JP2019183215A - 浸炭機械部品及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】母材とともに浸炭層の降伏強度をも高めた浸炭機械部品及びその製造方法の提供。【解決手段】所定の成分組成を有し主として焼き戻しマルテンサイト組織からなる鋼の表面に400μm以上の厚さを有する浸炭硬化層を与えた機械部品である。浸炭硬化層の表面から100μm深さ位置までの表層硬化層において、0.55%以上の[C]を含み、600HV以上の硬さを有し、成分組成で66×[Si]+35×[Cr]+60×[Mo](但し、[M]は元素Mの質量%を表す。)を60以上とするとともに整合Fe炭化物の断面面積率を3%以上としたことを特徴とする。また、製造は、真空浸炭工程、焼き入れ処理工程後、220〜400℃にて焼き戻す焼き戻し工程を含むことを特徴とする。【選択図】なし
Description
本発明は、焼き戻しマルテンサイト組織からなる鋼の表面に浸炭硬化層を与えた浸炭機械部品及びその製造方法に関する。
鋼の表面に浸炭硬化層を与えた高強度部品がギア、シャフト、プーリー等の機械部品に用いられている。かかる浸炭機械部品の更なる高強度化に対して、ショットピーニングによる表面への圧縮残留応力の付与などとともに、真空浸炭法の採用、又、これに適した鋼の開発が行われている。
例えば、特許文献1では、真空浸炭法でエッジ部を含め均一な浸炭を与え得る鋼について、その鋼の合金成分のうち、Si、Ni及びCuが浸炭時の炭化物生成を抑制すること、Crが炭化物を増大させること、Mn及びMoはあまり影響を与えないことについて述べている。その上で、成分組成として、質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.3〜3.0%、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cu:0.01〜1.00%、Ni:0.01〜3.00%、Cr:0.3〜1.0%、Al:0.20%以下およびN:0.05%以下を含有し、上記した浸炭時の炭化物生成を抑制観点から、[Si]+[Ni]+[Cu]−[Cr]>0.5(但し、[M]は元素Mの質量%を表す。以下同じ。)の条件を満たすとした鋼を開示している。
一般的に、浸炭用鋼としては、JIS SCr420鋼やSCM420鋼などが用いられ、機械部品形状に加工後、浸炭焼き入れし、焼き戻しを施して機械部品に供される。このとき、焼き戻しマルテンサイト組織中の残留γ量が多いと、機械部品としての強度が得られないことになる。
特許文献2では、浸炭用鋼としてはC量を非常に多く含む鋼を用いており、機械強度を高く出来る一方で、焼き戻しマルテンサイト組織中の残留γ量の増加による機械強度の低下も生じ得るため、焼き戻しの加熱温度を従来よりも高くして残留γ量を制御した浸炭機械部品及びその製造方法を開示している。ここでは、C量を多く含む鋼であるとともに、機械加工性を確保する観点で比較的合金成分を少なくし、特に、硬質な窒化物を形成し易いSi量を下げ、つまり、成分組成として、質量%で、C:0.95〜1.1%、Cr:1.4〜1.6、Si:〜0.3%、Mn:〜0.5%、S:〜0.008%を含む鋼の表層部に炭窒化層を与えている。浸炭焼き入れ後の焼き戻しは、一般的には、A1点以下の温度である200℃以下で行うことが多いところ、240℃以上のより高い温度で行うとしている。
機械部品の小型化を進める上で、浸炭機械部品の高強度化が求められ、母材とともに浸炭層の降伏強度をも高めることが必要となる。
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、母材とともに浸炭層の降伏強度をも高めた浸炭機械部品及びその製造方法を提供することにある。
本発明による浸炭機械部品は、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.50〜3.0%、Mn:0.30〜2.0%、Cu:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜3.0%、Cr:0.20〜3.0%、Mo:0.01〜2.0%、Al:0.2%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、N:0.05%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し主として焼き戻しマルテンサイト組織からなる鋼の表面に400μm以上の厚さを有する浸炭硬化層を与えた機械部品であって、前記浸炭硬化層の前記表面から100μm深さ位置までの表層硬化層において、0.55%以上の[C]を含み、600HV以上の硬さを有し、前記成分組成で66×[Si]+35×[Cr]+60×[Mo](但し、[M]は元素Mの質量%を表す。)を60以上とするとともに整合Fe炭化物の断面面積率を3%以上としたことを特徴とする。
