JP2019070230A - 鋼桁橋 - Google Patents

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Abstract

【課題】経済性および耐震性に優れた鋼桁橋を提供する。【解決手段】上フランジとウェブと下フランジとを有するI形断面部材を複数備えた鋼桁と、該鋼桁の上方に位置するコンクリート床版とを具備した鋼桁橋であって、前記鋼桁は、前記I形断面部材の下方に、ウェブと下フランジとを有する逆T形断面部材を備え、該逆T形断面部材の引張強度が前記I形断面部材の引張強度よりも高いことを特徴とする鋼桁橋。【選択図】図2

Description

本発明は、鋼桁橋に関するものである。
鋼桁橋等の鋼構造物に関して、超高層ビルや物流倉庫における鉄骨部材断面の大型化に伴い、H形断面の鉄骨梁において高強度の鋼材が使用されるケースが増加している。
例えば、降伏強度の異なるフランジとウェブとを接合させて形成されたH形断面の鉄骨梁として、特許文献1、2に開示されるハイブリッドH形鋼が提案されている。
特許文献1に開示されたハイブリッドH形鋼は、図13に示すように、フランジ82を軟鋼とするとともに、ウェブ81を高張力鋼としたものである。このハイブリッドH形鋼は、大きな荷重が作用し、フランジ82が降伏し始めた後も、ウェブ81が弾性範囲内にあることで、フランジ82の局部変形が拘束されるというものである。
特許文献2に開示されたハイブリッドH形鋼91は、図14に示すように、降伏強度f1のT形鋼92と降伏強度f2のウェブ板93とを溶接Wにより接合して形成される桁高LのハイブリッドH形鋼であり、f1>f2となるものである。このハイブリッドH形鋼91は、T形鋼92の高さL1が、L1≧(f1−f2)×L/(2×f1)となるように設定されることで、フランジ95が降伏する前にウェブ96に降伏が生じないようにするというものである。なお、T形鋼92には、圧延T形鋼又はカットT形鋼が用いられる。
また、塗り替えなどの保守点検作業を極力少なくし得る橋梁として、異種鋼材を組み合わせた断面を有する鋼橋構造が特許文献3に開示されている。
特許文献3に開示された鋼橋構造は、図15に示すように、風雨に曝されて錆が発生する橋桁102の外面部材(主桁材111、底板材112等)に、ステンレス鋼材を使用するとともに、この外面部材の内部に配置される補強部材(帯状リブ板121等)に、一般構造用鋼材を使用して、ハイブリッド構造としている。本当に塗装の塗り替えを必要とする部分だけに、高価なステンレス鋼材を使用し、他の補強部材に、安価な一般構造用鋼材を使用したので、コストの増加を抑制しつつ、保守点検の回数を減らすことができるというものである。
特開平4−269249号公報 特開2008−297839号公報 特開2003−20615号公報
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の技術には、下記のような問題点があった。
まず、特許文献1に開示されたハイブリッドH形鋼は、ウェブ81をフランジ82に比べて高強度にして、大きな荷重に耐えられるようにしたものであるが、鋼橋構造のように、曲げモーメントに対する耐力(曲げ耐力)が要求される場合、曲げ耐力に大きく寄与するフランジ82の強度が低いことは、使用する上で大きな問題点になる。
次に、特許文献2に開示されたハイブリッドH形鋼91は、T形鋼92とウェブ板93の降伏強度に大きな差がある場合(f1>>f2)に、T形鋼92のウェブ高さL1が大きくなるものとなり、全断面に高強度鋼が用いられたH形鋼に近似することから、不経済となるという問題点があった。また、ウェブ96における部材軸方向の溶接線が2か所必要となるため、製作コストが嵩み、不経済となるという問題点があった。しかも、ウェブ96における部材軸方向の溶接線が2か所必要となるため、1つのウェブパネル内の残留応力分布が溶接熱の影響で複雑となり、強度設計の信頼性が損なわれるという問題点があった。
