以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、偏向器212、制限アパーチャ基板206、対物レンズ207、及び偏向器208,209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210と、電流測定用のファラディーカップ106とが配置される。
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、アンプ137、ステージ制御回路138、ステージ位置検出器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144,146を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、ステージ制御回路138、アンプ137、ステージ位置検出器139及び記憶装置140,142,144,146は、図示しないバスを介して互いに接続されている。記憶装置140(記憶部)には、描画データが描画装置100の外部から入力され、格納されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ機構204が図示しないバスを介して接続されている。ステージ位置検出器139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、かかる反射光の情報を利用してXYステージ105の位置を測定する。ファラディーカップ106は、アンプ137に接続され、ファラディーカップ106で検出されるアナログの電流量信号は、アンプ137でデジタル信号に変換された上で増幅されて制御計算機110に出力される。
制御計算機110内には、検出部50、特定部51、不良パターンデータ生成部52、反転処理部53、ラスタライズ部54、ラスタライズ部55、合成部60、パスデータ生成部62、画素領域補正部64、照射時間演算部68、配列加工部70、及び描画制御部72が配置される。ラスタライズ部55内には、面積密度演算部56、補正照射係数演算部57、面積密度演算部58、及び照射量演算部59が配置される。検出部50、特定部51、不良パターンデータ生成部52、反転処理部53、ラスタライズ部54、ラスタライズ部55(面積密度演算部56、補正照射係数演算部57、面積密度演算部58、及び照射量演算部59)、合成部60、パスデータ生成部62、画素領域補正部64、照射時間演算部68、配列加工部70、及び描画制御部72といった各「〜部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。検出部50、特定部51、不良パターンデータ生成部52、反転処理部53、ラスタライズ部54、ラスタライズ部55(面積密度演算部56、補正照射係数演算部57、面積密度演算部58、及び照射量演算部59)、合成部60、パスデータ生成部62、画素領域補正部64、照射時間演算部68、配列加工部70、及び描画制御部72に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。図2では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、図2のように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
図3は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の一部を示す上面概念図である。なお、図3において、電極24,26と制御回路41の位置関係は一致させて記載していない。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、図3に示すように、図2に示した成形アパーチャアレイ基板203の各穴22に対応する位置にマルチビームのそれぞれのビームの通過用の通過孔25(開口部)が開口される。そして、各通過孔25の近傍位置に、該当する通過孔25を挟んでブランキング偏向用の電極24,26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、各通過孔25の近傍には、各通過孔25用の例えば電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。各ビーム用の2つの電極24,26の他方(例えば、電極26)は、グランド接続される。また、各制御回路41は、制御信号用の必要な本数のnビットの配線が接続される。各制御回路41は、このnビットの配線の他、クロック信号線および電源用の配線等が接続される。マルチビームを構成するそれぞれのビーム毎に、電極24,26と制御回路41とによる個別ブランキング機構47が構成される。偏向制御回路130から各制御回路41用の制御信号が出力される。各制御回路41内には、図示しないシフトレジストが配置され、例えば、n×m本のマルチビームの1列分の制御回路内のシフトレジスタが直列に接続される。そして、例えば、n×m本のマルチビームの1列分の制御信号がシリーズで送信され、例えば、n回のクロック信号によって各ビームの制御信号が対応する制御回路41に格納される。
各通過孔25を通過する電子ビームは、それぞれ独立に対となる2つの電極24,26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。マルチビーム20のうちの対応ビームをそれぞれブランキング偏向する。このように、複数のブランカーが、成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビーム20のうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ部材203全体を照明する。成形アパーチャアレイ部材203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングアパーチャアレイ部204のそれぞれ対応するブランカー(個別ブランキング機構)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を演算された描画時間(照射時間)の間だけビームON、それ以外はビームOFFとなるように偏向する(ブランキング偏向を行う)。
ブランキングアパーチャアレイ部204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングアパーチャアレイ部204のブランカーによってビームOFFとなるように偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ部204のブランカーによって偏向されなかった或いはビームONとなるように偏向された電子ビーム20は、図1に示すように制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。かかる個別ブランキング機構のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ部材206は、個別ブランキング機構によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより、1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208及び偏向器209によって、制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの描画位置(照射位置)に照射される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ部材203の複数の穴の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画装置100は、描画位置をシフトしながら順にショットビームを照射していく方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
図4は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。図4において、試料101に描画されるチップパターン(複数のチップが一緒に描画される場合には複数のチップが1チップにマージされたマージチップパターン)の領域が試料101の描画領域30となる。かかる描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。実施の形態1では、各領域について、位置をずらしながら複数回描画する多重描画を行う。図4の例では、2パス(多重度2)の描画及び1回の追加パス描画の多重描画を行う場合について示している。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32の1パス目を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の1パス目の描画終了後、例えば、XYステージ105をy方向にストライプ領域の1/2の距離だけ移動させて、第1番目のストライプ領域の2パス目の描画を行う。この際、第1番目のストライプ領域の上半分と第2番目のストライプ領域の下半分が同時に描画される。かかる場合に、1パス目と同様、x方向へと描画を進めても良いし、或いは、逆方向の−x方向へと描画を進めても良い。すなわち、再びx方向へと描画を進める場合には、2パス目の第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置で、第1番目のストライプ領域の上半分と第2番目のストライプ領域の下半分が同時に描画される位置に、一回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34が位置するように調整して、描画(露光)を行う。次に、XYステージ105をy方向にストライプ領域の1/2の距離だけ移動させて、第2番目のストライプ領域の全体の描画を行う。さらにXYステージ105をy方向にストライプ領域の1/2の距離だけ移動させて描画を行うと、第2番目のストライプ領域の上半分と第3番目のストライプ領域の下半分が同時に描画される。これを繰り返して2回ずらし多重の描画が実施される。なお、上記の説明では、第1番目のストライプ領域の下半分は1回しか描画されていないが、この部分は、第1番目のストライプ領域の下半分だけ別途描画する。図4の例では、2パスに設定された場合を示しているがこれに限るものではない。設定された多重度M(パス数M)だけ描画(露光)を繰り返す。この際、各パス毎のずらし量はストライプ領域の1/Mに制限される必要はなく自由に設定することができる。そして、上記の多重描画に加えて、後述する追加パスの描画を行う。追加パスの描画は、第1番目のストライプ領域の2パス目が終了後に第1番目のストライプ領域に関わる追加パスの描画を行うとステージ移動が少なくて好適である。ただし、追加パスを含めて、ストライプの描画順序は自由に設定されて構わない。各ストライプを描画する際は、交互に向きを変えながら描画することでXYステージ105の移動時間が短縮でき、描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、成形アパーチャアレイ基板203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で各穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
図5は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。図5において、ストライプ領域32には、例えば、試料101面上におけるマルチビーム20のビームサイズピッチで格子状に配列される複数の制御ピクセル27(制御グリッド)が設定される。例えば、10nm程度の配列ピッチにすると好適である。かかる複数の制御ピクセル27が、マルチビーム20の設計上の照射位置となる。制御ピクセル27の配列ピッチはビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく偏向器209の偏向位置として制御可能な任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズは制御ピクセル27の配列ピッチのk倍のサイズで設定される。但し、ビームサイズが制御ピクセルより小さいと精度が悪化する問題があり、また、ビームサイズが制御ピクセルサイズに対して極端に大きくすると描画対象のピクセル数及びデータ量が過大となって描画時間を増加させることになる。そのため、kは1程度から5程度までの実数にすると好適である。例えば、最近の精度上の要求に対しては、10nmビームで5nmピクセル程度にすると好適である。そして、各制御ピクセル27を中心とした、制御ピクセル27の配列ピッチと同サイズでメッシュ状に仮想分割された複数の画素36が設定される。以下、制御ピクセル27を画素36の中心グリッドの意味として用いる。
