JP2015040348A - 織物基材とその製織方法および織機 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、織物特有の網目構造を有しながらも、織物で必要となる形状を切り抜く際に課題となる余白による強化繊維ロスを極小化することができ、低コストで生産可能な織物基材とその製織方法および織機を提供する。【解決手段】本発明の織物基材は、経糸の間に緯糸を織り込む製織方法において、緯糸を杼口内に引き込む際、緯糸を任意の長さに切断し切片としたもの緯糸切片を、杼口内の任意の位置に配置せしめて織り込むことにより、必要部分のみに緯糸を配置し、強化繊維糸条である緯糸の使用量を削減することができ、また、経糸についても、必要部分にのみ強化繊維を配置し、形状を切り出した際の余白部分には他の繊維を配置することにより、強化繊維糸条のロスを削減することができる。【選択図】 図1

Description

本発明は、織物基材とその製織方法およびその織物基材の製織に用いられる織機に関するものであり、さらに好適には、炭素繊維織物基材とその製織方法およびその炭素繊維織物基材の製織に用いられる織機に関するものである。
繊維糸条の一般的な利用法として、平織りに代表されるような織物や、1方向のみに繊維糸条を並べて平面状に形成したUD(単一繊維方向)基材のような2次元平面基材を繊維糸条により作成し、それを必要な形に切り出し、利用するということがなされる。この際、平面状の基材から切り出し片を切り出す必要があるが、切り出し片を切り出した後の残りの部分(余白部分)についてはロスとなるため、切り出しパターンを最密配置する等により余白面積を出来るだけ極小化する努力が成される。
しかしながら、製造される製品形状の形にもよるものの、上記のような切り出しを行う以上、余白部分は少なからず発生してしまう傾向にある。このような余白部分はパッチワーク(つぎはぎ)のような工夫をしなければ、そのままの形では製品には用いることができず、他部品への転用もしくはその他利用法等が無い場合は、そのまま廃棄せざるを得ずロスとなってしまう。
特に、強化繊維複合材に代表されるような強化繊維の積層製品は、一般的に少なくとも1方向に繊維長さ方向に配置した強化繊維基材を必要な形に成形し、それを複数層重ねた繊維積層組織を有する。その際、さまざまな方法があるが、上記のような平面状の強化繊維基材から切り出し片を切り出して重ねるのが一般的である。
一般的にこのような強化繊維、特に炭素繊維を用いる場合については強化繊維の単価が高く、上記のロスによる損失も膨大となる。また、強化繊維という性質上、繊維が途切れ途切れとなってしまうパッチワークのような利用法は強度が失われる等の理由により行いにくい。他部品、もしくは不織布材料等他の利用法に供することによりコスト回収をはかる方法もあるが、いずれの場合も転用に伴うコストが発生する上、再利用品ということで高い付加価値を与えることが困難な場合が多く、思うほどのコスト回収がはかれないのが現状である。
このような課題を解決するため、当初から狙いとする形状に合わせ、必要となる部分のみに繊維を配置し、余白による繊維ロスを削減しようという試みがなされている。
その方法として、刺繍の機構を応用し、基材となる比較的安価な織物の上に狙いとする形状どおりに繊維を刺繍したり(特許文献1参照。)、狙いとする形に合わせて繊維を敷き詰め、それらを基材となる比較的安価な織物にかがり縫いする要領で固定して行く方法が挙げられる(特許文献2参照。)。また別の方法として、テープレイアップ法に代表されるような、型表面等に短冊状にきった繊維をそのまま貼り付けて、必要となる形を成形する方法が提案されている(特許文献3参照。)。
しかしながら、上記のいずれの方法においても、繊維同士が厚み方向に互いに行き来しながらクロスして織り重ねられた織物構造の材料を得ることはできない。
織物の特長、特に強化繊維複合材工程における織物の利点の一つとして、経糸と緯糸が互いに交差することにより、4辺からなる無数の小さい格子をなし、その各小格子が隣接する互いの動きを拘束しながらも、3次元的に格子変形を成すことにより、巨視的に自由な立体形状を作り上げることができるということが挙げられる。
