以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る加工方法により加工されたねじ穴を有するワークの一例であるシリンダヘッド2を備えるエンジン1において、燃焼室5周辺を示す。
エンジン1は、4つの気筒3aを有する多気筒エンジンであって、シリンダブロック3と、該シリンダブロック3の上に載置されるシリンダヘッド2とを備えている。シリンダブロック3には、4つの気筒3aが紙面に垂直な方向に並んで配置されている。
各気筒3a内には、ピストン4が気筒3a内を往復可能に嵌挿されている。ピストン4の頂面4aと、気筒3aの側面と、シリンダヘッド2の底面2aとで、燃焼室5が気筒3a毎に区画形成されている。
シリンダヘッド2には、気筒3a毎に、2つの吸気ポート6と2つの排気ポート7とが形成されている。各吸気ポート6及び各排気ポート7は燃焼室5にそれぞれ連通している。図示は省略するが、各吸気ポート6には、燃焼室5と吸気ポート6との連通を遮断可能な吸気バルブが設けられている一方、各排気ポート7には、燃焼室5と排気ポート7との連通を遮断可能な排気バルブが設けられている。
シリンダヘッド2には、気筒3a毎に、インジェクタ8が取り付けられている。インジェクタ8は、図1に示すように、気筒3aの軸心上に位置するようにシリンダヘッド2に取り付けられている。インジェクタ8は、燃焼室5内に燃料(ガソリン、又は、ガソリンを含む燃料)を直接噴射するように構成されている。
また、シリンダヘッド2には、気筒3a毎に、点火プラグ9が設けられている。上記エンジン1では、1つの気筒3aにつき1つの点火プラグ9が設けられる。点火プラグ9は、図1に示すように、2つの吸気ポート6の間に位置している。また、点火プラグ9は、上側から下側に向かって、気筒3aの軸心に近づくように傾斜してシリンダヘッド2に取り付けられている。
点火プラグ9は、ロッド状のプラグ本体91と、プラグ本体91の先端に設けられた中央電極93と、プラグ本体91の先端であって中央電極93の側方から延びかつ一部が中央電極93と向かい合うように延びたL字状の接地電極94とを有している。上記エンジン1では、点火プラグ9は、L字状の接地電極94の向き(接地電極94における中心電極91と向かい合う部分が延びる向き)が、気筒3aの径方向の内側から該径方向の外側に向かうような向きとなるように、シリンダヘッド2に取り付けられている。
点火プラグ9は、シリンダヘッド2に形成されたねじ穴2bに、プラグ本体91の先端寄りの部分に形成されたねじ部92がねじ込まれることでシリンダヘッド2に取り付けられる。このねじ部92は、該ねじ部92の周方向において、ねじ山開始位置とねじ山終了位置は同じ角度位置に位置するように構成されている。また、点火プラグ9は、気筒3a毎に取り付けられるが、各点火プラグ9でねじ部92のねじ山開始位置が略同じ角度位置になるように、各点火プラグ9のねじ部92が形成されている。また、各点火プラグ9のねじ部92のねじ山開始位置は、ねじ部92の周方向における、プラグ本体91と接地電極94との結合部と略同じ角度位置に位置している。
本実施形態では、シリンダヘッド2に点火プラグ9を取り付けるためのねじ穴2bを形成するものとし、以下の説明では、このシリンダヘッド2を、単にワークWということがある。
本実施形態では、点火プラグ9が取り付けられるねじ穴2bは、図2に示す工作機械10によるねじ加工によって形成される。この工作機械10は、不図示の制御装置によって自動加工制御(NC制御)されるマシニングセンタであって、ワークWに対応して予め作成された加工プログラムデータに従って種々の加工を実行するように構成されている。
工作機械10は、図2に示すように、X、Y、Z軸からなるXYZ座標系を機械座標として有するものである。X軸及びZ軸は水平方向であって、Y軸方向は鉛直方向である。
工作機械10は、軸心(Z軸)周りに回転する主軸11と、該主軸11の先端にホルダ160を介して取り付けられる、例えばドリル、タップなどの工具12と、主軸11ごと工具12をX軸方向及びY軸方向に移動させるコラム16とを備えている。また、工作機械10は、ワークWを位置決めするための治具18を載せるための加工テーブル20と、加工テーブル20をY軸方向に延びる回転軸周りに回転させる回転機構22と、回転機構22をZ軸方向に移動させる送り機構24とを備えている。つまり、上記工作機械10は、送り機構24によって、ワークWをZ軸方向に移動させることで、ワークWと工具12との間の相対距離を調整するように構成されている。
