部32によって算出される擬似アクセル開度とを用いることによって、制御用アクセル開度を算出する。より具体的には、調停部33は、実アクセル開度及び擬似アクセル開度のうち大きい方を制御用アクセル開度とする。
擬似駆動トルク算出部34は、制御用アクセル開度と、実車速と、実ギヤ段とを用いることによって、擬似要求駆動トルクを算出する。この擬似要求駆動トルクは、FI−ECU3における演算のために定義される駆動トルクであり、AO−ECU2における車間距離制御を、運転者によるアクセルペダルAPの操作によって実現しようとした場合における要求駆動トルクに相当する。
擬似駆動トルク算出部34には、図2に示すように、擬似開度算出部32と同じマップがギヤ段ごとに複数設けられている。擬似駆動トルク算出部34は、これら複数のマップの中から実ギヤ段に応じたマップを選択し、制御用アクセル開度と実車速とに基づいて、選択したマップを検索することによって擬似要求駆動トルクを算出する。
フィルタ35は、擬似駆動トルク算出部34によって算出される擬似要求駆動トルクにから、急激な変動を取り除くためのフィルタ演算を施す。加速時には、エンジンEの出力トルクが大きく変動することによって、運転者が違和感を覚えるおそれがある。フィルタ35では、擬似要求駆動トルクの急激な変動を取り除くことによって、エンジンEの出力トルクの急激な変動を抑制する。
目標エンジントルク算出部36は、フィルタ35を経た擬似要求駆動トルクを、自動変速機TMにおいて現に選択されているギヤ段のギヤ比である実ギヤ比で除算することによって、目標エンジントルクを算出する。この目標エンジントルクは、エンジンEからトルクコンバータへ入力するトルクに対する目標に相当する。
エンジン制御部37は、目標エンジントルク算出部36によって算出された目標エンジントルクが実現するように、エンジンEの燃料噴射量、吸入空気量、及び点火時期等を操作する。
TM−ECU4は、除算部41と、擬似開度算出部42と、調停部43と、目標ギヤ段選択部45と、変速機制御部46と、を備える。
除算部41は、AO−ECU2における車間距離制御によって算出される変速機用要求駆動トルクを、トルク増幅率で除算することによって、制御用要求駆動トルクを算出する。この制御用要求駆動トルクは、TM−ECU4における演算のために定義される駆動トルクであり、変速機用要求駆動トルクからトルクコンバータによる増幅分を除いたものに相当する。
擬似開度算出部42は、制御用要求駆動トルクと、実車速と、実ギヤ段と、を用いることによって、擬似アクセル開度を算出する。なおこの擬似開度算出部42において擬似アクセル開度を算出する具体的な手順は、FI−ECU3の擬似開度算出部32において擬似アクセル開度を算出する手順と同じであるので、詳細な説明を省略する。
調停部43は、実アクセル開度と擬似開度算出部42によって算出される擬似アクセル開度とを用いることによって、制御用アクセル開度を算出する。より具体的には、調停部43は、実アクセル開度及び擬似アクセル開度のうち大きい方を制御用アクセル開度とする。
目標ギヤ段選択部45は、制御用アクセル開度と、実車速と、を用いることによって、目標ギヤ段を決定する。目標ギヤ段選択部45には、図2に示すように、車速及びアクセル開度によって特定される運転点と、ギヤ段とを関連付けるシフトマップが設けられている。目標ギヤ段選択部45は、制御用アクセル開度及び実車速に基づいてシフトマップを検索することによって、目標ギヤ段を決定する。
変速機制御部46は、目標ギヤ段選択部45によって決定された目標ギヤ段が実現するように、自動変速機TMを操作する。
図3は、AO−ECU2における車間距離制御の概念を説明するためのタイムチャートである。図3には、上段から下段に向かって順に、車間距離、車速、及び加速度の変化を示す。
AO−ECU2における車間距離制御では、車間距離センサ53によって検出される車間距離である実車間距離(図3中、実線参照)に対し目標車間距離(図3中、破線参照)を設定するとともに、実車間距離が所定の目標時間で目標車間距離に到達するように目標車速及び目標加速度を算出し、これら目標車速及び目標加速度が実現するようにエンジン用要求駆動トルク及び変速機用要求駆動トルクを算出する。ここで目標車速とは、実車速(図3中、実線参照)に対する目標に相当し、先行車車速(図3中、破線参照)の近傍に設定される。また目標加速度とは、車速センサ51によって検出される実車速を時間微分して得られる加速度である実加速度(図3中、実線参照)に対する目標に相当し、先行車加速度(図3中、破線参照)の近傍に設定される。
ここで適切な車間距離は、車速によって異なる。そこでAO−ECU2における車間距離制御では、目標車間距離を実車速に基づいて決定する。
また実車間距離が目標車間距離に到達するまでの時間である目標時間は、実車間距離と目標車間距離との差分によって異なる。そこでAO−ECU2における車間距離制御では、実車間距離と目標車間距離との差分に基づいて目標時間を決定する。
またAO−ECU2における車間距離制御では、搭乗者の快適性を向上するため、目標加速度に対し上限を設定しており、この上限を超えないように目標加速度を算出する。またこの車間距離制御では、加速度の時間微分である加加速度に対しても上限を定めるようにしており、加加速度がこの上限を超えないように目標加速度を算出する。
図4は、AO−ECU2における車間距離制御の演算手順を示す機能ブロック図である。
AO−ECU2は、車間距離センサ53によって検出される車間距離である実車間距離と実車速とに基づいて、目標車速及び目標加速度を算出する目標算出部6と、目標車速及び目標加速度に基づいてエンジン用要求駆動トルクを算出するエンジン用要求駆動トルク算出部7と、目標加速度に基づいて変速機用要求駆動トルクを算出する変速機用要求駆動トルク算出部8と、を備える。
目標算出部6は、実車間距離と実車速とに基づいて目標到達車速を算出する目標到達車速算出部61と、目標到達車速と実車速とに基づいて目標加速度を算出する目標加速度算出部62と、目標到達車速と目標加速度と実車速とに基づいて目標車速を算出する目標車速算出部63と、を備える。
