以下、本願が開示するマルチアンテナ通信装置及び係数更新方法の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る通信システムの一例を示す図である。図1に示す通信システムにおいては、BBU(BaseBand Unit)10に複数のRRH(Remote Radio Head)100が接続されており、RRH100とUE(User Equipment)20とが無線通信する。
BBU10は、信号に対するベースバンド処理を実行する装置であり、例えば情報を符号化して送信ベースバンド信号を生成しRRH100へ送信したり、RRH100から受信した受信ベースバンド信号を復号したりする。
RRH100は、BBU10と有線接続され、BBU10が生成した送信ベースバンド信号に無線送信処理を施したり、UE20からの受信信号に無線受信処理を施して受信ベースバンド信号を生成しBBU10へ送信したりする。また、RRH100は、複数のアンテナ素子を有するマルチアンテナ通信装置であり、UE20との無線通信に際しては、複数のアンテナ素子それぞれにアンテナウェイトを付与し、ビームフォーミングを行う。さらに、RRH100は、アンテナ素子ごとに設けられた電力増幅器において発生する非線形歪みを補償するデジタルプリディストーションを実行する。デジタルプリディストーションにおいては、送信信号に歪み補償係数が乗算されるが、歪み補償係数の更新は、各アンテナ素子からのフィードバック信号を合波して得られる合波フィードバック信号に基づいて実行される。RRH100の構成及び動作については、後に詳述する。
なお、BBU10及びRRH100は、それぞれCU(Centralized Unit)及びDU(Distributed Unit)と呼ばれることもあり、CU及びDUの組み合わせが基地局装置として機能する。この場合、CUとしてのBBU10は、コアネットワークに接続されても良い。また、CUとしてのBBU10は、さらにコントロールプレーンの処理を実行する装置とユーザプレーンの処理を実行する装置とに分割されても良い。
UE20は、例えば携帯電話機やスマートフォンなどのユーザ端末装置であり、RRH100との間で無線通信する。
図2は、実施の形態1に係るRRH100の構成を示すブロック図である。図2に示すRRH100は、通信インタフェース部(以下「通信I/F部」と略記する)110、プロセッサ120、メモリ130、D/A(Digital/Analog)変換部140、分波部150、ウェイト付与部160、合波部170及びA/D変換部180を有する。なお、図2においては、UE20へ信号を送信する処理に関連する処理部を図示しており、UE20から信号を受信する処理に関連する処理部の図示を省略している。
通信I/F部110は、BBU10と有線接続されるインタフェースであり、BBU10との間でベースバンド信号を送受信する。具体的には、通信I/F部110は、BBU10から送信された送信ベースバンド信号を受信し、受信ベースバンド信号をBBU10へ送信する。
プロセッサ120は、例えばCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はDSP(Digital Signal Processor)などを備え、RRH100の全体を統括制御する。具体的には、プロセッサ120は、通信I/F部110によって受信された送信ベースバンド信号に歪み補償係数を乗算する歪み補償を実行し、歪み補償係数の更新を実行する。このとき、プロセッサ120は、RRH100が備える複数のアンテナ素子から送信されて無線空間で合成される信号のレプリカ信号を生成し、レプリカ信号と合波されたフィードバック信号との比較により歪み補償係数を更新する。プロセッサ120の内部構成については、後述する。
メモリ130は、例えばRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)などを備え、プロセッサ120によって処理が実行される際に、種々の情報を記憶する。
D/A変換部140は、プロセッサ120によって歪み補償された送信ベースバンド信号をD/A変換する。D/A変換により得られたアナログの送信信号は、アップコンバータによってアップコンバートされ、無線周波数の送信信号となる。
分波部150は、無線周波数の送信信号を分波し、複数のアンテナ素子それぞれへ出力する。分波部150による分波は、入力される送信信号と同一の信号をアンテナ素子と同数発生させるものである。
ウェイト付与部160は、例えばアンテナ素子ごとのフェーズシフタを備え、それぞれのアンテナ素子の信号にアンテナウェイトを付与する。すなわち、ウェイト付与部160は、アンテナ素子ごとの信号に位相差を設定し、指向性ビームの方向を制御するビームフォーミングを実行する。アンテナウェイトが付与された信号は、それぞれアンテナ素子ごとの電力増幅器によって増幅され、アンテナ素子から送信される。電力増幅器による増幅の際には非線形歪みが発生するが、本実施の形態においては、プロセッサ120によって歪み補償が実行されているため、各アンテナ素子から送信された信号が無線空間で合成されると、この合成された信号に含まれる非線形歪み成分は低減される。
合波部170は、各アンテナ素子の電力増幅器によって増幅された信号を合波してプロセッサ120へフィードバックする。具体的には、合波部170は、各アンテナ素子の電力増幅器から出力された信号をフィードバックさせ、これらのフィードバック信号(以下「FB信号」と略記する)を合波して合波フィードバック信号(以下「合波FB信号」と略記する)を生成する。すなわち、合波部170は、アンテナ素子ごとの電力増幅器から出力された信号をそのまま合波することにより、各アンテナ素子から送信されて無線空間で合成された信号と同等の合波FB信号を生成する。合波FB信号は、ダウンコンバータによってダウンコンバートされ、ベースバンド周波数の合波FB信号となる。
A/D変換部180は、合波FB信号をA/D変換する。アンテナ素子ごとの電力増幅器からA/D変換部180までのフィードバック経路においては、合波部170がアンテナ素子ごとのFB信号をそのまま合波し、以後は合波FB信号がフィードバックされるため、回路規模は最小限に抑制される。
次に、プロセッサ120の内部構成について説明する。図2に示すように、プロセッサ120は、アドレス生成部121、ルックアップテーブル(以下「LUT」と略記する)122、歪み補償部123、分波部124、ウェイト付与部125、合波部126及び係数更新部127を有する。
アドレス生成部121は、送信ベースバンド信号の電力に基づいて、LUT122から歪み補償係数を読み出すためのアドレスを生成する。すなわち、アドレス生成部121は、送信ベースバンド信号の電力に対応するアドレスを生成し、LUT122へ出力する。
LUT122は、複数のアドレスそれぞれに対応付けて歪み補償係数を記憶する。LUT122が記憶する歪み補償係数は、アンテナ素子ごとに設けられた個々の電力増幅器に対応する歪み補償係数ではなく、各アンテナ素子から送信されて無線空間で合成された信号に含まれる非線形歪み成分に対応する歪み補償係数である。すなわち、LUT122は、アンテナ素子ごとの電力増幅器において発生する非線形歪みが無線空間で合成されて得られる非線形歪み成分の逆特性の歪みを歪み補償係数として記憶している。そして、LUT122は、アドレス生成部121からアドレスが出力されると、このアドレスに記憶された歪み補償係数を歪み補償部123へ出力する。
歪み補償部123は、送信ベースバンド信号にLUT122から出力された歪み補償係数を乗算し、歪み補償を実行する。歪み補償部123は、歪み補償された送信ベースバンド信号をD/A変換部140へ出力する。
分波部124は、送信ベースバンド信号を分波し、アンテナ素子と同数の分波信号を生成する。すなわち、分波部124は、分波部150による分波と同様に送信ベースバンド信号を分波する。
ウェイト付与部125は、分波部124から出力される複数の分波信号それぞれに、アンテナ素子ごとのアンテナウェイトと同じウェイトを付与する。すなわち、ウェイト付与部125は、アンテナ素子と同数の分波信号それぞれに、ウェイト付与部160が付与するアンテナウェイトと同様のウェイトを付与する。
合波部126は、ウェイトが付与された分波信号を合波し、合波信号を生成する。合波部126によって生成される合波信号は、RRH100の各アンテナ素子から送信されて無線空間で合成された信号のレプリカ信号である。ただし、合波部126によって合波される分波信号は、アンテナ素子ごとの電力増幅器を通過していないため、合波信号には非線形歪み成分が含まれない。
係数更新部127は、合波部126によって生成された合波信号と、A/D変換部180から出力される合波FB信号とを比較することにより、歪み補償係数の更新処理を実行する。具体的には、係数更新部127は、例えば最小平均二乗(LMS:Least Mean Square)アルゴリズムを用いて、合波信号と合波FB信号の誤差を最小にする歪み補償係数を算出する。そして、係数更新部127は、算出した歪み補償係数をLUT122に記憶させる。上述したように、合波信号には非線形歪み成分が含まれず、合波FB信号は無線空間で合成された信号に相当するため、合波信号と合波FB信号の誤差を最小にすることにより、無線空間で合成された信号に含まれる非線形歪み成分を小さくする歪み補償係数を算出することができる。
