JP2019173149A - フェライト系ステンレス鋼板、およびその製造方法ならびにフェライト系ステンレス部材 - Google Patents
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Abstract
Description
C:0.001〜0.020%、
Si:0.010〜1.50%、
Mn:0.02〜1.00%、
P:0.01〜0.050%、
S:0.0001〜0.010%、
Cr:10.0〜20.0%、
N:0.001〜0.030%、
Nb:0.1〜0.8%、
Ti:0.01〜0.30%、
Sn:0.003〜0.500%、
Mg:0〜0.0100%、
B:0〜0.0050%、
V:0〜1.0%、
Mo:0〜3.0%、
W:0〜3.0%、
Al:0〜0.3%、
Cu:0〜2.0%、
Zr:0〜0.30%、
Co:0〜0.50%、
Sb:0〜0.50%、
REM:0〜0.05%、
Ni:0〜2.0%、
Ca:0〜0.0030%、
Ta:0〜0.10%、
Ga:0〜0.1%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなり、
下記(i)式および(ii)式を満足し、
X線回折による板厚中心部のフェライト相の結晶方位強度において、{111}<112>結晶方位強度が10.0以上、{322}<236>結晶方位強度が10.0以上であり、
下記(iii)式で算出される平均ランクフォード値(rm)が1.10以上、下記(iv)式で算出されるΔrが0.2以下である、フェライト系ステンレス鋼板。
Nb+Ti≧3(C+N)・・・(i)
Nb+Sn≧0.2・・・(ii)
但し、上記(i)および(ii)式中の各元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量を質量%で示したものである。
rm=(r0+2r45+r90)/4・・・(iii)
Δr=(r0+r90)/2−r45・・・(iv)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
r0:圧延方向のr値
r45:圧延方向に対して45°方向のr値
r90:圧延方向に対して90°方向のr値
n(1+rmin)≧0.40 ・・・(v)
但し、上記(v)式中の各記号は以下により定義される。
n:加工硬化指数
Mg:0.0002〜0.0100%、
B:0.0002〜0.0050%、
V:0.05〜1.0%、
Mo:0.2〜3.0%、および
W:0.1〜3.0%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)または(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
Al:0.003〜0.3%、
Cu:0.1〜2.0%、
Zr:0.05〜0.30%、
Co:0.05〜0.50%、
Sb:0.01〜0.50%、および
REM:0.001〜0.05%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
Ni:0.1〜2.0%、
Ca:0.0001〜0.0030%、
Ta:0.01〜0.10%、および
Ga:0.0002〜0.1%、
から選択される1種以上を含有する、
上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(b)前記熱延鋼板に焼鈍を施さず、前記熱延鋼板を酸洗して、酸洗鋼板とする熱延鋼板酸洗工程と、
(c)前記酸洗鋼板を400mm以上のロール直径を有する圧延機を用い、圧下率60%以上で冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
(d)前記冷延鋼板を、下記(vi)式を満足する焼鈍温度Tf(℃)で焼鈍する焼鈍工程と、
を順に施す、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
850+300Nb≦Tf(℃)≦950+300Nb ・・・ (vi)
但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
昇温開始温度から下記(vii)式で算出される再結晶開始温度Ts(℃)までの温度域において15℃/s以上とし、
前記再結晶開始温度Ts(℃)から前記焼鈍温度Tf(℃)までの温度域において10℃/s以下とする、
上記(9)または(10)に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
Ts(℃)=750+300Nb ・・・(vii)
但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
