JP2017193591A - 腫瘍細胞選択的抗がん剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】 本発明は、腫瘍細胞選択性が優れた新規な抗がん作用をもつ化合物を有効成分として含む抗がん剤を提供することを目的とする。【解決手段】本発明により、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを抗がん作用の有効成分として含む医薬組成物が提供された。より詳細には、本発明により、抗がん有効成分として葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンを含み、静脈内注射剤として投与されることを特徴とする医薬組成物が提供された。【選択図】図8
Description
本発明は新たな抗がん剤に関する。より具体的には、本発明は、新たな腫瘍細胞選択的抗がん剤に関する。
がんは、わが国における死因第1位の疾患である。一部のがんでは生存率は改善しているものの、進行がんでは未だ十分な治療法がなく、より有効な治療法の開発が望まれている。がん細胞に対して殺細胞効果が高い抗がん剤に加えて、特に抗がん剤を標的部位に選択的かつ効率よくデリバリーさせる薬物送達システム(Drug delivery system :DDS)の構築が期待されている。DDSとは、薬物の体内動態を制御し薬物治療の最適化を目指すものであり、薬物放出挙動の制御、薬物の吸収促進、薬物の標的組織へのターゲティングなどに分類される。キャリアにターゲティング能を付与させる方法として、抗体、糖鎖、葉酸、トランスフェリンなどのリガンド修飾が知られている。
中でも葉酸は、1)安価である、2)葉酸レセプター(Folate receptor :FR )は、各種上皮がん細胞で過剰発現し、正常細胞では発現が低いため、FR介在性エンドサイトーシスによりがん細胞選択的に取り込まれる、3)抗原性がないため反復投与が可能である、4)分子量が比較的小さいことからキャリアの細胞内動態に影響を与えにくい、などの利点からリガンド分子として汎用されている。
シクロデキストリン(CyD)は環状のオリゴ糖であり、種々の薬物をその疎水空洞内に取り込み包接複合体を形成する単分子的ホスト分子に分類される。CyDsの超分子的な包接特性は、食品、化粧品、臨床検査薬、膜学、高分子化学など多方面で利用されており、薬剤学・製剤学領域では、CyDsの機能性や生体適合性を利用して、複合体形成による医薬品の安定化、溶解性の調節、バイオアベイラビリティの向上などへの応用が試みられ、国内外で実際製剤に使用されている。
近年、機能性や生体適合性を高めた種々のCyDs誘導体が開発され、DDSの応用に関する基礎的研究が行われている。CyDs誘導体の一部に、例えば、Methyl-β-CyD (M-β-CyD)や2,6-Di-O-methyl-α-CyD (DM-α-CyD)があり、Grosseらは、ヒト乳がん細胞MCF7またはヒト卵巣がん細胞A2780を移植したヌードマウスにおいてM-β-CyDを腹腔内に2ヶ月に渡って投与(300〜800 mg/kg)すると、抗がん剤であるドキソルビシン(DOX)投与(2 mg/kg)と同様に、コントロールに比べ腫瘍の増大を抑制する効果を示すことを報告している(非特許文献1)。また、服部らは、天然β-CyDの1級水酸基にカプロン酸2分子をスペーサーとして葉酸を結合させた葉酸修飾β-CyDを調製し、FR介在性がん細胞選択的DDSキャリアとしての有用性を報告している(非特許文献2)。
また本発明者らにより、メチル−β−シクロデキストリンに葉酸を修飾した、葉酸修飾メチル化−β−シクロデキストリン(FA-M-β-CyD)が、KB細胞(FR高発現細胞)に対して濃度依存的に細胞障害性を示したが、A549細胞(FR低発現細胞)に対しては殆ど細胞障害性を示さないこと、抗がん剤DOX併用によるFA-M-β-CyDの細胞障害性は、DOX単独より有意に増強されることが報告されている(非特許文献3)。さらに本発明者らにより、担がんマウスモデルの腫瘍内にFA-M-β-CyDを直接投与したところ、腫瘍の成長が有意に抑制されたことが報告されている(非特許文献4)。
しかしながら、FA-M-β-CyDがKB細胞(FR高発現細胞)に対して細胞障害性を示すためには高濃度であることが要求され、DOX等の抗がん剤と同程度の濃度では、KB細胞に対して細胞障害性を示さなかった。具体的には、FA-M-β-CyDがKB細胞に対して細胞障害性を示すためには、DOXに比べて3オーダー程度の高濃度が要求され、そのままで抗がん剤として使用することには問題があった。
Grosseら、Br. J. Cancer. 78 (1998), 1165-1169.
服部憲治郎、薬剤学、68(2008), 398-406.