次いで、上記のように構成されたRRH100における歪み補償係数の更新方法について、図3に示すフロー図を参照しながら説明する。
BBU10から送信された送信ベースバンド信号は、通信I/F部110によって受信され、プロセッサ120へ入力される。そして、送信ベースバンド信号は、分波部124によってRRH100のアンテナ素子と同数の分波信号に分波される(ステップS101)。各分波信号には、ウェイト付与部125によって、ビームフォーミングのためにウェイト付与部160において付与されるアンテナウェイトと同じウェイトが付与される(ステップS102)。そして、合波部126によって、ウェイトが付与された分波信号が合波される(ステップS103)。これにより生成された合波信号は、RRH100の複数のアンテナ素子から送信されて無線空間で合成された信号のレプリカ信号である。ただし、合波信号が生成される過程で分波信号が電力増幅器を通過することがないため、合波信号には非線形歪み成分が含まれない。そこで、合波信号は、係数更新のレファレンス信号として、係数更新部127へ入力される。
一方、送信ベースバンド信号は、歪み補償部123によって歪み補償され、D/A変換及びアップコンバートされた後、分波部150によって各アンテナ素子の信号に分波される。それぞれのアンテナ素子の信号は、ウェイト付与部160によってビームフォーミングのためのアンテナウェイトが付与され、電力増幅器によって増幅された後、無線空間へ送信される。また、電力増幅器によって増幅された後の信号は、合波部170へフィードバックされる。
各アンテナ素子からフィードバックされたFB信号は、合波部170によってそのまま合波される(ステップS104)。すなわち、アンテナ素子ごとのFB信号は、例えばフェーズシフタやダウンコンバータなどの回路を通過することなく、合波部170によって合波される。これにより、合波部170によって生成される合波FB信号は、複数のアンテナ素子から送信されて無線空間で合成された信号と同等の信号となる。また、各アンテナ素子のFB信号がそれぞれ電力増幅器を通過しているため、合波FB信号には、歪み補償部123によって補償しきれない非線形歪み成分が含まれる。
合波FB信号は、ダウンコンバータによってダウンコンバートされた後、A/D変換部180によってA/D変換される(ステップS105)。そして、デジタル信号に変換された合波FB信号は、プロセッサ120の係数更新部127へ入力される。このように、合波FB信号がプロセッサ120へフィードバックされるため、フィードバック系の回路規模は、1つの信号をフィードバックする回路と同等である。換言すれば、各アンテナ素子のFB信号それぞれに対応するフェーズシフタ、ダウンコンバータ及びA/D変換部などが不要であるため、回路規模の増大を抑制することができる。
係数更新部127に合波信号及び合波FB信号が入力されると、合波信号と合波FB信号の誤差を最小にする歪み補償係数が算出される(ステップS106)。具体的には、例えばLMSアルゴリズムが用いられることにより、歪み補償部123において送信ベースバンド信号の歪み補償に用いられた歪み補償係数の更新量が求められ、この更新量が歪み補償係数に加算される。このようにして算出された歪み補償係数は、アンテナ素子から送信されて無線空間で合成された信号に残存する非線形歪み成分を小さくする歪み補償係数である。このため、係数更新部127によって算出された歪み補償係数は、LUT122に記憶された歪み補償係数と置き換えられ、LUT122が更新される(ステップS107)。
以上のように、本実施の形態によれば、複数のアンテナ素子ごとの電力増幅器によって増幅された信号を合波し、得られた合波FB信号をフィードバックして送信ベースバンド信号から生成された合波信号と比較し、比較の結果に基づいて歪み補償係数を更新する。このため、アンテナ素子ごとの信号を個別にフィードバックする必要がなく、フィードバック系の回路を最小構成にして、回路規模の増大を抑制することができる。
(実施の形態2)
実施の形態2の特徴は、LUTから歪み補償係数を読み出すためのアドレスを、送信ベースバンド信号から生成される合波信号から生成する点である。
実施の形態2に係る通信システム及びRRHの構成は、実施の形態1(図1、2)と同様であるため、その説明を省略する。実施の形態2においては、RRH100のプロセッサ120の構成が実施の形態1とは異なる。
図4は、実施の形態2に係るプロセッサ120の構成を示すブロック図である。図4において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図4に示すプロセッサ120は、図2に示すプロセッサ120のアドレス生成部121に代えて、ゲイン設定部201及びアドレス生成部202を有する。
ゲイン設定部201は、ウェイト付与部125によって分波信号に付与されたウェイトに応じたゲインを合波部126から出力される合波信号に設定する。すなわち、ウェイト付与部125によって分波信号に付与されるウェイトによって合波信号のダイナミックレンジが変動するため、ゲイン設定部201は、合波信号の電力を所定範囲に収めるゲイン設定をする。
アドレス生成部202は、ゲイン設定された合波信号の電力に基づいて、LUT122から歪み補償係数を読み出すためのアドレスを生成する。すなわち、アドレス生成部202は、合波信号の電力に対応するアドレスを生成し、LUT122へ出力する。
次いで、上記のように構成されたRRH100における歪み補償方法について、図5に示すフロー図を参照しながら説明する。以下に説明する歪み補償処理は、主にプロセッサ120によって実行される。
BBU10から受信した送信ベースバンド信号がプロセッサ120へ入力されると、送信ベースバンド信号は、分波部124によってRRH100のアンテナ素子と同数の分波信号に分波される(ステップS201)。各分波信号には、ウェイト付与部125によって、ビームフォーミングのためにウェイト付与部160において付与されるアンテナウェイトと同じウェイトが付与される(ステップS202)。そして、合波部126によって、ウェイトが付与された分波信号が合波される(ステップS203)。
分波信号が合波されて生成された合波信号は、係数更新部127へ出力されて歪み補償係数の更新に用いられる。すなわち、実施の形態1と同様に、合波信号と合波FB信号の比較結果に基づいて、LUT122に記憶された歪み補償係数が更新される。また、合波信号は、ゲイン設定部201へも出力され、ゲイン設定が施される(ステップS204)。すなわち、ウェイト付与部125によるウェイト付与によって変動する合波信号のダイナミックレンジを所定範囲に収めるためのゲインが合波信号に乗算される。これにより、ウェイト付与部125が分波信号に付与するウェイトが変化しても、ウェイトの影響を排除して合波信号の電力を一定範囲内に収めることができ、アドレス生成の精度を高めることができる。
ゲイン設定部201によってゲイン設定された合波信号はアドレス生成部202へ出力され、アドレス生成部202によって、合波信号の電力に基づいてアドレスが生成される(ステップS205)。生成されたアドレスは、LUT122へ出力され、アドレスに記憶された歪み補償係数がLUT122から読み出される(ステップS206)。すなわち、歪み補償係数は、LUT122から歪み補償部123へ出力される。そして、歪み補償部123によって、送信ベースバンド信号に歪み補償係数が乗算されることにより、送信信号の歪み補償が実行される(ステップS207)。
以上のように、本実施の形態によれば、ゲイン設定された合波信号を用いてアドレスを生成し、このアドレスに記憶された歪み補償係数をLUTから読み出して送信信号の歪み補償を実行する。また、合波信号と合波FB信号の比較結果に基づいて歪み補償係数を更新する。このため、係数更新のレファレンス信号である合波信号からアドレスを生成する場合にも、フィードバック系の回路を最小構成にして、回路規模の増大を抑制することができる。
(実施の形態3)
実施の形態3の特徴は、歪み補償処理後の送信信号から係数更新のレファレンス信号である合波信号を生成する点である。
実施の形態3に係る通信システム及びRRHの構成は、実施の形態1(図1、2)と同様であるため、その説明を省略する。実施の形態3においては、RRH100のプロセッサ120の構成が実施の形態1とは異なる。
図6は、実施の形態3に係るプロセッサ120の構成を示すブロック図である。図6において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図6に示すプロセッサ120は、図2に示すプロセッサ120の分波部124、ウェイト付与部125、合波部126及び係数更新部127に代えて、分波部301、ウェイト付与部302、合波部303、LUT304、歪み補償部305、係数更新部306及び複製制御部307を有する。
