JP2019189987A - 繊維構造体、繊維強化複合材、及び繊維構造体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】分岐部の層間剥離を抑制できる繊維構造体、繊維強化複合材、及び繊維構造体の製造方法を提供すること。【解決手段】繊維構造体12は、第1〜第4緯糸層及び第1〜第2経糸層が拘束糸によって拘束された本体部16と、本体部16の両端に連続し、多層織物を第1形成部17aと第2形成部に分岐させた分岐部17とを有する。繊維構造体12は、分岐部17において第1形成部17aと第2形成部に分岐する部分に沿って延びる分岐境界線F1に対し、本体部16の緯糸14のうち分岐境界線F1に最も近い最短緯糸14aの糸主軸が平行である。【選択図】図4
Description
本発明は、分岐部を有する繊維構造体、繊維強化複合材、及び繊維構造体の製造方法に関する。
軽量、高強度の材料として繊維強化複合材が使用されている。繊維強化複合材は、強化繊維(強化基材)が樹脂、セラミックス等のマトリックス中に複合化されることにより、マトリックス自体に比べて力学的特性(機械的特性)が向上するため、構造部品として好ましい。
また、繊維強化複合材として、平面視円弧状や平面視円環状といった湾曲形状のものがある。このような繊維強化複合材の強化基材を構成する繊維構造体としては、例えば、特許文献1に開示の三次元繊維構造体のように、円弧状に配列された0度配列糸からなる糸層と、90度配列糸からなる糸層とを少なくとも含む2軸配向となる積層糸群が厚さ方向糸で結合された扇面板状部を有するものがある。また、三次元繊維構造体は、扇面板状部の両端部が、複数の三次元繊維構造体を長手方向の端部同士で連結した際に、円環を形成可能な形状に形成されている。
また、繊維強化複合材として、平面視円環状のものがある。このような繊維強化複合材の強化基材を構成する繊維構造体は、特許文献1のように扇面板状部を有する繊維構造体の長手方向の端部に、積層糸群を二つの糸群に分岐させた分岐部を設け、周方向に隣り合う繊維構造体の分岐部同士の間に接続部材を介在させることで、繊維構造体同士を連結することで製造できる。各繊維構造体の分岐部においては、二つに分岐された各糸群それぞれは厚さ方向糸で結合され、分岐部以外の積層糸群では全ての糸群が厚さ方向糸によって結合される。
ところが、繊維構造体の積層糸群を二つの糸群に分岐させた場合、二つの糸群の根本に位置する分岐境界線から、積層糸群の中の最も近い90度配列糸までは厚さ方向糸による結合力(拘束力)が弱くなる。そして、90度配列糸は、0度配列糸の延びる円弧の周方向に配列されているため、分岐境界線から、最も近い90度配列糸までの距離に大小が生じ、その距離の大きい場所ほど、厚さ方向糸による結合力が弱く、積層糸群の層間剥離が発生しやすくなる。
本発明の目的は、分岐部の層間剥離を抑制できる繊維構造体、繊維強化複合材、及び繊維構造体の製造方法を提供することにある。
上記問題点を解決するための繊維構造体は、第1の糸からなる第1糸層と、前記第1の糸と交差する第2の糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった積層方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物であり、前記多層織物の全ての糸層が前記拘束糸によって拘束された本体部と、前記第1の糸の糸主軸方向に沿った少なくとも一端側にて前記本体部に連続し、前記多層織物の糸層を前記積層方向一端側の第1形成部と積層方向他端側の第2形成部に分岐させた分岐部とを有する繊維構造体であって、平面視で湾曲した内縁部を有するとともに、前記内縁部より外側において平面視で湾曲した外縁部を有し、前記内縁部と前記外縁部を最短距離で結ぶ直線の延びる方向を径方向とし、前記内縁部及び外縁部の延びる方向を周方向とすると、前記第1の糸の糸主軸方向は前記周方向に延びるとともに、前記第2の糸の糸主軸方向は前記径方向に延び、前記分岐部において前記第1形成部と前記第2形成部に分岐する部分に沿って延びる分岐境界線に対し、前記本体部の前記第2の糸のうち前記分岐境界線に最も近い前記第2の糸の糸主軸が平行であることを要旨とする。
