JP2019078777A - ポッツモデルの計算装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】多値スピン問題であるポッツ問題を計算可能なポッツモデルの計算装置を提供する。【解決手段】複数の光パルスを増幅するための共振器部1、2と、ある光パルスに関わる相互作用を演算してフィードバックするフィードバック構成とを有するイジングモデルの計算装置4と、ポッツ変換算出部6とを用いたポッツモデルの計算装置であって、フィードバック構成は、2値スピン間の相互作用である第1の相互作用と、第1の相互作用同士の2値の相互作用である第2の相互作用とに分解して演算することにより、複数の光パルスに実装する相互作用を算出し、ポッツ変換算出部は、イジングモデルの計算装置で算出された計算結果として得られた複数の光パルスのスピンの値から得られる値Siを算出することにより、ポッツモデルにマッピングされた問題をイジングモデルを用いて算出する。【選択図】図3

Description

本発明はポッツモデルを光パルスにより擬似的にシミュレーションしたポッツモデルの計算装置に関する。
従来から知られているノイマン型のコンピュータでは、NP問題に分類される組合せ最適化問題を効率よく解くことができない。組合せ最適化問題を解く手法として、磁性材料を格子点の各サイトに配置されたスピンの相互作用として統計力学的に解析した格子模型であるイジングモデルを用いた手法が提案されている。
イジングモデルの系のエネルギー関数であるハミルトニアンHは、以下の式(1)に示す通り表わされることが知られている。
ここで、Jijは結合定数であり、イジングモデルを構成する各サイトの相関関係を示している。σi、σjは各サイトのスピンを表しており、1または−1の値をとる。
イジングモデルを用いて組合せ最適化問題を解く場合は、上記のイジングモデルのハミルトニアンにおいて、各サイトの相関関係であるJijを与えたときに、系が安定状態となってエネルギーHの値が一番小さくなるσiを求めることにより、最適解が得られる。近年では、光パルスを利用して、こうしたイジングモデルを擬似的にシミュレーションすることにより、NP問題などの組合せ最適化問題を解くことができる計算装置が注目されている(特許文献1、非特許文献1)。
図1は、イジングモデルの計算装置の基本構成を示す図である。イジングモデルの計算装置は、図1に示すように、リング共振器1として機能するリング状の光ファイバ内に設けられたPSA(位相感応増幅器:Phase Sensitive Amplifier)2に対して、ポンプ光パルス(pump)を注入することによりイジングモデルのサイト数に対応する数の光パルスの列を生成するように構成している(2値化OPO:Optical Parametric Oscillator:0またはπ位相の光パラメトリック発振器)。リング共振器1に入力された光パルス列が1周して再びPSA2に到達すると、再びPSA2にポンプ光が入力されることにより光パルス列が増幅される。最初のポンプ光の注入により発生する光パルス列は位相が定まらない微弱なパルスであり、リング共振器1内を周回するたびにPSA2で増幅されることによって、次第にその位相状態が定まる。PSA2は各光パルスをポンプ光源の位相に対し0またはπの位相で増幅するので、これらのいずれかの位相状態に定まることになる。
イジングモデルの計算装置では、イジングモデルにおけるスピンの1、−1を、光パルスの位相0、πに対応させて実装している。光パルスの周回ごとに、リング共振器1外部の測定部3で光パルス列の位相および振幅の測定を行ない、その測定結果を、予め結合係数Jijを与えた演算器4に入力して、これらを用いてi番目のパルスに対する結合信号(フィードバック入力する信号)
(cj:j番目のサイトの光パルスの振幅)を演算する。さらに、外部光パルス入力部5により演算した結合信号に応じた外部光パルスを生成してリング共振器1内に入力するフィードバックループ制御により、光パルス列を構成する各光パルス間で位相に相関関係を付与することができる。
イジングモデルの計算装置では、上記した相関関係を付与しながら光パルス列をリング共振器1内で周回増幅させて、安定状態となったときの光パルス列を構成する各光パルスの位相0、πを測定することにより、イジングモデルの解を求めることができる。
国際公開第2015/156126号パンフレット
T. Inagaki, Y. Haribara, etal, "A coherent ising machine for 2000-node optimization problems," Science 354, 603--606 (2016). Wu, Fa-Yueh (1982). "The Potts model". Rev. Mod. Phys. 54 (1): 235-268.
