JP2019060011A - タンタル製造における希釈剤の完全リサイクル - Google Patents

タンタル製造における希釈剤の完全リサイクル Download PDF

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Abstract

【課題】 金属タンタ粉末の製法として、フッ化タンタル酸カリウムを金属ナトリウムで還元する製法がある。この還元反応にはフッ化カリウムや塩化カリウム等の無機塩が希釈剤として使用される。本発明はこれ等の無機塩の回収方法に関する。【解決手段】 上記の反応において金属ナトリウムによる還元反応が完結した後、冷却に入る直前において予め計算された無機塩の一部を反応器に投入して反応後の希釈剤の組成を均一に調整し、所定の品質の金属タンタル粉末を得ると共に、副生した希釈剤から無機塩を回収し、これを精製して再使用する。【選択図】図2

Description

発明の詳細な説明
本発明は電子部品産業に用いられる高純度のタンタル粉末の製造において反応時の希釈剤として用いられるフッ素化合物や塩素化合物の回収と再利用に関する。従来これ等の化合物の大部分はタンタルを製造する際には回収されず、産業廃棄物として埋め立て処理されていた。本発明はこれ等の化合物を全量回収して産業廃棄物を排出しないタンタル粉末の製造法を提供する。
自然界に存在するタンタル(元素記号Ta)は通常は酸化物の状態でニオブ(元素記号Nb)と共に採掘される。両元素は元素の周期律表で同属にあり、極めて似た性質を持っている。このため工業的に各々の金属を収得するには、予め化学的な予備処理を行い両者を完全に分離してから各々の金属の精製を行っている。
この化学的な予備処理で生成されるタンタル化合物は化学式ではKTaFでフッ化タンタル酸カリウムと呼ばれる。タンタルを製造するにはこの化合物をナトリウム(元素記号Na)で還元する方法が一般的で、現在では世界中のタンタル製造メーカーがこの方法を採用している。この反応式は弱い発熱反応で次式の通りである。
TaF + 5Na = Ta + 2KF + 5NaF
(100) (29) (46) (30) (53)
( )内の数値は主原料KTaFを100とした場合の重量比である。この還元反応は800℃前後でナトリウムの沸点(=892℃)を超えない高温でアルゴン(元素記号Ar)の雰囲気下で行われ、所定の比表面積を有するタンタル粉末を収得する。
還元反応ではタンタル粉末が直接、生成する。タンタル粉末の主たる需要先はタンタルコンデンサー向けであるが、その製造元である電子部品業界からは各社の製品グレードにより各種の比表面積を有するタンタル粉末の要求がある。この比表面積を調整するために製造メーカーは反応工程おいてフッ化タンタル酸カリウムに無機塩等の希釈剤を混合して還元反応を行っている。主原料のフッ化タンタル酸カリウムに対し、希釈剤を増やせばより比表面積の大きなタンタル粉末を得ることができる。この希釈剤として代表的なものはフッ化カリウム(以降KFと略す)と塩化カリウム(以降KCLと略す)で、通常はこれ等の無機塩を混合して使用する。これ等の無機塩が選ばれた理由や組合わせについては次章で解説する。
この還元反応はバッチ方式で行われる。反応の終了後は反応器は冷却され、上部の蓋を開放し内容物を取り出す。この際、比重の重いタンタルは反応器の底部に比重の軽い希釈剤はその上部に明確に区分されて蓄積しているので反応器を転倒すれば両者は容易に分離して取り出すことができる。これ等の反応プロセスの詳細は下記の資料に公開されている。
特許文献 特開2015−078439
上記の特許はタンタル粉末の製造メーカーから出願されたものである。通常はこのような自社ノウハウを含む技術内容の詳細が特許として公開される例は少ないが、昨今のTPP(=環太平洋経済連携協定)の発足に合わせ自社の知的財産の確保を図ったものと推測される。 尚、この特許は特許査定されている。
反応器から分離された希釈剤中の無機塩は全て水に可溶である。水に溶解した無機塩中のフッ化物は有害性で、特に植物を枯渇させる性質があり、そのまま廃棄できないので排水処理工程へ送られる。ここでフッ素分を石灰や塩化カルシウムと反応させて可溶性のフッ素分を水に不溶なフッ化カルシウムとして固定化し回収する。
