JP2019156771A - ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体 - Google Patents

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Abstract

【課題】播種性腫瘍の治療に有効な化合物、該化合物を含む医薬組成物を提供することを課題とする。【解決手段】ペメトレキセドが、直接またはスペーサーを介してヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体に共有結合されている、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体を提供する。また、該ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体を含む医薬組成物を提供する。該医薬組成物は、さらに、架橋可能なヒアルロン酸を含んでいてもよく、架橋可能なヒアルロン酸含有医薬組成物を含む医薬キットも提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体、該結合体を含む医薬組成物および該医薬組成物を含む医薬キットに関する。
ペメトレキセドは、葉酸の代謝拮抗剤であり、2ナトリウム7水和物が商品名アリムタ(登録商標)として製造販売されている。適応症は、悪性胸膜中皮腫(MPM:Malignant Pleural Mesothelioma)と非小細胞肺癌であり、悪性胸膜中皮腫の治療用では、シスプラチンとの併用でペメトレキセドは点滴静注される。ペメトレキセドは、主に細胞表面の還元型葉酸レセプター(RFC)を介して癌細胞内に取り込まれ、細胞毒性を示す。しかしながら、その治療成績は、他の癌腫と比べると決して良好であるとは言えない。これまでに悪性胸膜中皮腫に対する治療として、免疫チェックポイント阻害剤、血管新生阻害剤などの臨床研究が行われているが、未だ有効な治療法は確立していないため、新規の有効な治療法が切望されている。
悪性胸膜中皮腫は播種性病変を特徴とする。標準化学療法でペメトレキセドは、点滴静注により全身に投与されるが、胸腔や腹腔等の腔内の播種性病変に対しては局所への直接投与の方が有効と考えられ、実験レベル、臨床研究レベルで、シスプラチンならびにペメトレキセドを、悪性胸膜中皮腫に対して胸腔内に直接投与する方法が試みられている(非特許文献1〜3)。直接投与により、これら化学療法剤による有害事象は軽減されたが、その有効性が高まることまでは明らかにならなかった。
悪性中皮腫では中皮腫細胞によってヒアルロン酸の産生が活発に行われ、胸水中には高濃度のヒアルロン酸が含まれており、診断マーカーとして用いられている。また、ヒアルロン酸と細胞表面に存在するヒアルロン酸受容体CD44との間の相互作用は悪性胸膜中皮腫細胞の増殖、浸潤を誘導することが知られている(非特許文献4)。そのため、低分子量のヒアルロン酸(非特許文献5,6)やsiRNAなどが試みられてきたが、in vivoにおける抗腫瘍効果は不十分であった。
本発明者等は、これまで癌性腹膜炎を標的としたシスプラチン製剤の開発を行っており、シスプラチンを内包したナノゲルを、ヒアルロン酸を含む架橋ゲルに分散させた医薬組成物について研究し特許出願している(非特許文献7、8、および特許文献1)。
特開2015−221765号公報
Markman M., et al. Cancer, 1986, 58(1):18-21 Greillier L., et al. J of Thoracic Oncology, 2009, 4(3), 404-8 Chen D., et al. Ind. J Cancer, 2014, 51 Suppl 3, e82-5 Hanagiri T., et al. Tumor Biology, 2012, 33, 6, 2135-2141 Nasreen N., et al. Oncol. Res., 2002, 13, 2, 71-78 Maria E., et al. Cancer Research, 2003, 63, 3539-3545 Ohta S., et al. Bioconjugate Chemistry, 2016(27) 504-508 Ohta S., et al. Molecular Pharmaceutics, 2017, 14 (9), 3105-3113
本発明は、播種性腫瘍の治療に有効な化合物、該化合物を含む医薬組成物ならびに治療方法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下よりなる。
1.ペメトレキセドが、直接またはスペーサーを介してヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体に共有結合されているペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体。