ところで、イジングモデルの計算装置で解くことのできるイジング問題は2値のスピンのいずれかであることを解とする問題であるが、組合せ最適問題には、解とするスピンのとり得る値が2つより多い(多値の)いわゆるポッツ問題(多値スピン問題)が数多く存在する。値が2つより多い多値のポッツ問題は、そのままでは2値問題を扱うイジングモデルの計算装置で解くことができない。しかしながら多値問題であるポッツ問題はその適用可能性が広く、ポッツ問題を解くためのポッツモデル(非特許文献2)を計算可能な装置が望まれていた。
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、本発明の課題は、多値スピン問題であるポッツ問題を計算可能なポッツモデルの計算装置を提供することにある。
上記の課題を解決するために、一実施形態に記載の発明は、複数の光パルスを増幅するための共振器部と、ある光パルスに関わる相互作用を演算してフィードバックするフィードバック構成とを有するイジングモデルの計算装置と、ポッツ変換算出部とを用いたポッツモデルの計算装置であって、前記フィードバック構成は、前記ポッツモデルを構成する各サイトi(i=1、2・・・N:Nはポッツモデルを構成するサイト数)の多値スピンの取り得る値がSi=0,1,…,M−1(Mは自然数である多値数)であり、M=2Ms(Msは自然数である多値数の次数)である場合に、2値スピン間の相互作用である第1の相互作用と、前記第1の相互作用同士の2値の相互作用である第2の相互作用とに分解して演算することにより、前記複数の光パルスに実装する相互作用を算出し、前記ポッツ変換算出部は、前記イジングモデルの計算装置で算出された計算結果として得られた前記複数の光パルスのスピンの値σim(mは1からMsの次数を示す)を下記式に代入して得られる値Siを算出することにより、ポッツモデルにマッピングされた問題をイジングモデルを用いて算出することを特徴とするポッツモデルの計算装置。
従来のイジングモデルの計算装置の基本構成を示す図である。 本実施形態のイジングモデルの計算装置の概略構成を示す図である。 測定部における測定手法を説明するための図である。 バランスドホモダイン検波器の構成例を示す図である。 ポッツモデルの計算装置における処理フローである。 Si=2Msを満たさない多値の値Siの問題をポッツモデルの計算装置に実装する手法を説明する図である。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
(ポッツモデルについて)
本実施形態のポッツモデルの計算装置において扱うポッツ問題(多値スピン問題)は、ポッツモデルと呼ばれる次式(2)のハミルトニアンを用いて解くことができる。次式(2)において、ポッツモデルを構成する各サイト(ノード)iの多値スピンの値をSi(Si=0、1、2、3・・・、M−1:Mは多値数を示す自然数)、ポッツモデルを構成する各サイト(ノード)の相関関係を示す結合定数をJij(i、j=1、2、・・・・N:各サイトを表すインデックス、Nはサイト数を示す)と示しており、多値スピンの値Siを持つサイトiに対して相互作用を考えるサイトjの多値スピンの値をSjとすると、δ(Si−Sj)は、Si=Sjの時にだけ1となりそれ以外は0となる、いわゆるクロネッカーのデルタである。
ポッツ問題を解く場合、上記式(2)において、Jijに解くべき問題がマッピングされる。多値スピン問題を記述する上記式(2)は、多値数M=2Msと表せる場合に、mを1からMsまでの次数として、次数がmの2値のスピンσim、σjm=(±1)を用いて次式(3)のように書き換えることができる。ここでσjmは、次数mの2値スピンの値がσimとなるサイトiに対して、相互作用を考えるサイトjの2値スピンの値を示している。
上記式(3)は、総乗積の項を分解すると、次式(4)に示すように記述できる。
上記式(4)によれば、(3)式の総乗積の項はMs個の(1+σimσjm)/2の項の積に分解できることが判る(mは1からMsの自然数)。この各m次の項における(1+σimσjm)/2は、定数の足し算と掛け算を除いて、(1)式であらわされる2値のイジング問題と等価である(定数項はイジング問題に影響を与えない)。すなわち、多値数M(=2MS)のポッツ問題は、Ms個の2値イジング問題の積に置き換えられるといえる。具体的には、多値スピンの相互作用(ポッツ相互作用)を導くためには、各m次の項の2値スピンσim、σjmの間のイジング相互作用(第1の相互作用)とともに、この第1の相互作用同士の総乗積で与えられる相互作用(第2の相互作用)を考慮する必要があるといえる。このとき、互いにポッツ相互作用を有する多値スピンの値Siは、上記式(3)、(4)におけるMs個のm次の2値のスピンσimを用いて、次式(5)に示すように表すことができる。
