以下、図面を用いて本発明の液体吐出装置の好適な実施の形態の例を説明する。ただし、本発明の範囲は特許請求の範囲によって定まるものであり、以下の記載は本発明の範囲を限定するものではない。また以下に記載されている形状、配置等は、この発明の範囲を限定するものではない。
[第1の実施形態]
(インクジェット記録装置)
図1(a)および図1(b)は、本発明の液体吐出装置として使用可能なインクジェット記録装置(以下、単に記録装置または装置ともいう)1の概略構成図および制御ブロック図である。図1(a)に示すように、記録媒体としてのシートSは、搬送手段700によって、記録部2の下方を通過するように所定の速度でX方向に搬送される。記録部2は、主として、後述する液体吐出ヘッド300と液体循環ユニット504(図1(a)では不図示)とから構成され、液体吐出ヘッド300には、色材を含有するインクを液滴としてZ方向に吐出する吐出口がY方向に所定のピッチで配列されている。
図1(b)において、CPU500は、ROM501に記憶されているプログラムに従い、RAM502をワークエリアとして使用しながら、装置1全体を制御する。CPU500は、例えば、外部に接続されたホスト装置600より受信した画像データに対して、ROM501に記憶されているプログラムおよびパラメータに従って所定の画像処理を施し、液体吐出ヘッド300がインクを吐出するための吐出データを生成する。その吐出データに従って液体吐出ヘッドが駆動され、所定の周波数でインクを吐出する。このような液体吐出ヘッド300による吐出動作中に、搬送モータ503が駆動されて、吐出周波数に対応した速度でシートSがX方向に搬送される。これにより、シートS上には、ホスト装置600より受信した画像データに従った画像が記録される。
液体循環ユニット504は、液体吐出ヘッド300に対して、液体(インク)を循環させながら供給するためのユニットである。液体循環ユニット504は、CPU500の管理のもと、後述する液体供給ユニット220の他、負圧制御ユニット3および切り替え機構4など、インクを循環させるシステム全体を制御する。
(記録装置内の流体流路)
インクジェット記録装置全体の流体流路について説明する。図2から図5は、本発明の第1実施形態に係る液体吐出装置(インクジェット記録装置)内の液体流路(インク流路)を示す概略図である。
液体吐出ヘッド300は、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の4色のインク(液体)のそれぞれを収容する第1タンク21および第2タンク22に接続される。理解容易のために、図中においては、液体吐出ヘッド300を各色のインク毎に分割して表示しているが、実際には、1つの液体吐出ヘッド300に全4色分のインク流路が形成されており、インク流路はインクの色毎にタンクと接続されている。
図2は、記録装置による記録動作の待機状態(非記録状態)における流体流路(インク流路および気体流路)を示す模式図である。各色のインクの第1タンク21には、それぞれ、大容量のインクを収容可能であり且つ交換可能であるメインタンク1002が、フィルタ1001およびインクジョイント8を介して接続されている。メインタンク1002は外気連通孔(不図示)を有する。そのため、液体吐出ヘッド300の吐出動作およびメンテナンス処理(吸引回復等)に伴ってインク流路内のインクが消費された際に、第1タンク内の残量検知機構(不図示)からの信号に応じて、インクをメインタンク1002から第1タンク21へ補充可能である。
第1タンク21および第2タンク22内には、対応する色のインクが収容され、通常状態において空気部(上層)とインク部(下層)とが存在する。また、第1タンクおよび第タンクの上壁には、空気部と外部とを連通するエア接続口23が設けられ、側壁下方には、インク部と液体吐出ヘッド300とを接続するインク接続口20が設けられている。
第1タンク21および第2タンク22には、それぞれのエア接続口23を通して、空気が出入りすることができる。第1タンクおよび第2タンクの各エア接続口には、気液分離膜24が設けられている。気液分離膜24は、記録装置本体が横倒しになるような転倒が発生した場合に、エア配管(エア経路)内にインクが侵入して混色が生じることを防止する機能を有する。そのため、気液分離膜24は、流抵抗が低く且つインク透過性の低いものが好ましく、例えば、撥水性のフィルタを好ましく用いることができる。
各色の第1タンクのエア接続口23は、個別弁5(V2と表示)を介して、共通の切り替え機構4に接続されている。各色の第2タンクのエア接続口23は、他の弁を介することなく、切り替え機構4に共通に接続されている。このように第1タンク21のエア接続口23には、第1タンク21内の圧力を調整するための第1圧力調整路25が接続され、同様に、第2タンク22のエア接続口23には第2圧力調整路26が接続されている。この第1圧力調整路25および第2圧力調整路26は、共に、切り替え機構4および負圧制御ユニット3に接続されている。
第1タンクのインク部は、供給弁6(V3と表示)を介して液体吐出ヘッド300に液体接続されており、各色に対応する液体吐出ヘッド300内の第1共通流路12と連通している。第2タンク22のインク部は、他の弁を介することなく液体吐出ヘッド300に接続され、各色に対応する液体吐出ヘッド300内第2共通流路13と連通している。
以下、第1タンク21、第2タンク22、フィルタ1001、供給弁(V3)からなる部分を、液体供給ユニット220と称する。液体供給ユニット220のこれらの構成は、本実施形態では一体化した形態であるものとして説明するが、個別に分離して設けられていてもよい。
切り替え機構4は、4つの開閉弁(V1A、V1B、V1C、V1Dで表示)を含み、シアン用の循環経路(C)、マゼンタ用の循環経路(M)、イエロー用の循環経路(Y)、ブラック用の循環経路(K)に対し、共通に作用する。詳細には、第1開閉弁V1Aおよび第4開閉弁V1Dのそれぞれの一方側は、4つの第1タンク21のエア接続口23に接続されている。第2開閉弁V1Bおよび第3開閉弁V1Cのそれぞれの一方側は、4つの第2タンク22のエア接続口23に接続されている。第1開閉弁V1Aおよび第2開閉弁V1Bのそれぞれの他方側は、負圧制御ユニット3内の第1圧力制御機構31(H)に接続されている。第3開閉弁V1Cおよび第4開閉弁V1Dのそれぞれの他方側は、負圧制御ユニット3内の第2圧力制御機構32(L)に接続されている。
切り替え機構4は、4つの開閉弁V1A〜V1Dの開閉状態を適宜切り替えることにより、各色の第1タンク21および第2タンク22の空気部と、第1圧力制御機構31および第2圧力制御機構32と、の接続関係を様々に切り替えることができる。以下、第1圧力制御機構に接続している開閉弁V1A,V1Bを第1切り替え部と呼称し、第2圧力制御機構に接続している開閉弁V1C,V1Dを第2切り替え部と呼称する。
本実施形態における流体経路には、吐出に用いられる液体(インク)が循環する流路(経路)と、液体を吐出させるための圧力制御に用いられる気体(空気)が循環する流路(経路)と、が存在する。液体および気体の流れ方向は対応するため、共通に、流れ方向または流動方向との用語を使用するものとする。
ここで、第1圧力制御機構(第1圧力制御部ともいう)31および第2圧力制御機構(第2圧力制御部ともいう)32について説明する。
第1圧力制御機構31および第2圧力制御機構32は、それぞれの内部に弁、バネ、および可撓性フィルムなどを備えた、いわゆる減圧型レギュレータ機構および背圧型レギュレータ機構である。第1圧力制御機構31および第2圧力制御機構32は、いずれも、それらに接続されたタンクの空気部の負圧を所定圧(所定の圧力)の範囲に維持する働きを有する。
第2圧力制御機構32は、真空ジョイント9を介して吸引ポンプ1000(P)に接続されており、吸引ポンプPを駆動することによって、第2圧力制御機構32よりも上流側の空間の負圧を一定範囲に調整する。吸引ポンプ1000は、真空ポンプであってもよい。第1圧力制御機構31は、その内部の負圧の程度に応じて大気連通口36と接続し、第1圧力制御機構31よりも下流側の空間の負圧を一定範囲に調整する。
したがって、第1圧力制御機構31および第2圧力制御機構32は、インク流路内を通過するインク流量が変動した場合でも、内部の弁およびバネなどの働きによって、それぞれの下流側および上流側の圧力をある一定範囲内で安定化させることができる。第1圧力制御機構31および第2圧力制御機構32の詳細については後述するが、第2圧力制御機構の制御圧は、第1圧力制御機構の制御圧よりも低い圧力に設定されている。
第3開閉弁V1Cおよび第4開閉弁V1Dと、第2圧力制御機構32と、の間には、エアバッファ7が設けられている。エアバッファ7は、記録装置の未使用状態が長期間続いた場合に、環境変化に起因する、吐出口からのインク垂れを防止する機能を有する。すなわち、環境温度および大気圧の変化によって、第2圧力制御機構32に接続されるタンク内の空気部の空気が膨張した場合、その膨張した空気により、空気部に連通するエアバッファ7が膨張して液体吐出ヘッド(特に記録素子基板)に圧力が掛かることを抑制する。一例として、エアバッファ7は、袋状のゴム、または内部に弱いバネを有するバネ袋状のものを好ましく使用することができる。
