JP2019063958A - 高硬度硬質炭素複合膜被覆工具 - Google Patents

高硬度硬質炭素複合膜被覆工具 Download PDF

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Abstract

【課題】高い硬度を有する高硬度硬質炭素複合膜被覆工具、およびその製造方法を提供する。【解決手段】ドリル(高硬度硬質炭素複合膜被覆工具)10の高硬度硬質炭素複合膜24には、工具母材22側に位置し、元素が添加されないアンドープ炭素膜26と、アンドープ炭素膜26の上に被着され、SiおよびBのうちの少なくとも1つの元素がドーピングされたドープド炭素膜28とが含まれる。これにより、アンドープ炭素膜26によって工具母材22中の拡散元素たとえばCoがドープド炭素膜28へ拡散することが抑制されるので、硬度がきわめて高く耐摩耗性も高い高硬度硬質炭素複合膜被覆工具10が得られる。【選択図】図3

Description

本発明は、高硬度硬質炭素複合膜被覆工具、およびその製造方法に関し、特に、SiおよびBのうちの少なくとも1つの元素がドーピングされたドープド炭素膜を高硬度に維持して耐摩耗性に優れた高硬度硬質炭素複合膜を有する高硬度硬質炭素複合膜被覆工具を得る技術に関するものである。
ドリルやエンドミル、フライス、バイト等の切削工具、盛上げタップ、転造工具、プレス金型等の非切削工具などの種々の加工工具、或いは耐摩耗性が要求される摩擦部品などの種々の工具部材において、超硬合金製或いは高速度工具鋼(HSS)製の母材の表面に、硬質炭素被膜をコーティングすることにより、耐摩耗性や耐久性を向上させることが提案されている。特許文献1には、硬質炭素被膜としてDLC(Diamond Like Carbon:非晶質炭素)被膜が設けられた工具が記載されている。DLCは緻密なアモルファス構造で、結晶学的にはダイヤモンドと異なるが、TiAlN、CrN等の化合物被膜に比較して高い硬度を有する。
しかしながら、上記硬質炭素被膜は、耐熱性および耐摩耗性の点で必ずしも十分に満足できるものではなく、例えば潤滑油剤を全く使わないエアブローによるドライ加工や、最少量の潤滑油剤を使用するミスト噴霧により切削加工を行うセミドライ加工では、十分な耐久性が得られないとともに、C(炭素)の未結合手が被削材と結合して溶着を生じ易く、特に鉄系材料に対して不向きであった。
これに対し、硬質炭素被膜は水素含有量が少なくなるにつれて、被膜硬さが高くなり、耐磨耗性が向上するという性質を利用して、硬質炭素被膜内の水素の含有量を抑制し且つ珪素(Si)やホウ素(B)を添加することで、工具の耐久性を改善するドープド炭素膜から成る硬質炭素被膜が提案されている。たとえば、特許文献2に記載された硬質炭素被膜がそれである。
特開2005−22073号公報 国際公開第2016/021671号公報
しかしながら、上記特許文献2に記載の技術では、未だ十分な硬度が得られず、耐摩耗性が十分に高いものではなかった。
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、高い硬度を有する高硬度硬質炭素複合膜被覆工具、およびその製造方法を提供することにある。
本発明者等は以上の事情を背景として種々研究を重ねた結果、水素含有量が比較的少なく且つSiおよびBの少なくとも一方の元素がドープ(添加)されたドープド炭素膜を解析すると、ドープド炭素膜にドープしていないコバルト(Co)元素が見出されたことから、高い硬度が得られない理由はそのCo元素が存在していること、および、そのCo元素は工具母材中からドープド炭素膜内へ拡散されたものではないかと推察した。そして、本発明者等は、SiおよびBがドープされないアンドープ炭素膜を工具母材の表面に被着させて解析すると、アンドープ炭素膜内には工具母材中のCo元素が殆ど拡散していないという点を発見した。すなわち、SiおよびBがドープされたドープド炭素膜は工具母材中のCo元素の拡散を促進する事実を発見した。そこで、本発明者等は、上記の性質を利用して、この工具母材の表面にアンドープ炭素膜を介在させてドープド炭素膜を被着させると、ドープド炭素膜内にも工具母材中のCo元素が殆ど拡散せず、硬度がきわめて高い高硬度硬質炭素複合膜が得られるという事実を見いだした。本発明は、このような知見に基づいて為されたものである。
すなわち、第1発明の要旨とするところは、工具母材の表面に被着された高硬度硬質炭素複合膜被覆工具であって、前記工具母材上に位置し、元素が添加されないアンドープ炭素膜と、前記アンドープ炭素膜の上に被着され、SiおよびBのうちの少なくとも1つの元素がドーピングされたドープド炭素膜とを含む高硬度硬質炭素複合膜を備えることにある。
第2発明の要旨とするところは、前記アンドープ炭素膜およびドープド炭素膜の水素含有量は、弾性反跳法を用いる測定で5at%以下であり、前記高硬度硬質炭素複合膜は、ナノインデンテーション法を用いた測定で54GPa以上の被膜硬さを有することにある。
第3発明の要旨とするところは、前記アンドープ炭素膜の膜厚xは、0.1μm≦x≦10μmで示される範囲内であることにある。
第4発明の要旨とするところは、前記ドープド炭素膜にドープされた元素の合計濃度bはX線光電子分光分析法を用いる測定で0.1at%≦b≦20at%で示される範囲内であることにある。