かかる発明によれば、Siを多く与えることにより、焼き戻し工程をより高温で行い得るようになり、残留γ量を減じるとともに、表層硬化層にε炭化物、χ炭化物といった整合炭化物を析出させ得て、表層降伏強度を高く出来るのである。
上記した発明において、前記表層硬化層は、1μm以下のセメンタイトを断面面積率で3%以上含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、面疲労強度をより高めることが出来るのである。
上記した発明において、前記成分組成で[Si]+[Ni]+[Cu]−[Cr]を0.5よりも大きくしたことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、エッジ部を含む機械部品であっても、該エッジ部の網目状炭化物を抑制できて、疲労強度をより高めることができるのである。
上記した発明において、前記成分組成において、Nb及び/又はTiを、Nb:〜0.20%、Ti:〜0.20%で含み得ることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、異常粒成長を抑制できるので、浸炭をより高温で施工できるのである。
上記した発明において、B:〜0.01%で含み得ることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、焼き入れ性を高めることができるので、大型の機械部品であっても疲労強度をより高めることができるのである。
上記した発明において、前記成分組成において、Pb、Bi、及び/又はCaを、Pb:0.01〜0.20%、Bi:0.01〜0.10%、Ca:0.0003〜0.0100%で含み得ることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、被削性を高めることができるので、加工コストを減じ得るのである。
また、本発明による浸炭機械部品の製造方法は、上記した浸炭機械部品を製造する方法であって、真空浸炭工程、焼き入れ処理工程後、220〜400℃にて焼き戻す焼き戻し工程を含むことを特徴とする。
かかる発明によれば、Siを多く与え、かつ、焼き戻し工程を220〜400℃のより高温で行うことにより、残留γ量を減じるとともに、ε炭化物、χ炭化物といった整合炭化物を多量に析出させ得て、表層降伏強度を高く出来るのである。
上記した発明において、前記焼き入れ処理工程後、750〜900℃に再加熱する再加熱工程と、二次焼き入れ工程とを含むことを特徴としてもよい。また、前記再加熱工程は、真空浸炭を行う二次浸炭工程を含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、旧γ粒をより微細にし得て、疲労強度をより高く出来るのである。
上記した発明において、前記焼き入れ処理工程及び/又は前記二次焼き入れ工程では、サブゼロ処理工程を含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、残留γ量をより減じられるので、表層降伏強度をより高く出来るのである。
本発明による1つの実施例である浸炭機械部品の製造方法について、図1乃至図3を用いて詳細に説明する。
本実施例においては、図1の実施例1乃至37に示すような一連の成分組成を有する鋼を用いる。かかる成分組成としては、質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.50〜3.0%、Mn:0.30〜2.0%、Cu:0.01〜1.0%、Ni:0.01〜3.0%、Cr:0.20〜3.0%、Mo:0.01〜2.0%、Al:0.2%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、N:0.05%以下とするものである。さらに、かかる成分組成は、元素Mの質量%を[M]として、以下の式1の値を60以上とするようにされる。
