JP2019137624A - タンパク質分離方法、タンパク質分析方法、及びタンパク質分離キット - Google Patents

タンパク質分離方法、タンパク質分析方法、及びタンパク質分離キット Download PDF

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Abstract

【課題】試料中のタンパク質を簡便に分離可能なタンパク質分離方法を提供する。【解決手段】タンパク質を含有する試料中からタンパク質を分離する方法であって、前記試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離することを特徴とするタンパク質分離方法。前記溶液Iに含まれる前記ホウ酸の濃度が0.01mmol/L〜飽和濃度であることが好ましい。前記溶液Iを分離処理することにより、前記第一の沈殿物及び前記第一の上清を分離することが好ましい。【選択図】なし

Description

本発明は、タンパク質分離方法、タンパク質分析方法、及びタンパク質分離キットに関する。
プロテオーム解析は、試料中に含まれるタンパク質を網羅的に解析する手法であり、生体の様々な情報を取得できることから、非常に有用な手法である。
例えば、疾患プロテオーム解析は、病態と正常で発現しているタンパク質の網羅的解析を行い、疾病特異的に異常な挙動(増加、減少、機能変化)を示すタンパク質を見出そうとするものである。比較の対象となる試料は、臓器、細胞、血液、血清、血漿、尿など多岐にわたっている。
なかでも血液は、体内のあらゆる情報を含んでいるため、有用な解析対象物である。しかし、血清又は血漿中のタンパク質分析は組織、臓器に比べて非常に難しく、世界的にも満足な分析が出来ていない。その主な理由は、血清又は血漿中のアルブミン(Alb)やIgGなどの約20種類の高濃度タンパク質(血清又は血漿中の濃度が数mg/mL以上のタンパク質)が総タンパク量の99%を占めていること。これに対して、解析対象としたい組織由来成分、インターロイキンなどのタンパク質の濃度は非常に小さく(数μg/mL〜数pg/mL)、血清又は血漿中のタンパク質の濃度のダイナミックレンジが1010〜1011と非常に幅広いこと(非特許文献1参照)、さらに、血清又は血漿中のタンパク質の切断や翻訳後修飾は多様であり、非常に多成分で複雑な状態にあることにある。ちなみに、細胞中のタンパク質の濃度のダイナミックレンジは10程度である。このため、現在、血清又は血漿を対象としたほぼ全ての研究において、Alb、AlbとIgG等、Alb,IgG等を含む3〜14種類の高濃度タンパク質を除去する除去カラム(主に抗体カラム)が使用されている。このうち、12〜14種類の高濃度タンパク質を除去する除去カラムでは、血清又は血漿中の全タンパク質の約90%以上を除去可能であることが知られている。
しかし、上記除去カラムの利用には時間を要すること、除去後の試料の容量が増えているため濃縮操作が必要な場合が多いこと、さらには、非常に高価であることなど、多検体分析を必要とするヒト検体の詳細分析、検査応用においても多くの問題点がある。また、高濃度タンパク質除去法として逆相HPLCで分画を試みた場合、スループットが大変悪く、比較分析のための再現性を確保するために多大なる労力と技術を要する。また、ヒト以外の動物に関しては、満足な高濃度除去カラムが市販されておらず、これらの血清・血漿の分析は困難である。
特許文献1には、試料にアミノ酸を添加し、試料中のタンパク質を簡便に分離可能なタンパク質の分離方法が開示されているが、さら分画効率の高いタンパク質の分離方法が求められている。
特開2016−141648号公報
Anderson N L, Anderson N G, Mol Cell Proteomics 2002; 1(11):845-867.
上記除去カラムは、血清又は血漿等のサンプル中の高濃度タンパク質を含む全タンパク質の約90%を除去可能である。この除去率は、一見するとサンプル中のタンパク質分析を行うのに十分であると理解されるかもしれない。しかし、タンパク質を約90%除去しただけでは、残りのタンパク質を10倍程度濃縮したにすぎない。タンパク質の濃度のダイナミックレンジが1010〜1011ある状況下での10倍の濃縮では、微量タンパク質の分析の困難さについての問題を解決することにはならない。また、サンプル中の高濃度タンパク質が複雑性(切断断片や翻訳後修飾等で個々のタンパク質が多様な分子量を持つ)を有することで、微量タンパク質の分析がさらに困難なものとなっているが、このことについても何の解決も与えない。
また、高濃度タンパク質には、高濃度タンパク質がキャリアタンパク質となって、その他の微量なタンパク質・ペプチドと結合していると考えられる。そのため、上記の除去カラムの利用により高濃度タンパク質に吸着している微量タンパク質は、高濃度タンパク質を除去する際に、高濃度タンパク質と一緒に除去されてしまう。結果、現状のタンパク質除去カラムによって調製されたサンプルを用いた分析では、非常に重要な情報を損失していると考えられる。
このような経緯から、本発明者らは、試料中のタンパク質の「除去方法」ではなく、試料中の微量タンパク質の分析や臨床応用に有用な、新たなタンパク質の「分離方法」の開発が必要であることに思い至った。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、試料中のタンパク質を簡便に分離可能な、タンパク質分離方法、タンパク質分析方法、及びタンパク質分離キットの提供を課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、生体試料液にホウ酸を加えると生体試料液に沈殿物が生じることに気づき、試料にホウ酸を添加することで、試料液中のタンパク質を簡便に分離可能であることを見出した。
すなわち本発明は、下記の特徴を有するタンパク質分離方法、タンパク質分析方法、及びタンパク質分離キットを提供するものである。
(1)タンパク質を含有する試料中からタンパク質を分離する方法であって、
前記試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離することを特徴とするタンパク質分離方法。
(2)前記溶液Iに含まれる前記ホウ酸の濃度が100mmol/L〜飽和濃度である前記(1)に記載のタンパク質分離方法。
(3)前記試料に添加する前記ホウ酸が、前記ホウ酸を含むホウ酸溶液であり、前記ホウ酸溶液の濃度が100mmol/L〜飽和濃度である前記(1)又は(2)に記載のタンパク質分離方法。
(4)前記溶液Iを分離処理することにより、前記第一の沈殿物及び前記第一の上清を分離する前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のタンパク質分離方法。
(5)前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合して溶液IIを得て、前記溶液IIから第二の沈殿物及び第二の上清を分離する前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載のタンパク質分離方法。
