本実施形態の一態様は、車体に生じた正電荷を、負の空気イオンを生じさせる自己放電により中和除電する自己放電式除電器と、透明な導電性材料と、を備え、前記自己放電式除電器と前記透明な導電性材料とが電気的に導通している、車両である。
本実施形態に係る車両は、車体に生じた正電荷を、負の空気イオンを生じさせる自己放電により中和除電する自己放電式除電器を備えている。車体に生じた正電荷を中和除電することにより、車両の走行時に車体の周囲を流れる正に帯電した空気流が車体の表面から剥離することを抑制することができる。空気流の車体表面からの剥離を抑制できると、車体の表面に作用する空圧が想定を超えて変化し、車体の空力特性が悪化することを抑制することができるため、操縦安定性等の走行性能を向上することができる。また、本実施形態に係る車両は、自己放電式除電器に電気的に導通する透明な導電性材料を備えている。該透明な導電性材料は、その導電性のため、車体で生じた正電荷を自己放電式除電器まで運搬する機能を有する。また、該透明な導電性材料は、その透明性のため、車両の外観を大幅に変更することはない。そのため、自己放電式除電器の代わりに透明な導電性材料を設置することにより、自己放電式除電器の使用個数を減らすことができ、その結果、外観の変更を抑制することができる。それゆえ、本実施形態により、車両の外観の変更を抑制しつつ、空気流の剥離を抑制することができる車両を提供することができる。なお、「透明」であることは、可視光線透過率が70%以上であることを意味することが好ましく、80%以上であることを意味することがより好ましく、90%以上であることを意味することがさらに好ましい。より具体的には、波長500nm又は550nmにおける可視光線透過率が前記透過率以上であることが好ましく、波長0.4〜0.8μmの波長域のすべてにおける可視光線透過率が前記透過率以上であることがより好ましい。
本実施形態の一態様において、透明な導電性材料が、車両の外側から視認できる部分の少なくとも一部に配置されている。透明な導電性材料は、車両の外観に大きな変更を与えないため、外観の変化を気にすることなく、車両に設置することができる。車両の外側から視認できる部分としては、例えば、車両の外側表面が挙げられる。車両の外側とは、車両に存在するドア等の開口部を全て閉じた状態において外側に露出する車両表面を意味する。
本実施形態の一態様において、透明な導電性材料は、車両の一部を構成する絶縁体部材の表面に配置されている。絶縁体部材は、静電気によって正に帯電し易く、また、正電荷が移動し難いため、結果として正の電位が高くなり易い。本実施形態において、絶縁体部材の表面に透明な導電性材料を配置することにより、絶縁体部材に生じた電荷を自己放電式除電器まで移動させることができ、絶縁体部材における帯電を解消することができる。
本実施形態の一態様において、絶縁体部材は、ガラス部材である。ガラス部材における帯電を解消するために自己放電式除電器をガラス部材上に配置すると、ガラス部材の透光性が損なわれてしまう。そのため、自己放電式除電器をガラス部材上に配置することは望ましくない。そこで、本実施形態では、透明な導電性材料をガラス部材上に配置する。これにより、ガラス部材の透光性を損なうことなく、ガラス部材に生じた電荷を自己放電式除電器まで移動させることができ、ガラス部材における帯電を解消することができる。ガラス部材としては、例えば、ウインドガラス又はライト用ガラス等が挙げられる。また、ウインドガラスとしては、フロントガラス、サイドガラス、又はリアガラス等が挙げられる。ライト用ガラスとしては、例えば、ヘッドライト用ガラス、スモールライト用ガラス、ウインカー用ガラス、テールライト用ガラス、ブレーキライト用ガラス、又はフォグライト用ガラス等が挙げられる。
本実施形態の一態様において、絶縁体部材は、樹脂部材である。絶縁体部材としての樹脂部材は、特に静電気によって正に帯電し易く、また、正電荷が移動し難い。そのため、樹脂部材は、正の電位が高くなり易い。本実施形態において、樹脂部材の表面に透明な導電性材料を配置することにより、樹脂部材に生じた電荷を自己放電式除電器まで移動させることができ、樹脂部材における帯電を解消することができる。樹脂部材としては、例えば、フロントバンパー、リアバンパー、サイドステップ、フェンダーアーチ、リアワイパー、ドアノブ、ヘッドライト用カバー、スモールライト用カバー、ウインカー用カバー、テールライト用カバー、ブレーキライト用カバー、フォグライト用カバー、ドアミラー、フェンダーミラー、フロントバンパースポイラー、リアスポイラー、又はフロントグリル等が挙げられる。
本実施形態の一態様において、自己放電式除電器は、車両の外側から視認できない部分の少なくとも一部に配置されている。自己放電式除電器を、車両の外側から視認できない部分に配置することにより、車両の外観にほとんど影響を与えずに、車両に生じた帯電を解消することができる。特に、車両の外側から視認できる部分には、ほとんど外観に影響を与えない透明な導電性材料を配置することが好ましい。これにより、車両の外側から視認できる部分における帯電は、透明な導電性材料により自己放電式除電器まで電荷を移動させることにより、車両の外観に大きな変更を与えずに解消することができる。車両の外側から視認できない部分は、例えば、車両の外側表面を構成する部材の反対側の裏面である。
本実施形態の一態様において、自己放電式除電器は、走行時に車体の周囲に流れる正に帯電した空気流が、車体の表面に沿った流れから車体の表面から離れた流れに変化し始める剥離形状を有する特定部位のうちの少なくとも1つにおける正電荷を、自己放電により中和除電する。上記剥離形状を有する特定部位における正電荷を中和放電することにより、より効果的に空気流の剥離を抑制することができる。なお、本実施形態は、上記特定部位の正電荷を自己放電式除電器が直接的に中和放電により解消する形態のみならず、上記特定部位の正電荷を透明な導電性材料により自己放電式除電器まで移動させることにより解消する形態も含む。すなわち、上記特定部位の正電荷を自己放電式除電器が直接的に中和放電により解消する形態では、自己放電式除電器が上記特定部位又はその近傍に配置されている。上記特定部位の正電荷を透明な導電性材料により自己放電式除電器まで移動させることにより解消する形態では、透明な導電性材料が上記特定部位又はその近傍に配置されている。この際、自己放電式除電器は、車両の外側から視認できない部分に配置されていることが好ましい。
本実施形態の一態様において、自己放電式除電器は、自己放電を生じさせる角部を有する導電性金属材料を含む帯電抑制部材である。帯電抑制部材は、電位に応じていわゆるコロナ放電が生じるような鋭利な若しくは尖った角部を有する導電性金属材料を有している。導電性金属材料の素材としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム等(すなわち導電性金属)が挙げられる。
本実施形態の一態様において、自己放電式除電器及び透明な導電性材料は、直接的又は間接的に電気的に導通している。すなわち、本実施形態の一態様において、自己放電式除電器及び透明な導電性材料は、直接接していることにより電気的に導通している。また、本実施形態の一態様において、自己放電式除電器及び透明な導電性材料が、配線等の導電性部材を介して間接的に接していることにより電気的に導通している。自己放電式除電器と透明な導電性材料とを配線等の導電性部材を介して電気的に導通させることにより、自己放電式除電器及び透明な導電性材料の配置位置の制限を低減することができる。なお、電気的な導通は、電荷の移動が起こり得る程度の導電性が確保されていればよい。
本実施形態の一態様において、透明な導電性材料は、イオン液体、導電性高分子、又は金属有機構造体である。これらの材料は、車両上に容易に設置することができる。
イオン液体は、イオン性液体或いは常温溶融塩等とも称され、カチオンとアニオンから構成されている。イオン液体を構成するカチオンとしては、例えば、アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、モルホリニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、又はスルホニウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、アンモニウムカチオンが好ましい。イミダゾリウムカチオンとしては、例えば、ジアルキルイミダゾリウムカチオン、トリアルキルイミダゾリウムカチオン等が挙げられ、具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。ピリジニウムカチオンとしては、例えば、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4−ジメチルピリジニウムイオン等が挙げられる。アンモニウムカチオンとしては、脂肪族又は脂環式4級アンモニウムイオンをカチオン成分とするものであることが好ましい。これらの脂肪族及び脂環式4級アンモニウムイオンとしては、例えば、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウム、ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウム等の種々の4級アルキルアンモニウムイオン等が挙げられる。
イオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、ハロゲン化物イオン(Cl−、Br−、I−等)、HNO3 −、H2PO4 −、CH3COO−、CF3COO−、CH3CO2 −、CF3CO2 −、CH3SO3 −、CF3SO3 −、CH3CH2SO3 −、SCN−、BF4 −、CiO4 −、FeCl4、PF6 −、AsF6 −、SbF6 −、(CF3SO2)2N−、(CF3CF2SO2)2N−、(FSO2)2N−、(CF3SO2)3C−、Ph4B−、PF3(C2F5)3 −、CF3BF3 −、C(CN)3 −、(NC)2N−、p−CH3PhSO3 −、PF3(C2F5)3 −、(CH3)2PO4 −、AlCl4 −、HSO4 −、ClO4 −等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
イオン液体としては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルフォネートが好ましく挙げられる。イオン液体の市販品としては、例えば、東洋合成工業社製のEMI−TF等が挙げられる。
イオン液体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
イオン液体は、車両の任意の部位に塗布することにより、透明な導電性材料として車両上に配置することができる。また、イオン液体は、溶剤と混合した状態で、車両の任意の部位に塗布してもよい。
導電性高分子は、導電性を有する高分子であれば特に制限されずに用いることができる。導電性高分子としては、例えば、分子の主鎖に沿ってπ電子共役系を有するポリマー等が挙げられる。π電子共役系を有するポリマーとしては、例えば、ポリアセチレン系、ポリアセン系、ポリ芳香族ビニレン系、ポリピロール系、ポリアニリン系、ポリチオフェン系等が挙げられる。導電性高分子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
導電性高分子は、例えば、導電性高分子層を含むフィルムの形態で、車両の任意の位置に接着させることにより、車両上に配置することができる。接着に用いる接着層も導電性を有することが好ましい。また、導電性高分子は、例えば、該導電性高分子と溶剤を含む高分子溶液の形態で車両の任意の位置に塗布して乾燥させることにより、車両上に配置することができる。また、導電性高分子は、例えば、該導電性高分子のモノマーを含むモノマー溶液を車両の任意の位置に塗布して硬化させることにより、車両上に配置することができる。導電性ポリマーフィルムとしては、例えば、帝人社製のテオネックス(商品名)を挙げることができる。
金属有機構造体(Metal-organic framework、MOF)は、金属イオンとそれらを連結する架橋性の有機配位子とを組み合わせて形成された高分子構造を有する結晶性の構造体である
金属有機構造体を形成する金属イオンとしては、遷移金属又は典型金属の金属イオンが挙げられ、遷移金属或いは2、13及び14族の典型金属の金属イオンであることが好ましい。金属イオンは、銅、亜鉛、カドミウム、銀、コバルト、ニッケル、鉄、ルテニウム、アルミニウム、クロム、モリブデン、マンガン、パラジウム、ロジウム、ジルコニウム、チタニウム及びマグネシウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属のイオンであることが好ましく、銅、亜鉛、銀、コバルト、ニッケル、鉄及びアルミニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の金属のイオンであることがより好ましく、銅イオン又は亜鉛イオンであることがさらに好ましい。金属イオンの価数は、特に制限されるものではないが、1〜6価であることが好ましく、1〜3価であることがより好ましい。
金属有機構造体を形成する有機配位子としては、架橋性の有機配位子を含む。
上記金属有機構造体を形成する有機配位子を形成する化合物は、少なくとも2つの配位性基を有する化合物を含むことが好ましく、環内に配位性窒素原子を有する環を有し、かつ少なくとも2つの配位性窒素原子を有する化合物、環内に配位性窒素原子を有する環とカルボキシル基とをそれぞれ1つ有する化合物、及び、少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物よりなる群から選ばれた化合物を含むことがより好ましく、環内に配位性窒素原子を有する環を有し、かつ少なくとも2つの配位性窒素原子を有する化合物、又は、少なくとも2つのカルボキシル基を有する化合物よりなる群から選ばれた化合物を含むことが特に好ましい。
上記有機配位子が有する配位性基としては、金属イオンに配位可能であれば特に制限はないが、脂肪族環内の配位性窒素原子、芳香環内の配位性窒素原子、カルボキシルアニオン、及び、カルボキシル基が好ましく挙げられ、芳香環内の配位性窒素原子、カルボキシルアニオン、及び、カルボキシル基がより好ましく挙げられ、芳香環内の配位性窒素原子、及び、カルボキシルアニオンが特に好ましく挙げられる。
金属有機構造体を形成する少なくとも2つの配位性基を有する化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、上記金属有機構造体を形成する金属イオン及び少なくとも2つの配位性基を有する化合物としては、例えば、Chem. Rev., 2012, 112, 933-969、Science, vol.319, 939-943 (2008)、及び、Angew. Chem. Int. Ed., 2004, 43, 2334-2375に記載のものを用いることができる。
金属有機構造体としては、例えば、{[Co2(4,4’−bpy)3(NO3)4]・4H2O}n、{[Cu2(pzdc)2(pz)]・2H2O}n(CPL−1)、{[M2(dca)2(4,4’−bpy)2]・solvent}、{Zn4O(bdC)3(DMF)8(C6H5Cl)}n(MOF−5)等が挙げられる。
金属有機構造体は、他の有機化合物として、結晶径調整剤を含んでもよい。金属有機構造体を形成する結晶系調整剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
金属有機構造体を含む層は、車両の構成部材の表面に、金属有機構造体粒子が単層及び/又は多層で付着して形成された層であることが好ましい。
MOF層の形成に関し、金属水酸化物及び無機酸又は有機酸の金属塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物と、少なくとも2つの配位性基を有する化合物と、溶剤とを含有する組成物を、車両の構成部材の表面に接触させることにより金属有機構造体を含む層を形成することができる。
上述の通り、自己放電式除電器及び透明な導電性材料は、直接接していることにより電気的に導通していてもよいし、自己放電式除電器及び透明な導電性材料が配線等の導電性部材を介して間接的に電気的に導通していてもよい。自己放電式除電器及び透明な導電性材料を電気的に導通させる導電性部材としては、例えば配線が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。配線としては、特に制限されるものではなく、例えば、導線であってもよいし、任意の部材上に形成された金属ベタ膜であってもよい。配線の形状は、特に制限されるものではなく、所望の形状とすることができる。導電性部材としては、自己放電式除電器及び透明な導電性材料との電気的な導通を取れる部材であればよく、例えば外装部品であってもよい。
配線に用いることができる金属としては、導電性の高い金属が好ましい。例えば、銅、アルミニウム、チタン、モリブデン、銀、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、亜鉛、タングステン、パラジウム、白金、金、又はこれらの合金等を挙げることができる。
以下、本実施形態について図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態の一形態を示す斜視図である。図1に示す車両10は、自己放電式除電器12が、フロントガラス36の両サイドのフレームに沿って配置されている。図1に示される自己放電式除電器12は、自己放電を生じさせる角部を有する導電性金属材料を含む膜状の帯電抑制部材である。該帯電抑制部材は、導電性接着層を含み、該導電性接着層により導電性金属材料を所定部位に接着することができる。また、図1において、フロントガラス36の外側表面の全面に、透明な導電性材料100が配置されている。自己放電式除電器12は、その端部がフロントガラス36に数ミリほど被るように配置されている。そのため、透明な導電性材料100と自己放電式除電器12は直接接しており、電気的に導通している。
