JP2019110101A - 生物電気化学システム - Google Patents

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Abstract

【課題】廃水中の有機物および窒素を効率的に除去できる生物電気化学システムを提供すること。【解決手段】生物電気化学システムは、容器と、有機物を含有する液体を前記容器に散布する散水装置と、前記容器に収容された、電解質を含有する液体と、前記散水装置から散布された液体に接触する位置に、前記容器に収容された液体と接触して配置された、表面に電子供与微生物を担持したアノードと、前記収容された液体に接触するように、またはカチオン透過性の隔膜を挟んで前記収容された液体と隣接するように配置されたカソードと、を有する。【選択図】図1

Description

本発明は、生物電気化学システムに関する。
畜産農家にとって、畜舎から出る廃水の処理は、多大なコストおよび労力を要するため、大きな負担となっている。また、環境への影響を防ぐために、畜産バイオマスの資源化や排水処理基準の厳格化などに対応した新しい廃水処理技術の開発が求められている。有機性廃水の適正な処理および有機性廃水からの資源の回収を実現できる新技術の開発は、畜産分野のみならず食品加工、醸造、都市部における下水処理などの幅広い分野においても必要とされている。
近年、生物電気化学システム(Bioelectrochemical System:BES)と称される新しい技術が注目されている。生物電気化学システムは、電極上の反応を促進させる触媒として生物を利用する装置(バイオリアクター)の総称である。生物電気化学システムの例には、微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell:MFC)、微生物電解セル(Microbial Electrolysis Cell:MEC)、および微生物電気化学的または酵素電気化学的な物質の生産または分解を行う装置などが含まれる。微生物燃料電池および微生物電解セルでは、微生物が嫌気性条件下において有機物を酸化還元反応で分解するとともに、そのときに生じた電子をアノード(負極)に渡す役割を担っている。
微生物燃料電池は、嫌気性条件下において微生物が有機物を分解(酸化)することによって生じる余剰の還元力(電子)をアノード(負極)で回収することで発電(エネルギー回収)を行うバイオリアクターである。微生物燃料電池において、有機物の分解により生成された水素イオンは、カソード(正極)側に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノードで回収されて、外部回路を経由してカソードに移動する。カソード表面では、アノード側から移動してきた水素イオンおよび電子が酸素と反応することで、水が生成される。
微生物電解セルは、嫌気性条件下において微生物が有機物を分解(酸化)することによって生じる余剰の還元力(電子)をカソード(正極)で水素として回収するバイオリアクターである。微生物電解セルにおいて、有機物の分解により生成された水素イオンは、カソード(正極)側に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノード(負極)とカソード(正極)との間への電圧の印加により、アノードで回収されて、外部回路を経由してカソードに移動する。カソード表面では、水素イオンと電子とが反応することで、水素ガスが生成される。この水素を回収することにより、エネルギーを回収することができる。水素として得られるエネルギーの量は、電圧印加として投入したエネルギーの量よりも大きいため、微生物電解セル全体としては、廃水からエネルギーを回収したことになる。このように、微生物電解セルは、アノードおよびカソードと接続された電圧印加部(電源やポテンショスタットなど)により、アノードとカソードとの間に電圧を印加することが必要である。
微生物燃料電池および微生物電解セルなどの生物電気化学システムは、様々な種類の有機性廃水を処理することができる。この処理により廃水中の有機物が分解されるため、生物電気化学システムは、廃水を浄化(有機物を除去)する機能も併せ持っている。このように、生物電気化学システムは、廃水の浄化および廃水からのエネルギー回収を同時に行うことができるため、今後の新技術として期待されている。
ところで、廃水中の有機物を除去する方法としては、いずれも好気状態で行われる、標準活性汚泥法および散水ろ床法が広く用いられている。標準活性汚泥法は、好気性微生物を含む汚泥(活性汚泥)と廃水と混合した処理液に空気の泡を送り込んで処理液を好気状態にして、好気性微生物に廃水中の有機物を除去させる方法である。散水ろ床法は、好気性微生物を付着させたろ材に廃水を散水して、ろ材を廃水が通過する間に、好気性微生物に廃水中の有機物を除去させる方法である。
廃水の浄化では廃水中の窒素の除去も重要である。窒素の除去としては、いずれも嫌気状態を用いて行われる、間欠曝気法および窒素除去用の試薬を添加する方法が知られている。間欠曝気法は、処理槽を間欠的に曝気することで、好気状態におけるアンモニアから硝酸または亜硝酸への反応と、嫌気状態における脱窒菌による硝酸または亜硝酸からガス体の窒素への反応と、を繰り返し行う方法である。
生物電気化学システムにおける、微生物を触媒とした電極上の反応は、嫌気状態で進行する。そのため、生物電気化学システムによる有機物の分解も、嫌気状態で行われる。なお、本発明者らは、生物電気化学システムに曝気装置を組み合わせても、電極上の反応が進行し、しかもこのときに有機物の除去効率が高まることを見出している(特許文献1参照)。本発明者らは、このとき、曝気装置が生物電気化学システムの液体を間欠的に曝気すれば、好気状態と嫌気状態とが繰り返されて、窒素除去の効率も高まることも見出している。
特開2016−091805号公報
前述のとおり、生物電気化学システムは、発電だけでなく廃水中の有機物を除去して浄化処理を行うことも期待されている。また、廃水の処理には有機物の除去のみならず窒素の除去も求められる。しかしながら、従来の生物電気化学システムは、活性汚泥法などに比べて有機物の除去能力が低い。このため、有機物の分解能力が高い微生物燃料電池の開発が期待されている。
