以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
〔第1実施形態〕
図1〜図3は、第1実施形態に係る溶接システムA1を説明するための図である。図1は、溶接システムA1の全体構成を示す概要図である。図2は、溶接システムA1の機能構成を示すブロック図である。図3は、溶接トーチ3の内部構成を示す回路図である。
図1に示すように、溶接システムA1は、溶接電源装置1、ワイヤ送給装置2、溶接トーチ3、パワーケーブル41,42、電力伝送線5、ガスボンベ6、ガス配管7、通信線8、およびトーチケーブル39を備えている。溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とは、パワーケーブル41、電力伝送線5および通信線8によって接続されている。また、ワイヤ送給装置2と溶接トーチ3とは、トーチケーブル39によって接続されている。トーチケーブル39は、ケーブル内部にパワーケーブル41、ガス配管7、ライナ、電力伝送線および通信線が配置されている。トーチケーブル39の長さは、例えば、十数m程度である。トーチケーブル39に配置されたライナは、溶接ワイヤBの送給経路の一部であり、トーチケーブル39が長いので、送給経路も長くなっている。トーチケーブル39の内部のパワーケーブル41、ガス配管7、ライナ、電力伝送線および通信線は、それぞれ、ワイヤ送給装置2の内部のパワーケーブル41、ガス配管7、ライナ、電力伝送線5および通信線8に接続される。
溶接電源装置1の一方の出力端子は、パワーケーブル41を介して、溶接トーチ3に接続されている。ワイヤ送給装置2は、溶接ワイヤBを溶接トーチ3に送り出して、溶接ワイヤBの先端を溶接トーチ3の先端から突出させる。溶接トーチ3の先端に配置されている図示しないコンタクトチップにおいて、パワーケーブル41と溶接ワイヤBとは電気的に接続されている。溶接電源装置1の他方の出力端子は、パワーケーブル42を介して、被加工物Wに接続される。溶接電源装置1は、溶接トーチ3の先端から突出する溶接ワイヤBの先端と、被加工物Wとの間にアークを発生させ、アークに電力を供給する。溶接システムA1は、当該アークの熱で被加工物Wの溶接を行う。
また、本実施形態では、図2に示すように、溶接トーチ3は、溶接ワイヤBを送給する構成である送給部31を備えている。つまり、溶接ワイヤBの送給経路には、溶接ワイヤBを送給するための構成として、送給部21(ワイヤ送給装置2)と送給部31(溶接トーチ3)の2つが配置されている。送給部21(ワイヤ送給装置2)は、溶接ワイヤBを送給方向(溶接ワイヤBが進行する方向)に送り出す(プッシュ側送給部)。また、送給部31(溶接トーチ3)は、送給部21(ワイヤ送給装置2)より送給方向側に配置され、溶接ワイヤBを送給方向に牽引する(プル側送給部)。つまり、送給部21(ワイヤ送給装置2)と送給部31(溶接トーチ3)とは、プッシュプル方式のワイヤ送給システムを構成する。なお、溶接トーチ3が送給部31を備えていると考えることもできるし、ワイヤ送給システムの一部の構成である送給部31が、溶接トーチ3に配置されていると考えることもできる。
溶接電源装置1からワイヤ送給装置2へは、送給モータ211などを駆動させるための電力(例えばDC48V)が、電力伝送線5を介して供給される。また、溶接電源装置1から供給される電力は、ワイヤ送給装置2から、トーチケーブル39内部に設けられている電力伝送線(図示なし)を介して、溶接トーチ3にも供給される。なお、溶接トーチ3が溶接電源装置1から直接電力を供給されてもよい。また、ワイヤ送給装置2および溶接トーチ3は、溶接電源装置1以外から電力を供給されてもよい。
溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とは、通信線8を介して通信を行う。また、ワイヤ送給装置2と溶接トーチ3とは、トーチケーブル39内部に設けられている通信線(図示なし)を介して通信を行う。溶接トーチ3と溶接電源装置1とは、ワイヤ送給装置2を仲介することで、通信を行う。なお、溶接トーチ3と溶接電源装置1とが直接通信を行ってもよい。また、通信方法は限定されず、電力伝送線やパワーケーブル41,42を用いた電力線搬送通信であってもよいし、無線通信であってもよい。また、溶接電源装置1、ワイヤ送給装置2および溶接トーチ3間の情報の伝達は、制御線を介して、電圧や電流のレベルやパルスによって行ってもよい。
溶接システムA1は、溶接時にシールドガスを用いる。ガスボンベ6のシールドガスは、ワイヤ送給装置2を通るように設けられているガス配管7によって、溶接トーチ3の先端に供給される。なお、溶接システムA1は、溶接トーチ3に冷却水を循環させてもよい。
溶接電源装置1は、アーク溶接のための電力を溶接トーチ3に供給するものである。溶接電源装置1は、電力系統Pから入力される三相交流電力をアーク溶接に適した電力に変換して出力する。また、溶接電源装置1は、電力系統Pから入力される三相交流電力を、ワイヤ送給装置2の送給モータ311などを駆動するための直流電力に変換して、電力伝送線5を介してワイヤ送給装置2に出力する。
溶接電源装置1は、図2に示すように、制御部11を備えている。制御部11は、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されており、溶接電源装置1を制御する。制御部11は、設定された溶接条件に応じて電力を出力するように、図示しないインバータ回路を制御する。また、制御部11は、ワイヤ送給装置2の制御部22および溶接トーチ3の制御部32を介して、送給部21および送給部31を制御することで、溶接時およびインチング時の溶接ワイヤBの送給を制御する。具体的には、制御部11は、ワイヤ送給装置2の制御部22に、溶接ワイヤBの送給速度を指令する速度指令S1を送信する。また、制御部11は、溶接トーチ3の制御部32に、溶接ワイヤBの送給速度を指令する速度指令S2を送信する。制御部11による溶接ワイヤBの送給制御についての詳細は後述する。
ワイヤ送給装置2は、溶接ワイヤBを溶接トーチ3に送り出すものである。ワイヤ送給装置2は、図2に示すように、送給部21および制御部22を備えている。
送給部21は、制御部22より入力される駆動信号によって駆動され、溶接ワイヤBを送り出す構成である。送給部21は、送給モータ211、送給ロール212および加圧ロール213を備えている。
送給モータ211は、溶接ワイヤBを送給するための駆動力を発生させるものである。送給モータ211は、制御部22(後述する駆動部221)より入力される駆動信号によって駆動される。送給モータ211は、例えばブラシレスモータであり、駆動信号が調整されることで回転速度が制御される。制御部22(後述する駆動部221)は、例えばパルス幅変調などにより駆動信号のパルス幅を調整することで、送給モータ211の回転速度を制御する。
送給ロール212は、送給モータ211の回転軸に取り付けられており、送給モータ211で発生するトルクが伝達されて回転する。なお、送給ロール212は、送給モータ211の回転軸に直接取り付けられているものに限定されない。1個以上のギヤにより、送給モータ211のトルクを送給ロール212に伝達させ、送給ロール212を回転させる構成であってもよい。溶接ワイヤBは送給ロール212に接触しており、送給モータ211のトルクが溶接ワイヤBを送り出す接線力に変換される。したがって、送給モータ211が駆動することで、溶接ワイヤBが送り出される。
加圧ロール213は、溶接ワイヤBを挟んで、送給ロール212に対向するように配置されており、溶接ワイヤBを送給ロール212側に加圧する。これにより、溶接ワイヤBは、送給ロール212の回転に応じて送給される。
制御部22は、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されており、ワイヤ送給装置2を制御する。制御部22は、溶接電源装置1の制御部11からの指令に基づいて、送給部21を駆動させることで溶接ワイヤBの送給を行い、また、図示しないガス電磁弁を開放させることで、溶接トーチ3にシールドガスを供給する。なお、ガス電磁弁は、制御部11によって直接制御されてもよい。図2に示すように、制御部22は、駆動部221を備えている。