フロントガラス36等のガラス部材は、絶縁体部材であり、静電気によって帯電し易く、また、電荷が移動し難い。ガラス部材における帯電を解消するためには、自己放電式除電器をガラス部材上に配置することも考えられる。しかし、自己放電式除電器をガラス部材上に配置すると、ガラス部材の透光性が損なわれてしまうため望ましくない。そこで、図1に示す形態のように、自己放電式除電器と電気的に導通させた透明な導電性材料をガラス部材上に配置する。これにより、ガラス部材の透光性を損なうことなく、ガラス部材に生じた電荷を自己放電式除電器まで移動させることができ、ガラス部材における帯電を解消することができる。その結果、ガラス部材に求められる透光性を確保しつつ、ガラス部材の部位における空気流の剥離を抑制することができる。
ガラス部材上に透明な導電性材料を配置する場合、ウインドガラス等のガラス部材上に透明な導電性材料と前記透明な導電性材料との積層体の可視光線透過率が、道路運送車車両法28条の法令基準を満たしているべきである。
図2は、本実施形態の一形態を示す斜視図である。図1に示す車両10は、自己放電式除電器12として自己放電を生じさせる角部を有する導電性金属材料を含む膜状の帯電抑制部材がエンジンフード35の内側表面に配置されている。エンジンフードの内側表面は、エンジンフード35を閉じた際に、車両の外側から視認できない部分である。図2に示す形態では、図1に示す形態と同様に、フロントガラス36の外側表面の全面に、透明な導電性材料100が配置されている。透明な導電性材料100と自己放電式除電器12は、配線(不図示)を介して電気的に導通している。
図2に示す形態においても、図1に示す形態のように、ガラス部材の透光性を損なうことなく、ガラス部材に生じた電荷を自己放電式除電器まで移動させることができ、ガラス部材における帯電を解消することができる。その結果、ガラス部材に求められる透光性を確保しつつ、ガラス部材の部位における空気流の剥離を抑制することができる。
図3は、本実施形態の一形態を示す斜視図である。図3に示す車両10は、自己放電式除電器12として自己放電を生じさせる角部を有する導電性金属材料を含む膜状の帯電抑制部材が、車両前側のバンパカバー14の内側表面に配置されている。バンパカバーの内側表面は、バンパカバー14を車体に装着した際に、車両の外側から視認できない部分である。図3において、バンパカバー14の外側表面及び内側表面の両面に透明な導電性材料100が全面に亘って配置されている。また、バンパカバー14の内側表面において、透明な導電性材料100が全面に亘って配置されており、透明な導電性材料100の上に自己放電式除電器12が配置されている。そのため、透明な導電性材料100及び自己放電式除電器12はそれぞれ互いに直接接しており、電気的に導通している。
バンパカバー14は樹脂部材であり、絶縁体部材としての樹脂部材は、静電気によって帯電し易く、また、電荷が移動し難い。そこで、図3に示す形態のように、自己放電式除電器と電気的に導通させた透明な導電性材料を樹脂部材上に配置する。これにより、樹脂部材に生じた電荷を自己放電式除電器まで移動させることができ、樹脂部材における帯電を解消することができる。その結果、樹脂部材の部位における空気流の剥離を抑制することができる。また、自己放電式除電器の代わりに透明な導電性材料を樹脂部材上に配置することにより、外観の変更を抑制することができる。
また、他の形態としても、例えば、バンパカバーの外側表面に透明な導電性材料100を配置し、バンパカバーの内側表面又はバンパカバー以外の部品上に自己放電式除電器12を配置し、それらが配線を介して電気的に導通している形態も考えられる。
図4は、本実施形態の一形態を示す斜視図である。図4に示す車両10は、自己放電式除電器12として自己放電を生じさせる角部を有する導電性金属材料を含む膜状の帯電抑制部材が、車両前側のバンパカバー14の内側表面に配置されている。図4において、ヘッドライト18の外側表面の全面に、透明な導電性材料100が配置されている。透明な導電性材料100と自己放電式除電器12は、配線(不図示)を介して電気的に導通している。
図4に示す形態においても、図1や図2に示す形態と同様に、ガラス部材の透光性を損なうことなく、ガラス部材に生じた電荷を自己放電式除電器まで移動させることができ、ガラス部材における帯電を解消することができる。その結果、ガラス部材の部位における空気流の剥離を抑制することができる。
図5は、本実施形態の一形態を示す斜視図である。図1に示す車両10は、自己放電式除電器12として自己放電を生じさせる角部を有する導電性金属材料を含む膜状の帯電抑制部材がエンジンフード35の内側表面に配置されている。図5において、エンジンフード35の外側表面及び内側表面の両面に透明な導電性材料100が全面に亘って配置されている。また、エンジンフードの内側表面において、透明な導電性材料100が全面に亘って配置されており、透明な導電性材料100の上に自己放電式除電器12が配置されている。そのため、透明な導電性材料100及び自己放電式除電器12はそれぞれ互いに直接接しており、電気的に導通している。これにより、エンジンフード35上に生じた電荷を自己放電式除電器まで移動させることができ、樹脂部材における帯電を解消することができる。その結果、樹脂部材の部位における空気流の剥離を抑制することができる。
エンジンフード35は主に金属材料から構成されるが、金属材料の上にポリマーコーティングやガラスコーティングが施される場合もある。そのため、主に金属材料から構成される部材においても電荷の移動が起こり難い場合がある。したがって、このような部材の上に透明な導電性材料100を配置することにより、生じた電荷を自己放電式除電器まで移動させることができ、帯電を解消することができる。その結果、空気流の剥離を抑制することができる。また、自己放電式除電器の代わりに透明な導電性材料を配置することにより、外観の変更を抑制することができる。
また、他の形態としても、例えば、エンジンフード35の外側表面に透明な導電性材料100を配置し、エンジンフード35の内側表面又はエンジンフード以外の部品上に自己放電式除電器12を配置し、それらが配線を介して電気的に導通している形態も考えられる。
以下、図面を参照しつつ、自己放電式除電器について説明するとともに、除電により得られる効果について説明する。なお、以下の説明では、透明な導電性材料に関する説明を省く場合があるが、本実施形態が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明では、自己放電式除電器の配置例を主に示すが、自己放電式除電器の配置例は、透明な導電性材料の配置位置を示す例としても把握可能である。
自己放電式除電器は、車体に生じた正電荷を、負の空気イオンを生じさせる自己放電により中和除電することができる。車体の表面に帯電した静電気を減じて正の電位を低下させることにより、正に帯電している空気流との間に生じる斥力(反発力)を低下させることができる。そのため、車体の表面から正に帯電した空気流が剥離することを抑制することができ、その結果、車体の表面に作用する空圧が想定を超えて変化し、車体の空力特性が悪化することを抑制することができ、操縦安定性等の走行性能を向上することができる。本実施形態において、上述した通り、自己放電式除電器は、走行時に車体の周囲に流れる正に帯電した空気流が、車体の表面に沿った流れから車体の表面から離れた流れに変化し始める剥離形状を有する特定部位のうちの少なくとも1つにおける正電荷を、自己放電により中和除電することが好ましいが、自己放電式除電器の配置位置は、特に制限されるものではない。
また、正電荷の静電気エネルギーに応じて自己放電する自己放電式除電器を、正電荷を帯びた空気流が車体の表面に沿った流れから表面から離れた流れに変化し始める剥離形状を有する特定部位に設けることにより、車体の特定部位周りの静電気を電気的に中和除電させることができる。そのため、正に帯電した車体の表面と、正電荷を帯びている空気流との間に反発力が発生しにくくなり、車体の特定部位周りの空気流が剥離しにくくなって、空気流の乱れを低減することができる。これにより、車両の空気抵抗を低減させ、かつ空気流の乱れに起因する車両の振動を抑制して車両の操縦安定性を向上させることができる。また、本実施形態では、上記特定部位に、自己放電式除電器の代わりに透明な導電性材料を配置することが好ましい。自己放電式除電器の代わりに透明な導電性材料を配置することにより、外観の変更を抑制することができる。
上述の通り、自己放電式除電器としては、自己放電を起こす機能を有する装置、部品又は部材であれば特に制限されるものではないが、例えば、自己放電を生じさせる角部を有する導電性金属材料を含む帯電抑制部材を好ましく用いることができる。自己放電式除電器は、少なくともその放電部位が空気に接するように配置される。帯電抑制部材は、例えば、自己放電を生じさせる鋭利若しくは尖った角部を有する導電性金属材料の皮膜によって構成することができる。このような帯電抑制部材を自己放電式除電器として用いることにより、車両の質量増加を抑制することができる。
