JP2019143555A - 形状記憶合金アクチュエータ - Google Patents

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Abstract

【課題】伸縮部材の逆変態開始温度を調整できる技術を提供する。【解決手段】固定子22と、固定子22に対して移動可能な可動子24と、張力を付与した状態で張り渡され、温度変化により伸縮可能な形状記憶合金を素材として構成され、縮み変形により可動子24を駆動可能な伸縮部材26と、伸縮部材26の張力を調整可能な張力調整機構28と、を備える。張力調整機構28を用いて伸縮部材26の張力を調整することで、伸縮部材26の逆変態開始温度を調整できる。【選択図】図6

Description

本発明は、形状記憶合金アクチュエータに関する。
従来より、小型化を図れるアクチュエータとして、形状記憶合金(SMA:Shape memory Alloy)を用いた形状記憶合金アクチュエータ(以下、単にSMAアクチュエータともいう)が知られる。SMAアクチュエータは、形状記憶合金製の伸縮部材を備え、その伸縮部材の温度変化による伸縮を利用して被駆動要素を駆動可能である。
特許文献1には、固定子と、固定子に当接する可動子と、固定子と可動子の間に張り渡される伸縮部材と、弾性部材の弾性力をもって固定子に移動子を取り付ける取付手段とを備えたSMAアクチュエータが記載されている。
特開2014−88811号公報
本発明者は、SMAアクチュエータに関して検討したところ、次の知見を得た。伸縮部材は、逆変態開始温度以上の温度域まで加熱されたときに縮み変形する。SMAアクチュエータは、このような伸縮部材の縮み変形を利用して被駆動要素を駆動する。ここで、SMAアクチュエータの周囲の環境温度と伸縮部材の逆変態開始温度の温度差が過度に小さい場合、伸縮部材が逆変態開始温度以上に容易に加熱されてしまい、意図せず被駆動要素を駆動する誤動作の恐れが高まる。また、この温度差が過度に大きい場合、伸縮部材を逆変態開始温度以上に通電加熱するための通電量が過度に大きくなってしまい、SMAアクチュエータの応答性に悪影響を及ぼす。
このような問題との関係では、SMAアクチュエータの使用が想定される環境下での環境温度と伸縮部材の逆変態開始温度の温度差が適切な範囲に収まるように、伸縮部材の逆変態開始温度を調整できる技術の提案が望まれる。特許文献1の開示技術は、このような問題との関係で対策を講じたものではなく、改良の余地が残されている。
本発明のある態様は、このような課題に鑑みてなされ、その目的の1つは、伸縮部材の逆変態開始温度を調整できる技術を提供する。
本発明の第1態様は形状記憶合金アクチュエータであり、固定子と、前記固定子に対して移動可能な可動子と、張力を付与した状態で張り渡され、温度変化により伸縮可能な形状記憶合金を素材として構成され、縮み変形により前記可動子を駆動可能な伸縮部材と、前記伸縮部材の張力を調整可能な張力調整機構と、を備える。
この態様によれば、張力調整機構を用いて伸縮部材の張力を調整することで、伸縮部材の逆変態開始温度を調整できる。
第1実施形態の駆動装置を示す構成図である。 第1実施形態の被駆動機器の一部を示す模式図である。 第1実施形態のSMAアクチュエータの上面図である。 第1実施形態のSMAアクチュエータの側面図である。 第1実施形態のSMAアクチュエータの側面断面図である。 図5の一部の拡大図である。 伸縮部材の温度とひずみの関係を示すグラフである。 図4の一部の拡大図である。 図9(a)は、図8のA−A線断面図であり、図9(b)は、図8のB−B線断面図である。 第2実施形態のSMAアクチュエータの側面図である。 第2実施形態のSMAアクチュエータの側面断面図である。
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。
(第1の実施の形態)
図1は、第1実施形態のSMAアクチュエータ10が用いられる駆動装置12を示す構成図である。図2は、駆動装置12が用いられる被駆動機器14の一部を示す模式図である。駆動装置12は、被駆動機器14の被駆動部14aを駆動方向Paに駆動する。本実施形態の被駆動機器14はタッチパネル装置であり、被駆動機器14の被駆動部14aはユーザUによりタッチ操作されるタッチパネルである。本実施形態の駆動装置12は触感付与装置である。触感付与装置は、被駆動機器14の被駆動部14aに対するユーザUのタッチ操作に連動して被駆動部14aを駆動することで、ユーザUに触感を付与可能である。
