以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本明細書における重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィー分析によって測定した、ポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。本明細書における「重量平均分子量」は、本発明が属する技術分野において「質量平均分子量」と呼ばれる場合もある。
本発明の一実施形態の硬化物形成用添加剤は、硬化物を形成するために用いられ、好適には硬化物を形成することが可能な樹脂組成物の成分として用いられる。この硬化物形成用添加剤は、(A)下記一般式(1)で表される化合物、(B)リン酸類(b1)とエポキシ化合物(b2)とを反応させて得られるリン酸変性エポキシ樹脂、(C)硬化剤、及び(D)フィラーを含有する。これらの成分については、それぞれ、本明細書において、「(A)成分」、「(B)成分」、「(C)成分」、及び「(D)成分」と略記することがある。
一般式(1)中、R1は水素原子、又は炭素原子数1〜4の直鎖若しくは分岐状のアルキル基を表し、R2は水素原子又はメチル基を表し、nは1〜10の数を表す。
硬化物形成用添加剤に用いられる(A)成分は、上記一般式(1)で表される化合物である。上記一般式(1)中のR1は、炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐状のアルキル基であることがより好ましい。R1で表される炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、第二ブチル基、及び第三ブチル基を挙げることができる。これらのなかでも、メチル基がさらに好ましい。一般式(1)中のR1がメチル基である(A)成分を後述する(B)〜(D)成分と組み合わせた場合、高温状態を経過した後であっても高い剥離強度を有する硬化物を形成可能な樹脂組成物を与える硬化物形成用添加剤が得られやすいことから好ましい。
上記一般式(1)中のR2は、メチル基であることがより好ましい。一般式(1)中のR2がメチル基である(A)成分を後述する(B)〜(D)成分と組み合わせた場合、高温状態を経過した後であっても高い剥離強度を有する硬化物を形成可能な樹脂組成物を与える硬化物形成用添加剤が得られやすいことから好ましい。
上記一般式(1)中のnは、1〜5の数であることがより好ましい。一般式(1)中のnが1〜5の数である(A)成分を後述する(B)〜(D)成分と組み合わせた場合、高温状態を経過した後であっても高い剥離強度を有する硬化物を形成可能な樹脂組成物を与える硬化物形成用添加剤が得られやすいことから好ましい。
(A)成分のエポキシ当量は、特に限定されないが、100〜2,000g/eq.の範囲であることが好ましく、150〜1,000g/eq.の範囲であることがより好ましい。また、(A)成分の重量平均分子量は、特に限定されないが、ポリスチレン換算で、1,000〜10,000であることが好ましく、1,000〜8,000であることがより好ましく、1,000〜5,000であることがさらに好ましい。
(A)成分の製造方法は特に限定されない。例えば、周知なジグリシジルエーテル化合物へのビスフェノールAの付加反応を用いた合成方法により、(A)成分を製造することができる。例えば、R1がメチル基である場合は下記反応式(2)のように、所定量の対応する構造のジグリシジルエーテル化合物と、ビスフェノールAと、反応触媒としてトリフェニルホスフィンを用いて100〜150℃程度に加熱して反応させることで(A)成分を製造することができる。
(A)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の総量に対して30〜99質量%である。この(A)成分の含有量は、35〜98質量%が好ましく、40〜95質量%がさらに好ましい。上記(A)成分の含有量が30質量%未満であると、硬化物形成用添加剤に(A)成分を含有させたことによる効果が現れ難い。一方、上記(A)成分の含有量が99質量%よりも多いと、樹脂組成物の成分として硬化物形成用添加剤を固形の樹脂(例えば固形のエポキシ成分)と配合した場合に、樹脂組成物が硬化し難くなる。
硬化物形成用添加剤に用いられる(B)成分は、リン酸変性エポキシ樹脂である。この(B)リン酸変性エポキシ樹脂は、リン酸類(b1)とエポキシ化合物(b2)との反応物である。リン酸類(b1)としては、分子内にリン酸結合を有する化合物であれば特に制限されない。そのようなリン酸類(b1)としては、例えば、リン酸(オルトリン酸:H3PO4)、亜リン酸(H3PO3)、次亜リン酸(H3PO2)、ホスホン酸(H3PO3)、二リン酸(ピロリン酸:H4P2O7)、及び三リン酸等のポリリン酸等を使用することができる。これらの中でも、リン酸(H3PO4)が好ましい。
