まず、本発明の完成に至る経緯を述べる。本発明者らは、マスクブランクの位相シフト膜を、窒化ケイ素系材料層(窒素含有層)と酸化ケイ素系材料層(酸素含有層)を含む積層構造とした場合について、位相シフト膜のArF耐光性の観点、および耐薬性の観点から研究を行った。
ケイ素系材料膜のパターンの線幅がArF露光光の照射を受けたときに太る現象が発生するのは、他の元素(別のケイ素原子を含む)と結合した状態のケイ素原子が励起してその結合を断ち切り、酸素と結合する反応が進むことで体積膨張が起こることが原因と考えられている。このため、ArF露光光の照射を受ける前の段階で既に酸素と結合したケイ素が多く存在している酸化ケイ素系材料層の場合、ArF露光光の照射を受けても体積膨張によるパターン線幅は太りにくい。また、酸素と結合したケイ素は、酸素以外の元素と結合したケイ素に比べ、薬液に対して溶解しにくい。窒化ケイ素系材料層に酸素を含有させることによって、ArF耐光性と耐薬性を高めることは可能である。しかし、窒化ケイ素系材料層に酸素を含有させると、屈折率nおよび消衰係数kが低下することが避けがたく、位相シフト膜の設計の自由度が大きく低下するため、この手段は適用しがたい。
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、窒化ケイ素系材料のうちArF露光光を照射したときにケイ素が励起しにくい窒化ケイ素系材料を位相シフト膜の窒化ケイ素系材料層に用いれば、位相シフト膜全体のArF耐光性を高めることができるのではないかという考えに至った。
本発明者らは、窒化ケイ素系材料層がArF露光光の照射を受けたときに、その層中のケイ素が励起しやすい状態であるかどうかの指標に、X線光電子分光分析(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)を応用することを思いついた。最初に、窒化ケイ素系材料層に対してX線光電子分光分析を行ってSi2pナロースペクトルを取得し、その最大ピークの相違を指標として用いることを検討した。窒化ケイ素系材料層におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークは、窒素とケイ素の結合から放出された光電子の単位時間当たりの数に相当する。光電子は、X線の照射を受けて励起して原子軌道から飛び出した電子である。X線が照射されたときに放出される光電子の数が多く励起しやすい材料は、仕事関数が小さい材料である。このような仕事関数が小さい窒化ケイ素系材料は、ArF露光光の照射を受けた時も励起しやすい材料であるといえる。
しかし、X線光電子分光分析で検出される光電子の数は、同じ窒化ケイ素系材料層であっても測定条件(使用するX線の種類、照射強度等)によって変動するため、そのまま指標として使用することはできない。この問題点について研究した結果、窒化ケイ素系材料層におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークを、透光性基板におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークで除した数値を指標とすればよいという考えに至った。
透光性基板は、SiO2を主成分とする比較的安定な材料で形成されている。マスクブランクに用いられる透光性基板は、光学特性のバラつきが小さい等、材料のバラつきが非常に小さいことが要求される。このため、複数の透光性基板間での各材料の仕事関数のバラつきも非常に小さい。同一測定条件の場合、異なる透光性基板間でのSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークの差が小さいため、測定条件の相違の影響がこの光電子強度の最大ピークに大きく反映される。透光性基板におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークは、酸素とケイ素の結合から放出された光電子の単位時間当たりの数ではあるが、測定条件の相違による窒化ケイ素系材料層におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークの差を補正するには好適な参照値である。
本発明者らは、さらに鋭意研究を行った結果、透光性基板上に、窒化ケイ素系材料層(窒素含有層)と酸化ケイ素系材料層(酸素含有層)を少なくとも含む位相シフト膜を備えたマスクブランクにおいて、その窒化ケイ素系材料層と透光性基板に対してX線光電子分光分析を行った場合、窒化ケイ素系材料層におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_fを、透光性基板におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_sで除した数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下であれば、ArF耐光性を高められるという結論に至った。
一方、上記の数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下である窒化ケイ素系材料層は、ArF露光光の照射を受けた時に層中のケイ素が励起しにくい。このような窒化ケイ素系材料層は、強い結合状態の窒素とケイ素の結合の存在比率が高いといえる。この窒化ケイ素系材料層に薬液が接触した場合、窒素とケイ素の結合が切れにくく、薬液中に溶解しにくいという結論に至った。
以上の鋭意研究の結果、本発明のマスクブランクを導き出した。すなわち、本発明のマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜を備えており、その位相シフト膜は、窒素含有層(窒化ケイ素系材料層)と酸素含有層(酸化ケイ素系材料層)を少なくとも含み、酸素含有層は、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素と酸素とケイ素とからなる材料で形成され、窒素含有層は、ケイ素と窒素とからなる材料、または非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素と窒素とケイ素とからなる材料で形成され、窒素含有層に対してX線光電子分光分析を行って窒素含有層におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_fを取得し、透光性基板に対してX線光電子分光分析を行って透光性基板におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_sを取得したとき、窒素含有層における最大ピークPSi_fを透光性基板における最大ピークPSi_sで除した数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下であることを特徴とするものである。
次に、本発明の各実施の形態について説明する。本発明のマスクブランクは、位相シフトマスクを作成するためのマスクブランクに適用可能なものである。以降では、ハーフトーン型位相シフトマスクを製造するためのマスクブランクについて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。図1に示すマスクブランク100は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4がこの順に積層した構造を有する。
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO2−TiO2ガラス等)などのガラス材料で形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、ArFエキシマレーザー光(波長193nm)に対する透過率が高く、マスクブランクの透光性基板を形成する材料として特に好ましい。