駆動装置12は、SMAアクチュエータ10の他に、タッチ検出部16と、付勢部18と、制御装置20と、を備える。
タッチ検出部16は、被駆動機器14の被駆動部14aに対するタッチ操作を検出可能である。タッチ検出部16は、たとえば、タッチパネルに組み込まれる静電容量式タッチセンサ等である。
付勢部18は、被駆動機器14の被駆動部14aを駆動方向Paとは反対側の反駆動方向Pbに付勢する。付勢部18は、コイルスプリング等の弾性体である。
制御装置20は、タッチ検出部16やSMAアクチュエータ10の伸縮部材26(後述する)に電気的に接続される。制御装置20は、コンピュータのCPU、ROM、RAM等の組み合わせにより構成される。制御装置20には、タッチ検出部16の検出結果が入力される。制御装置20は、SMAアクチュエータ10の伸縮部材26に対する通電を制御可能である。
図3は、第1実施形態のSMAアクチュエータ10の上面図であり、図4は、その側面図であり、図5は、その側面断面図である。本実施形態のSMAアクチュエータ10は、固定子22と、可動子24と、伸縮部材26と、張力調整機構28と、を備える。
固定子22は、被駆動機器14のケーシング(不図示)に取り付けられる。可動子24は、固定子22に対して可動方向X(以下、単にX方向ともいう)に移動可能である。詳しくは、可動子24は、固定子22に対してX方向に離間した位置でX方向の両側に移動可能である。本実施形態の可動子24は、固定子22と対向しており、固定子22と対向する方向を可動方向Xとして移動可能である。本実施形態では、X方向の一方側(図中の上側)は固定子22から可動子24が離れる方向となり、X方向の他方側(図中の下側)は固定子22に可動子24が近づく方向となる。以下、X方向の一方側を上側又は上方向といい、その他方側を下側又は下方向という。
可動子24は、上方向を駆動方向Paとして、その駆動方向Paの動きを被駆動要素となる被駆動機器14の被駆動部14aに伝達可能に設けられる。駆動方向Paは、タッチパネルの面外方向を例示するが、タッチパネルの面内方向等の他の方向でもよい。
本実施形態の固定子22と可動子24は、全体として、X方向と交差する延び方向Y(以下、単にY方向ともいう)に延びている。本実施形態のY方向はX方向と直交し、固定子22と可動子24は直線状に延びている。以下、X方向及びY方向に直交するZ方向を幅方向という。
固定子22は、X方向で可動子24側を向く箇所に第1掛け部22aを有する。本実施形態の第1掛け部22aは、Y方向に間を置いて複数並べられる。本実施形態の第1掛け部22aは、凸部と凹部がY方向に交互に並ぶ凹凸部の凸部が構成している。可動子24は、X方向で固定子22側を向く箇所に第2掛け部24aを有する。本実施形態の第2掛け部24aは、Y方向に間を置いて複数並べられる。本実施形態の第2掛け部24aは、凸部と凹部がY方向に交互に並ぶ凹凸部の凸部が構成している。第1掛け部22aと第2掛け部24aは、Y方向に互い違いに並ぶように配置される。
固定子22は、X方向から見て、可動子24とのX方向での対向箇所よりはみ出るはみ出し部22bを有する。本実施形態のはみ出し部22bは、可動子24との対向箇所よりY方向の両側にはみ出る。はみ出し部22bには、伸縮部材26等が固定される被固定部22cが設けられる。被固定部22cは、不図示の固定部材を用いて被駆動機器14のケーシング(不図示)に固定され、被駆動機器14の被駆動部14aに対する位置が固定される。
伸縮部材26は、線状のワイヤーを例示するが、帯状のベルト等でもよい。伸縮部材26は、張力を付与した状態で少なくとも固定子22及び可動子24に接触するように張り渡される。伸縮部材26の両端側部分は、後述する固定部材30を用いて、固定子22の被固定部22cに固定される。本実施形態の伸縮部材26は、固定子22と可動子24の間に配置され、固定子22の第1掛け部22aと可動子24の第2掛け部24aに交互に掛けるようにY方向に張り渡される。詳しくは、伸縮部材26は、X方向で第1掛け部22aの可動子24側を向く箇所と、X方向で第2掛け部24aの固定子22側を向く箇所とに交互に掛けるように張り渡される。
