以下、本願発明におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の実施形態1〜13を図1〜図32,図34に基づいて詳述する。
[実施形態1]
図1に本実施形態1におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路構成図を示す。本実施形態1は、図14に示すMMCC−DSCCの上アームのセルモジュールを高耐圧のスイッチング素子に置換した構成である。すなわち、本実施形態1におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器は、直流電圧源DCP,DCNと、スイッチング素子Su,Sv,Swと、セルモジュール1と、を備える。
直流電圧源DCP,DCNは、バッテリーの他にコンデンサや他の直流電圧を出力する電力変換装置でも良い。さらに直流電圧源DCP,DCNは、1つに統合してもよい。
スイッチング素子Su,Sv,Swは、自己消弧能力を有する半導体素子にダイオードを逆並列に接続したもので、4500V耐圧などの高耐圧のものとする。スイッチング素子Su,Sv,Swは、直流電圧源DCPの正極端子と交流出力端子u,v,wの間に配置される。出力する交流電圧の大きさによって、スイッチング素子Su,Sv,Swは複数個が直列接続される場合もある。
セルモジュール1は、直流電圧源DCNの負極端子に接続され、チョッパセルCを複数個カスケード接続したものである。このセルモジュール1により各交流出力相の下アームが構成される。
セルモジュール1と交流出力端子u,v,wの間には、バッファリアクトルLu,Lv,Lwが接続される。交流出力端子u,v,wには、一般的にスイッチングノイズの流出を抑制するためのフィルタリアクトルFLが接続される。
チョッパセルCは、図34に示すように、一方の接続端子に第1スイッチングデバイスS1の一端が接続される。一方の接続端子と他方の接続端子との間に第2スイッチングデバイスS2が接続される。第1スイッチングデバイスS1の他端と他方の接続端子との間にセルコンデンサCaが接続される。
本実施形態1におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の動作を説明する。この回路では、電圧指令値に2アーム変調を適用することを想定している。2アーム変調については特許文献5に開示されている。
本実施形態1における2アーム変調では、電圧指令値が最大の相の指令値を上限にし、他の相も最大の相と同じだけ変化させる。図2に2アーム変調適用後の電圧指令値の波形を示す。各電圧指令値の差分は歪みのない正弦波であるため、三相三線式の系統においては歪みの小さい線間電圧を出力することができる。
U相において、電圧指令値=2である期間1では、スイッチング素子SuをONし、出力電流を上アーム(直流電圧源DCPの正極端子のアーム)にバイパスさせる。期間2ではスイッチング素子SuをOFFする。また、電圧指令値にPWM変調などを適用することで適切なゲート指令に変換する。このゲート指令に応じてセルモジュール1におけるチョッパセルCの第1,第2スイッチングデバイスS1,S2をスイッチングさせる。以上により、図1の回路は指令値通りの電圧を出力することができる。
図3にPWM変調によるゲート指令の例を示す。2アーム変調後のU相電圧指令値Vu1*がキャリア三角波の最大値に等しい期間1では、スイッチング素子SuをONする。
他の期間(期間2)ではスイッチング素子SuをOFFする。キャリア三角波は1相あたりのセル台数分(図1では4台)位相をずらして用意し、セルごとに対応したキャリア三角波(図3の[1]〜[4])とU相電圧指令値Vu1*を比較しゲート指令を生成する。セルモジュール1から出力される下アーム電圧Vnu(図1のu端子−n端子間の電圧)は、図3の最下段となる。
スイッチング素子Su,Sv,Swのスイッチングについて、図4を用いて説明する。図4(a)はスイッチング素子SuのターンON時、図4(b)は期間1、図4(c)はスイッチング素子SuのターンOFF時を示している。なお、図4(a),(b),(c)では、U相のみ示しているが、他の相も同様である。
図4(a)でスイッチング素子SuがターンONし、図4(b)に示すように期間1に移行すると、上アーム通過電流は、下アームか交流出力端子uのどちらかに流れることになる。しかし、そのどちらにもリアクトル(バッファリアクトルLu、または、フィルタリアクトルFL)が接続されているため、上アーム通過電流はスイッチング素子SuがターンON後に0Aから緩やかに増加する。
よって、スイッチング素子SuのターンONは零電流スイッチング(以下、ZCSと称する)が必ず成立し、ターンON時に発生するスイッチング損失を非常に小さくすることができる。スイッチング素子SuのターンONの際に電流が逆向きで逆並列ダイオードを通過している場合もあり得るが、このときはスイッチング素子SuのターンONの前後で上アーム通過電流は流れず、ZCSが成立する。
チョッパセルCのコンデンサ電圧平均値制御について説明する。期間1において、出力電流は他の2相におけるセルモジュール1の出力電圧により決定し、上アームを通過する。
このとき、セルモジュール1のチョッパセルCのコンデンサ電圧平均値がセルコンデンサ電圧指令値よりも小さければ、コンデンサ電圧平均値が大きくなるように制御を行うため、直流電圧源DCP,DCNからスイッチング素子Su→バッファリアクトルLuを介してチョッパセルCに循環電流が流れ、チョッパセルCのセルコンデンサCaを充電することができる。
交流端子電圧は循環電流にほとんど依存せず、素子電圧降下により非常にわずかに変化する程度であるため、期間1ではチョッパセルCのコンデンサ電圧調整動作と交流側出力電流・電圧はほぼ完全に独立である。
チョッパセルCのコンデンサ電圧平均値がセルコンデンサ電圧指令値よりも大きければ、コンデンサ電圧平均値が小さくなるように制御を行うため、逆にチョッパセルCのセルコンデンサCaは放電する。以上のようにチョッパセルCにより循環電流を制御し、チョッパセルCのコンデンサ電圧平均値を調整することができる。
期間1が終了しスイッチング素子SuをターンOFFする場合を考える。このとき上アームに順方向(スイッチング素子Suのコレクタ端子→エミッタ端子の方向)の電流が流れていると、2つのリアクトル(バッファリアクトルLu,フィルタリアクトルFL)にチャージされた磁気エネルギーに起因して非常に大きなスイッチングサージ電圧がスイッチング素子Suに現れる。そのため、ターンOFFによりスイッチング素子Suがサージにより過電圧破壊する恐れがある。そこでセルモジュール1のチョッパセルCで電流制御を行い、上アームの通過電流をすべてセルモジュール1に転流させることで、ターンOFF時においてもスイッチング素子SuではZCSを成立させることができる。
ZCSを確実にするためには、セルモジュール1のチョッパセルCから流れる電流を出力電流よりも少し過剰に出力させ、スイッチング素子Suの逆並列ダイオードを導通させた上でスイッチング素子SuをOFFしてもよい。また、期間1の終了より少し手前の時間からあらかじめ電流を下アームに転流させておくことで、期間1終了と同時にスイッチング素子SuをOFFでき、出力電圧・電流ひずみへの影響を小さくすることができる。
以上の動作により、スイッチング素子SuはターンOFFにおいても必ずZCSが成立するため、上アームで発生するスイッチング損失を非常に小さくすることができる。また、期間1においてチョッパセルCのコンデンサ電圧を制御することができ、この動作は交流出力にほとんど影響を与えない。
このときのゲート信号を図3により説明する。この図3では、セルコンデンサ電圧平均値がセルコンデンサ電圧指令値よりも低いことを想定している。スイッチング素子SuがONしたら、点線で示した下アーム電圧指令値Vnu*を用意する。そして、U相電圧指令値Vu1*の代わりに下アーム電圧指令値Vnu*と三角波キャリア[1]〜[4]との比較により、各チョッパセルC1〜C4のゲート信号を生成する。
図3に示すように下アーム電圧指令値Vnu*をキャリア三角波[1]〜[4]の上限値よりも一時的に小さくすることで、充電電流を発生させ、セルコンデンサCaを充電する。期間1の終わりでは下アーム電圧指令値Vnu*を増加し、セルモジュール1のチョッパセルCから少し電流を過剰に出力させ上アームから下アームへの転流を行う。
チョッパセルCのコンデンサ電圧制御について詳細を説明する。この回路は特許文献3などの制御法とは異なり、期間2では一切のコンデンサ電圧制御を行わず、期間1においてコンデンサ電圧平均値制御を行い、交流出力電圧・電流制御は他の2相のセルモジュール1のチョッパセルCが行う時分割方式を用いている。
基本波1周期のうち1/3周期の間必ず存在する期間1で交流出力の状態に依存せずに各チョッパセルCのセルコンデンサCaを充放電できる。そのため、期間2における電力出力に耐えられるコンデンサ容量を各チョッパセルCに搭載することにより、どのような条件においても確実にセルコンデンサCaの電圧を制御することができる。
セルモジュール1のコンデンサ電圧平均値だけでなく、個別のチョッパセルCのコンデンサ電圧も別の手段で制御する必要がある。これは特許文献3の請求項5にある「第2の制御手段」をそのまま適用することができる。
この制御は期間1,期間2両方で行うことができる。また、コンデンサ電圧平均値は指令値通りであるが、個別のチョッパセルCにおいてコンデンサ電圧に大きなばらつきがある場合、期間1の半分でプラスの電流、残り半分でマイナスの電流を流すことで、コンデンサ電圧平均値には影響を与えず特許文献3の制御を行うことができ、制御の効果を高めることができる。
チョッパセルCのコンデンサ電圧制御に必要な循環電流について説明する。出力電圧指令値vu*,vv*,vw*を以下の(1)式のように定義する。
これに2アーム変調を適用すると、U相電圧指令値vu1*は、以下の(2)式となる。
U相電圧指令値vu1*は0〜2の範囲の値をとることができる。また、(1)式に示すU相電圧指令値vu1*の振幅Vは、V<2/√3≒1.15である。実際のセルモジュール1のU相出力電圧vu1は、VDC/2との積をとることで以下の(3)式のように求めることができる。
変換器が有効電力のみを出力している場合を考える。出力電流iu,iv,iwを以下の(4)式のように定義する。
U相のセルモジュール1の出力電力PC1を以下の(5)式のように求める。期間1の−π/3<ωt<π/3は上アームが電圧を出力するため電力の計算では除去する必要がある。
この(5)式より、V=6/π√3≒1.10においては出力電力PC1=0となり、チョッパセルCのコンデンサ充電に必要な電流も零になることを示している。
MMCC−DSCCでは、出力する有効電力は直流電圧源DCP,DCNからいったんチョッパセルCのセルコンデンサCaに蓄えられ、その後交流側に出力されるため、2段の変換を必要とする。このため、有効電力の出力には必ず循環電流が必要であり、出力有効電力が増加するほど循環電流も増加する。
しかし、本実施形態1の回路は期間1においてスイッチング素子Su,Sv,SwがONすることにより、有効電力が直流電圧源DCP,DCNから交流側に直接出力される。この有効電力が実際に出力すべき交流電力に一致する条件(V=6/π√3)においては循環電流が不要となる。
本実施形態1は、出力電圧が変換器の出力可能な最大値の95.5%(≒(6/π√3)/(2/√3))に近い場合において、本実施形態1の回路は必要な循環電流が非常に小さくなり、損失を小さくすることができる。また、チョッパセルCのコンデンサ電圧平均値がコンデンサ電圧指令値に近ければ期間1において、チョッパセルCのスイッチングを停止することにより、さらなる損失低減が可能である。
一方、無効電力のみを出力している場合、以下の(6)式のように、セルモジュール1の出力電力は必ず零になる。これは、MMSC−DSCCでも同様である。
本実施形態1では、図2、図3に示すように、電圧指令値に2アーム変調を適用している。その理由を説明する。
