従来のサーマルヘッドは、基板の主走査方向における端部に面取りを施し、傾斜面を形成したサーマルヘッドが知られている。このような構成を有することにより、印刷中に発生したインクリボンのしわを伸ばすことができた。
しかしながら、保護層の膜応力が低いと、基板に面取りを施した際に、保護層に剥離が生じる問題がある。そして、保護層に剥離が生じると、封止した電極あるいは発熱部に腐食が生じる可能性がある。
本開示のサーマルヘッドは、保護層の剥離を低減させることにより、封止性の向上したサーマルヘッドを提供する。以下、本開示のサーマルヘッドおよびそれを用いたサーマル
プリンタについて、詳細に説明する。
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態に係るサーマルヘッドX1について、図面を参照しつつ説明する。図1では、FPC5、保護層25、および被覆層27の図示を省略し、FPC5、保護層25、および被覆層27が配置される領域を二点鎖線で示している。図4では、保護層25の図示を省略して示しており、図7,9についても同様である。
図1〜5に示すように、サーマルヘッドX1は、放熱体1と、ヘッド基体3と、フレキシブルプリント配線板5(以下、FPC5という)と、コネクタ31とを備えている。ヘッド基体3は、放熱体1上に配置されている。FPC5は、ヘッド基体3に電気的に接続されている。コネクタ31は、FPC5に電気的に接続されている。
放熱体1は、台部1aと、突起部1bとを有している。台部1aは、平面視して矩形上であり、ヘッド基体3が載置される。突起部1bは、台部1aの上に配置され、台部1aの一方の長辺に沿って延びている。突起部1bは、ヘッド基体3に隣り合うように位置している。放熱体1は、例えば、銅、鉄、あるいはアルミニウム等の金属材料で形成されている。放熱体1は、後述するヘッド基体3の発熱部9で発生した熱のうち、印画に寄与しない熱の一部を放熱する機能を有している。
ヘッド基体3は、台部1a上に配置されており、第2端面7bが、放熱体1の突起部1bに対向するように配置されている。また、ヘッド基体3と台部1aの上面とが、両面テープあるいは接着剤33等により接着されている。
FPC5は、ヘッド基体3に外部から電流を供給する機能を有しており、絶縁性の樹脂層5aと、プリント配線5bとを備えている。図3に示すように、ヘッド基体3とFPC5とは導電性接合材23により電気的に接合されている。導電性接合材23としては、導電性接合材料、はんだ材料、または電気絶縁性の樹脂中に導電性粒子が混入された異方性導電フィルム(ACF)等を例示することができる。FPC5にはコネクタ31が接合されており、各プリント配線5bがコネクタ31を介して図示しない外部の電源装置、および制御装置に電気的に接続されている。
FPC5は、放熱体1の突起部1bの上面に、両面テープあるいは樹脂等の接着剤(不図示)によって接着されており、放熱体1に固定されている。なお、放熱体1には必ずしも固定しなくてもよい。
次に、ヘッド基体3を構成する各部材について図1〜5を用いて説明する。
基板7は、ヘッド基体3を構成する各部材を保持する機能を有しており、平面視して、略矩形状をなしている。基板7は、第1端面7a、第2端面7b、第1主面7c、第2主面7d、および傾斜面2を有している。
第1端面7aは、第1主面7cおよび第2主面7dに隣接する面である。第2端面7bは、第1端面7aの反対側に位置する面であり、放熱体1の突起部1bと対向するように位置している。第1主面7cは、第1端面7aおよび第2端面7bに隣接する面である。第2主面7dは、第1主面7cの反対側に位置する面である。第1端面7aは、第2端面7bと反対側に向けて突出した曲面形状をなしている。
第1端面7aの主走査方向における両端部に傾斜面2が設けられている。傾斜面2は、主走査方向に対して交差するように設けられている。
基板7は、アルミナセラミックス等の電気絶縁性材料あるいは単結晶シリコン等の半導体材料等によって形成されている。
蓄熱層13は、第1部位13aと、第2部位13bとを有する。第1部位13aは、第1端面7aの全体にわたって形成されている。基板7の第1端面7aは断面視して凸状の曲面形状である。そのため、第1部位13aの表面も曲面形状となっている。
第2部位13bは、第1部位13aから上方に向けて突出している。第2部位13bは、第1端面7a側からみて、副走査方向における中央部に位置している。第2部位13bは、主走査方向に延びるように形成されている。