Cは、靭性、耐食性および耐酸化性を劣化させる他、母相に固溶したCは、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害する。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、その含有量は少ないほどよく、C含有量は、0.020%以下とし、0.010%以下とするのが好ましい。しかしながら、Cの過度の低減は、精錬コストの増加に繋がるため、C含有量は、0.001%以上とする。製造コストと耐食性とを考慮すると、C含有量は、0.002%以上とするのが好ましい。
Siは、脱酸元素である他、耐酸化性と高温強度とを向上させる元素である。また、Siを含有させることで、鋼中の酸素量が低減し、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織が発達しやすくなる。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、Si含有量は、0.010%以上とする。なお、上記の集合組織を顕著に発達させるためには、Si含有量は、0.300%超とするのが好ましく、0.800%以上とするのがより好ましい。
Mnは、高温において、MnCr2O4またはMnOを形成し、スケール密着性を向上させる。このため、Mn含有量は、0.02%以上とする。Mn含有量は0.15%超とするのが好ましく、0.18%以上とするのがより好ましい。一方、Mnを1.00%を超えて含有させると、酸化物量が増加し、異常酸化が生じ易くなる。加えて、Mnが、Sと化合物を生成し、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害する。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、Mn含有量は、1.00%以下とする。また、鋼板製造時の靭性、および酸洗性を考慮すると、Mn含有量は、0.8%以下とするのが好ましい。さらに、鋼管溶接部の酸化物に起因する偏平割れを考慮すると、Mn含有量は、0.30%以下とするのがより好ましい。
Pは、Si同様、固溶強化元素であるため、材質および靭性の観点から、その含有量は少ないほどよい。また、母相に固溶したPは、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害する。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、P含有量は、0.050%以下とする。一方、Pの過度の低減は、精錬コストの増加に繋がるため、P含有量は、0.01%以上とする。製造コストおよび耐酸化性を考慮すると、P含有量は、0.015%以上であるのが好ましく、0.030%以下であるのが好ましい。
Sは、材質、耐食性および耐酸化性の観点から、少なければ少ないほどよい。特に、Sの過度な含有は、TiまたはMnとの化合物を生成させ、鋼管曲げの際に、介在物起点により割れを生じさせる。加えて、これら化合物の存在は、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害する。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、S含有量は、0.010%以下とする。一方で、Sの過度の低減は、精錬コストの増加に繋がるため、S含有量は、0.0001%以上とする。さらに、製造コスト、および耐食性を考慮すると、S含有量は、0.0005%以上とするのが好ましく、0.0050%以下とするのが好ましい。
Crは、高温強度および耐酸化性といった排気部品で最も重要な特性を確保するため必要な元素である。このため、Cr含有量は、10.0%以上とする。一方で、Crの含有が、20.0%超であると、靱性が劣化し、製造性が悪くなる他、特に鋼管溶接部の脆性割れ、または曲げ性不良が生じる。
Nは、Cと同様に低温靭性、加工性、および耐酸化性を劣化させる。加えて、母相に固溶したNは、{111}<112>方位および{322}<236>方位の集合組織の発達を阻害するため、その含有量は少ないほどよい。{111}<112>方位および{322}<236>方位の発達は、最小r値を向上させ、穴拡げ性も向上させる。このため、N含有量は、0.030%以下とする。一方、Nの過度の低減は、精錬コストの増加に繋がる。このため、N含有量は、0.001%以上とする。製造コスト、および靭性を考慮すると、N含有量は、0.005%以上とするのが好ましく、0.008%以上とするのがより好ましい。上記理由から、N含有量は0.020%以下とするのが好ましい。
Nbは、CまたはNと結合して炭窒化物を形成する。また、Nbは鋳造時に組成的過冷却を引き起こし、{111}<112>方位の集合組織の形成に有効なスラブ中の等軸晶の発生率(以下、「等軸晶率」と記載する。)を著しく増大させる。このように、Nbは、製品板の{111}<112>方位の集合組織を発達させ、r値および鋼管の拡管性向上を促進する。