次に、特許文献3に開示されたハイブリッド構造は、腐食抵抗力が高いステンレス製鋼板を構造外面に使用する腐食耐久性を高めることを目的としたハイブリッド構造であり、構造物の強度を合理的に向上させることを目的としたものではない。そのため、桁鋼重を低減させる効果が無く、経済性および耐震性が向上しないという問題点があった。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、経済性および耐震性に優れた鋼桁橋を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有している。
[1]上フランジとウェブと下フランジとを有するI形断面部材を複数備えた鋼桁と、該鋼桁の上方に位置するコンクリート床版とを具備した鋼桁橋であって、
前記鋼桁は、前記I形断面部材の下方に、ウェブとフランジとを有する逆T形断面部材を備え、該逆T形断面部材の引張強度が前記I形断面部材の引張強度よりも高いことを特徴とする鋼桁橋。
[2]上フランジとウェブと下フランジとを有するI形断面部材を複数備えた鋼桁と、該鋼桁の上方に位置するコンクリート床版とを具備した鋼桁橋であって、
前記鋼桁は、前記I形断面部材の下方に、2個のウェブと1個のフランジとを有する逆Π形断面部材を備え、該逆Π形断面部材の引張強度が前記I形断面部材の引張強度よりも高いことを特徴とする鋼桁橋。
[3]前記I形断面部材において、ウェブの板厚をt、ウェブの高さをh、ウェブの静弾性係数をE、ウェブの降伏強度をfy、ウェブのポアソン比をν、安全率をsFとしたとき、
t/h≧(12(1−ν2)/π2E・sFfy/23.9)1/2
であることを特徴とする前記[1]に記載の鋼桁橋。
[4]前記I形断面部材において、ウェブの板厚をt、ウェブの高さをh、ウェブの静弾性係数をE、ウェブの降伏強度をfy、ウェブのポアソン比をν、安全率をsFとしたとき、
t/h≧(12(1−ν2)/π2E・sFfy/23.9)1/2
であることを特徴とする前記[2]に記載の鋼桁橋。
[5]前記逆T形断面部材において、ウェブの板厚をt1、ウェブの高さをh1、ウェブの静弾性係数をE1、ウェブの降伏強度をfy1、ウェブのポアソン比をν1、安全率をsF1としたとき、
1/h1≧(12(1−ν1 2)/π21・sF1fy1/23.9)1/2
であることを特徴とする前記[1]または[3]に記載の鋼桁橋。
[6]前記逆Π形断面部材において、ウェブの板厚をt2、ウェブの高さをh2、ウェブの静弾性係数をE2、ウェブの降伏強度をfy2、ウェブのポアソン比をν2、安全率をsF2としたとき、
2/h2≧(12(1−ν2 2)/π22・sF2fy2/23.9)1/2
であることを特徴とする前記[2]または[4]かに記載の鋼桁橋。
[7]当該鋼桁橋の断面中立軸位置よりも下方まで床版コンクリートが打設されていることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載の鋼桁橋。
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の鋼桁橋において、前記I形断面部材に用いられることを特徴とするI形鋼。
[9]前記[1]、[3]、[5]のいずれかに記載の鋼桁橋において、前記逆T形断面部材に用いられることを特徴とするT形鋼。
[10]前記[1]、[3]、[5]のいずれかに記載の鋼桁橋において、前記I形断面部材と前記逆T形断面部材を構成する形鋼であって、I形鋼のフランジ外面にT形鋼のウェブ端部が接合されていることを特徴とする組合せ形鋼。
本発明によれば、経済性および耐震性に優れた鋼桁橋を得ることができる。