したがって、上記式(3)、(4)に示すようなポッツ相互作用を有する2値のスピンσimを取り得るサイトが安定状態となる時のm次の2値のスピンσimの値を求めることによって、ポッツ問題で解くべき多値のスピンSiの値を求めることができるといえる。また式(3)、(4)から、多値のスピンは、N個の2値のスピンσim、σjm(i、j=1、2、・・・・N:各サイトを表すインデックス、Nはサイト数を示す)の値のセットをMs個求めることで決定できるといえる。すなわち、2値のスピンσim、σjm(i、j=1、2、・・・・N)を光パルスの位相(例えば0、π)に置き換え(擬似的にシミュレーションし)、さらにこれらの光パルスの位相にポッツ相互作用を持たせることにより、ポッツモデルにマッピングされた問題を計算することができるといえる。
このポッツモデルの変形を地図塗り分け問題を例に挙げてさらに説明する。九州地方を8色に塗り分けるとすると、塗りわけに用いる各色に0から7までの値を割り当てた多値問題と考えることができるが、M=8=23、すなわち、m=1、2、3の3次の2値のスピンσim、σjm(i、j=1、2、・・・・N:各サイトを表すインデックス、Nはサイト数を示す)を用いて表すことができる。
図2は例とした九州地方の各県をノードとして8色に塗り分ける問題における、ポッツ相互作用を説明する図である。3次の2値のスピンσim、σjmにおいて互いに相互作用を持つポッツ相互作用は、各ノードの相互作用を考えるための図2(a)に示すグラフを3層にコピーした図2(b)に示すモデルで説明することができる。この塗り分け問題では、2つのノード(県)が隣接するか否かを相関関係としてJijに設定する。これが解くべき問題となる。例えば、長崎県を1、佐賀県を2とすると、この2つの県は互いに隣接するので、相関関係として隣接することを示すJ12=1が設定される。図2においては、長崎県と佐賀県とが太線で接続されているが、これが相関関係を示している。
まず、図2(b)に示すグラフの各層において、特定の隣接する2つのノードについて考える。2つのノードのスピンの値が同じ場合は相互作用があり、異なる場合は相互作用がないと判断する。この隣接する2つのノードにおける相互作用の有無を3層のそれぞれにおいて判断し、いずれか1つの層において「相互作用がない」と判断された場合は、その2つのノードはポッツ相互作用がないと判断する。すなわち、図2(c)に示すように隣接するノードと全ての層において値が一致する場合にポッツ相互作用があると判断することができる。
8色塗り分け問題では、各ノードは8つの値を取りうるが、隣接するノードは異なる色でなければならない。言い換えると、隣接するノードは、ポッツ相互作用のない状態となる時のノードの各層の値(±1)を式(5)に代入して得られる多値のSiが問題に対する解となる。
この問題で説明した複数層のグラフにおける各層の値(±1)を光パルスの位相(例えば0、π)に置き換える(擬似的にシミュレーションする)ことにより、多値問題を解くことができることが判る。
(第1の実施形態)
図3は、本実施形態のポッツモデルの計算装置の概略構成を示す図である。図3において、ポッツモデルの計算装置は、リング状の光ファイバで構成されたリング共振器1と、リング共振器1内に設けられた、PSA(位相感応増幅器)2と、リング共振器1から分岐された、フィードバックループの一部を構成する、測定部3、演算器4、外部光パルス入力部5と、ポッツ変換算出部6とを備えている。本実施形態のポッツモデルの計算装置では、測定部3と演算器4と外部光パルス入力部5とがフィードバックループを構成している。
本構成では、いわゆるイジングモデルの計算装置と同様にリング共振器1と、PSA2と、測定部3と、演算器4と、外部光パルス入力部5とを備えた構成とすることができるが、これらの構成のうち演算器4が第1演算部41と第2演算部とを有している点と、これらの構成に加えてポッツ変換算出部6を備えている点とがいわゆるイジングモデルの計算装置とは異なる部分である。
