以下、本発明の一実施形態について説明する。
冒頭で説明した通り、線材コイルを結束部材で結束する際には、線材に疵が生じることを抑制できることが要求され、そのためには、結束前に線材コイルに潤滑剤を塗布することが行われる。ここで、線材コイルの温度が高い状態で線材コイルに潤滑剤を塗布すると、潤滑剤の成分が熱で変質し、十分な潤滑性能を得られない虞がある。そこで、潤滑剤の成分が熱で変質することを抑制するための一手段として、線材コイルに水を噴射し、線材コイルを水冷することが検討される。
このように線材コイルを水冷する際に、線材コイルの水冷が不足する場合には、潤滑剤の成分が熱で変質し、十分な潤滑性能を得られない虞がある。一方、線材コイルの水冷が過剰な場合、すなわち、例えば、線材コイルに噴射する水の総量(噴射時間及び噴射流量の積)が多い場合には、水冷時に線材コイルのコイル形状が崩れたり、線材に錆びが生じたりする等の不具合が発生する虞がある。
本実施形態に係る線材コイルの水冷装置は、上記事情に鑑み、線材コイルの水冷時に、線材コイルのコイル形状が崩れたり、線材に錆びが生じたりする等の不具合の発生を抑制しつつ、潤滑剤塗布時に潤滑剤の成分が熱で変質することを抑制できる温度にまで線材コイルを水冷することを目的に考案されたものである。
図1は、本実施形態に係る線材コイルの水冷装置10の全体構成図である。以下、線材コイルの水冷装置10を、水冷装置10と略称する。水冷装置10は、蒸気フード12と、排蒸ブロワ機構14と、循環水ピット16と、配管18と、複数の第一噴射ノズル20と、第二噴射ノズル22と、給水ポンプ24と、情報取得部25と、温度検出部26と、制御部28とを備える。
蒸気フード12は、下側に開口する箱型に形成されており、天壁部30及び側壁部32を有している。天壁部30には、水平方向に延びるスリット34が形成されている。スリット34には、概略C字状に形成されたハンガフック36における鉛直方向に延びる部分、すなわち、アーム部38が挿入可能になっている。
アーム部38の先端には、水平方向に延びるフック部40が形成されている。フック部40には、熱間圧延された線材がコイル状に巻かれた線材コイル42が引っ掛けられる。つまり、線材コイル42の内側にフック部40が挿入され、線材コイル42がフック部40に支持される。線材コイル42は、フック部40に引っ掛けられた状態において水平方向を軸方向として配置される。
この線材コイル42は、蒸気フード12とは別の場所でフック部40に引っ掛けられる。そして、フック部40に線材コイル42が引っ掛けられた状態でハンガフック36が蒸気フード12に向かって移動し、アーム部38がスリット34に挿入される位置までハンガフック36が移動すると、線材コイル42が蒸気フード12の内側に収容される。なお、本実施形態において、線材コイル42は、一例として、鋼製の線材によって形成されている。
排蒸ブロワ機構14は、ブロワダクト44と、ブロワファン46とを有する。ブロワダクト44の下端は、蒸気フード12の側壁部32に開口しており、ブロワファン46は、ブロワダクト44の上下方向の中央部付近に設けられている。ブロワファン46は、ブロワダクト44を通じて蒸気フード12の内側の空気を外部に排出するように作動する。
循環水ピット16は、蒸気フード12に隣接して設置されている。この循環水ピット16は、上側に開口する容器状に形成されている。後述するように線材コイル42の水冷に使用された水は、図示しない回収機構によって回収され、回収された水は、循環水ピット16の内側に貯留される。
配管18は、本体管48と、第一分岐管50と、第二分岐管52とを有する。本体管48の下端側は、循環水ピット16の内側に向けて延びており、この本体管48の下端には、給水ポンプ24が接続されている。給水ポンプ24は、循環水ピット16の水を汲み上げられる位置に配置されている。この給水ポンプ24は、配管18を通じて後述する複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22に水を供給するように作動する。
第一分岐管50及び第二分岐管52は、本体管48から分岐している。第一分岐管50は、水平方向に延びており、第二分岐管52は、鉛直方向に延びている。第一分岐管50は、蒸気フード12の内側に挿入されており、天壁部30の下面に沿って配置されている。ハンガフック36のフック部40に引っ掛けられた線材コイル42が蒸気フード12の内側に収容された状態では、天壁部30と線材コイル42(フック部40)との間に第一分岐管50が位置するように、第一分岐管50の配置位置が設定されている。
