本発明の一実施形態を図1〜図6を参照して以下に説明する。まず、図1〜図5を参照して、本実施形態における動力装置1の機構的な構成を説明する。
まず、図1を参照して、本実施形態における動力装置1の概略構成と、その動作制御の概要とを説明する。動力装置1は、被動負荷Lを動かす動力(並進駆動力又は回転駆動力)を出力するアクチュエータ2と、アクチュエータ2が出力する動力を被動負荷Lに伝達し得るようにアクチュエータ2と被動負荷Lとを接続する動力伝達機構3とを備える。
動力伝達機構3は、剛性度合(剛性の高低の度合)と粘性度合(粘性の高低の度合)とを可変的に制御可能な動力伝達要素5を含む。なお、動力伝達機構3は、動力伝達要素5以外に、減速機等の動力伝達要素も含み得る。
上記動力伝達要素5は、図1に概念的に示すように、剛性度合を可変的に制御可能なバネ要素5x(弾性部材)と、粘性度合を可変的に制御可能なダンパー要素5yとを該動力伝達要素5の両端間(アクチュエータ2側の端部と被動負荷L側の端部との間)に介装したものと等価な機能を有する。
そして、動力伝達機構3は、その動力伝達要素5を介してアクチュエータ2から被動負荷Lへの動力伝達を行い得るように構成されている。この場合、動力伝達要素5は、その両端間の変位量に応じた弾性力(バネ要素5xの弾性変形による弾性力)と、両端間の変位速度(変位量の時間的変化率)に応じた粘性力(ダンパー要素5yによる粘性力)とを発生する。
補足すると、動力伝達要素5の剛性度合及び粘性度合の制御のための操作量は、該動力伝達要素5の実際の構成に依存する。また、動力伝達要素5は、剛性度合を制御可能な弾性部材だけで構成され得る。この場合であっても、該弾性部材は一般にある程度の粘性を有する。さらに、該弾性部材の粘性度合を、剛性度合とは別に制御することができない場合であっても、弾性部材の剛性度合の調整によって擬似的に粘性力を発生させることもできる。
本実施形態では、上記の如き構成の動力装置1を用いて、アクチュエータ2により適宜、被動負荷Lを動かすことと、被動負荷Lに作用する力(並進力又は回転力)を所要の目標値に制御することが行われる。
この場合、被動負荷Lに作用する力(以降、被動負荷作用力という)の制御のための第1の操作量(制御入力)として、動力伝達要素5の剛性度合及び粘性度合のそれぞれの目標値が、被動負荷作用力の目標値と、実際の被動負荷作用力の観測値との偏差、及び該偏差の時間的変化率(換言すれば、被動負荷作用力の目標値の時間的変化率と実際の被動負荷作用力の観測値の時間的変化率との偏差)とに応じて決定される。そして、これらの目標値に応じて動力伝達要素5の実際の剛性度合及び粘性度合が制御される。
また、被動負荷作用力の制御のための第2の操作量(制御入力)として、被動負荷Lの変位量(並進移動量又は回転量)の調整量が、被動負荷作用力の目標値と実際の被動負荷作用力の観測値との偏差の積分値に応じて決定される。そして、この調整量に応じて被動負荷Lの変位量を調整するようにアクチュエータ2が制御される。
以上が本実施形態における動力装置1及びその動作制御の概要である。
次に、図2〜図5を参照して、動力装置1のより具体的な構成の一例を説明する。この動力装置1は、第1部材A1に対する第2部材A2の相対変位を行い得るように該第1部材A1及び第2部材A2に連結された装置である。第2部材A2は、前記被動負荷Lに相当する。
この動力装置1は、より詳しくは、第1部材A1との連結部分と、第2部材A2との連結部分とを、それらを結ぶ線分に沿って直線的に接近又は離反させるように、第1部材A1に対する第2部材A2の相対変位を行わせる直動変位機構として機能する動力装置である。
第1部材A1及び第2部材A2は任意のものでよい。一例として、動力装置1は、例えばロボットの二つのリンクを連結する回転型の関節を駆動する機構、あるいは、ロボットの二つのリンクを連結する直動関節機構として利用し得る。この場合、ロボットの二つのリンクのうちの一方が第1部材A1、他方が第2部材A2(被動負荷L)に相当するものとなる。
ただし、動力装置1の適用対象は、ロボットに限られるものでない。また、第1部材A1又は第2部材A2のいずれか一方は、固定設置物(静止物体)であってもよい。
図2〜図4に示す動力装置1は、第1部材A1に対して相対的に第2部材A2(被動負荷L)を動かす動力を出力するアクチュエータ2と、アクチュエータ2が出力する動力を第2部材A2に伝達し得るようにアクチュエータ2と第2部材A2とを接続する動力伝達機構3とを備える。
この場合、動力伝達機構3は、剛性度合及び粘性度合を可変的に制御可能な動力伝達要素5を備えると共に、該動力伝達要素5を介して連結された基体フレーム6及び筒状部材7を備える。
動力伝達要素5は、本実施形態では、複数の膜状の弾性変形部11をそれらの厚み方向に積層した構造の電歪素子である。各弾性変形部11は、その厚み方向に付与される印加電圧に応じて面沿い方向に弾性的に伸縮可能な膜状部材である。以降、動力伝達要素5を電歪素子5という。
この電歪素子5は、例えば図5に示す如く構成される。具体的には、電歪素子5を構成する各弾性変形部11は、弾性部材としての膜状の誘電エラストマー12と、該誘電エラストマー12の厚み方向の両面に付着された膜状の電極13とから構成される。
誘電エラストマー12は、誘電性を有するエラストマーであり、例えばシリコン樹脂、アクリル樹脂等により構成される。この誘電エラストマー12は、その厚み方向の両面の電極13,13を介して電圧を印加すると(厚み方向に電界を作用させると)、マクスウェル応力によって厚み方向に圧縮される。そして、該圧縮に伴い、誘電エラストマー12が、面沿い方向に弾性的に伸長する。
