(1.転造装置1の概要)
転造装置1は、回転体としてのワークWの外周面を、一対のローラダイス42a,42b,43a,43bを用いて転造により成形する。すなわち、転造装置1は、一対のローラダイス42a,42b,43a,43bを回転させ、且つ、ワークWを回転させながら、一対のローラダイス42a,42b,43a,43bによりワークWを挟み込むように押圧することにより、ワークWを所望形状に成形する装置である。転造装置1は、例えば、円筒状のワークWに歯車を転造する。
ここで、転造される歯車は、平歯車、はすば歯車など種々とすることができる。また、転造装置1は、ワークWに歯車を転造する場合に限られず、回転体としてのワークWの外周面に歯車以外の任意の形状を成形するようにしてもよい。ただし、以下においては、ワークWに歯車、特にはすば歯車を転造する場合を例にあげて説明する。
(2.転造装置1の詳細構成)
転造装置1の構成について、図1〜図4を参照して説明する。転造装置1は、ベース10、ワークテーブルユニット20、テーブル駆動装置30、一対のダイスユニット40a,40b、一対の押圧力付与装置50a,50b、一対の傾き検出器60a,60b、一対の傾き補正用駆動装置70a,70b、制御装置80及び熱処理ユニット90を備える。ここで、一対の各装置40a,40b,50a,50b,60a,60b,70a,70bは、ワークWの軸線を通る鉛直面を対称とする共通構成を有している。図面において、一対の各装置の一方における各部位に添え字aを付し、一対の各装置の他方における各部位に添え字bを付す。以下において、主として、添え字aに関する構成について説明し、添え字bに関する構成についての説明を省略する。
ベース10は、設置面(床面)の上に固定される。図1において、ベース10における左側の領域は、作業者がワークWのセッティングを行うためのセッティング領域である。つまり、セッティング領域において、作業者は、ワークWの取付け及び取外しを行う。さらに、図1において、ベース10における左側の領域は、ワークWに対する熱処理を行う領域でもある。また、図1において、ベース10における右側の領域は、ワークWを転造するための加工領域である。
ベース10の上面には、セッティング領域と加工領域とに亘って延びるワーク搬送用ガイドレール11が形成されている。ワーク搬送用ガイドレール11は、図1の左右方向に延びる。また、ワーク搬送用ガイドレール11は、加工領域において、図1の上下方向の中央に位置する。
さらに、ベース10の加工領域の上面には、ワーク搬送用ガイドレール11を挟んで両側に、ガイドレール11に直交する方向に延びるように、支持部材用の主ガイドレール12a,12b、及び、支持部材用の副ガイドレール13a,13bが形成されている。主ガイドレール12a,12bは、副ガイドレール13a,13bよりも、ワーク搬送用ガイドレール11寄りに位置する。
ワークテーブルユニット20は、ワークWの取付け及び取外しが可能であり、ベース10のセッティング領域におけるセッティング位置と、ベース10の加工領域における加工位置との間を移動可能に設けられる。ここで、加工位置には、ワークWの荒加工を行うための荒加工位置(図1の右寄りの位置)と、ワークWの仕上加工を行うための仕上加工位置(図1の中央寄りの位置)とが存在する。
ワークテーブルユニット20は、テーブル本体21、主軸台22、主軸駆動装置23及び心押台24を備える。テーブル本体21は、長尺状に形成されており、ベース10のワーク搬送用ガイドレール11に沿って、ベース10の上面に図1の左右方向に直動可能に支持されている。つまり、テーブル本体21は、セッティング位置と加工位置との間を移動できる。
主軸台22は、テーブル本体21の上面に設けられる。主軸台22は、回転可能な主軸を備えており、主軸によりワークWの回転軸線方向の一端を支持する。ここで、主軸台22は、ワークWの一端を支持するためにチャック又はセンタ部材を備える。主軸駆動装置23は、主軸台22に設けられており、主軸台22の主軸を回転駆動する。つまり、主軸駆動装置23は、主軸を回転することにより、主軸に支持されるワークWを回転することができる。
心押台24は、テーブル本体21の上面において、主軸台22に対向する位置に設けられる。心押台24は、ワークWの回転軸線方向の他端を支持する。つまり、ワークWは、回転軸線方向の両端を、主軸台22及び心押台24により挟まれた状態で支持されている。心押台24は、例えば、ワークWと共に回転するセンタ部材を有する。