第二分岐管52は、蒸気フード12の外側に配置されている。この第二分岐管52は、線材コイル42の軸方向と対向する側壁部32の外面に沿って配置されている。第二分岐管52の下端は、蒸気フード12の側壁部32に形成された開口58と対向して配置されている。
第一噴射ノズル20は、「噴射ノズル」の一例である。複数の第一噴射ノズル20は、第一分岐管50に形成されている。この複数の第一噴射ノズル20は、第一分岐管50に形成されることにより、線材コイル42の径方向外側に配置されている。また、この複数の第一噴射ノズル20は、第一分岐管50の長さ方向に並んで形成されることにより、線材コイル42の軸方向に沿って並んでいる。この複数の第一噴射ノズル20は、蒸気フード12内の所定位置に配置された線材コイル42の外周部に向けてそれぞれ開口している。つまり、この複数の第一噴射ノズル20は、下側に向けて開口している。
図2は、図1の複数の第一噴射ノズル20を下側から見た図である。図2に示されるように、複数の第一噴射ノズル20は、一例として、二列に形成されている。図2では、図1に示される線材コイル42の軸方向端側の部位42Aに相当する範囲が範囲Aで示されており、図1に示される線材コイル42の軸方向中央側の部位42Bに相当する範囲が範囲Bで示されている。また、範囲Aと範囲Bとの間の範囲が範囲Cで示されている。
図2に示されるように、複数の第一噴射ノズル20は、より具体的には、範囲Aに形成された端側ノズル20Aと、範囲Bに形成された中央側ノズル20Bと、範囲Cに形成された中間ノズル20Cとを含んでいる。端側ノズル20Aは、線材コイル42の軸方向端側の部位42A(図1参照)と対向し、中央側ノズル20Bは、線材コイル42の軸方向中央側の部位(図1参照)と対向する。中間ノズル20Cは、端側ノズル20Aよりも開口面積が大きくなっており、中央側ノズル20Bは、端側ノズル20A及び中間ノズル20Cよりも開口面積が大きくなっている。
図1に示されるように、第二噴射ノズル22は、第二分岐管52の下部に形成されている。この第二噴射ノズル22は、第二分岐管52に形成されることにより、線材コイル42の軸方向外側に配置されている。この第二噴射ノズル22は、線材コイル42の内周部に向けて開口している。
情報取得部25は、水冷の対象となる線材コイル42の情報を取得するためのものである。本実施形態では、一例として、情報には、線材コイル42の「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」が含まれる。情報取得部25には、例えば、バーコードリーダやRFIDタグリーダ等の情報記憶部に記憶された情報を読み取り可能な情報読取装置が適用される。水冷の対象となる線材コイル42に対応する情報記憶部には、「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」に関する情報(トラッキング情報)が記憶され、情報取得部25は、その情報を読み取ることで、水冷の対象となる線材コイル42の情報を取得する。情報取得部25は、取得した情報を制御部28に出力する。
温度検出部26は、水冷直前の線材コイル42の温度を検出するためのものである。図3は、図1の温度検出部26を構成する複数の温度センサ54と線材コイル42の配置位置を示す図である。図3に示されるように、温度検出部26は、複数の温度センサ54を有する。複数の温度センサ54は、線材コイル42の径方向外側に配置されており、線材コイル42の軸方向に並んでいる。この複数の温度センサ54は、水冷直前の線材コイル42の軸方向における複数箇所の温度をそれぞれ検出し、検出した温度に応じた信号を制御部28に出力する。
図1に示される制御部28は、例えば、演算装置及び記憶装置を有する計算機と、給水ポンプ24を制御するシーケンサ等との組合せによって構成される。この制御部28は、後に詳述するように、線材コイル42に噴射される水の総量が規定総量以下で、線材コイル42の温度が規定温度以下になるように、温度検出部26によって検出された線材コイル42の温度に基づいて、給水ポンプ24の作動時間及び供給流量を調節する機能を有する。
この制御部28は、具体的には、テーブル56を有する。テーブル56は、制御部28の記憶装置に予め記憶される。図4は、図1の制御部28の記憶装置に記憶されたテーブル56の一例を示す図である。図4に示されるように、テーブル56には、「入力項目」及び「出力項目」が設けられている。「入力項目」には、線材コイル42の「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」に関する情報と、水冷直前の線材コイル42の「温度」が含まれる。
