ところで、建物の途中階に配置され、主棟の構面から持出されているバルコニー等の持出し部には、防水工事前の雨養生が要求される。この持出し部は、主棟に対する出幅の大小や屋根形状(寄棟、切妻、陸屋根、片流れ等)、さらには軒側とケラバ側のいずれに位置しているか等により、養生の難易度が異なってくる。例えば陸屋根や片流れ屋根の建物の側方にある持出し部やケラバ側にある持出し部に養生シートを張設する場合は、主棟における養生シートの固定位置が定まり難く、一般に養生が困難になり易い。そのため、例えば持出し部の施工途中に養生シートを張設する場合でも、この養生シートに対して適切な水勾配を取ることが難しい場合があり、また、養生シートを弛み易い態様で張設せざるを得ない場合が生じ得る。
このように養生シートが弛んでしまうと、養生シート上への雨水の滞留や、滞留した雨水の重量等に起因する養生シートの破れの恐れがあり、さらには、養生シート上に雨水が滞留することに起因して、屋外への雨水の排水不良が生じ易くなる。そして、これらの要因が重なると、養生シート直下にあって未だ防水施工が施されていない持出し部の床や、持出し部の下階の室内に対して雨漏れが発生し得る。
なお、上記する特許文献1に記載の雨天養生システムは、例えば屋根全体を覆うシステムであり、バルコニー等の持出し部を確実かつ排水性良好に養生できるシステムとは言い難い。
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、様々な形態の施工途中のバルコニー等の持出し部を、確実かつ排水性良好に養生することのできる建物の養生方法と、この養生方法に適用される養生シート取付け部品を提供することを目的としている。
前記目的を達成すべく、本発明による養生シート取付け部品の一態様は、建物躯体に係止されるとともに、少なくとも養生シートが取付け自在な養生シート取付け部品であって、
前記建物躯体に係止される第一フックと、
一端が前記第一フックに回動自在に係合し、他端に前記養生シートが取付け自在である第二フックと、
前記第一フックに対する前記第二フックの水平面内の回動を規制する第一規制手段と、
前記第一フックに対する前記第二フックの鉛直面内の回動を規制する第二規制手段と、を有することを特徴とする。
本態様によれば、相互に係合自在な第一フックと第二フックから形成され、建物躯体に係合される第一フックに対して第二フックの水平面内と鉛直面内のそれぞれの回動を規制する第一規制手段と第二規制手段を有することにより、第二フックと第一フックとの相対的な初期の角度姿勢を保持しながら、容易に建物躯体の一部に第一フックを係止させることができ、第二フックに対して養生シートを取付けることができる。そして、このように第二フックに取付けられた養生シートを張設した状態にて、建物躯体の他の箇所や建物躯体の側方に建て付けられている仮設足場の一部に固定することができる。
ここで、第一フックが係止される「建物躯体」とは、建物躯体を形成する軒桁や柱、横下地材のほか、屋根の垂木や束材などが含まれる。また、第二フックの「水平面内の回動」とは、文字通り、水平面内における第二フックの回動の他、養生シートが第二フックに取付けられた状態において、この養生シートの広幅面を見た際にできる任意の平面内における第二フックの回動を含んでいる。一方、第二フックの「鉛直面内の回動」とは、文字通り、鉛直面内における回動を意味する。
例えば、主棟の外壁パネルが取付けられ、バルコニーの骨格が形成されるものの、その防水施工が未だ行われていない段階では、一時的にバルコニーを養生シートにて養生することが必要になる。この際、養生シート取付け部品を形成する第二フックに対して第一フックを所定角度傾斜させた状態を第二規制手段にて保持させることにより、第二フックに対して第一フックが首折れすることを防止できる。このように第二フックに対して第一フックが所定角度に傾斜された状態を保持しながら、養生シート取付け部品を例えば外壁パネルの上方から主棟の内側へ挿入することが可能になる。第二フックに対して第一フックが首折れしない態様で主棟の内側へ養生シート取付け部品が挿入されることにより、軒桁等に対して第一フックを引っ掛け易くできる。軒桁等に第一フックを引っ掛け、第二フックに養生シートを取付けて張設することにより、養生シートの一端を建物躯体へ容易に取付けることができる。なお、第二フックに養生シートを取付けた状態で養生シート取付け部品を主棟の内部に挿入し、第一フックを軒桁等に係止させてもよい。