各画素36は、マルチビームの1つのビームあたりの照射単位領域となる。図5の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。照射領域34のx方向サイズは、マルチビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じた値で定義できる。照射領域34のy方向サイズは、マルチビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じた値で定義できる。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではない。照射領域34の位置をy方向に一括して偏向し移動させながら描画することにより、さらに広い幅のストライプ領域32を描画することもできる。この場合、ストライプ領域32の幅を照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。図5の例では、例えば512×512列のマルチビームの図示を8×8列のマルチビームに省略して示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチが設計上のマルチビーム20の各ビーム間のピッチとなる。図5の例では、隣り合う4つの画素28で囲まれると共に、4つの画素28のうちの1つの画素28を含む正方形の領域で1つのサブ照射領域29(ビーム間ピッチ領域)を構成する。図5の例では、各サブ照射領域29は、4×4(=16)画素で構成される場合を示している。
図6は、実施の形態1におけるマルチビームの描画方法の一例を説明するための図である。図6では、図5で示したストライプ領域32を描画するマルチビームのうち、y方向3段目の座標(1,3),(2,3),(3,3),・・・,(512,3)の各ビームで描画するグリッドの一部を示している。図6の例では、例えば、XYステージ105が8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)する場合を示している。かかる4つの画素を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。図6の例では、8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)することで1回のトラッキングサイクルを実施する場合を示している。
具体的には、ステージ位置検出器139が、ミラー210にレーザを照射して、ミラー210から反射光を受光することでXYステージ105の位置を測長する。測長されたXYステージ105の位置は、制御計算機110に出力される。制御計算機110内では、描画制御部72がかかるXYステージ105の位置情報を偏向制御回路130に出力する。偏向制御回路130内では、XYステージ105の移動に合わせて、XYステージ105の移動に追従するようにビーム偏向するための偏向量データ(トラッキング偏向データ)を演算する。デジタル信号であるトラッキング偏向データは、DACアンプ134に出力され、DACアンプ134は、デジタル信号をアナログ信号に変換の上、増幅して、トラッキング偏向電圧として偏向器208に印加する。
そして、描画機構150は、当該ショットにおけるマルチビームの各ビームのそれぞれの照射時間のうちの最大描画時間Ttr内のそれぞれの画素36に対応する描画時間、各画素36にマルチビーム20のそれぞれ対応するビームを照射する。
図6の例では、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=0からt=最大描画時間Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば最下段右から1番目の画素に1ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=0からt=Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
当該パスのショットのビーム照射開始から当該パスのショットの最大描画時間Ttrが経過後、偏向器208によってトラッキング制御のためのビーム偏向を継続しながら、トラッキング制御のためのビーム偏向とは別に、偏向器209によってマルチビーム20を一括して偏向することによって各ビームの描画位置(前回の描画位置)を次の各ビームの描画位置(今回の描画位置)にシフトする。図6の例では、時刻t=Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29の最下段右から1番目の画素から下から2段目かつ右から1番目の画素へと描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は定速移動しているのでトラッキング動作は継続している。
そして、トラッキング制御を継続しながら、シフトされた各ビームの描画位置に当該ショットの最大描画時間Ttr内のそれぞれ対応する描画時間、マルチビーム20のそれぞれ対応するビームを照射する。図6の例では、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば下から2段目かつ右から1番目の画素に2ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間にXYステージ105は例えばさらに2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
図6の例では、時刻t=2Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29の下から2段目かつ右から1番目の画素から下から3段目かつ右から1番目の画素へと偏向器209によるマルチビームの一括偏向により描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。そして、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば下から3段目かつ右から1番目の画素に3ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。時刻t=3Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29の下から3段目かつ右から1番目の画素から下から4段目かつ右から1番目の画素へと偏向器209によるマルチビームの一括偏向により描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。そして、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば下から4段目かつ右から1番目の画素に4ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。以上により、注目サブ照射領域29の右から1番目の画素列の描画が終了する。
図6の例では初回位置から3回シフトされた後の各ビームの描画位置に対応するビームを照射した後、DACアンプユニット134は、トラッキング制御用のビーム偏向をリセットすることによって、トラッキング位置をトラッキング制御が開始されたトラッキング開始位置に戻す。言い換えれば、トラッキング位置をステージ移動方向と逆方向に戻す。図6の例では、時刻t=4Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29のトランキングを解除して、x方向に8ビームピッチ分ずれた注目グリッドにビームを振り戻す。なお、図6の例では、座標(1,3)のビーム(1)について説明したが、その他の座標のビームについてもそれぞれの対応するグリッドに対して同様に描画が行われる。すなわち、座標(n,m)のビームは、t=4Ttrの時点で対応するグリッドに対して右から1番目の画素列の描画が終了する。例えば、座標(2,3)のビーム(2)は、図6のビーム(1)用の注目サブ照射領域29の−x方向に隣り合うグリッドに対して右から1番目の画素列の描画が終了する。
なお、各グリッドの右から1番目の画素列の描画は終了しているので、トラッキングリセットした後に、次回のトラッキングサイクルにおいてまず偏向器209は、各グリッドの下から1段目かつ右から2番目の画素にそれぞれ対応するビームの描画位置を合わせる(シフトする)ように偏向する。
以上のように同じトラッキングサイクル中は偏向器208によって照射領域34を試料101に対して相対位置が同じ位置になるように制御された状態で、偏向器209によって1画素ずつシフトさせながら当該パスの各ショットを行う。そして、トラッキングサイクルが1サイクル終了後、照射領域34のトラッキング位置を戻してから、例えば1画素ずれた位置に1回目のショット位置を合わせ、次のトラッキング制御を行いながら偏向器209によって1画素ずつシフトさせながら各ショットを行う。ストライプ領域32の描画中、かかる動作を繰り返すことで、図4の下段に示すように、照射領域34a〜34oといった具合に順次照射領域34の位置が移動していき、当該ストライプ領域の描画を行っていく。なお、描画方法はこの例に限られるものではなく種々考えられる。それらは、要求に応じて選択されれば良い。
実施の形態1では、マルチビーム20に常時ONとなる不良ビームが存在した場合に、描画領域全面に均一なドーズバイアスを与えることにより異常パターンの発生を抑えて補正を行う方法を説明する。実施の形態では、不良ビームに限らず、望まない照射量(露光量)がある場合に、均一なドーズバイアスを与えることでその影響を無くす描画に適用できる。ここでは、ストライプずらし多重描画でビーム個々に照射量指定可能なマルチビーム描画装置を想定する。ストライプずらし多重描画により、不良ビームで照射される部分が重ならないように、ストライプ毎にずらして描画すると共に、多重描画により、不良ビームで照射されるドーズ量をパターン形成用のドーズ量よりも低く抑える。例えば、4回多重ならば、不良ビームで描画されるドーズ量は、通常描画の1/4になる。できれば、1/8以下にするのが好ましい。
図7は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図7において、実施の形態1における描画方法は、不良ビーム検出工程(S102)と、不良領域特定工程(S104)と、不良パターンデータ生成工程(S106)と、リバースパターンデータ生成工程(S108)と、リバースパターンピクセルデータ生成工程(S110)と、描画パターンピクセルデータ生成工程(S130)と、合成工程(S140)と、パス毎のドーズ量演算工程(S144)と、照射時間データ演算工程(S146)と、描画工程(S150)と、いう一連の工程を実施する。
描画処理を行う際、設定されたビーム間ピッチで各ビームが照射されることが理想的であるが、実際には様々な要因の歪みにより各ショットのビーム照射位置が所望する制御ピクセル位置からずれてしまう。歪みの要因としては、例えば、レンズ条件や偏向量の調整残による偏向歪み(光学歪)、また、光学系部品の設計精度や設置位置精度等により原理的に存在するフィールド歪み(転写歪み)等が存在する。これらに限らず、その他の何らかの要因による歪が存在してもよい。これらを要因とする歪みによってビームの照射位置がずれ、所望するパターンの位置ずれや形状精度の劣化が発生してしまう。そこで、まず、予め、マルチビーム20の各ビームの照射位置の位置ずれ量を測定しておく。例えば、レジストが塗布された基板上にビーム毎に独立した図形パターンを描画した後、現像、及びアッシングを行う。そして、各図形パターンの位置を位置測定器で測定することで、設計位置からの位置ずれ量を求めることができる。また、XYステージ105上に載置された図示しないマークをビームでスキャンしてその位置を測定することでも各ビームの照射位置の位置ずれ量を測定できる。かかる位置ずれデータは、記憶装置146に格納しておく。例えば、かかる位置ずれによる照射領域34内の各位置の歪をマップ化した歪み量マップを作成しておき、かかる歪み量マップを記憶装置146に格納しておく。或いは、各位置の位置ずれ量を多項式でフィッティングして歪み量演算式を取得し、かかる歪み量演算式或いはかかる式の係数を記憶装置146に格納しておいても好適である。ここでは、マルチビーム20の照射領域34内の位置ずれを測定しているが、さらに、試料101の描画面の凹凸によりビームのフォーカス位置をダイナミック調整(Z位置補正)した際の像の拡大/縮小および回転により生じる歪み(Z補正歪み)等の影響を考慮してもよい。どの制御ピクセル27をマルチビーム20のどのビーム(どの開口部22を通過したビーム)が照射するのかは、描画シーケンスによって決定されるので、各制御ピクセルのずれ量は対応するビームのずれ量で決められる。かかる描画シーケンスは、描画モード情報の一部として記憶装置144に格納しておくと好適である。