図2において、第1切り替え部(V1AおよびV1D)の上流端は、第1圧力制御機構31(H)の下流側に接続されており、第2切り替え部(V1BおよびV1C)の下流端は、第2圧力制御機構32(L)の上流側に接続されている。図2において、開閉弁V1AおよびV1Cは開いており、開閉弁V1BおよびV1Dは閉じている。このとき、第1圧力制御機構31(H)は、開放弁V1Aを介して各色の第1タンク21と接続され、第2圧力制御機構32(L)は、開放弁V1Cを介して各色の第2タンク22と接続される。
図3は、図2とは逆に、開閉弁V1AおよびV1Cは閉じており、開閉弁V1BおよびV1Dは開いている場合を示している。この場合、第1圧力制御機構31(H)は、開放弁V1Bを介して各色の第2タンク22と接続され、第2圧力制御機構32(L)は、開放弁V1Dを介して各色の第1タンク21と接続される。
このように、開閉弁V1A〜V1Dの開閉操作によって、第1圧力制御機構31(H)および第2圧力制御機構32(L)と、各色の第1タンク21および第2タンク22と、の接続関係を、相互に切り替えることが可能である。
このような切り替え操作は、各色の第1タンク21および第2タンク22内のインク残量検知機構(不図示)からの信号等、様々な条件に基づいて、CPU500が判断し、4つの開閉弁V1A〜V1Dを制御することにより行う。例えば、CPU500は、上流側のタンク内の液体残量が下限値に達したタイミングで上記の切り替えを行ってもよく、または、同じ方向の液体の流動が所定時間継続されたタイミングで上記の切り替えを行ってもよい。このような開閉弁の切り替え動作は、液体吐出ヘッド300が吐出動作を停止している状態において行うが、切り替え動作自体が数秒で完了できるため、記録装置のダウンタイムとして問題視されることはない。
切り替え機構4は、このような接続状態の切り替え機能があればよく、本例のように単純な4つの開閉弁を組み合わせた形態に限定されない。例えば、切り替え機構4は、三方弁およびスライド弁を2つ使用して第1および第2切り替え部とする形態であってもよい。
(駆動時および補充時の流体流路)
図2において、個別弁5(V2)および供給弁6(V3)を開き、吸引ポンプ1000(P)を動作させる。これにより、第1圧力制御機構31(H)側に接続されたタンク(第1タンク21)と、第2圧力制御機構32(L)側に接続されたタンク(第2タンク22)と、の間に差圧が生じる。このため、液体吐出ヘッド300の内部では、第1共通流路12から各記録素子基板10内を通過して第2共通流路13に向かう(図2の白抜き矢印方向)インク流れが発生する。詳細には、第1共通流路12と第2共通流路13との間において、記録素子を内部に備える圧力室123(図14)およびこれに連通する吐出口の近傍を通るインク流れが生じる。このため、インクの吐出が行われていない吐出口(非吐出状態の吐出口)の近傍の泡、増粘インク、および異物などを第2タンク22へと排出することができる。
各色の第2タンク22の何れかにおいて、第1タンク21から液体吐出ヘッド300を介して流入したインクにより第2タンク22内のインク量が増加し、そのインク液面が予め設定された高水位検知レベルを超過した場合は、切り替え機構4が機能する。すなわち切り替え機構4は、第1タンク21および第2タンク22と、第1圧力制御機構31(H)および第2圧力制御機構32(L)と、の接続関係を反転させる。この様子を図3に示す。つまり、第1圧力制御機構31(H)側には第2タンク22が接続され、第2圧力制御機構32(L)側には第1タンク21が接続される。このため、今度は、第2共通流路13から各記録素子基板10内を通過して、第1共通流路12に向かう(図3の白抜き矢印の方向)インク流れが発生し、泡、増粘インク、および異物などが第1タンク21へと排出される。
その後、第1タンク21内のインク液面が高水位検知レベルを上回る場合、もしくは、第2タンク22内のインク液面が低水位検知レベルを下回った場合には、再度、切り替え機構により接続関係を反転する。このような反転操作は、吐出口から吐出されるインクの安定性を考慮すると記録動作を一旦停止した状態で行うことが好ましいが、弁の切り替え動作の時間は数秒以下と短いため、記録装置1のダウンタイムに対して大きな問題を生じない。
なお、液体吐出ヘッド300の吐出口からインクが吐出されたりすることで循環経路内のインク量が減少する。つまり、第2タンク22内のインク液面が低水位検知レベルを下回っており、かつ第1タンク21内のインク液面が高水位検知レベルを下回る場合には、メインタンク1002から第1タンク21に対してインクを補充する操作を行う。この場合には、まず、各色対応の供給弁6(V3)を閉じて、個別弁5(V2)を開く。次に、切り替え機構4を、第1タンクを第2圧力制御機構に接続し、第2タンクを第1圧力制御機構に接続するように切り替える(つまり、図3の状態とする)。そして、吸引ポンプ1000を動作させ、バイパス弁35(バイパス開閉弁;V4)を開く(バイパス経路を開放する)。すなわち、供給弁6(V3)によって第1タンク21と液体吐出ヘッド300とを圧力的に分離した状態において、第1タンク内を高負圧にして、メインタンク1002内のインクを第1タンク内に吸い込んで補充する。その際、各色対応の第1タンクの相互間において、インクの補充の必要量に差が生じることが予想される。しかし、各色対応の第1タンクの高水位検知信号に基づいて、個別弁5(V2)を各色別に閉止することによって、第1タンク内に過剰にインクが補充されることを防止することができる。
このようなインク補充操作の間、記録素子基板10の吐出口には、第2タンク22を介して第1圧力制御機構31(H)により静負圧が印加されているため、各吐出口におけるインクのメニスカスは安定に保持されている。全色のインクに関して、第1タンク21へのインクの補充が終了した時点では、各色の第2タンク22内のインク液面は低水位検知レベルを下回っている状態である。そのため、切り替え機構4を反転しから、供給弁6(V3)および個別弁5(V2)を開くだけで、第1タンク21から第2タンク22へとインクを流すことができる。したがって、弁の切り替え動作の時間(数秒以下)を要するだけで、安定した記録動作を直ぐに開始することができる。
個別弁5(V2)および/または供給弁6(V3)のノーマルステート(電源停止時の開閉状態)は閉であり、第1切り替え部(V1AおよびV1D)は第1タンク21側に解放となり、第2切り替え部(V1BおよびV1C)は第2タンク22側に開放となることが好ましい。具体的には、図2から図5の例においては、4つの開閉弁(V1A〜V1D)のノーマルステートにおいては、V1AおよびV1Cが開、V1BおよびV1Dが閉となる。このように設定することにより、記録装置停止時に、液体吐出ヘッド300は第1タンク21から圧力的に切り離されて、第2タンク22のみと連通した状態になる。第2タンクは、制御圧が低い側の第2圧力制御機構32(L)に接続されるため、液体吐出ヘッドのノズル部にかかる負圧を高めの状態で止めることができる。このため、吐出口からのインク垂れを防止しつつ、タンクを液体吐出ヘッドよりも高い位置に設定するような装置内レイアウトの自由度を高くすることできる。さらに、電源停止時における屋内輸送などの場合に、記録装置の姿勢が多少斜めになったとしても吐出口からのインク漏れを抑制することができる。
このように本実施形態のインク供給系では、各色のインク流れに必要な圧力制御を共通の圧力制御機構およびポンプを用いて行うことができる。このため、部品数が少なく低コストで小型でありながら、泡、増粘インク、および異物等を吐出口から除くことができて、高画質な画像の記録が可能な信頼性の高い記録装置を提供することができる。本実施形態では4色のインクについて説明したが、淡インク、特色インク、および記録向上液等、液体の種類がさらに増加した場合においても圧力制御機構を共通に用いることが可能である。
本実施形態において、ポンプ1000、負圧制御ユニット3、および切り替え機構4からなる機構部は、圧力損失が非常に軽微なエア配管によって、第1タンク21および第2タンク22に接続されている。そのため、記録装置内での機構部のレイアウトを比較的自由に選択することが可能であり、記録装置の小型化が図りやすいというメリットがある。
また、液体吐出ヘッド300および液体供給ユニット220からなる部分を液体吐出ヘッドとしてユニット化して、記録装置本体のキャリッジに対して交換可能に設置してもよい。液体吐出ヘッド300と液体供給ユニット220とをユニット化(一体化)することにより、メインタンク1002およびエア配管の取り外しだけで、液体吐出ヘッドの簡便な交換が可能となる。また、液体吐出ヘッドが記録装置本体内の機構部とエア配管のみで接続されているため、メインタンク1002も液体吐出ヘッドとしてユニット化することにより、交換の際にインクの漏洩および飛散のおそれが無く、さらに容易に液体吐出ヘッドの交換が可能となる。
また、本実施形態における液体吐出ヘッドはページワイド型のラインヘッドの形態であるが、いわゆるシリアルヘッドの形態であってもよい。液体吐出ヘッドがシリアルヘッドの形態の場合には、その機構部をキャリッジ外に設置し、ヘッド部と機構部とをエア配管で接続して、ヘッド部だけをキャリッジに搭載して往復移動させるように構成する。これにより、増粘インクおよび異物をタンクに排出しながら記録を行うことができる。
(負圧補償機能)
本実施形態のインク供給系では、第1タンク21と第2タンク22との間の差圧によって、液体吐出ヘッド300内にインクの流れを発生させている。液体吐出ヘッドの吐出口からインクが吐出されると、圧力室へのインクのリフィル(補充)が発生する。