さらに本実施形態のポッツモデルの計算装置では、リング共振器1と、PSA2と、測定部3と、演算器4と、外部光パルス入力部5とのうち、演算器4以外の構成については、「ポッツモデルを構成するサイト数」に「ポッツモデルの各サイトが取り得る値を2の階乗で表したときの次数」を掛け合わせた数のサイト数を有するイジングモデル(擬似的なイジングモデル)を計算する場合と同様に構成することができる。例えば、サイト数5、各サイトが取り得る値が8であるポッツモデルを計算する場合、ポッツモデルを擬似的なイジングモデルに置き換えたときの取り得る値の次数は(8=23より)3であるので、擬似的なイジングモデルのサイト数は5×3=15となる。
PSA2は、ポッツモデルを置き換えた擬似的なイジングモデルの複数のスピンに擬似的に対応し、同一の発振周波数を有する複数の光パルスの列(光パルス列)をポンプ光源(厳密にはポンプ光パルス生成に用いる局発光)の位相に対して0またはπの位相の光を効率よく増幅する。PSA2は、例えば2次の非線形光学効果を発現する周期的分極反転ニオブ酸リチウム(periodically poled lithium niobate: PPLN)などの非線形光学結晶を用いて構成することができる。
PSA2は、シグナル光(信号光)とポンプ光(励起光)が入力されると、ポンプ光源の位相に対して0またはπの位相の微弱なパルス(アイドラ光)を発生する。PSA2では、最初にシグナル光が発生していない状態でポンプ光のみを入力した場合でも、自然放出光として微弱なパルス(雑音光パルス)を発生することができる。
PSA2では、周波数ωを有する局部発振光(LO光)を第2高調波発生器により2倍波である周波数2ωに変換したポンプ光が入力されると、(これまでポンプ光が無く、まさにポンプを入れ始めた時には)パラメトリック下方変換過程により微弱な雑音光が発生する。さらに、PSA2では、リング共振器1内を周回伝搬した光パルス列が再び入力されたとき、かかる光パルス列がシグナル光
となり、このシグナル光に完全に位相整合したポンプ光
がさらにPSA2に入力されると、2次の非線形光学効果であるOPO(光パラメトリック発振)により、シグナル光Esの位相共役波となるアイドラ光
が発生する。
このとき、シグナル光とアイドラ光の周波数が一致する場合、以下の縮退波が出力される。
この出力される縮退波は、位相共役の関係にあるシグナル光とアイドラ光との重ね合わせなので、位相が0またはπの波が効率よく増幅されることになる。こうして、PSA2では当初発生した微弱な光パルス列のうち、0またはπの位相成分が増幅されることになる。
リング共振器1は、PSA2で発生した複数の光パルス(光パルス列)を周回伝搬させる。リング共振器1は、リング状の光ファイバで構成することができ、その光ファイバの長さは、(光パルス列を構成するパルスの数)×(パルス間隔)にフィードバック処理にかかる時間分の長さを加えたものに設定される。
測定部3は、複数の光パルス(光パルス列)がリング共振器1を周回伝搬するたびに(1周回毎に)、その複数の光パルスの位相および振幅を測定する光パルス測定部として機能する。具体的には測定部3は、リング共振器1内を伝搬する光パルス列を分岐してその振幅を含めた位相状態をコヒーレント測定する。コヒーレント測定は、バランスドホモダイン検波器を用いて被測定光として入力される光パルス列の振幅と位相を測定することができる。
図4はバランスドホモダイン検波器30の構成例を示す図である。バランスドホモダイン検波器30は、測定する光パルス列と同じ周波数の位相同期した光を基準光として、光パルス列を構成する光に干渉させて、その振幅と位相状態を測定することができる。バランスドホモダイン検波器30は、ポート1およびポート2からの光を干渉させてポート3およびポート4に出力するハーフミラー31と、ポート3から出力される光を検出する第1の光検出器32とポート4から出力される光を検出する第2の光検出器33と、第1および第2の光検出器32、33の検出結果の差分を演算する差分演算部34とを有している。
ポート1には被測定光として光パルス列Esi(ωt+θ)が入力され、ポート2には、振幅と位相が既知である基準光ELoiωtが入力される。ポート1から入力された光パルス列は、ハーフミラー31において、同位相でポート3に向けて透過する成分と、位相がπだけ変化させられてポート4に向けて反射される成分に分岐する。ポート2から入力された基準光は、ハーフミラー31において、同位相でポート4に向けて透過する成分と、同位相でポート3に向けて反射される成分に分岐する。