駆動部221は、送給部21の駆動を制御して、溶接ワイヤBの送給を制御する。駆動部221は、溶接電源装置1の制御部11より受信した速度指令S1に基づいて、駆動信号を送給部21の送給モータ211に出力する。送給モータ211には図示しないエンコーダが取り付けられており、制御部22は、当該エンコーダより入力されるパルス信号から送給モータ211の回転速度を検出する。本実施形態では、当該エンコーダは、磁気式より大きいが、より精度の高い光学式のエンコーダである。なお、エンコーダは限定されず、磁気式のエンコーダであってもよい。駆動部221は、検出された送給モータ211の回転速度が速度指令S1に応じた回転速度に一致するように駆動信号を調整して、フィードバック制御を行う。なお、回転速度の検出方法は限定されない。
なお、ワイヤ送給装置2は、インレットライナ、インレットガイドおよびアウトレットガイドなどの筒状のガイド部材を備えているが、図示を省略している。インレットライナおよびインレットガイドは、溶接ワイヤBが巻回されたワイヤリール23から送給ロール212まで溶接ワイヤBを導く。アウトレットガイドは、送給ロール212によって送り出される溶接ワイヤBをワイヤ送給装置2の送出口まで導く。ワイヤ送給装置2から送り出された溶接ワイヤBは、トーチケーブル39および溶接トーチ3の内部に設けられているライナの内部を通って、溶接トーチ3の先端に導かれる。インレットライナ、インレットガイドおよびアウトレットガイドなどのガイド部材と、トーチケーブル39および溶接トーチ3の内部に設けられているライナとが、溶接ワイヤBの送給経路を構成する。
溶接トーチ3は、溶接電源装置1から供給される溶接電力により、被加工物Wの溶接を行う。また、溶接トーチ3は、溶接ワイヤBを送給する構成を備えており、溶接ワイヤBを牽引して張力をかけることで、溶接ワイヤBの送給抵抗を減少させる。溶接トーチ3は、図2に示すように、送給部31、制御部32、操作部33、表示部34、電源部35、アーク切れ検出部36、および電源異常検出部37を備えている。
送給部31は、制御部32より入力される駆動信号によって駆動され、溶接ワイヤBを牽引する構成である。送給部31は、送給モータ311、送給ロール312および加圧ロール313を備えている。
送給モータ311は、溶接ワイヤBを送給するための駆動力を発生させるものである。送給モータ311は、制御部32(後述する駆動部321)より入力される駆動信号によって駆動される。送給モータ311は、例えばブラシレスモータであり、駆動信号が調整されることで回転速度が制御される。制御部32(後述する駆動部321)は、例えばパルス幅変調などにより駆動信号のパルス幅を調整することで、送給モータ311の回転速度を制御する。送給モータ311は、溶接トーチ3の小型軽量化のため比較的小型のモータとされており、ワイヤ送給装置2の送給モータ211より小型のモータである。送給モータ311は、送給モータ211より出力が小さい。
送給ロール312は、送給モータ311の回転軸に取り付けられており、送給モータ311で発生するトルクが伝達されて回転する。なお、送給モータ311のトルクを送給ロール312に伝達させる方法は限定されない。溶接ワイヤBは送給ロール312に接触しており、送給ロール312のトルクが溶接ワイヤBを牽引する接線力に変換される。したがって、送給モータ311が駆動することで、溶接ワイヤBが牽引される。
加圧ロール313は、溶接ワイヤBを挟んで、送給ロール312に対向するように配置されており、溶接ワイヤBを送給ロール312側に加圧する。これにより、溶接ワイヤBは、送給ロール312の回転に応じて送給される。加圧ロール313の加圧力は、送給部21の加圧ロール213の加圧力より小さく設定されている。
制御部32は、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されており、溶接トーチ3を制御する。制御部32は、操作部33より入力される操作信号に応じて、所定の処理を行う。また、制御部32は、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2との通信や、図示しない記憶部の情報の書き込みおよび読出し、操作部33からの操作信号の受付および対応する処理、表示部34での表示などを制御する。また、制御部32は、溶接電源装置1の制御部11からの指令に基づいて、送給部31を駆動させることで溶接ワイヤBの送給を行う。図2に示すように、制御部32は、駆動部321を備えている。
駆動部321は、送給部31の駆動を制御して、溶接ワイヤBの送給を制御する。駆動部321は、溶接電源装置1の制御部11より受信した速度指令S2に基づいて、駆動信号を送給部31の送給モータ311に出力する。駆動部321は、スイッチ部321aおよびスイッチ制御部321bを備えている。
スイッチ部321aは、送給モータ311に駆動信号を出力するものである。スイッチ部321aは、スイッチ制御部321bから入力されるスイッチ駆動信号に基づいて内蔵されたスイッチング素子のオンオフを切り替えることで、駆動信号を生成する。図3に示すように、スイッチ部321aは、4個のスイッチング素子Q1〜Q4および4個のダイオードD1〜D4を有するフルブリッジ回路を備えている。本実施形態では、スイッチング素子Q1〜Q4としてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用している。なお、スイッチング素子Q1〜Q4はMOSFETに限定されず、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)などであってもよい。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とは、直列接続されてブリッジ構造を形成している。同様に、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4とは、直列接続されてブリッジ構造を形成している。スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2との接続点と、スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4との接続点との間に、送給モータ311が接続されている。各スイッチング素子Q1〜Q4のゲート端子には、スイッチ制御部321bから出力されるスイッチ駆動信号が入力される。ダイオードD1〜D4は、それぞれ、スイッチング素子Q1〜Q4に逆並列に接続されている。各スイッチング素子Q1〜Q4は、それぞれスイッチ駆動信号に基づいて、オン状態とオフ状態とを切り替えられる。スイッチ部321aは、電源部35から例えば48Vの電圧を供給される。なお、スイッチ部321aの回路構成は限定されず、例えばハーフブリッジ回路を備えていてもよい。
スイッチ制御部321bは、スイッチ部321aを制御するものである。スイッチ制御部321bは、送給モータ311に取り付けられたエンコーダ38より入力されるパルス信号から送給モータ311の回転速度を検出する。本実施形態では、溶接トーチ3の小型軽量化のため、エンコーダ38は、比較的小型である磁気式のエンコーダである。なお、エンコーダは限定されず、光学式のエンコーダであってもよい。また、回転速度の検出方法は限定されない。スイッチ制御部321bは、検出された送給モータ311の回転速度が速度指令S2に応じた回転速度に一致するように、フィードバック制御を行い、スイッチ駆動信号を生成してスイッチ部321aに出力する。図3に示すように、スイッチ制御部321bは、PWM信号生成部321cおよびスイッチ駆動部321dを備えている。
PWM信号生成部321cは、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されており、送給モータ311の回転速度を制御するためのPWM信号を生成する。PWM信号生成部321cは、検出された送給モータ311の回転速度と、速度指令S2に応じた回転速度との差分に基づいてPWM信号を生成する。
PWM信号生成部321cは、通常時、スイッチング素子Q1,Q4のためのPWM信号を生成する。PWM信号生成部321cは、検出された回転速度が速度指令S2に応じた回転速度より小さい場合、PWM信号のパルス幅を大きくすることで送給モータ311の回転速度を増加させ、検出された回転速度が速度指令S2に応じた回転速度より大きい場合、PWM信号のパルス幅を小さくすることで、送給モータ311の回転速度を減少させる。