特許文献1に記載のように、生物電気化学システムに曝気装置を組み合わせて、生物電気化学システムの液体を間欠的に曝気すれば、有機物の除去効率を高め、かつ、窒素の除去効率も高めることができる。しかし、廃水中の有機物および窒素をより低い消費電力で除去できる方法の開発に対する要求は常に存在する。また、生物電気化学システムでは、エネルギーの回収効率をより高めることへの要求も、常に存在する。エネルギーの回収効率は、たとえばクーロン効率により評価することができる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、廃水中の有機物および窒素をより低い消費電力で除去でき、かつ、クーロン効率などによって評価されるエネルギーの回収効率も格段に高め得る生物電気化学システムを提供することを目的とする。
本発明は、以下の生物電気化学システムに関する。
[1]容器と、有機物を含有する液体を前記容器に散布する散水装置と、前記容器に収容された、電解質を含有する液体と、前記散水装置から散布された液体に接触する位置に、前記容器に収容された液体と接触して配置された、表面に電子供与微生物を担持したアノードと、前記収容された液体に接触するように、またはカチオン透過性の隔膜を挟んで前記収容された液体と隣接するように配置されたカソードと、を有する、生物電気化学システム。
[2]前記散水装置は、前記アノードと前記カソードとの間を流れる電流に応じて散水およびその停止、または散水量を調整する、[1]に記載の生物電気化学システム。
[3]前記容器に収容された液体は、有機物をさらに含有し、前記散水装置は、前記容器に収容された液体を散布する、[1]または[2]に記載の生物電気化学システム。
[4]前記アノードの形状は、ブラシ状もしくは繊維状またはこれらの組み合わせである、[1]〜[3]のいずれかに記載の生物電気化学システム。
[5]前記生物電気化学システムは、微生物燃料電池である、[1]〜[4]のいずれかに記載の生物電気化学システム。
[6]前記曝気装置は、前記アノードと前記カソードとの間を流れる電流により駆動する、[5]に記載の生物電気化学システム。
[7]前記アノードから前記カソードに電子が流れるように、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加部をさらに有し、前記生物電気化学システムは、微生物電解セルである、[1]〜[4]のいずれかに記載の生物電気化学システム。
[8]前記アノードと前記カソードとの間を流れる電流を測定する電流計をさらに有し、前記生物電気化学システムは、水質センサである、[1]〜[7]のいずれかに記載の生物電気化学システム。
本発明によれば、廃水中の有機物および窒素をより低い消費電力で除去でき、かつ、クーロン効率などによって評価されるエネルギーの回収効率も格段に高め得る生物電気化学システムが提供される。
図1は、本発明の一実施の形態に係る微生物燃料電池の構成を示す模式断面図である。 図2は、本発明の一実施の形態に係る微生物電解セルの構成を示す模式断面図である。 図3は、本発明の一実施の形態に係る別の微生物電解セルの構成を示す模式断面図である。 図4は、実験に用いた微生物電解セルにおける電流の経時的変化を示すグラフである。 図5は、実験に用いた微生物電解セルにおける化学的酸素要求量(COD)の経時的変化を示すグラフである。 図6は、実験に用いた微生物電解セルにおける全窒素(TN)の濃度の経時的変化を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施の形態に係る微生物燃料電池100の構成を示す模式断面図である。
図1に示されるように、微生物燃料電池100は、容器110、散水装置120、液体130、アノード140、膜電極接合体(MEA)150、導線170および電流計175を有する。散水装置120は、揚水管122、ポンプ124、導水管126、散水器128および制御部129を有する。液体130は、電解質を含有する。アノード140は、電子供与微生物142を担持する。膜電極接合体150は、隔膜152、カソード154および浮き156を含む。アノード140とカソード154とは、外部回路を構成する導線170により電気的に接続される。導線170には電流計175が設置される。
容器110は、微生物燃料電池100の本体部を構成し、液体130を収容する。容器110の素材、形状および大きさは、特に限定されず、用途に応じて適宜設定されうる。本実施の形態に係る微生物燃料電池100では、従来の微生物燃料電池とは異なり、常時嫌気条件とするわけではないため、容器110は外部に開口していてもよい。
本実施形態では、容器110は、液体130の撹拌を促進する撹拌器115を有する。なお、散水により液体130が十分に撹拌されるような場合には、撹拌器115は不要である。
散水装置120は、揚水管122、ポンプ124、導水管126、散水器128および制御部129を有し、有機物を含有する液体を容器110(アノード140)に散布する。有機物は、アノード140が担持する電子供与微生物142の燃料となる有機物であり、電子供与微生物142が代謝可能であれば、特に限定されない。燃料となる有機物としては、アルコールや単糖類、多糖類、タンパク質などの有用資源だけでなく、農産業廃棄物や有機廃液、し尿、汚泥、食物残渣などの未利用資源(有機性廃棄物)も使用することができる。有機物を含有する液体は、各種廃水をそのまま使用されてもよいし、電子供与微生物142の維持および増殖のため、また微生物燃料電池100を連続して稼働させるため、必要に応じて燃料となる有機物を追加されてもよい。本実施形態では、容器110に収容された液体130は、燃料となる有機物を含んでおり、散水装置120は、容器110に収容された液体130を散布する。
揚水管122は、容器110に収容された液体130をポンプ124へ導く水路管である。揚水管122の形状および構成は、散布されるべき量の液体130をポンプ124へ導通させることができれば特に限定されない。なお、液体130を撹拌するため、揚水管122は、液体130のうち、より底面側の液体130を汲み上げてポンプ124へ導くことが好ましく、液体130の深さの半分より底面側の深さから液体130を汲み上げてポンプ124へ導くことが好ましい。
ポンプ124は、揚水管122を通じて容器110中の液体130を揚水し、散水器128へ供給する。ポンプ124の種類は、特に限定されず、必要とされる液体130の散布量などに応じて適宜選択されうる。
導水管126は、ポンプ124からの液体130を散水器128へ導く水路管である。導水管126の形状および構成は、散布されるべき量の液体130を散水器128へ導通させることができれば特に限定されない。
散水器128は、容器110の上部に配置され、ポンプ124から供給された液体130を容器110の底面に向けて散布する。散水器128は、たとえば、複数の散水ノズルを有する回転式または固定式の散水装置とすることができる。