不良ビーム検出工程(S102)として、検出部50は、マルチビーム20の中から不良ビームを検出する。不良ビームは、常時ONビームばかりではなく、制御ドーズ量よりも大きく不要ドーズ量を含むドーズ量を照射する場合があるビームを指す。常時ONビームでは、制御ドーズ量に関わらず、常に、1回のショットにおける最大照射時間Ttrのビームを照射する。或いは、さらに画素間の移動時も照射し続ける。なお、実施の形態1では、偏向器212によって、マルチビーム20を一括偏向することで、画素間の移動時及びストライプ領域32間の移動時の照射を停止させることができる。また、ビームOFFに制御したにも関わらず、最大照射時間Ttr分のドーズ量にはならないが、それよりも小さいもれビームが生じる場合も不良ビームとなる。具体的には、描画制御部72による制御のもと、描画機構150は、マルチビームを1本ずつ個別ブランキング機構47でビームONになるように制御すると共に、残りはすべてビームOFFになるように制御する。かかる状態から検出対称ビームをビームOFFになるように制御を切り替える。その際、ビームONからビームOFFに切り替えたのにもかかわらず、ファラディーカップ106で電流が検出されたビームは、不良ビームとして検出される。例えば、ビームOFFに切り替えてから1回のショットにおける最大照射時間Ttrの間に検出されるビーム電流量或いは検出時間に応じて、不要ドーズ量を演算すればよい。マルチビーム20のすべてのビームに同じ方法で順に確認すれば、不良ビームの有無、不良ビームがどの位置のビームなのか、及び各不良ビームでの不要ドーズ量を検出できる。また、同様の評価は、レジストが塗布された基板上にビームを照射して、その照射量を評価することでも実施できる。
不良領域特定工程(S104)として、特定部51(不良領域特定部)は、試料101の描画領域30のうち、制御ドーズ量よりも大きく不要ドーズ量を含むドーズ量を照射する場合がある不良ビームによって照射される不良領域を特定する。不良ビームが照射を担当する制御ピクセル27は、描画シーケンスによって決まるので、特定部51は、記憶装置144に格納された描画モード情報に定義された描画シーケンスから不良ビームが担当する制御ピクセル27の座標を求める。また、不良ビームの照射位置は制御ピクセル27からずれている場合もあり得るので、記憶装置146に格納された位置ずれデータから実際の照射位置(座標)を取得する。そして、特定部51は、かかる照射位置に不良ビームによる不要ドーズ量が照射された場合に形成されるパターン(不良パターン)のパターンサイズ(照射形状)を演算する。予め、ドーズ量を可変にして、ビームサイズφのビームが照射された場合に形成されるパターンサイズを実験或いはシミュレーション等により測定しておけばよい。これらにより、特定部51は、不良ビーム毎に、照射位置及び形成されるパターンサイズから求まる不良領域を特定する。不良領域の位置及びサイズは、実際に形成される或いは形成され得るパターンの位置及び領域サイズになるので、制御ピクセル27の位置及び画素サイズとは独立して求まる。
図8は、実施の形態1における描画方法の各段階におけるパターンの一例を示す図である。図8(a)では、描画データに定義される描画対象パターンと、不良ビームによって形成される不良パターンとの一例を示している。図8(a)の例では、描画データに定義される描画対象の描画パターンとなる図形パターン42a〜42eの他に、不良ビームによって形成される不良領域の不良パターン40a〜40dが示されている。このまま描画したのでは、特に、不良パターン40cと重なる図形パターン42cの寸法がずれてしまう。例えば、4回多重描画の場合には、不良パターン部分の照射量は図形パターン部分の25%になるが、不良パターンと重なる図形パターンの部分では通常より25%多い照射量となりパターン形成位置がずれてしまうことになる。
不良パターンデータ生成工程(S106)として、不良パターンデータ生成部52は、描画領域(例えば、ストライプ領域32)について不良領域の形状をパターンとする不良パターンの不良パターンデータを生成する。不良パターンデータでは、図8(b)に示すように、不良パターン40a〜40dだけを抜き出して定義される。不良パターンデータは、例えば、図形種、座標、及びパターンサイズが定義される。また、さらに、不要ドーズ量或いは不要ドーズ量を示す識別子が付加データとして定義される。不要ドーズ量は、基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントで定義されると好適である。常時ONビームでは、不要ドーズ量が1回のショットにおける最大照射時間Ttrのビームのドーズ量に相当する。実施の形態1では多重描画を行うので、多重後の合計ドーズ量の基準となる基準ドーズ量に比べて、1回のショットにおける最大照射時間Ttrのビームのドーズ量は小さくなる。例えば、4回多重描画の場合には、基準ドーズ量の25%となる。
或いは、1回のショットにおける最大照射時間Ttrのビームのドーズ量を基準不要ドーズ量として、かかる基準不要ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントで定義されても好適である。
図8(a)〜図8(e)の例では、各不良パターン40a〜40dが、例えばすべて常時ONビームによって形成される場合を示している。或いは、すべて同じ不要ドーズ量の不良ビームによって形成される場合を示している。各不良パターン40a〜40dが、例えば、すべて常時ONビームによって形成される場合、不要ドーズ量は、同じ値になるので、かかる場合、不要ドーズ量は不良パターンデータから省略しても構わない。
以上のように、指定された描画モードの描画を実施する際に、不良ビームによって描画される部分を予測して、それに対応する描画データ(不良パターン:不要露光パターン)を作成する。多重描画は、ストライプずらし多重で不良ビーム対応のM+1パス描画が基本となる。この不良ビーム描画パターン(不良パターン:不要露光パターン)は、描画パターンとは関係なく、描画モード(描画シーケンス)で決まる。言い換えれば、描画モードでビームの照射位置が、また、指定照射量で多重描画の各パスの最大照射時間Ttrが決まるので、不良ビームが照射する部分の照射時間(照射量)が決まる。簡易的には、ビームサイズ分の図形を、不良ビームが照射する部分に配置した描画データでも構わない。どの程度詳細な形状表現にするかは、要求精度に合わせて決めればよい。
リバースパターンデータ生成工程(S108)として、反転処理部53(反転パターンデータ生成部)は、不良パターンデータを反転させたリバースパターンデータ(反転パターンデータ)を生成する。リバースパターン(反転パターン)44は、図8(c)に示すように、不良パターンの白黒を反転させたパターンとして作成される。よって、図8(c)の例では、不良パターン40a〜40dの位置が図形パターン無しとなり、周囲が図形パターン有として形成される。また、さらに、不要ドーズ量を反転させた反転不要ドーズ量或いは反転不要ドーズ量を示す識別子が付加データとして定義される。各不良パターン40a〜40dが、例えば、すべて常時ONビームによって形成される場合、各不良パターン40a〜40dの位置ではドーズ量がゼロとなり、その他の領域では、ドーズ量が1回のショットにおける最大照射時間Ttrのビームのドーズ量、例えば、4回多重描画の場合には、25%となる。よって、反転不要ドーズ量は、各不良パターン40a〜40dの位置では値「0」或いは0%と定義され、その他の領域では、値「25」、0.25或いは25%と定義されると好適である。或いは、各不良パターン40a〜40dが、例えば、すべて常時ONビームによって形成される場合、反転不要ドーズ量がパターン無し部分で0%、パターン有り部分で25%であることはわかっているので、反転不要ドーズ量はリバースパターンデータから省略しても構わない。
或いは、不良パターンデータに定義された不要ドーズ量が、1回のショットにおける最大照射時間Ttrのビームのドーズ量である基準不要ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントで定義されている場合、各不良パターン40a〜40dの位置ではドーズ量がゼロとなり、その他の領域では、100%となる。よって、反転不要ドーズ量は、各不良パターン40a〜40dの位置では値「0」或いは0%と定義され、その他の領域では、値「100」、10或いは100%と定義されると好適である。
以上のように、不良ビームによって描画される部分(不良パターン:不要露光パターン)の、リバースパターン(白黒反転パターン)を作成する。白黒反転パターンを作成することによって、バイアスを均一化するための補正用描画データ(常時ON不良ビームで照射されない部分へ追加照射する描画データ)が作成される。その後、リバースパターンをピクセル化して一連のピクセルデータであるラスタデータを作成する。実施の形態1では、不良パターンデータ及びリバースパターンデータをリバースパターンラスタデータ化する前の図形データ形式で作成する。これにより、通常の描画と同じ処理系が使える。
リバースパターンピクセルデータ生成工程(S110)として、ラスタライズ部54(反転パターンデータ変換部)は、リバースパターンデータを制御ピクセル27(ピクセル)毎のドーズ量に対応する値が定義されるリバースパターンピクセルデータ(反転パターンピクセルデータ)に変換する。まず、描画制御部72は、記憶装置144から描画モード情報を入力し、描画シーケンスに沿って、ストライプ領域32毎に、当該ストライプ領域32内の各制御ピクセル27と、それぞれの制御ピクセル27を担当するビームを対応付ける。そして、描画制御部72は、記憶装置146から事前に作成されたピクセル化格子情報を入力し、各制御ピクセル27とピクセル化格子の位置を対応付ける。まずは、かかるピクセル化格子情報について説明する。
図9は、実施の形態1における制御ピクセルのシフトとシフト後の画素の領域を説明するための図である。図9において、画素領域補正部64は、各ビームの位置ずれデータを入力し、位置ずれデータを基に、ストライプ領域32毎に、当該ストライプ領域32の各制御ピクセル27(R)の位置をそれぞれ担当するビームの位置ずれ後の照射位置にシフトし、照射量を位置ずれ量に応じて可変設定して、パターンの解像位置を本来の設計位置に合わせるようにする。図9の例では、各制御ピクセルの担当する画素の領域を各ビームの照射位置のずれ量に応じて変形させる。これにより、隣接する各制御ピクセルとの照射量の分担割合を可変してパターン解像位置を合わせる。位置ずれが生じていないビームについては当該制御ピクセル27をシフトさせて補正する必要はない。各ビームの照射位置が設計位置からずれが生じない場合、または、ずれがないと仮定した場合には、各制御ピクセル27(R)は、直交する複数の2直線による直交格子の交点になり、各画素36は、対応する制御ピクセル27を中心とした、制御ピクセル27の配列ピッチと同サイズでメッシュ状に仮想分割された矩形の領域となり、図形のピクセル化はXY方向に均一なピクセル化格子(均一格子)に従って行われる。しかし、ビームの位置ずれが生じている場合、図9に示すように、各制御ピクセル27(R)により構成される格子の形状に歪が生じる。そこで、画素領域補正部64は、制御ピクセル27のシフトに応じて画素36の領域を変化させて補正する。かかる場合、それぞれ直近の縦横2×2の制御ピクセルR群同士で囲まれる領域の中心Pを求める。そして、制御ピクセル27を中心とした、4つの領域中心Pで囲まれる領域を当該制御ピクセル27の画素36とする。図9において、座標(xn,yn)の制御ピクセルR(xn,yn)を中心とする第1象限では、制御ピクセルR(xn,yn)と制御ピクセルR(xn+1,yn)と制御ピクセルR(xn+1,yn+1)と制御ピクセルR(xn,yn+1)によって囲まれる領域の中心P(xn,yn)が求まる。同様に、制御ピクセルR(xn,yn)を中心とする第2象限では、制御ピクセルR(xn,yn)と制御ピクセルR(xn−1,yn)と制御ピクセルR(xn−1,yn+1)と制御ピクセルR(xn,yn+1)によって囲まれる領域の中心P(xn−1,yn)が求まる。同様に、制御ピクセルR(xn,yn)を中心とする第3象限では、制御ピクセルR(xn,yn)と制御ピクセルR(xn−1,yn)と制御ピクセルR(xn−1,yn−1)と制御ピクセルR(xn,yn−1)によって囲まれる領域の中心P(xn−1,yn−1)が求まる。同様に、制御ピクセルR(xn,yn)を中心とする第4象限では、制御ピクセルR(xn,yn)と制御ピクセルR(xn+1,yn)と制御ピクセルR(xn+1,yn−1)と制御ピクセルR(xn,yn−1)によって囲まれる領域の中心P(xn,yn−1)が求まる。よって、制御ピクセルR(xn,yn)の画素36は、領域中心P(xn,yn)と領域中心P(xn−1,yn)と領域中心P(xn−1,yn−1)と領域中心P(xn,yn−1)とによって囲まれた領域になる。よって、画素36は、矩形の形状から歪んだ形状に補正される。以上のようにして、画素領域補正部64は、各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを補正したピクセル化格子情報を生成する。画素36の境界で形成される格子がピクセル化格子、この場合はXY方向に不均一なピクセル化格子(不均一格子)、となる。実施の形態1における描画方法では、各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを補正したピクセル化格子を用いてピクセル化(ラスタライズ)することにより、各ビームの照射位置のずれを補正した描画を行うことができる。生成されたピクセル化格子情報は、記憶装置146に格納される。