位相シフト膜2は、位相シフト効果を有効に機能させることが可能な透過率を有することが求められる。位相シフト膜2は、ArF露光光に対する透過率が1%以上であることが少なくとも求められる。位相シフト膜2は、ArF露光光に対する透過率が10%以上であると好ましく、15%以上であるとより好ましく、20%以上であるとさらに好ましい。
また、位相シフト膜2は、ArF露光光に対する透過率が40%以下になるように調整されていることが好ましく、30%以下であるとより好ましい。
近年、半導体基板(ウェハ)上のレジスト膜に対する露光・現像プロセスとしてNTD(Negative Tone Development)が用いられるようになってきていて、そこではブライトフィールドマスク(パターン開口率が高い転写用マスク)がよく用いられる。ブライトフィールドの位相シフトマスクでは、位相シフト膜の露光光に対する透過率を10%以上とすることにより、透光部を透過した光の0次光と1次光のバランスがよくなる。このバランスがよくなると、位相シフト膜を透過した露光光が0次光に干渉して光強度を減衰させる効果がより大きくなって、レジスト膜上でのパターン解像性が向上する。このため、位相シフト膜2のArF露光光に対する透過率が10%以上であると好ましい。ArF露光光に対する透過率が15%以上である場合は、位相シフト効果による転写像(投影光学像)のパターンエッジ強調効果がより高まる。一方、位相シフト膜2のArF露光光に対する透過率が40%を超えると、サイドローブの影響が強くなりすぎるため、好ましくない。
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するArF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で所定の位相差を生じさせる機能を有することが求められる。また、その位相差は、150度以上200度以下の範囲になるように調整されていることが好ましい。位相シフト膜2における前記位相差の下限値は、160度以上であることがより好ましく、170度以上であるとさらに好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差の上限値は、190度以下であることがより好ましい。
位相シフト膜2は、厚さが90nm以下であることが好ましく、80nm以下であるとより好ましい。一方、位相シフト膜2は、厚さが40nm以上であることが好ましい。位相シフト膜2の厚さが40nm未満であると、位相シフト膜として求められる所定の透過率と位相差が得られない恐れがある。
位相シフト膜2は、窒素含有層(窒化ケイ素系材料層)と酸素含有層(酸化ケイ素系材料層)を少なくとも含む2層以上の積層膜となっている。位相シフト膜2は、窒素含有層と酸素含有層を少なくとも1層ずつ有していればよく、窒素含有層や酸素含有層をさらに1層以上有していてもよい。例えば、位相シフト膜2は、窒素含有層と酸素含有層とからなる1組の積層構造を2組以上有する構造(4層以上の積層構造)としてもよく、2つの窒素含有層の間に酸素含有層が設けられた構造としてもよい。位相シフト膜2は、本発明の効果が得られる範囲であれば、窒素含有層および酸素含有層以外の材料層を備えてもよい。
窒素含有層は、ケイ素と窒素とからなる材料、または非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素と窒素とケイ素とからなる材料で形成されることが好ましい。窒素含有層は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素を含有してもよい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
窒素含有層は、窒素に加え、いずれの非金属元素を含有してもよい。この場合の非金属元素は、狭義の非金属元素(窒素、炭素、酸素、リン、硫黄、セレン)、ハロゲンおよび貴ガスを含むものをいう。この非金属元素の中でも、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。窒素含有層は、酸素の含有量が10原子%以下であることが好ましく、5原子%以下であることがより好ましく、積極的に酸素を含有させることをしない(X線光電子分光分析等による組成分析を行ったときに検出下限値以下。)ことがさらに好ましい。窒素含有層の酸素の含有量が多いと、酸素含有層との間で光学特性の差が小さくなり、位相シフト膜の設計自由度が小さくなる。
窒素含有層は、貴ガスを含有してもよい。貴ガスは、反応性スパッタリングで窒素含有層を成膜する際に成膜室内に存在することによって成膜速度を大きくし、生産性を向上させることができる元素である。この貴ガスがプラズマ化し、ターゲットに衝突することでターゲットからターゲット構成元素が飛び出し、途中、反応性ガスを取りこみつつ、透光性基板1上に窒素含有層が形成される。このターゲット構成元素がターゲットから飛び出し、透光性基板1に付着するまでの間に成膜室中の貴ガスがわずかに取り込まれる。この反応性スパッタリングで必要とされる貴ガスとして好ましいものとしては、アルゴン、クリプトン、キセノンが挙げられる。また、窒素含有層の応力を緩和するために、原子量の小さいヘリウム、ネオンを薄膜に積極的に取りこませることができる。
窒素含有層は、窒素の含有量が50原子%以上であることが好ましい。ケイ素系膜はArF露光光に対する屈折率nが非常に小さく、ArF露光光に対する消衰係数kが大きい(以降、単に屈折率nと表記されている場合、ArF露光光に対する屈折率nのことをいい、単に消衰係数kと表記されている場合、ArF露光光に対する消衰係数kのことをいう。)。ケイ素系膜中の窒素の含有量が多くなるに従い、屈折率nが大きくなっていき、消衰係数kが小さくなっていく傾向がある。位相シフト膜2に求められる所定の透過率を確保しつつ、より薄い厚さで位相差を確保することを考慮すると、窒素含有層の窒素の含有量を50原子%以上とすることが好ましく、51原子%以上であるとより好ましく、52原子%以上であるとさらに好ましい。また、窒素含有層の窒素の含有量は、57原子%以下であると好ましく、56原子%以下であるとより好ましい。窒素含有層に、窒素をSi3N4の混合比よりも多く含有させようとすると、窒素含有層をアモルファスや微結晶構造にすることが困難になる。また、窒素含有層の表面粗さが大幅に悪化する。
窒素含有層は、ケイ素の含有量が35原子%以上であることが好ましく、40原子%以上であるとより好ましく、45原子%以上であるとさらに好ましい。
窒素含有層は、ケイ素及び窒素からなる材料で形成することが好ましい。なお、この場合のケイ素及び窒素からなる材料は、貴ガスを含有する材料も包含しているとみなすことができる。
窒素含有層は、X線光電子分光分析を行って窒素含有層におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_fを取得し、透光性基板1に対してX線光電子分光分析を行って透光性基板1におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_sを取得したとき、窒素含有層における最大ピークPSi_fを透光性基板1における最大ピークPSi_sで除した数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下であることが好ましい。数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下である窒素含有層は、上述のとおり、ArF露光光の照射を受けたときにも励起しにくい。このような窒素含有層とすることで、ArF耐光性を高めることができる。また、この窒素含有層は、上述のとおり、強い結合状態の窒素とケイ素の結合の存在比率が高い。また、このような窒素含有層とすることで、耐薬性を高めることができる。数値(PSi_f)/(PSi_s)は、1.085以下であると好ましく、1.08以下であるとより好ましい。