また、誘電エラストマー12に対する印加電圧の大きさを変化させることで、該誘電エラストマー12の厚みが変化する。ひいては、該誘電エラストマー12が、面沿い方向に弾性的に伸縮する。
これにより、各弾性変形部11は、印加電圧に応じて面沿い方向に弾性的に伸縮可能なものとなっている。なお、各弾性変形部11は、外力に応じて弾性変形することはもちろんである。
本実施形態では、各弾性変形部11の中央部には、該弾性変形部11の厚み方向に貫通する貫通穴14が穿設されている。そして、各弾性変形部11の外周側の周縁部と、内周側の周縁部とにそれぞれ支持枠15,16が装着されている。
この場合、弾性変形部11のうち、外周側の支持枠15と内周側の支持枠16との間の部分は、円環形状に形成されている。
また、支持枠15,16は、弾性変形部11の誘電エラストマー12を面沿い方向に引っ張った状態で該弾性変形部11に装着されている。従って、誘電エラストマー12は、面沿い方向の引っ張り力が予め付与されたプレ・ストレイン状態となっている。
このため、弾性変形部11は、その誘電エラストマー12に電圧を印加したときに、弾性変形部11の内周側の周縁部が外周側の周縁部に対して該弾性変形部11の中心軸線Cとほぼ同方向(弾性変形部11の厚み方向)に相対変位するような形態で撓むようになっている。
このように弾性変形部11が弾性変形する(撓む)ことで、外周側の支持枠15に対して、内周側の支持枠16が、該弾性変形部11の中心軸線Cとほぼ同方向に相対変位することが可能となっている。
以降、各弾性変形部11とこれに装着された支持枠15,16とから構成される構造体を電歪要素素子5aという。
本実施形態の電歪素子5は、上記の如くそれぞれ構成された複数の電歪要素素子5aを、それぞれの弾性変形部11の中心軸線Cが、同一の中心軸線Cとなるように、該弾性変形部11の厚み方向に積層して構成されている。
この場合、当該複数の電歪要素素子5aの外周側の支持枠15が接着剤等により相互に固着されると共に、内周側の支持枠16が接着剤等により相互に固着される。これにより、電歪素子5が構成される。
図2〜図4では、上記の如く構成された電歪素子5を簡略的に記載している。この場合、図2〜図4では、図示の便宜上、複数の電歪要素素子5aの外周側の支持枠15の積層体と、内周側の支持枠16の積層体とをそれぞれ、一体構成のものとして記載している。以降の説明では、外周側の支持枠15の積層体を単に電歪素子5の支持枠15と称し、内周側の支持枠16の積層体を、単に電歪素子5の支持枠16と称する。
また、電歪素子5において、各弾性変形部11の共通の中心軸線Cを、単に、電歪素子5の中心軸線Cと称する。
なお、電歪素子5の各電歪要素素子5aの弾性変形部11に対する電圧の印加は、例えば、支持枠15に接続される図示しない配線等を介して行われる。
補足すると、本実施形態では、電歪素子5(動力伝達要素5)の複数の誘電エラストマー12は、本発明における弾性部材に相当する。また、電歪素子5の支持枠15,16は、動力伝達要素5の両端部に相当する。
以上の如く構成された電歪素子5では、印加電圧に応じて各弾性変形部11が上記の如く弾性変形する。そして、この弾性変形に応じて、電歪素子5の剛性度合及び粘性度合が変化する。
ここで、本実施形態の構成の電歪素子5では、該電歪素子5の複数の誘電エラストマー12の全体の剛性度合が、該電歪素子5の剛性度合である。該電歪素子5の剛性度合は、より詳しくは、複数の誘電エラストマー12の全体の弾性変形により中心軸線Cの方向で支持枠15,16の間に発生する弾性力に関する剛性度合である。
この場合、電歪素子5の剛性度合を表す指標値として、例えば、支持枠15,16の一方に対する他方の相対的な変位量(中心軸線Cの方向での相対的な変位量)の変化に対する支持枠15,16の間の弾性力の変化の感度(当該相対位置の単位変化量当たりの弾性力の変化量)を用いることができる。以降、この指標値を剛性度合指標値という。該剛性度合指標値は、所謂、ばね定数に相当するものであり、電歪素子5の剛性度合が高いほど、剛性度合指標値が大きくなる。
また、本実施形態の構成の電歪素子5では、該電歪素子5の複数の誘電エラストマー12の全体の粘性度合が、該電歪素子5の粘性度合である。該電歪素子5の粘性度合は、より詳しくは、支持枠15,16の一方に対する他方の相対的な変位速度(中心軸線Cの方向での相対的な変位速度)に応じて、電歪素子5が支持枠15,16の間に中心軸線Cの方向で発生する粘性力(当該変位速度に対して制動力となる力)に関する粘性度合である。
この場合、電歪素子5の粘性度合を表す指標値として、例えば、支持枠15,16の一方に対する他方の相対的な変位速度の変化に対する支持枠15,16の間の粘性力の変化の感度(当該変位速度の単位変化量当たりの粘性力の変化量)を用いることができる。以降、この指標値を粘性度合指標値という。該粘性度合指標値は、所謂、粘性係数に相当するものであり、電歪素子5の粘性度合が高いほど、粘性度合指標値が大きくなる。
そして、本実施形態の電歪素子5は、印加電圧が大きいほど(張力の与圧が小さいほど)、剛性度合が小さくなる(剛性度合指標値が小さくなる)。また、電歪素子5は、印加電圧が大きいほど(張力の与圧が小さいほど)、粘性度合が大きくなる(粘性度合指標値が小さくなる)という特性を有する。
この場合、電歪素子5の印加電圧の変化に応じて、剛性度合と粘性度合との両方が変化するため、電歪素子5の剛性度合と粘性度合とを印加電圧の操作によって各別に(互いに独立に)制御することはできない。ただし、詳細は後述するが、電歪素子5の剛性度合を調整することで、擬似的に、電歪素子5の粘性度合を調整することが可能である。