しかし、速度指令S2が大きく減少した場合、スイッチング素子Q1,Q4のオンを短くする(PWM信号のパルス幅を小さくする)ことでは回転速度を十分減少できないので、スイッチング素子Q1,Q4をオフにして、スイッチング素子Q2,Q3をオンオフするためのPWM信号を生成する。この場合、スイッチング素子Q2,Q3のオンオフにより、送給モータ311に逆向きの大きな電流が流れ、送給モータ311の回転速度が減少する。しかし、電源部35から大きな駆動電流が流れることで、電源部35のコンデンサ351の電圧が低下する。また、速度指令S2が大きく増加した場合、スイッチング素子Q1,Q4のオンが急激に大きくなるので、送給モータ311に流れる電流が急激に大きくなる。電源部35から大きな駆動電流が流れることで、電源部35のコンデンサ351の電圧が低下する。これらの電圧低下を防ぐために、本実施形態では、速度指令S2の急激な変化を抑制するための、後述する送給速度急変処理が行われる。
PWM信号生成部321cは、生成したPWM信号をスイッチ駆動部321dに出力する。PWM信号生成部321c(マイクロコンピュータ)は、電源部35から例えば5Vの電圧を供給される。
スイッチ駆動部321dは、PWM信号を増幅したスイッチ駆動信号を生成する。スイッチ駆動部321dは、PWM信号生成部321cよりPWM信号を入力され、スイッチング素子Q1〜Q4を駆動するレベルに増幅して、スイッチ駆動信号としてスイッチ部321aに出力する。スイッチ駆動部321dは、電源部35から例えば16Vの電圧を供給される。
図2に戻って、表示部34は、各種表示を行うものであり、例えば液晶表示装置であるディスプレイ(図示なし)を備えている。表示部34は、制御部32によって制御され、各種情報の表示を行う。なお、表示部34は、制御部11または制御部22によって制御されてもよいし、その他の制御部によって制御されてもよい。また、表示部34は、設けられていなくてもよいし、ワイヤ送給装置2に設けられていてもよい。
操作部33は、複数の操作手段を備えており、作業者による各操作手段の操作を操作信号として制御部32に出力する。操作手段としては、図示しないトーチスイッチ、インチングボタンおよび操作ボタンがある。なお、操作部33は、他の操作手段を備えていてもよい。また、操作部33は、操作信号を制御部11または制御部22に出力してもよいし、その他の制御部に出力してもよい。また、操作部33は、ワイヤ送給装置2に設けられていてもよい。
トーチスイッチは、溶接の開始/停止操作を受け付けるための操作手段である。トーチスイッチのオン操作(押下)により、操作信号が制御部32に出力される。当該操作信号を入力された制御部32は、溶接開始を指示する信号を生成して、溶接電源装置1に送信する。当該信号を受信した溶接電源装置1は、溶接ワイヤBの送給を開始し、また、溶接電力の出力を開始する。また、オン操作が解除されることにより、操作信号が制御部32に出力される。当該操作信号を入力された制御部32は、溶接終了を指示する信号を生成して、溶接電源装置1に送信する。当該信号を受信した溶接電源装置1は、溶接ワイヤBの送給を停止し、また、溶接電力の出力を停止する。これにより、トーチスイッチを押下している間だけ溶接が行われる。なお、トーチスイッチのオンオフ操作の伝達は、制御線を介した電気信号のレベルの変化で行われてもよい。また、操作信号は、制御部11に出力されてもよい。
インチングボタンは、インチング操作の開始/停止操作を受け付けるための操作手段である。インチングボタンのオン操作(押下)により、操作信号が制御部32に出力される。当該操作信号を入力された制御部32は、インチング開始を指示する信号を生成して、溶接電源装置1に送信する。当該信号を受信した溶接電源装置1は、溶接ワイヤBの送給を開始する。また、オン操作が解除されることにより、操作信号が制御部32に出力される。当該操作信号を入力された制御部32は、インチング終了を指示する信号を生成して、溶接電源装置1に送信する。当該信号を受信した溶接電源装置1は、溶接ワイヤBの送給を停止する。これにより、インチングボタンを押下している間だけ溶接ワイヤBが送給される。なお、インチングボタンの操作方法は限定されない。インチングボタンの押下のたびに、溶接ワイヤBの送給と送給停止とが切り替わるように設定されてもよい。なお、インチングボタンのオンオフ操作の伝達は、制御線を介した電気信号のレベルの変化で行われてもよい。また、インチングボタンは、溶接電源装置1またはワイヤ送給装置2に設けられていてもよい。
操作ボタンは、画面の切り替えや各種設定値を変更する操作を行うための操作手段である。操作ボタンは、例えば、上ボタン、下ボタン、左ボタン、および右ボタンを備えている。各ボタンが押下されると、対応する操作信号が制御部32に出力され、制御部32は対応する処理を行う。例えば、左ボタンまたは右ボタンが押下されると、モードが切り替って、ディスプレイに表示される画面が切り替わり、上ボタンまたは下ボタンが押下されると、ディスプレイに表示されている設定値が変更される。例えば、作業者は、左ボタンまたは右ボタンの押下により溶接条件設定モードに切り替え、上ボタンまたは下ボタンの押下により設定したい溶接条件を選択する。このとき、送給速度が異なる溶接条件に切り替えた場合に、送給速度の変化量によっては、後述する送給速度急変処理が行われる。なお、溶接条件は、トーチスイッチの操作によって切り替える場合もあるし、加速度センサにより検出したトーチ角度などに基づいて自動的に切り替える場合もある。
アーク切れ検出部36は、アーク切れを検出する。アーク切れ検出部36は、例えば溶接電圧を検出する電圧センサを備え、検出した電圧に基づいてアーク切れを検出する。アーク切れ検出部36は、アーク切れを検出した場合、検出信号を制御部32に出力する。検出信号を入力された制御部32は、アーク切れを知らせる信号を溶接電源装置1に送信する。当該信号を受信した溶接電源装置1は、アーク切れ処理を行う。アーク切れ処理では、溶接電源装置1は、現在の送給速度をスローダウンのための送給速度に変更する。このとき、送給速度の変化量によっては、後述する送給速度急変処理が行われる。なお、アーク切れの検出方法は限定されず、検出した溶接電流に基づいてアーク切れを検出してもよい。また、アーク切れ検出部36は、検出信号を制御部32に入力する代わりに、溶接電源装置1に直接入力してもよい。また、溶接電源装置1がアーク切れ検出部36を備えていてもよい。
電源部35は、ワイヤ送給装置2の図示しない電源部から図示しない電力伝送線を介して電力を供給され、溶接トーチ3の各部に電力を供給する。なお、電源部35は、溶接電源装置1から直接電力を供給されてもよいし、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2以外から電力を供給されてもよい。図3に示すように、電源部35は、コンデンサ351およびDC/DCコンバータ352,353を備えている。
コンデンサ351は、供給される電力を蓄積するものである。DC/DCコンバータ352は、スイッチ駆動部321dに出力する電圧を調整するものであり、コンデンサ351の端子間電圧を、スイッチ駆動部321dに適した電圧に降圧して出力する。DC/DCコンバータ353は、PWM信号生成部321cに出力する電圧を調整するものであり、DC/DCコンバータ352の出力電圧を、PWM信号生成部321cに適した電圧に降圧して出力する。本実施形態では、電源部35は、例えば48Vの電圧を供給され、コンデンサ351に電力を蓄積する。そして、コンデンサ351の端子間電圧48Vをスイッチ部321aに供給する。また、電源部35は、コンデンサ351の端子間電圧48VをDC/DCコンバータ352によって例えば16Vに降圧して、スイッチ駆動部321dに供給する。また、電源部35は、DC/DCコンバータ352の出力電圧16VをDC/DCコンバータ353によって例えば5Vに降圧して、PWM信号生成部321cに供給する。なお、DC/DCコンバータ353は、供給された48Vの電圧を5Vに降圧して、PWM信号生成部321cに供給してもよい。
電源異常検出部37は、電源部35の異常を検出する。電源異常検出部37は、例えばコンデンサ351の端子間電圧を検出する電圧センサを備え、検出した電圧に基づいて電源部35の低電圧異常を検出する。電源異常検出部37は、低電圧異常を検出した場合、検出信号を制御部32に出力する。検出信号を入力された制御部32は、表示部34に異常を表示させる。また、制御部32は、低電圧異常を知らせる信号を溶接電源装置1に送信する。当該信号を受信した溶接電源装置1は、溶接電力の出力および溶接ワイヤBの送給を停止する。本実施形態では、電源部35の低電圧異常を抑制するために、後述する送給速度急変処理が行われる。なお、低電圧異常の検出方法は限定されない。また、電源異常検出部37は、検出信号を制御部32に入力する代わりに、溶接電源装置1に直接入力してもよい。また、溶接電源装置1またはワイヤ送給装置2が、電源異常検出部37を備えていてもよい。