一方、位相シフト膜2のパターニングの際に行われるSF6等のフッ素系ガスによるドライエッチングの場合、窒素含有層は酸素含有層に比べてエッチングレートが速い。このため、位相シフト膜2に対してドライエッチングでパターニングを行ったときに、パターンの側壁に段差が発生しやすい傾向がある。
上記のフッ素系ガスによるドライエッチングで窒素含有層をパターニングする場合、励起状態のフッ素ガスが窒素とケイ素の結合を切って、比較的低沸点のケイ素のフッ化物を生成して揮発することで、窒素含有層にパターンが形成される。数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下である窒素含有層は、窒素とケイ素の結合が切れにくいことから、フッ素系ガスに対するドライエッチングのエッチングレートが遅くなるといえる。これにより、位相シフト膜2の窒素含有層と酸素含有層のエッチングレート差が小さくなり、ドライエッチングで位相シフト膜2に形成されるパターンの側壁の段差を低減することができる。
他方、ハーフトーン型位相シフトマスクのマスク欠陥修正技術として、位相シフト膜の黒欠陥部分に対して、二フッ化キセノン(XeF2)ガスを供給しつつ、その部分に電子線を照射することでその黒欠陥部分を揮発性のフッ化物に変化させてエッチング除去する欠陥修正技術(以下、このような電子線等の荷電粒子を照射して行う欠陥修正を単にEB欠陥修正という。)が用いられることがある。転写パターンが形成された後の位相シフト膜2に対してEB欠陥修正を行う場合、窒素含有層の修正レートは酸素含有層の修正レートに比べて速い傾向を有する。それに加えてEB欠陥修正の場合、側壁が露出した状態の位相シフト膜2のパターンに対してエッチングを行うことから、パターンの側壁方向に進行するエッチングであるサイドエッチングが特に窒素含有層に入りやすい。このため、EB欠陥修正後のパターン形状が窒素含有層と酸素含有層とで段差を作る段差形状となりやすい傾向がある。
EB欠陥修正で用いられるXeF2ガスは、ケイ素系材料に対して等方性エッチングを行うときの非励起状態のエッチングガスとして知られている。そのエッチングは、ケイ素系材料への非励起状態のXeF2ガスの表面吸着、XeとFに分離、ケイ素の高次フッ化物の生成、揮発というプロセスで行われる。ケイ素系材料の薄膜パターンに対するEB欠陥修正では、薄膜パターンの黒欠陥部分に対してXeF2ガス等の非励起状態のフッ素系ガスを供給し、黒欠陥部分の表面にそのフッ素系ガスを吸着させてから、黒欠陥部分に対して電子線を照射する。これにより、黒欠陥部分のケイ素原子は励起してフッ素との結合が促進され、電子線を照射しない場合よりも大幅に速くケイ素の高次フッ化物となって揮発する。X線が照射されたときに放出される光電子の数が少なく励起しにくい窒素含有層は、電子線の照射を受けた時も励起しにくい材料であるといえる。
上記の数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下である窒素含有層は、電子線の照射に対して励起しにくく、EB欠陥修正が行われたときの修正レートを遅くすることができる。これにより、位相シフト膜2の窒素含有層と酸素含有層のEB欠陥修正における修正レート差が小さくなり、位相シフト膜2のEB欠陥修正を行った箇所のパターンの側壁の段差を低減することができる。
上記のX線光電子分光分析において、透光性基板1や窒素含有層に対して照射するX線としては、AlKα線およびMgKα線のいずれも適用可能であるが、AlKα線を用いることが好ましい。なお、本明細書ではAlKα線のX線を用いたX線光電子分光分析を行う場合について述べている。
透光性基板1や窒素含有層に対してX線光電子分光分析を行ってSi2pナロースペクトルを取得する方法は、一般的には以下の手順で行われる。すなわち、最初に、幅広い結合エネルギーのバンド幅で光電子強度(X線を照射した測定対象物からの単位時間当たりの光電子の放出数)を取得するワイドスキャンを行ってワイドスペクトルを取得し、その透光性基板1や窒素含有層の構成元素に由来する全てのピークを特定する。その後、ワイドスキャンよりも高分解能であるが取得できる結合エネルギーのバンド幅が狭いナロースキャンを注目するピーク(Si2p)の周囲のバンド幅で行うことで各ナロースペクトルを取得する。一方、本発明でX線光電子分光分析を用いる測定対象物である透光性基板1や窒素含有層は構成元素があらかじめ分かっている。また、本発明で必要となるナロースペクトルはSi2pナロースペクトルに限られる。このため、本発明の場合、ワイドスペクトルの取得の工程を省略して、Si2pナロースペクトルを取得してもよい。
透光性基板1や窒素含有層に対してX線光電子分光分析を行って取得されるSi2pナロースペクトルにおける光電子強度の最大ピーク(PSi_f、PSi_s)は、結合エネルギーが96[eV]以上106[eV]以下の範囲での最大ピークであることが好ましい。この結合エネルギーの範囲外のピークは、Si−N結合やSi−O結合から放出された光電子ではない恐れがあるためである。
窒素含有層は、Si3N4結合の存在数を、Si3N4結合、SiaNb結合(ただし、b/[a+b]<4/7)、Si−Si結合、Si−O結合およびSi−ON結合の合計存在数で除した比率が0.88以上であることが好ましい。安定した結合の存在比率が高い窒素含有層は、ArF耐光性や耐薬性が高い。上記の各結合の中でSi−O結合が最も安定した結合であるが、上記の制約から窒素含有層に酸素を多く含有させることは難しい。酸素以外のケイ素との結合の中では、Si3N4結合が最も安定した結合であり、上記のようなSi3N4結合の存在比率が高い窒素含有層は、ArF耐光性や耐薬性が高い。
位相シフト膜2に設けられている全ての窒素含有層の合計膜厚は、30nm以上であることが好ましい。この全ての窒素含有層の合計膜厚が30nm未満であると、位相シフト膜として求められる所定の透過率(40%以下)と位相差(150度以上200度以下)が得られない恐れがある。この全ての窒素含有層の合計膜厚は、35nm以上であるとより好ましく、40nm以上であるとさらに好ましい。一方、位相シフト膜2に設けられている全ての窒素含有層の合計膜厚は、60nm以下であることが好ましく、55nm以下であるとより好ましい。
酸素含有層は、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素と酸素とケイ素とからなる材料で形成されることが好ましい。酸素含有層は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素を含有してもよい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
酸素含有層は、酸素に加え、いずれの非金属元素を含有してもよい。この場合の非金属元素は、狭義の非金属元素(窒素、炭素、酸素、リン、硫黄、セレン)、ハロゲンおよび貴ガスを含むものをいう。この非金属元素の中でも、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。酸素含有層は、窒素含有層と同様の理由から貴ガスを含有してもよい。
