JP2019041695A - ニワトリ胸肉の剪断力価に関与する量的形質遺伝子座およびその利用方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTL解析により、そのQTLの指標となるマーカー等を特定し、それを利用したニワトリの生産・育種方法を提供する。【解決手段】ニワトリのZ染色体上のSNPマーカーrs16761810および/またはrs317436622の塩基の情報は、前記QTLの指標とすることができる。その情報を利用したマーカーアシスト育種により、歯ごたえのある胸肉を生産するニワトリを育種することができるようになる。【選択図】なし
Description
本発明は、ニワトリ胸肉の剪断力価に関与する量的形質遺伝子座(QTL)およびその利用方法に関する。より詳しくは、本発明は、ニワトリ胸肉の剪断力価に関与するQTLの指標として利用できるSNPマーカー、当該SNPマーカーを利用したニワトリの生産・育種方法、およびニワトリ胸肉の剪断力価に関与する遺伝子などに関する。
今日流通している鶏肉のほとんどは、「ブロイラー肉」と呼ばれる、白色コーニッシュ雄と白色プリマスロック雌を交配して得られる雑種第一世代(F1)の肉である。この一般ブロイラーは、成長速度が極めて速く39〜56日齢で出荷されるため、安価かつ大量に供給が可能である。わが国では1960年代より導入され漸次その利用量が増加して来た。しかし、成長速度に特化した育種改良の結果、肉質は水っぽく、締りや旨みが少ないといった欠点が目立つ。そこで1980年代より「歯ごたえとコク」のある高品質な鶏肉の需要が高まり、特殊肉用鶏の作出が全国各地で行われ始めた。しかし、特殊肉用鶏のほとんどは、日本在来品種と外国品種との交配により作出した雑種を利用しているに過ぎず、「歯ごたえとコク」については一定の評価を得ているものの、成長スピードや飼料効率については既存の一般ブロイラーには遠く及ばない。「歯ごたえとコク」のある肉を産出するニワトリの真の育種改良を考える場合、成長スピード、産肉量および「旨さ」を兼ね備えた純粋品種もしくは系統の作出、あるいは雑種生産用の種鶏となる品種や系統の作出が必要になる。
鶏肉の「歯ごたえ」、すなわち鶏肉における「硬さ(弾力)」は、美味しさを決める要因の一つであり、その評価には剪断力価が広く用いられている。剪断力価は連続的な変異を示すため、体重や産卵量と同様に、量的形質であると考えられる。量的形質は、飼育場の形状や飼料の種類、あるいは飼育温度といった環境要因によって、その形質発現に影響を受ける。量的形質は複数の遺伝子座によって支配されており、その遺伝子座を量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Loci:QTL)と呼ぶ。
統計遺伝学の発達ならびにコンピューターの性能の発達により、近年では、環境要因の補正を行い遺伝能力のみを評価し選抜するBest Linear Unbiased Prediction(BLUP)法を用いることが選抜育種の主流になっている。このBLUP法の登場により、環境要因の予測が可能になり遺伝能力の推定が可能になりはしたが、この方法は家畜の測定値(表現型値)を利用するものであって、家畜の生産形質に関与する優良遺伝子そのものの情報を利用するわけではない。選抜育種はより正確であることが望ましい。従って、表現型値だけに頼るのではなく、形質に関連する優良遺伝子の情報も選抜育種に利用できれば、より正確に家畜の育種改良を行うことができる。
優良遺伝子の発見に先立ち、まずその遺伝子が染色体上のどこに存在するか把握する必要がある。この位置を把握するための解析法としてQTL解析がある。QTL解析を行い、優良遺伝子の染色体上の位置が明らかになれば、そのQTL近傍のDNAマーカーを利用することにより、表現型値にとらわれないマーカーアシスト育種(さらに解析を進めた場合には、ジーンアシスト育種)が可能になる。
ニワトリに関係するQTLとして、特許文献1には卵殻強度の改善に関連するQTLについて記載されており、特許文献2には、鶏肉および/または鶏卵中の長鎖高度不飽和脂肪酸の含量の向上に関連するQTLについて記載されている。非特許文献1には、大シャモとホワイトレグホンを交配させて、肉の色に関連するQTLのマッピングを行ったことが記載されている。
一方、鶏肉の剪断力価の評価や比較については、現在、特殊肉用鶏を中心に日本各地で研究が行われているが(非特許文献2〜5)、剪断力価を支配しているQTLの染色体上の位置については世界的に報告例がない。
Yoshida et al., Journal of Poultry Science, 50(3), 198-205, 2013.
作田 敦, 垪和 靖俊, 生井 和夫, 御幡 壽 (2003) 高品質特殊鶏肉生産技術確立試験 茨城県畜産センター研究報告 35: 105-109.
宮腰雄一, 本間紀之, 鈴木ひろみ (2005) 蜀鶏を活用した「にいがた地鶏」の作出. 新潟県畜産研究センター研究報告第 15.
松井 繁幸, 池谷 守司 (2012) 新銘柄地鶏「フジ小軍鶏」の肉質評価. 静岡県畜産技術研究所中小家畜研究センター研究報告 5: 14-19.
小嶋禎夫, 三枝弘育 (2013) 烏骨鶏肉の理化学特性−肉用鶏との比較. 東京農総研研報 8: 11-18.