テーブル駆動装置30は、ワークテーブルユニット20をベース10に対して移動するための装置である。テーブル駆動装置30は、例えば、ボールねじ装置やリニアモータなどにより構成されている。本実施形態においては、テーブル駆動装置30は、ボールねじ装置を例にあげる。テーブル駆動装置30は、ボールねじ、ボールねじを駆動するためのモータ、及び、テーブル本体21に固定されたボールねじナットを備える。モータが駆動することにより、ボールねじナットに固定されたテーブル本体21を移動することができる。
一対のダイスユニット40a,40bは、加工位置に位置するワークテーブルユニット20に対して、接近又は離間するように、ベース10に設けられている。ダイスユニット40aは、支持部材41a、第一ローラダイス42a、第二ローラダイス43a、回転装置44a、傾き補正支持部材45a、及び、スラスト自動調心ころ軸受46aを備える。
支持部材41aは、ハウジングを構成している。支持部材41aは、支持部材本体部41a1と、傾き調整支持部41a2とを備えており、一つの部材として形成されている。支持部材本体部41a1は、例えば、矩形状に形成され、ワークテーブルユニット20に近い側に位置する。傾き調整支持部41a2は、支持部材本体部41a1に一体的に設けられており、支持部材本体部41a1に対してワークテーブルユニット20から遠い側に位置する。
支持部材本体部41a1は、ベース10の主ガイドレール12aに沿って、ベース10の上面に図1の上下方向に直動可能に支持されている。つまり、支持部材本体部41a1は、ワークテーブルユニット20に支持されたワークWに接近又は離間する方向に移動可能である。ここで、支持部材本体部41a1は、主ガイドレール12aによって、理想的には、姿勢を維持した状態でガイドされている。しかし、支持部材41aに付与される荷重の向きによっては、支持部材本体部41a1は、主ガイドレール12aの延びる方向に対して、傾いた姿勢となることがある。この場合、支持部材41aに偏心荷重がかかることによって、支持部材41aが、主ガイドレール12aに対して傾いた姿勢となる。すなわち、支持部材41aは、偏心荷重によって、ベース10の上面の法線まわりに傾く状態となり得る。
傾き調整支持部41a2は、筒状に形成されており、筒状の軸線方向の一端を支持部材本体部41a1に固定される。傾き調整支持部41a2は、支持部材41aの姿勢が傾いた場合に、その傾きを調整するための支持構造として機能する。
第一ローラダイス42aは、円盤状に形成されており、ワークWを押圧することによってワークWの外周面を第一形状に成形するための外周面を有する。つまり、第一ローラダイス42aの外周面は、はすば歯車に対応する形状を有する。また、第一ローラダイス42aは、荒加工を行うためのダイスである。第一ローラダイス42aは、支持部材41aに回転可能に支持される。第一ローラダイス42aの回転軸線は、ワークWの回転軸線に平行である。
第二ローラダイス43aは、円盤状に形成されており、ワークWを押圧することによってワークWの外周面を第二形状に成形するための外周面を有する。つまり、第二ローラダイス43aの外周面は、はすば歯車に対応する形状を有する。ただし、第二ローラダイス43aは、第一ローラダイス42aとは異なる加工を目的としたダイスである。本実施形態においては、第二ローラダイス43aは、仕上加工を行うためのダイスである。ここで、第一ローラダイス42aと第二ローラダイス43aとは、同径としてもよいし、異径としてもよい。
さらに、第二ローラダイス43aは、支持部材41aに回転可能に支持される。つまり、支持部材41aは、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aを回転可能に支持する。第二ローラダイス43aの回転軸線は、ワークWの回転軸線に平行である。また、第二ローラダイス43aは、第一ローラダイス42aと同軸に配列されている。つまり、第二ローラダイス43aは、支持部材41aに、第一ローラダイス42aとは第一ローラダイス42aの軸線方向に異なる位置に支持されている。