酸素含有層は、窒素および酸素の合計含有量が50原子%以上であることが好ましい。位相シフト膜2の設計自由度(特に透過率)を高めることを考慮すると、酸素含有層の窒素および酸素の合計含有量を50原子%以上とすることが好ましく、55原子%以上とすることがより好ましく、60原子%以上とすることがさらに好ましい。また、酸素含有層の窒素および酸素の合計含有量は、66原子%以下であると好ましい。窒素含有層に、窒素および酸素をSiO2やSi3N4の混合比よりも多く含有させようとすると、酸素含有層をアモルファスや微結晶構造にすることが困難になる。また、酸素含有層の表面粗さが大幅に悪化する。
酸素含有層は、ケイ素、窒素及び酸素からなる材料で形成することが好ましい。特に、位相シフト膜の設計自由度を透過率が高い領域で広げる場合、酸素含有層は、ケイ素及び酸素からなる材料で形成してもよい。なお、これらの場合のケイ素、窒素及び酸素からなる材料やケイ素及び酸素からなる材料は、貴ガスを含有する材料も包含しているとみなすことができる。
酸素含有層は、酸素の含有量が15原子%以上であることが好ましい。ケイ素系膜は、酸素の含有量が多くなるに従い、窒素の含有量を多くする場合に比べて消衰係数kが大幅に小さくなる。位相シフト膜の設計自由度を透過率が高い領域で広げる場合、酸素含有層の酸素の含有量は、15原子%以上であることが好ましく、20原子%以上であるとより好ましく、25原子%以上であるとさらに好ましい。
位相シフト膜2に設けられている全ての酸素含有層の合計膜厚は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であるとより好ましく、20nm以上であるとさらに好ましい。一方、位相シフト膜2に設けられている全ての酸素含有層の合計膜厚は、50nm以下であることが好ましく、45nm以下であるとより好ましい。
窒素含有層および酸素含有層は、エッチングでパターンを形成したときのパターンエッジラフネスが良好になるなどの理由からアモルファス構造であることが最も好ましい。窒素含有層や酸素含有層がアモルファス構造にすることが難しい組成である場合は、アモルファス構造と微結晶構造が混在した状態であることが好ましい。
窒素含有層は、屈折率nが2.3以上であることが好ましく、2.4以上であるとより好ましい。また、窒素含有層は、ArF露光光に対する消衰係数kが0.5以下であることが好ましく、0.4以下であるとより好ましい。一方、窒素含有層は、屈折率nが3.0以下であることが好ましく、2.8以下であるとより好ましい。また、窒素含有層は、消衰係数kが0.16以上であることが好ましく、0.2以上であるとより好ましい。
酸素含有層は、屈折率nが1.5以上であることが好ましく、1.8以上であるとより好ましい。また、酸素含有層は、ArF露光光に対する消衰係数kが0.15以下であることが好ましく、0.1以下であるとより好ましい。一方、酸素含有層は、屈折率nが2.2以下であることが好ましく、1.9以下であるとより好ましい。また、酸素含有層は、消衰係数kが0以上であると好ましい。
薄膜の屈折率nおよび消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度および結晶状態なども、屈折率nおよび消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。窒素含有層および酸素含有層を、所望の屈折率nおよび消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで薄膜を成膜する際に、貴ガスと反応性ガスの混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで薄膜を成膜する際における成膜室内の圧力、ターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。また、これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものであある。
窒素含有層および酸素含有層は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。導電性が低いターゲット(ケイ素ターゲット、半金属元素を含有しないあるいは含有量の少ないケイ素化合物ターゲットなど)を用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用することがより好ましい。
位相シフト膜2の膜応力が大きいと、マスクブランクから位相シフトマスクを製造した時に位相シフト膜2に形成される転写パターンの位置ずれが大きくなるという問題が生じる。位相シフト膜2の膜応力は、275MPa以下であると好ましく、165MPa以下であるとより好ましく、110MPa以下であるとさらに好ましい。上記のスパッタリングで形成された位相シフト膜2は、比較的大きな膜応力を有する。このため、スパッタリングで形成された後の位相シフト膜2に対して、加熱処理やフラッシュランプ等による光照射処理などを行って、位相シフト膜2の膜応力を低減させることが好ましい。
マスクブランク100において、位相シフト膜2上に遮光膜3を備えることが好ましい。一般に、位相シフトマスク200(図2(F)参照)では、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。位相シフトマスク200の外周領域では、光学濃度が2.0よりも大きいことが少なくとも求められている。上記の通り、位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは上記の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが望まれる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフト膜2を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に上記の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。なお、マスクブランク100は、位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における光学濃度が2.5以上であると好ましく、2.8以上であるとより好ましい。また、遮光膜3の薄膜化のため、位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における光学濃度は4.0以下であると好ましい。
遮光膜3は、単層構造および2層以上の積層構造のいずれも適用可能である。また、単層構造の遮光膜3および2層以上の積層構造の遮光膜3の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構成であってもよく、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。
遮光膜3は、位相シフト膜2との間に別の膜を介さない場合においては、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合、遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。この遮光膜3を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる1以上の元素を含有する材料が挙げられる。
一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる1以上の元素を含有する材料を用いることが好ましい。また、遮光膜3を形成するクロムを含有する材料に、モリブデンおよびスズのうち1以上の元素を含有させてもよい。モリブデンおよびスズのうち1以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスに対するエッチングレートをより高くすることができる。
