以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図面は、模式的または概念的なものであり、各図面の寸法および比率等は、必ずしも現実のものと同一であるとは限らない。また、図面において、同一符号(添字が異なるものを含む)は同一または相当部分を付してあり、重複した説明は必要に応じて行う。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る水素センサ100の概略構成図である。
水素センサ100はガス状の水素を検出する容量型水素センサであって、MEMSキャパシタ101と、水素濃度算出回路102と、ヒーター用温度センサ103と、環境温度センサ104と、ヒーター温度制御部105と、可変電流源106とを含む。要素103〜106は後述するように水素センサ100の性能(検出感度、消費電力など)を向上するために用いられる。
MEMSキャパシタ101は、下部電極(固定電極)5aと、下部電極5aの上方に設けられた可動構造30とを含む。
可動構造30は、上部電極(可動電極)9aと、ヒーター11と、水素吸蔵層13とを含む。可動構造30は、さらに、ヒーター用温度センサの一部を構成する測温抵抗体9bを含んでいる。可動構造30は上部電極9aを可動するように構成されている。可動構造30の詳細な構造および動作について後述するが、簡単に説明すると以下の通りである。
水素吸蔵層13は水素を吸収または吸着する。水素の吸収または吸着に伴い水素吸蔵層13は変形し、水素吸蔵層13の位置は上側または下側に変位する。水素吸蔵層13の変位の程度は水素の吸収量または吸着量に対応する。水素吸蔵層13の位置の変位に伴い上部電極9aの位置は変位するが、下部電極5aの位置は変わらない。水素吸蔵層13の位置が上側に変位すると、上部電極9aの位置も上側に変位する。その結果、下部電極5aと上部電極9aとの間の間隔が広がり、MEMSキャパシタ101の容量は減少する。一方、水素吸蔵層13の位置が下側に変位すると、上部電極9aの位置も下側に変位する。その結果、下部電極5aと上部電極9aとの間の間隔が狭くなり、MEMSキャパシタ101の容量は増加する。
ヒーター11は熱を発生して水素吸蔵層13を加熱するように構成されている。本実施形態では、ヒーター11は抵抗加熱を利用したものである。ヒーター11は、例えば、Ti、TiN(チタン窒化物)、Ni、Al、Cu、Pd、PtまたはPd−Ni等の導体を含む。
可変電流源106はヒーター11に電流(ヒーター電流)I1を供給する。可変電流源106には制御信号SCTLが入力されており、ヒーター11に流れる電流I1の大きさは後述するように制御信号SCTLによって制御される。ヒーター11は、電流I1の大きさとヒーター11の抵抗値とに対応する熱を発生する。ヒーター11は熱を発生すると温度が上昇する。ヒーター11で発熱する熱の量に比例して、ヒーター11の温度上昇幅は大きくなる。ヒーター11の温度上昇幅は、例えば、ヒーター11に電流I1を流している状態のヒーター11の温度から、ヒーター11に電流I1を流していない状態のヒーター11の温度を引いた値で規定することができる。可変電流源106は水素センサ100の外部の電流源でも構わない。
水素吸蔵層13の周りの湿度等は、水素センサ100の検出精度に影響を与える外乱となる。このような外乱の影響を小さくすることは、ガスセンサを安定的に動作させるためには重要である。そこで、本実施形態では、水素の検出を行う前にヒーター11によって水素吸蔵層13を加熱して湿度等を一定の範囲内または一定にすることにより、外乱の影響を小さくする。水素吸蔵層13を加熱することは、さらに、センサの応答性およびヒステリシスの改善に寄与する。
一方で、ヒーター11による加熱により、水素吸蔵層13の温度がある値を超えると水素吸蔵層13の特性が劣化し、その結果として水素センサ100の性能が低下する懸念がある。水素吸蔵層13の温度がある値を超えることは、消費電力の増加に繋がる。そのため、ヒーター11及び水素吸蔵層13の温度はある範囲内で一定に保つ必要がある。例えば、湿度を一定に保つためには水素吸蔵層13およびヒーター11を100℃以上に充分加熱することが必要である。一方で、水素吸蔵層13の特性が劣化しないためには、水素吸蔵層13を例えば200℃以下で加熱することが必要であると考えられる。
ヒーター11の到達温度(Theat)は以下の式で示される。
Theat=Tenv+ΔT
ここで、Tenvは環境温度であり、ΔTはヒーター11の温度上昇幅である。
上記の式からヒーター11の到達温度は環境温度に依存する。例えば、実施形態の水素センサ100を使用する環境温度が−30℃以上100℃以下であり、ヒーター11の制御範囲が125℃以上150℃以下であるとき、環境温度が−30℃の場合で温度上昇幅ΔTは155℃〜180℃が必要となり、環境温度が100℃の場合でΔTは温度上昇幅25℃〜50℃が必要となる。
後述するようにヒーター11により水素吸蔵層13を効率よく加熱できるようにヒーター11および水素吸蔵層13はその周囲の環境から断熱されていることが多い。このように断熱されたヒーター11を用いた場合、通常、ヒーター11の到達温度(ヒーター温度)は環境温度とは異なっている。環境温度を測定する温度センサは、ヒーター11および水素吸蔵層13を断熱する領域の外部に設けらている、ヒーター11および水素吸蔵層13に対して外付けの温度センサである。そのため、環境温度を測定する温度センサではヒーター温度をモニターすることは困難である。その結果、ヒーター11の高精度の温度の制御が困難となり、充分な性能を有するガスセンサの提供は困難となる。
そこで、本実施形態では、ヒーター温度を測定するために、ヒーター11および水素吸蔵層13を含む断熱された領域内にヒーター用温度センサ103の一部を構成する測温抵抗体9bを配置している。測温抵抗体9bの抵抗はヒーター温度の変化によって変わるため、測温抵抗体9bの抵抗を測定することにより、ヒーター温度を算出することができる。また、環境温度を測定するために、ヒーター11および水素吸蔵層13を含む断熱された領域とは別の領域に環境温度センサ104を配置している。