エポキシ化合物(b2)としては、分子内に少なくともエポキシ基を1つ有する化合物であれば、特に制限なく使用することができる。そのようなエポキシ化合物(b2)としては、例えば、n−ブチルグリシジルエーテル、C12〜C14のアルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、及び3級カルボン酸グリシジルエステル等の、エポキシ基を1つ有する反応性希釈剤;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、及びネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等の、エポキシ基を2つ有する反応性希釈剤;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、及びグリセリントリグリシジルエーテル等の、エポキシ基を3つ有する反応性希釈剤;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、及びビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、及びテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等のビフェニル型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;シクロヘキサンジメタノールや水添ビスフェノールA等から得られる脂環式エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物であるエポキシ化物、及びビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂;テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂;並びにフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記エポキシ化合物(b2)の具体例の中でも、入手が容易で安価であり、硬化物の物性が良好なビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂を使用することが好ましい。これらの中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂を使用することがより好ましい。
(B)リン酸変性エポキシ樹脂は、末端にエポキシ基を有するリン原子含有エポキシ化合物である。(B)リン酸変性エポキシ樹脂は、リン酸類(b1)とエポキシ化合物(b2)とを反応させて得られ、好ましくは、リン酸類(b1)とエポキシ化合物(b2)とを20〜100℃で反応させて得られる。この反応を溶媒存在下で行って反応終了後に溶媒を除去することもできる。反応に用いるリン酸類(b1)とエポキシ化合物(b2)の量は、エポキシ化合物(b2)中のエポキシ基数がリン酸類(b1)中の活性水素数よりも多くなるように決定することが好ましい。複数のエポキシ化合物(b2)を用いる場合には、次のようにして、リン変性エポキシ化合物を合成することが好ましい。まず、リン酸類(b1)中の活性水素数がエポキシ化合物(b2)中のエポキシ基数よりも多い条件でリン酸類(b1)と少なくとも1種のエポキシ化合物(b2)とを反応させてリン酸類(b1)由来の活性水素が残存したリン変性エポキシ化合物を合成する。次に、このリン変性エポキシ化合物を別の少なくとも1種のエポキシ化合物(b2)と反応させて最終的に末端にエポキシ基を有するリン原子含有エポキシ化合物を(B)成分として得ることができる。
前記溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、ジエチルケトン、アセトン、メチルイソプロピルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びシクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、及び酢酸n−ブチル等のエステル類;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素;四塩化炭素、クロロホルム、トリクロロエチレン、及び塩化メチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素;並びにクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素を用いることができる。これらの溶媒の中では、反応後の除去が容易であるという点からケトン類が好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトンがより好ましい。
ところで、エポキシ化合物(b2)として用いることのできるビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂は繰り返し単位が単一でなく、これらの全体構造を化学式や一般式を用いて定義することが困難である。しかも、(B)リン酸変性エポキシ樹脂の合成の過程では、エポキシ化合物(b2)から生成したヒドロキシ基がエポキシ化合物(b2)中の別のエポキシ基と反応するという副反応が起こる可能性がある。このため(B)リン酸変性エポキシ樹脂の構造は複雑となり得る。したがって、(B)リン酸変性エポキシ樹脂の構造は一様ではなくバラエティに富み、その構造を一律の化学結合や一般式で定義することはできない。それゆえ、(B)リン酸変性エポキシ樹脂をその製造方法によって定義せざるをえない。