2アーム変調を適用することにより、U相電圧指令値Vu1*=2となる期間(図2の期間1)が全周期の1/3を占めることになる。この期間1はスイッチング素子Suがオンする。(図3の上アームゲート指令参照。)スイッチング素子Suは高耐圧素子であるため、チョッパセルCの第1,第2スイッチングデバイスS1,S2よりも導通損が小さい。よって、変換器全体の損失を考えると、スイッチング素子Suのオン期間が長い方が望ましい。そこで、スイッチング素子Suのオン期間が長くなる2アーム変調を適用している。
4.4kV系統連系用途を例に、本実施形態1におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器と従来のMMCC−DSCCを比較したシミュレーション結果を示す。条件として、系統周波数50Hz,変換器容量0.67MVA,等価キャリア1950Hz,Vdc=7333.6Vを設定した。
MMCC−DSCCはセルモジュール2台で1相を構成している。本実施形態1は、セルモジュール1を1台と、2つ直列接続したスイッチング素子Su,Sv,Swと、で1相を構成している。セルモジュール1はチョッパセルCを8台で構成した。チョッパセルC用の第1,第2スイッチングデバイスS1,S2として1700V耐圧IGBT「CM300DY−34A」(三菱電機製)を使用し、セルコンデンサ電圧Vdc=916.7Vとする。スイッチング素子Su,Sv,Swは、4500V耐圧IGBT「MBM200H45E2−H」(三菱電機製)を使用した。
チョッパセルC用の第1,第2スイッチングデバイスS1,S2の耐圧=1700V、スイッチング素子Su,Sv,Swの耐圧=4500Vである。スイッチング素子Su,Sv,Swには、チョッパセルC用の第1,第2スイッチングデバイスS1,S2よりも耐圧の高い、高耐圧素子を用いている。
この条件で0.67MWの有効電力を出力したときのスイッチング素子損失を表1に示す。なお、表1の「セルモジュール導通損」は、U相、V相、W相のセルモジュールの導通損の合計値である。「セルモジュールスイッチング損」、「上アーム素子導通損」、「上アーム素子スイッチング損」についても同様である。
MMCC−DSCCに比べると、本実施形態1は1kW程度損失を削減できることを確認した。
表1のように、本実施形態1にて損失が低減できた大きな要因は、スイッチング素子Su,Sv,Swを4500V耐圧IGBT「MBM200H45E2−H」の2直列で構成した点である。
仮にスイッチング素子Su,Sv,Swに、セルモジュールと同じく1700V耐圧IGBT「CM300DY−34A」の6直列で構成したとすると、スイッチング素子Su,Sv,Swの導通損のシミュレーション計算値は、約1850Wとなる。
よって、合計のスイッチング損失も、1850W−660W=1090W程度上昇してしまい、MMCC−DSCCの合計損失と大差がなくなってしまう。したがって、本実施形態1において、スイッチング素子Su,Sv,Swに導通損の小さい高耐圧スイッチング素子を選定することが重要となる。
以上示したように、本実施形態1によれば、従来のMMCC−DSCCに比べて、以下の効果が生じる。
出力電流が一部の時間において複数台のチョッパセルCが直列多重されたセルモジュール1ではなく導通損の低いスイッチング素子Su,Sv,Swを通過するため、導通損を低減できる。特に、出力相電圧のピークにおいて大きな電流が流れる有効電力出力時に高い効果を得られる。
また、高耐圧のスイッチング素子が必要になるが、スイッチング時にZCSが成立するためスイッチング損失はほとんど発生しない。そのため、変換器全体の損失を低減でき、変換器の高効率化を図ることが可能となる。
さらに、低損失化によってスイッチング素子の冷却器を小型化できるため、変換器の小型化、低コスト化を図ることが可能となる。
スイッチング素子Su,Sv,SwのターンOFFではサージ電圧がほとんど発生しない。そのため、サージ電圧を考慮せず素子選定ができるようになり、スイッチング素子Su,Sv,Swの直列数も少なくしやすくなる。
また、スイッチング素子Su,Sv,SwのON期間中にチョッパセルCに循環電流を流し、チョッパセルCのコンデンサ電圧平均値を調整する。ON期間は基本波1周期に必ず1回生じるため、動作条件に依存せずチョッパセルCのコンデンサ電圧平均値を調整できる。
また、循環電流によるチョッパセルCのコンデンサ電圧平均値の調整動作と交流出力は完全に独立であり、循環電流が増加しても交流出力電流がひずむことはなく、互いに悪影響を及ぼさない。また、個別のチョッパセルCのコンデンサ電圧の調整が容易になる。
既存技術を用いることで、個別のチョッパセルCのコンデンサ電圧を調整することができる。出力電圧が大きい条件ならば、チョッパセルCのコンデンサ容量を小さくすることができ、また循環電流も小さくなるため損失はさらに小さくなる。これは後述する実施形態4と比較しても成立する。
また、必要なチョッパセルCおよびチョッパセルCの第1,第2スイッチングデバイスS1,S2の台数が少なく、変換器の小型化・低コスト化を図ることが可能となる。
なお、U相において、スイッチング素子Suの導通損は、セルモジュール1の導通損の合計よりも低いものとする。V相,W相についても同様である。
[実施形態2]
図5に本実施形態2におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路構成を示す。本実施形態2は、実施形態1のスイッチング素子Su,Sv,Swをサイリスタなど自己消弧不可能な素子に変更したものである。また、実施形態1と同様に、自己消弧不可能な素子にはダイオードが逆並列に接続されている。
本実施形態2におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路を説明する。実施形態1では、電流が順方向に流れているときに上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwをターンOFFすることができず、セルモジュール1を使用して電流を転流させてからOFFさせる必要がある。このため、スイッチング素子Su,Sv,Swに自己消弧機能は不要である。
そこで、本実施形態2は自己消弧機能のないスイッチング素子に置き換えた。自己消弧機能のないスイッチング素子の代表としてサイリスタがある。一般的にサイリスタはIGBTよりも導通損が小さく、より高い耐圧のスイッチング素子も入手しやすい。そのため、サイリスタを用いることで損失をより小さくすることができ、また条件によっては上アームの素子直列数を低減することができる。
一方、異常発生時にはサイリスタをOFFすることができず、大電流が流れてしまう危険性がある。これは実施形態1も同様で、異常時に無理に電流を遮断した結果、高いサージ電圧がスイッチング素子に印加されることによりスイッチング素子Su,Sv,Swが過電圧故障し短絡状態になってしまう危険性がある。対策として、異常を検出したらサイリスタがON状態の相のセルモジュール1から最大電圧を出力して転流を促すことで、サイリスタをOFFできるようになる。
他に確実にサイリスタをOFFする方法としては、スイッチング素子Su,Sv,Swに対して、直列にヒューズを接続する方法や、また交流出力端子u,v,wにヒューズやMCCB(配線保護用遮断器)を追加する方法などが考えられる。
以上示したように、本実施形態2によれば実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、本実施形態2によれば、実施形態1と比べて以下の効果が生じる。
一般的に導通損が小さく、高耐圧品が入手可能な自己消弧不可能な素子(サイリスタなど)をスイッチング素子Su,Sv,Swに使用することにより、導通損を小さくし、素子直列数を少なくすることができる。よって、さらに変換器全体の損失を低減でき、変換器の高効率化を図ることが可能となる。
また、異常発生時には、自己消弧不可能なスイッチング素子Su,Sv,SwがON状態の相のセルモジュール1から最大電圧を出力し上アームに流れる電流を減少させることで、スイッチング素子Su,Sv,SwをOFFできるようになる。さらに、ヒューズをスイッチング素子Su,Sv,Swに直列、または交流出力端子u,v,wに設けることで、確実にOFFすることができる。
[実施形態3]
図6に本実施形態3におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路構成を示す。本実施形態3は、実施形態1のスイッチング素子Su,Sv,Swに、並列コンデンサCu,Cv,Cwを並列接続したものである。
本実施形態3におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路について説明する。本実施形態3におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器は、スイッチング素子Su,Sv,Swに並列コンデンサCu,Cv,Cwを並列接続することで、任意のタイミングでスイッチング素子Su,Sv,SwをターンOFFできるようにしたものである。その一方で、スイッチング素子Su,Sv,SwのターンONには制約が生じる。
本実施形態3の回路の動作を、図7を用いて説明する。図7では、u相のみ示しているが、v相,w相についても同様である。スイッチング素子SuをターンONする際、図7(a)に示すように、並列コンデンサCuに電荷が充電された状態では、電荷によってスイッチング素子Suに過大な短絡電流が流れて、スイッチング素子Suを過電流破壊させてしまう。
そのため、図7(b)に示すように、セルモジュール1で電流制御を行い、交流出力電流をすべて下アームから出力、さらに下アームから電流を交流出力電流よりも少し過剰に出力し、スイッチング素子Suに並列接続された並列コンデンサCuの電荷を放電させ、逆並列ダイオードが導通したところでスイッチング素子SuをターンONする。
これにより、スイッチング素子Suを過電流破壊させることなくターンONでき、かつ、ZCSが成立する。ZCSを確実にするためには、スイッチング素子Suの印加電圧(コレクタ−エミッタ間電圧)を検出し零以下となったところでゲート指令によってターンONすればよい。また、交流出力電流とセルモジュール電流を検出し、その差分から上アーム電流を計算し積分して並列コンデンサの電圧を推定してもよい。
スイッチング素子SuのターンON後は、図7(c)に示すように循環電流を流し、チョッパセルCのコンデンサ電圧平均値を調整する。これは実施形態1と同様である。
上アームのスイッチング素子SuをターンOFFする場合を図7(d)に示す。本実施形態3では、スイッチング素子Suに電流が流れていてもターンOFFの際に電流が並列コンデンサCuを迂回する。そのため、必ずZCSが成立する。実施形態1や実施形態2とは異なり、電流を転流させなくてもスイッチング素子SuをOFFすることができる。
本実施形態3の構成では、実施形態1や実施形態2とは異なり任意の状態でスイッチング素子SuをターンOFFできるため、系統短絡などの事故が発生した場合に確実に変換器内のすべてのスイッチング素子をオフさせ、短絡電流を抑制することが可能となり、変換器の破損を防ぐことができる。一方で、スイッチング素子SuのターンONに制約があることが変換器の破損に波及することはないため、実施形態1や実施形態2よりも保護を確実にすることができる。
以上示したように、本実施形態3によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、本実施形態3によれば、実施形態1に比べて以下の効果が生じる。
スイッチング素子Su,Sv,Swを制約なくターンOFFできるため、異常発生時により早く変換器内に流れる短絡電流を遮断できる。よって、変換器の信頼性が向上する。
また、スイッチング素子Su,Sv,SwのターンOFFにおいて、遮断電流は並列コンデンサCu,Cv,Cwを迂回するため、ZCSが成立しスイッチング損失は微小である。
また、スイッチング素子Su,Sv、SwのターンON時には、転流を行うことで並列コンデンサCu,Cv,Cwの短絡を回避でき、実施形態1,2同様にスイッチング損失をほぼ零にすることができる。
[実施形態4]