またもう一つの他の利点として、経糸と緯糸が互いに交差して織り上げられていることにより、各繊維糸条は厚み方向に蛇行するようにして存在しているため、この蛇行分が伸び縮み代となり、ある程度の伸縮性を有するということが挙げられる。
これらの機能により、賦形の際に局所的な凹凸等が存在しても、繊維糸条が動きにくいことにより繊維が引きつったり、繊維が逃げてしまって割れが生じたりすることがなく、ネットが覆いかぶさるように高い賦形性を得ることができる。
しかしながら、上記特許文献1の提案においては、連続した繊維糸条が基材の上に縫い付けられた構造であり、また、上記特許文献2の提案においては、繊維糸条の切片が基材の上に置かれ、他の繊維により縫い付けられた構造である。このような構造では繊維糸条が十分に動きにくく、引きつりや割れが生じやすい。
また、上記特許文献3の提案においては、繊維糸条の切片が型表面等に直接貼り付けられた構造であり、型自体を3次元形状にしておけば、そもそも賦形の必要が無い。しかしながら、特許文献3の提案は、型表面にテープ状に繊維を貼り付けていくという機構であるため、あまり複雑な凹凸を持つ形状には対応が難しく、また高速に賦形するには限度がある。
これらのことから、上記いずれの提案においても、織物同様の賦形性を得ることは難しく、あまり複雑な3次元形状の製品には適用できていないのが現状である。
その他織物の一般的な利点として、高い生産速度によって得られる低い生産コストや、特有のクロス目による意匠の美しさ等が挙げられるが、上記のいずれの提案においてもこれらの利点を得ることはできない。
特開2010−280212号公報 特表2011−530014号公報 特表2010−519120号公報
本発明の目的は、上記のような課題に着目し、織物特有の網目構造を有しながら、必要となる部分にのみ強化繊維糸条を配置し、余白による強化繊維ロスを極小化することができ、低コストで生産可能な織物基材とその製織方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記織物基材の製織に用いられる織機を提供することにある。
本発明は、上記課題を解決せんとするものであり、本発明の織物基材は、複数の繊維糸条を同一方向に平面状にひきそろえた経糸に対し、緯糸として任意の長さの強化繊維糸条Aが任意の位置に部分的に織り込まれていることを特徴とする織物基材である。
本発明の織物基材の好ましい態様によれば、前記の経糸が、強化繊維糸条Aであることである。
本発明の織物基材の好ましい態様によれば、前記の経糸が、連続した繊維糸条B上に任意長さの強化繊維糸条Cが繊維糸条方向を同じくして部分的に接着された構造をなしていることである。
本発明の織物基材の好ましい態様によれば、前記の経糸が、任意の長さの強化繊維糸条Cと繊維糸条Dが繊維長手方向に交互に糸つなぎされた構造をなしていることである。
本発明の織物基材の好ましい態様によれば、前記の緯糸のみにバインダが付与されており、かつ緯糸同士または経糸と緯糸の間にバインダによる接着が無いことである。
本発明の織物基材の好ましい態様によれば、前記の経糸と緯糸が織り機構を成す領域の少なくとも片面において、外部に露出している繊維の表層にバインダが付与されていることである。
本発明の織物基材の好ましい態様によれば、前記の強化繊維糸条Aまたは強化繊維糸条Cは、炭素繊維である。
また、本発明の織物基材の製造方法は、引きそろえられた経糸の位置を上下方向に移動させて杼口を形成し、前記杼口の中に強化繊維糸条である緯糸を通し、その後、前記経糸の位置を上下方向に移動させて杼口を閉じることにより、経糸の間に緯糸を織り込む製織方法において、前記緯糸を杼口内に通す際、前記緯糸を任意の長さに切断し切片とした緯糸切片を、杼口内の任意の位置に配置せしめて織り込むことを特徴とする織物基材の製織方法である。
本発明の織物基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の緯糸切片を配置する一連の動作を同一の杼口内で複数回実施することによって、複数本の緯糸切片を同一の杼口内に同一直線上に配置することである。
本発明の織物基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の経糸として引きそろえられた繊維糸条Bに対し、任意の長さの強化繊維糸条Cを前記繊維糸条Bに沿わせる形で接着することを断続的に繰り返すことにより、任意の長さの前記強化繊維糸条Cが前記繊維糸条Bに沿って任意の位置に配置された状態とし、これに対して前記緯糸を織り込むことである。