Tiは、C、N、およびSと結合して耐食性、耐粒界腐食性、深絞り性を向上させる作用を有する。また、Ti窒化物はスラブ鋳造時において、結晶粒の核となることで、等軸晶率を増大させる。この結果、鋼板の{111}<112>方位の集合組織を発達させ、r値を向上させる。このように、C、およびNと結合してこれら元素を固定化する作用は0.01%以上のTiを含有させることで発現するため、Ti含有量は0.01%以上とし、0.11%以上であるのが好ましい。一方、Tiを0.30%超含有させると、固溶Tiにより硬質化してしまう他、靭性が劣化する。このため、Ti含有量は0.30%以下とする。製造コストなどを考慮すると、Ti含有量は0.05%以上が好ましく、0.25%以下が好ましい。
Nb+Ti≧3(C+N) ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量を質量%で示したものである。
Snは、Nbと同様に、スラブ鋳造時に組成的過冷却を引き起こし、等軸晶率を増大させる。この結果、鋼板の{111}<112>方位の集合組織を発達させ、r値および鋼管の拡管性向上を促進する。また、{111}<112>方位の発達は、最小r値も向上させるため、穴拡げ性も向上する。Snは、Nbよりも、組成的過冷域を生じさせやすく、これらの効果はSnを0.003%以上含有させることにより生じる。このため、Sn含有量は0.003%以上とする。しかしながら、Snは、0.500%超含有させると、過度な偏析を生じさせ、鋼管溶接部の低温靭性を低下させる。このため、Sn含有量は、0.500%以下とする。高温特性、製造コストおよび靭性を考慮すると、Sn含有量は0.300%以下とするのが好ましい。
Nb+Sn≧0.2 ・・・(ii)
但し、上記(ii)式中の各元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量を質量%で示したものである。
Mg:0〜0.0100%
Mgは、溶鋼中でAlと同様、Mg酸化物を形成し、脱酸剤として作用する。また、Mgは、微細に晶出したMg酸化物が核となり、スラブの等軸晶率を増大させる。そして、その後の工程において、NbおよびTi系微細析出物の析出を促す。具体的には、熱延工程において、前述の析出物が、微細析出すると、熱延工程および、続く熱延板の焼鈍工程において、再結晶核となる。その結果、非常に微細な再結晶組織が得られる。この再結晶組織は、{111}<112>方位の集合組織の発達、および靭性向上にも寄与する。このため、必要に応じて含有させてもよい。
Bは、粒界に偏析することで粒界強度を向上させ、二次加工性、低温靭性を向上させる元素である。加えて、Bは中温域の高温強度を向上させる。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bの0.0050%超の含有により、Cr2B等のB化合物が生成し、粒界腐食性、および疲労特性を劣化させる。加えて、{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害し、r値の低下をもたらす。このため、B含有量は、0.0050%以下とする。
Vは、CまたはNと結合して、耐食性および耐熱性を向上する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vの1.0%超の含有により、粗大な炭窒化物が形成して靭性が低下し、加えて{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害する。このため、V含有量は、1.0%以下とする。さらに、製造コストおよび製造性を考慮すると、V含有量は、0.2%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
Moは、耐食性を向上させる元素であり、特に隙間構造を有する管材等では、隙間腐食を抑制する元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Moの含有量が、3.0%を超えると、著しく成形性が劣化し、製造性が悪化する。また、Moは、{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害するため、Mo含有量は、3.0%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Mo含有量は、0.2%以上とするのが好ましい。{111}<112>方位の集合組織を先鋭に発達させること、合金コスト、および生産性を考慮すると、Mo含有量は、0.4%以上とするのが好ましく、2.0%以下とするのが好ましい。
