JP2019173149A - フェライト系ステンレス鋼板、およびその製造方法ならびにフェライト系ステンレス部材 - Google Patents

フェライト系ステンレス鋼板、およびその製造方法ならびにフェライト系ステンレス部材 Download PDF

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Abstract

【課題】加工性、特に深絞り性だけでなく穴拡げ性に優れた排気部品用フェライト系ステンレス鋼板および排気系部品用フェライト系ステンレス部材、ならびにフェライト系ステンレス鋼板の製造方法を提供する。【解決手段】化学組成が、質量%で、C:0.001〜0.020%、Si:0.010〜1.50%、Mn:0.02〜1.00%、P:0.01〜0.050%、S:0.0001〜0.010%、Cr:10.0〜20.0%、N:0.001〜0.030%、Nb:0.1〜0.8%、Ti:0.01〜0.30%、Sn:0.003〜0.500%、任意元素、残部:Feおよび不可避的不純物からなり、[Nb+Ti≧3(C+N)]および[Nb+Sn≧0.2]を満足し、X線回折による板厚中心部のフェライト相の結晶方位強度において、{111}<112>結晶方位強度が10.0以上、{322}<236>結晶方位強度が10.0以上であり、平均ランクフォード値(rm)が1.1以上、Δrが0.2以下である、フェライト系ステンレス鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法ならびにフェライト系ステンレス部材に関する。
自動車のエキゾーストマニホールド、コンバーター、フロントパイプおよびマフラーなどの排気系部材には、高温強度、耐熱疲労性、耐酸化性等の耐熱性が要求される。このため、Crを含有した耐熱フェライト系ステンレス鋼が使用されている。
前述の排気系部材の使用環境温度は年々高温化しており、Cr、Mo、Nb、Tiなどの元素の含有量を増加させ、高温強度および耐熱疲労特性などを高める必要が生じている。その結果、現状では、SUS 429系(14%Cr−Nb、Si添加鋼)、SUS 444系(18%Cr−Nb、Mo添加鋼)といった鋼種が主に使用されている。
一方、これらの部材は、鋼板からプレス加工される、または鋼板を所定のサイズ(径)の鋼管に造管した後に、目的の形状に成形されるため、部材を構成する素材鋼板に高い加工性が求められる。例えば、鋼板においては、プレス加工性と密接な関係がある深絞り性および穴拡げ性が重要な特性となる。
ところで、耐熱性向上に有効な合金元素のうちNbは、特に、高温強度および耐熱疲労特性の向上に効果が高く、多くの耐熱フェライト系ステンレス鋼に使用されている。一方、Nbは焼鈍中に炭窒化物(NbC、NbN等)または金属間化合物(Laves相等)を生成し易く、これらの析出物が転位、および再結晶粒の粒界をピン止めすることにより、再結晶を遅延させることが知られている。
圧延面に対し、{111}面が平行となる方位を有する結晶粒は加工性向上に寄与する。このため、焼鈍時等において上記方位を有する結晶粒が再結晶することが好ましい。しかしながら、上述したように、Nbを含有させることで再結晶が遅延すると、上記方位を有する結晶粒が板厚全体において発達しにくくなる。その結果、鋼板の加工性の向上が難しくなるという問題がある。また、自動車用排気系部材の選定においてはコストも重視され、工程数の省略等による、さらなる低コスト化と上述した材料特性の両立とが要求されている。
このような経緯から、耐熱フェライト系ステンレス鋼板の加工性に関する問題を解決するために、従来、様々な工夫がなされてきた。
特に、鋼板の深絞り性については、ランクフォード値(以下、「r値」と記載する。)をその指標とし、結晶方位を制御することによって、その特性を向上させている。また、深絞り成形の際に口縁部に生じる波打ち(いわゆる「耳」と呼ばれる部分)を軽減するため、r値の面内異方性(以下、単に「Δr」と記載することがある。)を可能な限り小さくすることも要求される。
さらに、鋼板の穴拡げ加工においては、打ち抜いた穴から全周方向に引張応力が発生する。このため、単にr値を向上させるのではなく、最小r値(以下、単に「rmin」と記載することがある。)を最低限確保することも要求される。
このような要求に対し、特許文献1では、熱間圧延工程の焼鈍温度、焼鈍時間、圧延率等の条件を制御し、加工性を高めた鋼を開示している。特許文献1で開示された鋼では、r値が最大で1.6程度となっている。
上記鋼の製造方法は、熱延工程において粗圧延での粗バーの再結晶を促進させ、再結晶率を30%以上とし、さらに、仕上圧延と750〜1050℃での熱延板焼鈍を施すことで高加工性鋼板を得るものである。
また、特許文献2には、二段焼鈍を行うことで拡管率が100%を超える鋼管が開示されている。上記鋼管においては、r値が1.6程度で0.8mm材が開示されている。
上記鋼の製造方法は、工程中に熱延鋼帯を一旦冷間圧延した後に、900〜1050℃の温度域で中間焼鈍し、再度冷間圧延を施した後に、950〜1100℃の温度域で仕上焼鈍することで高加工性鋼板を得るものである。
特許文献3には、11〜23%Cr、0.8%以下のNbまたは1.0%以下のTiを含有するCr含有耐熱鋼板において、熱延条件の制御および熱延板焼鈍と中間焼鈍とを施すことで、平均r値が2.0以上となる鋼およびその製造方法が開示されている。
上記鋼の製造方法は、800〜1050℃での熱延板焼鈍、または熱延板焼鈍後、さらに中間冷延と650〜1050℃での中間焼鈍を施すことで、仕上冷間圧延前の組織および析出物を制御して、鋼板の{111}方位の集合組織を発達させ、同時に脱膜型潤滑コート皮膜を被覆することで高加工性鋼板を得るものである。また、特許文献4には、省合金化により省コスト化した自動車排気系部品用耐熱鋼が開示されている。
特開2005−325377号公報 特開2006−274419号公報 特開2003−138349号公報 特開2014−162964号公報
特許文献1〜3における製造工程においては、熱延板焼鈍または中間焼鈍等の熱処理を行い、鋼板を仕上冷延前に完全に再結晶させることでr値を向上させている。しかしながら、熱延板焼鈍、中間焼鈍等の熱処理により再結晶を促進させることで、結晶方位が一様でなく、方位が揃っていない状態、いわゆるランダム化が進む場合がある。
このような結晶方位のランダム化が進んだ鋼板に対し、冷間圧延および焼鈍を施すことは、鋼板のr値の面内異方性(Δr)を大きくしてしまう場合がある。この結果、穴拡げ加工等の鋼板成形時に、割れ等の不具合が生じることも考えられる。加えて、上記方法は、工程数を増加させ、生産性を大きく低下させる場合がある。
特許文献4で開示されている省コスト排気系部品用鋼においては、耐熱性は十分だが、加工性向上に関する工程が無く、加工性についての検討が十分なされていない。
本発明の目的は、上記の問題点を解決し、加工性、特に深絞り性だけでなく穴拡げ性に優れた排気部品用フェライト系ステンレス鋼板および排気系部品用フェライト系ステンレス部材、ならびにフェライト系ステンレス鋼板の製造方法、を提供することにある。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.001〜0.020%、
Si:0.010〜1.50%、
Mn:0.02〜1.00%、
P:0.01〜0.050%、
S:0.0001〜0.010%、
Cr:10.0〜20.0%、
N:0.001〜0.030%、
Nb:0.1〜0.8%、
Ti:0.01〜0.30%、
Sn:0.003〜0.500%、
Mg:0〜0.0100%、
B:0〜0.0050%、
V:0〜1.0%、
Mo:0〜3.0%、
W:0〜3.0%、
Al:0〜0.3%、
Cu:0〜2.0%、
Zr:0〜0.30%、
Co:0〜0.50%、
Sb:0〜0.50%、
REM:0〜0.05%、
Ni:0〜2.0%、
Ca:0〜0.0030%、
Ta:0〜0.10%、
Ga:0〜0.1%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなり、
下記(i)式および(ii)式を満足し、
X線回折による板厚中心部のフェライト相の結晶方位強度において、{111}<112>結晶方位強度が10.0以上、{322}<236>結晶方位強度が10.0以上であり、
下記(iii)式で算出される平均ランクフォード値(r)が1.10以上、下記(iv)式で算出されるΔrが0.2以下である、フェライト系ステンレス鋼板。
Nb+Ti≧3(C+N)・・・(i)
Nb+Sn≧0.2・・・(ii)
但し、上記(i)および(ii)式中の各元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量を質量%で示したものである。
=(r+2r45+r90)/4・・・(iii)