回転装置44aは、例えばモータにより構成されており、支持部材41aに設けられている。回転装置44aは、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aを回転駆動する。回転装置44aは、支持部材41aの外側に、第一ローラダイス42aの回転軸線及び第二ローラダイス43aの回転軸線と同軸上に設けられている。
傾き補正支持部材45aは、支持部材41aの傾き調整支持部41a2を、ベース10の上面の法線軸まわりに回転可能に支持する。傾き補正支持部材45aによる回転軸線は、支持部材41aの姿勢の傾きに対応する軸線であり、詳細には支持部材41aの姿勢の傾きの回転軸線に平行な軸線である。さらに、傾き補正支持部材45aは、ベース10の副ガイドレール13aに沿って、ベース10の上面に図1の上下方向に直動可能に支持されている。つまり、傾き補正支持部材45aは、支持部材41aと共に、ワークテーブルユニット20に支持されたワークWに接近又は離間する方向に移動可能となる。
スラスト自動調心ころ軸受46aは、傾き調整支持部41a2の内面を支持する。スラスト自動調心ころ軸受46aの調心中心は、傾き補正支持部材45aの支持軸線上に位置する。
なお、もう一つのダイスユニット40bは、支持部材41b、第一ローラダイス42b、第二ローラダイス43b、回転装置44b、傾き補正支持部材45b、及び、スラスト自動調心ころ軸受46bを備え、ダイスユニット40aと同様の構成を有する。
一対の押圧力付与装置50a,50bは、一対のダイスユニット40a,40bを、ベース10に対して移動するための装置である。一対の押圧力付与装置50a,50bは、例えば、ボールねじ装置やリニアモータなどにより構成されている。本実施形態においては、一対の押圧力付与装置50a,50bは、ボールねじ装置を例にあげる。一対の押圧力付与装置50a,50bは、ボールねじ、ボールねじを駆動するためのモータ、及び、ボールねじナット51a,51bを備える。ボールねじナット51a,51bは、スラスト自動調心ころ軸受46a,46bを介して、支持部材41a,41bを直動することができる。
つまり、押圧力付与装置50aは、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aをワークWに接近及び離間させる方向に、支持部材41aを直動する。そして、押圧力付与装置50aは、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aに、ワークWに対する押圧力を付与する。もう一つの押圧力付与装置50bも同様である。
一対の傾き検出器60a,60bは、一対の支持部材41a,41bの姿勢の傾きを検出する。傾き検出器60aは、図4に示すように、2個のリニアスケール61a,62aと、傾き算出部63aとを備える。2個のリニアスケール61a,62aは、図1に示すように、支持部材41aにおける第一ローラダイス42aの軸線方向に異なる位置に配置され、ベース10に対する支持部材41aの直動方向の位置を検出する。特に、2個のリニアスケール61a,62aは、第一ローラダイス42aの軸線方向において、支持部材41aの両端に配置される。
支持部材41aの姿勢が傾いていない状態では、2個のリニアスケール61a,62aは、同一の検出値を取得する。一方、支持部材41aの姿勢が傾いている状態では、2個のリニアスケール61a,62aは、異なる検出値を取得する。
傾き算出部63aは、2個のリニアスケール61a,62aの検出値の差に基づいて支持部材41aの姿勢の傾きを算出する。具体的には、傾き算出部63aは、支持部材41aの傾き角度を算出する。なお、傾き検出器60aは、リニアスケール61a,62aなどを用いた構成に限られず、傾きを直接検出することができるセンサを用いるようにしてもよい。
一対の傾き補正用駆動装置70a,70bは、一対の支持部材41a,41bに設けられ、一対の支持部材41a,41bの姿勢の傾きを補正する。傾き補正用駆動装置70aは、モータにより構成されており、モータハウジングが支持部材本体部41a1に固定され、モータ出力軸が押圧力付与装置50aのボールねじナット51a,51bに固定されている。傾き補正用駆動装置70aの回転軸線は、傾き補正支持部材45aの回転軸線と同軸である。