(B)リン酸変性エポキシ樹脂の製造過程において、出発物質のエポキシ化合物(b2)の変性剤として使用される化合物がリン酸類(b1)のみである場合が好ましい。
(B)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の総量に対して1〜70質量%である。この(B)成分の含有量は、2〜65質量%が好ましく、5〜60質量%がさらに好ましい。上記(B)成分の含有量が1質量%未満であると、硬化物形成用添加剤に(B)成分を含有させたことによる効果が現れ難い。一方、(B)成分を70質量%よりも多く含有させても、硬化物形成用添加剤に(B)成分を含有させたことによる効果が向上し難い。
硬化物形成用添加剤に用いられる(C)成分としては、エポキシ化合物を硬化させるために用いることができる硬化剤であればよく、特に限定されるものではない。例えば、潜在性硬化剤、酸無水物、ポリアミン化合物、ポリフェノール化合物、及びカチオン系光開始剤等を挙げることができる。
潜在性硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、ヒドラジド、イミダゾール化合物、アミンアダクト、スルホニウム塩、オニウム塩、ケチミン、酸無水物、及び三級アミン等を挙げることができる。これらの潜在性硬化剤を使用した場合には、硬化物形成用添加剤を含有させる樹脂組成物を、取り扱いが容易な一液型の硬化性樹脂組成物とすることができるので好ましい。
酸無水物としては、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、マレイン酸無水物、コハク酸無水物、及び2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物等を挙げることができる。
ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、及びトリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等の脂環族ポリアミン;m−キシレンジアミン等の芳香環を有する脂肪族アミン;m−フェニレンジアミン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、α,α−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、及び2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ポリアミンを挙げることができる。
ポリフェノール化合物としては、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、テルペンジフェノール、テルペンジカテコール、1,1,3−トリス(3−第3ブチル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)ブタン、ブチリデンビス(3−第3ブチル−4−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)、及び2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等を挙げることができる。
イミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6(2’−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2’−ウンデシルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2’−エチル,4−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6(2’−メチルイミダゾール(1’))エチル−s−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールイソシアヌル酸の2:3付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−3,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−ヒドロキシメチル−5−メチルイミダゾール、及び1−シアノエチル−2−フェニル−3,5−ジシアノエトキシメチルイミダゾール等の各種イミダゾール類;これらの各種イミダゾール類と、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、マレイン酸、及び蓚酸等の多価カルボン酸との塩類を挙げることができる。なかでも、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが、硬化性及び保存安定性の面から好ましい。市販品としては、例えば、商品名「2P4MHZ−PW」、「2P4MHZ」、及び「2E4MZ」(いずれも四国化成工業社製)等を挙げることができる。
(C)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対して、0.1〜30質量部である。この(C)成分の含有量は、0.5〜20質量部であることが好ましく、0.5〜15質量部であることがさらに好ましい。上記(C)成分の含有量が0.1質量部未満であると、樹脂組成物の成分として硬化物形成用添加剤を固形の樹脂(例えば固形のエポキシ成分)と配合した場合に、樹脂組成物が硬化し難くなる。一方、上記(C)成分の含有量を30質量部より多くしても、硬化物形成用添加剤に(C)成分を含有させたことによる効果が向上し難い。
