以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
[複合中空糸膜]
本発明の実施形態に係る複合中空糸膜11は、図1に示すように、中空糸状の膜である。また、前記複合中空糸膜11は、図2及び図3に示すように、中空糸状の多孔質な支持層12と、半透膜層13とを備える。なお、図1は、本発明の実施形態に係る複合中空糸膜11を示す部分斜視図である。また、図2及び図3は、図1に示す係る複合中空糸膜11の一部Aを拡大して、複合中空糸膜11の層構造を示す。なお、図2及び図3は、層の位置関係を表すものであって、層の厚みの関係を特に表してはいない概略図である。
前記半透膜層13は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含む。
また、前記支持層12は、前記支持層12の気孔が、内表面及び外表面の一方から他方に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造を有する。この傾斜構造としては、内表面から外表面に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造であってもよいし、外表面から内表面に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造であってもよい。
前記複合中空糸膜11において、前記半透膜層13が、前記支持層12の気孔が小さい側の表面である緻密面14に接触して設けられている。すなわち、前記半透膜層13は、前記支持層12の緻密面14に接触していればよく、外表面が緻密面14である場合には、図2に示すように、前記半透膜層13は、前記支持層12の外表面上に設けられる。また、内表面が緻密面14である場合には、図3に示すように、前記半透膜層13は、前記支持層12の内表面上に設けられる。
(支持層)
前記支持層12は、上述したように、中空糸状であって、多孔質である。そして、前記支持層12は、前記支持層12の気孔が、内表面及び外表面の一方から他方に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造を有する。
前記支持層12は、親水性樹脂を含むことによって、親水化されている。前記支持層12は、全体が親水化されている。また、前記支持層12に含まれる親水性樹脂は、架橋されていることが好ましい。よって、前記支持層12は、中空糸状の多孔質な基材に、架橋された親水性樹脂を含むことが好ましい。このように架橋された親水性樹脂を含むことによって、前記支持層12は、前記緻密面14に対する水の接触角が90°以下になるように親水化されていることが好ましい。
前記中空糸状の多孔質な基材は、中空糸膜を構成することができる素材からなる基材であれば、特に限定されない。前記支持層12に含まれる成分(中空糸状の多孔質な基材を構成する成分)としては、例えば、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリクロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、結晶性セルロース、ポリサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルサルホン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、及びアクリロニトリルスチレン(AS)樹脂等が挙げられる。この中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルホン、及びポリエーテルサルホンが好ましく、ポリフッ化ビニリデン、及びポリサルホンがより好ましい。これらの樹脂は、親水性樹脂による親水性付与がより容易であり、これらの樹脂を含む支持層は、好適な傾斜構造にすることがより容易であると考えられる。このため、これらの樹脂を含む支持層を備える複合中空糸膜は、半透膜層による分離をより好適に行うことができ、耐久性により優れた複合中空糸膜を提供することができる。また、前記持層12に含まれる成分(中空糸状の多孔質な基材を構成する成分)としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記親水性樹脂は、前記中空糸状の多孔質な基材に含ませることによって、前記支持層12を親水化させることができる樹脂であれば、特に限定されない。前記親水性樹脂としては、例えば、セルロース、セルロースアセテート、及びセルローストリアセテート等の酢酸セルロース系ポリマー、ポリビニルアルコール及びポリエチレンビニルアルコール等のビニルアルコール系ポリマー、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイド等のポリエチレングリコール系ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル酸系ポリマー、及びポリビニルピロリドン等のポリビニルピロリドン系ポリマー等が挙げられる。この中でも、ビニルアルコール系ポリマーやポリビニルピロリドン系ポリマーが好ましく、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンがより好ましい。ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンは、より架橋させやすく、また、半透膜層との接着性をより高めることができると考えられる。すなわち、前記支持層を親水化させる際に用いる親水性樹脂として、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンの少なくとも一方を用いると、これらの樹脂は架橋させやすく、前記支持層に適切な親水性を付与しやすいと考えられる。そして、架橋された親水性樹脂が前記支持層に含まれることによって、前記架橋ポリアミドを含む半透膜層との接着性を高めることができると考えられる。これらのことから、前記半透膜層を、前記支持層の緻密面上に好適に形成させることができ、形成された前記半透膜層が、前記支持層から剥離されることを充分に抑制できると考えられる。これらのことから、これらの樹脂を親水性樹脂として含む支持層を備える複合中空糸膜は、半透膜層による分離をより好適に行うことができ、耐久性により優れた複合中空糸膜を提供することができる。また、前記親水性樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記親水性樹脂としては、グリセリン及びエチレングリコール等の親水性の単分子を含んでいてもよく、これらの重合体であってもよく、これらを上記樹脂との共重合成分として含むものであってもよい。