第5発明の要旨とするところは、前記アンドープ炭素膜は、前記工具母材の表面に直接被着され、前記ドープド炭素膜は、前記工具母材の表面に直接被着された前記アンドープ炭素膜の表面に直接被着され、且つ高硬度硬質炭素複合膜の最外側に位置していることにある。
第6発明の要旨とするところは、前記アンドープ炭素膜と前記アンドープ炭素膜の表面に直接被着された前記ドープド炭素膜とが、前記工具母材の表面に交互に積層されていることにある。
第7発明の要旨とするところは、前記工具母材は、超硬合金又は高速度工具鋼から成ることにある。
第8発明の要旨とするところは、前記工具母材の一部または全部が前記高硬度硬質炭素複合膜によって被覆されていることにある。
第9発明の要旨とするところは、前記アンドープ炭素膜およびドープド炭素膜は、非晶質炭素と超ナノ微結晶ダイヤモンドとが混在する混相膜であることにある。
第10発明の要旨とするところは、第1発明から第9発明のいずれか1の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具を製造するための製造方法であって、真空チャンバ内において、筒型アノード電極と前記筒型アノード電極内に同軸に配置されたグラファイトから成るカソード電極との間に放電させることにより、前記筒型アノード電極の先端に開く開口から放出された高エネルギのプラズマ化された粒子を前記工具母材の一部または全部に当てることで、前記工具母材上に前記高硬度硬質炭素複合膜を形成することにある。
第1発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具によれば、前記工具母材上に位置し、元素が添加されないアンドープ炭素膜と、前記アンドープ炭素膜の上に被着され、SiおよびBのうちの少なくとも1つの元素がドーピングされたドープド炭素膜とを含む高硬度硬質炭素複合膜を備える。これにより、アンドープ炭素膜によって工具母材中の拡散元素がドープド炭素膜へ拡散することが抑制されるので、硬度がきわめて高く耐摩耗性も高い高硬度硬質炭素複合膜被覆工具が得られる。
第2発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具によれば、前記アンドープ炭素膜およびドープド炭素膜の水素含有量は、弾性反跳法を用いる測定で5at%以下であり、前記高硬度硬質炭素複合膜は、ナノインデンテーション法を用いた測定で54GPa以上の被膜硬さを有することから、硬度がきわめて高い高硬度硬質炭素複合膜により、高硬度硬質炭素複合膜被覆工具の高い摩耗性が得られる。
第3発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具によれば、前記アンドープ炭素膜の膜厚xは、0.1μm≦x≦10μmで示される範囲内であることから、硬度がきわめて高く耐摩耗性も高い高硬度硬質炭素複合膜被覆工具が得られる。前記アンドープ炭素膜の膜厚xが0.1μmを下回る場合は、アンドープ炭素膜による工具母材中の拡散元素の拡散を抑止する性能が十分に得られず、高硬度硬質炭素複合膜の硬度が低下する。また、前記アンドープ炭素膜の膜厚xが10μmを上回る場合は、高硬度硬質炭素複合膜の膜厚分の曲率半径Rが工具母材の角に形成される。上記の高硬度硬質炭素複合膜が金型に適用される場合は問題ないかもしれないが、上記の高硬度硬質炭素複合膜が工具に適用される場合は、切れ刃の曲率半径Rが大きくなるので、切削工具としての用途が制限される。
第4発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具によれば、前記ドープド炭素膜にドープされた元素の合計濃度bは、X線光電子分光分析法(XPS)を用いる測定で0.1at%≦b≦20at%で示される範囲内であることから、硬度がきわめて高く耐摩耗性も高い高硬度硬質炭素複合膜が得られる。ドープド炭素膜にドープされた元素の合計濃度bが0.1at%を下回る場合は、高硬度硬質炭素複合膜の硬度が十分に得られない。また、ドープド炭素膜にドープされた元素の合計濃度bが20at%を上回る場合も、高硬度硬質炭素複合膜の硬度が十分に得られない。
第5発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具によれば、前記アンドープ炭素膜は、前記工具母材の表面に直接被着され、前記ドープド炭素膜は、前記工具母材の表面に直接被着された前記アンドープ炭素膜の表面に直接被着され、且つ高硬度硬質炭素複合膜の最外側に位置していることから、耐摩耗性の高い高硬度硬質炭素複合膜被覆工具が得られる。
第6発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具によれば、前記アンドープ炭素膜と前記アンドープ炭素膜の表面に直接被着された前記ドープド炭素膜とが、前記工具母材の表面に交互に積層されていることから、耐摩耗性および耐久性の高い高硬度硬質炭素複合膜被覆工具が得られる。
第7発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具によれば、前記工具母材は、超硬合金又は高速度工具鋼から成ることから、アンドープ炭素膜により超硬合金又は高速度工具鋼中に含まれる添加元素が前記ドープド炭素膜へ拡散することが抑制されるので、硬度がきわめて高い高硬度硬質炭素複合膜被覆工具が得られる。