目標到達車速算出部61は、目標車間距離算出部611と、距離差算出部612と、相対速度算出部613と、目標時間算出部614と、目標相対速度算出部615と、合算部616と、を備え、これらを用いることによって、目標到達車速を算出する。ここで目標到達車速とは、以下で説明するように、目標時間で目標車間距離に到達するために実現すべき車速に相当する。
目標車間距離算出部611は、実車速に基づいて予め定められたマップを検索することによって、実車速に応じた目標車間距離を算出する。この目標車間距離算出部611では、実車速が大きくなるほど長くなるように目標車間距離を算出する。
距離差算出部612は、実車間距離から目標車間距離を減算することによって距離差を算出する。
相対速度算出部613は、距離差算出部612によって算出された距離差を用いることによって、先行車に対する自車の相対速度を算出する。この相対速度とは、より具体的には先行車の静止系における自車の車速に相当する。相対速度算出部613では、例えば、今回の制御周期に距離差算出部612によって算出された相対速度から、前回の制御周期(例えば、1秒前)に距離差算出部612によって算出された相対速度を減算することによって相対速度を算出する。
目標時間算出部614は、距離差算出部612によって算出された距離差に基づいて予め定められたマップを検索することによって、距離差に応じた目標時間を算出する。この目標時間算出部614では、距離差が長くなるほど短くなるように目標時間を算出する。
目標相対速度算出部615は、距離差を目標時間で除算することによって、相対速度に対する目標に相当する目標相対速度を算出する。
合算部616は、目標相対速度算出部615によって算出された目標相対速度と、相対速度算出部613によって算出された相対速度と、実車速と、を合算することによって目標到達速度を算出する。
目標加速度算出部62は、車速偏差算出部621と、基本目標加速度算出部622と、なまし処理部623と、を備え、これらを用いることによって目標加速度を算出する。
車速偏差算出部621は、目標到達車速算出部61によって算出された目標到達車速から実車速を減算することによって車速偏差を算出する。
基本目標加速度算出部622は、車速偏差算出部621によって算出された車速偏差に基づいて、目標加速度に対する基本値に相当する基本目標加速度を算出する。基本目標加速度算出部622には、図3に示すように車速差と加速度とを関連付けるマップが設けられている。基本目標加速度算出部622では、車速偏差に基づいて上記マップを検索することによって基本目標加速度を算出する。
前記目標到達車速と前記実車速との差に基づいて前記目標加速度を算出する基本目標加速度算出部と
基本目標加速度算出部622では、車速偏差が0である場合には基本目標加速度を0とし、車速偏差が正側で大きくなるほど基本目標加速度を正側で大きくし、車速偏差が負側で小さくなるほど基本目標加速度を負側で小さくする。また基本目標加速度算出部622では、基本目標加速度に対して上限と下限とを設定しており、車速偏差が所定の正の上限閾値より大きい場合には、基本目標加速度を車速偏差によらず上限で一定とする。また基本目標加速度算出部622では、車速偏差が所定の負の下限閾値より小さい場合には、基本目標加速度を車速偏差によらず下限で一定とする。
なまし処理部623は、基本目標加速度算出部622によって算出された基本目標加速度に対しなまし処理、すなわちレートリミット処理を施すことによって目標加速度を算出する。より具体的には、なまし処理部623では、図3に示すように基本目標加速度に基づいてマップを検索することによって基本目標加加速度を算出するとともに、この基本目標加加速度を積分したものと基本目標加速度とを比較し、小さい方を目標加速度とする。
目標車速算出部63は、基本目標車速算出部631と、比較部632と、を備え、これらを用いることによって目標車速を算出する。
基本目標車速算出部631は、目標加速度算出部62によって算出される目標加速度と実車速とに基づいて、目標車速に対する基本値に相当する基本目標車速を算出する。基本目標車速算出部631では、車速が実車速である状態から、上記目標加速度で加速したと仮定した場合に実現される車速を算出し、これを基本目標車速とする。より具体的には、基本目標車速算出部631では、実車速に目標加速度を加算することによって基本目標車速を算出する。
比較部632は、目標到達車速算出部61によって算出された目標到達車速と、基本目標車速算出部631によって算出された基本目標車速とを比較し、小さい方を目標車速とする。
エンジン用要求駆動トルク算出部7は、目標車速と実車速との車速偏差を算出する偏差算出部71と、この車速偏差が無くなるようにフィードバック入力を算出するフィードバックコントローラ72と、目標加速度を用いてフィードフォワード入力を算出するフィードフォワード入力算出部73と、これらフィードバック入力とフィードフォワード入力とを合算することによってエンジン用要求駆動トルクを算出する合算部74と、を備える。
偏差算出部71は、目標車速から実車速を減算することによって車速偏差を算出する。
フィードバックコントローラ72は、偏差算出部71によって算出される車速偏差が0になるように、既知のフィードバック制御則に従ってフィードバック入力を算出する。
フィードフォワード入力算出部73は、勾配加速度算出部731と、勾配補正部732と、制御用駆動トルク算出部733と、走行抵抗トルク補正部734と、を備え、これらを用いることによって目標加速度に応じたフィードフォワード入力を算出する。
勾配加速度算出部731は、勾配加速度を算出する。勾配路では、車両Vには進行方向とは逆向きに重力加速度が作用することから、その分だけ目標加速度を勾配に応じた分だけ上乗せして補正する必要がある。勾配加速度算出部731は、例えば、車両Vの実駆動力を予め定められた設定車重で除算することによって、車両Vの理論加速度を算出し、さらにこの理論加速度から実加速度を減算することによって勾配加速度を算出する。また例えば、勾配加速度算出部731は、例えば、地図勾配情報から現在地の路面の勾配を取得し、この勾配に所定の変換係数を乗算することによって勾配加速度を算出してもよい。