伸縮部材26は、温度変化により伸縮可能な形状記憶合金を素材として構成される。この形状記憶合金は、たとえば、Ni−Ti合金等である。形状記憶合金製の伸縮部材26は、加熱による逆変態(オーステナイト変態)により縮み変形可能であるとともに、冷却によるマルテンサイト変態により伸び変形可能である。伸縮部材26は縮み変形により可動子24を駆動方向Paに駆動可能である。
図6は、図5の一部の拡大図である。前述の固定部材30は雄ねじ部材である。固定子22を挟んで可動子24とはX方向の反対側には雌ねじ部材32が配置される。本実施形態の雌ねじ部材32は板状をなし、雌ねじ部材32には第1雌ねじ孔32aが形成される。固定部材30は、雌ねじ部材32の第1雌ねじ孔32aに軸部30aの雄ねじ部がねじ込まれており、その第1雌ねじ孔32aに対して締め付けることで、雌ねじ部材32とともに固定子22に固定される。固定部材30は、自らの軸部30aに巻き付けられた伸縮部材26を自らの頭部と固定子22の間で挟み込むことで伸縮部材26を固定子22に固定する。固定部材30や雌ねじ部材32は、固定子22のY方向の一方側部分の被固定部22cと他方側部分の被固定部22cのそれぞれに対応して個別に設けられる(図5参照)。
固定部材30の頭部と固定子22の間には電極部材31が挟み込まれる。電極部材31は真鍮等の導電性部材を用いて構成される。固定部材30の頭部と伸縮部材26の間には板状の押さえ33が配置され、伸縮部材26は電極部材31と押さえ33の間に挟み込まれる。電極部材31は、伸縮部材26の一端側部分に接触することで伸縮部材26と導通している。伸縮部材26の両端側部分は、不図示の電気配線や電極部材31を介して制御装置20に電気的に接続されている。
張力調整機構28は、伸縮部材26に付与される張力を調整可能である。本実施形態の張力調整機構28は、第1押さえ部材34と、第2押さえ部材36とを有する。本実施形態の張力調整機構28は、固定子22や可動子24のY方向の一方側部分と他方側部分のそれぞれに対応して個別に設けられる(図5参照)。張力調整機構28は、本実施形態において、固定子22に対して上側に全体が配置され、固定子22に対して下側には配置されない。
第1押さえ部材34は、自らがX方向に弾性変形した状態でX方向の下側に可動子24を押さえている。第2押さえ部材36は、X方向に位置調整可能に固定子22に固定され、X方向の下側に第1押さえ部材34を押さえている。これにより、張力調整機構28は、固定子22に対するX方向での可動子24の離脱を防止する役割を果たしている。
本実施形態の第1押さえ部材34は、第2押さえ部材36により上側から押さえられる被押さえ部34aと、可動子24を上側から押さえる押さえ部34bとを有する板バネである。本実施形態において、被押さえ部34aは第1押さえ部材34のY方向の一端側(図中左側)に設けられ、押さえ部34bは被押さえ部34aよりY方向の他端側(図中右側)に設けられる。
本実施形態の被押さえ部34aは、X方向から見て、可動子24からY方向に離間した箇所に設けられる。本実施形態の被押さえ部34aは、固定子22の被固定部22cの上側に配置される。
押さえ部34bは、被押さえ部34aからY方向に延びており、Y方向の先端側部分が可動子24の上側に配置される。押さえ部34bは、可動子24のX方向での動きに追従してX方向に弾性変形可能な板状をなす。本実施形態の押さえ部34bは、被押さえ部34aから上側に向けて延びる第1部分34baと、第1部分34baと曲げ部分34bbを介して連なりY方向に延びる第2部分34bcとを有する。押さえ部34bは、Z方向に沿った寸法が被押さえ部34aより小さくなるように形成される(図3参照)。
本実施形態の第2押さえ部材36は雄ねじ部材である。第2押さえ部材36の軸部36aは第1押さえ部材34の被押さえ部34aを貫通している。前述の雌ねじ部材32には第2雌ねじ孔32bが形成される。第2押さえ部材36は、固定子22に固定される雌ねじ部材32の第2雌ねじ孔32bに軸部36aの雄ねじ部がねじ込まれることで、固定子22に固定される。第2押さえ部材36は、雌ねじ部材32に対するねじ込み量を変えることで、固定子22に対してX方向に位置調整可能である。