第8発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具によれば、前記工具母材の一部または全部が前記高硬度硬質炭素複合膜によって被覆されているので、高い硬度と高い耐久性が得られる。
第9発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具によれば、前記アンドープ炭素膜およびドープド炭素膜は、非晶質炭素と超ナノ微結晶ダイヤモンドとが混在する混相膜であることから、温度安定性および熱伝導度に優れたドープド炭素膜が得られ、工具の耐久性が高められる。
第10発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具の製造方法によれば、真空チャンバ内において、筒型アノード電極と前記筒型アノード電極内に同軸に配置されたグラファイトから成るカソード電極との間に放電させることにより、前記筒型アノード電極の先端に開く開口から放出された高エネルギのプラズマ化された粒子を前記工具母材の一部または全部に当てられることで、前記工具母材上に前記高硬度硬質炭素複合膜が形成されるので、高硬度硬質炭素複合膜被覆工具が得られる。
本発明の一実施例の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具が切削部の表面に被着されたドリルを示す正面図である。 図1のドリルを説明するためにその先端側から示す拡大底面図である。 図1のドリルの工具母材上に被着された高硬度硬質炭素複合膜の積層構造を拡大して説明する拡大断面図である。 図1のドリルの工具母材上に被着された、他の一例の高硬度硬質炭素複合膜の積層構造の一例を説明する拡大断面図である。 図1の高硬度硬質炭素複合膜を工具母材上に好適に成膜する同軸型真空アーク蒸着装置の構成を説明する概略図である。 図5の同軸型真空アーク蒸着装置に用いられる同軸アークプラズマガンの構成を説明する概略図である。 アンドープ炭素膜の膜厚、ドープド炭素膜のドープ元素、元素濃度、および膜厚を変化させた、実施例品1〜実施例品21および比較例品1〜比較例品3のサンプルのそれぞれについて、高硬度硬質炭素複合膜の水素含有量および硬さと、硬さの合否評価とを示す図表である。 超硬合金製の工具母材の表面にアンドープ炭素膜が直接被着された試料の断面を示SEM写真である。 図8の試料内の炭素CおよびコバルトCoの元素濃度の分布をそれぞれ示す図である。 超硬合金製の工具母材の表面にホウ素Bがドープされているドープド炭素膜が直接被着された試料の断面を示すSEM写真である。 図10の試料内にドープされた炭素C、ホウ素B、およびコバルトCoのうち、炭素CおよびコバルトCoの元素の濃度分布をそれぞれ示す図である。 珪素Siの元素がドープされたドープド炭素膜を超硬合金製の工具母材の上に被着させた場合のアンドープ炭素膜の効果を、ナノインデンデーション硬さにて示す図である。 ホウ素Bの元素がドープされたドープド炭素膜を超硬合金製の工具母材の上に被着させた場合のアンドープ炭素膜の効果を、ナノインデンデーション硬さにて示す図である。 図1の高硬度硬質炭素複合膜を工具母材上に好適に成膜するパルスレーザ蒸着装置の構成を説明する概略図である。
以下、本発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具の一実施例について図面を参照して詳細に説明する。
図1および図2は、本発明の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具の一例であるドリル10を示す図である。図1は軸心Oと直角な方向から見た正面図、図2は切れ刃12が設けられた先端側から見た拡大底面図である。ドリル10は、超硬合金製或いは高速度工具鋼(HSS)製の工具母材22から構成されている。このドリル10は、2枚刃のツイストドリルで、シャンク14およびボデー16を軸方向に一体に備えており、ボデー16には軸心Oの右まわりにねじれた一対の溝18が形成されている。ボデー16の先端には、溝18に対応して一対の切れ刃12が設けられており、シャンク14側から見て軸心Oの右まわりに回転駆動されることにより切れ刃12によって穴を切削加工するとともに、切屑が溝18を通ってシャンク14側へ排出される。図1において、斜線部分は、硬質被膜としての高硬度硬質炭素複合膜24がコーティング(被着)された部分を示している。本実施例では、ドリル10の一部であるボデー16がコーティングされているが、ドリル10全体がコーティングされても差し支えない。
図3は、ボデー16における表面付近の断面を拡大して示す図であって、超硬合金製の工具母材22の表面には、高硬度硬質炭素複合膜24がコーティングされている。高硬度硬質炭素複合膜24は、工具母材22の表面に直接設けられ、元素が添加されていないアンドープ炭素膜26と、そのアンドープ炭素膜26の上に直接設けられ、SiおよびBのうちの少なくとも一方の元素が添加されたドープド炭素膜28とが、順に積層されて構成されている。