Wは、高温強度を上げるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wの過度の含有は、靭性劣化および伸びの低下をもたらす。また、金属間化合物相であるLaves相の生成が増大し、{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害し、r値を低下させる。このため、W含有量は、3.0%以下とする。製造コスト、および製造性を考慮すると、W含有量は、2.0%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
Al:0〜0.3%
Alは、脱酸元素として使用される。また、Alは高温強度、および耐酸化性を向上させる。また、Alは、TiNおよびLaves相の析出サイトとなり、析出物の微細析出に寄与し、低温靭性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Alの0.3%超の含有は、伸びの低下、溶接性および表面品質の劣化をもたらす。また、粗大なAl酸化物形成により、低温靭性を低下させる。このため、Al含有量は、0.3%以下とする。一方で、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.003%以上とするのが好ましい。精錬コストを考慮すると、Al含有量は、0.01%以上とするのが好ましく、0.1%以下とするのが好ましい。
Cuは、耐食性を向上させるとともに、母相に固溶しているCuの析出、いわゆる、ε−Cuの析出によって、中温域での高温強度を向上させる元素である。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cuの過度な含有は、鋼板の硬質化による靭性低下、および延性低下をもたらす。このため、Cu含有量は2.0%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Cu含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。耐酸化性、および製造性を考慮すると、Cu含有量は1.5%未満とするのが好ましい。
Zrは、耐酸化性を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrの0.30%超の含有は、靭性および酸洗性などの製造性を著しく劣化させる。また、Zrと、炭素および窒素との化合物を粗大化させる。その結果、熱延焼鈍時の鋼板組織を粗粒化させ、r値を低下させる。このため、Zr含有量は、0.30%以下とする。製造コストを考慮すると、Zr含有量は、0.20%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
Coは、高温強度を向上させる元素であり、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、過度な含有は、靭性および加工性を劣化させる。このため、Co含有量は、0.50%以下とする。さらに、製造コストを考慮すると、Co含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方で、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.05%以上とするのが好ましい。
Sbは、粒界に偏析して高温強度を上げるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Sbは、0.50%超の含有により、過度の偏析が生じて、鋼管溶接部の低温靭性を低下させる。このため、Sb含有量は、0.50%以下とする。高温特性、製造コストおよび靭性を考慮すると、Sb含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sb含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
REM(希土類元素)は、種々の析出物を微細化し、靭性および耐酸化性を向上させる。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REM含有量が、0.05%を超えると、鋳造性が著しく低下する。このため、REM含有量は、0.05%以下とする。一方、前記効果を得るためには、REM含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。なお、精錬コストおよび製造性を考慮すると、REM含有量は、0.003%以上とすることがより好ましく、0.01%以下とすることが好ましい。
Ni:0〜2.0%
Niは、靭性および耐食性を向上させる元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Niの2.0%超の含有によりオーステナイト相が生成し、{111}<112>方位の集合組織の発達を阻害し、r値が低下する他、鋼管曲げ性が著しく劣化する。このため、Ni含有量は、2.0%以下とする。製造コストを考慮すると、Ni含有量は、0.5%以下とするのが好ましい。一方で、Niの靭性への寄与は、0.1%以上で発現するため、Ni含有量は、0.1%以上とするのが好ましい。