環境温度センサ104はMEMSキャパシタ101が形成されている基板と同一基板上に形成されることが望ましいが、基板に対して外付けされるものであっても構わない。
ここで、ヒーター用温度センサ103がない場合は、ワーストケースを想定して加熱を行う必要がある。上記の環境温度範囲の例では、ワーストケースは環境温度が−30℃の場合である。環境温度が−30℃の場合において、湿度の影響を抑制するために125℃以上の加熱を行うとすると、温度上昇幅ΔTが155℃以上になるようにヒーター加熱を行う必要がある。しかし、環境温度が100℃になった場合は、ヒーターの到達温度は255℃以上(水素吸蔵層13の耐熱温度以上)になってしまい、制御範囲の上限の150℃を超えてしまう。したがって、ヒーター用温度センサ103がない場合、水素センサは−30℃から100℃の環境温度範囲で使用できず、水素センサの使用できる温度範囲は限られる。しかし、ヒーター用温度センサ103を備えた本実施形態の水素センサ100は広い温度範囲で使用することが可能である。
水素吸蔵層13の加熱は、例えば、水素を検出する前に行う。水素吸蔵層13の加熱は、水素を検出する前に毎回行う必要は必ずしもない。例えば、水素吸蔵層13の加熱は、ある一定の回数だけ水素の検出を行った後に行っても構わない。さらに、水素吸蔵層13の加熱は水素検出中に行っても構わない。
ヒーター用温度センサ103は、ヒーター11で発生した熱に対応する温度(ヒーター温度T1)を検出するように構成されている。ヒーター用温度センサ103は、金属の電気抵抗率が温度に比例して変わることを利用して温度を検出する。
ヒーター用温度センサ103は、図2(a)に示すように、測温抵抗体(金属)9bと、測温抵抗体9bに一定の電流I2を流すための定電流源109と、測温抵抗体9bに電流I2を流している状態での測温抵抗体9bの抵抗値を測定し、当該抵抗値に基づいてヒーター温度を算出するためのヒーター温度検出回路110とを含む。ヒーター温度検出回路110は算出したヒーター温度T1に対応するヒーター温度信号ST1を出力する。
なお、図2(a)では、測温抵抗体9b、定電流源109およびヒーター温度検出回路110は同じ領域内に設けているように示してあるが、上述したように測温抵抗体9bは可動構造30内に設けており、定電流源109およびヒーター温度検出回路110とは別の領域に設けている。
ヒーター温度検出回路110は、例えば、図2(b)に示すように、抵抗測定回路121と、ヒーター温度算出回路131とを含む。抵抗測定回路121は、測温抵抗体9bに電流I2を流している状態での測温抵抗体9bの抵抗値を測定する。抵抗測定回路121は測定した抵抗値に対応する抵抗信号SR1を出力する。抵抗信号SR1はヒーター温度算出回路131に入力される。ヒーター温度算出回路131は抵抗信号SR1に基づいてヒーター温度T1を算出する。ヒーター温度検出回路110は、例えば、CMOS回路を用いて構成されている。
なお、図2(a)および(b)はヒーター用温度センサ103の構成を示す一例であり、ヒーター用温度センサ103は種々の構成をとり得る。例えば、定電流源109は、ヒーター用温度センサ103の外部に設けられた定電流源でも構わない。また、定電流源109は定電圧源でも構わない。
環境温度センサ104は、MEMSキャパシタ101が使用される周囲の環境の温度(環境温度T2)を検出するように構成されている。前述したように、可動構造30内のヒーター11及び水素吸蔵層13は周囲の環境から断熱されているため、環境温度はヒーター温度とは異なる。
環境温度センサ104は、図3(a)に示すように、測温抵抗体7と、測温抵抗体7に一定の電流I3を流すための定電流源111と、測温抵抗体7に電流I3を流している状態での測温抵抗体7の抵抗値を測定し、当該抵抗値に基づいて環境温度T2を算出するための環境温度検出回路112とを含む。環境温度検出回路112は算出した環境温度T2に対応する環境温度信号ST2を出力する。
なお、図3(a)では、測温抵抗体7、定電流源111および環境温度検出回路112は同じ領域内に設けているように示してあるが、測温抵抗体7は定電流源111および環境温度検出回路112とは別の領域に設けても構わない。
環境温度検出回路112は、例えば、図3(b)に示すように、抵抗測定回路122と、環境温度算出回路132とを含む。抵抗測定回路122は、測温抵抗体7に電流I3を流している状態での測温抵抗体7の抵抗値を測定する。抵抗測定回路122は測定した抵抗値に対向する抵抗信号SR2を出力する。抵抗信号SR2は環境温度算出回路132に入力される。環境温度算出回路132は抵抗信号SR2に基づいて環境温度T2を算出する。環境温度検出回路112は、例えば、CMOS回路を用いて構成されている。
なお、図3(a)および(b)は環境温度センサ104の構成を示す一例であり、環境温度センサ104は種々の構成をとり得る。例えば、定電流源111は、環境温度センサ104の外部に設けられた定電流源でも構わない。また、定電流源111は定電圧源でも構わない。
ヒーター用温度センサ103の定電流源109および環境温度センサ104の定電流源111は共通の一つの定電流源または定電圧源でも構わない。
図1に戻ると、ヒーター温度信号ST1および環境温度信号ST2はヒーター温度制御部105に入力される。ヒーター温度制御部105は、例えば、図4に示すように、ロジック回路107と、可変電流源制御回路108とを含む。ロジック回路107および可変電流源制御回路108は、それぞれ、例えば、CMOS回路を用いて構成されている。