図4は、高硬度硬質炭素複合膜24の他の一例を拡大して示す図である。図4の例の高硬度硬質炭素複合膜24は、アンドープ炭素膜26とドープド炭素膜28とが複数対順次積層されることにより多層に構成されている。なお、上記アンドープ炭素膜26とドープド炭素膜28との境界は、それらの構成成分が連続的に変化するグラデーションが設けられていてもよい。
図3および図4において、高硬度硬質炭素複合膜24の最外表面は、アンドープ炭素膜26の外側面に固着されたドープド炭素膜28から構成されている。
アンドープ炭素膜26とドープド炭素膜28の水素含有量は、5at(原子)%以下である。このような低水素含有量は、固体膜原料を気化させて工具母材22に固着させることで炭素膜を形成する後述の物理的気相成長法を用いることによって実現されている。
アンドープ炭素膜26は、0.1μm以上且つ10μm以下の膜厚xを備えている。ドープド炭素膜28は、特に限定されないが、たとえば0.5〜15μm好適にはたとえば1.0〜10.0μmの厚さの膜厚yを備えている。また、アンドープ炭素膜26には元素が添加されておらず、炭素のみ構成されている。ドープド炭素膜28には、Si元素およびB元素のうちの少なくとも一方が添加されており、その元素の添加量bは、合計で、0.1at%以上且つ20at%以下である。
アンドープ炭素膜26およびドープド炭素膜28は、物理的気相成長法の一種であるアークイオンプレーティング法やスパッタリング法により高真空容器内において水素を含まない原料から作製される。好適には、アンドープ炭素膜26およびドープド炭素膜28の成膜には、グラファイトをターゲット原料とした同軸型アークプラズマ堆積法が用いられる。
図5は、ドリル10の製造に用いられる同軸型真空アーク蒸着装置30を説明する概略構成図(模式図)で、多数のワークすなわち高硬度硬質炭素複合膜24を被覆する前の切れ刃12、溝18等が形成された工具母材22を保持しているワーク保持具32、そのワーク保持具32を略垂直な回転中心まわりに回転駆動する回転装置34、工具母材22などを内部に収容している処理容器としての真空チャンバ36、真空チャンバ36内の気体を真空ポンプなどで排出して10−5Pa程度より高い超高真空に減圧する排気装置38、第1同軸アークプラズマガン40、第2同軸アークプラズマガン42、第1同軸アークプラズマガン40を駆動してアークプラズマを先端部から放出させる第1アーク電源44、第2同軸アークプラズマガン42を駆動して高エネルギのプラズマ化された粒子を先端部から放出させる第2アーク電源46等を備えている。ワーク保持具32は、先端が外側へ突き出す姿勢で工具母材22のシャンク14を保持している。
第1同軸アークプラズマガン40およびそれを駆動する第1アーク電源44と第2同軸アークプラズマガン42およびそれを駆動する第2アーク電源46とは、カソード電極KEを構成する固体ターゲットであるグラファイトの相違を除いて、他は全く同様に構成されているので、共通の図6を用いて、一方の第1同軸アークプラズマガン40および第1アーク電源44の構成を説明する。第1同軸アークプラズマガン40では、カソード電極KEを構成する固体ターゲットがアンドープ炭素膜26を形成するための純粋のグラファイトであるが、第2同軸アークプラズマガン42では、カソード電極KEを構成する固体ターゲットがドープド炭素膜28を形成するためのSiおよびBの少なくとも一方の元素を含むグラファイトである。
図6において、第1同軸アークプラズマガン40は、グラファイトから成る固体ターゲットである円柱状のカソード電極KEと、その外側を保持する絶縁体である筒状碍子CEと、筒状碍子CEの先端部に装着された円筒状のトリガ電極TEと、トリガ電極TEが筒状碍子CEの外周に装着され且つカソード電極KEが筒状碍子CE内に挿通されてそれらトリガ電極TE、筒状碍子CEおよびカソード電極KEが同心に組立てられた内側電極組み立体が、それらよりも大径の筒状のアノード電極AE内に、同心に配置されることで、構成されている。第1アーク電源44は、カソード電極KEとアースEとの間に接続されたアーク電源ASと、カソード電極KEとトリガ電極TEとの間に接続されたトリガ電源TSと、カソード電極KEとアースEとの間に接続されたコンデンサCとを備えている。
このように構成された第1同軸アークプラズマガン40では、トリガ電極TEより沿面放電により電子を発生させてトリガをかけ、コンデンサCに充電された電荷を一気にカソード電極KEに放電させて、カソード電極KEを構成する固体ターゲットであるグラファイトを液化→気化→プラズマ化して筒状のアノード電極AEの先端開口から高エネルギのプラズマ化された粒子Pを工具母材22に向かって飛散させ、工具母材22に被着させる。このように、第1同軸アークプラズマガン40を駆動することでアンドープ炭素膜26を成膜し、続いて第2同軸アークプラズマガン42を駆動することでドープド炭素膜28を成膜することで、高硬度硬質炭素複合膜24を工具母材22の表面に成膜する。アンドープ炭素膜26とドープド炭素膜28とが複数対積層された図4に示す高硬度硬質炭素複合膜24を成膜する場合は、上記第1同軸アークプラズマガン40の駆動と第2同軸アークプラズマガン42の駆動とが繰り替えされる。