ラスタライズ部54(反転パターンデータ変換部)は、ピクセル化格子情報に定義された各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを使って、制御ピクセル27毎に、当該制御ピクセル27の画素36におけるリバースパターンデータに定義されるリバースパターンの面積密度ρ”を演算する。図9の例では、制御ピクセルR(xn,yn)の画素36内に配置される図形パターン37の面積密度Sを演算する。各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを補正することで、ビームの照射位置の位置ずれに伴う描画されるパターンの寸法ずれ等を補正できる。なお、図9はXY方向に不均一なピクセル化格子(不均一格子)の一例であるが、この場合、各画素36の領域は内部に隙間なく繋がっており、ある領域を仮定して比べれば、XY方向に均一なピクセル化格子(均一格子)の場合と、その領域内の画素の総面積は同じになる。そのため、その領域内の全体の照射量はどちらの場合も同じになるが、この不均一なピクセル化格子を用いれば、ビームの照射位置の位置ずれに伴う照射量の偏りが補正でき、パターンの寸法ずれ等を補正できることになる。ここで、リバースパターンデータでバイアスを均一化するための補正用描画部分は、一定のバイアスを与えるためのものであるが、この例の不均一なピクセル化格子では、各画素の領域面積が異なり、リバースパターンの面積密度ρ”も一定とはならない。これは、ビームの照射位置の位置ずれがあっても、それを補正して均一な照射量を与えるようにしたものである。なお、ピクセル化格子情報は、この例に限定されるものではなく、要求精度に合わせて決められたものでよい。
ラスタライズ部54は、制御ピクセル27毎に、演算されたリバースパターンの面積密度ρ”に当該リバースパターンの反転不要ドーズ量を乗じた、規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を演算する。この際、当該画素36に関係するリバースパターン図形が複数ある場合には、リバースパターン図形毎に面積密度ρ”を演算し、各々のリバースパターン図形の面積密度ρ”に当該リバースパターン図形の反転不要ドーズ量を乗じた規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を求め、関係する複数のリバースパターン図形の規格化されたドーズ量を加算することにより、制御ピクセル27の規格化されたドーズ量を演算する。また、パターン面積密度ρ”は、ずれの無いXY方向に均一なピクセル化格子(均一格子)の画素領域面積を基準に相対値(例えば、100%)として面積密度を求めると良い。規格化されたドーズ量(ドーズ係数)は、基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントの値を示す。そして、制御ピクセル27毎に規格化されたドーズ量が定義されたリバースパターンピクセルデータを生成する。或いは、ドーズ量D(x)は、基準ドーズ量とリバースパターンの面積密度ρ”と当該リバースパターンの反転不要ドーズ量とを乗じた入射ドーズ量自体を演算しても良い。リバースパターンピクセルデータは、リバースパターンのラスタデータとなる。
或いは、リバースパターンデータに定義された反転不要ドーズ量が、1回のショットにおける最大照射時間Ttrのビームのドーズ量である基準不要ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントで定義されている場合、ラスタライズ部54は、制御ピクセル27毎に、演算されたリバースパターンの面積密度ρ”と当該リバースパターンの反転不要ドーズ量と、基準不要ドーズ量を基準ドーズ量で割った比と、を乗じた、規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を演算する。基準不要ドーズ量を基準ドーズ量で割った比を乗じることで、基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)とした場合の割合に合わせることができる。或いは、ドーズ量D(x)は、基準不要ドーズ量とリバースパターンの面積密度ρ”と当該リバースパターンの反転不要ドーズ量とを乗じた入射ドーズ量自体を演算しても良い。
各不良パターン40a〜40dの位置ではドーズ量がゼロとなり、その他の領域では、ピクセル化格子情報の内容で変化するものの4回多重描画の場合には、ほぼ25%となる。よって、反転不要ドーズ量は、各不良パターン40a〜40dの位置では値「0」或いは0%と定義され、その他の領域では、値「25」、0.25或いは25%のように定義されると好適である。
描画パターンピクセルデータ生成工程(S130)として、ラスタライズ部55(描画パターンデータ変換部)は、描画用の図形パターンが定義される描画パターンデータを制御ピクセル27毎のドーズ量に対応する値が定義される描画パターンピクセルデータに変換する。図8(d)の例では、描画データに沿って、描画パターンとなる図形パターン42a〜42eが示されている。ここでは、不良パターン40a〜40dを除いた、描画データに定義される図形パターン42a〜42eが配置されるようにピクセルデータを生成する。
まず、面積密度演算部56(ρ演算部)は、描画領域(ここでは、例えばストライプ領域32)を所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。ρ演算部56は、記憶装置140から描画データを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンのパターン面積密度ρを演算する。
次に、補正照射係数演算部57(Dp演算部)は、近接メッシュ領域毎に、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数Dp(x)(補正照射量)を演算する。近接効果補正照射係数Dp(x)は、後方散乱係数η、しきい値モデルの照射量閾値Dth、及び分布関数gp(x)を用いたしきい値モデルによって定義できる。計算手法は、従来と同様の手法で構わない。なお、近接効果補正照射係数Dp(x)は、想定されるバイアス照射量の条件に合わせて最適化しておくと良い。
次に、面積密度演算部58(ρ’演算部)は、制御ピクセル27毎に、当該制御ピクセル27の画素36内のパターン面積密度ρ’を演算する。かかる場合に、面積密度演算部58は、記憶装置146に格納されたピクセル化格子情報に定義された各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを使って、制御ピクセル27毎に、当該制御ピクセル27の画素36における描画データに定義される描画パターンのパターン面積密度ρ’を演算する。この際、リバースパターンのラスタデータ作成に使用したピクセル化格子情報と同じピクセル化格子情報を使用することにより、描画パターンとリバースパターンの照射形状に位置ずれが生じないようにラスタデータが作成できる。図9の例と同様、制御ピクセルR(xn,yn)の画素36内に配置される図形パターン37の面積密度Sを演算しパターン面積密度ρ’とする。この際、当該画素36に関係する図形が複数ある場合には、図形毎にパターン面積密度ρ’を演算し、それらを加算してその画素36のパターン面積密度ρ’とする。また、パターン面積密度ρ’は、ずれの無いXY方向に均一なピクセル化格子(均一格子)の画素領域面積を基準に相対値(例えば、100%)として面積密度を求めると良い。なお、不均一格子を使用した場合に、画素領域が均一格子の場合より大きくなる場合があるので、演算後に得られたパターン面積密度ρ’は100%を超える場合がある。このように、各制御ピクセル27のシフト位置に基づいて各画素36の領域を補正してパターン面積密度ρ’を求めることで、ビームの照射位置の位置ずれに伴う描画されるパターンの寸法ずれ等を補正できる。
次に、照射量演算部59(D演算部)は、制御ピクセル27毎に、当該当該制御ピクセル27の画素36に照射するためのドーズ量D(x)を演算する。ドーズ量D(x)は、近接効果補正照射係数Dpとパターン面積密度ρ’とを乗じた値として演算すればよい。かかる場合、ドーズ量D(x)は、基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントの値を示す。そして、照射量演算部59は、制御ピクセル27毎に規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)が定義された描画パターンピクセルデータを生成する。或いは、ドーズ量D(x)は、基準ドーズ量と近接効果補正照射係数Dpとパターン面積密度ρ’とを乗じた入射ドーズ量自体を演算しても良い。描画パターンピクセルデータは、描画パターンのラスタデータとなる。
合成工程(S140)として、合成部60(合成ピクセルデータ生成部)は、制御ピクセル27毎にリバースパターンピクセルデータと描画パターンピクセルデータに定義された値を加算した合成ピクセルデータを生成する。具体的には、リバースパターンピクセルデータと描画パターンピクセルデータに定義された規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)同士を加算する。リバースパターンピクセルデータに定義された規格化されたドーズ量が基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化されているので、そのまま加算することができる。或いは、リバースパターンピクセルデータと描画パターンピクセルデータに定義された入射ドーズ量同士を加算する。
かかる合成ピクセルデータに沿ったドーズ量のビームを各制御ピクセル27に照射することにより、図8(e)に示すように、不良パターン40a〜40dには、不要ドーズ量が入射され、不良パターン40a〜40d以外の部分には、反転不要ドーズ量が入射される。よって、描画領域(ここでは、ストライプ領域32)全体が、不要ドーズ量によりバイアスされることになる。よって、不良パターン40a〜40d自体が無かったかのようなバイアス照射量の下地を形成できる。よって、不良ビームの照射形状に影響されない描画結果が得られる。
図10は、実施の形態1におけるドーズ分布の一例を示す図である。図10の例では、1次元方向のドーズ分布(ドーズプロファイル)の一例が示されている。ドーズ分布Aでは、不良ビームによる不要ドーズによる分布を示している。かかる状態で描画パターンを形成すると、ドーズ分布Bに示すように、不要ドーズが入射した位置のドーズ量を大きくしてしまう。その結果、左側のパターンの解像位置がずれてしまう。そこで、実施の形態1では、ドーズ分布Bが反転したドーズ分布Cを加算することでバイアス照射量分だけ、オフセットした状態で、描画パターンを描画することで、ドーズ分布Dに示すように、ドーズ分布の歪を補正でき、所望の寸法のパターンを描画できる。この際、バイアス照射量が加わることによってパターンの解像寸法がずれることが予想されるが、バイアス照射量に応じて適切なプロセス条件を事前に調整しておけばよい。この方法によれば、反転したドーズ分布Cを精度良く設定することにより、不要ドーズの影響が正確に補正され、パターンの解像位置のずれを精度良く補正できる。
パス毎のドーズ量演算工程(S144)として、パスデータ生成部62は、合成ピクセルデータに定義されたドーズ量をM+1回の多重描画の各パスのドーズ量に分割する。M回の多重描画を予定していた場合、不良ビームが照射する制御ピクセル27では、M回のうち1回のパスが不良ビームによって照射されてしまう。しかし、位置をずらしながらの多重描画によりパターンの寸法精度を維持するには、当初のパス数の多重描画を行うことが望ましい。よって、M回の多重描画にさらに1回の追加パスを加えることで、不良ビームによって照射されてしまうパス以外に、当初のM回のパスを正常ビームで描画できる。そこで、不良ビームが照射する制御ピクセル27では、不良ビームが照射するパス以外のM回のパスに、合成ピクセルデータに定義されたドーズ量を分割する。不良ビームが照射するパスでは、データ上、ドーズ量をゼロに設定すればよい。不良ビームが照射しない制御ピクセル27では、M+1回のパスに、合成ピクセルデータに定義されたドーズ量を分割する。分割の仕方は、均等に分割しても良いし、パス間で異なるドーズ量であっても良い。
