以下の説明においては、主として、冷凍機の冷房運転について説明しているが、冷房運転だけでなく暖房運転も可能なヒートポンプの場合には、冷房負荷及び暖房負荷を合わせた空調負荷を考慮する必要がある。本明細書においては、冷房運転のみの場合でも、冷房運転及び暖房運転の両方を行う場合でも適用可能な技術を開示している。冷凍機、ヒートポンプ等は、まとめて「空気調和機」と呼ぶことにする。後述の空調負荷率は、冷房運転及び暖房運転のうち少なくとも一方を行う空気調和機の負荷率を意味する。
電気式の空気調和機は、電動式の圧縮機を備えたものである。一方、熱駆動式の空気調和機としては、吸収式冷凍機、吸収式ヒートポンプ、吸着式冷凍機、吸着式ヒートポンプ等が挙げられる。熱駆動式の空気調和機の熱源は、ガス、石油等の燃焼熱、工場排熱等である。
図1は、本実施例の性能診断装置の構成を示すブロック図である。
図2は、性能評価対象である冷凍機の構成の一例を示したものである。
まず、図1の性能診断装置の構成を説明する。
冷凍機2の性能評価装置1(以下「性能診断装置」ともいう。)は、稼動データモニタ3(表示部)及び送信機である稼動データ収集部4を介して冷凍機2と接続されている。稼動データ収集部4により取得される稼動データは、冷凍機2に設けられたセンサからの信号を含むものであり、実際に運転している冷凍機2から得られる生データを含む。稼動データ収集部4は、冷凍機2に設けられたセンサを介して、所望の評価パラメータに対応するデータを計測する機能と、計測した時系列データを履歴データとして記録する機能と、を備えている。なお、本実施例では、稼動データ送信部が性能評価装置1の外部にある構成を説明するが、性能評価装置1の内部にあってもよい。
また、本実施例では、冷凍機2としてターボ冷凍機を想定しており、その構成の詳細については、図2を用いて後述する。
性能評価装置1には、主記憶装置10(第一の記憶ユニット)、副記憶装置11(第二の記憶ユニット)、インターフェース12、CPU13(中央処理ユニット)、入力装置14(入力ユニット)、および出力装置15(出力ユニット)が設けられ、冷凍機2の性能変化を診断する。主記憶装置10は、基準データ作成部10Aと、評価データ収集部10Bと、システム性能評価部10C(性能評価部)と、基準データ更新部10Dと、出力部10Eと、から構成されている。なお、第一の記憶ユニット及び第二の記憶ユニットは、まとめて単に「記憶ユニット」と呼ぶことができる。
副記憶装置11には、モデルデータベースが格納されている。
図2は、冷凍機の構造と、性能評価装置を適用した場合における計測センサの配置の一例を示す構成図である。本図は、冷凍機がターボ冷凍機の場合を示したものである。
ターボ冷凍機は、主に、電動機20から動力を得るターボ圧縮機21と、凝縮器22と、膨張機構23と、蒸発器24と、を順次冷媒配管で接続することにより、冷媒回路を構成したものである。
計測センサとしては、冷水入口温度センサ24b、冷水出口温度センサ24c、冷却水入口温度センサ22b、冷却水出口温度センサ22c、冷水流量計24a、及び冷却水流量計22aが各所に設けられている。
蒸発器24では、冷水出口温度センサ24cにより測定した温度が所定の値となるように、冷水が生成される。この冷水は、水循環ポンプ28の動力により被冷却空間27(建物の室内等)へ送られ、被冷却空間27から吸熱する。吸熱し温度が上昇した冷水は、蒸発器24の冷媒と熱交換をして冷却される。そして、蒸発器24の冷媒は、冷媒配管を介して凝縮器22に運ばれ、冷却水に対して放熱する。冷却水は、水循環ポンプ25により冷却塔26に送られる。冷却塔26では、冷却水入口温度センサ22bにより測定した温度が所定の値となるように、冷却塔ファン26aを制御し、冷却水の熱が大気へ放熱される。
図2に示す冷凍機の機器構成ならびに動作は、あくまで一例であり、本実施例の冷凍機の性能評価装置1が評価対象とする冷凍機の作動原理、配置等を限定するものではない。
図1の基準データ作成部10Aは、副記憶装置11に格納されたモデルデータベースと、稼動データ収集部4に格納されたデータの一部と、を用いて、冷凍機に劣化が生じてない状態におけるシステム性能のデータを、想定される全稼動範囲にわたり作成する機能を備えている。
図3は、モデルデータベースに含まれるデータの一例を示したものである。