前記親水性樹脂の架橋は、前記親水性樹脂が架橋されて、前記親水性樹脂の水に対する溶解性が低下していればよく、例えば、水に溶解しないように不溶化させる架橋等が挙げられる。前記親水性樹脂の架橋としては、前記親水性樹脂としてポリビニルアルコールを用いた場合、例えば、ホルムアルデヒドを用いたアセタール化反応やグルタルアルデヒドを用いたアセタール化反応等が挙げられる。また、前記親水性樹脂としてポリビニルピロリドンを用いた場合、例えば、過酸化水素水との反応等が挙げられる。前記親水性樹脂の架橋は、その架橋度が高いと、複合中空糸膜を長期間にわたって使用しても、前記複合中空糸膜からの親水性樹脂の溶出を抑制できると考えられる。このため、前記半透膜層と前記支持層との剥離等を、長期間にわたって抑制できると考えられる。
前記支持層12は、前記緻密面14に対する水の接触角が、上述したように、90°以下であることが好ましく、65°以下であることがより好ましく、10〜65°であることがさらに好ましい。前記接触角が大きすぎると、前記支持層の親水化が不充分であり、前記支持層上に、前記半透膜層を好適に形成できない傾向がある。これは、以下のことによると考えられる。前記半透膜層を形成する際、まず、前記支持層の前記緻密面側に、前記半透膜層を構成する架橋ポリアミドの原料である多官能アミン化合物の水溶液を接触させる。このとき、前記緻密面14に対する水の接触角が、例えば、90°以下と、前記支持層が充分に親水化されていれば、前記支持層の前記緻密面側に、前記多官能アミン化合物の水溶液が充分にしみ込む。この状態で、前記支持層の前記緻密面側に、前記架橋ポリアミドの原料である多官能酸ハライド化合物の有機溶媒を接触させた後、乾燥させると、前記多官能アミン化合物と前記多官能酸ハライド化合物とが界面重合して、前記支持層の前記緻密面に接触するように、前記架橋ポリアミドを含む半透膜層が形成される。その一方で、前記緻密面14に対する水の接触角が大きすぎると、前記多官能アミン化合物の水溶液が、前記支持層の前記緻密面側に充分にしみ込めず、上記界面重合を好適に行うことができない傾向がある。このため、前記支持層上に、前記半透膜層を好適に形成できない傾向がある。また、このような、前記緻密面14に対する水の接触角が大きすぎる場合、前記半透膜層が形成されても、その半透膜層は、前記支持層からの剥離が発生しやすい傾向もある。
前記支持層12は、上述したように、全体が親水化されている。例えば、前記複合中空糸膜をFO法で用いて水処理をした場合、FO膜として用いた複合中空糸膜の半透膜層を介して、供給溶液及び駆動溶液としての2つの水溶液が効率的に接触されることが好ましい。このため、前記支持層全体が親水化されていると、水溶液である供給溶液及び駆動溶液が、前記支持層内を効率的に拡散するので、いわゆる内部濃度分極が抑制され、半透膜層による分離をより好適に行うことができる。また、前記支持層全体が親水化されているほうが、前記支持層の親水化がより好適に行われている。このため、前記支持層上に前記半透膜層がより好適に形成され、前記半透膜層と前記支持層との剥離がより抑制された耐久性の高い複合中空糸膜となる。
なお、前記支持層が親水化されているか否かは、支持層をIR(Infrared Spectroscopy)分析及びXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)分析等をすることによって、判断することができる。例えば、前記支持層の内表面、外表面、及び前記支持層を切り出した内部の面のそれぞれに対して、上記分析を行うことによって、それぞれの位置に親水性樹脂が存在するか否かがわかる。そして、支持層の全体にわたって、親水性樹脂が存在するようであれば、支持層の全体が親水化されていることがわかる。すなわち、前記支持層の内表面、外表面、及び内部の全てに、親水性樹脂の存在が確認できれば、支持層の全体が親水化されていることがわかる。
また、前記支持層の全体が親水化されているか否かは、透水性からもわかる。具体的には、湿潤状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度が、乾燥状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度と同等程度であれば、前記支持層の全体が親水化されていることがわかる。具体的には、湿潤状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度が、乾燥状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度に対して、0.9〜2倍であることが好ましい。
乾燥状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度としては、例えば、以下の方法により測定される透過速度等が挙げられる。まず、測定対象物である支持層(中空糸膜)を乾燥させる。この乾燥は、支持層を乾燥できれば、特に限定されないが、例えば、60℃の送風定温乾燥器での24時間以上の乾燥等が挙げられる。この乾燥状態の支持層の一端を封止し、有効長20cmの1本の中空糸膜モジュールを用い、原水として純水を利用し、ろ過圧力が98kPa、温度25℃の条件で外圧ろ過して、1分の透水量を測定する。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、及び単位圧力当たりの透水量に換算して、純水の透過速度(L/m2/時:LMH)を得る。
また、湿潤状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度としては、例えば、以下の方法により測定される透過速度等が挙げられる。まず、測定対象物である支持層(中空糸膜)を湿潤状態にする。本実施形態に係る支持層の場合、支持層に含まれる親水性樹脂を湿潤させる。この湿潤状態にする湿潤処理は、支持層を好適に湿潤状態にすることができれば、特に限定されない。具体的には、支持層を、エタノール50質量%水溶液に20分間浸漬させ、その後、20分間純水で洗浄するといった湿潤処理を施す。この湿潤状態にした中空糸膜を、乾燥状態の中空糸膜の代わりに用いること以外、上記乾燥状態の透過速度と同様の方法により、膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度(L/m2/時:LMH)を得る。