本発明は、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTL解析により、そのQTLの指標となるマーカー、さらにはQTLに関与する遺伝子を特定し、それらを利用して歯ごたえのある胸肉を生産するニワトリを生産・育種する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、Z染色体上のSNP(一塩基多型)マーカーとして知られている「rs16761810」および「rs317436622」の塩基が、ニワトリの胸肉の剪断力価がそれぞれ高い品種および低い品種の代表である、大シャモおよび白色プリマスロックの間で相違していることなどから、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTLの指標の一つとして利用できることなどを見出した。
すなわち、本発明は下記の事項を包含する。
[1]
ニワトリ(Gallus gallus var. domesticus)のZ染色体上のSNPマーカーrs16761810および/またはrs317436622の塩基の情報を、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTLの指標として利用する方法。
[2]
前記情報が、前記SNPマーカーrs16761810の塩基がAかGか、および/または前記SNPマーカーrs317436622の塩基がCかTか、の情報である、項1に記載の利用方法。
[3]
項1に記載の方法を利用したニワトリの鑑定方法であって、
鑑定の対象とするニワトリ(以下「被験ニワトリ」と呼ぶ。)における前記SNPマーカーrs16761810および/またはrs317436622の塩基の情報と、所定の胸肉の剪断力価を有するニワトリ(以下「基準ニワトリ」と呼ぶ。)における対応するSNPマーカーの塩基の情報と、一致するか否かを判定する工程を含む、鑑定方法。
[4]
項2に記載の方法を利用したニワトリの鑑定方法であって、
被験ニワトリにおける前記SNPマーカーrs16761810の塩基が基準ニワトリの当該SNPマーカーの塩基Aと一致するか否か、および/または被験ニワトリにおける前記SNPマーカーrs317436622の塩基が基準ニワトリの当該SNPマーカーの塩基Cと一致するか否か、を判定する工程を含む、鑑定方法。
[5]
項3または4に記載の鑑定方法により選抜された、基準ニワトリとSNPマーカーの塩基が一致する被験ニワトリ、またはその後代を、交配に用いる、ニワトリの生産方法。
[6]
項5に記載のニワトリの生産方法を複数回行うことを含む、ニワトリの育種方法。
[7]
前記基準ニワトリが日本鶏である、項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
[8]
前記被験ニワトリが、日本鶏とその他のニワトリとの交配種、またはその後代である、項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
[9]
項1または2に記載の方法を利用した、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与する遺伝子の特定方法であって、
基準ニワトリにおける、前記SNPマーカーrs16761810およびrs317436622の間の領域に存在する遺伝子に関連する塩基配列を、基準ニワトリとは異なる胸肉の剪断力価を有するニワトリ(以下「参照ニワトリ」と呼ぶ。)における、対応する部位の塩基配列と比較する工程を含む、特定方法。
[10]
前記2つのSNPマーカーの間の領域に存在する前記遺伝子が、MAST4(microtubule associated serine/threonine kinase family member 4)、CD180(CD180 molecule)、LOC101750216、LOC107051897およびPIK3R1(phosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 1)からなる群より選ばれる少なくとも一つである、項9に記載の特定方法。
[1]
ニワトリ(Gallus gallus var. domesticus)のZ染色体上のSNPマーカーrs16761810および/またはrs317436622の塩基の情報を、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTLの指標として利用する方法。
[2]
前記情報が、前記SNPマーカーrs16761810の塩基がAかGか、および/または前記SNPマーカーrs317436622の塩基がCかTか、の情報である、項1に記載の利用方法。
[3]
項1に記載の方法を利用したニワトリの鑑定方法であって、
鑑定の対象とするニワトリ(以下「被験ニワトリ」と呼ぶ。)における前記SNPマーカーrs16761810および/またはrs317436622の塩基の情報と、所定の胸肉の剪断力価を有するニワトリ(以下「基準ニワトリ」と呼ぶ。)における対応するSNPマーカーの塩基の情報と、一致するか否かを判定する工程を含む、鑑定方法。
[4]
項2に記載の方法を利用したニワトリの鑑定方法であって、
被験ニワトリにおける前記SNPマーカーrs16761810の塩基が基準ニワトリの当該SNPマーカーの塩基Aと一致するか否か、および/または被験ニワトリにおける前記SNPマーカーrs317436622の塩基が基準ニワトリの当該SNPマーカーの塩基Cと一致するか否か、を判定する工程を含む、鑑定方法。
[5]
項3または4に記載の鑑定方法により選抜された、基準ニワトリとSNPマーカーの塩基が一致する被験ニワトリ、またはその後代を、交配に用いる、ニワトリの生産方法。
[6]
項5に記載のニワトリの生産方法を複数回行うことを含む、ニワトリの育種方法。
[7]
前記基準ニワトリが日本鶏である、項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
[8]
前記被験ニワトリが、日本鶏とその他のニワトリとの交配種、またはその後代である、項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