2.スペーサーを介して、前記ペメトレキセドのカルボキシル基と、前記ヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体のカルボキシル基が結合されている、前項1に記載のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体。
3.前記スペーサーがジヒドラジドである、前項2に記載のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体。
4.前項1〜3のいずれか1に記載のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体を含有する医薬組成物。
5.播種性腫瘍治療用である、前項4に記載の医薬組成物。
6.前記播種性腫瘍が中皮腫である、前項5に記載の医薬組成物。
7.前記中皮腫が胸膜中皮腫である、前項6に記載の医薬組成物。
8.胸腔内投与用または腹腔内投与用である、前項4〜6のいずれか1に記載の医薬組成物。
9.さらに架橋可能なヒアルロン酸または架橋可能なヒアルロン酸誘導体を含有する前項4〜8のいずれか1に記載の医薬組成物。
10.ヒアルロン酸架橋ゲルに、前記ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体が分散されている、前項4〜8のいずれか1に記載の医薬組成物。
11.さらにシスプラチンを含有する、前項4〜10のいずれか1に記載の医薬組成物。
12.前項9に記載の医薬組成物、および、該医薬組成物と接触することにより架橋を形成することができるヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体を含む製剤を含む、医薬キット。
13.前項4〜11のいずれか1に記載の医薬組成物を胸腔内または腹腔内に直接投与することによる、播種性腫瘍の治療方法。
本発明のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体は、ヒアルロン酸に結合していないフリーのペメトレキセドと比較すると、播種性腫瘍、特に、中皮腫に対する効果が優れている。これは、還元型葉酸レセプター(RFC)を介する取り込み以外に、標的細胞表面上のCD44からの取り込まれること等によると考えられる。また、本発明のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体ならびに該結合体を含む医薬組成物は、病変部位での滞留性と徐放性を有し、治療効果を向上させる。また、播種性病変部への局所投与により、局所濃度を高めることでその薬効が高まり、副作用が減少する。さらに、シスプラチンを含む組成物は、播種性腫瘍に対する効果をさらに高めることができる。
ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 850kDa)のH NMRスペクトルを示す。 ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 100kD)の分子量分布を示す。点線はHA−ADH−PMX 100kD、実線はヒアルロン酸(HA)、破線はアジピン酸ジヒドラジド修飾ヒアルロン酸(HA−ADH)を示す。 ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX)のUVスペクトルを示す。破線は、HA−ADH−PMX 100kDa、点線は、HA−ADH−PMX 低分子量、実線は、HA−ADH−PMX 850kDa(850kDa)、ヒアルロン酸(HA)およびペメトレキセド(PMX)を示す。実線の3物質については、引出線により物質名を図中に示す。 ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 100kDa)の細胞増殖抑制能を示すグラフである。中皮腫の細胞株(AB22,AE17,EHMES−10,H2052,MSTO−211H)と正常中皮細胞株(MeT−5A)を用いてWST−8 assayを行った。 ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX)の分子量の違いによる細胞増殖抑制能の違いをMSTO−211H細胞を用いて評価した結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
本発明のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体は、ヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体にペメトレキセドが直接またはスペーサーを介して共有結合している(以下、「ヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体」を単に「ヒアルロン酸」ともいう)。結合部位について限定はなく、いずれの部位であってもよい。