本発明の実施形態における鋼桁橋の全体図である。 本発明の実施形態1における鋼桁橋を示す断面図と応力分布図である。 本発明の実施形態1において、コンクリート床版と鋼桁とが接合されていない鋼桁橋を示す図である。 本発明の実施形態1において、コンクリート床版と鋼桁とが接合されている鋼桁橋を示す図である。 本発明の実施形態1において、鋼桁橋の断面中立軸位置よりも下方まで床版コンクリートが打設されている鋼桁橋を示す図である。 本発明の実施形態1における鋼桁橋の上方からの斜視図である。 本発明の実施形態1における鋼桁橋の下方からの斜視図である。 本発明の実施形態1における鋼桁橋のバリエーションを示す図である。 本発明の実施形態1における鋼桁橋のバリエーションを示す図である。 本発明の実施形態2における鋼桁橋を示す断面図と応力分布図である。 本発明の実施形態2における鋼桁橋の上方からの斜視図である。 本発明の実施形態3における鋼桁橋を示す断面図と応力分布図である。 従来技術(特許文献1)の概略図である。 従来技術(特許文献2)の概略図である。 従来技術(特許文献3)の概略図である。
本発明の実施形態(実施形態1〜3)を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態1〜3における鋼桁橋20の全体図である。図1に示すように、この鋼桁橋20は、コンクリート床版1、橋台2、橋脚3、沓4、鋼桁5、鋼桁5に設置した支点垂直補剛材7を具備している。
そして、以下の実施形態1〜3においては、コンクリート床版1と鋼桁5の構成について述べる。
[実施形態1]
図2は、本発明の実施形態1における鋼桁橋21を示す図であり、図2(a)は断面図、図2(b)は応力分布図である。
図2(a)に示すように、この実施形態1における鋼桁橋21、上フランジ5aとウェブ5bと下フランジ5cとを有するI形断面部材5Aを複数備えた鋼桁5と、鋼桁5の上方に位置するコンクリート床版1とを具備しており、鋼桁5は、I形断面部材5Aの下方に、ウェブ5dと下フランジ5eとを有する逆T形断面部材5Bを備えている。そして、逆T形断面部材5B(ウェブ5d、下フランジ5e)の引張強度をI形断面部材5A(上フランジ5a、ウェブ5b、下フランジ5c)の引張強度よりも高くしている。
なお、コンクリート床版1にはハンチ部1cも含まれる。また、コンクリート床版1中には鉄筋1bが埋設されている。図2(a)では鋼桁5が2つある場合を示しているが、鋼桁5は2つに限定されるものではなく複数であれば良い。コンクリート床版1と鋼桁5とは、スラブアンカー、スタッドジベル、馬蹄形ジベル、あるいは孔あき鋼板ジベルで接合するのが好ましい。
図2(b)中のNは鋼桁橋21の断面中立軸であり、Sは橋軸方向の作用応力分布である。作用応力分布Sの上方の三角形部分は圧縮応力領域、作用応力分布Sの下方の三角形部分は引張応力領域であり、コンクリート床版1と鋼桁5とを強固に接合した完全合成桁橋の場合を示している。コンクリート床版1の強度、コンクリート床版1の厚さやハンチ1cの高さ、コンクリート床版1の鉄筋量等の断面諸量を調整することで、鋼桁5を橋軸方向に全断面引張応力状態とすることができる。その結果、鋼桁5の橋軸方向座屈を考慮しない高許容応力度の設定で設計を行うことができる。逆T形断面部材5Bに発生する引張応力は、I形断面部材5Aに発生する引張応力よりも大きく、逆T形断面部材5BにI形断面部材5Aよりも引張強度が高い鋼材を用いているので、鋼材の断面積を減らすことができ、力学的および経済的に合理的な構造となる。A1がI形断面部材5Aの許容応力度、A2が逆T形断面部材の許容応力度を示しており、(A2の許容応力度の絶対値)>(A1の許容応力度の絶対値)となるよう鋼種を選定することにより、I形断面部材5Aのウェブ5bおよび下フランジ5cの板厚を減らすことができる。なお、逆T形断面部材5Bには、圧延T形鋼又はカットT形鋼が用いることが望ましい。
さらに、I形断面部材5Aにおいて、ウェブ5bの板厚をt、ウェブ5bの高さをh、ウェブ5bの静弾性係数をE、ウェブ5bの降伏強度をfy、ウェブ5bのポアソン比をν、安全率をsFとしたとき、曲げに対して局部座屈しないための条件式から導かれる下記(1)式を満足させれば、ウェブ5bの座屈が抑制される。
t/h≧(12(1−ν2)/π2E・sFfy/23.9)1/2 ・・・(1)