M+1パス多重描画では、描画パターンは、M+1パスの内のどこかのM回のパスで描画される。なお、常時ON不良ビームはM+1パス分描画されるので、バイアス均一化パターンを作成する際はM+1パスであることを基に作成することになる。描画に際しては、種々の補正が加わる場合があるので、通常は最大照射時間を与えるショットサイクルを、各パスの基準照射量(基準照射量/M)に対して、余裕を持って設定される。このときの各パスのパターン描画のための照射量は、最大照射時間の内で(基準照射量/M)に相当する時間の分の照射量となる。また、このとき、常時ON不良ビームの照射位置は、ずらし描画によって重ならないものとして、その部分への照射量は、最大照射時間で照射される照射量となる。この照射量が、均一化されるバイアス照射量となる。なお、ここでは、次のショットサイクルの照射時間へ移行する期間(セトリング期間)は、十分小さいか、または、偏向器212で全ビームがOFFされるものと仮定している。なお、無視できない場合には、セトリング期間中の常時ON不良ビームの挙動を模擬して、不良パターン(不要露光パターン)を作成することもできる。なお、ここで想定する基本の描画モードでは、1回のパスで特定部分には1ショットサイクルが照射されるとしている。1パスで特定部分に複数のショットサイクルで照射する描画モードでも本方法が実施可能となる。
<各パスの最大照射時間の設定について>
ここで、描画のための照射量は合計で、基準照射量にバイアス分を追加した照射量にする必要がある。バイアス分の照射量を、通常描画パターンと同様に、M+1パス中のMパスに振り分けると、各パスの照射量は、
(基準照射量/M)+バイアス/M=(基準照射量/M)+(1パスの最大照射量/M)
となる。不良ビームの照射量は最大照射量で照射されることになるので、パスあたりのバイアス分の照射量は、(1パスの最大照射量)/M)なので、各パスのショットサイクル(最大照射時間)は、(1パスの最大照射量)>(基準照射量/M)+((1パスの最大照射量)/M)とする必要がある。
これを書き換えると、
(1パスの最大照射量)・((M−1)/M)>(基準照射量/M)
また、
(1パスの最大照射量)>(基準照射量/M)・(M/(M−1))
となる。
つまり、例えば、8パスの場合には、最大照射時間を通常描画の8/7=1.14倍以上に設定すれば良いことになる。実際には、ビーム個別のビーム強度の補正、近接効果補正による照射量の増減、等の補正を実施した場合の調整余裕シロを取って、若干余裕を取って設定されると良い。このように、パスあたりの最大照射量(最大照射時間)を決めて、バイアス描画を行えば良い。なお、照射量の補正等(近接効果補正など)によって、追加される照射量の余裕を取って元々のショットサイクル(最大照射時間)を描画条件として設定しておけば良い。
照射時間データ演算工程(S146)として、照射時間演算部68は、パス毎の各制御ピクセル27に照射するビームの照射時間を演算する。パス毎のビームの照射時間tは、パス毎の各制御ピクセル27に照射するビームのドーズ量を電流密度Jで割ることで演算できる。電流密度Jはビームの電流値を設定ビームサイズで割ることで求められる。なお、パス毎の各制御ピクセル27に照射するビームのドーズ量が、基準ドーズ量を1とする規格化されたドーズ量で定義されている場合、パス毎のビームの照射時間tは、基準ドーズ量を乗じた上で電流密度Jで割ることで演算できる。或いは、パス毎のビームの照射時間tは、基準ドーズ量を電流密度Jで割った値に規格化されたドーズ量を乗じることで演算できる。
パス毎の各制御ピクセル27へのビームの照射時間tのデータは、配列加工部70によって、パス毎かつショット順に並び替えられる。パス毎かつショット順に並び替えられた各制御ピクセル27の照射時間データ(ショットデータ)は、記憶装置142に一時的に格納される。
描画工程(S150)として、描画機構150は、合成ピクセルデータに定義された値に対応するドーズ量のビームがそれぞれの制御ピクセル27のために照射されるように、試料101に電子ビームによるマルチビーム20を用いた多重描画を行う。
図11は、実施の形態1における多重描画の仕方を説明するための図である。実施の形態1では、M+1回の多重描画のパス毎に、位置をずらしながら描画を進める。図11の例では、設計上M=2回のパスに1回の追加パスを加えた3(=M+1)回の多重描画を行う場合を示している。1パス目の描画処理では、ストライプ領域32aを描画する。かかる1パス目において不良ビームにより照射位置23aに不要ドーズ量が照射される。2パス目では、1パス目の描画処理とは、y方向にストライプ領域幅の1/2のサイズだけ位置をずらしたストライプ領域32bを描画する。かかる2パス目において不良ビームにより1パス目とは異なる照射位置23bに不要ドーズ量が照射される。追加パス(3パス目)では、1パス目及び2パス目の描画処理とは、y方向にストライプ領域幅より小さいサイズで位置をずらしたストライプ領域32cを描画する。各パスで位置をずらすことで、不良ビームにより照射される制御ピクセル27の位置を変えることができる。言い換えれば、不良ビームにより同じ制御ピクセル27が複数回描画されることを回避できる。マルチビーム20の中に複数の不良ビームが生じる場合には、複数の不良ビームで同じ制御ピクセル27が照射されないように各パスでの対象ストライプ領域の位置のずらし方を調整すればよい。
ここで、上述した図8(a)〜図8(e)の例では、各不良パターン40a〜40dが、例えばすべて常時ONビームによって形成される場合を示している。或いは、すべて同じ不要ドーズ量の不良ビームによって形成される場合を示している。しかしながら、これに限るものではない。不良ビームによって不要ドーズ量の強度が異なる場合がある。例えば、常時ONビームと、ブランキング性能不良による漏れビームが発生するビームとでは、不要ドーズ量の強度が異なる。また、例えば、セトリング不良のビームでも不要ドーズ量の強度が異なる。また、同じ常時ONビームであっても、マルチビーム20間で電流密度が均一でないため、或いはビーム形成用の穴22のサイズが均一でないために最大照射時間Ttr中に照射される不要ドーズ量の強度が異なる場合もあり得る。正常ビームであれば、最大照射時間Ttr中に照射されるドーズ量を予め測定しておいて、ビーム照射時には所望の照射量になるように照射時間制御により補正が可能となるが、常時ONビームではかかる補正が困難となる。実施の形態1は、不要ドーズ量の異なる複数の不良パターンについても適用可能である。かかる場合、不良パターンデータ生成工程(S106)において、不良パターンデータ生成部52は、不要ドーズ量の異なる複数の不良パターンが定義され、さらに、各不良パターンに関連させて、それぞれ対応する不要ドーズ量に応じた値が定義される不良パターンデータを生成する。
以上のように、描画時には、通常描画データ(ラスタデータ)に、リバースパターン分のドーズ量をピクセル毎に加算して描画する。描画は、正常ビームだけを用いて描画するモードで実施する。これにより、ドーズ制御を保証できる。描画は、上述したずらし2パス多重描画に限らず、ずらし4パス以上で、ON不良ビーム部分が重ならないようにすると好適である。これにより、バイアス量を低く抑えることができる。また、上述したようにリバースパターン分のドーズ量加算は各パスに分配して実施すると良い。
図12は、実施の形態1における描画方法の各段階におけるパターンの他の一例を示す図である。図12(a)では、不良ビームによって形成される不良パターンと各不良パターンのドーズ量を示す識別子との一例を示している。図12(a)の例では、不良ビームによって形成される不良領域の不良パターン40a〜40dが示されている。不良パターン40a,40cの不要ドーズ量は識別子「8」で示す。例えば、基準不要ドーズ量を10として規格化された場合に、8、或いは80%のドーズ量を示す。同様に、不良パターン40bの不要ドーズ量は識別子「7」で示す。例えば、基準不要ドーズ量を10として規格化された場合に、7、或いは70%のドーズ量を示す。同様に、不良パターン40dの不要ドーズ量は識別子「9」で示す。例えば、基準不要ドーズ量を10として規格化された場合に、9、或いは90%のドーズ量を示す。不良パターン40a〜40dの周囲の領域は、識別子「0」で示す。例えば、基準ドーズ量を10として規格化された場合に、0、或いは0%のドーズ量を示す。言い換えれば、ドーズ量ゼロを示す。
かかる不良パターンのパターンデータを反転させたリバースパターン44では、図12(b)に示すように、不良パターン40a〜40d以外の領域での反転不要ドーズ量は、識別子「9」で示す。例えば、基準不要ドーズ量を10として規格化された場合に、9、或いは90%のドーズ量を示す。バイアス照射量は、複数の不良パターン40a〜40dのうち、最大の不要ドーズ量分あれば良い。よって、複数の不良パターン40a〜40dのうち、最大の不要ドーズ量となる不良パターン40dの不要ドーズ量(識別子「9」)を基準に反転させればよい。よって、不良パターン40a,40cの領域での反転不要ドーズ量は最大不要ドーズ量(識別子「9」)との差分の識別子「1」となる。例えば、基準不要ドーズ量を10として規格化された場合に、1(或いは10%)のドーズ量を示す。同様に、不良パターン40bの領域での反転不要ドーズ量は識別子「2」で示す。例えば、基準不要ドーズ量を10として規格化された場合に、2(或いは20%)のドーズ量を示す。同様に、不良パターン40dの領域での反転不要ドーズ量は識別子「0」で示す。例えば、基準ドーズ量を10として規格化された場合に、0(或いは0%)のドーズ量を示す。言い換えれば、ドーズ量ゼロを示す。リバースパターンデータには、制御ピクセル27毎に、かかる反転不要ドーズ量或いは反転不要ドーズ量を示す識別子が定義される。
かかるリバースパターンのピクセルデータを描画データのピクセルデータに加算した合成ピクセルデータに沿ったドーズ量のビームを各制御ピクセル27に照射することにより、図12(c)に示すように、不良パターン40a〜40dの領域には、不良ビームによって、基準不要ドーズ量の80%、70%、80%、及び90%の各不要ドーズ量が入射される。しかし、正常ビームによって、不良パターン40a〜40dの各領域及び不良パターン40a〜40d以外の領域には、基準不要ドーズ量の10%、20%、10%、0%、及び90%の各反転不要ドーズ量が入射される。これにより、描画領域(ここでは、ストライプ領域32)全体が、最大不要ドーズ量(識別子「9」)によりバイアス(オフセット)されることになる。よって、不良パターン40a〜40d自体が無かったかのようなバイアス照射量の下地を形成できる。
図13は、実施の形態1における描画方法の各段階におけるパターンの他の一例を示す図である。不良パターン40a〜40dの中には、不良パターンの領域内で不要ドーズ量の分布が異なる場合もあり得る。図13(a)の例では、不良ビームによって形成される不良領域の不良パターン40a〜40dが示されている。かかる不良パターン40a〜40dのうち、不良パターン40cについて、不良パターンの領域内で不要ドーズ量の分布が異なる場合を示している。その他の内容は図12(a)と同様である。そこで、実施の形態1では、不要ドーズ量の分布が異なる不良パターン40cについては、細分化したメッシュ毎にドーズ量を定義したグレイマップとして、不良パターンデータを生成しても好適である。図13(a)の例では、不良パターン40cの領域を例えば4×4のメッシュ領域に分割して、各メッシュ値として不要ドーズ量を定義する場合を示している。図13(a)の例では、4×4のメッシュ領域のうち、中央部の2×2のメッシュ領域では不要ドーズ量を識別子「9」で示す。外周部のメッシュ領域では不要ドーズ量を識別子「4」で示す。
かかる不良パターンのパターンデータを反転させたリバースパターン44では、図13(b)に示すように、不良パターン40cの領域以外は、図12(b)と同様である。例えば、不良パターン40a〜40d以外の領域での反転不要ドーズ量は、識別子「9」で示す。不良パターン40cの領域では、4×4のメッシュ領域のうち、中央部の2×2のメッシュ領域では反転不要ドーズ量を最大不要ドーズ量(識別子「9」)との差分の識別子「0」で示す。外周部のメッシュ領域では反転不要ドーズ量を識別子「5」で示す。リバースパターンデータには、制御ピクセル27毎に、かかる反転不要ドーズ量或いは反転不要ドーズ量を示す識別子が定義される。