一方、マスクブランク100において、遮光膜3と位相シフト膜2との間に別の膜を介する構成とする場合においては、前記のクロムを含有する材料でその別の膜(エッチングストッパ兼エッチングマスク膜)を形成し、ケイ素を含有する材料で遮光膜3を形成する構成とすることが好ましい。クロムを含有する材料は、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによってエッチングされるが、有機系材料で形成されるレジスト膜は、この混合ガスでエッチングされやすい。ケイ素を含有する材料は、一般にフッ素系ガスや塩素系ガスでエッチングされる。これらのエッチングガスは基本的に酸素を含有しないため、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスによってエッチングする場合よりも、有機系材料で形成されるレジスト膜の減膜量が低減できる。このため、レジスト膜の膜厚を低減することができる。
遮光膜3を形成するケイ素を含有する材料には、遷移金属を含有させてもよく、遷移金属以外の金属元素を含有させてもよい。これは、このマスクブランク100から位相シフトマスク200を作製した場合、遮光膜3で形成されるパターンは、基本的に外周領域の遮光帯パターンであり、転写パターン形成領域に比べてArF露光光が照射される積算量が少ないことや、この遮光膜3が微細パターンで残っていることは稀であり、ArF耐光性が低くても実質的な問題は生じにくいためである。また、遮光膜3に遷移金属を含有させると、含有させない場合に比べて遮光性能が大きく向上し、遮光膜の厚さを薄くすることが可能となるためである。遮光膜3に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。
一方、遮光膜3を形成するケイ素を含有する材料として、ケイ素及び窒素からなる材料、またはケイ素および窒素からなる材料に半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素を含有する材料を適用してもよい。
上記の位相シフト膜2に積層して遮光膜3を備えるマスクブランク100において、遮光膜3の上に遮光膜3をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜4をさらに積層した構成とするとより好ましい。遮光膜3は、所定の光学濃度を確保する機能が必須であるため、その厚さを低減するには限界がある。ハードマスク膜4は、その直下の遮光膜3にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能することができるだけの膜の厚さがあれば十分であり、基本的に光学上の制限を受けない。このため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜は、このハードマスク膜4にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分であるので、従来よりも大幅にレジスト膜の厚さを薄くすることができる。
このハードマスク膜4は、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合は、前記のケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO2、SiN、SiON等で形成されることがより好ましい。また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素および炭素から選ばれる1以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。その材料として、たとえば、Ta、TaN、TaON、TaBN、TaBON、TaCN、TaCON、TaBCN、TaBOCNなどが挙げられる。一方、このハードマスク膜4は、遮光膜3がケイ素を含有する材料で形成されている場合は、上記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
マスクブランク100において、上記ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が100nm以下の膜厚で形成されていることが好ましい。DRAM hp32nm世代に対応する微細パターンの場合、ハードマスク膜4に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)に、線幅が40nmのSRAF(Sub-Resolution Assist Feature)が設けられることがある。しかし、この場合でも、レジストパターンの断面アスペクト比が1:2.5と低くすることができるので、レジスト膜の現像時、リンス時等にレジストパターンが倒壊や脱離することを抑制することができる。なお、レジスト膜は、膜厚が80nm以下であることがより好ましい。
図2に、本発明の実施形態であるマスクブランク100から位相シフトマスク200を製造する工程の断面模式図を示す。
本発明の位相シフトマスク200は、透光性基板1上に転写パターンが形成された位相シフト膜2を備えた位相シフトマスク200であって、位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)は、窒素含有層と酸素含有層を少なくとも含み、酸素含有層は、ケイ素と酸素とからなる材料、または半金属元素および非金属元素から選ばれる1以上の元素と酸素とケイ素とからなる材料で形成され、窒素含有層は、ケイ素と窒素とからなる材料、または非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素と窒素とケイ素とからなる材料で形成され、窒素含有層に対してX線光電子分光分析を行って窒素含有層におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_fを取得し、透光性基板1に対してX線光電子分光分析を行って透光性基板1におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_sを取得したとき、窒素含有層における最大ピークPSi_fを透光性基板における最大ピークPSi_sで除した数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下であることを特徴とするものである。
この位相シフトマスク200は、マスクブランク100と同様の技術的特徴を有している。位相シフトマスク200における透光性基板1、位相シフト膜2および遮光膜3に関する事項については、マスクブランク100と同様である。このような位相シフトマスク200は、位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)の全体のArF耐光性が向上しており、耐薬性も向上している。このため、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにこの位相シフトマスク200をセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に位相シフトパターン2aを露光転写する際も、半導体デバイス上のレジスト膜に設計仕様を十分に満たす精度でパターンを転写することができる。
以下、図2に示す製造工程にしたがって、位相シフトマスク200の製造方法の一例を説明する。なお、この例では、遮光膜3にはクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にはケイ素を含有する材料を適用している。