また、前記支持層12は、その分画粒子径が、0.001〜0.3μmであることが好ましく、0.001〜0.2μmであることがより好ましく、0.001〜0.1μmであることがさらに好ましい。すなわち、前記緻密面に存在する気孔は、前記支持層の分画粒子径が上記範囲内になる気孔であることが好ましい。前記分画粒子径が大きすぎると、前記緻密面に存在する気孔が大きく、前記緻密面上に前記半透膜層を好適に形成できない傾向がある。すなわち、前記緻密面全体を、前記半透膜層で覆うことができず、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。前記複合中空糸膜を、例えば、正浸透(FO)膜として用いると、充分な脱塩性能を得られにくい傾向がある。一方で、前記分画粒子径が小さすぎると、半透膜層による分離を好適に行うことができ、例えば、脱塩性能を充分に発揮できるものの、透過流束が低下する傾向がある。よって、前記分画粒子径が上記範囲内であると、半透膜層による分離と透過性とを両立できる。なお、分画粒子径は、支持層の通過を阻止できる最小粒子の粒子径のことをいい、具体的には、例えば、支持層によって透過を阻止する割合(支持層による阻止率)が90%となるときの粒子の径等が挙げられる。
前記支持層12は、前記緻密面14とは反対側の面に形成されている気孔の平均径(反対側細孔径)が、1〜50μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましく、1〜20μmであることが好ましい。この平均径が小さすぎると、前記支持層の傾斜構造における、前記支持層の気孔が、内表面及び外表面の一方から他方に向かって大きくなる度合が低すぎて、透過性が不充分になる傾向がある。また、この平均径が大きすぎると、前記支持層の強度が不充分になる傾向がある。
前記支持層12は、耐圧強度が0.3MPa以上5MPa未満であることが好ましく、0.3MPa以上4MPa未満であることがより好ましく、0.3MPa以上3MPa未満であることがさらに好ましい。この耐圧強度は、支持層の外側から圧力をかけたときに支持層の形状を維持できる最大圧力及び支持層の内側から圧力をかけたときに支持層の形状を維持できる最大圧力のうちの、低い方の圧力である。なお、支持層の外側から圧力をかけたときに支持層の形状を維持できる最大圧力とは、例えば、支持層の外側から圧力をかけていき、支持層が潰れたときの圧力である。また、支持層の内側から圧力をかけたときに支持層の形状を維持できる最大圧力とは、例えば、支持層の内側から圧力をかけていき、支持層が破裂したときの圧力である。前記耐圧強度が低すぎると、複合中空糸膜を用いた実用運転において、複合中空糸膜の耐久性が不充分になる傾向がある。前記耐圧強度は、高いほど好ましいが、高すぎる耐圧強度は、実用上、不要である場合がある。
なお、前記支持層12の製造方法は、上記のような構成の中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。前記中空糸膜の製造方法としては、多孔性の中空糸膜を製造する方法等が挙げられる。このような多孔性の中空糸膜の製造方法としては、相分離を利用する方法が知られている。この相分離を利用する中空糸膜の製造方法としては、例えば、非溶剤誘起相分離法(Nonsolvent Induced Phase Separation:NIPS法)や、熱誘起相分離法(Thermally Induced Phase Separation:TIPS法)等が挙げられる。
NIPS法とは、ポリマーを溶剤に溶解させた均一なポリマー原液を、ポリマーを溶解させない非溶剤と接触させることで、ポリマー原液と非溶剤との濃度差を駆動力とした、ポリマー原液の溶剤と非溶剤との置換により、相分離現象を起こさせる方法である。NIPS法は、一般的に、溶剤交換速度によって、形成される細孔の孔径が変化する。具体的には、溶剤交換速度が遅いほど、細孔が粗大化する傾向がある。また、溶剤交換速度は、中空糸膜の製造においては、非溶剤との接触面が最も速く、膜内部に向かうにしたがって、遅くなる。このため、NIPS法で製造した中空糸膜は、非溶剤との接触面付近は緻密であって、膜内部に向かって、徐々に細孔を粗大化した非対称構造を有するものが得られる。
また、TIPS法とは、ポリマーを、高温下では溶解させることができるが、温度が低下すると溶解できなくなる貧溶剤に、高温下で溶解させ、その溶液を冷却することにより、相分離現象を起こさせる方法である。熱交換速度は、一般的に、NIPS法における溶剤交換速度より速く、速度の制御が困難であるため、TIPS法は、膜厚方向に対して、均一な細孔が形成されやすい。
また、前記中空糸膜の製造方法としては、前記中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。具体的には、この製造方法としては、以下のような製造方法が挙げられる。この製造方法としては、中空糸膜を構成する樹脂と溶剤とを含む製膜原液を調製する工程(調製工程)と、前記製膜原液を中空糸状に押し出す工程(押出工程)と、押し出された中空糸状の製膜原液を凝固させて、中空糸膜を形成する工程(形成工程)とを備える方法等が挙げられる。
(半透膜層)
前記半透膜層13は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含んで、半透膜の機能を奏する層であれば、特に限定されない。
前記多官能アミン化合物は、アミノ基を分子内に2つ以上有する化合物であれば、特に限定されない。前記多官能アミン化合物としては、例えば、芳香族多官能アミン化合物、脂肪族多官能アミン化合物、及び脂環族多官能アミン化合物等が挙げられる。また、前記芳香族多官能アミン化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、及びo−フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン及び1,3,4−トリアミノベンゼン等のトリアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン及び2,6−ジアミノトルエン等のジアミノトルエン、3,5−ジアミノ安息香酸、キシリレンジアミン、及び2,4−ジアミノフェノール二塩酸塩(アミドール)等が挙げられる。また、前記脂肪族多官能アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロプレンジアミン、及びトリス(2−アミノエチル)アミン等が挙げられる。前記脂環族多官能アミン化合物としては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2、5―ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。この中でも、芳香族多官能アミン化合物が好ましく、フェニレンジアミンがより好ましい。また、前記多官能アミン化合物としては、上記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記多官能酸ハライド化合物(多官能酸ハロゲン化物)は、カルボン酸等の酸を分子内に2つ以上有する多官能有機酸化合物に含まれる酸からヒドロキシル基を2つ以上除去し、ヒドロキシル基が除去された酸にハロゲンが結びついた化合物であれば、特に限定されない。前記多官能酸ハライド化合物は、2価以上であればよく、3価以上であることが好ましい。また、前記多官能酸ハライド化合物としては、例えば、多官能酸フッ化物、多官能酸塩化物、多官能酸臭化物、及び多官能酸ヨウ化物等が挙げられる。この中でも、多官能酸塩化物(多官能酸クロライド化合物)が、最も容易に得られ、反応性も高いので好ましく用いられるが、これに限らない。また、以下、多官能酸塩化物を例示するが、多官能酸塩化物以外の多官能酸ハロゲン化物としては、下記例示の塩化物を、他のハロゲン化物に変えたもの等が挙げられる。