Δr=(r+r90)/2−r45・・・(iv)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
:圧延方向のr値
45:圧延方向に対して45°方向のr値
90:圧延方向に対して90°方向のr値
(2)最小ランクフォード値(rmin)が0.80以上であり、かつ下記(v)式を満足する、上記(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
n(1+rmin)≧0.40 ・・・(v)
但し、上記(v)式中の各記号は以下により定義される。
n:加工硬化指数
(3)前記化学組成が、質量%で、
Mg:0.0002〜0.0100%、
B:0.0002〜0.0050%、
V:0.05〜1.0%、
Mo:0.2〜3.0%、および
W:0.1〜3.0%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)または(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(4)前記化学組成が、質量%で、
Al:0.003〜0.3%、
Cu:0.1〜2.0%、
Zr:0.05〜0.30%、
Co:0.05〜0.50%、
Sb:0.01〜0.50%、および
REM:0.001〜0.05%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(5)前記化学組成が、質量%で、
Ni:0.1〜2.0%、
Ca:0.0001〜0.0030%、
Ta:0.01〜0.10%、および
Ga:0.0002〜0.1%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(6)結晶粒度番号が5.0以上である、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(7)排気系部品に用いられる、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(8)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板からなる自動車または自動二輪車の排気系部品用フェライト系ステンレス部材。
(9)(a)上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の化学組成を有するスラブを加熱し、前記スラブを熱間圧延して、熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
(b)前記熱延鋼板に焼鈍を施さず、前記熱延鋼板を酸洗して、酸洗鋼板とする熱延鋼板酸洗工程と、
(c)前記酸洗鋼板を400mm以上のロール直径を有する圧延機を用い、圧下率60%以上で冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
(d)前記冷延鋼板を、下記(vi)式を満足する焼鈍温度Tf(℃)で焼鈍する焼鈍工程と、
を順に施す、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
850+300Nb≦Tf(℃)≦950+300Nb ・・・ (vi)
但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
(10)前記(a)の工程における前記スラブの等軸晶率が30%以上である、上記(9)に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
(11)前記(d)の工程において前記焼鈍温度Tf(℃)に到達するまでの平均加熱速度を、
昇温開始温度から下記(vii)式で算出される再結晶開始温度Ts(℃)までの温度域において15℃/s以上とし、
前記再結晶開始温度Ts(℃)から前記焼鈍温度Tf(℃)までの温度域において10℃/s以下とする、
上記(9)または(10)に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
Ts(℃)=750+300Nb ・・・(vii)
但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
本発明によれば、加工性、特に深絞り性だけでなく穴拡げ性に優れた排気部品用フェライト系ステンレス鋼板および排気系部品用フェライト系ステンレス部材ならびにフェライト系ステンレス鋼板の製造方法を提供することができる。
図1は、板厚中心部の{111}<112>結晶方位強度と鋼板のrとの関係を示した図である。 図2は、板厚中心部の{322}<236>結晶方位強度と、鋼板のΔrとの関係を示した図である。 図3は、穴拡げ性とn値およびrminとの関係を示した図である。 図4は、結晶粒度番号と最大粗さRzとの管径を示した図である。
上記課題を解決するために、本発明者らは、耐熱フェライト系ステンレス鋼板の加工性に関して、組成、製造過程における組織、結晶方位形成についての詳細な検討を行った。その結果、以下に示す知見を得た。
(a)Nbを含有する耐熱フェライト系ステンレス鋼板において、目的とする加工性を得るためには、平均r値(r)、最小r値(rmin)、面内異方性を示すΔrについて、適切に制御する必要がある。所定の鋼成分において、深絞り性および穴拡げ性と上記値の関係を調査した所、鋼板のrが1.10以上、rminが0.80以上、Δrが0.2以下である場合において、良好な高加工性鋼板が得られる。また、加工硬化指数nとrminとの間にはn(1+rmin)が0.40以上とするのが好ましい。
(b)上述の範囲のr、rmin、Δrの鋼板を得るためには、特定の方位の集合組織を発達させる必要がある。具体的な方位としては、{111}<112>方位の集合組織が発達すると、圧延方向に対して、各方向のr値が向上する。また、上記の方位に加え、{322}<236>方位の集合組織が発達すると、最小r値と最大r値の差が小さくなり、上述したrminおよびΔr値とすることができる。
(c)上記の{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織を発達させるためには、組成および製造工程を適切に制御することが好ましい。例えば、組成については、Nb、Sn等の元素の含有量を適切な範囲に調整することが有効である。これは、上記元素が{111}方位の集合組織の成長に有効な等軸晶の形成に寄与するためである。また、製造工程については、結晶方位のランダム化を抑制しつつ、上述した方位を有する結晶粒を優先的に再結晶させるため、熱間圧延後の焼鈍を行わず、さらに冷間圧延後の焼鈍において昇温速度を適切に制御することが有効である。
(d)r値向上には十分に{111}<112>結晶粒を成長させることが必要である。しかしながら、結晶粒径が大きいとリジング、オレンジピール等の加工肌荒れが顕著になる。この結果、鋼板の表面性状が劣化する。このような加工肌荒れは、プレス加工時に二次加工脆化、および座屈の起点になることから、加工割れおよび成型不良の原因となる。そのため、フェライトの結晶粒度番号(以下、結晶粒度番号と記載する。)を5.0以上とすることにより、良好な耐加工肌荒れ性鋼板を得ることができる。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.001〜0.020%
Cは、靭性、耐食性および耐酸化性を劣化させる他、母相に固溶したCは、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害する。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、その含有量は少ないほどよく、C含有量は、0.020%以下とし、0.010%以下とするのが好ましい。しかしながら、Cの過度の低減は、精錬コストの増加に繋がるため、C含有量は、0.001%以上とする。製造コストと耐食性とを考慮すると、C含有量は、0.002%以上とするのが好ましい。
Si:0.010〜1.50%
Siは、脱酸元素である他、耐酸化性と高温強度とを向上させる元素である。また、Siを含有させることで、鋼中の酸素量が低減し、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織が発達しやすくなる。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、Si含有量は、0.010%以上とする。なお、上記の集合組織を顕著に発達させるためには、Si含有量は、0.300%超とするのが好ましく、0.800%以上とするのがより好ましい。
一方、Siを1.50%超含有させると、鋼板が著しく硬質化し、鋼管加工時、曲げ性が劣化する。このため、Si含有量は1.50%以下とする。そして、鋼板製造時の靭性、および酸洗性を考慮すると、Si含有量は、1.20%以下とするのが好ましい。Si含有量は、1.00%以下とするのがより好ましい。