回収されるフッ化カルシウムの量は収得するタンタルの品質により異なるが、含水で製品1重量に対し数倍から時には10倍以上に達し、この処理方法はタンタル製造に際しての極めて重要な仕事になっている。これ等のフッ化カルシウムは本来ならばフッ素原料として再度工業的に利用することが本筋であるが、タンタル製造工程から回収されたフッ化カルシウムは鉄、ニッケル、クロム等の各種の金属成分の他に硫酸イオン等の不純物を多量に含む。このため、その純度を上げることが難しく かつ国外例えば東南アジア等へ輸出することは環境保護の観点からバーゼル条約で国際的に固く禁止されている。この結果、回収されたフッ化カルシウムの殆んどは産業廃棄物として国内の管理型処理場で埋立て処理されていた。
ゼロエミッションが普及しつつある国内においてこのように廃棄物を多量に排出する産業が将来に渡り継続できる可能性は極めて小さい。 更に昨今は電子部品業界におけるタンタルコンデンサーの小型化に伴い比表面積の大きなタンタル粉末の需要が増大する傾向がある。比表面積の大きなタンタル粉末を製造するにはタンタル製造時に従来より多量の希釈剤の使用が必要となり、タンタル粉末の製造業から排出される産業廃棄物の数量は今後益々増大する傾向にある。 このため国内タンタルの製造業ではその対応策が重要な課題として検討されてきた。検討された対応策は次の三種の対策である。
第一の対策は還元時に使用する希釈剤を増加させない方法である。タンタル粉末の比表面積を大きくするため主原料に対する希釈剤の希釈倍率を上げることが必要であることは既述したが、この倍率を如何に抑えるかの対策である。従来の反応では先ず反応器に主原料と希釈剤を投入し、高温で熔融させたのち、定められた温度の元でナトリウムを液状で連続または断続的に投入し還元反応を完結させていた。これに対し新たな還元法は先ず反応器には希釈剤のみを投入、熔融させた状態で数分割した主原料を投入しナトリウムで還元する。 この操作を繰り返して最終的に所定量の主原料を全て還元させる方法である。この分割比を大きくすれば結果として希釈倍率を大きくした反応と同じ結果を得ることができるからである。
この改善法は本文[0005]で記載した特許文献にも実施例として記載されている。しかしこの改善法では希釈剤の使用量を低減させることは可能であるが、産業廃棄物をゼロにすることは不可能である。このために次に開発された改善策は希釈剤を繰り返し使用しようとする対策である。これに関連する技術は下記の特許として公開されている。尚、特許文献1、2及び3は同一のタンタル粉末の製造企業からの出願である。
特開2006−002241号公報 特開2010−168650号公報 特開 平05−203368号公報 特開2000−060862号公報
特許文献1,2および3は希釈剤を一回だけの使用で全てを廃棄せず、目標とする組成構成となるよう、その一部だけを計算式に従って反応器から熔融した状態で抜き出し、次いで投入機を用いて新たな希釈剤を追加投入する方策が開示されている。これに類似した方法は 既に鉄鋼業の高炉において原料の鉄鉱石やコークスの投入や生成した銑鉄とスラグの抜出しに既に実践されている。タンタル粉末の反応器の大きさは高炉の比べれば容量で1/1000程度の小型でかつ金属性であり、関連する機器の製作は容易である。更に近年はロードセルと称される自動計量秤の目覚ましい進歩があり、計量誤差を千分1の以下の精度で計量が可能となった。この等の技術を組み合わせれば、熔融状態での希釈剤の抜出しと追加投入には技術的に大きな問題はない。尚、特許文献1、2はその後、技術は既に公知であるという理由で拒絶査定されている。
特許文献1には反応器の下部から専用弁を通じて反応生成物を正確に抜き出す方法が記載されている。特許文献2にはこの弁の代わりにサイフォンを使って抜き出す方法が記載されている。更に特許文献3にはタンタル反応器のような密閉容器へロードセルを使って固体原料を正確に投入する方法が記載されている。この技術の大きな長所はタンタル生産効率の大幅な向上である。即ちこの発明によれば反応器を高温に維持した状態で反応専用とすることが可能となり、一基の反応器を使って、一日に数バッチ、例えば10バッチ程度の反応が可能となる。
これに比し、従来のバッチ式の反応器では反応器の昇温と冷却に長時間、例えば12時間以上を費やすため、一日 1バッチ程度が限界であった。特許文献1、2の短所は反応器から抜き出した希釈剤の処理が依然として必要となるが、この数量は[0009]で記載した改善策との組み合わせにより、従来の産業廃棄物の発生量に比べて大幅な低減、例えば1/10程度以下に低減することが可能となる。
特許文献4には前記特許文献1、2とは全く異なる改善策が提示されている。この発明では反応器から回収された希釈剤全量を水に溶かした後、再結晶法を使って晶析させて乾燥し、回収された希釈剤を再度タンタル粉末の還元反応に利用するものである。この提言での最大の難問は反応で得られる異なる組成を有する混合塩から、如何にして均一な組成を有する混合塩を回収できるかにある。