ペメトレキセド側の結合部位は、ペメトレキセドのカルボキシル基やアミノ基であり得る。例えば、アミド結合やエステル結合による結合があり得る。ペメトレキセドのカルボキシル基にヒアルロン酸が直接またはスペーサーを介して結合された結合体が好適である。ペメトレキセドにはカルボキシル基が2カ所存在するが、いずれのカルボキシル基に結合されていてもよい。ペメトレキセドの構造は以下の式で表される。
結合に供されるペメトレキセドは、無機塩若しくは有機塩であってもよい。例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、アンモニウム塩が挙げられる。
ヒアルロン酸は、N−アセチルグルコサミンとグルクロン酸の二糖を1ユニットとして反復構造を有する直鎖状の多糖類である。ヒアルロン酸側の結合部位は、特に制限されないが、例えば、ヒアルロン酸のカルボキシル基、水酸基、脱アセチル化したアミノ基であり得る。アミド結合やエステル結合による結合が好適である。ヒアルロン酸のカルボキシル基にペメトレキセドが直接またはスペーサーを介して結合した結合体が好適である。
結合に供されるヒアルロン酸の分子量は、5kDa〜2000kDaが好適であり、20kDaから800kDaがより好適である。分子量が大きくなると、粘度が高くなり医薬として扱いにくい。起源は特に限定されるものではなく、例えば、鶏冠等から抽出されたヒアルロン酸、乳酸菌等を使用して生産したヒアルロン酸が挙げられる。さらに、高分子のヒアルロン酸を分解して低分子化したヒアルロン酸でもよい。
結合に供されるヒアルロン酸誘導体は、ヒアルロン酸骨格を有する誘導体であれば、特に限定されない。例えば、ヒアルロン酸の無機塩若しくは有機塩であり得る。例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、アンモニウム塩が挙げられる。また、脂肪族化合物、芳香族化合物等とエステルやアミドを形成していてもよい。また、アセチル化されていてもよく、脱アセチル化されていてもよい。
スペーサーは、特に限定されない。脂肪族化合物、芳香族化合物でもよく、ヒドラジド基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、カルボニル基等を含むことができる。ペプチド等でもよい。ジヒドラジドが好適であり、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)がより好適である。
本発明のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体は、無機塩若しくは有機塩であり得る。例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、鉄塩、アンモニウム塩が挙げられる。また、脂肪族化合物、芳香族化合物等とエステルやアミドを形成していてもよい。また、アセチル化されていてもよく、脱アセチル化されていてもよい。
好ましいペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体は、ペメトレキセドのカルボキシル基がジヒドラジドを介してヒアルロン酸のカルボキシル基に結合されている。より好ましくは、ペメトレキセドのカルボキシル基がアジピン酸ジヒドラジドを介してヒアルロン酸のカルボキシル基に結合されている。具体的には、以下の式(I)で表されるユニットを有するペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX)またはその塩が好ましい。
本発明のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体は、ヒアルロン酸1分子あたりペメトレキセドが1分子以上結合していればよい。ペメトレキセドの修飾率は0.1%〜60%(ヒアルロン酸の1ユニットあたり0.001〜0.6個のペメトレキセドが結合)が好適である。より好ましい修飾率は、5〜50%、10〜40%、15〜30%である。
本発明のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体の合成は、任意の適切な方法により行うことができる。
1つの実施形態として、ヒアルロン酸溶液に適切なスペーサーを加え反応させる。一方で、ペメトレキセドを活性化する。次に両者を混合して反応させて、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体を得ることができる。例えば、ヒアルロン酸溶液にアジピン酸ジヒドラジドを添加しヒアルロン酸のカルボン酸をジヒドラジドで修飾し、一方でペメトレキセドをN−ヒドロキシコハク酸イミドで活性化し、両者を混合して、アジピン酸ジヒドラジドをスペーサーとした結合体を得ることができる。
本発明の医薬組成物は、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体を含む。
