JP2019077909A - ボロン含有ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】BNの微細粒子の析出に影響を与えるスラグ成分を考慮し高温機械強度の向上を与え得るボロン含有ステンレス鋼の製造方法の提供。【解決手段】質量%で、C:0.08〜0.40%、Cr:8〜14%を少なくとも含み、BN微細粒子を析出させ得るよう、B:0.0010〜0.0300%を含む一方でAlを0.01%以下に抑制した成分組成のボロン含有ステンレス鋼を得るための消耗電極及びスラグを用いたESR法による二次溶解法による製造方法。スラグは、質量%で、Al2O3を0.5%以下に減じ、CaO:15〜30%、SiO2:2〜6%を含むとともに、添加物としてB2O3を2%以下で含み得て、スラグ中でのメタル−スラグ反応を制御する、残部CaF2及び不可避的不純物からなるポロン含有ステンレス鋼の製造方法。【選択図】なし
Description
本発明は、消耗電極とスラグを用いた二次溶解法によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法に関し、特に、BN(ボロンナイトライド)の微細粒子による高温機械強度の向上を与え得るボロン含有ステンレス鋼の製造方法に関する。
消耗電極とスラグを用いたESR(Electro-Slag Remelting)法による鋼の二次溶解法において、消耗電極の下端で生成した滴はスラグ中を落下して、メタルプールを経て凝固し鋼塊を形成する。つまり、スラグ中でのメタル−スラグ反応を制御することで鋼塊の成分組成を調整することができる。
例えば、特許文献1では、Ti及びAlを含有する耐熱鋼のESR法による製造方法において、スラグの成分組成を調整することでTi及びAlの成分変動を抑え、成分偏析の少ないインゴットを得ようとする製造方法を開示している。スラグは、Al2O3−CaO(生石灰)−CaF2(ホタル石)系であって、CaF2に、質量%で、5%≦Al2O3≦30%、CaO≦15%を与え、更に、1%≦TiO2≦15%を与えた組成を有している。これにより、消耗電極中のTi及びAlと、スラグ中のTiO2及びAl2O3のバランスを制御できる。なお、対象とする鋼は、質量%で0.5%≦Ti≦5.0%、0.1%≦Al≦2.0%を含む成分組成である。
同様に、Bを含有する鋼のESR法による製造方法においても、スラグの成分組成を調整することが提案されている。
例えば、特許文献2では、Bを含有する耐熱鋼のESR法による製造方法において、消耗電極のSiとBの成分量に合わせてスラグ中のSiO2とB2O3の成分量を調整することで、溶鋼の成分組成中のBの成分量を制御する耐熱鋼の製造方法を開示している。かかる製造方法において用いられるスラグは、Al2O3−CaO−CaF2にフラックスとしてSiO2とともにB2O3を与えたものである。ここで、溶鋼成分とスラグ成分との間では、
3(SiO2)+4B=2(B2O3)+3Si
の反応が生じるため、SiO2の存在下ではBが酸化されて成分偏析や目標成分値からの逸脱を生じさせるとしている。そこで、スラグ中のSiO2とB2O3の成分量を所定の式を満たすように調整することで、上記反応式の両辺のバランスを制御し溶鋼中でのBの成分量を制御している。
3(SiO2)+4B=2(B2O3)+3Si
の反応が生じるため、SiO2の存在下ではBが酸化されて成分偏析や目標成分値からの逸脱を生じさせるとしている。そこで、スラグ中のSiO2とB2O3の成分量を所定の式を満たすように調整することで、上記反応式の両辺のバランスを制御し溶鋼中でのBの成分量を制御している。
BNの微細粒子を利用してクリープなどの高温機械強度の向上を与えたBを含有する耐熱鋼が知られている。かかる耐熱鋼においては、上記したようなメタル−スラグ反応におけるBの酸化物だけでなく、窒化物についても考慮する必要がある。ここで、AlやSiも、酸化物だけでなく窒化物も形成するため、BNの微細粒子の析出状態を変化させ、高温機械強度にも影響を与え得るのである。
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、消耗電極とスラグを用いた二次溶解によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法において、BNの微細粒子の析出に影響を与えるスラグ成分を考慮し高温機械強度の向上を与え得るボロン含有ステンレス鋼の製造方法を提供することにある。