つまり、傾き補正用駆動装置70aが駆動すると、ボールねじナット51aに固定されているモータ出力軸は、旋回しないため、モータハウジングが、旋回することになる。さらに、傾き補正用駆動装置70aと傾き補正支持部材45aは同軸上に位置するため、傾き補正用駆動装置70aのモータハウジングは、傾き補正支持部材45aの回転軸線まわりに旋回する。そして、傾き補正用駆動装置70aのモータハウジングは、支持部材41aに固定されていることから、傾き補正用駆動装置70aは、駆動することにより、傾き補正支持部材45aの回転軸線まわりに、支持部材41aを旋回させる。つまり、傾き補正用駆動装置70aのモータハウジングが旋回し、支持部材41aが旋回することで、支持部材41aの姿勢の傾きを調整することができる。
そして、傾き補正用駆動装置70aは、第一ローラダイス42a又は第二ローラダイス43aがワークWを押圧することにより発生する偏心荷重によって、支持部材41aの姿勢が傾く場合に、支持部材41aの姿勢の傾きを補正する。なお、もう一つの傾き補正用駆動装置70bも同様である。また、支持部材41a,41bにおける支持部材本体部41a1,41b1と傾き調整支持部41a2,41b2は、一体的に構成されているが、別部材に構成されてもよく、この場合リンク機構等によって押圧力を的確に伝えるようにしてもよい。
制御装置80は、各駆動装置23,30,44a,44b,50a,50b,70a,70bを制御する。特に、制御装置80は、図4に示すように、傾き検出器60a,60bにより得られた支持部材41a,41bの姿勢の傾きに基づいて、傾き補正用駆動装置70a,70bを制御する傾き補正用制御装置81を備える。すなわち、傾き補正用制御装置81は、支持部材41a,41bの姿勢の傾きに基づいてトルク指令値を演算し、当該トルク指令値に基づいて傾き補正用駆動装置70a,70bに対してトルク制御を行う。
熱処理ユニット90は、ベース10におけるセッティング領域に配置されており、セッティング位置に位置するワークWに対して熱処理を施す。熱処理ユニット90は、例えば、ワークWに高周波焼き入れを行うことができる。なお、本実施形態においては、転造装置1が、ワークWの転造を行うと共に、熱処理を行うこととするが、転造装置1とは別の装置が熱処理を行うようにしてもよい。
(3.転造方法)
次に、転造装置1によるワークWの転造方法について、図5−図9を参照して説明する。図5に示すように、まず、テーブル駆動装置30が駆動することにより、ワークテーブルユニット20がセッティング位置に位置決めされる(S1)。そして、作業者によって、素材としてのワークWが主軸台22及び心押台24に取り付けられる(S2)。素材としてのワークWは、例えば、円筒状又は円柱状の部材である。
続いて、熱間加工の場合には、ワークテーブルユニット20がセッティング位置に位置決めされた状態のまま、熱処理ユニット90によりワークWの熱処理が行われる(S3)。熱処理が終了すると、テーブル駆動装置30が駆動することにより、図6に示すように、ワークテーブルユニット20が荒加工位置に位置決めされる(S4)。この状態において、ワークWは、一対の第一ローラダイス42a,42bに挟まれる位置に位置決めされている。なお、冷間加工の場合には、S3の熱処理は実行されない。
続いて、荒加工が行われる(S5)。荒加工については、図6及び図7を参照して説明する。荒加工は、一対の第一ローラダイス42a,42bにより行われる。まず、回転装置44a,44b及び主軸駆動装置23が同期回転される。このとき、一対の第一ローラダイス42a,42bの歯数とワークWに成形する歯数との関係に応じて、回転装置44a,44bの回転数と主軸駆動装置23の回転数とが決定される。同時に、一対の押圧力付与装置50a,50bが支持部材41a,41bをワークWに接近させる方向に直動させる。
そうすると、一対の第一ローラダイス42a,42bは、回転しながらワークWに押圧される。ここで、押圧力は、所望の押圧力となるように、一対の押圧力付与装置50a,50bによって調整される。
荒加工が行われる際には、図6に示すように、支持部材41aが押圧力付与装置50aから押圧力を受けると共に、第一ローラダイス42aがワークWから反力を受ける。ここで、第一ローラダイス42aは、ボールねじ装置又はリニアモータとしての押圧力付与装置50aの位置に対して、第一ローラダイス42aの軸線方向において異なる位置に位置する。詳細には、第一ローラダイス42aの軸線方向において、ボールねじナット51aの中心位置と、第一ローラダイス42aの中心位置とが、異なる位置に位置する。そのため、支持部材41aには、図6の反時計回りのモーメントが発生する。