Caは、脱硫元素として有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ca含有量が、0.0030%を超えると、粗大なCaSが生成し、靭性および耐食性を劣化させる。このため、Ca含有量は、0.0030%以下とする。一方で、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。なお、精錬コストおよび製造性を考慮すると、Ca含有量は、0.0003%以上とするのがより好ましく、0.0020%以下とするのが好ましい。
Taは、CおよびNと結合して靭性の向上に寄与するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taの含有量が、0.10%を超えると、製造コストが増加する他、製造性を著しく低下させる。このため、Taの含有量は、0.10%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。なお、精錬コストおよび製造性を考慮すると、Taの含有量は、0.02%以上とするのがより好ましく、0.08%以下であるのが好ましい。
Gaは、耐食性向上および水素脆化抑制のため、必要に応じて含有させる。Ga含有量は0.1%以下とする。一方、上記効果を得るためには、硫化物および水素化物の生成を鑑み、Ga含有量は0.0002%以上とするのが好ましい。なお、製造コストおよび製造性、ならびに、延性および靭性の観点から、Ga含有量は、0.0005%以上とするのがより好ましく、0.020%以下とするのが好ましい。
2−1.rmおよびΔrの算出方法
本発明における鋼板のr値については、JIS Z 2254に従い、下記記載の手法により実施し、試験片を圧延方向に対して平行、45°方向、および90°方向のr値を求めた後に、平均r値を算出した。
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
W0:引張変形前の試験片の幅
W:引張変形後の試験片幅
t0:引張変形前の試験片の厚さ
t:引張変形後の試験片の厚さ
Δr=(r0+r90)/2−r45 ・・・(iv)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
r0:圧延方向のr値
r45:圧延方向に対して45°方向のr値
r90:圧延方向に対して90°方向のr値
図1を用いて、板厚中心部の{111}<112>結晶方位強度と鋼板のrmとの関係を説明する。図1は、素材の板厚中心部の{111}<112>結晶方位強度と、鋼板のrmとの関係を示した図である。
本発明では、最小r値(rmin)を、r0、r45、r90のうち最も値が小さいr値とし、算出した各方向のr値から求めることができる。
本発明においては良好な穴拡げ性を具備させるため、rminおよびn値が下記(v)式を満足するのが好ましい。自動車構造部品用鋼材として良好な穴拡げ性は、その指標である穴拡げ率が100%以上とするのが好ましい。
n(1+rmin)≧0.40 ・・・(v)
但し、上記(v)式中の各記号は以下により定義される。
n:加工硬化指数
rmin:最小r値
σ=Cεn ・・・(b)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
σ:真応力
ε:真ひずみ
λ=100×(D−D0)/D0 ・・・(c)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
D:穴拡げ試験後の穴径
D0:穴拡げ試験前の穴径
自動車構造部品用鋼材は、主に複数回のプレス加工により成形される。この時、結晶粒径が大きいとリジング、オレンジピール等の加工肌荒れにより鋼板の表面性状が劣化する。このような加工肌荒れは、プレス加工時に二次加工脆化、座屈の起点になることから、加工割れおよび成型不良の原因となる。これを防ぐためには、下記方法で、後述する加工肌荒れ測定時に最大高さ粗さ(Rz)を20μm以下とすることが好ましい。これにより、プレス加工に適した耐加工肌荒れ性を持つステンレス鋼板が得られる。Rzは15μm以下とするのが好ましい。
次に、製造方法について説明する。本発明に係る鋼板の製造方法は、例えば、製鋼−熱間圧延−酸洗−冷間圧延−焼鈍の工程を含む。以下において、本発明に係る鋼板の好ましい製造方法について記載する。
製鋼においては、上述の必須元素、および必要に応じて含有される選択元素を含有する鋼を、転炉溶製し、続いて2次精錬を行う方法が好適である。続いて、溶製した溶鋼は、公知の鋳造方法(連続鋳造)に従ってスラブとする。なお、鋳造条件は通常の連続鋳造条件に従うものとする。