(6)前記溶液IIを分離処理することにより、前記第二の沈殿物及び前記第二の上清を分離する前記(5)に記載のタンパク質分離方法。
(7)前記第二の上清と還元剤とを混合して溶液IIIを得て、前記溶液IIIから第三の沈殿物及び第三の上清を分離する前記(5)又は(6)に記載のタンパク質分離方法。
(8)前記溶液IIIを分離処理することにより、前記第三の沈殿物及び前記第三の上清を分離する前記(7)に記載のタンパク質分離方法。
(9)前記試料、前記第一の沈殿物、前記第一の上清、前記第二の沈殿物、前記第二の上清、前記第三の沈殿物又は前記第三の上清から、アルブミン、IgG、トランスサイレチン、補体系タンパク質、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、サイロキシン結合グロブリン、α2−マクログロブリン、IgM、アンチトリプシン、ハプトグロビン、リポプロテイン、アポリポプロテイン、α1−酸性糖タンパク質、及びそれらの断片からなる群から選ばれる一種以上のタンパク質を除去する工程をさらに含む前記(1)〜(8)のいずれか一つに記載のタンパク質分離方法。
(10)前記第三の上清にタンパク質分離処理を行い、溶液IVを得て、前記溶液IVから第四の沈殿物を分離する前記(7)〜(9)のいずれか一つに記載のタンパク質分離方法。
(11)前記溶液IVを分離処理することにより、前記第四の沈殿物を分離する(10)に記載のタンパク質分離方法。
(12)前記試料が体液である前記(1)〜(11)のいずれか一つに記載のタンパク質分離方法。
(13)前記試料が血清又は血漿である前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載のタンパク質分離方法。
(14)前記(1)〜(13)のいずれか一つに記載のタンパク質分離方法で得られた分離物を分析対象に用いることを特徴とするタンパク質分析方法。
(15)前記(1)〜(13)のいずれか一つに記載のタンパク質分離方法に用いられるタンパク質分離キットであって、ホウ酸を備えることを特徴とするタンパク質分離キット。
(16)界面活性剤又はカオトロピック試薬をさらに備える前記(15)に記載のタンパク質分離キット。
(17)還元剤をさらに備える前記(15)又は(16)に記載のタンパク質分離キット。
(18)タンパク質分離用溶液をさらに備える前記(15)〜(17)のいずれか一つに記載のタンパク質分離キット。
本発明のタンパク質分離方法によれば、試料中のタンパク質を分離することができる。 本発明のタンパク質分析方法によれば、試料中のタンパク質を高精度に分析することができる。
本発明のタンパク質分離キットによれば、試料中のタンパク質を分離することができる。
本発明に係る第1実施形態におけるタンパク質分離方法の手順を模式的に示した図である。 本発明に係る第2実施形態におけるタンパク質分離方法の手順を模式的に示した図である。 本発明の係る第3実施形態におけるタンパク質分離方法の手順を模式的に示した図である。 実施例における、血清サンプルの分画の流れを模式的に示した図である。 実施例において分画された分画物の電気泳動(SDS−PAGE)による分析結果を示す写真である。 実施例において分画された分画物の分析結果を示す図である。 溶液1中のホウ酸濃度を変化させた時の、血清及び血漿サンプルの各PF1及びPF2の電気泳動(SDS−PAGE)による分析結果を示す写真である。
<タンパク質分離方法>
本発明のタンパク質分離方法は、
タンパク質を含有する試料中からタンパク質を分離する方法であって、前記試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離するものである。
本発明において、分離対象となるタンパク質とは、アミノ酸が多数重合してなる高分子のみならず、2つ以上のアミノ酸が少数重合してなるポリペプチドも包含される。
本発明において、試料とは、生物、細胞等から得られた生体試料であることが好ましい。生体試料には、生物、細胞等から得られた生体試料の調製物も包含される。生体試料としては、唾液、髄液、尿、血液、血清、血漿、リンパ液、組織液等の体液であることがより好ましい。なかでも血液は、体内のあらゆる情報を含んでいるため、試料としては、血液がより好ましく、その液体成分である血清又は血漿であることがさらに好ましい。
血清及び血漿中のタンパク質分析は、血液中に含まれるタンパク質の濃度のダイナミックレンジが1010〜1011と非常に幅広い。血清中には、アルブミンや免疫グロブリンといった22種類の主要タンパク質が総タンパク質量の99%を占めている。従って、疾患に関与するタンパク質を発見するためには残り1%に含まれる数千種類の微量なタンパク質を比較解析しなければならない。そのため、血液、血清、及び血漿中のタンパク質分析は、組織、臓器中のタンパク質分析に比べて非常に難しいという問題があった。しかし、本発明のタンパク質分離方法によれば、試料として血液並びにその液体成分である血清及び血漿を用いた場合であっても、簡便に該タンパク質の分離が可能である。
本発明において、タンパク質を含有する試料からタンパク質を分離するとは、タンパク質が試料中に一様に存在する状態から、タンパク質が試料中に分離した状態とすること、又はタンパク質が試料中から取り出されて分離した状態とすることである。タンパク質が試料中に分離した状態とは、例えば、タンパク質が不溶化し、固体成分となって試料中から析出した状態となることである。
本発明において、溶液Iから分離される第一の沈殿物とは、必ずしも溶液I中に沈降した状態でなくともよい。第一の沈殿物は、試料中に溶解していたタンパク質が析出して生じた固体成分であると考えられる。溶液Iから上記第一の上清を実質的に除いたものを、第一の沈殿物として取得することできるが、このとき溶液Iから完全に第一の上清が除かれている必要はない。また、第一の沈殿物の調製物等(ただし、後述する第二の沈殿物は除く)であっても、第一の沈殿物に由来するものでれば、第一の沈殿物として扱うことができる。
溶液Iから分離される第一の上清は、溶液Iにおいて、前記第一の沈殿物以外の部分とすることができる。溶液Iから上記第一の沈殿物を実質的に除いたものを、第一の上清として取得することできるが、このとき溶液Iから完全に第一の沈殿物が除かれている必要はない。また、第一の上清の調製物等(ただし、後述する第二の上清は除く)であっても、第一の上清に由来するものでれば、第一の上清として扱うことができる。
(第1実施形態)
本実施形態のタンパク質分離方法は、タンパク質を含有する試料からタンパク質を分離する方法であって、前記試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iを分離処理することにより、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離するものである。
図1は、本発明に係る第1実施形態におけるタンパク質分離方法の手順を模式的に示した図である。