蓄熱層13は、第1部位13aと、第2部位13bとを有することから、発熱部9上に形成された後述する保護層25に、印画する記録媒体P(図5参照)を良好に押し当てるように機能する。
蓄熱層13は、例えば、ガラスにより形成されており、発熱部9で発生する熱の一部を一時的に蓄積する。そのため、印画時において、発熱部9の温度を上昇させるのに要する時間を短くし、サーマルヘッドX1の熱応答特性を高めることができる。
基板7の第1主面7c上、蓄熱層13上、および基板7の第2主面7d上には、電気抵抗層15が設けられている。電気抵抗層15は、基板7または蓄熱層13と、後述する各種電極との間に介在している。
基板7の第1主面7c上に位置する電気抵抗層15の領域は、図1に示すように平面視して、共通電極17、個別電極19および接続電極21と同形状に形成されている。また、第2主面7d上に位置する電気抵抗層15は、第2主面7dの略全体にわたって設けられている。
蓄熱層13上に位置する電気抵抗層15の領域は、図2に示すように、第1端面7aから見て、共通電極17および個別電極19と同形状に形成された領域と、共通電極17と個別電極19との間から露出した複数の露出領域とを有している。電気抵抗層15の各露出領域は、発熱部9を構成している。
複数の発熱部9は、図3に示すように、蓄熱層13の第2部位13b上に列状に配置されている。そのため、発熱部9は、第1端面7aの副走査方向における中央部に位置している。複数の発熱部9は、図2では簡略化して示しているが、例えば、180dpi〜2400dpi(dot per inch)等の密度で配置される。
電気抵抗層15は、例えば、TaN系、TaSiO系、TaSiNO系、TiSiO系、TiSiCO系またはNbSiO系等の電気抵抗の比較的高い材料によって形成されている。そのため、後述する共通電極17と個別電極19との間に電圧が印加され、発熱部9に電流が供給されたときに、ジュール発熱によって発熱部9が発熱することとなる。この発熱を利用して、サーマルヘッドX1は記録媒体Pに印画を行っている。
電気抵抗層15上には、共通電極17、複数の個別電極19および複数の接続電極21が設けられている。
共通電極17は、主配線部17aと、副配線部17bと、リード部17cとを備えている。共通電極17は、FPC5と発熱部9とを電気的に接続している。主配線部17aは
、基板7の第2主面7d上に設けられているため、共通電極17の電気容量を大きくすることができる。副配線部17bは、基板7の第1主面7c、第1端面7a、および第2主面7d上に設けられており、FPC5を介して外部と電気的に接続されている。リード部17cは、第1端面7aに設けられており、主配線部17aから各発熱部9に向けてそれぞれ延びている。
そのため、外部から供給された電圧は、副配線部17bから主配線部17aに供給される。主配線部17aに供給された電圧は、リード部17cを介してそれぞれの発熱部9に供給される。このようにして、各発熱部9に電流が供給されている。
複数の個別電極19は、各発熱部9と駆動IC11とを接続する。図1〜3に示すように、各個別電極19は、一端部が発熱部9に接続され、基板7の第1端面7a上から基板7の第1主面7c上にまで個別に帯状に延びている。
各個別電極19の他端部は、駆動IC11に電気的に接続されている。より詳細には、個別電極19は、複数の発熱部9を複数の群に分け、各群の発熱部9を、各群に対応して設けられた駆動IC11に電気的に接続している。
複数の接続電極21は、駆動IC11とFPC5とを接続する。各接続電極21は、基板7の第1主面7c上に帯状に延びており、一端部が駆動IC11に電気的に接続されるとともに、他端部がFPC5に電気的に接続されている。
駆動IC11は、図1に示すように、複数の発熱部9の各群に対応して配置されている。そして、駆動IC11は、個別電極19の他端部と接続電極21の一端部とに接続されている。駆動IC11は、各発熱部9の通電状態を制御するためのものであり、内部に有した複数のスイッチング素子(不図示)を切り替えることにより、各発熱部9の発熱駆動を制御している。
駆動IC11は、個別電極19および接続電極21に接続された状態で、エポキシ樹脂あるいはシリコーン樹脂等の樹脂からなる被覆部材29によって被覆され、封止されている。これにより、駆動IC11、および駆動IC11とこれらの配線との接続部を保護することができる。