なお、電歪素子5は、印加電圧の変化に対して、粘性度合がほぼ一定に保たれるような特性を有していてもよい。
補足すると、電歪素子5の剛性度合を表す指標値は、上記剛性度合指標値に限られない。電歪素子5の剛性度合を表す指標値としては、基本的には、該電歪素子5の剛性度合に対して、単調増加もしくは単調減少するという特性を持つ任意の指標値を用いることができる。例えば、上記剛性度合指標値の逆数値を、電歪素子5の剛性度合を表す指標値として用いてもよい。
同様に、電歪素子5の粘性度合を表す指標値は、上記粘性度合指標値に限られない。電歪素子5の粘性度合を表す指標値としては、基本的には、電歪素子5の粘性度合に対して、単調増加もしくは単調減少するという特性を持つ任意の指標値を用いることができる。例えば、上記粘性度合指標値の逆数値を、電歪素子5の粘性度合を表す指標値として用いてもよい。
図2〜図4を参照して、動力伝達機構3の基体フレーム6は、本実施形態では、中心軸線Cの方向での電歪素子5の両側に、該電歪素子5と間隔を存して配置された第1プレート21及び第2プレート22と、該第1プレート21及び第2プレート22を連結する複数の連結ロッド23とから構成されている。
電歪素子5と第1プレート21及び第2プレート22のそれぞれのとの間の間隔は、該間隔内で、電歪素子5の弾性変形部11の弾性変形(撓み)を行い得るように設定されている。
各連結ロッド23は、電歪素子5の弾性変形部11の周囲に、電歪素子5の中心軸線Cと同方向に延在するように配設されている。そして、各連結ロッド23の両端部が、第1プレート21及び第2プレート22に各々固定されている。
また、各連結ロッド23は、電歪素子5の外周側の支持枠15に挿通されて、該支持枠15に固定されている。これにより、電歪素子5の弾性変形部11の外周側の周縁部が、支持枠15を介して基体フレーム6の連結ロッド23に支持されている。
動力伝達機構3の筒状部材7は、第1プレート21の中央部に固定されたガイド部21aに形成された穴(図示省略)を摺動自在に貫通して、電歪素子5の中心軸線Cと同軸心に配置されている。
該筒状部材7は、その一端部(図2〜図4では左側端部)が第2プレート22に向かって開口する中空の筒状部材である。そして、該筒状部材7の開口端部が、基体フレーム6の第1プレート21及び第2プレート22の間に位置する電歪素子5の中央部の貫通穴14に挿入されると共に、該筒状部材7の開口端部の外周が、電歪素子5の内周側の支持枠16に固着されている。
これにより、筒状部材7は、電歪素子5の弾性変形部11の中央部に位置する支持枠16から、第1プレート21側に向かって、電歪素子5の中心軸線Cと同方向に延在するように配置されると共に、第1プレート21を摺動自在に貫通している。
また、筒状部材7の電歪素子5と反対側の端部(図2〜図4では右側端部)は被動負荷としての第2部材A2に連結されている。本実施形態では、筒状部材7の電歪素子5と反対側の端部に固定された環状の連結部材24が支軸25を介して第2部材A2に連結されている。これにより、筒状部材7は、第2部材A2に対して支軸25の軸心周り(図2〜図4のそれぞれの紙面に垂直な方向の軸心周り)に相対回転し得るように、該第2部材A2に軸支されている。
次に、前記アクチュエータ2は、例えば、直動軸としてのネジ軸32と、該ネジ軸32にボール(図示省略)を介して嵌合されたナット33とを有するボールネジ機構31と、動力源としてのモータ34とを備える。
モータ34は、本実施形態では、例えば電動モータである。このモータ34の筐体34aの一端部(図2〜図4では右側端部)には、モータ34の筐体34a内に回転自在に支持されたロータ(図示省略)の回転角度又は回転速度に応じた検出信号を出力する回転検出器35が装着されている。該回転検出器35は、例えばロータリエンコーダ、ポテンショメータ等により構成され得る。この回転検出器35の検出信号は、モータ34の動作制御に利用される。
そして、モータ34の筐体34aは、回転検出器35を介して、前記基体フレーム6の第2プレート22に固定されている。
なお、モータ34として、電動モータ以外のモータ、例えば油圧モータを採用することもできる。
ボールネジ機構31のネジ軸32(直動軸)は、モータ34の筐体34a、回転検出器35及び基体フレーム6の第2プレート22を貫通して配設されている。この場合、ネジ軸32は、電歪素子5の中心軸線Cと同軸心に配置されている。
そして、ネジ軸32のうちの、第2プレート22から突出した部分(図2〜図4では右側部分)が、前記筒状部材7に摺動自在に挿入されている。
なお、本実施形態では、ネジ軸32は、筒状部材7に挿入される部分にもネジが形成さされているが、該筒状部材7に挿入される部分には、ネジが形成されていなくてもよい。
また、ネジ軸32のうちの、基体フレーム6と反対側の端部(図2〜図4では左側端部)が第1部材A1に連結されている。本実施形態では、ネジ軸32のうちの、基体フレーム6と反対側の端部に固定された環状の連結部材36が支軸37を介して第1部材A1に連結されている。これにより、ネジ軸32は、第1部材A1に対して支軸37の軸心周り(図2〜図4のそれぞれ紙面に垂直な方向の軸心周り)に相対回転し得るように、該第1部材A1に軸支されている。
ボールネジ機構31のナット33は、モータ34から回転駆動力が付与されるように、モータ34の筐体34aの内部において、モータ34のロータに接続されている。