「需要家」の項目には、線材コイル42を使用する需要家の具体的な名称が設定される。図4では、「需要家」の具体的な名称が「A1」〜「An」で示されている。「規格」の項目には、線材コイル42について定められた具体的な規格の名称が設定される。図4では、「規格」の具体的な名称が「B1」〜「Bn」で示されている。
「線径」の項目には、線材コイル42の線径(線材の径)が設定される。線径は、下限値と上限値が設定される。図4では、「線径」の下限値が「C1」〜「Cn」で示されており、「線径」の上限値が「D1」〜「Dn」で示されている。鋼種の項目には、線材コイル42を形成する線材の材料の具体的な名称が設定される。図4では、鋼種の具体的な名称が「E1」〜「En」で示されている。
「温度」の項目には、水冷直前の線材コイル42の温度が設定される。温度は、下限値と上限値が設定される。図4では、「温度」の下限値が「F1」〜「Fn」で示されており、「温度」の上限値が「G1」〜「Gn」で示されている。
「出力項目」には、給水ポンプ24の「作動時間」及び「供給流量」が含まれる。「作動時間」の項目には、給水ポンプ24の具体的な作動時間の数値が設定され、「供給流量」の項目には、給水ポンプ24の具体的な供給流量の数値が設定される。図4では、「作動時間」の具体的な数値が「H1」〜「Hn」で示されており、「供給流量」の具体的な数値が「I1」〜「In」で示されている。
上述の給水ポンプ24の「作動時間」は、複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22から噴射される水の噴射時間、つまり、線材コイル42の水冷時間に相当する。また、上述の給水ポンプ24の「供給流量」は、給水ポンプ24から複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22へ供給される水の流量、つまり、線材コイル42に噴射される水の噴射流量(平均流量)に相当する。
「出力項目」に設定された「作動時間」及び「供給流量」のそれぞれの数値は、複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22から線材コイル42に噴射される水の総量(噴射時間及び噴射流量の積)が規定総量以下で、線材コイル42の温度が規定温度以下に低下する値に設定されている。ここで、上述の規定総量は、水冷時に線材コイル42のコイル形状が崩れたり、線材に錆びが生じたりする等の不具合が発生することを抑制できる量に設定され、上述の規定温度は、潤滑剤塗布時に潤滑剤の成分が熱で変質することを抑制できる温度に設定される。
なお、線材コイル42の鋼種によっては、給水ポンプ24の「作動時間」及び「供給流量」が「0」である場合もある。また、給水ポンプ24の「作動時間」及び「供給流量」には、水冷直前の線材コイル42の温度によらずに、線材コイル42を強制的に冷却する場合の値が設定されている場合がある。さらに、テーブル56に設定された「設定情報1〜n」には、選択される際の優先順位が設定されている場合がある。
次に、本実施形態に係る線材コイルの結束方法について説明する。
本実施形態に係る線材コイルの結束方法は、以下に説明するように、水冷工程と、塗布工程と、結束工程とを備える。
図1に示される線材コイル42は、線材が熱間圧延された直後に巻取装置でコイル状に巻かれたものであり、蒸気フード12とは別の場所でフック部40に引っ掛けられる。このようにフック部40に線材コイル42が引っ掛けられた状態でハンガフック36が蒸気フード12に向かって移動し、アーム部38がスリット34に挿入される位置までハンガフック36が移動すると、線材コイル42が蒸気フード12の内側に収容される。
(水冷工程)
水冷工程は、線材コイル42が蒸気フード12の内側に収容された状態で開始される。図5は、図1の制御部28の制御の流れを示すフローチャートである。制御部28は、水冷工程が開始されると、図5のフローチャートで示される処理を実行する。以下、図5のフローチャート、及び、図1の水冷装置10の構成を参照しながら、水冷工程の流れを説明する。
ステップS1では、制御部28が、情報取得部25を作動させる。情報取得部25は、水冷の対象となる線材コイル42に対応する情報記憶部に記憶された情報を読み取ることで、この水冷の対象となる線材コイル42の情報を取得する。この情報には、水冷の対象となる線材コイル42の「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」に関する情報が含まれている。情報取得部25は、取得した情報を制御部28に出力する。