これによれば、本体部及び分岐部を有する繊維構造体においては、第1形成部と第2形成部が分岐する位置、すなわち分岐境界線の位置から、その分岐境界線に最も近い本体部の第2の糸までは、本体部において積層方向への拘束が弱い部分である。しかし、その第2の糸と分岐境界線とを平行にすることで、第2の糸と分岐境界線との距離を、径方向に沿って一定にでき、積層方向への拘束力の大小が無くなり、分岐部の層間剥離を抑制できる。
上記問題点を解決するための繊維強化複合材は、繊維構造体を強化基材とし、該強化基材がマトリックス中に複合化された繊維強化複合材であって、前記繊維構造体が請求項1に記載の繊維構造体であることを要旨とする。
これによれば、本体部及び分岐部を有する繊維構造体においては、第1形成部と第2形成部が分岐する位置、すなわち分岐境界線の位置から、その分岐境界線に最も近い本体部の第2の糸までは、本体部において積層方向への拘束が弱い部分である。しかし、その第2の糸と分岐境界線とを平行にすることで、第2の糸と分岐境界線との距離を、径方向に沿って一定にでき、積層方向への拘束力の大小が無くなり、分岐部の層間剥離を抑制できる。よって、繊維強化複合材においても、本体部における分岐部との境界付近の強度の大小を無くすことができる。
上記問題点を解決するための繊維構造体の製造方法は、第1の糸からなる第1糸層と、前記第1の糸と交差する第2の糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった積層方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物であり、前記多層織物の全ての糸層が前記拘束糸によって拘束された本体部と、前記第1の糸の糸主軸方向に沿った少なくとも一端側にて前記本体部に連続し、前記多層織物の糸層を前記積層方向一端側の第1形成部と積層方向他端側の第2形成部に分岐させた分岐部とを有する繊維構造体の製造方法であって、平面視で湾曲した内縁部を有するとともに、前記内縁部より外側において平面視で湾曲した外縁部を有し、前記第1の糸の糸主軸が、前記内縁部及び外縁部の延びる周方向に延びるとともに、前記第2の糸の糸主軸が、前記内縁部と前記外縁部を最短距離で結ぶ直線の延びる径方向に延び、前記周方向の少なくとも一端側に前記分岐部を備える前駆体を製造する工程と、前記分岐部において前記第1形成部と前記第2形成部に分岐する部分に沿って延びる分岐境界線に対し、前記本体部の前記第2の糸のうち前記分岐境界線に最も近い前記第2の糸の糸主軸が平行となるように前記前駆体を裁断し、前記分岐部及び前記本体部を形成することを要旨とする。
これによれば、本体部及び分岐部を有する繊維構造体においては、第1形成部と第2形成部が分岐する位置、すなわち分岐境界線の位置から、その分岐境界線に最も近い本体部の第2の糸までは、本体部において積層方向への拘束が弱い部分である。しかし、その第2の糸と分岐境界線とを平行にすることで、第2の糸と分岐境界線との距離を、径方向に沿って一定にでき、積層方向への拘束力の大小が無くなり、分岐部の層間剥離を抑制できる。そして、このような繊維構造体の製造について、分岐境界線と第2の糸とを容易に平行にできる。
上記問題点を解決するための繊維構造体の製造方法は、第1の糸からなる第1糸層と、前記第1の糸と交差する第2の糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった積層方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物であり、前記多層織物の全ての糸層が前記拘束糸によって拘束された本体部と、前記第1の糸の糸主軸方向に沿った少なくとも一端側にて前記本体部に連続し、前記多層織物の糸層を前記積層方向一端側の第1形成部と積層方向他端側の第2形成部に分岐させた分岐部とを有する繊維構造体の製造方法であって、複数の前記第1の糸の糸主軸方向の一端部を第1引取部材に固定し、前記第1引取部材によって前記第1の糸を直線状に引取ながら、前記第1の糸に対し前記第2の糸が直交するように挿入して前記第1糸層及び前記第2糸層を形成しつつ、前記拘束糸によって前記第1糸層及び前記第2糸層を積層方向に拘束し、前記第1形成部及び前記第2形成部を形成した後、前記第1形成部及び前記第2形成部を第2引取部材に固定し、前記第2引取部材によって前記第1の糸の糸主軸が平面視で湾曲するように引き取りながら前記第2の糸を挿入し、前記分岐部において前記第1形成部と前記第2形成部に分岐する部分に沿って延びる分岐境界線に対し、前記本体部の前記第2の糸のうち前記分岐境界線に最も近い前記第2の糸の糸主軸が平行となるように挿入することを要旨とする。