本発明の織物基材の製造方法の好ましい態様によれば、糸つなぎを用いることにより、前記の経糸として引きそろえられた繊維糸条D上の任意の位置が、任意の長さの強化繊維糸条Cで部分的に置換された状態とし、これに対して緯糸を織り込むことである。
本発明の織物基材の製造方法の好ましい態様によれば、あらかじめ前記の緯糸にバインダを付与させておき、織り込みを行うことである。
本発明の織物基材の製造方法の好ましい態様によれば、製織後、前記の経糸と前記の緯糸が織り機構を成す領域において、織物表面に露出した表層のみにバインダを付与することである。
本発明の織物基材の製造に用いられる織機は、並べられた経糸に交差する方向に杼口内を動作し、杼口の外側で緯糸を把持して引き出し、そのまま前記緯糸を杼口内に引き込み杼口内を通過させる緯糸把持牽引機構と、前記緯糸把持牽引機構によって引き出された前記緯糸を任意のタイミングで切断するための切断機構を有し、まず前記緯糸把持牽引機構により前記緯糸を杼口内に引き込み、任意の長さまで引き込んだタイミングで前記切断機構を動作させ前記緯糸を任意の長さに切断して緯糸切片とし、その後さらに任意の位置まで前記緯糸切片を引き込み、前記緯糸把持牽引機構の把持を解除し、杼口内の任意の位置に前記緯糸切片を配置せしめ、筬による緯糸切片の打ち込みを行うように構成されてなることを特徴とする織機である。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、一本一本の前記の緯糸をそれぞれ任意の長さに切断して緯糸切片とし、さらに前記緯糸切片を任意の位置に配置して織り込む機構について、前記緯糸切片を配置する一連の動作を同一の杼口内にて複数回実施することによって、複数本の緯糸切片を同一の杼口内に同一直線上に配置する機能を有することである。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、前記の切断機構において、前記切断機構が切断のタイミングにおいて引き出される緯糸の速度に同調して動き、前記緯糸と前記切断機構との相対速度を減少させる機能を有することである。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、前記の強化繊維糸条Cを任意の長さに切断し、それらを任意の間隔に繊維糸条Aを用いて繊維方向に一列上に整列保持させるための機構を有し、さらにそれらを経糸として扱う機能を有することである。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、前記の強化繊維糸条Cを任意の長さに切断し、それらを任意の間隔に繊維糸条Aを用いて繊維糸条方向に一列上に整列保持させるための機構について、前記強化繊維糸条Cの任意長送り出し、切断を繰り返し実施可能な強化繊維糸条Cの供給機構と、この強化繊維糸条Cの供給機構により任意の長さに切り出された前記強化繊維糸条Cを前記繊維糸条Aの上に接着させるための接着機構とを有することである。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、前記の任意の長さに切り出された強化繊維糸条Cを繊維糸条Aの上に接着させるための接着機構について、強化繊維糸条Cの供給機構から送り出された強化繊維糸条C切片を面上に一旦配置し、その後その面上に繊維糸条Aを沿わせて接着する機能を有することである。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、前記の任意の長さに切り出された強化繊維糸条Cを繊維糸条Aの上に接着させるための接着機構について、前記繊維糸条Aの走行速度に同調させて強化繊維糸条Cの供給機構から強化繊維糸条C切片の送り出しを行い、両者を沿わせて接着する機能を有することである。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、前記の強化繊維糸条Cを任意の長さに切断し、それらを任意の間隔に繊維糸条Aを用いて繊維方向に一列上に整列保持させるための機構について、前記繊維糸条Aと前記強化繊維糸条Cのそれぞれの任意長に送り出し、切断が繰り返し実施可能な繊維糸条Aと強化繊維糸条Cの供給機構と、前記供給機構により任意の長さに切り出された前記繊維糸条Aと前記強化繊維糸条Cの端部どうしを交互に糸つなぎするための糸つなぎ機構とを有することである。