ただし、支持部材41aは、主ガイドレール12a及び副ガイドレール13aによって、姿勢が傾くことを規制されている。しかし、主ガイドレール12a及び副ガイドレール13aは、僅かな隙間を有することにより、図6に示すように、支持部材41aの姿勢は、偏心荷重によって、主ガイドレール12a及び副ガイドレール13aに対して僅かながら傾く。ここで、冷間加工による転造では、熱間加工に比べて、高負荷且つ高トルクの加工となる。そのため、支持部材41aに生じる偏心荷重が大きくなり、結果として支持部材41aの傾きが大きくなる。
そこで、荒加工が行われている際に、図4に示すように、傾き検出器60aにより支持部材41aの姿勢の傾きを検出する。詳細には、2個のリニアスケール61a,62aにより、ベース10に対する支持部材41aの位置X1,X2を検出する。図6に示すように、支持部材41aの姿勢が傾いている状態において、2個のリニアスケール61a,62aによる検出値X1,X2は、異なる値となる。荒加工においては、X2がX1よりも大きな値となる。
そして、傾き算出部63aが2個のリニアスケール61a,62aの検出値X1,X2の差ΔXに基づいて、支持部材41aの姿勢の傾きを算出する。続いて、傾き補正用制御装置81が、支持部材41aの姿勢の傾きに基づいて傾き補正用駆動装置70aを制御する。図7に示すように、傾き補正用駆動装置70aが、支持部材41aに図7の時計回りのモーメントを加えるように駆動することにより、支持部材41aの姿勢の傾きが抑制される。このように、荒加工が行われる際に、支持部材41aに偏心荷重が生じたとしても、支持部材41aの姿勢が傾くことが抑制される。
図5に示すように、荒加工が終了すると、テーブル駆動装置30が駆動することにより、図8に示すように、ワークテーブルユニット20が仕上加工位置に位置決めされる(S6)。この状態において、ワークWは、一対の第二ローラダイス43a,43bに挟まれる位置に位置決めされている。このとき、一対の押圧力付与装置50a,50bは、ワークWが仕上加工位置に位置決めされやすくするために、一対のダイスユニット40a,40bをワークWから遠ざけた退避位置へ移動させる。
続いて、仕上加工が行われる(S7)。仕上加工については、図8及び図9を参照して説明する。仕上加工は、一対の第二ローラダイス43a,43bにより行われる。まず、回転装置44a,44b及び主軸駆動装置23が同期回転される。このとき、一対の第二ローラダイス43a,43bの歯数とワークWに成形する歯数との関係に応じて、回転装置44a,44bの回転数と主軸駆動装置23の回転数とが決定される。同時に、一対の押圧力付与装置50a,50bが支持部材41a,41bをワークWに接近させる方向に直動させる。
そうすると、一対の第二ローラダイス43a,43bは、回転しながらワークWに押圧される。ここで、押圧力は、所望の押圧力となるように、一対の押圧力付与装置50a,50bによって調整される。
仕上加工が行われる際には、図8に示すように、支持部材41aが押圧力付与装置50aから押圧力を受けると共に、第二ローラダイス43aがワークWから反力を受ける。ここで、第二ローラダイス43aは、ボールねじ装置又はリニアモータとしての押圧力付与装置50aの位置に対して、第二ローラダイス43aの軸線方向において異なる位置に位置する。詳細には、第二ローラダイス43aの軸線方向において、ボールねじナット51aの中心位置と、第二ローラダイス43aの中心位置とが、異なる位置に位置する。そのため、支持部材41aには、図8の時計回りのモーメントが発生する。
ただし、支持部材41aは、主ガイドレール12a及び副ガイドレール13aによって、姿勢が傾くことを規制されている。しかし、主ガイドレール12a及び副ガイドレール13aは、僅かな隙間を有することにより、図8に示すように、支持部材41aの姿勢は、偏心荷重によって、主ガイドレール12a及び副ガイドレール13aに対して僅かながら傾く。