勾配補正部732は、目標加速度に勾配加速度を加算することによって、補正後の目標加速度を算出する。
制御用駆動トルク算出部733は、補正後の目標加速度に、設定車重と、駆動輪Wの設定タイヤ径と、を乗算することによって、制御用駆動トルクを算出する。ここで設定車重及び設定タイヤ径は、例えば、予め定められた値が用いられる。
走行抵抗トルク補正部734は、制御用駆動トルク算出部733によって算出された制御用目標駆動トルクと、図示しない処理によって算出された走行抵抗トルクとを合算することによりフィードフォワード入力を算出する。
変速機用要求駆動トルク算出部8は、エンジン用要求駆動トルク算出部7を構成するモジュールのうち、フィードフォワード入力算出部73のみを流用することによって変速機用要求駆動トルクを算出する。より具体的には、変速機用要求駆動トルク算出部8は、目標加速度に基づいてフィードフォワード入力算出部73によって算出されるフィードフォワード入力を変速機用要求駆動トルクとして用いる。換言すれば、変速機用要求駆動トルク算出部8は、フィードバック入力を算出するためのフィードバックコントローラ72を有さず、目標加速度に基づいてフィードフォワード入力算出部73によって変速機用要求駆動トルクを算出する。
以上のように、AO−ECU2では、実車間距離及び実車速に基づいて目標車速及び目標加速度を算出するとともに、これら目標車速及び目標加速度が実現するようにエンジン用要求駆動トルク及び変速機用要求駆動トルクを算出し、これらをFI−ECU3及びTM−ECU4へ入力する。またFI−ECU3及びTM−ECU4ではこれら要求駆動トルクに基づいてエンジンE及び自動変速機TMを制御する。
図5は、本実施形態に係る車両走行制御装置1による制御例を示すタイムチャートである。図5には、上段から順に、自動運転モードにおける車両走行制御装置1によって実現される車速、要求駆動トルク、及び自動変速機TMのギヤ段を示す。より具体的には、図5には、時刻t0において実車速と目標車速とが略一致した状態から、時刻t1において目標車速が増加し始めた場合の例を示す。なおこのような目標車速の増加は、例えば先行車が加速した場合に実現される。また図5には、比較例の車両走行制御装置によって実現される車速及びギヤ段を破線で示す。ここで比較例の車両走行制御装置とは、フィードバック入力を含むエンジン用要求駆動トルクをFI−ECU3及びTM−ECU4の両方に入力するものをいう。また図5では、目標車速を一点鎖線で示し、実車速を実線で示し、エンジン用要求駆動トルクを一点鎖線で示し、変速機用要求駆動トルクを実線で示す。
図5の例では、時刻t1からt2の間で所定の傾きで目標車速が増加し、その後時刻t2からt4の間で時刻t1からt2の間よりも急な傾きで目標車速が増加する。
このため、時刻t1からt2の間では、車両走行制御装置1は、ギヤ段を落とさずにエンジンEのエンジントルクを変化させるだけで車速を目標車速に追従させることができる。このため時刻t1からt2の間では、車速偏差が略0であり、したがってフィードバック入力も略0となり、エンジン用要求駆動トルクと変速機用要求駆動トルクとは略等しい。
これに対し時刻t2では、車両走行制御装置1は、目標車速の急な上昇に車速を追従させるべく、ギヤ段を数段落とす。しかしながら自動変速機TMにおける変速操作には少なからず遅れが生じることから、時刻t2以降では、目標車速と実車速との車速偏差が大きくなる。このため時刻t2以降では、車速偏差に基づいてフィードバックコントローラ72によって算出されるフィードバック入力が大きくなり、エンジン用要求駆動トルクと変速機用要求駆動トルクとの差も広がり始める。
このため、フィードバック入力を含むエンジン用要求駆動トルクに基づいてギヤ段を決定する比較例の車両走行制御装置では、図5において破線で示すように、この要求駆動トルクの増加に応じようとしてギヤ段をさらに落とす操作が行われる。このため比較例の車両走行制御装置では、時刻t3において車速が目標車速をオーバーシュートしてしまう場合がある。
これに対し本実施形態に係る車両走行制御装置1では、フィードバック入力を含まない変速機用要求駆動トルクに基づいてギヤ段を決定するため、比較例で実行されるような余計なシフトダウン操作が行われない。このため図5に示すように、車両走行制御装置1では、時刻t2からt4の間でオーバーシュートすることなく車速を目標車速に追従させることができる。
本実施形態の車両走行制御装置1によれば、以下の効果を奏する。
(1)車両走行制御装置1では、エンジン用要求駆動トルク算出部7は、フィードバックコントローラ72によって目標車速と実車速との車速偏差が無くなるようなフィードバック入力を算出し、このフィードバック入力と、目標加速度に基づいてフィードフォワード入力算出部73によって算出されるフィードフォワード入力とを用いることによってエンジン用要求駆動トルクを算出し、FI−ECU3は、このエンジン用要求駆動トルクに基づいてエンジンEを操作する。これに対し変速機用要求駆動トルク算出部8は、速度偏差に基づくフィードバックコントローラ72を有さず、目標加速度に基づいてフィードフォワード入力算出部73によって変速機用要求駆動トルクを算出し、TM−ECU4は、この変速機用要求駆動トルクに基づいて目標ギヤ段を決定し、この目標ギヤ段が実現するように自動変速機TMを操作する。このように車両走行制御装置1では、駆動トルクに対する応答が比較的速いエンジンEに用いるエンジン用要求駆動トルクに対しては車速偏差に基づくフィードバックコントローラ72の入力を用い、駆動トルクに対する応答が比較的遅い自動変速機TMに用いる変速機用要求駆動トルクに対しては車速偏差に基づくフィードバックコントローラ72の入力を用いないようにする。これにより、車両の加速時において、自動変速機TMにおける変速操作の遅れに起因して車速偏差が大きくなった場合であっても、変速機用要求駆動トルクは過剰に大きくなることはないので、TM−ECU4によって余分なシフトダウン操作が行われるのを抑制できる。またこのように加速時における余分なシフトダウン操作を抑制することにより、加速度及びエンジンEの回転数の急激な増加も抑制できるので、加速時には違和感の無い変速操作を実現できる。