硬化物形成用添加剤に用いられる(D)成分は、特に限定されるものではなく、公知なフィラーを用いることができる。フィラーとしては、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、窒化ボロン、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、及びカーボン等を挙げることができる。無機フィラーを用いた場合には、耐熱性が高い硬化物を得ることができることから、無機フィラーを好適に使用することができる。無機フィラーのなかでも、窒化ボロン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミナ、及び窒化アルミニウムは、樹脂組成物の硬化物に絶縁性及び放熱性をもたらす効果が高く、かつ、200℃以上の高温状態を経過した後であっても高い剥離強度を有する放熱性硬化物を得ることができる効果が高いことから好ましい。
(D)成分の粒径は特に限定されるものではなく、所望の大きさの硬化物を得るために必要な大きさの粒径を選択すればよい。例えば、平均粒径が数nm〜数百μm程度のフィラーを用いることができ、平均粒径が数nm〜数十μmのフィラーを用いることが好ましい。フィラーの平均粒径は、レーザー光回折法による粒子径分布測定装置を用いて、体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50)として求めることができる。樹脂組成物には、複数の種類のフィラーや、異なる平均粒径をもつフィラーを組み合わせて含有させることができる。
(D)成分の形状は、特に限定されるものではなく、球状、破砕状、角状、鱗片状、及び板状等のフィラーを使用することができる。なかでも、球状のフィラーを用いた場合はフィラーの充填率を高くすることができ、硬化物の放熱性を高くすることができることから好ましい。なお、本願明細書における「球状」とは、真球状、円粒状、及び楕円状等の形状を含む概念であり、より具体的には、個々のフィラーの短径と長径との比が150%以下、好ましくは120%以下、より好ましくは110%以下の形状である。(D)成分は、(D)成分の総量中、90質量%以上が球状フィラー及び楕円状のフィラーであることが好ましく、95質量%以上が球状フィラー及び楕円状のフィラーであるとシリコンウェハーやアルミウェハー等に代表される基体へ転写した際の密着性に優れることから好ましい。
(D)成分の含有量は、(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対し、300〜2000質量部であり、500〜1500質量部であることが好ましい。この(D)成分の含有量が300質量部未満であると、硬化物形成用添加剤に(D)成分を含有させたことによる効果が現れ難い。一方、上記(D)成分の含有量が2000質量部よりも多いと、樹脂組成物の成分として硬化物形成用添加剤を固形の樹脂(例えば固形のエポキシ成分)と配合した場合に、硬化物を製造することが困難になる。
硬化物形成用添加剤は、前述の(A)〜(D)成分以外に、必要に応じて、他の成分を含有することができる。他の成分としては、例えば、天然ワックス類、合成ワックス類及び長鎖脂肪族酸の金属塩類等の可塑剤;酸アミド類、エステル類、及びパラフィン類等の離型剤;ニトリルゴム、及びブタジエンゴム等の応力緩和剤;三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸化錫、水酸化錫、酸化モリブデン、硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、赤燐、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及びアルミン酸カルシウム等の無機難燃剤;テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモ無水フタル酸、ヘキサブロモベンゼン、及びブロム化フェノールノボラック等の臭素系難燃剤;リン系難燃剤;シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、及びアルミニウム系カップリング剤等のカップリング剤;染料及び顔料等の着色剤を挙げることができる。また、他の成分としては、例えば、酸化安定剤、光安定剤、耐湿性向上剤、チキソトロピー付与剤、希釈剤、消泡剤、他の各種樹脂、粘着付与剤、帯電防止剤、滑剤、及び紫外線吸収剤等を挙げることができる。
さらに、硬化物形成用添加剤には、アルコール類、エーテル類、アセタール類、ケトン類、エステル類、アルコールエステル類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、ケトンエステル類、エステルエーテル類、及び芳香族系溶剤等の有機溶剤等を配合することもできる。