まず、マスクブランク100におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(A)参照)。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(B)参照)。
次に、レジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成する(図2(C)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aも除去した(図2(D)参照)。
次に、マスクブランク100上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(E)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(F)参照)。
上記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、塩素系ガスとして、Cl2、SiCl2、CHCl3、CH2Cl2、CCl4、BCl3等が挙げられる。また、上記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、フッ素系ガスとして、CHF3、CF4、C2F6、C4F8、SF6等が挙げられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス材料の透光性基板1に対するエッチングレートが比較的低いため、透光性基板1へのダメージをより小さくすることができる。
さらに、本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記のマスクブランク100を用いて製造された位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜にパターンを露光転写することを特徴としている。本発明のマスクブランク100およびそのマスクブランク100を用いて製造された位相シフトマスク200は、上記の通りの効果を有するため、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージに、位相シフトマスク200をセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に位相シフトパターン2aを露光転写する際も、半導体デバイス上のレジスト膜に設計仕様を十分に満たす精度でパターンを転写することができる。
一方、本発明と関連する別の実施形態として、以下の構成のマスクブランクを挙げることができる。すなわち、その別の実施形態のマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜を備えており、位相シフト膜は、透光性基板とは反対側の表面及びその近傍の領域に酸素の含有量が増加した組成傾斜部を有する単層膜であり、位相シフト膜は、ケイ素と窒素とからなる材料、または非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素と窒素とケイ素とからなる材料で形成され、位相シフト膜に対してX線光電子分光分析を行って位相シフト膜におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_fを取得し、透光性基板に対してX線光電子分光分析を行って透光性基板におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_sを取得したとき、位相シフト膜における最大ピークPSi_fを透光性基板における最大ピークPSi_sで除した数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下であることを特徴とするものである。
位相シフト膜の組成傾斜部を除く領域は、本発明の位相シフト膜の窒素含有層と同様の特徴を有している。また、位相シフト膜の組成傾斜部は、酸素の含有量が多くなっていることからArF耐光性および耐薬性がともに高い。このため、この別の実施形態のマスクブランクは、従来の単層構造の窒化ケイ素系材料からなる位相シフト膜を備えるマスクブランクに比べて、位相シフト膜の全体でのArF耐光性が高く、耐薬性も高い。なお、この別の実施形態の位相シフト膜に関するその他の事項については、本発明の実施形態の位相シフト膜における窒素含有層と同様である。
また、上記の別の実施形態のマスクブランクと同様の特徴を備える別の実施形態の位相シフトマスクも挙げることができる。すなわち、その別の実施形態の位相シフトマスクは、透光性基板上に転写パターンが形成された位相シフト膜を備えており、位相シフト膜は、透光性基板とは反対側の表面及びその近傍の領域に酸素の含有量が増加した組成傾斜部を有する単層膜であり、位相シフト膜は、ケイ素と窒素とからなる材料、または非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素と窒素とケイ素とからなる材料で形成され、位相シフト膜に対してX線光電子分光分析を行って位相シフト膜におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_fを取得し、透光性基板に対してX線光電子分光分析を行って透光性基板におけるSi2pナロースペクトルの光電子強度の最大ピークPSi_sを取得したとき、位相シフト膜における最大ピークPSi_fを透光性基板における最大ピークPSi_sで除した数値(PSi_f)/(PSi_s)が1.09以下であることを特徴とするものである。
上記の別の実施形態のマスクブランクの場合と同様、この別の実施形態の位相シフトマスクは、従来の単層構造の窒化ケイ素系材料からなる位相シフト膜を備える位相シフトマスクに比べて、位相シフト膜の全体でのArF耐光性が高く、耐薬性も高い。また、ArFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにこの別の実施形態の位相シフトマスクをセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に位相シフトパターンを露光転写する際も、半導体デバイス上のレジスト膜に設計仕様を十分に満たす精度でパターンを転写することができる。
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.25mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面が所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものであった。
次に、透光性基板1上に、窒素含有層と酸素含有層が積層した2層構造の位相シフト膜2を以下の手順で形成した。まず、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、ヘリウム(He)および窒素(N2)の混合ガスをスパッタリングガスとし、RF電源による反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、透光性基板1上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の窒素含有層(窒化ケイ素層)を58nmの厚さで形成した。
続いて、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO2)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとし、RF電源による反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、窒素含有層の上に、ケイ素および酸素からなる位相シフト膜2の酸素含有層(酸化ケイ素層)を11nmの厚さで形成した。