また、上述の通り、帯電抑制部材等の自己放電式除電器は、車両の外側から視認できない部分に配置されることが外観の観点から好ましい。具体的には、車両の外側表面とは反対側を流れる空気流に曝された裏面に設けることにより、外観を損なうことがない。
図6に示す車両10は、該車両10の外形を構成する外装部品に、自己放電式除電器となる導電性皮膜12が、空気流が剥離する特定箇所の外側表面とは反対側の内側表面(裏面とも称す)に貼り付けられている。この導電性皮膜12が、上述の帯電抑制部材に相当する。また、「空気流が剥離する」とは、車体の表面に沿った空気の流れが、車体の表面から離れた空気の流れに変化することである。空気流の剥離は、例えば、車体を前方から見た場合に、車体の外面が車体の内側に屈曲する箇所で主に生じる。より具体的には、車体の左右両側では、車幅が狭くなるように屈曲する箇所で空気流の剥離が生じる。また、エンジンフードやルーフでは、高さが低くなるように屈曲する箇所で空気流の剥離が生じる。また、アンダーカバー等の車体下面では、車高が車両後方に向けて次第に低くなっている部分から水平に変化するように屈曲する箇所、或いは車両後方に向けて水平であった部分から車高が次第に高くなるように屈曲する箇所で空気流の剥離が生じる。また、車体の外部に部分的に突出している箇所や段差のある箇所で空気流の剥離が生じる。
図6に示す例における車両10の外装部品は、車両周りの空気流やタイヤの外周面の路面との接触及び離隔の繰り返し等の内的要因や、外部から電荷を受ける外的要因により正電荷を帯び易い部位である。外装部品としては、例えば、車両前側のバンパカバー14、ドアミラー16、ヘッドライト18、ドアノブ、テールライト、アンテナフィン、樹脂製サイドドア、樹脂製バックドア等が挙げられる。これらの外装部品は、静電気によって正に帯電し易く、その結果正の電位が高くなる樹脂部材である。本実施形態において、これらの樹脂製外装部品の特定部位に、自己放電式の除電器となる鋭い角部を有する導電性皮膜12を設けることが効果的であり、透明な導電性材料を設けることがより効果的である。
図6,図7(A)に示されるように、本実施形態では、一例として、導電性皮膜12が外装部品の一例たるバンパカバー14の車両内側に設けられている。具体的には、導電性皮膜12は、バンパカバー14のうちの空気流の剥離が発生しやすい形状を有する、車幅方向両端付近の特定部位の裏面に設けられている。また、導電性皮膜12は、車幅方向の中央に対して左右対称位置にそれぞれ1つずつ設けられている。このバンパカバー14の材料は、例えば、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)である。
この導電性皮膜12は、例えば長方形に形成され、導電性皮膜12の電位に応じていわゆるコロナ放電が生じるように、外縁部や外周壁面に鋭い角部12Aを有している。具体的には、鋭利若しくは尖っていて電荷が集中して自己放電を生じ易くなるように角部12Aが形成されており、図7(A)に示す例では、長方形状の導電性皮膜12における四つの辺の鋭利なエッジや四つのコーナの尖った頂点部分或いはその側壁面である。導電性皮膜12の素材としては、金、銀、銅、アルミニウム等(すなわち導電性金属)を用いることができる。アルミニウムを用いる場合には、導電性皮膜12に酸化防止加工を施すことが好ましい。これは、酸化による導電性の低下を抑制するためである。導電性皮膜12は、導電性金属箔と導電性接着剤との層からなる接着テープであって、例えば、導電性アルミニウムホイールテープ等を、コロナ放電が生じるように外縁部や外周壁面に鋭利若しくは尖った角部12Aが形成されるように切断したものであってもよい。
近年の車両10には、軽量化と加工性の観点から、外装部品には樹脂部材が多く用いられている。樹脂は金属に比べて電気抵抗が大きいため、空気流による樹脂部材の表面の帯電量が大きくなる。具体的には、未走行の車両10と走行後の車両10とでは、外装部品の表面には、約100〜4000Vの電位の変化が生じる場合がある。図8は、そのように外装部品の表面が正電荷を帯びている場合における空気流の変化を説明するための外装部品の断面図であり、図6のIII−III矢視拡大断面図である。図8における矢印Aは、外装部品が帯電していない場合における空気流を示し、矢印Bは、外装部品が帯電している場合における空気流を示している。図8に示されるように、車両走行中の空気の流れ20は通常正電荷22を帯び、バンパカバー14の表面も正電荷を帯びるため(図示せず)、樹脂部材の表面と空気との間に斥力が発生し易い。
車両10では、導電性皮膜12がバンパカバー14の内側表面に設けられているので、バンパカバー14の表面の帯電が抑制される。その帯電の抑制は、以下のようにして行われるものと考えられる。車両10が走行すると、車体の周りを正に帯電した空気が流れ、またタイヤの外周面が、繰り返し路面に対して接触しかつ離隔する。このような内的要因或いは他の外的要因によって車体が次第に正の静電気に帯電する。車体の前述した特定部位に取り付けられた導電性皮膜12は車体と同様に正の静電気に帯電する。そして、導電性皮膜12の角部12Aは鋭利若しくは尖っているため、角部12Aに電荷が集中する。それに伴い、導電性皮膜12の周囲に負の空気イオン(マイナスイオン)が引き寄せられ、ついにはコロナ放電が生じる。すなわち、バッテリ等の電気機器によって電荷を与えることなく、導電性皮膜12が自ら帯電した電荷によって自己放電を起こす。これと同時に導電性皮膜12が設けられている箇所に存在する電荷が中和除電され、その電位が低下し、その結果、空気流との間の斥力が低減する。このようなコロナ放電を伴う空気イオンの引き寄せや斥力の低下等によって、前述した特定部位(剥離箇所)やその周囲(例えば特定部位を中心として直径約150〜200mmの範囲)における車体表面からの空気流の剥離が抑制される。空気流の車体表面からの剥離が抑制されることにより、車体表面における特定部位やその周囲での空気の乱流や空圧の変動等が抑制される。具体的には、気流は、矢印B方向のように乱れることなく、バンパカバー14の表面に沿って矢印A方向のように沿って円滑に流れる。その結果、想定したとおり、若しくは想定に近い空力特性が得られ、極低速走行時から高速走行時までにおける動力性能、操縦安定性若しくは制動性能、或いは乗り心地等の走行特性が向上する。また、車体の帯電は、主に、車両10が走行することにより生じるから、高速走行するほど帯電量が多くなって自己放電が生じやすくなる。そのため、中高速走行時の走行特性をより向上することができる。導電性皮膜12の代わりに、透明な導電性材料を上記特定部位に設けた場合でも同様の効果が得られる。
また、車両10では、導電性皮膜12がバンパカバー14の内側表面(裏面)に設けられているので、外観を損なうことがない。更に、自己放電式除電器として導電性皮膜12を用いることにより、質量増加を抑制することができる。また、車両10の外形形状の設計変更、制御デバイスによる外形形状の一時的変更、噴出や吸込みによる流れ制御部等が必要ないため、低コストである。
なお、より多くのコロナ放電が生じるように、鋭い角部12Aの形状は四角形に限られず、図7(B)に示されるように、より多くの角部12Aを有する格子状であってもよい。また、図7(C)に示されるように、半円形であってもよい。更に、図7(D)に示されるように、外周部の円弧のエッジを鋭利な角部12Aとした円形であってもよい。なお、導電性皮膜12は厚さがあるから、その周囲の切断面をギザギザにしてそのギザギザの切断面によって尖った角部12Aを形成してもよい。さらに、導電性皮膜12の表面にローレット加工等によって鋭利若しくは尖った凹凸を形成し、その凸部を上記の角部12Aとしてもよい。
帯電抑制部材は、自己放電を生じさせる角部を有する導電性金属材料を含む。帯電抑制部材の配置位置は、特に制限されるものではなく、例えば、外装部品の内側表面だけでなく、外側表面に設けられてもよい。また、導電性金属材料は、金属材料に限られるものではなく、導電性金属材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール若しくはポリチオフェン等の導電性高分子、導電性プラスチック、導電性塗料、めっき等が挙げられる。また、金属製部材としては、例えばアルミニウム製のガーニッシュが挙げられる。
ここで、車体に帯電した静電気を電気的に中和除電することによる効果を、図9を参照して説明する。図9は、車体モデルの表面に垂直な方向での流速分布を測定した結果を示すグラフである。縦軸は、モデル表面からの距離を示し、横軸は、モデルに吹き付けた空気の流速U∞に対する、モデルからの距離毎に測定した流速Uの割合(U/U∞)である。また、モデルを帯電させていない状態で測定した結果を、菱形でプロットし、モデルを正電荷で帯電させた状態で測定した結果を、正方形でプロットしている。