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、前記の繊維糸条Aと強化繊維糸条Cの端部どうしを交互に糸つなぎするための糸つなぎ機構について、エア噴射により繊維端部どうしを交絡させる機能を有することである。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、織り込み前の前記の緯糸にバインダを付与するための第1のバインダ付与機構を有することである。
本発明の前記織機の好ましい態様によれば、製織後、前記の経糸と前記の緯糸が織り機構を成す領域の織物表層にバインダを選択的に付与するための第2のバインダ付与機構を有することである。
本発明によれば、織物特有の網目構造を有する織物を、織物で必要となる部分にのみ強化繊維糸条を配置することにより、任意の形状に最小限の繊維で形成することが出来るため、織物の利点である高い賦形性と意匠性等を維持したまま、材料削減によるコストダウンや工程削減等の利点を得ることができる織物基材が得られる。
本発明の織物基材の製織方法と織機によれば、織物で必要となる形状を切り抜く際に課題となる余白による強化繊維ロスを極小化することができ、低コストで生産可能な織物基材製織することができる。
図1は、本発明に係る織物基材の一例を簡略化して示した概略構成図である。 図2は、本発明に係る他の織物基材の一例を簡略化して示した概略構成図である。 図3は、本発明に係る製織機構の一例を簡略化して示した概略構成図である。 図4は、本発明に係る製織動作の一例を簡略化して示した概略構成図である。 図5は、本発明に係る他の製織動作の一例を簡略化して示した概略構成図である。 図6は、本発明に係る他の製織動作の一例を簡略化して示した概略構成図である。 図7は、本発明に係る織物基材の構造の一例を簡略化して示した概略構成図である。
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る織物基材の一例を簡略化して示した概略構成図である。
図1において、緯糸に用いられる強化繊維糸条1は、織物基材を構成する繊維糸条2(経糸)にクロスする方向に配置され、同様に任意の長さに切断された複数の強化繊維糸条切片3が任意の位置に配置されており、強化繊維糸条1は織物基材を構成する繊維糸条2(経糸)に織り込まれる形で固定されている。
この織物基材は、繊維糸条が互いに織り込まれた織物の形状を有するため、先述した織物の利点を得ることができると同時に、必要となる形状に合わせて必要となる部分に強化繊維糸条を配置することができるため、通常の織物から形状を切り出す場合に比較して、無駄となる強化繊維を少なくすることができ、きわめて経済的に必要となる織物基材を得ることができる。
特に、織物基材を構成する繊維糸条2(経糸)に強化繊維糸条と異なる繊維糸条を用いることにより、理屈上では無駄となる強化繊維糸条の量をゼロにすることができる。また、織物基材を構成する繊維糸条2に強化繊維糸条を用いた場合は、通常の織物から形状を切り出す場合と全く同様の、強化繊維糸条同士が互いに織り込まれた織物基材を得ることができ、先述した織物の利点をさらに強く得ることができる。この場合においても、通常の織物から形状を切り出す場合と比較して、無駄となる強化繊維を少なくすることができる。
また、図2は、本発明に係る織物基材のさらなる他の一例を簡略化して示した概略構成図である。
図2において、強化繊維糸条1は、織物基材を構成する繊維糸条2(経糸)に強化繊維糸条切片4を接着する、または、織物基材を構成する繊維糸条2の一部を強化繊維糸条切片4で置換するなどの方法により、任意の長さに切断された強化繊維糸条切片4が、織物基材を構成する繊維糸条2と繊維長さ方向が同一になるようにして、任意の形状に配置された構造になっている。
図2においては、これらにクロスする方向で、さらに任意の長さに切断された複数の強化繊維糸条切片3が任意の位置に配置されており、強化繊維糸条切片4は織物基材を構成する繊維糸条2、もしくは強化繊維糸条切片4に織り込まれる形で固定されている。