さらに、図示は省略するが、工作機械10は、自動工具交換装置(以下、ATCという)を備えている。このATCは、主軸11に取り付けられる工具12を自動で交換するためのものであって、上記加工プログラムデータに従って、主軸11に取り付けられている工具12と、例えばツールマガジンに待機する種々の加工ツールの1つとを交換するように構成されている。尚、ツールマガジンには、後述するタッチセンサ122等の測定器もセットされており、上記ATCは、上記加工プログラムデータに従って、主軸11にタッチセンサ122等を装着させることがある。
工具12は、主軸11の工具装着部13にホルダを介して装着される。工具12が主軸11に装着された状態を示す一例として、図3には、工具12としてのタップ50(図10等参照)が、ホルダであるタッピングホルダ60を介して主軸11に装着された状態を示している。以下に、タッピングホルダ60の構成及びタッピングホルダ60の主軸11への取り付けについて説明するが、他の工具のホルダも、基本的にはタッピングホルダ60と同様の構成であり、タッピングホルダ60の主軸11への取り付けと同じようにして主軸11に取り付けられる。
タッピングホルダ60は、円柱状の基部61と、該基部61の反タップ50側に設けられ、基部61より小径の円筒状をなすシャンク部62とを有している。基部61とシャンク部62とは同軸に配置されている。図3に示すように、基部61の反タップ50側の面は、タッピングホルダ60が主軸11に取り付けられたときに該主軸11の先端面11aと当接する当接面61aである。シャンク部62には、図3に示すように、軸心方向の反タップ50側からタップ50側に向かって凹んだ凹部62aと、後述する工具保持用ボール13bが嵌まり込む、傾斜面を有する貫通孔62bとが形成されている。凹部62aには、後述するドライブキー13cが嵌合するようになっている。また、詳しくは後述するが、タッピングホルダ60には、該タッピングホルダ60が主軸11の工具装着部13に取り付けられた時点で、主軸11の周方向の基準角度位置に対応するような角度位置に設けられたホルダ側目印部63(図10参照)が設けられている。
主軸11の工具装着部13は、図3に示すように、主軸11の軸心ロッド14の周囲に設けられている。工具装着部13は、タッピングホルダ60のシャンク部62が嵌合する嵌合孔13aが形成されている。また、図4に示すように、軸心ロッド14から径方向の外側に向かって延びる2つのドライブキー13cを有している。2つのドライブキー13cは、主軸11の軸心周りに対称になるようにそれぞれ配置されている。
図3に示すように、軸心ロッド14における工具装着部13が設けられた部分には、円形の陥没穴14aとカム面14bとが連続して形成されている。また、工具装着部13における上記陥没穴14a及びカム面14bに対応する部分には、工具保持ボール13bを支持して挿通させる貫通孔13dが形成されている。
タッピングホルダ60を主軸11の工具装着部13に取り付けるには、先ず、凹部62aにドライブキー13cを嵌合させるように、シャンク部62を嵌合孔13aに挿入する。その後、軸心ロッド14を後退させれば、工具保持用ボール13bがカム面14bに乗り上げて、陥没孔14aから主軸11の径方向の外側に突出して、突出した工具保持用ボール13bが、図3に示すように、シャンク部62の貫通孔62bに嵌まり込む。これにより、タッピングホルダ60が嵌合孔13aに引き込まれて、図3に示すように、タッピングホルダ60の当接面61aと主軸11の先端面11aとが当接する。以上により、タップ50が主軸11に装着される。
次に、上記工作機械10によって、ワークWにねじ穴を形成する工程について説明する。ここでは、ワークWはシリンダヘッド2であり、形成されるねじ穴は、シリンダヘッド2に点火プラグ9を取り付けるためのねじ穴2bである。
先ず、図5に示すように、比較的径の大きい第1ドリル121によって、ワークWに点火プラグ9を取り付けるための座面を形成する。ねじ穴は、この座面2cから形成される。つまり、座面2cがワークWの加工面100に相当することになる。
次に、上記ATCによって第1ドリル121をタッチセンサ122と交換して、図6に示すように、ワークWをタッチセンサ122の先端と上記座面とが接触するまでZ軸方向に移動させる。上記制御装置は、タッチセンサ122の先端と座面2cとが接触したときの該座面のZ座標を測定する。
次いで、上記ATCによってタッチセンサ122を、第1ドリル121よりも径の小さい第2ドリル123と交換して、図7に示すように、ねじ穴を形成するための下穴を穿設する。ここでは、下穴は、ワークW(シリンダヘッド2)の底面を貫通するまで穿設される。