本発明の医薬組成物は、播種性腫瘍の治療に好適に用いることができる。本明細書において播種性腫瘍とは、臨床的な特徴として播種性病変を呈する中皮腫、および、胸膜内、腹膜内の臓器の腫瘍が播種性転移により胸膜や腹膜に転移した腫瘍を意味する。播種性転移する腫瘍は、例えば、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、膵臓癌、胆道癌等が挙げられる。
播種性腫瘍は、癌性胸膜炎、癌性腹膜炎と診断されることから、本発明の医薬組成物は、癌性胸膜炎または癌性腹膜炎の治療用の医薬組成物でもあり得る。
本発明の医薬組成物は、中皮腫の治療に好適に用いることができる。本明細書において、中皮腫は悪性の中皮腫を意味し、胸膜中皮腫、心膜中皮腫、腹膜中皮腫等を含む。本発明の医薬組成物は、特に胸膜中皮腫の治療に好適に用いることができる。
本発明の医薬組成物の投与経路は限定されるものではない。好ましい投与経路として、静脈内投与や病変部への直接投与が挙げられる。播種性腫瘍の治療に用いる場合は、播種性腫瘍の患者は胸水貯留、腹水貯留を示すことが多いことから、胸腔内、腹腔内への直接投与が好適である。具体的には、胸腔ドレーン、腹腔ドレーン、アスピレーションキットのチューブ、一時的な穿刺針により注入できる。また、胸腔鏡手術、腹腔鏡手術、開胸手術、開腹手術時に直接投与してもよい。病変部へ直接投与することにより、病変部のペメトレキセド濃度が高濃度に維持され、高い薬効が発揮できる。
本発明の医薬組成物は、ペメトレキセドと結合していないヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体を含んでいてもよい。該ヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体は、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体を調製する際に、ペメトレキセドと結合しなかったヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体であってもよい。
本発明の医薬組成物は、さらに架橋可能なヒアルロン酸または架橋可能なヒアルロン酸誘導体を含有し得る。本明細書において架橋可能なヒアルロン酸または架橋可能なヒアルロン酸誘導体とは、他のヒアルロン酸分子またはヒアルロン酸誘導体分子と架橋し得る置換基を有するヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体をいう(以下、「架橋可能なヒアルロン酸または架橋可能なヒアルロン酸誘導体」を単に「架橋可能なヒアルロン酸」ともいう)。架橋可能なヒアルロン酸は、他の(相手方の)ヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体と架橋を形成し、三次元的な網目構造が形成されたゲルを形成することができ、DDSの担体として好適に用いることができる。
ゲルの形成は、架橋可能なヒアルロン酸と相手方のヒアルロン酸を同時にまたは一方を投与した直後に他方を投与することにより、インサイチュ(in situ)で行われる。内視鏡手術等により投与可能である。胸水貯留、腹水貯留を示す患者には、胸腔ドレーン、腹腔ドレーン、アスピレーションキットのチューブ、一時的な穿刺針により、胸腔内または腹腔内に注入できる。また、鏡視下手術や開胸、開腹手術時に直接投与することも可能である。
架橋可能なヒアルロン酸の分子量は、例えば、10〜2,000kDaであり、好ましくは20〜800kDaである。
架橋可能なヒアルロン酸は、架橋可能な置換基を有する。架橋可能な置換基は、生体内の条件で架橋可能であることが好ましい。架橋可能な置換基とその相手方となる置換基の組合せは、具体的には、ヒドラジド基とアルデヒド基との組合せ、アジド基とシクロオクチン基との組合せ、チオール基とマレイミド基との組合せ、N−ヒドロキシコハク酸イミド基と水酸基との組合せ等が挙げられる。本発明の医薬組成物に含有している架橋可能なヒアルロン酸と架橋を形成し得るヒアルロン酸を含有する製剤を調製し、本発明の医薬組成物を該製剤と同時に投与する。または、一方を投与した直後に他方を投与する。それにより、生体内の条件下で架橋ゲルが形成される。
生体内の条件下で速やかに架橋ゲルが形成されることから、ヒドラジド基を有するヒアルロン酸(HA−ADH)と、アルデヒド基を有するヒアルロン酸(HA−CHO)とを組み合わせて用いることが好ましい。すなわち、本発明の医薬組成物は、HA−ADH、または、HA−CHOを含有していることが好ましい。HA−ADHを含有している本発明の医薬組成物を投与するときには、HA−CHO含有製剤を同時または投与直後に投与する。HA−CHOを含有している本発明の医薬組成物を投与するときには、HA−ADH含有製剤を同時または投与直後に投与する。それにより、ヒドラジド基とアルデヒド基が生体内の条件下で下記式のように結合し、架橋ゲルが形成される。