ポート1から入力された光パルス列の同位相成分とポート2から入力された基準光の同位相成分とが干渉した出力光
がポート3から出力され、第1の検出器32では、光強度
を示す電気信号が検出される。
ポート1から入力された光パルス列の逆位相成分とポート2から入力された基準光の同位相成分とが干渉して出力光
がポート4から出力され、第2の検出器33では、光強度
で表される電気信号が検出される。
さらに、差分演算部34では、第1の検出器32における検出信号と第2の検出器33における検出信号との差分が演算されて、2ELoscosθが出力される。
したがって、基準光の振幅ELoが既知であるので、測定結果として位相のcos成分(符号のみ)と振幅を含んだ値±Eが得られることとなる。
測定結果として得られる値は、符号つきアナログ値(±E)であり、符号(±)が位相(0及びπ)を示し、アナログ値(E)が振幅を示すことになる。
図3に戻ると、演算器4は、測定した光パルスの位相および振幅に関する情報を入力として、ポッツモデルにマッピングされた結合係数および他の光パルスの位相および振幅に関する情報に基づいて、光パルスが関わる相互作用(ポッツ相互作用)を計算する。演算器4で演算される相互作用は、位相および振幅に関する情報の特定の成分のみの測定値に基づいて演算される。
本実施形態のポッツモデルの計算装置では、ポッツモデルにおけるポッツ相互作用を光スピンに実装するために、演算器4が第1演算部41と第2演算部42とを有する構成としている。ポッツモデルにおけるポッツ相互作用は、ポッツモデルを構成するサイトi(i=1、2、・・・N)の数に等しいノード数Nの2値のスピンの相互作用(第1の相互作用)と、第1の相互作用をポッツモデルの各サイトのスピンが取り得る多値の値Si(Si=0、1、2・・・M−1)の数Mを2のべき乗で表したときの次数Msだけ組み合わせた2値の値を取り得る第2の相互作用とに分解して演算される。
ポッツ相互作用を2値のスピンσim、σjm=(±1)を用いて表した式(3)は、下記式(6)に変形できる。式(6)は、第2の相互作用を式(7)の形式で表すことによって、第1の相互作用を演算するための部分と第2の相互作用を主に演算するための部分とが明確に区別された式(8)で表すことができる。
式(6)、(7)におけるJijは解こうとするポッツ問題に応じて決定される結合係数を表した行列であり、与えられた問題に応じて設定される。ポッツモデルの計算装置に解こうとするポッツ問題が入力されると、図示しない問題設定手段により、演算器4にJijが設定されると共に、PSA2で発生増幅するパルス数およびリング共振器1の長さなどが設定される。
上記式(6)から式(8)によれば、上記式(7)を計算して得られたKijに基づいて上記式(8)により演算される演算結果は、ポッツ相互作用を表しているといえる。したがって、第1演算部41により先に上記の式(7)に従って演算し、さらに第2演算部42により式(7)の演算結果を用いて式(8)に従って演算し、この式(8)の演算結果に基づいて外部光パルス入力部5により光パルス列にフィードバックが与えられることによって、第1の相互作用と第2の相互作用とをそれぞれ含むポッツ相互作用を実装することができる。
具体的には演算器4は、測定部3で測定した光パルス列の振幅と位相に関する情報(±E:以下ではcと示す)に対して、結合係数を与える(ポッツ相互作用を特定する)演算を行なう。演算器4としては第1演算部41と第2演算部42とをそれぞれ例えばFPGAで構成することができる。第1演算部41では、以下に示す式(9)に従って演算を行なう。式(9)は、式(7)のσim、σjm(デジタル値)に対応する値として光パルス列の測定結果(アナログ値)を入力するために、σim、σjmの部分に測定結果を実数で入力することができる下記の式に変形できる。
上記式(9)において、sim、sjmは光パルス列のサイン成分を表している。測定部3において光パルス列のサイン成分およびコサイン成分の両方を測定していれば、第1演算部41で式(9)によって第2の相互作用Kijを算出することができるが、本実施形態のポッツモデルの計算装置では、測定部3においてコサイン成分のみを測定しているので、第1演算部41は、上記式(9)を変形した下記式(10)に基づいて第2の相互作用Kijを算出する。
さらに第2演算部42では、第1演算部41で得られた第2の相互作用Kijを用いて、m=1からm=Msまでについて、以下に示す式(11)に従って演算を行なう。