上記同軸型真空アーク蒸着装置30では、その成膜動作はコンデンサCの充放電の繰り返しに同期して周期的に行なわれるので、カソードシャッタや基板シャッタを用いることなく、コンデンサCの充放電回数を設定することにより工具母材22に被着させられる炭素膜の膜厚を所望の値に制御できる。また、上記同軸型真空アーク蒸着装置30では、電子の発生にガスを用いていないので、10−5Pa程度より低い超高真空下において純度の高い非晶質炭素膜(DLC)を成膜できるとともに、プラズマのイオン化率が80%程度と高く、粒子の運動エネルギが高いため、緻密で密着性のよい炭素膜が形成できる。
図7は、図3に示す膜構成と同様に製作した各試料の、工具母材の材質、アンドープ炭素膜26の膜厚x、ドープド炭素膜28のドープ元素、その合計濃度b(at%)、ドープド炭素膜28の膜厚y、高硬度硬質炭素複合膜(アンドープ炭素膜26およびドープド炭素膜28)の水素含有量z(at%)、高硬度硬質炭素複合膜24の硬さHit(GPa)、および、高硬度硬質炭素複合膜24の硬さが54GPaを超えたか否かの合否判定評価を示す表である。なお、ドープド炭素膜28の膜厚yは、1.0〜10.0μmが用いられる。
以下に、上記各試料の高硬度硬質炭素複合膜24或いはそれを構成するアンドープ炭素膜26およびドープド炭素膜28について、厚み、ドープされた元素濃度、水素濃度、および硬さの分析(測定)について説明する。
アンドープ炭素膜26の膜厚xおよびドープド炭素膜28の膜厚yの測定は、成膜時であれば、触針式段差計またはレーザ顕微鏡を用いて行なった。成膜後であれば、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いて行なった。
ドープド炭素膜28内にドープされた元素およびその合計濃度bは、XPS(X線光電子分光分析法)を用いて測定した。その測定条件および測定法は以下の通りである。
(XPS測定条件)
・使用X線 :Mg−Kα
・X線電圧 :15kV
・X線電力 :400W
・測定圧力 :<8E−7Pa
・測定範囲 B :182〜202eV
Si: 94〜114eV
各試料のドープド炭素膜28にMg−Kα線を照射し、試料から放出された光電子を検出器を用いて測定する。測定電子の原子核に対する結合エネルギを横軸とし、測定電子の強度を縦軸としたとき、得られた信号波形から定性分析や定量分析、化学結合状態の分析を行なった。Bについては、横軸が182〜202eVの範囲内で元素濃度b1を測定し、Siについては、横軸が94〜114eVの範囲内で元素濃度b2を測定した。そして、それらBの元素濃度およびSiの元素濃度の合計濃度b(=b1+b2)を算出した。
高硬度硬質炭素複合膜24内の水素含有量zは、ERDA(弾性反跳法)を用いて測定した。その測定条件および測定法は以下の通りである。
(ERDA分析条件)
・分析の種類 :ERDA(HFS、前方散乱)
・入射イオンビームのイオン種 :He++
・入射イオンビームのエネルギ :2.275MeV
・通常検出器角度 :160°
・グレージング検出器角度 :30°
・サンプル法線に対する入射イオンビームの角度:75°
超高真空のチャンバ内において、試料に成膜された高硬度硬質炭素複合膜24に対して、入射イオンビームを入射させたときに、その入射イオンビームの前方に反跳された水素粒子(水素元素)をフィルタを通して半導体検出器により計数する。この計数値から高硬度硬質炭素複合膜24中の水素濃度を算出した。
高硬度硬質炭素複合膜24の硬度Hitは、ISO規格「ISO14577−4:2016」に規定されているナノインデンテーション法を用いて測定した。具体的には、各試料の高硬度硬質炭素複合膜24に対する圧子の押し込み硬さ(GPa)すなわちナノインデンテーション硬さHit(MPa=N/mm)を、「ISO14577−4:2016」に準拠する市販の薄膜硬度計(ナノインデンター)を用いて測定した。なお、試験条件は、以下の通りである。
(ナノインデンテーション 試験条件)
・試験荷重 :5mN
・荷重到達時間 :10sec
・荷重保持時間 :5sec
・除荷時間 :10sec
・試験箇所 :10ポイント以上
図7に示す各試料の評価では、非晶質炭素被膜のナノインデンデーション法による押し込み硬さすなわちナノインデンデーション硬さHitが54GPa以上であるものが、合格と判定された。合格判定されたものは、実施例品1から実施例品21に示す試料である。また、ナノインデンデーション硬さHitが54GPaをした回る不合格判定されたものは、比較例品1〜比較例品3の試料である。
図7に示すように、実施例品1から実施例品21に示す試料は、本発明品であって、アンドープ炭素膜26は、0.1μm以上且つ10μm以下の膜厚xを備えている点、ドープド炭素膜28は、1.0〜10.0μmの厚さの膜厚yを備えている点、アンドープ炭素膜26には元素が添加されておらず、炭素のみ構成されている点、ドープド炭素膜28には、Si元素およびB元素のうちの少なくとも一方が添加されており、その元素の添加量bは、合計で、0.1at%以上且つ20at%以下である点、アンドープ炭素膜26およびドープド炭素膜28の水素含有量は、5at(原子)%以下である点、ナノインデンテーション法による押し込み硬さHitが54GPa以上の硬度を有する点で、共通している。
比較例品1の試料は、アンドープ炭素膜26の膜厚xが0.05μmであるので、工具母材22中のCo元素の拡散抑制効果が十分に得られていなかったと推定される。また、比較例品2の試料は、ドープド炭素膜28に含まれるSi元素の濃度bが0.05at%であるので、Si元素のドーピングによる高硬度化が不十分であったと推定される。比較例品3の試料は、ドープド炭素膜28に含まれるSi元素の濃度bが30at%であるので、過剰な濃度により高硬度化が得られなかったと推定される。