第2押さえ部材36の頭部36bは上側から第1押さえ部材34の被押さえ部34aを押さえている。固定子22に対するX方向での第2押さえ部材36の位置の調整によって、第2押さえ部材36による第1押さえ部材34に対する押さえ位置Pc1もX方向に調整される。
第2押さえ部材36による押さえ位置Pc1の調整によって、第1押さえ部材34のX方向での弾性変形量が変化し、第1押さえ部材34により可動子24に下側に付与される押さえ力Faが調整される。詳しくは、第2押さえ部材36の押さえ位置Pc1が下側に変化したとき、第1押さえ部材34のX方向での弾性変形量が大きくなり、第1押さえ部材34による押さえ力Faが増大する。一方、第2押さえ部材36の押さえ位置Pc1が上側に変化したとき、第1押さえ部材34のX方向での弾性変形量が小さくなり、第1押さえ部材34による押さえ力Faが減少する。
このような第1押さえ部材34による可動子24に付与される押さえ力Faの調整によって、伸縮部材26の弾性域での引張変形量が変化し、伸縮部材26の張力が調整される。詳しくは、第2押さえ部材36による押さえ位置Pc1がX方向の下側に変化すると、第1押さえ部材34による押さえ力Faが増大し、伸縮部材26の弾性域での引張変形量が増大し、伸縮部材26の張力が増大する。一方、第2押さえ部材36による押さえ位置Pc1がX方向の上側に変化すると、第1押さえ部材34による押さえ力Faが減少し、伸縮部材26の弾性域での引張変形量が減少し、伸縮部材26の張力が減少する。
このように張力調整機構28は、可動子24を下側に押さえる押さえ力Faを調整可能であり、その押さえ力Faの調整により伸縮部材26の張力を調整可能である。本実施形態の張力調整機構28は、可動子24に対する押さえ力Faを連続的に調整可能であり、その押さえ力Faの調整により伸縮部材26の張力を連続的に0超の範囲で調整可能である。
本実施形態の張力調整機構28は、このような押さえ力Faの調整により、伸縮部材26の張力とともに、固定子22と可動子24の間のX方向での間隔Aを調整可能である。詳しくは、第2押さえ部材36による押さえ力Faが増大すると、伸縮部材26の引張変形量の増大を伴い固定子22に可動子24が近づくことで、固定子22と可動子24の間隔Aが狭くなる。一方、第2押さえ部材36による押さえ力Faが減少すると、伸縮部材26の上方向の弾性反発力によって、伸縮部材26の引張変形量の減少を伴い固定子22から可動子24が離れることで、固定子22と可動子24の間隔Aが広くなる。本実施形態の張力調整機構28は、前述のように、可動子24に対する押さえ力Faを連続的に調整可能であり、その押さえ力Faの調整により固定子22と可動子24の間隔Aを連続的に調整可能である。
なお、第2押さえ部材36の押さえ位置Pc1を調整したとき、固定子22と可動子24の間隔Aが変化することで、第1押さえ部材34による可動子24に対する押さえ位置Pc2もX方向に変化する。この第1押さえ部材34の押さえ位置Pc2の変化量は、第2押さえ部材36の押さえ位置Pc1の変化量より小さくなる。
以上のSMAアクチュエータ10を用いた駆動装置12の動作を説明する。図1、図2を参照する。制御装置20は、予め定められた駆動開始条件を満たすと、予め定められた通電条件のもとで伸縮部材26に通電する。本実施形態の駆動開始条件は被駆動機器14の被駆動部14aに対するタッチ操作がタッチ検出部16により検出されることである。通電条件は、伸縮部材26が逆変態開始温度以上の温度域まで伸縮部材26を加熱することで、伸縮部材26を縮み変形させることが可能な条件に設定される。
制御装置20による通電に伴い伸縮部材26が縮み変形すると、可動子24が駆動方向Paに駆動され、その可動子24の動きが被駆動機器14の被駆動部14aに伝達されることで、被駆動部14aも駆動方向Paに駆動される。このとき、被駆動機器14の被駆動部14aは付勢部18の付勢力に抗して駆動方向Paに駆動される。