下穴を形成した後、上記ATCによって第2ドリル123を、ワークWに雌ねじを切るための工具であるタップ50と交換して、図8に示すように、下穴の周面に対してねじ切りを行う。このとき、工作機械10の上記制御装置は、送り機構24を、タップ50のねじ部51が1回転する間に、ワークWがタップ50のねじ部51の1ピッチ分だけ移動するように作動させる。尚、詳しくは後述するが、加工開始時には、タッチセンサ122で測定した座面のZ座標に基づいて、タップ50の先端50aと座面2c(ワークWの加工面100)とが所定距離だけ離されるように位置合わせがされており、タップ50は、座面2cから離れた状態から上記の割合で近づくように制御される。
以上によって、ワークWとしてのシリンダヘッド2に、点火プラグ9を取り付けるためのねじ穴2bが形成される。
ここで、例えば、上記エンジン1のような多気筒エンジンでは、気筒3a間で燃焼バラツキが生じないようにしたいという要求がある。気筒3a間で燃焼バラツキが生じてしまう原因の1つとして、気筒3a間での点火プラグ9の向きにバラツキがあるということがある。すなわち、点火プラグ9の火花放電によって燃焼を発生させるには、中心電極93と接地電極94との間に燃料と吸気との混合気が流れ込んだ状態で、火花放電を発生させる必要がある。燃焼室5内の上記混合気には、タンブル流やスワール流などの流れがあるため、点火プラグ9の向きによっては、中心電極93と接地電極94との間に混合気が流れ込みにくくなって、燃焼が発生しにくくなる。このため、気筒3a間での点火プラグ9の向きにバラツキがあると、燃焼バラツキが発生することがある。
上記のような観点から、上記エンジン1のような多気筒エンジンでは、全ての点火プラグ9の向きが所望の向きに揃っていることが望まれる。このためには、各点火プラグ9においてねじ部92のねじ山開始位置を略同じにするとともに、シリンダヘッド2の各ねじ穴2bのねじ山開始位置の角度位置を所望の角度位置にする必要がある。上述したように、本実施形態では、各点火プラグ9でねじ部92のねじ山開始位置になるように、各点火プラグ9のねじ部92が形成されているため、各点火プラグ9における各ねじ部92のねじ山の角度位置は略同じになっている。よって、シリンダヘッド2のねじ穴2bのねじ山開始位置の角度位置を所望の角度位置する必要がある。
タップ50によるねじ加工で形成されるねじ穴のねじ山開始位置の角度位置を所望の角度位置にするには、工作機械10の主軸11の位相と、タップ50を主軸11に装着するために該主軸11に取り付けられるタッピングホルダ60の位相と、該タッピングホルダ60に固定されたタップ50のねじ部51の位相(つまり、ねじ部51のねじ山開始位置の角度位置)とを考慮する必要がある。尚、主軸11の位相は、図4に示すように、工具装着部13の2つのドライブキー13cの位置が90°及び270°に設定され、位相90°の位置から軸心周りに右回りに90°戻った位置が位相0°に設定され、位相90°の位置から軸心周りに左回りに90°進んだ位置が180°に設定されている。また、工作機械10は、工具交換時には、位相0°の位置が上側になるように上記制御装置によって制御されており、この位相0°の角度位置が主軸11の周方向の基準角度位置に設定されている。
本実施形態では、主軸11の位相とタッピングホルダ60の位相とは、主軸11の工具装着部13の構成と、タッピングホルダ60の形状とを工夫することによって揃えるようにしている。
上述したように、主軸11の工具装着部13には2つのドライブキー13cが形成されており、タッピングホルダ60には、上記ドライブキー13cと嵌合する凹部62aが形成されている。つまり、タッピングホルダ60の凹部62aがドライブキー13cとそれぞれ嵌合するように、工具装着部13の嵌合孔13aに挿入された時点で、主軸11の位相とタッピングホルダ60の位相とは、揃っているか又は180°ずれるようになる。
主軸11の位相とタッピングホルダ60の位相とが180°ずれないようにするために、本実施形態では、タッピングホルダ60の基部61には、タッピングホルダ60の位相0°の位置にホルダ側目印部63が設けられている。このホルダ側目印部63は、基部61の周方向の一部を切り欠いて形成されている。上述したように、工具交換時には、位相は0°の位置が上側になるように設定されているため、上記ホルダ側目印部63が上側になるように、タッピングホルダ60を主軸11の工具装着部13に取り付ければ、主軸11の位相とタッピングホルダ60との位相が揃うようになる。このことから、ホルダ側目印部63は、タッピングホルダ60が主軸11に取り付けられたときに、主軸11の周方向の基準角度位置(位相0°の位置)に対応するような位置に設けられていることになる。