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1を電気炉内に設置し、大気中において加熱温度550℃、処理時間1時間の条件で加熱処理を行った。電気炉は、特開2002−162726号公報の図5に開示されている縦型炉と同様の構造のものを使用した。電気炉での加熱処理は、炉内にケミカルフィルタを通した大気を導入した状態で行った。電気炉での加熱処理後、電気炉に冷媒を注入して、上記基板に対し所定温度(250℃前後)までの強制冷却を行った。この強制冷却は、炉内に冷媒の窒素ガスを導入した状態(実質的に窒素ガス雰囲気)で行った。この強制冷却後、電気炉から上記基板を取り出して、大気中で常温(25℃以下)に低下するまで自然冷却を行った。
加熱処理後の位相シフト膜2に対し、位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM−193)でArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における透過率および位相差を測定したところ、透過率は21%、位相差が177度であった。また、別の透光性基板の主表面に対して、同条件で位相シフト膜を形成し、さらに同条件で加熱処理を行った後に、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製 M−2000D)を用いてこの位相シフト膜の光学特性を測定した。その結果、窒素含有層は、波長193nmにおける屈折率nが2.56、消衰係数kが0.35であり、酸素含有層は、波長193nmにおける屈折率nが1.59、消衰係数kが0.00であった。
次に、別の透光性基板の主表面上に、上記の実施例1の位相シフト膜2と同じ成膜条件で別の位相シフト膜を形成し、さらに同じ条件で加熱処理を行った。次に、その加熱処理後の別の透光性基板と位相シフト膜に対して、X線光電子分光分析を行った。このX線光電子分光分析では、位相シフト膜(また透光性基板)の表面に対してX線(AlKα線:1486eV)を照射してその位相シフト膜から放出される光電子の強度を測定し、Arガススパッタリングで位相シフト膜(また透光性基板)の表面を所定時間(約0.7nmの深さ)だけ掘り込み、掘り込んだ領域の位相シフト膜(また透光性基板)に対してX線を照射してその掘り込んだ領域の位相シフト膜から放出される光電子の強度を測定するというステップを繰り返すことで、Si2pナロースペクトルを位相シフト膜と透光性基板のそれぞれについて取得した。なお、取得されたSi2pナロースペクトルは、透光性基板1が絶縁体であるため、導電体上で分析する場合のスペクトルに対してエネルギーが低めに変位している。この変位を修正するため、導電体であるカーボンのピークに合わせた修正を行っている。また、このX線光電子分光分析では、X線にAlKα線(1486.6eV)を用い、光電子の検出領域は、200μmφ、取り出し角度が45degの条件で行った(以降の比較例も同様。)。
図3にその位相シフト膜の窒素含有層(窒化ケイ素層)と透光性基板の各Si2pナロースペクトルを示す。このX線光電子分光分析の結果から、位相シフト膜の窒素含有層におけるSi2pナロースペクトルの最大ピークPSi_fを、透光性基板におけるSi2pナロースペクトルの最大ピークPSi_sで除した値(PSi_f)/(PSi_s)を算出したところ、1.077であった。
この取得した窒素含有層のSi2pナロースペクトルには、Si3N4結合、SiaNb結合(b/[a+b]<4/7)、Si−O結合およびSi−ON結合のピークがそれぞれ含まれている。そして、Si3N4結合、SiaNb結合およびSi−O結合およびSi−ON結合のそれぞれのピーク位置(ただし、Si−O結合およびSi−ON結合は、同じピーク位置。)と、半値全幅FWHM(full width at half maximum)を固定して、ピーク分離を行った。具体的には、SiaNb結合のピーク位置を100.4eVとし、Si3N4結合のピーク位置を102.0eVとし、Si−O結合およびSi−ON結合のピーク位置を103.3eVとし、それぞれの半値全幅FWHMを2.06として、ピーク分離を行った(以降の比較例1も同様。)。
さらに、ピーク分離されたSiaNb結合と、Si3N4結合と、Si−O結合およびSi−ON結合のそれぞれのスペクトルについて、分析装置が備えている公知の手法のアルゴリズムにより算出されたバックグラウンドを差し引いた面積をそれぞれ算出し、算出されたそれぞれの面積に基づき、SiaNb結合の存在数の比率と、Si3N4結合の存在数の比率と、の存在数の比率をそれぞれ算出した。その結果、SiaNb結合の存在数の比率が0.092、Si3N4結合の存在数の比率が0.884、Si−O結合およびSi−ON結合の存在数の比率が0.024であった。すなわち、窒素含有層は、Si3N4結合の存在数を、Si3N4結合、SiaNb結合、Si−O結合およびSi−ON結合の合計存在数で除した比率が0.88以上という条件を満たす(0.884で満たす。)ものであった。なお、このX線光電子分光分析の結果から、この位相シフト膜の窒素含有層の組成は、Si:N:O=43.6原子%:55.2原子%:1.2原子%であり、酸素含有層の組成は、Si:O=33.8原子%:66.2原子%であることがわかった。
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に加熱処理後の位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO2)、およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:CO2:He=18:33:28,圧力=0.15Pa)をスパッタリングガスとし、DC電源の電力を1.8kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2の表面に接して、CrOCからなる遮光膜3を56nmの厚さで形成した。
さらに、枚葉式RFスパッタ装置内に、位相シフト膜2および遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、二酸化ケイ素(SiO2)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガス(圧力=0.03Pa)をスパッタリングガスとし、RF電源の電力を1.5kWとし、RFスパッタリングにより、遮光膜3上に、ケイ素および酸素からなるハードマスク膜4を5nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備えるマスクブランク100を製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1の位相シフトマスク200を作製した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚80nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、第1のパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(A)参照)。
次に、第1のレジストパターン5aをマスクとし、CF4ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(B)参照)。