そこで、仕上加工が行われている際に、図4に示すように、傾き検出器60aにより支持部材41aの姿勢の傾きを検出する。詳細には、2個のリニアスケール61a,62aにより、ベース10に対する支持部材41aの位置X1,X2を検出する。図8に示すように、支持部材41aの姿勢が傾いている状態において、2個のリニアスケール61a,62aによる検出値X1,X2は、異なる値となる。仕上加工においては、X1がX2よりも大きな値となる。
そして、傾き算出部63aが2個のリニアスケール61a,62aの検出値X1,X2の差ΔXに基づいて、支持部材41aの姿勢の傾きを算出する。続いて、傾き補正用制御装置81が、支持部材41aの姿勢の傾きに基づいて傾き補正用駆動装置70aを制御する。図9に示すように、傾き補正用駆動装置70aが、支持部材41aに図9の反時計回りのモーメントを加えるように駆動することにより、支持部材41aの姿勢の傾きが抑制される。このように、仕上加工が行われる際に、支持部材41aに偏心荷重が生じたとしても、支持部材41aの姿勢が傾くことが抑制される。
仕上加工が終了すると、テーブル駆動装置30が駆動することにより、ワークテーブルユニット20がセッティング位置に位置決めされる(S8)。そして、作業者によって、完成したワークWが主軸台22及び心押台24から取り外される(S9)。このとき、一対の押圧力付与装置50a,50bは、ワークテーブルユニット20がセッティング位置に位置決めされやすくするために、一対のダイスユニット40a,40bをワークテーブルユニット20から遠ざけた退避位置へ移動させる。
なお、上記の転造方法によれば、荒加工の前に、ワークWに熱処理を行った。この他に、荒加工と仕上加工との間に熱処理を行うことをさらに追加するようにしてもよい。また、荒加工の前における熱処理に代えて、荒加工と仕上加工との間に熱処理を行うようにしてもよい。さらに、熱処理を全く行わずに、冷間加工による転造を行うようにしてもよい。この場合、上述したように、図5のS3の熱処理が行われない。
また、上記の転造方法においては、第一ローラダイス42a,42bにより荒加工を行い、第二ローラダイス43a,43bにより仕上加工を行うこととした。ただし、第一ローラダイス42a,42b及び第二ローラダイス43a,43bは、荒加工及び仕上げ加工の何れも可能とすることができ、加工工程を考慮して、第一ローラダイス42a,42b及び第二ローラダイス43a,43bに、加工工程の種類(荒加工、仕上げ加工等)を任意に設定できる。
(4.効果)
転造装置1は、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aを備える。従って、作業者がローラダイス42a,43aの交換を行うことなく、複数のローラダイス42a,43aによるワークWの加工が可能となる。その結果、作業工数を増加することなく、高精度なワークWの加工が可能となる。
そして、転造装置1においては、支持部材41aが、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aを支持し、第一ローラダイス42aと第二ローラダイス43aとは、それぞれ異なる位置でワークWを押圧している。そのため、第一ローラダイス42a又は第二ローラダイス43aがワークWを押圧して成形する際に、偏心荷重が大きくなり支持部材41aの姿勢が傾くおそれがある。しかし、支持部材41aの姿勢が傾く場合には、傾き補正用駆動装置70aが、支持部材41aの姿勢の傾きを補正する。従って、支持部材41aの姿勢の傾きが抑制される。その結果、高精度なワークWの加工が可能となり、且つ、押圧力付与装置50aによる押圧力の損失の低減が図られる。
このように、傾き補正用駆動装置70aを駆動させることで、支持部材41aの姿勢の傾きがほぼゼロに抑制される。例えば、プレス加工能力として加圧力50トン程度の場合であって、摺動部(ガイドレール12a,12b,13a,13b)の隙間が50ミクロン程度の場合において、傾きを数ミクロン程度まで抑制できる。
ここで、支持部材41aが、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aを備えている。そして、支持部材41aは、1個のボールねじ装置又は1個のリニアモータにより構成される押圧力付与装置50aにより直動する。そして、本実施形態においては、第一ローラダイス42aの軸線方向において、第一ローラダイス42aの位置と押圧力付与装置50aの位置とが異なる位置に位置しており、且つ、第二ローラダイス43aの位置と押圧力付与装置50aの位置とも異なる位置に位置している。