以上詳述した本発明の一実施形態の硬化物形成用添加剤は、前述の(A)〜(D)成分を前述した特定の関係の量で含有する。そのため、この硬化物形成用添加剤を樹脂組成物の成分として用いることにより、その樹脂組成物から、200℃以上の高温状態を経過した後であっても高い剥離強度を有する硬化物を形成することができる。したがって、この硬化物形成用添加剤は、上記硬化物を形成することが可能な樹脂組成物の成分として機能し、上記硬化物を形成するために用いることができる。
具体的には、例えば電子部材、照明部材、及びパワーモジュール部材等の用途に使用される硬化物(好ましくは放熱性絶縁硬化物)を形成するために、本発明の一実施形態の硬化物形成用添加剤をより好適に用いることができる。上記用途においては、上記部材の使用中における例えば電子部品、LED素子、及びパワー半導体素子等の動作に伴う発熱や、基板に半導体素子等の電子部品を実装する際のはんだリフロー等により、硬化物又はその周囲の温度が200℃以上に上がる場合がある。上記用途に使用される硬化物の形成に、硬化物形成用添加剤を用いれば、上述のような高温状態を経過した後であっても、硬化物の剥離強度の低下を抑制することができ、高い剥離強度を有する硬化物の形成に寄与することができる。硬化物が高い剥離強度を示す対象(被着体)としては、例えば、銅、アルミニウム、及び鉄鋼材等の金属;アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素等のセラミックス;ガラス;ABS樹脂、エポキシ樹脂、及びポリイミド樹脂等のプラスチック;等の箔及び板等を挙げることができる。
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、前述の硬化物形成用添加剤、及び(E)25℃で固形である樹脂(以下、(E)成分と略記することがある。)を含有する樹脂組成物である。樹脂組成物に用いられる(E)成分は特に限定されるものではなく、25℃の条件下で固形である樹脂であればよい。(E)成分として、25℃で固形である、エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂のうちの少なくとも1種を用いることが好ましい。
25℃で固形であるエポキシ樹脂としては、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、及びジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。25℃で固形であるフェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、及びビスフェノールA型とビスフェノールF型が混在したフェノキシ樹脂等を挙げることができる。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、オキサゾリドン環型エポキシ樹脂、及び脂環式エポキシ樹脂等を用いることができる。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、商品名で「jER1001」(軟化点:64℃)、「jER1003」(軟化点:89℃)、「jER1004」(軟化点:97℃)、「jER1007」(軟化点:128℃)、及び「jER1009」(軟化点:144℃)(以上、三菱ケミカル社製)、並びに「エポトートYD−014」(軟化点:91℃以上102℃以下)、「エポトートYD−017」(軟化点:117℃以上127℃以下)、及び「エポトートYD−019」(軟化点:130℃以上145℃以下)(以上、東都化成社製)等を挙げることができる。
また、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、商品名で「jER4004P」(軟化点:85℃)、「jER4007P」(軟化点:108℃)、及び「jER4010P」(軟化点:135℃)(以上、三菱ケミカル社製)等を挙げることができる。
ビスフェノールS型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、商品名で「EXA−1514」(軟化点:75℃)、及び「EXA−1517」(軟化点:60℃)(以上、DIC社製)等を挙げることができる。
オキサゾリドン環型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、商品名で「AER4152」(軟化点:98℃)、及び「XAC4151」(軟化点:98℃)(以上、旭化成イーマテルアル社製)、並びに「ACR1348」(ADEKA社製)、及び「DER858」(軟化点:100℃、DOW社製)等を挙げることができる。
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(ダイセル社製の商品名「EHPE3150」、軟化点:75℃)等を挙げることができる。
これらのなかでも、(E)成分としては、ビスフェノールA骨格を有するとともに重量平均分子量がポリスチレン換算で10,000〜100,000である化合物であって、リン原子を不含有である化合物がより好ましい。このような化合物のうち、重量平均分子量が10,000〜50,000であるものがさらに好ましい。また、ビスフェノールA骨格及びビスフェノールF骨格を有する化合物を好ましく用いることができる。この場合は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂とビスフェノールF型フェノキシ樹脂との共重合体を用いることがより好ましい。ビスフェノールA骨格及びビスフェノールF骨格を有する化合物を用いる場合は、重量平均分子量が30,000〜50,000であるものを用いることがさらに好ましい。ビスフェノールA骨格及びビスフェノールF骨格を有する化合物の市販品としては、例えば、商品名「フェノトートYP−70」(新日鉄住金化学社製)等を挙げることができる。