なお、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体自体が架橋可能なヒアルロン酸であってもよい。すなわち、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体が、架橋可能な置換基を有していてもよい。
本発明の医薬組成物には、架橋可能な置換基を有するヒアルロン酸を1種類含んでよく、別の架橋可能な置換基を有するヒアルロン酸をさらに含んでいてもよい。上記置換基を有するヒアルロン酸の置換基による修飾率(全ユニット数に対する置換基を有するユニット数の割合)は、好ましくは40%〜90%であり、より好ましくは50%〜85%である。修飾率が上記範囲内であれば、所望の架橋密度を有する架橋ゲルを好適に形成することができる。
架橋可能な置換基を有するヒアルロン酸を2種以上含む場合、好適には、架橋可能な置換基の割合がモル比で1:1となるように調整される。
本発明の医薬組成物は、ヒアルロン酸架橋ゲルに、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体が分散されていてもよい。本明細書において、ヒアルロン酸を含む架橋ゲルとは、ヒアルロン酸分子同士が架橋されることにより、三次元的な網目構造が形成されたゲルをいう。ヒアルロン酸は生体適合性に優れるため、DDSの担体として好適に用いることができる。
胸水貯留、腹水貯留を示す患者には、胸腔ドレーン、腹腔ドレーン、アスピレーションキットのチューブにより、胸腔内または腹腔内に注入できる。また、鏡視下手術や開胸、開腹手術時に直接投与することも可能である。
ヒアルロン酸架橋ゲルは、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体と架橋可能なヒアルロン酸を含有する溶液を、該架橋可能なヒアルロン酸と架橋し得るヒアルロン酸を含む溶液を混合させることにより、調製することができる。
架橋ゲルの調製には、通常、ヒアルロン酸を任意の溶媒に溶解させたヒアルロン酸溶液が用いられる。このヒアルロン酸溶液の濃度を調整することにより、架橋ゲルの架橋密度を調整することができ、所望の徐放速度や体内での保持時間に調整することができる。ヒアルロン酸溶液の濃度は好ましくは0.5重量%〜5重量%である。ヒアルロン酸溶液の濃度が上記の範囲内であることにより、安定して薬物を輸送することができ、播種数の減少効果とともに、抗癌剤による毒性をも防止し得る。ヒアルロン酸溶液の溶媒としては、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いることができる。
架橋ゲルの別の実施形態としては、ヒアルロン酸を、例えば、ビスエポキシド類、ジビニルスルホン、ジヒドラジン、ジヒドラジド、または、ポリイソシアネート等の架橋剤を用いて架橋することにより調製する方法が挙げられる。
また、ヒアルロン酸を含む架橋ゲルとして、市販の架橋ヒアルロン酸を用いてもよい。市販の架橋ヒアルロン酸としては、例えば、Extracel(登録商標)−X(Glycosan Bio Systems,Inc製)、Corgel(登録商標)(Lifecore Biomedical,LLC.製)等が挙げられる。
本発明の医薬組成物は、さらにシスプラチンを含有してもよい。シスプラチンはフリー体のシスプラチンでも、キレート形成基を有するヒアルロン酸とキレートを形成しているシスプラチンでもよい。
ヒアルロン酸の有するキレート形成基とシスプラチンとの結合はpHに依存して切断され得るので、キレート形成シスプラチンはエンドソーム膜内でシスプラチンを放出し得る。例えば、細胞外(pH7付近)ではキレート形成基とシスプラチンとの結合は維持されるのに対し、エンドソーム内(pH5〜6)ではその結合が切断される。そのため、標的まで安定してシスプラチンを輸送することができる。
本発明で用いるキレート形成基を有するヒアルロン酸は、例えば、下記式(II)で表されるユニットを含む。
式(II)において、Rはキレート形成基を表す。キレート基を有していないヒアルロン酸のユニット数は好ましくは25〜5,000であり、より好ましくは50〜1,000である。キレート基を有するヒアルロン酸のユニット数は好ましくは1〜3,250であり、より好ましくは2〜650である。キレート形成基を有するヒアルロン酸のユニットの配置は特に制限はなく、ブロック構造であっても、ランダム構造であってもよい。
上記キレート形成基Rとしては、任意の適切な官能基とすることができる。キレート形成基としては、例えば、カルボキシル基、ジカルボン酸アミノ基、ジカルボン酸基等が挙げられる。シスプラチンの有する塩素原子と良好に配位することから、キレート形成基はカルボキシル基が好ましい。
さらに好ましくは、Rは下記式で表される置換基である。下記式で表されるキレート形成基を有することにより、より安定して薬物を保持することができる。
(式中、RおよびRは(CHを表し、rは0〜2の整数である。RおよびRは同一であってもよく、異なっていてもよい)。