(2)車両走行制御装置1は、実車間距離と実車速とに基づいて目標到達車速を算出する目標到達車速算出部61と、この目標到達車速と実車速との差に基づいて基本目標加速度を算出する基本目標加速度算出部622と、基本目標加速度算出部622によって算出された基本目標加速度になまし処理を施すなまし処理部623と、を備える。またエンジン用要求駆動トルク算出部7及び変速機用要求駆動トルク算出部8は、なまし処理が施され、ジャークが除かれた後の目標加速度に基づいてエンジン用要求駆動トルク及び変速機用要求駆動トルクを算出し、これをエンジンE及び自動変速機TMの制御に用いる。従って車両走行制御装置1によれば、加速時には違和感の無い滑らかな駆動力制御及び変速操作を実現できる。
なお本実施形態では、変速機用要求駆動トルク算出部8は、エンジン用要求駆動トルク算出部7を構成するモジュールの一部であるフィードフォワード入力算出部73を流用することによって変速機用要求駆動トルクを算出する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。変速機用要求駆動トルク算出部8においても、フィードフォワード入力算出部73と同じ演算を行うことによって変速機用要求駆動トルクを算出するようにしてもよい。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る車両走行制御装置1Aについて、図面を参照しながら説明する。なお以下の第2実施形態の説明では、第1実施形態の車両Vと同じ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
図6は、本実施形態に係る車両走行制御装置1Aに搭載されるAO−ECU2Aにおける車間距離制御の演算手順を示す機能ブロック図である。AO−ECU2Aは、第1実施形態に係るAO−ECU2と、変速機用要求駆動トルク算出部8Aの構成が異なる。
より具体的には、第1実施形態に係る変速機用要求駆動トルク算出部8(図4参照)は、なまし処理部623におけるなまし処理を経た目標加速度を入力として変速機用要求駆動トルクを算出する。これに対し本実施形態に係る変速機用要求駆動トルク算出部8Aは、なまし処理部623におけるなまし処理を経る前の基本目標加速度を入力として変速機用要求駆動トルクを算出する点において、第1実施形態に係る変速機用要求駆動トルク算出部8と異なる。
変速機用要求駆動トルク算出部8Aは、勾配加速度算出部731Aと、勾配補正部732Aと、制御用駆動トルク算出部733Aと、走行抵抗トルク補正部734Aと、を備え、勾配補正部732Aに基本目標加速度を入力することによって、変速機用要求駆動トルクを算出する。なお、勾配加速度算出部731A、勾配補正部732A、制御用駆動トルク算出部733A、及び走行抵抗トルク補正部734Aにおける具体的な演算手順は、第1実施形態に係る勾配加速度算出部731、勾配補正部732、制御用駆動トルク算出部733、及び走行抵抗トルク補正部734と同じであるので、詳細な説明を省略する。
本実施形態の車両走行制御装置1Aによれば、以下の効果を奏する。
(3)車両走行制御装置1Aでは、エンジン用要求駆動トルク算出部7は、なまし処理が施され、ジャークが除かれた後の目標加速度に基づいてエンジン用要求駆動トルクを算出し、これをFI−ECU3へ入力する。これにより、加速時には違和感の無い滑らかな駆動力制御を実現できる。ところで目標加速度にこのような、なまし処理を施すと、ジャークを除去できるものの急な変化に対して遅れが生じる場合がある。そこで変速機用要求駆動トルク算出部8Aは、なまし処理が施される前の基本目標加速度に基づいて変速機用要求駆動トルクを算出し、これをTM−ECU4へ入力する。これにより、急な加速が要求される場合には、これに追従できるように自動変速機TMのギヤ段を速やかに変えることができる。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る車両走行制御装置1Bについて、図面を参照しながら説明する。なお以下の第3実施形態の説明では、第1実施形態の車両Vと同じ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
本実施形態に係る車両走行制御装置1Bの具体的な構成について説明する前に、上記第1実施形態に係る車両走行制御装置1及び第2実施形態に係る車両走行制御装置1Aにおいて生じ得る課題について説明する。
図7は、上記実施形態に係る車両走行制御装置1,1Aにおいて生じ得る課題を説明するための図である。より具体的には、図7は、何らかの理由によって変速機用要求駆動トルクの精度が悪化した場合における車速、要求駆動トルク、及びギヤ段の変化を示すタイムチャートである。
車両走行制御装置1,1Aにおいて算出される変速機用要求駆動トルクは、車速偏差に基づくフィードバック入力を含まない。このため、何らかの理由により変速機用要求駆動トルクの精度が悪化した場合、図7に示すように、適切なギヤ段が選択されず、実車速の目標車速に対する追従性が悪化するおそれがある。車両走行制御装置1,1Aでは、勾配加速度や設定車重等に基づいて変速機用要求駆動トルクを算出しているため、勾配加速度や設定車重等にずれが生じると、変速機用要求駆動トルクの精度が悪化してしまう。また車両走行制御装置1,1Aでは、フィードフォワード入力のみによって変速用要求駆動トルクを算出しており、上記のようなずれを補正する手段を持たないため、図7に示すように実車速の目標車速に対する追従性の悪化を解消することができない。本実施形態に係る車両走行制御装置1Bは、このような実車速の目標車速に対する追従性の悪化を課題として構成されたものである。
図8は、本実施形態に係る車両走行制御装置1Bに搭載されるAO−ECU2Bにおける車間距離制御の演算手順を示す機能ブロック図である。AO−ECU2Bは、第1実施形態に係るAO−ECU2と、変速機用要求駆動トルク算出部8Bの構成が異なる。