日本薬学会第131年会(静岡)2011年3月28日〜30日、講演要旨(29P-0433「抗がん剤デリバリー用キャリアとしての新規葉酸修飾メチル化シクロデキストリンの調製と物性評価」)。
第27回日本DDS学会(東京)2011年6月9日〜10日、講演要旨(2-B-05「新規抗がん剤としての葉酸修飾メチル化シクロデキストリンの有用性評価」)。
K. Motoyamaら、Eur. J. Pharm. Sci., 29 (2006), 111-119.
K. Motoyamaら、Biol. Pharm. Bull., 32 (2009), 700-705.
本発明は、腫瘍細胞選択性が優れた新規な抗がん作用をもつ化合物を有効成分として含む抗がん剤を提供することを目的とする。本発明はまた、腫瘍細胞選択的な新規な抗がん作用有する化合物を用いた薬剤デリバリー剤を提供することを目的とする。
発明者らは鋭意検討を重ねた結果、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンが、実用上許容できる、すなわち医薬品として実用性がある濃度にて、抗腫瘍作用、腫瘍増殖抑制作用または抗がん作用を有することを見いだし、本発明を完成した。
つまり、本発明者らは、以下の知見に基づき、メチル化シクロデキストリン(メチル化CyD)に葉酸を修飾することにより、葉酸レセプター(FR)を介したがん細胞選択性に加えて、メチル化CyD自身によるリピッドラフトを介した細胞障害活性を有する新規抗がん剤やDDSキャリアの構築が可能と考えた。細胞膜上には、リピッドラフトと呼ばれるコレステロールやスフィンゴ脂質が局在する脂質マイクロドメインの存在が知られ、レセプターなどシグナル伝達に関与する種々のタンパク質が局在していることから、シグナル伝達において重要な足場として機能している。近年、FasL/Fas系アポトーシスがリピッドラフトを介すること、Bcl-2ファミリーに属するアポトーシス誘導因子Badがラフトに局在することなどから、リピッドラフトがアポトーシスシグナルに関与すると考えられている。一方、CyDやCyD誘導体は高濃度条件下、空洞サイズに応じて、赤血球膜などの生体膜から主な構成成分であるリン脂質やコレステロールなどの脂質類を熱力学的平衡に基づいて可溶化し、溶血、赤血球の形態学的変化、細胞障害性を惹起することが期待でき、実際に本発明者らは、ウサギ赤血球において、2,6-Di-O-methyl-α-CyD (DM-α-CyD)が、SLRに作用して内方陥没型の形態変化を惹起し、一方、Methyl-β-CyD(M-β-CyD)および2,6-Di-O-methyl-β-CyD(DM-β-CyD)が、CLRに作用して外方突起型の形態変化を誘起することを確認した(非特許文献5、6)。
つまり、本発明者らは、以下の知見に基づき、メチル化シクロデキストリン(メチル化CyD)に葉酸を修飾することにより、葉酸レセプター(FR)を介したがん細胞選択性に加えて、メチル化CyD自身によるリピッドラフトを介した細胞障害活性を有する新規抗がん剤やDDSキャリアの構築が可能と考えた。細胞膜上には、リピッドラフトと呼ばれるコレステロールやスフィンゴ脂質が局在する脂質マイクロドメインの存在が知られ、レセプターなどシグナル伝達に関与する種々のタンパク質が局在していることから、シグナル伝達において重要な足場として機能している。近年、FasL/Fas系アポトーシスがリピッドラフトを介すること、Bcl-2ファミリーに属するアポトーシス誘導因子Badがラフトに局在することなどから、リピッドラフトがアポトーシスシグナルに関与すると考えられている。一方、CyDやCyD誘導体は高濃度条件下、空洞サイズに応じて、赤血球膜などの生体膜から主な構成成分であるリン脂質やコレステロールなどの脂質類を熱力学的平衡に基づいて可溶化し、溶血、赤血球の形態学的変化、細胞障害性を惹起することが期待でき、実際に本発明者らは、ウサギ赤血球において、2,6-Di-O-methyl-α-CyD (DM-α-CyD)が、SLRに作用して内方陥没型の形態変化を惹起し、一方、Methyl-β-CyD(M-β-CyD)および2,6-Di-O-methyl-β-CyD(DM-β-CyD)が、CLRに作用して外方突起型の形態変化を誘起することを確認した(非特許文献5、6)。
本発明者らはさらに、in vitroにおける葉酸修飾メチル化シクロデキストリンの不充分な細胞障害活性にとらわれず、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンが有する様々な特性に着目することで in vivoにおける効果を信じて in vivoにおける活性を確認することにより、本発明を完成した。
本発明は、以下を含むものである。
(1)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを有効成分として含む抗がん剤である医薬組成物。
(2)全身的投与のための医薬組成物である前記(1)に記載の医薬組成物。
(3)静脈内注射剤である前記(2)に記載の医薬組成物。
(4)少なくとも1週間以上間隔を空けて投与されるように用いられることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(5)5回以下の反復投与で用いられることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(6)投与後に抗がん作用を確認した上で、再度投与されるように用いられることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(7)単回で投与されるように用いられることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(8)1回あたり10〜100mg/kg体重の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンがヒトに対して投与されるように用いられることを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(9)反復投与の合計投与量が、500mg/kg体重以下の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンがヒトに対して投与されるように用いられることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(10)前記葉酸修飾メチル化シクロデキストリンが、葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンである、前記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(1)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを有効成分として含む抗がん剤である医薬組成物。