これによれば、本体部及び分岐部を有する繊維構造体においては、第1形成部と第2形成部が分岐する位置、すなわち分岐境界線の位置から、その分岐境界線に最も近い本体部の第2の糸までは、本体部において積層方向への拘束が弱い部分である。しかし、その第2の糸と分岐境界線とを平行にすることで、第2の糸と分岐境界線との距離を、径方向に沿って一定にでき、積層方向への拘束力の大小が無くなり、分岐部の層間剥離を抑制できる。そして、このような繊維構造体の製造について、織機を用いて製造できる。
本発明によれば、分岐部の層間剥離を抑制できる。
以下、繊維構造体、繊維強化複合材、及び繊維構造体の製造方法を具体化した一実施形態を図1〜図6にしたがって説明する。
図1に示すように、繊維強化複合材10は、マトリックス11中に、複数の繊維構造体12を強化基材として複合化して形成されている。本実施形態では、マトリックス11として樹脂が用いられている。なお、マトリックス11としては、樹脂以外に金属やセラミックスを用いてもよい。
図1に示すように、繊維強化複合材10は、マトリックス11中に、複数の繊維構造体12を強化基材として複合化して形成されている。本実施形態では、マトリックス11として樹脂が用いられている。なお、マトリックス11としては、樹脂以外に金属やセラミックスを用いてもよい。
繊維強化複合材10は、平面視円環状の板状である。なお、平面視とは、繊維強化複合材10の中心軸線Lに沿って、繊維強化複合材10を外側から見ることである。また、繊維強化複合材10において、中心軸線Lの延びる方向を厚み方向とする。
次に、繊維構造体12について説明する。
図2に示すように、繊維強化複合材10を形成する各繊維構造体12は、それぞれ平面視扇形状である。繊維構造体12は、平面視扇形状の本体部16と、円弧の延びる方向に沿った本体部16の両端に連続する平面視矩形状の分岐部17とを有する。
図2に示すように、繊維強化複合材10を形成する各繊維構造体12は、それぞれ平面視扇形状である。繊維構造体12は、平面視扇形状の本体部16と、円弧の延びる方向に沿った本体部16の両端に連続する平面視矩形状の分岐部17とを有する。
図3(a)及び図3(b)に示すように、各分岐部17は、繊維構造体12の円弧の延びる方向の両端側が厚さ方向に二股に分岐した形状である。各分岐部17は、繊維構造体12の厚さ方向の一端側に位置する第1形成部17aと、厚さ方向の他端側に位置する第2形成部17bとを有する。繊維構造体12は、第1形成部17aと第2形成部17bの対向面同士が交差する位置に分岐境界線F1を有し、この分岐境界線F1を境にして第1形成部17aと第2形成部17bが二股に分岐している。また、繊維構造体12は、第1形成部17a及び第2形成部17bが本体部16の外面に対し折れ曲がる部分に沿って稜線F2を有する。第1形成部17a及び第2形成部17bは、稜線F2から本体部16に対し折り曲がっている。
図2に示すように、繊維構造体12は、円弧状に延びることで平面視で湾曲した形状となる内縁部12aと、内縁部12aよりも外側で円弧状に延びることで平面視で湾曲した形状となる外縁部12bと、内縁部12aと外縁部12bの端部同士を繋ぐ縁部12cとを有する形状である。
本体部16及び分岐部17の内縁は、それぞれ繊維構造体12の内縁部12aの一部を構成し、本体部16及び分岐部17の外縁は、それぞれ繊維構造体12の外縁部12bの一部を構成する。各分岐部17において、繊維構造体12の円弧の延びる方向の両端に位置する第1形成部17a及び第2形成部17bの縁が縁部12cを構成している。
平面視扇形状の板状である繊維構造体12において、内縁部12aの円周の長さは、外縁部12bの円周の長さより短い。繊維構造体12において、内縁部12a及び外縁部12bの延びる方向を周方向Xとし、内縁部12aと外縁部12bを最短距離で結ぶ直線の延びる方向を径方向Yとする。外縁部12bは、内縁部12aよりも径方向Yに沿った外側(外径側)に位置する。分岐部17は、周方向Xに沿った本体部16の両側に連続して設けられている。また、各分岐部17において、分岐境界線F1及び稜線F2は、径方向Yに延びている。そして、分岐境界線F1及び稜線F2は、繊維構造体12の縁部12cに対し平行である。このため、周方向Xに沿った分岐部17の縁部12cと分岐境界線F1との距離は、径方向Yに沿って一定である。