分波部301は、歪み補償部123による歪み補償処理後の送信ベースバンド信号を分波し、アンテナ素子と同数の分波信号を生成する。すなわち、分波部301は、分波部150による分波と同様に、歪み補償処理後の送信ベースバンド信号を分波する。
ウェイト付与部302は、分波部301から出力される複数の分波信号それぞれに、アンテナ素子ごとのアンテナウェイトと同じウェイトを付与する。すなわち、ウェイト付与部302は、アンテナ素子と同数の分波信号それぞれに、ウェイト付与部160が付与するアンテナウェイトと同様のウェイトを付与する。
合波部303は、ウェイトが付与された分波信号を合波し、合波信号を生成する。合波部303によって生成される合波信号は、RRH100の各アンテナ素子から送信されて無線空間で合成された信号のレプリカ信号である。ただし、合波部303によって合波される分波信号は、歪み補償処理されたもののアンテナ素子ごとの電力増幅器を通過していないため、合波信号には歪み補償による歪み成分が含まれる。
LUT304は、複数のアドレスそれぞれに対応付けて歪み補償係数を記憶する。LUT304が記憶する歪み補償係数は、LUT122が記憶する歪み補償係数と同様に、各アンテナ素子から送信されて無線空間で合成された信号に含まれる非線形歪み成分に対応する。そして、LUT304は、アドレス生成部121からアドレスが出力されると、このアドレスに記憶された歪み補償係数を歪み補償部305へ出力する。
歪み補償部305は、合波FB信号にLUT304から出力された歪み補償係数を乗算し、歪み補償を実行する。すなわち、歪み補償部305は、アンテナ素子から送信されて無線空間で合成された信号と同等の合波FB信号に、歪み補償による歪み成分を付与する。歪み補償部305は、歪み補償された合波FB信号を係数更新部306へ出力する。
係数更新部306は、合波部303によって生成された合波信号と、歪み補償部305から出力される合波FB信号とを比較することにより、歪み補償係数の更新処理を実行する。具体的には、係数更新部306は、例えばLMSアルゴリズムを用いて、合波信号と合波FB信号の誤差を最小にする歪み補償係数を算出する。そして、係数更新部306は、算出した歪み補償係数をLUT304に記憶させる。上述したように、合波信号及び合波FB信号はいずれも歪み補償による歪み成分を含み、さらに合波FB信号は歪み補償処理で補償しきれずに残存する非線形歪み成分を含む。このため、合波信号と合波FB信号の誤差を最小にすることにより、無線空間で合成された信号に含まれる非線形歪み成分を小さくする歪み補償係数を算出することができる。
複製制御部307は、所定の周期でLUT304の内容をLUT122へ複製する。すなわち、複製制御部307は、係数更新部306によって更新された歪み補償係数をLUT304からLUT122へ複製する。
次いで、上記のように構成されたRRH100における歪み補償係数の更新方法について、図7に示すフロー図を参照しながら説明する。図7において、図3と同じ部分には同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。以下に説明する係数更新処理は、主にプロセッサ120によって実行される。
BBU10から受信した送信ベースバンド信号がプロセッサ120へ入力されると、送信ベースバンド信号は、歪み補償部123によって歪み補償処理される(ステップS301)。この歪み補償処理には、LUT122に記憶された歪み補償係数が用いられる。
歪み補償処理後の送信ベースバンド信号は、分波部301によってRRH100のアンテナ素子と同数の分波信号に分波される(ステップS101)。各分波信号には、ウェイト付与部302によって、ビームフォーミングのためにウェイト付与部160において付与されるアンテナウェイトと同じウェイトが付与される(ステップS102)。そして、合波部303によって、ウェイトが付与された分波信号が合波される(ステップS103)。合波部303によって生成された合波信号は、係数更新のレファレンス信号として、係数更新部306へ入力される。
一方、各アンテナ素子からフィードバックされたFB信号は、合波部170によってそのまま合波される(ステップS104)。合波FB信号は、ダウンコンバータによってダウンコンバートされた後、A/D変換部180によってA/D変換される(ステップS105)。そして、デジタル信号に変換された合波FB信号は、プロセッサ120の歪み補償部305によって歪み補償処理される(ステップS302)。この歪み補償処理には、LUT304に記憶された歪み補償係数が用いられる。歪み補償処理後の合波FB信号は、係数更新部306へ入力される。
係数更新部306に合波信号及び合波FB信号が入力されると、合波信号と合波FB信号の誤差を最小にする歪み補償係数が算出される(ステップS106)。係数更新部306によって算出された歪み補償係数は、LUT304に記憶された歪み補償係数と置き換えられ、LUT304が更新される(ステップS107)。このように、LUT122に記憶された歪み補償係数によって送信信号の歪み補償が実行される一方、LUT304に記憶された歪み補償係数の更新が実行される間、複製制御部307によって、LUTを複製するタイミングが到来したか否かが監視される(ステップS303)。すなわち。LUT304の内容をLUT122に複製する所定周期が経過したか否かが判断される。
この判断の結果、所定周期が経過していない場合には(ステップS303No)、LUT122の歪み補償係数を用いた送信信号の歪み補償と、LUT304の歪み補償係数の更新とが繰り返される(ステップS301〜S107)。また、所定周期が経過した場合には(ステップS303Yes)、LUT304に記憶された歪み補償係数がLUT122に複製される(ステップS304)。これにより、送信信号の歪み補償に用いられるLUT122の歪み補償係数が更新される。このように、送信信号の歪み補償に用いられる歪み補償係数と更新される歪み補償係数とを異なるLUTに記憶することにより、更新処理において歪み補償係数の値が収束するまでの時間を短縮することができる。
以上のように、本実施の形態によれば、歪み補償処理後の送信ベースバンド信号から生成された合波信号と、歪み補償された合波FB信号とを比較し、比較の結果に基づいて歪み補償係数を更新する。このため、歪み補償処理後の信号を用いて歪み補償係数を更新する場合にも、回路規模の増大を抑制することができる。また、送信ベースバンド信号の歪み補償処理と歪み補償係数の更新処理とで異なるLUTを用いるため、更新処理において歪み補償係数の値が収束するまでの時間を短縮することができる。
(実施の形態4)
実施の形態4の特徴は、係数更新のレファレンス信号である合波信号の信号レベルに基づいて、合波FB信号のレベルを調整する点である。
実施の形態4に係る通信システムの構成は、実施の形態1(図1)と同様であるため、その説明を省略する。実施の形態4においては、RRH100の構成が実施の形態1とは異なる。
図8は、実施の形態4に係るRRH100の要部構成を示すブロック図である。図8において、図2と同じ部分については図示を省略するか又は図2と同じ符号を付し、その説明を省略する。図8に示すRRH100は、図2に示すRRH100に信号レベル検知部401及びレベル調整部402を追加した構成を採る。
信号レベル検知部401は、合波部126から出力される合波信号の信号レベルを検知し、所定期間内の最大振幅を検出する。そして、信号レベル検知部401は、検出した最大振幅に応じたゲイン調整をレベル調整部402に指示する。具体的には、信号レベル検知部401は、最大振幅をA/D変換部180のダイナミックレンジに対応させるゲインを決定し、決定したゲインをレベル調整部402へ指示する。
レベル調整部402は、信号レベル検知部401からの指示に従って、合波FB信号のゲインを調整する。すなわち、レベル調整部402は、合波FB信号に信号レベル検知部401から指示されたゲインを乗算する。これにより、合波FB信号の信号レベルがA/D変換部180のダイナミックレンジに対応したものとなり、A/D変換部180の分解能を最大限に利用することができる。
以上のように、本実施の形態によれば、合波信号の最大振幅に応じて合波FB信号のゲインを調整し、ゲインが調整された合波FB信号をA/D変換する。このため、合波FB信号の信号レベルをA/D変換部のダイナミックレンジに合わせて調整し、A/D変換部の分解能を最大限に利用することができる。結果として、係数更新に用いられる合波FB信号の精度を向上し、歪み補償係数の更新を効率良く実行することができる。
なお、上記実施の形態4においては、信号レベル検知部401が合波信号の信号レベルを検知するものとしたが、信号レベル検知部401は、A/D変換部180からプロセッサ120に入力される合波FB信号の信号レベルを検知し、合波FB信号の最大振幅を検出しても良い。この場合には、信号レベル検知部401は、合波FB信号の最大振幅に応じたゲイン調整をレベル調整部402に指示する。