試料にホウ酸を添加する方法は特に制限されず、試料に対してホウ酸を添加してもよく、ホウ酸に対して試料を添加してもよい。
添加するホウ酸の形態に特に制限はなく、例えば、結晶又は粉末等の固体形態であっても、固体形態のホウ酸を溶かしたホウ酸溶液などの形態が挙げられる。また、ホウ酸は塩の形態であってもよく、ホウ酸塩としては、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。
試料に添加するホウ酸の量は、タンパク質を含有する試料中に前記タンパク質の沈殿物を生じさせる程度とすればよい。
試料に添加するホウ酸がホウ酸溶液の形態である場合、前記ホウ酸溶液のホウ酸濃度は、タンパク質を含有する試料中に前記タンパク質の沈殿物を生じさせる程度とすればよい。前記ホウ酸溶液のホウ酸濃度は、100mmol/L〜飽和濃度であることが好ましく、200mmol/L〜飽和濃度であることがより好ましい。その他のホウ酸濃度として、400mmol/L〜飽和濃度、600mmol/L〜飽和濃度、800mmol/L〜飽和濃度が挙げられる。
試料にホウ酸溶液を複数回にわけて添加する場合、添加したホウ酸溶液の合計で、ホウ酸濃度を算出するものとする。
当該ホウ酸溶液において、ホウ酸を溶解する液としては、水、各種緩衝液等が挙げられるが、これらに限定されない。ホウ酸溶液は、実質的に水及びホウ酸からなるホウ酸の水溶液であってもよい。
前記試料にホウ酸を添加して得られた前記溶液Iに含まれる前記ホウ酸の濃度は、タンパク質を含有する試料中に前記タンパク質の沈殿物を生じさせる程度とすればよい。なお、後述する実施例において示すように、対象となる試料の体積よりも、試料に添加するホウ酸溶液の体積が非常に大きくても、本発明を実施可能であるため、前記試料にホウ酸を添加して得られた前記溶液Iに含まれる前記ホウ酸の濃度は、上記と同様の値を例示でき、100mmol/L〜飽和濃度であることが好ましく、200mmol/L〜飽和濃度であることがより好ましい。その他のホウ酸濃度として、400mmol/L〜飽和濃度、600mmol/L〜飽和濃度、800mmol/L〜飽和濃度が挙げられる。
溶液IのpHは、試料の種類や分離対象のタンパク質に応じて適宜設定することができる。
本実施形態では、前記試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iを分離処理することを行う。
試料にホウ酸を添加することのみでも、試料中のタンパク質の沈殿物が生じるなどして、タンパク質が分離され得るが、溶液Iを分離処理することで、より効率的にタンパク質を分離できる。
分離処理としては、例えば、遠心分離、超遠心分離、濾過、膜分離、吸着分離、上清を吸水する等の吸水処理が挙げられ、遠心分離又は超遠心分離が好ましい。分離処理を行うにあたっては、市販の分離器等の機器を用いてもよい。
分離処理時の溶液Iの温度は、試料の種類や分離対象のタンパク質に応じて適宜設定することができ、タンパク質の変性を生じさせない温度範囲内であることが好ましい。分離処理時の溶液Iの温度は、0〜100℃であることが好ましく、4〜40℃であることがより好ましく、10〜30℃の室温であることがさらに好ましい。
溶液Iにはプロテアーゼインヒビター(プロテアーゼ阻害剤)が添加されていることが好ましい。プロテアーゼインヒビターは市販のものを使用可能である。
本実施形態では、上記分離処理を行い、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離する。
一例として、分離処理として遠心分離を行った場合、第一の沈殿物は第一の画分とすることができ、前記溶液Iから第一の沈殿画分及び第一の上清を分画することとなる。
本実施形態のタンパク質分離方法は、その他公知のタンパク質の分離方法と組み合わせてもよい。代表的なタンパク質分離方法としては、塩析、硫安沈殿、アルコールによる沈殿、TCA沈殿、アセトン沈殿、TCA/アセトン沈殿、カプリル酸沈殿、硫酸デキストラン沈殿、ポリビニルピロリドン沈殿等のタンパク質沈殿方法、限外濾過、イオン交換、透析、各種クロマトグラフィー、免疫沈降による分離等を挙げることができる。
本実施形態のタンパク質分離方法によれば、試料中のタンパク質を簡便に分離することができる。本実施形態のタンパク質分離方法では、溶液Iを分離処理することで、より効率的にタンパク質を分離できる。
本実施形態のタンパク質分離方法によれば、アルブミン等の高濃度タンパク質を第一の上清として分離可能である。このことは、第一の沈殿物として、アルブミン等の高濃度タンパク質が除去された画分を取得可能である、と言い換えることができる。
更に、本実施形態のタンパク質分離方法によれば、従来法の、除去対象のタンパク質に対する抗体が固定化された除去カラムにより調製されたサンプルからは得ることのできなかったタンパク質を、第一の沈殿物に分離可能である。
前記除去カラムは抗体カラムであるので、生理的な条件下で使用されることが前提となる。生理的な条件下では、例えば、生理的な条件下でアルブミン等の高濃度タンパク質と結合しているタンパク質は、そのままアルブミン等の高濃度タンパク質と結合した状態であり、アルブミン等の高濃度タンパク質が除去されるとともに除去されてしまう。
一方、本実施形態のタンパク質分離方法では、必ずしも生理的な条件に依存することなく実施することが可能である。そのため、除去対象のタンパク質に結合していたタンパク質を、除去対象のタンパク質とは別の分離物として第一の沈殿物に分離可能である。
(第2実施形態)
本実施形態のタンパク質分離方法は、
タンパク質を含有する試料中からタンパク質を分離する方法であって、
前記試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iを分離処理することにより、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離し、
前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合して溶液IIを得て、前記溶液IIを分離処理することにより、前記溶液IIから第二の沈殿物及び第二の上清を分離するものである。
分離処理時の溶液IIの温度は、試料の種類や分離対象のタンパク質に応じて適宜設定することができ、0〜100℃であることが好ましく、4〜40℃であることがより好ましく、10〜30℃の室温であることがさらに好ましい。
本実施形態において、溶液IIから分離される第二の沈殿物とは、必ずしも溶液II中に沈降した状態でなくともよい。第二の沈殿物は、試料中に溶解していたタンパク質が析出して生じた固体成分であると考えられる。溶液IIから上記第二の上清を実質的に除いたものを、第二の沈殿物として取得することできるが、このとき溶液IIから完全に第二の上清が除かれている必要はない。また、第二の沈殿物の調製物等であっても、第二の沈殿物に由来するものでれば、第二の沈殿物として扱うことができる。