本発明によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法は、質量%で、C:0.08〜0.40%、Cr:8〜14%を少なくとも含み、BN微細粒子を析出させ得るよう、B:0.0010〜0.0300%を含む一方でAlを0.01%以下に抑制した成分組成のボロン含有ステンレス鋼を得るための消耗電極及びスラグを用いた二次溶解法による製造方法であって、前記スラグは、質量%で、Al2O3を0.5%以下に減じ、CaO:15〜30%、SiO2:2〜6%を含むとともに、添加物としてB2O3を2%以下で含み得て、残部CaF2及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
かかる発明によれば、BNと窒化において競合し得るAl量を抑制させるべくスラグ成分からAl2O3量を減じたことに伴ってボロン酸化物を調整するようスラグ組成を調整し、BNを形成し得るB量を適性化できて、BN微細粒子を析出させて高温機械強度を向上させ得るボロン含有ステンレス鋼を与えるのである。
上記した発明において、前記消耗電極は、質量%で、C:0.08〜0.40%、Cr:8〜14%、Ni:2.5%以下、V:0.1〜0.3%、Co:0.5〜3.5%、Nb:0.03〜0.10%、B:0.0010〜0.0300%、及び、N:0.0100〜0.0500%、を含み、残部Fe及び不可避的不純物とするとともに、Al及びSiの含有量をそれぞれ0.010%以下及び0.10%以下に抑制した成分組成を有することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、上記したスラグ成分の範囲内でB量を適正化できて、結果として、高温機械強度を向上させ得るボロン含有ステンレス鋼を確実に与えるのである。
上記した発明において、前記消耗電極中の成分Mの質量%を[%M]、前記スラグ中の含有物Qのモル分率を{mfQ}として、前記スラグは、Y=log([%B]4/[%Si]3) X=log({mfB2O3}2/{mfSiO2}3)とすると、−4.9≦Y−X≦−4.4の範囲内となる成分組成を有することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、B量を適正化しつつ成分偏析の少ない鋼塊を与え得て、高温機械強度を向上させ得るボロン含有ステンレス鋼を与えるのである。
本発明による1つの実施例であるボロン含有ステンレス鋼の製造方法について、図1を用いて詳細を説明する。
本実施例において、得ようとするボロン含有ステンレス鋼は、質量%で、C:0.08〜0.40%、Cr:8〜14%を少なくとも含む。また、Bを0.0010〜0.0300%で含有させるとともにAlを0.01%以下に抑制したことで、鋼塊にBを分布させ、その後の処理においてBN微細粒子を粒界に析出させ得るようにして、耐クリープ特性などの高温機械強度に優れるようにすることを意図している。
このような鋼は、消耗電極とスラグを用いたESR(エレクトロスラグ再溶解)などの二次溶解法によって製造することができる。なお、二次溶解は、不活性ガスもしくは真空をベースに、アルゴンや窒素などを調整した雰囲気中で行われることが好ましい。
ここで、図1に示すように、消耗電極の材料としては、例えば鋼種A〜Dの4種類の成分組成を有する鋼を用い得る。なお、本実施例において用い得る消耗電極の材料となる鋼の成分組成としては、質量%で、C:0.08〜0.40%、Ni:2.5%以下、Cr:8〜14%、V:0.1〜0.3%、Co:0.5〜3.5%、Nb:0.03〜0.10%、B:0.0010〜0.0300%、N:0.0100〜0.0500%として含み、Alの含有量を0.01%以下、Siの含有量を0.10%以下にそれぞれ制御したものが好ましい。また、これらの鋼においては、不可避的不純物として、P、S、Cu、Pb、As、Sn、Sb、Ti、O、Hなどを含み得る。