図8に本実施形態4におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路構成を示す。本実施形態4におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器は、実施形態3のスイッチング素子Su,Sv,Swを双方向スイッチBSu,BSv,BSwに変更したものである。図8では、双方向スイッチBSu,BSv、BSwとして、スイッチング素子Su1およびSu2,Sv1およびSv2,Sw1およびSw2を逆直列接続したものを示している。
本実施形態4におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路について説明する。従来のMMCC−DSCCや実施形態1〜3の回路には、交流側に発電機や電源が接続された構成で直流側に短絡事故が発生すると、交流側から短絡電流が流れ込むという問題点がある。変換器を保護するためには、交流側にMCCBなどを接続して事故時に変換器を切り離す必要があった。
本実施形態4では、スイッチング素子Su,Sv,Swを、高耐圧スイッチング素子から成るスイッチング素子Su1,Su2およびSv1,Sv2およびSw1,Sw2を逆直列接続した双方向スイッチBSu,BSv、BSwに置換している。これにより、直流側の短絡発生時に双方向スイッチBSu,BSv、BSwをターンOFFすることで、短絡電流の発生を抑制し変換器を保護することができる。また、双方向スイッチBSu,BSv、BSwがOFFであってもチョッパセルCのカスケード接続によるセルモジュール1は交流側に接続されているため、並列コンデンサCu1,Cu2,Cv1,Cv2,Cw1、Cw2に十分な電荷があれば電圧を出力することができる。さらに負荷に供給する有効電力が零であれば、長時間運転を継続することができる。
双方向スイッチBSu,BSv、BSwの順方向のスイッチング素子Su1,Sv1,Sw1は通常時において実施形態3と同じ動作を行い、変換器の停止時・直流側の短絡発生時にOFFする。一方、逆方向のスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2は通常時において常時ONでよく、直流側の短絡発生時にのみターンOFFし電流を遮断する。
そのため、ターンOFF時のスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2のゲート電圧の変化を緩やかにしてスイッチングスピードを遅く設定することで、スイッチング素子Su2,Sv2,Sw2のコレクタ、エミッタ間のサージ電圧を抑制し、耐圧の低いスイッチング素子を適用すること、またはスイッチング素子の直列数を少なくすることによって、上アームのスイッチング素子全体の導通損を抑えることができる。
スイッチングスピードを遅く設定するとスイッチング損失は増加するが、前述の通り逆方向のスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2は、通常時はターンOFFせず、ターンOFF時のスイッチング損失は発生しないため、問題とならない。
図8では双方向スイッチBSu,BSv、BSwとしてスイッチング素子Su1,Su2,Sv1,Sv2,Sw1,Sw2の逆直列構成を選定した。この構成の代わりに逆阻止型のスイッチング素子を採用することもでき、この場合、導通損の低減が期待できる。
以上示したように、本実施形態4によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、実施形態4により、実施形態1に比べて以下の効果が生じる。
直流側に短絡事故が発生しても、双方向スイッチBSu,BSv,BSwの逆方向のスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2をターンOFFすることで短絡電流を遮断し、変換器を保護することができる。また、チョッパセルCのセルコンデンサCaの電荷が十分である限り運転を継続することができる。これにより、変換器の信頼性が向上する。
また、逆方向のスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2のスイッチングスピードを遅くすることでスイッチング素子のサージ電圧を抑制できる。これにより、安価な低耐圧素子の使用が可能となり、変換器のコストを低減できる。または、素子直列数の低減ができ導通損を抑えることができ、変換器の効率をさらに向上させることができる。また、逆方向のスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2のターンOFF時にスイッチング損失は増加するが、逆方向のスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2の電流遮断は直流短絡発生時に限られるため、通常運転において損失は増加しない。
[実施形態5]
図9に本実施形態5におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路構成を示す。本実施形態5におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器は、実施形態1のチョッパセルCを図34(b)に示すブリッジセルBに置換したものである。実施形態1と同じ大きさの電圧を出力するのであれば、以下の点が変更となる。
・直流電圧源DCの直流電圧Vdcは実施形態1の1/2になる。
・ブリッジセルBの台数は、実施形態1のチョッパセルCの台数の1/2になる。
ブリッジセルBは、図34(b)に示すように、一方の接続端子に第3スイッチングデバイスS3の一端が接続される。第3スイッチングデバイスS3と一方の接続端子の共通接続点に第4スイッチングデバイスS4の一端が接続される。第3スイッチングデバイスS3の他端と他方の接続端子との間に第5スイッチングデバイスS5が接続される。第4スイッチングデバイスS4の他端と他方の接続端子との間に第6スイッチングデバイスS6が接続される。第3,第5スイッチングデバイスS3,S5の共通接続点と第4,第6スイッチングデバイスS4,S6の共通接続点との間にセルコンデンサCbが接続される。
本実施形態5におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路の特徴を説明する。本実施形態5は、セルモジュール1にブリッジセルBを使用した。
ブリッジセルBはチョッパセルCとは異なりマイナスの電圧を出力できるため、実施形態1に対して直流電圧を1/2倍、セル台数1/2倍で同じ電圧を出力することができる。これにより、セル台数削減、直流側の耐圧が半分となることによる低コスト化・小型化が実現できる。ただし、ブリッジセルBは、セル1台あたりのスイッチングデバイス数がチョッパセルCの2倍となるため、変換器に必要な低耐圧のスイッチングデバイスの個数は変わらない。
回路の動作は以下に示すように実施形態1と全く同じである。
出力電圧指令値に、図2に示す2アーム変調を適用し、期間1で上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwをONする。スイッチング素子Su,Sv,SwのターンONは必ずZCSが成立する。期間1で循環電流を流し、ブリッジセルBのコンデンサ電圧平均値を制御する。
スイッチング素子Su,Sv,Swに順電流が流れている状態でターンOFFはできないが、セルモジュール1のブリッジセルBで転流制御を行うことでスイッチング素子Su,Sv,SwをターンOFFでき、かつ、ZCSが成立する。
出力電流制御と期間1における循環電流制御は独立であり、期間2における有効電力出力に十分な容量のセルコンデンサCbを各ブリッジセルBに搭載することで、任意の条件でブリッジセルBのコンデンサ電圧を制御できる。個別のブリッジセルBのコンデンサ電圧制御には特許文献3の第2の制御法を適用できる。
そのため、制御法も実施形態1と全く同じものを使用することができる。また、ブリッジセルBのゲート信号は、実施形態1の図3と同様に、電圧指令値と位相をずらした複数のキャリア三角波との比較に基づいて生成する。図9に示すように、各相のブリッジセルBの台数が2台の場合、キャリア三角波は4種類となる。ブリッジセルBの数を図9から変更する場合は、セル台数に応じてキャリア三角波の数を変更する。
ブリッジセルBのコンデンサ電圧制御に必要な循環電流について説明する。出力電圧指令値vu*,vv*,vw*を実施形態1と同様に以下の(7)式のように定義する。
これに2アーム変調を適用すると、U相電圧指令値vu5*は、以下の(8)式となる。
本実施形態5において、U相電圧指令値vu5*は−1〜1の範囲の値をとることができると定義する。V<2/√3≒1.15である。実際のセルモジュール1が出力するU相出力電圧vu5は、VDC/2との積をとることで以下の(9)式のように求めることができる。
変換器が有効電力のみを出力している場合を考える。出力電流iu,iv,iwを以下の(10)式のように定義する。
U相のセルモジュール1の出力電力PB5を求める。期間1の−π/3<ωt<π/3は上アームが電圧を出力するため除去すると、セルモジュール1の出力電力PB5は以下の(11)式のようになる。
この(11)式より、V=3/π√3≒0.55においてセルモジュール1の出力電力PB5は零となり、ブリッジセルBのセルコンデンサ充電に必要な循環電流も零になることを示している。また、ブリッジセルBの出力電力絶対値の最大値は、V=2/√3における以下の(12)式のようになる。
一方、実施形態1のチョッパセルCの出力電力絶対値の最大値は、V=0における以下の(13)式のようになる。
以上より、本実施形態5は実施形態1に対して以下の特長がある。
セルモジュール1の負担する最大電力が実施形態1に対して55%であるため、セルコンデンサ容量も55%に削減でき、ブリッジセルBの低コスト化・小型化を実現できる。
また、変換器の出力可能な最大電圧の48%程度の出力電圧において、循環電流が不要になり損失が小さくなる。よって、実施形態1に比べ、出力電圧が大きく変動し定格の半分以下の電圧を出力する時間が長い用途に適している。
本実施形態5の回路構成で直流側に短絡事故が発生した場合、1アームを構成するブリッジセルBのコンデンサ電圧の合計の方が交流線間電圧のピーク値よりも高ければ短絡電流が変換器内には発生しない。この条件を満たす交流線間電圧は、通常であれば定格の1/2である。
本実施形態5の回路構成では、回生しない負荷ならば直流短絡が発生してもブリッジセルBのコンデンサ電荷が十分である限り定格の1/2の電圧を出力することができる。回生負荷であっても回生時の誘起電圧が定格の1/2以下であれば、短絡事故発生時でもある程度の時間運転を継続することができる。
短絡発生時も定格電圧を出力する必要がある場合は、実施形態4と同様にスイッチング素子Su,Sv,Swを双方向スイッチBSu,BSv、BSwに置換することで対応できる。
また、本実施形態5は、実施形態2と組み合わせスイッチング素子Su,Sv,Swを自己消弧不可能なものに変更することができる。また、実施形態3と組み合わせ、スイッチング素子Su,Sv,Swに対して並列に並列コンデンサCu,Cv,Cwを接続することもできる。
実施形態1〜5は、上アームを高耐圧のスイッチング素子Su,Sv,Sw、下アームをチョッパセルC、または、ブリッジセルBをカスケード接続したセルモジュール1としたが、上アームと下アームを逆の構成としてもよい。図10に実施形態1の上アームと下アームを入れ替えた構成を示す。この場合、2アーム変調では図11に示すように電圧指令値を変形し、期間1’でU相の下アームのスイッチング素子SuをONする。
以上示したように、本実施形態5によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、本実施形態5は実施形態1に比べて以下の効果が生じる。
ブリッジセルBを使用することによりセル台数が半分、セルの直流電圧も半分になり変換器の小型化・低コスト化・セルの耐圧設計の簡略化を図ることが可能となる。
また、セルモジュール1の負担する最大電力が実施形態1の約半分であるため、セルコンデンサ容量も約半分に削減でき、ブリッジセルB、および、変換器の低コスト化・小型化を実現できる。