ロジック回路107にはヒーター温度信号ST1および環境温度信号ST2が入力される。ロジック回路107は、ヒーター温度T1が所定の温度範囲内に収まっているか否かを判断する。上記所定の温度範囲に関するデータは、例えば、ロジック回路107内のメモリ内に格納されている。上記所定の温度範囲は、例えば、水素センサ100の水素吸蔵層13等の仕様に基づいて決定される。
ヒーター温度T1が所定の温度範囲内に収まっていない場合、ロジック回路107は、ヒーター温度の変更が必要であるという判断に対応する判断結果信号ST3を発生する。ロジック回路107は、例えば、ヒーター温度T1が所定の温度範囲内に収まるために必要なヒーター温度T1’とヒーター温度T1(ヒーター温度信号ST1に対応する温度)との差(例えば、T1’−T1)を判断結果信号ST3として発生する。
ロジック回路107は、所定の温度範囲内に収まっていないヒーター温度T1に対応するヒーター温度T1’を求めることができるように構成されている。これを実現するには、例えば、所定の温度範囲内に収まっていないヒーター温度T1とヒーター温度T1’との対応関係に関するテーブルを参照できるように、ロジック回路107を構成すればよい。テーブルに載っていない所定の温度範囲内に収まっていないヒーター温度T1に対応するヒーター温度T1’は、例えば、補間により求める。この補間はロジック回路107で実行される。また、上記テーブルは、ロジック回路107のメモリ内に格納するか、または、ロジック回路107の外部のメモリに格納する。また、ロジック回路107は、上記テーブルを参照せずに、ヒーター温度T1’を算出するように構成されていても構わない。
一方、ヒーター温度T1が所定の温度範囲内に収まっている場合、ヒーター温度の変更が不要であるという判断に対応する判断結果信号ST3を発生する。
判断結果信号ST3は可変電流源制御回路108に入力される。可変電流源制御回路108は、判断結果信号ST3に基づいて、可変電流源106を制御するための制御信号SCTLを出力する。
制御信号SCTLは可変電流源106に入力される。可変電流源106は、制御信号SCTLに基づいて、ヒーター11に供給する電流I1を発生する。
具体的には、ヒーター温度T1が所定の範囲外にある場合に対応する制御信号SCTLが可変電流源106に入力された場合、可変電流源106はヒーター温度T1が所定の範囲内に収まるために必要な大きさの電流I1を発生する。ここで、ヒーター温度T1が所定の範囲の下限未満の場合には電流I1は増加し、ヒーター温度T1が所定の範囲の上限を超える場合には電流I1は減少する。一方、ヒーター温度T1が所定の範囲内にある場合に対応する制御信号SCTLが可変電流源106に入力された場合、電流I1の大きさは変更されない。
上述したヒーター温度T1の制御方法は、例えば、図5のフローチャートで示すことができる。まず、ヒーター温度T1および環境温度T2を取得する(ステップS1)。ヒーター温度T1はヒーター温度信号ST1に対応し、環境温度T2は環境温度信号ST2に対応する。ステップS1の処理は、ヒーター温度センサ103および環境温度センサ104によって実行される。
次に、環境温度T2の場合に必要な温度上昇幅(ΔT)を算出する(ステップS2)。ステップS2の処理はヒーター温度制御部105によって実行される。図4の構成のヒーター温度制御部105を採用した場合、ステップ2の処理はロジック回路107によって実行される。
次に、算出した温度上昇幅(ΔT)を実現するために必要なヒーター電流I1を算出し、この算出したヒーター電流I1をヒーター11に供給するように可変電流源106を制御する(ステップS3)。ステップS3の処理はヒーター温度制御部105によって実行される。図4の構成のヒーター温度制御部105を採用した場合、ステップ3の処理は可変電流源制御回路108によって実行される。
次に、ヒーター温度T1を取得する(ステップS4)。ヒーター温度T1はヒーター温度信号ST1に対応する。ステップS4の処理は、ヒーター用温度センサ103によって実行される。
次に、ヒーター温度T1が所定の温度範囲内に収まっているか否かを判断する(ステップS5)。ステップS5の処理は、ヒーター温度制御部105によって実行される。図4の構成のヒーター温度制御部105を採用した場合、ステップ3の処理はロジック回路107および可変電流源制御回路108によって実行される。
ステップS5での判断の結果がNoの場合、ヒーター温度T1を所定の温度範囲内に収めるために、ステップS3に戻ってヒーター電流I1の再設定および再供給を行う。ステップS3〜S5のループは、例えば、ステップS5での判断結果がYesになるまで行う。しかし、一定回数以上のステップS3〜S5のループを繰り返しても、ステップS5でYesが得られない場合、ステップS3〜S5のループを中断する構成を採用しても構わない。この場合には、例えば、最後のループのステップS3で決定されたヒーター電流I1がヒーター11に供給される。
本実施形態に係る水素センサは、ヒーター用温度センサ103によりヒーター温度を精度よく測定できるので、ヒーター11により加熱されている水素吸蔵層13の温度を精度よく制御できる。これにより、水素吸蔵層13の周囲の湿度等を一定範囲内または一定にすることができ、検出精度に影響を与える外乱の影響を小さくできるとともに、センサの応答性およびヒステリシスなどの特性を改善することができる。また、水素吸蔵層13の温度がある値を超えることも抑制できる。これにより、水素吸蔵層13の性能劣化および消費費電力の増加を抑制できる。したがって、本実施形態によれば、水素センサの性能の改善を図れるので、充分な性能を有する水素センサを提供することが可能となる。
また、上記所定の温度範囲は最大でTminからTmaxまでの範囲であるが、上記所定の温度範囲はそれよりも狭い、Tmin1(>Tmin)からTmax1(<Tmax)までの範囲でも構わない。
なお、ヒーター温度T1が所定の温度になるようにヒーター温度T1を制御した場合、ヒーター温度T1は所定の温度から多少ずれることもある。本実施形態ではこのようなずれ(誤差)が生じる場合でもヒーター温度T1が所定の温度になるようにヒーター温度T1をフィードバック制御することであると規定する。