制御部129は、ポンプ124から散水器128への液体の供給または停止、およびポンプ124から散水器128への液体の供給量を制御する。制御部129は、ポンプ124を連続的に稼働させてもよいが、発電能力と有機物の分解能力とのバランスを容易に調整する観点からは、ポンプ124を断続的に稼働させてもよい。また、制御部129は、散水器128への液体の供給量が一定となるようにポンプ124を稼働させてもよいが、散水器128への液体の供給量が変動するようにポンプ124を稼働させてもよい。
制御部129は、ポンプ124から散水器128への液体の供給または停止、およびポンプ124から散水器128への液体の供給量を、微生物燃料電池100の発電能力、有機物の分解能力、および液体130に含まれる有機物の濃度などに応じて適宜制御すればよい。有機物が十分に分解されて、液体130が浄化された場合は、微生物燃料電池100の発電により得られる電力は低下する。つまり、液体130中の有機物の濃度は、電流計175が検出する、アノード140とカソード154の間を流れる電流により推定することができる。したがって、制御部129は、アノード140とカソード154の間を流れる電流に応じて、ポンプ124の稼働およびその停止の間隔、ならびにポンプ124から散水器128への液体の供給量を制御してもよい。散水器128からの散水は、液体130中の有機物の分解を利用するために行われるため、液体130中の有機物の濃度が低下した場合は散水する必要はなく、窒素の除去効率を向上させる観点からは嫌気状態にするために散水をしない方が却って好ましいことがある。このような場合、制御部129は、電流の低下を検出したときにポンプ124の稼働を停止させたり、ポンプ124から散水器128への液体の供給量を少なくしたりしてもよい。このようにすることで、ポンプ124を稼働させるための電力消費を抑制することもできる。また、制御部129は、予め設定された好適な条件で散水するようにポンプ124の動作を制御してもよい。
なお、不図示のアンモニア濃度計で測定される、液体130中のアンモニア濃度が高い場合は、散水を促進して硝化反応を促進させてもよい。この場合、硝化反応の後、汚水の原水を電子供与体として容器110内に少量投入して脱窒反応を起こさせることで、窒素除去をすることができる。
液体130は、容器110内に収容された、1種または2種以上の有機物、電解質および電子伝達性介在物質を含有する水溶液である。電解質の種類は、水中で電離可能な物質であれば特に限定されない。電解質の例には、NaHPO/NaHPO、KHPO/KHPO、NaCO/NaHCO、NaCl、KCl、NHClなどが含まれる。また、液体130には、必要に応じて電子メディエータや導電性微粒子などの電子伝達性介在物質をさらに添加してもよい。
本実施形態では、液体130は、燃料となる有機物および電子供与微生物142をさらに含んでいる。本実施形態では、容器110に収容された液体130は、ポンプ124で吸い上げて散水装置120から散布される。このとき、液体130が電子供与微生物142を含んでいると、散布されてアノード140に接触したときに、液体130からアノード140に電子供与微生物142を容易に付着させて担持させることができる。
アノード140は、散水器128と容器110の底面との間に、容器110に収容された液体130に接触するように配置される。これにより、アノード140は、散水器128から散水された液体および容器110に収容された液体130の両方に接触することができる。本実施の形態では、アノード140は、一部が容器110に収容された液体130の外部に露出し、一部が容器110に収容された液体130中に浸漬される。アノード140のうち、外部に露出した部分の長さ(液面からアノード140の頂部までの高さ)および液体130中に浸漬される部分の長さ(液面からアノード140の先端までの深さ)は、特に限定されない。なお、アノード140のうち、外部に露出した部分の長さは、より長いほど好気的な有機物分解が促進されるため好ましい。現実的には、電極の物理的強度およびポンプの容量などから、アノード140のうち、外部に露出した部分の長さは、通常1m以上15m以下程度であり、4m以上8m以下であることが好ましい。また、アノード140のうち、液体130中に浸漬される部分の長さは、より長いほど嫌気的な有機物分解および発電によるエネルギー回収が促進されるため好ましく、アノード140のうち、液体130中に浸漬される部分は、容器110の底面までの長さを有することが好ましい。現実的には、電極の物理的強度およびポンプの容量などから、アノード140のうち、液体130中に浸漬される部分の長さは、通常1m以上10m以下程度であり、3m以上6m以下であることが好ましい。なお、また、液体130を上面から見たときの、液体130の液面の面積に対するアノード140が占める面積の比率も、大きいことが好ましく、液体130の液面のうち、アノード140が占める面積は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
アノード140には、電子供与微生物142が担持される。電子供与微生物142の種類は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。有機性廃水や汚泥などを散水器128から散布する場合は、外部から電子供与微生物を加えなくとも、それらに生息する電子供与微生物をそのまま利用することができる。たとえば、シュードモナスやジオバクターなどは、土壌や淡水、海水などの自然環境の至るところに生息しているため、有機廃水や汚泥などを散水器128から散布すれば、外部から添加することなく利用できる。電子供与微生物142は、微生物燃料電池100の稼働前にあらかじめアノード140に担持させておいてもよいし、微生物燃料電池100を稼働させることによって、容器110に収容された電子供与微生物142を含む液体130がポンプ124によって散水器128に供給され、散水器128から散布されてアノード140に接触することにより、アノード140に付与されてもよい。
なお、アノード140は、電子供与微生物142以外の微生物も保持できるので、廃水浄化作用を増強する微生物担体としても機能できる。