上記式(11)においてKijは行列であるので、下記の通り表すことができる。
上式において、c1m、c2m、c3m、c4m、c5mはそれぞれ測定部3における各パルスについての測定結果のうちの(ポッツモデルを構成する全サイトに対応する)一組であり、f1m、f2m、f3m、f4m、f5mはそれぞれ演算結果として得られるポッツ相互作用である。行列の演算パラメータK12、K13、K14、K15、・・・・K53、K54は、ポッツモデルにマッピングされた結合係数(解を求めようとする問題に応じて決定される値)に対してポッツ相互作用のうちの第2の相互作用のフィードバックを乗せた値である。
上式に示すように、演算器4の第2演算部42では、測定部3における測定結果のうち、ポッツモデルを構成する全サイトに対応する一組の測定結果を要素とする列ベクトルを順次生成し、生成した列ベクトルに対して相関関係と第2の相互作用によって算出された行列を乗算する演算を行ない演算結果としてポッツ相互作用を得る。なお、ここではポッツモデルを構成するサイトの数が5の場合を例に挙げて説明しているが、ポッツモデルを構成する全サイトの数(N)に応じて用いる正方行列の大きさが決まる。正方行列は(ポッツモデルを構成する全サイトの数)×(ポッツモデルを構成する全サイトの数)の大きさとなる。なお、本実施形態においては、ポッツ問題全体では、N×Nの大きさの行列演算をMs回繰り返す必要がある。
例えば、ポッツモデルを構成する全サイトの数をNとすると、相互作用計算部は、次の(12)に示す行列の演算を行なう。
第2演算部42は、上記の行列演算を、ポッツモデルの各サイトが取り得る値によって決まる次数Msの数だけ繰り返すことによって、擬似的なイジングモデルのサイト数に等しい数の光パルス列に対するポッツ相互作用fimを演算器4による最終的な演算結果として得る。
外部光パルス入力部5は、位相および振幅の特定の成分のみ測定した光パルスの位相および振幅に基づいて演算された演算結果を用いて、リング共振器1内の光パルスに対して重ね合わされる光パルスの振幅および位相を制御することにより、光パルスが関わる相互作用の大きさおよび符号を実装する。演算結果は、位相および振幅の特定の成分のみであるので、位相および振幅の特定の成分のみの相互作用が実装されることとなる。
具体的には外部光パルス入力部5は、リング共振器1内の光パルス列と同じ周波数である光パルス列を演算器4における演算結果に比例する振幅および位相で同期して合波する。例えば、外部光パルス入力部5が、一定の周波数の外部光パルスを同期して入力することによって、リング共振器1内の光パルス列と周波数が一致したパルスを同期して入力することができる。リング共振器1内の光パルス列に対して演算結果に応じた外部光パルスを合波することにより、リング共振器1内の光パルス列に擬似的なポッツ相互作用を与えることができる。
このように外部光パルス入力部5によりフィードバック入力する構成によれば、i番目の光パルスのcos成分ci、共振器周回数n、外部光パルスの比率Pを用いて、フィードバック後の光パルス列の信号cim’(n)は以下に示す式(13)で表される。
以上の式では、リング共振器1内の光パルス列cim(n)に対して結合比率Pで外部光パルス入力部5による外部光パルス列(フィードバック入力する成分)
が合波されたものが、フィードバック後の光パルス列cim’(n)となることが示されている。
上式で示される光パルス列cim’(n)が再びPSA2に入力すると増幅されて光パルス列cim(n+1)となる。以上の構成により、ポッツモデルの計算装置では、増幅とフィードバックを繰り返しながら、光パルス列を問題に応じた安定状態に導いていくことにより、問題が設定された結合係数に対応する計算結果を得る。
ポッツ変換算出部6は、得られた計算結果を変換して解くべきポッツモデルの解を得る。ポッツ変換算出部6は、計算結果として得られた複数個のスピンの値σimを解くべき問題にマッピングし直すことによって得た値をさらに式(5)に代入して得られた値をポッツモデルの解とする。例えば、スピンの値σi1から値σiMsを解くべき問題にマッピングし直すことによって得た値を式(5)に代入することにより、ポッツモデルの解としてSi(i=1、2、、、N)を得ることが出来る。