(2)全身的投与のための医薬組成物である前記(1)に記載の医薬組成物。
(3)静脈内注射剤である前記(2)に記載の医薬組成物。
(4)少なくとも1週間以上間隔を空けて投与されるように用いられることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(5)5回以下の反復投与で用いられることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(6)投与後に抗がん作用を確認した上で、再度投与されるように用いられることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(7)単回で投与されるように用いられることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(8)1回あたり10〜100mg/kg体重の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンがヒトに対して投与されるように用いられることを特徴とする、前記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(9)反復投与の合計投与量が、500mg/kg体重以下の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンがヒトに対して投与されるように用いられることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(10)前記葉酸修飾メチル化シクロデキストリンが、葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンである、前記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(11)薬剤デリバリー剤として葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを含む、抗がん剤である医薬組成物。
(12)さらに抗がん作用を有する薬剤を含む前記(11)に記載の医薬組成物。
(13)前記抗がん作用を有する薬剤が、ドキソルビシンである前記(12)に記載の医薬組成物。
(14)全身的投与のための医薬組成物である前記(11)〜(13)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(15)静脈内注射剤である前記(14)に記載の医薬組成物。
(16)少なくとも1週間以上間隔を空けて投与されるように用いられることを特徴とする前記(11)〜(15)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(17)5回以下の反復投与で用いられることを特徴とする、前記(11)〜(16)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(18)投与後に抗がん作用を確認した上で、再度投与されるように用いられることを特徴とする前記(11)〜(17)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(19)単回で投与されるように用いられることを特徴とする前記(11)〜(15)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(20)前記葉酸修飾メチル化シクロデキストリンが、葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンである、前記(11)〜(19)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(12)さらに抗がん作用を有する薬剤を含む前記(11)に記載の医薬組成物。
(13)前記抗がん作用を有する薬剤が、ドキソルビシンである前記(12)に記載の医薬組成物。
(14)全身的投与のための医薬組成物である前記(11)〜(13)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(15)静脈内注射剤である前記(14)に記載の医薬組成物。
(16)少なくとも1週間以上間隔を空けて投与されるように用いられることを特徴とする前記(11)〜(15)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(17)5回以下の反復投与で用いられることを特徴とする、前記(11)〜(16)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(18)投与後に抗がん作用を確認した上で、再度投与されるように用いられることを特徴とする前記(11)〜(17)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(19)単回で投与されるように用いられることを特徴とする前記(11)〜(15)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(20)前記葉酸修飾メチル化シクロデキストリンが、葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンである、前記(11)〜(19)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(21)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを全身的投与することによるがんを治療する方法。
(22)全身的投与が静脈内投与である前記(21)に記載の方法。
(23)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを、少なくとも1週間以上間隔を空けて全身的投与することによるがんを治療する方法。
(24)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを、5回以下の反復投与で投与することによるがんを治療する方法。
(25)以下の工程:
(a)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを単回全身的投与する工程:
(b)抗がん作用を確認する工程:および
(c)抗がん作用が不充分な場合にのみ、再度葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを全身的投与する工程、