アノード140の素材および形状は、特に限定されず、電子供与微生物142の付着性や電子供与微生物142からの電子伝達度などに応じて適宜選択されうる。アノード140の素材の例には、炭素や金属、金属酸化物などが含まれる。アノード140の形状の例には、クロスなどの平面形状や、ブラシ状や棒状、粒状、繊維状などの立体形状が含まれる。なお、容器110に収容された液体130は、散水されたときに十分な量の有機物をアノード140に供給するため、適度な水流が生じることが望ましい。そのため、アノード140は、適度なしなやかさを有していたり、電極間または電極を構成する繊維などの間に隙間が形成されていたりして、容器110に収容された液体130に生じる水流を過度に阻害しないことが望ましい。表面積を広くして電子供与微生物142をより担持させやすくし、かつ、液体130の適度な水流を阻害しにくくする観点からは、アノード140の形状は、ブラシ状、繊維状、メッシュ状または折り畳んだメッシュ状の形状であることが好ましく、繊維を束ねたりするなど、これらの形状を組み合わせてなることが好ましい。適度なしなやかさを有するため液体130の水流を阻害しにくいようなアノード140の素材の例には、カーボン繊維、カーボンペーパー、グラファイト板、カーボンクロス、カーボンメッシュ、グラファイトフェルト、グラファイト粒子、活性化グラファイト粒子、カーボンフェルト、網状ガラス化カーボン、カーボンブラシなどが含まれる。また、適度な隙間を有するため液体130の水流を阻害しにくいようなアノード140の素材の例には、ステンレス鋼メッシュなどが含まれる。これらは、加熱処理されていてもよい。加熱処理をなされたか否かは、エネルギー分散型X線分光法(EDS/EDX)により、アノード140の表面における各元素の濃度と、アノード140を切断することで露出させた断面において表面から5μm以上離れた部分(内部)における各元素の濃度とを比較することで、確認することができる。
アノード140に電子供与微生物142が担持されて形成されるバイオフィルムは、その表面近傍の好気性細菌により酸素が消費されるため、内部は嫌気状態になっていると考えられる。そのため、バイオフィルムの内部では微生物を触媒とした電極上の反応が進行して、電流が生産されると考えられる(原理がこれに限定されるものではない)。これにより、アノード140のうち、液体130と接触する部位のみならず、液体130の外部に露出した部位においても、嫌気状態となっているバイオフィルムの内部において電流の生産が可能である。
膜電極接合体150は、カチオン透過性を有する隔膜152と、ガス透過性を有するカソード154とを含む。隔膜152およびカソード154は、一体化されて膜電極接合体150を構成する。膜電極接合体150は、隔膜152が液体130に接触し、カソード154が外気に接触するように配置される。本実施形態では、平面視において中央部に貫通孔が形成された略直方体状の浮き156に設けられた貫通孔を塞ぐように浮き156の下側に隔膜152が固定されており、浮き156の貫通孔内において隔膜152上にカソード154が積層される。その結果、膜電極接合体150は、液体130の表面に浮いて配置される。膜電極接合体150は、図1では、液体130の表面(液面)と平行となるように配置されるが、隔膜152の下に気泡が留まることを抑制するために液体130の表面(液面)に対して傾斜するように配置されていてもよい。
隔膜152は、カチオンを選択的に透過させうる膜であり、液体130とカソード154との間に配置される。前述のとおり、本実施形態では、略直方体状の浮き156に形成された貫通孔を塞ぐように浮き156の下側に隔膜152が固定される。隔膜152の種類は、カチオンを選択的に透過させることができれば、特に限定されない。隔膜152の例には、プロトン交換膜が含まれる。プロトン交換膜は、プロトン伝導性のイオン交換高分子電解質からなる膜である。プロトン交換膜の素材の例には、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、および有機/無機複合化合物が含まれる。パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂は、例えば、スルホ基またはカルボキシル基を有するパーフルオロビニルエーテルを基礎とする重合単位と、テトラフルオロエチレンを基礎とする重合単位とを含む共重合体を含む。そのようなフッ素イオン交換樹脂としては、ナフィオン(登録商標)が知られている。有機/無機複合化合物は、炭化水素系高分子(例えばポリビニルアルコール)および無機化合物(例えばタングステン酸)が複合化した化合物からなる物質である。これらの素材からなる膜は、市販されている。
カソード(エアカソード)154は、隔膜152を挟んで液体130と隣接して配置される。前述のとおり、本実施形態では、略直方体状の浮き156に形成された貫通孔内において隔膜152上にカソード154が積層される。カソード154の素材および形状は、ガス透過性および導電性を両立できれば特に限定されない。カソード154の素材の例には、炭素や金属などが含まれる。カソード154の例には、カーボンペーパーやカーボンクロス、カーボンメッシュ、グラファイト粒子、活性化グラファイト粒子、カーボンフェルト、網状ガラス化カーボン、ステンレス鋼メッシュなどが含まれる。これらは、加熱処理されていてもよい。また、これらの表面に、プラチナや活性炭などの酸素還元触媒を担持させてもよい。加熱処理をなされたか否かは、エネルギー分散型X線分光法(EDS/EDX)により、カソード154の表面における各元素の濃度と、カソード154を切断することで露出させた断面において表面から5μm以上離れた部分(内部)における各元素の濃度とを比較することで、確認することができる。
浮き156は、液体130の表面(液面)に浮いて、隔膜152およびカソード154を直接または間接的に支持する。その結果、アノード140は、液体130の中に浮いて配置され、隔膜152およびカソード154は、液体130の表面に浮いて配置される。すなわち、アノード140、隔膜152およびカソード154と、浮き156とは、一つの浮遊体を構成する。浮き156の素材および形状は、アノード140、隔膜152およびカソード154を液体130の中または表面に浮かすことができれば特に限定されない。たとえば、浮き156は、発泡スチロールなどの発泡プラスチックや、樹脂や金属などからなる中空構造体などである。本実施形態では、浮き156は、貫通孔を有する略直方体状の発泡プラスチックである。
電流計175は、導線170に設置されて、アノード140とカソード154の間を流れる電流を測定する。
その他、微生物燃料電池100は、液体130の温度を測る温度計や液体130のpHを測るpHメーター、液体130中の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計(DO計)、液体130中のアンモニウムイオンや硝酸イオンなどの濃度を測るイオンセンサーなどの計器類をさらに有していてもよい。この場合、制御部129は、液体130の温度(電子供与微生物142の活性と相関する)や液体130のpH(液体130中のアンモニア濃度と相関する)、液体130の酸化還元電位(ORP)(液体130が嫌気状態なのか好気状態なのかと相関する)、液体130の溶存酸素濃度(液体130が嫌気状態なのか好気状態なのかと相関する)などの情報に基づいて液体130に含まれる有機物の濃度をより高感度で検出することが可能となり、より適切に散水条件を設定することができるようになる。