Mn:0.02〜1.00%
Mnは、高温において、MnCrまたはMnOを形成し、スケール密着性を向上させる。このため、Mn含有量は、0.02%以上とする。Mn含有量は0.15%超とするのが好ましく、0.18%以上とするのがより好ましい。一方、Mnを1.00%を超えて含有させると、酸化物量が増加し、異常酸化が生じ易くなる。加えて、Mnが、Sと化合物を生成し、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害する。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、Mn含有量は、1.00%以下とする。また、鋼板製造時の靭性、および酸洗性を考慮すると、Mn含有量は、0.8%以下とするのが好ましい。さらに、鋼管溶接部の酸化物に起因する偏平割れを考慮すると、Mn含有量は、0.30%以下とするのがより好ましい。
P:0.01〜0.050%
Pは、Si同様、固溶強化元素であるため、材質および靭性の観点から、その含有量は少ないほどよい。また、母相に固溶したPは、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害する。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、P含有量は、0.050%以下とする。一方、Pの過度の低減は、精錬コストの増加に繋がるため、P含有量は、0.01%以上とする。製造コストおよび耐酸化性を考慮すると、P含有量は、0.015%以上であるのが好ましく、0.030%以下であるのが好ましい。
S:0.0001〜0.010%
Sは、材質、耐食性および耐酸化性の観点から、少なければ少ないほどよい。特に、Sの過度な含有は、TiまたはMnとの化合物を生成させ、鋼管曲げの際に、介在物起点により割れを生じさせる。加えて、これら化合物の存在は、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害する。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、S含有量は、0.010%以下とする。一方で、Sの過度の低減は、精錬コストの増加に繋がるため、S含有量は、0.0001%以上とする。さらに、製造コスト、および耐食性を考慮すると、S含有量は、0.0005%以上とするのが好ましく、0.0050%以下とするのが好ましい。
Cr:10.0〜20.0%
Crは、高温強度および耐酸化性といった排気部品で最も重要な特性を確保するため必要な元素である。このため、Cr含有量は、10.0%以上とする。一方で、Crの含有が、20.0%超であると、靱性が劣化し、製造性が悪くなる他、特に鋼管溶接部の脆性割れ、または曲げ性不良が生じる。
加えて、過度の固溶Crは、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害する。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、Cr含有量は、20.0%以下とする。また、鋼板製造時の熱延板の靭性の観点から、Cr含有量は、18.0%以下とするのが好ましい。製造コストの観点から、Cr含有量は、14.0%未満とするのが好ましい。
N:0.001〜0.030%
Nは、Cと同様に低温靭性、加工性、および耐酸化性を劣化させる。加えて、母相に固溶したNは、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害するため、その含有量は少ないほどよい。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、N含有量は、0.030%以下とする。一方、Nの過度の低減は、精錬コストの増加に繋がる。このため、N含有量は、0.001%以上とする。製造コスト、および靭性を考慮すると、N含有量は、0.005%以上とするのが好ましく、0.008%以上とするのがより好ましい。上記理由から、N含有量は0.020%以下とするのが好ましい。
Nb:0.1〜0.8%
Nbは、CまたはNと結合して炭窒化物を形成する。また、Nbは鋳造時に組成的過冷却を引き起こし、{111}<112>方位の集合組織の形成に有効なスラブ中の等軸晶の発生率(以下、「等軸晶率」と記載する。)を著しく増大させる。このように、Nbは、製品板の{111}<112>方位の集合組織を発達させ、r値および鋼管の拡管性向上を促進する。
また、Nbは高温域における固溶強化能、および析出強化能が高く、高温強度および熱疲労特性を向上させる。さらに、Nbを含有させない場合、熱延途中にて再結晶が生じ{322}<236>の発達が阻害される。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、Nb含有量は0.1%以上とする。
一方、過度なNbの含有は、鋼板製造段階における靭性を著しく劣化させる。加えて、焼鈍中に粗大な、炭窒化物またはLaves相と呼ばれる金属間化合物を析出させる。このような析出物は粒界をピン止めすることにより、再結晶を遅延させる。この結果、目的とする方位の集合組織の発達を抑制し、r値を低下させる。このため、Nb含有量は、0.8%以下とする。溶接部の粒界腐食性、製造コストおよび製造性を考慮すると、Nb含有量は0.15%以上とするのが好ましく、0.55%以下とするのが好ましい。
Ti:0.01〜0.30%
Tiは、C、N、およびSと結合して耐食性、耐粒界腐食性、深絞り性を向上させる作用を有する。また、Ti窒化物はスラブ鋳造時において、結晶粒の核となることで、等軸晶率を増大させる。この結果、鋼板の{111}<112>方位の集合組織を発達させ、r値を向上させる。このように、C、およびNと結合してこれら元素を固定化する作用は0.01%以上のTiを含有させることで発現するため、Ti含有量は0.01%以上とし、0.11%以上であるのが好ましい。一方、Tiを0.30%超含有させると、固溶Tiにより硬質化してしまう他、靭性が劣化する。このため、Ti含有量は0.30%以下とする。製造コストなどを考慮すると、Ti含有量は0.05%以上が好ましく、0.25%以下が好ましい。
ここで、TiとNbの含有量合計は、3(C+N)未満では十分にCとNを固着できず過剰なC、Nが鋼中に固溶して硬化させるため、加工性を低下させる。このため、下記(i)式を満たす必要がある。
Nb+Ti≧3(C+N) ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量を質量%で示したものである。
なお、上記(i)式中の左辺値は等軸晶率増大の効果のために、0.1以上とするのが好ましく、0.15以上とするのがより好ましい。また、材料の硬質化および製造コストの観点から、上記(i)式中の左辺値は1.0以下とするのが好ましい。
Sn:0.003〜0.500%
Snは、Nbと同様に、スラブ鋳造時に組成的過冷却を引き起こし、等軸晶率を増大させる。この結果、鋼板の{111}<112>方位の集合組織を発達させ、r値および鋼管の拡管性向上を促進する。また、{111}<112>方位の発達は、最小r値も向上させるため、穴拡げ性も向上する。Snは、Nbよりも、組成的過冷域を生じさせやすく、これらの効果はSnを0.003%以上含有させることにより生じる。このため、Sn含有量は0.003%以上とする。しかしながら、Snは、0.500%超含有させると、過度な偏析を生じさせ、鋼管溶接部の低温靭性を低下させる。このため、Sn含有量は、0.500%以下とする。高温特性、製造コストおよび靭性を考慮すると、Sn含有量は0.300%以下とするのが好ましい。
上述のように、NbおよびSnはスラブの等軸晶率を著しく増大させ、{111}<112>方位の集合組織の形成に寄与する。しかしながら、Nbは冷間圧延後の焼鈍工程において、粒界をピン止めすることで、再結晶を遅延させる場合がある。このため、NbとSnとを複合添加することで、スラブの等軸晶率を増大させることが有効である。そこで、NbとSnの含有量合計は下記(ii)式を満たす必要がある。
Nb+Sn≧0.2 ・・・(ii)
但し、上記(ii)式中の各元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量を質量%で示したものである。
なお、上記(ii)式中の左辺値は等軸晶増大効果の観点より、0.2以上とするのが好ましく、0.25以上とするのがより好ましい。また、材料硬質化による靱性低下の観点から、上記(ii)式中の左辺値は0.6以下とするのが好ましい。
本発明は、上記各成分の他、必要に応じて以下のA群、B群、C群の成分から選択される1群以上を含有することが好ましい。なお、A群に分類される元素は、{111}<112>方位の集合組織に影響を与える元素である。また、B群に分類される元素は、高温強度、耐酸化性等の高温特性を向上させる元素である。そして、C群に分類される元素は、靭性、耐食性等を向上させる元素である。