図9に示すように、モデルを正(+)の電荷で帯電させた場合における境界層厚さ(U/U∞がほぼ「1」になる際のモデル表面からの距離)が、モデルを正(+)の電荷で帯電させていない場合における境界層厚さよりも大きくなっている。これは、モデルを正(+)の電荷で帯電させた場合には、モデルを正(+)の電荷で帯電させていない場合に比べて剥離が大きくなることを意味する。上述したように空気流は、通常、正電荷を帯びているので、モデルに帯電した正電荷と空気流の正電荷とによって斥力が生じ、その結果、モデルの表面からの空気流の剥離が助長されたものと考えられる。したがって、正(+)の静電気が帯電している車体を中和除電して、車体の外側表面の正(+)の電位を低下させることにより、モデルを正(+)の電荷で帯電させた場合の空気の流れ(表面から離れた流れ)から、モデルを正(+)の電荷で帯電させていない場合の空気の流れ(表面に沿った流れ)に変化させることができる。すなわち、車体の外側表面からの空気流の剥離を抑制することができる。
上述したようにモデルの表面付近を流れる正(+)の電荷を帯びた空気流は、そのモデルの正(+)の電位に応じて剥離する位置、又はその剥離の程度が変化する。そのため、本発明に係る車両は、車体に帯電する正(+)の静電気を中和除電することにより、車体の外側表面に生じる正(+)に帯電した空気流が剥離することを抑制するように、又は剥離を低減するように構成されている。その構成の一例を図10に示している。図10は、車体30に帯電した正(+)の静電気のエネルギーによりコロナ放電する自己放電式除電器(以下、自己放電器と記す)31を、その車体30の外側表面に貼り付けた例を示しており、図10(a)は、その断面図を示し、図10(b)は、その平面図を示している。ここに示す車体30は、剛性を得るための鋼板32に、樹脂材料により形成されたカバー部材33を取り付け、そのカバー部材33の表面にガラス製のコーティング34を付している。なお、車体30は、樹脂材料やガラス材料或いは鉄やアルミニウム等の金属材料のいずれか一つの材料で構成されたものであってもよい。
このように構成された車体30は、走行に伴う静電気によって正(+)に帯電する。具体的には、上述したように走行風や吸排気管内を流動する空気流等と車体30の表面との摩擦等に伴う電気的な作用によって正(+)の静電気が生じ、帯電する。また、エンジンやモータ等の動力源或いは変速機若しくはサスペンション等が駆動すると、それらの装置を構成する複数の部材が摺動する。そのように部材が摺動することに伴う電気的な作用により正(+)の静電気が生じ、帯電する。さらに、ゴムで構成された車輪と路面との摩擦や、車輪のゴムが回転して路面に接触していた面が、路面から離れること等による電気的な作用により正(+)の静電気が生じ、帯電する。或いは、車両10に搭載された電気機器や、車両10の外部の送電線等の電気機器の電気を要因として正(+)の静電気が帯電する場合がある。
通常、車輪はゴム等の絶縁体(又は、電気伝導率が小さい材料)によって構成されているので、上述したように生じた正(+)の静電気は、車体30に溜まる。帯電されるその電荷の一部が、車体30の外側表面の局所に蓄積する。なお、帯電する静電気は、電気伝導率に応じて変化する。そのため、電気伝導率が比較的高い金属材料であっても、結合部位で少なからず電気抵抗があるため、条件に応じて金属パネルにも正(+)の静電気が帯電する場合がある。したがって、上述の特定部位は、樹脂材料によって構成された部材の部位に限定されず、金属材料やガラス材料或いはゴム若しくは塗料皮膜等の他の材料によって構成された車体表面部位を含む。
図10に示す例では、車体30の外側表面に帯電した正(+)の静電気を放電する自己放電器31が、車体30の外側表面、より具体的には、コーティング34の表面に貼り付けられている。この自己放電器31は、導電性の部材であって、自己放電器31が貼り付けられた部位及びその近傍に帯電した正電荷の静電気エネルギーに応じてコロナ放電を起こすように構成されている。その自己放電器31は、上述した導電性皮膜12と同様に構成することができる。例えば、アルミ箔等の金属製の薄片や、導電性を有する塗装等が挙げられる。また、従来知られているようにコロナ放電は、尖った部分で生じるので、自己放電器31は、複数の凹凸部が形成されている。具体的には、自己放電器31として薄片を使用する場合には、その側面(切断面)に凹凸が形成されるように、薄片を切断して形成する。なお、金属材料の粉体を混入させて塗装する等して表面に尖塔状の凹凸部を形成してもよく、又は自己放電器31の表面をローレット加工する等して、表面に複数の凹凸を形成してもよい。図10に示す自己放電器31は、所定の厚みを有する長方形状のアルミ箔によって形成され、その外周壁面に複数の凹凸部31Aが形成されている。
ここで、車体30の外側表面に自己放電器31を貼り付けて車体30に帯電した正(+)の静電気を自己放電すること、すなわち電気的に中和除電することによる作用について説明する。上述したように空気流が正(+)の電荷を帯び、かつ車体30の外側表面も同様に正(+)に帯電している場合には、空気流が車体30の外側表面から剥離するように斥力が生じる。一方、車体30の表面を流れる空気流には、車体30との相対速度差に応じて、コアンダ効果により、車体30の表面に沿った流れとなる。車体30の表面が前述したように屈曲していて空気流の剥離が生じやすい上記特定部位においても、コアンダ効果により、空気流が車体30の表面に沿って流れようとする。しかしながら、上記の斥力は、そのような空気流の流線の変化を阻害するように作用する。この斥力の原因となる車体30の電荷が増大すると、ついには自己放電器31でコロナ放電が生じ、それに伴って車体30の外側表面のうちの自己放電器31の近傍の部分の正(+)の電位が低下する。上記のように自己放電器31及びその近傍における正(+)の電位が低下することにより、斥力が小さくなる。また、自己放電器31での電荷が増大することに伴って、その周囲に空気のマイナスイオンを生じさせ、これを自己放電器31及びその周囲のプラス電荷が吸引することにより空気流が車体30の表面における自己放電器31の周囲に吸引される。このようにして、空気流が車体30の外側表面から剥離することを抑制することができる。なお、図10には、自己放電器31により電位が低下する領域を示しており、その範囲は、自己放電器31を中心として、直径が約150〜200mmの範囲である。なお、自己放電器31の代わりに、透明な導電性材料を上記特定部位に配置した場合でも、同様の理論により、特定部位の正の電位を低下させることができ、空気流の剥離を抑制することができる。
上述したように空気流の剥離が抑制されるので、ピッチング方向やローリング方向或いはヨー方向での空力特性が変化、若しくは悪化することを抑制することができる。その結果、回頭性或いは操縦安定性や加速性等の走行性能を向上させることができる。例えば、旋回時に空気流に対して車体30が偏向した場合であっても、車体30の内輪側と外輪側とにおける空圧の相違が抑制され、設計上想定した所定の回頭性或いは旋回性能を得ることができる。また、上述したように自己放電器31を中心として、所定の範囲の電位を低下させることができるので、横風を受けている時や旋回走行時等車両10に斜め前方から空気流が流れた場合であっても、上述したような効果を奏することができる。したがって、横風を受けている時や旋回走行時であっても操縦安定性を向上させることができる。
なお、上述したように構成された自己放電器31は、その自己放電器31を貼り付けた部分を中心として所定の範囲の正(+)の静電気を中和除電することができる。また、自己放電器31の上面に空気があればよい。したがって、例えば、図11に示すように車両10の外観として現れる外側表面とは反対側の内側表面に自己放電器31を取り付けても、外側表面に自己放電器31を貼り付けた場合と同様に、車体30に帯電した正(+)の静電気を中和除電することができる。なお、図11に示す例では、鋼板32とカバー部材33との隙間を空気が流動することができる。さらに、車両10の外観として現れる外側表面とは反対側の内側表面に自己放電器31を貼り付ければ、外観を損なうことなく、上述した効果を奏することができる。さらに、外観として現れる外側表面には、透明な導電性材料を配置し、該透明な導電性材料を自己放電器31に導通させることにより、より効果的に静電気を中和除電することができる。なお、図11は、自己放電器31を車両10の外観として現れる外側表面とは反対側の内側表面に自己放電器31を貼り付けた例を示し、図11(a)はその断面図を示し、図11(b)はその平面図を示している。
上述した例では、車体30の部材の外側表面又はその反対側の内側表面に自己放電器31を配置しているが、自己放電器31は、空気流が剥離しやすい箇所の正(+)の電位の絶対値を低下することができる位置に配置することが好ましい。具体的には、車体30の表面に沿った流れからその表面から離れた流れに変化し始める剥離形状を有する箇所に、自己放電器31を配置することができる。より具体的には、走行風の流れ方向に対して、車体30の外側表面が所定の角度以上屈曲して形成されている部分に自己放電器31を配置することができる。剥離形状を有する箇所は、空洞実験等により予め定めることができる。又は、車体30の外側表面の形状に基づいて定めることができる。したがって、自己放電器を設置することにより空気流が剥離して車体30の表面から離れた流れに変化することを抑制することができるような箇所を予め求め、その部位に自己放電器31(又は透明な導電性材料)を貼り付ければよい。