従って、第一ローラダイス42aによる加工を行う場合にも、第二ローラダイス43aによる加工を行う場合にも、支持部材41aには、支持部材41aの姿勢を傾かせる力(偏心荷重)が作用する。しかし、支持部材41aに偏心荷重が生じたとしても、常に、且つ、確実に、支持部材41aの姿勢が傾くことを抑制できる。
また、第一ローラダイス42aの軸線方向において、ボールねじ装置又はリニアモータにより構成される押圧力付与装置50aの位置が、第一ローラダイス42aと第二ローラダイス43aの中央に位置している。そのため、第一ローラダイス42aにより加工を行う場合にも、第二ローラダイス43aによる加工を行う場合にも、支持部材41aに作用する姿勢を傾かせる力を、同程度にすることが可能となる。その結果、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aのいずれによる加工においても、高精度にワークWを成形できる。
なお、1個の押圧力付与装置50aを備える以上、押圧力付与装置50aの位置は、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aの少なくとも何れか一方に対して異なる位置に位置する。従って、1個の押圧力付与装置50aを備えつつ、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aを備える構成においては、傾き補正用駆動装置70aを備えることは効果的である。
また、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aが、ワークWに歯車を転造するローラダイスである場合には、第一ローラダイス42a及び第二ローラダイス43aによるワークWへの押圧力が変動する。この変動によって、支持部材41aの姿勢の傾きが逐次変化しようとする。この場合であっても、傾き補正用駆動装置70aによって、確実に、支持部材41aの姿勢の傾きを補正することができる。
さらに、傾き補正用駆動装置70aは、傾き検出器60aにより検出された支持部材41aの姿勢の傾きに基づいて駆動する。これにより、支持部材41aの姿勢の傾きの状態に応じて、傾き補正用駆動装置70aが駆動するため、確実に、支持部材41aの姿勢の傾きを補正することができる。
傾き検出器60aは、2個のリニアスケール61a,62aを備えることとし、傾き算出部63aが、2個のリニアスケール61a,62aの検出値X1,X2の差ΔXに基づいて支持部材41aの姿勢の傾きを算出している。これにより、容易な構成により、確実に、支持部材41aの姿勢の傾きを得ることができる。
特に、2個のリニアスケール61a,62aは、第一ローラダイス42aの軸線方向において、支持部材41aの両端に配置されている。2個のリニアスケール61a,62aの距離が長いほど、支持部材41aの姿勢の傾きに対して、2個のリニアスケール61a,62aの検出値X1,X2の差ΔXが大きな値となる。従って、より高精度に、支持部材41aの姿勢の傾きの検出が可能となる。
また、傾き補正支持部材45a,45bは、支持部材41a,41bの姿勢の傾きに対応する軸線まわり(ベース10の法線軸まわり)に、支持部材41a,41bを回転可能に支持する。そして、傾き補正用駆動装置70a,70bは、支持部材41a,41bを傾き補正支持部材45a,45bの回転軸線まわりに旋回させることにより、支持部材41a,41bの姿勢の傾きを補正する。従って、傾き補正用駆動装置70a,70bは、支持部材41a,41bの姿勢の傾きに対して、傾き分に対応する角度を旋回すればよいので、簡易な構造で的確に調整可能となる。特に、傾き補正用駆動装置70a,70bの回転軸線と傾き補正支持部材45a,45bの回転軸線とを同軸にすることによって、より確実に上記をなし得る。
また、転造装置1は、熱処理ユニット90を備えている。そのため、ワークWの転造のみならず、ワークWの熱処理も、ワークWを主軸台22及び心押台24に取り付けた状態で行われる。従って、ワークWの着脱による位置ずれが生じることを抑制できるため、ワークWを高精度に成形できる。