溶液IIから分離される第二の上清は、溶液IIにおいて、前記第二の沈殿物以外の部分とすることができる。溶液IIから上記第二の沈殿物を実質的に除いたものを、第二の上清として取得することできるが、このとき溶液IIから完全に第二の沈殿物が除かれている必要はない。また、第二の上清の調製物等であっても、第二の上清に由来するものでれば、第二の上清として扱うことができる。
図2は、本発明に係る第2実施形態におけるタンパク質分離方法の手順を模式的に示した図である。
第2の実施形態のタンパク質分離方法は、前記第1実施形態のタンパク質分離方法に、さらに、前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合して溶液IIを得て、前記溶液IIを分離処理することにより、前記溶液IIから第二の沈殿物及び第二の上清を分離することを行うものである。なお、前記第1実施形態のタンパク質分離方法と共通する点については、説明を省略する。
本実施形態のタンパク質分離方法では、前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合して溶液IIを得ることを行う。
界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、デオキシコール酸ナトリウム等の陰イオン界面活性化剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、トリトン(登録商標)X−100、n−Octyl−β−D−glucoside等の非イオン界面活性剤等を挙げることができるが、これらに限定されず、好ましい界面活性剤を適宜選択することができる。なかでも、本実施形態のタンパク質分離方法においては、界面活性剤としては、陰イオン界面活性化剤又は非イオン界面活性剤が好ましい。
また溶液II中に含まれるタンパク質量に対して、所定の割合で界面活性剤を添加することが好ましい。
溶液II中の界面活性化剤の濃度は、0.0001〜1(w/v)%であることが好ましく、0.002〜0.05(w/v)%であることがより好ましく、0.005〜0.5(w/v)%以下であることがさらに好ましい。
界面活性剤が陰イオン界面活性化剤、特にSDSである場合、溶液II中の界面活性化剤の濃度は、0.001〜0.05(w/v)%であることがさらに好ましく、0.005〜0.008(w/v)%であることが特に好ましい。
このように比較的低い濃度の界面活性剤を用いることにより、効果的にタンパク質を分離することができる。
カオトロピック試薬としては、カオトロピック効果を生じさせる物質であればよく、例えば、チオシアン酸イオン等のカオトロピック塩であってもよく、尿素、グアニジン塩酸、グアニジンイソチオシアネート等が挙げられる。
前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合することにより、前記第一の上清に含まれるタンパク質を変性させることにより不安定化させ、係るタンパク質を沈澱させることができる。
また、前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合することにより、前記第一の上清に含まれるタンパク質間の相互作用が弱められ、分離可能なタンパク質の種類を増加させることができる。
血液並びにその液体成分である血清及び血漿中では、アルブミンやIgGなどの約20種類の高濃度タンパク質が総タンパク量の99%を占めている。本実施形態のタンパク質分離方法では、試料として、血液、血清、血漿を用いた場合であっても、第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合することで、高濃度タンパク質に結合していたタンパク質と高濃度タンパク質との相互作用が弱められ、分離可能なタンパク質の種類を飛躍的に増加させることができる。
前記溶液IIを分離処理することは、前記溶液Iを分離処理することと同様に行えばよく、上記溶液Iを分離処理する場合に例示した分離処理の方法及び条件を好適に用いることができる。
本実施形態では、上記分離処理を行い、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離する。
一例として、分離処理として遠心分離を行った場合、第二の沈殿物は第二の画分とすることができ、前記溶液IIから第二の沈殿画分及び第二の上清を分画することとなる。
本実施形態のタンパク質分離方法によれば、試料中のタンパク質を簡便に分離することができる。本実施形態のタンパク質分離方法では、第一の上清に含まれるタンパク質をさらに分離することができる。従来法の、除去対象のタンパク質に対する抗体が固定化された除去カラムにより調製されたサンプルからは、得ることのできなかったタンパク質を、さらに高効率に第二の沈殿物に分離可能である。
(第3実施形態)
本実施形態のタンパク質分離方法は、
タンパク質を含有する試料中からタンパク質を分離する方法であって、
前記試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iを分離処理することにより、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離し、
前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合して溶液IIを得て、前記溶液IIを分離処理することにより、前記溶液IIから第二の沈殿物及び第二の上清を分離し、
前記第二の上清と還元剤とを混合して溶液IIIを得て、前記溶液IIIを分離処理することにより、前記溶液IIIから第三の沈殿物及び第三の上清を分離するものである。
分離処理時の溶液IIIの温度は、試料の種類や分離対象のタンパク質に応じて適宜設定することによってタンパク質のジスルフィド結合の解離を調整することができ、0〜100℃であることが好ましく、40〜100℃であることがより好ましい。
本実施形態において、溶液IIIから分離される第三の沈殿物とは、必ずしも溶液III中に沈降した状態でなくともよい。第三の沈殿物は、試料中に溶解していたタンパク質が析出して生じた固体成分であると考えられる。溶液IIIから上記第三の上清を実質的に除いたものを、第三の沈殿物として取得することできるが、このとき溶液IIIから完全に第三の上清が除かれている必要はない。また、第三の沈殿物の調製物等であっても、第三の沈殿物に由来するものでれば、第三の沈殿物として扱うことができる。
溶液IIIから分離される第三の上清は、溶液IIIにおいて、前記第三の沈殿物以外の部分とすることができる。溶液IIIから上記第三の沈殿物を実質的に除いたものを、第三の上清として取得することできるが、このとき溶液IIIから完全に第三の沈殿物が除かれている必要はない。また、第三の上清の調製物等であっても、第三の上清に由来するものでれば、第三の上清として扱うことができる。
図3は、本発明に係る第3実施形態におけるタンパク質分離方法の手順を模式的に示した図である。