上記の電気抵抗層15、共通電極17、個別電極19および接続電極21の形成方法について例示する。各々を形成する材料層を、蓄熱層13が設けられた基板7上に、スパッタリング法等の従来周知の薄膜成形技術によって順次積層する。次に積層体を従来周知のフォトエッチング等を用いて所定のパターンに加工することにより形成することができる。
また、電気抵抗層15の厚さは、例えば0.01μm〜0.2μmとし、共通電極17、個別電極19および接続電極21の厚さは、例えば0.05μm〜2.5μmとすることができる。なお、共通電極17の主配線部17aの厚みと、共通電極17の副配線部b17b、およびリード部17cの厚みとが異なる構成としてもよく、電極の部位により厚みを異なるものとしてもよい。
保護層25は、基板7の第1端面7a上、第1主面7c上の一部、および第2主面7d上の一部に設けられている。保護層25は、発熱部9、共通電極17の一部および個別電極19の一部を被覆するように設けられている。
また、保護層25は、基板7の第1主面7cの第1端面7a側の領域を覆うように設け
られている。保護層25は、基板7の第2主面7dにおいては基板7の第1主面7cと同様に第1端面7a側の領域を覆うように設けられている。
保護層25は、発熱部9、共通電極17の一部および個別電極19の一部の被覆した領域を、大気中に含まれている水分等の付着による腐食、あるいは印画する記録媒体Pとの接触による摩耗から保護する機能を有している。保護層25は、例えば、SiC系、SiN系、SiO系およびSiON系等の材料で形成することができる。なお、AlあるいはTi等の他の元素を少量含有していてもよい。
保護層25は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の従来周知の薄膜成形技術あるいはスクリーン印刷法等の厚膜成形技術を用いて形成することができる。保護層25の厚さは、例えば3〜12μmとすることができる。また、保護層25は、複数の材料層を積層して形成してもよい。
基板7の第1主面7c上には、個別電極19および接続電極21を部分的に被覆する被覆層27が設けられている。被覆層27は、図1に示すように基板7の第1主面7c上の保護層25に覆われていない領域に設けられている。また、共通電極17の副配線部17bを覆うように設けられている。被覆層27は、第2主面7dの保護層25に覆われていない領域にも設けられている。
被覆層27は、個別電極19および接続電極21の被覆した領域を、大気との接触による酸化あるいは大気中に含まれている水分等の付着による腐食から保護する機能を有する。被覆層27は、例えば、エポキシ樹脂あるいはポリイミド樹脂等の樹脂材料で形成することができる。また、被覆層27は、例えば、スクリーン印刷法等の厚膜成形技術を用いて形成することができる。被覆層27の厚さは、例えば20〜60μmとすることができる。
なお、接続電極21の端部、および副配線部17bの端部は、被覆層27から露出して設けられており、これらの露出した部分にてFPC5とヘッド基体3とが接続されている。
被覆層27は、駆動IC11を接続する個別電極19および接続電極21の端部を露出させるための開口部が形成されている。個別電極19と接続電極21とは、開口部を介して駆動IC11に接続されている。
なお、共通電極17、個別電極19、および接続電極21のうち、駆動IC11またはFPC5と接続される領域にめっき層(不図示)を設けてもよい。めっき層は、金属または合金により形成することができ、例えば、周知の無電解めっき、あるいは電解めっきによって形成することができる。
また、めっき層として、例えば、共通電極17上にニッケルめっきからなる第1被覆層を形成し、第1被覆層上に金めっきからなる第2被覆層を形成してもよい。この場合、第1被覆層の厚さを例えば1.5μm〜4μmとし、第2被覆層の厚さを例えば0.02μm〜0.1μmとすることができる。
図4,5に示すように、傾斜面2は、基板7の第1端面7aに設けられている。傾斜面2は、第1端面7aの主走査方向における両端部に設けられており、第1端面7aに対して交差するように設けられている。
第1端面7aと傾斜面2との交差角度は、5〜70°であることが好ましく、10〜4
5°であることがさらに好ましい。第1端面7a側との交差角度がこのような範囲にあることにより、記録媒体Pにキズが生じる可能性を低減することができる。