この問題を解決するために混合塩中の3成分であるKF、KCJ及びNaFの溶解度に注目し、水に易溶なKF:KCLについて、その混合塩中の比率が一定ならば、これを溶解した水溶液からは常に一定比率を有するKFとKCLの混合塩を回収できることを見出し、これを活用した改善策を提言している。
反応グレード毎に主原料に対する希釈剤の倍率を変えて調整することは既に本文の[0004]で記載した。この結果 各グレードに対し同一組成の希釈剤で反応を行った場合、反応後ではKF:KCLの比率は反応に伴いKFが副生するので反応前の比率と異なってくる。このために特許文献4では還元条件の重要な項目の一つである希釈剤の組成、即ちKF:KCLの混合比率を反応後の希釈剤の物質収支から算出された計算式に基づき反応前の段階でグレード毎に変更する提言を行っている。
特許文献4の希釈剤の回収方法は水溶解、再結晶、固液分離、乾燥という化学工場では極めて普遍的な操作でかつ全工程で操作温度は100℃以下、操作圧力は常圧近辺という安全なプロセスである。一方で、反応条件のうち最も重要な条件の一つである「希釈剤の組成を各反応グレードに併せて、反応前に個別に調整しなければならない」という短所を有す。希釈剤の組成を自動調整することは個々の希釈剤に対し個別のロードセルを使用すれば、技術的には困難な操作ではない。しかし実際にこのプロセスを導入するとなるとこの製法転換は容易ではない。特に「ISO−9000」を取得した企業間ではこの製法転換は極めて困難である。
「ISO−9000」とは国際標準化機構が設定した国際的な品質管理標準で工場や事業者の品質管理システムに関し、国が認可した第三機関がその原料調達、製造、検査、出荷に至るまで品質管理と保証体制を検査するシステムである。事業者等はその変更に関し、第三機関の定期的な検定を受けることが義務付けられている。現状では電子製品製造者の殆どが、既に「ISO−9000」の認定を受けている。
今回のようにタンタル粉末製造者が「反応前に希釈剤の構成比率を変更する」という製法の変更を行う場合は、プロセスの大きな変更と見なされ、第三機関により品質管理上の製法の制定と維持に関し、検査を受けなければならない。その影響は下流の電子部品製造、電子製品製造者にも波及する。この結果よほどの緊急性が発生しない限り、タンタル粉末の製造者が製法を変換する動機は生じない。まして今回の事例のように自社に対案が確立されている場合、新たなプロセス変更が実行される可能性は殆どゼロに近い。 品質保証への厳しい規制が一方で環境保全への変革の足かせとなる実例である。
最初に主原料フッ化タンタル酸カリウムをナトリウムで還元反応を行う際に使用される希釈剤の選択について記す。この反応は下式に示す通り反応温度は約800℃前後でタンタルを粉末状で収得する。希釈剤は主原料に対する割合を増加させるとタンタル粉末の比表面積をほぼ比例して増大させる効果があり、最も安定して比表面積を調整する手段として現在も広く採用されている。
反応式はKTaF + 5Na = Ta + 2KF + 5NaF で、反応後にTaの他にKFとNaFが副生する。
この反応で使用される希釈剤はKFとKCLの混合塩である。反応後にはこの希釈剤に反応によるNaFが加わり、併せて3種の混合塩となる。希釈剤としてKFとKCLを選択する理由は「この混合塩の融点が低いこと」による。融点が高い場合は昇温に伴うエネルギーの増加と使用機器の高級化に伴う材料費の増大となる。これを回避するため出来るだけ融点の低い混合塩の組合わせが選択される。
上記3種の混合塩の成分割合を変えた場合の融点の変化を[図1]に示す。出典はロシアの文献である。図中で三角形の頂点は各塩が単独である融点を示し、混合塩の融点は図中の曲線から読み取ることができる。また混合塩の成分構成は図中の一点から三角形の底辺へ引いた垂線の長さで示される。反応前の希釈剤の融点はKFとKCLを結ぶ直線上で示されるが、最も融点の低い成分構成はKF:KCL=40:60付近にあり、その温度は約610℃である。実際の反応で使用される希釈剤の構成比はこの付近の比率を採用するが、最も簡便な割合で、かつ融点の近い組成の50:50(=図1ではA点)とするケースが多い。[0005]で既述した特許文献でもこの構成比が使用されている。
還元反応が開始されると反応器内の希釈剤の成分は図中のA点からB点に向けての直線上を進行する。B点は先の還元反応で生成するKFとNaFの化学量論比である。反応終了時の希釈剤の構成比は図中ではC点で示される。主原料に対する希釈倍率が小さければ、小さい程C点はB点に近づき、逆に大きければA点に近づく。ここで特徴的なことは主原料に対する希釈剤の倍率を変化させるとC点は上記直線上を移動し同一点に留まらないことである。即ち、目標とする比表面積を有するタンタル粉末を得るために希釈剤の倍率を変化させれば反応終了時の希釈剤の成分構成は反応の前後では異なってしまう。