本実施形態においては、送給部21が本発明の「第1送給部」に相当し、送給モータ211が本発明の「第1送給モータ」に相当し、送給ロール212が本発明の「第1送給ロール」に相当する。また、送給部31が本発明の「第2送給部」に相当し、送給モータ311が本発明の「第2送給モータ」に相当し、送給ロール312が本発明の「第2送給ロール」に相当する。また、制御部11、制御部22および制御部32が、本発明の「制御部」に相当する。また、速度指令S1が本発明の「第1速度指令」に相当し、速度指令S2が本発明の「第2速度指令」に相当する。
次に、制御部11による溶接ワイヤBの送給制御について説明する。
溶接電源装置1の制御部11は、ワイヤ送給装置2の制御部22に速度指令S1を送信し、溶接トーチ3の制御部32に速度指令S2を送信することで、溶接ワイヤBの送給を制御する。制御部22は、受信した速度指令S1に基づいて、送給部21を制御する。また、制御部32は、受信した速度指令S2に基づいて、送給部31を制御する。制御部11は、送給部31による送給速度が、送給部21による送給速度より数%大きくなるように、速度指令S1,S2を送信する。送給部21による送給速度とは、送給モータ211の駆動により回転する送給ロール212の、溶接ワイヤBに接する部分の表面速度である。また、送給部31による送給速度とは、送給モータ311の駆動により回転する送給ロール312の、溶接ワイヤBに接する部分の表面速度である。具体的には、制御部11は、速度指令S2を速度指令S1より数%程度大きな指令値に設定することで、送給部31による送給速度を送給部21による送給速度より数%大きくする。送給部31(プル側送給部)による送給速度が送給部21(プッシュ側送給部)による送給速度より大きくなるので、溶接ワイヤBに張力がかかる。これにより、溶接ワイヤBの送給抵抗が抑制され、溶接ワイヤBの座屈が防止される。上述したように、送給部31(プル側送給部)の送給ロール312および加圧ロール313に対して溶接ワイヤBの滑りが発生するので、溶接ワイヤBは、速度指令S1に応じた速度で送給される。
速度指令S2が大きく減少した場合、送給モータ311の回転速度を急激に減少させるために、送給モータ311に逆向きの大きな電流が流れる。これにより、電源部35からの駆動電流が大きくなり、電源部35のコンデンサ351の電圧が低下してしまう。また、速度指令S2が大きく増加した場合、送給モータ311の回転速度を急激に増加させるために、送給モータ311に流れる電流が大きくなる。これにより、電源部35からの駆動電流が大きくなり、電源部35のコンデンサ351の電圧が低下してしまう。本実施形態では、溶接ワイヤBの送給速度の急激な変化による電源部35の電圧低下を防ぐために、制御部11は、所定の場合に、速度指令S2を一度に変化させず、スロープ状または階段状に変化させる。当該処理を、以下では「送給速度急変処理」と記載する。
図2に示すように、制御部11は、送給制御に関する内部構成として、条件判定部111、速度指令設定部112、および速度指令送信部113を備えている。
条件判定部111は、送給速度急変処理を行うか否かを判定する機能ブロックである。送給速度急変処理は、送給速度の変化量が所定範囲内でない場合に行われる。なお、送給速度の変化量は、変更後の送給速度から変更前の送給速度を減じたものであり、送給速度が増加する場合は正の値になり、送給速度が減少する場合は負の値になる。送給速度の変化量の絶対値が小さい場合は、送給モータ311の回転速度を急激に変化させる必要がないので、電源部35のコンデンサ351の電圧の低下が小さい。したがって、送給速度急変処理を行う必要がない。条件判定部111は、送給速度の変化量が所定範囲内であるか否かを判定する。具体的には条件判定部111は、変更後の送給速度に応じた速度指令(S0+ΔS0)の、変更前の送給速度に応じた速度指令S0に対する変化量ΔS0が閾値ΔSth1から閾値ΔSth2(>ΔSth1)までの範囲内であるか否かを判定する。
閾値ΔSth1は、送給速度を減少させるときの速度指令の変化量ΔS0(<0)の、送給速度急変処理を行うか否かを判定するための下限の閾値である。閾値ΔSth1は、例えば最大送給速度22m/minの10〜20%が減少するときの−2.2〜−4.4m/minに応じた値が設定される。閾値ΔSth2は、送給速度を増加させるときの速度指令の変化量ΔS0(>0)の、送給速度急変処理を行うか否かを判定するための上限の閾値である。閾値ΔSth2は、例えば最大送給速度22m/minの10〜20%が増加するときの2.2〜4.4m/minに応じた値が設定される。なお、閾値ΔSth1および閾値ΔSth2は限定されない。また、閾値ΔSth1の絶対値と閾値ΔSth2の絶対値とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、閾値ΔSth1および閾値ΔSth2は、固定値でなくてもよく、変更前の速度指令S0によって変更してもよい。閾値ΔSth1および閾値ΔSth2は、送給速度の変更により電源部35が電圧異常とならないように、実験やシミュレーション結果に基づいて、適宜設定される。
条件判定部111は、送給速度の変化量が所定範囲内でないと判定した場合、送給速度急変処理を行う必要があると判定する。つまり、速度指令の変化量ΔS0が閾値ΔSth1(例えば−2.2〜−4.4m/minに応じた値)から閾値ΔSth2(例えば2.2〜4.4m/minに応じた値)までの範囲内でない場合に、送給速度急変処理を行う必要があると判定する。一方、条件判定部111は、送給速度の変化量が所定範囲内であると判定した場合には、送給速度急変処理を行う必要がないと判定する。条件判定部111は、判定結果を、速度指令設定部112に出力する。
速度指令設定部112は、プッシュ側の速度指令S1およびプル側の速度指令S2を設定する機能ブロックである。具体的には、速度指令設定部112は、条件判定部111の判定結果に基づいて、速度指令S1,S2を設定する。
条件判定部111が送給速度急変処理を行う必要がないと判定した場合、速度指令設定部112は、変更後の速度指令(S0+ΔS0)を速度指令S1として設定し、変更後の速度指令(S0+ΔS0)に定常状態加算値αを加算した値を速度指令S2として設定する。定常状態加算値αは、定常状態において送給部31の送給速度を送給部21の送給速度より大きくするために、加算される加算値である。定常状態加算値αは、送給部31の送給速度を送給部21の送給速度より数%大きくする値が設定される。なお、速度指令設定部112は、定常状態加算値αを、溶接ワイヤBの材質や直径などにより、また、溶接時かインチング時かによって変更してもよい。例えば、細径のアルミニウム製の溶接ワイヤBを用いる場合は座屈しやすいので、定常状態加算値は、比較的大きくなるように設定される。また、インチング時には、溶接ワイヤBが送給部31に到達したときに、送給部31による送給速度が瞬間的に低下する場合がある。この場合でも座屈を発生させないために、定常状態加算値は、インチング時の方が溶接時より大きくなるように設定される。
一方、条件判定部111が送給速度急変処理を行う必要があると判定した場合、速度指令設定部112は、速度指令S1を所定のタイミングごとに変化値βずつ変化させて、変更後の速度指令(S0+ΔS0)まで変化させる。また、速度指令設定部112は、速度指令S2を所定のタイミングごとに変化値βずつ変化させて、変更後の速度指令(S0+ΔS0)に定常状態加算値αを加算した値まで変化させる。本実施形態では、速度指令設定部112は、所定の変化時間T(例えば100ミリ秒)の間に例えば10段階で、速度指令S1および速度指令S2を変化させる。つまり、(1/10)Tごとに変化値βずつ変化させることで、変化時間T後にΔS0だけ変化させる。変化値βは、速度指令S1および速度指令S2を、時間経過に伴って徐々に変化させるための値であり、送給速度が増加する場合は正の値が設定され、送給速度が減少する場合は負の値が設定される。10段階で変化させる場合は、変化値βとして、(1/10)ΔS0が設定される。なお、変化時間Tおよび変化の段階数は限定されない。所定のタイミングごとに変化値βずつ変化させた場合に、電源部35が電圧異常とならないように、実験やシミュレーション結果に基づいて、適宜設定される。なお、送給速度が増加するとき(ΔS0>0)と減少するとき(ΔS0<0)とで、変化時間Tまたは変化の段階数を異ならせてもよい。また、速度指令S1,S2の変化率は、送給部21および送給部31のうち、過渡応答性の低い方に合わせてもよい。