変速機用要求駆動トルク算出部8Bは、目標加速度に基づいてフィードフォワード入力を算出するフィードフォワード入力算出部73と、車速偏差に基づいて補正駆動トルクを算出する補正駆動トルク算出部81Bと、補正駆動トルクとフィードフォワード入力とを合算することによって変速機用要求駆動トルクを算出する補正部82Bと、を備える。
フィードフォワード入力算出部73において、目標加速度に基づいてフィードフォワード入力を算出する手順については、第1実施形態と同じであるので詳細な説明を省略する。
補正駆動トルク算出部81Bは、後に図9を参照して説明するように、車速偏差の積分値を用いることによって実車速の目標車速に対する追従性悪化の有無を判定し、追従性が悪化したと判定した場合には0より大きな補正駆動トルクを算出する。
補正部82Bは、フィードフォワード入力算出部73において算出されるフィードフォワード入力と、補正駆動トルク算出部81Bにおいて算出される補正駆動トルクとを合算することによって変速機用要求駆動トルクを算出する。
図9は、補正駆動トルク算出部81Bにおいて補正駆動トルクを算出する手順を示すフローチャートである。図9に示す処理は、補正駆動トルク算出部81Bにおいて、所定の制御周期で繰り返し実行される。
始めにS1では、補正駆動トルク算出部81Bは、実車速が目標車速に到達しているか否か、より具体的には車速偏差が0よりも僅かに大きな値に設定された収束判定閾値以下であるか否かを判定する。S1の判定結果がYESである場合、すなわち実車速の目標車速に対する追従性が良好である場合には、補正駆動トルク算出部81Bは、後述の車速偏差積分値を0にリセットし(S2参照)、さらに補正駆動トルクを0にリセットした後(S3参照)、図9の処理を終了する。またS1の判定結果がNOである場合、補正駆動トルク算出部81Bは、S4に移る。
S4では、補正駆動トルク算出部81Bは、自動変速機TMがギヤ段を落とすシフトダウン操作が完了したか否かを判定する。S4の判定結果がYESである場合、すなわちシフトダウン操作が完了した後である場合には、補正駆動トルク算出部81Bは、車速偏差積分値を算出した後(S5参照)、S7に移る。補正駆動トルク算出部81Bは、例えば、前回の制御周期における車速偏差積分値に、今回の制御周期における車速偏差を加算することによって、今回の制御周期における車速偏差積分値を算出する。この車速偏差積分値は、実車速の目標車速に対する追従性の良否を判定するための目安となる。
またS4の判定結果がNOである場合、すなわちシフトダウン操作が完了していない場合には、補正駆動トルク算出部81Bは、車速偏差積分値をリセットした後(S6参照)、S7に移る。シフトダウン操作が完了していない場合、実車速と目標車速との差は拡がってしまう場合が多い。そこで補正駆動トルク算出部81Bでは、自動変速機TMにおけるシフトダウンの遅れによる影響を除くため、シフトダウン操作が完了するまでは、車速偏差積分値をリセットする。
S7では、補正駆動トルク算出部81Bは、車速偏差積分値が予め設定された追従性悪化判定閾値以上であるか否かを判定する。S7の判定結果がNOである場合、補正駆動トルク算出部81Bは、追従性は良好であると判断し、補正駆動トルクを前回値で維持したまま図9の処理を終了する。
S7の判定結果がYESである場合、補正駆動トルク算出部81Bは、追従性が悪化した状態であると判断し、S8に移る。S8では、補正駆動トルク算出部81Bは、車速偏差積分値を0にリセットし、S9に移る。
S9では、補正駆動トルク算出部81Bは、車速偏差に基づいて、実車速を目標車速に追従させるための上乗せ加速度を算出し、S10に移る。補正駆動トルク算出部81Bは、基本的には、車速偏差が大きくなるほど上乗せ加速度を大きくする。
S10では、補正駆動トルク算出部81Bは、目標加速度と上乗せ加速度とを合算して得られる加速度が、実加速度よりも大きいか否かを判定する。S10の判定結果がYESである場合、補正駆動トルク算出部81Bは、S11に移り、補正駆動トルクを更新する。またS10の判定結果がNOである場合、補正駆動トルク算出部81Bは、補正駆動トルクを更新すると実加速度が過剰に増加してしまい、搭乗者が違和感を覚えるおそれがあると判断し、補正駆動トルクを前回値で維持したまま図9の処理を終了する。
S11では、補正駆動トルク算出部81Bは、補正駆動トルクが上乗せ加速度に応じた分だけ増加するように、補正駆動トルクを更新し、図9の処理を終了する。より具体的には、補正駆動トルク算出部81Bは、下記式(1)に示すように、前回の制御周期における補正駆動トルクに、目標加速度と上乗せ加速度との和から実加速度を減算して得られる正の加速度を設定車重及び設定タイヤ径の積で除算することによって、今回の制御周期における補正駆動トルクを算出する。
補正駆動トルク(今回値)=補正駆動トルク(前回値)
+(目標加速度+上乗せ加速度−実加速度)×(設定車重×設定タイヤ径) (1)
図10は、本実施形態に係る車両走行制御装置1Bによる制御例を示すタイムチャートである。図10には、上段から順に、自動運転モードにおける車両走行制御装置1Bによって実現される車速、車速偏差積分値、加速度、要求駆動トルク、及び自動変速機TMのギヤ段を示す。より具体的には、図10には、時刻t10において実車速と目標車速とが略一致した状態から、時刻t11において目標車速が増加し始めた場合の例を示す。また図10には、第1実施形態に係る車両走行制御装置1によって実現される実車速、実加速度、変速機用要求駆動トルク、及びギヤ段を破線で示す。また図10では、目標車速を一点鎖線で示し、実車速を実線で示す。また目標加速度を一点鎖線で示し、実加速度を太実線で示し、目標加速度と上乗せ加速度とを合算して得られる加速度を細実線で示す。またエンジン用要求駆動トルクを一点鎖線で示し、変速機用要求駆動トルクを実線で示す。