この織物基材は、通常の織物から形状を切り出す場合と全く同様の、強化繊維糸条同士が互いに織り込まれた織物の形状を有するため、先述した織物の利点をさらに強く得ることができると同時に、必要となる形状以外の部分に無駄となる強化繊維が存在しないため、きわめて経済的に必要となる基材を得ることができる。
上記に挙げたこれらの織物基材において、繊維糸条2に強化繊維以外の繊維糸条を用いる場合、強化繊維よりも単価が安価であったり、回収してリサイクルできるような繊維を用いることが望ましい。この繊維の部位は製品を切り出した際、余白部分として無駄となる部分であるので、単価の低いものを用いるか、リサイクル等によりコスト回収をはかることができるように考慮しておくことによって、コストの削減を図ることが可能である。
また、この場合ケースによっては、繊維糸条2が強化繊維に織り込まれる形で製品内にも存在する形となるが、これを回避するためにあらかじめ除去しやすい繊維を選定しておくことが考えられる。主な方法としては、直接物理的に抜き取る等の他に、熱で焼き飛ばす方法や、溶剤等に溶解する等の方法が考えられる。一方で、製品内に繊維が残留することを逆に利用すれば、熱溶着等の機能を持つ繊維を用いることにより、織物基材に熱溶着機能を付加する等の工夫が考えられる。
次に、織物基材の具体的な製造方法について、図3〜6を用いて説明する。
図3は、本発明に係る製織機構の一例を簡略化して示した概略構成図であり、図4〜図6は、本発明に係る製織動作の一例を簡略化して示した概略構成図である。
図3において、複数の繊維糸条14は、通常の織機において経糸に相当する繊維糸条である。これらの繊維糸条を経糸として扱い、そこに緯糸として強化繊維糸条16を、強化繊維ボビン11から糸条貯留機構12を経て引き出し、織り込んでいく。この際、並べられた繊維糸条14(経糸)に交差する方向に杼口内を動作し、杼口の外側で強化繊維糸条16(緯糸)を把持して引き出し、そのまま杼口内に引き込み杼口内を通過させる緯糸把持牽引機構15と、この緯糸把持牽引機構15によって引き出された緯糸を任意のタイミングで切断するための切断機構13を有する。具体的な製織動作は、次のとおりである。
まず、図4に示すように、緯糸把持牽引機構15が繊維糸条14(経糸)を横切る形で杼口内を通過し、緯糸となる強化繊維糸条16の端部を把持し、そのまま強化繊維糸条16を杼口内に引き込む。
次に、図5に示すように、強化繊維糸条16を任意の長さまで引き込んだタイミングで上記の切断機構13が動作し、緯糸を任意の長さに切断し緯糸切片17とする。この際、強化繊維糸条16は樋口内を移動しているため、切断機構13で良好に切断を行うためには、両者の相対速度をゼロに近づけることが望ましい。具体的な方法としては、切断時に切断機構が強化繊維糸条16の速度にシンクロして横行する方法や、ロータリーカッターを用いる方法等が考えられる。
最後に図6に示すように、その後さらに任意の位置まで緯糸切片17を引き込み、緯糸把持牽引機構15の把持を解除し、杼口内の任意の位置に緯糸切片17を配置する。その後筬による緯糸切片の打ち込みを行う。これを繰り返すことにより、強化繊維糸条の切片を緯糸の形で配置し、必要となる部分のみに強化繊維糸条を配置した、自由な形状の強化繊維切片群を得ることができる。
図7は、本発明に係る織物基材の構造の一例を簡略化して示した概略構成図である。
上記一連の動作は、図7内の同一の杼口内において複数の強化繊維糸条切片が存在する箇所22で示されるような、同一の杼口内において複数の強化繊維糸条切片が存在するような形状に対応するために、この一連の動作を同一の杼口内において複数回繰り返し、同一の杼口内において複数の強化繊維糸条切片を配置することが可能であることが望ましい。これにより、詳細な形状にも追従して強化繊維糸条を配置することが可能となるため、無駄になる繊維をより少なくすることができる。
また、この機構において経糸となる繊維に、任意の位置に任意の形状で強化繊維糸条を貼り付ける、もしくは部分的に置換する機構を設けることにより、経糸と同一化した強化繊維糸条の間に緯糸として配置された強化繊維糸条21が織り込まれる形となるため、結果として図2に示されるような、強化繊維糸条同士が経糸および緯糸として折り重ねられた任意の形状の強化繊維からなる織物基材を得ることが可能となる。具体的な手法としては、すでに経糸としてセットされたベースとなる繊維糸条の上に、任意の長さに切断した強化繊維糸条を接着していく方法が考えられる。また、繊維同士をつなぎ合わせることが可能な糸つなぎ装置を用いて、ベースとなる繊維糸条と強化繊維糸条を任意の長さずつ交互に糸つなぎしていく方法によっても達成できる。この場合ベースとなる繊維糸条が部分的に強化繊維糸条に置き換えられたような形状となる。