送給速度急変処理開始時の速度指令S2は速度指令S1より定常状態加算値αだけ大きいので、送給速度急変処理の途中も終了時も、速度指令S2は速度指令S1より定常状態加算値αだけ大きい。なお、速度指令設定部112は、速度指令S2の方を基準にして、速度指令S1を速度指令S2より定常状態加算値αだけ小さい値としてもよい。つまり、例えば送給速度急変処理を行わない場合に、速度指令設定部112は、速度指令S1を変更後の速度指令(S0+ΔS0)から定常状態加算値αを減算した値に設定し、速度指令S2を変更後の速度指令(S0+ΔS0)に設定してもよい。
速度指令送信部113は、速度指令を送信する機能ブロックである。速度指令送信部113は、速度指令設定部112が設定した速度指令S1をワイヤ送給装置2の制御部22に送信し、速度指令S2を溶接トーチ3の制御部32に送信する。実際には、速度指令送信部113は、速度指令S1,S2を図示しない通信部に出力して、当該通信部に送信させる。
図4は、制御部11が行う送給制御処理を説明するためのフローチャートである。溶接時の溶接電圧(溶接電流)の変化および溶接ワイヤBの送給速度の変化のシーケンスは、溶接の種別および溶接条件に応じて、あらかじめプログラムとして図示しない記憶部に記憶されている。制御部11は、選択された溶接の種別および溶接条件に応じて、対応するプログラムを読み出して、これに応じて溶接電圧(溶接電流)および送給速度を制御する。送給速度は、例えば、溶接の工程におけるスローダウン期間、ホットスタート期間、定常送給期間、およびアンチスティック期間などの期間ごとに(期間内に変更する場合もある)設定されており、各期間の変更時に変更される。また、溶接作業の途中に作業者によって溶接条件が切り替えられた場合や、アーク切れ処理によるスローダウンへの移行時などにも、送給速度は変更される。これらの送給速度を変更するときに、送給制御処理が実行される。また、インチング時にも、送給速度を変更するときには、送給制御処理が実行される。
まず、条件判定部111によって、送給速度の変化量が所定範囲内であるか否かが判定される(S1)。具体的には、速度指令S0の変化量ΔS0が閾値ΔSth1から閾値ΔSth2までの範囲内であるか否かが判定される。
変化量が所定範囲内である場合、すなわち、ΔSth1≦ΔS0≦ΔSth2である場合(S1:YES)、送給速度急変処理を行う必要がないので、速度指令設定部112によって、速度指令S1として変更後の速度指令(S0+ΔS0)が設定され(S2)、速度指令S2として変更後の速度指令(S0+ΔS0)に定常状態加算値αを加算した値が設定される(S3)。そして、速度指令送信部113によって、速度指令S1がワイヤ送給装置2の制御部22に送信され、速度指令S2が溶接トーチ3の制御部32に送信され(S4)、送給制御処理が終了される。
一方、変化量が所定範囲内でないと判定された場合、すなわち、ΔS0<ΔSth1またはΔS0>ΔSth2である場合(S1:NO)、送給速度急変処理(ステップS5〜S9)が行われる。
送給速度急変処理では、まず、速度指令設定部112によって、速度指令S1が変化値βだけ変化され(S5)、速度指令S2が変化値βだけ変化される(S6)。そして、速度指令送信部113によって、速度指令S1がワイヤ送給装置2の制御部22に送信され、速度指令S2が溶接トーチ3の制御部32に送信される(S7)。
次に、速度指令S1が変更後の速度指令(S0+ΔS0)になったか否かが判別される(S8)。速度指令S1が変更後の速度指令(S0+ΔS0)になっていない場合(S8:NO)、所定時間の経過を待って(S9)、ステップS5に戻り、ステップS5〜S9を繰り返す。本実施形態では、変化時間Tの間に10段階で速度指令S1および速度指令S2を変化させるので、所定時間は、変化時間Tの(1/10)の時間である。そして、ステップS8において、速度指令S1が変更後の速度指令(S0+ΔS0)になった場合(S8:YES)、送給制御処理が終了される。
なお、図4のフローチャートに示す処理は一例であって、制御部11が行う送給制御処理は上述したものに限定されない。
図5は、溶接システムA1において送給速度急変処理が行われた場合の、溶接トーチ3の送給部31の状態をシミュレーションした結果を示すタイムチャートである。同図(a)は、速度指令S0の時間変化を示している。同図(b)は、速度指令S2の時間変化を示している。同図(c)は、送給モータ311の回転数の時間変化を示している。同図(d)は、電源部35から流れる駆動電流の時間変化を示している。同図(e)は、電源部35の電圧の時間変化を示している。
時刻t0で、速度指令S0が変化量ΔS0(<0)だけ急変して減少している(同図(a)参照)。しかし、変化量ΔS0が閾値ΔSth1より小さいことで送給速度急変処理が行われて、速度指令S2は、時刻t1までの変化時間Tの間で、時間経過に伴って徐々に減少している(同図(b)参照)。なお、本シミュレーションでは、速度指令S2がスロープ状に変化するように、変化の段階数を大きくしている。これにより、送給モータ311の回転数は、速度指令S2に応じて、時刻t1までの間、スロープ状に減少している(同図(c)参照)。
時刻t0で、速度指令S2は急変せず、変化時間Tをかけてゆっくり減少するので、電源部35から流れる駆動電流はほとんど「0」である(同図(d)参照)。また、電源部35の電圧は低下せず、逆に、送給モータ311の回転数の減少による回生電流によって上昇している(同図(e)参照)。
次に、溶接システムA1の作用効果について説明する。
本実施形態によると、速度指令設定部112は、条件判定部111が送給速度の変化量が所定範囲内でないと判定した場合、速度指令S2を一度に変化させず、時間経過に伴って徐々に変化させる。したがって、送給速度の変更時に、電源部35の電圧が低下することを抑制できる。これにより、PWM信号生成部321c(マイクロコンピュータ)へ供給する電圧が低下することを抑制できる。
また、本実施形態によると、速度指令設定部112は、条件判定部111が送給速度の変化量が所定範囲内でないと判定した場合、速度指令S1も一度に変化させず、時間経過に伴って徐々に変化させる。したがって、ワイヤ送給装置2の図示しない電源部が、溶接トーチ3の電源部35と同様の構成であったとしても、送給速度の変更時に、当該電源部の電圧が低下することを抑制できる。また、速度指令S1は速度指令S2に連動して徐々に変化するので、送給速度を変更する際に、速度指令S1が速度指令S2より早く上昇することを抑制できる。これにより、送給部21による送給速度が送給部31による送給速度を上回ることを防止して、溶接ワイヤBの座屈が発生することを抑制できる。また、送給速度急変処理のときの速度指令S1,S2の変化率を、送給部21および送給部31のうち、過渡応答性の低い方に合わせることで、過渡応答性の違いによる送給速度の違いを抑制して、座屈の発生を抑制することもできる。
また、本実施形態によると、速度指令設定部112は、条件判定部111が送給速度の変化量が所定範囲内であると判定した場合、送給速度急変処理を行わない。送給速度の変化量の絶対値が小さい場合は、送給モータ311の回転速度を急激に変化させる必要がないので、電源部35の電圧の低下が小さい。よって、送給速度急変処理を行う必要がない。したがって、このような場合に、必要のない送給速度急変処理を行うことを防止できる。
また、本実施形態によると、制御部11は、送給部31による送給速度が送給部21による送給速度より数%大きくなるように制御する。これにより、溶接ワイヤBに張力がかかるので、溶接ワイヤBの送給抵抗が抑制され、溶接ワイヤBの座屈が防止される。また、本実施形態によると、送給モータ311は送給モータ211より出力が小さく、加圧ロール313は加圧ロール213より加圧力が小さい。したがって、送給ロール312および加圧ロール313に対する溶接ワイヤBの滑りが発生しやすい。これにより、送給モータ311の負荷を軽減しつつ溶接ワイヤBに張力をかけることができる。
なお、本実施形態においては、送給速度急変処理において、速度指令S2を、変化時間Tの間に10段階で変化させる場合を例にしているが、これに限られない。速度指令設定部112は、より大きな段階数で変化させてもよいし、より小さな段階数で変化させてもよい。また、速度指令設定部112は、速度指令S2をスロープ状に変化させてもよい。速度指令S2をスロープ状に減少させる場合、速度指令設定部112は、速度指令S2を変化させる段階数を大きな数(例えば100段階)にすることで疑似的にスロープ状としてもよいし、演算式S2=S0+α+(ΔS0/T)・tを用いて、速度指令S2を時間tに応じて線形的に変化させてもよい。
本実施形態においては、定常状態加算値αを加算することで、定常状態における速度指令S2を速度指令S1より大きくする場合について説明したが、これに限られない。速度指令設定部112は、所定の値(例えば「1.03」)を乗算することで、定常状態における速度指令S2を速度指令S1より大きくしてもよい。