A群元素
Mg:0〜0.0100%
Mgは、溶鋼中でAlと同様、Mg酸化物を形成し、脱酸剤として作用する。また、Mgは、微細に晶出したMg酸化物が核となり、スラブの等軸晶率を増大させる。そして、その後の工程において、NbおよびTi系微細析出物の析出を促す。具体的には、熱延工程において、前述の析出物が、微細析出すると、熱延工程および、続く熱延板の焼鈍工程において、再結晶核となる。その結果、非常に微細な再結晶組織が得られる。この再結晶組織は、{111}<112>方位の集合組織の発達、および靭性向上にも寄与する。このため、必要に応じて含有させてもよい。
しかしながら、Mgの過度な含有は、耐酸化性の劣化、および溶接性の低下などをもたらす。このため、Mg含有量は0.0100%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。精錬コストを考慮すると、Mg含有量は、0.0003%以上であるのが好ましく、0.0020%以下であるのが好ましい。
B:0〜0.0050%
Bは、粒界に偏析することで粒界強度を向上させ、二次加工性、低温靭性を向上させる元素である。加えて、Bは中温域の高温強度を向上させる。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bの0.0050%超の含有により、CrB等のB化合物が生成し、粒界腐食性、および疲労特性を劣化させる。加えて、{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害し、r値の低下をもたらす。このため、B含有量は、0.0050%以下とする。
一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0002%以上とするのが好ましい。溶接性、および製造性を考慮すると、B含有量は、0.0003%以上とするのが好ましく、0.0010%以下とするのが好ましい。
V:0〜1.0%
Vは、CまたはNと結合して、耐食性および耐熱性を向上する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vの1.0%超の含有により、粗大な炭窒化物が形成して靭性が低下し、加えて{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害する。このため、V含有量は、1.0%以下とする。さらに、製造コストおよび製造性を考慮すると、V含有量は、0.2%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
Mo:0〜3.0%
Moは、耐食性を向上させる元素であり、特に隙間構造を有する管材等では、隙間腐食を抑制する元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Moの含有量が、3.0%を超えると、著しく成形性が劣化し、製造性が悪化する。また、Moは、{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害するため、Mo含有量は、3.0%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.2%以上とするのが好ましい。{111}<112>方位の集合組織を先鋭に発達させること、合金コスト、および生産性を考慮すると、Mo含有量は、0.4%以上とするのが好ましく、2.0%以下とするのが好ましい。
W:0〜3.0%
Wは、高温強度を上げるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wの過度の含有は、靭性劣化および伸びの低下をもたらす。また、金属間化合物相であるLaves相の生成が増大し、{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害し、r値を低下させる。このため、W含有量は、3.0%以下とする。製造コスト、および製造性を考慮すると、W含有量は、2.0%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
B群元素
Al:0〜0.3%
Alは、脱酸元素として使用される。また、Alは高温強度、および耐酸化性を向上させる。また、Alは、TiNおよびLaves相の析出サイトとなり、析出物の微細析出に寄与し、低温靭性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Alの0.3%超の含有は、伸びの低下、溶接性および表面品質の劣化をもたらす。また、粗大なAl酸化物形成により、低温靭性を低下させる。このため、Al含有量は、0.3%以下とする。一方で、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.003%以上とするのが好ましい。精錬コストを考慮すると、Al含有量は、0.01%以上とするのが好ましく、0.1%以下とするのが好ましい。
Cu:0〜2.0%
Cuは、耐食性を向上させるとともに、母相に固溶しているCuの析出、いわゆる、ε−Cuの析出によって、中温域での高温強度を向上させる元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cuの過度な含有は、鋼板の硬質化による靭性低下、および延性低下をもたらす。このため、Cu含有量は2.0%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。耐酸化性、および製造性を考慮すると、Cu含有量は1.5%未満とするのが好ましい。
Zr:0〜0.30%
Zrは、耐酸化性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrの0.30%超の含有は、靭性および酸洗性などの製造性を著しく劣化させる。また、Zrと、炭素および窒素との化合物を粗大化させる。その結果、熱延焼鈍時の鋼板組織を粗粒化させ、r値を低下させる。このため、Zr含有量は、0.30%以下とする。製造コストを考慮すると、Zr含有量は、0.20%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
Co:0〜0.50%
Coは、高温強度を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、過度な含有は、靭性および加工性を劣化させる。このため、Co含有量は、0.50%以下とする。さらに、製造コストを考慮すると、Co含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方で、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
Sb:0〜0.50%
Sbは、粒界に偏析して高温強度を上げるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sbは、0.50%超の含有により、過度の偏析が生じて、鋼管溶接部の低温靭性を低下させる。このため、Sb含有量は、0.50%以下とする。高温特性、製造コストおよび靭性を考慮すると、Sb含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sb含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
REM:0〜0.05%
REM(希土類元素)は、種々の析出物を微細化し、靭性および耐酸化性を向上させる。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REM含有量が、0.05%を超えると、鋳造性が著しく低下する。このため、REM含有量は、0.05%以下とする。一方、前記効果を得るためには、REM含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。なお、精錬コストおよび製造性を考慮すると、REM含有量は、0.003%以上とすることがより好ましく、0.01%以下とすることが好ましい。
REM(希土類元素)は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の合計17元素をさす。上記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味し、単独で添加してもよいし、混合物で添加してもよい。
C群元素
Ni:0〜2.0%