そして、本態様の養生シート取付け部品を適用することにより、第一フックが係止される建物躯体の形態に関わらず、養生シート取付け部品を建物躯体の一部に係止させることができる。具体的には、建物躯体の係止箇所が軒桁の場合に、軒桁の外側に位置する外壁パネルが軒桁よりも上方まで延びている形態の主棟(例えば、片流れ屋根建物や陸屋根建物等)であっても、外壁パネルの外側から養生シート取付け部品を挿入し、軒桁に対して第一フックを容易に係止させることができる。さらに、ケラバの側方から持出し部がある場合に、このケラバにおいては、屋根パネルや垂木と外壁パネルとの間の隙間がせいぜい数十cm程度しかないことが往々にしてあるが、このように狭い隙間に対しても、第二フックに対して第一フックを首折れさせることなく、ケラバにおける外壁パネル内側の軒桁等に養生シート取付け部品を挿入し、第一フックを軒桁等に容易に係止させることができる。
第一フックと第二フックはいずれも、金属部品であってもよいし、ある程度の硬度を有する樹脂部品であってもよい。また、第一フックと第二フックの長さは様々な形態の組み合わせがあってよく、双方の長さが同じものであっても相違するものであってもよい。一例としては、第一フックが係止される建物躯体の対象がH形鋼等の形鋼材からなる軒桁の上フランジとした場合に、第一フックと第二フックの係合箇所が上フランジに載置される長さを有する第一フックと、この係合箇所から軒桁を超え、外壁パネルを超えて外部へ張出す位置までの長さを有する第二フックとを有する形態の養生シート取付け部品を挙げることができる。
また、本発明による養生シート取付け部品の他の態様において、前記第一フックは軸部を有し、該軸部の一端は前記建物躯体に係止される第一爪を有しており、
前記第二フックは軸部を有し、該軸部の一端は前記第一フックの他端に回動自在に係合し、該軸部の他端は少なくとも養生シートに係合する第二爪を有しており、
前記第一規制手段と前記第二規制手段がいずれも付勢部材であることを特徴とする。
本態様によれば、共に軸状の第一フックと第二フックが、共に付勢部材である第一規制手段と第二規制手段にて二方向の回動を規制されている、極めてシンプルな構成の養生シート取付け部品であることにより、製作コストを可及的に安価にすることができ、量産に好適となる。ここで、付勢部材としては、引っ張られた際に元に戻ろうとする引張コイルばね等の引張ばねやトーションばねなどを適用できる。例えば、軸状の第一フックと第二フックの係合箇所を跨ぐようにして、水平面内の回動を規制するように左右にそれぞれ引張ばねを取付けることができる。また、第一フックと第二フックの係合箇所を跨ぐようにして、鉛直面内の回動を規制するように別途の引張ばねを取付けることができる。
また、本発明による養生シート取付け部品の他の態様は、前記第一フックが前記軸部の先端に二股部を有し、二股部の各先端に前記第一爪を有することを特徴とする。
本態様によれば、建物躯体に係止される第一フックがその先端に二股部を有し、この二股部にある二つの第一爪にて建物躯体に養生シート取付け部品を係止することにより、養生シート取付け部品を安定的に建物躯体に係止することができる。
また、本発明による養生シート取付け部品の他の態様において、前記第一フックはV字状を成す二本の軸部を有し、各軸部は先端に前記建物躯体に係止される第一爪を有しており、
前記第二フックは軸部を有し、該軸部の一端は前記第一フックの二本の前記軸部の交点に回動自在に係合し、該軸部の他端は少なくとも養生シートに係合する第二爪を有しており、
前記第二フックのうち、前記第一フックに係合する一端には、前記第一フックの二本の前記軸部の内側にあるV字状片と、該V字状片の上下にある上片及び下片と、を有する規制ブロックが固定されており、
前記規制ブロックの前記V字状片が前記第一規制手段であり、前記規制ブロックの前記上片及び前記下片が前記第二規制手段であることを特徴とする。