本実施形態においては、送給速度急変処理において、速度指令設定部112が速度指令S1を速度指令S2に連動して徐々に変化させる場合について説明したが、これに限られない。例えば、ワイヤ送給装置2の電源部が、十分な容量を有している場合や、モータ駆動用とマイクロコンピュータ駆動用とで電源系統を分けている場合は、速度指令設定部112は、速度指令S1を徐々に変化させなくてもよい。ただし、この場合、送給速度を増加させるときは、速度指令S1が速度指令S2より大きくなる期間ができる。これにより、座屈が発生する可能性が高まるのであれば、送給速度を増加させるときだけ、速度指令S1を速度指令S2に連動して徐々に変化させてもよい。送給速度を減少させるときは、速度指令S2が徐々に減少して、速度指令S1が急減しても、速度指令S2が速度指令S1より大きいので、座屈が発生する可能性は低い。
〔第2実施形態〕
図6および図7は、第2実施形態に係る溶接システムA2を説明するための図である。図6は、溶接システムA2の機能構成を示すブロック図である。図6において、溶接システムA1(図2参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。図7は、溶接システムA2における送給制御処理を説明するためのフローチャートである。溶接システムA2の全体構成を示す概要図は、第1実施形態(図1参照)と同様なので、記載および説明を省略する。
本実施形態に係る溶接システムA2は、送給速度急変処理のための機能構成を、制御部11ではなく制御部22および制御部32が備えている点で溶接システムA1と異なる。
第2実施形態に係る制御部11は、送給制御に関する内部構成として、条件判定部111を備えておらず、第1実施形態に係る速度指令設定部112とは機能が異なる速度指令設定部112’を備えている。第2実施形態に係る速度指令設定部112’は、送給速度の変更が指示された場合、変更後の送給速度に応じた速度指令(S0+ΔS0)に基づいて、速度指令S1および速度指令S2を設定する。具体的には、速度指令設定部112’は、変更後の速度指令(S0+ΔS0)を速度指令S1として設定し、変更後の速度指令(S0+ΔS0)を速度指令S2として設定する。そして、速度指令送信部113は、速度指令S1をワイヤ送給装置2の制御部22に送信し、速度指令S2を溶接トーチ3の制御部32に送信する。なお、速度指令設定部112’は、変更後の速度指令(S0+ΔS0)に定常状態加算値αを加算した値を速度指令S2として設定してもよい。なお、この場合は、後述する速度指令設定部323は、定常状態加算値αを加算しない。
第2実施形態に係る制御部32は、送給制御に関する内部構成として、条件判定部322および速度指令設定部323を備えている。
条件判定部322は、第1実施形態に係る条件判定部111に類似の機能ブロックであり、制御部11より入力される速度指令S2、および、制御部11より速度指令S2が入力される前の、溶接トーチ3の内部での速度指令S2’に基づいて、送給速度急変処理を行うか否かを判定する。条件判定部322は、速度指令S2の変化量ΔS2(=S2+α−S2’)が所定範囲内であるか否かを判定する。後述するように、速度指令S2’は、速度指令S2に定常状態加算値αを加算して設定されるので、変化量ΔS2の算出においては、定常状態加算値αを加算している。具体的には条件判定部322は、変化量ΔS2が閾値ΔS2th1から閾値ΔS2th2(>ΔS2th1)までの範囲内であるか否かを判定する。閾値ΔS2th1およびΔS2th2は、限定されない。条件判定部322は、速度指令S2の変化量ΔS2が所定範囲内でない(閾値ΔS2th1から閾値ΔS2th2までの範囲内でない)と判定した場合、送給速度急変処理を行う必要があると判定する。一方、条件判定部322は、速度指令S2の変化量ΔS2が所定範囲内である(閾値ΔS2th1から閾値ΔS2th2までの範囲内である)と判定した場合には、送給速度急変処理を行う必要がないと判定する。条件判定部322は、判定結果を、速度指令設定部323に出力する。
速度指令設定部323は、第1実施形態に係る速度指令設定部112に類似の機能ブロックであり、制御部11より入力される速度指令S2と、条件判定部322より入力される判定結果とに基づいて、溶接トーチ3の内部での速度指令S2’を設定する。具体的には、速度指令設定部323は、条件判定部322が送給速度急変処理を行う必要がないと判定した場合、速度指令S2に定常状態加算値αを加算した値を速度指令S2’として設定する。定常状態加算値αは、第1実施形態に係る定常状態加算値αと同様である。一方、速度指令設定部323は、条件判定部322が送給速度急変処理を行う必要があると判定した場合、速度指令S2’を所定のタイミングごとに変化値βずつ変化させて、速度指令S2に定常状態加算値αを加算した値まで変化させる。変化値βは、第1実施形態に係る変化値βと同様である。本実施形態では、速度指令設定部323は、所定の変化時間T(例えば100ミリ秒)の間に例えば10段階で、速度指令S2’を変化させる。つまり、(1/10)Tごとに変化値βずつ変化させることで、変化時間T後にΔS0だけ変化させる。
第2実施形態に係る制御部22は、送給制御に関する内部構成として、条件判定部222および速度指令設定部223を備えている。
条件判定部222は、条件判定部322と同様の機能ブロックであり、制御部11より入力される速度指令S1、および、制御部11より速度指令S1が入力される前の、ワイヤ送給装置2の内部での速度指令S1’に基づいて、送給速度急変処理を行うか否かを判定する。条件判定部222は、速度指令S1の変化量ΔS1(=S1−S1’)が所定範囲内であるか否かを判定する。具体的には条件判定部222は、変化量ΔS1が閾値ΔS1th1から閾値ΔS1th2(>ΔS1th1)までの範囲内であるか否かを判定する。閾値ΔS1th1および閾値ΔS1th2は、限定されない。条件判定部222は、速度指令S1の変化量ΔS1が所定範囲内でない(閾値ΔS1th1から閾値ΔS1th2までの範囲内でない)と判定した場合、送給速度急変処理を行う必要があると判定する。一方、条件判定部222は、速度指令S1の変化量ΔS1が所定範囲内である(閾値ΔS1th1から閾値ΔS1th2までの範囲内である)と判定した場合には、送給速度急変処理を行う必要がないと判定する。条件判定部222は、判定結果を、速度指令設定部223に出力する。なお、変化量ΔS2と変化量ΔS1とは一致する。また、条件判定部222での判定と、条件判定部322での判定とを一致させるために、閾値ΔS1th1は閾値ΔS2th1と同じ値が設定され、閾値ΔS1th2は閾値ΔS2th2と同じ値が設定される。
速度指令設定部223は、速度指令設定部323と同様の機能ブロックであり、制御部11より入力される速度指令S1と、条件判定部222より入力される判定結果とに基づいて、ワイヤ送給装置2の内部での速度指令S1’を設定する。具体的には、速度指令設定部223は、条件判定部222が送給速度急変処理を行う必要がないと判定した場合、速度指令S1を速度指令S1’として設定する。一方、速度指令設定部223は、条件判定部222が送給速度急変処理を行う必要があると判定した場合、速度指令S1’を所定のタイミングごとに変化値βずつ変化させて、速度指令S1まで変化させる。本実施形態では、速度指令S1’と速度指令S2’とを連動させるために、変化時間Tおよび変化の段階数を、速度指令設定部323と一致させている。なお、変化時間Tおよび変化の段階数は、速度指令設定部323と一致させなくてもよい。送給速度急変処理開始時の速度指令S2’は速度指令S1’より定常状態加算値αだけ大きいので、速度指令S1’と速度指令S2’とを連動させている場合は、送給速度急変処理の途中も終了時も、速度指令S2’は速度指令S1’より定常状態加算値αだけ大きい。
図7(a)は、制御部32が行う送給制御処理を説明するためのフローチャートである。当該送給制御処理は、制御部11より速度指令S2が入力されたときに実行される。
まず、条件判定部322によって、送給速度の変化量が所定範囲内であるか否かが判定される(S11)。具体的には、速度指令S2の変化量ΔS2が閾値ΔS2th1から閾値ΔS2th2までの範囲内であるか否かが判定される。
変化量が所定範囲内である場合、すなわち、ΔS2th1≦ΔS2≦ΔS2th2である場合(S11:YES)、送給速度急変処理を行う必要がないので、速度指令設定部323によって、速度指令S2’として速度指令S2に定常状態加算値αを加算した値が算出され(S13)、設定される(S14)。そして、送給制御処理が終了される。