(微生物燃料電池の動作)
次に、本実施形態に係る微生物燃料電池100の動作について説明する。
ポンプ124により、容器110に収容された液体130を揚水して散水器128に供給させて、本実施形態に係る微生物燃料電池100を稼働させると、アノード140に担持された電子供与微生物142により形成されたバイオフィルムの内部では、電子供与微生物142が有機物(例えば酢酸)を二酸化炭素に分解する際に、水素イオンと電子が生成される。有機物の分解により生成された水素イオンは、散布された液体130の流れによって容器110に収容された液体130の内部に移動し、隔膜152を透過してカソード154表面に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノード140で回収されて、外部回路を経由してカソード154に移動する。また、カソード154は通気性を有するため、カソード154表面には酸素も存在する。このような状況において、カソード154表面では、水素イオンおよび電子が酸素と反応することで、水が生成される。したがって、容器110内に有機物を供給することで、上記サイクルを維持して、外部回路に電力を連続して供給することができる。
本実施形態に係る微生物燃料電池100は、有機物を含有する液体をアノード140に散布することを主たる特徴とする。本実施形態に係る微生物燃料電池100では、アノード140が、外気に触れる位置で有機物を含有する液体130に接触する。そのため、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、バイオフィルムの内部での嫌気処理による発電および有機物の分解に加えて、バイオフィルムのうち外縁部の外気に触れる領域での好気処理による有機物の分解も行うことができる(図5参照)。
また、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、好気処理も利用するため、嫌気処理のみを利用する従来の微生物燃料電池では不可能であった窒素の除去も可能である(図6参照)。アノード140に電子供与微生物142が担持されて形成されるバイオフィルムは、外表面の近傍が好気状態になっており、内部が嫌気状態になっている。そのため、アノード140では、アンモニアから硝酸または亜硝酸への反応がバイオフィルムの外表面の近傍で進行し、嫌気性細菌である脱窒菌による硝酸または亜硝酸からガス体の窒素への反応がバイオフィルムの内部で進行すると考えられる(原理がこれに限定されるものではない)。
(効果)
以上のように、本実施形態に係る微生物燃料電池100では、散水装置120によって液体を散水することにより、アノード140のうち液体130から露出した部位が好気状態となり、有機物の分解除去およびアンモニアから硝酸または亜硝酸への反応を進行させることができる。一方で、アノード140のうち液体130に接触する部位、アノード140に付着した電子供与微生物142が形成するバイオフィルムの内部、および容器110に収容された液体130の内部では、嫌気状態による、微生物を触媒とした電極上の反応および硝酸または亜硝酸からガス体の窒素への反応も進行させることができる。このようにして、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、間欠的な曝気を行うことなく、電流の生産、有機物の除去、および窒素の除去を同時に、かつ連続的に、行うことができる。そのため、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、電流の生産、有機物の除去、および窒素の除去のすべてを連続的に行うことができ、これらの処理速度を高めることが容易である。
また、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、散水装置120によって液体を揚水および散水しながら稼働するため、液体130が適度に撹拌されて有機物および窒素などの濃度が適度に均一化され、電流の生産、有機物の除去、および窒素の除去の効率をより高めることができる。
また、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、より低電力で行える散水によりアノード140の表面に好気状態を形成できため、標準活性汚泥法による有機物の除去を行う際に問題となる消費電力の増大が、抑制される。また、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、好気処理だけでなく嫌気処理も利用するため、嫌気処理を利用しない標準活性汚泥法よりも余剰汚泥の発生量を低減することもできる。
さらに、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、導線170を流れる電流が液体130中の有機物量に相関した量の電流が導線170を流れるという特徴を有する(図4および図5参照)。そのため、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、導線170を流れる電流を電流計175で測定することにより液体130中の有機物量を推測する、水質センサとしても有用である。
また、本実施形態に係る微生物燃料電池100では、アノード140、隔膜152およびカソード154が容器110の壁面の一部を構成することなく液体130の中または表面に浮いている。このため、液体130の圧力の増大によるアノード140、隔膜152およびカソード154の破壊を考慮することなく、容器110を大きくすること、すなわち微生物燃料電池100をスケールアップすることができる。また、液体130の量に関係なく、アノード140およびカソード154の全面が常に液体130と直接または隔膜152を介して接触することから、液体130の量の変化の影響を受けずに外部回路に電力を安定して出力することができる。
さらに、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、アノード140およびカソード154(膜電極接合体150)を、従来の散水ろ床法に用いる装置に設置するだけでよい。したがって、本実施形態に係る微生物燃料電池100を既存の施設に導入することも容易である。