また、出力電圧振幅が中程度の条件ならば、ブリッジセルBのコンデンサ容量をさらに小さくすることができ、また循環電流も小さくなるため損失が小さくなる。
また、双方向スイッチを用いなくても、直流短絡発生時に定格の半分の電圧を出力することができる。
[実施形態6]
図12に本実施形態6におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路構成を示す。本実施形態6は、実施形態5に以下を追加した。
本実施形態6のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器は、直流電圧源DCPの正極端子に上アームのスイッチング素子Su1,Sv1,Sw1が接続される。また、直流電圧源DCNの負極端子に下アームのスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2が接続される。
直流電圧源DCP,DCNの中性点にセルモジュール1が接続される。セルモジュール1は、ブリッジセルBが2個以上カスケード接続されたものとする。上アームのスイッチング素子Su1,Sv1,Sw1と下アームのスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2の共通接続点とセルモジュール1との間にバッファリアクトルLu,Lv,Lwが接続される。
上アームのスイッチング素子Su1,Sv1,Sw1,下アームのスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2,バッファリアクトルLu,Lv,Lwの共通接続点を交流出力端子u,v,wとする。また、実施形態1〜5と同様に交流出力端子u,v,wには、フィルタリアクトルFLが接続される。
本実施形態6は、実施形態5のブリッジセルBをカスケード接続したセルモジュール1を直流電圧源DCP,DCNの中性点に接続し、下アームにスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2を追加した構成である。
なお、図12には示していないが、図12の直流電圧源DCP,DCNには、直流コンデンサがそれぞれ並列に接続されている。これらの直流コンデンサの電荷量によって、直流電圧源DCP,DCNの直流電圧であるVdc1、Vdc2が変動する。
本実施形態6におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の回路の動作を説明する。本実施形態6における2アーム変調の結果を図13に示す。本実施形態6では電圧指令値の絶対値が最大の相を、指令値の上限値・下限値いずれか近い方の値とし、他の相も最大の相と同じだけ変化させる。ある相(例えばU相)に着目したとき、電圧指令値が上限に等しい期間を期間1a,下限に等しい期間を期間1b、残りを期間2とする。
期間1aでは、上アームのスイッチング素子Su1をON、期間1bでは下アームのスイッチング素子Su2をON、期間2は実施形態5と同様にセルモジュール1から電圧を出力する。
上アームのスイッチング素子Su1,下アームのスイッチング素子Su2については、実施形態1と同じ動作を行う。ターンONは上アームのスイッチング素子Su1だけでなく下アームのスイッチング素子Su2も必ずZCSが成立する。
上下アームのスイッチング素子Su1,Su2のON期間中(期間1a,1b)は循環電流を流し、ブリッジセルBのコンデンサ電圧平均値を調整する。上下アームのスイッチング素子Su1,Su2のターンOFFでは、いったんブリッジセルBで構成されたセルモジュール1に電流を転流させることで、上下アームのスイッチング素子Su1,Su2のZCSが成立する。個別のブリッジセルBのコンデンサ電圧制御は特許文献3の技術を用いることができる。
また、ブリッジセルBのゲート指令は、実施形態1の図3と同様に、図13の電圧指令値と位相をずらした複数のキャリア三角波との比較に基づいて生成する。図12に示す各相のブリッジセルBの台数が2台の場合、キャリア三角波は4種類となる。ブリッジセルBの台数を図12から変更する場合は、セル台数に応じてキャリア三角波の数を変更する。
ブリッジセルBのコンデンサ電圧制御に必要な循環電流について説明する。これまでと同様に出力電圧指令値vu*,vv*,vw*を以下の(14)式のように定義する。
これに2アーム変調を適用すると、U相電圧指令値vu6*は、以下の(15)式となる。
U相電圧指令値vu6*は、−1〜1の範囲の値をとることができ、V<2/√3≒1.15である。実際のセルモジュール1の出力電圧vu6は、VDC/2との積をとることで、以下の(16)式のように求めることができる。
変換器が有効電力のみを出力している場合を考える。出力電流iu,iv,iwを以下の(17)式ように定義する。
U相のセルモジュール1の出力電力PB6を求める。期間2の−5π/6<ωt<−π/6の出力電力PB6は、以下の(18)式となる。
この(18)式より、V=2/π≒0.64においては、出力電力PB6が零となり、ブリッジセルBのコンデンサ充電に必要な循環電流も零になることを示している。また、ブリッジセルBの出力電力絶対値の最大値は、V=0における以下の(19)式のようになる。
本実施形態6は他の実施形態に対して以下の特長がある。
セルモジュール1が電力を負担する期間2が短く、ブリッジセルBのコンデンサ電圧を調整できる頻度が基本波1周期に2回と実施形態1〜5に比べて2倍になるため、必要なブリッジセルBのコンデンサ容量は小さくてよい。
セルモジュール1の負担する最大電力が実施形態1に対して43%であるため、セルコンデンサ容量も43%に削減でき、セルコンデンサCbおよびブリッジセルBの低コスト化・小型化を実現できる。
変換器の出力可能な最大電圧の56%程度の出力電圧において、循環電流が不要になり損失が小さくなる。
本実施形態6では、直流電圧源DCP,DCNの中性点にセルモジュール1を接続し、電流を流すため、中性点電位を適切に制御する必要がある。制御法としては、電圧指令値に零相成分を自由に重畳できる期間2において特許文献6の制御を適用する方法や、上下アームのスイッチング素子Su1,Su2をONする期間1a,1bの長さを変える方法が考えられる。
また、図12において、上アームの直流電圧Vdc1と下アームの直流電圧Vdc2が均等ではなく、例えば、上アームの直流電圧Vdc1が電圧過剰、下アームの直流電圧Vdc2が電圧不足の場合(つまり、Vdc1>Vdc2の場合)を例に説明する。期間1aにおいてブリッジセルBのコンデンサ電圧を少し過剰に充電し上アームの直流電圧Vdc1からブリッジセルBに電荷を渡し、期間1bにおいてブリッジセルBのコンデンサ電圧を適正値に戻しブリッジセルBから下アームの直流電圧Vdc2に電荷を渡すことで、中性点電位を制御し、Vdc1≒Vdc2とすることができる。
本実施形態6は、実施形態2と組み合わせ上下アームのスイッチング素子Su1,Su2,Sv1,Sv2,Sw1,Sw2を自己消弧不可能なものに変更することができる。また、実施形態3と組み合わせ、上下アームのスイッチング素子Su1,Su2,Sv1,Sv2,Sw1,Sw2に対して並列に並列コンデンサを接続することもできる。
以上示したように、本実施形態6によれば、実施形態1〜5と同様の作用効果を奏する。また、本実施形態6は、セルコンデンサ容量を実施形態5のさらに約半分に削減することができ、実施形態1〜6の中で最小となる。これにより、変換器の小型化・低コスト化を図ることが可能となる。
なお、U相において、上アームスイッチング素子Su1、および、下アームのスイッチング素子Su2の各々の導通損は、セルモジュール1の導通損の合計よりも低いものとする。V相,W相についても同様である。
実施形態1〜6では三相の電力変換装置を例として説明したが、本発明は、二相以上の電力変換装置であれば適用できる。
[実施形態7]
実施形態1〜6では従来構成よりもスイッチング素子の導通損を低減できるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)を説明した。
これらの回路では、図2に示すように電圧指令値に2アーム変調を適用することを想定している。期間1において上アームのスイッチング素子SuをONし出力電流を上アームにバイパスさせることでスイッチング素子の導通損を低減し、この期間中に下アームのセルモジュール1に循環電流を流しセルコンデンサCaを充放電することで、セルコンデンサ電圧制御を簡単に実現することを想定している。
実施形態1〜6では、主回路構成および電圧指令値からゲート信号を生成する方法は説明されているが、電圧指令値の演算方法は説明されていない。特に問題になる点として、一般的な50Hz系統において期間1は6.67ms、60Hz系統では5.56msである。図14(実施形態3)を例にすると、期間1では以下の動作を行う必要がある。
・上アームのスイッチング素子SuのターンON時にスイッチング素子Suに並列接続されている並列コンデンサCuの残留電荷による短絡を防ぐため、下アームから電流を過剰に出力し並列コンデンサCuの電荷を放電し、その後、上アームの逆並列ダイオードを導通させ、電流を転流させる
・転流の確認後、上アームのスイッチング素子SuをターンONする
・直流電圧源DCP,DCNから上アームのスイッチング素子Su・下アームのセルモジュール1に循環電流を流し、セルコンデンサCaを充電する
・循環電流を停止し、上アームにおけるスイッチング素子SuのターンOFF時の零電圧スイッチング確立のため、下アームのセルモジュール1から電流を過剰に出力し並列コンデンサCuの電荷を放電し、その後、上アームの逆並列ダイオードを導通させ、電流を転流させる。この動作によって、上アームのスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuを零以下とする。
・転流の確認後、上アームのスイッチング素子SuをターンOFFする。
以上の実現には非常に高速な電流制御が必要となる。しかし、実施形態1〜6にはその方法が説明されていない。
特許文献7の請求項2には高速な電流制御を実現する方法として微分アンプを用いた方法が開示されている。しかし、この回路はチョッパに適用されるものであり、実施形態1〜6の回路には適用できない。
図15に本実施形態7の制御部の構成図を示す。この制御部は図14の回路に適用することを想定している。図15はいくつかの制御ブロックに分かれている。まず電圧指令値V*を演算するブロック(以下、電圧指令値演算部2と称する)について説明する。
電圧指令値V*の演算方法としては、フィードフォワードで求める、電圧制御を行うといった方法もあるが、ここでは電流制御を行う場合を例に説明する。電圧指令値演算部2は、以下のように構成される。
位相同期回路PLLは、系統電圧検出値Vsを入力し、位相θを出力する。ここではモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)を系統連系装置として適用することを想定しているが、モータ駆動装置としての適用であれば位相θはモータに備えられたロータリーエンコーダにより検出される。
dq変換器3は、変換器各相の出力電流検出値Iinvと位相θを入力し、出力電流検出値Iinvを系統周波数に同期した回転座標系のd軸電流検出値Id,q軸電流検出値Iqに変換する。出力電流検出値Iinvにはスイッチングリプルやノイズを除去するためのフィルタが適用される場合もある(図15では省略)。
減算器4d,4qは、d軸電流指令値Id*,q軸電流指令値Iq*と、d軸電流検出値Id,q軸電流検出値Iqとの偏差を求める。PIアンプ5d,5qは、減算器4d,4qで求めた偏差を増幅し、系統周波数(またはモータ電圧の周波数)に同期した回転座標上の電圧指令値を出力する。
dq逆変換器6において、PIアンプ5d,5qの出力である回転座標上の電圧指令値を位相θに基づいてdq逆変換し、固定座標上の電圧指令値を出力する。
2アーム変調器7は、dq逆変換器6の出力である固定座標上の電圧指令値に対して2アーム変調を行う。最大値選択部7aは、dq逆変換された固定座標上の三相の電圧指令値のうち、最大値を選択して出力する。加算器8aは、dq逆変換された3相の電圧指令値に固定値である1を加算し、加算結果から最大値選択部7aの出力を減算する。