一方、スラグは、質量%で、Al2O3を0.5%以下に減じ、CaO:15〜30%、SiO2:2〜6%、残部CaF2とした組成を有するものである。特に、Al2O3の含有量を減じたことで、二次溶解において消耗電極からの溶湯とスラグとのメタル−スラグ反応によって、メタルプール中のAl量を抑制できる。Al量を抑制することで、得られた鋼塊においてAl窒化物の生成が抑制され、Al窒化物以外の窒化物を生成するようNを残存させ、結果として、BNの形成を促進させるのである。
また、スラグには、添加物として2質量%以下でB2O3を更に含んでもよい。ここで、消耗電極中の成分Mの質量%を[%M]、スラグ中の含有物Qのモル分率を{mfQ}として、
Y=log([%B]4/[%Si]3) (式1)
X=log({mfB2O3}2/{mfSiO2}3) (式2)
とすると、−4.9≦Y−X≦−4.4の範囲内とすることが好ましい。これによって、得られる鋼塊内におけるBのばらつきを小さくし得る。そして、窒化物となり得る単体のBを鋼塊全体に均一に分布させ、B量を適正化しつつ成分偏析の少ない鋼塊を与え得ることができ、BNの微細粒子を鋼塊全体に均一に分散析出させ得るのである。
Y=log([%B]4/[%Si]3) (式1)
X=log({mfB2O3}2/{mfSiO2}3) (式2)
とすると、−4.9≦Y−X≦−4.4の範囲内とすることが好ましい。これによって、得られる鋼塊内におけるBのばらつきを小さくし得る。そして、窒化物となり得る単体のBを鋼塊全体に均一に分布させ、B量を適正化しつつ成分偏析の少ない鋼塊を与え得ることができ、BNの微細粒子を鋼塊全体に均一に分散析出させ得るのである。
かかるメタル−スラグ反応は、下記平衡式によって制御され得る。ここで、[ ]はメタル中の成分、{ }はスラグ中の成分である。
平衡の式a:4[Al]+3{SiO2}⇔2{Al2O3}+3[Si]
平衡の式b:3[Si]+2{B2O3}⇔3{SiO2}+4[B]
平衡の式c:2[Al]+{B2O3}⇔{Al2O3}+2[B]
平衡の式a:4[Al]+3{SiO2}⇔2{Al2O3}+3[Si]
平衡の式b:3[Si]+2{B2O3}⇔3{SiO2}+4[B]
平衡の式c:2[Al]+{B2O3}⇔{Al2O3}+2[B]
本実施例においては、スラグにおけるAl2O3の含有量を減じたため、平衡の式a及びcは右辺に向けて進行しやすくなる。つまり、メタル中ではAlを減じてB及びSiを増加させやすい。そして、平衡の式bに示すように、スラグ中の酸化物B2O3及びSiO2によってメタル中のSi及びBをバランスさせるのである。
以上のようなボロン含有ステンレス鋼の製造方法によって、鋼塊にBを分布させて、BNの微細粒子を析出させ得るようにして、高温機械強度の向上を可能とする。すなわち、BNと窒化において競合するAl量を抑制させるよう、スラグ成分についてAl2O3の含有量を減じ、これに伴ってボロン酸化物を調整可能なスラグ組成とするのである。
[実施例]
以下、上記した消耗電極及びスラグを用いた二次溶解法によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法によって鋼塊を製造した結果について、図1乃至図4を用いて説明する。
以下、上記した消耗電極及びスラグを用いた二次溶解法によるボロン含有ステンレス鋼の製造方法によって鋼塊を製造した結果について、図1乃至図4を用いて説明する。
ここでは、図1に示すように、代表成分である鋼種A〜Dを消耗電極の材料として用いた。
図2に示すように、各鋼種A〜Dによる消耗電極と、各スラグ組成を有するスラグとを用いた実施例1〜7及び比較例1によって、それぞれ二次溶解法で鋼塊を製造した。
図3には鋼塊を製造した結果として、製造に用いた電極及びスラグの組成に関する上記した式1によるXの値、式2によるYの値、及び、Y−Xの値と、得られた鋼塊中におけるBのばらつき及びAlの含有量を示した。Bのばらつきについては、鋼塊のTop側、中央、Bottom側からそれぞれサンプルを切り出してBの含有量を定量し、それらの最大値から最小値を減じてこれを平均値で除した上で、百分率で示した。
実施例1〜7、比較例1で得られた全ての鋼塊において、Alの含有量は0.002%と少なかった。つまり、スラグのAl2O3の含有量を減じたことで、得られる鋼塊のAlの含有量を抑制できている。しかし、比較例1においては、Bのばらつきが75%を超えてしまい、BN微細粒子の析出が不安定になってしまった。例えば、実施例7もBのばらつきを66%と比較的大きくしているが、スラグの組成において比較例1とは異なる。比較例1では、スラグのSiO2の含有量を0.8質量%と少なくしたことがBのばらつきを特に大きくした原因であると考えられる。