およびRは直鎖状であることが好ましく、これらが同一であることがさらに好ましい。rは0〜2であり、キレート形成基がメチレン基を有さない、または、上記範囲内のメチレン基を有する直鎖のジカルボン酸である場合、キレート形成基を有するヒアルロン酸はシスプラチンと多員環構造(通常、5〜7員環構造)のキレートを形成し得る。そのため、より安定した状態で薬物を保持し得る。
例えば、rが0であるキレート形成基は、シスプラチンに配位して、以下のような6員環構造を形成し得る。
また、rが1であるキレート形成基は、シスプラチンに配位して、以下のような8員環構造を形成し得る。
本発明の医薬組成物は、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体の有効量に適宜製薬上許容し得る担体、賦形剤が加えられた医薬組成物であり得る。製剤の形態は特に限定されないが、例えば、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体を生理食塩水やリン酸緩衝液に所望の濃度に溶解させ、注射用製剤とすることができる。この際、必要に応じてpHを調製するための酸または塩基が加えられてもよい。さらに、安定化剤等が加えられてもよい。
本発明の医薬キットは、架橋可能なヒアルロン酸を含有する本発明の医薬組成物と該医薬組成物と接触することにより架橋を形成することができるヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体を含む製剤を含む。本発明の医薬キットは他に、溶解剤等の他の剤、注射器等の器具を含有していてもよい。医薬キットは、注射器に予め該組成物と該製剤を充填している形態でもよい。また、注射器はシリンジが2つ備えられ、注射器の先端で該医薬組成物と該製剤が混合可能な注射器でもよい。
本発明の理解を助けるために以下に実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は本実施例に限定されるものでない。
ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 850kD)の合成
1.アジピン酸ジヒドラジド修飾ヒアルロン酸(HA−ADH)の合成(ステップ1)
文献(Y. Yeo et al., Biomaterials, 27, (2006), 4698-4705)に記載の方法に従い、合成を行った。
試薬
・ヒアルロン酸(Mw=850kDa)電気化学工業
・アジピン酸ジヒドラジド(Adipic dihydrazide)(ADH)和光純薬工業
・1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩
(Water-Soluble Carbodiimide Hydrochloride)(WSCD・HCl)和光純薬工業
・1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-hydroxybenzotriazole)(HOBt)東京化成工業
・ジメチルスルホキシド(DMSO)和光純薬工業
500mLのナスフラスコにヒアルロン酸1.5gを秤量し、純水300mLに溶解した。次に、ADH 16.33gを加え溶解した。HOBt 2.28gをDMSO 15mLに溶解し、反応溶液に滴下した。WSCD・HCl 3.235gを純水9mLに溶解し、反応溶液に滴下した。滴下後から4時間、pHを5.5になるよう30分おきに調整した。透析膜(MWCO=6000−8000)を用いて純水で透析を行った。その後凍結乾燥し、アジピン酸ジヒドラジド修飾ヒアルロン酸(HA−ADH)を得た。下記に修飾されるユニットの反応式を示す。
2.N−ヒドロキシコハク酸イミド修飾ペメトレキセド(NHS−PMX)の合成(ステップ2)
試薬
・ペメトレキセド水和物(Pemetrexed Hydrate)東京化成
0.2g(0.468mmol,1eq.)
・ジメチルスルホキシド(超脱水)和光 4mL
・N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)和光
0.0593g(0.515mmol,1.1eq.)
・N,N’−ジシクロカルボジイミド(DCC)和光
0.106g (0.515mmol,1.1eq.)
5mLナスフラスコにペメトレキセド0.2gを加え、超脱水DMSO 4mLに溶解させた。完全に溶解したことを確認し、NHS 0.0593gを添加し、1時間撹拌した。DCC 0.106gを添加し、遮光して室温で一晩反応させた。反応液を吸引ろ過することで、副生成物の除去を行った(フィルターはφ=21mm,5c,桐山を用いた)。生成物を回収し、遮光して−20℃にて保存した。
3.ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体の合成(ステップ3)
試薬
・N−ヒドロキシコハク酸イミド修飾ペメトレキセド
(DMSO溶液,2eq.−per ADH)
・アジピン酸ジヒドラジド修飾ヒアルロン酸(HA−ADH) 0.2g(1eq.)