上述のようにして、主軸11の位相とタッピングホルダ60の位相とは揃えることができるが、タップ50はタッピングホルダ60に固定されているため、タップ50のねじ部51の位相とタッピングホルダ60の位相とにズレがあったとしても、タップ50自身を軸心周りに回動させて、タップ50のねじ部51の位相を、主軸11及びタッピングホルダ60の位相と揃えることは困難である。そこで、本実施形態では、加工開始時におけるタップ50の先端50aとワークWの加工面100と間の距離である加工開始距離Lを、タップ50のねじ部51(本実施形態では、特にタップ50の先端50a)とワークWの加工面100とが当接したとき、つまり、タップ50が実際にワークWを加工し始めるときの、タップ50のねじ部51のねじ山開始位置SP(図12等参照、以下、タップねじ山開始位置SPという)が所望の角度位置となるような距離とすべく、加工開始時におけるタップ50とワークWとの相対位置、より具体的には、加工開始時におけるタップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対位置を適切に設定するようにしている。以下、その詳細を説明する。
本実施形態では、加工開始時におけるタップ50とワークWとの相対位置の設定は、タッピングホルダ60を主軸11に取り付ける前に、セッティングゲージ70を用いて行う。このセッティングゲージ70は、図9に示すように、相対的に外径の大きい円筒部71と、該円筒部71の外径よりも径が小さくかつ該円筒部71と同軸に配置された円柱部72とを有している。
円筒部71には、図9に示すように、径方向の中央にねじ穴73が筒軸方向に貫通するように形成されている。このねじ穴73の筒軸方向の一側の開口は、円柱部72の軸方向の他側の面によって閉じられている。これにより、セッティングゲージ70全体では、ねじ穴73は有底のねじ穴となっている。
また、セッティングゲージ70のねじ穴73は、タップ50のねじ部51の径に対応する径で形成されている。
セッティングゲージ70の円筒部71には、ねじ穴73の完全ねじ山の開始位置に対応する角度位置にゲージ側目印部74が設けられている。ゲージ側目印部74は、図9に示すように、円筒部71の外周部を周方向に切り欠いて構成されている。
次に、上記セッティングゲージ70を用いて、加工開始時におけるタップ50とワークWとの相対位置を設定する方法について説明する。
先ず、図10に示すように、タッピングホルダ60を所定のセット台Tにセットした後、セッティングゲージ70のねじ穴73に、タップ50のねじ部51を、該タップ50の先端50aがセッティングゲージ70のねじ穴73の底面73a(円柱部72の軸方向の他側の面)に当接するまでねじ込む(タップねじ込み工程)。このとき、図10に示すように、タップ50の軸心方向から見て、ゲージ側目印部74の角度位置とホルダ側目印部63の角度位置とは異なる角度位置に位置する。
上記のように、セッティングゲージ70のゲージ側目印部74は、セッティングゲージ70の完全ねじ山の開始位置に対応する角度位置に形成されているため、タップ50をセッティングゲージ70のねじ穴73にねじ込んで、タップ50の先端50aが該ねじ穴73の底面73aに当接したときには、ゲージ側目印部74は、タップねじ山開始位置SPに対応する角度位置に位置する。よって、タップ50の先端50aがセッティングイングゲージ70のねじ穴73の底面73aに当接した状態では、タップ50の軸心周りにおける、ゲージ側目印部74の角度位置とホルダ側目印部63の角度位置との間の位置ズレは、ホルダ側目印部63の角度位置とタップねじ山開始位置SP(図12等参照)の角度位置との位置ズレに相当することになる。
次に、図11に示すように、ゲージ側目印部74の角度位置とホルダ側目印部63の角度位置とが一致するまで、セッティングゲージ70を緩める(角度調整工程)。この工程は、投影機によって、セッティングゲージ70の影を、タップ50の軸心方向のホルダ側に向かって投影して、セッティングゲージ70のゲージ側目印部74の影とタッピングホルダ60のホルダ側目印部63との角度位置を一致させるようにして行う。