本実施例のモデルデータベースは、冷凍機の仕様を満たす稼動条件を網羅するデータ群である。モデルデータベースは、空気調和機の稼動条件ごとに対応する性能を示すデータ群であり、冷凍機の設計値、冷凍機メーカーが発行するカタログなどに掲載するために出荷前に試験機を用いて測定された品質確認試験の結果等を利用してまとめたものであってもよい。冷凍機のシステム性能に相当するCOP(Coefficient of Performance:成績係数)は、空調負荷率、冷却水入口温度、冷水出口温度などにより変化するが、本図においては、冷水出口温度を固定し、空調負荷率(以下では単に「負荷率」ともいう。)、COP及び冷却水入口温度を評価パラメータとして、X軸、Y軸及びZ軸の3軸で整理したものを用いている。
本図に示すように、負荷率が等しい場合で比較すると、冷却水入口温度が低い条件(春、秋及び冬)では、COPが高くなっている。一方、冷却水入口温度が高い条件(夏)では、COPが低くなっている。
なお、本実施例の評価対象は、水冷式の冷凍機であるが、冷却水を必要としない空冷式の冷凍機においては、冷却水入口温度の代わりに凝縮器の周囲空気温度を評価パラメータとしてもよい。
ここで、空調負荷率は、室内機における処理熱量を、空調の定格能力で除した値であり、冷房運転において冷水を蒸発器により冷却して室内機に供給する場合、実際に稼動している冷凍機における冷水出口温度と冷水入口温度との差を、冷凍機の設計値として設定されている冷水出口温度と冷水入口温度との差で除した値である。具体的には、図2においては、蒸発器24により冷却される冷水の入口温度及び出口温度として、それぞれ、冷水入口温度センサ24b、冷水出口温度センサ24cにより測定した値を用いて計算する。
一般に、圧縮式の冷凍機(ヒートポンプ)の場合、凝縮器で発生する熱を用いて暖房運転を行うことも可能である。この場合、空調負荷率は、温水を凝縮器により加熱して室内機に供給する場合、実際に稼動しているヒートポンプにおける温水出口温度と温水入口温度との差を、ヒートポンプの設計値として設定されている温水出口温度と温水入口温度との差で除した値である。なお、圧縮式の冷凍機(ヒートポンプ)による暖房運転を、室内機と凝縮器とを循環する熱媒体として空気を用いて行う場合には、凝縮器の上流側及び下流側における空気の温度を測定し、それぞれ、入口温度、出口温度として、温水の場合と同様の計算により、空調負荷率を算出する。
吸収式ヒートポンプにおける暖房運転の場合、凝縮器及び吸収器のうち少なくとも一方で発生する熱により温水を加熱し、この温水を室内機に送ることにより、暖房を行うため、空調負荷率は、室内機から戻ってきた温水について、実際に稼動している吸収式ヒートポンプにおける温水出口温度と温水入口温度との差の平均値を、吸収式ヒートポンプの設計値として設定されている温水出口温度と温水入口温度との差で除した値である。
ところで、実際の冷凍機のシステム性能は、設置初期のシステム性能に劣化がない状態であっても、設置状況などの影響により、モデルデータベースと一致しないことが一般的である。本実施例では、機器ごとに劣化のない状態でのシステム性能を正確に把握するために、稼動データ収集部4に格納されたデータの一部を使用し、モデルデータベースを補正して、冷凍機2固有の基準データ(稼動条件と基準値との組合せデータ群、以下「個別特性曲面」ともいう。)を作成する。
図4は、一般的な伝熱管汚れの時系列変化を示すグラフである。
冷凍機のシステム性能の劣化原因の大部分は、冷却水または冷水の伝熱管内部に、スケールなどが付着することで生じるものである。伝熱管内では、循環水の加熱や蒸発により、水中のミネラル分などが結晶化し、これが堆積してスケールとなる。
図4から、循環水の流速や温度により、汚れ(スケール)の付着速度は異なるものの、伝熱管の内部に汚れが付着しない一定期間tdが存在することがわかる。この期間は、機器の構成や設置環境、稼動状況などにより変化するが、本実施例に示すような冷凍機では、設置後1年間はスケールの付着によるシステム性能の劣化がほとんどないという傾向が得られている。また、本図から、汚れが付着し始めると、急速に汚れ係数が増加することがわかる。
そこで、図1に示す基準データ作成部10Aでは、稼動データ収集部4に格納された稼動データのうち、例えば、初期の1年間のデータ(以下「正常データ」という。)を用いて、モデルデータを補正し、想定される全稼動範囲での冷凍機2の劣化のない状態のシステム性能のデータを、個別特性曲面として作成する。なお、正常データは、必ずしも1年間のデータでなくてもよく、これより短くても長くても基準データの作成に十分なデータが収集できればよい。