を含む、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを全身的投与することによるがんを治療する方法。
(26)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを単回全身的投与することによるがんを治療する方法。
(27)1回あたり10〜100mg/kg体重の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンをヒトに対して投与することによるがんを治療する方法。
(28)反復投与の合計投与量として、500mg/kg体重以下の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンをヒトに対して投与することによるがんを治療する方法。
(29)前記葉酸修飾メチル化シクロデキストリンが、葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンである、前記(21)〜(28)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
(22)全身的投与が静脈内投与である前記(21)に記載の方法。
(23)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを、少なくとも1週間以上間隔を空けて全身的投与することによるがんを治療する方法。
(24)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを、5回以下の反復投与で投与することによるがんを治療する方法。
(25)以下の工程:
(a)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを単回全身的投与する工程:
(b)抗がん作用を確認する工程:および
(c)抗がん作用が不充分な場合にのみ、再度葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを全身的投与する工程、
を含む、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを全身的投与することによるがんを治療する方法。
(26)葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを単回全身的投与することによるがんを治療する方法。
(27)1回あたり10〜100mg/kg体重の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンをヒトに対して投与することによるがんを治療する方法。
(28)反復投与の合計投与量として、500mg/kg体重以下の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンをヒトに対して投与することによるがんを治療する方法。
(29)前記葉酸修飾メチル化シクロデキストリンが、葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンである、前記(21)〜(28)のいずれか一つに記載の医薬組成物。
本発明の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを抗がん作用の有効成分として含む医薬組成物は、全身的投与により、実用的な濃度において抗がん剤として有用である。本発明の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを薬剤デリバリー剤として含む医薬組成物は、副作用が少なくまたはなく、種々の薬剤のデリバリー剤として有用である。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に記載の態様に限定されるものではない。
メチル化シクロデキストリンとは、シクロデキストリン(α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、およびγ−シクロデキストリン)の水酸基が、ランダムにメチル基に置換された化合物であり、メチル-β-シクロデキストリンとは、β-シクロデキストリンの7個のグルコースの2、3および6位の水酸基がランダムにメチル基に置換された化合物である。
メチル化シクロデキストリンとは、シクロデキストリン(α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、およびγ−シクロデキストリン)の水酸基が、ランダムにメチル基に置換された化合物であり、メチル-β-シクロデキストリンとは、β-シクロデキストリンの7個のグルコースの2、3および6位の水酸基がランダムにメチル基に置換された化合物である。
本発明の葉酸修飾メチル化シクロデキストリン(FA-M-CyD)とは、シクロデキストリンのグルコースに葉酸が共有結合された化合物であり、葉酸が結合する部位は特に限定されないが、グルコースの2位または6位が好ましく、6位が特に好ましい。本発明のFA-M-CyD中の葉酸が結合する割合は、本発明の目的(例えば、葉酸受容体を有する細胞への効率的な輸送)に適合する限り特に限定されないが、シクロデキストリン分子:葉酸分子で、1:1〜1:14が好ましく、1:1〜1:7がより好ましく、両分子がほぼ当量結合したものが特に好ましい。本発明において好ましい葉酸修飾メチル化シクロデキストリンは、葉酸修飾メチル-β-シクロデキストリン(FA-M-β-CyD)である。
本発明のFA-M-CyDは、当業者に公知の方法を用いて合成することができるが、例えば、FA-M-β-CyDまたはFA-M-α-CyDは、M-β-CyDまたはM-α-CyDの水酸基をトシル化、アミノ化後、縮合反応により葉酸を結合させることにより合成でき、一方、FA-M-γ-CyDは、M-γ-CyDの水酸基をナフタレンスルホニル化、アミノ化後、縮合反応により葉酸を結合させることにより合成できる。
本発明の葉酸メチル化シクロデキストリンは、葉酸のαカルボキシル基またはγカルボキシル基のいずれにM-CyDを導入してもよく、両者を含む。例えば、葉酸にM-β-CyDを導入する場合は、葉酸のαカルボキシル基にM-β-CyDを導入したもの(つまり、γカルボキシル基を有するFA-M-β-CyD)または、葉酸のγカルボキシル基にM-β-CyDを導入したもの(つまり、αカルボキシル基を有するFA-M-β-CyD)のいずれも本発明のFA-M-β-CyDに含まれる。また、対象とする癌種において、両者を使い分けることも可能である。葉酸のαカルボキシル基にM-β-CyDを導入したFA-M-β-CyDを合成する場合は、葉酸のγカルボキシル基を保護した上で葉酸と結合させ、保護基を外すことにより合成できる。