以上の如き機構的構成を有する動力装置1では、アクチュエータ2のモータ34によりナット33を回転駆動することにより、基体フレーム6がモータ34の筐体34aと共に、ネジ軸32に対して該ネジ軸32の軸心方向(中心軸線Cと同方向)に移動する。このとき、基体フレーム6の移動に伴う並進力が、電歪素子5の弾性変形部11を介して筒状部材7に作用し、該筒状部材7がネジ軸32に対して摺動しつつ移動する。
これにより、第2部材A2の筒状部材7との連結部分と、第1部材A1のネジ軸32との連結部分とが接近又は離反するようにして、第1部材A1に対する第2部材A2(被動負荷)の相対変位が行われることとなる。
例えば、図2に示す状態から、基体フレーム6をネジ軸32に対して図2の左向きに移動させるようにナット33を回転駆動することで、図3に示すように、第2部材A2の筒状部材7との連結部分と、第1部材A1のネジ軸32との連結部分と間の距離(中心軸線Cの方向の距離)を短くするように、第1部材A1に対して第2部材A2を相対変位させることができる。
また、第2部材A2の筒状部材7との連結部分と、第1部材A1のネジ軸32との連結部分と間の任意の距離状態において、該第1部材A1と第2部材A2との間に電歪素子5の中心軸線Cの方向の外力(並進力)が作用すると、電歪素子5の内周側の支持枠16が外周側の支持枠15に対して中心軸線Cの方向に相対変位するように、弾性変形部11が弾性的に撓む。
例えば、図3に示す状態において、第1部材A1と第2部材A2との間に、これらの部材A1,A2の距離(中心軸線C上での距離)を縮める方向の外力が作用した場合には、図4に示すように電歪素子5の弾性変形部11が弾性的に撓む。これにより、第1部材A1と第2部材A2との間に弾性力が発生することとなる。
この場合、電歪素子5の弾性変形部11に対する印加電圧を変化させることで、該弾性変形部11がその面沿い方向に伸縮する。ひいては、電歪素子5の弾性変形部11の剛性度合と粘性度合とを変化させることが可能となる。
次に、動力装置1の制御に係る構成を図6を参照して説明する。図6を参照して、参照符号51を付したものは、動力装置1の電歪素子5及びアクチュエータ2の作動制御を行う制御装置である。該制御装置51は、CPU、RAM、ROM、インターフェース回路等を含む電子回路ユニットにより構成される。なお、制御装置51は、相互に通信可能な複数の電子回路ユニットにより構成されていてもよい。
制御装置51には、被動負荷Lとしての第2部材A2に作用する力(中心軸線Cの方向の並進力。以降、被動負荷作用力ということがある)に応じた検出信号を出力する力検出用センサ52の検出信号と、電歪素子5の支持枠15,16の間の変位量(詳しくは、支持枠15,16の一方に対する他方の相対変位量(中心軸線Cの方向での相対変位量))に応じた検出信号を出力する変位検出用センサ53の検出信号と、前記回転検出器35の検出信号とが入力される。
上記力検出用センサ52は、例えば、電歪素子5の支持枠16と筒状部材7との間、あるいは、筒状部材7の中間部に介装される力センサ(図示省略)により構成され得る。
また、変位検出用センサ53は、例えば、基体フレーム6の第1プレート21又は第2プレート22から電歪素子5の内側の支持枠16までの距離を検出する距離センサ(図示省略)等により構成され得る。
なお、電歪素子5の支持枠15,16の間の変位量(中心軸線Cの方向での変位量)は、本発明における動力伝達要素の両端間の変位量に相当する。以降、支持枠15,16の間の変位量を電歪素子5(又は動力伝達要素5)の両端間変位量という。
制御装置51は、実装されたハードウェア構成又はプログラム(ソフトウェア構成)によって、本発明における力制御装置としての機能が付与されている。
具体的には、制御装置51は、被動負荷作用力を所要の目標値に制御するための第1の操作量(制御入力)として、電歪素子5の剛性度合及び粘性度合のそれぞれの目標値を所定の制御処理周期で逐次決定する第1操作量決定部61と、該剛性度合及び粘性度合の目標値に応じて電歪素子5の実際の剛性度合及び粘性度合を制御する剛性・粘性制御部62と、被動負荷作用力を所要の目標値に制御するための第2の操作量(制御入力)として、被動負荷位置の調整量(以降、単に被動負荷位置調整量という)を所定の制御処理周期で逐次決定する第2操作量決定部63と、該被動負荷位置調整量と第1部材A1に対する第2部材A2の相対位置の基準目標値とに応じて第2部材A2を変位させるようにアクチュエータ2のモータ34を制御するアクチュエータ制御部64とを備える。
そして、剛性・粘性制御部62は、電歪素子5の粘性度合を後述する如く擬似的に制御するために、剛性度合の目標値を補正する剛性度合補正部62aを含んでいる。
なお、制御装置51は、前記電歪素子5の弾性変形部11に電圧を印加する直流電源(図示省略)を介して、電歪素子5の印加電圧を操作し得るように構成されている。
補足すると、上記第1操作量決定部61、剛性・粘性制御部62、第2操作量決定部63、アクチュエータ制御部64、及び剛性度合補正部62aは、それぞれ本発明における第1操作量決定手段、剛性・粘性制御手段、第2操作量決定手段、アクチュエータ制御手段、及び補正手段に相当する。また、前記被動負荷位置調整量は、本発明における被動負荷変位操作量に相当する。
以下に制御装置51の制御処理をより具体的に説明する。なお、以降の説明では、第1部材A1に対する第2部材A2の相対位置を、単に第2部材A2の位置、又は被動負荷位置という。
制御装置51は、所定の制御処理周期で、被動負荷作用力の目標値fcmdと、被動負荷位置の基準目標値Pcmd_baseとを逐次決定し、あるいは、外部のサーバ等から逐次取得する。