これに対して、実施例品1から実施例品21に示す試料では、0.1μm以上且つ10μm以下の膜厚xを有するアンドープ炭素膜26が、工具母材22とドープド炭素膜28との間に介在させられていることから、工具母材22中のCo元素のドープド炭素膜28への拡散がアンドープ炭素膜26によって阻止されるので、ドープド炭素膜28の硬度の低下がなく、高硬度硬質炭素複合膜24が得られる。
図8は、超硬合金製の工具母材22の表面に被着されたアンドープ炭素膜26の、工具母材22中のCo元素を拡散を抑制する作用を説明するためのものである。図8は、超硬合金製の工具母材22の表面にアンドープ炭素膜26が直接被着された試料の断面を示すSEM写真であり、図9は図8の試料内の炭素C、コバルトCoの元素濃度の分布をそれぞれ示す図である。また、図10は、超硬合金製の工具母材22の表面にホウ素Bがドープされているドープド炭素膜28が直接被着された試料の断面を示すSEM写真であり、図11は、図10の試料内にドープされた炭素C、ホウ素B、およびコバルトCoのうち、炭素CおよびコバルトCoの元素濃度の分布をそれぞれ示す図である。
図8および図9に示す試料では、工具母材22中のCo元素がアンドープ炭素膜26内へ拡散されない。しかし、図10および図11に示す試料では、工具母材22中のCo元素がドープド炭素膜26内へ拡散されている。このことから、ホウ素Bがドープされているドープド炭素膜28は、超硬合金製の工具母材22中のコバルトCoがドープド炭素膜28内へ拡散することを促進させる点が、明らかとなった。
図12は、珪素Siの元素がドープされたドープド炭素膜28を超硬合金製の工具母材22の上に被着させた場合のアンドープ炭素膜26の効果を、ナノインデンデーション硬さHit(GPa)にて示す図である。図12では、超硬合金製の工具母材22の上にアンドープ炭素膜26が直接被着されることにより構成された試料1のナノインデンテーション硬さHitが横軸の左端位置に示され、超硬合金製の工具母材22の上に珪素Siの元素がドープされたドープド炭素膜28が直接被着されることにより構成された試料2のナノインデンテーション硬さHitが横軸の中間位置に示され、超硬合金製の工具母材22の上に珪素Siの元素がドープされたドープド炭素膜28がアンドープ炭素膜26を介して被着されることにより構成された試料3のナノインデンテーション硬さHitが横軸の右端位置に示されている。ドープド炭素膜28内へコバルトCo元素が拡散している試料2のナノインデンテーション硬さHitは28.4GPaであるので最も低いが、ドープド炭素膜28内へのコバルトCo元素の拡散がアンドープ炭素膜26により抑制されている試料3のナノインデンテーション硬さHitが60.0GPaで最も高い。
図13は、ホウ素Bの元素がドープされたドープド炭素膜28を超硬合金製の工具母材22の上に被着させた場合のアンドープ炭素膜26の効果を、ナノインデンデーション硬さHit(GPa)にて示す図である。図13では、超硬合金製の工具母材22の上にアンドープ炭素膜26が直接被着されることにより構成された試料4のナノインデンテーション硬さHitが横軸の左端位置に示され、超硬合金製の工具母材22の上にホウ素Bの元素がドープされたドープド炭素膜28が直接被着されることにより構成された試料5のナノインデンテーション硬さHitが横軸の中間位置に示され、超硬合金製の工具母材22の上にホウ素Bの元素がドープされたドープド炭素膜28がアンドープ炭素膜26を介して被着されることにより構成された試料6のナノインデンテーション硬さHitが横軸の右端位置に示されている。ドープド炭素膜28内へコバルトCo元素が拡散している試料5のナノインデンテーション硬さHitは42.8GPaであるので最も低いが、ドープド炭素膜28内へのコバルトCo元素の拡散がアンドープ炭素膜26により抑制されている試料6のナノインデンテーション硬さHitが58.3GPaで最も高い。
上述のように、本実施例のドリル(高硬度硬質炭素複合膜被覆工具)10の高硬度硬質炭素複合膜24には、工具母材22側に位置し、元素が添加されないアンドープ炭素膜26と、アンドープ炭素膜26の上に被着され、SiおよびBのうちの少なくとも1つの元素がドーピングされたドープド炭素膜28とが、含まれる。これにより、アンドープ炭素膜26によって工具母材22中の拡散元素たとえばCoがドープド炭素膜28へ拡散することが抑制されるので、硬度がきわめて高く耐摩耗性も高い高硬度硬質炭素複合膜被覆工具10が得られる。
また、本実施例のドリル10の高硬度硬質炭素複合膜24によれば、アンドープ炭素膜26およびドープド炭素膜28の水素含有量は、弾性反跳法を用いる測定で5at%以下であり、ナノインデンテーション法を用いた測定で54GPa以上の被膜硬さを有することから、硬度がきわめて高い高硬度硬質炭素複合膜24により、ドリル10の高い摩耗性が得られる。