[9]
項1または2に記載の方法を利用した、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与する遺伝子の特定方法であって、
基準ニワトリにおける、前記SNPマーカーrs16761810およびrs317436622の間の領域に存在する遺伝子に関連する塩基配列を、基準ニワトリとは異なる胸肉の剪断力価を有するニワトリ(以下「参照ニワトリ」と呼ぶ。)における、対応する部位の塩基配列と比較する工程を含む、特定方法。
[10]
前記2つのSNPマーカーの間の領域に存在する前記遺伝子が、MAST4(microtubule associated serine/threonine kinase family member 4)、CD180(CD180 molecule)、LOC101750216、LOC107051897およびPIK3R1(phosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 1)からなる群より選ばれる少なくとも一つである、項9に記載の特定方法。
本発明により特定された2つのSNPマーカーを利用し、胸肉の剪断力価に優れた品種と同じ塩基を有するかどうかを判定することにより、歯ごたえのある旨い胸肉を生産するための遺伝的因子を保有するニワトリの個体を効率的に選抜することが可能となる。そのようにして選抜された個体を、成長速度や産肉量など他の形質に優れた個体と交配することにより、既存のものよりも肉質に優れた品種を育成することができるようになる。また、SNPマーカーを利用したマーカーアシスト育種に加え、将来的にはより効率的なジーンアシスト育種も可能となる。
本発明では、SNPマーカー「rs16761810」および/または「rs317436622」のSNP塩基の情報を、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTLの指標として利用する。ニワトリの性染色体はZW型で、雄はホモ(ZZ)、雌はヘテロ(ZW)であるが、rs16761810およびrs317436622はZ染色体上の137cMの位置、それぞれ21011727番目および約21623880番目の塩基におけるSNPマーカーである。これらの2つのSNPマーカーの情報は公開されており、例えば米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が提供する情報にアクセスすることができる(図1、図2参照)。本明細書において、上記2つのSNPマーカーを「本発明のSNPマーカー」、それらの塩基を「本発明のSNP塩基」と呼ぶことがある。
rs16761810およびrs317436622は、ニワトリの品種間で、特に胸肉の剪断力価が相違する品種間で、塩基の相違が見られる。rs16761810は、塩基A/Gの多型であり、胸肉の剪断力価が高い品種はこの塩基がAである頻度が高く、胸肉の剪断力価が低い品種はこの塩基がGである頻度が高い、という傾向にある。例えば、前者の代表である大シャモの雄は、ゲノム中の2つのZ染色体におけるrs16761810がAのホモであり(遺伝子型A/A)、後者の代表である白色プリマスロックの雌は、ゲノム中の1つのZ染色体におけるrs16761810がGである(遺伝子型G/−)。
rs317436622は、塩基C/Tの多型であり、胸肉の剪断力価が高い品種はこの塩基がCである頻度が高く、胸肉の剪断力価が低い品種はこの塩基がTである頻度が高い、という傾向にある。例えば、前者の代表である大シャモの雄は、ゲノム中の2つのZ染色体におけるrs317436622がCのホモであり(C/C)、後者の代表である白色プリマスロックの雌は、ゲノム中の1つのZ染色体におけるrs317436622がTである(T/−)。
このような相関性から、2つのSNPマーカーのいずれか一方または両方を、具体的にはrs16761810の塩基がAかGか(Z染色体をホモで持つ雄のニワトリについては、A/Aか、A/Gか、G/Gか;Z染色体をヘテロで持つ雌のニワトリについては、A/−か、G/−か)、および/またはrs317436622の塩基がCかTか(Z染色体をホモで持つ雄のニワトリについては、C/Cか、C/Tか、T/Tか;Z染色体をヘテロで持つ雌のニワトリについては、C/−か、T/−か)、の情報を、胸肉の剪断力価に関するQTLの指標として利用することができる。
本発明のSNP塩基の情報をニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTLの指標として利用することにより、目的に応じた様々な方法への応用が可能となる。応用方法は特に限定されるものではないが、例えば、第1の応用として「ニワトリの鑑定方法」が挙げられ、第2の応用として「ニワトリの胸肉の剪断力価に関与する遺伝子の特定方法」が挙げられる。
本発明によるニワトリの鑑定方法(本発明のSNP塩基の情報の第1の応用)は、鑑定の対象とするニワトリ(本明細書において「被験ニワトリ」と称する。)における本発明のSNP塩基の情報と、所定の胸肉の剪断力価を有するニワトリ(本明細書において「基準ニワトリ」と称する。)における本発明のSNP塩基の情報とを比較する工程を含む方法である。上記比較において両方の情報が一致すれば、被験ニワトリは基準ニワトリと同じ、胸肉の剪断力価に関与するQTL、すなわち胸肉の剪断力価に関与する遺伝子を含むDNA領域(本発明のSNPマーカーに隣接する、または2つのそれらに挟まれた領域)を保有していると推定することができる。例えば、胸肉の剪断力価が高いことが知られている大シャモを基準ニワトリとして選択した場合、その基準ニワトリと同じ遺伝子型を有する被験ニワトリは、胸肉の剪断力価を向上させるのに適した遺伝的因子を保有していると推定できる。「所定の胸肉の剪断力価を有するニワトリ」は、典型的には、ニワトリの品種間で比較したときに相対的に高い剪断力価を有する品種のニワトリであるが、目的によっては、相対的に低い剪断力価を有する品種のニワトリ、または中間の剪断力価を有する品種のニワトリであってもよい。