式1:66×[Si]+35×[Cr]+60×[Mo]
式1:66×[Si]+35×[Cr]+60×[Mo]
この式1の値は、後述する焼き戻し後において表層にε炭化物やχ炭化物などのθ炭化物以外の整合Fe炭化物の析出を得られる指標となり、式1の値を大きくするほど得られる整合Fe炭化物の量も増加する傾向にある。そのため、Si、Cr及びMoの含有量に基づく式1の値を60以上と規定し、整合Fe炭化物を多く析出させるようにして、表層の硬さと降伏強度を高くするのである。また、このような整合Fe炭化物の析出を促すため、Siを多く含有させることで後述する焼き戻し工程をより高温で行い得るようにして、残留γ量を減じるようにしている。
図2を参照すると、上記のように成分組成を調整された鋼材が準備される(S1:鋼材準備工程)。ここでは、公知の浸炭機械部品と同様に、鋳込みによって得た鋼塊を鍛造し、熱間圧延や熱間鍛造等の熱間加工、焼準や焼鈍等の熱処理をしてから、切削加工や冷間鍛造等の冷間加工によって所定の形状とされた鋼材を得る。
次いで、かかる鋼材は最終的に表層の素地を硬化させるとともに整合Fe炭化物を析出させるために、まず、真空雰囲気中で浸炭処理される(S2:真空浸炭工程)。かかる真空浸炭工程S2では、例えば900〜1150℃で加熱保持する。この加熱保持に引き続いて、焼入れ油、あるいはアルゴンガスや窒素などの不活性ガスによって鋼材を急冷して焼き入れする(S3:焼き入れ工程)。さらに、鋼材は、220〜400℃の所定の温度に加熱保持後に空冷される焼き戻しがなされる(S4:焼き戻し工程)。
真空浸炭処理を含むこれら一連の熱処理では、鋼材に主として焼き戻しマルテンサイト組織を与えるようになされる。さらに、鋼材の表面に400μm以上の厚さを有する浸炭硬化層を与えるようにされるとともに、浸炭硬化層の表面から100μm深さ位置までの表層硬化層において、平均で、Cの含有量を0.55質量%以上且つ2.00質量%以下の範囲内で含むようになされ、整合Fe炭化物の断面面積率を3%以上とされ、600HV以上の硬さと1800MPa以上の降伏強度を付与される。なお、表層硬化層におけるCの平均含有量を0.55質量%以上且つ2.00質量%以下とすると、最初の真空浸炭工程S2の加熱温度をγ相にCを完全に固溶させ得る温度にできる。さらに、Cの平均含有量を0.90質量%以上とした場合は、浸炭後の焼き入れ工程S3の後に、後述する再加熱工程S3a−1及び二次焼き入れ工程S3a−2(図3参照)を加えることが好ましく、これによって表層硬化層において1μm以下の微細なセメンタイトを多量に析出させることができ、面疲労強度をより高めることができる。
以上のような製造方法によれば、焼き戻し工程S4を上記したような高温で行い得て、残留γ量を減じるとともに、ε炭化物、χ炭化物といった整合Fe炭化物を表層に多く析出させることができる。これによって、上記したような浸炭硬化層を得ることができ、表層降伏強度を高く出来るのである。なお、浸炭硬化層の厚さを400μm以上とすることで、浸炭機械部品の内部が表層より先に降伏してしまうような内部降伏を抑制することができる。
なお、得られた浸炭機械部品において、表層降伏強度と表層硬化層の平均硬さとが高い値でバランスされていることが好ましく、例えば、表層降伏強度(MPa)の数値と、表層硬化層の平均ビッカース硬さの数値の5倍との和が5000以上となることが好ましい。
また、表層硬化層は、その断面において粒径を1μm以下とするセメンタイトを断面面積率で3%以上含むようにすることも好ましい。これによって、面疲労強度を向上させ得る。
さらに、上記した成分組成において、元素Mの質量%を[M]として、以下の式2の値が0.5を超えるようにすることも好ましい。
式2:[Si]+[Ni]+[Cu]−[Cr]
この式2の値が大きいほどエッジ部での網目状炭化物の生成を抑制する傾向にある。つまり、これを0.5より大とすることで、エッジ部を含むような機械部品であっても、このエッジ部に網目状炭化物を生成させることを抑制でき、疲労強度を向上させ得る。
式2:[Si]+[Ni]+[Cu]−[Cr]
この式2の値が大きいほどエッジ部での網目状炭化物の生成を抑制する傾向にある。つまり、これを0.5より大とすることで、エッジ部を含むような機械部品であっても、このエッジ部に網目状炭化物を生成させることを抑制でき、疲労強度を向上させ得る。