ゲージ側目印部74の角度位置とホルダ側目印部63の角度位置とが一致するまで、セッティングゲージ70を緩めると、タッピングホルダ60のホルダ側目印部63の角度位置とタップねじ山開始位置SP(図12等参照)の角度位置との位置ズレに相当する分だけの長さ(以下、オフセット長OLという)の隙間が、タップ50の先端50aとセッティングイングゲージ70のねじ穴73の底面73aとの間に生じる。尚、図11では、オフセット長OLを見やすくするために比較的大きな長さとして示しているが、実際には、オフセット長OLはタップ50のねじ部51の1ピッチ分よりも短い長さである。
次いで、セッティングゲージ70のねじ穴73の底面73aとタッピングホルダ60の当接面61aとの間の距離を仮想工具長H’として設定する(仮想工具長設定工程)。この仮想工具長H’は、実際の工具長H(タップ50の先端50aとタッピングホルダ60の当接面61aとの間の距離)に、上記オフセット長OLを加えたものになる。
その後、仮想工具長H’に基づいて、加工開始時におけるタップ50とワークWとの相対位置を設定する。具体的には、ねじ穴に装着される部品(点火プラグ9等)の向きを所望の向きにするための、タップ50によるねじ加工では、主軸11の先端面11aを基準に、該先端面11aから主軸11の軸心方向(工作機械10のZ軸方向と一致する。以下、単にZ軸方向という)のワークW側に、実際の工具長H分だけ離れたタップ50を、工作機械10のXYZ座標系における、タップ50を主軸11に装着したときのタップ50の先端50aのZ座標として、該先端50aのZ座標から、タップ50のねじ部51のピッチの整数倍の距離(以下、基準距離BLという)だけZ軸方向に離れた位置を、ワークWの加工面100のZ座標に設定する。つまり、加工開始時におけるタップ50の先端50aとワークWの加工面100との間の距離(以下、加工開始距離Lという)が、基準距離BLとなるように、タップ50とワークWとの相対位置が設定される。これに対して、本実施形態では、実際の工具長Hの代わりに仮想工具長H’を用いる。つまり、図12に示すように、主軸11の先端面11aから該主軸11の軸心方向のワークW側に、仮想工具長H’分だけ離れた位置、すなわち、実際のタップ50の先端50aから上記オフセット長OLだけワークW側の位置を、タップ50を主軸11に装着したときのタップ50の仮想先端位置として、該仮想先端位置のZ座標から、上記基準距離BLだけ離れた位置のZ座標を、ワークWの加工面100のZ座標に設定する。
そして、上記のように、加工開始時におけるタップ50とワークWとの相対位置を設定した後、図12に示すように、タッピングホルダ60が主軸11に取り付けられた状態で、タップ50とワークWとの相対位置が、上記設定された相対位置になるように、ワークWとタップ50との位置合わせを行う。これにより、加工開始距離Lを、タップ50のねじ部51のピッチの整数倍の距離に、オフセット長OLを加えた距離に設定することができる。
このとき、ねじ穴2bを複数箇所に形成する場合、各ねじ穴2bを形成する各加工面100のZ座標(つまり、加工面100の位置)は、加工面100毎に設定され、加工面100が変わる度にワークWとタップ50との位置合わせを行う。例えば、本実施形態のように、ワークWとしてのシリンダヘッド2に点火プラグ9を取り付けるためにねじ穴2bを形成するための加工である場合には、気筒3a毎に、加工面100(座面)のZ座標の設定及びシリンダヘッド2とタップ50との位置合わせを行う。具体的には、先ず、主軸11にタッチセンサ122を取り付けて、タッチセンサ122の先端とワークWの加工面100とが接触したときの該加工面100のZ座標を測定する。これにより、主軸11の先端面11aとワークWの加工面100との相対位置を正確に設定できるようになる。図3に示すように、タップ50をタッピングホルダ60を介して主軸11に取り付けたときには、タッピングホルダ60の当接面61aのZ座標と主軸11の先端面11aのZ座標とは一致する。このため、主軸11の先端面11aとワークWの加工面100との相対位置を正確に設定できるようになれば、タッピングホルダ60の当接面61aとワークWの加工面100との相対位置を正確に設定できるようになって、タップ50とワークWとの相対位置を正確に設定できるようになる。これにより、ワークWの各加工面100の初期位置がそれぞれ異なっていたとしても、加工時には、タップ50とワークWとの相対位置が、上記加工開始距離Lが、基準距離BLにオフセット長OLを加えた距離になる相対位置となるように、ワークWとタップ50との位置合わせをすることができる。