図10の例では、時刻t11において目標車速が増加し始めた後、時刻t12においてシフトダウン操作を開始し、この時刻t12以降において車速偏差が大きくなり始める。また図10の例では、時刻t12において開始したシフトダウン操作は、時刻t13において完了する。したがってこの時刻t12からt13の間では、実車速は殆ど増加せず、また実加速度も一時的に低下する。またシフトダウン操作が完了する時刻t13までの間では、上述のように車速偏差積分値はリセットされるため(図9のS6参照)、常に0である。
その後時刻t13においてシフトダウン操作が完了したことに応じて、補正駆動トルク算出部81Bは、車速偏差の積算を開始する(図9のS5参照)。これにより車速偏差積分値は、徐々に増加し始める。
その後時刻t14では、車速偏差積分値が追従性悪化判定閾値以上となったことに応じて(図9のS7参照)、補正駆動トルク算出部81Bは、変速機用要求駆動トルクを補正する必要があると判断し、時刻t14における車速偏差に基づいて上乗せ加速度を算出し(図9のS9参照)、さらにこの上乗せ加速度に基づいて補正駆動トルクを0より大きな値に更新する。これにより、図10に示すように、変速機用要求駆動トルクは、時刻t14において補正駆動トルク分だけ増加する。このため時刻t14では、変速機用要求駆動トルクが増加したことに応じて、TM−ECU4は、さらにシフトダウン操作を開始する。このため、本実施形態の車両走行制御装置1Bでは、時刻t14から時刻t15の間においてシフトダウン操作の遅れによって実車速と目標車速との差が拡がるものの、シフトダウン操作が完了する時刻t15以降では、実車速は目標車速に追従させることができる。これにより本実施形態の車両走行制御装置1Bでは、時刻t18において実車速を目標車速に概ね一致させることができる。これに対し第1実施形態に係る車両走行制御装置1では、時刻t14以降も変速機用要求駆動トルクは一定であるため、シフトダウン操作が行われない。このため第1実施形態の車両走行制御装置1では、実車速を目標車速に到達させるまでに時間がかかってしまう。
なお図10の例では、時刻t16と時刻t17においても車速偏差積分値が追従性悪化判定閾値以上となる。しかしながら図10の例では、時刻t16及び時刻t17における実加速度は、目標加速度と上乗せ加速度とを合せて得られる加速度よりも大きくなっている。このため、実加速度の過剰な上昇を抑制するため、補正駆動トルクは更新されないようになっている(図9のS10参照)。
本実施形態の車両走行制御装置1Bによれば、以下の効果を奏する。
(4)本実施形態の変速機用要求駆動トルク算出部8Bでは、フィードフォワード入力に基づいて算出される変速機用要求駆動トルクを、車速偏差積分値が追従性悪化判定閾値を超えたタイミングで補正する。この車速偏差積分値は、上記追従性の悪化を判定する際の目安となる。車両走行制御装置1Bでは、車速偏差積分値に基づいて定められたタイミングで変速機用要求駆動トルクを補正することにより、追従性が悪化した場合には、適切なタイミングで追従性が回復するように自動変速機TMを制御することができる。
以上、本発明の第3実施形態について説明したが、本発明はこれに限らない。
例えば上記実施形態では、実車速の目標車速に対する追従性の悪化を判定するための目安として車速偏差積分値を採用し、この車速偏差積分値に基づいて定めたタイミングで変速機用要求駆動トルクを補正したが、本発明はこれに限らない。
例えば、車速偏差積分値の代わりに、相対速度とその目標相対速度との偏差の積分値を追従性の悪化を判定するための目安として採用し、この相対速度偏差積分値が追従性悪化判定閾値を超えたタイミングで、図9を参照して説明した手順と同じ手順で変速機用要求駆動トルクを補正してもよい。
また例えば、車速偏差積分値の代わりに、実加速度が目標加速度に未達であった時間や、相対加速度が目標相対加速度に未達であった時間を追従性の悪化を判定するための目安として採用し、これら時間に基づいて定めたタイミングで変速機用要求駆動トルクを補正してもよい。
図11は、補正駆動トルク算出部81Bにおいて補正駆動トルクを算出する手順を示すフローチャートであり、追従性の悪化を判定する目安として実加速度が目標加速度に未達であった時間を採用した場合を示す。図11に示す処理は、補正駆動トルク算出部81Bにおいて、所定の制御周期で繰り返し実行される。
始めにS21では、補正駆動トルク算出部81Bは、実車速が目標車速に到達しているか否かを判定する。S21の判定結果がYESである場合には、補正駆動トルク算出部81Bは、後述のタイマを0にリセットし(S22参照)、さらに補正駆動トルクを0にリセットした後(S23参照)、図11の処理を終了する。またS21の判定結果がNOである場合、補正駆動トルク算出部81Bは、S24に移る。
S24では、補正駆動トルク算出部81Bは、自動変速機TMがギヤ段を落とすシフトダウン操作が完了した後、所定の待ち時間が経過した後であるか否かを判定する。S24の判定結果がYESである場合には、補正駆動トルク算出部81Bは、実加速度が目標加速度に未達であるか否か、より具体的には目標加速度から実加速度を減算して得られる加速度偏差が0よりも僅かに大きな値に設定された閾値より大きいか否かを判定する(S25参照)。S25の判定結果がYESである場合、実加速度が目標加速度に未達であった時間を計測するためのタイマをカウントアップした後(S26参照)、S28に移る。またS24の判定結果がNOであった場合、及びS25の判定結果がNOであった場合には、補正駆動トルク算出部81Bは、S27に移り、タイマをリセットした後、S28に移る。
S28では、補正駆動トルク算出部81Bは、タイマの値が予め設定された追従性悪化判定閾値以上であるか否かを判定する。S28の判定結果がNOである場合、補正駆動トルク算出部81Bは、追従性は良好であると判断し、補正駆動トルクを前回値で維持したまま図11の処理を終了する。
S28の判定結果がYESである場合、補正駆動トルク算出部81Bは、追従性が悪化した状態であると判断し、S29に移る。S29では、補正駆動トルク算出部81Bは、タイマの値を0にリセットし、S30に移る。なお、S30及びS31の処理は、図9のS9及びS11の処理と同じであるので、詳細な説明を省略する。
図12は、図11のフローチャートに基づく制御例を示すタイムチャートである。