よって、システム性能評価部10Cにおいては、正常データを取得した後で計測される稼動データ(正常データとは異なる時期の稼動データ)と、個別特性曲面と、を比較することにより、空気調和機の性能の評価をすることができる。なお、比較対象の稼動データが正常データを含んでいてもよい。
このように、機種ごとに取得される実際の稼動データに基づいて、補正された基準データが得られるため、冷凍機2のわずかな性能劣化を検知することができる。
図5は、図1の基準データ作成部10Aにおけるデータ処理を示すフローチャートである。以下、図5を用いて、上述した基準データ作成部10Aでの個別特性曲面の作成方法について説明する。なお、以下の説明においては、図1及び2において用いた符号も付加している。
まず、S100において、入力装置14から入力された評価パラメータを取得するともに、稼動データ収集部4から正常データを取得する。本実施例では、評価パラメータは、負荷率、COP及び冷却水入口温度である。
ここで、負荷率は、モデルデータにおいて最大となる冷水入口温度と冷水出口温度との差分に対する、実稼動データの冷水入口温度センサ24bと冷水出口温度センサ24cとの差分の割合である。COPは、冷水出口温度センサ24cと冷水入口温度センサ24bとで得られた温度の差分に冷水流量計24aの測定値を乗じたものを、ターボ圧縮機21の動力源である電動機20等で消費する電力で除した値である。また、冷却水入口温度は、冷却水入口温度センサ22bの測定値である。
次に、S101において、システム性能を評価するため、評価パラメータ中の冷凍機2のシステム性能に相当するCOP以外の負荷率及び冷却水入口温度を稼動条件として、正常データを稼動条件ごとに分類する。
その後、S102において、副記憶装置11からモデルデータベースを取得する。そして、S103において、稼動条件ごとに正常データとモデルデータとを一致させる補正係数を算出する。冷凍機2の稼動条件によっては、正常データはないが、稼動条件が一致する部分の補正係数の内挿または外挿を行い、モデルデータベースにある全稼動範囲において、補正係数を算出する。このように補正係数を算出することにより、設置状況がそれぞれ異なる冷凍機(実際に設置された冷凍機)から得られる正常データが少ない場合であっても、正常データに対応する全稼動範囲における補正係数を算出することができる。
最後に、S104において、モデルデータベースにあるデータのそれぞれに、対応する補正係数を稼動条件ごとに乗じて、実際に設置された冷凍機2の劣化のないシステム性能である個別特性曲面を作成する。このデータは、モデルデータベースと同様のデータ群だけでなく、評価パラメータである負荷率、COP、冷却水入口温度をそれぞれ、X軸、Y軸、Z軸の3軸とした三次元のグラフとして、主記憶装置10の出力部10Eから出力され、出力装置15を介して稼動データモニタ3に表示される。
図6は、稼動データモニタ3に表示された個別特性曲面の一例を示したものである。
本図に示すように、冷却水入口温度が低く負荷率が高い場合は、COPが高くなっている。一方、冷却水入口温度が高く負荷率が低い場合は、COPが低くなっている。
なお、評価パラメータは、冷凍機の性能と稼動条件に相当する項目とから構成されればよく、評価対象の冷凍機に設置する計測センサにより、適宜変更することが可能である。
このように、モデルデータベースと、実際に空調する建物に設置された試験用の冷凍機とは異なる冷凍機の正常データと、から得られた個別特性曲面は、全稼動範囲において基準となる正確な冷凍機の近似データとして用いることができる。この個別特性曲面は、冷凍機の配管の配置や装置の傾き等も含む設置状態、装置ごとに若干異なる計測センサ等の設置状態等を勘案した全稼動範囲における基準データである。なお、モデルデータベースには、必要とされる負荷率のすべての領域におけるデータ群と、そのデータ群から算出された評価パラメータと、が完備されている。当該データ群は、負荷率が低い稼動条件におけるデータも含むものであって、冷凍機の設計値、試験用の冷凍機(試験機)を用いて出荷前に正確に測定されたデータなどであってもよい。
図7は、設置した計測センサに対する評価パラメータの構成の一例を示したものである。