本実施形態における車両の製造方法について、車体モデル若しくは試作車両を用いて、上述した空気流の剥離が生じ易い箇所を求めることができる。併せて、それらの箇所のうち前述した導電性皮膜12若しくは自己放電器31(又は透明な導電性材料)を実際に配置することによって、正の電位を低下させることができるかどうかを検証する。これにより、車両10の操縦安定性が向上する部位を実験的に求めることができる。車両10の製造工程では、このようにして求められた部位の正電荷を低下させるように前述した導電性皮膜12若しくは自己放電器31(又は透明な導電性材料)を取り付ける。
図12は、自己放電器31を設ける位置の例を示す車両10の斜視図であり、図12(a)は車両10を斜め前方から見た斜視図を示し、図12(b)は車両10を斜め後方から見た斜視図を示している。また、図中の「●」を付している部分は、自己放電器31を貼り付ける位置を示している。図12に示す車両10は、小型ハッチバックの車両である。この車両10では、鉛直方向に空気流が剥離することを抑制するように、すなわち、空気流が剥離することによりピッチング方向での空力特性が変化することを抑制するように自己放電器31が配置されている。具体的には、車両10の幅方向における中央部分の正(+)の電位を低下するように自己放電器31が配置されている。なお、車体30のピッチング方向での空力特性が変化することを抑制することができればよいので、車体30の上面又は下面のうちの少なくとも車幅方向における中央部分に自己放電器31が配置されていればよい。したがって、その中央部分を挟んで両側に所定の間隔を空けて自己放電器31を複数配置していてもよい。また、操舵輪である前輪42の接地荷重が低下することを抑制するために、中央部分に加えて左右均等に複数の自己放電器31を配置して、車幅方向における広域での空気流の剥離を抑制することが好ましい。なお、上述のように、これらの位置を含むように透明な導電性材料を配置することも可能である。以下、車体30のピッチング方向での空力特性が変化することを抑制するように自己放電器31を貼り付ける位置と、その位置に自己放電器31を貼り付けることによる作用とを説明する。
図12に示す例では、車体30の上面の空気流が剥離することを抑制するように、エンジンフード35の前端部(図中にa点と示す)、エンジンフード35の後端部(図中にb点と示す)、フロントガラス36の下端部(図中にc点と示す)、フロントガラス36の上端部(図中にd点と示す)、天井37の前端部(図中にe点と示す)、天井37の前部(図中にf点と示す)、天井37の後部(図中にg点と示す)、ルーフスポイラー38(図中にh点と示す)等に自己放電器31を配置する。なお、ワイパー39が車両10の外側表面に吐出している場合には、ワイパー39が段差となって空気流が剥離する可能性があるので、図12に示すi,j点と示すようにワイパー39のブレード40及びアーム41に自己放電器31を配置することが好ましい。このように車体30の上面の正(+)の静電気を放電するように自己放電器31(又は透明な導電性材料)を配置することにより、車体30の上面の空気流が車体30の上面から剥離することにより車体30の上面側が負圧となることを抑制することができる。すなわち、車体を押し下げるダウンフォースの低下を抑制して、前輪42又は後輪43と路面との接地荷重を想定した範囲、又は適正値に維持することができる。
図13は、セダンタイプの車両10におけるフロントガラス36の下端部及びエンジンフード35の下面に自己放電器31を貼り付けた例を示している。なお、図13(a)は、その車両10の斜視図を示し、図13(b)は、フロントガラス36の下端部及びエンジンフード35の下面に自己放電器31を貼り付ける位置を示す断面図である。自己放電器31は、少なからず厚みを有しているため、自己放電器31が空気流に曝されて設けられていると、自己放電器31の近傍で空気流が乱れる可能性がある。そのため、図13に示す例では、エンジンフード35の上面及びフロントガラス36の表面に沿う空気流に曝されない位置に、自己放電器31が設けられている。具体的には、鉛直方向におけるエンジンフード35の上面よりも下方側の部分で、フロントガラス36の外側表面に自己放電器31を貼り付け、また、エンジンフード35の後端部における下面に自己放電器31を貼り付けている。なお、図13に示すようにフロントガラス36とエンジンフード35との間には、雨水を排出する等のための隙間が形成されているので、フロントガラス36に向けて流れる空気の一部が、その隙間に流れる。そのため、自己放電器31の表面を空気が流れるので、自己放電器31及びその周面の車体30の表面の正(+)の静電気を効果的に除電することができる。
上記のように自己放電器31を設けることにより、フロントガラス36の下端部及びエンジンフード35の後端部の正(+)の電位を低下することができるので、エンジンフード35の上面からフロントガラス36の表面に空気が流れる際に、空気流に斥力が生じることを抑制することができる。そのため、空気流が剥離することにより車体30の上面側が負圧となることを抑制することができる。すなわち、車体を押し下げるダウンフォースの低下を抑制して、前輪42又は後輪43と路面との接地荷重を想定した範囲、又は適正値に維持することができる。
また、図13に示す形態において、上述のように、フロントガラス36上に透明な導電性材料を配置し、該透明な導電性材料と自己放電器31との導通を取ることにより、フロントガラス36における帯電も解消することができる。
なお、上述したように自己放電器31の近傍を空気が流れることが好ましいが、フロントガラス36とエンジンフード35との隙間が大きいと、その隙間からエンジンルーム内に流動する空気量が多くなる等の種々の理由によりフロントガラス36に沿う空気流の空力特性が変化する可能性がある。そのため、図14に示すように、自己放電器31よりも上部であり、かつエンジンフード35の上面より下方側に、フロントガラス36とエンジンフード35との隙間から流入する空気量を少なくするように形成された整流カバー44を設けてもよい。なお、図14に示す整流カバー44は、フロントガラス36とほぼ同一の幅に形成された板状の部材である。
図15は、天井37の静電気を除電するために自己放電器31を貼り付ける位置を説明するための断面図である。図15(a)に示す例は、天井37の車室側に所定の隙間を空けて樹脂材料により形成された室内ルーフライナ45が設けられており、その天井37と室内ルーフライナ45との間が外部に対して閉じられた空間となっている。自己放電は、自己放電器31の近傍を流れる空気が負のイオンを有することにより、自己放電器31及びその周囲の電位を低下させる。したがって、図15(a)に示すように天井37の外側表面の反対側が、閉じられた空間となっている場合には、その空間内に自己放電器31を配置することによる効果を効果的に得られない可能性がある。そのため、図15(a)に示す例では、室内ルーフライナ45における車室内側の面に自己放電器31を貼り付けている。このように室内ルーフライナ45に自己放電器31を貼り付けた場合には、室内ルーフライナ45が中和除電される。そのように室内ルーフライナ45の電位が低下させられることにより、上記閉鎖空間の電位が低下するので、結局、鋼板により形成された天井37の電位を低下させることができる。すなわち、室内ルーフライナ45における車室側の面に自己放電器31を貼り付けることにより、室内ルーフライナ45及び閉鎖空間の空気層を介して間接的に天井37の電位を低下することができる。その結果、天井37の外側表面から空気流が剥離することを抑制することができるので、車体30を押し下げるダウンフォースが低下することを抑制することができる。また、旋回走行時や横風を受けた場合等に空気流が、車両10の前後方向から傾斜した方向に剥離することを抑制することができるので、ヨー方向の空力特性が変化することを抑制することができる。その結果、操縦安定性や乗り心地等を向上させることができる。
図15(b)は、天井37の静電気を除電する他の例を示す断面図である。図15(b)に示す例は、天井37のうちの空気流が剥離する特定部位における天井37の外側表面とは反対側の内側表面に、室内ルーフライナ45の一部が接触するように、室内ルーフライナ45が屈曲して形成されている。そして、その屈曲した部分の正の電位を低下させるように自己放電器31が、室内ルーフライナ45の車室側の面のうち上記屈曲した部分の近傍に自己放電器31を設けられている。このように自己放電器31を貼り付ければ屈曲部を中和除電して正の電位を低下させることができるので、空気層を介さずに天井37の正の電位を低下させることができる。その結果、天井37の外側表面から空気流が剥離することを抑制することができるので、車体30を押し下げるダウンフォースが低下することを抑制することができる。また、旋回走行時や横風を受けた場合等に空気流が、車両10の前後方向から傾斜した方向に剥離することを抑制することができるので、ヨー方向の空力特性が変化することを抑制することができる。その結果、操縦安定性や乗り心地等を向上させることができる。