前記多官能酸クロライド化合物としては、例えば、芳香族多官能酸クロライド化合物、脂肪族多官能酸クロライド化合物、及び脂環族多官能クロライド化合物等が挙げられる。前記芳香族多官能酸クロライド化合物としては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、及びベンゼンジスルホン酸ジクロライド等が挙げられる。また、前記脂肪族多官能酸クロライド化合物としては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルクロライド、及びアジポイルクロライド等が挙げられる。また、脂環族多官能クロライド化合物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、及びテトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。この中でも、芳香族多官能酸クロライド化合物が好ましく、トリメシン酸トリクロライドがより好ましい。また、前記多官能酸ハライド化合物としては、上記例示の化合物を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(複合中空糸膜)
本実施形態に係る複合中空糸膜は、備えられる支持層が、前記半透膜層を支持し、さらに、この半透膜層による分離を阻害しないようにする上記支持層であれば、特に限定されない。すなわち、本実施形態に係る複合中空糸膜は、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含む半透膜層を備えていればよく、この半透膜層としては、下記実施例に記載の架橋ポリアミドを含む半透膜層でなくても、それぞれの半透膜層において、備えられる支持層が、半透膜層の機能を好適に奏するような支持層である。
前記複合中空糸膜の形状は、特に限定されない。前記複合中空糸膜は、中空糸状であって、長手方向の一方側は開放し、他方側は、開放していても閉じていてもよい。前記複合中空糸膜の開放した側の形状としては、例えば、図1に示すような形状である場合等が挙げられる。
前記複合中空糸膜の外径R1は、0.1〜2mmであることが好ましく、0.2〜1.5mmであることがより好ましく、0.3〜1.5mmであることがさらに好ましい。前記外径が小さすぎると、前記複合中空糸膜の内径も小さくなりすぎる場合があり、この場合、中空部分の通液抵抗が大きくなり、充分な流量を確保できなくなる傾向がある。そして、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、充分な流量で駆動溶液を流すことができなくなる傾向がある。また、前記外径が小さすぎると、外側にかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向もある。さらに、前記外径が小さすぎると、前記複合中空糸膜の膜厚が薄くなりすぎる場合があり、この場合、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。また、前記外径が大きすぎると、複数の複合中空糸膜を筐体に収容した中空糸膜モジュールを構成した際、筐体に収容する中空糸膜の本数が少なくなるので、中空糸膜の膜面積が減少し、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。前記外径が大きすぎると、内側からかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の外径が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れた、半透膜による分離を好適に行うことができる。
前記複合中空糸膜の内径R2は、0.05〜1.5mmであることが好ましく、0.1〜1mmであることが好ましく、0.2〜1mmであることがさらに好ましい。前記内径が小さすぎると、中空部分の通液抵抗が大きくなり、充分な流量を確保できなくなる傾向がある。そして、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、充分な流量で駆動溶液を流すことができなくなる傾向がある。また、前記内径が小さすぎると、前記複合中空糸膜の外径も小さくなりすぎる場合があり、この場合、外側にかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向がある。また、前記内径が大きすぎると、前記複合中空糸膜の外径も大きくなりすぎる場合があり、この場合、複数の複合中空糸膜を筐体に収容した中空糸膜モジュールを構成した際、筐体に収容する中空糸膜の本数が少なくなくので、中空糸膜の膜面積が減少し、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。そして、前記内径が大きすぎと、前記複合中空糸膜の外径も大きくなりすぎる場合があり、この場合、内側からかかる圧力に対する耐圧強度が低下する傾向がある。また、前記内径が大きすぎると、前記複合中空糸膜の膜厚が薄くなりすぎる場合があり、この場合、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の内径が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れた、半透膜による分離を好適に行うことができる。
また、前記複合中空糸膜の膜厚Tは、0.02〜0.3mmであり、0.05〜0.3mmであることが好ましく、0.05〜0.28mmであることがより好ましい。前記膜厚が薄すぎると、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、支持層における内部濃度分極が起こりやすくなり、半透膜による分離を阻害する傾向もある。すなわち、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、駆動溶液と供給溶液との接触抵抗が増大するため、透過性が低下する傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の膜厚が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れ、半透膜による分離も好適に行うことができる。