事例1は、図6に対応するものである。一方、事例2及び3は、変形例である。
図7に示す評価パラメータX、Zは、図6のX軸、Z軸に対応するものであり、空気調和機(冷凍機)の性能に影響を及ぼす外的要因である。一方、図7に示す評価パラメータYは、図6のY軸に対応するものであり、性能評価の指標となるパラメータである。言い換えると、評価パラメータYは、評価パラメータX及びZとの関係で整理されるものである。このようにして、評価パラメータX、Y及びZは、データ群としてまとめられる。
なお、空気調和機の性能に影響を及ぼす外的要因となる評価パラメータは、3つ以上であってもよい。
まとめると、個別特性曲面は、空気調和機の性能に影響を及ぼす外的要因となる2つ以上の評価パラメータ(稼動条件)を含み、当該2つ以上の評価パラメータは、他の1つの評価パラメータ(性能評価の指標)との関係で整理される。
なお、吸収式冷凍機の場合は、空気調和機の性能に影響を及ぼす外的要因となる評価パラメータとしては、吸収器及び凝縮器のうち少なくともいずれか一方で発生する熱を除去する冷却水又は冷却用空気の入口温度であってもよい。性能評価の指標となる評価パラメータとしては、再生器への投入熱量であってもよい。
また、空気調和機の性能に影響を及ぼす外的要因となる評価パラメータとしては、空調負荷率に関連する関数であってもよい。
さらに、評価パラメータとしてLTDを用いてもよい。この場合、LTDは、Yとして扱う。
次に、本実施例のシステム性能の評価方法について説明する。
図8は、本実施例のシステム性能評価部10Cにおける処理工程を示すフローチャートである。
まず、S110において、稼動データ収集部4から評価対象データを取得する。評価対象データは、指定された期間の冷凍機2(図1)の稼動データである。期間の指定方法としては、図1の入力装置14より任意の評価期間を入力するか、一定期間ごとに自動で評価を実施する設定としてもよい。言い換えると、評価対象データは、稼動データ収集部4が有する稼動データの一部である。なお、評価対象データは、評価対象の稼動データであり、「評価データ」ともいう。
次に、S111において、評価対象データを稼動条件ごとに分類する。この稼動条件は、個別特性曲面の稼動条件の評価パラメータと一致させたものであり、本実施例では、冷却水入口温度である。その後、S112において、分類した評価対象データ内の最も出現頻度の高い稼動条件(最頻稼動条件)を抽出する。ここで、最頻稼動条件は、本実施例においては、最も出現頻度の高い負荷率である。また、S111において評価対象データを分類する稼動条件を負荷率とした場合には、最頻稼動条件は、最も出現頻度の高い冷却水入口温度である。
さらに、S113では、冷却水入口温度条件ごとに抽出した、出現頻度の高い負荷率における評価対象データよりCOPを算出し、これを代表評価データとする。そして、評価対象データの平均値を算出する。なお、代表評価データとしては、COPの代わりに、図7の事例2及び3で用いた消費電力を用いてもよい。COPは、低下した場合に性能劣化と判定され、上昇した場合に性能向上と判定される。一方、消費電力は、上昇した場合に性能劣化と判定され、低下した場合に性能向上と判定される。よって、代表評価データは、性能評価の指標となるパラメータの当該領域における平均値である。
一方で、S114では、基準データ作成部10Aで作成された個別特性曲面を取得する。
そして、S115においては、個別特性曲面のうち、代表評価データの稼動条件と一致するデータを抽出し、これを基準値と設定する。よって、基準値は、代表評価データの値に対応する稼動条件における個別特性曲面の値(図6の場合、Y軸(COP)の値)である。
S116では、S113の代表評価データ(評価データの代表評価データ)とS115の基準値(基準データの基準値)とを比較する。具体的には、正常データに対する評価対象データの偏差を算出する。この結果と固有の基準データは、評価を行うごとにシステム性能評価部10Cに蓄積され、経過時間に対するシステム性能の変化から劣化度合いを評価する。言い換えると、システム性能評価部10Cは、固有の基準データと、複数の異なる時期に収集された稼動データと固有の基準データとを比較した結果と、を蓄積する機能を有し、それらの値を用いて、空気調和機の性能の変化を判定する。
最後に、S117において、主記憶装置10の出力部10Eから出力され、出力装置15を介して稼動データモニタ3に表示される。