かかるリバースパターンのピクセルデータを描画データのピクセルデータに加算した合成ピクセルデータに沿ったドーズ量のビームを各制御ピクセル27に照射することにより、描画領域(ここでは、ストライプ領域32)全体が、最大不要ドーズ量(識別子「9」)によりバイアス(オフセット)されることになる。よって、不良パターン40a〜40d自体が無かったかのようなバイアス照射量の下地を形成できる。なお、上述した各データにおいて、グレイマップのメッシュサイズは、画素36のサイズよりも小さく設定すると良い。例えば、画素36のサイズの1/2程度に設定すると好適である。リバースパターンデータにおいて、グレイマップを使用した不良パターン40cの領域では、グレイマップの各メッシュを識別子の付いたメッシュサイズの図形と考えて、ピクセル化格子情報に従ってピクセルデータに変換すると良い。これにより、ピクセルデータに変換する場合に、グレイマップで設定されたドーズ量の解像度を維持したままピクセルデータに変換でき、ドーズ量の設定精度が向上できる。この場合、グレイマップ部分では、ピクセル化の際の参照図形数が多くなるが、図形総数に対してグレイマップ部分は少ないと想定されるので、特に問題はない。もし、処理能力が不足すれば若干の処理リソースを追加準備すればよい。
上述したグレイマップを使った表現形式では、不良ビームの照射形状が本来のビーム形状と異なり、形状が変化あるいは非点等で解像性が変わっているような場合に、そのドーズプロファイル(照射形状)が詳細に表現できる。このように、不要露光パターンの一例として、代表図形の考え方を基にしたグレイ(濃淡)マップ図形の利用を提案している。代表図形の考え方は、従来、小領域単位でその中に含まれる図形を1個の代表図形で表現して、その小領域(メッシュ)内の面積を表現するもので、近接効果補正の計算の効率化のために提案されたものである。この代表図形の考え方を用いれば、メッシュ内の面積比によりそのメッシュ全体の濃さを表現することで、全体の濃淡の変化を表現することができる。ここで、全体の濃淡の変化を表現するためには、上記のように、メッシュ内に1個の図形を配置して、メッシュ内面積比を表現する代わりに、メッシュ内の図形ではなく、単にメッシュ内の面積または面積比(=濃さ)で表せば、形状に関する情報が不要でデータ量が少なくて済む。これは、例えば、濃淡の変化を表現する全体の外形は長方形で、その内部にメッシュ状に濃淡を定義したものでも同様に全体の濃淡の変化を表現することができることになる。なお、この際、メッシュの大きさは面内均一でなくても良い。また、メッシュ毎に、その濃さを、識別子として、規格化された相対値、割合、或いはパーセント表示で表現すると処理上都合が良い。
図20の例では、本来のビーム照射形状(点線)に対して、特にx方向に非点等により照射形状が広がり、さらに、左右で形状が異なる場合の例をグレイマップ図形で表現している。グレイマップ(図20(a))の中心2X2の領域が本来のビーム照射形状を表現している。さらに、x方向に関しては中心2X2の領域の左右に追加して照射形状を表現している。これにより、y方向(図20(c))では本来のビーム照射形状と同じになるが、x方向(図20(b))では本来のビーム照射形状(点線)に対して左右で異なる形状に広がった照射形状が表現できる。このように、グレイマップ図形を用いれば、上下左右で異なる照射形状も表現できる。なお、図20の照射形状の例で示すように、実際の照射形状は、指定された照射形状(図20の例では、グレイマップの濃淡形状)にビームの解像性による影響が加わって、裾を引いた形状となる。ビームの解像性による影響を加味した補正精度を得たい場合には、その分を差し引いてグレイマップ図形を作成すればよい。このようなグレイマップ図形を用いると、任意の照射形状が表現可能となる。なお、下流の処理系が、濃さの表現を受け付けないような(従来の0/1(白/黒)表現の処理系)ものなら、メッシュ毎に形状とサイズを表現した代表図形を用いて濃さを表現することで同様の処理が実施可能となる。
ここで、実際に不良パターン(不要露光パターン)を作成する際に、通常の図形とグレイマップ図形のどちらを使用するかは、要求精度に合わせて選択されると良い。不良パターン(不要露光パターン)は、バイアス均一化の補正照射形状を設定するために使用される。通常の図形で補正照射をしても、露光形状(露光プロファイル)の差異により、十分な精度が得られない場合には、グレイマップ図形を用いて、より詳細な形状の指定ができる。より補正照射形状を細かく設定するためにはグレイマップ図形のメッシュサイズをより細かくすることになるが、メッシュサイズを細かくし過ぎても描画実行時のビームの解像性により制限される。つまり、メッシュサイズを、描画時のビーム解像性で表現可能な濃淡を表現できる程度に細かくすれば、それ以上細かくしても、ビーム解像性で制限された以上に細かい濃淡は描画実施できない。例えば、10nmビームで5nmピクセル、ビーム解像性(=σ値)を5nmとする場合、グレイマップ図形のメッシュサイズを2.5nm程度、例えば、ピクセルサイズの1/2、ビームサイズの1/4程度まで細かくすれば、ビーム解像性で表現できる細かさを十分表現できるメッシュサイズになる。この例に限らず、メッシュサイズの大きさで生じる補正照射の設定誤差はシミュレーション等で予測できるので、メッシュサイズは要求の精度に応じて決めれば良い。
なお、ここでは、ビーム照射位置移動のためのセトリング時間は十分に小さいと仮定したが、セトリング移動中の不良ビームの照射により裾引き等の発生が無視できない場合には、セトリング時間中の照射形状を不要露光パターンとして含めれば精度良く補正できる。グレイマップ図形を用いれば、不良ビーム毎の照射量の差、また、照射位置移動時のセトリング時間不足等の影響を含む照射形状の差、等の細かな差異を含めて補正できることになる。また、常時ON不良ビームによる不要露光に限らず、電子ビームの不必要な反射による漏れビーム、ブランキング動作中の漏れビーム、等、偏在的に不要な照射がされる場合にもこの方法が利用できる。なお、グレイマップ図形を多用すると、データ量増大が懸念されるが、不良ビームは全体に比べて極少数とすれば、その部分だけを代表図形で表現すれば良いので、データ量はさほど増加しない。
図14は、実施の形態1と簡易方法としての比較例とにおけるバイアス照射量の違いを説明するための図である。比較例では、ラスタライズ後に不良ビームにより照射される制御ピクセル以外の各制御ピクセル27にバイアス照射量を一律に加える場合を示す。図14(a)の例では、不良ビームによる照射パターン43の位置が、制御ピクセル27及び画素36からずれている場合を示す。比較例では、ラスタライズ後に不良ビームにより照射される制御ピクセル以外の各制御ピクセル27にバイアス照射量を一律に加えるため、図14(b)に示すように、不良ビームによる照射パターン43の位置と画素36がずれていても、対応する制御ピクセル27のバイアス照射量はゼロとなり、その他の制御ピクセル27のバイアス照射量は基準不要ドーズ量に対して100%になる。よって、バイアス照射量を付加しても補正照射されたドーズ分布は、図14(c)に示すように、対応する画素中心(制御ピクセル27)でピークとなり、不良ビームによる照射パターン43の中心からずれてしまう。よって、試料101面上でのバイアス照射量は均一にはならない。よって、試料101面上に形成される描画パターンの寸法はずれてしまう。これに対して、実施の形態1では、ラスタライズ前に画素36の領域とは無関係に不良パターンのデータを作成しているので、ラスタライズ処理によって、不良パターンの面積密度に応じたバイアス照射量の分配ができる。よって、図14(d)に示すように、不良ビームによる照射パターン43の位置が対象画素36から図面右下に一部がずれた場合、対応する制御ピクセル27のバイアス照射量はずれた分だけ残り、40%となり、ずれた先の3つの制御ピクセル27のバイアス照射量はずれた分だけ減り、下、右下、右の制御ピクセルの画素の順に基準不要ドーズ量に対して80%,90%,70%となる。不良ビームによる照射パターン43と重ならない制御ピクセル27のバイアス照射量は基準不要ドーズ量に対して100%になる。よって、バイアス照射量を付加して補正照射されたドーズ分布は、図14(e)に示すように、不良ビームによる照射パターン43の中心でピークにできる。よって、試料101面上でのバイアス照射量を均一にできる。よって、試料101面上に形成される描画パターンの寸法ずれを抑制或いは回避できる。
図15は、実施の形態1における多重描画によるドーズ量補正の一例を説明するための図である。図15の例では、位置をずらしながら8回の多重描画(追加パスを含めると(8+1)パスとなる)を行う場合について示している。(8+1)パスのずらし多重描画により、不良ビームにより照射量は(8+1)パスの内の1パスだけで、バイアス照射量と描画パターンの照射量は、(8+1)パスの内の8パスに分割して照射される。図15(a)の例では、5×6の画素(或いは制御ピクセル)の領域に対して、例えば、下段側から5段目かつ左から2列目の画素(或いは制御ピクセル)と、下段側から2段目かつ左から5列目の画素(或いは制御ピクセル)とが、不良ビームにより照射される場合を示している。位置をずらしながら(8+1)パスの描画処理を行う場合、(8+1)パスのうち1パスで不要ドーズ量が入射する。不良ビームが常時ONビームであれば、1パスあたりの最大ドーズ量(100%)が不要ドーズ量となる。かかる不要ドーズ量を1/8ドーズ量とする。よって、バイアス照射量として、1/8ドーズ量がその他の画素に必要になる。かかるバイアス照射量を8パスの描画処理で入射する場合、図15(b)に示すように、不良ビームにより照射される画素以外の画素に対して1回あたり1/64(=1/(8×8))ドーズ量が入射する。8パスの描画処理を繰り返し行うことで1/8ドーズ量にできる。また、図15(c)の例では、描画パターンが、例えば、下段側から3〜5段目かつ左から2〜3列目の2×3の画素(或いは制御ピクセル)群に描画される場合を示している。かかる画素群に描画パターンに必要なドーズ量を8パスに分けて入射する場合、1パスあたりの最大ドーズ量(100%)(=不要ドーズ量)を全パスで入射することになる。よって、1回あたり1/8ドーズ量が入射する。よって、(8+1)パスの描画処理を行うと、図15(d)に示すように、合計で、描画パターンが形成される2×3の画素(或いは制御ピクセル)群には、9/8ドーズ量が入射する。また、残りの画素には1/8ドーズ量が入射する。よって、全画素に対して1/8ドーズ量がバイアス照射量として入射することがわかる。よって、常時ONビームによるパターン寸法変動を補正できる。また、位置をずらしながら(8+1)パスの多重描画を行うことで、位置をずらさない多重描画にくらべて常時ONビームの影響を1/8に抑えることができる。これに対して、位置をずらしながら(4+1)パスの多重描画を行う場合には、位置をずらさない多重描画にくらべて常時ONビームの影響を1/4に抑えるだけになる。よって、多重回数(パス数)が多い方が、常時ONビームの影響を低減できる。
以上のように、実施の形態1によれば、マルチビーム20に、制御ドーズ量よりも大きく不要ドーズ量を含むドーズ量を照射する、少なくとも常時ONビームを含む不良ビームが生じた場合でも、高精度な描画ができる。また、制御ピクセル27の位置と不良ビームによる照射パターン位置とがずれる場合に従来に比べて補正精度を向上できる。
また、従来手法であるシャッター機構を設けて使用ビームエリアを限定する手法、FIB等で対応部分のアパーチャの穴を塞ぐ手法、及びブランキング偏向を2段にしてどちらかでビームをカットできるようにする手法に対して、実施の形態1によれば、特別な機構を設けることなく、常時ONビーム等による照射と同じ照射量をバイアス照射量として全面に与えることによって、常時ONビーム等の影響を無くした高精度な描画が可能になる。
また、ラスタライズ後に、ピクセル部分に一様に照射量(オフセットドーズ)を上乗せすることにより、結果として、常時ON不良ビームの照射量と同じバイアスドーズを全面に与える従来手法、また、簡易な方法としての比較例では、効果がそれなりに期待できる方法として利点はあるが、単にピクセル毎に一様な補正照射を行うこのような方法では、図14において説明したように、パターンの寸法ずれが生じ得るので、最近の高精度化の要求に対して十分な精度を得ることは困難となっている。これに対して、実施の形態1によれば、最近の高精度化の要求に対して十分な精度を得ることできる。
以上の実施の形態1を踏まえて、従来方法の問題点と実施の形態1での改良点について以下に説明する。
(1)ビーム毎に強度が異なる場合への対応
マルチビーム(MB)描画では、照明の不均一性、穴の形状の不均一性、等により、ビーム毎に電流量(強度)が異なる場合がある。また、最近のパターン形成精度の要求に合う照射量の精度を満たすには、1%以下の精度が要求される。しかしながら、照明の不均一性、穴の形状の不均一性、等により、ビームの強度の均一性を1%以下に保証することは現実的に難しい。そのため、描画装置100では、ビーム強度の不均一性を照射時間で補償すればよい。しかし、常時ONビームは、元々照射時間の制御ができないものなので、照射時間で制御して均一化を図るのは不可能であり、常時ONビームの照射量は、ビーム強度で変化する。そのため、ビーム毎の強度変動に対応できる方法が必要となる。