(実施の形態5)
実施の形態5の特徴は、すべてのアンテナ素子に対応する合波信号及び合波FB信号を用いて算出された歪み補償係数が所定の品質を満たさない場合に、一部のアンテナ素子に対応する部分合波信号及び部分合波FB信号を用いて歪み補償係数を算出する点である。
実施の形態5に係る通信システムの構成は、実施の形態1(図1)と同様であるため、その説明を省略する。実施の形態5においては、RRH100の構成が実施の形態1とは異なる。
図9は、実施の形態5に係るRRH100の要部構成を示すブロック図である。図9において、図2と同じ部分については図示を省略するか又は図2と同じ符号を付し、その説明を省略する。図9に示すRRH100は、図2に示すRRH100の合波部126及び合波部170に代えて、合波部521a、521b、522及び合波部510a、510b、531を有し、選択部523、524、532、533を追加した構成を採る。
合波部510a、510bは、複数のアンテナ素子のうち一部のアンテナ素子からのFB信号を合波してプロセッサ120へフィードバックする。すなわち、合波部510a、510bは、それぞれ一部のアンテナ素子からフィードバックされるFB信号を合波し、部分合波FB信号を生成する。合波部510a、510bは、複数のFB信号のうち互いに異なる所定数ずつのFB信号を合波する。これらの部分合波FB信号は、それぞれ対応するA/D変換部180によってA/D変換される。
合波部521a、521bは、ウェイトが付与された一部の分波信号をそれぞれ合波し、部分合波信号を生成する。合波部521a、521bは、合波部510a、510bによる合波と対応して分波信号を合波する。すなわち、例えば合波部521aは、合波部510aが合波するFB信号に対応する分波信号を合波し、合波部521bは、合波部510bが合波するFB信号に対応する分波信号を合波する。
合波部522は、合波部521a、521bによって合波されて得られた部分合波信号を合波し、全体合波信号を生成する。全体合波信号は、実施の形態1に係る合波部126によって生成される合波信号と同等である。合波部522は、全体合波信号を選択部524へ出力する。
選択部523は、合波部521a、521bから出力される部分合波信号のいずれか一方を選択する。具体的には、選択部523は、初期状態では一方の部分合波信号を選択し、この部分合波信号を用いて係数更新処理が実行された結果、歪み補償の特性が所定基準を満たさない場合に、他方の部分合波信号を選択する。そして、選択部523は、選択した部分合波信号を選択部524へ出力する。
選択部524は、全体合波信号及び部分合波信号のいずれか一方を選択する。具体的には、選択部524は、初期状態では全体合波信号を選択し、全体合波信号を用いて係数更新処理が実行された結果、歪み補償の特性が所定基準を満たさない場合に、部分合波信号を選択する。そして、選択部524は、選択した全体合波信号又は部分合波信号を係数更新部127へ出力する。
合波部531は、合波部510a、510bによって合波されて得られた部分合波FB信号を合波し、全体合波FB信号を生成する。全体合波FB信号は、実施の形態1に係る係数更新部127へ入力される合波FB信号と同等である。合波部531は、全体合波FB信号を選択部533へ出力する。
選択部532は、合波部510a、510bによって生成された部分合波FB信号のいずれか一方を選択する。具体的には、選択部532は、初期状態では一方の部分合波FB信号を選択し、この部分合波FB信号を用いて係数更新処理が実行された結果、歪み補償の特性が所定基準を満たさない場合に、他方の部分合波FB信号を選択する。そして、選択部532は、選択した部分合波FB信号を選択部533へ出力する。
選択部533は、全体合波FB信号及び部分合波FB信号のいずれか一方を選択する。具体的には、選択部533は、初期状態では全体合波FB信号を選択し、全体合波FB信号を用いて係数更新処理が実行された結果、歪み補償の特性が所定基準を満たさない場合に、部分合波FB信号を選択する。そして、選択部533は、選択した全体合波FB信号又は部分合波FB信号を係数更新部127へ出力する。
次いで、上記のように構成されたRRH100における歪み補償係数の更新方法について、図10に示すフロー図を参照しながら説明する。図10において、図3と同じ部分には同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。
BBU10から受信した送信ベースバンド信号がプロセッサ120へ入力されると、送信ベースバンド信号は、分波部124によってRRH100のアンテナ素子と同数の分波信号に分波される(ステップS101)。各分波信号には、ウェイト付与部125によって、ビームフォーミングのためにウェイト付与部160において付与されるアンテナウェイトと同じウェイトが付与される(ステップS102)。そして、合波部521a、521bによって、ウェイトが付与された分波信号が所定数ずつ合波される(ステップS401)。それぞれの合波部521a、521bによって生成される部分合波信号は、さらに合波部522によって合波され、全体合波信号が生成される。全体合波信号は、実施の形態1に係る合波部126によって生成される合波信号と同等である。
一方、各アンテナ素子からフィードバックされたFB信号は、合波部510a、510bによって、所定数ずつ合波される(ステップS402)。このとき、合波部510a、510bは、合波部521a、521bが合波する分波信号に対応するFB信号をそれぞれ合波する。すなわち、例えば合波部510aは、合波部521aが合波する分波信号に対応するFB信号を合波し、合波部510bは、合波部521bが合波する分波信号に対応するFB信号を合波する。
それぞれの合波部510a、510bによって生成される部分合波FB信号は、ダウンコンバータによってダウンコンバートされた後、A/D変換部180によってA/D変換される(ステップS403)。そして、デジタル信号に変換された部分合波FB信号は、さらに合波部531によって合波され、全体合波FB信号が生成される。全体合波FB信号は、実施の形態1に係る係数更新部127へ入力される合波FB信号と同等である。
このようにして部分合波信号、全体合波信号、部分合波FB信号及び全体合波FB信号が生成されると、まず全体合波信号及び全体合波FB信号が用いられて歪み補償係数が算出される(ステップS404)。具体的には、選択部524によって、合波部522によって生成された全体合波信号が選択されるとともに、選択部533によって、合波部531によって生成された全体合波FB信号が選択されて、係数更新部127へ入力される。そして、係数更新部127によって、例えばLMSアルゴリズムが用いられることにより、全体合波信号と全体合波FB信号の誤差を最小にする歪み補償係数が算出される。
算出された歪み補償係数は、LUT122に一時記憶され、一時記憶された歪み補償係数を用いる以後の歪み補償の特性が選択部523、524、532、533によって監視される。すなわち、全体合波信号及び全体合波FB信号を用いた歪み補償係数の更新処理が繰り返される場合に歪み補償係数の値が収束するか否かが判定されることで、歪み補償の特性が所定基準を満たすか否かが判断される(ステップS405)。この判断では、例えば歪み補償係数の値が収束する場合には、歪み補償の特性が所定基準を満たすと判断される(ステップS405Yes)。そして、この場合には、LUT122に一時記憶された歪み補償係数が最終的な歪み補償係数として記憶され、LUT122が更新される(ステップS107)。また、選択部524、533によって、引き続き全体合波信号及び全体合波FB信号が選択され、全体合波信号及び全体合波FB信号を用いた係数更新処理が続行される。
一方、ステップS405の判断において、例えば歪み補償係数の値が収束しない場合には、歪み補償の特性が所定基準を満たさないと判断される(ステップS405No)。このように判断されるケースとしては、例えばウェイト付与によってアンテナ素子ごとの分波信号及びFB信号の位相が相殺され、全体合波信号及び全体合波FB信号の振幅が0になるケースなどが挙げられる。このような場合には、選択部523によって、合波部521a、521bのいずれか一方によって生成された部分合波信号が選択され、この部分合波信号が選択部524によって選択される。また、選択部532によって、合波部510a、510bのいずれか一方によって生成された部分合波FB信号が選択され、この部分合波FB信号が選択部533によって選択される。なお、選択される部分合波信号及び部分合波FB信号は、同じ一群のアンテナ素子に対応する分波信号又はFB信号を合波して得られる信号である。そして、係数更新部127によって、例えばLMSアルゴリズムが用いられることにより、選択された部分合波信号と部分合波FB信号の誤差を最小にする歪み補償係数が算出される(ステップS406)。