以下、吐出口からの吐出動作を行っていない時(以下、「非吐出動作時」ともいう)に記録素子基板10内のインク流路を通過するインクの流量を、非吐出動作時のインク流量という。また、吐出動作を行っている時(以下、「吐出動作時」ともいう)のインクの吐出量を、吐出動作時のインク吐出量という。
非吐出動作時のインク流量が吐出動作時のインク吐出量以上である場合には、実質的に、第1圧力制御機構31(H)に接続されたタンク側から各圧力室へのリフィルが発生する。
一方、非吐出動作時のインク流量よりも吐出時のインク吐出量が大きい場合には、第1圧力制御機構31(H)に接続されたタンク側のみならず、第2圧力制御機構32(L)に接続されたタンク側からも各圧力室へのリフィルが発生する。例えば、短時間に多量のインクを吐出する記録を行った場合、液体吐出ヘッドが多数の記録動作を高周波で行った場合等、いわゆる高デューティ条件での記録時には、第2圧力制御機構32(L)に接続されたタンク側からのリフィルが発生しやすい。
しかしながら、第2圧力制御機構32(L)(一般的な背圧型レギュレータ)は、逆流時には自律的に内部の弁が閉まるため、逆流が生じないようになっている。また、ポンプ1000においても、その内部の逆止弁によって逆流が生じないようになっている。そのため、高デューティ記録を行った場合、記録素子基板10内のインク流路において、第2圧力制御機構32(L)に接続されたタンク側の圧力が低くなり過ぎてリフィル不足となる。その結果、吐出口からの吐出量が減少し、画像が薄くなったり掠れが生じたりする場合がある。
また、高デューティ記録を行っていない他の記録素子基板10および吐出口においては、通過するインク流量が増大して、負圧上昇および温度の過剰な低下が生じて、やはり画質の低下が生じてしまう場合がある。
本実施形態では、以上のような状況を回避するために、負圧変動の補償機構(以下、負圧補償機構、負圧補償部、圧力補償手段ともいう)37を備えている。負圧補償機構37は、第1タンク21と第2タンク22とをガス連通させる経路中に設けられている。負圧補償機構37は、受動弁33と開閉弁34(V5で表示)とで構成され、第1圧力制御機構31の下流側流路と第2圧力制御機構32の上流側流路とを直接接続する経路(連通路)中に設けられている。
受動弁33は、その両側の差圧、すなわち第1圧力制御機構31側の圧力と第2圧力制御機構32側の圧力との間の差が所定値以上、例えば、第1圧力制御機構31の制御圧と第2圧力制御機構32の制御圧との差以上になった場合に、開くように設計されている。図4の例において、第1圧力制御機構31側の圧力は、第1圧力制御機構31と第1タンク21との間の流路の内圧に相当する。また、第2圧力制御機構32側の圧力は、第2圧力制御機構32と第2タンク22との間の流路の内圧に相当する。このような構成によれば、液体吐出ヘッド300の吐出動作によって第2圧力制御機構32側の圧力が低下(負圧が上昇)するような場合であっても、受動弁33の開放によって負圧変動が補償されて、負圧の過剰な上昇が防止される。例えば、第2圧力制御機構32側の圧力が所定の圧力以下のときに、第1圧力制御機構31側の流路から第2圧力制御機構32側に液体を供給して、第2圧力制御機構32側の圧力を増加させる、つまり、かかる圧力の低下を補償することができる。これにより、高デューティ記録時においても、記録素子基板10における吐出口から安定的にインクを吐出することができる。
図4における全記録素子基板10のうち、白抜きで表示されている記録素子基板10は、高デューティ記録が行われている状態にある。また、黒網掛けで表示されている記録素子基板10においては、吐出動作を行っていない状態(非吐出状態)、または低デューティで記録素子が駆動されている状態にある。
C(シアン)色の記録素子基板の大部部分(白抜き部分)、およびY色の記録素子基板の全ての部分(白抜き部分)においては、高Duty記録が行われており、第2タンク22側からのインクのリフィルが生じている。そのため、C色とY色用の第2タンク22内の負圧上昇を抑制するために、第1圧力制御機構31から差圧弁33を介して、インクのリフィル分に相当する空気が供給されて、負圧上昇が抑制される。このため、待機状態にあるM色とK色用の第2タンク22の内圧は殆ど変化せず、安定なインク流れが継続される。本実施形態のページワイド型のように、複数の記録素子基板が設けられる液体吐出ヘッドにおいては、図4のC(シアン)の液体吐出ヘッド300の例に示すように、夫々の記録素子基板10における記録ディーティーに応じてリフィルの形態が異なる。つまり、低ディーティーの記録素子基板に関しては第1タンク21側からのみ、高ディーティーの記録素子基板に関しては第1タンク21及び第2タンク22側の双方から、リフィルが行われる。
このように本実施形態では、どのような状態においても、第2圧力制御機構32に接続されたタンク内の過剰な負圧上昇が抑制できる。
(強回復モード)
本実施形態では、更に、通常のインク流量では排出しきれなかった、吐出口および液体吐出ヘッド300内の流路における泡、増粘インク、および異物などを排出するための強回復モードを実行することができる。
図5は、強回復モード時の経路の状態を示す模式図である。第2圧力制御機構32(L)の上流側の流路と下流側の流路との間に接続されたバイパス弁35(V4で表示)が開かれている。これにより、第2圧力制御機構32の制御圧に関わらず、吸引ポンプ1000の回転数に応じて、第1タンク21と第2タンク22との間の差圧を制御することができる。すなわち、液体吐出ヘッド300を通過するインクの流量を上述した通常の循環時よりも多くすることができる。液体吐出ヘッド300内を通過するインク流量は、吐出口におけるインクのメニスカスが保持可能な範囲において、液体吐出ヘッドの吐出性能の回復性を考慮して選択することができる。この強回復モードは非記録状態において行うため、液体吐出ヘッド300内を通過するインク流量は、記録に適した吐出特性を提供できる適正負圧以上になるような流量であっても問題は生じない。
通常、吐出口部の流路は液体吐出ヘッド内における最も微細な流路であるため、インク流量を多くしても、吐出口のインク流れ方向(液体の流動方向)における上流側に溜まった泡および異物などを吐出口部から排出させることは困難である。そのため、ある所定の時間だけ強回復モードを実行した後に、切り替え機構4の操作によって、液体吐出ヘッド300内のインク流れ方向を反転させてから、再度、強回復モードを実行することが好ましい。このような強回復モードによれば、従来の吸引動作および加圧動作による液体吐出ヘッドの回復操作とは異なり、多量の廃インクを発生させずに、吐出口の回復操作を行うことができるため、廃インクの削減および回復機構の簡素化を実現することができる。
なお、強回復モードを実行する場合には、上述した負圧補償機構の開閉弁34(V5で表示)を閉じるように制御する必要がある。何故ならば、強回復モードにおいては、第1タンクと第2タンクとの間に通常よりも大きな差圧が生じるように圧力を印可するため、開閉弁34が開いていた場合には、受動弁33が開いて差圧を大きくできなくなるからである。あるいは、受動弁33自体に閉止機能を持たせてもよい。
(液体供給ユニットおよびバルブユニット)
図6(a)から図6(c)は、液体供給ユニット220、バルブユニット400、および負圧制御ユニット3の具体的構成を示す図である。
バルブユニット400は、図2から図5で示した各弁(V1A、V1B、V1C、V1D、V2、V3、V4、V5)、エアバッファ7、インクジョイント8、真空ジョイント9、およびインク・エア流路部材を含む機構部である。図6(a)に示すように、バルブユニット400には、4色のインクのメインタンクに接続されるインクジョイント8、および吸引ポンプ1000に接続される真空ジョイント9が設けられ、それぞれは、ユニット内部のインク流路およびエア流路に連通している。
図6(b)は、液体供給ユニット220とバルブユニット400とを分離した状態の斜視図である。この図から判るように、インクジョイント8から流入した供給インクは、インク中の異物を取り除くため、フィルタ1001を通過して内部の第1タンク21へ供給される。また、液体供給ユニットの第1タンク21および第2タンク22のエア部は、エア接続口23を介して、バルブユニット400内のエア流路(不図示)に接続される。
図6(c)は、バルブユニット400の上面図である。バルブユニット400には、負圧制御ユニット3、切り替え機構4(開閉弁41〜44)、電磁弁からなる4つの個別弁5、受動弁33と開閉弁34とからなる負圧補償機構37、バイパス弁35、4つの供給弁6、およびエアバッファ7が平面的に配置されている。これらのうち、開閉弁41〜44、34、バイパス弁35、および供給弁6は、記録装置本体のギア・カム機構(不図示)とそれぞれメカ的に接続されていて、開閉制御されるようになっている。これらの弁は、個別弁5と同様に、電磁弁を使用しても機能的に問題はない。また個別弁5は、本体のギア・カム機構により開閉制御されるもとしてもよい。4つの供給弁6は、全色のインクについて同時に開閉を行うため、電磁弁を個別に用いるよりは、メカ機構的に制御した方が低コストである。また個別弁5は、インクの色別(液体種別)に開閉を制御する必要があるため、インクの色別にモータおよびメカ機構を用意するよりは、電気的に制御した方が低コストである。