以上により電圧指令値V*の演算・2アーム変調処理が行われる。dq逆変換器6の出力が3相平衡正弦波ならば、2アーム変調後の電圧指令値V*は図2に示す波形になる。
電圧指令値V*と上アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの電圧検出値(スイッチング素子のコレクタ、エミッタ間電圧)Vpu,Vpv,Vpwはスイッチング素子のゲート制御器9aに入力される。図16にU相におけるスイッチング素子のゲート制御器9aの構成を示す。U相のスイッチング素子のゲート制御器9aは以下のように構成される。
比較器10aにおいて、U相の電圧指令値Vu*が1に等しいか否かを判定し、1の場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。比較器10aの出力は、後述するスイッチSW3の下側入力端子とOR素子11に入力される。
比較器12aにおいて、U相におけるスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuが0を超えているか否かを判定する。比較器12aの出力は、スイッチSW3の制御信号となる。Vpu>0ならばスイッチSW3は上側入力端子の入力信号を出力し、Vpu≦0ならばスイッチSW3は下側入力端子の入力信号を出力する。スイッチSW3の出力信号は、そのままU相上アームゲート指令となる。
バッファ13は、スイッチSW3の出力信号を入力し、1演算時間遅らせて出力する。バッファ13の出力信号は、スイッチSW3の上側入力端子に入力される。
OR素子11は、スイッチSW3の出力信号と比較器10aの出力を入力し、少なくとも一方が1ならば1を出力し、両方0の場合は0を出力する。NOT素子14は、OR素子11の出力を反転して出力する。NOT素子14の出力は、後述するスイッチSW2の制御信号となる。
立ち上がり検出器15は、スイッチSW3の出力信号が0から1に変化したときに1演算時間だけ1を出力する。ホールド器16は、立ち上がり検出器15の出力が1ならば、1を一定時間Δtc出力し続ける。一定時間Δtcは、セルコンデンサ充放電制御の時間である。図2の期間1よりも少し短い時間を指定する。NOT素子17は、ホールド器16の出力信号を反転して出力する。NOT素子17の出力信号は、後述するスイッチSW1の制御信号となる。
スイッチング素子のゲート制御器9aは、U相上アームゲート指令として、制御対象の相の電圧指令値V*が1である場合にON指令を出力し、V*<1の場合はOFF指令を出力する。ただし、ON/OFFの切り替えは、上アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの電圧検出値Vpu,Vpv,Vpwのうち制御対象の相の値が零以下である場合のみ行う。
また、スイッチSW1の制御信号は、通常1である。制御対象となる相の上アームのスイッチング素子のゲート指令がONになったら、一定時間Δtcだけ0になり、その後1に戻る。
スイッチSW2の制御信号は、制御対象となる相の上アームのスイッチング素子がONである、または電圧指令値V*が1に等しい、のどちらかを満たす場合に0を出力する。
期間2における下アームのセルモジュール出力電流指令値I*を演算する電流指令値演算部18aについて説明する。電流指令値演算部18aは、以下のように構成される。
加算器19は、変換器各相の出力電流検出値Iinvに固定値αを加算し、転流指令値を演算する。固定値αは、出力電流検出値Iinvの定格値の1%〜10%程度とする。加算器19の出力である転流指令値は、スイッチSW1の上側入力端子に入力される。
乗算器20は、直流電圧検出値Vdcに固定値1+βを乗算し、セル台数nで除算し、セルコンデンサ電圧平均値の指令値(セルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nを出力する。固定値1+βとして、β=5%程度(≒0.05)を設定する。これによりセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nは、直流電圧検出値Vdcを1相あたりのセル台数nで割りさらに5%増加させた値となる。
ホールド器21は、各相のセルコンデンサ電圧平均値Vcavgを所定のタイミングでホールドし、そのときの値を出力し続ける。セルコンデンサ電圧平均値Vcavgは、1相あたりのセル台数をn、k番目のセルコンデンサ電圧検出値をVck(図32)としたとき以下の(20)式で求める。所定のタイミングは、制御対象となる相の上アームのスイッチング素子のゲート指令がONになった直後である。
減算器22は、ホールド器21の出力から乗算器20の出力を減算し、偏差を求める。アンプ23aは、偏差にゲインGcを乗算し、セルコンデンサ充電のための充放電電流指令値を出力する。アンプ23aの出力である充放電電流指令値は、スイッチSW1の下側入力端子に入力される
スイッチSW1は、スイッチング素子のゲート制御器9aからの制御信号を入力し、1ならば上側入力端子の信号を出力し、0ならば下側入力端子の信号を出力する。すなわち、スイッチSW1は、通常は転流指令値Iinv+αを出力し、制御対象となる相の上アームのスイッチング素子のゲート指令がONになったら一定時間Δtcだけ充放電電流指令値の出力に切り替え、その後、転流指令値Iinv+αの出力に戻る。
セルモジュール出力電流指令値I*を入力し、期間2におけるセルモジュール電圧指令値Vn*を求める電流制御部24aについて説明する。電流制御部24aは、以下のように構成される。
微分器25は、セルモジュール出力電流指令値I*を入力し、現在のセルモジュール出力電流指令値I*と時間Δt前のセルモジュール出力電流指令値I*との差分を出力する。微分器25は、後述する起動信号を入力し、セルn台分のキャリア三角波の最大値の谷の部分でのみ動作する。時間Δtはキャリア三角波の1/n周期である。
アンプ26は、微分器25の出力にゲインGlをかけ、電圧指令値のフィードフォワード項を出力する。減算器27は、対応する相同士のセルモジュール出力電流検出値Izとセルモジュール出力電流指令値I*の偏差を演算する。
アンプ28は、偏差にゲインGを乗算する。加算器29aは、アンプ28の出力に電圧指令値のフィードフォワード項と固定値1を加算する。加算器29aの出力がセルモジュール1のセルモジュール電圧指令値Vn*となる。
電圧指令値V*とセルモジュール電圧指令値Vn*からゲート信号を生成するゲート信号生成部30について説明する。
スイッチSW2の上側入力端子には電圧指令値V*が入力され、スイッチSW2の下側入力端子にはセルモジュール電圧指令値Vn*が入力される。スイッチSW2は、スイッチング素子のゲート制御器9aからの制御信号を入力し、1ならば上側入力端子の信号を出力し、0ならば下側入力端子の信号を出力する。すなわち、制御対象となる相のスイッチング素子のゲート指令がONまたはV*==1であれば下側入力端子の出力に切り替え、それ以外では上側入力端子の出力に切り替わる。
スイッチSW2の出力は乗算器31に入力され、振幅の補正が行われる。乗算器31の乗数は、以下のように演算される。
除算器32は、変換器の直流電圧検出値Vdcをセル台数nで除算しその結果の逆数を演算、すなわち、n/Vdcを出力する。乗算器33は、除算器32の出力とセルコンデンサ電圧平均値Vcavgとの積を演算する。乗算器33の出力が乗算器31の乗数、すなわち、振幅の補正係数となる。
加算器34は、振幅補正が行われた電圧指令値に、各セルコンデンサ電圧制御指令値を加算する。セルコンデンサ電圧制御指令値は、以下のように演算される。
減算器35は、セル3n台分のセルコンデンサ電圧検出値Vcそれぞれと、制御対象のセルと同じ相のセルコンデンサ電圧平均値Vcavgとの偏差を演算する。セルコンデンサ電圧検出値Vcは、1相あたりのセルn台3相分、合計セル3n台分の信号である。
アンプ36は、偏差にゲインGciを乗算する。符号抽出器37は、セルモジュール出力電流検出値Izの符号抽出結果を出力する。すなわち、符号抽出器37は、Iz>0ならば1を、Iz<0ならば−1を、Iz=0ならば0を出力する。乗算器38は、アンプ36の出力と、制御対象のセルと同じ相のセルモジュール出力電流検出値Izの符号検出結果と、の積を演算する。乗算器38の出力がセルコンデンサ電圧制御指令値となる。
PWM変調器39は、各セルコンデンサ電圧制御指令値を加算した電圧指令値とキャリア三角波を比較してゲート信号を生成し、デッドタイムの付加を行う。PWM変調に使用するキャリア三角波は、例えば以下のように生成される(PS[フェーズシフト]の場合)。
遅延器41は、k番目のセルに対して、キャリア三角波生成器40から出力されたキャリア三角波の位相を2(k−1)π/nだけ遅らせる。遅延器41により、2π/nずつ位相のずれたn本のキャリア三角波が生成され、PWM変調器39において、k番目の三角波はU相、V相、W相それぞれの電圧指令値と比較され、対応する相のk番目のセルに送られる。
キャリア三角波からは、以下のように、電流制御部24a内部の微分器25の起動信号を生成する。最大値選択部42aは、遅延器41から出力されるn本のキャリア三角波から値が最大のものを選択して出力する。微分器43は、最大値選択部42の出力を微分する。
比較器44aは、微分器43の出力がプラスならば1,零以下ならば0を出力する。立ち上がり検出器45は、比較器44aの出力が0から1に変化した直後に1演算時間だけ1を出力する。立ち上がり検出器45の出力は電流制御部24a内部の微分器25に出力され、微分器25はキャリア三角波最大値の谷の部分でのみ動作する。キャリア三角波および生成される微分器25の起動信号を図17に示す。図17のA点が、キャリア三角波最大値の谷の部分に相当する。
電圧指令値演算部2は、一般的なインバータの電流制御ブロックと同じ構成である。出力電流検出値Iinvとd軸電流指令値Id*,q軸電流指令値Iq*の偏差をPIアンプで増幅した値に基づいて出力電圧指令値を演算し、さらに2アーム変調器7にて2アーム変調を適用する。
スイッチング素子のゲート制御器9aについて説明する。図14の回路では、図2に示す期間1において変換器出力電流を上アームにバイパスさせることでスイッチング素子の導通損を低減する。
期間1、すなわち対応する相の電圧指令値V*=1の時に上アームのスイッチング素子をONする。ただし、出力電流の符号によってはONした時に並列コンデンサを短絡してしまう場合がある。このコンデンサ短絡現象はスイッチング素子を過電流破壊させるおそれがあるため好ましくない。そこで、スイッチング素子の電圧検出値Vpu,Vpv,Vpwを検出し、電圧指令値V*=1、かつ、スイッチング素子の電圧検出値Vpu,Vpv,Vpwが零またはダイオード電圧降下を考慮し零以下になった場合に上アームのスイッチング素子をONすることにより、下アームのセルモジュール1が並列コンデンサの電荷を放電するまで上アームのスイッチング素子のON動作を待機することとなり、コンデンサ短絡を避けることができる。
上アームのスイッチング素子のターンOFFについても、上アームのスイッチング素子のON動作中の素子電圧(数V程度)によって残留する並列コンデンサの電荷を放電して上アームのスイッチング素子のターンOFF時の零電圧スイッチングを成立させる。そのため、V*<1、かつ、上アームのスイッチング素子の電圧が零以下であることを検出した後に、上アームのスイッチング素子のOFF指令を出力する。
ただし、ターンOFFにおいて、電流は並列コンデンサを迂回するためスイッチング損失はあまり増加しない。そのため、スイッチング素子Su,Sv,Swの電圧検出値Vpu,Vpv,Vpwを検出せずV*<1の条件のみでOFF指令を出力してもよい。
このときのスイッチング素子のゲート制御器9aを図18に示す。比較器10aにおいて、U相の電圧指令値Vu*が1に等しいか否かを判定し、1の場合は1を出力し、それ以外の場合は0を出力する。比較器10aの出力は、後述するAND素子65とOR素子11に入力される。