制御装置20による伸縮部材26に対する通電が停止すると、伸縮部材26が放熱冷却により元の形状に復元するように伸び変形する。これに伴い、伸縮部材26から被駆動部14aへの力の伝達が解除され、被駆動部14aが付勢部18の付勢力により反駆動方向Pbに押し戻される。本実施形態の触感付与装置として機能する駆動装置12は、この駆動方向Paと反駆動方向Pbの動きを瞬間的に行わせることで被駆動部14aを振動させる。これにより、駆動装置12は、被駆動部14aに触れているユーザに被駆動部14aの振動を伝達させ、ユーザに触感を付与する。
次に、伸縮部材26の逆変態開始温度の調整手法の一例を説明する。図7は、伸縮部材26の温度とひずみεの関係を示すグラフである。このひずみεは、次の式(1)で表される。式(1)の「LT=Tr」は基準温度Trにあるときの伸縮部材26が伸縮方向での長さをいい、「LT=Tx」は温度Txにあるときの伸縮部材26が伸縮方向での長さをいう。ここでの基準温度Trとは、たとえば、室温(25℃)である。このひずみεは、伸縮部材26が基準温度Trにあるときの長さLT=Trからの伸縮部材26の縮み方向での変形量が大きくなるほど大きくなる。
ε=(LT=Tr−LT=Tx)/LT=Tr ・・・ (1)
形状記憶合金は、通常、昇温過程と降温過程とで温度の変化量に対するひずみの変化量が異なるヒステリシスを持つ。ここでの昇温過程とは、図7のX0→X1→X2→X3を辿る過程をいい、降温過程とは、X3→X4→X5→X0を辿る過程をいう。伸縮部材26の逆変態開始温度は、通常、昇温過程において、温度の変化量に対してひずみの変化量が急激に大きくなり始める温度(図7のX1の温度)となる。
本グラフでは、伸縮部材26の組成は変化させず、伸縮部材26に付与される張力Tsのみを変化させた条件のもとで得られた伸縮部材26の温度−ひずみ特性のヒステリシス曲線を示す。本図に示すように、伸縮部材26の張力TsがA、2A、3Aの順で大きくなるほど、伸縮部材26の逆変態開始温度がT1、T2、T3と順で大きくなることが把握できる。このように、伸縮部材26の張力Tsは、伸縮部材26の逆変態開始温度との間で正の相関関係を持っている。このことを利用して、次のように伸縮部材26の逆変態開始温度Teを調整する。
ここでは、説明の便宜のため、伸縮部材26に初期張力Ts=2Aが付与されており、伸縮部材26の逆変態開始温度がT2であるとする。また、伸縮部材26に初期張力が付与されているときに、張力調整機構28により可動子24に付与される押さえ力をFa0とする。
SMAアクチュエータ10の使用が想定される環境下での環境温度(以下、想定環境温度という)と伸縮部材の逆変態開始温度T2の温度差が過度に小さい場合を考える。これは、たとえば、SMAアクチュエータ10をエンジンルーム内で用いるような、想定環境温度が過度に高い場合である。この場合、伸縮部材26が逆変態開始温度以上に容易に加熱される事態を避けるため、伸縮部材26の逆変態開始温度がT2超の温度T3となるように、たとえば、伸縮部材26の張力Tsを2A超の張力3Aに調整する。本実施形態でいえば、図6に示す張力調整機構28を用いて、可動子24に付与される押さえ力がFa0より大きくなるように調整することで、伸縮部材26の張力を2A超の張力3Aに調整する。
また、前述の想定環境温度と伸縮部材26の逆変態開始温度T2の温度差が過度に大きい場合を考える。この場合、伸縮部材26を逆変態開始温度T2以上に通電加熱するための通電量の過度の増大を避けるため、伸縮部材26の逆変態開始温度がT2未満の温度T1となるように、伸縮部材26に付与される張力を2A未満の張力Aに調整する。本実施形態でいえば、張力調整機構28を用いて、可動子24に付与される押さえ力がFa0より小さくなるように調整することで、伸縮部材26の張力を2A未満の張力Aに調整する。
このように、本実施形態のSMAアクチュエータ10によれば、張力調整機構28を用いて伸縮部材26の張力を調整することで、伸縮部材26の逆変態開始温度を調整できる。特に、伸縮部材26の組成を変えることなく逆変態開始温度を調整できるため、共通の伸縮部材26を用いつつ様々な想定環境温度に対応できるSMAアクチュエータ10を実現できる。