また、図3に示すように、焼き入れ工程S3の後に、上記した再加熱工程S3a−1及び二次焼き入れ工程S3a−2を加えてもよい。再加熱工程S3a−1では保持温度を750〜900℃の範囲内とする。なお、この場合、真空浸炭工程S2での保持後の冷却工程では、焼き入れ工程S3の代わりに不活性ガスを用いた徐冷や放冷などとしてもよい。これによって、セメンタイトの量を正確に制御し得る。つまり、焼き入れ工程S3においては必ずしも「焼き入れ」をする必要はなく、他の冷却とすることもできる。
また、焼き入れ工程S3又は二次焼き入れ工程S3a−2と、焼き戻し工程S4と、の間において−196〜0℃の範囲内のサブゼロ処理工程S3bを行うこともできる。これにより、残留γ量をより減じて、表層の降伏強度をより高くし得る。
なお、成分組成としては、さらに、Nb及び/又はTiを、Nb:0.20質量%以下、Ti:0.20質量%以下で含んでもよい。これらの元素の含有により、熱処理中の異常粒成長を抑制できるので、浸炭をより高温で施工でき、さらに残留γ量を低減できる。
また、上記した成分組成には、B:0.01質量%で含んでもよい。これによって、焼き入れ性を高めることができる。
また、上記した成分組成には、Pb、Bi、及び/又はCaを、Pb:0.01〜0.20%、Bi:0.01〜0.10%、Ca:0.0003〜0.0100%で含み得る。これらの元素の含有によって、被削性を高めることができる。
次に、上記した製造方法により制作した試験片による各種試験の結果について図1、図4及び図5を用いて説明する。
まず、図1の実施例1乃至37、比較例1乃至11に示すそれぞれの成分組成の鋼において、表層の降伏強度を測定するための曲げ試験片が製作された。なお、製造条件において、実施例3においてはサブゼロ処理工程S3bを行い、実施例8及び9では再加熱工程S3a−1及び二次焼き入れ工程S3a−2を行い、このうち実施例9では真空浸炭処理後の焼き入れ工程S3を窒素ガスによる1℃/sの冷却速度でのガス冷却としている。また、実施例10では再加熱工程S3a−1及び二次焼き入れ工程S3a−2と、サブゼロ処理工程S3bとの両方を行っている。その他の実施例及び比較例では二次焼き入れ工程S3a−2又はサブゼロ処理工程S3bのいずれも行っていない。
図4に示すように、曲げ試験片10は直径17mm、長さ100mmの丸棒の長手方向中央の外周にU字溝11を設けたものであり、80mm間隔で設けられた支持部21によって両端近傍を支持されるとともに、40mm間隔でU字溝11の両側の2点の荷重付加部22において上側から荷重を付加されて、U字溝11の下側を開く方向に応力が付加される。ここで、曲げ試験片10の下側においてU字溝11の底部に歪ゲージ23が取り付けられており、U字溝11の底部の歪を測定される。
曲げ試験片10を用いた曲げ試験では、曲げ試験機によって付加された荷重と歪ゲージ23によって測定された歪とによる応力−歪線図を作成し、弾性限を求めてこれを表層の降伏強度とした。
また、曲げ試験片10は試験後に切断され、浸炭硬化層の表面から100μm深さ位置までの表層硬化層において、Cの含有量、ビッカース硬さ、残留γ量、整合Fe炭化物の断面面積率、及び、粒径1μm以下のセメンタイトの断面面積率それぞれの平均値を測定した。また、浸炭硬化層の深さが測定され、エッジ部の網目状セメンタイトの有無が観察された。
なお、ビッカース硬さは表面から25μm、50μm、100μmのそれぞれの深さにおいて5点、合計で15点計測して、その平均値とされた。また、セメンタイト及び整合Fe炭化物のそれぞれの断面面積率については、以下のようにして得た。まず、低加速電圧の走査型電子顕微鏡において、表面から100μmの深さの位置で0.1mm2の観察面積を設定して30000倍で観察した。観察されたFe炭化物についてのエネルギー分散型X線(EDX)分析を行った。かかる炭化物のうち、EDX分析値によってCrを含有しSiを含有しないものをセメンタイト、Crを含有せずSiを含有するものを整合Fe炭化物と定義して、それぞれの面積を算出し、観察面積に対する百分率で記録した。各試験結果を図5に示した。