比較器12aにおいて、U相における上アームのスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuが0を超えているか否かを判定する。比較器12aの出力は、反転してOR素子64に入力される。AND素子65は、比較器10aの出力およびOR素子64の出力を入力し、両方1の時1を出力し、それ以外のとき0を出力する。
OR素子11は、比較器10aの出力とAND素子65の出力を入力し、少なくとも何れか一方が1のとき1を出力し、両方0のとき0を出力する。OR素子11の出力はNOT素子14により反転され、スイッチSW2の制御信号として出力される。
バッファ66は、AND素子65の出力信号を入力し、1演算時間遅らせて出力する。バッファ66の出力は、OR素子64に入力される。
立ち上がり検出器15は、AND素子65の出力信号が0から1に変化したときに1演算時間だけ1を出力する。ホールド器16は、立ち上がり検出器15の出力が1ならば、1を一定時間Δtc出力し続ける。一定時間Δtcは、セルコンデンサ充放電制御の時間である。図2の期間1よりも少し短い時間を設定する。NOT素子17は、ホールド器16の出力信号を入力する。NOT素子17の出力信号は、後述するスイッチSW1の制御信号となる。
電流指令値演算部18aについて説明する。セルモジュール出力電流指令値I*は、上アーム通過電流を下アームのセルモジュール1に転流させるための転流指令値と、制御対象の相のセルコンデンサ電圧平均値を一定に制御するための充放電電流指令値の2種類からなる。前者はスイッチSW1の上側入力端子、後者は下側入力端子に入力され、状況に応じてスイッチSW1により切り替えられセルモジュール出力電流指令値I*として出力される。
転流指令値は、現在の出力電流検出値Iinvをαだけ上回る値とする。αは出力電流検出値Iinvの定格値の+1%〜+10%程度の値とする。セルモジュール出力電流検出値Izが指令値通りの電流に制御できれば、上アーム通過電流はIinv−Iz=−αとなり下から上に向かって電流が流れる。並列コンデンサCu,Cv,Cwに電荷がある場合、上アーム通過電流はスイッチング素子の逆並列ダイオードよりも並列コンデンサCu,Cv,Cwに優先的に流れ、並列コンデンサCu,Cv,Cwは放電される。並列コンデンサCu,Cv,Cwの放電が完了すると、上アーム通過電流は逆並列ダイオードを通過する。
このとき、過剰な電流は交流出力側には流れない。これは、出力電流検出値Iinvが他の2相によって制御されているためである。また、バッファリアクトルLu,Lv,Lw,フィルタリアクトルFLのインダクタンスがLu,Lv,Lw>Lzの関係にあるためである。この式でのLu,Lv,Lwは、バッファリアクトルLu,Lv,Lwのインダクタンス値を意味している。Lzは、フィルタリアクトルFLの1相あたりのインダクタンス値を意味している。
フィルタリアクトルFLは交流出力電流リプルを除去するため大きなインダクタンス値を設定し、バッファリアクトルLu,Lv,Lwは転流や並列コンデンサCu,Cv,Cwの充放電を素早く行うためインダクタンス値を小さく設定する。
フィルタリアクトルFLにより出力電流検出値Iinvは急峻な変化をしないため、セルモジュール出力電流検出値Izの増加分はほとんど上アームを通過する。転流を行うに当たり、出力電流検出値Iinvのひずみはほとんど増加しない。ここでαを増加すると、転流を確実に行える利点が生じるが、損失が増加する欠点もある。よってαの条件は10%程度にとどめる。
充放電電流指令値は、まずはコンデンサ電圧平均値Vcavgとセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとの偏差を演算する。セルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nは直流電圧検出値Vdcを1相あたりのセル台数nで除算した値である。しかし、転流を行うためにはセルコンデンサ電圧の総和を直流電圧検出値Vdcよりも過剰にする必要がある。そのため、ここでは過剰分をβと設定し係数1+βをVdc/nに乗算する。得られた偏差にゲインGcをかけ、充放電電流指令値を求める。このゲインGcであるが、コンデンサの電圧・電流の関係式より、以下の(21)式となる。
一定時間Δtcはセルコンデンサの充放電時間である。一定時間Δtcは期間1(基本波の1/3周期)の70〜80%程度とし、残りを転流制御に割り当てる。
スイッチSW1は転流指令値と充放電電流指令値を切り替える。通常は上側入力端子に入力され転流指令値を出力する。上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwがONしたら、一定時間Δtcの間スイッチSW1は下側入力端子の出力に切り替わり充放電電流指令値を出力し、セルコンデンサ電圧を制御する。一定時間Δtc後、スイッチSW1は上側入力端子の出力に戻り再度転流指令値を出力することで、上アームの並列コンデンサCu,Cv,Cwの電荷(数V程度)を放電し、その後の上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwのターンOFF時に零電圧スイッチングを成立させることができる。
電流制御部24aについて説明する。電流制御部24aは、一般的な電流制御ブロックとフィードフォワード項で構成される。一般的な電流制御ブロックは、セルモジュール出力電流検出値Izとセルモジュール出力電流指令値I*の偏差をアンプ28で増幅し、この結果に後述するフィードフォワード項を加算してセルモジュール電圧指令値Vn*を求める。
フィードフォワード項について説明する。前述したように、この回路構成では高速な電流制御が必要となる。そこで、バッファリアクトルLu,Lv,Lwの電圧・電流の関係から所望の電流出力に必要な電圧を計算し、フィードフォワードで出力することで高速化を実現する。バッファリアクトルLu,Lv,Lwの関係式とそこから求められるゲインGl,必要なセルモジュール出力電圧Vnは、以下の(22)式で求められる。
ここで、vLzはバッファリアクトルLu,Lv,Lwの印加電圧を示す。以上の(22)式で得られたセルモジュール出力電圧Vnをセルモジュール電圧指令値Vn*とする。
電流制御部24aは、まず、バッファにより、ある一定時間Δt前のセルモジュール出力電流指令値I*を保持し、セルモジュール出力電流指令値I*との差分を演算することでΔI*を求める。ここで、一定時間Δtは下アームのセルモジュール1が出力できる電圧パルスの最小単位、すなわちキャリア三角波の1/n周期とする。
アンプ26により求めたΔI*にゲインGlを乗算し、フィードフォワード項の電圧指令値として出力する。以上のフィードフォワード補償により、セルモジュール出力電流指令値I*が変化してもキャリア三角波の1/n周期後にはセルモジュール出力電流検出値Izをセルモジュール出力電流指令値I*にほぼ等しくすることができる。
アンプ28はセルモジュール出力電流検出値Izとセルモジュール出力電流指令値I*のずれを補正するのが目的であるため、ゲインGは小さくてよい。一方、ゲインGlは分母の微小値(一定時間)Δtにより大きな値となる。そのため、セルモジュール出力電流指令値I*へのノイズ重畳には注意しなければならない。
ただし、セルモジュール出力電流指令値I*は出力電流検出値Iinvに基づいた値であるが、出力電流検出値Iinvが通過するフィルタリアクトルFLは大きなインダクタンス値であることを想定しているため、出力電流検出値Iinvに重畳するノイズは小さい。
また、セルモジュール出力電流指令値I*は直流電圧検出値Vdc,セルコンデンサ電圧平均値Vcavgによっても求められているが、これらはコンデンサ電圧であるためノイズが重畳しにくい。
加算器29aでは、フィードフォワード項として1を加算している。これは後述する振幅の補正係数を乗算することで(22)式の直流電圧検出値Vdc相当となる。この1の加算は、セルモジュール出力電流指令値I*が零一定の場合、下アームのセルモジュール1から直流電圧検出値Vdcに等しい電圧を出力させセルモジュール出力電流検出値Izを零にするためのものである。
電圧指令値演算部2で求められた電圧指令値V*と電流制御部24aにより求められたセルモジュール電圧指令値Vn*は、スイッチSW2によって適切なものが選択された後、補正係数nVcavg/Vdcを乗算する。これはV*=1の時に下アームのセルモジュール1が出力する電圧を、上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwのONの時に出力される電圧すなわち直流電圧検出値Vdcに揃えるためのものである。これにより、V*=1において上アームのスイッチング素子Su,Sv,SwのONとOFFが切り替わっても変換器出力電圧は変化せず、出力電圧のひずみを抑えることができる。
補正係数nVcavg/Vdcを乗算した後、電圧指令値にはセルコンデンサ電圧制御指令値が加算される。セルコンデンサ電圧制御指令値は、特許文献3のものをそのまま適用することができる。セル個別のコンデンサ電圧検出値Vcとセルコンデンサ電圧平均値Vcavgの偏差をアンプ36により増幅する。
次に、セルモジュール出力電流検出値Izの符号によりアンプ36の出力を補正する。例えば、制御対象のセルのコンデンサ電圧検出値Vcが過剰でアンプ36の出力がプラス、セルモジュール出力電流検出値Izもプラスの場合を考える。
対象のセル出力電圧を増加すれば、セルの出力する有効電力が増加し、セルコンデンサCaを放電することができる。セル出力電圧を増加するには、プラスのセルコンデンサ電圧制御指令値を加算すればよい。
同じ条件でセルモジュール出力電流検出値Izがマイナスの場合を考える。このときは対象のセル出力電圧を減少すればセルに入力される有効電力が減少し、セルコンデンサ充電量を減少させることができる。セル出力電圧を減少させるには、マイナスのセルコンデンサ電圧制御指令値を加算すればよい。
最後に、電圧指令値とキャリア三角波を比較し、各セルのゲート指令を生成する。ここではキャリア三角波はフェーズシフト方式とし、位相を2(k−1)π/nずつずらしたものを用意する。
例として、各相のセルが4直列の場合、n=4、k=1,2,3,4となる。1番目のセルでは位相をずらさない。2番目のセルでは位相を2π/4ずらす。3番目のセルでは位相を4π/4ずらす。4番目のセルでは位相を6π/4ずらす。
このとき、図17に示すように各セルのキャリア三角波から最大値を抽出し、谷の部分で起動信号を生成し、電流制御部24a内部の微分器25に入力する。これにより、微分器25は一定時間Δt前のセルモジュール出力電流指令値I*と現在のセルモジュール出力電流指令値I*の差分を演算し、出力することができる。
起動信号を谷で生成する理由を述べる。山で生成した起動信号に遅延が生じた場合、電圧指令値V*がほぼ1の状態から減少すると電圧指令値V*とキャリア三角波との交点が連続して3個以上生じ、スイッチング回数が一時的に増加し、損失が増加してしまうことがある。
また、パルス幅が極端に短くなるとスイッチング素子が能動領域で動作してしまい、素子発熱による寿命低下や破壊の恐れが生じる。これを防ぐため起動信号を谷で生成する。
図17にキャリア三角波と起動信号の波形を示す。最大値選択部42aの出力信号を太線で示す。起動信号は最大値選択部42aの出力信号の谷の部分、すなわち点Aにおいて1になる。
図19にスイッチング素子のゲート制御器9aから出力される上アームゲート指令とスイッチSW1,SW2の制御信号を示す。これを元に、U相を例にして一連の動作について説明する。制御対象の相の電圧指令値がVu*<1の時、スイッチSW2の制御信号は1であり、スイッチSW2は上側入力端子の信号を出力する。上アームゲート指令は0、上アームのスイッチング素子SuはOFFである。一般的な電流制御が行われ、下アームのセルモジュール1は電流制御により得られた電圧指令値Vu*に相当する電圧を出力する。
Vu*=1になると、まず、スイッチSW2の制御信号が0になりスイッチSW2は下側入力端子の出力に切り替わる。スイッチSW1の制御信号は1のままであり、スイッチSW1は上側入力端子の信号を出力する。