先の特許文献4ではこの反応後の希釈剤の成分構成に着目しこの希釈剤中のカリウム塩、即ちKF:KCLの構成比が各反応バッチ毎に同一ならば、水を使って再結晶する場合、得られる回収塩のKF:KCLの構成比は全て同一になることを見出した。この実現のため反応前の希釈剤の調合比を希釈剤の物質収支から求めた計算式で算出し、各バッチ毎に調合することを提言した。しかしこの特許はISO=9000の壁を打ち破れず、現状では実践の可能性が非常に小さいことは既に記載した。
前項の発見を活かすためにはISO=9000の壁、即ち「反応に関与する重要な反応条件を変える」という手段ではなく如何にして反応終了時に各反応バッチ毎のKF:KCL比が同一となる手段を見出すことである。これが第一の課題である。
第二の課題は希釈剤の回収に関する課題である。特許文献4では請求項にはないが、同特許の明細書の中で「希釈剤の溶解に当たってはその水量の決定は対象とするカリウム塩の溶解に必要な水量を大幅に超えない水量とする」との記載があり、実施例でもその水量が例示されている。しかし実施例で示された水量では対象のカリウム塩の全量を溶解するには十分な水量ではない。この水量を大幅に増加させると溶解液中のNaFが溶解して混入し、希釈剤の純度低下を引き起こす。従ってこの水量の設定は重要であり、学術的論拠に基づく正確な提言でなければならない。
更に同特許では希釈剤からカリウム塩の回収に関する記載はあるが、カリウム塩を回収した後の残渣に関して一切の記載はない。この残渣中には多量のNaFが含有されている。この回収方法を明確にしなければ「タンタル製造時における希釈剤の完全リサイクル」とはいえない。カリウム塩の溶解条件を明確に提示すること。そして残渣中のNaFの回収法を明示すること。これが第二の課題である。
最初に反応後の希釈剤中のKF:KCLの比率を全ロットについて同一にする手段について記す。特許文献4に開示された方法は反応前に希釈剤を調整する段階で両者の混合比率をロッド毎に予め定められた計算式に従って変える方策を選定した。これに対し今回提言する方法は前記特許とは異なり、かつ簡潔かつ安全な方策である。 無論ISO−9000規定に定める反応条件の大幅な変更に該当しない方策でもある。
タンタル製造の還元反応は既述したように主原料と希釈剤を仕込みアルゴン雰囲気下で電気炉を使って昇温、約800℃前後の均一の熔融状態とし金属ナトリウムを連続的又は断続的に添加して主原料を還元させる。更に一定温度で数時間(=通常は4時間程度)保持した後冷却して反応器を開放し内容物を取り出す。即ち、反応工程は昇温、反応、保持、冷却の手順で進められる。
この間にタンタル粒子は定性的な表現では、タンタルの結晶核の生成、成長及び凝集を経て目標とする比表面積を有するタンタル粉末となる。粉末の特性を決める段階はこの手順の中で反応後の保持の段階で全て完了する。反応生成物は金属タンタルと無機塩の混合塩である希釈剤であるが、両者に比重には大きな差があり、冷却後には二層に分離して固形化するので、反応器を開放して両層を取り出し分離する。
今回の新たな提言はこの保持が全て完了し、冷却に入る直前に予め計量されたKCLを粉末状態で専用の投入器を経由して反応器に投入する。KCLを投入する時期は「反応が全て完了した時点で実行される」ことが極めて重要である。投入するKCLの重量は主原料の還元で副生するKFに見合う重量とし、投入後の反応器内の希釈剤中のKF:KCLの比率が反応前に仕込んだ希釈剤のKF:KCL比率と同一となる重量とする。この際KCLの投入量は主原料の投入法が一括投入でも分割投入でも、その総量が変わらなければ変化しない。
KCLの投入により反応器内の温度はKCLの熔解熱で数度程度下降するが、数分後には元の冷却線に復帰する。この時、反応器内はまだ十分な熔融状態にあり、投入されたKCLは攪拌機により反応器内の希釈剤と完璧に混合される。この撹拌を1持間程度継続した後、ヒーターを切り攪拌機は停止されて反応器の上部に機械的に引き上げられる。この後、反応器の冷却は徐々に進行する。この操作を次の実施例で説明する
例として次の還元反応(=比表面積で上級クラス)を取り上げる。
主原料 フッ化タンタル酸カリウム 100kg
希釈剤 KF 300kg + KCL 300kg
これを反応器に仕込み、均一の熔融状態にした後、金属ナトリウムで還元する。 反応終了後、予め計算されたKCLを反応器に投入し、十分混合する.