図5は、ポッツモデルの計算装置の基本構成における処理フローである。図5に示すように、ポッツモデルの計算装置では、ポッツモデルの計算を始めるにあたって問題に応じた結合係数が設定された後、最初にPSA2に対してポンプ光が注入されると、微弱な雑音光パルス列が発生し(S1)、発生した雑音光パルス列はリング共振器1内を周回伝搬する。リング共振器1内を周回伝搬する光パルス列の一部が分岐され、測定部3によりその振幅および位相がコヒーレント測定される(S2)。
光パルス列の測定結果が得られると、演算器4において、解を求めるべき問題に応じた結合係数がマッピングされた行列によりポッツ相互作用が演算される(S4)。ポッツ相互作用は、第1演算部41によって第2の相互作用を演算した(S41)後に、第2演算部42によって第1の相互作用を演算する(S42)ことにより演算することができる。
外部光パルス入力部5は、演算器4における演算結果を受け取ると、演算結果に応じた位相と振幅を有する外部光パルスをリング共振器1に入力して、リング共振器1内の光パルス列に合波させることにより光パルス列に対するフィードバックを与える(S5)。
フィードバック後の光パルス列は、再びPSA2に入力され、光パルス列に同期したポンプ光により増幅され(S6)、再びリング共振器1内を周回伝搬する。リング共振器1内を再び伝搬する光パルス列に対して、再びコヒーレント測定、行列による演算、演算結果に応じたフィードバックが施されることが繰り返される。
このような光パルス列に対する増幅とフィードバックが所定回繰り返される(S3)と、光パルス列の状態が安定状態となる。ポッツ変換算出部6は、安定状態となることによって得られた計算結果(測定部3において得られた測定結果の位相状態である0またはπをイジングモデルのスピンσ状態(±1)に置き換えた値)を解くべき問題にマッピングし直すことによって得られた値をさらに式(5)に代入することによって、与えられたポッツ問題に対する解を得る(S7)。
本実施形態においては、リング共振器1と、PSA2と、測定部3と、演算器4と、外部光パルス入力部5とは、イジングモデルの計算装置を構成している場合を例に挙げて説明したが、イジングモデルの計算装置の構成はこれに限定されない。
(第2の実施形態)
第1の実施形態のポッツモデルの計算装置では、多値の数Mが2のべき乗2Ms(Msは自然数)で表される場合であればそのまま扱うことができたが、この式を満たさない例えばM=3などの場合は、そのままではポッツモデルの計算装置に実装することができない。本実施形態のポッツモデルの計算装置では、他の全てのノードと相関関係を有する仮想ノードを導入することにより、第1の実施形態のポッツモデルの計算装置の構成において、M=2Msを満たさない多値数の問題を計算可能としている。仮想ソードの導入は、図示しない問題調整手段によって、問題を調整することによって行われる。
本実施形態では、与えられた問題の「ノード数」と「各ノードがとり得る値」と「ノード間の相関関係」を調整して、調整した問題に応じたJijを設定する。具体的には、ノード数が「N」で各ノードのとり得る値がMという結合係数が与えられた場合、M≦2Msを満たす最小のMsで決められる2Msを各ノードが取り得る値とし、仮想のノードをDn(Dn=2Ms−M:nは自然数)個だけ定義して、これを与えられた問題のノード数(N)に加えることによって問題のノード数を(N+Dn)とする。さらに、新しく導入した仮想のノードについては他の全てのノードに対して相関関係(結合)を有するものとして、Jijのマッピングを行う。
例えば、各ノードにおける値は、結合関係にあるノードとは異なる値になるような場合、仮想のノードは他の全てのノードに対して結合を有するので、解として得られる仮想のノードの取り得る値は他の全てのノードとは異なる値となることは明らかである。したがって、仮想ノード以外のノードに残りの多値(元々問題と設定されていた多値)が割り当てられることとなる。
図6はM=2Msを満たさない多値の値Siの問題をポッツモデルの計算装置に実装する手法を説明する図である。例えば、九州地方の7県(ノード数7)を3色に塗り分ける色塗り分け問題を解く場合、多値数Mは3となり、M=2Msを満たさないので、この問題はそのまま第1の実施形態のポッツモデルの計算装置に実装することができない。