すなわち、上記(1)式を満足するI形断面部材5Aの鋼桁を用いれば、ウェブ5bに水平補剛材を設置しなくとも、より安全でより経済的な鋼桁橋を追及することができる。
また、逆T形断面部材5Bにおいて、ウェブ5dの板厚をt1、ウェブ5dの高さをh1、ウェブ5dの静弾性係数をE1、ウェブ5dの降伏強度をfy1、ウェブ5dのポアソン比をν1、安全率をsF1としたとき、曲げに対して局部座屈しないための条件式から導かれる下記(2)式を満足させれば、ウェブ5dの座屈が抑制される。
1/h1≧(12(1−ν1 2)/π21・sF1fy1/23.9)1/2 ・・・(2)
すなわち、連続桁の支点上の断面では、I形断面部材5Aの下フランジ5cが圧縮領域となり、必然、その下方の逆T形断面部材5Bのウェブ5dも圧縮領域となり、座屈の可能性が高まる。このとき、上記(2)式を満足させれば、より安全でより経済的な鋼桁橋を追及することができる。
次に、図3は、コンクリート床版1と鋼桁5とが接合されていない場合の鋼桁橋21を示す図であり、図3(a)は断面図、図3(b)は応力分布図である。図3中のN1はコンクリート床版1の断面中立軸であり、N2は鋼桁5の断面中立軸である。また、S1はコンクリート床版1の橋軸方向の作用応力分布であり、作用応力分布S1の上方の三角形部分は圧縮応力領域であり、作用応力分布S1の下方の三角形部分は引張応力領域である。S2は鋼桁5の橋軸方向の作用応力分布であり、作用応力分布S2の上方の三角形部分は圧縮応力領域であり、作用応力分布S2の下方の三角形部分は引張応力領域である。すなわち、非合成桁橋の作用応力分布となる。コンクリート床版1の下面に引張応力が作用し、この引張応力によるコンクリートのひび割れを考慮しなければならない。また、鋼桁高が高くなる場合、鋼桁5の断面上方には、大きな圧縮応力が作用する。これに伴うI形断面部材5Aのウェブ5bの座屈を、上記の(1)式を満足させずに防止するには、図3(a)に示すように、ウェブ5bに水平補剛材6を設置する方法がある。
一方、図4は、コンクリート床版1と鋼桁5とが接合されている場合の鋼桁橋21を示す図であり、図4(a)は断面図、図4(b)は応力分布図である。コンクリート床版1と鋼桁5とを完全に固着させれば、図2(b)に示したようなコンクリート床版1の断面中立軸位置と鋼桁5の断面中立軸位置とが一致する完全合成桁橋となるのに対し、低剛度のシアコネクタを用いた場合やシアコネクタ間隔が大きい場合には、コンクリート床版1の断面中立軸位置と鋼桁5の断面中立軸位置とは一致しない不完全合成桁橋となる。このとき、鋼桁5の断面中立軸の位置は、非合成桁橋の場合の鋼桁5の断面中立軸位置と完全合成桁橋の場合の断面中立軸位置の間で、シアコネクタの剛度や間隔に応じて移動する。
すなわち、鋼桁5とコンクリート床版1とをせん断力を伝達するシアコネクタにより強固に接合されれば、断面が一体挙動し、少なくともコンクリート床版1上面が圧縮側となる正曲げ作用時においては、鋼桁橋5の断面中立軸位置が、鋼桁5とコンクリート床版1とがシアコネクタにより強固に接合されていない場合に比べ、コンクリート床版1側に移動する。その結果、I形断面部材5Aのウェブ5bの面内圧縮領域が減少し、ウェブ5bの座屈が抑制され、鋼桁橋21の曲げ耐力の上昇に繋がる。
また、鋼桁5とコンクリート床版1とをシアコネクタにより接合し、コンクリート床版1の強度、コンクリート床版1の厚さやハンチ1cの高さ、コンクリート床版1の鉄筋量、あるいはシアコネクタの剛度および設置間隔を調整することにより、鋼桁橋21の断面中立軸位置をI形断面部材5Aのウェブ5b上端よりコンクリート床版1側に置くことができる。その結果、鋼桁5断面には軸方向引張力が作用し、鋼桁5の面内座屈による抵抗力低下が生じ得ないため、鋼桁橋21の曲げ耐荷力の上昇に繋がる。ただし、その代わりにI形断面部材5Aの下フランジ5c側にはより厳しい軸方向引張応力が作用する。これに抵抗させるために、I形断面部材5Aより引張強度が高い逆T型断面部材5Bを設置し、効率的な曲げ耐力向上に繋げている。