被験ニワトリおよび基準ニワトリの品種は、ニワトリ(Gallus gallus var. domesticus)に含まれる様々な品種の中から選択することができ、特に限定されるものではない。ニワトリは一般的に、用途によって肉用種、卵用種および卵肉兼用種に分類することができるが、本発明は鶏肉のおいしさに影響する胸肉の剪断力価のQTLに関係するものであることから、被験ニワトリおよび/または基準ニワトリとして、肉用種または卵肉兼用種を用いることが好ましい。肉用種の例には、軍鶏、白色コーニッシュ、ブラマ、コーチンなどが挙げられる。卵肉兼用種の例には、横斑プリマスロック、白色プリマスロック、ロードアイランドレッド、ニューハンプシャーレッド、名古屋などが挙げられる。
基準ニワトリとしては、例えば、日本で作出され、日本を原産とする品種で、通常は昭和初期くらいまでに作出されたものを指す「日本鶏」(日本在来鶏)を用いることができる。日本鶏は、「観賞用品種」(肉質に優れる品種も含まれている)と「実用品種」に大別でき、観賞用品種は「天然記念物」(15品種+2グループ)および「天然記念物以外」に分類できる。観賞用品種のうち天然記念物としては、例えば、次の15品種と、「地鶏グループ」(4品種)および「軍鶏グループ」(7品種)の2グループ、合計26品種が挙げられる:15品種=声良鶏、比内鶏、蜀鶏、蓑曳鶏、河内奴鶏、小国鶏、矮鶏、烏骨鶏、黒柏鶏、土佐のオナガドリ、東天紅鶏、蓑曳矮鶏、鶉矮鶏、地頭鶏、薩摩鶏;地鶏グループ=土佐地鶏、三重地鶏、岐阜地鶏、岩手地鶏;軍鶏グループ=大軍鶏(大シャモ)、小軍鶏、八木戸鶏、大和軍鶏、金八鶏、南京軍鶏、越後南京軍鶏。観賞用品種のうち天然記念物以外としては、例えば次の品種が挙げられる:会津地鶏、愛媛地鶏、雁鶏、久連子鶏、佐渡髭地鶏、芝鶏、徳地地鶏、チャーン。実用品種としては、例えば次の品種が挙げられる:土佐九斤、宮地鶏、名古屋、三河、出雲、熊本。
被験ニワトリとしては、基準ニワトリと同様のニワトリ、または基準ニワトリと「その他のニワトリ」との交配種、あるいはその後代を用いることができる。
「その他のニワトリ」は、胸肉の剪断力価以外の形質に優れた品種、例えば成長スピードと産肉量に優れている白色プリマスロックなどであり、育種の目的に応じて選択することができる。
基準ニワトリまたは被験ニワトリとしては、日本在来鶏由来の血液百分率が50%以上の国産銘柄鶏(地鶏、特殊肉用鶏)を用いることもできる。そのような国産銘柄鶏としては、例えば次のものが挙げられる〔https://ja.wikipedia.org/wiki/地鶏〕(国産銘柄鶏ガイドブック2007:2012):北海地鶏(北海道)、中札内地鶏(北海道)、桜姫鶏(北海道)、青森シャモロック(青森県)、南部かしわ(岩手県)、やまがた地鶏(山形県)、川俣シャモ(福島県)、にいがた地鶏(新潟県)、奥久慈しゃも(茨城県)、やさとしゃも(茨城県)、筑波地鶏(茨城県)、栃木しゃも(栃木県)、上州地鶏(群馬県)、タマシャモ(埼玉県)、房総地どり(千葉県)、甲州地どり(山梨県)、信州黄金シャモ(長野県)、美濃地鶏(岐阜県)、奥美濃古地鶏(郡上地鶏)(岐阜県)、一黒シャモ(静岡県)、駿河シャモ(静岡県)、純系名古屋コーチン(愛知県)、熊野地どり(三重県)、松阪地どり(三重県)、伊勢二見ヶ浦夫婦地鶏(三重県)、近江しゃも(滋賀県)、京地どり(京都府)、地鶏 丹波黒どり(京都府)、京赤地どり(京都府)、葵之地鶏(大阪府)、丹波地どり(兵庫県)、松風地どり(兵庫県)、播州地どり(兵庫県)、但馬地どり(兵庫県)、大和肉鶏(奈良県)、紀州地鶏(和歌山県)、鳥取産大山地どり(大山シャモ)(鳥取県)、鳥取地どり ピヨ(鳥取県)、おかやま地どり(岡山県)、岡山桃太郎地どり(岡山県)、長州黒かしわ(山口県)、阿波尾鶏(徳島県)、讃岐コーチン(香川県)、地鶏 瀬戸赤どり(香川県)、伊予赤どり(愛媛県)、伊予路しゃも(愛媛県)、媛っこ地鶏(愛媛県)、奥伊予地鶏(愛媛県)、道後地鶏(愛媛県)、土佐はちきん地鶏(高知県)、土佐ジロー(高知県)、はかた地どり(福岡県)、つしま地どり(長崎県)、天草大王(熊本県)、熊本コーチン(熊本県)、豊のしゃも(大分県)、おおいた冠地どり(大分県)、みやざき地頭鶏(宮崎県)、さつま地鶏(鹿児島県)、さつま若しゃも(鹿児島県)。
例えば、大シャモと白色プリマスロックとの間では、本発明のSNP塩基が相違している。それらの2品種を交配させて生まれた個体(F1)、またはその後代(F2以降)のSNP塩基が、大シャモと白色プリマスロックのどちらのSNP塩基と同じであるかを調べることによって、どちらの品種に由来する遺伝的因子を保有しているかを判定することができる。言い換えれば、上記F1等を被験ニワトリ、大シャモを基準ニワトリとし、それらの間でSNP塩基が一致するか否か、つまりSNPマーカーrs16761810の塩基がAであるか否か、および/または被験ニワトリにおける当該SNPマーカーrs317436622の塩基がCであるか否かを判定し、少なくとも一方のSNP塩基、好ましくは両方のSNP塩基が一致する被験ニワトリを、大シャモに由来する遺伝的因子を保有している個体として選抜することができる。そのような判定により選抜された個体を交配に用いることにより、大シャモに由来する、胸肉の剪断力価を高めるのに適した遺伝的因子を保有するニワトリを産生し、さらにはそのような優れた遺伝的因子を備えた新たな品種を育成することができる。
具体的には、例えばSNPマーカーrs16761810を利用する実施形態において、遺伝子型A/Aの大シャモの雄(基準ニワトリ)と、遺伝子型G/−の白色プリマスロックの雌を交配すると、生まれてくるF1には、遺伝子型A/Gの雄と、遺伝子型A/−の雌が生まれる。この具体例の場合、全てのF1が少なくとも1つのAをゲノム中に必ず有する。このF1の雄(A/G)と、白色プリマスロックの雌(G/−)を交配(戻し交配)した場合、生まれてくるB1には、遺伝子型A/Gの雄、遺伝子型G/Gの雄、遺伝子型A/−の雌および遺伝子型G/−の雌が含まれる。B1を被験ニワトリとし、そのrs16761810の塩基の遺伝子型を調べ、遺伝子型がA/Gである、つまり基準ニワトリと同じ塩基(A)を有していると判定された被験ニワトリを選抜する。その選抜されたB1(A/G)と、白色プリマスロックの雌(G/−)を用いて、再び戻し交配をし、遺伝子型A/Gの雄のB2を選抜する。