バルブユニット400上に配置された負圧制御ユニット3には、図2のように、第1圧力制御機構31(H)および第2圧力制御機構32(L)の双方が内蔵されている。第1圧力制御機構31(H)および第2圧力制御機構32(L)のそれぞれの内部に設けられる弁およびバネ部材などの働きによって、液体吐出ヘッド300の流路内の負圧をある一定範囲内に安定化させることが可能である。負圧制御ユニット3の構造の詳細については、図12を参照して後述する。
(液体吐出ヘッドの具体的構成)
図7および図8を参照して、本実施形態における液体吐出ヘッド300の具体的構成について説明する。
図7(a)および図7(b)は、本実施形態における液体吐出ヘッド300の斜視図である。本例の液体吐出ヘッド300は、15個の記録素子基板10が直線状に配列(インラインに配置)されたライン型の液体吐出ヘッドである。1つの記録素子基板10は、C(シアン)/M(マゼンタ)/Y(イエロー)/K(ブラック)の4色のインクを吐出可能に構成されている。
液体吐出ヘッド300は、フレキシブル配線基板40および電気配線基板90を介して、各記録素子基板10と電気的に接続された信号入力端子91および電力供給端子92を備える。信号入力端子91および電力供給端子92は、記録装置1の制御部と電気的に接続されて、吐出駆動信号および吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することにより、信号出力端子91および電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくすることができる。これにより、記録装置1に対する液体吐出ヘッド300の組み付け時、または液体吐出ヘッド300の交換時に、取り外しが必要な電気接続部数が少なくて済む。
液体吐出ヘッド300の両端部に設けられた液体接続部111は、液体供給ユニット220の各色の第1タンクおよび第2タンクに接続される。
図8に、液体吐出ヘッド300を構成する各部品およびユニットの分解斜視図である。
筐体80は、液体吐出ヘッド300を支持する支持部81と、電気配線基板90を支持する支持部82と、を含むと共に、液体吐出ヘッド全体の剛性を確保する。支持部81には、吐出モジュール200が搭載された流路部材210が取り付けられている。支持部82および支持部81は、ネジによって筐体80に固定される。支持部81は、液体吐出ヘッド300の反りおよび変形を矯正して、複数の素子基板10の相対位置精度を確保することにより、記録画像におけるスジおよび濃度ムラの発生を抑制する。そのため、支持部81は充分な剛性を有することが好ましく、その材質としては、例えば、SUSまたはアルミなどの金属材料、もしくはアルミナなどのセラミックが好適である。支持部81には、ジョイントゴム100を挿入するための開口83,84が設けられている。インク供給ユニット220から供給されるインクは、ジョイントゴム100内の穴を通して、インク吐出ユニット300を構成する第3流路部材70に導かれる。
液体吐出ヘッド300の記録媒体側の面には、カバー部材130が取り付けられる。カバー部材130は、図8に示すように、長尺の開口131が設けられた額縁状の部材である。開口131からは、吐出モジュール200に含まれる記録素子基板10および封止材110(図12A参照)が露出する。開口131の周囲の枠部は、記録待機時に、液体吐出ヘッド3をキャップするキャップ部材が当接する当接面として機能する。そのため、開口131の周囲に沿って接着剤、封止材、または充填材等を塗布して、液体吐出ヘッド300の吐出口面上の凹凸および隙間を埋めることにより、キャップ時に閉空間が形成されるように構成することが好ましい。
次に、液体吐出ヘッド300に含まれる流路部材210の詳細について説明する。図8に示すように、流路部材210は、第1流路部材50、第2流路部材60、および第3流路部材70を積層したものである。流路部材210は、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配し、また吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための流路部材である。流路部材210は液体吐出ヘッド支持部81にネジ止めで固定されており、それにより、流路部材210の反りおよび変形が抑制される。
図9(a)から図9(f)は、第1、第2および第3流路部材の表面と裏面を示した図である。図9において、図9(a)は、吐出モジュール200が搭載される側の第1流路部材50の面を示し、図9(f)は、液体吐出ヘッド支持部81と当接する側の第3流路部材70の面を示す。第1流路部材50と第2流路部材60は、それらの当接面である図9(b)の面と図9(c)の面とが対向するように接合される。第2流路部材と第3流路部材は、それらの当接面である図9(d)の面と図9(e)の面とが対向するように接合される。第2流路部材60と第3流路部材70を接合することにより、それらに形成される共通流路溝62および71によって、流路部材の長手方向に延在する8つの共通流路が形成される。これにより、色毎に第1共通流路12と第2共通流路13とのセットが流路部材210内に形成される。第3流路部材70の連通口72は、ジョイントゴム100の各穴を通して液体供給ユニット220と流体的に流通している。第2流路部材60の共通流路溝62の底面には連通口61が複数形成されており、その連通口61は、第1流路部材50の個別流路溝52の一端部と連通している。第1流路部材50の個別流路溝52の他端部には連通口51が形成されており、その連通口51は、複数の吐出モジュール200と流体的に連通している。この個別流路溝52により、流路部材の中央側へ流路を集約的に形成することが可能となる。
第1、第2、および第3流路部材は、液体に対して耐腐食性を有すると共に、線膨張率の低い材質からなることが好ましい。材質としては、例えば、アルミナ、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニルサルファイド)、またはPSF(ポリサルフォン)を母材として、シリカまたはアルミナの無機フィラー(微粒子・ファイバーなど)を添加した複合材料(樹脂材料)を好適に使用できる。流路部材210の形成方法としては、3つの流路部材を積層させて互いに接着してもよく、また、材質として樹脂複合樹脂材料を選択した場合には、溶着による接合方法を用いてもよい。
次に、図10を用いて、流路部材210内の各流路の接続関係について説明する。図10は、第1、第2、および第3流路部材を接合して形成される流路部材210内の流路の一部を、吐出モジュール200が搭載される第1の流路部材50の面側から視た拡大透視図である。流路部材210には、色毎に液体吐出ヘッド3の長手方向に延在する第1共通流路12(12a、12b、12c、12d)、および第2共通流路13(13a、13b、13c、13d)が設けられている。各色の第1共通流路12には、個別流路溝52によって形成される複数の第1個別流路(213a、213b、213c、213d)が連通口61を介して接続される。また、各色の第2共通流路13には、個別流路溝52によって形成される複数の第2個別流路(214a、214b、214c、214d)が連通口61を介して接続される。このような流路構成により、各第1共通流路12から第1個別流路213の一連の流路を介して、流路部材の中央部に位置する記録素子基板10にインクを集約的に導くことができる。また、記録素子基板10から第2個別流路214の一連の流路を介して、各第2共通流路13にインクを回収することができる。
図11は、図10のXI−XI線における断面図である。この図に示すように、それぞれの第2個別流路(214a、214c)は、連通口51を介して吐出モジュール200と連通している。図11の断面では第2個別流路(214a、214c)のみ図示しているが、別の断面においては、図10に示すように第1個別流路213と吐出モジュール200とが連通されている。各吐出モジュール200に含まれる支持部材30および記録素子基板10には、第1流路部材50からのインクを記録素子基板10の記録素子115(図14参照)に供給するための流路が形成されている。また、記録素子115に供給した液体の一部または全部を第1流路部材50に回収(環流)するための流路が形成されている。
図2に示すようにインクが循環する場合、各色の第1共通流路12は、液体供給ユニット220を介して圧力制御機構(高圧側)31に接続され、第2共通流路13は、圧液体供給ユニット220を介して力制御機構(低圧側)32に接続される。圧力制御機構(高圧側)31と圧力制御機構(低圧側)32とを含む負圧制御ユニット3によって、第1共通流路12と第2共通流路13との間に差圧(圧力差)が生じる。そのため、図10および図11に示すように構成された液体吐出ヘッド内には、色毎に、第1共通流路12、第1個別流路213a、記録素子基板10、第2個別流路213b、および第2共通流路13の順に流れるインクの流れが発生する。