また、本実施例のドリル10の高硬度硬質炭素複合膜24によれば、アンドープ炭素膜26の膜厚xは、0.1μm≦x≦10μmで示される範囲内であることから、硬度がきわめて高く耐摩耗性も高いドリル10が得られる。アンドープ炭素膜26の膜厚xが0.1μmを下回る場合は、アンドープ炭素膜26による工具母材22中の拡散元素たとえばCoの拡散を抑止する性能が十分に得られず、高硬度硬質炭素複合膜24の硬度が低下する。また、アンドープ炭素膜26の膜厚xが10μmを上回る場合は、高硬度硬質炭素複合膜24の膜厚分の曲率半径Rが工具母材22の角に形成される。上記の高硬度硬質炭素複合膜24が金型等に適用される場合は問題ないかもしれないが、上記の高硬度硬質炭素複合膜24が切削工具に適用される場合は、切れ刃12の曲率半径Rが大きくなるので、切削工具としての用途が制限される。
本実施例のドリル10の高硬度硬質炭素複合膜24によれば、ドープド炭素膜28にドープされた元素の合計濃度bは、X線光電子分光分析法(XPS)を用いる測定で0.1at%≦b≦20at%で示される範囲内であることから、硬度がきわめて高く耐摩耗性も高いドリル16が得られる。ドープド炭素膜28にドープされた元素の合計濃度bが0.1at%を下回る場合は、高硬度硬質炭素複合膜24の硬度が十分に得られない。また、ドープド炭素膜28にドープされた元素の合計濃度bが20at%を上回る場合も、高硬度硬質炭素複合膜24の硬度が十分に得られない。
図3に示す実施例のドリル10の高硬度硬質炭素複合膜24によれば、アンドープ炭素膜26は工具母材22の表面に直接被着され、ドープド炭素膜28は、その工具母材22の表面に直接被着されたアンドープ炭素膜26の表面に直接被着され、且つ高硬度硬質炭素複合膜の最外側に位置していることから、耐摩耗性の高いドリル10が得られる。
図4に示す本実施例のドリル10の高硬度硬質炭素複合膜24によれば、アンドープ炭素膜26とアンドープ炭素膜26の表面に直接被着されたドープド炭素膜28とが、工具母材22の表面に交互に積層されていることから、耐摩耗性および耐久性の高いドリル10が得られる。
本実施例のドリル10によれば、工具母材22は、超硬合金又は高速度工具鋼から成ることから、アンドープ炭素膜26により超硬合金又は高速度工具鋼中に含まれる添加元素がドープド炭素膜28へ拡散することが抑制されてドープド炭素膜28の硬度が維持されるので、硬度がきわめて高いドリル10が得られる。
本実施例のドリル16によれば、工具母材22の一部または全部、すなわち切削時に被削材と摺接するボデー16が高硬度硬質炭素複合膜24によって被覆されているので、高い硬度と高い耐久性が得られる。
本実施例のドリル16によれば、真空チャンバ36内において、筒型アノード電極AEと筒型アノード電極AE内に同軸に配置されたグラファイトから成るカソード電極KEとの間に放電させることにより、筒型アノードAEの先端に開く開口から放出された高エネルギのプラズマ化された粒子Pが工具母材22の一部または全部に当てられることで、工具母材22上に高硬度硬質炭素複合膜24が形成されるので、高硬度硬質炭素複合膜24により被覆されたドリル16が得られる。
図14は、ドリル10の製造に用いるパルスレーザ蒸着装置(PLD)60を説明する概略構成図(模式図)である。プラズマレーザ蒸着装置は、処理容器としての真空チャンバ62と、真空チャンバ62内の雰囲気を53Pa程度の圧力で水素ガスとする雰囲気調整装置64と、グラファイト製のターゲット66を保持しつつ軸周りに回転させるターゲット保持装置68と、ターゲット66から十数センチ離して工具母材を保持する母材保持装置70と、193nmの波長且つ3×10−8W/cmの強度を有するエキシマレーザ光をターゲット66に対して50Hzのパルス周期で照射してグラファイトを蒸散させ、工具母材に被着させるエキシマレーザ装置72と、を備えている。
このように構成されたパルスレーザ蒸着装置60では、真空チャンバ62内において、工具母材を550℃程度に加熱した状態で、軸まわりに回転するターゲット66にエキシマレーザ光をターゲット66に対して50Hzのパルス周期で照射してグラファイトが蒸散させられる。ターゲット66が純粋なグラファイトである場合には、工具母材の表面にアンドープ炭素層26が形成される。次いで、ターゲット66がSiまたはBを含むグラファイトとすると、工具母材の表面には、アンドープ炭素層26を介してドープド炭素膜28が形成される。すなわち高硬度硬質炭素複合膜24が形成される。
パルスレーザ蒸着装置(PLD)60を上記の条件で用いた場合には、得られた炭素膜すなわちDLC膜中には、10nm以下の超ナノ微結晶ダイヤモンド結晶UNCDが混在している。このような非晶質炭素と超ナノ微結晶ダイヤモンドとの混相膜から構成される高硬度硬質炭素複合膜24は、異種基板への成長性、膜の温度安定性、膜の平滑性に優れており、ドリル10耐久性が高められる。
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても実施される。
たとえば、前述の実施例では、高硬度硬質炭素複合膜24がドリル10に適用されていたが、高硬度硬質炭素複合膜24は、ドリルやエンドミル、フライス、バイト等の切削工具、盛上げタップ、転造工具、プレス金型等の非切削工具などの種々の加工工具、或いは耐摩耗性が要求される摩擦部品などの種々の工具部材に、適用され得る。
また、前述の実施例において、工具母材22は、超硬合金製或いは高速度工具鋼製であったが、拡散元素を含むものであれば、他の材料製であってもよい。