本発明の葉酸メチル化シクロデキストリンは、葉酸のαカルボキシル基またはγカルボキシル基のいずれにM-CyDを導入してもよく、両者を含む。例えば、葉酸にM-β-CyDを導入する場合は、葉酸のαカルボキシル基にM-β-CyDを導入したもの(つまり、γカルボキシル基を有するFA-M-β-CyD)または、葉酸のγカルボキシル基にM-β-CyDを導入したもの(つまり、αカルボキシル基を有するFA-M-β-CyD)のいずれも本発明のFA-M-β-CyDに含まれる。また、対象とする癌種において、両者を使い分けることも可能である。葉酸のαカルボキシル基にM-β-CyDを導入したFA-M-β-CyDを合成する場合は、葉酸のγカルボキシル基を保護した上で葉酸と結合させ、保護基を外すことにより合成できる。
本発明の一つの態様は、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを抗がん作用の有効成分として含む医薬組成物である。本発明で言う医薬組成物とは、経口剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、皮下投与剤、経皮吸収剤、経鼻投与剤、直腸内適用剤、または膣内適用剤等を意味し、腫瘍に直接投与する形態や腹腔内に投与する形態を含まない。より好ましくは、本発明の医薬組成物は、全身的投与のための医薬組成物であり腫瘍に対しての局所投与の形態を含まない医薬組成物である。好ましくは、経口剤または静脈内注射剤である。
本発明でいう経口剤は、いずれの形態でもよく特に限定されないが、例えば、錠剤、マイクロカプセル剤、シロップ剤をあげることができる。
本発明でいう経口剤は、いずれの形態でもよく特に限定されないが、例えば、錠剤、マイクロカプセル剤、シロップ剤をあげることができる。
本発明の医薬組成物を用いることができるがんは特に限定されず、いずれのがんに対しても用いることができるが、好ましくは、葉酸受容体を高発現しているがんである。例えば、乳癌、小細胞肺癌、大腸癌、悪性リンパ腫、白血病、精巣腫瘍、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、咽頭癌、喉頭癌、舌癌、歯肉癌、食道癌、胃癌、胆管癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、前立腺癌などを挙げることができる。
本発明の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを抗がん作用の有効成分として含む医薬組成物の投与期間や回数は、特に制限されない。例えば、1日1回投与、2,3日の間隔を空けての投与、1週間に1回の投与、またはそれ以上の間隔を空けての投与、単回のみの投与のいずれの投与形態も用いることができるが、好ましくは、少なくとも1週間以上間隔を空けての投与である。本発明の医薬組成物は、単回の投与でも十分な抗がん作用を示すことができる。従って、本発明の医薬組成物は、5回以下の反復投与、好ましくは2回または3回以下の反復投与でも用いることができる。更には、本発明の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを抗がん作用の有効成分として含む医薬組成物の投与により、がんや腫瘍の成長を抑制するだけでなく、がんや腫瘍塊をほぼ消滅させることも期待できる。それ故、本発明の医薬組成物は、1回投与したのち抗がん作用を確認し、がんの消滅が確認できればそこで投与を終了することもでき、もし更なる投与が必要と判断された場合は、再度投与することもできる。これらの種々の態様はいずれも本発明に含まれる。
本発明の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを抗がん作用の有効成分として含む医薬組成物の投与量は、期間、回数、対象に応じて適宜選択できる。これに限定されないが、1回あたりの投与量は、例えば、ヒトに投与する場合は、0.1〜1000mg/kg、好ましくは、1〜500mg/kg、さらに好ましくは10〜100mg/kgである。マウスへの投与において 5 mg/kgで十分な効果が確認されており、ヒトにおける推定有効用量は約 60mg/kg(5 mg/kg x ヒト換算定数約12 = 60 mg/kg)である。マウスの系においては、FA-M-β-CyD(5 mg/kg)の単回投与により、がんの腫瘍の成長が抑制されるばかりでなく、腫瘍が縮小し最終的にはほぼ消滅している。更には、FA-M-β-CyD(5 mg/kg)投与群では、マウスの生存率が100%であった。このことより、上記投与量の単回投与でも十分な効果が期待でき、また、ヒトへ反復投与した場合でも、合計投与量が1000mg/kg以下、好ましくは500mg/kg以下、さらに好ましくは100mg/kg以下でも十分な効果が期待できる。
本発明の態様はまた、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを全身的投与することによりがんを治療する方法である。葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを投与する形態としては全身的投与であれば特に制限されないが、例えば、経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、または直腸内投与等を意味し、腫瘍に直接投与することや腹腔内に投与することを含まない。好ましくは、経口投与または静脈内投与である。
本発明の方法を適用するがんは特に限定されず、上記した通りである。本発明の方法において投与する葉酸修飾メチル化シクロデキストリンの投与期間や回数は、特に制限されず、上記した通りである。本発明の方法における、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンの投与量は、期間、回数、対象に応じて適宜選択でき、上記した通りである。
本発明の他の一つの態様は、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンを薬剤デリバリー剤として含む医薬組成物である。本発明のFA-M-β-CyDは、M-β-CyDに比べて副作用を示さないので、薬剤デリバリー剤として有用である。薬剤デリバリー剤としての本発明の医薬組成物の投与期間や回数は、特に制限されない。例えば、1日1回投与、2日に1回投与、3日に1回投与、1週間に1回の投与、またはそれ以上の間隔を空けての投与、単回のみの投与のいずれの投与形態も用いることができ、投与間隔は、葉酸修飾メチル化シクロデキストリンによって輸送される薬剤に応じて適宜選択できる。輸送される薬剤が抗がん剤である場合は、本発明の葉酸修飾メチル化シクロデキストリンが有する抗がん作用との相乗効果により高い抗がん作用が期待できる。かかる場合は、上記と同様に、好ましくは、少なくとも1週間以上間隔を空けて投与することができ、更には上記のように種々の投与形態を用いることができる。