また、図16に示すようにセダンタイプの車両10は、リアガラス46とラゲージドア47との間に隙間が形成されている。そのため、図13と同様に、リアガラス46の正(+)の電位を低下するために、リアガラス46の下端部に自己放電器31を設けている。具体的には、鉛直方向におけるラゲージドア47の上面よりも下側の部分のうちの外側表面に、自己放電器31が設けられている。このように自己放電器31を配置してリアガラス46の正(+)の静電気を放電して正(+)の電位を低下することにより、リアガラス46から空気流が剥離することを抑制することができる。その結果、車体30を押し下げるダウンフォースの低下を抑制して、前輪42又は後輪43と路面との接地荷重を想定した範囲、又は適正値に維持することができる。
また、図16に示す形態において、リアガラス46の全面に透明な導電性材料を配置し、該透明な導電性材料の上であってラゲージドア47の上面よりも下側の部分のリアガラス46の上に自己放電器31を配置することが好ましい。この形態により、ガラス部材に求められる透光性を確保しつつ、リアガラス46の全面において帯電を解消することができる。
さらに、図17は、リアスポイラー48及びリアバックドア49に自己放電器31を配置する位置を詳細に示している。なお、図17(a)は、ハッチバックタイプの車両10の斜視図を示しており、図17(b)は、リアスポイラー48及びリアバックドア49に自己放電器31を貼り付ける位置を示す断面図である。図17に示す例では、リアスポイラー48の上面に自己放電器31を配置して、その自己放電器31近傍の正(+)の静電気を放電して正(+)の電位を低下している。なお、空気流を乱さないため等種々の条件に応じて、図17(b)に破線で示すように自己放電器31をリアスポイラー48の下面に配置してもよい。
また、図17に示す例では、リアスポイラー48の基部から下方側に垂下してリアバックドア49が形成されている。したがって、走行時に車体30の周囲を流れる空気流は、リアバックドア49の表面を流れることはない。しかしながら、リアバックドア49の表面から空気流が剥離すると車両10の後方部分の空気流が乱れ、走行時に車体30の周囲を流れる空気流を間接的に乱す可能性がある。そのため、図17(b)では、リアバックドア49の正(+)の静電気を除電するように自己放電器31が設けられている。より具体的には、リアバックドア49の上部の外側表面に自己放電器31が設けられている。なお、図18は、ワンボックスタイプの車両10の斜視図を示しており、そのリアスポイラー48及びリアバックドアガラス49’にも同様に自己放電器31を設けている。具体的には、図18(b)に示す断面図のように、リアスポイラー48の上面、又は下面に自己放電器31を設け、かつリアバックドアガラス49’の上端のうちの外側表面に自己放電器31を設けている。
上述したように車両10のピッチング方向での空力特性が変化しないように、車両10の幅方向における中央部分に自己放電器31が配置されていることが好ましい。また、自己放電器31を配置する位置は、上述した位置に限定されず、例えば、図12における天井37の前部(f点)に設けられた自己放電器31のように、車体30の上面の空気流の方向に沿って、一定間隔を空けて自己放電器31を複数設けていてもよい。このように空気流の方向に沿って自己放電器31を複数設けることにより、車体30から空気が剥離することをより一層抑制することができる。
また、図12に示す車両10は、車体30の下面の空気流が剥離することを抑制するように、フロントバンパー14の下端部の前縁(図12中にk点と示す)、車体30の床下に配置されたリア燃料タンク(後述する)、車体30の床下のリアトランクの下部(図示せず)、リアバンパー50の下端部(図12中にl点と示す)等に自己放電器31が配置されている。このように車体30の下面の正(+)の静電気を放電するように自己放電器31を配置することにより、車体30の下面の空気流が車体30の下面から剥離することを抑制することができる。その結果、車体30の下面から空気流が剥離し、その剥離した位置よりも後方側にカルマン渦が発生する等により、車体30の下面の圧力が増大することを抑制することができる。その結果、車体30を押し上げる荷重が生じることを抑制することができるので、ダウンフォースの低下を抑制して、前輪42又は後輪43と路面との接地荷重を想定した範囲、又は適正値に維持することができる。
図19は、車両10の後方部に設けられたリア燃料タンク51に自己放電器31を配置する箇所を示す図である。車体30の下面の空気流の流動抵抗を低減するためのアンダーカバーを設けていない場合には、リア燃料タンク51が、車両10の下面に露出している。したがって、リア燃料タンク51が帯電していると、リア燃料タンク51の表面の空気流が剥離して、車体30の下面の圧力が増大する可能性がある。そのため、図19に示すように車両10の走行方向におけるリア燃料タンク51の前方部及び後方部に自己放電器31が配置されている。
一方、車体30の下面の空気流の流動抵抗を低減するために、図20に示すようなアンダーカバー52を設けている場合がある。なお、図20には、エンジンルームの下部に取り付けられるフロントアンダーカバー52を示しており、図20(a)はアンダーカバー52を車両10の下方側から見た平面図であり、図20(b)は自己放電器31を貼り付ける位置を示す断面図である。また、図20における左側が、車両10の前方を示しており、一点鎖線が車両10の幅方向における中央部分を示している。フロントアンダーカバー52は、段差等を車両10が乗り越える際に、その段差と接触しないように前方側が鉛直方向における上側に向けて傾斜して形成されている。したがって、図20(b)に示すように、アンダーカバー52の前方から流動した空気流が、アンダーカバー52の上下方向での屈曲点で剥離する可能性がある。そのため、図20に示す例では、その屈曲点の静電気を放電するようにその屈曲点又はその近傍に自己放電器31が貼り付けられている。なお、図20に示す例では、外側表面とは反対側の裏面に自己放電器31が貼り付けられている。より具体的には、車幅方向における車体30の中央部分と、その中央部分を挟んで左右均等になる位置とにそれぞれ自己放電器31が貼り付けられている。なお、中央部分に貼り付けられた自己放電器31と、左右に貼り付けられた自己放電器31との距離は、約150〜200mmとすることが好ましい。
また、車体30の下面を介して車体30の後方の空気流を制御するリアデュフューザ53を設けている場合には、そのリアデュフューザ53に自己放電器31を設けてもよい。図21は、そのリアデュフューザ53を示す図であり、図21(a)はリアデュフューザ53を車両10の下面から見た図であり、図21(b)は自己放電器31を貼り付ける位置を示す断面図である。また、図21における右側が、車両10の後方を示しており、一点鎖線が車両10の幅方向における中央部分を示している。リアデュフューザ53は、車体30の下面を介して車体30の後方側に流動する空気流の流速を増大させるために、後方側が鉛直方向における上側に向けて傾斜して形成されている。したがって、図21(b)に示すように、リアデュフューザ53の前方から後方に流動する空気流が、リアデュフューザ53の屈曲点で剥離する可能性がある。そのため、図21に示す例では、その屈曲点の静電気を放電するようにその屈曲点又はその近傍に自己放電器31が貼り付けられている。なお、図21に示す例では、外側表面とは反対側の裏面に自己放電器31が貼り付けられている。より具体的には、車幅方向における車体30の中央部分と、その中央部分を挟んで左右均等になる位置とにそれぞれ自己放電器31が貼り付けられている。なお、中央部分に貼り付けられた自己放電器31と、左右に貼り付けられた自己放電器31との距離は、約150〜200mmとすることが好ましい。
上述したように車体30の上面及び下面に帯電した正(+)静電気を放電して正(+)の電位を低下することにより、それらの面に沿う空気流が剥離することを抑制することができる。そのため、車体30のピッチング方向の空力特性が変化することを抑制することができる。その結果、前輪42や後輪43の接地荷重が変化することを抑制することができるので、加速性能や旋回性能或いは操舵安定性が低下することを抑制することができる。
また、車体30の両側面に沿う空気流が剥離すると、ローリング方向又はヨー方向の空力特性が変化する。そのため、車体30の両側面から空気流が剥離することを抑制するように、図12に示す例では、車体30の幅方向における中央部について左右対称となる部位のうちのいずれか一対の部位に、自己放電器31を配置している。以下、車体30のローリング方向又はヨー方向の空力特性が変化することを抑制するように自己放電器31を配置する位置と、その位置に自己放電器31を配置することによる作用を説明する。