本態様によれば、V字状を成す二本の軸部を有する第一フックを有することにより、二つの第一爪が比較的離れた位置で建物躯体に係止されることから、養生シート取付け部品をより一層安定的に建物躯体に係止させることができる。また、第二フックが規制ブロックを備え、この規制ブロックの有するV字状片がV字状を成す二本の軸部から形成される第一フックの内側にあることにより、第一規制手段であるV字状片にて第一フックの水平面内における回動を規制することができる。さらに、規制ブロックがV字状片の上下において例えばフラットで所定の広さを有する上片及び下片を有していることにより、第一フックに対して第二フックがある程度の角度まで回動した際に、規制ブロックの有する上片と下片のいずれか一方とV字状の第一フックとが干渉し、第二フックのそれ以上の回動を効果的に規制することができる。
また、本発明による建物の養生方法の一態様は、前記養生シート取付け部品の前記第一フックを前記建物躯体に係止し、前記第二フックに前記養生シートを取付け、該養生シートを、該建物躯体における前記第一フックが係止されていない他の箇所、もしくは、該建物躯体の側方にある仮設足場のいずれかに仮固定することを特徴とする。
本態様によれば、上記する本態様の養生シート取付け部品を用いることにより、養生シートが張設される建物の形態や張設位置に関わらず、比較的容易で、かつ雨漏れ等なく確実に養生できる態様にて、持出し部等の上に養生シートを張設することができる。
また、本発明による建物の養生方法の他の態様は、前記養生シート取付け部品の前記第二フックに、前記養生シートと該養生シートを下方から支持するバンドを取付け、該養生シートと該バンドを、該建物躯体における前記第一フックが係止されていない他の箇所、もしくは、該建物躯体の側方にある仮設足場のいずれかに仮固定することを特徴とする。
本態様によれば、養生シート取付け部品に対して養生シートに加えて養生シートを下方から支持するバンドを取付け、バンドを張設した上に養生シートを張設することにより、軒養生シートを下方に垂れさせることなく張設することができる。また、一度張設した養生シートの上に雨水が溜まろうとした際にも、養生シートがバンドで支持されていることにより、養生シートの初期の張設姿勢を維持することができる。そして、例えば主棟から外側に向かって斜め下方に傾斜した態様で養生シートが張設されている場合には、雨水を養生シート上に溜めることなく、この養生シートの勾配に沿って雨水を排水することができる。ここで、バンドとしては、仮設足場で多用されるゴムバンドや荷締め用バンドの他、紐やロープなどが適用できる。
また、本発明による建物の養生方法の他の態様において、前記建物躯体が形鋼材の上フランジであり、
前記養生シートにて施工中のバルコニーを養生することを特徴とする。
本態様によれば、建物躯体を形成するH形鋼等の形鋼材の上フランジを、養生シート取付け部品の第一フックの第一爪の係止対象とすることにより、養生シート取付け部品を建物躯体に対して安定的に係止させることができる。このH形鋼等の形鋼材としては、軒桁を形成する形鋼材が挙げられる。
以上の説明から理解できるように、本発明の養生シート取付け部品と建物の養生方法によれば、様々な形態の施工途中のバルコニー等の持出し部を、確実かつ排水性良好に養生することができる。
以下、各実施形態に係る養生シート取付け部品と、実施形態に係る建物の養生方法について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
[実施形態]
<第1の実施形態に係る養生シート取付け部品>
はじめに、図1乃至図3を参照して、第1の実施形態に係る養生シート取付け部品を説明する。ここで、図1は、第1の実施形態に係る養生シート取付け部品の斜視図である。また、図2は、第1の実施形態に係る養生シート取付け部品の水平面内における回動が規制されることを説明する図であり、図3は、第1の実施形態に係る養生シート取付け部品の鉛直面内における回動が規制されることを説明する図である。
養生シート取付け部品100は、建物躯体に係止される第一フック10と、一端が第一フック10に回動自在に係合し、他端に養生シートが取付け自在である第二フック20と、第一フック10に対する第二フック20の水平面内及び鉛直面内の回動を規制する規制ブロック30と、を有する。第一フック10と第二フック20、及び規制ブロック30はいずれも、金属部材であってもよいし、ある程度の硬度のある樹脂部材であってもよい。
第一フック10は、二本の直線状の軸部11が交点12で連続したV字状を呈しており、各軸部11の先端において、建物躯体の構成部材に直接係止される第一爪13を有している。ここで、V字状の二本の軸部11の間のなす角度はθ3である。