一方で、これら強化繊維糸条は必ずしも完全に折り重ねられる必要はなく、経糸のみもしくは緯糸のみが存在する部分があってもよい。本発明の機構を用いることにより、経糸上の強化繊維糸条の配置位置と、緯糸である強化繊維糸条の配置位置を意図的にずらすことによって、これら経糸のみもしくは緯糸のみが存在する部分を形成することが可能である。このような部分では、強化繊維糸条は一方向のみの配置となるため、一方向基材と同様の形状と特性をなす。これらを任意の位置に配置することによって、織物基材の中に部分的に一方向基材の特性を有する部分を作り出す等の試みが可能となる。
また、同様の考え方として、強化繊維糸条を部分的に間引くということも考えられる。本発明の機構を用いることにより、経糸側もしくは緯糸側の強化繊維糸条の配置を間引くことは可能である。強化繊維糸条が間引かれた部分においては、力学的な特性などが変化するため、上記同様同一のシートにおいて部分的に特性を変化させた織物基材を得ることができる。例えば、賦形時の変形により繊維の密度が過多になる部位が発生するような場合においては、あらかじめその部位の繊維を間引いておくことにより、成形性を向上させたり無駄となる繊維を削減する等の利点を得ることができる。
また、賦形後の製品の形態を安定化させ、取り扱い性等を向上させることを目的として、このような製品にはバインダが付与されることが多い。バインダに求められる機能としては、まず繊維等へ付与した当初の時点では粘着性がなく、繊維同士の自由な変形を拘束することがないこと、その後加熱・溶解等の条件により粘着性を発揮し繊維同士を固着すること、および、その後再び条件を解除した際、繊維糸条同士の固着を維持しながらも、製品表面の粘着による取り扱い性悪化等を回避するため、再び粘着性のない状態に戻ることが望まれる。
バインダに用いられる接着樹脂は、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれでも良いが、加熱により溶融変形し、再冷却によって固化し、形状維持可能な熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂および酢酸セルロース樹脂などの樹脂を使用することができる。
接着樹脂の織物基材への付着形態は、点状、または、連続あるいは不連続な線状であることが好ましい。このような形態で接着樹脂が織物基材に付着していることにより、この織物基材を使って強化繊維複合材料を製造する際に、マトリックス樹脂の織物中への含浸を阻害しない。
本発明の織物基材の製造工程においては、あらかじめ緯糸にバインダを付与し、それを織り込むことにより、結果として緯糸が存在する部分のみにバインダを付与させることができる。本発明において緯糸が存在する部分は、経糸と緯糸が織り機構を成す領域に等しく、これにより成形に必要な部分のみに選択的にバインダを付与し、他の部分にはバインダ付与しないというバインダ付与範囲のコントロールが可能となる。これにより、必要以外の場所へのバインダ付与をなくし、無駄となるバインダを最小限にすることができる等の利点と共に、トリミングにより切り落とした周辺部繊維がバインダなしのチョップド繊維として再利用可能となる等、バインダを付着させないことによる利点も得ることができる。また、バインダ付与の際、バインダが緯糸と経糸をまたぐような形で付与されると、両者に固着し繊維同士の自由な変形を拘束する要因となりえるが、本方式ではあらかじめ緯糸のみにバインダを付与した後経糸を編みこむため、このような事態は発生しない。バインダは、緯糸表面のみに固着しており、経糸表面とは完全に分離しているため、繊維同士の自由な変形を拘束することはない。