このように、Z染色体としてSNPマーカーrs16761810の塩基が基準ニワトリと同じAであるものを保有しているかどうかに基づいて、個体の選抜と、それを用いた戻し交配とを複数回繰り返す。最終的に、Bn−1同士で、遺伝子型A/Gの雄と、遺伝子型A/−の雌を交配し、生まれたBnの中から、遺伝子型A/Aの雄と遺伝子型A/−の雌を選抜すると、これらから生まれるBn+1は雄も雌も必ず、少なくとも1つの、基準ニワトリ(大シャモ)に由来するSNP塩基(A)を有する。このような育種方法により、胸肉の剪断力価を高める大シャモに由来する遺伝的因子を保有しつつ、それ以外の形質、例えば成長スピードや産肉量に関する遺伝的背景についてはほぼ白色プリマスロックと同じものを保有する、新たなニワトリの系統を作出することができる。もう一方のSNPマーカーrs317436622を用いた場合も、または両方のSNPマーカーを用いた場合も、上記と同様にして、本発明の育種方法を実施することができる。
本発明では2つの所定のSNP塩基の情報を、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTLの指標として利用するが、将来的にニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTLの他の指標(例えば本発明の所定の2つ以外のSNPマーカー、マイクロサテライトマーカーまたはその他のDNAマーカー)が発見されれば、そのような新たな指標と本発明による指標とを組み合わせることで、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するより精度の高いQTLを提供できる可能性がある。
本発明によるニワトリの胸肉の剪断力価に関与する遺伝子の特定方法(本発明のSNP塩基の情報の第2の応用)は、基準ニワトリにおける2つの所定のSNPマーカーrs16761810およびrs317436622の間の領域に存在する遺伝子に関連する塩基配列を、基準ニワトリとは異なる(統計学的に有意差のある)胸肉の剪断力価を有するニワトリ(本明細書において「参照ニワトリ」と呼ぶ。)における、対応する部位の塩基配列と比較する工程を含む方法である。比較の結果、一つまたは複数の変異箇所が見つかれば、その変異が、遺伝子が発現するタンパク質のアミノ酸配列(すなわちタンパク質の作用の強さや機能)、発現量、その他の特性によって、胸肉の剪断力価に影響を及ぼしているかどうかを検証する。影響が確認されれば、その遺伝子を、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するものと特定することができる。このような方法により特定される遺伝子を用いることにより、2つのSNPマーカーよりも直接的に、胸肉の剪断力価に関連する遺伝的因子を保有しているかどうかを判定することが可能となる。
変異の有無を検出する対象となる「遺伝子に関連する塩基配列」は、遺伝子の転写領域、特にタンパク質を構成するエキソンの部分であってもよいし、非転写領域、特にタンパク質の発現量に大きく関係するプロモーターの部分であってもよい。「変異」は、塩基の置換、挿入、欠失などのいずれであってもよい。
「参照ニワトリ」としては、例えば、前述した被験ニワトリの説明において基準ニワトリと交配させる「その他のニワトリ」として挙げた白色プリマスロックなどが挙げられる。
本発明の2つのSNPマーカーの間の領域には、microtubule associated serine/threonine kinase family member 4(MAST4)、CD180 molecule(CD180)、LOC101750216、LOC107051897およびphosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 1(PIK3R1)の5つの遺伝子が存在する(図3参照)。これらの5つの遺伝子の情報も公開されており、例えば米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が提供する情報にアクセスすることができる。rs16761810はMAST4のイントロン領域に位置しており、rs317436622はPIK3R1のイントロン領域に位置している。上記5つの遺伝子は本発明の2つのSNPマーカーと連鎖しており、前述した2つのSNPマーカーと胸肉の剪断力価との相関性から、上記5つの遺伝子のうちの少なくとも1つがニワトリの胸肉の剪断力価に関与しているものと推測される。本明細書において、上記5つの遺伝子を「本発明の候補遺伝子」と呼ぶことがある。
本発明における所定のSNPマーカーおよび所定の候補遺伝子の塩基(配列)は、ニワトリ(被験ニワトリ、基準ニワトリ、参照ニワトリ)から採取された試料に由来するDNAから決定することができる。試料は、ニワトリのDNAの塩基配列を決定するための公知のものであればよいが、例えば、ニワトリの体細胞を含む臓器、組織、血液等の体液、鶏卵などが挙げられ、好ましくは血液である。DNAは、ゲノムDNAでも、cDNAでもよい。cDNAは、常法に従って、試料からmRNAを抽出、精製後、逆転写酵素によって合成することができる。DNA又はRNAは、当業者に公知の方法、例えばフェノール・クロロホルム法、市販のゲノムDNA抽出キット、RNA抽出キット等を用いて抽出することができる。
SNPマーカーおよび候補遺伝子の塩基(配列)を決定するための方法は特に限定されたものではなく、従来公知の方法を適用できるが、例えば、MAMA法(アレル特異的増幅法)、PCR−RFLP(制限酵素断片長多型法)法、PCRDGGE法、PCR−SSCP法、PCR−SSOP法、CR−RD法、PCR−MPH法、シークエンス法、ミニシークエンシング法、RNaseプロテクション法、TaqMan PCR法、Invader法、一塩基伸長法、SNaP shotTM法、Pyrosequencing法、Exonuclease Cycling Assay法等が挙げられる。