第二フック20は、直線状の軸部21と、軸部21の一端において第一フック10の交点12に係合する係合爪22と、軸部21の他端において不図示の養生シートが取付けられる第二爪23とを有する。
第二フック20の係合爪22には、規制ブロック30が溶接等で接続されている。規制ブロック30は、下片32(第二規制手段)と、下片32の上面に固定されているV字状片31(第一規制手段)と、V字状片31の上に固定されている上片33(第二規制手段とを有する。下片32と上片33に対して係合爪22が溶接等で接続されていることにより、第二フック20と規制ブロック30が接続される。
養生シート取付け部品100は、外力を受けていない状態において、第二フック20の軸線L1に対して、第一フック10の軸線L2が、鉛直方向に角度θ1となるように第一フック10と第二フック20が相互に組み付けられている。ここで、軸線L2とは、V字状の二本の軸部11にて形成される平面内において、交点12から延びてV字状の中心角を通る線のことである。また、図示例の角度θ1の取り方は、第二フック20の軸部21を含む平面に対する第一フック10の角度のうち、大きい方の角度としている。
第一フック10と第二フック20が係合した状態において、係合爪22と交点12との間にある程度の遊び(余裕代)があり、さらに下片32が存在することにより、養生シート取付け部品100が自由な状態(重力のみが作用している状態)のときには、第一フック10が角度θ1となる位置で下片32と干渉する。その結果、第一フック10と第二フック20の間の鉛直方向の角度がθ1に規制される。
このように、重力のみが作用する自由な状態において、第一フック10と第二フック20が所定の角度θ1で首折れした姿勢を保持することにより、例えば、建物の外壁の外側から、この外壁と屋根の隙間を介して養生シート取付け部品100を挿入し、外壁の内側にある軒桁等の建物躯体の一部に対して第一フック10の第一爪13を引っ掛け易くできる。すなわち、このように養生シート取付け部品100を建物躯体内に挿入し、建物躯体の一部に第一爪13を引っ掛け易いような角度θ1が設定されるのがよく、この角度θ1は、例えば10度乃至30度程度の角度範囲となる。この養生シート取付け部品100を建物躯体内に挿入して建物躯体の一部に引っ掛けて使用する内容については、以下の建物の養生方法の説明箇所において詳説する。
また、第一フック10の軸線L2方向の長さt1は、例えば、第一爪13が引っ掛けられる建物躯体の部材(例えばH形鋼)の幅(例えば、H形鋼の上フランジの幅)よりも短く設定されているのが好ましい。このことも以下の建物の養生方法の説明箇所において詳説するが、長さt1をこのように設定することにより、第一フック10の第一爪13と第二フック20の一部との複数箇所を建物躯体に係合もしくは係止させることができ、建物躯体に対して養生シート取付け部品100を安定的に取付けることが可能になる。
規制ブロック30を形成するV字状片31は、二つのプレートを溶接等でV字状に接続することにより、あるいは平面形状がV字状の柱体となるように一体に成形されることにより、図1に示すような形状形態にて製作される。
V字状片31のV字のなす角度θ2は、第一フック10の二本の軸部11のなす角度θ3よりも小さく設定されている。このように、二本の軸部11の内側にV字状片31が配設されていることにより、第一フック10の水平面内でのX1方向及びX2方向の回動を規制することができる。ここで、水平面内の回動とは、水平面内における第二フック20の回動の他、不図示の養生シートが第二フック20の第二爪23に取付けられた状態において、この養生シートの広幅面を見た際にできる任意の平面内における第二フック20の回動を含む意味である。また、水平面内での回動は、二つの第一爪13を不図示のH形鋼の上フランジに引っ掛けた際に、このH形鋼の長手方向への回動とも言える。