また、成形に必要な部分のみに選択的にバインダを付与するもう一つの方法として、製織後において、経糸と緯糸が織り機構を成す領域に、選択的にバインダを付与する方法が考えられる。この際、経糸と緯糸が直接重なり合う内層部分へバインダが付着してしまうと、バインダが緯糸と経糸をまたぐように固着し、織物基材の賦形性を阻害する可能性があり、織物表層に露出した部分のみにバインダを付与することが望ましい。また、上記のような織り機構を成す領域においては、隣り合う経糸同士もしくは緯糸同士が断続的に交互に表層に現れる形となっているため、織物表層に露出した部分のみにバインダを付与する様にすると、それぞれの糸条の表層に点状もしくは不連続な線状にバインダが付与される形となる。このような付着形態は、上記にあるとおり、マトリックス樹脂の織物基材中への含浸を阻害しない形態であり、結果含浸に有利な織物基材を得ることができる。
本発明で得られる織物基材の用途としては、強化繊維を用いる製品であれば特定のものに限定されるものではないが、任意の形状の強化繊維織物を効率よく生産できるという特徴から、FRPと呼ばれる繊維強化プラスチックの強化繊維基材作成に好適である。特に、強化繊維に炭素繊維を用いるCFRPにおいては、炭素繊維の単価が高く、ロスによる損失が大きくなりがちであるため、本発明による強化繊維のロス削減効果が大きく、有効に供することが出来る。また、特に自動車部品のような小型、多品種、複雑形状の製品においては、同じくロスが増大する傾向にあるため、本発明適用による効果が大きい。
1:強化繊維糸条
2:織物基材を構成する繊維糸条
3:強化繊維糸条切片
4:強化繊維糸条
11:強化繊維ボビン
12:糸条貯留機構(アッキュムレータ)
13:切断機構
14:糸条
15:緯糸把持牽引機構
16:強化繊維糸条
21:配置された強化繊維緯糸
22:同一の杼口内において複数の強化繊維糸条切片が存在する箇所

Claims (24)

  1. 複数の繊維糸条を同一方向に平面状にひきそろえた経糸に対し、緯糸として任意の長さの強化繊維糸条Aが任意の位置に部分的に織り込まれていることを特徴とする織物基材。
  2. 経糸が、強化繊維糸条Aであることを特徴とする請求項1記載の織物基材。
  3. 経糸が、連続した繊維糸条B上に任意長さの強化繊維糸条Cが繊維糸条方向を同じくして部分的に接着された構造をなしていることを特徴とする請求項1記載の織物基材。
  4. 経糸が、任意の長さの強化繊維糸条Cと繊維糸条Dが繊維糸条の長手方向に交互に糸つなぎされた構造をなしていることを特徴とする請求項1記載の織物基材。
  5. 緯糸のみにバインダが付与されており、かつ緯糸同士または経糸と緯糸の間にバインダによる接着が無いことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の織物基材。
  6. 経糸と緯糸が織り機構を成す領域の少なくとも片面において、外部に露出している繊維糸条の表層にバインダが付与されていることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の織物基材。
  7. 強化繊維糸条Aまたは強化繊維糸条Cが、炭素繊維であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の織物基材。
  8. 引きそろえられた経糸の位置を上下方向に移動させて杼口を形成し、前記杼口の中に強化繊維糸条である緯糸を通し、その後、前記経糸の位置を上下方向に移動させて杼口を閉じることにより、経糸の間に緯糸を織り込む製織方法において、前記緯糸を杼口内に通す際、前記緯糸を任意の長さに切断し切片とした緯糸切片を、杼口内の任意の位置に配置せしめて織り込むことを特徴とする織物基材の製織方法。
  9. 緯糸切片を配置する一連の動作を同一の杼口内で複数回実施することによって、複数本の緯糸切片を同一の杼口内に同一直線上に配置することを特徴とする請求項8記載の織物基材の製織方法。
  10. 経糸として引きそろえられた繊維糸条Bに対し、任意の長さの強化繊維糸条Cを前記繊維糸条Bに沿わせる形で接着することを断続的に繰り返すことにより、任意の長さの前記強化繊維糸条Cが前記繊維糸条Bに沿って任意の位置に配置された状態とし、これに対して前記緯糸を織り込むことを特徴とする請求項8または9記載の織物基材の製織方法。
  11. 糸つなぎを用いることにより、経糸として引きそろえられた繊維糸条D上の任意の位置が、任意の長さの強化繊維糸条Cで部分的に置換された状態とし、これに対して緯糸を織り込むことを特徴とする請求項8または9記載の織物基材の製織方法。