算出された歪み補償係数は、LUT122に一時記憶され、一時記憶された歪み補償係数を用いる以後の歪み補償の特性が選択部523、524、532、533によって監視される。すなわち、選択された部分合波信号及び部分合波FB信号を用いた歪み補償係数の更新処理が繰り返される場合に、歪み補償の特性が所定基準を満たすか否かが判断される(ステップS405)。この判断の結果、歪み補償の特性が所定基準を満たすと判断された場合には(ステップS405Yes)、LUT122に一時記憶された歪み補償係数が最終的な歪み補償係数として記憶され、LUT122が更新される(ステップS107)。また、選択部523、524、532、533によって、引き続き選択中の部分合波信号及び部分合波FB信号が選択され、部分合波信号及び部分合波FB信号を用いた係数更新処理が続行される。
部分合波信号及び部分合波FB信号を用いてもステップS405において、歪み補償の特性が所定基準を満たさないと判断される場合には(ステップS405No)、選択部523、532によって、まだ選択されていない部分合波信号及び部分合波FB信号が新たに選択される。また、選択部524、533によって、新たに選択された部分合波信号及び部分合波FB信号が選択される。なお、ここで選択される部分合波信号及び部分合波FB信号も、同じ一群のアンテナ素子に対応する分波信号又はFB信号を合波して得られる信号である。そして、以下同様に、選択された部分合波信号と部分合波FB信号の誤差を最小にする歪み補償係数が算出される(ステップS406)。
以上のように、本実施の形態によれば、すべてのアンテナ素子に対応する全体合波信号及び全体合波FB信号を用いた歪み補償の特性が良好でない場合には、一部のアンテナ素子に対応する部分合波信号及び部分合波FB信号を用いて歪み補償係数を更新する。このため、例えばウェイト付与によって全体合波信号及び全体合波FB信号の振幅が0になる場合でも、歪み補償係数を更新することができる。
なお、上記実施の形態5においては、部分合波信号及び部分合波FB信号を2つずつ生成するものとしたが、部分合波信号及び部分合波FB信号を3つ以上ずつ生成しても良い。ただし、部分合波信号及び部分合波FB信号がそれぞれ3つ以上生成される場合も、部分合波信号を構成する分波信号と部分合波FB信号を構成するFB信号とは、同じ一群のアンテナ素子に対応する信号である。
また、部分合波信号及び部分合波FB信号を生成する際には、互いに隣接する一群のアンテナ素子に対応する分波信号又はFB信号を合波しても良く、配列された複数のアンテナ素子を外側又は内側からグループ化し、グループごとの分波信号又はFB信号を合波しても良い。
(実施の形態6)
実施の形態6の特徴は、合波FB信号にアンテナウェイトの逆特性のウェイトを付与し、送信ベースバンド信号との比較により、歪み補償係数を更新する点である。
実施の形態6に係る通信システム及びRRHの構成は、実施の形態1(図1、2)と同様であるため、その説明を省略する。実施の形態6においては、RRH100のプロセッサ120の構成が実施の形態1とは異なる。
図11は、実施の形態6に係るプロセッサ120の構成を示すブロック図である。図11において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図11に示すプロセッサ120は、図2に示すプロセッサ120の分波部124、ウェイト付与部125、合波部126及び係数更新部127に代えて、分波部601、逆ウェイト付与部602、合波部603及び係数更新部604を有する。
分波部601は、合波FB信号を分波し、アンテナ素子と同数の分波FB信号を生成する。すなわち、分波部601は、分波部150による分波と同様に合波FB信号を分波する。
逆ウェイト付与部602は、分波部601から出力される複数の分波FB信号それぞれに、アンテナ素子ごとのアンテナウェイトの逆特性のウェイト(以下「逆ウェイト」という)を付与する。すなわち、逆ウェイト付与部602は、アンテナ素子と同数の分波FB信号それぞれに、ウェイト付与部160が付与するアンテナウェイトを打ち消す逆ウェイトを付与する。
合波部603は、逆ウェイトが付与された分波FB信号を合波し、逆ウェイトFB信号を生成する。合波部603によって生成される逆ウェイトFB信号は、アンテナ素子ごとのアンテナウェイトが打ち消された信号である。逆ウェイトFB信号には、歪み補償部123によって補償しきれない非線形歪み成分が含まれる。
係数更新部604は、送信ベースバンド信号と、合波部603から出力される逆ウェイトFB信号とを比較することにより、歪み補償係数の更新処理を実行する。具体的には、係数更新部604は、例えばLMSアルゴリズムを用いて、送信ベースバンド信号と逆ウェイトFB信号の誤差を最小にする歪み補償係数を算出する。そして、係数更新部604は、算出した歪み補償係数をLUT122に記憶させる。上述したように、逆ウェイトFB信号はアンテナウェイトが打ち消された信号であるため、送信ベースバンド信号と逆ウェイトFB信号の比較が可能であり、両者の誤差を最小にすることにより、逆ウェイトFB信号に残存する非線形歪み成分を小さくする歪み補償係数を算出することができる。
次いで、上記のように構成されたRRH100における歪み補償係数の更新方法について、図12に示すフロー図を参照しながら説明する。以下に説明する係数更新処理は、主にプロセッサ120によって実行される。
BBU10から受信した送信ベースバンド信号がプロセッサ120へ入力されると、送信ベースバンド信号は、歪み補償部123によって歪み補償されるとともに、係数更新のレファレンス信号として、係数更新部604へ入力される。歪み補償された送信信号は、複数のアンテナ素子ごとのアンテナウェイトが付与されて電力増幅器によって増幅された後、各アンテナ素子から送信される。
また、各アンテナ素子の電力増幅器から出力された信号は合波部170へフィードバックされ、複数のFB信号が合波される(ステップS501)。合波FB信号は、ダウンコンバータによってダウンコンバートされた後、A/D変換部180によってA/D変換される(ステップS502)。そして、デジタル信号に変換された合波FB信号は、プロセッサ120の分波部601によってRRH100のアンテナ素子と同数の分波FB信号に分波される(ステップS503)。各分波FB信号には、逆ウェイト付与部602によって、各アンテナ素子のアンテナウェイトの逆ウェイトが付与される(ステップS504)。そして、合波部603によって、逆ウェイトが付与された分波FB信号が合波され(ステップS505)、逆ウェイトFB信号が生成される。逆ウェイトFB信号は、係数更新部604へ入力される。
係数更新部604に送信ベースバンド信号及び逆ウェイトFB信号が入力されると、送信ベースバンド信号と逆ウェイトFB信号の誤差を最小にする歪み補償係数が算出される(ステップS506)。係数更新部604によって算出された歪み補償係数は、LUT122に記憶された歪み補償係数と置き換えられ、LUT122が更新される(ステップS507)。
以上のように、本実施の形態によれば、合波FB信号からアンテナウェイトを打ち消した逆ウェイトFB信号を生成し、送信ベースバンド信号と逆ウェイトFB信号の比較結果に基づいて、歪み補償係数を更新する。このため、アンテナ素子ごとの信号を個別にフィードバックする必要がなく、フィードバック系の回路を最小構成にして、回路規模の増大を抑制することができる。
(実施の形態7)
上記実施の形態1〜6においては、複数のアンテナ素子それぞれに設けられる電力増幅器について、一括してデジタルプリディストーションが施される。換言すれば、複数の電力増幅器に対して、1つの歪み補償係数を用いた歪み補償が実行される。しかしながら、複数の電力増幅器の特性は、厳密には一致しておらず個体差がある。そして、電力増幅器の特性のばらつきがあるため、例えばビームフォーミングによって形成される指向性ビームの方向によっては、FB信号及び合波FB信号に誤差が生じ、歪み補償性能が低下することがある。
そこで、実施の形態7では、アンテナ素子ごとの電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを分波信号に付与することで、歪み補償性能の低下を抑制する場合について説明する。
実施の形態7に係る通信システムの構成は、実施の形態1(図1)と同様であるため、その説明を省略する。実施の形態7においては、RRH100の構成が実施の形態1とは異なる。
図13は、実施の形態7に係るRRH100の構成を示すブロック図である。図13において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図13に示すRRH100は、図2に示すRRH100のウェイト付与部160に代えてウェイト付与部701を有し、疑似歪み付与部702を追加した構成を採る。