また、規制ブロック30のV字状片31の上下において、上片33と下片32が所定の広がりをもってV字状片31に対して例えば直交する方向に延出していることにより、第一フック10に対する第二フック20の鉛直面内におけるZ1方向やZ2方向の回動を規制することができる。例えば、第二フック20がある程度Z1方向に回動した際に、規制ブロック30の上片33と第一フック10の二本の軸部11の双方もしくは一方とが干渉すること等により、鉛直面内における上方への回動が規制できる。一方、第二フック20の下方のZ2方向への回動に対する規制は、上記するように自由な状態において、第一フック10と第二フック20の鉛直方向の角度がθ1となるように養生シート取付け部品100が設定されていることから、角度θ1を超えるZ2方向への回動は自動的に規制されている。
このように、第一フック10に対する第二フック20の水平面内及び鉛直面内の回動が規制されることを、図2及び図3を参照してそれぞれ説明する。なお、図2及び図3において、養生シート取付け部品100が取り付けられる建物躯体を、H形鋼からなる軒梁200の上フランジ210として説明する。
図2は、図2(a)において、水平面内においてX1方向に第二フック20が回動した状態でそれ以上の回動が規制されていることを示しており、図2(b)において、水平面内においてX2方向に第二フック20が回動した状態でそれ以上の回動が規制されていることを示している。
例えば、図2(a)では、養生シート取付け部品100の右側に何等かの障害物(図示略)がある場合に、この障害物を交わすように第二フック20を左側にX1方向に回動させ、この姿勢にて養生シート取付け部品100を軒梁200側にY1方向にアクセスさせる。次いで、図2(c)に示すように、第一フック10の二つの第一爪13を上フランジ210のエッジに引っ掛け、第二フック20の回動姿勢を元に戻すことにより、軒梁200に対する養生シート取付け部品100の取付けを行うことができる。一方、図2(b)では、養生シート取付け部品100の左側に何等かの障害物(図示略)がある場合に、この障害物を交わすように第二フック20を右側にX2方向に回動させ、この姿勢にて養生シート取付け部品100を軒梁200側にY1方向にアクセスさせる。次いで、図2(c)に示すように、第一フック10の二つの第一爪13を上フランジ210のエッジに引っ掛け、第二フック20の回動姿勢を元に戻すことにより、軒梁200に対する養生シート取付け部品100の取付けを行うことができる。
図2(a)、(b)に示すように、第一フック10に対して第二フック20を水平面内で回動させた場合でも、規制ブロック30のV字状片31にて第一フック10の回動が規制される。その結果、建物躯体に養生シート取付け部品100を取付けるに際して、障害物等を交わしながら養生シート取付け部品100を建物躯体にアクセスさせることを可能にしながらも、第一フック10に対して第二フック20が過度に水平面内で回動することを抑制することができる。そのため、建物躯体に対して第一爪13を引っ掛け難いといった問題が生じることはなく、建物躯体に対する取付け性が良好な養生シート取付け部品100となる。
一方、図3のうち、図3(a)は、H形鋼からなる軒梁200の上フランジ210に対して養生シート取付け部品100をY1方向にアクセスさせている状態を側方から見た状態を示しており、例えば図2(a)や図2(b)を側方から見た図である。図3(b)に示すように、第一爪13を上フランジ210のエッジに引っ掛け、第二フック20の一部を上フランジ210の他方のエッジに係止させることにより、軒梁200の上フランジ210に対して養生シート取付け部品100が取付けられる。
図3(b)に示すように、上フランジ210に養生シート取付け部品100が取付けられた状態において、第一フック10の二本の軸部11の二つの第一爪11が上フランジ210の一方のエッジのP1点およびP2点に係合し、第二フック20の軸部21がその途中位置で上フランジ210の他方のエッジのP点にて係止される。このように、上フランジ210の三点で養生シート取付け部品100が係合もしくは係止されることにより、軒梁200に対して養生シート取付け部品100を安定的に取付けることができる。
また、図3(c)に示すように、例えば、軒梁200の上フランジ210に対して取付けられた養生シート取付け部品100に対し、下方から強風が吹き込んできて第二フック20が鉛直面内で上方にZ1方向に回動することが想定される。このような場合でも、規制ブロック30の上片33によって第一フック10に対する第二フック20の鉛直面内における上方への回動が規制されていることにより、例えば強風が静まった際に、持ち上げられた第二フック20は下方へ自重にて落下し、図3(b)に示す取付け姿勢に戻ることができる。仮に、規制ブロック30による規制がない場合、第二フック20が建物躯体の内側まで回動し、養生シート取付け部品100を図3(b)に示す取付け姿勢に戻す手間が生じ得る。