本発明の医薬組成物において輸送される薬剤としては、特に制限がないが、例えば、抗がん剤、抗炎症剤、抗生剤、分子イメージング剤、光増感剤をあげることができ、抗がん剤を輸送する場合は、例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ブレオマイシン、イマチニブ、ゲフィチニブ、シクロホスファミド、カルモフール、テガフール、フルオロウラシル、メトトレキサート、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビンブラスチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチンをあげることができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1:葉酸修飾メチル化シクロデキストリン(FA-M-β-CyD)の調製
FA-M-β-CyDは、発明者らの報告である R. Onodera et al, J. Incl. Phenom. Macrocycl. Chem. 70, 321-326 (2011)に従って合成した。具体的には、下記合成式に示すように、メチル-β-シクロデキストリン(M-β-CyD)の水酸基をトシル化、アミノ化後、縮合反応により葉酸(FA)を結合させることにより、FA-M-β-CyDを調製した。得られたFA-M-β-CyDの構造は 1H-NMRにより確認した。また、FAB-MSによる検討からFA置換度(DSF)は1.0であった。さらに粉末X線回折および示唆走査熱量分析による検討からFA-M-β-CyDは非晶質であることが示唆された。
FA-M-β-CyDは、発明者らの報告である R. Onodera et al, J. Incl. Phenom. Macrocycl. Chem. 70, 321-326 (2011)に従って合成した。具体的には、下記合成式に示すように、メチル-β-シクロデキストリン(M-β-CyD)の水酸基をトシル化、アミノ化後、縮合反応により葉酸(FA)を結合させることにより、FA-M-β-CyDを調製した。得られたFA-M-β-CyDの構造は 1H-NMRにより確認した。また、FAB-MSによる検討からFA置換度(DSF)は1.0であった。さらに粉末X線回折および示唆走査熱量分析による検討からFA-M-β-CyDは非晶質であることが示唆された。
実施例2:KB細胞およびA549細胞に対する細胞障害活性の測定
ヒト口腔がん細胞由来KB細胞(FR高発現細胞、FR(+))およびヒト肺癌細胞由来A549細胞(FR低発現細胞、FR(-))に対する、M-β-CyD、FA-M-β-CyDおよびDOXの細胞障害活性をWST-1法により検討した。
KB細胞を、96ウェルプレートに、各ウェル当たり2x104cellsになるように播種して、RPMI培地中(10% FCS)で、37℃、24時間インキュベーションした。FAフリーのRPMI培地で2回洗浄し、M-β-CyD、FA-M-β-CyDまたはDOX含有無血清RPMI培地を添加し、37℃で24時間または48時間、インキュベーションした。その後、ウェルをPBSで2回洗浄し、HBSS 100μLを加えた。WST-1試薬(同仁化学研究所製)を10μL添加し、37℃で15分間インキュベーションした。その後、プレートリーダー(Bio-Rad 社製)にて、 620nmの参照波長に対する 450nmの吸光度を測定した。
ヒト口腔がん細胞由来KB細胞(FR高発現細胞、FR(+))およびヒト肺癌細胞由来A549細胞(FR低発現細胞、FR(-))に対する、M-β-CyD、FA-M-β-CyDおよびDOXの細胞障害活性をWST-1法により検討した。
KB細胞を、96ウェルプレートに、各ウェル当たり2x104cellsになるように播種して、RPMI培地中(10% FCS)で、37℃、24時間インキュベーションした。FAフリーのRPMI培地で2回洗浄し、M-β-CyD、FA-M-β-CyDまたはDOX含有無血清RPMI培地を添加し、37℃で24時間または48時間、インキュベーションした。その後、ウェルをPBSで2回洗浄し、HBSS 100μLを加えた。WST-1試薬(同仁化学研究所製)を10μL添加し、37℃で15分間インキュベーションした。その後、プレートリーダー(Bio-Rad 社製)にて、 620nmの参照波長に対する 450nmの吸光度を測定した。
(2−1)FA-M-β-CyDの細胞障害活性の測定
種々の濃度(0, 1, 2, 4, 5, 8および10mM)のM-β-CyDまたはFA-M-β-CyDを含有する無血清培地を用いて、上記のWST-1法に従って、KB細胞およびA549細胞に対する細胞障害活性を測定した。結果を図1に示す。
本発明者らによりすでに報告されているように、KB細胞(FR高発現細胞)に対して濃度依存的に細胞障害性を示したが、A549細胞(FR低発現細胞)に対しては殆ど細胞障害性を示さなかった。KB細胞に対して有意に細胞障害活性を示す濃度はmMオーダーという高濃度であって、結果からは10mMの濃度で細胞障害性を示しており、in vivoにおける血中濃度において10mMを達成するためには、1.76g/kg程度の投与が必要となると予想された。
また、本発明者らにより報告されているように、FA-M-β-CyDによる細胞障害活性は、FR競合阻害剤である葉酸(FA)の添加により有意に抑制された(図2参照)。
種々の濃度(0, 1, 2, 4, 5, 8および10mM)のM-β-CyDまたはFA-M-β-CyDを含有する無血清培地を用いて、上記のWST-1法に従って、KB細胞およびA549細胞に対する細胞障害活性を測定した。結果を図1に示す。
本発明者らによりすでに報告されているように、KB細胞(FR高発現細胞)に対して濃度依存的に細胞障害性を示したが、A549細胞(FR低発現細胞)に対しては殆ど細胞障害性を示さなかった。KB細胞に対して有意に細胞障害活性を示す濃度はmMオーダーという高濃度であって、結果からは10mMの濃度で細胞障害性を示しており、in vivoにおける血中濃度において10mMを達成するためには、1.76g/kg程度の投与が必要となると予想された。
また、本発明者らにより報告されているように、FA-M-β-CyDによる細胞障害活性は、FR競合阻害剤である葉酸(FA)の添加により有意に抑制された(図2参照)。
(2−2)低濃度FA-M-β-CyDの細胞障害活性の測定