これらの目標値fcmd,Pcmd_baseは、実現可能な範囲で任意に設定され得る。例えば、第1部材A1及び第2部材A2が、ロボットの回転型の関節で連結される2つのリンクである場合には、目標値fcmd,Pcmd_baseは、ロボットの目標とする動作パターン、外界物との接触状態等に応じて適宜設定される。
また、制御装置51は、上記所定の制御処理周期で、力検出用センサ52、変位検出用センサ53、及び回転検出器35の出力を逐次取得する。
そして、制御装置51は、各制御処理周期において、第1操作量決定部61及び剛性・粘性制御部62の処理を実行することで、電歪素子5の剛性度合及び粘性度合を制御すると共に、第2操作量決定部63及びアクチュエータ制御部64の処理を実行することで、被動負荷位置(第2部材A2の位置)を制御する。
この場合、制御装置51の第1操作量決定部61の処理は次のように実行される。すなわち、第1操作量決定部61は、各制御処理周期において、電歪素子5の弾性部材たる誘電エラストマー12の全体の基準変形状態からの弾性変形量Xactと該弾性変形量Xactの時間的変化率としての弾性変形速度dXactとのそれぞれの現在の推定値を求める。
ここで、電歪素子5の誘電エラストマー12の全体の基準変形状態は、該誘電エラストマー12の全体が発生する弾性力(中心軸線Cの方向の並進力)がゼロとなる状態(バネの自然長状態に相当する状態)である。そして、上記弾性変形量Xactは、電歪素子5の両端間変位量(誘電エラストマー12の全体の基準変形状態での電歪素子5の両端間変位量の値を基準(ゼロ)とする相対的な両端間変位量)により表される。
この場合、電歪素子5の誘電エラストマー12は、前記したように印加電圧に応じて撓むため、該誘電エラストマー12の全体の基準変形状態での電歪素子5の両端間変位量の値は、電歪素子5の印加電圧と、該印加電圧の変化に応じて電歪素子5に流れる電流とに応じたものとなる。
そこで、第1操作量決定部61は、電歪素子5に対する印加電圧の現在の指令値(又は検出値)と、電流の検出値とから、あらかじめ作成された演算式又はマップにより基準変形状態での電歪素子5の両端間変位量の推定値を求める。そして、第1操作量決定部61は、変位検出用センサ53の出力により示される電歪素子5の現在の両端間変位量の検出値と、基準変形状態での電歪素子5の両端間変位量の推定値との差(=検出値−推定値)を、電歪素子5の弾性部材たる誘電エラストマー12の全体の基準変形状態からの弾性変形量Xact(以降、単に電歪素子5の弾性変形量Xactという)の推定値として求める。
なお、電歪素子5の弾性変形量Xactの推定値を、電歪素子5に対する印加電圧の現在の指令値(又は検出値)と、電流の検出値と、変位検出用センサ53の出力により示される電歪素子5の現在の両端間変位量の検出値とから、あらかじめ作成された演算式又はマップにより求めるようにしてもよい。
さらに、第1操作量決定部61は、上記の如く求めた弾性変形量Xactの時間的変化率(単位時間当たりの変化量)を、電歪素子5の誘電エラストマー12の全体の弾性変形速度dXact(以降、単に電歪素子5の弾性変形速度dXactという)の推定値として求める。
この場合、弾性変形量Xactの時間的変化率は、弾性変形量Xactの推定値の現在値(現在の制御処理周期で求めた推定値)と、前回値(前回の制御処理周期で求めた推定値)との差を制御処理周期の時間で除算することで算出される。
さらに、第1操作量決定部61は、電歪素子5の現在の実際の剛性度合を表す剛性度合指標値Kactの推定値(観測値)と、電歪素子5の現在の実際の粘性度合を表す粘性度合指標値Dactの推定値(観測値)とを求める。
この場合、Kact,Dactのそれぞれの推定値は、例えば次のような手法により求めることができる。すなわち、第1操作量決定部61は、まず、上記の如く求めた電歪素子5の現在の弾性変形量Xactの推定値及び弾性変形速度dXactの推定値と、電歪素子5の印加電圧(指令値又は検出値)とから、あらかじめ作成された演算式又はマップによりKactの推定値が求められる。
ここで、本実施形態では、後述するように電歪素子5の剛性度合は、電歪素子5が、剛性度合指標値の目標値Kcmdに応じた弾性力に加えて、粘性度合指標値の目標値Dcmdに応じた擬似的な粘性力を発生するように調整される。そして、上記の如く求められるKactの推定値は、粘性力の成分を除いたものである。
次いで、第1操作量決定部61は、電歪素子5の現在のKact及びXactの推定値から算出される弾性力(=Kact・Xact)を、前記力検出用センサ52の出力により示される被動負荷作用力fact(これは、電歪素子5が発生する弾性力と粘性力との総和に相当する)の現在の検出値から減算することで、電歪素子5が発生している粘性力(=fact−Kact・Xact)を求める。そして、第1操作量決定部61は、この粘性力を、電歪素子5の現在のdXactの推定値で除算することにより、現在のDactの推定値を求める。
なお、Kact,Dactの推定値は、上記の手法以外の手法で求めることもできる。例えば、前回の制御処理周期までに決定された剛性度合指標値及び粘性度合指標値のそれぞれの目標値Kcmd,Dcmdの時系列に所定の応答遅れ特性(例えば一次遅れ特性)で追従させるように逐次決定した値の最新値を、Kact,Dactのそれぞれの推定値として求めるようにしてもよい。
第1操作量決定部61は、以上の如く求めたKact,Dact,Xact,dXactの推定値と、前記力検出用センサ52の出力により示される被動負荷作用力factの現在の検出値と、被動負荷作用力factの検出値の現在の時間的変化率dfactと、被動負荷作用力の現在の目標値fcmdと、被動負荷作用力の目標値fcmdの現在の時間的変化率dfcmdとから、次式(1),(2)の演算により、剛性度合指標値の目標値Kcmdと粘性度合指標値の目標値Dcmdとをそれぞれ決定する。