また、図3に示すようにインクが循環する場合、各色の第1共通流路12は、液体供給ユニット220を介して圧力制御機構(低圧側)32に接続され、第2共通流路13は、液体供給ユニット220を介して圧力制御機構(高圧側)31に接続される。圧力制御機構(高圧側)31と圧力制御機構(低圧側)32とを含む負圧制御ユニット3によって、第1共通流路12と第2共通流路13との間に差圧(圧力差)が生じる。そのため、図10および図11に示すように構成された液体吐出ヘッド内には、各色毎に、第2共通流路13、第2個別流路213b、記録素子基板10、第1個別流路213a、および第1共通流路12の順に流れるインクの流れが発生する。
(吐出モジュール)
図12(a)に1つの吐出モジュール200の斜視図を、図12(b)にその分解図を示す。吐出モジュール200の製造方法としては、まず記録素子基板10およびフレキシブル配線基板40を、予め液体連通口31が設けられた支持部材30上に接着する。その後、記録素子基板10上の端子16と、フレキシブル配線基板40上の端子41とをワイヤーボンディングによって電気接続し、その後にワイヤーボンディング部(電気接続部)を封止材110で覆って封止する。フレキシブル配線基板40の記録素子基板10と反対側の端子42は、電気配線基板90の接続端子93(図8参照)と電気接続される。支持部材30は、記録素子基板10を支持する支持体であるとともに、記録素子基板10と流路部材210とを流体的に連通させる流路部材であるため、平面度が高く、また十分に高い信頼性をもって記録素子基板と接合できるものが好ましい。材質としては例えばアルミナや樹脂材料が好ましい。
(記録素子基板の構造)
本実施形態における記録素子基板10の構成について説明する。
図13(a)は、記録素子基板10の吐出口113が形成される側の面の平面図を示し、図13(b)は図13(a)のXIIIbで示した部分の拡大図を示し、図13(c)は、図13(a)の裏面の平面図を示す。図13(a)に示すように、記録素子基板10の吐出口形成部材112に、各インク色に対応する4列の吐出口列が形成されている。なお、以後、複数の吐出口113が配列される吐出口列が延びる方向を「吐出口列方向」と呼称する。
図13(b)に示すように、各吐出口113に対応した位置には液体を熱エネルギーにより発泡させるための発熱素子である記録素子115が配置されている。隔壁122により、記録素子115を内部に備える圧力室123が区画されている。記録素子115は記録素子基板10に設けられる電気配線(不図示)によって、図13(a)の端子16と電気的に接続されている。また、記録素子115は、記録装置1の制御回路から電気配線基板90(図8)およびフレキシブル配線基板40(図12)を介して入力されるパルス信号に基づいて、発熱して液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力(発泡圧)で液体を吐出口113から吐出する。図13(b)に示すように、各吐出口列に沿って、一方の側には液体供給路18が、他方の側には液体回収路19が延在している。液体供給路18および液体回収路19は記録素子基板10に設けられた吐出口列方向に伸びた流路であり、それぞれ供給口17a、回収口17bを介して吐出口113と連通している。
なお、本明細書においては、液体供給路18、液体回収路19というように、「供給」および「回収」という用語を用いて構成を説明しているが、本発明の実施形態においては、例えば図2および図3に示すように、液体の流動方向は反転可能となっている。そのため、液体の流動方向によっては、液体供給路に液体が回収され、液体回収路から液体が供給されることとなる。本明細書の他の箇所における説明においても、同様に、液体の流動方向(インク流れ方向)が逆となる場合に、「供給」と「回収」との関係は逆になり得ることに留意されたい。
図13(c)および図14に示すように、記録素子基板10の、吐出口113が形成される面の裏面にはシート状の蓋部材200が積層されており、蓋部材200は、後述する液体供給路18および液体回収路19に連通する開口21を複数備えている。本実施形態においては、液体供給路18の1本に対して3個、液体回収路19の1本に対して2個の開口21が蓋部材200に設けられている。図13(b)に示した蓋部材200の夫々の開口21は、図9(a)に示した複数の連通口51と連通している。図14は、図13(a)におけるXIV−XVI線に沿って切断した記録素子基板10および蓋部材200の断面を示す斜視図である。図10に示すように蓋部材200は、記録素子基板10の基板111に形成される液体供給路18および液体回収路19の壁の一部を形成する蓋としての機能を有する。蓋部材200は、液体に対して十分な耐食性を有している物が好ましく、また、混色防止の観点から、開口21の開口形状および開口位置には高い精度が求められる。このように蓋部材は開口21により流路のピッチを変換するものであり、圧力損失を考慮すると、厚みは薄いことが望ましい。このため蓋部材200の材質として、感光性樹脂材料やシリコン薄板を用い、フォトリソプロセスによって開口21を設けることが好ましい。
次に、記録素子基板10内での液体の流れについて説明する。記録素子基板10はSiにより形成される基板111と感光性の樹脂により形成される吐出口形成部材112とが積層されており、基板111の裏面には蓋部材200が接合されている。基板111の一方の面側には記録素子115が形成されており(図13(b))、その裏面側には、吐出口列に沿って延在する液体供給路19および液体回収路18を構成する溝が形成されている。基板111と蓋部材200によって形成される液体供給路18および液体回収路19はそれぞれ、流路部材210内の共通供給流路211と共通回収流路212と接続されており、液体供給路18と液体回収路19との間には差圧が生じている。液体吐出ヘッド3の複数の吐出口113から液体を吐出する記録時に、吐出動作を行っていない吐出口においてはこの差圧によって、基板111内に設けられた液体供給路18内の液体は供給口17a、圧力室123、回収口17bを経由して液体回収路19へ流れる。図14の矢印Cで流れを示す。この流れによって、記録を休止している吐出口113や圧力室123において、吐出口113からの蒸発によって生じる増粘インク、および泡・異物などを液体回収路19へ回収することができる。また吐出口113や圧力室123のインクの増粘を抑制することができる。
液体回収路19へ回収された液体は、蓋部材200の開口21、支持部材30の液体連通口31を通じて流路部材210内の連通口51、個別回収流路214、第2共通流路113の順に回収され、最終的には第1タンク21または第2タンク22へと回収される。
つまり液体供給ユニット220の第1タンクまたは第2タンクから液体吐出ヘッド300へ供給される液体は下記の順に流動し、供給および回収される。液体は、まず液体供給ユニット220から、液体接続部111、ジョイントゴム100を介して液体吐出ヘッド300内に流入する。その後に、第3流路部材に設けられた連通口72および共通流路溝71、第2流路部材に設けられた共通流路溝62および連通口61、第1流路部材に設けられた個別流路溝52および連通口51の順に供給される。その後、支持部材30に設けられた液体連通口31、蓋部材に設けられた開口21、基板111に設けられた液体供給路18および供給口17aを順に介して圧力室123に供給される。圧力室123に供給された液体のうち、吐出口13から吐出されなかった液体は、基板111に設けられた回収口17bおよび液体回収路19、蓋部材に設けられた開口21、支持部材30に設けられた液体連通口31を順に流れる。その後、第1流路部材に設けられた連通口51および個別流路溝52、第2流路部材に設けられた連通口61、共通流路溝62、第3流路部材70に設けられた共通流路溝71、連通口72、ジョイントゴム100を順に流れる。次いで、液体接続部111から供給ユニット220の第2タンクまたは第1タンクへ回収される。
(記録素子基板間の位置関係)
図15は、隣り合う2つの吐出モジュールにおける、記録素子基板の隣接部を部分的に拡大して示す平面図である。図13に示すように、本実施形態では略平行四辺形の記録素子基板を用いている。図15に示すように各記録素子基板10における吐出口113が配列される各吐出口列(L1,L2,L3,L4)は、記録媒体の搬送方向に対し一定角度傾くように配置されている。それによって記録素子基板10同士の隣接部における吐出列は、少なくとも1つの吐出口が記録媒体の搬送方向にオーバーラップするようになっている。図15では、D線上の2つの吐出口が互いにオーバーラップ関係にある。このような配置によって、仮に記録素子基板10の位置が所定位置から多少ずれた場合でも、オーバーラップする吐出口の駆動制御によって、記録画像の黒スジや白抜けを目立たなくするようにすることができる。複数の記録素子基板10を千鳥配置ではなく、直線上(インライン)に配置した場合においても、同様である。つまり、図15のような構成により液体吐出ヘッド300の記録媒体の搬送方向の長さの増大を抑えつつ、記録素子基板10同士のつなぎ部における黒スジや白抜け対策を行うことが出来る。なお、本実施形態では記録素子基板の主平面は平行四辺形であるが、本発明はこれに限るものではなく、例えば長方形、台形、その他形状の記録素子基板を用いた場合でも、本発明の構成を好ましく適用することができる。
(第1圧力制御機構および第2圧力制御機構)
図16(a)〜図16(c)は、第1圧力制御機構31と第2圧力制御機構32を含む負圧制御ユニット3の説明図である。図16(a)は、負圧制御ユニット3の斜視図であり、図16(b)は、図13(a)のXVIb−XVIb線に沿う断面図であり、図16(c)は、図16(a)のXVIc−XVIc線に沿う断面図である。