また、張力調整機構28は、可動子24に付与される押さえ力Faを調整可能であり、その押さえ力Faの調整により伸縮部材26の張力とともに、固定子22と可動子24の間のX方向での間隔Aを調整可能である。このため、伸縮部材26の張力の調整と併せて、固定子22と可動子24の間の間隔Aを狭くするように調整することで、可動子24の反駆動方向Pbでの可動域をできる限り小さくできる。この可動域を小さくしておけば、可動子24に外部荷重が付与されることで可動子24が反駆動方向Pbに移動した場合に、伸縮部材26の引張変形量を小さくでき、伸縮部材26に過大なストレスが付与される事態を避けられる。
また、第1押さえ部材34はX方向に押さえ部34bが弾性変形可能な板バネである。第1押さえ部材34として板バネを用いた場合、コイルスプリングを用いる場合と比べて、第1押さえ部材34のX方向での寸法を小型化しつつ、高いバネ定数を確保し易い。よって、本実施形態によれば、第1押さえ部材34としてコイルスプリングを用いる場合と比べ、SMAアクチュエータ10のX方向での寸法を小型化しつつ、高いバネ定数を確保し易くなる。
このように高いバネ定数を確保できる場合、第1押さえ部材34のX方向での弾性変形量に対する押さえ力Faの変化量を大きくできる。つまり、第1押さえ部材34のX方向での弾性変形量が小さくとも、第1押さえ部材34により大きい押さえ力Faを確保し易くなる。これに伴い、伸縮部材26の逆変態開始温度の調整可能範囲を広くできる。これは、たとえば、第1押さえ部材34のX方向での弾性変形量が小さくとも、図7でいう温度T1〜T3の範囲を広くできることを意味する。このため、第1押さえ部材34のX方向での寸法を小型化しつつも、伸縮部材26の逆変態開始温度の調整可能範囲が広いSMAアクチュエータ10を実現できる。
SMAアクチュエータ10の他の工夫点を説明する。図3、図6に示すように、可動子24には、第1押さえ部材34の押さえ部34bとX方向に対向する箇所に溝部24bが形成される。押さえ部34bは、可動子24の溝部24b内に収まるように配置される。押さえ部34bは、可動子24がZ方向の両側に変位しようとしたとき、可動子24の溝部24bの溝側面24baと接触することで、そのZ方向の両側への変位を規制する。このように、第1押さえ部材34の押さえ部34bは、可動子24のZ方向の両側への変位を規制する変位規制部34cとして機能する。これにより、張力調整機構28を用いて、固定子22に対するX方向での可動子24の離脱を防止しつつ、Z方向での可動子24の離脱を防止できる。
図8は、図4の一部の拡大図である。図9(a)は、図8のA−A線断面図であり、図9(b)は、図8のB−B線断面図である。図8、図9に示すように、固定子22は、第1凹部38aと第1凸部38bがY方向に交互に並ぶ第1凹凸部38を有する。可動子24は、第2凹部40aと第2凸部40bがY方向に交互に並ぶ第2凹凸部40を有する。第1凹凸部38は、固定子22と可動子24がX方向に対向する箇所でZ方向の両側部に個別に設けられる。第2凹凸部40は、固定子22と可動子24がX方向に対向する箇所でZ方向の両側部に個別に設けられる。
固定子22の第1掛け部22aは、Z方向の両側の第1凹凸部38を構成する第1凸部38b間に設けられる。第1掛け部22aを構成する凹凸部の凸部は、Z方向の両側の第1凸部38bよりX方向の上側への突出量が小さく、第1凸部38b間で溝状を呈している。可動子24の第2掛け部24aは、Z方向の両側の第2凹凸部40を構成する第2凸部40b間に設けられる。第2掛け部24aを構成する凹凸部の凸部は、Z方向の両側の第2凸部40bよりX方向の下側への突出量が小さく、第2凸部40b間で溝状を呈している。
第1凸部38bは、第2凹部40aの外形に合致する外形に形成され、第2凹部40a内に嵌め込まれている。第2凸部40bは、第1凹部38aの外形に合致する外形に形成され、第1凹部38a内に嵌め込まれている。ここでの「合致」とは、言及している二者の外形が完全に合致する場合と、ほぼ合致する場合の両者が含まれる。第1凹凸部38と第2凹凸部40は、互いに嵌め合わされており、第1凸部38bと第2凸部40bが互い違いに並ぶように設けられることになる。
ここで、第1凸部38bと第2凹部40aのX方向での最小の間隔B1と、第2凸部40bと第1凹部38aのX方向での最小の間隔B2とは同等の大きさに設定される。ここでの「同等」とは、言及している二者の大きさが完全に同じ場合と、ほぼ同じ場合の両者が含まれる。