また、図5は、鋼桁橋21の断面中立軸Nの位置よりも下方まで床版コンクリートを打設した場合を示す図であり、図5(a)は断面図、図5(b)は応力分布図である。図5(b)に示すように、鋼桁橋断面内には軸方向応力が作用しており、作用応力分布Sの上方の三角形部分は圧縮応力領域であり、作用応力分布Sの下方の三角形部分は引張応力領域である。図5では、圧縮領域の鋼桁5部分において生じ得る座屈現象を、コンクリートで被覆することにより防止している。
すなわち、コンクリート床版1の強度、コンクリート床版1の厚さやハンチ1cの高さ、コンクリート床版1の鉄筋量、あるいはシアコネクタの剛度および設置間隔を調整することにより、鋼桁橋の5の断面中立軸位置をI形断面部材5Aのウェブ5b上端よりコンクリート床版1側に置くことが困難である場合、床版コンクリートを鋼桁橋21の断面中立軸位置Nよりも下方まで打ちおろせば、I形断面部材5Aのウェブ5bの面内圧縮領域の座屈を防止でき、鋼桁橋21の曲げ耐力の上昇に繋がる。
なお、たとえ圧縮領域であっても断面中立軸N位置近傍の圧縮応力は小さく、座屈発生応力度以下の圧縮応力であることが担保されていれば圧縮領域の鋼桁部分をコンクリートで被覆しなくても良い。
そして、図6と図7は、実施形態1における鋼桁橋21について、それぞれ上方からの斜視図と下方からの斜視図である。図6、7において、8は水平補剛材、10は横繋ぎ材である。横力が作用する場合には、別途、鋼桁5の下部にトラス状の横構を設けることが望ましい。
さらに、図8と図9は、実施形態1における鋼桁橋21のバリエーションを示す断面図である。
図8においては、I形断面部材5Aの上フランジ5aをコンクリート床版1のハンチ部1cに沿うように曲げ加工を施している。これにより、コンクリート床版1の施工時にコンクリート型枠から漏れ出したセメントミルクが鋼桁5に付着するのを防ぐことができる。例えば鋼桁5が耐候性鋼を適用した無塗装の鋼桁である場合、セメントミルクの鋼桁5への付着がその後の腐食耐久性および美観に悪影響を与えるのに対し、I形断面部材5Aの上フランジ5aが下フランジ5cの自由端よりも床版幅方向に長いため、上フランジ5a端部から滴り落ちるセメントミルクは下フランジ5c上面を汚さず腐食耐久性および美観の低下を防ぐ。
図9においては、図8に示したことに加えて、コンクリート床版1の底面を底鋼板11で覆っている。これによって、より一層コンクリート床版施工時のセメントミルクやコンクリート塊の鋼桁への付着を防ぐことができる。
なお、I形断面部材5AにはI形鋼を用い、逆T形断面部材5BにはT形鋼を用いることができる。さらに、I形断面部材5Aと逆T形断面部材を構成する形鋼として、I形鋼のフランジ外面にT形鋼のウェブ端部が接合されている組合せ形鋼を用いることができる。
[実施形態2]
図10は、本発明の実施形態2における鋼桁橋22を示す図であり、図10(a)は断面図、図10(b)は応力分布図である。
図10(a)に示すように、この実施形態2における鋼桁橋22の基本的な構成は、上記の実施形態1における鋼桁橋21と同じである。そして、実施形態1における鋼桁橋21では、鋼桁5が、I形断面部材5Aの下方に、ウェブ5dと下フランジ5eとを有する逆T形断面部材5Bを備えているのに対して、この実施形態2における鋼桁橋22では、鋼桁5が、I形断面部材5Aの下方に、2個のウェブ5f、5fと1個の下フランジ5gとを有する逆Π形断面部材5Cを備えている点が異なっている。これに伴って、逆Π形断面部材5C(ウェブ5f、下フランジ5g)の引張強度をI形断面部材5A(上フランジ5a、ウェブ5b、下フランジ5c)の引張強度よりも高くしている。なお、ここでは、逆Π形断面部材5Cの下フランジ5gに補剛材5hを設置している。
また、逆Π形断面部材5Cにおいて、ウェブ5fの板厚をt2、ウェブ5fの高さをh2、ウェブ5fの静弾性係数をE2、ウェブ5fの降伏強度をfy2、ウェブ5fのポアソン比をν2、安全率をsF2としたとき、曲げに対して局部座屈しないための条件式から導かれる下記(3)式を満足させれば、ウェブ5fの座屈が抑制される。