また、前述の図3および図4に示す実施例では、高硬度硬質炭素複合膜24の一部を構成するアンドープ炭素層26は工具母材22に直接被着されていたが、他の膜を介して間接的に被着されていてもよい。要するに、アンドープ炭素層26は工具母材22とドープド炭素膜28との間に介在させられていればよい。
以上、本発明の実施例を図面に母づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に母づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
10:ドリル(高硬度硬質炭素複合膜被覆工具)
12:切れ刃
14:シャンク
16:ボデー
18:溝
22:工具母材
24:高硬度硬質炭素複合膜
26:アンドープ炭素膜
28:ドープド炭素膜
30:同軸型真空アーク蒸着装置
32:ワーク保持具
34:回転装置
36:真空チャンバ
38:排気装置
40:第1同軸アークプラズマガン
42:第2同軸アークプラズマガン
44:第1アーク電源
46:第2アーク電源
KE:カソード電極
CE:筒状碍子
TE:トリガ電極
AE:アノード電極
AS:アーク電源
TS:トリガ電源
C :コンデンサ
60:パルスレーザ蒸着装置
62:真空チャンバ
64:雰囲気調整装置
66:ターゲット
68:ターゲット保持装置
70:母材保持装置
72:エキシマレーザ装置

Claims (10)

  1. 工具母材の表面に被着された高硬度硬質炭素複合膜被覆工具であって、
    前記工具母材上に位置し、元素が添加されないアンドープ炭素膜と、前記アンドープ炭素膜の上に被着され、SiおよびBのうちの少なくとも1つの元素がドーピングされたドープド炭素膜とを、含む高硬度硬質炭素複合膜を備える
    ことを特徴とする高硬度硬質炭素複合膜被覆工具。
  2. 前記アンドープ炭素膜およびドープド炭素膜の水素含有量は、弾性反跳法を用いる測定で5at%以下であり、
    前記高硬度硬質炭素複合膜は、ナノインデンテーション法を用いた測定で54GPa以上の被膜硬さを有する
    ことを特徴とする請求項1の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具。
  3. 前記アンドープ炭素膜の膜厚xは、0.1μm≦x≦10μmで示される範囲内である
    ことを特徴とする請求項1または2の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具。
  4. 前記ドープド炭素膜にドープされた元素の合計濃度bは、X線光電子分光分析法を用いる測定で0.1at%≦b≦20at%で示される範囲内である
    ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具。
  5. 前記アンドープ炭素膜は、前記工具母材の表面に直接被着され、
    前記ドープド炭素膜は、前記工具母材の表面に直接被着された前記アンドープ炭素膜の表面に直接被着され、且つ前記高硬度硬質炭素複合膜の最外側に位置している
    ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具。
  6. 前記アンドープ炭素膜と、前記アンドープ炭素膜の表面に直接被着された前記ドープド炭素膜とが、前記工具母材の表面に交互に積層されている
    ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具。
  7. 前記工具母材は、超硬合金又は高速度工具鋼から成る
    ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1に記載の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具。
  8. 前記工具母材の一部または全部が前記高硬度硬質炭素複合膜によって被覆されている
    ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1に記載の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具。
  9. 前記アンドープ炭素膜およびドープド炭素膜は、非晶質炭素と超ナノ微結晶ダイヤモンドとが混在する混相膜である
    ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1に記載の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具。
  10. 請求項1から9のいずれか1の高硬度硬質炭素複合膜被覆工具の製造方法であって、
    真空チャンバ内において、筒型アノード電極と前記筒型アノード電極内に同軸に配置されたグラファイトから成るカソード電極との間に放電させることにより、前記筒型アノード電極の先端に開く開口から放出された高エネルギのプラズマ化された粒子を前記工具母材の一部または全部に当てることで、前記工具母材上に前記高硬度硬質炭素複合膜を形成する
    ことを特徴とする高硬度硬質炭素複合膜被覆工具の製造方法。
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