また、本実施形態では、カソード154を液体130の中または表面に浮かすための浮き156を有する微生物燃料電池100について説明したが、浮き156は必須の構成要件ではない。たとえば、隔膜152またはカソード154を中空構造とするなどしてこれら自身を浮くようにしてもよい。
また、本実施形態では、隔膜152を有する微生物燃料電池100について説明したが、隔膜152は必須の構成要件ではない。すなわち、カソード154は、アノード140と接触してはいけないが、液体130には直接接触していてもよい。しかしながら、電池の実用性を考慮した場合は、隔膜152はあることが好ましい。
また、本実施形態では、容器110に収容されている液体130をポンプ124によって揚水して散水器128から散布する微生物燃料電池100について説明したが、有機物を含有する液体は、容器110に収容されている液体130ではなく、廃水を外部からポンプ124によって散水器128に供給して散布してもよい。このときも、電子供与微生物142は、微生物燃料電池100の稼働前にあらかじめアノード140に担持させておいてもよいし、微生物燃料電池100を稼働させることによって、外部からの廃水がポンプ124によって散水器128に供給され、散水器128から散布されてアノード140に接触することにより、アノード140に付与されてもよい。
[第2の実施形態]
図2は、本発明の一実施の形態に係る微生物電解セル200の構成を示す模式断面図である。微生物電解セル200は、容器210、散水装置220、液体230、アノード(負極、作用極)240、カソード(正極、対極)250、参照電極280、ポテンショスタット292、水素回収部294および水素貯蔵部296、導線270および電流計275を有する。を有する。アノード240、カソード250および参照電極280は、ポテンショスタット292に電気的に接続される。液体230は、有機物および電子供与微生物242を含む。
容器210は、微生物電解セル200の本体部を構成し、液体230を収容する。容器210の素材、形状および大きさは、特に限定されず、用途に応じて適宜設定されうる。
本実施形態でも、容器210は、液体230の撹拌を促進する撹拌器215を有する。なお、散水により液体230が十分に撹拌されるような場合には、撹拌器215は不要である。
散水装置220は、有機物を含有する液体を容器210に散布する。有機物は、アノード240が担持する電子供与微生物242の燃料となる有機物であり、電子供与微生物242が代謝可能であれば、特に限定されない。燃料となる有機物としては、アルコールや単糖類、多糖類、タンパク質などの有用資源だけでなく、農産業廃棄物や有機廃液、し尿、汚泥、食物残渣などの未利用資源(有機性廃棄物)も使用することができる。有機物を含有する液体は、各種廃水をそのまま使用されてもよいし、電子供与微生物242の維持および増殖のため、また微生物電解セル200を連続して稼働させるため、必要に応じて燃料となる有機物を追加されてもよい。散水装置220は、第1の実施形態に係る微生物燃料電池100の散水装置220と同様の、揚水管222、ポンプ224、導水管226、散水器228および制御部229を有する構成であり、動作を同様に制御される。
液体230は、容器210内に収容されており、エネルギー源となる有機物および電子供与微生物242を含む。液体230は、第1の実施形態に係る微生物燃料電池100の液体130と同様のものである。
アノード240は、散水器228と容器210の底面との間に、容器210に収容された液体230に接触するように配置される。これにより、アノード240は、散水器228から散水された液体230に接触することができる。本実施の形態では、アノード240は、一部が容器210に収容された液体230の外部に露出し、一部が容器210に収容された液体230中に浸漬される。アノード230の形状、配置位置および素材については、第1の実施形態と同様とし得るので、詳しい説明は省略する。
カソード250は、液体230に接触するように配置される。本実施の形態では、カソード250は、液体230中に浸漬される。カソード250の素材は、導電性を有し、かつ化学的に安定であれば特に限定されない。また、カソード250の形状は、特に限定されず、水素ガスの回収の容易性などに応じて適宜選択されうる。カソード250の素材の例には、炭素や金属、金属酸化物などが含まれる。カソード250の例には、カーボンクロスやカーボンフェルト、ステンレス鋼メッシュ、プラチナメッシュなどが含まれる。これらは、加熱処理されていてもよい。また、これらの表面に、プラチナや活性炭などの酸素還元触媒を担持させてもよい。加熱処理をなされたか否かは、エネルギー分散型X線分光法(EDS/EDX)により、カソード250の表面における各元素の濃度と、カソード250を切断することで露出させた断面において表面から5μm以上離れた部分(内部)における各元素の濃度とを比較することで、確認することができる。
参照電極280は、液体230に接触するように配置される。本実施の形態では、参照電極280は、液体230中に浸漬される。参照電極280の種類は、特に限定されず、適宜選択されうる。参照電極280の例には、銀−塩化銀電極や標準水素電極、カロメル電極などが含まれる。
ポテンショスタット292は、アノード240、カソード250および参照電極280に電気的に接続されており、アノード(作用極)230の電極電位を−0.4V(vs.Ag/AgCl)(Ag/AgCl:銀−塩化銀電極)以上、好ましくは−0.2〜2.0V(vs.Ag/AgCl)になるように制御する。電極電位を制御する基準として参照電極280を用い、カソード(対極)250に電子を流すことでアノード(作用極)230の電極電位を一定に保つ。この結果、ポテンショスタット292は、アノード(作用極)230とカソード(対極)250との間に電圧を印加することとなり、有機物の分解で生じる電子は、アノード(作用極)230からポテンショスタット292を介して最終的にカソード250に流れ、カソード250の表面で水素ガスが発生する。このように、アノード(作用極)240の電極電位は、カソード250の電極電位よりも常に所定の電位差で低い。
水素回収部294は、カソード250の表面で発生した水素ガスを回収する。水素回収部294の構成は、上記目的を達成することができれば特に限定されない。本実施の形態では、水素回収部294は、液体230中においてカソード250の上部に配置された、漏斗形状の部材である。水素回収部294は、水素貯蔵部296に回収した水素ガスを送り込む。なお、微生物電解セル200を水質センサや排水中の有機物および窒素の除去などの目的に用いるが、エネルギーの回収を主な目的とはしないような場合には、微生物電解セル200は水素回収部294を有さなくてもよい。