これにより、固定子22と可動子24の間の間隔B1、B2を十分に狭めたとき、固定子22の第1凹凸部38と可動子24の第2凹凸部40のY方向での全長に亘って、両者の間で大きく隙間が空いた箇所が生じない構造となる。よって、固定子22と可動子24の間に異物が入り込み難くなり、異物の入り込みに伴う誤動作の発生を避けられる。
(第2の実施の形態)
図10は、第2実施形態のSMAアクチュエータ10を示す側面図であり、図11は、その側面断面図である。第1実施形態の例と比べて、主に、張力調整機構28の第1押さえ部材34が相違する。
本実施形態の第1押さえ部材34はコイルスプリングである。可動子24には段付き孔である収容孔24dが形成される。第1押さえ部材34は、収容孔24dの大内径部内に収容される。本実施形態の第1押さえ部材34は、自らが弾性変形した状態で、収容孔24dの段差面に当たることで、可動子24を下側に押さえている。
第2押さえ部材36の軸部36aは収容孔24dの小内径部や第1押さえ部材34の内側に挿通される。第2押さえ部材36の頭部36bは上側から第1押さえ部材34を押さえている。固定子22に対するX方向での第2押さえ部材36の位置の調整によって、第2押さえ部材36による第1押さえ部材34に対する押さえ位置Pc1もX方向に調整される。
第2押さえ部材36による押さえ位置Pc1の調整によって、第1実施形態と同様、第1押さえ部材34のX方向での弾性変形量が変化し、第1押さえ部材34により可動子24に下側に付与される押さえ力Faが調整される。詳しくは、第2押さえ部材36の押さえ位置Pc1が下側に変化したとき、第1押さえ部材34のX方向での弾性変形量が大きくなり、第1押さえ部材34による押さえ力Faが増大する。一方、第2押さえ部材36の押さえ位置Pc1が上側に変化したとき、第1押さえ部材34のX方向での弾性変形量が小さくなり、第1押さえ部材34による押さえ力Faが減少する。
このような第1押さえ部材34により可動子24に付与される押さえ力Faの調整によって、第1実施形態と同様、伸縮部材26の弾性域での引張変形量が変化し、伸縮部材26の張力が調整される。
本実施形態の張力調整機構28も、第1実施形態と同様、このような押さえ力Faの調整により、伸縮部材26の張力とともに、固定子22と可動子24の間のX方向での間隔Aを調整可能である。
このように、張力調整機構28の第1押さえ部材34は、自らが弾性変形した状態で可動子24を下側(X方向の一方側)に押さえるものであればよく、その具体例は特に限定されない。第1押さえ部材34は、板バネやコイルスプリング等のバネ部材の他に、ゴム部材が用いられてもよい。いずれにしても、第1押さえ部材34は、バネ部材、ゴム部材等の弾性部材であればよい。
また、張力調整機構28の第2押さえ部材36は、X方向に位置調整可能に固定子22に固定され、第1押さえ部材34を下側に押さえるものであればよく、その具体例は特に限定されない。たとえば、第2押さえ部材36は、固定子22に連続的に位置調整可能に固定される雄ねじ部材を例に説明したが、段階的に位置調整可能に固定されてもよい。
また、張力調整機構28は、固定子22と可動子24の間のX方向での間隔Aを調整することなく、伸縮部材26の張力を調整可能でもよい。たとえば、実施形態の例でいえば、張力調整機構28は、固定部材30をY方向に位置調整可能な構造により構成されてもよい。この場合、伸縮部材26の引張変形量が大きくなるY方向の一方側に固定部材30を位置調整することで伸縮部材26の張力を大きくできる。また、伸縮部材26の引張変形量が小さくなるY方向の他方側に固定部材30を位置調整することで伸縮部材26の張力を小さくできる。
なお、第2実施形態の張力調整機構28の第2押さえ部材36は、前述の通り、可動子24の収容孔24dに挿通されている。第2押さえ部材36は、可動子24がZ方向の両側に変位しようとしたとき、可動子24の収容孔24dの内壁面と接触することで、そのZ方向の両側への変位を規制する。これにより、第1実施形態と同様、張力調整機構28を用いて、固定子22に対するX方向での可動子24の離脱を防止しつつ、Z方向での可動子24の離脱を防止できる。