反応前後の希釈剤の重量は以下の通りとなる。 (単位はkg)
Figure 2019060011
上表から明らかのように反応前後の希釈剤中の比率はKF:KCL=1.0:1.0で変化はない。更に追加して投入するKCL量は主原料の重量が一定なら、どの反応ロットでも常に一定(=実施例1では30kg)である。もし反応前の希釈剤の調節比が上表と異なる場合は追加投入するKCL量は上表の値にその希釈剤の調整比を乗じた重量とすれば良い。
例として次の還元反応(=比表面積で中級クラス)を取り上げる。
主原料 フッ化タンタル酸カリウム 100kg
希釈剤 KF 200kg + KCL 200kg
反応前後の希釈剤の重量は以下の通りとなる。 (単位はkg)
Figure 2019060011
上表から明らかのようにこの反応でも反応前後の希釈剤中の比率はKF:KCL=1.0:1.0で変化はない。更に追加投入するKCLム量は主原料の重量が一定なら、この反応でも一定量(=実施例1と同じ30kg)である。
この事実は製造メーカーが反応マニュアルを決める際に極めて便利である。通常、この反応条件を定める場合は、次の手順で進められる。
(1)主原料フッ化タンタル酸カリウムの数量を決める・・通常は全ロット一定
(2)希釈剤を選定する・・・通常はKFとKCLの混合塩
(3)希釈剤の混合比を決める・・・通常はKF:KCL=50:50
(4)主原料への希釈剤倍率を決める・・・ 製品グレードにより可変
この手順までは殆どの製造メーカーで同一である。各メーカーはこれに独自の反応温度、主原料の投入法(=一括又は分割)、金属ナトリウムの投入法(=連続式又は断続式)、撹拌方法更に第三物質例えば窒素化合物や硫黄等の添加方法等を別途定め、独自のノウハウとして自社技術を確立している。先の[0005]で開示された実施例もその一例である。
この手順に従えば前記の実施例1、2で示したように主原料の重量が一定ならば、反応後の希釈剤の組成比を一定にするためにはどの反応ロットに対しても反応が完全に終了した段階で同じ重量(=実施例では30kg)のKCLを追加して投入するだけでよい。この操作と先の特許文献4で規定される操作とを比較すれば、操作の
簡便性でその差異は明確である。以上の改善手段を請求項1とした。
ここで本発明と特許文献4との特許性について再度整理し、その差異を明確にしておく。両特許とも同じ発明者による出願である。発明の元となる原理は「2種の化合物からなる混合塩を水に溶解し、その溶液から晶析操作を用いて結晶を得る場合、溶液中の混合塩の組成比が一定ならば、得られる結晶の組成は常に一定である」という極めて普遍的な化学原則に基づいている。
一方でその目標を達成する手段には両者には特許性の上で明確な差異がある。特許文献4ではこの目標を達成するために反応条件の一つである希釈剤の組成を各々の製品グレード毎に反応前に変更する手段を提言している。これは明らかに反応条件の重大は変更である。これに対し本発明は反応が全て完遂にしタンタルと希釈剤が重力沈降により2層に分離される工程において希釈剤中に特定された定量の無機塩を添加し希釈剤の組成を調整するものである。この操作は製品タンタルの品質には何ら影響を与えない操作である。
更に操作の難易度にも大きな差異がある。[0033]に記載した本発明の実施例で反応後の希釈剤中のカリウム塩の構成比を一定にするため特許文献4の方法に従うならば、全ての製品グレードに関して反応前の希釈剤の調整比を個別に計算し、かつ正確に計量して反応器に投入しなければならない。万一この操作を誤ると反応後のタンタル粉末が全て規格外の不合格品となってしまう。これに対し本発明ではKCLの追加操作を誤ったとしてもタンタル粉末の品質には何ら影響与えない。変わるのは生成した希釈剤の組成比だけである。タンタルの価格は希釈剤のそれに比べて約100倍近い高価格である。「タンタルの規格外品を発生させるというリスク」の防止面から見ても両特許の差異は歴然としている。
反応終了後に一定量のKCLを反応器に投入するには小型の投入ホッパーが必要となる。この投入ホッパーは反応器の上部に取り付けられ、ロータリー弁を通して反応器と繋がっている。予め電気炉等を用いてサラサラに乾燥されたKCLはこの投入ホッパーに入れられ、定められた時機に反応器へ投入される。投入ホッパー内は水分や空気の混入を防ぐため、アルゴン雰囲気に保たれている。通常は1バッチ当たり1回しか使用しないのでホッパーの大きさは小型で良いが、大型化してロードセルと組み合わせ、毎回の使用分をその都度切り分けて投入することも可能である。この反応器周りの機器の配置を[図2]に示す。