PCR−RFLP法は、検出したい変異部位を含む遺伝子領域をPCR法により増幅し、変異部位を認識する制限酵素でそのPCR産物を消化し、電気泳動にかけ、制限酵素による切断の有無から変異の有無を検出する方法である。まず、ゲノムDNA又はcDNAを鋳型にしてSNPを含むDNA領域の増幅を行う。例えば、上記SNP部位を含むDNA断片にハイブリダイズするプライマーを用いて、DNA試料を鋳型としたPCRを実施する。PCR法は、鋳型となるDNAとその両端において相補的であり優先的にハイブリダイズする2個のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、DNA鎖の熱変性、プライマーのアニーリング、及びポリメラーゼによる相補鎖の合成からなるプライマー伸長合成を行うサイクルを10〜80回繰り返す工程を含む。これらの操作は、通常、反応液及び耐熱性ポリメラーゼを含む市販の試薬キット、及び市販のPCR装置等を利用して簡便に実施できる。PCR反応条件、試薬、プライマー、制限酵素等の条件についても、装置のマニュアル、実験又は経験によって、最適なものを容易に選定することができる。
MAMA(Mismatch Amplification Mutation Assay)法では、一方のプライマーを多型部位に対合できるように設計し、他方のプライマーを、多型部位を含まない領域に対合できるように設計し、設計されたプライマーペアを用いてDNA増幅法を実施する。DNA試料中に多型に該当するいずれかのアレルが存在すると増幅産物が得られ、これが存在しないと増幅産物が得られない。従って、増幅産物の有無を検出することによって、特定のアレルの有無を判定できる。
PCR−RFLP法などにおいて、所定の領域の塩基配列を増幅させるために用いられるプライマー(フォワードプライマーおよびリバースプライマー)は、本発明のSNPマーカーおよびその近傍の塩基配列や、本発明の候補遺伝子およびその近傍の塩基配列に関する情報は公開されているから、当業者であれば容易に、適切な長さおよび塩基配列を有するものを設計して作成し、適切な反応条件下で用いることができる。
QTL解析を行うためには、解析用の資源家系を造成し、資源家系の各個体より表現型値および遺伝子型情報を収集する必要がある。資源家系とは、親世代、F1世代およびF2(もしくは戻し交配)世代から構成される1セットのことである。本実施例では、両親品種(親世代)に大シャモおよび白色プリマスロックを選定した。大シャモは代表的な日本鶏の1つであり、古くから闘鶏用に改良された品種である。闘鶏用品種のため筋肉質であり、その肉も極めて美味であるとの定評がある。そのため、特殊肉用鶏作出の際に雄系種鶏として頻用されている。一方、白色プリマスロックはアメリカ合衆国原産の本来卵肉兼用種であるが、肉用に特化した系統が作出され、一般ブロイラー生産やわが国での特殊肉養鶏の作出のための雌系種鶏として頻用されている。両品種は、外貌および性質が大きく異なっている(すなわち、両者の遺伝的背景は大きく異なっている)ため、この2品種を用いることにより、QTL解析に用いるDNAマーカーがより多く得られることが期待される。
[方法]
F2資源家系
本実施例では、独立行政法人家畜改良センター兵庫牧場より導入した大シャモ831系統(OS)ならびに同センター由来の白色プリマスロック13系統(WPR)を用いた。資源家系は、OS雄1個体、WPR雌4個体に基づき造成された。親世代の雄1個体に対して雌4個体をそれぞれ交配させることによりF1世代個体を得た。その後、F1世代個体(雄4個体、雌16個体)を全きょうだい交配することによりF2世代215個体を作出した。本実施例で造成したF2資源家系の家系図を図4に示す。
F2資源家系
本実施例では、独立行政法人家畜改良センター兵庫牧場より導入した大シャモ831系統(OS)ならびに同センター由来の白色プリマスロック13系統(WPR)を用いた。資源家系は、OS雄1個体、WPR雌4個体に基づき造成された。親世代の雄1個体に対して雌4個体をそれぞれ交配させることによりF1世代個体を得た。その後、F1世代個体(雄4個体、雌16個体)を全きょうだい交配することによりF2世代215個体を作出した。本実施例で造成したF2資源家系の家系図を図4に示す。
動物飼育条件
孵化させた雛を常時点灯、不断給餌、自由給水の条件のもと、育雛機内で育成した。育雛機は温源部と非温源部で構成されており、温源部を30℃に設定し、雛が自由に移動できる環境下で飼育した。孵化時から7週齢まで市販の初生雛用飼料(CP:22%,ME:2900Kcal/kg)を与えた。
孵化させた雛を常時点灯、不断給餌、自由給水の条件のもと、育雛機内で育成した。育雛機は温源部と非温源部で構成されており、温源部を30℃に設定し、雛が自由に移動できる環境下で飼育した。孵化時から7週齢まで市販の初生雛用飼料(CP:22%,ME:2900Kcal/kg)を与えた。
剪断力価測定
7週齢個体をCO2ガスで深麻酔した後、片側の頸動脈を切断し、放血屠殺を行った(10分間)。放血後の個体を75℃で30秒間湯浸し、脱毛器(NS−1,南部工業株式会社)を用いて脱毛した。右側の胸肉を4℃の条件下で48時間保存し、皮を剥ぎ取った後に、繊維方向と平行に6.0mmコルクボウラーを用いて試料を採取した。この試料に対し、インストロン(5942型試験機,インストロン社)を用いて剪断力価を測定した。
7週齢個体をCO2ガスで深麻酔した後、片側の頸動脈を切断し、放血屠殺を行った(10分間)。放血後の個体を75℃で30秒間湯浸し、脱毛器(NS−1,南部工業株式会社)を用いて脱毛した。右側の胸肉を4℃の条件下で48時間保存し、皮を剥ぎ取った後に、繊維方向と平行に6.0mmコルクボウラーを用いて試料を採取した。この試料に対し、インストロン(5942型試験機,インストロン社)を用いて剪断力価を測定した。
統計処理
JMP version 11.2.0を用い、TukeyのHSD検定によって、大シャモ、白色プリマスロック、F1世代ならびにF2世代の4群における剪断力価を比較した。また、QTL解析に先立ち、環境要因を排除するために、孵化日、性およびF1雌親に関し、F2世代が示した表現型値(剪断力価)の補正を行った。
JMP version 11.2.0を用い、TukeyのHSD検定によって、大シャモ、白色プリマスロック、F1世代ならびにF2世代の4群における剪断力価を比較した。また、QTL解析に先立ち、環境要因を排除するために、孵化日、性およびF1雌親に関し、F2世代が示した表現型値(剪断力価)の補正を行った。