樹脂組成物における、前述の硬化物形成用添加剤及び(E)成分の含有割合は、硬化物を形成可能な樹脂組成物であれば特に限定されない。例えば、樹脂組成物において、硬化物形成用添加剤中の(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対し、(E)成分の含有量は、1〜100質量部であることが好ましく、5〜80質量部であることがより好ましく、10〜70質量部であることがさらに好ましい。
樹脂組成物は、前述の硬化物形成用添加剤及び(E)成分以外に、必要に応じて、他の添加剤を含有してもよい。他の添加剤としては、前述の硬化物形成用添加剤が含有してもよい「他の成分」を挙げることができる。樹脂組成物は、他の添加剤を、硬化物形成用添加剤中の成分として含有してもよく、硬化物形成用添加剤とは別の成分として含有してもよい。
本発明の一実施形態の樹脂組成物は、プリント配線基板、半導体封止絶縁材、パワー半導体、LED照明、LEDバックライト、パワーLED、及び太陽電池等の電気・電子分野の種々の部材における樹脂材料として広く利用することが可能である。具体的には、プリプレグ、封止剤、積層基板、塗布性の接着剤、接着シート等、これらの硬化性成分又は各種塗料の硬化性成分として有用である。
上述の樹脂組成物を硬化させることで、硬化物を形成することができる。すなわち、本発明の一実施形態の硬化物は、上述の樹脂組成物を硬化させたものである。例えば、上述の樹脂組成物を加熱して硬化させることで、硬化物を得ることができる。硬化物の形状は特に限定されないが、例えば、シート、フィルム、及び板(以下、これらを「シート状」と総称する。)等の形状を挙げることができる。なお、有機溶剤を含有する樹脂組成物を硬化させると、有機溶剤が残留している状態の硬化物が得られる場合と、有機溶剤が揮発して実質的に残留していない硬化物が得られる場合とがある。本発明の一実施形態の硬化物には、有機溶剤を含有する硬化物と、有機溶剤を実質的に含有しない硬化物の両方が含まれる。
硬化物の製造方法は、特に限定されず、周知の方法を適用することができる。例えば、シート状の硬化物を製造する方法としては、キャリアフィルムや金属箔等の支持体上に前述の樹脂組成物を塗布して形成した塗布層を硬化させることによって、シート状の硬化物を製造することができる。また、前述の樹脂組成物で形成された塗布層を支持体から基体に転写した後に硬化させることでも、シート状の硬化物を製造することができる。基体としては、シリコンウェハーやアルミウェハー等が挙げられる。基体の形状としては、シート、フィルム、及び板等が挙げられる。
シート状の硬化物を製造する場合には、各種塗工装置を用いて、前述の樹脂組成物を支持体上に塗工してもよく、スプレー装置により、前述の樹脂組成物を支持体に噴霧して塗工してもよい。塗工装置としては、例えば、ロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、コンマコーター、カーテンコーター、及びスクリーン印刷装置等を用いることができる。また、刷毛塗りによって、樹脂組成物を支持体上に塗工してもよい。これらの方法によって樹脂組成物を塗工した後、常圧〜10MPaの圧力下で、10〜300℃の温度範囲で0.5〜10時間硬化させることによって、シート状の硬化物を製造することができる。
支持体としては、シート状の硬化物を形成するため、取扱いが容易であるものを選択することが好ましい。また、シート状の硬化物を使用する際は、支持体から剥離して使用することから、剥離が容易であるものであることが好ましい。支持体としては、キャリアフィルムがよく用いられる。キャリアフィルムの材質としては、例えばポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性を有する熱可塑性樹脂フィルムが好適に選択される。
支持体に金属箔を使用する場合は、硬化物を形成した後に金属箔を剥離して用いてもよいし、また、金属箔をエッチングして用いてもよい。金属箔としては、例えば、銅、銅系合金、アルミニウム、アルミニウム系合金、鉄、鉄系合金、銀、銀系合金、金、金系合金、亜鉛、亜鉛系合金、ニッケル、ニッケル系合金、錫、錫系合金等の金属箔が好適に選択される。また、キャリア箔付き極薄金属箔を支持体として用いてもよい。
硬化物の形状がシート状である場合、シート状の硬化物の厚さは、用途により適宜設定すればよく、例えば、20〜150μmの範囲とすることができる。
本発明の一実施形態の硬化物は、良好な熱伝導性を有することができる。プリント配線基板、半導体封止絶縁材、パワー半導体、LED照明、LEDバックライト、パワーLED、太陽電池等の電気・電子分野の種々の部材の樹脂基材として広く応用が可能であり、より具体的にはプリプレグ、封止剤、積層基板、塗布性の接着剤、接着シート等に用いることができる。
以下実施例及び比較例を示して本発明の一実施形態の樹脂組成物をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<(A)成分>