傾斜面2は、第1端面7aからみて、副走査方向における中央部が、副走査方向における端部よりも主走査方向における長さが長くなっている。言い換えると、傾斜面2は、第1端面7a側からみて、副走査方向の中央部が発熱部9に向けて突出した形状をなしている。傾斜面2は、基板7の表面、蓄熱層13の第1部位13aの表面、および保護層25の表面により形成されている。
サーマルヘッドX1は、第1端面7aに傾斜面2を有することから、記録媒体PがサーマルヘッドX1に強く押し当てられた場合においても、サーマルヘッドX1により記録媒体Pにキズが生じる可能性を低減することができる。
傾斜面2は、サーマルヘッドX1のヘッド基体3を作成した後に、やすり、ダイヤモンドカッター、あるいはダイヤモンド砥石等によりサーマルヘッドX1を研磨することにより形成することができる。
蓄熱層13は、傾斜面2と、共通電極17の副配線部17bとの間に、凸部4を有している。凸部4は、第1部位13aから基板7から遠ざかる方向に突出しており、主走査方向に沿って延びている。
凸部4の高さは、例えば、0.5〜3μmとすることができる。凸部4の幅は、例えば、50〜200μmとすることができる。
蓄熱層13は、例えば、以下の方法により作製する。まず、ガラス粉末に適当な有機溶剤を混合して得た所定のガラスペーストを従来周知のスクリーン印刷等によって基板7の第1端面7a上に塗布し、焼成する。次に、第2部位13bおよび凸部4を形成する領域にレジストを塗布し、エッチングを行う。そして、レジストを除去することにより、蓄熱層13に第1部位13a、第2部位13b、および凸部4を形成することができる。
保護層25は、発熱部9を覆うように設けられており、蓄熱層13上に位置している。より詳細には、発熱部9を覆うように、第2部位13b上に設けられているとともに、第1部位13a上に設けられており、凸部4上にも設けられている。
ここで、保護層25の膜応力が低い場合に、基板7に面取りを施して傾斜面2を形成した際に、保護層25に剥離が生じる問題がある。保護層25に剥離が生じると、封止した各種電極あるいは発熱部9に腐食が生じる可能性がある。
これに対して、サーマルヘッドX1においては、蓄熱層13が、主走査方向において、傾斜面2と、共通電極17の副配線部17bとの間に、凸部4を有しているため、蓄熱層13上に保護層25を製膜すると、保護層25のうち凸部4上に位置する部位の膜応力が高くなる。それにより、保護層25は、傾斜面2上に位置する部位と、副配線部17b上に位置する部位との間に、膜応力の高い部位が形成されることとなる。
その結果、面取り時に生じた応力が、保護層25のうち凸部4上に位置する部位によって進行を妨げられることとなり、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位が剥離しにくくなる。それゆえ、保護層25の封止性を向上させることができる。
さらに、凸部4が蓄熱層13により形成されているため、発熱部9にて発熱した熱が、凸部4に蓄熱されることとなり、傾斜面2に放熱されにくくなる。そのため、サーマルヘ
ッドX1の熱応答性を向上させることができる。
また、本実施形態においては、傾斜面2は、副走査方向における中央部が、副走査方向における端部よりも主走査方向における長さが長くなっており、傾斜面2の副走査方向における中央部と凸部4との距離が、傾斜面2の副走査方向における端部と凸部4との距離よりも小さくてもよい。
このような構成を有する場合には、傾斜面2上に位置する保護層25と、保護層25のうち凸部4上に位置する部位との距離を小さくすることができ、面取り時に生じた応力が、保護層25のうち凸部4上に位置する部位によりすぐに進行を妨げられることとなり、応力が進行しにくくなる。その結果、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位が剥離しにくくなり、保護層25の封止性さらに向上させることができる。
図5を用いて、記録媒体PとサーマルヘッドX1との関係について、記録媒体Pとして、インクリボンRおよびカードCを用いて説明する。なお、記録媒体Pは、例示するようにインクリボンRおよびカードCを含む概念であり、インクリボンRが不要な感熱紙をも含む概念である。
サーマルヘッドX1は、インクリボンRを用いてカードCに印画を行う。カードCは、サーマルヘッドX1との間にインクリボンRを介した状態で、後述するプラテンローラ50によりサーマルヘッドX1に押圧されている。