そのため、下アームのセルモジュール1は現状の出力電流検出値Iinvよりも少し大きな電流を出力して転流制御を行い、上アームのスイッチング素子Suの並列コンデンサCuを放電する。上アームのスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuが零以下になり並列コンデンサCuが完全に放電されたことを検出したら、上アームゲート指令を0→1に切り替え、上アームのスイッチング素子SuをターンONする。
スイッチSW1の制御信号は0になりスイッチSW1は下側入力端子の出力に切り替わり、下アームのセルモジュール1はセルコンデンサCaの充放電を行い、セルコンデンサ電圧平均値Vcavgをセルコンデンサ指令値Vdc(1+β)/nに制御する。
このとき変換器出力電流の制御は他の2相の下アームのセルモジュール1により行われるため、U相のセルコンデンサCaの充放電中も変換器は指令値通りの電流を出力することができる。
一定時間Δtc経過後にスイッチSW1が上に切り替わると、下アームのセルモジュール1は再度転流制御を行う。下アームのセルモジュール1からの出力電流は出力電流検出値Iinvとなり、過剰分は上アームのスイッチング素子Suの逆並列ダイオードを通過する。
図19においては、上アーム電流はスイッチング素子Suを通過し、上アームのスイッチング素子Suの電圧検出値Vpuは電圧降下分わずかにプラスであったが、上アーム電流が逆向きになり逆並列ダイオードを通過し、その電圧降下分わずかにマイナスとなり、上アームのスイッチング素子SuのターンOFFの準備が完了する。
V*<1かつVpu≦0を満たしたら上アームゲート指令を1→0に切り替えることで上アームのスイッチング素子SuをターンOFFし、スイッチSW2は上側入力端子の出力に切り替わり、一般的な電流制御に戻る。
以上、実施形態7の制御ブロックは図14に適用することを想定している。しかし、図20,図21の主回路に適用することもできる。
図20では、上アームのスイッチング素子Su,Sv,Swが双方向スイッチBSu,BSv,BSwとなっている。下側のスイッチング素子のエミッタ端子がバッファリアクトルLu,Lv,Lwと接続されている下側のスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2は、図15の上アームゲート指令をそのまま入力すればよい。エミッタ端子が直流電圧源DCPの正極と接続されている上側のスイッチング素子Su1,Sv1,Sw1は正常時において常にON、過電流や系統電圧Vs,直流電圧Vdcの異常上昇・減少など異常が発生した場合のみOFFすればよい。
図21はセルモジュール1のチョッパセルCをブリッジセルBに置換した構成である。セルモジュール1のスイッチング素子数は2倍に増えるため、セルゲート信号数は2倍必要になる。そこで、1相あたりのセル数をn,制御対象のセルをk番目として、位相を(k−1)π/nずらしたキャリア三角波と、電圧指令値V*の他に符号を反転させた−V*とを比較し2倍のゲート信号を生成すればよい。
以上示したように、本実施形態7によれば、図14,図20,図21に示す主回路を動作させることができる。特に、一般的な50Hz系統において6.67ms、60Hz系統では5.56msしかない期間1において高耐圧のスイッチング素子Su,Sv,Swの転流制御とセルコンデンサ充放電制御を行うことが可能となる。制御には微分を使用するが、微分対象は大きなインダクタンス値のリアクトルを通過する電流であるため、ノイズに強く誤動作しにくい。
[実施形態8]
本実施形態8では、上アームのスイッチング素子Su,Sv,Swに自己消弧能力のない素子(サイリスタ)を使用した回路構成(図23)について説明する。本実施形態8では、全体の制御ブロックは実施形態7(図15)と同じものを使用でき、スイッチング素子のゲート制御器9aのみ構成が異なる。
図22に本実施形態8のU相におけるスイッチング素子のゲート制御器9aの構成を示す。本実施形態8は、図23の回路に適用することを想定している。本実施形態8のU相におけるスイッチング素子のゲート制御器9aは以下のように構成される。
比較器10aは、U相の電圧指令値Vu*が1か否かを判定し、1であれば1を出力し、それ以外の時は0を出力する。減算器46は、W相の出力電流検出値IinvwとW相のセルモジュール出力電流検出値IzwからIinvw−Izwを演算し、W相上アーム通過電流を求める。比較器47は、減算器46の出力が零以下、すなわち、W相の上アームのスイッチング素子SwがOFFであるか否かを判定する。
AND素子48は、Vu*=1,Iinvw−Izw≦0の両方を満たすときに1を出力し、それ以外の時は0を出力する。
立ち上がり検出器15は、AND素子48の出力信号の立ち上がりを検出する。ホールド器49は、立ち上がり検出器15の出力が1ならば、1を例えば0.2ms間出力し続ける。ホールド器49の出力信号はU相上アームゲート指令となる。
ホールド器16は、立ち上がり検出器15の出力が1ならば、1を一定時間Δtc出力し続ける。一定時間Δtcは、セルコンデンサ充放電制御の時間であり、図2の期間1よりも少し短い時間を指定する。NOT素子17は、ホールド器16の出力信号を反転して出力する。NOT素子17の出力信号は、スイッチSW1の制御信号となる。
減算器50は、U相の出力電流検出値IinvuとU相のセルモジュール出力電流検出値IzuからIinvu−Izuを演算し、U相上アーム通過電流を求める。比較器51は、減算器50の出力が零以下、すなわちU相における上アームのスイッチング素子SuがOFFであるか否かを判定する。
AND素子67は、AND素子48の出力の反転信号と、比較器51の出力を入力し、両方1ならば1を出力し、それ以外であれば0を出力する。AND素子67の出力は、スイッチSW2の制御信号となる。
スイッチSW2の制御信号が1になる条件は、以下の両方を満たすことである。
・U相における上アームのスイッチング素子SuがOFFであること。
・Vu*<1、または、W相の上アームのスイッチング素子SwがONであること。
本実施形態8のスイッチング素子のゲート制御器9aは、まず、U相に対して120deg進み位相であるW相についてIinvw−Izwの演算により上アーム通過電流を求め、これが零以下であること、すなわちW相における上アームのスイッチング素子SwがOFFであることを確認する。これは、2相の上アーム同時ONによる線間短絡を防ぐためである。
加えて、Vu*==1を満たす場合に上アームのスイッチング素子SuがONを維持できるだけのパルス幅でON指令を出力する。ここでは0.2msとした。上アームのスイッチング素子SuがONすると同時に、スイッチSW1の制御信号として0を出力し、スイッチSW1は下側入力端子の出力に切り替わり、セルコンデンサ電圧平均値制御が行われる。
ターンONの際は転流制御を行う必要がない。図23における上アームのスイッチング素子Suには並列コンデンサCuが接続されておらず、また上アーム通過電流の流出先には、出力側にフィルタリアクトルFL、下アーム側にバッファリアクトルLu,Lv,Lwが接続されているため、上アームのスイッチング素子SuのON時には必ずソフトスイッチングが成立する。
上アームのスイッチング素子SuがONした後、スイッチSW1は一定時間Δtcだけ下側入力端子の出力に切り替わり、その後、上側入力端子の出力に戻り転流制御が行われる。上アームゲート指令は既に0であるため、転流に成功すると上アームのスイッチング素子SuはOFFする。
減算器50におけるIinvu−Izuの演算により、上アーム通過電流が零以下であることを検出し、上アームのスイッチング素子SuがOFFであることを確認した後、スイッチSW2の制御信号として1を出力する。これにより転流制御が終了し、通常の電流制御に戻る。
以上示したように、本実施形態8によれば、実施形態2において自己消弧能力のないスイッチング素子を用いた場合でも主回路を動作させることができる。
[実施形態9]
図24に本実施形態9の制御ブロック構成を示す。本実施形態9は、実施形態7の電流制御部24aに、アンプ52と加算器53を追加したものである。
アンプ52は、セルモジュール出力電流指令値I*にゲインGrを乗算する。加算器53は、アンプ52の出力に、アンプ26の出力を加算し、電圧指令値のフィードフォワード項として出力する。
実施形態7の問題点として、電流制御部24aにおいて、電流出力に必要な電圧の計算にバッファリアクトルLu,Lv,Lwのインダクタンスだけを考慮し、バッファリアクトルLu,Lv,Lwや上アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの寄生抵抗を考慮していないという点がある。
セルモジュール出力電流指令値I*が零から変化した直後は指令値通りのセルモジュール出力電流検出値Izが得られるが、時間が経過すると寄生抵抗により電流が減衰し小さくなってしまう。電流制御部24aのアンプ28によるフィードバックは動作するが、ゲインGは小さな値に設定することを想定しているため、あまり偏差は小さくならない。
ゲインGを大きくすると偏差を小さくできる反面、動作が不安定になる恐れが大きくなる。さらにアンプ28は比例アンプであるため、ゲインGを大きくしても偏差を完全に零にすることができない。一般的に積分アンプならば偏差を零にできる。しかし、この回路構成では電流制御部24aは図2の期間1のみ、50Hz系統ならば6.67msしか動作しないため、応答の遅い積分アンプは偏差を低減することができない。
本実施形態9はこの問題点を解決するため、セルモジュール出力電流指令値I*にゲインGrを乗算して寄生抵抗の電圧降下を推定し、その結果をセルモジュール電圧指令値Vn*に加算することで寄生抵抗の電圧降下を補償し電流の減衰を抑制する。
セルモジュール出力電流指令値I*が零から変化後に時間が経過してもセルモジュール出力電流指令値I*通りのセルモジュール出力電流検出値Izを得ることができ、ゲインGを小さな値に設定できるため電流制御部24aを安定に動作させることができる。
その結果、セルコンデンサCa,Cbの充放電を確実に行うことができ、装置の健全な動作を維持することができる。また、上アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの転流制御を確実に行うことができ、スイッチング素子Su,Sv,SwのターンOFF時の損失を確実に低減できる。その結果、装置の損失増加を防ぐことが可能となる。
以上示したように、本実施形態9によれば、実施形態7に加えて、寄生抵抗による電流の減衰を抑制することができる。寄生抵抗の大きな回路構成においても、転流制御やセルコンデンサ充放電制御を確実に行うことができる。
[実施形態10]
図25に本実施形態10の制御ブロック構成を示す。本実施形態10は、実施形態9の電流指令値演算部18aにローパスフィルタ54、減算器55、PIアンプ56、加算器57を追加したものである。
ローパスフィルタ54は、コンデンサ電圧平均値Vcavgから系統周波数の脈動を除去する。減算器55は、ローパスフィルタ54の出力と乗算器20の出力であるセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとの偏差を演算する。PIアンプ56は、減算器55の出力を増幅する。加算器57は、PIアンプ56の出力にアンプ23aの出力を加算する。加算器57の出力は、充放電電流指令値としてスイッチSW1の下側入力端子に接続される。
実施形態7では、ゲインGcをセルコンデンサ容量Cから求めた。しかし、セルコンデンサCa,Cbに製造誤差がある場合や経年劣化により容量が減少した場合、漏れ電流がある場合には対応できないという問題がある。本来必要な充放電電流と、アンプ23aから出力される充放電電流指令値に差が生じ、セルコンデンサCa,Cbを所定の電圧に制御できなくなる。さらに、時間経過により差が拡大する恐れがある。これを防ぐため、PIアンプ56を追加した。
まず、セルコンデンサ電圧平均値Vcavgには動作原理上、系統周波数の脈動が重畳するため、脈動成分をローパスフィルタ54で除去する。次に、セルコンデンサ電圧平均値Vcavgとセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとの偏差を求め、PIアンプ56で増幅する。