Niは、靭性および耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Niの2.0%超の含有によりオーステナイト相が生成し、{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害し、r値が低下する他、鋼管曲げ性が著しく劣化する。このため、Ni含有量は、2.0%以下とする。製造コストを考慮すると、Ni含有量は、0.5%以下とするのが好ましい。一方で、Niの靭性への寄与は、0.1%以上で発現するため、Ni含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
Ca:0〜0.0030%
Caは、脱硫元素として有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ca含有量が、0.0030%を超えると、粗大なCaSが生成し、靭性および耐食性を劣化させる。このため、Ca含有量は、0.0030%以下とする。一方で、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。なお、精錬コストおよび製造性を考慮すると、Ca含有量は、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0020%以下とするのが好ましい。
Ta:0〜0.10%
Taは、CおよびNと結合して靭性の向上に寄与するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taの含有量が、0.10%を超えると、製造コストが増加する他、製造性を著しく低下させる。このため、Taの含有量は、0.10%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。なお、精錬コストおよび製造性を考慮すると、Taの含有量は、0.02%以上とするのがより好ましく、0.08%以下であるのが好ましい。
Ga:0〜0.1%
Gaは、耐食性向上および水素脆化抑制のため、必要に応じて含有させる。Ga含有量は0.1%以下とする。一方、上記効果を得るためには、硫化物および水素化物の生成を鑑み、Ga含有量は0.0002%以上とするのが好ましい。なお、製造コストおよび製造性、ならびに、延性および靭性の観点から、Ga含有量は、0.0005%以上とするのがより好ましく、0.020%以下とするのが好ましい。
本発明の化学組成において、残部はFeおよび不可避的不純物である。ここで「不可避的不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
2.鋼板のr値および結晶方位強度および結晶粒径
2−1.rおよびΔrの算出方法
本発明における鋼板のr値については、JIS Z 2254に従い、下記記載の手法により実施し、試験片を圧延方向に対して平行、45°方向、および90°方向のr値を求めた後に、平均r値を算出した。
以下に、r値の具体的な算出方法について述べる。冷延焼鈍板からJIS13号B引張試験片を圧延方向に対して、平行、45°方向、90°方向から採取し、10〜20%の歪みを引張試験で付与した後に、下記(a)式に各値を代入し、算出される。また、下記(iii)式を用いて、平均r値(r)が算出される。同様に下記(iv)式を用いてr値の面内異方性(Δr)が算出される。
r=ln(W/W)/ln(t/t) ・・・(a)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
:引張変形前の試験片の幅
W:引張変形後の試験片幅
:引張変形前の試験片の厚さ
t:引張変形後の試験片の厚さ
=(r+2r45+r90)/4 ・・・(iii)
Δr=(r+r90)/2−r45 ・・・(iv)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
:圧延方向のr値
45:圧延方向に対して45°方向のr値
90:圧延方向に対して90°方向のr値
2−2.rおよびΔrと結晶方位強度との関係性
図1を用いて、板厚中心部の{111}<112>結晶方位強度と鋼板のrとの関係を説明する。図1は、素材の板厚中心部の{111}<112>結晶方位強度と、鋼板のrとの関係を示した図である。
ここで、上記の集合組織の測定は、X線回折装置(理学電気興業株式会社製)を使用し、Mo−Kα線を用いて、板厚中心部の領域(機械研磨と電解研磨の組み合わせで中心領域を現出)の(200)、(110)、(211)正極点図を得、これから球面調和関数を用いてODF(Orientation Distribution Function)を得た。この測定結果に基づいて、{111}<112>結晶方位強度および{322}<236>結晶方位強度を算出した。なお、本発明においては、母相であるフェライト相の結晶方位強度を測定している。
図1より、厚さ方向の歪に比べて、板幅方向の歪が大きい滑り変形をする結晶方位である{111}<112>結晶方位強度が増加すると、板厚減少が抑制される。その結果、図1に示されるようにrが向上する。このため、板厚中心部の{111}<112>結晶方位強度を10.0以上とすることで、rを1.10以上とすることができる。そして、本発明に係る鋼板ではrを1.10以上とし、1.20以上とするのが好ましい。
以上を踏まえ、本発明に係る鋼板ではX線回折による板厚中心部のフェライト相の結晶方位強度において、{111}<112>結晶方位強度を10.0以上とする。また、本発明に係る鋼板では、rを1.10以上とする。
次に、図2を用いて、板厚中心部の{322}<236>結晶方位強度と、鋼板のΔrとの関係を説明する。図2は、素材の板厚中心部の{322}<236>結晶方位強度と、鋼板のΔrとの関係を示した図である。{322}<236>結晶方位が増加すると鋼板のr値の異方性を変化させ、Δrが通常より小さくなる。図2より、素材の{322}<236>結晶方位強度が10.0以上の時、Δrが0.2以下とすることができる。このため、本発明に係る鋼板ではΔrを0.2以下とし、0.0以下とするのが好ましい。また、Δrが小さくなると式(iv)に示すようにrおよびr90がr45より小さくなりすぎ異方性のバランスが極端になりすぎるという理由から、Δrは−0.5以上とするのが好ましい。
本発明に係る鋼板では、X線回折による板厚中心部のフェライト相の結晶方位強度において、{322}<236>結晶方位強度を10.0以上とする。また、本発明に係る鋼板では、Δrを0.2以下とする。
2−3.最小r値(rmin)の算出方法
本発明では、最小r値(rmin)を、r、r45、r90のうち最も値が小さいr値とし、算出した各方向のr値から求めることができる。
2−4.最小r値およびn値と穴拡げ性との関係
本発明においては良好な穴拡げ性を具備させるため、rminおよびn値が下記(v)式を満足するのが好ましい。自動車構造部品用鋼材として良好な穴拡げ性は、その指標である穴拡げ率が100%以上とするのが好ましい。
図3は、穴拡げ性とn値およびrminとの関係を示した図である。図3より、下記(v)式を満足する場合、穴拡げ率100%以上となる高加工性ステンレス鋼板を提供することができる。なお、n値は製造方法による向上が難しく、(v)式を満足するためにはrminを最低限確保する必要があるという理由から、rminは0.80以上とするのが好ましく、0.90以上とするのがより好ましい。
n(1+rmin)≧0.40 ・・・(v)
但し、上記(v)式中の各記号は以下により定義される。
n:加工硬化指数
min:最小r値
以上を踏まえ、本発明に係る鋼板では、最小ランクフォード値(rmin)が0.80以上であり、かつ上記(v)式を満足するのが好ましい。
さらに良好な穴拡げ性を得るためには、上記(v)式の左辺値は0.45以上とするのがより好ましい。
ここで、n値とは、加工硬化指数を示し、深絞り性または張り出し成形性を示す指標の一つである。n値は、例えば、JIS Z 2253に従い、鋼板からJIS13号B引張試験片を採取して応力歪曲線を求め、算出すればよい。具体的には下記(b)式のnの値を求めることで算出することができる。
σ=Cε ・・・(b)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
σ:真応力
ε:真ひずみ
穴拡げ性を評価するための指標である穴拡げ率は、以下記載の方法で算出する。具体的には、JIS Z 2256に準拠し、φ10mmの打ち抜き穴に60°の円錐ポンチを押し込んで少しずつ穴を拡げ、穴に亀裂が入った時点でポンチを停止し、穴径の変化から穴拡げ率λは、下記(c)式を用いて算出する。
λ=100×(D−D0)/D0 ・・・(c)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
D:穴拡げ試験後の穴径
0:穴拡げ試験前の穴径
2−5.鋼板の結晶粒度番号と加工肌荒れとの関係