図5に示す通り、実施例1乃至37においてはいずれも整合Fe炭化物を多く析出させており、表層硬化層において600HV以上n平均硬さと1800MPa以上の高い表面降伏強度を得ることができた。また、実施例3のサブゼロ処理S3bを行ったものについては、焼き戻し温度の同じ実施例1、2及び4に比べて残留γ量が少なくなっており、表層降伏強度が高くなっていた。また、表層硬化層のCの含有量を多くして二次焼き入れ工程S3a−2を行った実施例8、9及び10においては、粒径を1μm以下とするセメンタイトの断面面積率が高くなっている。これらの中において、更に実施例10においてはサブゼロ処理S3bも行っており、残留γ量を少なくして表層降伏強度をより高くしている。
これに対し、比較例1〜3では、いずれも式1の値が目標値である60を下回り、さらに整合Fe炭化物の析出量が少なく、特に比較例1及び2では、表層降伏強度が目標値である1800MPaに到達しなかった。比較例3では表層降伏強度は目標値を満たしたものの、表層硬化層の硬さの平均値が小さかった。
比較例4では焼き戻し温度が低く、その結果残留γ量が多くなって必要な表層降伏強度を得ることができなかった。また比較例5でも焼き戻し温度が低く、整合Fe炭化物の量が少なくなり、必要な表層降伏強度を得ることができなかった。これらとは逆に、比較例6では焼き戻し温度が高く、表層硬化層において必要な硬さを得ることができなかった。
また、比較例7では、表層硬化層におけるC量が少なく、表層硬化層において必要な硬さを得ることができなかった。
比較例8〜11においては、個別の元素の含有量を実施例1〜37と同等とする成分組成を有するが、式1の値が目標値である60を下回った。その結果、整合Fe炭化物の析出量を少なくしてしまった。そして、焼き戻し温度を250℃とした比較例8及び9では、表層降伏強度において目標値である1800MPaを得られなかった。また、焼き戻し温度を300℃とした比較例10及び11では、表層硬化層の硬さにおいて目標値である600HVを得られなかった。
ところで、上記した実施例による浸炭機械部品と同等の機械強度を与え得る鋼の組成範囲は以下のように定められる。
まずは、必須添加元素について説明する。
Cは、鋼の機械強度、特に疲労強度を確保するために有効な元素である。一方で、過剰に含有させると、被削性を低下させてしまう。これらを考慮して、Cは、質量%で、0.10〜0.30%の範囲内である。
Siは、焼き戻し後の硬さ及び降伏強度を確保するため、さらにはエッジ部における浸炭時の網目状炭化物の形成を抑制するために有効な元素である。一方で、過剰に含有させると、熱間加工性を低下させてしまう。これらを考慮して、Siは、質量%で、0.50〜3.0%の範囲内である。
Mnは、鋼の脱酸材として、また焼き入れ性の確保のために有効な元素である。一方で、過剰に含有させると、残留γ相の生成を助長して降伏強度の低下を招く。これらを考慮して、Mnは、質量%で、0.30〜2.0の範囲内である。
Cuは、鋼の焼き入れ性の確保のために有効な元素である。一方で、過剰に含有させると材料コストを増大させてしまう。これらを考慮して、Cuは、質量%で、0.01〜1.0%の範囲内である。
Niは、鋼の焼き入れ性の確保のため、さらには疲労強度の向上のために有効な元素である。一方で、過剰に含有させると残留γ相の生成を助長して降伏強度の低下を招く。これらを考慮して、Niは、質量%で、0.01〜3.0%の範囲内である。
Crは、鋼の焼き入れ性の確保のために有効な元素である。一方で、過剰に含有させると材料コストを増大させるとともにエッジ部における網目状炭化物の生成を助長してしまう。これらを考慮して、Crは、質量%で、0.20〜3.0%の範囲内である。
Moは、鋼の焼き入れ性の確保のため、さらには疲労強度の向上のために有効な元素である。一方で、過剰に含有させると材料コストを増大させてしまう。これらを考慮して、Moは、質量%で、0.01〜2.0%の範囲内である。
次に、任意添加元素について説明する。
Alは、鋼の脱酸材として、また浸炭処理時の異常粒成長の抑制のために有効な元素である。一方で、過剰に含有させると加工性の低下を招く。これらを考慮して、Alは、質量%で、0.2%以下の範囲内である。
Pは、鋼の靭性を低下させて疲労強度を低下させるため含有量を低減させることが好ましい。一方で、過度の精錬はコスト増につながる。これらを考慮して、Pは、質量%で、0.03%以下の範囲内である。
Sは、鋼の靭性を低下させて疲労強度を低下させるため含有量を低減させることが好ましい。一方で、過度の精錬はコスト増につながる。これらを考慮して、Sは、質量%で、0.03%以下の範囲内である。