ここで、図4を併せて参照すると、実施例1〜7、比較例1のそれぞれについて(X,Y)をグラフにプロットした。Bのばらつきの小さな実施例1〜6は上記したY−Xの値を−4.9以上かつ−4.4以下の範囲内としている。これに対し、Bのばらつきの比較的大きな実施例7と、ばらつきの非常に大きな比較例1では、Y−Xの値がその範囲外となっていることが判る。つまり、消耗電極の合金及びスラグの組成は、上記した式1及び式2に基づいて−4.9≦Y−X≦−4.4となるように調整されることが好ましく、これによって成分偏析の少ない鋼塊を得られ、鋼塊中のBのばらつきを小さくし得るのである。
なお、消耗電極に用いた鋼種A〜Dは、それぞれ成分組成に差異を有するが、得られる鋼塊中のBのばらつきに関しては同等の成分組成を有している。例えば、鋼種Dは比較例1にのみ用いられているが、消耗電極の鋼種の成分組成から算出されるYの値を他の鋼種A〜Cと同等としている。つまり、比較例1においてBのばらつきを大きくした主な原因は、消耗電極の成分組成ではなくスラグの組成にあると言える。
ところで、上記したボロン含有ステンレス鋼の製造方法に用いられるスラグの組成範囲は以下のように定められる。
CaOは、精錬能の確保のために15質量%以上とし、鋼塊肌を良好に保ち歩留まりの悪化を防ぐために30質量%以下とした。
Al2O3は、得られる鋼塊においてAlの含有量を0.01質量%以下に抑制するために可能な限り少なくすることが望ましく、不可避的不純物として0.5質量%までの含有を許容することとした。
SiO2は、Bの歩留まりを確保するため2質量%以上とし、SiO2の量によって添加すべき量の増加するB2O3を少なくしてコストの悪化を避けるように6質量%以下とした。
B2O3は、Bの歩留まりを確保するために2質量%以下で添加してもよい。
CaFは、粘性の増大を避けるため30質量%以上とすることが好ましい。なお、上記した他の成分の残部としてスラグに配合されるため30質量%以上は確保される。一方、消費電力の増加を避けるべく比抵抗の低下を防止するために78質量%以下とすることが好ましい。
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるであろう。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.08〜0.40%、Cr:8〜14%を少なくとも含み、BN微細粒子を析出させ得るよう、B:0.0010〜0.0300%を含む一方でAlを0.01%以下に抑制した成分組成のボロン含有ステンレス鋼を得るための消耗電極及びスラグを用いた二次溶解法による製造方法であって、
前記スラグは、質量%で、Al2O3を0.5%以下に減じ、CaO:15〜30%、SiO2:2〜6%を含むとともに、添加物としてB2O3を2%以下で含み得て、残部CaF2及び不可避的不純物からなることを特徴とするボロン含有ステンレス鋼の製造方法。 - 前記消耗電極は、質量%で、
C:0.08〜0.40%、
Cr:8〜14%、
Ni:2.5%以下、
V:0.1〜0.3%、
Co:0.5〜3.5%、
Nb:0.03〜0.10%、
B:0.0010〜0.0300%、及び、
N:0.0100〜0.0500%、を含み、
残部Fe及び不可避的不純物とするとともに、Al及びSiの含有量をそれぞれ0.010%以下及び0.10%以下に抑制した成分組成を有することを特徴とする請求項1記載のボロン含有ステンレス鋼の製造方法。 - 前記消耗電極中の成分Mの質量%を[%M]、前記スラグ中の含有物Qのモル分率を{mfQ}として、
前記スラグは、
Y=log([%B]4/[%Si]3)
X=log({mfB2O3}2/{mfSiO2}3)とすると、
−4.9≦Y−X≦−4.4
の範囲内となる成分組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のボロン含有ステンレス鋼の製造方法。
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