2/h2≧(12(1−ν2 2)/π22・sF2fy2/23.9)1/2 ・・・(3)
そして、図11は、実施形態2における鋼桁橋22の上方からの斜視図である。図11において、8は水平補剛材、9はダイヤフラムである。
ちなみに、その他の構成については、上述の実施形態1で述べた構成を採用することができる。
[実施形態3]
図12は、本発明の実施形態3における鋼桁橋23を示す図であり、図12(a)は断面図、図12(b)は応力分布図である。
図12(a)に示すように、この実施形態3における鋼桁橋23の基本的な構成は、上記の実施形態2における鋼桁橋22と同じである。そして、実施形態2における鋼桁橋22では、I形断面部材5Aと逆Π形断面部材5Cからなる箱断面5Dが1個であるのに対して、この実施形態3における鋼桁橋23では、I形断面部材5Aと逆Π形断面部材5Cからなる箱断面5Dが2個である点が異なっている。なお、箱断面5Dは2個に限定されるものではなく3個以上あってもよい。
ちなみに、その他の構成については、上述の実施形態1、2で述べた構成を採用することができる。
このような本発明の実施形態1〜3を包括的に述べると以下の如くとなる。
単純桁や連続桁の中央支間においては、I形断面部材5Aの下フランジ5cに軸方向引張力が作用する。一方、連続桁の支点上においては、I形断面部材5Aの下フランジ5cに軸方向圧縮力が作用する。これに対して、本発明の実施形態1〜3によれば、I形断面部材5Aの下フランジ5cに軸方向引張力が作用する場合においても、軸方向圧縮力が作用する場合においても、鋼桁橋の曲げ耐力を合理的に向上させることができる。すなわち、I形断面部材5Aの下フランジ5cに軸方向引張力が作用する場合においては、鋼桁重量を最小限に抑えつつ曲げ耐力を増加させることができ、I形断面部材5Aの下フランジ5cに軸方向圧縮力が作用する場合においては、下フランジ5cを補剛し、座屈を防止することができる。
鋼桁橋の支間が長くなると、自重の増加により鋼桁橋に作用する曲げモーメントが増加する。作用曲げモーメントに対する抵抗力を増やすには、鋼桁5の高さの増加が最も効率が良い。一般的に鋼桁5の高さが高くなるとウェブ5bが座屈し易くなる。ウェブ5bが座屈すると下フランジ5c部分の抵抗力を増しても抵抗部材として機能しないため、曲げ耐荷力の増加を見込めない。そこで、ウェブ5bの座屈耐荷力を向上させるためには水平補剛材の設置が考えられるが、本発明の実施形態1〜3では、I形断面部材5Aと逆T形断面部材5Bの各組合せあるいはI形断面部材5Aと逆Π型断面部材5Cの各組合せで鋼桁5断面を構成しているため、I形断面部材5Aの下フランジ5cが水平補剛材の役目を代替する。すなわち、I形断面部材5Aのウェブ5bの高さを水平補剛材の設置が不要な高さに留めておき、I形断面部材5Aのみでは曲げ耐力が不足する分を逆T形断面部材5Bあるいは逆Π形断面部材5Cで補えば、合理的な断面を構成できる。
その結果、本発明の実施形態1〜3においては、以下のような効果を得ることができる。
(ア)鋼桁5について、大きな応力が作用する部位(逆T形断面部材5B、逆Π型断面部材5C)のみ高強度材を適用するハイブリッド桁とすることにより、鋼桁重量を低減させ、経済性および耐震性に優れた鋼桁橋を得ることができる。
(イ)ウェブパネル内で突合せ溶接を行わないため、パネル周辺にのみ溶接熱が導入され、ウェブパネルの残留応力分布を容易に算出でき、強度設計の信頼性が高い。また、突合せ溶接を行う必要が無いため、溶接部の加工費用を縮減でき、経済的である。