図12には、上段から順に、自動運転モードにおける車両走行制御装置1Bによって実現される車速、加速度、タイマ、要求駆動トルク、及び自動変速機TMのギヤ段を示す。より具体的には、図12には、時刻t20において実車速と目標車速とが略一致した状態から、時刻t21において目標車速が増加し始めた場合の例を示す。また図12には、第1実施形態に係る車両走行制御装置1によって実現される実車速、実加速度、変速機用要求駆動トルク、及びギヤ段を破線で示す。また図12では、目標車速を一点鎖線で示し、実車速を実線で示す。また目標加速度を一点鎖線で示し、実加速度を太実線で示し、目標加速度と上乗せ加速度とを合算して得られる加速度を細実線で示す。またエンジン用要求駆動トルクを一点鎖線で示し、変速機用要求駆動トルクを実線で示す。
図12の例では、時刻t21において目標車速が増加し始めた後、時刻t22においてシフトダウン操作を開始し、この時刻t22以降において車速偏差が大きくなり始める。また図12の例では、時刻t22において開始したシフトダウン操作は、時刻t23において完了する。したがってこの時刻t23から待ち時間後の時刻t24から、補正駆動トルク算出部81Bは、タイマのカウントアップを開始する(図11のS26参照)。
その後時刻t25では、タイマの値が追従性悪化判定閾値以上となったことに応じて(図11のS28参照)、補正駆動トルク算出部81Bは、変速機用要求駆動トルクを補正する必要があると判断し、時刻t25における車速偏差に基づいて上乗せ加速度を算出し(図11のS30参照)、さらにこの上乗せ加速度に基づいて補正駆動トルクを0より大きな値に更新する。これにより、図12に示すように、変速機用要求駆動トルクは、時刻t25において補正駆動トルク分だけ増加する。このため時刻t25では、変速機用要求駆動トルクが増加したことに応じて、TM−ECU4は、さらにシフトダウン操作を開始する。このため、本実施形態の車両走行制御装置1Bでは、時刻t25から時刻t26の間においてシフトダウン操作の遅れによって実車速と目標車速との差が拡がるものの、シフトダウン操作が完了する時刻t26以降では、実車速は目標車速に追従させることができる。これにより本実施形態の車両走行制御装置1Bでは、時刻t27において実車速を目標車速に概ね一致させることができる。これに対し第1実施形態に係る車両走行制御装置1では、時刻t25以降も変速機用要求駆動トルクは一定であるため、シフトダウン操作が行われない。このため第1実施形態の車両走行制御装置1では、実車速を目標車速に到達させるまでに時間がかかってしまう。
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る車両走行制御装置1Cについて、図面を参照しながら説明する。なお以下の第4実施形態の説明では、第3実施形態の車両と同じ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
図13は、本実施形態に係る車両走行制御装置1Cに搭載されるAO−ECU2Cにおける車間距離制御の演算手順を示す機能ブロック図である。AO−ECU2Cは、第3実施形態に係るAO−ECU2Bと、変速機用要求駆動トルク算出部8Cの構成が異なる。
変速機用要求駆動トルク算出部8Cは、フィードフォワード入力算出部73と、補正駆動トルク算出部81Bと、フィードフォワード入力と補正駆動トルクとの和を算出する合算部84Cと、学習係数を算出する学習係数算出部85Cと、合算部84Cによって算出される和と学習係数とを用いて変速機用要求駆動トルクを算出する補正部86Cと、を備える。
学習係数算出部85Cは、補正駆動トルク算出部81Bによって算出される補正駆動トルクを、フィードフォワード入力算出部73によって算出されるフィードフォワード入力で除算して得られる比に基づいて学習係数を算出する。より具体的には、学習係数算出部85Cは、補正駆動トルク算出部81Bにおいて追従性が悪化したと判定され、これにより補正駆動トルクが0より大きな値となった場合には、この0より大きな補正駆動トルクをその時のフィードフォワード入力で除算することによって比を算出し、さらにこの比からフィルタを用いることによって、徐々に変化する学習係数を算出する。
合算部84Cは、フィードフォワード入力算出部73によって算出されるフィードフォワード入力と、補正駆動トルク算出部81Bによって算出される補正駆動トルクとの和を算出する。
補正部86Cは、合算部84Cによって算出された和に、学習係数算出部85Cによって算出された学習係数を乗算することによって、変速機用要求駆動トルクを算出する。
図14は、本実施形態に係る車両走行制御装置1Cによる制御例を示すタイムチャートである。図14には、上段から順に、自動運転モードにおける車両走行制御装置1Cによって実現される車速、車速偏差積分値、加速度、学習係数、要求駆動トルク、及び自動変速機TMのギヤ段を示す。より具体的には、図14には、時刻t30〜t32の間及び時刻t33以降において同じ態様で加減速が行われた場合の例を示す。また図14には、第1実施形態に係る車両走行制御装置1によって実現される実車速、実加速度、変速機用要求駆動トルク、及びギヤ段を破線で示す。また図14では、目標車速を一点鎖線で示し、実車速を実線で示す。また目標加速度を一点鎖線で示し、実加速度を太実線で示し、目標加速度と上乗せ加速度とを合算して得られる加速度を細実線で示す。またエンジン用要求駆動トルクを一点鎖線で示し、変速機用要求駆動トルクを実線で示す。
図14の例において、時刻t30〜時刻t32までの間の各パラメータの振る舞いは、図10の例における時刻t11〜時刻t18までの間の各パラメータの振る舞いと同じである。ただし本実施形態に係る車両走行制御装置1Cによれば、学習係数算出部85Cは、時刻t31において補正駆動トルクが0より大きな値になったことに応じて、学習係数を1より大きな値へ向けて徐々に変化させる。