プラテンローラ50は、図5では下方に向けてカードCを押圧するため、上方に向けて凸形状に変形することとなる。プラテンローラ50は、カードCと接触するとともに、凸部4上に位置する保護層25に支持されながら、カードCおよびインクリボンRを搬送している。サーマルヘッドX1とプラテンローラ50との間には隙間10が生じている。
また、本実施形態においては、蓄熱層13が、基板7上に位置する第1部位13aと、第1部位13aから基板から遠ざかる方向に向けて突出する第2部位13bとを有しており、発熱部9は、第2部位13b上に設けられており、凸部4は、第2部位13bと離間した状態で、第1部位13aから突出しており、第2部位13bと凸部4との間に副配線部17bが配置されていてもよい。
このような構成を有する場合には、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位と、カードCが接触しにくくなる。そのため、カードCからの押圧力が、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位に生じにくくなり、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位に剥離が生じにくくなる。その結果、保護層25の封止性を向上させることができる。
また、本実施形態においては、プラテンローラ50とサーマルヘッドX1との間に隙間10が生じており、隙間10にインクリボンRが収容されていてもよい。
このような構成を有する場合には、発熱部9の熱によりインクリボンRが熱膨張した場合においても、インクリボンRの熱膨張により膨張した部分を隙間10に収納することができる。その結果、インクリボンRにシワが生じる可能性を低減することができる。
また、本実施形態においては、インクリボンRが、保護層25のうち凸部4上に位置する部位に接触しつつ搬送されていてもよい。言い換えると、プラテンローラ50が、インクリボンRを介して凸部4上に位置する保護層25に接触していてもよい。
このような構成を有する場合には、カードCの印画にかすれが生じにくくなる。すなわち、プラテンローラ50は、後述する軸体50aの両端をサーマルヘッドX1側に押圧することにより、発熱部9上の保護層25にカードCを押圧している。そのため、プラテンローラ50は、中央部が上方に突出した凸形状に変形し、発熱部9上のカードCの押圧力が小さくなり、印画にかすれが生じる可能性がある。
しかしながら、サーマルヘッドX1においては、プラテンローラ50が、保護層25のうち凸部4上に位置する部位によっても支持されることとなり、プラテンローラ50が凸形状に変形しにくくなる。その結果、印画にかすれが生じにくくなる。
なお、サーマルヘッドX1においては、凸部4を1つのみ設けた例を示したが、これに限定されるものではない。傾斜面2と副配線部17bとの間に複数設けてもよい。この場合においては、傾斜面2と副配線部17bとの間に、保護層25の膜応力の高い部位を複数設けることができ、さらに応力の進行を妨げることができる。
次に、本発明のサーマルプリンタの一実施形態について、図6を参照しつつ説明する。図6は、本実施形態のサーマルプリンタZの概略構成図である。
図6に示すように、本実施形態のサーマルプリンタZは、上述のサーマルヘッドX1、搬送機構40、プラテンローラ50、電源装置60および制御装置70を備えている。サーマルヘッドX1は、サーマルプリンタZの筐体に設けられた取付部材80の取付面80aに取り付けられている。なお、サーマルヘッドX1は、発熱部9の配列方向が、記録媒体Pの搬送方向Sに直交する方向である主走査方向に沿うように、取付部材80に取り付けられている。そのため、サーマルヘッドX1においては、基板7の第1主面7c側が記録媒体Pの搬送方向の上流側となり、基板7の第2主面7d側が記録媒体Pの搬送方向の下流側となる。
搬送機構40は、感熱紙、受像紙、カードC、インクリボンR等の記録媒体Pを図6の矢印S方向に搬送して、サーマルヘッドX1の複数の発熱部9上に搬送するためのものであり、搬送ローラ43,45,47,49を有している。搬送ローラ43,45,47,49は、例えば、ステンレス等の金属からなる円柱状の軸体43a,45a,47a,49aを、ブタジエンゴム等からなる弾性部材43b,45b,47b,49bにより被覆して構成することができる。なお、図示しないが、記録媒体Pが受像紙あるいはカード等の場合は、記録媒体PとサーマルヘッドX1の発熱部9との間に、記録媒体Pとともにインクフィルムを搬送するようになっている。