なお、養生シート取付け部品100を形成する規制ブロック30の構成は図示例に限定されるものでなく、少なくとも第一規制手段と第二規制手段を有する様々な形態が適用可能である。また、図示例では、第二フック20に対して規制ブロック30が接続されているが、第一フック10に対して規制ブロック30が接続され、この規制ブロック30に対して第二フック20の回動が規制されるような形態であってもよい。
<第1の実施形態に係る建物の養生方法>
次に、図4を参照して、第1の実施形態に係る建物の養生方法を説明する。ここで、図4は、第1の実施形態に係る養生シート取付け部品を用いた、第1の実施形態に係る建物の養生方法の一例を説明する図である。なお、必要に応じて、図2及び図3をともに参照して説明する。
図4に示す建物700は、例えば、寄棟や切妻の屋根を有する二階建ての鉄骨造の建物700であり、外壁から外側に持出されている持出し部が二階のバルコニー500である。そして、第1の実施形態に係る建物の養生方法は、このバルコニー500の施工途中においてバルコニー500の内部を養生シート600にて養生する方法を説明するものである。
図示例の建物700において、外壁300は、窯業系サイディング材等から形成される外壁パネル310と、外張り断熱材320と、充填断熱材330が水平方向に積層して形成されており、外壁パネル310と外張り断熱材320の間に通気層340が介在している。なお、外壁300の構成は図示例に限定されるものでなく、その他の構成の外壁であってもよい。また、充填断熱材330の内側に配設される石膏ボード等の内壁材の図示は省略している。
外壁300が二階まで施工され、屋根400の施工も行われている。図示する屋根400は、野地板やルーフィング、葺き板等から形成される屋根材410と、棟から傾斜して延びて屋根材410を支持する垂木420を有する。
外壁300の内側にはH形鋼から形成される軒桁200が外壁300の幅方向(水平方向)に延びて配設されている。これらの屋根400や外壁300、軒桁200等が建物躯体に含まれる。図示例の建物700では、軒桁200を形成するH形鋼の上フランジ210が、外壁300の天端よりも上方に位置している。
図示例の施工段階は、外壁300から持出されているバルコニー500の施工において、跳ねだし梁510の建込みや、笠木521を有する腰壁520の組み付けが完了しているものの、バルコニー500の内側の防水施工が未処理の段階である。
作業員は、跳ねだし梁510や、腰壁520の外側に設けられてよい不図示の仮設足場等を足場として、バルコニー500に対応する位置の軒桁200の上フランジ210に対して、複数の養生シート取付け部品100の取付けを行う。具体的には、外壁300の天端と垂木420の間の隙間Gを介して、養生シート取付け部品100を外壁300の内側に挿入する(図2(a)、(b)、図3(a)参照)。そして、第一フック10の第一爪13を上フランジ210の一方のエッジに引っ掛け、第二フック20を上フランジ210の他方のエッジに係止させることにより、図4や図2(c)、図3(b)に示すように養生シート取付け部品100を上フランジ210の三点に係合もしくは係止させる。
各養生シート取付け部品100の第二爪23に対して、まず、バンド610の一端を引っ掛け、バンド610の他端を腰壁520の適所に係合させることにより、バルコニー500の上方に複数本のバンド610を張設する。ここで、バンド610には、仮設足場で多用されるゴムバンドや荷締め用バンド、紐やロープなどが適用される。
そして、複数のバンド610に支持されるようにして、養生シート600の一端を同様に第二爪23に係合させ、養生シート600の他端を腰壁520に係合させることにより、バルコニー500の養生が行われる。なお、複数本のバンド610と養生シート600を一体にしたものを予め用意しておき、双方に共通の複数の係合リング等を各養生シート取付け部品100の第二爪23に係合させるようにしてもよい。また、養生シート取付け部品100の軒桁200への取付けに当たり、第二爪23に養生シート600等を係合させた状態で、養生シート取付け部品100を軒桁200に取付けてもよい。