DNAマーカータイピング(遺伝子型情報の収集)
本研究では、全F2世代個体215個体の内、剪断力価上位30個体および下位30個体についてマーカータイピングを行った(selective genotyping; Lebowitz et al., 1987; Lander and Botstein, 1989)。DNAマーカーには、Restriction-site associated DNA sequence(RAD−seq)法(Miller et al., 2007)により得られた、一塩基多型(Single nucleotide polymorphism:SNP)マーカーを用いた。F2個体の遺伝子型(SNP)の判定は、資源家系の親個体である大シャモおよび白色プリマスロックの遺伝子型(SNP)が完全に異なるものについて行った。また、遺伝子型(SNP)が判定できなかった個体の割合が、1マーカー当たり20%を上回ったマーカーは解析には用いなかった。最終的に、QTL解析には699個のSNPマーカーを用いた。
本研究では、全F2世代個体215個体の内、剪断力価上位30個体および下位30個体についてマーカータイピングを行った(selective genotyping; Lebowitz et al., 1987; Lander and Botstein, 1989)。DNAマーカーには、Restriction-site associated DNA sequence(RAD−seq)法(Miller et al., 2007)により得られた、一塩基多型(Single nucleotide polymorphism:SNP)マーカーを用いた。F2個体の遺伝子型(SNP)の判定は、資源家系の親個体である大シャモおよび白色プリマスロックの遺伝子型(SNP)が完全に異なるものについて行った。また、遺伝子型(SNP)が判定できなかった個体の割合が、1マーカー当たり20%を上回ったマーカーは解析には用いなかった。最終的に、QTL解析には699個のSNPマーカーを用いた。
連鎖地図の作製およびQTL解析
Map Manager QTX20b ソフトウェア(Manly et al., 2001)を用いて、コサンビの地図関数(Kosambi, 1943)に基づき、699個のSNPマーカーからなる遺伝連鎖地図を作製した。次いで、R/qtlソフトウェア(Broman et al., 2003)を用いてsimple interval mapping法によりQTL解析を行った。有意差の閾値はpermutation testを2,000回行うことにより求めた(Broman and Sen, 2009)。
Map Manager QTX20b ソフトウェア(Manly et al., 2001)を用いて、コサンビの地図関数(Kosambi, 1943)に基づき、699個のSNPマーカーからなる遺伝連鎖地図を作製した。次いで、R/qtlソフトウェア(Broman et al., 2003)を用いてsimple interval mapping法によりQTL解析を行った。有意差の閾値はpermutation testを2,000回行うことにより求めた(Broman and Sen, 2009)。
[結果]
表現型値の比較
大シャモ、白色プリマスロック、F1およびF2世代における胸肉の剪断力価を表1に示した。両親品種および各世代間で比較した場合、白色プリマスロックおよびF2世代が同等の値を示し、その値は大シャモに対して有意に小さかった(P<0.05)。また、F1世代の値は両親品種の中間の値を示した。
表現型値の比較
大シャモ、白色プリマスロック、F1およびF2世代における胸肉の剪断力価を表1に示した。両親品種および各世代間で比較した場合、白色プリマスロックおよびF2世代が同等の値を示し、その値は大シャモに対して有意に小さかった(P<0.05)。また、F1世代の値は両親品種の中間の値を示した。
QTL解析
QTL解析の結果、Z染色体上の137cMの位置に、雄に特異的なsignificant QTLが検出された。このQTLの寄与率は41.8%で相加効果は−0.90997であった。本QTLが検出された領域はSNPのrs317436622(21.01Mb)とrs16761810(21.62Mb)の間であり、この領域に存在する遺伝子はmicrotubule associated serine/threonine kinase family member 4(MAST4)、CD180 molecule(CD180)、LOC101750216、LOC107051897およびphosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 1(PIK3R1)の5つである(図3)。MAST4遺伝子は、微小管関連セリン/スレオニンキナーゼファミリーに属し、この遺伝子が支配するタンパク質は微小管の足場タンパク質(scatfold)の調節に関与している(Hibar et al., 2017)。本遺伝子は、マウスの筋肉中において発現が認められている一方で、脳の海馬においてその発現が増加すると発作様の行動が発動されるという報告もある(French et al., 2001; Garland et al., 2007)。CD180遺伝子はトール様受容体ファミリーの一つであり、自然免疫反応におけるシグナル伝達に関与している(Medzhitov et al., 1997; Rock et al., 1998)。ヒトにおいては、β細胞中で最も発現している(Egli et al., 2015)。PIK3R1遺伝子は、PI3キナーゼのサブユニットを調節する役割があり、そのシグナル経路はインスリン代謝において重要な働きがある(Winnay et al., 2017)。マウスにおいては、PIK3R1が過剰発現すると筋管および肝細胞におけるインスリンシグナル伝達を低下させる報告がある(Kuo et al., 2012; Barbour et al., 2005; Draznin, 2006; Taniguchi et al., 2007)。LOC101750216およびLOC107051897は、機能が解明されていない未知の遺伝子である。