繊維構造体12は多層織物である。繊維構造体12は、糸主軸方向L1が、円弧状に延びる状態で互いに平行に配列された複数の第1の糸としての経糸13と、糸主軸方向L2が、経糸13と交差する方向に延びる状態で配列された複数の第2の糸としての緯糸14とを有する織物である。経糸13の糸主軸方向L1は、繊維構造体12の周方向Xに延び、緯糸14の糸主軸方向L2は、繊維構造体12の径方向Yに延びる。そして、繊維構造体12において、分岐部17は、経糸13の糸主軸方向L1となる周方向Xの両端側において本体部16に連続している。
繊維構造体12の平面視では、周方向Xに隣り合う緯糸14同士の間隔は、径方向Yに沿って外縁部12bに向かうに従い徐々に広くなっている。また、図示しないが繊維構造体12の平面視では、径方向Yに隣り合う経糸13同士の間隔は一定である。
なお、経糸13及び緯糸14は、強化繊維を束ねて形成された繊維束である。強化繊維としては有機繊維や無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維の種類としては、アラミド繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維の種類としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
図3(b)に示すように、繊維構造体12は、複数の糸層が積層されて構成されている。なお、糸層が積み重なった方向を繊維構造体12の積層方向Zとする。積層方向Zは、繊維強化複合材10の厚み方向と一致する。なお、図3(b)では経糸13と緯糸14との位置関係を分かり易くするため、隣り合う経糸13同士や緯糸14同士が離れた状態に図示しているが、実際は隣り合う経糸13の端部同士や緯糸14の端部同士が重なった状態に配列されている。
繊維構造体12の本体部16は、複数本の経糸13が並んで形成された経糸層を複数有する。経糸層としては、第1経糸層21と、積層方向Zにおいて、第1経糸層21より下方に配置された第2経糸層22とを有する。第1経糸層21及び第2経糸層22は、第1糸層を構成する。
また、繊維構造体12の本体部16は、複数本の緯糸14が並んで形成された緯糸層を複数有する。緯糸層としては、第1緯糸層31と、積層方向Zにおける第1緯糸層31より下方に配置された第2緯糸層32と、積層方向Zにおける第2緯糸層32より下方に配置された第3緯糸層33と、積層方向Zにおける第3緯糸層33より下方に配置された第4緯糸層34とを有する。第1緯糸層31、第2緯糸層32、第3緯糸層33及び第4緯糸層34は第2糸層を構成する。
繊維構造体12の本体部16は、積層方向Zの一端から他端(上から下)へ第1緯糸層31、第1経糸層21、第2緯糸層32、第3緯糸層33、第2経糸層22及び第4緯糸層34の順番で積層されている。これら第1緯糸層31、第1経糸層21、第2緯糸層32、第3緯糸層33、第2経糸層22及び第4緯糸層34、すなわち本体部16の全ての糸層は、複数の拘束糸15により積層方向Zに拘束されている。
複数の拘束糸15は、径方向Yに並んでいる。各拘束糸15は、繊維構造体12の形状保持用であり、強化繊維の繊維束である。強化繊維としては有機繊維や無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。複数本の拘束糸15は、各経糸13と略平行に配列されるとともに、繊維構造体12の本体部16を構成する最上層の第1緯糸層31の緯糸14の外面を通って折り返すように配置されている。また、各拘束糸15は、本体部16を積層方向Zに貫通し、最下層の第4緯糸層34の緯糸14の外面を通って折り返すように配置されている。よって、拘束糸15は、積層方向Z両端の第1緯糸層31及び第4緯糸層34の緯糸14に係合している。
径方向Yに隣り合う拘束糸15同士は、第1緯糸層31又は第4緯糸層34で折り返される緯糸14の位置が周方向Xにずれている。そして、拘束糸15が各緯糸14に係合することで、第1〜第4緯糸層31〜34が積層方向Zに拘束され、積層方向Zに隣り合う第1緯糸層31と第2緯糸層32の間に第1経糸層21が拘束され、第3緯糸層33と第4緯糸層34の間に第2経糸層22が拘束されている。