この建物の養生方法では、例えば、外壁300の天端と屋根400の垂木420の間の隙間Gの高さが狭い場合でも、第一フック10と第二フック20が所定の角度θ1で首折れした姿勢を保持していることから、養生シート取付け部品100を隙間Gを介して外壁300の内側に挿入した後、軒桁200の上フランジ210のエッジに対して第一爪13を引っ掛け易い。図示を省略するが、仮に第一フックと第二フックが首折れせずに真っ直ぐな場合を想定すると、その際に上フランジ210のエッジに第一爪を引っ掛け難いことが容易に想定できる。
また、図示する養生方法では、養生シート600が張設された複数本のバンド610にて支持されていることから、取付け時の傾斜姿勢を保持することができ、養生シート600上に雨水が溜まり難く、バルコニー500の外側へ雨水を効果的に排水することができる。また、図4において、第二爪23の立ち上がり長さh1や、最下点を通って軸部21に平行なラインからの角度θ4(第二爪23の曲げ角度)を、養生時に想定される養生シート600の角度θ5との関係から、最適な長さh1や曲げ角度θ4となるように設定するのがよい。具体的には、養生シート600の下方から風が吹き上げてくる場合、養生シート600と第二爪23の係合態様によっては、養生シート600が第二爪23から係合解除されてしまう。その際、養生シート600の傾斜角度θ5が影響してくる。そこで、第二爪23に対する養生シート600の良好な取付け性を勘案した上で、取付けられている養生シート600の下方から吹上げてくる風に対して養生シート600が第二爪23から係合解除しないように、第二爪23の長さh1と曲げ角度θ4を設定しておくのが好ましい。
<第2の実施形態に係る建物の養生方法>
次に、図5を参照して、第2の実施形態に係る建物の養生方法を説明する。ここで、図5は、第1の実施形態に係る養生シート取付け部品を用いた、第2の実施形態に係る建物の養生方法の一例を説明する図である。なお、必要に応じて、図2及び図3をともに参照して説明する。
図5に示す建物700Aは、例えば、片流れの屋根を有する鉄骨造の建物において、屋根の頂部から所定長さ落ち込んだ位置において、外壁から外側に未踏の持出し部が持出されている建物である。そして、第2の実施形態に係る建物の養生方法においても、この持出し部500Aの施工途中において、持出し部500Aの内部を養生シートにて養生する方法を説明するものである。
図示する片流れの屋根400Aを有する建物700Aでは、往々にして、図示するように、外壁300の天端よりも外壁の内側にある軒桁200を形成するH形鋼の上フランジ210が下方(矢印方向)に落ち込んだ位置に配設される。従って、一般には、このように外壁300の天端から下方に落ち込んだ軒桁200に養生シートを固定することは困難もしくは不可能である。しかしながら、図示するように、第一フック10に対して第二フック20が角度θ1で首折れした姿勢を維持している養生シート取付け部品100を適用することにより、第一爪13を軒桁200の上フランジ210のエッジに対して容易に引っ掛けることができる。
そして、図示例の場合は、二つの第一爪13が上フランジの二点P1,P2に係合するとともに、第二フック20が外壁300を形成する充填断熱材330の上方の横下地材350のエッジの点P3に係止される。すなわち、図4に示す形態とは三点での係合及び係止形態が異なるものの、同様に三点で養生シート取付け部品100が係合及び係止されることになり、安定した状態で建物躯体に対して養生シート取付け部品100を取付けることができる。
建物躯体に対して取付けられている養生シート取付け部品100の第二爪23に対し、養生シート600の一端を係合し、他端を例えば持出し部500Aのパラペット530等に係合して張設することにより、養生シート600による持出し部500Aの養生が行われる。なお、図5の養生方法においても、図4に示すバンド610を張設して養生シート600を支持してもよい。