なお、図1ではヒーター用温度センサの一部を構成する測温抵抗体9bはMEMSキャパシタ101(可動構造体130)内に設けているが、図6に示すようにMEMSキャパシタ101の外に設けることも可能である。すなわち、測温抵抗体9bの配置箇所は、ヒーター温度を必要な精度でもって測定することができる箇所であればよい。
また、水素センサ100は、一つの基板(チップ)で実装しても構わないし、または、複数の基板(チップ)で実装しても構わない。
例えば、図1の構成の水素センサ100の場合、測温抵抗体9bを含むMEMSキャパシタ101は第1の基板(チップ)に実装し、ヒーター用温度センサ103の測温抵抗体9b以外の部分、環境温度センサ104、および、ヒーター温度制御部105は、第1の基板とは別の第2の基板(チップ)に実装しても構わない。また、水素濃度算出回路102は例えば第1の基板または第2の基板に実装される。水素濃度算出回路102は第1の基板に対して外付けされるものであっても構わない。同様に、可変電流源106は例えば第1の基板または第2の基板に実装される。
図7は、MEMSキャパシタ101の具体的な構造の一例を示す断面図である。この例では、測温抵抗体7、測温抵抗体9bおよびMEMSキャパシタ101は、シリコン基板(基板領域)1上に実装されている。
シリコン基板1上には絶縁層(基板領域)2、絶縁層(基板領域)3が順次設けられている。
絶縁層2の材料は絶縁層3の材料とは異なる。例えば、絶縁層2および絶縁層3を酸素(O2 )を用いてアッシング(ドライエッチング)した場合、絶縁層3のエッチングレートが絶縁層2のエッチングレートよりも大きくなるように、絶縁層2および絶縁層3の材料は選択される。絶縁層2の材料は例えばシリコン窒化物であり、絶縁層3の材料は例えばポリイミドである。絶縁層3は例えば絶縁層2よりも厚い。
絶縁層3には絶縁層2に達する溝が設けられており、絶縁層2の上面の一部は露出している。本実施形態では、絶縁層3の側面は、図7の断面図に示すように、上から下に向かって幅が狭くなるテーパー状の形状(下に凸の曲線)を有する。絶縁層3の側面の断面は直線で規定されても構わないし、さらに、直線および曲線で規定されても構わない。また、互いに直交する三つの軸で規定される直交座標系においては、溝を規定する絶縁層3の側面は曲面となる。当該側面は例えば負の曲率を有する。また、充分な熱抵抗が確保される場合には、絶縁層3はなくても構わない。
絶縁層3上には絶縁層4が設けられている。絶縁層4の材料は例えばシリコン窒化物である。絶縁層4には開口20が設けられている。絶縁層4は絶縁層2,3とともに二つの下側空洞領域(第2の空洞領域)22を規定する。下側空洞領域22の高さL2は例えば10μmよりも大きい。絶縁層4には下部電極用のばね部(不図示)が設けられている。
絶縁層4上には下部電極5a、電導用の金属層5bが設けられている。金属層5bはアンカー9cの台座として用いられる。下部電極5aおよび金属層5bは同じ導電材料を含み、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)またはチタンナイトライド(TiN)を含む。
絶縁層4およびその上の下部電極5a上には絶縁層6が設けられている。同様に、絶縁層4およびその上の金属層5b上には絶縁層6が設けられている。絶縁層6の材料は、例えば、シリコン窒化物である。
金属層5bを覆う絶縁層6上には絶縁層8dが設けられている。絶縁層8dの中央部には環境温度センサの測温抵抗体7が設けられている。測温抵抗体7の材料は、例えば、白金(Pt)、窒化シリコン(TiN)またはチタン(Ti)である。Ptは、環境温度センサの安定性と精度の点で有利である。TiNおよびTiは半導体プロセスで一般的に使用される高融点金属を含む材料であり、水素センサ(半導体を含むデバイス)を製造する上では有利である。絶縁層6上には測温抵抗体7を覆うように絶縁層10bが設けられている。絶縁層10bには絶縁層12が設けられている。絶縁層8d、絶縁層10bおよび絶縁層12は測温抵抗体7を保護する膜(パッシベーション膜)を構成する。より詳細には、上記パッシベーション膜は、湿度などによって測温抵抗体7が腐食するなどの不良要因が発生することを未然に防止するためのものである。
図7では、測温抵抗体7は絶縁層6上に設けられているが、測温抵抗体7は別の部材上に設けられていても構わない。
下部電極5aの上方には可動構造30が配置されている。可動構造30は、水素アクチュエータ30aと、上部電極部30bと、水素アクチュエータ30cとを含む。上部電極部30bは、水素アクチュエータ30aと水素アクチュエータ30cとの間に設けられている。上部電極部30bの一端部は、ばね部14を介して、水素アクチュエータ30aに接続されている。上部電極部30bの他端部は、別のばね部14を介して、水素アクチュエータ30cに接続されている。上部電極部30bは図示しない外部回路に接続されている。
可動構造30(30a,30b,30c)下は空洞領域(上側空洞領域)21となっている。水素アクチュエータ30a下の上側空洞領域21は開口20を介して下側空洞領域22に連通している。同様に、水素アクチュエータ30c下の上側空洞領域21も開口20を介して下側空洞領域22に連通している。上側空洞領域21の高さ(L1)は下側空洞領域22の高さ(L2)よりも小さい(L1<L2)。また、充分な熱抵抗が確保される場合は、上側空洞領域21の高さ(L1)は下側空洞領域22の高さ(L2)よりも小さくても構わない。
上部電極部30bは、絶縁層8a、上部電極9a、絶縁層10a、導電層(ダミーメタル)11’および絶縁層12を含む。
上部電極9aは下部電極5aと対向するように絶縁層8a上に配置されている。上部電極9aおよび下部電極5aはMEMSキャパシタを構成する二つのキャパシタ電極である。上部電極9aの材料は、例えば、TiNを含む。TiNの代わりにTi等の他の導電材料を含んでいても構わない。