QTL解析の結果、Z染色体上の137cMの位置に、雄に特異的なsignificant QTLが検出された。このQTLの寄与率は41.8%で相加効果は−0.90997であった。本QTLが検出された領域はSNPのrs317436622(21.01Mb)とrs16761810(21.62Mb)の間であり、この領域に存在する遺伝子はmicrotubule associated serine/threonine kinase family member 4(MAST4)、CD180 molecule(CD180)、LOC101750216、LOC107051897およびphosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 1(PIK3R1)の5つである(図3)。MAST4遺伝子は、微小管関連セリン/スレオニンキナーゼファミリーに属し、この遺伝子が支配するタンパク質は微小管の足場タンパク質(scatfold)の調節に関与している(Hibar et al., 2017)。本遺伝子は、マウスの筋肉中において発現が認められている一方で、脳の海馬においてその発現が増加すると発作様の行動が発動されるという報告もある(French et al., 2001; Garland et al., 2007)。CD180遺伝子はトール様受容体ファミリーの一つであり、自然免疫反応におけるシグナル伝達に関与している(Medzhitov et al., 1997; Rock et al., 1998)。ヒトにおいては、β細胞中で最も発現している(Egli et al., 2015)。PIK3R1遺伝子は、PI3キナーゼのサブユニットを調節する役割があり、そのシグナル経路はインスリン代謝において重要な働きがある(Winnay et al., 2017)。マウスにおいては、PIK3R1が過剰発現すると筋管および肝細胞におけるインスリンシグナル伝達を低下させる報告がある(Kuo et al., 2012; Barbour et al., 2005; Draznin, 2006; Taniguchi et al., 2007)。LOC101750216およびLOC107051897は、機能が解明されていない未知の遺伝子である。
本実施例の結果、ニワトリ胸肉の剪断力価に関与するQTLの一つが発見され、所定のSNPマーカーを用いたマーカーアシスト育種を行える可能性が示された。また、このQTL近傍のSNPマーカーに挟まれた領域には5つの遺伝子が存在している。将来的に、QTLが検出された領域に存在する各遺伝子についてmRNAを用いた発現解析を行うことで、ニワトリ胸肉の剪断力価に関与する候補遺伝子が明らかになれば、マーカーアシスト育種に止まらず、より正確なジーンアシスト育種も可能になると考えられる。
Claims (10)
- ニワトリ(Gallus gallus var. domesticus)のZ染色体上のSNPマーカーrs16761810および/またはrs317436622の塩基の情報を、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与するQTLの指標として利用する方法。
- 前記情報が、前記SNPマーカーrs16761810の塩基がAかGか、および/または前記SNPマーカーrs317436622の塩基がCかTか、の情報である、請求項1に記載の利用方法。
- 請求項1に記載の方法を利用したニワトリの鑑定方法であって、
鑑定の対象とするニワトリ(以下「被験ニワトリ」と呼ぶ。)における前記SNPマーカーrs16761810および/またはrs317436622の塩基の情報と、所定の胸肉の剪断力価を有するニワトリ(以下「基準ニワトリ」と呼ぶ。)における対応するSNPマーカーの塩基の情報と、一致するか否かを判定する工程を含む、鑑定方法。 - 請求項2に記載の方法を利用したニワトリの鑑定方法であって、
被験ニワトリにおける前記SNPマーカーrs16761810の塩基が基準ニワトリの当該SNPマーカーの塩基Aと一致するか否か、および/または被験ニワトリにおける前記SNPマーカーrs317436622の塩基が基準ニワトリの当該SNPマーカーの塩基Cと一致するか否か、を判定する工程を含む、鑑定方法。 - 請求項3または4に記載の鑑定方法により選抜された、基準ニワトリとSNPマーカーの塩基が一致する被験ニワトリ、またはその後代を、交配に用いる、ニワトリの生産方法。
- 請求項5に記載のニワトリの生産方法を複数回行うことを含む、ニワトリの育種方法。
- 前記基準ニワトリが日本鶏である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
- 前記被験ニワトリが、日本鶏とその他のニワトリとの交配種、またはその後代である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
- 請求項1または2に記載の方法を利用した、ニワトリの胸肉の剪断力価に関与する遺伝子の特定方法であって、
基準ニワトリにおける、前記SNPマーカーrs16761810およびrs317436622の間の領域に存在する遺伝子に関連する塩基配列を、基準ニワトリとは異なる胸肉の剪断力価を有するニワトリ(以下「参照ニワトリ」と呼ぶ。)における、対応する部位の塩基配列と比較する工程を含む、特定方法。 - 前記2つのSNPマーカーの間の領域に存在する前記遺伝子が、MAST4(microtubule associated serine/threonine kinase family member 4)、CD180(CD180 molecule)、LOC101750216、LOC107051897およびPIK3R1(phosphoinositide-3-kinase regulatory subunit 1)からなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項9に記載の特定方法。
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2017
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