ウェイト付与部701は、アンテナ素子ごとの信号に振幅ウェイト及び位相ウェイトを付与する。ウェイト付与部701は、例えばアンテナ素子ごとの振幅調整器及びフェーズシフタを備え、振幅調整器がアンテナ素子の信号に振幅ウェイトを付与し、フェーズシフタがアンテナ素子の信号に位相ウェイトを付与する。すなわち、ウェイト付与部701は、アンテナ素子ごとの信号に振幅差及び位相差を設定し、指向性ビームの方向を制御するビームフォーミングを実行する。
また、ウェイト付与部701は、電力増幅器それぞれのアンプモデルが生成される際、アンプモデルの生成対象となる電力増幅器のみに信号が入力されるように、各アンテナ素子の信号の振幅ウェイトを制御する。すなわち、ウェイト付与部701は、例えばアンプモデルの生成対象となる電力増幅器の振幅ウェイトを0dBに設定し、他の電力増幅器の振幅ウェイトを−∞dBに設定する。こうすることにより、ウェイト付与部701は、アンプモデルの生成対象となる電力増幅器のみから信号が出力されるようにすることができる。
なお、アンプモデルは、後述するように電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを決定するために生成される。また、本実施の形態において、プロセッサ120内のウェイト付与部125は、ウェイト付与部701が付与する振幅ウェイト及び位相ウェイトと同様のウェイトを分波信号に付与する。
疑似歪み付与部702は、ウェイト付与部125から出力される複数の分波信号それぞれに、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを付与する。アンテナ素子ごとに設けられる電力増幅器の特性は同一ではなく、個体差によって電力増幅器の特性がばらつく。そこで、疑似歪み付与部702は、特性のばらつきに対応する疑似歪みを分波信号に付与することにより、電力増幅器の特性のばらつきによる係数更新の精度劣化を抑制する。
次いで、上記のように構成されたRRH100における歪み補償係数の更新方法について、図14に示すフロー図を参照しながら説明する。図14において、図3と同じ部分には同じ符号を付し、その詳しい説明を省略する。以下に説明する係数更新処理は、主にプロセッサ120によって実行される。
歪み補償係数の更新に先立って、アンテナ素子ごとの電力増幅器の特性のばらつきが測定され、このばらつきに対応する疑似歪みを決定する処理が実行される(ステップS601)。すなわち、各電力増幅器のアンプモデルが生成され、アンプモデルから電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みが決定される。決定された疑似歪みは、疑似歪み付与部702に設定される。なお、疑似歪み決定処理については、後に詳述する。
送信ベースバンド信号は、分波部124によってRRH100のアンテナ素子と同数の分波信号に分波される(ステップS101)。各分波信号には、ウェイト付与部125によって、ビームフォーミングのためにウェイト付与部701において付与される振幅ウェイト及び位相ウェイトと同じウェイトが付与される(ステップS102)。
そして、疑似歪み付与部702によって、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みが各分波信号に付与される(ステップS602)。分波信号に擬似歪みが付与されることにより、それぞれの分波信号は、アンテナ素子ごとの電力増幅器の特性のばらつきと同様のばらつきを得る。そして、合波部126によって、疑似歪みが付与された分波信号が合波される(ステップS103)。合波により得られた合波信号は、係数更新のレファレンス信号として、係数更新部127へ入力される。
一方、送信ベースバンド信号は、歪み補償部123によって歪み補償され、D/A変換及びアップコンバートされた後、分波部150によって各アンテナ素子の信号に分波される。それぞれのアンテナ素子の信号は、ウェイト付与部701によってビームフォーミングのための振幅ウェイト及び位相ウェイトが付与され、電力増幅器によって増幅された後、無線空間へ送信される。また、電力増幅器によって増幅された後の信号は、合波部170へフィードバックされる。
各アンテナ素子からフィードバックされたFB信号は、合波部170によってそのまま合波される(ステップS104)。すなわち、アンテナ素子ごとのFB信号は、例えばフェーズシフタやダウンコンバータなどの回路を通過することなく、合波部170によって合波される。したがって、合波FB信号は、アンテナ素子ごとの電力増幅器の特性のばらつきの影響を受けた複数のFB信号が合波されて得られる信号である。
合波FB信号は、ダウンコンバータによってダウンコンバートされた後、A/D変換部180によってA/D変換される(ステップS105)。そして、デジタル信号に変換された合波FB信号は、プロセッサ120の係数更新部127へ入力される。係数更新部127に合波信号及び合波FB信号が入力されると、合波信号と合波FB信号の誤差を最小にする歪み補償係数が算出される(ステップS106)。係数更新部127によって算出された歪み補償係数は、LUT122に記憶された歪み補償係数と置き換えられ、LUT122が更新される(ステップS107)。
次に、疑似歪み付与部702に設定される疑似歪みの決定について説明する。図15は、疑似歪みの決定に係る処理部を示すRRH100のブロック図である。RRH100は、図13に示す処理部に加えて、図15に示すように、アンプモデル生成部711、係数調整部712及び疑似歪み算出部713を有する。
アンプモデル生成部711は、アンテナ素子ごとの電力増幅器それぞれのモデルであるアンプモデルを生成する。具体的には、アンプモデル生成部711は、送信ベースバンド信号にアンプモデルを適用し、得られる信号を係数調整部712へ出力する。そして、アンプモデル生成部711は、アンプモデルの係数を係数調整部712から出力される係数に置き換えることを繰り返し、それぞれの電力増幅器に対応するアンプモデルを生成する。なお、アンプモデル生成部711は、複数の電力増幅器それぞれについてのアンプモデルを1つずつ生成する。このため、ウェイト付与部701は、アンプモデルの生成対象となっている電力増幅器のみから信号がフィードバックされるように、アンテナ素子ごとの振幅ウェイトを制御する。すなわち、ウェイト付与部701は、例えばアンプモデルの生成対象となる電力増幅器の振幅ウェイトを0dBに設定し、他の電力増幅器の振幅ウェイトを−∞dBに設定する。
係数調整部712は、アンプモデル生成部711から出力される信号とFB信号との誤差が小さくなるようにアンプモデルの係数を調整する。すなわち、係数調整部712は、いずれか1つの電力増幅器に対応するアンプモデルが適用された送信ベースバンド信号と、この電力増幅器からフィードバックされるFB信号との誤差が最小となるように、アンプモデルの係数を調整する。そして、係数調整部712は、調整した係数をアンプモデル生成部711へ出力する。
疑似歪み算出部713は、すべての電力増幅器に対応するアンプモデルがアンプモデル生成部711によって生成されると、これらのアンプモデルから疑似歪みを算出する。具体的には、疑似歪み算出部713は、アンプモデルからすべての電力増幅器の平均特性である平均アンプ特性を算出する。そして、疑似歪み算出部713は、各電力増幅器のアンプモデルから平均アンプ特性を減算することにより、電力増幅器ごとの疑似歪みを算出する。すなわち、疑似歪み算出部713は、個々の電力増幅器の特性から平均アンプ特性を減算することにより、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを算出する。疑似歪み算出部713は、算出した電力増幅器ごとの疑似歪みを疑似歪み付与部702へ通知する。
次に、疑似歪み決定処理について、図16に示すフロー図を参照しながら説明する。以下に説明する疑似歪み決定処理は、図14のステップS601において実行される。
疑似歪み決定処理は、例えばRRH100の通常稼働前などに実行される。まず、ウェイト付与部701によって、1つの電力増幅器の振幅ウェイトが0dBに設定され、他の電力増幅器の振幅ウェイトが−∞に設定される。振幅ウェイトが0dBに設定される電力増幅器がアンプモデルの生成対象の電力増幅器であり、この電力増幅器から出力される信号のみがプロセッサ120へフィードバックされる。
そこで、アンプモデル生成部711によって、アンプモデルの生成対象の電力増幅器のアンプモデルが生成される。具体的には、送信ベースバンド信号にアンプモデルが適用されて得られる信号が係数調整部712へ出力され、係数調整部712によって、アンプモデル生成部711から出力される信号と電力増幅器からフィードバックされるFB信号との誤差が小さくなるようにアンプモデルの係数が調整される。そして、調整された係数がアンプモデル生成部711へ出力され、アンプモデルの係数が更新される。このような処理が繰り返され、係数調整部712において、アンプモデルが適用された送信ベースバンド信号とFB信号との誤差が所定基準を満たすと、アンプモデルが生成されたことになる。