これに対して、実施の形態1では、図形の濃度(照射量大小に対応)を記述できるようにし、強度の違う不要ビームの照射に対しても、均一なバイアス照射量を得るための照射を可能としている。
(2)パス毎にビーム照射位置がピクセル位置と同じになるという保証ができない問題への対応
MB描画では、描画フィールド(ビームアレイ領域)の歪が主要な課題の一つである。歪があると、描画位置が均一ではないことになる。つまり、実際には、正確なピクセル位置に照射されないで、歪に応じたずれた位置に照射される。そのため、正確なピクセル位置に照射されることを前提に、ピクセル単位に補正照射をしても、歪によるずれの分、均一にならない。そのため、描画パターンの形状変動が生じることになる。つまり、不良ビームの照射位置がピクセル位置とずれ、また、補正照射位置がピクセル位置とずれる。その結果、不良ビームの照射位置と補正ビームの照射位置がずれるので、照射バイアス量が均一でない部分が発生する。そのため、ビーム照射位置のずれに対応できる方法が必要になる。
これに対して、実施の形態1では、ピクセル化後のラスタデータではなく、ピクセル化前の描画データで不良ビームの照射位置(と照射形状)とそれに対応する補正ビームの照射位置(と照射形状)を記述することにより、MB描画に備わる通常の位置ずれ補正機能を利用して、ずれの無い均一なバイアス照射量を得るための照射を可能としている。
(3)位置ずれを照射量で補正する高精度化方法を用いた場合への対応
実施の形態1では、ビームの照射位置ずれに応じて設定される可変のピクセル化格子に従ってピクセル化して描画用ラスタデータを作成し、これを用いて描画することにより、照射位置ずれを補正する。ラスタデータ作成の際には、通常、描画面内でX/Y均一のピクセル化格子を使用し、格子内の図形面積を求める方法でピクセル化(均一格子によるラスタ化)する。その結果、X/Y共通のピクセルサイズのラスタデータが作成される。
これに対して、実施の形態1では、ビームの照射位置ずれに対応して、描画面内でX/Y不均一に設定されるピクセル化格子を用いてピクセル化(ラスタ化)することになる。この場合、格子位置を指定する情報に基づいて各格子内の面積を計算してピクセル化することになる(不均一格子によるラスタ化)。ここで、ピクセルサイズ(画素サイズ)が同じではないので、ピクセル化後にピクセル演算によるバイアス一様化の補正を行う場合には多大で複雑な処理が必要となり現実的ではない。例えば、常時ON不良ビームがあった場合の照射量は、その部分のピクセルサイズで換算されるべきであり、また、全面に一様の照射量を与えようとする場合には、ピクセルサイズに依存して、ピクセル毎に異なる照射量を計算する必要がある。
これに対して、実施の形態1では、不均一格子の場合でも、バイアス補正用のパターンを描画用データとして作成し、通常描画用と同じラスタ化処理で、描画ラスタデータを作成して描画することが出来るので、追加の複雑な処理系が不要で、追加リソースを使わずに実施できる。
さらに、実施の形態1では、同じ格子情報を使うことで、格子位置ずれによるずれが生じないようにする。実施の形態1では、バイアス補正用のパターンと描画パターンとを同一のピクセル化格子に従ってラスタ化し、ピクセル毎に加減算して描画ラスタデータを作成し描画する。このように、同一のピクセル化格子を用いてラスタ化することによって、ピクセル化格子が均一格子でも不均一格子の場合でも、バイアス補正用のパターンを描画用データとして作成し、ラスタライズ時に描画パターンと同じピクセル化格子に従って描画ラスタデータを作成して描画するので、双方のパターンで位置ずれは生じないため高精度の補正描画ができる。
(4)不要照射の形状に強度分布がある場合、等への対応
さらに、不要照射に強度分布があるような場合、例えば、非点等によりX/Y方向で解像性が異なるような場合には、ピクセル単位に演算するような従来方法では、多大で複雑な処理が必要となり、実施困難である。
これに対して、実施の形態1では、バイアス補正用のパターンにおいて、その濃さと共に強度分布も記述できるようにすることで、不要照射に強度分布があるような場合でも、高精度なバイアス補正描画ができる。
実施の形態2.
実施の形態1では、不良ビームにより形成される不良パターンのリバースパターンをラスタライズ処理することによってバイアス照射量用のピクセルデータを生成する場合を示したが、これに限るものではない。
図16は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。図16において、反転処理部53、ラスタライズ部54、及び合成部60の代わりに、合成部61、ベタパターンデータ生成部65、及びラスタライズ部66,67が配置された点以外は、図1と同様である。
検出部50、特定部51、不良パターンデータ生成部52、ラスタライズ部55(面積密度演算部56、補正照射係数演算部57、面積密度演算部58、及び照射量演算部59)、合成部61、パスデータ生成部62、画素領域補正部64、ベタパターンデータ生成部65、ラスタライズ部66、ラスタライズ部67、照射時間演算部68、配列加工部70、及び描画制御部72といった各「〜部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。検出部50、特定部51、不良パターンデータ生成部52、ラスタライズ部55(面積密度演算部56、補正照射係数演算部57、面積密度演算部58、及び照射量演算部59)、合成部61、パスデータ生成部62、画素領域補正部64、ベタパターンデータ生成部65、ラスタライズ部66、ラスタライズ部67、照射時間演算部68、配列加工部70、及び描画制御部72に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
図17は、実施の形態2における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図17において、実施の形態2における描画方法は、不良ビーム検出工程(S102)と、不良領域特定工程(S104)と、不良パターンデータ生成工程(S106)と、不良パターンピクセルデータ生成工程(S112)と、バイアス用ベタパターンデータ生成工程(S120)と、ベタパターンピクセルデータ生成工程(S122)と、描画パターンピクセルデータ生成工程(S130)と、合成工程(S142)と、パス毎のドーズ量演算工程(S144)と、照射時間データ演算工程(S146)と、描画工程(S150)と、いう一連の工程を実施する。
以下、特に説明する点以外の内容は、実施の形態1と同様である。不良ビーム検出工程(S102)と、不良領域特定工程(S104)と、不良パターンデータ生成工程(S106)と、の各工程の内容は実施の形態1と同様である。不良パターンデータ生成工程(S106)において、不良パターンデータ生成部52は、描画領域(例えば、ストライプ領域32)について不良領域の形状をパターンとする不良パターンの不良パターンデータを生成する。不良パターンデータは、例えば、図形種、座標、及びパターンサイズが定義される。また、さらに、不要ドーズ量或いは不要ドーズ量を示す識別子が付加データとして定義される。よって、図12及び図13にて説明したように不要ドーズ量の異なる複数の不良領域が存在する場合、不良パターンデータ生成部52は、不要ドーズ量の異なる複数の不良パターンが定義され、さらに、各不良パターンに関連させて、それぞれ対応する不要ドーズ量に応じた値が定義される不良パターンデータを生成する。
以上のように、事前に指定された描画モードの描画を実施する際に、不良ビームによって描画される部分を予測して、それに対応する描画データ(不良パターン:不要露光パターン)を作成する。
不良パターンピクセルデータ生成工程(S112)として、ラスタライズ部66(不良パターンデータ変換部)は、不良パターンデータを制御ピクセル27毎のドーズ量に対応する値が定義される不良パターンピクセルデータに変換する。まず、描画制御部72は、記憶装置144から描画モード情報を入力し、描画シーケンスに沿って、ストライプ領域32毎に、当該ストライプ領域32内の各制御ピクセル27と、それぞれの制御ピクセル27を担当するビームを対応付ける。そして、描画制御部72は、記憶装置146から事前に作成されたピクセル化格子情報を入力し、各制御ピクセル27とピクセル化格子の位置を対応付ける。
ラスタライズ部66(不良パターンデータ変換部)は、ピクセル化格子情報に定義された各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを使って、制御ピクセル27毎に、当該制御ピクセル27の画素36における不良パターンデータに定義される不良パターンの面積密度ρ”を演算する。図9の例では、制御ピクセルR(xn,yn)の画素36内に配置される図形パターン37の面積密度Sを演算する。各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを補正することで、ビームの照射位置の位置ずれに伴う描画されるパターンの寸法ずれ等を補正できる。
ラスタライズ部66は、制御ピクセル27毎に、演算された不良パターンの面積密度ρ”に当該不良パターンの不要ドーズ量を乗じた、規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を演算する。この際、当該画素36に関係する不良パターン図形が複数ある場合には、不良パターン図形毎に面積密度ρ”を演算し、各々の不良パターン図形の面積密度ρ”に当該不良パターン図形の不要ドーズ量を乗じた規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を求め、関係する複数の不良パターン図形の規格化されたドーズ量を加算することにより、制御ピクセル27の規格化されたドーズ量を演算する。規格化されたドーズ量(ドーズ係数)は、基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントの値を示す。そして、制御ピクセル27毎に規格化されたドーズ量が定義された不良パターンピクセルデータを生成する。或いは、ドーズ量D(x)は、基準ドーズ量と不良パターンの面積密度ρ”と当該不良パターンの不要ドーズ量とを乗じた入射ドーズ量自体を演算しても良い。不良パターンピクセルデータは、不良パターンのラスタデータとなる。
或いは、不良パターンデータに定義された不要ドーズ量が、1回のショットにおける最大照射時間Ttrのビームのドーズ量である基準不要ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントで定義されている場合、ラスタライズ部66は、制御ピクセル27毎に、演算された不良パターンの面積密度ρ”と当該不良パターンの不要ドーズ量と、基準不要ドーズ量を基準ドーズ量で割った比と、を乗じた、規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を演算する。基準不要ドーズ量を基準ドーズ量で割った比を乗じることで、基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)とした場合の割合に合わせることができる。或いは、ドーズ量D(x)は、基準不要ドーズ量と不良パターンの面積密度ρ”と当該不良パターンの不要ドーズ量とを乗じた入射ドーズ量自体を演算しても良い。
図18は、実施の形態2における描画方法の各段階におけるパターンの一例を示す図である。図18(a)、図18(b)、図18(d)、及び図18(e)は、図8(a)、図8(b)、図8(d)、及び図8(e)と同様である。実施の形態1では、不良パターンデータをリバースパターンデータに変換した後、リバースパターンデータのピクセルデータを生成したが、実施の形態2では、リバースパターンデータを生成せずに、不良パターンデータをそのままピクセルデータに変換する。代わりに、次のベタパターンを用いることになる。
バイアス用ベタパターンデータ生成工程(S120)として、ベタパターンデータ生成部65は、描画領域(ここではストライプ領域32)全体をパターンとするベタパターンデータを生成する。ベタパターン45は、図18(c)に示すように、ストライプ領域32全体をパターンとして作成される。よって、図18(c)の例では、ストライプ領域32全体が図形パターン有として形成される。ベタパターンデータは、例えば、図形種、座標、及びパターンサイズが定義される。また、さらに、バイアスドーズ量或いはバイアスドーズ量を示す識別子が付加データとして定義される。バイアスドーズ量は、不良パターンの不要ドーズ量の最大値を用いると好適である。各不良パターン40a〜40dが、例えば、すべて常時ONビームによって形成される場合、バイアスドーズ量が基準不要ドーズ量に対して100%となる。なお、バイアスドーズ量は、複数の不良パターン40a〜40dのうち、最大の不要ドーズ量分あれば良い。よって、例えば、図12(b)に示した不要ドーズ量(識別子「8」)、不要ドーズ量(識別子「7」)、不要ドーズ量(識別子「8」)、及び不要ドーズ量(識別子「9」)の複数の不良パターン40a〜40dがある場合、そのうち、最大の不要ドーズ量となる不良パターン40dの不要ドーズ量(識別子「9」)に合わせればよい。