このとき、50Hzよりも低い周波数の偏差を低減するのが目的であるため、PIアンプ56の積分時定数は大きく設定する。または比例アンプだけで構成してもよい。PIアンプ56の出力はアンプ23aの出力と加算して、新しい充放電電流指令値としてスイッチSW1の下側入力端子に入力する。
以上により、ゲインGcにずれがある場合、セルコンデンサ電圧が所定の電圧に充電されなくなる状態を検出し、PIアンプ56により電流指令値を補正することができ、セルコンデンサ電圧を所定値に充電することができる。コンデンサに製造誤差・経年劣化・意図しない漏れ電流が生じた場合でも装置を安定して動作させることができる。
[実施形態11]
図26に本実施形態11の制御ブロック図を示す。本実施形態11は、実施形態9に絶対値演算部58、比較器59、スイッチSW4、スイッチSW5を追加したものである。
絶対値演算部58は、セルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとセルコンデンサ電圧平均値Vcavgとの偏差信号の絶対値を演算する。比較器59は、絶対値演算部58の出力が第1閾値Vcthよりも小さいか否かを判定する。比較器59の出力は、後述するスイッチSW4の制御信号となる。
PWM変調器39の出力は、新たに追加したスイッチSW4とスイッチSW5の上側入力端子に入力される。スイッチSW4の下側入力端子には、0が入力される。スイッチSW4は、前述した比較器59の出力によって切り替わる。すなわち、セルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとセルコンデンサ電圧平均値Vcavgとの偏差の絶対値が第1閾値Vcthよりも大きければ上側入力端子に切り替わる。セルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとセルコンデンサ電圧平均値Vcavgとの偏差の絶対値が第1閾値Vcthよりも小さければ下側入力端子に切り替わる。スイッチSW4の出力は、スイッチSW5の下側入力端子に出力される。
スイッチSW5の切り替わる条件は、スイッチSW1と同一である。すなわち通常は上側入力端子の信号を出力し、制御対象となる相の上アームのスイッチング素子のゲート指令がONになったら一定時間Δtcだけ下側入力端子の出力に切り替え、その後、上側入力端子の出力に戻る。一定時間ΔtcもスイッチSW1と同じくセルコンデンサ充放電制御の時間である。スイッチSW5の出力はセルゲート指令となり、各セルのスイッチング素子Su,Sv,Swに入力される。
本実施形態11は、追加した2つのスイッチSW4,SW5により、以下の2つの条件を満たす場合、各セルのスイッチング素子に送るゲート指令をOFFにする。
・現在のセルモジュールが、セルコンデンサの電圧を制御すべく充放電を行う状態である(図26のスイッチSW1、SW5が下側である)。
・セルコンデンサ電圧平均値Vcavgと、セルコンデンサ電圧指令値(1+β)Vdc/nとの差が第1閾値Vcth以下である(図26のスイッチSW4が下側である)。
セルコンデンサ電圧平均値Vcvgがセルコンデンサ電圧指令値(1+β)Vdc/nに近く充放電の必要がない場合は、セルコンデンサの充放電を停止する。これにより、セルで発生するスイッチング損・導通損を低減することができる。
以上示したように、本実施形態11によれば、実施形態9に加えて、制御対象相のセルコンデンサ電圧平均値Vcavgがセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nにほぼ等しく、セルコンデンサ充放電が必要ない場合においては、本来セルコンデンサ充放電を行う期間においてセルのスイッチングを停止しセルに電流を流さない。そのため、損失を低減することができる。
特に、出力電流の小さな場合や無効電力のみを出力する場合、または有効電力を出力する場合でも出力電圧が装置の出力可能な最大値の95.5%に近ければ、セルコンデンサ充放電が不要になり、高い損失低減効果を得ることができる。
[実施形態12]
図27に本実施形態12の制御ブロック構成を示す。本実施形態12は、実施形態9に絶対値演算部60、最大値選択部61、比較器62、交流波形生成器63、スイッチSW6、加算器68を追加したものである。
絶対値演算部60は、各セルコンデンサ電圧検出値Vcとセルコンデンサ電圧平均値Vcavgとの偏差の絶対値を演算する。最大値選択部61は、絶対値演算部60の出力から各相の最大値を選択して出力する。比較器62は、最大値選択部61の出力が第2閾値Vcthよりも大きいか否かを判定する。比較器62の出力によりスイッチSW6の出力が切り替わる。
スイッチSW6の上側入力端子には、交流波形生成器63が接続されている。交流波形生成器63で生成される交流波形は、周期Δtc、直流オフセットは零である。これを満たせば正弦波でも矩形波でも三角波でもよい。スイッチSW6の下側入力端子には、固定値0が入力される。
最大値選択部61の出力が第2閾値Vcthよりも大きければスイッチSW6は交流波形を出力し、最大値選択部61の出力が第2閾値Vcth以下であればスイッチSW6は0を出力する。
スイッチSW6の出力信号は、加算器68によりアンプ23aの出力に加算され、スイッチSW1の下側入力端子に入力される。
セルコンデンサ電圧平均値Vcavgがセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nに近い場合、充電電流指令値は小さな値になる。しかし、あるセルコンデンサ電圧検出値Vcがセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとの偏差が大きく充放電を必要とする場合、セルモジュール出力電流検出値Izが小さいとわずかしか充放電ができない。また、電流検出にオフセット誤差があれば、セルモジュール出力電流検出値Izの符号を誤って検出し充放電が逆になり、偏差を大きくしてしまう場合もある。
本実施形態12は、セルコンデンサ電圧平均値Vcavgとセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとの偏差が小さく、かつ、セルコンデンサ電圧検出値Vcとセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとの偏差が大きいセルがある場合に、期間1において周期Δtcの交流電流を流しセルコンデンサ電圧の充放電を促す。交流電流であればセルコンデンサ電圧平均値Vcavgには影響を与えず、セルモジュール出力電流検出値Izの検出時に重畳するオフセット誤差よりある程度大きな電流を流せば、セルモジュール出力電流検出値Izの符号を正しく検出することができ、セルコンデンサを正しく充放電することができる。
本実施形態12は、特に負荷が軽い場合において各セルコンデンサ電圧のばらつきを抑制することができる。
以上示したように、本実施形態12によれば、実施形態9に加えて、制御対象相のセルコンデンサ電圧平均値Vcavgはセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nにほぼ等しいが、一部のセルコンデンサ電圧検出値Vcにセルコンデンサ電圧指令値Vdc(1+β)/nとの大きなずれがある場合において、セルコンデンサの充放電を行う期間に交流電流を流すことで、セルコンデンサ電圧平均値Vcavgには影響を与えず個別のセルコンデンサを充放電することができる。特に、出力電流の小さな場合においてセルコンデンサ電圧の偏差拡大を抑制することができる。
[実施形態13]
図28に本実施形態13の主回路構成を示す。本実施形態13は、実施形態7の上アームと下アームを入れ替えた構成である。この回路では、図11に示す2アーム変調を適用することを想定している。
図29に本実施形態13の制御ブロック構成を示す。この制御ブロックは図28の回路に適用する。以下、図15との相違点を示す。
2アーム変調器7での相違点は、最小値選択部7bにおいて、dq逆変換された3相の電圧指令値のうち、最小値を選択して出力する。減算器8bでは、3相の電圧指令値と最小値選択部7bの出力との偏差に固定値−1を加算する。
図28では下アームのスイッチング素子Su,Sv,Swが高耐圧IGBTのため、図15の上アームのスイッチング素子のゲート制御器9aは下アームのスイッチング素子のゲート制御器9bとなる。図30にU相における下アームのスイッチング素子のゲート制御器9bの構成を示す。図30と図16の相違点を以下に示す。
比較器10bは、U相の電圧指令値Vu*が−1か否かを判定する。比較器12bは、U相におけるスイッチング素子Suの電圧検出器Vnuが0よりも大きいか否かを判定する。スイッチSW3の出力は、U相の下アームゲート指令となり、下アームのスイッチング素子Suに出力される。
電流指令値演算部18bにおける相違点を以下に示す。アンプ23bは、ゲインの符号を反転し、ゲイン−Gcを乗算する。
図14および図28におけるセルモジュール出力電流検出値Izは、直流側から交流側へ流れる向きをプラスとしている。図14では上から下に流れるとプラス、図28では下から上に流れるとプラスとなる。この検出向きの違いに対応するための変更である。
電流制御部24bについては、以下のように変更する。加算器29bは、アンプ26の出力とアンプ28の出力と−1とを加算する。加算器29bの出力は上アームのセルモジュール電圧指令値Vp*となる。
キャリア三角波から電流制御部24bの微分器25の起動信号を生成するブロックは、以下のように変更する。
最小値選択部42bは、遅延器41から出力されるn本のキャリア三角波から値が最小のものを選択して出力する。比較器44bは、微分器43の出力がマイナスならば1,零以上ならば0を出力する。
以上により、電流制御部24bの微分器25はキャリア三角波最小値の山の部分でのみ動作する。
キャリア三角波および生成される微分器起動信号を図31に示す。図31のA’点が、キャリア三角波最小値の山の部分に相当する。
本実施形態13は、実施形態7を図28に示す主回路構成に適用できるよう変形したものである。
本実施形態13により、図28の回路は以下の動作を実現することができる。
下アームのスイッチング素子Su,Sv,SwのターンON時に並列コンデンサCu,Cv,Cwの電荷によるスイッチング素子の短絡破壊を防ぐため、上アームのセルモジュール1からの出力電流を不足させ、下アームのスイッチング素子Su,Sv,Swに並列接続されている並列コンデンサCu,Cv,Cwの電荷を放電し、その後、下アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの逆並列ダイオードを導通させ、電流を転流させる。
転流の確認後、下アームのスイッチング素子Su,Sv,SwをターンONする。
直流電圧源DCP,DCNから上アームのセルモジュール1,下アームのスイッチング素子Su,Sv,Swに循環電流を流し、セルコンデンサCaを充電する。
循環電流を停止し、下アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの零電圧スイッチング確立のため、上アームのセルモジュール1から電流を過剰に出力し、下アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの並列コンデンサCu,Cv,Cwを放電し、その後、下アームのスイッチング素子Su,Sv,Swの逆並列ダイオードを導通させ、電流を転流させる。
転流の確認後、下アームのスイッチング素子Su,Sv,SwをターンOFFする。
以上示したように、本実施形態13によれば、図28に示す上アームにセルモジュール1、下アームに高耐圧IGBTを用いた構成の回路を動作させることができる。本実施形態13の実施形態7に対する利点として、高耐圧IGBTのエミッタ電位が共通のためスイッチング素子Su,Sv,Sw用のゲート駆動回路の構造を簡略化することができる。
本実施形態13は、図20のような高耐圧スイッチング素子を逆直列構成とする構成に適用することができる。
また、図28内のチョッパセルCをブリッジセルBに置き換える構成としてもよい。さらに、本実施形態13と実施形態8〜12を組み合わせることもできる。
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。