上部電極部30bにおいて、絶縁層10aは上部電極9aを覆うように絶縁層8a上に設けられている。導電層11’は絶縁層10a上に設けられている。導電層11’は絶縁層10aの残留応力による反りを抑制する目的のために設けられている。上記目的のためには、例えば、導電層11’の形状および寸法は上部電極9aのそれと同じにする。導電層11’の材料は、例えばTi、TiN、Ni、Cu、Pd、PtまたはPd−Niである。導電層11’は図1に示した可変電流源106に接続されておらず、導電層11’はヒーターとしては機能しない。
上部電極部30bにおいて、絶縁層12は導電層11’を覆うように絶縁層10a上に設けられている。絶縁層10aの材料は、例えば、シリコン窒化物を含む。
水素アクチュエータ30aおよび30cの各々は、絶縁層8a、ダミー電極9a’、測温抵抗体9b、絶縁層10a、ヒーター11、絶縁層12および水素吸蔵層13を含む。
ダミー電極9a’および測温抵抗体9bは絶縁層8a上に設けられている。ダミー電極9a’の形状は例えば板状またはメッシュ状である。ダミー電極9a’下には下部電極5aは設けられていないので、ダミー電極9a’はMEMSキャパシタの上部電極としては機能しない。
測温抵抗体9bの材料は、例えば、白金(Pt)、窒化チタン(TiN)またはチタン(Ti)である。測温抵抗体9bの材料は測温抵抗体7の材料と同じでも構わないし、または、異なっていても構わない。
水素アクチュエータ30aおよび30cにおいて、絶縁層10aはダミー電極9a’および測温抵抗体9bを覆うように絶縁層8a上に設けられている。その結果、測温抵抗体9bは絶縁層8aおよび絶縁層10aで覆われることになる。測温抵抗体9bは中空に浮いており、更に熱抵抗が高いばね14およびばね100bに接続されている。そのため、周囲の熱抵抗が高く、断熱構造を形成している。
ヒーター11は絶縁層10a上に設けられている。ヒーター11はその下方に測温抵抗体9bが存在するように配置されている。ヒーター11が測温抵抗体9bの上方に配置されることで、ヒーター11と測温抵抗体9bが同じ層内に平面方向に配置される場合に比べて、水素アクチュエータ30aおよび30cの面積を小さくすることが可能である。水素アクチュエータ30aおよび30cの面積が小さくなることは、熱抵抗が増加し断熱性が高まり、また熱容量が低下するため、より低消費電力および高速応答が可能である。図7では、測温抵抗体9bの一端部がヒーター11の外側に配置されているが、測温抵抗体9bの全体がヒーター11の下方に配置されていても構わない。
ヒーター11の材料は導電層11’の材料と同じである場合もあるいし、異なる場合もある。後述する実施形態の水素センサのMEMSキャパシタの製造方法では、ヒーター11の材料は導電層11’の材料と同じである。ヒーター11は図1に示した可変電流源106に接続されている。
水素アクチュエータ30aおよび30cにおいて、絶縁層12はヒーター11を覆うように絶縁層10a上に設けられている。その結果、ヒーター11は絶縁層10aおよび絶縁層12で覆われることになる。ヒーター11は中空に浮いており、更に熱抵抗が高いばね14および100bに接続されている。そのため、周囲の熱抵抗が高く、断熱構造を形成している。水素吸蔵層13は絶縁層12上に設けられている。ヒーター11は水素吸蔵層13を加熱するために用いられるので、本実施形態では上述のように断熱されている。
断熱性の高い材料を含む絶縁層8a、絶縁層10aおよび絶縁層12は、測温抵抗体9b、ヒーター11および水素吸蔵層13を周囲環境(可動部30の周囲)から充分に断熱する断熱構造を構成する。
水素吸蔵層13の材料は、例えば、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)を含有する合金もしくは当該合金に銅(Cu)およびシリコン(Si)を含有させた合金、チタン(Ti)を含有する合金、ランタン(La)を含有する合金、または、金属ガラスを含む。当該金属ガラスは、例えば、上記金属(pd、TiまたはLa)またはその合金を含む。
水素吸蔵層13は水素を吸収または吸着する(蓄積する)ことで膨張する(体積が増加する)。水素吸蔵層13が膨張すると、水素アクチュエータ30aおよび30cが変形し、上部電極部30bの位置は上側または下側に変位する。その結果、下部電極5aと上部電極9aとの間隔は変化する。
水素吸蔵層13の膨張量は水素吸収量または水素吸着量に応じて変化するため、下部電極5aと上部電極9aとの間隔は水素吸収量または水素吸着量に応じて変化する。その結果、水素吸蔵層13の水素吸収量または水素吸着量に応じてMEMSキャパシタの容量は変化する。
MEMSキャパシタ101は、図1に示すように、上記容量に対応する容量信号SCを出力し、容量信号SCは水素濃度算出回路102に入力される。水素濃度算出回路102は容量信号SCに基づいて容量を求めることで水素濃度を算出する。水素濃度算出回路102は、例えばCMOS回路を用いて構成されている。
水素アクチュエータ30aの両端は、それぞれ、ばね部14を介してアンカー9cに接続される。アンカー9cの下側には絶縁層8cが設けられ、アンカー9cの上側に絶縁層10cが設けられている。水素アクチュエータ30cも同様である。
ヒーター11の消費電力の増加を抑制するためには、ヒーター11を含んでいる水素アクチュエータ30aおよび30cから逃げる熱を少なくすればよい。そのためには、例えば、上側空洞領域21を大きくして上側空洞領域21の熱抵抗を高くする。上側空洞領域21を大きくするには、例えば、上側空洞領域21の高さL1を大きくする必要がある。高さL1を大きくすると、下部電極5aと上部電極9aとの間隔が広がる。当該間隔を広げることはMEMSキャパシタの容量低下を招く。その結果、水素濃度の検出感度は低下する。