第3の実施形態のタンパク質分離方法は、前記第1実施形態のタンパク質分離方法に、さらに、前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合して溶液IIを得て、前記溶液IIを分離処理することにより、前記溶液IIから第二の沈殿物及び第二の上清を分離し、前記第二の上清と還元剤とを混合して溶液IIIを得て、前記溶液IIIを分離処理することにより、前記溶液IIIから第三の沈殿物及び第三の上清を分離することを行うものである。なお、前記第1実施形態又は第2実施形態のタンパク質分離方法と共通する点については、説明を省略する。
本実施形態のタンパク質分離方法では、前記第二の上清と還元剤とを混合して溶液IIIを得ることを行う。
還元剤としては、公知のタンパク質用の還元剤が使用でき、例えば、ジチオトレイトール(DTT)、メルカプトエタノール、システイン、グルタチオン等を挙げることができるが、これらに限定されず、好ましい還元剤を適宜選択することができる。なかでも、本実施形態のタンパク質分離方法においては、還元剤としては、ジチオスレイトール(DTT)が好ましい。
また溶液III中に含まれるタンパク質量に対して、所定の割合で還元剤を添加することが好ましい。
溶液III中の還元剤の濃度は、0.0001〜1(w/v)%であることが好ましく、0.002〜0.05(w/v)%であることがより好ましく、0.005〜0.5(w/v)%以下であることがさらに好ましい。
前記第二の上清と還元剤とを混合することにより、前記第二の上清に含まれるタンパク質間のジスルフィド結合を切断することができる。
血液並びにその液体成分である血清及び血漿中では、アルブミンやIgGなどの約20種類の高濃度タンパク質が総タンパク量の99%を占めている。本実施形態のタンパク質分離方法では、試料として、血液、血清、血漿を用いた場合であっても、第二の上清と還元剤とを混合することで、タンパク質間のジスルフィド結合が切断され、高濃度タンパク質が不安定化して沈殿するために、分離可能なタンパク質の種類を増加させることができる。
また、前記第二の上清と還元剤とを混合することにより、前記第二の上清に含まれるタンパク質間の相互作用が弱められ、分離可能なタンパク質の種類を増加させることができる。
前記溶液IIIを分離処理することは、前記溶液Iを分離処理することと同様に行えばよく、上記溶液Iを分離処理する場合に例示した分離処理の方法及び条件を好適に用いることができる。
本実施形態では、上記分離処理を行い、前記溶液IIIから第三の沈殿物及び第三の上清を分離する。
一例として、分離処理として遠心分離を行った場合、第三の沈殿物は第三の画分とすることができ、前記溶液IIIから第三の沈殿画分及び第三の上清を分画することとなる。
本実施形態のタンパク質分離方法によれば、試料中のタンパク質を簡便に分離することができる。本実施形態のタンパク質分離方法では、第二の上清に含まれるタンパク質をさらに分離することができる。従来法の、除去対象のタンパク質に対する抗体が固定化された除去カラムにより調製されたサンプルからは、得ることのできなかったタンパク質を、さらに高効率に第三の沈殿物に分離可能である。
前記第二の上清は、アルブミン、IgG、トランスサイレチン、補体系タンパク質、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、サイロキシン結合グロブリン、α2−マクログロブリン、IgM、アンチトリプシン、ハプトグロビン、リポプロテイン、アポリポプロテイン、α1−酸性糖タンパク質、及びそれらの断片からなる群から選ばれる一種以上のタンパク質を除去してもよい。
即ち、第3実施形態のタンパク質分離方法は、前記第2実施形態のタンパク質分離方法を行い、さらに、前記第2実施形態のタンパク質分離方法で得られた前記第二の上清から、アルブミン、IgG、トランスサイレチン、補体系タンパク質、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、サイロキシン結合グロブリン、α2−マクログロブリン、IgM、アンチトリプシン、ハプトグロビン、リポプロテイン、アポリポプロテイン、α1−酸性糖タンパク質及びそれらの断片からなる群から選ばれる一種以上のタンパク質を除去する工程を行ってもよい。なお、前記第2実施形態のタンパク質分離方法と共通する点については、説明を省略する。
上記に挙げたアルブミン、IgG、トランスサイレチン、補体系タンパク質、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、サイロキシン結合グロブリン、α2−マクログロブリン、IgM、アンチトリプシン、ハプトグロビン、リポプロテイン、アポリポプロテイン、及びα1−酸性糖タンパク質は、生体試料中に高濃度に存在することが知られているタンパク質である。以下、これらのタンパク質及びその断片をアルブミン等の高濃度タンパク質ということがある。
補体系タンパク質としては、補体タンパクC1、補体タンパクC2、補体タンパクC3、補体タンパクC4、補体タンパクC5、補体タンパクC6、補体タンパクC7、補体タンパクC8、補体タンパクC9、H因子、I因子、B因子、D因子及びそれらの構成分子を例示できる。
アポリポプロテインとしては、アポリポプロテインA-I、アポリポプロテインA-II、アポリポプロテインB-100等を例示できる。
本実施形態のタンパク質分離方法において、前記試料は、タンパク質を含有するものであれば特に制限されないが、前記試料が血液、血清、又は血漿であることが好ましい。血液、血清、又は血漿では、これらの試料に含まれるタンパク質のうち、アルブミン等の高濃度タンパク質が占める割合が非常に大きいためである。
アルブミン、IgG、トランスサイレチン、補体系タンパク質、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、サイロキシン結合グロブリン、α2−マクログロブリン、IgM、アンチトリプシン、ハプトグロビン、リポプロテイン、アポリポプロテイン、α1−酸性糖タンパク質、及びそれらの断片からなる群から選ばれる一種以上のタンパク質を除去する方法としては、例えば、アルブミンと結合するアフィニティー担体によるアルブミンの吸着、限外濾過、イオン交換、透析などが挙げられ、本実施形態においては、アフィニティー担体を用いることが好ましい。アフィニティー担体としては、例えば、アルブミンと結合する抗体が固定化されたアフィニティーカラムやアフィニィービーズなどが挙げられる。
試料中に含まれていたタンパク質のうち、第3実施形態のタンパク質分離方法において第一の沈殿物、第二の沈殿物及び第三の沈殿物として得られたタンパク質以外のタンパク質が、前記第三の上清に残存している。第三の上清から、さらに、上記アルブミン等のタンパク質を除去することによって、第三の上清に含有される上記アルブミン等の高濃度タンパク質以外のタンパク質を、さらに分離することが可能となる。
従来のアルブミン等の高濃度タンパク質を除去する方法では、アルブミン等の高濃度タンパク質の除去時に、アルブミン等の高濃度タンパク質と一緒に、分離したいタンパク質までもが除去されてしまっていた。