減圧型レギュレータ機構としての第1圧力制御機構31、および背圧型レギュレータ機構としての第2圧力制御機構32は、共通のボディ310内に構成されており、それらを一体的に取り付けおよび交換することができる。図16(c)のように、2つの圧力制御機構31,32を互いに対象的に配備することにより、負圧制御ユニット3の省スペース化を図ることができる。
(第1圧力制御機構)
減圧型レギュレータ機構としての第1圧力制御機構31は、図16(b)のように、ボディ310の一方側(同図中の下方側)に位置する第1圧力室305と、ボディ310の他方側(同図中の上方側)に位置する第2圧力室306と、を含む。第1圧力室305は可撓性フィルム303Aによってシールされ、第2圧力室306は、受圧板(受圧部)302と可撓性フィルム303Bによってシールされている。第1圧力室305と第2圧力室306との間には、オリフィス(オリフィス部)308が形成されている。第1圧力室305内には、シャフト304によって受圧板302に機械的に連結された弁307が位置し、液体吐出ヘッド300の駆動時に、シャフト304、弁307、および受圧板302は一体的に動く。受圧板302は、付勢部材(バネ)301Bによって、弁307がオリフィス308を閉じる方向に荷重が付勢されている。また、第1圧力室305に備わる付勢部材(バネ)301Aによって、弁307がオリフィス308を閉じる方向に付勢され、かつ可撓性フィルム303Aが負圧調整部材311に押し付けられる方向に付勢される。
弁307の主たる機能は、オリフィス308との間のギャップを変化させて、気流の流抵抗を調整して可変させることにある。弁307は、インクの循環停止時にオリフィス308との間のギャップを閉塞することが好ましい。インクの循環停止時(記録動作の停止時)に、弁307とオリフィス308との間(境界)を流体的にシールすることにより、吐出口113におけるインクに負圧を作用させ続けて、吐出口113からのインクの漏れを防ぐことができる。弁307の材質としては、充分な耐食性を有するゴムまたはエラストマーなどの弾性材料が好ましい。
本例において、付勢部材301A,301Bとしてのバネは、2つの連成バネとなっている。しかし、それらの合成バネ力によって所望の負圧を得ることができればよい。そのため、例えば、1つのバネだけを用いる構成、あるいは3つ以上のバネを用いる構成も採用することができる。図16(b)の例においては、付勢部材301A,301B(2つの連成バネ)の内、1つの付勢部材301Bを第2圧力室306内に分けて設けることにより、受圧板302とシャフト304とが分離できるように構成されている。受圧板302とシャフト304とが分離された状態においても、第2圧力室内の付勢部材301Bの付勢力が受圧板302に作用する。したがって、弁307がオリフィス308を閉塞した状態でも、第2圧力室306内の付勢部材301Bの付勢力によって、受圧板302をシャフト304から分離して、第2圧力室306内の容積を更に増やす方向に移動可能である。この結果、液体吐出ヘッド300が長期間駆動されず、液体吐出ヘッド300内に気泡が取り込まれた状態となったときに、第2圧力室306が気泡の容積増分を吸収するバッファとして機能する。これにより、液体吐出ヘッド300内のインクが正圧となることを抑制することができる。
第1圧力室305および第2圧力室306は、それぞれ、流入口312Aおよび流出口312B(図16(a)参照)に連通される。弁307は、オリフィス308よりもインクの流れ方向の上流側に位置しており、受圧板302が図16(b)中の上方へと移動することによって、弁307とオリフィス308とのギャップが縮小する。流入口312Aから第1圧力室305に入った空気(気流)は、弁307とオリフィス308との間のギャップを通って第2圧力室306内へと流入し、その空気の圧力が受圧板302に伝達される。その第2圧力室306内の空気は、流出口312Bから液体供給ユニット220に供給される。
第2圧力室306内の圧力P2は、各部に加わる力の釣り合いを示す下記の関係式(1)から決定される。
P2=P0−(P1・Sv+k1・x)/Sd ・・・ (1)
Sdは、受圧板302の受圧面積、Svは、弁307の受圧面積、P0は大気圧、P1は、第1圧力室305内の圧力、P2は、第2圧力室306内の圧力である。k1は、付勢部材301(301A,301B)のバネ定数、xは、付勢部材301(301A,301B)の変位(バネ変位)である。
上式(1)の右辺における第2項は常に正の値となるため、P2<P0となり、P2は負圧となる。付勢部材301(301A,301B)の付勢力を変更することにより、第2圧力室306内の圧力P2を所望の制御圧力に設定することができる。付勢部材301の付勢力は、バネ定数Kおよび動作時のバネ長さに応じて変更することができる。
弁307とオリフィス308との間のギャップにおける流抵抗Rと、負圧制御ユニット3内(詳細には、オリフィス308)を通過する流量Qと、の間には、次式(2)の関係が成立する。
P2=P1−QR ・・・ (2)
弁307とオリフィス308との間のギャップ(以下、「弁開度」ともいう)、および流抵抗Rは、例えば図17のような関係、つまり弁開度の増大に伴って流抵抗Rは低下する関係に設定する。式(1)と式(2)が同時に成立するように弁開度が調整されて、P2が決定される。
流量Qが増加した場合、流量Qの増加によって、第1圧力制御機構31よりも上流の流抵抗が増加する。したがって、その流抵抗の増加分だけ、第1圧力室305内の圧力P1が減少する。そのため、弁307を閉塞する力(P1・Sv)が減少し、式(1)から明らかなように、第2圧力室306内の圧力P2が瞬時的に上昇する。
また、式(2)からR=(P1−P2)/Qの式が導き出される。流量Qと圧力P2が増加し、圧力P1が低下することにより、流抵抗Rは低下する。流抵抗Rが低下することにより、図14の関係から、弁開度が増加する。弁開度の増加に伴って付勢部材301の長さが小さくなるため、その自由長からの変位xは増加する。そのため、付勢部材301の作用力(k1・x)が大きくなって、式(1)から明らかなように、第2圧力室306内の圧力P2が瞬時的に減少する。
一方、第1圧力制御機構31に流入する空気の流量Qが減少した場合、第1圧力制御機構31は、流量Qが増加した場合とは逆に作用する。すなわち、第1圧力室305内の圧力P1の上昇により第2圧力室306内の圧力P2が瞬時的に減少し、その圧力P2の減少により流抵抗Rが低下して、結果的に、第2圧力室306内の圧力P2が瞬時的に増加する。
また(式2)からR=(P1−P2)/Qが導出される。ここでQ、P2は増加し、P1は低下しているので、Rは低下することになる。Rが低下すると、図17に示した関係から、弁開度が増加する。図16(b)から判るように、弁開度が増加すると付勢部材(バネ)301の長さは小さくなるため、自由長からの変位であるxは増加する。このためバネの作用力k1xは大きくなる。このため(式1)からP2は瞬時的に減少する。
このように、圧力P2の瞬時的な増加および減少が繰り返され、流量Qに応じて弁開度が変化して、式(1),(2)が両立する結果、第2圧力室306内の圧力P2が一定に制御される。したがって、第1圧力制御機構31の下流側流路部内(液体吐出ヘッド入口側)の圧力が自律的に一定に制御されることになる。
ボディ310に固定される負圧調整部材311は、第1圧力室305内の付勢部材301Aの収納長および付勢力を変更するためのものである。第1圧力室305と対向する負圧調整部材311の位置には、突起が設けられている。この突起の高さが異なる負圧調整部材311を選択的にボディ310に固定することにより、付勢部材301Aの付勢力を変更して、第1圧力制御機構31の制御圧力を変更または調整することができる。そのため、負圧制御ユニット3と、液体吐出ヘッド300の吐出口の形成面と、の間の水頭差が異なる場合においても、負圧調整部材311を突起の高さが異なるものと交換することにより、同一の第1圧力制御機構31によって対応することができる。
(第2圧力制御機構)
背圧型レギュレータ機構としての第2圧力制御機構32は、下記のような相違点を除き、前述した第1圧力制御機構31と同様に構成されているため、第1圧力制御機構31と同様の部分には同一符号を付して説明を省略する。
それらの相違点の1つは、第2圧力制御機構32の弁307が第2圧力室306内に配置されていることである。他の相違点は、第2圧力制御機構32の受圧板302が付勢部材301Bの付勢方向(図16(b)の下方向)に移動したときに、弁307とオリフィス308との間のギャップ(弁開度)が拡大することである。さらに他の相違点は、第2圧力制御機構32の第2圧力室306が流入口313A(図16(a)参照)に連通し、第2圧力制御機構32の第1圧力室305が流出口313B(図16(a)参照)に連通することである。したがって、第2圧力制御機構32においては、第1圧力制御機構31とは逆に、第2圧力室306から第1圧力室305に向かって空気が流れる。さらに他の相違点は、第2圧力制御機構32の弁307は、シャフト304を介して、受圧板302と一体化されていることである。さらに、第2圧力制御機構32のシャフト304は、オリフィス308を貫通してシャフトホルダー309に当接している。弁307および受圧板302は、シャフト304を介して一体化されているため、第1圧力室305内の付勢部材301Aの付勢力だけではなく、第2圧力室306内の付勢部材301Bの付勢力をも受ける。