そこで、本実施形態では、上側空洞領域21下に下側空洞領域22を設けている。上側空洞領域21は開口20を介して下側空洞領域22に連通し、上側空洞領域21と下側空洞領域22とは直列に接続する。したがって、上側空洞領域21の熱抵抗と下側空洞領域22の熱抵抗との合計熱抵抗は、これらの二つの熱抵抗の和となる。これにより、水素アクチュエータ30aおよび30c下の空洞領域の熱抵抗を大きくでき、ヒーター11の消費電力の増加を抑制しつつ、水素濃度の検出感度を高くできる。
したがって、図7に示すMEMSキャパシタ101を用いた水素センサ100は、環境温度T2(水素吸蔵層13の周囲の温度)が所定の温度範囲に収まるように、ヒーター温度T1を制御する構成に加えて、水素アクチュエータ30aおよび30c下の空洞領域の熱抵抗を大きくする構成を備えているので、消費電力を容易に低減できるとともに、検出感度を容易に高くすることが可能となる。
なお、本実施形態では、一つの環境温度センサを用いたが複数の環境温度センサを用いても構わない。この場合、環境温度T2は、例えば、複数の環境温度センサで測定された複数の環境温度の平均温度で規定される。
図8は、MEMSキャパシタ101の一部を模式的に示す平面図である。図7の断面図は図8の平面図の7−7線に沿った断面図に対応する。
ばね部14の熱抵抗は、例えば、空洞領域21の熱抵抗と空洞領域22の熱抵抗との合計熱抵抗の約10倍である。すなわち、ばね部14は熱抵抗が充分大きい。一般に、熱抵抗が大きい部材は、機械的なばね定数が小さいために柔らかい。水素アクチュエータ30a,30cに接続されるばね部14のばね定数が小さいと、例えば、水素を検出する際に水素アクチュエータ30a,30cの変形が容量部の上部電極部30bに伝わりにくくなり、水素の検出感度が悪くなる。そのため、水素アクチュエータ30a,30cの変形が上部電極部30bに効果的に伝わるように、ばね部14の端部が擬似的に機械的な固定端になるように、ばね部14の形状および物性を決める必要がある。その観点から、ばね部14の形状は折り返しのないライン状のストレート形状を含む必要あり、図8においては、二つのY字状のばね部を繋げた形状を有する。また、ストレート形状の効果を増すために、ばね部14はシリコン基板1に対して引張り応力を有する。Y字状の形状は、水素アクチュエータ30a,30cが水素を吸収して変形しても、ばね部14が回転しないようにするためである。回転を防止できるなら、ばね部14のパターンはライン状でも構わない。
図8において、100bは水素アクチュエータ30a(30c)と上部電極9aとを接続するばね部を示している。一般的なプロセスを用いて形成したばね部100bの熱抵抗は例えば空洞領域21,22の合計熱抵抗の約10倍であるが、擬似的な固定端としての機能は求められていないため、ばね部100bはばね部14のようにライン状のストレート形状である必要はない。200は水素アクチュエータ30a中のヒーターを外部回路(不図示)に接続するためのアンカーを示している。200aはアンカー200と水素アクチュエータ30aとを接続するばね部を示している。
図9(a)は上部電極9aおよびその下の構造(下部構造)の一例を示す断面図である。下部構造はTiN層9a1、SiN層9a2が順次積層された構造を含む。TiN層9a1、SiN層9a2および上部電極9aの厚さは、それぞれ、例えば、50nm、3μm、50nmである。TiN層9a1、SiN層9a2および上部電極9aの幅は例えば6μmである。
なお、TiN層9a,9a1の上面、下面および側面には、TiN層9a,9a1の酸化を防止するために実際には絶縁膜(保護膜)が設けられているが、図9(a)では簡略化のために省いてある。上記絶縁膜は、例えば、厚さ100nm程度の薄い絶縁膜であり、その材料は例えば窒化シリコンである。同様に、図9(b)、(d)および(e)中のTiN層の上面、下面および側面の絶縁膜も省いてある。また、図9(a),(b),(d),(e)のTiNは導電材料の一例であり、他の導電材料を用いても構わない。例えば、TiN層(上部電極)9aと同様に、Tiを用いても構わない。
図9(b)は水素アクチュエータ30aの構造の一例を示す断面図である。当該構造はTiN層30a1、SiN層30a2、TiN層(ヒーター)30a3、Pd層(水素吸蔵層)30a4が順次積層された構造を含む。TiN層30a1、SiN層30a2、TiN層30a3およびPd層30a4の厚さは、それぞれ、例えば、50nm、3μm、45nmおよび500nmである。
図9(c)はばね部14の構造の一例を示す断面図である。当該構造はSiN層14a1を含む。SiN層14a1の厚さおよび幅は、それぞれ、例えば、3μmおよび6μmである。
図9(d)はばね部100bの構造の一例を示す断面図である。当該構造はTiN層100b1、SiN層100b2が順次積層された構造を含む。TiN層100b1およびSiN層100b2の厚さは、それぞれ、例えば、50nmおよび3μmである。TiN層100b1およびSiN層100b2の幅は例えば6μmである。
図9(e)はばね部200aの構造の一例を示す断面図である。当該構造はTiN層200a1、SiN層200a2およびTiN層200a3が順次積層された構造を含む。TiN層200a1、SiN層200a2およびTiN層200a3の厚さは、それぞれ、例えば、50nm、3μmおよび50nmである。TiN層200a1、SiN層200a2およびTiN層200a3の幅は例えば8μmまたは6μmである。
図10はアンカー200のより詳細な構造を示す断面図である。アンカー200は、上部電極の引き出し配線用のアンカービア200−1と、ヒーターの引き出し配線用のアンカービア200−2とを含む。
図10において、300、302、303、305および307は絶縁層を示している。301は下部電極と同じ工程で形成された電極を示しており、304は上部電極と同じ工程で形成された電極を示しており、306はヒーターと同じ工程で形成された配線を示している。