次に、実際の加工時における、タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対距離と、タップねじ山開始位置SPの角度位置との関係について説明する。以下の説明では、タップ50が主軸11に装着された状態で、タップねじ山開始位置の角度位置が、主軸11の基準角度位置(つまり位相0°の位置)に対して300°程度遅角していると仮定している。尚、以下の説明では、ねじ穴2bのねじ山開始位置の角度位置が、主軸11の上記基準角度位置(0°の角度位置)なるようにねじ加工を行う場合を説明する。また、以下の説明で参照する図12及び図13では、オフセット長OLを見やすくするために比較的大きな長さとして示しているが、実際には、オフセット長OLはタップ50のねじ部51の1ピッチ分よりも短い長さである。
図12に示すように、加工開始時には、タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対距離は、基準距離BLにオフセット長OLを加えた距離になっている。タップねじ山開始位置SPの角度位置は、主軸11の基準角度位置に対して300°程度遅角しているため、図12に示すように、タップ50のねじ部51のねじ山開始位置は、主軸11の基準角度位置に対して右回りに300°程度ずれた角度位置に位置している。
次いで、図12の状態から、タップ50のねじ部51が1回転する間に、タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対距離が、タップ50のねじ部51の1ピッチ分だけ縮むように、ワークWを移動させて、図13に示すように、タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対距離がオフセット長OLになったとする。この時には、主軸11は軸心周りにおいて初期位置に戻っているため、図13に示すように、タップねじ山開始位置SPも、初期位置に位置している。
オフセット長OLは、タッピングホルダ60のホルダ側目印部63とタップ50のねじ部51との位相ズレ(ホルダ側目印部63の角度位置とタップねじ山開始位置SPの角度位置との位置ズレ)に対応する長さであることから、タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対距離がオフセット長OLになった状態から、更に上記と同じペースで、タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対距離を縮めると、図14に示すように、タップ50の先端50aとワークWの加工面100とが当接するまでの間に、タップ50は、タッピングホルダ60のホルダ側目印部63の角度位置とタップねじ山開始位置SPの角度位置との位置ズレの分だけ回転する。
上述したように、タッピングホルダ60のホルダ側目印部63は、主軸11に取り付けられたときに、該主軸11の上記基準角度位置に対応するような位置に位置するため、タッピングホルダ60のホルダ側目印部63の角度位置とタップねじ山開始位置SPの角度位置との位置ズレは、主軸11の上記基準角度位置とタップねじ山開始位置SPの角度位置との位置ズレに相当する。よって、タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対距離がオフセット長OLだけ縮んだとき、つまり、タップ50の先端50aとワークWの加工面100とが当接したときには、タップ50のねじ部51におけるねじ山開始位置SPの角度位置は、主軸11の上記基準角度位置に位置することになる。
したがって、例えば、ワークWに形成されるねじ穴のねじ山開始位置の所望の角度位置が、主軸11の上記基準角度位置と同じである場合には、加工開始距離Lが、基準距離BLにオフセット長OLを加えた距離になるように、加工開始時のタップ50とワークWとの相対位置を設定しておけば、ねじ加工時において、タップ50の先端50aがワークWの加工面100に当接した時の、該タップねじ山開始位置SPの角度位置を、上記所望の角度位置に位置することができる。