自動車構造部品用鋼材は、主に複数回のプレス加工により成形される。この時、結晶粒径が大きいとリジング、オレンジピール等の加工肌荒れにより鋼板の表面性状が劣化する。このような加工肌荒れは、プレス加工時に二次加工脆化、座屈の起点になることから、加工割れおよび成型不良の原因となる。これを防ぐためには、下記方法で、後述する加工肌荒れ測定時に最大高さ粗さ(Rz)を20μm以下とすることが好ましい。これにより、プレス加工に適した耐加工肌荒れ性を持つステンレス鋼板が得られる。Rzは15μm以下とするのが好ましい。
図4は結晶粒度番号とRzとの関係を示す図である。図4より、Rzが20μm以下となるには、結晶粒度番号5.0以上を満足する必要がある。結晶粒度が5.0以上である場合に、上記の加工肌荒れが抑制されたプレス加工に適したステンレス鋼板を提供することができる。
上記の結果を踏まえ、自動車構造部品用鋼材として良好な耐加工肌荒れ性(Rz:20μm以下)を具備させるために、結晶粒度番号は5.0以上とするのが好ましく、6.0以上とするのがより好ましい。しかしながら、上記の加工性を得るには結晶粒成長により{111}<112>結晶方位強度を十分に発達させる必要があるため、結晶粒度番号は10.0以下とするのが好ましく、8.0以下とするのがより好ましい。なお、結晶粒度番号は、上述したようにフェライトの結晶粒度番号であり、JIS G 0551に準拠して、光学顕微鏡観察を行うことで測定する。具体的には、結晶粒度番号は比較法により測定される。
また、加工肌荒れは、JIS5号試験片を採取して、圧延方向に16%の伸び歪を付与し、試験片表面に発生した加工肌荒れを2次元粗さ測定器により表面プロファイルを測定しRzで評価する。Rzは、JIS B 0601に準拠して、2次元粗さ計を用いて測定する。
3.製造方法
次に、製造方法について説明する。本発明に係る鋼板の製造方法は、例えば、製鋼−熱間圧延−酸洗−冷間圧延−焼鈍の工程を含む。以下において、本発明に係る鋼板の好ましい製造方法について記載する。
3−1.スラブ鋳造工程
製鋼においては、上述の必須元素、および必要に応じて含有される選択元素を含有する鋼を、転炉溶製し、続いて2次精錬を行う方法が好適である。続いて、溶製した溶鋼は、公知の鋳造方法(連続鋳造)に従ってスラブとする。なお、鋳造条件は通常の連続鋳造条件に従うものとする。
本発明では、鋳造によりスラブを作製する工程において、{111}<112>方位を持つ再結晶粒の核生成サイトとなる等軸晶を形成させるのが好ましい。本発明中においては、等軸晶とは、結晶粒の形状および方位が等方的な多結晶組織であり、スラブ中に存在するアスペクト比が1/2以下の結晶粒と定義する。
これら等軸晶における粒界は、後述する冷延板の焼鈍工程において、{111}<112>方位を持つ再結晶粒の核生成サイトとなる。このため、スラブ中の等軸晶率は、30%以上であるのが好ましく、50%以上であるのがより好ましい。なお、スラブの等軸晶率は、JIS G 0553により得たマクロエッチング組織より測定することができる。具体的には、スラブの等軸晶率とはスラブの任意の断面において等軸晶が占める面積の比率を百分率で示した値である。
スラブ中に等軸晶を形成させるためには、上述したようにNbおよびSnの含有量を調整することが好ましい。NbおよびSnは偏析を生じやすいため、溶鋼が凝固する際に、固相から液相へ分配されたSnおよびNbが柱状晶先端に偏析する。このような偏析により、液相中で組成的過冷却が引き起こされ、等軸晶の凝固核が生成される。そして、上述の凝固核から等軸晶が形成し、凝固組織中では等軸晶率が高い組織となる。
また、フェライト系ステンレス鋼連鋳スラブの等軸晶率は鋳造条件に影響を受けることが知られており、一般に鋳造温度が低い場合に等軸晶率は高くなると言われている。このため、上記記載の好ましい範囲の等軸晶率とするためには、過熱度ΔT(ΔT=鋳込溶鋼温度−凝固温度)は100℃以下とするのが好ましい。一方で、ΔTを0℃以下とすると、溶鋼の粘度が高くなるため、操業上ノズル閉塞等のトラブルを生じやすくなり好ましくない。以上より、ΔTは0℃以上、100℃以下の範囲とするのが好ましい。ΔTは20℃以上、80℃以下とするのがより好ましい。
3−2.熱間圧延工程
続いて、上記スラブを、加熱し、所定の板厚に連続圧延で熱間圧延し、熱延鋼板とするのが好ましい(熱間圧延工程)。熱間圧延時のスラブの加熱温度は、1100℃未満であると、Nbが完全に固溶せず、析出物が生成し、後の工程に悪影響を及ぼすことがある。一方、スラブの加熱温度を1250℃超とすると、スラブが、自重で高温変形するスラブ垂れが生じることがあるため好ましくない。このため、熱間圧延時のスラブの加熱温度は、1100〜1250℃とするのが好ましい。さらに、生産性および表面疵の発生を考慮すると、スラブの加熱温度は、1150〜1200℃とするのがより好ましい。なお、本発明においては、スラブの加熱温度と熱間圧延開始温度は同義である。
熱間圧延工程では、上記加熱したスラブに複数パスの粗圧延を施し、続いて複数スタンドからなる仕上圧延を一方向に施すのが好ましい。これにより、上記スラブは熱間圧延板となり、コイル状に巻き取られる。なお、仕上げ圧延の終了温度は1150〜950℃とするのが好ましく、巻取り温度は巻取中のNb系析出物の生成を避ける関係上、600℃以下の温度域とするのが好ましい。
なお、下記の冷間圧延後の焼鈍時に再結晶促進させるために、Nbを事前に析出させる手法をとる場合、巻取温度はNb系析出物の生成のピークである700℃以上の温度域とするのが好ましい。しかしながら、巻取温度を過度に高温にすると、Nb系析出物の過剰な生成、粗大化による熱延板靱性低下、およびNbの再溶解を招く。このため、巻取温度は900℃以下の温度域とするのが好ましい。巻取温度は750℃以上、850℃以下とするのがより好ましい。
上記のように巻取温度を700℃以上とすることで、鋼中に固溶したNbを事前に析出させ、析出物を成長させることができる。そして、下記の冷間圧延後の焼鈍工程において、焼鈍中に再結晶と同時に微細な析出物が生成するのを抑制することが可能となる。このような微細なNb析出物は、焼鈍時に再結晶粒のピン止め効果を過度に強め、再結晶を完了させにくくするため、焼鈍温度をより高温にする必要が生じる。
一方、巻取温度を上記範囲とし、Nbを予め析出させておくことで、再結晶の開始から完了までをより低温の焼鈍温度で行うことができる。この結果、鋼板の{111}<112>結晶方位を発達させつつ、結晶粒度番号5.0以上の組織とすることができ、平均r値と耐加工肌荒れ性を両立させた鋼板を得ることができる。このように、Nbを予め析出させておくことは、0.3%以上、Nbを含有させた鋼種において、特に効果が大きい。
ただし、700℃以上の温度で巻取を行った場合、熱延歪が回復するため、結晶粒度番号が5.0以下になるまで十分に再結晶粒を成長させると、{111}<112>結晶方位の発達は600℃以下の温度で巻取った鋼板より低くなる。このため、必要特性にあわせて巻取温度は適宜選択するのが望ましい。
3−3.熱延鋼板酸洗工程
続いて、得られた熱延鋼板に熱延板焼鈍を施さず、熱延鋼板を酸洗して、酸洗鋼板とするのが好ましい(熱延鋼板酸洗工程)。この酸洗鋼板は、後述する冷間圧延工程において冷間圧延素材として供されるのが好ましい。これは、通常、熱延鋼板に熱延板焼鈍を施して、整粒再結晶組織を得る一般的な製造方法とは異なっている。一般的に、熱延板焼鈍を施すと組織制御が容易となるが、熱延歪が消失し{111}<112>結晶方位の発達を妨げる他、r90を向上させる{322}<236>結晶方位が後の冷間圧延後の焼鈍工程において発達しがたい。
ところで、{322}<236>結晶方位は、α−fiber({011}//RD({100}〜{111}<011>))と呼ばれる集合組織が発達した鋼板を焼鈍すると、より強く発達する。このα−fiberは、フェライト系ステンレス鋼板においては、熱間圧延および冷間圧延によって発達する。しかしながら、熱延板焼鈍を行うと熱間圧延時に発達したα−fiberが、冷間圧延前に一旦消失し、結晶方位のランダム化が進行してしまう。このため、本発明においては熱延板焼鈍を実施しないのが好ましい。
また、熱延板焼鈍を行わない場合、熱延組織のランダム化が生じないため、後述の冷間圧延においてもスラブの組織がそのまま残存し、冷間圧延後の再結晶挙動に大きく影響を及ぼすこととなる。上述したように{111}<112>方位を持つ再結晶粒の核生成サイトはスラブの等軸晶の結晶粒界である。このため、スラブの等軸晶率を上記範囲とするのが好ましい。
3−4.冷間圧延工程
続いて、上記酸洗鋼板を400mm以上のロール直径を有する圧延機を用いて、圧下率60%以上で冷間圧延して冷延鋼板とするのが好ましい(冷間圧延工程)。ここで、ロール直径を400mm以上とすることで、冷間圧延時の剪断歪を抑制できる。また、剪断歪により導入される剪断変形は、ランダム方位粒の核生成サイトとなるため、抑制する必要がある。その結果、続く焼鈍工程において、r値を向上させる{111}<112>結晶方位の結晶粒の生成を促進させる。