そして、振幅ウェイトが0dBに設定される電力増幅器が順次切り替えられながら、上記の処理が実行されることにより、個々の電力増幅器のアンプモデルが生成される(ステップS611)。そして、すべての電力増幅器のアンプモデルが生成されると、疑似歪み算出部713によって、すべての電力増幅器のアンプモデルから平均アンプ特性が算出される(ステップS612)。平均アンプ特性は、電力増幅器の特性のばらつきの基準となる。このため、疑似歪み算出部713によって、各電力増幅器のアンプモデルから平均アンプ特性が減算されることにより、個々の電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みが算出される(ステップS613)。算出された疑似歪みは、疑似歪み付与部702へ通知され、それぞれ分波信号に付与される。
以上のように、本実施の形態によれば、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを算出し、疑似歪みを分波信号それぞれに付与する。このため、分波信号を合波して得られる合波信号と各電力増幅器からフィードバックされる信号を合波して得られる合波FB信号との比較によって歪み補償係数を更新する際、電力増幅器の特性のばらつきの影響を低減することができ、歪み補償性能の低下を抑制することができる。
なお、上記実施の形態7において、ウェイト付与部701が振幅ウェイト及び位相ウェイトをアンテナ素子の信号に付与するものとしたが、本実施の形態以外の実施の形態についても同様に、ウェイト付与部160が位相ウェイトのみではなく振幅ウェイトを付与しても良い。
(実施の形態8)
実施の形態8の特徴は、電力増幅器の電源電圧を制御することにより、個々の電力増幅器のアンプモデルを順に生成する点である。
実施の形態8に係る通信システムの構成は、実施の形態1(図1)と同様であるため、その説明を省略する。また、実施の形態8に係るRRH100の構成は、実施の形態7(図13)と同様であるため、その説明を省略する。ただし、実施の形態8に係るRRH100においては、疑似歪みの決定に係る構成が実施の形態7に係るRRH100と異なる。
図17は、疑似歪みの決定に係る処理部を示すRRH100のブロック図である。図17において、図15と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図17に示すRRH100は、図15に示すRRH100のウェイト付与部701に代えてウェイト付与部160を有し、電源電圧制御部721を追加した構成を採る。
電源電圧制御部721は、電力増幅器それぞれのアンプモデルが生成される際、アンプモデルの生成対象となる電力増幅器のみの電源をオンにして、他の電力増幅器の電源をオフにするように電源電圧を制御する。こうすることにより、電源電圧制御部721は、アンプモデルの生成対象となる電力増幅器のみから信号が出力されるようにすることができる。
実施の形態8においては、電源電圧制御部721によって、1つの電力増幅器の電源がオンにされ、他の電力増幅器の電源がオフにされる。電源がオンにされる電力増幅器がアンプモデルの生成対象の電力増幅器であり、この電力増幅器から出力される信号のみがプロセッサ120へフィードバックされる。
そこで、アンプモデル生成部711によって、アンプモデルの生成対象の電力増幅器のアンプモデルが生成される。具体的には、送信ベースバンド信号にアンプモデルが適用されて得られる信号が係数調整部712へ出力され、係数調整部712によって、アンプモデル生成部711から出力される信号と電力増幅器からフィードバックされるFB信号との誤差が小さくなるようにアンプモデルの係数が調整される。そして、調整された係数がアンプモデル生成部711へ出力され、アンプモデルの係数が更新される。このような処理が繰り返され、係数調整部712において、アンプモデルが適用された送信ベースバンド信号とFB信号との誤差が所定基準を満たすと、アンプモデルが生成されたことになる。
そして、電源がオンにされる電力増幅器が順次切り替えられながら、上記の処理が実行されることにより、個々の電力増幅器のアンプモデルが生成される。生成されたアンプモデルから、実施の形態7と同様に、疑似歪み付与部702に設定される疑似歪みが決定される。
以上のように、本実施の形態によれば、アンプモデルの生成対象の電力増幅器の電源をオンにするとともに、他の電力増幅器の電源をオフにしながら、個々の電力増幅器のアンプモデルを順に生成する。このため、個々の電力増幅器のアンプモデルから平均アンプ特性を算出し、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを決定することができる。
(実施の形態9)
実施の形態9の特徴は、電力増幅器の出力側に設けられるスイッチを制御することにより、個々の電力増幅器のアンプモデルを順に生成する点である。
実施の形態9に係る通信システムの構成は、実施の形態1(図1)と同様であるため、その説明を省略する。また、実施の形態9に係るRRH100の構成は、実施の形態7(図13)と同様であるため、その説明を省略する。ただし、実施の形態9に係るRRH100においては、疑似歪みの決定に係る構成が実施の形態7に係るRRH100と異なる。
図18は、疑似歪みの決定に係る処理部を示すRRH100のブロック図である。図18において、図15と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図18に示すRRH100は、図15に示すRRH100のウェイト付与部701に代えてウェイト付与部160を有し、スイッチ731及びスイッチ制御部732を追加した構成を採る。
スイッチ731は、電力増幅器それぞれと合波部170との間に設けられ、それぞれの電力増幅器からのFB信号の合波部170への入力の有無を切り替える。すなわち、スイッチ731は、電力増幅器それぞれと合波部170との接続を切り替え、合波部170に接続された電力増幅器からのFB信号が合波部170へ入力されるようにする一方、合波部170と切断された電力増幅器からのFB信号が合波部170へ入力されないようにする。
スイッチ制御部732は、電力増幅器それぞれのアンプモデルが生成される際、アンプモデルの生成対象となる電力増幅器のみが合波部170に接続され、他の電力増幅器が合波部170から切断されるようにスイッチを制御する。こうすることにより、スイッチ制御部732は、アンプモデルの生成対象となる電力増幅器から出力されるFB信号のみが合波部170へ入力されるようにすることができる。
実施の形態9においては、スイッチ制御部732によってスイッチ731が制御されることにより、1つの電力増幅器が合波部170に接続され、他の電力増幅器が合波部170から切断される。合波部170に接続される電力増幅器がアンプモデルの生成対象の電力増幅器であり、この電力増幅器から出力される信号のみがプロセッサ120へフィードバックされる。
そこで、アンプモデル生成部711によって、アンプモデルの生成対象の電力増幅器のアンプモデルが生成される。具体的には、送信ベースバンド信号にアンプモデルが適用されて得られる信号が係数調整部712へ出力され、係数調整部712によって、アンプモデル生成部711から出力される信号と電力増幅器からフィードバックされるFB信号との誤差が小さくなるようにアンプモデルの係数が調整される。そして、調整された係数がアンプモデル生成部711へ出力され、アンプモデルの係数が更新される。このような処理が繰り返され、係数調整部712において、アンプモデルが適用された送信ベースバンド信号とFB信号との誤差が所定基準を満たすと、アンプモデルが生成されたことになる。
そして、合波部170に接続される電力増幅器が順次切り替えられながら、上記の処理が実行されることにより、個々の電力増幅器のアンプモデルが生成される。生成されたアンプモデルから、実施の形態7と同様に、疑似歪み付与部702に設定される疑似歪みが決定される。
以上のように、本実施の形態によれば、アンプモデルの生成対象の電力増幅器からの信号がフィードバックされ、他の電力増幅器からの信号がフィードバックされないようにスイッチを制御しながら、個々の電力増幅器のアンプモデルを順に生成する。このため、個々の電力増幅器のアンプモデルから平均アンプ特性を算出し、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを決定することができる。
なお、上記実施の形態7〜9においては、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを分波信号に付与するものとしたが、電力増幅器のみではなく、各電力増幅器からのFB信号が通過するアナログ経路の特性にもばらつきがある。すなわち、各電力増幅器からのFB信号は、異なるアナログ経路を通過して合波部170へ入力されるため、歪み補償性能は、アナログ経路の特性のばらつきの影響も受ける。そこで、電力増幅器のみではなく、アナログ経路の特性のばらつきも補償するようにしても良い。