各分岐部17では、第1形成部17aは、第1緯糸層31、第1経糸層21及び第2緯糸層32が拘束糸15によって積層方向Zに拘束されている。拘束糸15は、第1形成部17aの積層方向Z両端の第1緯糸層31及び第2緯糸層32の緯糸14に係合している。第2形成部17bは、第3緯糸層33、第2経糸層22及び第4緯糸層34が拘束糸15によって積層方向Zに拘束されている。拘束糸15は、第2形成部17bの積層方向Z両端の第3緯糸層33及び第4緯糸層34の緯糸14に係合している。第1形成部17aと第2形成部17bとは拘束糸15によって積層方向Zに拘束されていない。
したがって、分岐部17において、第1形成部17aは、多層織物における積層方向Zの一端側に位置し、第2形成部17bは、多層織物における積層方向Zの他端側に位置する。
図4に示すように、上記構成の繊維構造体12において、各分岐部17の分岐境界線F1に対し、周方向Xに沿って最も近い緯糸14を最短緯糸14aとする。図3(b)に示すように、本実施形態では、最短緯糸14aは、周方向Xに沿って分岐境界線F1に隣り合う積層方向Z全ての緯糸14である。よって、最短緯糸14aは、第1緯糸層31と、第2緯糸層32と、第3緯糸層33と、第4緯糸層34に存在している。そして、全ての最短緯糸14aの糸主軸は分岐境界線F1に平行である。周方向Xに沿った各最短緯糸14aと分岐境界線F1との距離は、径方向Yに沿って一定である。第1形成部17aと第2形成部17bが分岐する位置で、拘束糸15が交差しているが、それら拘束糸15は、その交差する位置に対し周方向Xに隣り合う最短緯糸14aのうち、第1緯糸層31及び第4緯糸層34の最短緯糸14aに係合して積層方向Zに本体部16を拘束している。
第1形成部17aを拘束する拘束糸15のうち、最短緯糸14aに隣り合う第2緯糸層32の緯糸14に係合した拘束糸15は、第1緯糸層31の最短緯糸14aに係合し、最短緯糸14aに隣り合う第1緯糸層31の緯糸14に係合した拘束糸15は、第4緯糸層34の最短緯糸14aに係合している。また、第2形成部17bを拘束する拘束糸15のうち、最短緯糸14aに隣り合う第4緯糸層34の緯糸14に係合した拘束糸15は、第1緯糸層31の最短緯糸14aに係合し、最短緯糸14aに隣り合う第3緯糸層33の緯糸14に係合した拘束糸15は、第4緯糸層34の最短緯糸14aに係合している。
したがって、第1形成部17aと第2形成部17bの交差する位置から最短緯糸14aが積層方向Zに拘束された部分までは、本体部16のその他の緯糸14が拘束糸15で拘束された部分よりも、拘束糸15による拘束力が小さくなっている。周方向Xに沿った分岐境界線F1から最短緯糸14aまでの距離が大きいほど、拘束糸15による本体部16の拘束力が弱くなる。そして、周方向Xに沿った分岐境界線F1から最短緯糸14aまでの距離に大小が生じると、拘束糸15による拘束力に大小が生じてしまう。しかし、本実施形態では、周方向Xに沿った分岐境界線F1から各最短緯糸14aまでの距離を全て同じとしたため、分岐部17と本体部16の境界付近において、拘束糸15による拘束力の差を無くしている。
次に繊維構造体12の製造方法を説明する。
繊維構造体12は、周方向X及び径方向Yへの寸法が繊維構造体12よりも大きい前駆体30を螺旋織機によって製織した後、その前駆体30を所望する形状に裁断して形成される。
繊維構造体12は、周方向X及び径方向Yへの寸法が繊維構造体12よりも大きい前駆体30を螺旋織機によって製織した後、その前駆体30を所望する形状に裁断して形成される。
図5に示すように、繊維構造体12の前駆体30を製織する螺旋織機は、複数対(図5では一対のみ図示)の綜絖枠41、筬42、緯入れ機構43、送り機構44及び巻き取り機構(図示せず)を備えた公知の螺旋織機により製織される。対をなす綜絖枠41は、それぞれ、各経糸13に対応するヘルドを備え、図示しない綜絖枠駆動機構を介して交互に上下動されることにより、経糸13を開口させる。経糸13は、それぞれ、所定の張力を加えながら、図示しないクリールまたはビームから引き出される。
筬42は、綜絖枠41と送り機構44との中間に配設されている。筬42は、各筬羽を各経糸13が通過し、経糸13に沿って、緯入れ機構43より後方に後退する後退位置と、緯入れ機構43によって緯入れされる緯糸14を織前Fに打ち込む前進位置との間を前後動する。但し、織前Fは、経糸13に直交し、しかも、螺旋の中心Aを通る半径に一致させるか、この半径に極近い位置に設定されている。
緯入れ機構43は、緯糸供給ボビン46から供給される緯糸14を、後退位置に後退した筬42と織前Fとの間において、開口された経糸13間に緯入れする。緯入れ機構43としては、レピア機構が使用され、その前面には、カッタ43aが配設されている。カッタ43aは、緯入れごとに、緯入れされた緯糸14の後端部を切断する。