水素貯蔵部296は、水素回収部294が回収した水素ガスを貯蔵する。水素貯蔵部296の構成は、上記目的を達成することができれば特に限定されない。水素貯蔵部296の例には、ガスホルダーなどが含まれる。
電流計275は、導線270に設置されて、アノード240とカソード250の間を流れる電流を測定する。
(微生物電解セルの動作)
次に、本実施の形態に係る微生物電解セル200の動作について説明する。
ポンプ224により、容器210に収容された液体230を揚水して散水器228に供給させて、かつ、ポテンショスタット292により、アノード(作用極)240の電極電位が常に所定の値(例えば−0.2V(vs.Ag/AgCl))となるように、参照電極280を基準として用いてアノード240とカソード250との間に電圧を印加して、微生物電解セル200を稼働させると、アノード240に担持された電子供与微生物242により有機物(例えば酢酸)が二酸化炭素に分解される際に、水素イオンと電子が生成される。有機物の分解により生成された水素イオンは、散布された液体230の流れによって容器210に収容された液体230の内部に移動し、カソード250表面に移動する。一方、有機物の分解により生成された電子は、アノード240で回収されて、外部回路を経由してカソード250に移動する。このような状況において、カソード250表面では、水素イオンおよび電子が反応することで、水素ガスが生成される。したがって、容器210内に有機物を供給することで、上記サイクルを維持して、水素ガスを連続して生成することができる。
(効果)
以上のように、本実施の形態に係る微生物電解セル200は、散水装置220によって液体を散水することにより、アノード240のうち液体230から露出した部位を好気状態となり、有機物の分解除去およびアンモニアから硝酸または亜硝酸への反応を進行させることができる。一方で、アノード240のうち液体230に接触する部位、アノード240に付着した電子供与微生物222が形成するバイオフィルムの内部、および容器210に収容された液体230の内部では、嫌気状態による、微生物を触媒とした電極上の反応および硝酸または亜硝酸からガス体の窒素への反応も進行させることができる。このようにして、本実施形態に係る微生物電解セル200は、間欠的な曝気を行うことなく、電流の生産、有機物の除去、および窒素の除去を同時に、かつ連続的に、行うことができる。そのため、本実施形態に係る微生物電解セル200は、電流の生産、有機物の除去、および窒素の除去のすべてを連続的に行うことができ、これらの処理速度を高めることが容易である。
また、本実施形態に係る微生物電解セル200も、第1の実施形態に係る微生物燃料電池100と同様に、液体230が適度に撹拌されて有機物および窒素などの濃度が適度に均一化されることによる、電流の生産、有機物の除去、および窒素の除去の効率の向上、散水により低電力で好気状態を形成できることによる消費電力の増大の抑制、嫌気処理を利用することによる余剰汚泥の発生量の低減、導線270を流れる電流を電流計275で測定することにより液体230中の有機物量を推測する水質センサとしての利用、などの特性を有する。
また、本実施形態に係る微生物電解セル200も、アノード240、カソード250、参照電極280、ポテンショスタット292、水素回収部294および水素貯蔵部296を、従来の散水ろ床法に用いる装置に設置するだけでよい。したがって、本実施形態に係る微生物電解セル200を既存の施設に導入することも容易である。
なお、本実施の形態では、アノード240とカソード250との間に電圧を印加する電圧印加部としてポテンショスタット292を有する微生物電解セル200について説明したが、電圧印加部としてポテンショスタット292の代わりに電源298を配置してもよい(図3参照)。この場合は、電源298は、アノード240およびカソード250に電気的に接続され、アノード240からカソード250に電子が流れるように、アノード240とカソード250との間に電圧を印加する。参照電極280は、不要である。
電源298は、アノード240およびカソード250に電気的に接続されており、アノード240の電位がカソード250の電位よりも低くなるように、アノード240とカソード250との間に電圧を印加する。有機物として酢酸を含むpH7、25℃の液体230を使用した場合、アノード240の電極電位は、−0.300V(vs.NHE)(NHE:normal hydrogen electrode、標準水素電極)であり、水素イオンに電子を渡すカソード250の電極電位は、−0.414V(vs.NHE)である。したがって、理論上は、0.114V以上の電圧をアノード240とカソード250との間に印加することで、電子をアノード240から外部回路を介して最終的にカソード250に伝達させ、カソード250の表面で水素を発生させることとなる。実際には、過電圧や反応速度などを考慮して、0.13V以上の電圧をアノード240とカソード250との間に印加することが好ましく、0.4〜5.0Vの電圧をアノード240とカソード250との間に印加することがより好ましい。水素の生産を重視して運転する場合は、投入エネルギーの少ない0.4〜0.8V程度の小さな電圧を印加することが好ましい。水素の生産よりも有機物の分解や有機物の濃度の検出を重視して運転する場合は、1.0V以上の電圧を印加することが好ましい。
電圧印加部として電源298を有する微生物電界セルにおけるその他の構成は、電圧印加部としてポテンショスタット292を有する微生物電界セルと同様とし得る。
以下、実施例を参照して本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
1.微生物電解セルの作製
以下の表に示される組成の培地と、電子供与微生物の供給源としての活性汚泥とを5:1の割合で混合して、人工廃水を調整した。この人工廃水には、他の微生物燃料電池の負極上で培養されたバイオフィルムを混合して種菌として接種した。得られた人工廃水2.0Lを、容量3.0Lの容器に導入した。
Figure 2019110101
容器内の人工廃水中に、アノード(作用極、負極)としての長さ40cmの炭素繊維を束ねてなる電極、カソード(対極、正極)としてのプラチナ電極、参照電極としての銀−塩化銀電極を浸漬させた。なお、これらの電極はポテンショスタットに接続されている。アノードは、20cmが液面から持ち上がるよう配置し、残りの20cmは人工廃水の表面に浮遊させた。アノードの直上には散水器を設置した。容器内の人口廃水をポンプで揚水して散水器に供給し、容器の底面に向けて散布して、散布された人口廃水をアノードに接触させるようにした。カソードの直上には、カソードで発生した水素を集めて貯蔵するガスホルダーを設置した。