なお、factの検出値の時間的変化率dfactと、fcmdの時間的変化率dfcmdとは、それぞれ、前記弾性変形速度dXactの推定値の算出演算と同様の演算(現在値と前回値との差を制御処理周期の時間で除算する演算)により算出される。
Kcmd=kfp・((fcmd−fact)/Xact)+Kact ……(1)
Dcmd=kfd・((dfcmd−dfact)/dXact)+Dact ……(2)
上記式(1)におけるkfpと、式(2)におけるkfdはそれぞれあらかじめ設定された所定値のゲインである。ただし、式(1)の演算では、Xactの絶対値が所定値γ1よりも小さい微小値である場合には、Xactの値の代わりに、所定の制限値(例えば、sign(Xact)・γ1)が使用される。同様に、式(2)の演算では、dXactの絶対値が所定値γ2よりも小さい微小値である場合には、dXactの値の代わりに、所定の制限値(例えば、sign(dXact)・γ2)が使用される。なお、sign( )は符号関数である。
式(1)の演算により、Kcmdは、被動負荷作用力の目標値fcmdと、被動負荷作用力の実際の値factの推定値(観測値)との偏差(以降、被動負荷作用力偏差という)をゼロに近づける機能を有する操作量として算出される。
また、式(2)により、被動負荷作用力の目標値fcmdの時間的変化率dfcmdと、被動負荷作用力の時間的変化率の実際の値dfactの推定値(観測値)との偏差、すなわち、上記被動負荷作用力偏差の時間的変化率をゼロに近づける機能を有する操作量として算出される。
なお、剛性度合指標値の目標値Kcmdは、所定の下限値Kminと上限値Kmaxとの間の許容範囲内の値となるように(Kmin<Kcmd<Kmaxとなるように)制限される。例えば、式(1)により算出されるKcmdがKmin+ε1≦Kcmd≦Kmax−ε2(ε1,ε2は正の微小定数値)という範囲から逸脱する場合には、Kcmdは、Kmin+ε1及びKmax−ε2のうち、式(1)による算出値により近い方の値に強制的に制限される。
同様に、粘性度合指標値の目標値Dcmdは、所定の下限値Dminと上限値Dmaxとの間の許容範囲内の値となるように(Dmin<Dcmd<Dmaxとなるように)制限される。例えば、式(2)により算出されるDcmdがDmin+ε3≦Dcmd≦Dmax−ε4(ε3,ε4は正の微小定数値)という許容範囲を逸脱する場合には、Dcmdは、Dmin+ε3及びDmax−ε4のうち、式(2)による算出値により近い方の値に強制的に制限される。
この場合、Kcmdについての上記下限値Kmin及び上限値Kmaxと、Dcmdについての上記下限値Dmin及び上限値Dmaxは、Kcmd及びDcmdに応じて後述する如く電歪素子5の印加電圧を操作することにより実現される電歪素子5の実際の剛性度合指標値及び粘性度合指標値のそれぞれを、電歪素子5の仕様、あるいは、電歪素子5への電圧の印加装置の仕様、あるいは、電歪素子5の作動特性についての設計的な要求等に応じて規定される許容範囲に収め得るようにあらかじめ設定されるものである。
制御装置51は、第1操作量決定部61の処理により上記の如く決定した剛性度合指標値の目標値Kcmdと粘性度合指標値の目標値Dcmdとを用いて剛性・粘性制御部62の処理を実行する。
この場合、剛性・粘性制御部62の処理は次のように実行される。すなわち、剛性・粘性制御部62は、電歪素子5の粘性度合指標値を擬似的に目標値Dcmdに制御するために、まず、剛性度合指標値の目標値Kcmdを粘性度合指標値の目標値Dcmdに応じて補正する処理を実行する。
ここで、本実施形態の電歪素子5は、印加電圧を変化させることで、剛性度合と粘性度合とが変化するものの、該剛性度合と粘性度合とを互いに独立に制御することができない。そこで、本実施形態では、剛性・粘性制御部62は、電歪素子5の粘性度合指標値を擬似的に目標値Dcmdに制御し得るように、剛性度合補正部62aにより剛性度合指標値の目標値Kcmdを補正する。そして、その補正後の剛性度合指標値の目標値Kcmd2に実際の剛性度合指標値を制御するように、剛性・粘性制御部62は、電歪素子5に対する印加電圧を操作する。
剛性度合指標値の目標値Kcmdの補正は、剛性度合補正部62aにより以下に説明する如く行われる。
電歪素子5の剛性度合指標値と、粘性度合指標値とをそれぞれ、Kcmd、Dcmdに一致させた場合を想定する。この場合に、電歪素子5で発生する弾性力と粘性力との合成力は次式(3)により表される。
合成力=弾性力+粘性力=Kcmd・Xact+Dcmd・dXact ……(3)
一方、電歪素子5が粘性を持たない弾性体であるとみなし、且つ、該電歪素子5の剛性度合指標値をある目標値Kcmd2に一致させた場合を想定する。この場合に、電歪素子5が発生する弾性力は、次式(4)により表される。
弾性力=Kcmd2・Xact ……(4)
ここで、基本的には、式(4)により表される弾性力を、式(3)により表される合成力に一致させるように、Kcmd2を決定して、このKcmd2(=Kcmd+Dcmd・dXact/Xact)に電歪素子5の実際の剛性度合指標値を制御すれば、電歪素子5は、擬似的に、Dcmdに応じた粘性力(=Dcmd・dXact)と、Kcmdに応じた弾性力(=Kcmd・Xact)との合成力を発生できることとなる。