次に、本実施例の基準データ更新部の更新方法について説明する。図1の基準データ更新部10Dでは、稼動データ収集部4から取得した評価対象データの性能を元に、必要に応じて所定の場合に基準値を更新する機能を備えている。
図9は、基準データ更新部10Dにおける更新の要否を判定するための処理工程を示すフローチャートである。
まず、S201において基準データ作成部10Aから個別特性曲面を取得し、評価データ収集部10Bから稼動データ収集部4が有する稼動データの一部である評価データを収集する。
その後、S202において、取得した評価データと個別特性曲面の稼動条件を比較する。本実施例の基準データである個別特性曲面は、冷凍機2の想定される全稼動範囲での劣化のない状態のシステム性能のデータ群であるため、本実施例では基準データは評価データの稼動条件を有している。そのため、S202では稼動条件が一致する場合となり、S203のステップに進む。なお、S202で稼動条件が一致しない場合については、実施例2で後述する。
S203では、同一稼動条件における基準データの性能と評価データの性能とを比較する。ここで、当該性能は、COP(COPの予測値でもよい。)で比較することができる。基準データの性能が評価データの性能より優れているか同等であれば、S204へ進み、評価結果として基準データに対する評価対象データの偏差を算出する。一方、基準データの性能が評価データの性能より劣っている場合には、評価データの値をもとに、基準データを更新する(S207)。つまり、図1の基準データ作成部10Aにおけるデータ処理(図5)に示すとおり、評価データを正常データとしてモデルデータを補正し、新しい基準データとして個別特性曲面を作成する。
更新された新しい基準データは、再びS203において性能比較に用いるが、ここでは同じデータの比較となるため、S204へ進み、評価結果として基準データに対する評価対象データの偏差を算出する。この結果は、評価を行うごとにシステム性能評価部10Cに蓄積され、経過時間に対するシステム性能の変化から劣化度合いを評価する。また、システム性能評価部10Cは、偏差だけでなく、基準データの更新履歴(更新時期と値)も蓄積する。
これらの結果は主記憶装置10の出力部10Eから出力され、出力装置15を介して稼動データモニタ3に表示される。
なお、図9は、基準データ更新部10Dの機能を説明する都合上、S202において基準データを更新するか否かを判定するフローチャートとしているが、S201からS203は、図8のシステム性能評価部10Cでの処理S110からS116に相当する処理であり、実用上はシステム性能評価部10Cの工程の一部として考えてよい。
上記の偏差は、指定された期間内の狭い範囲の評価対象データから算出されるものであるが、正常データに対応する補正係数は、固有の基準データの全領域について得られているため、保守作業を行わずに冷凍機を稼動し続けた場合に、年間消費電力がどの程度大きくなり、ランニングコストがどの程度高くなるか等の試算を行うことができる。これにより、保守作業の必要性について説得力のあるデータをユーザーに提供することができる。
具体的には、空調負荷率が低い稼動条件となる春秋冬等に取得した稼動データを用いて、空調負荷率が高い稼動条件を含むすべての稼動条件の範囲における評価パラメータを補正係数により推算することができるため、現状の性能劣化の度合いについて、年間消費電力、ランニングコスト等を考慮して判断することができる。
更に具体的には、空調負荷率が高くなる時期(冷凍機の場合、一般には盛夏期)における空調負荷率の最大値を基準として、空調負荷率が、その最大値に対する割合で、例えば50%以下になっている時期(冷凍機の場合、春秋冬等)に収集されたものを用いて、当該割合が50%を超える領域における稼動データの推算値を算出し、当該推算値と個別特性曲面データとを比較してもよい。また、当該推算値を用いて、年間消費電力、ランニングコスト等を算出してもよい。年間消費電力、ランニングコスト等を考慮して、現状の性能劣化の度合いについて判断することができる。上記の判断は、上記の割合が30%以下になっている時期に収集されたものを用いて行ってもよい。