一方で、例えば、ワークWに形成されるねじ穴のねじ山開始位置の所望の角度位置が、主軸11の上記基準角度位置に対して90°進角した角度位置である場合には、加工開始距離Lを、基準距離BLに、オフセット長OLとタップ50のねじ部51の1/4ピッチ分の長さとを加えた距離に設定する。具体的には、上記のようにして、タップ50の上記仮想先端位置のZ座標を設定した後、該仮想先端位置から、基準距離BLに該ねじ部51の1/4ピッチ分の長さを加えた距離だけ離れた位置にワークWが位置するように、該ワークWの加工面100のZ座標を設定する。これにより、タップ50は、該タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対距離が、基準距離BLとオフセット長OLとだけ縮んだ後、さらに1/4ピッチ進む分、つまり90°分だけ回転する。この結果、タップ50の先端50aがワークWの加工面100に当接した時には、タップねじ山開始位置SPの角度位置は、主軸11の上記基準角度位置に対して90°進角した角度位置になる。
よって、タップ50によるねじ加工時において、ねじ穴のねじ山開始位置の角度位置を所望の角度位置にすることができる。そして、形成されたねじ穴に部品(例えば、点火プラグ9)を装着すれば、部品の向きを所望の向きにすることができる。
また、本実施形態では、ワークWの加工面100の位置を、主軸11に装着したタッチセンサ122により測定するようにしているため、加工開始時において、タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対位置を、正確に設定することができ、タップ50によるねじ加工時において、ねじ穴のねじ山開始位置の角度位置を、より正確に所望の角度位置にすることができる。
さらに本実施形態では、加工開始時におけるワークWの加工面100とタップ50の先端50aとの相対位置の設定において、ゲージ側目印部74の角度位置とホルダ側目印部63の角度位置とを一致させる際に、投影機によって、セッティングゲージ70の影を、タップ50の軸心方向のホルダ側に向かって投影して、セッティングゲージ70のゲージ側目印部74の影とタッピングホルダ60のホルダ側目印部63との角度位置を一致させるようにして行うため、ゲージ側目印部74とホルダ側目印部63との角度位置を精度良く合わせることができる。これにより、オフセット長OLを含む仮想工具長H’をより正確に求めることができるため、タップ50によるねじ加工時において、ねじ穴のねじ山開始位置の角度位置を、一層正確に所望の角度位置にすることができる。
したがって、本実施形態では、加工開始時におけるタップ50の先端50aとワークWの加工面100と間の距離である加工開始距離を、タップ50のねじ部51とワークWの加工面100とが当接したときの、タップ50のねじ部51のねじ山開始位置SPが所望の角度位置となるような距離にすべく、加工開始時におけるタップ50とワークWとの相対位置を設定するため、タップ50によるねじ加工時において、ねじ穴のねじ山開始位置を所望の角度位置にすることができ、形成されたねじ穴に部品を装着したときに、部品の向きを所望の向きにすることができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上述の実施形態では、ゲージ側目印部74の角度位置とホルダ側目印部63の角度位置とを一致させる際に、投影機を用いていたが、ゲージ側目印部74の角度位置とホルダ側目印部63の角度位置とを一致させることさえ出来れば、必ずしも投影機を用いなくてもよい。
また、上述の実施形態では、例えば、ワークWに形成されるねじ穴のねじ山開始位置の所望の角度位置が、主軸11の上記基準角度位置の角度位置に対して90°進角した角度位置である場合には、加工開始距離Lが、基準距離BLに、オフセット長OLとタップ50のねじ部51の1/4ピッチ分の長さとを加えた距離なるように、タップ50とワークWとの相対位置を設定するようにしていたが、これに限らず、加工開始距離Lを、基準距離BLにオフセット長OLを加えた距離にするともに、ワークWの位置を固定したまま主軸11を90°回転させ、その後、主軸11を回転させながら、タップ50の先端50aとワークWの加工面100との相対距離を縮めるようにしてもよい。
さらに、上述の実施形態では、工作機械10は、工具12(タップ50を含む)の位置を固定してワークWがZ軸方向に移動するものであったが、これに限らず、工作機械10は、ワークWの位置を固定して工具12がZ軸方向に進むものでもよく、工具12とワークWとの両方をZ軸方向に送ることができるものであってもよい。
また、上述の実施形態では、ワークWの例としてシリンダヘッド2、部品の例として点火プラグ9を示したが、ねじ穴が形成されるものであれば、ワークWはシリンダヘッド2以外のものでもよく、また、部品は、取り付け時の向きが重要なものであれば点火プラグ9以外のものでもよい。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。