ただし、電歪素子5の剛性度合指標値の上記目標値Kcmd2は、前記した所定の下限値Kminと上限値Kmaxとの間に許容範囲内に収まる必要がある。すなわち、Kmin<Kcmd2<KmaxというKcmd2の許容範囲条件を満たす必要がある。
そこで、本実施形態では、剛性・粘性制御部62の剛性度合補正部62aは、第1操作量決定部61で決定された剛性度合指標値の目標値Kcmd及び粘性度合指標値の目標値Dcmdと、第1操作量決定部61で前述した如く求められた電歪素子5の現在の弾性変形量Xact及びその時間的変化率dXact(弾性変形速度dXact)のそれぞれの推定値とを用いる次式(5)の演算によりKcmdを補正することで、当該補正後の剛性度合指標値の目標値Kcmd2を決定する。
Kcmd2=(Dcmd・dXact/(Xact+σ))+Kcmd ……(5)
この場合、式(5)におけるσは、Kmin<Kcmd2<KmaxというKcmd2の許容範囲条件を満たし得る範囲内で極力小さい(ゼロに近い)正の値となるように設定される。
例えば、σの値は、電歪素子5の弾性変形速度dXactの極性に応じて、次式(6a)又は(6b)によりσの値が設定される。
dXact≧0のとき
σ=(dXact・Dcmd/(Kmax−Kcmd))+α ……(6a)
dXact<0のとき
σ=(dXact・Dcmd/(Kmin−Kcmd))+α ……(6b)
式(6a),(6b)におけるαは、あらかじめ設定したゼロ以上の定数値(ゼロ又はゼロ近傍の正の定数値)である。これらの式(6a),(6b)により設定されるσの値は、電歪素子5の弾性変形速度dXactの大きさが大きいほど、大きな値となる。また、KcmdがKmax又はKminに近いほど、σの値が大きくなる。
上記の如く剛性度合指標値の目標値Kcmdを補正した場合、補正後の剛性度合指標値の目標値Kcmd2に応じて後述の如く電歪素子5の印加電圧を操作したときに、剛性度合指標値の目標値Kcmdと電歪素子5の弾性変形量Xactの推定値とに応じた弾性力と、粘性度合指標値の目標値Dcmdと電歪素子5の弾性変形速度dXactの推定値とに応じた粘性力とを電歪素子5で発生させることができるようになる。
剛性・粘性制御部62は、以上の如く剛性度合指標値の補正後の目標値Kcmd2を算出した後、該目標値Kcmd2に応じて電歪素子5の印加電圧を操作する。
この場合、剛性・粘性制御部62は、剛性度合指標値の目標値Kcmd2から、あらかじめ作成された演算式又はマップにより実際の剛性度合指標値Kactを目標値Kcmd2にするための印加電圧の指令値を決定する。そして、剛性・粘性制御部62は、当該指令値の印加電圧を図示しない直流電源から電歪素子5に印加させるように該直流電源を制御する。
これにより、電歪素子5の実際の剛性度合指標値Kactと粘性度合指標値Dactとが目標値Kcmd、Dcmdに応じて制御されることとなる。
制御装置51の第1操作量決定部61及び剛性・粘性制御部62の処理は、以上の如く実行される。
一方、制御装置51の第2操作量決定部63及び及びアクチュエータ制御部64の処理は、次のように実行される。
まず、第2操作量決定部63は、次式(7)で示す如く、被動負荷作用力の目標値fcmdと前記力検出用センサ52の出力により示される実際の被動負荷作用力factの検出値との偏差(=fcmd−fact)を積分する処理を逐次実行し、各制御処理周期での当該積分値を前記被動負荷位置調整量ΔPとして求める。
ΔP=kfi・∫(fcmd−fact)dt
=ΔPの前回値+kfi・(fcmd−fact)・Δt ……(7)
式(7)におけるΔPの前回値は、前回の制御処理周期で求めたΔPの値である。また、kfi・(fcmd−fact)・Δtの項のうちのkfiはあらかじめ設定された所定値のゲイン、(fcmd−fact)は、現在の制御処理周期での被動負荷作用力の目標値fcmdと実際の被動負荷作用力factの検出値との偏差、Δtは制御処理周期の時間である。
上記の如く算出される被動負荷位置調整量ΔPは、被動負荷作用力の目標値fcmdに対する実際の被動負荷作用力factの定常偏差を解消するように被動負荷位置を調整する機能を有する操作量である。
次に、アクチュエータ制御部64は、各制御処理周期において、次式(8)で示す如く、第2操作量決定部63で上記の如く決定された被動負荷位置調整ΔPにより、被動負荷位置の前記基準目標値Pcmd_base(現在値)を補正することで、被動負荷位置の目標値Pcmdを決定する。
Pcmd=Pcmd_base+ΔP ……(8)
そして、アクチュエータ制御部64は、この目標値Pcmdを実現するように、モータ34を制御する。
例えば、アクチュエータ制御部64は、回転検出器35の出力により示されるモータ34のロータの現在の回転角度の検出値と、変位検出用センサ53の出力により示される電歪素子5の現在の両端間変位量の検出値とから、あらかじめ作成された演算式又はマップにより実際の被動負荷位置の推定値を求める。そして、アクチュエータ制御部64は、該被動負荷位置の推定値と目標値Pcmdとの偏差に応じてモータ34のサーボ制御を実行する。これにより、実際の被動負荷位置が目標値Pcmdに一致もしくはほぼ一致するように、モータ34が制御される。
従って、実際の被動負荷作用力factが目標値fcmdに定常的にほぼ一致している状態では、実際の被動負荷位置が、基準目標値Pcmd_baseに一致もしくはほぼ一致するようにモータ34が制御される。
そして、実際の被動負荷作用力factが目標値fcmdに対して定常偏差を生じる状況になると、実際の被動負荷位置は、基準目標値Pcmd_baseから被動負荷位置調整量ΔPだけずらした目標値Pcmdに一致もしくはほぼ一致するようにモータ34が制御される。これにより、上記定常偏差が解消される。