一方、変化量が所定範囲内でないと判定された場合、すなわち、ΔS2<ΔS2th1またはΔS2>ΔS2th2である場合(S11:NO)、送給速度急変処理(ステップS16〜S19)が行われる。
送給速度急変処理では、まず、速度指令設定部323によって、速度指令S2’が変化値βだけ変化され(S16)、設定される(S17)。次に、速度指令S2’が速度指令S2に定常状態加算値αを加算した値(定常状態の指令値)になったか否かが判別される(S18)。速度指令S2’が定常状態の指令値でない場合(S18:NO)、所定時間の経過を待って(S19)、ステップS16に戻り、ステップS16〜S19を繰り返す。そして、ステップS18において、速度指令S2’が定常状態の指令値になった場合(S18:YES)、送給制御処理が終了される。
図7(b)は、制御部22が行う送給制御処理を説明するためのフローチャートである。当該送給制御処理は、制御部11より速度指令S1が入力されたときに実行される。
まず、条件判定部222によって、送給速度の変化量が所定範囲内であるか否かが判定される(S21)。具体的には、速度指令S1の変化量ΔS1が閾値ΔS1th1から閾値ΔS1th2までの範囲内であるか否かが判定される。
変化量が所定範囲内である場合、すなわち、ΔS1th1≦ΔS2≦ΔS1th2である場合(S21:YES)、送給速度急変処理を行う必要がないので、速度指令設定部223によって、速度指令S1’として速度指令S1が入力され(S23)、設定される(S24)。そして、送給制御処理が終了される。
一方、変化量が所定範囲内でないと判定された場合、すなわち、ΔS1<ΔS1th1またはΔS1>ΔS1th2である場合(S21:NO)、送給速度急変処理(ステップS26〜S29)が行われる。
送給速度急変処理では、まず、速度指令設定部223によって、速度指令S1’が変化値βだけ変化され(S26)、設定される(S27)。次に、速度指令S1’が速度指令S1になったか否かが判別される(S28)。速度指令S1’が速度指令S1になっていない場合(S28:NO)、所定時間の経過を待って(S29)、ステップS26に戻り、ステップS26〜S29を繰り返す。そして、ステップS28において、速度指令S1’が速度指令S1になった場合(S28:YES)、送給制御処理が終了される。
なお、図7(a),(b)のフローチャートに示す処理は一例であって、制御部32および制御部22が行う送給制御処理は上述したものに限定されない。
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。なお、ワイヤ送給装置2の電源部が、十分な容量を有している場合や、モータ駆動用とマイクロコンピュータ駆動用とで電源系統を分けている場合は、速度指令S1’を徐々に変化させなくてもよい。したがって、この場合は、ワイヤ送給装置2の制御部22は、条件判定部222および速度指令設定部223を備えずに、制御部11より入力される速度指令S1をそのまま速度指令S1’として設定してもよい。ただし、この場合、送給速度を増加させるときは、速度指令S1’が速度指令S2’より大きくなる期間ができる。これにより、座屈が発生する可能性が高まるのであれば、送給速度を増加させるときだけ、速度指令S1’を速度指令S2’に連動して徐々に変化させてもよい。送給速度を減少させるときは、速度指令S2’が徐々に減少して、速度指令S1’が急減しても、速度指令S2’が速度指令S1’より大きいので、座屈が発生する可能性は低い。
〔第3実施形態〕
図8および図9は、第3実施形態に係る溶接システムA3を説明するための図である。図8は、溶接システムA3の全体構成を示す概要図である。図9は、溶接システムA3の機能構成を示すブロック図である。これらの図において、溶接システムA1(図1および図2参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。なお、図9においては、溶接トーチ3’の内部構成の記載を省略している。
本実施形態に係る溶接システムA3は、溶接トーチ3’がプル側の送給装置として機能せず、代わりにプル側の送給装置となるプルフィーダ9をさらに備えている点で溶接システムA1と異なる。
溶接トーチ3’は、第1実施形態に係る溶接トーチ3(図2参照)において、送給部31および駆動部321を備えていないものである。つまり、溶接トーチ3’は溶接ワイヤBを送給する機能を有しておらず、その他の機能については溶接トーチ3と同様である。
プルフィーダ9は、溶接ワイヤBを送給するものであり、溶接ワイヤBを牽引して張力をかけることで、溶接ワイヤBの送給抵抗を減少させる。プルフィーダ9は、図8に示すように、ワイヤ送給装置2と溶接トーチ3’との間の溶接ワイヤBの送給経路上で、溶接トーチ3’寄りに配置されている。具体的には、プルフィーダ9は、トーチケーブル39によって、ワイヤ送給装置2に接続されている。また、プルフィーダ9は、トーチケーブル39と同様の構成であるトーチケーブル39’によって、溶接トーチ3’に接続されている。トーチケーブル39の長さが例えば数十m程度であるのに対して、トーチケーブル39’の長さは例えば数m程度である。プルフィーダ9とワイヤ送給装置2とは、トーチケーブル39内部に設けられている通信線(図示なし)を介して通信を行う。また、プルフィーダ9と溶接トーチ3’とは、トーチケーブル39’内部に設けられている通信線(図示なし)を介して通信を行う。プルフィーダ9と溶接電源装置1とは、ワイヤ送給装置2を仲介することで、通信を行う。なお、プルフィーダ9と溶接電源装置1とが直接通信を行ってもよい。また、通信方法は限定されない。また、溶接電源装置1、ワイヤ送給装置2およびプルフィーダ9間の情報の伝達は、制御線を介して、電圧や電流のレベルやパルスによって行ってもよい。プルフィーダ9は、トーチケーブル39内部に設けられている電力伝送線(図示なし)を介して、ワイヤ送給装置2から電力を供給される。なお、プルフィーダ9は、溶接電源装置1から直接電力を供給されてもよいし、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2以外から電力を供給されてもよい。図9に示すように、プルフィーダ9は、送給部91、制御部92、および電源部95を備えている。なお、操作部や表示部などを備えていてもよい。
送給部91は、制御部92より入力される駆動信号によって駆動され、溶接ワイヤBを牽引する構成である。送給部91は、送給モータ911、送給ロール912および加圧ロール913を備えている。
送給モータ911は、溶接ワイヤBを送給するための駆動力を発生させるものである。送給モータ911は、制御部92(後述する駆動部921)より入力される駆動信号によって駆動される。送給モータ911は、例えばブラシレスモータであり、駆動信号が調整されることで回転速度が制御される。制御部92(後述する駆動部921)は、例えばパルス幅変調などにより駆動信号のパルス幅を調整することで、送給モータ911の回転速度を制御する。送給モータ911は、プルフィーダ9の小型軽量化のため比較的小型のモータとされており、ワイヤ送給装置2の送給モータ211より小型のモータである。送給モータ911は、送給モータ211より出力が小さい。
送給ロール912は、送給モータ911の回転軸に取り付けられており、送給モータ911で発生するトルクが伝達されて回転する。なお、送給モータ911のトルクを送給ロール912に伝達させる方法は限定されない。溶接ワイヤBは送給ロール912に接触しており、送給ロール912のトルクが溶接ワイヤBを牽引する接線力に変換される。したがって、送給モータ911が駆動することで、溶接ワイヤBが牽引される。
加圧ロール913は、溶接ワイヤBを挟んで、送給ロール912に対向するように配置されており、溶接ワイヤBを送給ロール912側に加圧する。これにより、溶接ワイヤBは、送給ロール912の回転に応じて送給される。加圧ロール913の加圧力は、送給部21の加圧ロール213の加圧力より小さく設定されている。
制御部92は、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されており、プルフィーダ9を制御する。制御部92は、溶接電源装置1の制御部11からの指令に基づいて、送給部91を駆動させることで溶接ワイヤBの送給を行う。制御部92は、駆動部921を備えている。