(ハ)上記(1)を満足するI形断面部材5Aを板厚に応じて準備しておく。例えば、板厚が9mm、12mm、16mm等、桁支間・床板支間に応じて鋼重量が最小化できるウェブ高さのI形断面部材5Aを数種類標準化し、予め製作あるいは圧延しておく。また、逆T形断面部材5Bは、I形断面部材部材5Aよりも引張強度が高く、ウェブ5fの板厚がI形断面部材5Aのウェブ5bの厚さと同じ、かつウェブ5dの高さが下フランジ5eの幅よりも高くI形断面部材5Aのウェブ5bの高さよりも低い断面のものを数種類標準化し、予め製作あるいは圧延しておく。I形断面部材5Aの下フランジ5cに逆T形断面部材5Bのウェブ5dを溶接することにより、桁支間・床板支間に応じて鋼重量が小さく経済性の高い鋼桁5を、短期間で提供することができる。ここで、逆T形断面部材5Bのウェブ5dを必要な高さに切断することにより、鋼重量が最小となる鋼桁5をより短期間で提供することができる。すなわち、ストック部材の標準化により、短期間に製品を調達できる経済性の高い鋼桁橋の提供が実現できる。逆T形断面部材5Bの代わりに逆Π形断面部材5Cを用いた場合も同様のことが言える。
なお、一般的なI桁橋(I形鋼を用いた鋼桁橋)において、曲げ耐力に対して大きく寄与するフランジに高強度鋼を適用すれば桁の曲げ耐力はある程度は増大するが、強度の高いフランジが降伏する前に、強度の低いウェブのフランジ近傍で早期に降伏することとなり、曲げ耐力を十分に増大させることができない。高強度のフランジの抵抗力を十分に発揮させるために、ウェブがフランジよりも先に降伏しないための検討を行ったものが本発明である。
ここでは、本発明例1〜3として、上記の本発明の実施形態1〜3における鋼桁橋21〜23の諸元を示す。ちなみに、鋼桁橋21〜23の諸元については、橋梁の種類、規模等に応じて種々異なるが、その一例は次の通りである。
(本発明例1:本発明の実施形態1における鋼桁橋21)
コンクリート床版1の幅が6m、厚さが28cm、ハンチ高が5cm、鉄筋径が22mm、鋼桁5間隔が4mである。鋼桁5高さは1.45mで、I形断面部材5Aの上フランジ5a厚が12mm、上フランジ5a幅が300mm、I形断面部材5aのウェブ5b厚が9mm、ウェブ5b高さが1m、I形断面部材5Aの下フランジ5c厚が19mm、下フランジ5c幅が400mm、逆T形断面部材5Bのウェブ5d厚が9mm、ウェブ5d高さが0.4m、逆T形断面部材5Bの下フランジ5e厚が19mm、下フランジ5e幅が400mmである。そして、I形断面部材5AがSM490Y材、逆T形断面部材5BがSBHS500材で構成されている。
(本発明例2:本発明の実施形態2における鋼桁橋22)
コンクリート床版1の幅が7m、厚さが30cm、ハンチ高が5cm、鉄筋径が25mm、鋼桁5間隔が5mである。鋼桁5高さは2.0mで、I形断面部材5Aの上フランジ5a厚が16mm、上フランジ5a幅が300mm、I形断面部材5Aのウェブ5b厚が10mm、ウェブ5b高さが1.1m、I形断面部材5Aの下フランジ5c厚が22mm、下フランジ5c幅が400mm、逆Π形断面部材5Cのウェブ5f厚が10mm、ウェブ5f高さが0.84m、逆Π形断面部材5Cの下フランジ5g厚が22mm、フランジ5g幅が5.4m、逆Π形断面部材5Cのフランジ補剛材5h厚が9mm、フランジ補剛材5h高さが100mmである。そして、I形断面部材5AがSBHS500材、逆Π形断面部材5CがSBHS700材で構成されている。
(本発明例3:本発明の実施形態3における鋼桁橋23)
コンクリート床版1の幅が10m、厚さが28cm、ハンチ高が5cm、鉄筋径が22mm、鋼桁5間隔が2.5mである。鋼桁5高さは2.5mで、I形断面部材5Aの上フランジ5a厚が16mm、上フランジ5a幅が300mm、I形断面部材5Aのウェブ5b厚が12mm、ウェブ5b高さが1.4m、I形断面部材の下フランジ5c厚が22mm、下フランジ5c幅が400mm、逆Π形断面部材5Cのウェブ5f厚が12mm、ウェブ5f高さが1.04m、逆Π形断面部材5Cの下フランジ5g厚が22mm、下フランジ5g幅が2.9m、逆Π形断面部材5Cのフランジ補剛材5h厚が9mm、フランジ補剛材5h高さが100mmである。そして、I形断面部材5AがSM490Y材、逆Π形断面部材5CがSBHS500材で構成されている。
1 コンクリート床版
1b 主鉄筋
1c 床版ハンチ部
2 橋台
3 橋脚
4 沓
5 鋼桁
5A I形断面部材