  12. あらかじめ緯糸にバインダを付与させておき、織り込みを行うことを特徴とする請求項8〜11いずれかに記載の強化繊維織物基材の製織方法。
  13. 製織後、経糸と緯糸が織り機構を成す領域において、織物表面に露出した表層のみにバインダを付与することを特徴とする請求項8〜11いずれかに記載の織物基材の製織方法。
  14. 並べられた経糸に交差する方向に杼口内を動作し、杼口の外側で緯糸を把持して引き出し、そのまま前記緯糸を杼口内に引き込み杼口内を通過させる緯糸把持牽引機構と、前記緯糸把持牽引機構によって引き出された前記緯糸を任意のタイミングで切断するための切断機構を有し、まず前記緯糸把持牽引機構により前記緯糸を杼口内に引き込み、任意の長さまで引き込んだタイミングで前記切断機構を動作させ前記緯糸を任意の長さに切断して緯糸切片とし、その後さらに任意の位置まで前記緯糸切片を引き込み、前記緯糸把持牽引機構の把持を解除し、杼口内の任意の位置に前記緯糸切片を配置せしめ、筬による緯糸切片の打ち込みを行うように構成されてなることを特徴とする織機。
  15. 一本一本の緯糸をそれぞれ任意の長さに切断して緯糸切片とし、さらに前記緯糸切片を任意の位置に配置して織り込む機構について、前記緯糸切片を配置する一連の動作を同一の杼口内にて複数回実施することによって、複数本の緯糸切片を同一の杼口内に同一直線上に配置する機能を有することを特徴とする請求項14記載の織機。
  16. 切断機構において、前記切断機構が切断のタイミングにおいて引き出される緯糸の速度に同調して動き、前記緯糸と前記切断機構との相対速度を減少させる機能を有することを特徴とした請求項14または15記載の織機。
  17. 強化繊維糸条Cを任意の長さに切断し、それらを任意の間隔に繊維糸条Aを用いて繊維方向に一列上に整列保持させるための機構を有し、さらにそれらを経糸として扱う機能を有することを特徴とする請求項14〜16のいずれかに記載の織機。
  18. 強化繊維糸条Cを任意の長さに切断し、それらを任意の間隔に繊維糸条Aを用いて繊維糸条方向に一列上に整列保持させるための機構について、前記強化繊維糸条Cの任意長送り出し、切断を繰り返し実施可能な強化繊維糸条Cの供給機構と、この強化繊維糸条Cの供給機構により任意の長さに切り出された前記強化繊維糸条Cを前記繊維糸条Aの上に接着させるための接着機構とを有することを特徴とする請求項14〜17いずれかに記載の織機。
  19. 任意の長さに切り出された強化繊維糸条Cを繊維糸条Aの上に接着させるための接着機構について、強化繊維糸条Cの供給機構から送り出された強化繊維糸条C切片を面上に一旦配置し、その後その面上に繊維糸条Aを沿わせて接着する機能を有することを特徴とする請求項18に記載の織機。
  20. 任意の長さに切り出された強化繊維糸条Cを繊維糸条Aの上に接着させるための接着機構について、前記繊維糸条Aの走行速度に同調させて強化繊維糸条Cの供給機構から強化繊維糸条C切片の送り出しを行い、両者を沿わせて接着する機能を有することを特徴とする請求項18記載の織機。
  21. 強化繊維糸条Cを任意の長さに切断し、それらを任意の間隔に繊維糸条Aを用いて繊維方向に一列上に整列保持させるための機構について、前記繊維糸条Aと前記強化繊維糸条Cのそれぞれの任意長に送り出し、切断が繰り返し実施可能な繊維糸条Aと強化繊維糸条Cの供給機構と、前記供給機構により任意の長さに切り出された前記繊維糸条Aと前記強化繊維糸条Cの端部どうしを交互に糸つなぎするための糸つなぎ機構とを有することを特徴とする請求項14〜20いずれかに記載の織機。
  22. 繊維糸条Aと強化繊維糸条Cの端部どうしを交互に糸つなぎするための糸つなぎ機構について、エア噴射により繊維端部どうしを交絡させる機能を有することを特徴とする請求項21記載の織機。
  23. 織り込み前の緯糸にバインダを付与するための第1のバインダ付与機構を有することを特徴とする請求項14〜22いずれかに記載の織機。
  24. 製織後、経糸と緯糸が織り機構を成す領域の織物表層にバインダを選択的に付与するための第2のバインダ付与機構を有することを特徴とする請求項14〜22いずれかに記載の織機。
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