Nは、浸炭時における鋼の異常粒成長の抑制のために有効な元素であり、任意に添加し得る。一方で、過剰に含有させると窒化物を形成することで疲労強度の低下を招く。これらを考慮して、Nは、質量%で、0.05%以下の範囲内である。
Nb及びTiは、どちらも浸炭時における鋼の異常粒成長の抑制のために有効な元素であり、それぞれ任意に添加し得る。一方で、過剰に含有させると加工性の低下を招く。これらを考慮して、質量%で、Nbは0.20%以下の範囲内、Tiは0.20%以下の範囲内である。
Bは、焼き入れ性の向上のために有効な元素であり、任意に添加し得る。一方で、過剰に含有させると加工性の低下を招く。これらを考慮して、Bは、質量%で、0.01%以下の範囲内である。
Pb、Bi及びCaは、いずれも被削性を向上させるために有効な元素であり、それぞれ任意に添加し得る。一方で、過剰に含有させると熱間加工性の低下を招く。これらを考慮して、質量%で、Pbは0.01〜0.20%の範囲内、Biは0.01〜0.10%の範囲内、Caは0.0003〜0.0100%の範囲内である。
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるだろう。
10 曲げ試験片
Claims (10)
- 質量%で、
C:0.10〜0.30%、
Si:0.50〜3.0%、
Mn:0.30〜2.0%、
Cu:0.01〜1.0%、
Ni:0.01〜3.0%、
Cr:0.20〜3.0%、
Mo:0.01〜2.0%、
Al:0.2%以下、
P:0.03%以下、
S:0.03%以下、
N:0.05%以下、
残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し主として焼き戻しマルテンサイト組織からなる鋼の表面に400μm以上の厚さを有する浸炭硬化層を与えた機械部品であって、
前記浸炭硬化層の前記表面から100μm深さ位置までの表層硬化層において、0.55%以上の[C]を含み、600HV以上の硬さを有し、前記成分組成で66×[Si]+35×[Cr]+60×[Mo](但し、[M]は元素Mの質量%を表す。)を60以上とするとともに整合Fe炭化物の断面面積率を3%以上としたことを特徴とする浸炭機械部品。 - 前記表層硬化層は、1μm以下のセメンタイトを断面面積率で3%以上含むことを特徴とする請求項1記載の浸炭機械部品。
- 前記成分組成で[Si]+[Ni]+[Cu]−[Cr]を0.5よりも大きくしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の浸炭機械部品。
- 前記成分組成において、Nb及び/又はTiを、Nb:〜0.20%、Ti:〜0.20%で含み得ることを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つ記載の浸炭機械部品。
- 前記成分組成において、B:〜0.01%で含み得ることを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の浸炭機械部品。
- 前記成分組成において、Pb、Bi、及び/又はCaを、Pb:0.01〜0.20%、Bi:0.01〜0.10%、Ca:0.0003〜0.0100%で含み得ることを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載の浸炭機械部品。
- 請求項1乃至6のうちのいずれか1つに記載の浸炭機械部品の製造方法であって、真空浸炭工程、焼き入れ処理工程後、220〜400℃にて焼き戻す焼き戻し工程を含むことを特徴とする浸炭機械部品の製造方法。
- 前記焼き入れ処理工程後、750〜900℃に再加熱する再加熱工程と、二次焼き入れ工程とを含むことを特徴とする請求項7記載の浸炭機械部品の製造方法。
- 前記再加熱工程は、真空浸炭を行う二次浸炭工程を含むことを特徴とする請求項8記載の浸炭機械部品の製造方法。
- 前記焼き入れ処理工程及び/又は前記二次焼き入れ工程では、サブゼロ処理工程を含むことを特徴とする請求項7乃至9のうちの1つに記載の浸炭機械部品の製造方法。
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2018
- 2018-04-06 JP JP2018073758A patent/JP2019183215A/ja active Pending
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