ステップS2では、制御部28が、温度検出部26の複数の温度センサ54(図3参照)を作動させる。複数の温度センサ54は、水冷直前の線材コイル42の軸方向における複数箇所の温度をそれぞれ検出し、検出した温度に応じた信号を制御部28に出力する。
本実施形態において、水冷直前とは、より具体的には、水冷の20秒前〜1分前に相当する。水冷直前の温度の定義としては、線材コイル42が水冷装置10に到達する前の所定の位置での温度が水冷直前の温度に相当する。この温度を測定する位置から、水冷装置10に到達するまでの「時間」は、操業状況により変動する。
ステップS3では、制御部28が、テーブル56(図4も参照)に基づいて給水ポンプ24の作動時間及び供給流量を決定する。具体的には、制御部28は、ステップS1で取得された線材コイル42の「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」に関する情報と、ステップS2で検出された水冷直前の線材コイル42の温度から、テーブル56に基づいて、給水ポンプ24の「作動時間」及び「供給流量」を決定する。
なお、ステップS3では、制御部28が、複数の温度センサ54によって検出された複数箇所の温度のうち最も高い温度を採用し、この最も高い温度と、上述の「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」に関する情報から、テーブル56に基づいて、給水ポンプ24の「作動時間」及び「供給流量」を決定する。このとき、線材コイル42の鋼種によっては、給水ポンプ24の「作動時間」及び「供給流量」が「0」である場合、すなわち、線材コイル42の水冷を行わない場合もある。この場合には、後述するステップS4、S5は省略される。
本実施形態では、上述のように、複数の温度センサ54によって検出された複数箇所の温度のうち最も高い温度を採用するが、これは、低い側の温度ではスケール(酸化膜)等の影響で測定温度のばらつきが大きいこと、線材コイル42を外して線材コイル42の周辺の温度を測っても正しい温度測定が難いこと等を考慮するからである。この前提で、最高温度を採用すれば、後述するように、温度が高くなることによる塗布不良も防止しやすくなる。
ステップS4では、制御部28が、上述のステップS3で決定された「作動時間」及び「供給流量」で給水ポンプ24を作動させる。また、制御部28は、給水ポンプ24を作動させると、タイマを作動させる。
このようにして給水ポンプ24が作動すると、配管18を通じて複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22に水が供給され、複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22から水が噴射される。このとき、複数の第一噴射ノズル20からは、線材コイル42の外周部に向けて水が噴射され、第二噴射ノズル22からは、線材コイル42の内周部に向けて水が噴射される。このようにして複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22から水が噴射されることで、線材コイル42が水冷される。
ステップS5では、制御部28が、タイマのカウント時間が上述のステップS3で決定された「作動時間」に達したか否かを判断する。そして、制御部28は、タイマのカウント時間が上述のステップS3で決定された「作動時間」に達した場合には、給水ポンプ24を停止させる。
このようにして給水ポンプ24が停止すると、複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22からの水の噴射が停止し、線材コイル42の水冷が終了する。
上述の通り、テーブル56の出力項目に設定された「作動時間」及び「供給流量」のそれぞれは、線材コイル42の水冷時に、線材コイル42のコイル形状が崩れたり、線材に錆びが生じたりする等の不具合の発生を抑制しつつ、潤滑剤塗布時に潤滑剤の成分が熱で変質することを抑制できる温度にまで線材コイル42を水冷できる値に設定されている。したがって、このテーブル56に基づいて水冷されることにより、線材コイル42は、コイル形状が崩れること、線材に錆びが生じること、潤滑剤の成分が熱で変質すること等が抑制された最適な状態とされる。
(塗布工程)