10μM FA-M-β-CyDまたは10μM DOX含有無血清培地を用いて同様にして、KB細胞に対する細胞障害活性を測定した。結果を図3に示す。DOXは有意な細胞障害活性を示したのに対し、FA-M-β-CyDは活性を示さなかった。
10μM FA-M-β-CyDまたは10μM DOX含有無血清培地を用いて同様にして、KB細胞に対する細胞障害活性を測定した。結果を図3に示す。DOXは有意な細胞障害活性を示したのに対し、FA-M-β-CyDは活性を示さなかった。
実施例3:マウス大腸癌Colon-26細胞に対する細胞障害活性の測定
マウス大腸癌Colon-26細胞(FR高発現細胞、FR(+))に対する、FA-M-β-CyDの細胞障害活性をWST-1法により検討した。
Colon-26細胞を、96ウェルプレートに、各ウェル当たり2x104cellsになるように播種して、RPMI培地(10% FCS)中で、37℃、24時間インキュベーションした。FAフリーのRPMI培地で2回洗浄し、0〜10 mMのFA-M-β-CyD含有無血清RPMI培地を添加し、37℃で2時間インキュベーションした。その後、ウェルをPBSで2回洗浄し、HBSS 100μLを加えた。WST-1試薬を10μL添加し、37℃で30分間インキュベーションした。その後、プレートリーダーにて、 620nmの参照波長に対する 450nmの吸光度を測定した。結果を図4に示す。
大腸癌Colon-26においても、in vitroにおける細胞障害活性を示すためには、mMオーダーの濃度が必要であった。
マウス大腸癌Colon-26細胞(FR高発現細胞、FR(+))に対する、FA-M-β-CyDの細胞障害活性をWST-1法により検討した。
Colon-26細胞を、96ウェルプレートに、各ウェル当たり2x104cellsになるように播種して、RPMI培地(10% FCS)中で、37℃、24時間インキュベーションした。FAフリーのRPMI培地で2回洗浄し、0〜10 mMのFA-M-β-CyD含有無血清RPMI培地を添加し、37℃で2時間インキュベーションした。その後、ウェルをPBSで2回洗浄し、HBSS 100μLを加えた。WST-1試薬を10μL添加し、37℃で30分間インキュベーションした。その後、プレートリーダーにて、 620nmの参照波長に対する 450nmの吸光度を測定した。結果を図4に示す。
大腸癌Colon-26においても、in vitroにおける細胞障害活性を示すためには、mMオーダーの濃度が必要であった。
実施例4:FA-M-β-CyDおよびDOXの併用による、KB細胞およびA549細胞に対する細胞障害活性の測定
実施例2と同様にして、10μM FA-M-β-CyD及び/又は10μM DOX含有無血清培地を用いてFA-M-β-CyDおよびDOXの併用による細胞障害活性を測定した。結果を図5に示す。
本発明者らにより既に報告されているように、KB細胞に対しては、10μM FA-M-β-CyD単独では細胞障害活性を示さなかったが、10μM FA-M-β-CyDの添加によりDOXの細胞障害活性が増幅された。一方、A549細胞(FR低発現細胞)に対しては殆ど細胞障害活性を示さなかった。なお、FA-M-β-CyDとDOXの安定化定数(Kc)は、3.5 x 105 /M であった。
実施例2と同様にして、10μM FA-M-β-CyD及び/又は10μM DOX含有無血清培地を用いてFA-M-β-CyDおよびDOXの併用による細胞障害活性を測定した。結果を図5に示す。
本発明者らにより既に報告されているように、KB細胞に対しては、10μM FA-M-β-CyD単独では細胞障害活性を示さなかったが、10μM FA-M-β-CyDの添加によりDOXの細胞障害活性が増幅された。一方、A549細胞(FR低発現細胞)に対しては殆ど細胞障害活性を示さなかった。なお、FA-M-β-CyDとDOXの安定化定数(Kc)は、3.5 x 105 /M であった。
実施例5:マウス大腸癌Colon-26細胞移植がんマウスモデルを用いた抗腫瘍活性の測定
RPMI培地(FA(-)(10 % FCS))でマウス大腸癌Colon-26細胞を培養した。BALB/c雄性マウス(4週齢)の後肢にColon-26細胞懸濁液(2 x 105 cells)を100μL接種した。腫瘍直径が8 mmに到達したことを確認して、以下の実験を行った。
RPMI培地(FA(-)(10 % FCS))でマウス大腸癌Colon-26細胞を培養した。BALB/c雄性マウス(4週齢)の後肢にColon-26細胞懸濁液(2 x 105 cells)を100μL接種した。腫瘍直径が8 mmに到達したことを確認して、以下の実験を行った。
(5−1)腫瘍の成長に対する効果の確認
マウス後肢の腫瘍直径が8 mmに到達したことを確認した後、5 % マンニトール溶液、DOX溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)、M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)、およびFA-M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)をそれぞれ100 μLずつ、静脈内に投与した。投与量は、それぞれ 5 mg/kgとなるようにした。
投与後の腫瘍体積の変化を観察した。結果を図6に示す。DOXおよびM-β-CyDの投与により、コントロールに比べて腫瘍の成長が有意に阻害された。しかし、単回投与では、腫瘍の成長を完全に抑制することが出来なかった。一方、FA-M-β-CyDを静脈内に投与した場合では、単回の投与にもかかわらず、腫瘍の成長は全く見られなかった。また、M-β-CyD投与群のマウスでは、全てのマウスにおいて投与後に脈拍が上昇する様子が観察された(頻脈の副作用)が、FA-M-β-CyDではそのような副作用は観察されなかった。
マウス後肢の腫瘍直径が8 mmに到達したことを確認した後、5 % マンニトール溶液、DOX溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)、M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)、およびFA-M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)をそれぞれ100 μLずつ、静脈内に投与した。投与量は、それぞれ 5 mg/kgとなるようにした。
投与後の腫瘍体積の変化を観察した。結果を図6に示す。DOXおよびM-β-CyDの投与により、コントロールに比べて腫瘍の成長が有意に阻害された。しかし、単回投与では、腫瘍の成長を完全に抑制することが出来なかった。一方、FA-M-β-CyDを静脈内に投与した場合では、単回の投与にもかかわらず、腫瘍の成長は全く見られなかった。また、M-β-CyD投与群のマウスでは、全てのマウスにおいて投与後に脈拍が上昇する様子が観察された(頻脈の副作用)が、FA-M-β-CyDではそのような副作用は観察されなかった。