しかし、本実施形態のタンパク質分離方法では、第二の上清と還元剤とを混合して得られた溶液IIIから分離された第三の上清をさらに分離するものである。例えば、試料中ではアルブミンと結合していたタンパク質であっても、第三の上清中では、界面活性剤又はカオトロピック試薬の作用より、該タンパク質はアルブミンから解離されている。したがって、第三の上清から、さらに、アルブミン等の高濃度タンパク質を除去する操作を行っても、従来法ではアルブミン除去時にアルブミンと一緒に除去されていたタンパク質を抽出することが可能である。
本実施形態のタンパク質分離方法によれば、試料中のタンパク質を簡便に分離することができる。また、本実施形態のタンパク質分離方法では、一連の分離操作によって、存在量の多いアルブミン等の高濃度タンパク質を除去し、微量タンパク質をさらに分離することができる。
なお、本実施形態においては、第三の上清から、上記アルブミン等の高濃度タンパク質を除去することを例示したが、第一の沈殿物、第一の上清、第二の沈殿物、第二の上清、第三の沈殿物のそれぞれに対して、上記アルブミン等の高濃度タンパク質を除去することを行ってもよい。
また、本実施形態においては、第三の上清から、上記アルブミン等の高濃度タンパク質を除去することを例示したが、試料からアルブミン等の高濃度タンパク質を先ず除去してから、本発明のタンパク質分離方法を行うことを妨げるものではない。
(第4実施形態)
本実施形態のタンパク質分離方法は、
タンパク質を含有する試料中からタンパク質を分離する方法であって、
前記試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iを分離処理することにより、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離し、
前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合して溶液IIを得て、前記溶液IIを分離処理することにより、前記溶液IIから第二の沈殿物及び第二の上清を分離し、
前記第二の上清と還元剤とを混合して溶液IIIを得て、前記溶液IIIを分離処理することにより、前記溶液IIIから第三の沈殿物及び第三の上清を分離し、
前記第三の上清にタンパク質の分離処理を行い、溶液IVを得て、前記溶液IVを分離処理することにより、第四の沈殿物を分離するものである。
分離処理時の溶液IVの温度は、試料の種類や分離対象のタンパク質に応じて適宜設定することができ、0〜100℃であることが好ましく、4〜40℃であることがより好ましく、10〜30℃の室温であることがさらに好ましい。
本実施形態において、溶液IVから分離される第四の沈殿物とは、必ずしも溶液IV中に沈降した状態でなくともよい。第四の沈殿物は、試料中に溶解していたタンパク質が析出して生じた固体成分であると考えられる。溶液IVから上清を実質的に除いたものを、第四の沈殿物として取得することできるが、このとき溶液IVから完全に上清が除かれている必要はない。また、第四の沈殿物の調製物等であっても、第四の沈殿物に由来するものであれば、第四の沈殿物として扱うことができる。
第4の実施形態のタンパク質分離方法は、前記第1実施形態のタンパク質分離方法に、さらに、前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合して溶液IIを得て、前記溶液IIを分離処理することにより、前記溶液IIから第二の沈殿物及び第二の上清を分離し、前記第二の上清と還元剤とを混合して溶液IIIを得て、前記溶液IIIを分離処理することにより、前記溶液IIIから第三の沈殿物及び第三の上清を分離し、前記第三の上清にタンパク質分離処理を行い、溶液IVを得て、溶液IVを分離処理することにより、前記溶液IVから第四の沈殿物を分離することを行うものである。なお、前記第1実施形態、第2実施形態又は第3実施形態のタンパク質分離方法と共通する点については、説明を省略する。
本実施形態のタンパク質分離方法では、前記第三の上清にタンパク質の分離処理を行い、溶液IVを得ることを行う。
タンパク質の分離処理方法としては、第三の上清中のタンパク質を分離できる方法であれば、特に制限はなく、例えば、塩析、硫安沈殿、アルコールによる沈殿、TCA沈殿、アセトン沈殿、TCA/アセトン沈殿、カプリル酸沈殿等を挙げることができる。
タンパク質の分離処理方法にTCA沈殿を用いる場合は、溶液IV中に含まれるタンパク質量に対して、所定の割合でTCA溶液を添加することが好ましい。
溶液IV中のTCA溶液の濃度は、0.0001〜50(w/v)%であることが好ましく、0.002〜20(w/v)%であることがより好ましく、0.005〜10(w/v)%であることがさらに好ましい。
前記第三の上清にタンパク質分離処理を行うことにより、前記第三の上清に含まれるタンパク質を沈殿させることができ、沈殿物として分画することができる。
タンパク質の多くは酸性pHに等電点を有することから、例えば、TCA溶液を混合することにより、高い回収率でタンパク質を分離することができる。
前記溶液IVを分離処理することは、前記溶液Iを分離処理することと同様に行えばよく、上記溶液Iを分離処理する場合に例示した分離処理の方法及び条件を好適に用いることができる。
本実施形態では、上記分離処理を行い、前記溶液IVから第四の沈殿物を分離する。
一例として、分離処理として遠心分離を行った場合、第四の沈殿物は第四の画分とすることができ、前記溶液IVから第四の沈殿画分を分画することとなる。
本実施形態のタンパク質分離方法によれば、試料中のタンパク質を簡便に分離することができる。本実施形態のタンパク質分離方法では、第三の上清に含まれるタンパク質をさらに分離することができる。従来法の、除去対象のタンパク質に対する抗体が固定化された除去カラムにより調製されたサンプルからは、得ることのできなかったタンパク質を、さらに高効率に第四の沈殿物に分離可能である。
<タンパク質分析方法>
本発明のタンパク質分析方法は、本発明のタンパク質分離方法で得られた分離物を分析対象に用いるものである。
本発明のタンパク質分離方法で得られた分離物とは、試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離することにより得られた物、前記第一の上清に界面活性剤又はカオトロピック試薬を混合して溶液IIを得て、前記溶液IIから第二の沈殿物及び第二の上清を分離することにより得られた物、前記第二の上清に還元剤を混合することにより溶液IIIを得て、前記溶液IIIから第三の沈殿物及び第三の上清を分離することにより得られた物、前記第三の上清にタンパク質分離処理を行うことにより得られた物であって、例えば、上述した第一の沈殿物、第一の上清、第二の沈殿物、第二の上清、第三の上清、第三の沈殿物、第四の沈殿物並びに、第二の上清又は第三の上清から、アルブミン、IgG、トランスサイレチン、補体系タンパク質、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、サイロキシン結合グロブリン、α2−マクログロブリン、IgM、アンチトリプシン、ハプトグロビン、リポプロテイン、アポリポプロテイン、α1−酸性糖タンパク質、及びそれらの断片からなる群から選ばれる一種以上のタンパク質を除去して得られた物を例示できる。