また、本実施例の性能評価装置1は、例えば冷凍機の稼動開始に対して性能評価装置1の導入タイミングが遅く、データ収集部が評価対象の冷凍機の稼動直後からの稼動データを得ることができない場合、つまり、正常データに劣化が含まれる可能性がある場合であっても、基準値を更新する機能を備えていることで、最終的に基準データ作成部で作成される基準データについて、機器それぞれの寸法誤差、設置状態の差、稼動条件や運転状況の違いなどを反映しつつ、劣化のない理想的な値とすることができる。これにより、精度の高い劣化診断技術を提供することができる。
更には、基準データの更新を行った場合に、更新以前の基準データと新しい基準データとを併記して出力装置15を介して稼動データモニタ3に表示することで、保守作業後の性能改善効果や、冷凍機の保守作業の頻度を容易に確認できるため、ユーザーにとって保守計画を立てやすい仕組みとすることができる。
図10は、稼動データモニタ3に表示される評価結果の一例を示したものである。横軸にはデータの収集時期を、縦軸には性能の代表値である最大負荷条件(冷却水入口が最大温度かつ負荷率100%)におけるCOPを示している。言い換えると、COPの時系列である。COPは、基準値に対する百分率で表している。これを「COP比」とも呼ぶ。本図においては、最大負荷条件におけるCOPを示しているが、任意の稼動条件(負荷条件)におけるCOPを用いてもよい。灰色の棒は2005年4月に設定した基準値であり、黒色の棒は、2005年8月に更新した新しい基準値である。その他の斜線によるハッチングが施されている棒は、それぞれの時期において収集されたデータを表している。
本図では、COP低下率25%で保守作業が必要と定義して評価をする場合を想定して説明する。冷凍機2は、2005年4月からデータ収集を開始し、2005年7月に2005年4月時点の性能を基準値としたときのCOPに対し25%以上低下したため、2005年8月に保守作業をおこなった。その後計測した2005年8月には、基準値よりも優れた性能を示したため、新たに2005年8月の性能を基準値として、評価を行った。2005年9月から2006年1月までは、COPは緩やかに低下しているが、この時点では保守作業を要する段階ではないことを示している。
なお、本図においては、月ごとのデータを示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、週ごとのデータを取得することもでき、そのデータを用いて保守作業の必要性を判断してもよい。
これにより、個別の冷凍機の小さな変化を高頻度で正確に取得し、早い段階で劣化を判定することができる。
また、以前の基準値を更新した新しい基準値と同時に示すことにより、ユーザーに対して、保守作業による冷凍機の性能改善効果を理解しやすくするとともに、次回の保守作業の時期を事前に計画しやすくする効果がある。
なお、空調負荷率が高くなる時期(冷凍機の場合、一般には盛夏期)における空調負荷率の最大値を基準として、冷凍機の場合、一般には春秋冬の時期には、空調負荷率が、その最大値に対する割合で、50%以下(半分以下)となっている場合が多い。このような時期において、その時期に収集された稼動データを用いて性能の評価をすることにより、空気調和機の運転停止を伴う保守作業を、建物内の快適性を著しく損ねることなく、必要に応じて行うことができる。上記の割合は、30%以下であることが更に望ましい。
本実施例の性能評価装置によれば、以下の効果を奏する。
まず、設置場所や稼動状況により同一機種でも初期のシステム性能が異なる空気調和機に対して、個別特性曲面を作成することにより、想定される全稼動範囲において劣化のない状態のシステム性能が得られるため、評価対象データの稼動条件と同一条件での劣化のない状態のシステム性能を基準値として、劣化度合いを診断することができ、短期間で空気調和機のシステム性能の劣化を検知することが可能となる。言い換えると、空気調和機の性能劣化をより早く検出することが可能となる。
そして、基準値を更新する機能を備えていることで、データ収集を開始した時点で作成した基準データに劣化が含まれている場合であっても、最終的には、機器それぞれの寸法誤差、設置状態の差、稼動条件や運転状況の違いなどを反映した劣化のない値を基準値とすることができるため、より精度の高い冷凍機劣化診断技術を提供することができる。
また、このように精度よく劣化検知を行うにもかかわらず、計測センサの数は少なく、導入コストを抑えることができる。
そして、性能診断は、空気調和機の稼動条件にかかわらず、評価対象データの稼動条件に合わせて行うことが可能である。このため、冷房負荷の低い時期に性能劣化を検知することができ、結果として、空気調和機の運転停止を伴う保守作業を、建物内の快適性を損ねることなく行うことが可能である。