図10に示すように、第1実施形態と同様、第2実施形態の固定子22も、第1凹部38aと第1凸部38bが並ぶ第1凹凸部38を有し、可動子24は第2凹部40aと第2凸部40bが並ぶ第2凹凸部40を有する。第1実施形態と同様、第1凸部38bと第2凹部40aのX方向での間隔と、第2凸部40bと第1凹部38aのX方向での間隔とは同等の大きさに設定される。
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
SMAアクチュエータ10は触感付与装置に用いられる例を説明したが、その用途は特に限定されない。SMAアクチュエータ10は、たとえば、単なる駆動装置として用いられてもよい。
固定子22や可動子24の形状や、伸縮部材26の配置態様は、伸縮部材26の縮み変形により可動子24を駆動可能であれば、特に限定されない。固定子22や可動子は、たとえば、直線状に延びる場合の他に曲線状に延びていてもよい。伸縮部材26は、固定子22と可動子24の間に配置せずに可動子24を間に挟んで固定子22とはX方向の反対側に配置されてもよい。固定子22の第1凸部38bと可動子24の第2凹部40aの間隔と、固定子22の第1凹部38aと可動子24の第2凸部40bの間隔とは異なる大きさに設定されてもよい。
伸縮部材26を構成する形状記憶合金の組成は特に限定されず、Ni−Ti−Cu系合金が用いられてもよい。
第1実施形態の第1押さえ部材34の変位規制部34cは押さえ部34bが兼ねている例を説明したが、押さえ部34bとは別に設けられていてもよい。この場合、変位規制部34cは、たとえば、可動子24のZ方向の両側に一部が配置されていてもよい。また、第1押さえ部材34は変位規制部34cがなくともよい。
22…固定子、24…可動子、26…伸縮部材、28…張力調整機構、34…第1押さえ部材、34a…被押さえ部,34b…押さえ部、36…第2押さえ部材、38…第1凹凸部、38a…第1凹部、38b…第1凸部、40…第2凹凸部、40a…第2凹部、40b…第2凸部。

Claims (5)

  1. 固定子と、
    前記固定子に対して移動可能な可動子と、
    張力を付与した状態で張り渡され、温度変化により伸縮可能な形状記憶合金を素材として構成され、縮み変形により前記可動子を駆動可能な伸縮部材と、
    前記伸縮部材の張力を調整可能な張力調整機構と、を備える形状記憶合金アクチュエータ。
  2. 前記可動子は、前記固定子に対して可動方向に離間した位置で前記可動方向の両側に移動可能であり、
    前記伸縮部材は、前記可動方向の一方側に縮み変形により前記可動子を駆動可能であり、
    前記張力調整機構は、前記可動方向の他方側に前記可動子を押さえる押さえ力を調整可能であり、その押さえ力の調整により前記伸縮部材の張力とともに、前記固定子と前記可動子の間の前記可動方向での間隔を調整可能である請求項1に記載の形状記憶合金アクチュエータ。
  3. 前記伸縮部材は、前記可動子の可動方向の一方側に縮み変形により前記可動子を駆動可能であり、
    前記張力調整機構は、
    自らが弾性変形した状態で前記可動方向の他方側に前記可動子を押さえる第1押さえ部材と、
    前記可動方向に位置調整可能に前記固定子に固定され、前記可動方向の他方側に前記第1押さえ部材を押さえる第2押さえ部材と、を有する請求項1または2に記載の形状記憶合金アクチュエータ。
  4. 前記第1押さえ部材は、前記第2押さえ部により前記可動方向の一方側から押さえられる被押さえ部と、前記可動方向の一方側から前記可動子を押さえ、前記可動方向に弾性変形可能な押さえ部とを有する板バネである請求項3に記載の形状記憶合金アクチュエータ。
  5. 前記固定子は、第1凹部と第1凸部が交互に並ぶ第1凹凸部を有し、
    前記可動子は、第2凹部と第2凸部が交互に並ぶ第2凹凸部を有し、
    前記第1凸部は、前記第2凹部の外形に合致する外形に形成され、前記第2凹部内に嵌め込まれ、
    前記第2凸部は、前記第1凹部の外形に合致する外形に形成され、前記第1凹部内に嵌め込まれ、
    前記第1凸部と前記第2凹部の前記可動子の可動方向での最小の間隔と、前記第2凸部と前記第1凹部の前記可動方向での最小の間隔とは同等の大きさに設定される請求項1から4のいずれかに記載の形状記憶合金アクチュエータ。
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