(製造例1)化合物A−1の合成
下記式(3)に示す化合物A 85.4g及びビスフェノールA 14.6gをキシレン25gに溶解させた後、トリフェニルホスフィン0.2質量%を加え、135℃で4時間加熱撹拌を行った。得られた化合物(以下、「A−1」と称する。)のエポキシ当量は470g/eq.、重量平均分子量は1800であった。また、得られたA−1は、一般式(1)中のR1及びR2がいずれもメチル基で、nが1〜10の範囲内で表される化合物である。
<(B)成分>
(B)成分(リン酸変性エポキシ樹脂)として、以下に示すB−1及びB−2を用意した。
B−1:ADEKA社製の商品名「Ep−40−10P」(商品名「アデカレジンEP−4100E」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:190g/eq.、ADEKA社製)と、リン酸を60〜70℃で反応させた化合物;リン酸変性量1.0質量%)
B−2:ADEKA社製の商品名「Ep−40−10P2」(商品名「アデカレジンEP−4100E」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:190g/eq.、ADEKA社製)と、リン酸を60〜70℃で反応させた化合物;リン酸変性量1.5質量%)
<(C)成分>
(C)成分(硬化剤)として、以下に示すC−1を用意した。
C−1:イミダゾール化合物(商品名「2P4MHZ」、四国化成工業社製)
<(D)成分>
(D)成分(フィラー)として、以下に示すD−1及びD−2を用意した。
D−1:アルミナ(商品名「LS210B」、日本軽金属社製;平均粒径約3μm)
D−2:アルミナ(商品名「DAW−20」、デンカ社製;平均粒径約20μm)
<(E)成分>
25℃で固形の樹脂である(E)成分として、以下に示すE−1及びE−2を用意した。
E−1:フェノキシ樹脂(商品名「フェノトートYP−70」、新日鉄住金化学社製;重量平均分子量41,000、ビスフェノールA・ビスフェノールF共重合タイプ)
E−2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「jER1007」、三菱ケミカル社製;エポキシ当量1,750〜2,200、分子量2,900)
<樹脂組成物>
(実施例1〜8)
実施例1〜8において、表1に示す配合で(A)〜(D)成分を混合し、それぞれで使用する添加剤組成物(硬化物形成用添加剤)を製造した。また、添加剤組成物を製造した後、添加剤組成物に、表1に示す配合で(E)成分を混合し、実施例樹脂組成物1〜8を製造した。
<比較樹脂組成物>
(比較例1〜3)
比較例1〜3において、表2に示す配合で(A)〜(E)成分を混合し、比較例樹脂組成物1〜3を製造した。なお、表2中のB−3は、ADEKA社製の商品名「アデカレジンEP−4100E」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:190g/eq.)である。
<硬化物>
(実施例9)
上記実施例1で得られた実施例樹脂組成物1を、銅箔(三井金属社製)上に厚み110μmになるように塗布した後、アルミニウム板(厚さ1mm)上に真空熱プレス装置にて圧力3MPa、温度190℃で1時間硬化させた。このようにして、銅箔上に、実施例樹脂組成物1を硬化させた硬化物(実施例硬化物1)を備えた金属基板(実施例硬化物シート1)を製造した。この金属基板(実施例硬化物シート1)は、アルミニウム板−実施例硬化物1−銅箔の積層体である。
(実施例10〜16)
実施例10〜16では、実施例9で使用された実施例樹脂組成物1を、それぞれ実施例樹脂組成物2〜8に変更したこと以外は、実施例9と同様の方法により、金属基板(実施例硬化物シート2〜8)を製造した。
(比較例4〜6)
比較例4〜6では、実施例9で使用された実施例樹脂組成物1を、それぞれ比較例樹脂組成物1〜3に変更したこと以外は、実施例9と同様の方法により、金属基板(比較硬化物シート1〜3)を製造した。
<硬化物の剥離強度評価>
(評価例1〜8及び比較評価例1〜3)
上記実施例9〜16で得られた各実施例硬化物シート1〜8、及び比較例4〜6で得られた比較硬化物シート1〜3について、テンシロン万能材料試験機(商品名「RTF−2410」、エー・アンド・デイ社製)を用いて、10mm幅の銅箔をアルミニウム板の面に対して90°方向に50mm/分の速度で剥離した時の硬化物と銅箔の剥離強度を測定した。この際、常態の剥離強度(T1)と、260℃±2℃に温度調整したはんだ浴に各硬化物シートを30分間浮かべたはんだ処理後の剥離強度(T2)を測定することで剥離強度を評価した。表3には、各硬化物シートについて測定された剥離強度を示し、その値で評価した。
表3に示す通り、評価例1〜8は比較評価例1〜3と比べて高いT1を示したことがわかった。さらに評価例1〜8はT2においても13N/cm以上を示しており、200℃以上の高温状態を経過した後であっても高い剥離強度を有する放熱性絶縁硬化物を製造することができたことがわかった。一方、比較評価例1〜3のT2は12N/cm未満であり、剥離強度が低いことがわかった。評価例1と評価例8では、硬化物の形成に使用した樹脂組成物中の(E)成分が異なるが、T1及びT2は、評価例1の方が高いことがわかった。