また、圧下率が高くなると、再結晶の駆動力となる蓄積エネルギーが増大する。その結果、{111}<112>結晶方位が優先核生成しやすくなり、また選択成長しやすくなる。このため、冷間圧延の圧下率は、60%以上であるのが好ましい。また、冷間圧延の圧下率は、70%以上とするのがより好ましい。
3−5.冷間圧延後の焼鈍工程
3−5−1.焼鈍温度
続いて、上記冷延鋼板を、下記(vi)式を満足する焼鈍温度Tf(℃)で焼鈍するのが好ましい(焼鈍工程)。冷間圧延後の焼鈍については、{111}<112>方位の再結晶粒発達のためには、Nb添加による再結晶の遅延を考慮に入れ、焼鈍温度および焼鈍時の昇温速度を制御することが好ましい。焼鈍温度については、過度に高温にすると、結晶粒の粗大化を招き、オレンジピール等の肌荒れの原因となる。このため、冷間圧延後の焼鈍温度(Tf(℃))は、上述したように、下記(vi)式で算出される範囲の温度域で行うことが好ましい。
850+300Nb≦Tf(℃)≦950+300Nb ・・・(vi)
但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
3−5−2.昇温開始温度から再結晶開始温度Ts(℃)までの加熱速度
また、焼鈍工程においては、平均加熱速度を下記範囲で制御することが好ましい。具体的には、平均加熱速度は昇温開始温度から下記(vii)式で算出される再結晶開始温度Ts(℃)までの温度域において、15℃/s以上とするのが好ましい。また、平均加熱速度は昇温開始温度から下記(vii)式で算出される再結晶開始温度Ts(℃)までの温度域において、20℃/s以上とするのがより好ましい。なお、本発明では、平均加熱速度を、昇温開始温度から目標とする温度に到達するまでの時間を制御することで、上記の好ましい値の範囲内に制御する。
これは、焼鈍開始温度から再結晶開始温度Ts(℃)まで昇温する際に、析出物が生成するのを抑制するためである。焼鈍中に微細な析出物が生成すると、再結晶の遅延が生じ比較的、再結晶の初期段階に形成される{111}<112>方位の再結晶粒の形成が阻害される。その結果、{111}<112>方位以外の他の結晶方位も成長し、結晶方位がランダム化してしまう。このため、焼鈍開始から再結晶開始温度Ts(℃)までの温度域における平均加熱速度は上記範囲とすることが好ましい。
なお、再結晶開始温度Ts(℃)はNb添加による再結晶の遅延を考慮に入れた以下の(vii)式で求められる。
Ts(℃)=750+300Nb ・・・(vii)
但し、上記(vii)式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
3−5−3.再結晶開始温度Ts(℃)から焼鈍温度Tf(℃)までの加熱速度
再結晶粒のうち、{111}<112>方位の結晶粒は、他の方位の結晶粒より比較的、再結晶の初期に生じやすい。また、{111}<112>方位の結晶粒は、焼鈍中に粒成長し、他の方位の結晶粒を蚕食することによって発達する。{111}の再結晶が開始する前に、他の方位の結晶粒が再結晶する温度まで昇温してしまうと、{111}<112>方位の集合組織の発達が抑制され、加工性が低下してしまう。そのため、焼鈍中に微細な析出物が生成する前に、再結晶開始温度Tsに到達させ、その後、{111}<112>方位の結晶粒を成長させるために、ゆっくりと再結晶を進行させるのが望ましい。このため、本発明の係る鋼板では、上記再結晶開始温度Ts(℃)から後述する焼鈍温度Tf(℃)までの平均加熱速度は、10℃/s以下とするのが好ましく、5℃/s以下とするのがより好ましい。このような加熱速度の制御により鋼板において{111}<112>方位が強く発達する。
3−6.製造方法と結晶粒
上述したように、スラブの等軸晶の結晶粒界は{111}<112>方位を持つ再結晶粒の核生成サイトとなるため、等軸晶率を増大させ、熱延板焼鈍を省略することで、鋼板において{111}<112>方位が強く発達する。
そして、冷間圧延において直径400mm以上の大径ロール圧延により通常より剪断変形の導入が抑制される。この結果、剪断変形によるランダム方位粒の生成が抑制される。さらに、早期の{111}<112>方位の結晶粒の核生成の効果が組み合わさり、通常の製造方法、つまり小径ロール圧延で、かつ熱処理制御無しの場合と比較して、{111}<112>方位の再結晶集合組織が強く発達する。
このように{111}<112>方位の集合組織が発達するが、それと同時に、{322}<236>方位の集合組織も発達する。これにより本発明で所望する特性を具備するフェライト系ステンレス鋼板が得られる。
3−7.その他製造条件
なお、スラブ厚さ、熱延板厚などは適宜設計すればよい。また、冷間圧延においては、ロール粗度、圧延油、圧延パス回数、圧延速度、圧延温度などは適宜選択すればよい。焼鈍は、必要であれば水素ガスあるいは窒素ガスなどの無酸化雰囲気で焼鈍する、光輝焼鈍を実施してもよい。また、大気中で焼鈍を実施してもよい。さらに、焼鈍後に、調質圧延または形状矯正のためのテンションレベラー工程を実施してもよく、また通板しても構わない。
3−8.フェライト系ステンレス部材の製造方法
上記方法で製造された鋼板を以下の方法を用い、自動車または自動二輪車等の排気部品用部材とする。これらの部材は、鋼板からプレス加工されるか、鋼板を所定のサイズ(径)の鋼管に造管した後に目的の形状に成形される。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す成分組成および等軸晶率の鋼を溶製し、スラブに鋳造し、スラブ加熱温度を1150℃、巻取温度を500℃の条件で、熱間圧延して3.8mm厚の熱延鋼板とした。その後、酸洗した熱延鋼板を、直径400mmのロールを用いて、1.0mm厚まで冷間圧延し、連続焼鈍および酸洗を施した。なお、具体的な焼鈍条件については表2に示すとおりであり、焼鈍時間は100秒とした。
Figure 2019173149
このようにして、得られた冷延鋼板に対して、r値測定、穴拡げ試験ならびに結晶方位強度測定を行った。
r値については、JIS Z 2254に従い、上述の手法により実施し、圧延方向に対して、平行、45°方向、90°方向から試験片を採取し、r値を求めた後に平均r値(r)を算出した。具体的には、JIS13号B引張試験片採取し、圧延方向に対して、引張試験で平行、45°方向、90°方向に10〜20%の歪みを付与した後、所定の方法で、上記値を算出した。
穴拡げ性の評価は、JIS Z 2256に準拠し、φ10mmの打ち抜き穴に60°の円錐ポンチを押し込んで少しずつ穴を拡げ、穴に亀裂が入った時点でポンチを停止し、穴径の変化から穴拡げ率λを、下記(c)式を用いて算出した。
λ=100×(D−D0)/D0 ・・・(c)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
D:穴拡げ試験後の穴径
0:穴拡げ試験前の穴径
結晶方位強度測定については、X線回折装置(理学電気興業株式会社製)を使用し、Mo−Kα線を用いて、板厚中心領域(機械研磨と電解研磨の組み合わせで中心領域を現出)の(200)、(110)、(211)正極点図を得、これから球面調和関数を用いてODF(Orientation Distribution Function)を得た。この測定結果に基づいて、{111}<112>結晶方位強度および{322}<236>結晶方位強度を算出した。なお、本発明においては、母相であるフェライト相の結晶方位強度を測定している。
以下、結果をまとめて表2に示す。
Figure 2019173149
表2に示した実施例は、いずれも本発明の好ましい製造条件により製造されている。符号B1〜B28は、本発明で規定する組成を満足し、フェライト相の結晶方位強度(集合組織)、深絞り性と相関のある各r値が良好で、穴拡げ性を満足し、加工性に優れている。これに対し、符号b1〜b10は、本発明で規定する組成を満足せず、フェライト相の結晶方位強度(集合組織)、深絞り性と相関のある各r値、および穴拡げ性も低く、加工性が不良だった。
表3に、表1に記載した鋼種について、表3および表4に示す製造条件において製造した場合の結果をまとめて示す。なお、表3および表4においても、スラブに鋳造し、スラブ加熱温度を1150℃、巻取温度を500℃の条件で、熱間圧延して3.8mm厚の熱延鋼板とした。その後、酸洗した熱延鋼板を、表中のロール径のロールを用いて、表中の圧下率で冷間圧延し、連続焼鈍および酸洗を施した。なお、焼鈍時間は100秒とした。
Figure 2019173149
表3に示す符号C1〜C5は、組成が本発明で規定する範囲を満足し、加えて、製造条件が本発明における好ましい製造条件である。このため、フェライト相の結晶方位強度が本発明の規定範囲内となり、深絞り性と相関のある各r値および穴拡げ性も良好であった。一方、本発明で規定する組成は満足するが、好ましい製造条件から外れる符号c1〜c4の場合、鋼板の結晶方位強度が本発明の規定範囲外となり、所望する平均r値、rmin、およびΔr、の少なくともいずれかが不要で、深絞り性に劣っているか、十分な穴拡げ性を得られず、加工性が不良であった。