ポッツモデルの計算装置では、九州地方の7県(ノード数7)を3色に塗り分ける色塗り分け問題が入力されると、取りえる値の数はM=3≦22から4であり、仮想ノード数はDn=22−3=1なので、仮想ノードを1つ定義する。さらに、ノード数を問題として入力されたノード数より1つ(仮想ノード数)多いノード数8とし、塗りわけに用いる色を実際に用いる色よりも1色多い数の4の問題であると調整して、Jijを作成し、作成したJijを演算部4にマッピングする。このとき、図6(a)に示すように、仮想ノードは、他の全てのノードに結合したものとして相関関係Jijが作成される。図6(c)に示すように、このとき必要なグラフ数(結合係数の設定回数)はMs=2であるので2となる。
このように設定することで、図6(b)に示すように、仮想ノードには他の7つのノードとは異なる色が導かれることになる。言い換えると、塗り分けの対象であった7つのノードは、3色で塗り分けられることが判る。
1 リング共振器
2 PSA(位相感応増幅器)
3 測定部
30 バランスドホモダイン検波器
31 ハーフミラー
32 第1の光検出器
33 第2の光検出器
34 差分演算部
4 演算器
5 外部光パルス入力部
6 ポッツ変換算出部

Claims (4)

  1. 複数の光パルスを増幅するための共振器部と、ある光パルスに関わる相互作用を演算してフィードバックするフィードバック構成とを有するイジングモデルの計算装置と、ポッツ変換算出部とを用いたポッツモデルの計算装置であって、
    前記フィードバック構成は、前記ポッツモデルを構成する各サイトi(i=1、2・・・N:Nはポッツモデルを構成するサイト数)の多値スピンの取り得る値がSi=0,1,…,M−1(Mは自然数である多値数)であり、M=2Ms(Msは自然数である多値数の次数)である場合に、2値スピン間の相互作用である第1の相互作用と、前記第1の相互作用同士の2値の相互作用である第2の相互作用とに分解して演算することにより、前記複数の光パルスに実装する相互作用を算出し、
    前記ポッツ変換算出部は、前記イジングモデルの計算装置で算出された計算結果として得られた前記複数の光パルスのスピンの値σim(mは1からMsの次数を示す)を下記式に代入して得られる値Siを算出することにより、ポッツモデルにマッピングされた問題をイジングモデルを用いて算出することを特徴とするポッツモデルの計算装置。
  2. 前記共振器部は、
    イジングモデルの複数のスピンに擬似的に対応し、同一の発振周波数を有する複数の光パルスを0またはπの位相でパラメトリック発振させる位相感応増幅器と、
    前記複数の光パルスを周回伝搬させるリング共振器とを有し、
    前記フィードバック構成は、
    前記複数の光パルスが前記リング共振器を周回伝搬するたびに、前記複数の光パルスの位相および振幅を測定する、光パルス測定部と、前記光パルス測定部において測定した光パルスの位相および振幅の情報を入力として、前記イジングモデルの結合係数と前記測定した光パルスとから決定される、ある光パルスに関わる相互作用を計算する相互作用計算部と、
    前記相互作用計算部において計算された前記相互作用に基づいて、前記ある光パルスに対して、光パルスの振幅および位相を制御して重ね合せることにより、前記イジングモデルの結合係数と前記測定した光パルスの位相および振幅とに基づいて決定される前記ある光パルスに関わる相互作用を実装する相互作用実装部とを有し、
    前記光パルス測定部は、前記光パルス測定部と前記相互作用計算部と前記相互作用実装部とにより構成されるフィードバックループ制御が繰り返される過程で、前記複数の光パルスが安定状態に到達した後に測定した前記複数の光パルスの位相を、イジングモデルのスピンに変換することにより、イジングモデルのスピンの値を得ることを特徴とする請求項1に記載のポッツモデルの計算装置。
  3. 前記相互作用計算部は、前記光パルス測定部で測定した光パルスの位相および振幅の情報cim、を下記式に代入することにより第1の相互作用としてKijを演算することを特徴とする、請求項2に記載のポッツモデルの計算装置。
  4. 前記相互作用計算部は、測定したN個の光パルスの位相および振幅がc1m、c2m、c3m、c4m、・cim・c(N-1)m、cNmを要素とする列ベクトルに対し、イジングモデルの結合係数を演算パラメータとする以下に示す行列を乗算して、得られた列ベクトルの要素f1m、f2m、f3m、f4m、・fim・f(N-1)m、fNmを前記N個の光パルスに対応するN個のある光パルスに関わる相互作用としてmを1からMsまで変化させながらMs回演算することを特徴とする請求項3に記載のポッツモデルの計算装置。
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