分離物を分析する方法は、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動、二次元電気泳動、マイクロアレイ、質量分析等が挙げられ、なかでもマイクロアレイ、又は質量分析が好ましい。分離物を分析する方法は、二種類以上の方法を組み合わせて行ってもよい。
本発明のタンパク質分離方法は、これらに代表されるタンパク質の分析の前処理方法として、好適である。
マイクロアレイとしては、DNAマイクロアレイ、タンパク質マイクロアレイ、細胞マイクロアレイなど各種マイクロアレイを挙げることができる。質量分析は、MALDI法、ESI法などにより行うことが例示でき、MALDI−TOF、LC−MS/MSなどにより分析することが挙げられる。
本発明のタンパク質分離方法で得られた分離物は、試料にホウ酸を添加することにより分離されたものである。ホウ酸は、分離されたタンパク質を分析する際に、分析結果に影響を与えるおそれが少なく、高精度にタンパク質の分析を行うことができる。従来法の、除去対象のタンパク質に対する抗体が固定化された除去カラムにより調製されたサンプルからは、分析することのできなかったタンパク質を、分析可能である。
<タンパク質分離キット>
本発明のタンパク質分離キットは、本発明のタンパク質分離方法に用いられるタンパク質分離キットであって、ホウ酸を備えるものである。
ホウ酸は、前記<タンパク質分離方法>で例示したもの同様のものを用いることができる。ホウ酸の形態に特に制限はなく、例えば、結晶又は粉末等の固体形態であっても、固体形態のホウ酸を溶かしたホウ酸溶液などの形態が挙げられる。
本発明のタンパク質分離キットは、ホウ酸を備えているので、簡便にタンパク質の分離を行うことができる。
また、本発明のタンパク質分離キットは、界面活性剤又はカオトロピック試薬をさらに備えていてもよい。界面活性剤及びカオトロピック試薬は、それぞれ前記<タンパク質分離方法>で例示したものと同様のものを用いることができる。界面活性剤及びカオトロピック試薬の形態は特に制限されず、例えば、乾燥状態の界面活性剤粉末、乾燥状態の界面活性剤顆粒、界面活性剤を溶かした界面活性剤溶液などの形態が挙げられる。
本発明のタンパク質分離キットが、さらに界面活性剤を備えることで、タンパク質間の相互作用を低減させるため、分離可能なタンパク質の種類を増加させることができる。
さらに、本発明のタンパク質分離キットは、還元剤をさらに備えていてもよい。還元剤は、前記<タンパク質分離方法>で例示したものと同様のものを用いることができる。還元剤の形態は特に制限されず、固体状であっても液状であってもよい。
本発明のタンパク質分離キットが、さらに還元剤を備えることで、タンパク質間のジスルフィド結合が切断され、タンパク質を不安定化させるため、分離可能なタンパク質の種類を増加させることができる。
さらに、本発明のタンパク質分離キットは、タンパク質分離用溶液をさらに備えていてもよい。タンパク質分離用溶液としては、塩析、硫安沈殿、アルコールによる沈殿、TCA沈殿、アセトン沈殿、TCA/アセトン沈殿、カプリル酸沈殿等に用いる溶液が例示される。タンパク質分離用溶液は、固体状でキットに含まれ、キットの使用時に溶媒に溶解して用いてもよい。溶媒としては、水、緩衝液等を用いることができる。
本発明のタンパク質分離キットが、さらにタンパク質分離用溶液を備えることで、多くのタンパク質を沈殿させることでき、分離可能なタンパク質の種類を増加させることができる。
またタンパク質の分離をより簡便にするという観点から、本発明のタンパク質分離キットは、タンパク質の分離に必要な試薬類、器具類等を更に備えていることが好ましい。 このように、タンパク質の分離に必要な試薬類をキット化することにより、本発明のタンパク質分離方法をより簡便に行うことができる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
図4は、実施例における血清由来のタンパク質の分画の流れを模式的に示した図である。なお、PFとは、Precipitation(沈殿) Fraction(画分)の略である。
(実施例1 PF1法によるPF1の調製)
ヒトから採取した血清25 μLを[溶液1(600 mMのホウ酸の水溶液)]1 mLに滴下し攪拌後、19,000 × g, 15 min, 4 ℃で遠心分離し、沈殿物及び上清を得た。上清は後述のPF2法に使用した。得られた沈殿物に前記[溶液1]500μLを添加し撹拌後、19,000× g, 15 min, 4 ℃で遠心分離し、得られた沈殿物をPF1として回収した。
(実施例2 PF2法によるPF2の調製)
上記のPF1法で回収した上清全量に[溶液2(0.5 (w/v)% SDSの水溶液)]20 μLを滴下し攪拌後、19,000 × g, 15 min, 4 ℃で遠心分離し、沈殿物及び上清を得た。得られた沈殿物に前記[溶液2]800μLを添加し撹拌後、19,000× g, 15 min, 4 ℃で遠心分離し、得られた沈殿物をPF2として回収した。
(実施例3 PF3法によるPF3の調製)
上記のPF2法で回収した上清全量に[溶液3(1MのDTT溶液)]40μLを滴下し攪拌後、95℃で10分間加熱し、その後氷温で10分間冷却した後、19,000 × g, 15 min, 4 ℃で遠心分離し、沈殿物及び上清を得た。得られた沈殿物に前記[溶液3]800μLを添加し撹拌後、19,000× g, 15 min, 4 ℃で遠心分離し、得られた沈殿物をPF3として回収した。
(実施例4 PF4法によるPF4の調製)
上記のPF3法で回収した上清全量に[溶液4(20%のTCA溶液)]1mLを滴下し攪拌後、19,000 × g, 15 min, 4 ℃で遠心分離し、沈殿物及び上清を得た。得られた沈殿物に前記[溶液4]800μLを添加し撹拌後、19,000× g, 15 min, 4 ℃で遠心分離し、得られた沈殿物をPF4として回収した。
図5に以下の各試料の電気泳動結果を示す。
レーン1:分子量マーカー
レーン2:未処理血清
レーン3〜6:PF1
レーン7〜10:PF2
レーン11〜14:PF3
レーン15〜18:PF4
レーン19:分子量マーカー
レーン2〜18の電気泳動は、全て血清0.5μLに相当する試料を分析したものである。レーン3〜6、レーン7〜10、レーン11〜14、レーン15〜18の各4レーンの電気泳動は、それぞれ同じ血清から独立に調製した試料を分析したものである。
図5のPF1(レーン3〜6)、PF2(レーン7〜10)、PF3(レーン11〜14)、PF4(レーン15〜18)で検出されているバンドは、いずれも血清中の比較的高濃度のタンパク質ではあるが、それぞれバンドパターンが異なっており、一連のPF1〜PF4法によってこれらの高濃度成分が分画されたことがわかる。このことから、微量成分についても分画されているものと推測できる。また、PF1、PF2、PF3、PF4の各4レーンの電気泳動のパターンが非常に良く一致していることから、PF法の再現性が高いことがわかる。