(5−2)腫瘍塊の縮小の確認
マウス後肢の腫瘍直径が8 mmに到達したことを確認した後、FA-M-β-CyD溶液を100 μL静脈内に投与した。投与量は、 5 mg/kgとなるようにした。その後、腫瘍体積の変化(縮小)を確認した。結果を図7に示す。驚くことに、FA-M-β-CyDの単回の静脈内投与にもかかわらず、日を追って腫瘍塊は縮小し、最後にはほぼ消滅していることが確認された。
マウス後肢の腫瘍直径が8 mmに到達したことを確認した後、FA-M-β-CyD溶液を100 μL静脈内に投与した。投与量は、 5 mg/kgとなるようにした。その後、腫瘍体積の変化(縮小)を確認した。結果を図7に示す。驚くことに、FA-M-β-CyDの単回の静脈内投与にもかかわらず、日を追って腫瘍塊は縮小し、最後にはほぼ消滅していることが確認された。
実施例6:マウス大腸癌Colon-26細胞移植がんマウスモデルを用いたマウス生存率に対する効果の確認
実施例5と同様にして、5 % マンニトール溶液、DOX(5 mg/kg)溶液、およびFA-M-β-CyD(5 mg/kg)溶液を、それぞれ100 μLずつ、投与量がそれぞれ 5 mg/kgとなるようにして静脈内に投与し、投与後のマウスの生存率を観察した。結果を図8に示す。コントロールおよびDOX投与では、生存率に大きな差は見られず、約60日後に全てのマウスが死亡した。一方、FA-M-β-CyDを投与した場合では、単回の投与にもかかわらず、観察した120日経過後でも、マウスの死亡が確認されなかった。
実施例5と同様にして、5 % マンニトール溶液、DOX(5 mg/kg)溶液、およびFA-M-β-CyD(5 mg/kg)溶液を、それぞれ100 μLずつ、投与量がそれぞれ 5 mg/kgとなるようにして静脈内に投与し、投与後のマウスの生存率を観察した。結果を図8に示す。コントロールおよびDOX投与では、生存率に大きな差は見られず、約60日後に全てのマウスが死亡した。一方、FA-M-β-CyDを投与した場合では、単回の投与にもかかわらず、観察した120日経過後でも、マウスの死亡が確認されなかった。
実施例7:ヒト悪性黒色腫(Ihara)細胞移植がんマウスモデルを用いた抗腫瘍活性の測定
D-MEM培地(FA(+)(10 % FCS))で悪性黒色腫(Ihara)細胞を培養した。Nude Rag2/Jak3 KO 雄マウス(12週齢、FA含有餌にて飼育)の左右背部にIhara細胞懸濁液(1 x 106 cells)を100 μL接種した。腫瘍直径が5 mmに到達したことを確認して、以下の実験を行った。
D-MEM培地(FA(+)(10 % FCS))で悪性黒色腫(Ihara)細胞を培養した。Nude Rag2/Jak3 KO 雄マウス(12週齢、FA含有餌にて飼育)の左右背部にIhara細胞懸濁液(1 x 106 cells)を100 μL接種した。腫瘍直径が5 mmに到達したことを確認して、以下の実験を行った。
(7−1)腫瘍の成長に対する効果の確認
腫瘍直径が5 mmに到達したことを確認した後、5 % マンニトール溶液、M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)、およびFA-M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)をそれぞれ100 μLずつ、静脈内に投与した。投与量は、それぞれ 5 mg/kgとなるようにした。
投与後、3日毎に体重および腫瘍体積を測定し、その変化を観察した。腫瘍体積の変化および腫瘍の成長率を図9に示す。マウスの体重の変化を図10に示す。FA-M-β-CyDの投与により、M-β-CyDの投与やコントロールに比べて腫瘍の成長が有意に阻害され、ヒトの腫瘍細胞についても抗腫瘍効果を有することが確認された。一方、FA-M-β-CyDの投与により、コントロールに比べて体重の変化に差がみられなかったことから、副作用の発現は少ない事が示唆された。
腫瘍直径が5 mmに到達したことを確認した後、5 % マンニトール溶液、M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)、およびFA-M-β-CyD溶液(5 % マンニトール溶液に溶解)をそれぞれ100 μLずつ、静脈内に投与した。投与量は、それぞれ 5 mg/kgとなるようにした。
投与後、3日毎に体重および腫瘍体積を測定し、その変化を観察した。腫瘍体積の変化および腫瘍の成長率を図9に示す。マウスの体重の変化を図10に示す。FA-M-β-CyDの投与により、M-β-CyDの投与やコントロールに比べて腫瘍の成長が有意に阻害され、ヒトの腫瘍細胞についても抗腫瘍効果を有することが確認された。一方、FA-M-β-CyDの投与により、コントロールに比べて体重の変化に差がみられなかったことから、副作用の発現は少ない事が示唆された。
上記の記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
本発明の医薬組成物は、抗がん剤として有用である。本発明の医薬組成物はまた、薬剤デリバリー剤として有用である。
Claims (7)
- 抗がん有効成分として葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンを含み、静脈内注射剤として投与されることを特徴とする医薬組成物。
- 抗がん有効成分として葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンのみを含む請求項1に記載の医薬組成物。
- 単回で投与されるように用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬組成物。
- 少なくとも1週間以上間隔を空けて投与されるように用いられることを特徴とする前記請求項1又は2に記載の医薬組成物。
- 5回以下の反復投与で用いられることを特徴とする、請求項4に記載の医薬組成物。
- 1回あたり10〜100mg/kg体重の葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンがヒトに対して投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の医薬組成物。
- 反復投与の合計投与量が、500mg/kg体重以下の葉酸修飾メチル−β−シクロデキストリンがヒトに対して投与されるように用いられることを特徴とする、請求項4又は5に記載の医薬組成物。
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