次に反応器から回収された希釈剤を水に溶解する操作について記す。金属ナトリウムを使った還元反応では反応を完遂させるためにナトリウムは主原料に対し少量であるが過剰に加えられる。この結果反応後の希釈剤を水に溶解すると液性はアルカリ性を呈す。液性をアルカリ性に保つのは希釈剤中の不純物Fe、Ni、,Cr等を水に不溶の水酸化塩にするためである。このアルカリ性の液性下で反応後に回収された希釈剤、即ち3種の無機塩(=KF、KCL、NaFの混合塩)からカリウム塩だけを選択的に溶解させる方法について記す。
これ等の3種の無機塩を単独に水に溶解させる場合の溶解度が一括して[図3]に図示(=出典は化学便覧)されている。 この図よりNaFの溶解度がKFとKCLの溶解度に比べて極めて小さく、常温では水100gに対し5g程度しか溶解しないことが解かる。このNaFを含むKFとKCLの混合塩に多量の水、例えば重量比で20倍以上の水を加えれば、当然これ等の塩は全て水に溶解してしまう。
この溶解に際し水量を徐々に減らしていくと混合塩の一部は溶解せず溶解残渣として残る。溶液と残渣分を原子吸光法等を使って成分を分析するとカリウム塩の殆ど全ては溶液中にNaFは残渣中に存在することを確認できる。更にごく少量ではあるが、溶液中にはNaFが一部溶解していることも確認できる。この事実からタンタル製造の反応工程から回収された混合塩は溶解条件により2グループ、即ちカリウム塩グループとナトリウム塩グループに分けて溶解できることが解かる。
一般的に水に可溶な同じ陰イオンを持つ2種の無機塩を水に溶解する場合、各々の無機塩の溶解度から定めた水温において無機塩の飽和溶液を作るために必要な水量を求めることができる。この水量を本発明では理論溶解水量と呼ぶことにする。この際、より溶解性の高い無機塩の理論溶解水量を超える水量で2種の無機塩を水に溶かすと両塩は溶解に際しお互いに干渉し会う。当然溶解度大の無機塩が最初に溶解し、次いで溶解度小の無機塩の一部が溶解するが、この際、後者の溶解度はそれが単独で溶解する時よりも小さくなる。この現象は質量作用の法則Law of Mass Actionと呼ばれる。この原理を活用すれは、溶解操作で適切な水量を選択すれば混合塩から高純度の無機塩を回収することが可能となる。
次いで反応工程で副生した混合塩を水で溶解する場合、溶解に最も適切な水量はどれくらいかをこの法則に基づいて検討する。ここからは机上で検討した。検討の前提として反応後の希釈剤から回収されるカリウム塩中に混入するNaFの許容目標値を定めた。これには特許文献4の実施例から「回収された希釈剤中のNaFが1%以下であれば反応から得られるタンタルの品質は従来品と変わらない」という記載がある。この記載に基づき、回収されるカリウム塩中のNaFの許容限界量を1.0重量%以下と定めた。
この目標値を達成するため、机上計算ではKFとNaFの2成分の混合塩を対象に目標値を達成するための水量を計算で求めた。この計算は以下の手順で行った。先ず水に溶解したKFは完全に電離していると仮定し、希釈倍率を変えて各濃度別のKF溶解度を算出した。次いでNaFの溶解度からNaF単独の溶解度積を計算で求め、上記のKFが既に溶解している溶液下でのNaFの溶解度を求めた。計算で使用したKFとNaFの飽和溶解度は各137g/100g水及び5g/100g水である。
KFとNaFが共存する水溶液では、NaFは質量作用の法則に従いKFの濃度が高い程、その溶解量を減少させる。その溶解量を各種のKF濃度を持つ溶液で算出し、計算上で混合塩をKFの理論溶解水量の4倍以下の水量で溶解させれば、NaFを単独で水に溶解させた時に比べてその溶解度を1/5に抑えられるという結果を得た。最終的に計算で算出されたNaFの溶解度は単独では1.190mol/L、上記のKF溶液下では0.240mol/Lであった。この両者の数値の比率は5:1である。