送り機構44は、織前Fの直近前方に配設されており、図示しない一対の枠状の保持部材と、保持部材に収納するようにして配設する一対の駆動部材とからなり、織前Fからの経糸13をそれぞれ所定の曲率に湾曲させて緯糸14を放射状に配列させ、外半径R1、内半径R2の螺旋織物を形成して前方に送り出すようになっている。外半径R1は、繊維構造体12の外縁部12bでの半径と一致し、内半径R2は、繊維構造体12の内縁部12aでの半径と一致する。
巻取機構は、送り機構44の下方に配設され、螺旋の中心Aを中心にして間欠的に水平回転する水平円板である。巻取機構の回転運動は、送り機構44の駆動部材の前進運動と同期しており、その回転方向と回転量とは、駆動部材の前進方向と前進移動量とに一致するようになっている。
そして、螺旋織機によって、繊維構造体12の前駆体30を製造する場合、まず、分岐部17を形成する。このとき、治具を使用する。治具を挟んで第1形成部17a及び第2形成部17bが製織される。治具を配置した状態で、その治具の厚さ方向の両側に経糸13が配置されており、緯糸供給ボビン46から緯入れされた緯糸14は、送り機構44により織前Fからの経糸13がそれぞれ所定の曲率に湾曲されて緯糸14が放射状に配列される際に、繊維構造体12の外周側ほど拡げられた状態になる。なお、図示しないが拘束糸15も織機によって織り込まれる。すると、第1形成部17a及び第2形成部17bが治具を挟んで製織される。
そして、分岐部17が形成された後、治具を除去し、次に、本体部16を螺旋織機によって製織する。その後、治具を再び用いて、螺旋織機によって分岐部17を製織する。次に、図6に示すように、前駆体30の分岐部17に位置する分岐境界線F1に対し、周方向Xに沿って分岐境界線F1に最も近い本体部16の各最短緯糸14a及び縁部12cが平行となるように前駆体30を切断する。すると、周方向Xに沿った分岐境界線F1と縁部12cとの距離が一定の第1形成部17a及び第2形成部17bが形成され、分岐部17が形成される。また、分岐部17の間に本体部16が形成され、繊維構造体12が形成される。
前記のように構成された繊維構造体12は、図1に示すように、複数の繊維構造体12同士を、周方向に隣り合う分岐部17同士の間に接続部材39を介装させて接続し、円環状にする。そして、円環状に形成された複数の繊維構造体12にマトリックス11となる樹脂を含浸させると、複数の繊維構造体12を強化基材とし、樹脂をマトリックス11とした円環状の繊維強化複合材10に形成され、円環状部品として使用される。
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)繊維構造体12において、分岐部17の根本に位置する分岐境界線F1に対し、本体部16の各最短緯糸14aを平行とした。このため、分岐境界線F1から各最短緯糸14aまでの距離を径方向Yに一定にでき、本体部16において、分岐境界線F1より中央側において拘束糸15による拘束力の大小を無くすことができる。よって、分岐部17近傍において層間剥離を抑制できる。繊維構造体12を強化基材とした繊維強化複合材10においても、本体部16における分岐部17との境界付近の強度の大小を無くすことができる。
(1)繊維構造体12において、分岐部17の根本に位置する分岐境界線F1に対し、本体部16の各最短緯糸14aを平行とした。このため、分岐境界線F1から各最短緯糸14aまでの距離を径方向Yに一定にでき、本体部16において、分岐境界線F1より中央側において拘束糸15による拘束力の大小を無くすことができる。よって、分岐部17近傍において層間剥離を抑制できる。繊維構造体12を強化基材とした繊維強化複合材10においても、本体部16における分岐部17との境界付近の強度の大小を無くすことができる。
(2)繊維構造体12は、当該繊維構造体12よりも周方向X及び径方向Yへの寸法が大きい前駆体30を製織し、その前駆体30における分岐境界線F1に対し、最短緯糸14a及び縁部12cが平行となるように前駆体30を裁断することで製造される。よって、繊維構造体12よりサイズの大きい前駆体30を製織し、その前駆体30を裁断するだけでよく、分岐境界線F1に対し、各最短緯糸14aが平行な繊維構造体12を簡単に製造できる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 繊維構造体12の製造方法は、実施形態に限らず、変更してもよい。例えば、図7(a)に示すように、複数の経糸13の糸主軸方向L1の一端部を第1引取部材50に固定する。そして、図7(b)に示すように、経糸供給ボビン52から第1引取部材50によって経糸13を引取り(巻取り)ながら緯糸14を挿入する。このとき、経糸13は、その糸主軸方向L1が直線状に延びるように第1引取部材50に引き取られるとともに、経糸13の糸主軸方向L1に対し、緯糸14の糸主軸方向L2は直交する状態に挿入される。