駆動部921は、送給部91の駆動を制御して、溶接ワイヤBの送給を制御する。駆動部921は、溶接電源装置1の制御部11より受信した速度指令S2に基づいて、駆動信号を送給部91の送給モータ911に出力する。駆動部921は、スイッチ部921aおよびスイッチ制御部921bを備えている。スイッチ部921aおよびスイッチ制御部921bは、それぞれ、第1実施形態に係るスイッチ部321aおよびスイッチ制御部321bと同様のものである。送給モータ911には図示しないエンコーダが取り付けられており、スイッチ制御部921bは、当該エンコーダより入力されるパルス信号から送給モータ911の回転速度を検出する。本実施形態では、プルフィーダ9の小型軽量化のため、当該エンコーダは、比較的小型である磁気式のエンコーダである。なお、エンコーダは限定されず、光学式のエンコーダであってもよい。スイッチ制御部921bは、検出された送給モータ911の回転速度が速度指令S2に応じた回転速度に一致するように駆動信号を調整して、フィードバック制御を行う。なお、回転速度の検出方法は限定されない。スイッチ制御部921bは、図示しないPWM信号生成部およびスイッチ駆動部を備えている。当該PWM信号生成部およびスイッチ駆動部は、それぞれ第1実施形態に係るPWM信号生成部321cおよびスイッチ駆動部321dと同様のものである。
電源部95は、第1実施形態に係る電源部35と同様のものであり、ワイヤ送給装置2の図示しない電源部から図示しない電力伝送線を介して電力を供給され、プルフィーダ9の各部に電力を供給する。なお、電源部95は、溶接電源装置1から直接電力を供給されてもよいし、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2以外から電力を供給されてもよい。本実施形態では、電源部95は、例えば48Vの電圧を供給され、図示しないコンデンサに電力を蓄積し、当該コンデンサの端子間電圧48Vをスイッチ部921aに供給する。また、電源部95は、コンデンサの端子間電圧48Vを例えば16Vに降圧してスイッチ駆動部に供給し、16Vの電圧を例えば5Vに降圧してPWM信号生成部に供給する。
本実施形態においては、送給部21が本発明の「第1送給部」に相当し、送給モータ211が本発明の「第1送給モータ」に相当し、送給ロール212が本発明の「第1送給ロール」に相当する。また、送給部91が本発明の「第2送給部」に相当し、送給モータ911が本発明の「第2送給モータ」に相当し、送給ロール912が本発明の「第2送給ロール」に相当する。また、制御部11、制御部22および制御部92が、本発明の「制御部」に相当する。
本実施形態によると、速度指令設定部112は、条件判定部111が送給速度の変化量が所定範囲内でないと判定した場合、速度指令S2を一度に変化させず、時間経過に伴って徐々に変化させる。したがって、送給速度の変更時に、電源部95の電圧が低下することを抑制できる。これにより、PWM信号生成部(マイクロコンピュータ)へ供給する電圧が低下することを抑制できる。本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、本実施形態によると、溶接トーチ3’は溶接ワイヤBを送給する構成を備える必要がないので、小型軽量化が可能である。なお、本実施形態において、溶接トーチ3’が制御部32を備えず、プルフィーダ9の制御部92が、溶接トーチ3’の表示部34および操作部33を制御してもよい。この場合、溶接トーチ3’の更なる小型化に寄与する。
〔第4実施形態〕
図10は、第4実施形態に係る溶接システムA4を説明するための図であり、溶接システムA4の機能構成を示すブロック図である。図10において、溶接システムA1(図2参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。なお、図10においては、溶接トーチ3の内部構成の一部の記載を省略している。
本実施形態に係る溶接システムA4は、制御部11が駆動部221を備え、制御部22が駆動部321を備えている点で、溶接システムA1と異なる。
駆動部221は、速度指令設定部112が設定した速度指令S1を入力され、速度指令S1に基づいて駆動信号を送給部21の送給モータ211に出力する。つまり、溶接電源装置1が、送給モータ211に供給する駆動信号を調整することで、送給モータ211の回転速度を制御する。また、駆動部321は、速度指令送信部113から受信した速度指令S2に基づいて、駆動信号を送給部31の送給モータ311に出力する。つまり、ワイヤ送給装置2が、送給モータ311に供給する駆動信号を調整することで、送給モータ311の回転速度を制御する。本実施形態においては、制御部11および制御部22が、本発明の「制御部」に相当する。
電源部25は、第1実施形態に係る電源部35と同様のものであり、溶接電源装置1の図示しない電源部から図示しない電力伝送線を介して電力を供給され、ワイヤ送給装置2の各部に電力を供給する。なお、電源部35は、溶接電源装置1以外から電力を供給されてもよい。本実施形態では、電源部25は、例えば48Vの電圧を供給され、図示しないコンデンサに電力を蓄積し、当該コンデンサの端子間電圧48Vをスイッチ部321aに供給する。また、電源部25は、コンデンサの端子間電圧48Vを例えば16Vに降圧してスイッチ駆動部321d(スイッチ制御部321b)に供給し、16Vの電圧を例えば5Vに降圧してPWM信号生成部321c(スイッチ制御部321b)に供給する。
本実施形態によると、速度指令設定部112は、条件判定部111が送給速度の変化量が所定範囲内でないと判定した場合、速度指令S2を一度に変化させず、時間経過に伴って徐々に変化させる。したがって、送給速度の変更時に、電源部25の電圧が低下することを抑制できる。これにより、PWM信号生成部321c(マイクロコンピュータ)へ供給する電圧が低下することを抑制できる。本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、本実施形態によると、溶接トーチ3が駆動部321を備えていないので、溶接トーチ3の小型化に寄与する。なお、本実施形態において、溶接トーチ3が制御部32を備えず、ワイヤ送給装置2の制御部22が、溶接トーチ3の表示部34および操作部33を制御してもよい。この場合、溶接トーチ3の更なる小型化に寄与する。
〔第5実施形態〕
図11は、第5実施形態に係る溶接システムA5を説明するための図であり、溶接システムA5の機能構成を示すブロック図である。図11において、溶接システムA1(図2参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。なお、図11においては、溶接トーチ3の内部構成の一部の記載を省略している。
本実施形態に係る溶接システムA5は、制御部11が駆動部221を備えている点で、溶接システムA1と異なる。駆動部221は、速度指令設定部112が設定した速度指令S1を入力され、速度指令S1に基づいて駆動信号を送給部21の送給モータ211に出力する。つまり、溶接電源装置1が、送給モータ211に供給する駆動信号を調整することで、送給モータ211の回転速度を制御する。本実施形態においては、制御部11および制御部32が、本発明の「制御部」に相当する。
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、本実施形態によると、ワイヤ送給装置2が駆動部221を備えていないので、ワイヤ送給装置2の小型化に寄与する。なお、本実施形態において、ワイヤ送給装置2は、操作部や表示部を制御するための制御部22を備えなくてもよい。この場合、ワイヤ送給装置2の更なる小型化に寄与する。
なお、駆動部221および駆動部321をどこに配置するかは限定されない。例えば、溶接電源装置1の制御部11が、駆動部221および駆動部321を備えてもよい。つまり、溶接電源装置1が、送給モータ211および送給モータ311に供給する駆動信号を調整することで、送給モータ211および送給モータ311の回転速度を制御する構成でもよい。当該変形例の場合、制御部11が、本発明の「制御部」に相当する。
上記第1〜5実施形態においては、溶接システムA1〜A5において溶接ワイヤBを送給する場合について説明したが、これに限られない。本発明は、溶接ワイヤB以外のワイヤを送給するワイヤ送給システムにおいても適用可能である。例えば、溶射システムにおいて溶射ワイヤを送給するワイヤ送給システムや、ブレージングシステムにおいてブレージングワイヤを送給するワイヤ送給システムにおいても、本発明を適用できる。
本発明に係るワイヤ送給システムおよび溶接システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るワイヤ送給システムおよび溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。