第2圧力制御機構32における圧力調整のメカニズムは、上述した第1圧力制御機構31と同様であり、上流側の第2圧力室306内の圧力P1は、各部に加わる力の釣り合いを示す下記の関係式(3)によって決定される。
P1=P0−(P2・Sv+k1・x)/Sd ・・・ (3)
Sdは、受圧板302の受圧面積、Svは、弁307の受圧面積、P0は大気圧、P1は、上流側の第2圧力室306内の圧力、P2は、下流側の第1圧力室305内の圧力である。k1は、付勢部材301(301A,301B)のバネ定数、xは、付勢部材301(301A,301B)の変位(バネ変位)である。式(3)の右辺における第2項は常に正の値となるため、P1<P0となり、P1は負圧となる。
また、弁307とオリフィス308との間のギャップにおける流抵抗Rと、オリフィス308を通過する流量Qと、の間には、次式(4)の関係が成立する。
P1=P2−QR ・・・ (4)
弁307とオリフィス308との間のギャップ(弁開度)、および流抵抗Rは、図17のような関係、つまり弁開度の増大に伴って流抵抗Rは低下する関係に設定される。式(3)と式(4)が同時に成立するように弁開度が調整されることにより、上流側の第2圧力室306内の圧力P1が決定される。
流量Qが増加した場合、負圧制御ユニット3の下流側に接続される吸引ポンプ1000(図2参照)の圧力は一定であるため、流量Qの増加によって、第2圧力制御機構32から吸引ポンプ1000までの間の流抵抗が増加する。したがって、その流抵抗の増加分だけ、第1圧力室305内の圧力P2が上昇する。そのため、弁307を閉塞する力(P2・Sv)が増大し、式(3)から明らかなように、上流側の第2圧力室306内の圧力P1が瞬時的に減少する。
また、式(4)からR=(P1−P2)/Qの式が導き出される。流量Qと圧力P2が増加し、圧力P1が低下することにより、流抵抗Rは低下する。流抵抗Rが低下することにより、図14の関係から、弁開度が増加する。弁開度の増加に伴って付勢部材301の長さが大きくなるため、その自由長からの変位xは減少する。そのため、付勢部材301の作用力(k1・x)が小さくなって、式(3)から明らかなように、上流側の第2圧力室306内の圧力P1が瞬時的に増加する。
一方、空気の流量Qが減少した場合、第2圧力制御機構32は、流量Qが増加した場合とは逆に作用する。すなわち、下流側の第1圧力室305内の圧力P2の下降により、上流側の第2圧力室306内の圧力P1が瞬時的に増加し、その圧力P1の増加により流抵抗Rが増大して、結果的に、下流側の第2圧力室306内の圧力P1が瞬時的に減少する。
このように、上流側の第2圧力室306内の圧力P1の瞬時的な増加および減少が繰り返され、流量Qに応じて弁開度が変化して、式(3),(4)が両立する結果、上流側の第2圧力室306内の圧力P1が一定に制御される。したがって、第2圧力制御機構32の上流側流路部内(液体吐出ヘッド出口側)の圧力が自律的に一定に制御されることになる。
また、第1圧力室306内の付勢部材301Aの収納長および付勢力は、第1圧力制御機構31における負圧調整部材311と同様に、第2圧力制御機構32の負圧調整部材311によって変更することができる。したがって、使用条件などが異なる種々の記録装置に対して、同一の負圧制御ユニット3を流用してコストダウンを図ることができる。
本実施形態において、圧力室を介して第1タンクと第2タンクとを連通するインク流路を流れるインクの流れ方向を、第1方向(往方向)とそれとは逆の第2方向(復方向)との間で切り替えることができる。そのため、流路内および吐出口近傍の泡、増粘インクおよび異物などを、吐出口よりも流れ方向の下流側に排出することができる。
本実施形態の構成によれば、圧力室を介して第1タンクと第2タンクとを連通するインク流路を流れるインクの流れ方向が、第1方向(往方向)であっても第2方向(復方向)であっても、吐出時のインクのリフィルを安定させることができる。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による構成を説明する。なお、以降の説明においては第1実施形態と異なる部分を説明し、第1実施形態と同様の部分については説明を省略する。
図18は、本発明の第2実施形態の記録装置の流体流路(インク流路、空気流路)を示す模式図である。第1実施形態との相違点は、第1タンクの代わりに、交換可能なメインタンク1002を液体吐出ヘッドに接続している点と、メインタンク1002の大気連通口を、個別供給弁(V2)を介して切り替え機構4に接続している点であり、その他は同様である。
本実施形態のメインタンク1002は、内部に、インク残量に関する情報を検知する残量検機構(不図示)を有し、インクを収納する内袋と、タンク筐体に開口した大気連通口を有する構成と、を有することが好ましい。このようなメインタンクの構成自体は一般的なものではあるが、メインタンク1002の大気連通口に、切り替え機構を介して負圧制御ユニットを接続することで、通常のメインタンクと異なり、インクを出し入れする使用方法が可能となっている。また、インク内袋を有するため、エア圧を介した内圧制御性能を維持したまま、転倒などによるエア配管におけるインク混色発生のリスクを回避することが可能である。さらに、例えば内袋のつぶれ変位を検知する残量検知機構を搭載することで、記録装置の設置角度に影響されない高精度な残量検知も可能である。
従来のメインタンクの中にはインク漏洩防止のため、内袋内に付勢手段を設けて負圧発生手段とする方式のものがある。このような方式を本実施形態に適用する場合には、メインタンクの内部機構による発生負圧を、第1圧力制御機構の制御圧よりも低くするか、タンクをセットする際にタンク内の負圧発生機構が無効化されるようになっていることが取り扱い等の点で好ましい。
図示してはいないが、第2タンク23側にも同様の袋構成のタンクを用いる構成とすることができる。もっともこの場合、第2タンクはメインタンク側と異なり交換しないため、液体吐出ヘッド300内から排出される泡の一部が第2タンクの内袋内に溜まっていき、残量検知精度が徐々に低下していくという虞がある。
本実施形態においては、第1実施形態と同様に、切り替え機構4によって液体吐出ヘッド300内におけるインク流れ方向を反転させることができる。また、第1の実施形態と同様に負圧補償機構37が備えられている。このため、記録素子基板10の吐出口113から短時間に多量のインクが吐出された場合においても、圧力室よりもインク流れ方向の下流側の流路における負圧の下がり過ぎを抑制して、安定的な記録動作を実施することができる。すなわち、本実施形態においては、圧力室を介して第1タンクと第2タンクとを連通するインク流路を流れるインクの流れ方向が、第1方向(往方向)であってもそれとは逆の第2方向(復方向)であっても、吐出時のインクのリフィルを安定させることができる。この結果、信頼性の高い記録動作を実施することができる。
第2実施形態では、第1タンク21および供給弁6(V3)の使用および装置への搭載を廃止できるので、インク供給系のコストダウンおよび小型化をさらに図ることができる。また、従来から残量検知機構を搭載するメインタンクは多いため、その機能を流用して切り換え機構の操作に使用することで、残量検知機構を削減することができる。またメインタンクから第1タンクへのリフィル操作が不要なため、記録待機時間を少なくでき、記録装置の記録生産性が向上し得る。
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態の構成を説明する。以降の説明においては第1実施形態と異なる部分を説明し、第1実施形態と同様の部分については説明を省略する。
図19(a)は、本発明の第3実施形態の記録装置の全4色のインクのインク流路のうちの1色分のインク流路および空気流路を示す模式図である。第3実施形態においては、吸引ポンプ1000および加圧ポンプ1003によって液体吐出ヘッド300内を流れるインク流れを生じさせている点が、第1実施形態とは異なる。すなわち、第3実施形態においては、加圧ポンプ1003が第1圧力制御機構に相当し、吸引ポンプ1000が第2圧力制御機構に相当する機能を果たす。第3実施形態の構成によれば、ポンプの回転数を制御することによって、液体吐出ヘッド300内を流れるインク流量を各インク色別に変更することができる。
負圧補償機構37は、第1実施形態と同様に、受動弁33と開閉弁34(V5で表示)とで構成されているが、第1実施形態とは異なり、加圧ポンプ1003の直下流と吸引ポンプ1000の直上流を直接接続する経路(バイパス流路)の途中に設けられている。
受動弁33は、その両側の差圧、すなわち加圧ポンプ1003側の圧力と吸引ポンプ1000側の圧力との圧力差が所定値以上になった場合に開くように設計されている。図19の例では、加圧ポンプ1003側の圧力とは、加圧ポンプ1003と液体吐出ヘッド300入口との間のインク流路の内圧に相当する。また、吸引ポンプ1000側の圧力とは、吸引ポンプ1000と液体吐出ヘッド300出口との間のインク流路の内圧に相当する。
第3実施形態の構成によれば、液体吐出ヘッド300の吐出動作によって吐出口よりもインク流れ方向の下流側(出口側)の圧力が低下(負圧が上昇)するような場合であっても、受動弁33の開放によって負圧変動が補償され、負圧の過剰な上昇が防止される。この結果、吐出時のインクのリフィルを安定させることができ、信頼性の高い記録動作を実施することができる。