左右対称となる部位の一例としては、サイドガラス54、ドアミラー55、ドアハンドルの握り部56、前輪42、後輪43、フェンダ57等がある。したがって、図12に示す例では、ドアミラー55の基部のうち車体30の前方側に最も突出した部分(図中にm点と示す)、サイドガラス54のうち視界に入らない位置、より具体的には、サイドガラス54と雨水等がフロントドア58やリアドア59内に混入することを防止するベルトモール60との間(図中にn点と示す)、ドアハンドルの握り部56(図中にo点と示す)、前輪42のタイヤホイール61の中心位置(図中にp点と示す)、前輪42のタイヤホイール61の中心位置と同一の高さであり、かつ空気流の上流側に位置するフロントバンパー14又はフロントフェンダ62の側面部(図中にq点と示す)、前輪42のタイヤホイール61に嵌め込まれたタイヤホイールキャップ63の中心位置(図中にr点と示す)、後輪43のタイヤホイール64の中心位置(図中にs点と示す)、後輪43のタイヤホイール64の中心位置と同一の高さであり、かつ空気流の上流側に位置するリアドア59又はロッカパネル65(図中にt点と示す)、後輪43のタイヤホイール64に嵌め込まれたタイヤホイールキャップ66の中心位置(図中にu点と示す)、フロントドア58の前方部(図中にv点と示す)等の一対の部位に自己放電器31が配置されている。
図22は、フロントドア58又はリアドア59とベルトモール60との間に自己放電器31を配置した例を示す断面図である。図22に示す例では、クリップ67を介して車室側ベルトモール60aがフレーム68に連結されている。なお、クリップ67には、ドアトリム69が連結されている。また、図示しない他のフレームに連結されたフロントドア58又はリアドア59に、車外側ベルトモール60bがクリップ70を介して連結されている。ベルトモール60は、サイドガラス54に付着した雨水等がドアトリム69とフロントドア58又はリアドア59の間(以下、戸袋Sと記す)に流入することを防止するためのものであり、各ベルトモール60a,60bは、ゴム等の樹脂材料により形成されており、各ベルトモール60a,60bは、サイドガラス54を挟み付けるように配置されている。なお、図22に示す例では、各クリップ67,70には、鉛直方向に所定の間隔を空けてそれぞれ二つのベルトモール60a,60bが連結されている。
また、サイドガラス54の下端部は、断面形状がU字状に形成された保持部材71によって保持されており、その保持部材71は、戸袋Sに配置され、かつ図示しないモータにより上下動するように構成されている。したがって、保持部材71を下降させることにより、サイドガラス54を戸袋Sに収容することができる。
そして、サイドガラス54の正(+)の静電気を放電する自己放電器31が、サイドガラス54の下部に貼り付けられている。具体的には、サイドガラス54が最も上昇した場合であっても、自己放電器31が戸袋S内に位置するように、サイドガラス54に自己放電器31が貼り付けられている。また、ベルトモール60の上端部は、ドアトリム69やフロントドア58或いはリアドア59から突出しており、車両10の外観に現れ、車体周りの空気流に曝されている。したがって、ベルトモール60の正(+)の静電気を中和除電することが好ましい。そのため、図22に示す例では、サイドガラス54が最も上昇した場合に、下方側の車室側ベルトモール60aと自己放電器31とが接触するように、自己放電器31をサイドガラス54に貼り付ける位置が定められている。なお、サイドガラス54が上下動した際に、常時、サイドガラス54及び車室側ベルトモール60aが接触するように、下方側の車室側ベルトモール60aに自己放電器31を貼り付けていてもよい。
上述したようにサイドガラス54又は車室側ベルトモール60aに自己放電器31を貼り付けることにより、サイドガラス54とベルトモール60との正(+)の静電気を放電することができるので、サイドガラス54の外側表面に沿う空気流が剥離することを抑制することができる。また、自己放電器31は、戸袋S内に設けられているので、戸袋S内の空気に、サイドガラス54やベルトモール60の正(+)の静電気を放電することができる。なお、図22に示す例では、サイドガラス54における車室側に自己放電器31を貼り付けた例を示しているが、図22に破線で示すように車外側に自己放電器31を貼り付けてもよい。
また、図22には、フロントドア58又はリアドア59に形成された窓枠の下縁部に設けられたベルトモール60とサイドガラス54との正(+)の静電気を放電するための構成を示しているが、図12に示すように左右の縁部に設けられたベルトモール60の内側に、自己放電器31を貼り付けていてもよい。
図23には、バンパカバー(フロントバンパー)14及びフロントフェンダ62に自己放電器31を貼り付けた例を示している。なお、図23における下側が車幅方向における左側であり、図23における左側が車両10の前方である。図23に示すようにフロントバンパー14の側面に沿って流れる空気流は、そのまま前輪42に沿って流れる。そのように空気流が流れることにより、車両10の前後方向におけるフロントフェンダ62と前輪42との間であって、かつ車幅方向におけるフロントバンパー14の側面の位置が負圧になる。そのため、フェンダーハウスから空気が車幅方向における外側に吸引されて、フェンダーハウス内から空気を排出して流動性を良好に保つ。したがって、フロントバンパー14の側面から意図しない位置で空気流が剥離すると、フェンダーハウスから空気が車幅方向における外側に吸引されにくくなる可能性がある。
そのため、図23に示す例では、フロントバンパー14の側面であって、外側表面とは反対側の面に自己放電器31が貼り付けられ、かつフロントフェンダ62、より具体的には、フェンダライナ72におけるフェンダーハウス側の面とは反対側の面に自己放電器31が貼り付けられている。また、各自己放電器31は、鉛直方向における前輪42の中央部と同一の高さに配置することが好ましい。このように自己放電器31を設けることにより、フロントバンパー14の側面に沿う空気流が、フロントバンパー14のうちの意図しない位置で剥離することを抑制することができる。すなわち、また、前輪42を冷却するため、より具体的には、前輪42に制動力を作用させるブレーキを冷却するためにフェンダーハウスに取り込まれた空気が、車幅方向における外側に吸引されにくくなる等の事態が生じることを抑制することができる。すなわち、フェンダーハウス内の空気流の流速が低下することを抑制することができる。
また、ドアハンドルの握り部56は、その製造上の都合により、中空に形成されている場合がある。そのようにドアハンドルの握り部56が中空に形成されている場合には、その中空部に自己放電器31を配置することが好ましい。或いは、ドアハンドルの握り部56が、断面形状がU字状に形成されている場合、言い換えると、ドアハンドルの握り部56にスリットが形成されている場合には、そのスリットに自己放電器31を配置することが好ましい。
上述したように左右対称となる部位のうちのいずれか一対の部位に自己放電器31を配置することにより、車体30の両側面から空気流が剥離することを抑制することができる。より具体的には、いずれか一方の側面から空気流が剥離することによるローリング方向又はヨー方向での空力特性の変化を抑制することができる。特に、旋回走行時における旋回方向の内側の側面から空気流が剥離してローリング方向やヨー方向の空力特性が変化することを抑制することができる。その結果、操縦安定性等の走行性能が低下することを抑制することができる。
さらに、各部材は、フレームに固定されており、そのフレームは、バッテリーのアース部(マイナス端子部)と電気的に接続されている。したがって、フレームの電位を低下することにより、車体30の各部分に帯電する正(+)の静電気の電位を低下することができる。そのため、図24に示す例では、本発明における接地部位に相当するバッテリー73のマイナス端子部、より具体的には、マイナスターミナル74に、自己放電器31を貼り付けて、そのマイナスターミナル74の負(−)の電位を下げるように構成されている。なお、バッテリー73のケース部75又は蓋部76に自己放電器31を貼り付けてもよい。通常、バッテリー73は、エンジンルーム内に設けられており、また、エンジンを冷却するために外気がエンジンルーム内に取り込まれて流動している。したがって、上記のように自己放電器31からコロナ放電が生じることによる除電作用を奏することができる。
以下に、本実施形態について実施例を用いて説明するが、本実施形態が以下の実施例により限定されることはない。
本実施例では、フロントガラスの車幅方向の両サイドの端部から5cmに亘って、透明な導電性材料としてのイオン液体(東洋合成工業社製、商品名:EMI−TF)を塗布した。次に、図7(A)に示すような長方形の導電性皮膜を、図1に示すように、フロントガラス36の両サイドのフレームに沿って配置した。この際、導電性皮膜をフロントガラスに数ミリ程度被るように配置することで、導電性皮膜とイオン液体とを直接接しさせた。このようにして用意した車両について、操舵速度(deg/s2)とヨー角加速度(deg/s2)の関係を調べ、操縦安定性を評価した。
また、比較1として、上記透明な導電性材料を塗布せずに、上記導電性皮膜をフロントガラス36の両サイドのフレームに沿って配置した車両について、操縦安定性を評価した。また、比較2として、上記透明な導電性材料及び上記導電性皮膜を配置しなかった車両について、操縦安定性を評価した。
結果を図25に示す。図25により、本実施例では、ヨー角加速度が向上しており、操縦安定性に優れていることがわかる。
以上、本実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。