即ち、NaFの水に対する溶解度は常温付近では単独で約5.0重量%であるが、理論溶解水量に対し4倍に希釈されたKF溶液の中ではその1/5即ち1.0重量%以下にに低減されることが解かった。この希釈倍率を下げれば、混入するNaF量は更に低下するので、上記の倍率(=4倍)を希釈の上限とした。上記の計算はKFとNaFの2成分で行ったが、実際の反応後の希釈剤にはKCLが加わるので、希釈剤の溶解に当たってはKFに代わり、KFとKCLのカリウム塩を対象に理論溶解水量を算出し、上記の希釈倍率の水量で溶解すれば良い。
溶解操作に当たっては反応後に得られる希釈剤は白色又は青みを帯びた白色の固い岩盤状の塊として反応器から取り出されるので、これを解砕機を使って細粒とし、50℃前後の温水で溶解する。溶解操作で水量を増せば溶解時間を短縮できるが、晶析操作でその水を蒸発させなければならないので、両操作のバランスを考慮して上記の希釈倍率の範囲の中から最適の倍率を選択する。以上の溶解条件を請求項2とした。
次にカリウム塩が回収された後、残った残渣中に含まれるNaFの回収について検討した。NaFは水に難溶性で常温の水で約4%、高温でもその値はほとんど変わらず5%程度である。従ってこの残渣の溶解に必要な水量は理論溶解水量の等倍以上と定めた。溶解に際して水量を増やせば増やすほど後の晶析工程で使われるネルギー・コストが増加するので、実際の溶解操作では上記の指定範囲の中で下限値に近い水量が選択される。この溶解条件を請求項2に加えた。
NaFの精製法は水を溶媒とする再結晶法である。再結晶法で得られたNaFは乾燥し、虫歯予防薬等の原料として再利用できる。この再結晶工程の最後の残渣は少量のタンタル微粉や水に不溶な重金属の水酸化物である。これ等は脱水・乾燥され、タンタルを含有する鉱石からフッ化タンタル酸カリウム製造する工程へリサイクルされる。タンタルを回収した後の残渣は鉱石の鉱滓と共に処理される。以上の一連の操作により「タンタル製造における希釈剤の完全リサイクル」が可能となる。 このタンタル還元反応で副生する希釈剤から各種無機塩の回収に至る操作手順の概略を[図4]に示す。
本発明で提言された製法により回収されるカリウム塩はKFとKCLの混合塩である。この混合塩はその組成は一定で高純度ではあるが、タンタル製造に伴う希釈剤以外に用途はない。即ち、本発明はタンタル製造法の一部を改善する極めて限定された分野での発明である。また本発明で回収されたNaFは高純度ではあるが、タンタル製造工程から回収するという独自の製法であり、過去に同じ製法を世界で検討した例はない。従って本発明に示すこれ等の塩の回収技術はその製法と用途において十分に特許性を具備していると考えられる。この用途先を請求項3とした。
発明の効果
タンタルの還元工程で副生する混合塩はKF、KCL、NaFの3種の無機塩を含有している。上記の解決手段を活用すれば、これ等全ての無機塩を水を用いた再結晶法で、第一段階でKFとKCLを両者の割合が一定比率となる混合塩として回収し、第二段階でNaFを単独塩として各々高純度で回収することが可能となる。
本発明を実施するために必要な機器は既に本明細書[0040]に記載の通り、既存の反応器に追加投入するKCL用の小型の投入ホッパーだけである。発明を実施する上で残された課題は既にタンタル粉末の製造メーカーから公開されている一連の特許、即ち「反応器を経由した希釈剤の部分的な抜出しと補充による改善策」(=以降別法と略す)との競合である。
別法の最大の長所は圧倒的な生産効率の向上である。通常タンタルの還元反応は800℃前後の高温下で行われるが、反応器の昇温と冷却に長時間を要し、一つの反応器ではせいぜい1日1バッチが限界である。これに対し別法では反応器は反応時間(=通常は2時間程度)だけに使われるので、熔融塩の抜出し、補充時間を考慮しても1基の反応器で1日で10バッチ程度の反応を行うことは十分に可能である。更に反応器の昇温や冷却に伴うエネルギーを大幅に節減することも期待である。しかしこの別法には大きな懸念が潜在している。
それは「反応に伴い希釈剤中の不純物の濃度が増加しないか」という懸念である。鉄鋼業の高炉において純度の高い銑鉄ができるのは鉄鉱石や副原料中の不純物の大部分はスラグ中へ移行する結果であることはよく知られている。同様な現象がタンタル反応器内で起これば、主原料、副原料及び使用機器に含まれる不純物、例えばFe、Ni、Cr等の重金属の一部が希釈剤中へ移行し、引いてはタンタル中へ平衡移動する。