前記半透膜層13の膜厚は、下記界面重合で形成される厚みである。具体的には、前記半透膜層の膜厚は、1〜10000nmであり、1〜5000nmであることがより好ましく、1〜3000nmであることがさらに好ましい。前記膜厚が薄すぎると、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、充分な脱塩性能を発揮できず、塩逆流速度が上昇する等のように、半透膜層による分離を好適に行うことができない傾向がある。このことは、半透膜層が薄すぎて、半透膜層の機能を充分に奏することができなかったり、半透膜層が支持層上を充分に覆うことができないこと等によると考えられる。また、前記膜厚が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。このことは、半透膜層が厚すぎて、透水抵抗が大きくなるため、水が透過しにくくなることによると考えられる。
前記支持層12の膜厚は、前記複合中空糸膜の膜厚と前記半透膜層13の膜厚との差分であり、具体的には、0.02〜0.3mmであり、0.05〜0.3mmであることがより好ましく、0.05〜0.25mmであることがさらに好ましい。なお、支持層の膜厚は、半透膜層が、支持層と比較して非常に薄いため、複合中空糸膜の膜厚とほぼ同じである。前記膜厚が薄すぎると、複合中空糸膜の強度が不充分になる傾向がある。すなわち、好適な耐圧強度を実現できない傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、透過性が低下する傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、支持層における内部濃度分極が起こりやすくなり、半透膜による分離を阻害する傾向もある。すなわち、前記複合中空糸膜を正浸透膜等として用いた場合は、駆動溶液と供給溶液との接触抵抗が増大するため、透過性が低下する傾向がある。よって、前記複合中空糸膜の膜厚が上記範囲内であれば、複合中空糸膜が充分な強度を有しつつ、透過性に優れ、半透膜による分離も好適に行うことができる。
前記複合中空糸膜は、半透膜を用いる膜分離技術に適用可能である。すなわち、前記複合中空糸膜は、例えば、NF膜、RO膜、及びFO膜等として用いることができる。この中でも、前記複合中空糸膜は、FO法に用いられるFO膜であることが好ましい。
一般的に、RO膜であれば、半透膜の機能を奏するので、FO膜としても利用できる。しかしながら、従来のRO膜をそのままFO膜として用いると、内部濃度分極の影響を受け、半透膜による分離を好適に行うことができない場合があった。すなわち、FO法は、FO膜による分離が内部濃度分極の影響を受けやすいことが知られている。本実施形態に係る複合中空糸膜であれば、上述したように、内部濃度分極の発生を充分に抑制できるので、FO法に用いられるFO膜としても好適に用いることができる。
[複合中空糸膜の製造方法]
本実施形態に係る複合中空糸膜の製造方法は、上述の複合中空糸膜を製造することができれば、特に限定されない。前記製造方法としては、例えば、以下のような製造方法が挙げられる。前記製造方法としては、前記支持層の前記緻密面側に、前記多官能アミン化合物の水溶液を接触させる工程(第1接触工程)と、前記多官能アミン化合物の水溶液を接触させた前記支持層の前記緻密面側に、前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液をさらに接触させる工程(第2接触工程)と、前記多官能アミン化合物の水溶液及び前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液を接触させた前記支持層を乾燥させる工程(乾燥工程)とを備える。
前記第1接触工程は、前記支持層の前記緻密面側に、前記多官能アミン化合物の水溶液を接触させる。そうすることによって、前記多官能アミン化合物の水溶液が、前記支持層に前記緻密面側からしみ込む。
前記多官能アミン化合物の水溶液は、前記多官能アミン化合物の濃度が、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.1〜3質量%であることがより好ましい。前記多官能アミン化合物の濃度が低すぎると、形成された半透膜層にピンホールが形成される等、好適な半透膜層が形成されない傾向がある。このため、半透膜層による分離が不充分になる傾向がある。また、前記多官能アミン化合物の濃度が高すぎると、前記半透膜層が厚くなりすぎる傾向がある。そして、前記半透膜層が厚くなりすぎると、得られた複合中空糸膜の透過性が低下する傾向がある。
前記多官能アミン化合物の水溶液は、前記多官能アミン化合物を水に溶解させた溶液であり、必要に応じて、塩類、界面活性剤、及びポリマー等の添加剤を加えてもよい。
前記第2接触工程は、前記多官能アミン化合物の水溶液を接触させた前記支持層の前記緻密面側に、前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液をさらに接触させる。そうすることによって、前記支持層に前記緻密面側にしみ込まれた前記多官能アミン化合物の水溶液と前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液との界面が形成される。そして、前記界面において、前記多官能アミン化合物と前記多官能酸ハライド化合物との反応が進行する。すなわち、前記多官能アミン化合物と前記多官能酸ハライド化合物との界面重合が起こる。この界面重合によって、架橋ポリアミドが形成される。
前記多官能酸ハライド化合物の有機溶剤溶液は、前記多官能酸ハライド化合物の濃度が、0.01〜5質量%であることが好ましく、0.01〜3質量%であることがより好ましい。前記多官能酸ハライド化合物の濃度が低すぎると、形成された半透膜層にピンホールが形成される等、好適な半透膜層が形成されない傾向がある。このため、半透膜層による分離、例えば、脱塩性能が不充分になる傾向がある。また、前記多官能酸ハライド化合物の濃度が高すぎると、前記半透膜層が厚くなりすぎる傾向がある。そして、前記半透膜層が厚くなりすぎると、得られた複合中空糸膜の透過性が低下する傾向がある。
前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液は、前記多官能酸ハライド化合物を有機溶媒に溶解させた溶液である。前記有機溶媒としては、前記多官能酸ハライド化合物を溶解し、水に溶解しない溶媒であれば、特に限定されない。前記有機溶媒としては、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びノナン等のアルカン系飽和炭化水素等が挙げられる。前記有機溶媒には、必要に応じて、塩類、界面活性剤、及びポリマー等の添加剤を加えてもよい。