図19は、電力増幅器及びアナログ経路の特性のばらつきを補償するRRH100の構成を示すブロック図である。図19において、図13と同じ部分には同じ符号を付す。図19に示すRRH100は、図13に示すRRH100の疑似歪み付与部702に代えて、ばらつき補償部741を有する。
ばらつき補償部741は、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを分波信号に付与するともに、アナログ経路の特性のばらつきに対応する疑似歪みを分波信号に付与する。具体的には、ばらつき補償部741は、実施の形態7と同様にして決定される電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを分波信号に付与する。また、ばらつき補償部741は、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みと同様にして求められる、アナログ経路の特性のばらつきに対応する疑似歪みを分波信号に付与する。アナログ経路の特性のばらつきには、例えばゲイン、位相、遅延差及び周波数特性のばらつきが含まれる。これらの特性のばらつきに対応する疑似歪みは、それぞれのアナログ経路についてのモデルを生成し、それぞれのモデルから平均特性を減算することにより決定することが可能である。
(実施の形態10)
上記実施の形態1〜9においては、アンテナ素子ごとの電力増幅器からのFB信号を合波して合波FB信号が生成されるが、このとき、複数のFB信号は同相合成される。このため、ビームフォーミングによって形成される指向性ビームの方向によっては、合波FB信号がヌル点に相当することがあり、合波FB信号の振幅が−∞となって、歪み補償性能が低下することがある。
具体的に、指向性ビームの方向が0度の場合と−38度の場合とのアンテナゲインの例を図20に示す。図20において、実線は指向性ビームの方向が0度の場合のアンテナゲインを示し、破線は指向性ビームの方向が−38度の場合のアンテナゲインを示す。図20に示すように、指向性ビームの方向が0度の場合は、0度の方向にメインローブが形成されるため、合波FB信号の振幅はメインローブに対応するものとなる。一方、指向性ビームの方向が−38度の場合は、0度の方向にヌルが形成されるため、合波FB信号の振幅が−∞となり、歪み補償係数の更新が正しく実行されない。このように、FB信号を同相合成して合波FB信号を生成する場合には、合波FB信号がヌル点に相当することがあり、歪み補償係数の更新が困難になることがある。
そこで、実施の形態10では、FB信号の振幅を制御することで、合波FB信号の振幅が−∞になる可能性を低減する場合について説明する。
実施の形態10に係る通信システムの構成は、実施の形態1(図1)と同様であるため、その説明を省略する。実施の形態10においては、RRH100の構成が実施の形態1とは異なる。
図21は、実施の形態10に係るRRH100の構成を示すブロック図である。図21において、図2と同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。図21に示すRRH100は、図2に示すRRH100に振幅制御部751、752を追加した構成を採る。
振幅制御部751は、アンテナ素子ごとの電力増幅器からのFB信号それぞれにタップ係数を乗算してFB信号の振幅を制御する。このとき、振幅制御部751は、各FB信号に対して、互いに異なるタップ係数を乗算する。例えば、振幅制御部751は、アンテナ素子の配列順に従って単調減少又は単調増加するタップ係数をFB信号に乗算する。
振幅制御部752は、分波信号それぞれに振幅制御部751と同様の係数を乗算して分波信号の振幅を制御する。振幅制御部752が分波信号に乗算する係数それぞれは、振幅制御部751がFB信号に乗算するタップ係数のいずれかと同じ値である。
次に、振幅制御部751がFB信号に乗算するタップ係数について、具体的に説明する。
指向性ビームの方向をθ、アンテナ素子間の間隔をd、FB信号の波長をλとし、各FB信号に乗算されるタップ係数をw
nとすると、合波FB信号v(θ)は、以下の式(1)のように表すことができる。
ただし、式(1)において、nはアンテナ素子のインデックス番号であり、Nはアンテナ素子の総数である。上式(1)を電力の次元に改めると、以下の式(2)が得られる。
ただし、式(2)において、mはアンテナ素子のインデックス番号である。式(2)の第1項は固定成分であるのに対し、第2項は指向性ビームの方向θによって変動する成分である。したがって、固定成分である第1項に対して変動成分である第2項が大きいほど、電力P(θ)が0まで低下しやすく、ヌルが発生しやすいといえる。
ここで、タップ係数w
nがすべて同じ値である場合、合波FB信号v(θ)は、アンテナ素子から送信される信号と同等となり、ヌルが発生する信号となる。つまり、以下の式(3)の場合には、ヌルが発生する。
ヌルが発生しにくい条件は、上式(3)と比べて上式(2)において第1項が大きく、第2項が小さいことであるため、各タップ係数w
nは以下の式(4)の条件を満たすのが好ましい。
以上のような条件を満たすタップ係数の例としては、例えばアンテナ素子の配列順に従って単調減少又は単調増加するタップ係数がある。図22は、上式(4)の条件を満たすタップ係数の具体例を示す図である。図22には、最上段から最下段まで4種類のタップ係数群の具体例が示されている。各段において、左図はアンテナ素子ごとのタップ係数に対応する励振振幅を示し、右図は自己相関の値を示す。各段の右図において、破線はタップ係数がすべて等しい場合の基準値を示し、実線が左図のタップ係数群を採用する場合の自己相関係数を示す。自己相関係数が基準値よりも小さければ、ヌルが発生しにくい。
最上段には、アンテナ素子の配列順に従って単調減少するタップ係数群が示されている。この場合、すべての倍波成分で自己相関係数が基準値以下であり、指向性ビームの方向がどのような方向でもヌルが形成されない。同様に、上から2段目には、アンテナ素子の配列順に従って単調増加するタップ係数群が示されている。この場合も、すべての倍波成分で自己相関係数が基準値以下であり、指向性ビームの方向がどのような方向でもヌルが形成されない。
また、3段目及び4段目には、中央付近のアンテナ素子を起点としてアンテナ素子の配列順に単調減少又は単調増加するタップ係数群が示されている。このように、端のアンテナ素子ではなく中央付近のアンテナ素子を起点とした場合でも、すべての倍波成分で自己相関係数が基準値以下となり、指向性ビームの方向がどのような方向でもヌルが形成されない。
上記のようなタップ係数を各アンテナ素子の信号に乗算する場合のアンテナゲインの例を図23に示す。図23において、実線は指向性ビームの方向が0度の場合のアンテナゲインを示し、破線は指向性ビームの方向が−38度の場合のアンテナゲインを示す。図23に示すように、指向性ビームの方向が0度の場合は、0度の方向にメインローブが形成されるため、合波FB信号の振幅はメインローブに対応するものとなる。また、指向性ビームの方向が−38度の場合も、0度の方向にヌルが形成されておらず、合波FB信号の振幅が−∞とはならない。結果として、適正な振幅の合波FB信号がプロセッサ120へフィードバックされ、合波信号と合波FB信号との誤差を小さくするように歪み補償係数を更新することが可能となる。
以上のように、本実施の形態によれば、アンテナ素子ごとのFB信号それぞれにタップ係数を乗算した上で合波FB信号を生成してフィードバックし、分波信号にもタップ係数と同じ係数を乗算する。このため、分波信号を合波して得られる合波信号と合波FB信号との比較によって歪み補償係数を更新する際、合波FB信号の振幅を適正な範囲の振幅にすることができ、歪み補償性能の低下を抑制することができる。
なお、上記各実施の形態においては、LUTに記憶された歪み補償係数を用いて歪み補償を実行する場合について説明したが、例えば多項式によって歪み補償係数を算出して歪み補償を実行する場合にも、上記各実施の形態の係数更新方法を適用しても良い。すなわち、複数のアンテナ素子からのFB信号をそのまま合波して合波FB信号を生成し、合波FB信号をフィードバックすることにより多項式の係数の更新に用いても良い。このようにする場合でも、フィードバック系にアンテナ素子ごとのフェーズシフタやA/D変換が不要となるため、回路規模の増大を抑制することができる。
また、上記各実施の形態は、適宜組み合わせて実施することが可能である。具体的には、例えば実施の形態2、4を組み合わせて、合波信号がアドレス生成に用いられるとともに、合波FB信号のレベル調整のために合波信号の最大振幅が検出されても良い。また、例えば実施の形態3、6を組み合わせて、逆ウェイトFB信号を歪み補償して、歪み補償処理後の送信ベースバンド信号と、歪み補償処理後の逆ウェイトFB信号との比較結果に基づいて、歪み補償係数が更新されるようにしても良い。さらに、例えば実施の形態7、10を組み合わせて、電力増幅器の特性のばらつきに対応する疑似歪みを分波信号に付与しつつ、FB信号に乗算されるタップ係数と同じ係数を分波信号に乗算しても良い。他にも各種の組み合わせが可能である。