これ等の不純物はタンタルコンデンサーの電気特性を大きく悪化させる。先の別法にはこの不純物混入への防護対策の記載が一切開示されていない。別法では希釈剤の抜出量や補充量を決定する判断基準はあくまで希釈剤中の無機塩の構成比率である。上記の不純物が蓄積する程度は反応で使用する主原料、副原料の純度や機器の材質により千差万別である。高純度の原材料やインコネル等の高級材質の機器を使えば、当然不純物の蓄積は抑制される。従って別法を採用する場合はこの不純物混入に対して使用者側の条件に併せて事前の検討が不可欠である。
更に別法では抜き出した希釈剤の一部を産業廃棄物として処理しなければならず「タンタル製造に伴う希釈剤の完全リサイクル」という目標に対しても不十分である。これに対し本発明では、希釈剤を高い純度で回収する利点に加え、産業廃棄物を一切発生させない手段を提言している。本発明がこれ等の長所を活し、タンタル製造に伴う産業廃棄物の低減に寄与すること。これが発明を実施するための最良の形態である。
タンタル製造に伴う産業廃棄物の低減に関しては既に我が国では専業メーカーから対策が実証され、同じ目標への改善策として定着している。 一方でこの現状を世界規模で見るとタンタル粉末の主要な製造元である中国や東南アジア諸国では未だに副生した希釈剤は産業廃棄物として埋め立て処理されている。この産業廃棄物は万一強酸性の廃棄物に触れると産業廃棄物中のフッ化カルシウムからフッ酸が生成し、植物を枯渇させるという深刻な公害を引き起こす危険がある。タンタル粉末の製造は今後もグローバルな地域で継続される。国境を越えた対応が必要となる。
本発明は「タンタル製造の反応工程において希釈剤の一部を追加して添加することにより、反応で副生する希釈剤の全量を高純度で回収する」という極めて簡潔な製法を提供している。この製法の導入によりタンタル粉末の製造に伴う産業廃棄物の発生量が低減され、地球環境の保全に寄与できる可能性は大きい。
KF、KCL、NaFの混合塩の融点を示す状態図である 本発明の機器の構成を示す概略図である KF、KCL、NaF単独の水への溶解度を示す図である 本発明の操作手順を示す概略図である
1 反応器
2 反応炉
3 ヒーター
4 ナトリウム投入弁
5 アルゴン封入弁
6 ナトリウム凝縮器
7 攪拌機
8 塩化カリウム投入ホッパー
9 塩化カリウム投入弁
10 圧力 調節器
この問題を解決するために混合塩中の3成分であるKF、KCL及びNaFの溶解度に注目し、水に易なKF:KCLについて、その混合塩中の比率が一定ならば、混合塩を溶解した水溶液からは 常に一定比率を有するKF と KCLの混合塩を回収できることを見出し、これを活用した改善策を提言している。

Claims (3)

  1. フッ化タンタル酸カリウムをナトリウムで還元しタンタルを粉末状で得る反応に際し、タンタル粉末の比表面積を調整するために反応の希釈剤としてフッ化カリウムと塩化カリウムを予め定めた混合比率の混合塩で用いる製法において、ナトリウムによる還元反応が終了し冷却段階に入る直前において還元反応で副生したフッ化カリウム量に相当する塩化カリウム量を反応器に新たに加えることにより、還元反応後のフッ化カリウムと塩化カリウムの混合比率を反応前に予め定めたフッ化カリウムと塩化カリウムの混合比率と同一とすることを特徴とするタンタル粉末の製造法。
  2. 前記還元反応で得られたタンタルと希釈剤を冷却して反応器から取り出し希釈剤をタンタルから分離した後、水に溶解させる工程において溶解工程を二段階とし、その第一段階では溶液をアルカリ性に保持し、反応後の希釈剤中に含まれるフッ化カリウムと塩化カリウム量の飽和溶解度から算出された溶解に必要な水量の1倍以上から4倍未満の範囲の中から選ばれた倍率の水量で溶解させ、第二段階では第一段階の溶解残渣からその全量をフッ化ナトリウムと見なし、フッ化ナトリウム量の飽和溶解度からら算出された溶解に必要な水量の等倍以上の水量で溶解させることを特徴とするタンタル粉末の製造法。
  3. 前記溶解工程の第一段階からから回収して得られたフッ化カリウムと塩化カリウムの混合塩をフッ化タンタル酸カリウムをナトリウムで還元してタンタルを得る反応において希釈剤として再使用し、かつ第二段階から回収して得られたフッ化ナトリウムを製品として再活用することを特徴とするタンタル粉末の製造法。
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