実施例1〜4で得られたPF1、PF2、PF3及びPF4をPTS溶液(200mM triethyl ammonium bicarbonate buffer, 12 mM sodium deoxycholate, 12 mM sodium N−dodecanoylsarcosinate)で溶解し、還元アルキル化後に酵素消化して得られた試料を、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC−MS)を用い、下記の条件で分析し、同定解析した。その結果を図6に示す。
<LS−MS分析>
質量分析計:Q−Exactive(Thermo Fisher Scientifec社製)
HPLC:Easy−nLC1000(Thermo Fisher Scientifec社製)
分析カラム:nano−HPLC Capillary C18 analytical column,75μm I.D.×120mm(Nikkyo Technos社製)
溶媒 A:HO(0.1% FA),B:90% ACN/10%HO(0.1% FA)
溶媒流速:300nL/min
120分の測定で12回測定
<データベース検索>
SEQEST、PEAKS Studioの2種類の検索方法を使用
Database:SwissProt
上記の同定解析の結果、合計で837種類のタンパク質が同定されており、PF1〜PF4の各画分だけにおいて同定されたタンパク質はそれぞれ167種類、62種類、235種類、80種類であった。本発明のタンパク質分離方法は、溶液中でのタンパク質の安定性によってタンパク質を分画する方法である。このことから異なる画分に含まれているタンパク質は同じタンパク質であっても立体構造、翻訳後修飾、切断状態等が異なっている可能性が高いと考えられる。このように、本発明のタンパク質分離方法は、タンパク質の状態によって分画できる特徴を有している。
次に、溶液1のホウ酸濃度を100mM、200mM、400mM、600mMと変化させて、血清及び血漿について、PF1法、PF2法を行い、PF1、PF2のタンパク質組成を分析した。
その結果を図7に示す。図7に示したように、ホウ酸濃度の変化により、各画分に含まれるタンパク質が変化した。この結果、溶液1中のホウ酸濃度を変化させることによって、PF1及びPF2に含まれるタンパク質を調整することが可能であることが判明した。
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
本発明のタンパク質分離方法よれば、試料中のタンパク質を簡便に分離することができるため、血液、尿、唾液、髄液等の体液に含まれるタンパク質の簡便で高効率な分画のための前処理法や、体液を対象とした検査のための前処理法、生体試料、特にヒト血清中のタンパク質を詳細に分析するための前処理法として利用可能である。
本発明のタンパク質キットよれば、試料中のタンパク質を簡便に分離することができるため、血清前処理用キット、検査用の前処理キットとして利用可能である。
また、高濃度タンパク質除去カラムを用いて高濃度タンパク質が除去できない動物の体液を分析するための前処理法としても利用可能である。例えば、従来ヒト、マウス、ラット用に市販されている高濃度タンパク質除去カラムではイヌやネコの血液中のアルブミンは除去できない。したがって、本発明のタンパク質分離方法は、ペットや家畜の血液検査法の開発、検査応用においても利用価値がある。

Claims (18)

  1. タンパク質を含有する試料中からタンパク質を分離する方法であって、
    前記試料にホウ酸を添加し、前記ホウ酸及びタンパク質を含む溶液Iを得て、前記溶液Iから第一の沈殿物及び第一の上清を分離することを特徴とするタンパク質分離方法。
  2. 前記溶液Iに含まれる前記ホウ酸の濃度が100mmol/L〜飽和濃度である請求項1に記載のタンパク質分離方法。
  3. 前記試料に添加する前記ホウ酸が、前記ホウ酸を含むホウ酸溶液であり、前記ホウ酸溶液の濃度が100mmol/L〜飽和濃度である請求項1又は2に記載のタンパク質分離方法。
  4. 前記溶液Iを分離処理することにより、前記第一の沈殿物及び前記第一の上清を分離する請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンパク質分離方法。
  5. 前記第一の上清と界面活性剤又はカオトロピック試薬とを混合して溶液IIを得て、前記溶液IIから第二の沈殿物及び第二の上清を分離する請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンパク質分離方法。
  6. 前記溶液IIを分離処理することにより、前記第二の沈殿物及び前記第二の上清を分離する請求項5に記載のタンパク質分離方法。
  7. 前記第二の上清と還元剤とを混合して溶液IIIを得て、前記溶液IIIから第三の沈殿物及び第三の上清を分離する請求項5又は6に記載のタンパク質分離方法。
  8. 前記溶液IIIを分離処理することにより、前記第三の沈殿物及び前記第三の上清を分離する請求項7に記載のタンパク質分離方法。
  9. 前記試料、前記第一の沈殿物、前記第一の上清、前記第二の沈殿物、前記第二の上清、前記第三の沈殿物又は前記第三の上清から、アルブミン、IgG、トランスサイレチン、補体系タンパク質、トランスフェリン、フィブリノーゲン、IgA、サイロキシン結合グロブリン、α2−マクログロブリン、IgM、アンチトリプシン、ハプトグロビン、リポプロテイン、アポリポプロテイン、α1−酸性糖タンパク質、及びそれらの断片からなる群から選ばれる一種以上のタンパク質を除去する工程をさらに含む請求項1〜8のいずれか一項に記載のタンパク質分離方法。
  10. 前記第三の上清にタンパク質分離処理を行い、溶液IVを得て、前記溶液IVから第四の沈殿物を分離する請求項7〜9のいずれか一項に記載のタンパク質分離方法。
  11. 前記溶液IVを分離処理することにより、前記第四の沈殿物を分離する請求項10に記載のタンパク質分離方法。
  12. 前記試料が体液である請求項1〜11のいずれか一項に記載のタンパク質分離方法。
  13. 前記試料が血清又は血漿である請求項1〜12のいずれか一項に記載のタンパク質分離方法。
  14. 請求項1〜13のいずれか一項に記載のタンパク質分離方法で得られた分離物を分析対象に用いることを特徴とするタンパク質分析方法。
  15. 請求項1〜13のいずれか一項に記載のタンパク質分離方法に用いられるタンパク質分離キットであって、ホウ酸を備えることを特徴とするタンパク質分離キット。
  16. 界面活性剤又はカオトロピック試薬をさらに備える請求項15に記載のタンパク質分離キット。
  17. 還元剤をさらに備える請求項15又は16に記載のタンパク質分離キット。
  18. タンパク質分離用溶液をさらに備える請求項15〜17のいずれか一項に記載のタンパク質分離キット。
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