前記乾燥工程は、前記多官能アミン化合物の水溶液及び前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液を接触させた前記支持層を乾燥させる。前記第2接触工程において、前記多官能アミン化合物の水溶液と前記多官能酸ハライド化合物の有機溶媒溶液との接触による界面重合により得られた架橋ポリアミドが、前記支持層の前記緻密面上を覆うように形成されている。この支持層を乾燥させることにより、形成された架橋ポリアミドが乾燥され、架橋ポリアミドを含む半透膜層が形成される。
前記乾燥は、形成された架橋ポリアミドが乾燥されれば、その温度等は特に限定されない。乾燥温度としては、例えば、50〜150℃であることが好ましく、80〜130℃であることが好ましい。前記乾燥温度が低すぎると、乾燥が不充分になる傾向があるだけではなく、乾燥時間が長くなりすぎ、生産効率が低下する傾向がある。また、前記乾燥温度が高すぎると、形成された半透膜層が熱劣化し、半透膜による分離を好適には行いにくくなる傾向がある。例えば、脱塩性能が低下したり、透水性が低下する傾向がある。また、乾燥時間としては、例えば、1〜30分間であることが好ましく、1〜20分間であることがより好ましい。前記乾燥時間が短すぎると、乾燥が不充分になる傾向がある。また、前記乾燥時間が長すぎると、生産効率が低下する傾向がある。また、形成された半透膜層が熱劣化し、半透膜による分離を好適には行いにくくなる傾向もある。例えば、脱塩性能が低下したり、透水性が低下する傾向がある。
上記のような製造方法によれば、半透膜層による分離を好適に行うことができ、さらに、耐久性に優れた複合中空糸膜を好適に製造することができる。
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
(支持層の作製)
複合中空糸膜の支持層として、下記の方法により得られた中空糸膜を用いた。
まず、中空糸膜(支持層)を構成する樹脂として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:アルケマ株式会社製のKynar741)と、溶剤として、γブチロラクトン(GBL:三菱ケミカル株式会社製のGBL)と、親水性樹脂として、ポリビニルピロリドン(PVP:BASFジャパン株式会社製のSokalan K−90P)と、添加剤として、ポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製のPEG−600)とを、質量比30:56:7:7になるように混合物を調製した。この混合物を90℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解させることによって、製膜原液が得られた。
得られた90℃の製膜原液を、中空状に押し出した。このとき、内部凝固液として、γブチロラクトン(GBL:三菱ケミカル株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)とを65℃の恒温下で質量比15:85になるように混合した混合物を、製膜原液と同時吐出した。
この内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、5cmの空走距離を経て、外部凝固液として、80℃の水の中に浸漬させた。そうすることによって、製膜原液が固化され、中空糸膜が得られた。
そして、この中空糸膜を、過酸化水素を3質量%含む水溶液に浸漬させた。そうすることによって、中空糸膜に含まれた親水性樹脂が架橋した。その後、この中空糸膜を水に浸漬させた。そうすることによって、架橋が不充分であった親水性樹脂を中空糸膜から除去した。このことから、中空糸膜に存在する親水性樹脂は、架橋によって不溶化された親水性樹脂であることがわかった。このようにして得られた中空糸膜を、上述したように、複合中空糸膜の支持層として用いた。
(膜構造、反対側細孔径)
そして、この支持層は、外表面が緻密面であり、この緻密面から内表面にむかって漸次的に、内部の気孔が大きくなる傾斜構造を有していた。この傾斜構造を有していることは、走査型電子顕微鏡の観察からもわかった。
具体的には、前記支持層の内表面及び外表面を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS−3000N)を用いて観察した。得られた画像から、前記支持層は、外表面に存在する孔が、内表面に存在する孔より小さくなる傾斜構造を有する中空糸膜であることがわかった。
また、中空糸膜の内表面を走査型電子顕微鏡写真で観察して得られた写真から確認される全ての気孔の直径の平均値から、緻密面の反対側の面(実施例1においては内表面)に存在する気孔の径(反対側細孔径)が10μmであることがわかった。
(分画粒子径)
次に、得られた中空糸膜(支持層)の分画粒子径を、以下の方法で測定した。
異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子(日揮触媒化成株式会社製の、カタロイドSI−550、カタロイドSI−45P、カタロイドSI−80P、ダウケミカル株式会社製の、粒径0.1μm、0.2μm、0.5μmのポリスチレンラテックス等)の阻止率を測定し、その測定値を元にして、下記の近似式において、Rが90となるSの値を求め、これを分画粒子径とした。
R=100/(1−m×exp(−a×log(S)))
上記式中のaおよびmは、中空糸膜によって定まる定数であって、2種類以上の阻止率の測定値をもとに算出される。
また、分画粒子径が0.01μm未満である場合には、上記測定方法の代わりに、以下測定方法により測定された、中空糸膜による阻止率が90%となる被ろ過物の分子量(分画分子量)に基づくストークス径を分画粒子径とした。
その測定方法は、異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子の代わりに、異なる分子量を有する少なくとも2種類のデキストラン(例えば、東京化成工業株式会社製の、デキストラン−40及びデキストラン−70等)を用いて、同様の方法で、Rが90となるSを求め、これを分画分子量とした。求めた分画分子量から下記ストークス式を用いて、ストークス径を算出し、このストークス径を、分画粒子径とした。
なお、ストークス式は、下記式である。
Rs=2KT/(6πηD)
上記式中、Rsは、ストークス径を示す。Kは、ボルツマン係数を示し、1.381×10−23である。また、Kは、絶対温度である298℃であり、ηは、溶媒の粘度を示し、0.00089Pa・sである。そして、ここで、Dは、鎖状高分子の分子量と拡散係数との相関式として提案されている8.76×10−9×S−0.48である。すなわち、D=8.76×10−9×S−0.48である。
上記測定方法により得られた分画粒子径は、0.02μmであった。
(水の接触角)
緻密面に対する水の接触角は、以下のようにして測定した。