以上が、制御装置51の処理の詳細である。以上説明した本実施形態によれば、被動負荷作用力偏差(=fcmd−fact)と、その時間的変化率(=dfcmd−dfact)とをゼロに近づけるように、電歪素子5の剛性度合及び粘性度合が制御される。これにより、電歪素子5の誘電エラストマー12の弾性的な振動の減衰特性(ひいては、電歪素子5の両端間変位量の振動の減衰特性)が、被動負荷作用力偏差及びその時間的変化率をゼロに近づけ得るように設定されることとなる。
そして、被動負荷作用力の制御のためのアクチュエータ2の作動制御は、被動負荷作用力偏差の積分値に応じて(被動負荷位置調整量ΔPに応じて)、被動負荷位置を調整するように行われる。これにより実際の被動負荷作用力factが目標値fcmdに対して定常偏差を生じても、それを解消できる。
この場合、急激な変動を生じ難い被動負荷作用力偏差の積分値に応じてアクチュエータ2の作動制御を行うので、その作動制御は、比較的低速の制御でよい。
また、電歪素子5の剛性度合及び粘性度合の制御によって、電歪素子5の両端間変位量の振動の連続的な減衰特性が規定されるので、電歪素子5の剛性度合及び粘性度合の制御も、比較的低速の制御でよい。
従って、制御装置51は、比較的低速の制御処理で、被動負荷作用力の制御を行うことができる。このため、該被動負荷作用力の制御は、被動負荷作用力の検出値、電歪素子5の両端間変位量の推定値、電歪素子5の弾性変形量Xactの推定値等の各観測値の誤差の影響を受け難い。ひいては、被動負荷作用力の制御を、高い信頼性で安定に行うことができる。
また、本実施形態では、動力伝達機構3の動力伝達要素5が弾性部材たる誘電エラストマー12を有する電歪素子により構成されている。そして、該電歪素子5の粘性度合は、剛性度合の調整によって擬似的に制御される。このため、動力伝達要素5を小型で簡略な構成とすることができる。ひいては、動力装置1の小型化あるい軽量化を容易に実現できる。
また、該電歪素子5は、被動負荷作用力の制御を行う上で、十分な応答性で剛性度合及び粘性度合を制御できる。
次に、本発明の効果に関する検証シミュレーションについて図7A及び図7B、並びに図8を参照して説明する。図7A及び図7B、並びに図8は、図1に示した構成の動力装置1における被動負荷作用力の制御に関する検証シミュレーションにより得られたグラフを示している。
図7A及び図7Bのそれぞれの実施例1のグラフ(太線のグラフ)は、動力伝達要素5の剛性度合(バネ要素5xの剛性度合)と粘性度合(ダンパー要素5yの粘性度合)とを、各々独立に目標値に制御した場合における被動負荷位置の経時変化と被動負荷作用力の経時変化とをそれぞれ示している。この場合、制御処理周波数(制御処理周期の逆数値)は33Hzである。
また、図7A及び図7Bのそれぞれの比較例1のグラフ(細線のグラフ)は、動力伝達要素5の剛性度合と粘性度合とをそれぞれ一定値として、アクチュエータ2の制御によって、被動負荷作用力を制御した場合における被動負荷位置の経時変化と被動負荷作用力の経時変化とをそれぞれ示している。図7A及び図7Bのそれぞれの比較例2のグラフ(細線のグラフ)も同様である。ただし、比較例1での制御処理周波数は33Hz、比較例2での制御処理周波数は200Hzである。
実施例1では、被動負荷作用力が比較的短時間で円滑に目標値fcmdに収束する。一方、動力伝達要素5の剛性度合及び粘性度合の制御を行わない比較例1,2のうち、制御処理周波数が実施例1と同じである比較例1では、被動負荷作用力を短時間で目標値fcmdに収束させることができない。そして、実施例1よりも十分に制御処理周波数が高い比較例2においては、実施例1と同程度の時間で被動負荷作用力を目標値fcmdに収束させることができるようになる。
このことから、被動負荷作用力を制御するために、動力伝達要素5の剛性度合と粘性度合とを制御する実施形態では、高速での制御処理を必要とせずに、比較的低速の制御によって、被動負荷作用力を適切に制御できることが判る。
次に図8の実施例2のグラフ(実線のグラフ)は、動力伝達要素5の粘性度合を、前記実施形態で説明した手法、すなわち前記式(5)による補正後の剛性度合の目標値Kcmd2に応じて動力伝達要素5の剛性度合を制御する手法によって、動力伝達要素5の粘性度合を擬似的に制御するようにした場合における被動負荷位置の経時変化を示している。また、図8の実施例1のグラフ(破線のグラフ)は、図7Aに示したものと同じである。なお、実施例2の制御処理周波数は、実施例1と同じ(33Hz)である。
図8の実施例1、2のグラフを比較して判るように、動力伝達要素5の粘性度合を擬似的に制御する場合であっても、該粘性度合を剛性度合と独立に制御する場合と同様に、被動負荷作用力の制御を行うことができることが判る。
次に、前記実施形態の変形態様をいくつか説明しておく。前記実施形態では、動力伝達要素5としての電歪素子5は、複数の誘電エラストマー12を備えるものであるが、単一の誘電エラストマー12だけを備えるものであってもよい。
また、例えば電歪素子5とは別にダンパー要素をさらに備え、電歪素子5の剛性度合とダンパー要素の粘性度合とを各別に制御し得るように動力伝達要素を構成してもよい。なお、ダンパー要素は、例えば開口面積を変更可能な油通路を備える流体機構等により構成し得る。
また、動力伝達要素の弾性部材としては、電歪素子に限らず、例えば磁歪素子を使用することもできる。
また、前記実施形態では、被動負荷Lに並進力を作用させる動力装置1を例示したが、本発明における動力装置は、被動負荷に回転力を作用させる動力装置であってもよい。