アンカービア200−1では、配線304と配線306とは絶縁層305によって電気的に絶縁されている。また、アンカービア200−1では、配線304の右側の端部は上部電極(不図示)に接続される。配線304は配線301を介して外部回路(電源)に接続される。
ヒーターの引き出し配線用のアンカービア200−2では、配線304と配線306とは電気的に接続されている。また、アンカービア200−2では、配線306の右側の端部がヒーター(不図示)に接続される。配線306は配線304および配線301を介して外部回路(電源)に接続される。
なお、本実施形態では、水素アクチュエータの数は二つであるが、水素アクチュエータの数は一つでもまたは三つ以上でも構わない。
図11〜図24は、MEMSキャパシタ101の製造方法の一例を説明するための断面図である。
まず、図11に示すように、シリコン基板1上に絶縁層2、絶縁層3および絶縁層4を順次形成する。絶縁層4上に下部電極5aおよび金属層5bとなる導電層を形成し、当該導電層上にレジストパターン(不図示)を形成し、そして、当該レジストパターンをマスクに用いて上記導電層をエッチングすることにより、下部電極5aおよび金属層5bを形成する。
次に図12に示すように、絶縁層4、下部電極5aおよび金属層5bを覆う絶縁層6を形成する。絶縁層6の材料は、例えば、絶縁層4の材料と同じである。
次に図13に示すように、図示しないレジストパターンをマスクに用いたエッチングにより、絶縁層3に連通する貫通孔60を絶縁層4中に形成する。その後、貫通孔60を埋めるように、図14に示すように、絶縁層6上に犠牲層52を形成する。犠牲層52の材料は、絶縁層3の材料と同じであり、例えば、感光性ポリイミドである。このとき、犠牲層52の表面は例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)により平坦化しても構わない。
次に図15に示すように、フォトリソグラフィにより犠牲層52を加工することにより金属層5b上の絶縁層6に連通する貫通孔61を犠牲層52中に形成する。その後、図16に示すように、貫通孔61の内面(側面、底面)を覆うように全面に絶縁層8を形成する。絶縁層8の材料は、例えば、絶縁層6の材料(シリコン窒化物)と同じである。
次に図17に示すように、フォトリソグラフィプロセスおよびエッチングプロセスを用いて貫通孔61の底の絶縁層6を除去し、金属層5bの表面の一部を露出させる。続いて、図7に示した上部電極9a、ダミー電極9a’、測温抵抗体7,9bおよびアンカー9cとなる導電層9を図18に示すように、全面に形成する。導電層9は、露出した絶縁層6、貫通孔61の底に露出した金属層5bの表面にコンタクトし、かつ、貫通孔61の内面(側面、底面)を覆うように形成する。
次に、フォトリソグラフィプロセスおよびエッチングプロセスを用いて図18に示した導電層9を加工することにより、図19に示すように、上部電極9a、ダミー電極9a’、測温抵抗体7,9bおよびアンカー9cを形成する。
図7に示した絶縁層10a,10b,10cとなる絶縁層10を図20に示すように全面に形成する。
次に図21に示すように、絶縁層10上にヒーター11および導電層11’を形成する。ヒーター11および導電層11’を形成する工程は、例えば、ヒーター11および導電層11’となる導電層(例えばTiN層)を形成する工程と、フォトリソグラフィプロセスおよびエッチングプロセスを用いて上記導電層をパターニングする工程とを含む。
なお、図21の断面では、ヒーター11は分断されているように見えるが、実際にはヒーター11は分断されていない。図28(a)にヒーター11の平面パターンの一例を示し、図28(b)にヒーター11の平面パターンの他の例を示す。
次に図22に示すように、ヒーター11および導電層11’を覆うように絶縁層10上に絶縁層12を形成する。その後、絶縁層12上にレジストパターン(不図示)を形成し、当該レジストパターンをマスクに用いて絶縁層12、絶縁層10、絶縁層8をエッチングすることにより、図23に示すように、絶縁層12,10,8のパターニングを行い、犠牲層52の表面に達する貫通孔62を形成するとともに、測温抵抗体7のパッシベーション膜12,10b,8dを形成する。
次に図24に示すように、ヒーター11を覆っている部分の絶縁層12上に水素吸蔵層13を形成し、その後、例えば、酸素(O2 )を用いたアッシング(等方性ドライエッチング)により、犠牲層52を除去するとともに、絶縁層3の一部を除去することにより、図7に示した水素センサが得られる。
なお、異方性エッチングを用いては犠牲層52の全体を除去できず、そして、図1の下側空洞領域22を形成できるように絶縁層3の一部を除去することもできない。
図25〜図27は、下側空洞領域の変形例を模式的に示す断面図である。
図25は、図7の二つの下側空洞領域22を空洞で繋げた構成に対応する一つの下側空洞領域22aを示している。
図26は、シリコン基板1に設けた貫通孔(開口)によって規定される下側空洞領域22bを示している。空洞領域22b内には空気が存在する。空気は熱抵抗が高い。絶縁層4,6を薄くすれば下側空洞領域22bは上側空洞領域(不図示)に実質的に直列に接続され、下側空洞領域22bは空洞領域22と同様に機能する。図26では、図1に示した絶縁層2,3は用いていない。絶縁層2,3がない方が下側空洞領域22bは容易に形成できるからである。
図26には異方性エッチングにより形成された形状の下側空洞領域22bが示されているが、図27に示すように、等方性エッチングにより形成された下側空洞領域22b’を用いても構わない。図27には側面が曲線の空洞領域22b’が示されているが、当該側面は直線になる場合もあるし、直線と曲線の組合せになる場合もある。
なお、上述した実施形態では水素センサについて説明したが、水素吸蔵層の代わりに他のガスを吸収する吸蔵層を用いることで、他のガスセンサも同様に実施することが可能である。