図示を省略するが、図4及び図5に示す形態の建物以外の形態の建物や、建物の他の部位においても、バルコニー等の持出し部の施工途中の養生を、図4及び図5に示す方法と同様の方法にて行うことができる。例えば、図4に示す軒元における養生以外にも、ケラバ側において外壁から持出し部が持出されている場合には、このケラバにおける持出し部の養生を同様の方法で行うことができる。また、陸屋根の建物において、外壁から持出し部が持出されている場合に、陸屋根のパラペットの内側に架設されている軒桁に養生シート取付け部品100の第一爪13を引っ掛け、パラペットに例えば第二フック20を係止させた状態で、第二爪23と持出し部の適所の間に養生シート600を張設させて養生してもよい。
<第2の実施形態に係る養生シート取付け部品>
次に、図6を参照して、第2の実施形態に係る養生シート取付け部品を説明する。ここで、図6は、第2の実施形態に係る養生シート取付け部品の斜視図である。養生シート取付け部品100Aは、建物躯体に係止される第一フック10Aと、一端が第一フック10Aに回動自在に係合し、他端に養生シートが取付け自在である第二フック20と、第一フック10Aに対する第二フック20の水平面内の回動を規制する引張りコイルばね41,42と、鉛直面内の回動を規制する引張りコイルばね43,44とを有する。
第一フック10Aは、一本の直線状の軸部11と、第二フック20の係合爪22と係合する係合爪14を有する点において、養生シート取付け部品100の第一フック10と相違する。さらに、第一フック10Aに対する第二フック20の水平面内と鉛直面内の各回動を規制する第一規制手段と第二規制手段として、共に二本の付勢部材である引張りコイルばね41,42,43,44を有している点において、養生シート取付け部品100の規制ブロック30と相違する。なお、付勢部材としては、引張コイルばねの他に、トーションばね等であってもよい。
養生シート取付け部品100Aにおいても、引張りコイルばね41,42,43,44により、第一フック10Aと第二フック20が、なす角度θ1で首折れした状態が維持される。また、第一フック10Aに対して第二フック20が水平面内でX1方向に回動しようとした際に、回動方向と反対側にある引張りコイルばね41による戻し力により、第二フック20のX1方向への過度の回動が規制される。同様に、第一フック10Aに対して第二フック20が水平面内でX2方向に回動しようとした際に、回動方向と反対側にある引張りコイルばね42による戻し力により、第二フック20のX2方向への過度の回動が規制される。
また、鉛直面内における回動の規制も同様に行われる。第一フック10Aに対して第二フック20が鉛直面内でZ1方向に回動しようとした際に、回動方向と反対側にある引張りコイルばね43による戻し力により、第二フック20のZ1方向への過度の回動が規制される。同様に、第一フック10Aに対して第二フック20が鉛直面内でZ2方向に回動しようとした際に、回動方向と反対側にある引張りコイルばね44による戻し力により、第二フック20のZ2方向への過度の回動が規制される。
養生シート取付け部品100Aによれば、第一フック10Aと第二フック20がいずれも一本の軸部11,21から形成されることにより、製作コストを可及的に安価にできる。養生シートによる施工現場の養生は必須の作業と言っても過言でないことから、養生シート取付け部品100Aの数が多くなるにつれて、製作コストが安価であるという効果は顕著な効果になり得る。
<第3の実施形態の養生シート取付け部品>
次に、図7を参照して、第3の実施形態に係る養生シート取付け部品を説明する。ここで、図7は、第3の実施形態に係る養生シート取付け部品の斜視図である。養生シート取付け部品100Bは、建物躯体に係止される第一フック10Bと、一端が第一フック10Bに回動自在に係合し、他端に養生シートが取付け自在である第二フック20と、第一フック10Bに対する第二フック20の水平面内の回動を規制する引張りコイルばね41,42と、鉛直面内の回動を規制する引張りコイルばね43,44とを有する。
第一フック10Bの有する一本の直線状の軸部11の先端が二股に分かれた二股部を有し、この二股部において二つの第一爪13を有する点において、養生シート取付け部品100Aと相違する。建物躯体に係合される第一爪13を複数有することにより、建物躯体に対する係合状態の安定化を図ることができる。また、引張りコイルばね41,42,43,44を有することにより、養生シート取付け部品100Aと同様の効果が得られる。
なお、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。