・0.1M 炭酸水素ナトリウム水溶液 26.66mL
50mLのナスフラスコにステップ1で得られたHA−ADH 0.2gを秤量し、0.1M NaHCO溶液26.66mLに溶解した。反応溶液に、NHS−PMXのDMSO溶液を、析出しないよう、30分かけてゆっくりと滴下した。遮光し、室温で18時間反応させた。純水100mLを加え、透析膜(MWCO=6000−8000)を用いて純水で透析を行った。凍結乾燥をした後に回収し、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 850kDa)を得た。下記にペメトレキセドが結合されるユニットの反応式を示す。
分子量100kDaのヒアルロン酸を試薬として用いた以外は、実施例1と同様にして、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 100kDa)を得た。
低分子量(分子量5kDa〜50kDa程度)のヒアルロン酸を試薬として用い、透析膜(MWCO=1000)を用いた以外は、実施例1と同様にして、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 低分子量)を得た。
1.解析・評価
実施例1〜3で得られたペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX)について解析した。
全ての分子量においてペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX)の合成に成功したことが確認された。低分子量の方がペメトレキセドの担持量はやや増加する傾向にあった。
図1にH NMRスペクトルを示す。溶媒は、アジピン酸ジヒドラジド修飾ヒアルロン酸(HA−ADH)およびペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 850kDa)は、DOを用い、ペメトレキセド(PMX)は、DMSO−dを用いた。アジピン酸ジヒドラジド修飾ヒアルロン酸(HA−ADH)にペメトレキセドを修飾することで新たにピーク(a)および(b)の出現が確認された。図2にゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 100kDa)の分子量分布を示す。修飾による分子量分布の大きな変化は見られなかった。一方、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 850kDa)は粘度が高く、純水には溶解するものの、緩衝液への溶解度が著しく低かったため、分子量分布の測定は困難であった。
図3にペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX)のUVスペクトルを示す。フリーのペメトレキセドは225nmにピークが存在しており、アジピン酸ジヒドラジド修飾ヒアルロン酸に修飾することで吸収ピークの山は見られなくなっているが、ヒアルロン酸のときにはなかった吸収スペクトルが確認され、ペメトレキセドの修飾が確認された。225nmにおける吸光度を用いて修飾率を算出した。表1中の「mol−HA」は「mol−HA1ユニット」を意味する。すなわち、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 100kDa)は、ヒアルロン酸1ユニット当たり0.16個のPMXを有する。
2,溶解性
分子量による物性の違いで最も影響が現れたのは溶解性であった。ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 850kDa)は緩衝液に不溶であり、純水には溶解したが粘度が高かった。一方、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 100kDa)およびペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 低分子量)はPBS,NaHCO,RPMI1640培地などの緩衝液への溶解性が確認された。ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 100kDa)は、7.5wt%においても溶解を確認した。
3.細胞毒性試験
ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX 100kDa)の細胞増殖抑制能を中皮腫の細胞株(AB22,AE17,EHMES−10,H2052,MSTO−211H)と正常中皮細胞株(MeT−5A)を用いてWST−8 assay(Cell Counting Kit−8、同仁化学研究所社製)により行った(図4)。材料添加2日後の細胞生存率を評価した。また、ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX)の分子量の違いによる細胞増殖抑制能の違いをMSTO−211H細胞を用いて評価した(図5)。
ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体(HA−ADH−PMX)を投与した場合において、中皮腫細胞株に対して増殖抑制効果が認められ、薬効を示すことが確認された。
本発明により、癌の治療に有効な新規な化合物と該化合物を含む医薬組成物が提供され、播種性腫瘍、特に中皮腫の治療に好適に用いることができる。

Claims (12)

  1. ペメトレキセドが、直接またはスペーサーを介してヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体に共有結合されているペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体。
  2. スペーサーを介して、前記ペメトレキセドのカルボキシル基と、前記ヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体のカルボキシル基が結合されている、請求項1に記載のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体。
  3. 前記スペーサーがジヒドラジドである、請求項2に記載のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体。
  4. 請求項1〜3のいずれか1に記載のペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体を含有する医薬組成物。
  5. 播種性腫瘍治療用である、請求項4に記載の医薬組成物。
  6. 前記播種性腫瘍が中皮腫である、請求項5に記載の医薬組成物。
  7. 前記中皮腫が胸膜中皮腫である、請求項6に記載の医薬組成物。
  8. 胸腔内投与用または腹腔内投与用である、請求項4〜6のいずれか1に記載の医薬組成物。
  9. さらに架橋可能なヒアルロン酸または架橋可能なヒアルロン酸誘導体を含有する請求項4〜8のいずれか1に記載の医薬組成物。
  10. ヒアルロン酸架橋ゲルに、前記ペメトレキセド−ヒアルロン酸結合体が分散されている、請求項4〜8のいずれか1に記載の医薬組成物。
  11. さらにシスプラチンを含有する、請求項4〜10のいずれか1に記載の医薬組成物。
  12. 請求項9に記載の医薬組成物、および、該医薬組成物と接触することにより架橋を形成することができるヒアルロン酸またはヒアルロン酸誘導体を含む製剤を含む、医薬キット。


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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN115887687A (zh) * 2022-11-23 2023-04-04 广东省科学院动物研究所 一种透明质酸(ha)-ca-4偶联物及其合成方法和应用

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