塗布工程では、線材コイル42に潤滑剤が塗布される。このとき、線材コイル42は、コイル形状が崩れること、線材に錆びが生じること、潤滑剤の成分が熱で変質すること等が抑制された最適な状態にある。このため、塗布工程で線材コイル42に潤滑剤が塗布された後には、線材コイル42に潤滑剤が万遍なく塗布された状態とされる。
(結束工程)
結束工程では、線材コイル42が結束部材で結束される。このとき、線材コイル42は、潤滑剤が万遍なく塗布された状態にあるので、線材同士が擦れ合うことが抑制される。これにより、結束時に線材に疵が生じることが抑制される。
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)水冷装置10では、給水ポンプ24が作動すると、複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22に水が供給され、この複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22から線材コイル42に水が噴射される。そして、線材コイル42に水が噴射されることにより、線材コイル42が水冷される。
また、上述の水冷直前には、線材コイル42の温度が温度検出部26によって予め検出される。そして、この温度検出部26によって検出された線材コイル42の温度に基づいて、上述の水冷時には、給水ポンプ24の作動時間及び供給流量が制御部28によって調節され、これにより、線材コイル42に噴射される水の噴射時間及び噴射流量が調節される。
ここで、上述の水冷時に、制御部28は、複数の第一噴射ノズル20及び第二噴射ノズル22から線材コイル42に噴射される水の総量が規定総量以下で、線材コイル42の温度が規定温度以下に低下するように、給水ポンプ24の作動時間及び供給流量を調節する。上述の規定総量は、水冷時に線材コイル42のコイル形状が崩れたり、線材に錆びが生じたりする等の不具合が発生することを抑制できる量に設定され、上述の規定温度は、潤滑剤塗布時に潤滑剤の成分が熱で変質することを抑制できる温度に設定される。
これにより、線材コイル42の水冷時に、線材コイル42のコイル形状が崩れたり、線材に錆びが生じたりする等の不具合の発生を抑制しつつ、潤滑剤塗布時に潤滑剤の成分が熱で変質することを抑制できる温度にまで線材コイル42を水冷できる。したがって、潤滑剤塗布時に潤滑剤の成分が熱で変質することが抑制されるので、十分な潤滑性能を得ることができる。この結果、線材同士が擦れ合うことが抑制されるので、線材コイル42の結束時に線材に疵が生じることを抑制できる。
(2)水冷装置10では、潤滑剤塗布時に潤滑剤の成分が熱で変質することを抑制できる温度にまで線材コイル42を水冷した時点で水冷を停止するので、水冷工程の時間(サイクルタイム)を短縮化できる。
(3)水冷装置10では、水冷時に線材コイル42のコイル形状が崩れること、線材に錆びが生じることを抑制できるので、水冷後に線材コイル42を結束する際には、線材コイル42を適切な荷姿に結束できる。
(4)水冷装置10では、線材コイル42の径方向外側に、線材コイル42の軸方向に沿って並ぶと共に、それぞれ線材コイル42の外周部に向けて開口する複数の第一噴射ノズル20が配置されている。また、線材コイル42の軸方向外側には、線材コイル42の内周部に向けて開口する第二噴射ノズル22が配置されている。したがって、給水ポンプ24が作動したときには、複数の第一噴射ノズル20から線材コイル42の外周部に線材コイル42の軸方向に亘って水が噴射されると共に、第二噴射ノズル22から線材コイル42の内周部に水が噴射される。これにより、線材コイル42の全体を効率良く水冷できるので、潤滑剤塗布時に潤滑剤の成分が熱で変質することを線材コイル42の全体に亘って抑制できる。
(5)水冷装置10の複数の第一噴射ノズル20には、線材コイル42の軸方向端側の部位42Aに対向する端側ノズル20Aと、線材コイル42の軸方向中央側の部位42Bに対向する中央側ノズル20Bが含まれる。ここで、中央側ノズル20Bの方が端側ノズル20Aよりも開口面積が大きいので、線材コイル42の軸方向端側の部位42Aよりも、線材コイル42の軸方向中央側の部位42Bの方が噴射される水の流量が多くなる。これにより、線材コイル42の軸方向端側の部位42Aよりも熱が篭ることにより高温となりやすい線材コイル42の軸方向中央側の部位42Bを効率良く水冷できる。この結果、高温となりやすい線材コイル42の軸方向中央側の部位42Bにおいて、潤滑剤の成分が熱で変質することを抑制できる。