続いて、上記スラブを、加熱し、所定の板厚に連続圧延で熱間圧延し、熱延鋼板とするのが好ましい(熱間圧延工程)。熱間圧延時のスラブの加熱温度は、1100℃未満であると、Nbが完全に固溶せず、析出物が生成し、後の工程に悪影響を及ぼすことがある。一方、スラブの加熱温度を1250℃超とすると、スラブが、自重で高温変形するスラブ垂れが生じることがあるため好ましくない。このため、熱間圧延時のスラブの加熱温度は、1100〜1250℃とするのが好ましい。さらに、生産性および表面疵の発生を考慮すると、スラブの加熱温度は、1150〜1200℃とするのがより好ましい。なお、本発明においては、スラブの加熱温度と熱間圧延開始温度は同義である。
続いて、得られた熱延鋼板に熱延板焼鈍を施さず、熱延鋼板を酸洗して、酸洗鋼板とするのが好ましい(熱延鋼板酸洗工程)。この酸洗鋼板は、後述する冷間圧延工程において冷間圧延素材として供されるのが好ましい。これは、通常、熱延鋼板に熱延板焼鈍を施して、整粒再結晶組織を得る一般的な製造方法とは異なっている。一般的に、熱延板焼鈍を施すと組織制御が容易となるが、熱延歪が消失し{111}<112>結晶方位の発達を妨げる他、r90を向上させる{322}<236>結晶方位が後の冷間圧延後の焼鈍工程において発達しがたい。
続いて、上記酸洗鋼板を400mm以上のロール直径を有する圧延機を用いて、圧下率60%以上で冷間圧延して冷延鋼板とするのが好ましい(冷間圧延工程)。ここで、ロール直径を400mm以上とすることで、冷間圧延時の剪断歪を抑制できる。また、剪断歪により導入される剪断変形は、ランダム方位粒の核生成サイトとなるため、抑制する必要がある。その結果、続く焼鈍工程において、r値を向上させる{111}<112>結晶方位の結晶粒の生成を促進させる。
3−5−1.焼鈍温度
続いて、上記冷延鋼板を、下記(vi)式を満足する焼鈍温度Tf(℃)で焼鈍するのが好ましい(焼鈍工程)。冷間圧延後の焼鈍については、{111}<112>方位の再結晶粒発達のためには、Nb添加による再結晶の遅延を考慮に入れ、焼鈍温度および焼鈍時の昇温速度を制御することが好ましい。焼鈍温度については、過度に高温にすると、結晶粒の粗大化を招き、オレンジピール等の肌荒れの原因となる。このため、冷間圧延後の焼鈍温度(Tf(℃))は、上述したように、下記(vi)式で算出される範囲の温度域で行うことが好ましい。
但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
また、焼鈍工程においては、平均加熱速度を下記範囲で制御することが好ましい。具体的には、平均加熱速度は昇温開始温度から下記(vii)式で算出される再結晶開始温度Ts(℃)までの温度域において、15℃/s以上とするのが好ましい。また、平均加熱速度は昇温開始温度から下記(vii)式で算出される再結晶開始温度Ts(℃)までの温度域において、20℃/s以上とするのがより好ましい。なお、本発明では、平均加熱速度を、昇温開始温度から目標とする温度に到達するまでの時間を制御することで、上記の好ましい値の範囲内に制御する。
Ts(℃)=750+300Nb ・・・(vii)
但し、上記(vii)式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
上述したように、スラブの等軸晶の結晶粒界は{111}<112>方位を持つ再結晶粒の核生成サイトとなるため、等軸晶率を増大させ、熱延板焼鈍を省略することで、鋼板において{111}<112>方位が強く発達する。
なお、スラブ厚さ、熱延板厚などは適宜設計すればよい。また、冷間圧延においては、ロール粗度、圧延油、圧延パス回数、圧延速度、圧延温度などは適宜選択すればよい。焼鈍は、必要であれば水素ガスあるいは窒素ガスなどの無酸化雰囲気で焼鈍する、光輝焼鈍を実施してもよい。また、大気中で焼鈍を実施してもよい。さらに、焼鈍後に、調質圧延または形状矯正のためのテンションレベラー工程を実施してもよく、また通板しても構わない。
上記方法で製造された鋼板を以下の方法を用い、自動車または自動二輪車等の排気部品用部材とする。これらの部材は、鋼板からプレス加工されるか、鋼板を所定のサイズ(径)の鋼管に造管した後に目的の形状に成形される。
λ=100×(D−D0)/D0 ・・・(c)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
D:穴拡げ試験後の穴径
D0:穴拡げ試験前の穴径
Claims (11)
- 化学組成が、質量%で、
C:0.001〜0.020%、
Si:0.010〜1.50%、
Mn:0.02〜1.00%、
P:0.01〜0.050%、
S:0.0001〜0.010%、
Cr:10.0〜20.0%、
N:0.001〜0.030%、
Nb:0.1〜0.8%、
Ti:0.01〜0.30%、
Sn:0.003〜0.500%、
Mg:0〜0.0100%、