プラテンローラ50は、記録媒体PをサーマルヘッドX1の発熱部9上に押圧する機能を有している。そして、プラテンローラ50は、記録媒体Pの搬送方向Sに直交する方向に沿って延びるように配置され、記録媒体Pを発熱部9上に押圧した状態で回転可能となるように両端部が支持されている。プラテンローラ50は、例えば、ステンレス等の金属からなる円柱状の軸体50aを、ブタジエンゴム等からなる弾性部材50bにより被覆して構成することができる。
電源装置60は、上記のようにサーマルヘッドX1の発熱部9を発熱させるための電圧および駆動IC11を動作させるための電圧を供給する機能を有している。制御装置70は、上記のようにサーマルヘッドX1の発熱部9を選択的に発熱させるために、駆動IC11の動作を制御する制御信号を駆動IC11に供給する機能を有している。
本実施形態のサーマルプリンタZは、搬送機構40によって記録媒体PをサーマルヘッドX1の発熱部9上に搬送しつつ、電源装置60および制御装置70によって発熱部9を
選択的に発熱させる。それにより、記録媒体Pに所定の印画を行うことができる。
<第2の実施形態>
図7を用いてサーマルヘッドX2について説明する。なお、サーマルヘッドX1と同一の部材については同一の番号を付し、以下同様とする。
サーマルヘッドX2は、複数の凸部204を有する。凸部204は、傾斜面2と副配線部17bとの間に設けられている。凸部204は、第1端面7aからみて、傾斜面2に沿っている。より詳細には、凸部204は、第1端面7aからみて、傾斜面2と保護層25の上面とが交わる稜線25aに沿っている。
凸部204は、端部204aと中央部204bとを有している。端部204aは、凸部204のうち、副走査方向における端部に位置する。中央部204bは、凸部204のうち、副走査方向における中央部に位置する。凸部204は、第1端面7aからみて、中央部204bが、端部204aよりも発熱部9側に位置している。
本実施形態のサーマルヘッドX1では、凸部204が、第1端面7aからみて、傾斜面2に沿って位置する。
このような構成の場合においては、凸部204と、傾斜面2との距離を一定に近づけることができる。そのため、基板7に面取りを施して傾斜面2を形成した際に生じた応力が、保護層25に対して均一に伝達しやすくなり、保護層25に応力が集中する部分を形成しにくくなる。その結果、保護層25に剥離が生じにくくなり、保護層25の封止性を向上させることができる。
<第3の実施形態>
図8を用いてサーマルヘッドX3について説明する。サーマルヘッドX3は、サーマルヘッドX1の凸部4の代わりに凹部306を有している。
蓄熱層313は、第1部位313aと、第2部位313bと、凸部304と、凹部306とを有している。第1部位313aおよび第2部位313bは、サーマルヘッドX1の第1部位13aおよび第2部位13bと同一のため説明を省略する。
凸部304は、傾斜面2と副配線部17bとの間に位置する。また、第2部位304bと離間して位置する。凸部304は、第2部位313bと同等の高さを有している。
凹部306は、凸部304に形成されている。凹部306の深さは、凸部304の高さと略同等である。
蓄熱層13は、例えば、以下の方法により作製する。まず、ガラス粉末に適当な有機溶剤を混合して得た所定のガラスペーストを従来周知のスクリーン印刷等によって基板7の第1端面7a上に塗布し、焼成する。次に、第2部位313bおよび凸部304を形成する領域にレジストを塗布し、エッチングを行う。この時、凹部306となる領域にはレジストは設けない。そして、レジストを除去することにより、蓄熱層13に第1部位313a、第2部位313b、凸部304および凹部306を形成することができる。
本実施形態のサーマルヘッドX3では、蓄熱層313が、傾斜面2と、主走査方向において、副配線部17bとの間に、凹部306を有しているため、蓄熱層13上に保護層25を製膜すると、保護層25のうち凹部306上に位置する部位の膜応力が高くなる。それにより、保護層25は、傾斜面2上に位置する部位と、副配線部17b上に位置する部
位との間に、膜応力の高い部位が形成されることとなる。
その結果、面取り時に生じた応力が、保護層25のうち凹部306上に位置する部位によって進行を妨げられることとなり、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位が剥離しにくくなる。それゆえ、保護層25の封止性を向上させることができる。