(6)水冷装置10では、線材コイル42の「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」に関する情報が情報取得部25によって取得されると共に、水冷直前の線材コイル42の温度が温度検出部26によって検出される。そして、情報取得部25によって取得された情報と、温度検出部26によって検出された温度から、テーブル56に基づいて、給水ポンプ24の作動時間及び供給流量が制御部28によって調節される。これにより、制御部28の制御を簡素化できると共に、線材コイル42の「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」に関する情報と、水冷直前の線材コイル42の温度に応じて、線材コイル42に噴射される水の噴射時間及び噴射流量を適切に調節できる。
(7)水冷装置10では、水冷直前の線材コイル42における複数箇所の温度が温度検出部26(複数の温度センサ54)によって検出される。そして、この温度検出部26によって検出された複数箇所の温度のうち最も高い温度に基づいて、給水ポンプ24の作動時間及び供給流量が制御部28によって調節される。したがって、線材コイル42に水冷が不十分な箇所が生じることを抑制できるので、潤滑剤の成分が熱で局所的に変質することを抑制できる。これにより、線材コイル42の全体に亘ってより均一な潤滑性能を得ることができる。
次に、本実施形態の実施例について説明する。
図6A、図6Bは、本実施形態の実施例として、水冷条件を異ならせた場合の水冷効果を検証する試験の結果を示す表である。本試験では、水冷条件の一例として、線材の「線径(mm)」、「水冷時間(秒)」を設定している。
また、本試験では、線材コイル42の「上部」、「中央」、「下部」について、「水冷前の最高温度(℃)」と、「水冷後の最高温度(℃)」と、「水冷前の平均温度(℃)」と、「水冷後の平均温度(℃)」を測定している。「水冷前の平均温度」及び「水冷後の平均温度」における平均温度とは、線材コイル42の「上部」、「中央」、「下部」の平均温度のことである。また、最高温度は、線材コイル42の軸方向の複数箇所の温度のうち最も高い温度に相当する。
「ΔTmax」は、「水冷前の最高温度」と「水冷後の最高温度」との差であり、「ΔTave」は、「水冷前の平均温度」と「水冷後の平均温度」との差である。
本試験では、水冷条件を異ならせた場合の水冷効果として、線材コイル42の結束時における線材の「疵」の有無、水冷時に線材コイル42のコイル形状が崩れる「形状崩れ」の有無、水冷時における線材の「錆」の有無を確認する。
図6A、図6Bに示されるように、水冷条件によっては、「疵」、「形状崩れ」、「錆」がいずれも無い場合(○の場合)と、「疵」、「形状崩れ」、「錆」の少なくともいずれかが有る場合(△又は×の場合)とがある。線材コイル42に噴射される水の噴射時間が不足すると、「疵」が生じる傾向にある。一方、線材コイル42に噴射される水の噴射時間が必要以上に長くなると、「形状崩れ」及び「錆」の少なくとも一方が生じる傾向にある。
図6A、図6Bの結果のうち、「疵」、「形状崩れ」、「錆」がいずれも無い場合(○の場合)の水冷条件が上記のテーブル56に反映されることより、「疵」、「形状崩れ」、「錆」の発生を抑制することが可能になる。
図7は、上記試験から得られた「水冷時間」と「ΔTave」との関係を示したグラフである。図7より、「水冷時間」が増加することにより、「ΔTave」が増加することが分かる。これにより、線材コイル42の温度を下げるには、線材コイル42に水を噴射する噴射時間を長くすることが有効であると言える。
図8は、上記試験から得られた鋼種と「疵の個数」及び「潤滑剤塗布前の線材コイルの最高温度」との関係を示すグラフである。本試験では、鋼種を「低炭素鋼」、「合金鋼」、「ボロン鋼」として試験を行っている。「疵の個数」は、線材コイル42の「上部」、「側面」、「下部」に生じた疵の個数を数えたものである。「比較例」では、「実施例」よりも短い水冷時間にしている。また、この「比較例」では、鋼種によらずに、水冷時間を一定にしている。
図8より、「実施例」のように水冷時間を長くした場合には、いずれの鋼種においても、「潤滑剤塗布前の線材コイルの最高温度」が低下し、かつ、「疵の個数」も減少することが分かる。これにより、線材コイル42の結束時に線材に疵が生じることを抑制するには、水冷時間を長くして、潤滑剤塗布前の線材コイル42の温度を低下させることが有効であると言える。
図9は、上記試験から得られた「潤滑剤塗布前の線材コイルの温度」と「1コイル当りの疵の個数」との関係を示すグラフである。「1コイル当りの疵の個数」は、一例として、0.06mm以上の疵を数えたものである。図9より、「潤滑剤塗布前の線材コイルの温度」が低いほど、「1コイル当りの疵の個数」が少ないことが分かる。このことからも、線材コイル42の結束時に線材に疵が生じることを抑制するには、水冷時間を長くして、潤滑剤塗布前の線材コイル42の温度を低下させることが有効であると言える。