5a I形断面部材の上フランジ
5b I形断面部材のウェブ
5c I形断面部材の下フランジ
5B 逆T形断面部材
5d 逆T形断面部材のウェブ
5e 逆T形断面部材の下フランジ
5C 逆Π形断面部材
5f 逆Π形断面部材のウェブ
5g 逆Π形断面部材の下フランジ
5h 逆Π形断面部材の下フランジ補剛材
5D 箱断面
6 水平補剛材
7 支点部垂直補剛材
8 垂直補剛材
9 ダイヤフラム
10 横繋ぎ材
11 底鋼板
20 鋼桁橋
21 鋼桁橋
22 鋼桁橋
23 鋼桁橋
N 鋼桁橋の断面中立軸
N1 コンクリート床版の断面中立軸
N2 鋼桁の断面中立軸
S 鋼桁橋断面内の作用応力分布
S1 コンクリート床版の作用応力分布
S2 鋼桁の作用応力分布
A1 I形断面部材の許容応力度
A2 逆T形断面部材あるいは逆Π形断面部材の許容応力度

Claims (10)

  1. 上フランジとウェブと下フランジとを有するI形断面部材を複数備えた鋼桁と、該鋼桁の上方に位置するコンクリート床版とを具備した鋼桁橋であって、
    前記鋼桁は、前記I形断面部材の下方に、ウェブとフランジとを有する逆T形断面部材を備え、該逆T形断面部材の引張強度が前記I形断面部材の引張強度よりも高いことを特徴とする鋼桁橋。
  2. 上フランジとウェブと下フランジとを有するI形断面部材を複数備えた鋼桁と、該鋼桁の上方に位置するコンクリート床版とを具備した鋼桁橋であって、
    前記鋼桁は、前記I形断面部材の下方に、2個のウェブと1個のフランジとを有する逆Π形断面部材を備え、該逆Π形断面部材の引張強度が前記I形断面部材の引張強度よりも高いことを特徴とする鋼桁橋。
  3. 前記I形断面部材において、ウェブの板厚をt、ウェブの高さをh、ウェブの静弾性係数をE、ウェブの降伏強度をfy、ウェブのポアソン比をν、安全率をsFとしたとき、
    t/h≧(12(1−ν2)/π2E・sFfy/23.9)1/2
    であることを特徴とする請求項1に記載の鋼桁橋。
  4. 前記I形断面部材において、ウェブの板厚をt、ウェブの高さをh、ウェブの静弾性係数をE、ウェブの降伏強度をfy、ウェブのポアソン比をν、安全率をsFとしたとき、
    t/h≧(12(1−ν2)/π2E・sFfy/23.9)1/2
    であることを特徴とする請求項2に記載の鋼桁橋。
  5. 前記逆T形断面部材において、ウェブの板厚をt1、ウェブの高さをh1、ウェブの静弾性係数をE1、ウェブの降伏強度をfy1、ウェブのポアソン比をν1、安全率をsF1としたとき、
    1/h1≧(12(1−ν1 2)/π21・sF1fy1/23.9)1/2
    であることを特徴とする請求項1または3に記載の鋼桁橋。
  6. 前記逆Π形断面部材において、ウェブの板厚をt2、ウェブの高さをh2、ウェブの静弾性係数をE2、ウェブの降伏強度をfy2、ウェブのポアソン比をν2、安全率をsF2としたとき、
    2/h2≧(12(1−ν2 2)/π22・sF2fy2/23.9)1/2
    であることを特徴とする請求項2または4に記載の鋼桁橋。
  7. 当該鋼桁橋の断面中立軸位置よりも下方まで床版コンクリートが打設されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の鋼桁橋。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の鋼桁橋において、前記I形断面部材に用いられることを特徴とするI形鋼。
  9. 請求項1、3、5のいずれかに記載の鋼桁橋において、前記逆T形断面部材に用いられることを特徴とするT形鋼。
  10. 請求項1、3、5のいずれかに記載の鋼桁橋において、前記I形断面部材と前記逆T形断面部材を構成する形鋼であって、I形鋼のフランジ外面にT形鋼のウェブ端部が接合されていることを特徴とする組合せ形鋼。
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