Figure 2019173149
表4に示す本発明例のうちD1〜D3は、本発明のより好ましい製造条件である焼鈍時の加熱速度を満足しなかった。このため、焼鈍時の加熱速度の条件を満足したD4〜D9と比較し、結晶方位強度、平均r値、最小r値および穴拡げ性のいずれかの特性について劣る結果となった。しかしながら、D1〜D3のいずれにおいても、本発明の規定範囲内であるフェライト相の結晶方位強度、深絞り性と相関のある各r値、および穴拡げ性を満足し、また、加工性に優れる結果となった。
表5に、表1に記載した鋼種について、スラブに鋳造し、スラブ過熱温度を1150℃とし、熱間圧延して、3.8mm厚の熱延鋼板とした。その後、酸洗した熱延鋼板を、直径400mmのロールを用いて、70%の圧下率で冷間圧延し、連続焼鈍および酸洗を施した。なお、E1〜E3までは、熱間圧延後の巻取温度を800℃とし、E4については、巻取温度を500℃とした。以下、表5に結果をまとめてしめす。
Figure 2019173149
結晶粒度番号は、JIS G 0551に準拠して、光学顕微鏡観察を行うことで測定した。具体的には、結晶粒度番号は、フェライトの結晶粒度番号であり、比較法により測定した。
加工肌荒れは、JIS5号試験片を採取して、圧延方向に16%の伸び歪を付与し、試験片表面に発生した加工肌荒れを2次元粗さ測定器により表面プロファイルを測定し、最大高さ粗さ(Rz)で評価した。最大高さ粗さRzは、JIS B0601に準拠して、2次元粗さ計を用いて測定した。また、Rzが20μm以下である場合を耐加工肌荒れ性が良好であると判断した。
表5に示す本発明例E1〜E4は、いずれも成分含有量および製造方法が本発明範囲内であり、鋼板の品質について良好な結果が得られた。さらに、本発明例E1〜E3は、本発明における好ましい結晶粒度番号を満足するため、耐加工肌荒れ性が良好であった。一方、E4は、Nb含有量が高いが、巻取温度は700℃以下であったため、本発明における好ましい結晶粒度番号を満足せず、耐加工肌荒れ性は不良であった。

Claims (11)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.001〜0.020%、
    Si:0.010〜1.50%、
    Mn:0.02〜1.00%、
    P:0.01〜0.050%、
    S:0.0001〜0.010%、
    Cr:10.0〜20.0%、
    N:0.001〜0.030%、
    Nb:0.1〜0.8%、
    Ti:0.01〜0.30%、
    Sn:0.003〜0.500%、
    Mg:0〜0.0100%、
    B:0〜0.0050%、
    V:0〜1.0%、
    Mo:0〜3.0%、
    W:0〜3.0%、
    Al:0〜0.3%、
    Cu:0〜2.0%、
    Zr:0〜0.30%、
    Co:0〜0.50%、
    Sb:0〜0.50%、
    REM:0〜0.05%、
    Ni:0〜2.0%、
    Ca:0〜0.0030%、
    Ta:0〜0.10%、
    Ga:0〜0.1%、
    残部:Feおよび不可避的不純物からなり、
    下記(i)式および(ii)式を満足し、
    X線回折による板厚中心部のフェライト相の結晶方位強度において、{111}<112>結晶方位強度が10.0以上、{322}<236>結晶方位強度が10.0以上であり、
    下記(iii)式で算出される平均ランクフォード値(r)が1.10以上、下記(iv)式で算出されるΔrが0.2以下である、フェライト系ステンレス鋼板。
    Nb+Ti≧3(C+N)・・・(i)
    Nb+Sn≧0.2・・・(ii)
    但し、上記(i)および(ii)式中の各元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量を質量%で示したものである。
    =(r+2r45+r90)/4・・・(iii)
    Δr=(r+r90)/2−r45・・・(iv)
    但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
    :圧延方向のr値
    45:圧延方向に対して45°方向のr値
    90:圧延方向に対して90°方向のr値
  2. 最小ランクフォード値(rmin)が0.80以上であり、かつ下記(v)式を満足する、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
    n(1+rmin)≧0.40 ・・・(v)
    但し、上記(v)式中の各記号は以下により定義される。
    n:加工硬化指数
  3. 前記化学組成が、質量%で、
    Mg:0.0002〜0.0100%、
    B:0.0002〜0.0050%、
    V:0.05〜1.0%、
    Mo:0.2〜3.0%、および
    W:0.1〜3.0%、
    から選択される1種以上を含有する、
    請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  4. 前記化学組成が、質量%で、
    Al:0.003〜0.3%、
    Cu:0.1〜2.0%、
    Zr:0.05〜0.30%、
    Co:0.05〜0.50%、
    Sb:0.01〜0.50%、および
    REM:0.001〜0.05%、
    から選択される1種以上を含有する、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  5. 前記化学組成が、質量%で、
    Ni:0.1〜2.0%、
    Ca:0.0001〜0.0030%、
    Ta:0.01〜0.10%、および
    Ga:0.0002〜0.1%、
    から選択される1種以上を含有する、
    請求項1〜4のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  6. 結晶粒度番号が5.0以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  7. 排気系部品に用いられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  8. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板からなる自動車または自動二輪車の排気系部品用フェライト系ステンレス部材。
  9. (a)請求項1〜6のいずれか1項に記載の化学組成を有するスラブを加熱し、前記スラブを熱間圧延して、熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
    (b)前記熱延鋼板に焼鈍を施さず、前記熱延鋼板を酸洗して、酸洗鋼板とする熱延鋼板酸洗工程と、
    (c)前記酸洗鋼板を400mm以上のロール直径を有する圧延機を用い、圧下率60%以上で冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
    (d)前記冷延鋼板を、下記(vi)式を満足する焼鈍温度Tf(℃)で焼鈍する焼鈍工程と、
    を順に施す、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
    850+300Nb≦Tf(℃)≦950+300Nb ・・・ (vi)
    但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
  10. 前記(a)の工程における前記スラブの等軸晶率が30%以上である、請求項9に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
  11. 前記(d)の工程において前記焼鈍温度Tf(℃)に到達するまでの平均加熱速度を、
    昇温開始温度から下記(vii)式で算出される再結晶開始温度Ts(℃)までの温度域において15℃/s以上とし、
    前記再結晶開始温度Ts(℃)から前記焼鈍温度Tf(℃)までの温度域において10℃/s以下とする、
    請求項9または10に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
    Ts(℃)=750+300Nb ・・・(vii)
    但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。

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