(第2の実施形態)
図29は、第2の実施形態に係る水素センサ100’を説明するための断面図である。水素センサ’は接触燃焼型の可燃性ガスセンサである。可燃性ガスは例えば、水素、メタン、プロパン、ブタン、イソブタンなどである。
水素センサ100’は、センサ素子100’sおよび参照素子100’rを含む。センサ素子100’sは基板1上の断熱された梁構造内に設けられたダミー電極9a’およびヒーターとしての抵抗体11s、ならびに、これらの上に設けられた触媒層13sを含む。触媒層13sの材料は、例えば、Pd、PdCuSi、Pd合金、PtまたはPt合金である。参照素子100’rは断熱された梁構造内に設けられたヒーターとしての抵抗体11rを含む。
図30は、接触燃焼型の可燃性ガスセンサの検出回路の一例である。当該検出回路は、11s、抵抗体11r、電圧源201および電圧測定回路202からなる抵抗ブリッジを用いたものである。ここでは例として2つの抵抗体がブリッジされているが、検出回路は4つの抵抗体によるブリッジ(ホイートストンブリッジ)でも構わない。
電圧源201により、抵抗体11s及び抵抗体11rに電圧が印加されると、抵抗体11s及び抵抗体11rはジュール熱により一定温度に加熱される。温度は例えば100〜400度である。
ここで、可燃性ガスが存在すると、センサ素子100’sの触媒層13sにおいて可燃性ガスの接触燃焼が発生し、温度が上昇する。一方、参照素子100’rは触媒材料を持たないので接触燃焼は発生しない。そのため、センサ素子100’sのみで温度上昇が発生する。温度上昇により抵抗体11sの抵抗値(Rs)は上昇する。その結果、電圧測定回路202の出力電圧(Vout)、つまり、センサ出力は増加する。抵抗体11rの抵抗値をRr、電圧源201の電圧値をVbrgとする、Vout=Vbrg/{(Rr/Rs)+1}である。したがって、出力電圧(Vout)の変化に基づいて可燃性ガスの検出が可能になる。
本実施形態の水素センサ100’は、図11〜図24を用いて説明した第1の実施形態の水素センサ(容量型水素センサ)100と同一もしくはそれに準じた製造方法を用いて製造することが可能である。したがって、図31に示すように、本実施形態の水素センサ100’および第1の実施形態の水素センサ100を同一基板1上に混載したセンサ(マルチセンサ)を実現することが可能である。
接触燃焼型の可燃性ガスセンサは、一般的には可燃性ガスの種類を特定することはできないが、図31に示すマルチセンサにおいて水素センサ100により可燃性ガスが水素か否かを判別することが可能になる。
(第3の実施形態)
図32は、第3の実施形態に係る水素センサ100’’を説明するための断面図である。水素センサ100’’は熱伝導型の水素センサである。
水素センサ100’’は、センサ素子100’’sおよび測温抵抗体7を含む。センサ素子100’’は基板1上の断熱された梁構造内に設けられた測温抵抗体9bおよび抵抗体11sを含む。図32では抵抗体11sは測温抵抗体9bの上方に配置されているが、図33に示すように抵抗体11sおよび測温抵抗体9bの上下関係は逆でも構わない。測温抵抗体7は第1の実施形態と同様に断熱された構造内に設けられている。
図34は、熱伝導型の水素センサの検出回路の一例である。図34において、203は抵抗体11sに電圧を印加してするための電源を示している。電圧が印加された抵抗体11sは熱を発生して測温抵抗体9bを一定の温度(例えば100度〜400度)に加熱する。一方、測温抵抗体7は加熱されない。水素ガスは空気や窒素ガスに比べて熱伝導率が非常に高いため。そのため、、水素ガスが存在する雰囲気下で加熱された測温抵抗体9bの温度は、空気や窒素ガス雰囲気等の水素ガスが存在しない雰囲気下で加熱された測温抵抗体9bの温度よりも低い。その結果、水素ガスが存在すると、電圧測定回路202の出力電圧(Vout)、つまり、センサ出力は増加する。測温抵抗体7の抵抗値をRr、測温抵抗体9bの抵抗をRsとすると、Vout=Vbrg/{(Rr/Rs)+1}である。したがって、センサ出力Voutの変化に基づいて水素を検出できる。一般に放熱による温度低下はガス濃度に比例するため、高い水素濃度に対して水素を検出することが可能になる。
本実施形態の水素センサ100’’は、図11〜図24を用いて説明した第1の実施形態の水素センサ(容量型水素センサ)100と同一もしくはそれに準じた製造方法を用いて製造することが可能である。したがって、図35に示すように、本実施形態の水素センサ100’’および第1の実施形態の水素センサ100を同一基板1上に混載したセンサ(マルチセンサ)を実現することが可能である。
容量型水素センサは水素吸蔵材料の特性上、水素濃度が低い領域で感度が高いが、水素濃度が高い領域では感度が下がる。一方、熱伝導型水素センサは、水素濃度が低い領域では感度は低いが、水素濃度が高い領域では感度が高い。したがって、図35に示すマルチセンサは上記二種類のガスセンサお互いの欠点を補うことが可能である。
更に、水素センサ100、水素センサ100’および水素センサ100’を同一基板1上に混載したセンサ(マルチセンサ)を実施することも可能である。このマルチセンサは、例えば、図31に示したマルチセンサの水素センサ100’の右側に図36に示すように水素センサ100’’を配置することで実施できる。なお、水素センサ100,100’,100’’の配列順は適宜変更可能である。図36のマルチセンサを用いれば、低濃度から高濃度までの水素を検出し、更に水素ガス以外のメタンなどの可燃性ガスを検出することが可能になる。
なお、第1の実施形態は水素センサ100の単体の例について説明したが、水素センサ100’の単体、水素センサ100’’の単体で実施しても構わない。さらに、水素センサ100は含まないが水素センサ100’および100’’を含むマルチセンサも実施可能である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。