以上の試験の結果から、線材コイル42の水冷時に、線材コイル42の温度が規定温度以下に低下するように、線材コイル42に噴射される水の噴射時間を必要最小限に調節することが有効であることが分かる。つまり、このようにすることにより、線材コイル42のコイル形状が崩れたり、線材に錆びが生じたりする等の不具合の発生を抑制しつつ、潤滑剤塗布時に潤滑剤の成分が熱で変質することを抑制できる温度にまで線材コイル42を水冷できる。
なお、上記試験では、線材コイル42に噴射される水の噴射時間を必要最小限に調節しているが、線材コイル42に噴射される水の噴射流量を必要最小限に調節した場合、及び、線材コイル42に噴射される水の噴射時間及び噴射流量を必要最小限に調節した場合にも、同様の結果を得られることは明らかである。
次に、本実施形態の変形例について説明する。
本実施形態において、線材コイル42は、鋼製の線材によって形成されているが、鋼以外の材料で形成された線材によって形成されていても良い。
また、本実施形態において、制御部28は、給水ポンプ24の作動時間及び供給流量の両方を調節するが、給水ポンプ24の作動時間及び供給流量のどちらか一方のみを調節しても良い。そして、これにより、線材コイル42に噴射される水の噴射時間及び噴射流量のどちらか一方のみが調節されても良い。
また、本実施形態において、温度検出部26は、線材コイル42の軸方向に並ぶ複数の温度センサ54を有し、この複数の温度センサ54により、線材コイル42の軸方向における複数箇所の温度を検出するが、一つの温度センサ54を線材コイル42の軸方向に走査することにより、線材コイル42の軸方向における複数箇所の温度を検出しても良い。
また、図10に示されるように、線材コイル42がレール62に沿って水冷機構60に向かって移動する経路に温度検出部26を設けても良い。そして、線材コイル42がレール62に沿って水冷機構60に向かって移動する際に、温度検出部26で線材コイル42における複数箇所の温度を検出しても良い。
また、本実施形態では、線材コイル42の軸方向における複数箇所の温度が検出されるが、線材コイル42のその他の複数箇所の温度が検出されても良い。
また、本実施形態では、水冷直前の線材コイル42の温度を検出し、テーブル56に基づいて給水ポンプ24の作動時間及び供給流量を調節する、所謂シーケンス制御が行わるが、水冷時に検出した線材コイル42の温度に基づいて、給水ポンプ24の作動時間及び供給流量を調節する、所謂フィードバック制御が行われても良い。
また、本実施形態において、複数の第一噴射ノズル20は、好ましくは、線材コイル42の軸方向に沿って並ぶが、この並び以外の配置とされていても良い。
また、本実施形態において、好ましくは、複数の第一噴射ノズル20が用いられるが、第一噴射ノズル20が一つのみ用いられても良い。
また、本実施形態において、複数の第一噴射ノズル20は、好ましくは、開口面積が異なる複数の種類のノズル、すなわち、端側ノズル20Aと、中央側ノズル20Bと、中間ノズル20Cとを有するが、複数の第一噴射ノズル20の開口面積は同一でも良い。
また、本実施形態において、複数の第一噴射ノズル20は、端側ノズル20Aと、中央側ノズル20Bと、中間ノズル20Cの三種類のノズルを有するが、端側ノズル20A及び中央側ノズル20Bの二種類のノズルを有していても良い。
また、本実施形態では、第二噴射ノズル22が一つのみ用いられているが、複数の第二噴射ノズル22が用いられても良い。
また、本実施形態において、好ましくは、第二噴射ノズル22が用いられるが、この第二噴射ノズル22は省かれても良い。
また、本実施形態では、情報取得部25によって線材コイル42の「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」に関する情報が取得されるが、それ以外の情報が取得されても良い。
また、テーブル56には、情報取得部25によって取得される情報に対応して、線材コイル42の「需要家」、「規格」、「線径」、「鋼種」に関する情報が設定されているが、情報取得部25によって取得される情報がそれ以外である場合には、それに対応する情報が設定されても良い。
なお、上記複数の変形例のうち組み合わせ可能な変形例は、適宜組み合わされても良い。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。