○ 繊維構造体12の製造方法は、実施形態に限らず、変更してもよい。例えば、図7(a)に示すように、複数の経糸13の糸主軸方向L1の一端部を第1引取部材50に固定する。そして、図7(b)に示すように、経糸供給ボビン52から第1引取部材50によって経糸13を引取り(巻取り)ながら緯糸14を挿入する。このとき、経糸13は、その糸主軸方向L1が直線状に延びるように第1引取部材50に引き取られるとともに、経糸13の糸主軸方向L1に対し、緯糸14の糸主軸方向L2は直交する状態に挿入される。
そして、第1緯糸層31、第1経糸層21、及び第2緯糸層32を形成しつつ、第3緯糸層33、第2経糸層22、及び第4緯糸層34を形成し、拘束糸15によってそれらを拘束して第1形成部17a及び第2形成部17bを形成する。この状態では、第1形成部17a及び第2形成部17bの縁部12c及び分岐境界線F1に対し、緯糸14は平行な状態である。
次に、図7(c)に示すように、第1形成部17a及び第2形成部17bの先端部を第2引取部材51に固定し、その第2引取部材51によって経糸13の糸主軸が平面視で湾曲するように引き取りながら緯糸14を挿入して本体部16を形成する。本体部16を形成した後、第1形成部17a及び第2形成部17bの先端部を第1引取部材50に固定し、片方の第1形成部17a及び第2形成部17bを形成したときと同じようにして、もう一方の第1形成部17a及び第2形成部17bを形成する。
このように、経糸13の引き取る方向を調節することで、第1形成部17a及び第2形成部17bの縁部12c及び分岐境界線F1に対し、最短緯糸14aが平行な繊維構造体12を織機によって製造することができる。
○ 第1の糸を緯糸14とし、第2の糸を経糸13としてもよい。
○ 繊維構造体12は、周方向Xに沿った本体部16の片側のみに分岐部17を備える構成であってもよい。
○ 繊維構造体12は、周方向Xに沿った本体部16の片側のみに分岐部17を備える構成であってもよい。
○ 分岐部17及び本体部16を構成する糸層の数は変更してもよい。
○ 繊維強化複合材10は、複数の繊維構造体12を組み合わせて形成された円環状でなくてもよい。例えば、繊維強化複合材10は、二つの繊維構造体12を組み合わせて形成された平面視湾曲形状であってもよいし、一つの繊維構造体12で形成された平面視湾曲形状であってもよい。
○ 繊維強化複合材10は、複数の繊維構造体12を組み合わせて形成された円環状でなくてもよい。例えば、繊維強化複合材10は、二つの繊維構造体12を組み合わせて形成された平面視湾曲形状であってもよいし、一つの繊維構造体12で形成された平面視湾曲形状であってもよい。
○ 繊維構造体12の内縁部12aと外縁部12bの曲率は異なっていてもよい。
○ 実施形態では、分岐境界線F1に対し平行な最短緯糸14aを第1〜第4緯糸層31〜34に設け、繊維構造体12の積層方向Z全体に最短緯糸14aを設けたが、これに限らない。分岐境界線F1に対し平行な最短緯糸14aは、第1緯糸層31及び第4緯糸層34のみに設けられていてもよいし、第2緯糸層32及び第3緯糸層33のみに設けられていてもよい。
○ 実施形態では、分岐境界線F1に対し平行な最短緯糸14aを第1〜第4緯糸層31〜34に設け、繊維構造体12の積層方向Z全体に最短緯糸14aを設けたが、これに限らない。分岐境界線F1に対し平行な最短緯糸14aは、第1緯糸層31及び第4緯糸層34のみに設けられていてもよいし、第2緯糸層32及び第3緯糸層33のみに設けられていてもよい。
F1…分岐境界線、X…周方向、Y…径方向、Z…積層方向、10…繊維強化複合材、11…マトリックス、12…繊維構造体、12a…内縁部、12b…外縁部、13…第1の糸としての経糸、14…第2の糸としての緯糸、15…拘束糸、16…本体部、17…分岐部、17a…第1形成部、17b…第2形成部、21〜22…第1糸層としての第1〜第2経糸層、31〜34…第2糸層としての第1〜第4緯糸層。