まず、支持層の緻密面を露出させた。なお、実施例1で用いる支持層は、外表面が緻密面であるので、そのままでも露出している。ここで、内表面が緻密面の場合には、支持層を長手方向に沿って切断して内表面を露出させる。
次に、支持層の緻密面に水滴を滴下し、その瞬間の画像を撮影した。そして、水滴表面が緻密面に接する場所における、水滴表面と緻密面とのなす角を測定した。この角が、水の接触角である。測定装置としては、協和界面科学株式会社製のDrop Master 700を用いた。
上記測定方法により得られた、緻密面に対する水の接触角は、45°であった。
(耐圧強度)
耐圧強度は、以下のようにして測定した。
まず、支持層である中空糸膜の一端を封止し、もう一端を開放したままの中空糸膜を用いた中空糸膜モジュールを作製した。この中空糸膜モジュールに対して、支持層の外側にかかる圧力を徐々に高めるように加圧し、支持層が潰れたときの圧力を測定した。また、この中空糸膜モジュールに対して、支持層の内側にかかる圧力を徐々に高めるように加圧し、支持層が破裂したときの圧力を測定した。この測定した2つの圧力のうち、低い方の圧力を、耐圧強度とした。
上記測定方法により得られた耐圧強度は、0.5MPaであった。
(親水化処理)
支持層である中空糸膜の全体が親水化されているか否かは、親水性から判断した。
測定対象物である支持層(中空糸膜)の、乾燥状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度を測定した。具体的には、まず、測定対象物である支持層(中空糸膜)を、60℃の送風定温乾燥器で、24時間以上乾燥させた。この乾燥させた支持層の一端を封止し、有効長20cmの1本の中空糸膜モジュールを用い、原水として純水を利用し、ろ過圧力が98kPa、温度25℃の条件で外圧ろ過して、1分の透水量を測定した。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、及び単位圧力当たりの透水量に換算して、純水の透過速度(L/m2/時:LMH)を得た。この透過速度を、乾燥状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度とした。
上記乾燥状態での透過速度とは別に、測定対象物である支持層(中空糸膜)の、湿潤状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度を測定した。具体的には、まず、測定対象物である支持層(中空糸膜)を、エタノール50質量%水溶液に20分間浸漬させ、その後、20分間純水で洗浄することによって、湿潤処理を施した。この湿潤状態にした中空糸膜を、乾燥状態の中空糸膜の代わりに用いること以外、上記乾燥状態の透過速度の測定方法と同様の方法により、膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度(L/m2/時:LMH)を得た。この透過速度を、湿潤状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度とした。
そして、乾燥状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度に対する、湿潤状態での膜間差圧98kPa及び25℃における純水の透過速度の比を算出した。
この比が、1.0倍であった。このことから、乾燥状態での透過速度と湿潤状態での透過速度がほぼ同等であることがわかった。このことから、支持層全体が親水化されていることが確認された。
また、支持層の、内表面、外表面、及び前記支持層を切り出した内部の面のそれぞれに対して、IR分析を行った。この分析により、前記支持層の内表面、外表面、及び内部の全てに、親水性樹脂が存在することを確認した。よって、このことからも、支持層全体が親水化されていることが確認された。
(半透膜層の作製)
前記支持層の緻密面(実施例1では、外表面)側に、半透膜層を形成した。
具体的には、まず、前記支持層を、エタノール50質量%水溶液に20分間浸漬させ、その後、20分間純水で洗浄することによって、湿潤処理を施した。この湿潤処理を施した湿潤状態の支持層を、他の支持層と接触しないように、枠に固定した。そして、この支持層を、芳香族多官能アミン化合物であるm−フェニレンジアミンの2質量%水溶液が支持層の緻密面側に接触するように、m−フェニレンジアミンの2質量%水溶液に2分間浸漬させた。そうすることによって、支持層の緻密面側から、m−フェニレンジアミンの2質量%水溶液をしみ込ませた。その後、支持層にしみ込まなかった余分なm−フェニレンジアミンの2質量%水溶液を除去した。
そして、この支持層を、芳香族酸ハライド化合物であるトリメシン酸トリクロライドの0.2質量%ヘキサン溶液が支持層の緻密面側に接触するように、トリメシン酸トリクロライドの0.2質量%ヘキサン溶液に1分間浸漬させた。そうすることによって、前記支持層の緻密面側にしみ込まれたm−フェニレンジアミン水溶液と、トリメシン酸トリクロライドのヘキサン溶液との界面が形成される。そして、この界面において、m−フェニレンジアミンとトリメシン酸トリクロライドとの界面重合が進行し、架橋ポリアミドが形成される。
その後、架橋ポリアミドが形成させた支持層を、90℃の乾燥機にて乾燥させた。そうすることによって、前記支持層の緻密面側に、前記緻密面に接触するように半透膜層が形成された。なお、形成された半透膜層は、厚みが200nmであった。また、支持層の厚みが0.2mmであった。なお、複合中空糸膜の膜厚と支持層の膜厚とは、ほぼ同じである。これは、半透膜層が、支持層と比較して非常に薄いため、その厚みは誤差範囲内になることによる。
(複合中空糸膜)
上記の製造方法により、支持層と半透膜層とを備えた複合中空糸膜が得られた。この複合中空糸膜は、外径が1.0mmであり、内径が0.6mmであり、膜厚が0.2mmであった。
[評価]
上記のように得られた複合中空糸膜を、以下に示す方法により、評価を行った。
(逆浸透ROモードでの性能評価)
得られた複合中空糸膜を、逆浸透(RO)法に用い、透水性及び脱塩率を測定した。
具体的には、得られた複合中空糸膜に、模擬海水としての500mg/LのNaCl水溶液を、0.3MPaの圧力をかけ、ろ過を行った。そのときの透水量と、得られた水のNaCl含有量とを測定した。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、及び単位圧力当たりの透水量に換算して、純水の透過速度(L/m2/時:LMH)を得た。この透過速度を、透水性として評価した。また、得られた水のNaCl含有量から、脱塩率(%)を算出した。
(正浸透FOモードでの性能評価)
得られた複合中空糸膜を、正浸透(FO)法に用い、透水性及び塩逆流速度を測定した。