その後時刻t33以降では、時刻t30〜t32と同じ態様で再び加減速が行われる。しかしながら時刻t33では、学習係数が1より大きな値となっている。このため時刻t33以降では、図14に示すように変速機用要求駆動トルクは1より大きな学習係数によって増加側に補正される。このように時刻t33以降では、時刻t30〜t32の間よりも変速機用要求駆動トルクが大きくなるため、時刻t34において比較的速いタイミングでシフトダウン操作が行われる。したがって時刻t35以降では実車速が増加し、時刻t36において目標車速に到達する。以上のように、本実施形態に係る車両走行制御装置1Cによれば、学習係数を用いて変速機用要求駆動トルクを算出することにより、時刻t33以降の再加速時における車速追従性能を向上できる。
本実施形態の車両走行制御装置1Cによれば、以下の効果を奏する。
(5)変速機用要求駆動トルク算出部8Cでは、フィードフォワード入力と補正タイミングで算出される補正駆動トルクとの比に基づいて学習係数を算出し、フィードフォワード入力と補正駆動トルクとの和に学習係数を乗算することによって変速機用要求駆動トルクを算出する。従って車両走行制御装置1Cによれば、何らかの理由によって実車速の目標車速に対する追従性が悪化し、補正駆動トルクが0より大きくなった場合には、この補正駆動トルクの増加が学習係数に反映されるので、次回以降における追従性の悪化を未然に防ぐことができる。
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態に係る車両走行制御装置1Dについて、図面を参照しながら説明する。なお以下の第5実施形態の説明では、第1実施形態の車両Vと同じ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
図15は、本実施形態に係る車両走行制御装置1Dに搭載されるAO−ECU2Dにおける車間距離制御の演算手順を示す機能ブロック図である。AO−ECU2Dは、第1実施形態に係るAO−ECU2と、エンジン用要求駆動トルク算出部7D及び変速機用要求駆動トルク算出部8Dの構成が異なる。より具体的には、エンジン用要求駆動トルク算出部7D及び変速機用要求駆動トルク算出部8Dにおいて要求駆動トルクを算出する際に用いられるフィードフォワード入力算出部73Dの構成が異なる。
フィードフォワード入力算出部73Dは、勾配加速度算出部731と、勾配補正部732と、制御用駆動トルク算出部733と、走行抵抗トルク補正部734と、車重推定部735Dと、を備え、これらを用いることによって目標加速度に応じたフィードフォワード入力を算出する。すなわち、第1実施形態では、制御用駆動トルク算出部733は、勾配補正部732によって補正された目標加速度に、設定車重と設定タイヤ径とを乗算することによって制御用駆動トルクを算出したが、本実施形態では、制御用駆動トルク算出部733は、勾配補正部732によって補正された目標加速度に、車重推定部735Dによって算出される推定車重と設定タイヤ径とを乗算することによって制御用駆動トルクを算出する点に異なる。
図16は、車重推定部735Dにおいて推定車重を算出する演算手順の一例を示す図である。図16には、車重推定部735Dは、地図勾配情報を用いることによって推定車重を算出する場合の例を示す。
図16の例では、設定車重に基づいて下記式(2)によって算出される駆動力F1と、実際の車重に基づいて下記式(3)によって算出される駆動力F2とは略等しいとの仮定の下で、推定車重を算出する。
F1=設定車重×(実加速度+推定勾配加速度) (2)
F2=実際の車重×(実加速度+地図勾配加速度) (3)
上記式(2)において、実加速度は、上述のように車速センサ51によって検出される実車速を時間微分して得られる加速度である。また推定勾配加速度は、理論加速度から実加速度を減算して得られる加速度である。また理論加速度は、実駆動力を設定車重で除算することで算出される加速度である。また上記式(3)において、地図勾配加速度は、地図勾配情報から現在地の路面の勾配を取得し、この勾配に所定の変換係数を乗算することによって算出される。
従って、上記駆動力F1とF2が等しいとすると、実際の車重に相当する推定車重は、図16に示す手順によって算出される。すなわち車重推定部735Dでは、下記式(4)に基づいて推定車重を算出する。
推定車重=設定車重×(実加速度+推定勾配加速度)
/(実加速度+地図勾配加速度) (4)
図17は、車重推定部735Dにおいて推定車重を算出する演算手順の他の例を示す図である。図17には、車重推定部735Dは、前後加速度センサ52を用いることによって推定車重を算出する場合の例を示す。
図17の例では、設定車重に基づいて上記式(2)によって算出される駆動力F1と、実際の車重に基づいて下記式(5)によって算出される駆動力F3とは略等しいとの仮定の下で、推定車重を算出する。
F3=実際の車重×(実加速度+停車時の前後加速度センサ52の検出値) (5)
勾配路では、前後加速度センサ52の検出軸と平行な車両Vの進行方向が水平面に対し勾配に応じた角度だけ傾斜することから、前後加速度センサ52の検出値は、勾配に応じた分だけ増加する。
従って、上記駆動力F1とF3が等しいとすると、実際の車重に相当する推定車重は、図17に示す手順によって算出される。すなわち車重推定部735Dでは、下記式(6)に基づいて推定車重を算出する。
推定車重=設定車重×(実加速度+推定勾配加速度)
/(実加速度+前後加速度センサの検出値) (6)
本実施形態の車両走行制御装置1Dによれば、以下の効果を奏する。
(6)例えば牽引時のように、実際の車重が設定車重よりも重くなると、変速機用要求駆動トルクが望ましい値よりも小さくなってしまい、駆動トルクが不足し、実車速の目標車速に対する追従性が悪化するおそれがある。これに対し本実施形態に係る変速機用要求駆動トルク算出部8Dでは、車重推定部735Dによって算出された推定車重と目標加速度とに基づいて変速機用要求駆動トルクを算出する。これにより、何らかの理由によって実際の車重が変化した場合であっても、適切な大きさの変速機用要求駆動トルクを算出できるので、追従性の悪化を抑制できる。
以上、本発明の第1実施形態から第5実施形態について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。