ベタパターンピクセルデータ生成工程(S122)として、ラスタライズ部67(ベタパターンデータ変換部)は、ベタパターンデータを制御ピクセル27毎のドーズ量に対応する値が定義されるベタパターンピクセルデータに変換する。
ラスタライズ部67(ベタパターンデータ変換部)は、ピクセル化格子情報に定義された各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを使って、制御ピクセル27毎に、バイアスドーズ量を規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)として定義する。規格化されたドーズ量(ドーズ係数)は、基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントの値を示す。なお、均一格子で制御ピクセル27が設定されていれば、ベタパターンではパターンの面積密度は100%なので、バイアスドーズ量を各制御ピクセル27に定義すればよい。或いは、ドーズ量D(x)は、基準ドーズ量とベタパターンのバイアスドーズ量とを乗じた入射ドーズ量自体を演算しても良い。不均一格子で制御ピクセル27が設定されていれば、各制御ピクセル27の画素36の面積が異なるので、面積に応じたバイアスドーズ量を規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)として定義すればよい。ベタパターンピクセルデータは、ベタパターンのラスタデータとなる。
或いは、ベタパターンデータに定義された不要ドーズ量が、1回のショットにおける最大照射時間Ttrのビームのドーズ量である基準不要ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化された相対値、割合、或いはパーセントで定義されている場合、ラスタライズ部67は、制御ピクセル27毎に、制御ピクセル27の画素36の面積に応じたベタパターンのバイアスドーズ量と、基準不要ドーズ量を基準ドーズ量で割った比と、を乗じた、規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を演算する。基準不要ドーズ量を基準ドーズ量で割った比を乗じることで、基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)とした場合の割合に合わせることができる。或いは、ドーズ量D(x)は、基準不要ドーズ量と制御ピクセル27の画素36の面積に応じたベタパターンのバイアスドーズ量とを乗じた入射ドーズ量自体を演算しても良い。ベタパターンピクセルデータを生成する場合に、不良パターンのピクセルデータと、各制御ピクセル27の位置と各画素36の領域とを合わせる。
以上のように、不良ビーム描画パターン(不良パターン:不要露光パターン)、及び、全面一様なバイアス照射量パターン(ベタパターン)のラスタデータを作成する。上述したように、不良ビーム描画パターン(不良パターン:不要露光パターン)からラスタデータを作成する。そして、描画領域全面をカバーするバイアス照射用ベタパターンを作成する。また、不要露光パターンの照射量(最大値)をバイアス量として算定する。そして、バイアス照射用ベタパターンから、全面一様なバイアス照射量を与えるラスタデータを作成する。
描画パターンピクセルデータ生成工程(S130)の内容は、実施の形態1と同様である。
合成工程(S142)として、合成部61(合成ピクセルデータ生成部)は、制御ピクセル27毎にベタパターンピクセルデータと描画パターンピクセルデータに定義された値を加算し、不良パターンピクセルデータに定義された値を減算した合成ピクセルデータを生成する。具体的には、ベタパターンピクセルデータと描画パターンピクセルデータに定義された規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)同士を加算する。これにより、描画領域(ここではストライプ領域32)全体が、バイアスドーズ量によってバイアス(オフセット)される。しかし、このままでは、不良パターンの不要ドーズ量が余分なので、不良パターンピクセルデータに定義された規格化されたドーズ量(ドーズ量に対応する値)を差し引く。ベタパターンピクセルデータに定義された規格化されたドーズ量が基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化されているので、そのまま加算することができる。同様に、不良パターンピクセルデータに定義された規格化されたドーズ量が基準ドーズ量を100(或いは1、或いは10)として規格化されているので、そのまま減算することができる。或いは、ベタパターンピクセルデータと描画パターンピクセルデータに定義された入射ドーズ量同士を加算し、不良パターンピクセルデータに定義された入射ドーズ量を減算する。
なお、上記バイアス用ベタパターンのラスタデータの照射量の加算に関して、ピクセル化格子が全面で一様な均一格子の場合は、バイアス量を与える各ピクセルのドーズ量は全面で共通となるので、ベタパターンを作成するのではなく、ラスタデータの加減算時に、特定のバイアス値を加算するようにすれば、ベタパターンのラスタデータの作成を省略することもできる。
かかる合成ピクセルデータに沿ったドーズ量のビームを各制御ピクセル27に照射することにより、図18(e)に示すように、不良パターン40a〜40dには、不要ドーズ量が入射され、不良パターン40a〜40d以外の部分には、バイアスドーズ量が入射される。よって、描画領域(ここでは、ストライプ領域32)全体が、不要ドーズ量によりバイアスされることになる。よって、不良パターン40a〜40d自体が無かったかのようなバイアス照射量の下地を形成できる。
パス毎のドーズ量演算工程(S144)以降の各工程の内容は実施の形態1と同様である。
以上のように、描画時には、通常描画データ(ラスタデータ)に、ピクセル毎に、バイアス照射用ラスタデータのドーズ量を加算し、不良ビーム描画パターンのラスタデータのドーズ量を引算して描画する。描画は、ドーズ制御を保証するため、正常ビームだけを用いて描画するモードで実施する。描画は、バイアス量を低く抑えるため、ずらし2パス多重描画以外に、ずらし4パス以上で、不良ビーム部分が重ならないようにすると好適である。バイアス照射用ラスタデータのドーズ量、また、不良ビーム描画パターンのラスタデータのドーズ量は各パスに分配して加減算する。この際、通常描画データと同様に、各パスにドーズ量を均等に分配して加減算すると、引算によりマイナスの照射量が生じることなく、また、制御上も単純で効率良く処理できる。
以上のように、実施の形態2によれば、ベタパターンを用いることでリバースパターンを生成しなくても、マルチビーム20に不良ビームが生じた場合に、高精度な描画ができる。また、実施の形態1と同様、制御ピクセル27の位置と不良ビームによる照射パターン位置とがずれる場合に従来に比べて補正精度を向上できる。
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
図19は、各実施の形態における描画手法の変形例を説明するための図である。上述した各実施の形態では、描画パターンの他に、バイアス照射量が試料101に入射する。そのため、各ストライプ領域32の端部では、バイアス照射量が入射しない外部との間で急激なドーズ量差が生じる。そのため、各ストライプ領域32の端部に描画パターンが形成される場合、かかる急激なドーズ量差によって近接効果補正がずれてしまう場合があり得る。そこで、図19に示すように、試料101の描画領域30の周囲にダミーパターン38を配置する。ダミーパターン38の幅は、近接効果の影響半径以上あればよい。各ストライプ領域32の描画動作を行う場合に、かかるダミーパターン38も合わせて描画すると良い。或いは、描画領域30の描画処理が終了した後、描画領域30の周囲についてダミーパターン38を描画しても良い。ダミーパターン38のドーズ量は、バイアス照射量に合わせることは言うまでもない。バイアス照射量は、通常、1回のパスで照射可能なドーズ量になる場合が多いので、多重描画をしなくても描画できる場合が多い。もちろん、多重描画によりダミーパターン38を形成しても構わない。
以上のように、描画領域内での、条件均一化を図るために、連続移動で描画されるストライプの前後に余裕シロを取って描画制御すると良い。ダミーパターン38を独立して形成する場合の他、ストライプ領域32の前後にリバースパターン領域(または、バイアス用ベタパターン領域)を広く取り、リバースパターンによるバイアス描画が開始された後に通常パターンの描画が開始されるようにしても好適である。また、近接効果の条件等を均一化するため、描画パターン領域の上下にも、同様にバイアス用ベタパターン領域を拡張する。また、ストライプ間の移動等のステージ移動の際の不要な照射を避けるために、各実施の形態では、偏向器212による全ビーム強制OFF機構を設ける。かかる機構により、ステージ移動の際のビームをカットし、ストライプ描画開始時は、リバースパターンの描画が開始された後に全ビーム強制OFF機構を停止してビーム照射を開始し、順次通常描画領域が描画開始される、という処理が実施できる。ストライプ終了時は、開始時とは逆の手順で全ビーム強制OFF機構を開始させる。このような方法により、制御されていない状態でのビーム照射を避けることができ、また、通常描画パターンの周辺に均一なバイアス描画領域ができ、描画パターン周辺部でも近接効果等の条件の均一化が図れる。なお、ダミーパターン38或いは拡張したリバースパターンを作成する際、濃さが一様な部分は大きな図形で定義することにすれば、データ量の増加を避けることができる。
また、上述した各実施の形態において、リバースパターン分のドーズ量加算は、1パスにまとめると、その部分の不良ドーズが他の部分に比べて増加し、各パスで異なるドーズの不良ドーズの処理が必要となり、処理が煩雑になるという問題があるため、ドーズ量加算は各パスに分配して実施するのが好適である。
また、上述した例では、ステージの1回の移動でストライプ領域32を描画する際に、特定の部分には1回のビーム照射が行われるものとしていたが、描画モードの設定によって、ステージの1回の移動で、同じ場所に複数回の照射を行う描画方法も可能になる。このように、1パス(ステージの1回の移動)で同じ場所を異なるビームで複数回の照射を行う方法を、1パス多重描画方法と呼称することができる。例えば、1パス2回多重描画では、ステージの移動は1回だが、特定場所に2回の照射が行われるが、機能的には2パス分のラスタ描画データを用意して、2パス分の描画が同時に実施されるものと考えることができる。そこで、例えば、ステージの1回の移動(1パス)で、照射時間を半分にして、照射位置を2ヶ所(のピクセル)に振り分けることで、描画が実施できる。この時、不良ビームの照射位置は別の場所に照射されるため、不良ビームの照射量は減り、バイアスレベルは半減できることになる。この際、不良ビームが複数ある場合には、不良ビームの照射位置が重ならないように、描画モードを選択する。バイアスレベルが下がれば、コントラストが良くなるので、プロセスが容易な方向になる。このような描画モードも選択肢の一つであり、どのような描画モードを選ぶかは、要求に応じて設定されると良い。
また、不良パターン(不要露光パターン)データは、描画データとは別に、個別に保持するのが、データ管理上都合が良く好適である。個別に保持していれば、不良ビームの状況が運用途中で変わった場合には、状況変化に応じて不要露光パターンだけ変えれば良く、描画データはそのまま保持できるので、都合が良い。つまり、保持データ量が抑えられる他、データの帰属が明確になるので、管理し易くなる。
また、不要照射パターンを作成する際、ビームの位置ずれを評価し、そのずれ量を元にして不良ビームによる不要照射パターンを作成するのではなく、レジストを塗布した基盤に所定の描画モードでテストパターンを描画し、不要パターンの形成寸法、また、レジストの膜減り量等を評価し、その評価結果から不要照射パターンを直接決定することもできる。この際のテストパターンは、特定のパターンでも良いし、また、パターンなしでの描画(照射量を0として描画)を行うとよい。
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画装置及び方法は、本発明の範囲に包含される。