具体的には、得られた複合中空糸膜を介して、模擬駆動溶液(模擬DS)としての0.5MのNaCl水溶液と、模擬供給溶液(模擬FS)としてのイオン交換水とを配置して、ろ過を行った。そのとき、複合中空糸膜の半透膜層側に模擬FSを、複合中空糸膜の支持層側に模擬DSを流した。模擬FSから模擬DSへの水の透水量は、模擬FSと模擬DSとのそれぞれの重量変化から算出した。そして、この算出した透水量から、単位膜面積、単位時間、及び単位圧力当たりの透水量に換算して、純水の透過速度(L/m2/時:LMH)を得た。この透過速度を、透水性として評価した。また、模擬FSの塩濃度の変化を測定した。この塩濃度の変化から、塩逆流速度(g/m2/時:gMH)を得た。
[実施例2]
内部凝固液と外部凝固液とを入れ替えたこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。具体的には、内部凝固液として、水を用い、外部凝固液として、γブチロラクトン(GBL:三菱ケミカル株式会社製のGBL)とグリセリン(花王株式会社製の精製グリセリン)との混合液を用いたこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。この複合中空糸膜は、内部凝固液と外部凝固液とを入れ替えたことにより、支持層の内表面が、緻密面となり、内表面上に半透膜層を形成させた複合中空糸膜である。その他の支持層の性状、及び複合中空糸膜の評価結果等は、表1に示す。
[実施例3]
中空糸状に押し出す際の製膜溶液の温度を90℃から120℃に変更し、外部凝固液の温度を80℃から90℃に変更した以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。その他の支持層の性状、及び複合中空糸膜の評価結果等は、表1に示す。
[実施例4]
親水性樹脂として、ポリビニルピロリドン(PVP)の代わりに、ポリビニルアルコール(PVA:株式会社クラレ製のPVA−505)を用い、その架橋として、過酸化水素水溶液の代わりに、ホルムアルデヒドを1質量%含み、硫酸を3質量%含む水溶液を用いて架橋させたこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。その他の支持層の性状、及び複合中空糸膜の評価結果等は、表1に示す。
[実施例5]
支持層として、下記支持層を用いたこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。その他の支持層の性状、及び複合中空糸膜の評価結果等は、表1に示す。
(支持層の作製)
複合中空糸膜の支持層として、下記の方法により得られた中空糸膜を用いた。
まず、中空糸膜(支持層)を構成する樹脂として、ポリサルホン(PSF:BASFジャパン株式会社製のUltrason S3010)と、溶剤として、ジメチルホルムアミド(DMF:三菱ガス化学株式会社製のDMF)と、添加剤として、ポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製のPEG−600)と、親水性樹脂として、ポリビニルピロリドン(PVP:BASFジャパン株式会社製のSokalan K−90P)と、を、質量比20:48:30:2になるように混合物を調製した。この混合物を25℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解させることによって、製膜原液が得られた。
得られた25℃の製膜原液を、中空状に押し出した。このとき、内部凝固液として、25℃の水を、製膜原液と同時吐出した。
この内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、5cmの空走距離を経て、外部凝固液として、60℃の水の中に浸漬させた。そうすることによって、製膜原液が固化され、中空糸膜が得られた。
そして、この中空糸膜を、過酸化水素を3質量%含む水溶液に浸漬させた。そうすることによって、中空糸膜に含まれた親水性樹脂が架橋した。その後、この中空糸膜を水に浸漬させた。そうすることによって、架橋が不充分であった親水性樹脂を中空糸膜から除去した。このことから、中空糸膜に存在する親水性樹脂は、架橋によって不溶化された親水性樹脂であることがわかった。
[比較例1]
親水性樹脂を架橋させる架橋処理を行わずに得られた支持層から親水性樹脂が溶出してこなくなるまで、支持層を水に浸漬させること以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。その他の支持層の性状、及び複合中空糸膜の評価結果等は、表1に示す。
[比較例2]
内部凝固液の温度を65℃から80℃に変更した以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。その他の支持層の性状、及び複合中空糸膜の評価結果等は、表1に示す。
[比較例3]
複合中空糸膜の外径を2.3mm、内径を1.6mm、膜厚を0.35mmになるように製造したこと以外、実施例1と同様に、複合中空糸膜を製造した。その他の支持層の性状、及び複合中空糸膜の評価結果等は、表1に示す。
表1からわかるように、多官能アミン化合物と多官能酸ハライド化合物とを重合させてなる架橋ポリアミドを含む半透膜層と、中空糸状の多孔質な支持層とを備え、前記支持層は、前記支持層の気孔が、いずれかの表面に向かって漸次的に大きくなる傾斜構造を有し、親水性樹脂を含むことにより、前記支持層の全体が親水化されており、前記支持層の緻密面に前記半透膜層が接触し、複合中空糸膜の膜厚が、0.02〜0.3mmである複合中空糸膜である場合(実施例1〜5)は、逆浸透膜として用いたときに、透水性に優れ、脱塩性能にも優れていた。また、実施例1〜5に係る複合中空糸膜は、正浸透膜として用いたときでも、透水性に優れ、塩逆流速度が低かった。これらのことから、実施例1〜5に係る複合中空糸膜は、半透膜層による分離を好適に行うことができることがわかる。このことは、支持層が、その上に半透膜層を好適に形成させることができ、さらに、この形成された半透膜層による分離を阻害しにくいことによると考えられる。
これに対して、架橋処理を行わず、さらに、親水性樹脂を溶出させた比較例1に係る複合中空糸膜は、逆浸透膜として用いたときの透水性と比較して、正浸透膜として用いたときの透水性が低かった。これは、支持層が疎水性のため、内部濃度分極が大きくなったためと考えられる。
また、比較例2に係る複合中空糸膜は、逆浸透膜として用いたときの透水性と比較して、正浸透膜として用いたときの透水性が低かった。これは、支持層が傾斜構造ではなく、支持層内の気孔がほぼ均一な、いわゆる均一構造であったため、内部濃度分極が大きくなったことによると考えられる。
また、比較例3に係る複合中空糸膜は、逆浸透膜として用いたときの透水性と比較して、正浸透膜として用いたときの透水性が低かった。これは、膜厚が厚すぎて、内部濃度分極が大きくなったことによると考えられる。