本実施例の性能診断装置は、実施例1で述べた装置と同じ構成であるが、正常データに対する評価データの変化量を偏差として、偏差が大きい場合に異常を検出する診断方法に対して適用するものである。
具体的には、本実施例の性能診断装置は、図1のブロック図に示す副記憶装置11に格納されたモデルデータベースの内容と、基準データ作成部10Aでのデータ作成方法と、システム性能評価部10Cでの評価方法と、基準データ更新部10Dとが実施例1とは異なる。
まず、本実施例の基準データ作成部10Aでは、稼動データ収集部4に格納された稼動データのうち、例えば、初期の1年間のデータを劣化が含まれないデータと想定し、これら全てを基準データ(以下「学習データ」という。)とする。学習データには、稼動データ収集部4が収集したセンサの生データだけでなく、それらを使った演算値なども含む。
次に、本実施例のシステム性能の評価方法について説明する。
図11は、本実施例のシステム性能評価部10Cにおける処理工程を示すフローチャートである。
まず、S120において、稼動データ収集部4から評価対象データを取得する。次に、S121において、評価対象データを稼動条件ごとに分類する。この稼動条件は、本実施例では、冷却水入口温度である。なお、この稼動条件は、冷凍機の性能に依存するものでなければよく、例えば、負荷率などでもよい。
その間、S122において、基準データ作成部10Aから学習データを取得する。その後、S123へ進み、学習データと評価データの稼動条件を比較する。稼動条件が同等であれば、S124に進み、学習データに対する評価対象データの偏差を保有するデータごとに算出し、合計して評価結果とする。最後に、評価結果は、S125において、主記憶装置10の出力部10Eからを出力され、出力装置15を介して稼動データモニタ3に表示される。
一方、稼動条件が異なる場合には、S126へ進み、基準データ更新部10Dにおいて、学習データの追加を行う。これは、実施例1の基準データ更新部の処理工程を示すフローチャート(図9)のS206にあたる。
図12は、本実施例の基準データ更新部10Dにおける処理工程を示すフローチャートである。
まず、S220において、稼動データ収集部4から評価対象データを取得するとともに、基準データ作成部10Aから学習データを取得する。次に、S221において、評価対象データの中から、学習データを構成する稼動条件と一致しないデータを抽出する。
同時に、S222において、副記憶装置11からモデルデータベースを取得する。本実施例のモデルデータベースには、負荷率とCOPとの関係を表す関係式が冷却水入口温度条件ごとに格納されている。S223では、これらの関係式と学習データをもとに、評価対象データ内の学習データに含まれない稼動条件でのCOPの予測値を算出する。ここで、予測値は、上記の関係式等を用いて内挿法又は外挿法により算出してもよい。これにより、どのような稼動条件であっても、図6に示すような個別特性曲面の上方にCOP等の予測値があれば、評価データが優れていると判定することができる。
その後、S224において、この予測値と評価データを比較し、評価データが優れている場合には、S225へ進み、評価データを学習データに追加する。
一方、S224において評価データよりも学習データが優れている場合には、S226へ進み、学習データを変更しないことが確定する。
基準データ更新部10Dの処理を施した評価データは、学習データの追加の有無にかかわらず、再びシステム性能評価部10Cへ戻し、処理に供する。
本実施例の性能評価装置によれば、以下の効果を奏する。
まず、学習データに対する評価対象データの偏差を、全てのセンサデータと演算値に対して算出し、その合計を評価対象とすることで、COPなどの性能の変化量の1つを監視する検出方法に比べ、性能の変化を多面的に評価することができるので、冷凍機の異常をより早い段階で検出することができる。
また、学習データを更新する構成をもつことで、単なる稼動条件の違いなどによる誤検知を防ぐことができるとともに、稼動時間が経過するほど学習データが蓄積され、より精度の高い予兆検知が可能となる。
さらに、最大負荷条件とは異なる稼動条件においても、容易に性能評価をすることができるため、データの換算等による誤差の発生を抑制することができる。