2.微生物電解セルの評価
室温で、ポンプを稼働させて130mL/minの人口廃水を散水器から散布させながら、アノードの電極電位が銀−塩化銀電極(参照電極)の電位に対して−0.2Vとなるようにアノードおよびカソードに電圧を印加して、作製した微生物電解セルを稼働させた。15分ごとに電力を測定した。また、稼働開始直後、ならびに稼働開始から38時間後および164時間後に、人工廃水の全窒素(TN)の濃度を測定した。また、また、稼働開始直後、ならびに稼働開始から12時間後、24時間後、38時間後、70時間後および158時間後に、人工廃水の化学的酸素要求量(COD)を測定した。CODは、それぞれの時間について3回測定し、その平均値を各時間におけるCODとして用いた。また、稼働開始時のCODと24時間経過時のCODとの差(消費COD)を消費するために必要なクーロン量に対する、稼働開始から24時間後までに導線を流れた総電流量(クーロン量)の割合を算出して、稼働開始から24時間で人工廃水から除去された有機物に対する電子供与微生物の活動により除去された有機物の割合(クーロン効率)を算出した。
図4は、本実験に用いた微生物電解セルにおける電流の経時的変化を示すグラフである。このグラフから、本実験に用いた微生物電解セルでは、試験開始直後から電流が生産され、19時間後に最大電流である45mAが得られ、その後は低下して30時間後には約0mAになったことがわかる。
図5は、本実験に用いた微生物電解セルにおけるCODの経時的変化を示すグラフである。このグラフから、本実験に用いた微生物電解セルでは、CODが試験開始直後の約740mg/Lから24時間後には約150mg/Lに低下したことがわかり、微生物電解セルの稼働によりCODが1日あたり約620mg/L低下したことがわかる。通常、廃水処理では、CODを1日あたり500mg/L以上低下させることが要求される。そのため、このグラフから、本実験に用いた微生物電解セルでは、廃水処理に好適に使用可能であることがわかる。
また、図4と図5との比較から、CODが約200mg/L以下に低下すると電流も低下していることがわかり、この微生物電界セルは、電流を測定することでCODのリアルタイムセンサーとして機能できることもわかる。
図6は、本実験に用いた微生物電解セルにおけるTNの濃度の経時的変化を示すグラフである。このグラフから、本実験に用いた微生物電解セルでは、TNの濃度が試験開始直後の101mg/Lから38時間後には53mg/Lに低下し、164時間後には30mg/Lにまで低下したことがわかり、微生物電解セルの稼働により人工廃水中の窒素を除去できたことがわかる。
図4に示されるグラフおよび図5に示されるグラフの作成に用いたデータから計算した、24時間の稼働時のクーロン効率は、約12.0%だった。電子供与微生物による作用を伴わない通常の散水ろ床法では、この約13.9%分の有機物除去がなされず、本実験における有機物除去に対して88.0%(100%−12.0%)の割合でしか、有機物が除去されないと考えられる。そのため、本実験に用いた微生物電解セルにおける有機物の除去効率は、通常の散水ろ床法よりも約14%(100/88.0)向上していると考えられる。なお、特許文献1に記載の微生物電解セルにおけるクーロン効率は約0.1%であるので、本実験に用いた微生物電解セルにおけるクーロン効率顕著に高いこともわかる。
また、24時間の稼働により、約2.7Lの水素ガスが回収された。このことから、本実験に用いた微生物電解セルは、発生したエネルギーを水素として回収できることがわかる。
本発明に係る微生物燃料電池は、発電能力を維持しつつ有機物の分解能力が高いため、例えば畜舎における廃水処理や都市部における下水の浄化処理などにおいて有用である。
100 微生物燃料電池
110、210 容器
115、215 撹拌器
120、220 散水装置
122、222 揚水管
124、224 ポンプ
126、226 導水管
128、228 散水器
129、229 制御部
130、230 液体
140、240 アノード
142、242 電子供与微生物
150 膜電極接合体(MEA)
152 隔膜
154、250 カソード
156 浮き
170、270 導線
175、275 電流計
200 微生物電解セル
280 参照電極
292 ポテンショスタット
294 水素回収部
296 水素貯蔵部
298 電源

Claims (8)

  1. 容器と、
    有機物を含有する液体を前記容器に散布する散水装置と、
    前記容器に収容された、電解質を含有する液体と、
    前記散水装置から散布された液体に接触する位置に、前記容器に収容された液体と接触して配置された、表面に電子供与微生物を担持したアノードと、
    前記収容された液体に接触するように、またはカチオン透過性の隔膜を挟んで前記収容された液体と隣接するように配置されたカソードと、
    を有する、
    生物電気化学システム。
  2. 前記散水装置は、前記アノードと前記カソードとの間を流れる電流に応じて散水およびその停止、または散水量を調整する、請求項1に記載の生物電気化学システム。
  3. 前記容器に収容された液体は、有機物をさらに含有し、
    前記散水装置は、前記容器に収容された液体を散布する、請求項1または2に記載の生物電気化学システム。
  4. 前記アノードの形状は、ブラシ状、繊維状、メッシュ状もしくは折り畳んだメッシュ状、またはこれらの形状の組み合わせである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の生物電気化学システム。
  5. 前記生物電気化学システムは、微生物燃料電池である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の生物電気化学システム。
  6. 前記散水装置は、前記アノードと前記カソードとの間を流れる電流により駆動する、請求項5に記載の生物電気化学システム。
  7. 前記アノードから前記カソードに電子が流れるように、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電圧印加部をさらに有し、
    前記生物電気化学システムは、微生物電解セルである、
    請求項1〜4のいずれか1項に記載の生物電気化学システム。
  8. 前記アノードと前記カソードとの間を流れる電流を測定する電流計をさらに有し、
    前記生物電気化学システムは、水質センサである、
    請求項1〜7のいずれか1項に記載の生物電気化学システム。
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