Claims (4)
- 第1の糸からなる第1糸層と、前記第1の糸と交差する第2の糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった積層方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物であり、
前記多層織物の全ての糸層が前記拘束糸によって拘束された本体部と、前記第1の糸の糸主軸方向に沿った少なくとも一端側にて前記本体部に連続し、前記多層織物の糸層を前記積層方向一端側の第1形成部と積層方向他端側の第2形成部に分岐させた分岐部とを有する繊維構造体であって、
平面視で湾曲した内縁部を有するとともに、前記内縁部より外側において平面視で湾曲した外縁部を有し、
前記内縁部と前記外縁部を最短距離で結ぶ直線の延びる方向を径方向とし、前記内縁部及び外縁部の延びる方向を周方向とすると、前記第1の糸の糸主軸方向は前記周方向に延びるとともに、前記第2の糸の糸主軸方向は前記径方向に延び、
前記分岐部において前記第1形成部と前記第2形成部に分岐する部分に沿って延びる分岐境界線に対し、前記本体部の前記第2の糸のうち前記分岐境界線に最も近い前記第2の糸の糸主軸が平行であることを特徴とする繊維構造体。 - 繊維構造体を強化基材とし、該強化基材がマトリックス中に複合化された繊維強化複合材であって、前記繊維構造体が請求項1に記載の繊維構造体であることを特徴とする繊維強化複合材。
- 第1の糸からなる第1糸層と、前記第1の糸と交差する第2の糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった積層方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物であり、
前記多層織物の全ての糸層が前記拘束糸によって拘束された本体部と、前記第1の糸の糸主軸方向に沿った少なくとも一端側にて前記本体部に連続し、前記多層織物の糸層を前記積層方向一端側の第1形成部と積層方向他端側の第2形成部に分岐させた分岐部とを有する繊維構造体の製造方法であって、
平面視で湾曲した内縁部を有するとともに、前記内縁部より外側において平面視で湾曲した外縁部を有し、前記第1の糸の糸主軸が、前記内縁部及び外縁部の延びる周方向に延びるとともに、前記第2の糸の糸主軸が、前記内縁部と前記外縁部を最短距離で結ぶ直線の延びる径方向に延び、前記周方向の少なくとも一端側に前記分岐部を備える前駆体を製造する工程と、
前記分岐部において前記第1形成部と前記第2形成部に分岐する部分に沿って延びる分岐境界線に対し、前記本体部の前記第2の糸のうち前記分岐境界線に最も近い前記第2の糸の糸主軸が平行となるように前記前駆体を裁断し、前記分岐部及び前記本体部を形成することを特徴とする繊維構造体の製造方法。 - 第1の糸からなる第1糸層と、前記第1の糸と交差する第2の糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった積層方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物であり、
前記多層織物の全ての糸層が前記拘束糸によって拘束された本体部と、前記第1の糸の糸主軸方向に沿った少なくとも一端側にて前記本体部に連続し、前記多層織物の糸層を前記積層方向一端側の第1形成部と積層方向他端側の第2形成部に分岐させた分岐部とを有する繊維構造体の製造方法であって、
複数の前記第1の糸の糸主軸方向の一端部を第1引取部材に固定し、前記第1引取部材によって前記第1の糸を直線状に引取ながら、前記第1の糸に対し前記第2の糸が直交するように挿入して前記第1糸層及び前記第2糸層を形成しつつ、前記拘束糸によって前記第1糸層及び前記第2糸層を積層方向に拘束し、前記第1形成部及び前記第2形成部を形成した後、
前記第1形成部及び前記第2形成部を第2引取部材に固定し、前記第2引取部材によって前記第1の糸の糸主軸が平面視で湾曲するように引き取りながら前記第2の糸を挿入し、前記分岐部において前記第1形成部と前記第2形成部に分岐する部分に沿って延びる分岐境界線に対し、前記本体部の前記第2の糸のうち前記分岐境界線に最も近い前記第2の糸の糸主軸が平行となるように挿入することを特徴とする繊維構造体の製造方法。
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