B:0〜0.0050%、
V:0〜1.0%、
Mo:0〜3.0%、
W:0〜3.0%、
Al:0〜0.3%、
Cu:0〜2.0%、
Zr:0〜0.30%、
Co:0〜0.50%、
Sb:0〜0.50%、
REM:0〜0.05%、
Ni:0〜2.0%、
Ca:0〜0.0030%、
Ta:0〜0.10%、
Ga:0〜0.1%、
残部:Feおよび不可避的不純物からなり、
下記(i)式および(ii)式を満足し、
X線回折による板厚中心部のフェライト相の結晶方位強度において、{111}<112>結晶方位強度が10.0以上、{322}<236>結晶方位強度が10.0以上であり、
下記(iii)式で算出される平均ランクフォード値(rm)が1.10以上、下記(iv)式で算出されるΔrが0.2以下である、フェライト系ステンレス鋼板。
Nb+Ti≧3(C+N)・・・(i)
Nb+Sn≧0.2・・・(ii)
但し、上記(i)および(ii)式中の各元素記号は、鋼板に含まれる各元素の含有量を質量%で示したものである。
rm=(r0+2r45+r90)/4・・・(iii)
Δr=(r0+r90)/2−r45・・・(iv)
但し、上記式中の各記号は以下により定義される。
r0:圧延方向のr値
r45:圧延方向に対して45°方向のr値
r90:圧延方向に対して90°方向のr値 - 最小ランクフォード値(rmin)が0.80以上であり、かつ下記(v)式を満足する、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
n(1+rmin)≧0.40 ・・・(v)
但し、上記(v)式中の各記号は以下により定義される。
n:加工硬化指数 - 前記化学組成が、質量%で、
Mg:0.0002〜0.0100%、
B:0.0002〜0.0050%、
V:0.05〜1.0%、
Mo:0.2〜3.0%、および
W:0.1〜3.0%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 - 前記化学組成が、質量%で、
Al:0.003〜0.3%、
Cu:0.1〜2.0%、
Zr:0.05〜0.30%、
Co:0.05〜0.50%、
Sb:0.01〜0.50%、および
REM:0.001〜0.05%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 - 前記化学組成が、質量%で、
Ni:0.1〜2.0%、
Ca:0.0001〜0.0030%、
Ta:0.01〜0.10%、および
Ga:0.0002〜0.1%、
から選択される1種以上を含有する、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 - 結晶粒度番号が5.0以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- 排気系部品に用いられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼板からなる自動車または自動二輪車の排気系部品用フェライト系ステンレス部材。
- (a)請求項1〜6のいずれか1項に記載の化学組成を有するスラブを加熱し、前記スラブを熱間圧延して、熱延鋼板とする熱間圧延工程と、
(b)前記熱延鋼板に焼鈍を施さず、前記熱延鋼板を酸洗して、酸洗鋼板とする熱延鋼板酸洗工程と、
(c)前記酸洗鋼板を400mm以上のロール直径を有する圧延機を用い、圧下率60%以上で冷間圧延して冷延鋼板とする冷間圧延工程と、
(d)前記冷延鋼板を、下記(vi)式を満足する焼鈍温度Tf(℃)で焼鈍する焼鈍工程と、
を順に施す、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
850+300Nb≦Tf(℃)≦950+300Nb ・・・ (vi)
但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。 - 前記(a)の工程における前記スラブの等軸晶率が30%以上である、請求項9に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
- 前記(d)の工程において前記焼鈍温度Tf(℃)に到達するまでの平均加熱速度を、
昇温開始温度から下記(vii)式で算出される再結晶開始温度Ts(℃)までの温度域において15℃/s以上とし、
前記再結晶開始温度Ts(℃)から前記焼鈍温度Tf(℃)までの温度域において10℃/s以下とする、
請求項9または10に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
Ts(℃)=750+300Nb ・・・(vii)
但し、上記式中の元素記号は当該元素の含有量を質量%で示したものである。
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