次に、第1のレジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素と酸素との混合ガス(ガス流量比 Cl2:O2=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成した(図2(C)参照)。
次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF6とHeの混合ガス)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図2(D)参照)。
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素と酸素との混合ガス(ガス流量比 Cl2:O2=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(E)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(F)参照)。
製造した実施例1のハーフトーン型の位相シフトマスク200の位相シフトパターン2aに対して、ArFエキシマレーザー光を積算照射量40kJ/cm2で間欠照射する処理を行った。この照射処理の前後における位相シフトパターン2aのCD変化量は、最大1.2nmであり、位相シフトマスク200として高い転写精度を確保できるCD変化量であった。
また、同様の手順で実施例1のハーフトーン型の位相シフトマスク200を別に製造し、その位相シフトマスク200に対し、薬液による洗浄処理を行った。具体的には、位相シフトマスク200に対し、最初にSPM洗浄(洗浄液:H2SO4+H2O2)を行い、次にDI(DeIonized)水によるリンス洗浄を行い、次にAPM洗浄(洗浄液:NH4OH+H2O2+H2O)を行い、最後にDI水によるリンス洗浄を行う洗浄工程を1サイクルとし、これを20サイクル繰り返した。この洗浄処理後の位相シフトマスク200の位相シフトパターン2aを断面TEM(Transmission Electron Microscope)で観察した。その結果、位相シフトパターン2aの側壁形状は良好であることが確認でき、窒化ケイ素層と酸化ケイ素層との間で目立った段差は見当たらなかった。
次に、ArFエキシマレーザー光による積算照射処理後の実施例1の位相シフトマスク200に対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、設計仕様を十分に満たしていた。この結果から、ArFエキシマレーザー光による積算照射処理後の実施例1の位相シフトマスク200を露光装置のマスクステージをセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写した場合でも、最終的に半導体デバイス上に回路パターンを高精度で形成できるといえる。
(比較例1)
[マスクブランクの製造]
比較例1のマスクブランクは、位相シフト膜に対する加熱処理の条件を変更した以外は、実施例1のマスクブランク100と同様の手順で製造された。具体的には、比較例1の位相シフト膜2が形成された透光性基板1をホットプレートに設置し、大気中において、加熱温度280℃、処理時間30分の条件で加熱処理を行った。加熱処理後、冷媒を用いて常温(25℃以下)に低下するまで強制冷却を行った。
加熱処理後の位相シフト膜に対し、位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM−193)でArFエキシマレーザーの光の波長(約193nm)における透過率および位相差を測定したところ、透過率は21%、位相差が177度であった。また、実施例1の場合と同様に、この位相シフト膜の光学特性を測定した。その結果、窒素含有層は、波長193nmにおける屈折率nが2.58、消衰係数kが0.39であり、酸素含有層は、波長193nmにおける屈折率nが1.59、消衰係数kが0.00であった。
実施例1の場合と同様に、別の透光性基板の主表面上に、比較例1の位相シフト膜と同じ成膜条件で別の位相シフト膜を形成し、さらに同じ条件で加熱処理を行った。次に、その加熱処理後の別の透光性基板と位相シフト膜に対して、実施例1と同様のX線光電子分光分析を行った。
図4に比較例1の位相シフト膜の窒素含有層(窒化ケイ素層)と透光性基板の各Si2pナロースペクトルを示す。このX線光電子分光分析の結果から、位相シフト膜の窒素含有層におけるSi2pナロースペクトルの最大ピークPSi_fを、透光性基板におけるSi2pナロースペクトルの最大ピークPSi_sで除した値(PSi_f)/(PSi_s)を算出したところ、1.096であった。
実施例1の場合と同様に、この比較例1の窒素含有層のSi2pナロースペクトルに対し、Si3N4結合、SiaNb結合(b/[a+b]<4/7)、Si−O結合およびSi−ON結合のピーク分離を行い、各結合の存在数の比率を算出した。その結果、SiaNb結合の存在数の比率が0.093、Si3N4結合の存在数の比率が0.873、Si−O結合およびSi−ON結合の存在数の比率が0.034であった。すなわち、この比較例1の窒素含有層は、Si3N4結合の存在数を、Si3N4結合、SiaNb結合、Si−O結合およびSi−ON結合の合計存在数で除した比率が0.88以上という条件を満たさない(0.873で満たさない。)ものであった。なお、このX線光電子分光分析の結果から、この比較例1の位相シフト膜の窒素含有層の組成は、Si:N:O=43.8原子%:54.5原子%:1.7原子%であり、酸素含有層の組成は、Si:O=33.9原子%:66.1原子%であることがわかった。
次に、実施例1の場合と同様に、透光性基板の位相シフト膜上に、遮光膜およびハードマスク膜を形成した。以上の手順により、透光性基板上に、位相シフト膜、遮光膜およびハードマスク膜が積層した構造を備える比較例1のマスクブランクを製造した。
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスクを製造した。さらに、実施例1と同様、製造した比較例1のハーフトーン型の位相シフトマスクの位相シフトパターンに対して、ArFエキシマレーザー光を積算照射量40kJ/cm2で間欠照射する処理を行った。この照射処理の前後における位相シフトパターン2aのCD変化量は、最大3.5nmであり、位相シフトマスクとして高い転写精度を確保できるCD変化量には至らなかった。
また、この比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例1のハーフトーン型の位相シフトマスクを別に製造し、その位相シフトマスクに対し、薬液による洗浄処理を行った。この洗浄処理後の位相シフトマスクの位相シフトパターンを断面TEM(Transmission Electron Microscope)で観察した。その結果、位相シフトパターンの側壁形状は、窒化ケイ素層と酸化ケイ素層との間で段差が発生していた。
次に、ArFエキシマレーザー光による積算照射処理後の比較例1の位相シフトマスクに対し、AIMS193(Carl Zeiss社製)を用いて、波長193nmの露光光で半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写したときにおける転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションの露光転写像を検証したところ、微細なパターンの部分で設計仕様を満たすことができていなかった。この結果から、ArFエキシマレーザー光による積算照射処理後の比較例1の位相シフトマスクを露光装置のマスクステージをセットし、半導体デバイス上のレジスト膜に露光転写した場合、最終的に半導体デバイス上に回路パターンを高精度で形成することは困難といえる。