また、本実施形態においては、傾斜面2が、副走査方向における中央部が、副走査方向における端部よりも主走査方向における長さが長くなっており、傾斜面2の副走査方向における中央部と凹部306との距離が、傾斜面2の副走査方向における端部と凹部306との距離よりも小さくてもよい。
このような構成を有する場合には、傾斜面2上に位置する保護層25と、副走査方向における凹部306上に位置する保護層25との距離を小さくすることができ、面取り時に生じた応力が、凹部306上に位置する保護層25によりすぐに進行を妨げられることとなり、応力が進行しにくくなる。その結果、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位が剥離しにくくなり、保護層25の封止性さらに向上させることができる。
また、本実施形態においては、蓄熱層313が、基板7上に位置する第1部位313aと、第1部位313aから基板から遠ざかる方向に向けて突出する第2部位13bとを有しており、発熱部9は、第2部位13b上に設けられており、凸部304は、第2部位313bと離間した状態で、第1部位313aから突出しており、第2部位313bと凸部304との間に副配線部17bが配置されており、凸部304に凹部306が設けられていてもよい。
このような構成を有する場合には、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位と、カードCが接触しにくくなる。そのため、カードCからの押圧力が、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位に生じにくくなり、保護層25のうち副配線部17b上に位置する部位に剥離が生じにくくなる。その結果、保護層25の封止性を向上させることができる。
また、本実施形態においては、インクリボンRが、凹部306の周囲に位置する凸部304上に位置する保護層25に接触しつつ搬送されていてもよい。言い換えると、プラテンローラ50が、インクリボンRを介して凸部304上に位置する保護層25に接触していてもよい。
このような構成を有する場合には、カードCの印画にかすれが生じにくくなる。すなわち、プラテンローラ50は、後述する軸体50aの両端をサーマルヘッドX1側に押圧することにより、発熱部9上の保護層25にカードCを押圧している。そのため、プラテンローラ50は、中央部が上方に突出した凸形状に変形し、発熱部9上のカードCの押圧力が小さくなり、印画にかすれが生じる可能性がある。
しかしながら、サーマルヘッドX3においては、プラテンローラ50が、313c上に位置する保護層25によっても支持されることとなり、プラテンローラ50が凸形状に変形しにくくなる。その結果、印画にかすれが生じにくくなる。
なお、凸部304に凹部306を設けた例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、第1部位313aに凹部306を形成してもよい。その場合においても、保護層25のうち凹部306上に位置する部位の膜応力が高くなり、保護層25の封止性を向上させることができる。
以上、複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、第1の実施形態であるサーマルヘッドX1を用いたサーマルプリンタZを示したが、これに限定されるものではなく、サーマルヘッドX2〜X3をサーマルプリンタZに用いてもよい。また、サーマルヘッドX1〜X3を適宜に組み合わせてもよい。
例えば、サーマルヘッドX1にサーマルヘッドX3を組み合わせて、蓄熱層13が、凸部4および凹部306を有する構成としてもよい。このような場合においても、凸部4上に位置する保護層25および凹部306上に位置する保護層25の膜応力が大きくなるため、傾斜面2から応力が進行する可能性を低減することができる。
また、サーマルヘッドX1では、図3に示すように、基板7の第1端面7aが凸状の曲面形状を有した例を示したが、基板7の第1端面7aの表面形状および傾斜角度は特に限定されるものではなく、任意の形態をとることができる。
さらにまた、発熱部9が基板7の第1端面7aに設けられた例を示したがこれに限定されるものではない。発熱部9が、第1主面7cに設けられた平面ヘッドにおいても、本発明を適用することができる。また、電気抵抗層15を印刷により形成した厚膜方式のサーマルヘッドにも適用することができる。