第3実施形態においては、切り替え機構4が、第1タンクおよび第2タンクと液体吐出ヘッド300との間に配置されている点も、第1実施形態1とは異なる。図19(a)では、開閉弁V1Aおよび開閉弁V1Dが開き、開閉弁V1Bおよび開閉弁V1Cが閉じた状態となっている。このため、インクは第1タンク21から開閉弁V1Dを介して加圧ポンプ1003へ供給され、その後液体吐出ヘッド300内へ流入する。その後、インクは吸引ポンプ1000へ吸い出され、開閉弁V1Aを介して第2タンク22へ回収される。第2タンク22内のインク量が規定の水位を超えた場合には、切り替え操作により、図19(b)のように開閉弁V1Aおよび開閉弁V1Dを閉じ、開閉弁V1Bおよび開閉弁V1Cを開く。この切り替え操作により、第1タンクおよび第2ダンクから見たインク流れ方向が反転する。
一方、第1および第2実施形態においては、液体吐出ヘッド300内のインク流れ方向は、往復双方向に切り替えが可能であったのに対し、第3実施形態においては、液体吐出ヘッド300内のインク流れ方向は一方向に固定される。液体吐出ヘッド内の各色のインク流路のレイアウト設計の観点から、吐出口の上流側抵抗と下流側抵抗で大きな差が生じてしまうような場合がある。その場合に、液体吐出ヘッド300内のインク流れ方向を反転させると、インク流れ方向によって吐出口における負圧値が大きく変わるため、インク流れ方向によっては記録物の濃度差が生じてしまう虞がある。これに対し、本実施形態のように液体吐出ヘッド300内のインク流れ方向を一定に固定すると、この虞を低減することができる。
第3実施形態では、第1および第2実施形態と同様に、液体吐出ヘッド内の圧力状態に応じて、適宜、液体を補充して、圧力制御を行う。これにより、液体吐出ヘッドに対する液体のリフィル特性を向上させて、液体吐出ヘッドにおける吐出状態を安定化させることができる。
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態による構成を説明する。なお、以降の説明においては第1実施形態と異なる部分を説明し、第1実施形態と同様の部分については説明を省略する。図20及び図21は、本発明の第4実施形態の記録装置の流体流路(インク流路、空気流路)を示す模式図である。図20は記録時の状態、図21は非記録時の状態を示す。
第1実施形態との相違点は、各色それぞれの第1タンクと第2タンク間を連結する連通路28と、その連通路28を開閉可能な開閉弁14(V6で表示)と、を備えた点であり、その他は第1実施形態と同様である。連通路28と弁14(V6)を備える目的は、記録素子基板10を経由することなく、第1タンク21と第2タンク22と間でインクを迅速に移動させることである。図21において、第2タンク22が圧力制御機構(高圧側)31に接続され、第1タンク21は、弁V1D及びバイパス弁35(V4)を介して吸引ポンプ1000に接続されている。吸引ポンプ1000を駆動することにより、第1タンク21内の空気が排出されると共に、第2タンク22から連通路28を介して第1タンク21内にインクが流入する。このとき、供給弁6(V3)は閉じているため、液体吐出ヘッド300内のインクは第1タンク21内に回収されない。また、第2タンク22の内圧は、圧力制御機構(高圧側)31の制御圧にほぼ近い値になっているため、記録素子基板10の吐出口におけるメニスカスが保持され、液体吐出ヘッド300内のインクは第2タンク22に回収されない。また、メインタンク1002内には不図示の逆止弁が内蔵されており、その逆止弁を通して、メインタンク1002内のインクがインクジョイント8よびフィルタ1001を介して第1タンク21にインクが補充される。その逆止弁を開くための圧力は、図21のようなインクの移送時における第1タンク21の内圧よりも低く設定されているため、メインタンク1002からのインクの流入はない。
第4実施形態においては、第1実施形態と同様に、図20のような記録時に、第1タンク21から液体吐出ヘッド300の記録素子基板10を経由して第2タンク22へとインクを流す。但し、第4実施形態において、第2タンク22から第1タンク21へのインク移動は、図21のように、非記録時に連通路28と弁14(V6)を経由して行う。このため、記録時の記録素子基板10内におけるインク流れ方向を一方向に限定することができ、吐出口の列方向における温度分布の推定が容易となる。
例えば、図10において、第1個別流路213が記録素子基板10におけるインクの流れ方向の上流側に位置し、第2個別流路214がその流れ方向の下流側に位置する場合を想定する。この場合、記録素子基板10に流入するインクの温度は通常低温であるため、第1個別流路213の近傍の吐出口におけるインクは低温になりやすい。一方、記録素子基板10内のインクは熱を受け取って昇温し、記録素子基板10から流出するインクの温度は上昇するため、第2個別流路214の周辺の吐出口におけるインクは高温になりやすい。したがって、記録素子基板10には、吐出口の列方向において低温部と高温部の温度分布が生じ、その温度分布は、第1個別流路213と第2個別流路214の位置に関係に大凡対応するものとなる。このような温度分布の推定値に基づいて、記録装置本体の不図示の制御装置が記録媒体の単位面積当たりに着弾するインク滴の吐出数を調整することにより、温度分布に応じて発生する吐出インクの体積変化に起因する、記録画像の濃度ムラの補正が可能になる。
第1実施形態のように、記録素子基板10内のインク流れ方向が逆転した場合は、その記録素子基板10の温度分布も逆転する。そのため、インク滴の吐出数の調整の制御形態が固定されていた場合には、このような温度分布の逆転に対応することができず、記録画像の濃度ムラの補正が困難となる。このような第1実施形態においても、記録素子基板10内のインクの流れ方向に応じてインク滴の吐出数の調整の制御形態に切り替えることにより、温度分布の逆転に応じて、記録画像の濃度ムラを補正することができる。しかし、この場合には、記録装置本体側の制御の複雑化を招くおそれがある。
また、第1タンク21および第2タンク22内の泡をできるだけ連通路28に取り込まずに、インクをより確実に移送するためには、第2タンク22に対する連通路28の連通位置を第2タンク22内の液面の下方位置とすることが好ましい。
また、連通路28を介して、第1タンク21と第2タンク22の間においてインクを移送することの好ましい点として、インクが顔料成分を含有する顔料インクである場合に、その顔料成分の沈降を抑制できる点がある。図22は非記録時に、第1タンク21から、連通路28を介して第2タンク22へインクを移送する場合の流体流路(インク流路、空気流路)を示す模式図である。図22においては、図21の場合とは逆に、第1タンク21が圧力制御機構(高圧側)31に接続され、第2タンク22は、弁V1C及びバイパス弁35(V4)を介して吸引ポンプ1000に接続されている。その他は、図21の場合と同様であり、吸引ポンプ1000を駆動することにより、第1タンク21から第2タンク21へインクが移送される。
非記録時に、図21に示すインクの移送と、図22に示すインクの移送と、を交互に繰り返して、第1タンク21と第2タンク22との間にてインクを往復させることにより、経路内のインクを撹拌することができる。これにより、インクを撹拌のための特別な構成を追加することなく、第1タンク21および第2タンク22内におけるインク中の顔料成分の沈降を抑制することができる。連通路28を通してのインク流れによるインクの撹拌効率をより高めるためには、第1タンク21および第2タンク22における連通路28の接続部付近に、スタティックミキサーを備えることが好ましい。
なお、第1実施形態においても、インク流れ方向を逆転させることにより、第4実施形態同様に第1および第2タンク内のインクを撹拌することはできる。しかし、吐出口に形成されたインクのメニスカスを維持できる負圧範囲においては、記録素子基板10を通過可能なインクの流量は多くはないため、第4実施形態の方が短時間で顔料成分の沈降を解消することができる。
また、第4実施形態4における連通路28および弁14(V6)は、第1実施形態と同様に、第2実施形態および第3実施形態の構成に追加することが可能である。
(他の実施形態)
上述した第1から第3の実施形態において、液体吐出方式として、バブルジェット(登録商標)方式が採用されているが、ピエゾ方式が採用された液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。
記録装置の方式は、前述した実施形態のようなフルライン方式に限定されず、液体吐出ヘッドの主走査方向の移動と、記録媒体の副走査方向の搬送と、を繰り返して画像を記録する、いわゆるシリアルスキャン方式であってもよい。
本発明は、種々の液体を供給する液体供給装置、および種々の液体を吐出可能な液体吐出装置に対して広く適用することができる。また本発明は、液体を吐出可能なインクジェットヘッドを用いて、種々の媒体(シート)に対して、種々の処理(記録、加工、塗布、照射、読取、検査など)を施すインクジェット装置に対しても適用可能である。その媒体(記録媒体を含む)は、紙、プラスチック、フィルム、織物、金属、フレキシブル基板等、材質は問わず、インクを含む液体が付与される種々の媒体を含む。