本発明に係る超音波診断装置、超音波プローブの保守装置、超音波プローブ、および超音波プローブの保守プログラムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブの音響レンズの表面で反射された超音波の伝搬時間(TOF:Time Of Flight)にもとづいて音響レンズの劣化度を評価する機能を有する。以下、第1実施形態では、当該機能を超音波診断装置が有する場合の例を説明する。また、第2実施形態では当該機能を保守装置が有する場合の例を、第3実施形態では当該機能を超音波プローブが有する場合の例を、それぞれ説明する。
また、以下の説明では、超音波プローブの音響レンズの表面で反射された超音波の伝搬時間を、反射波伝搬時間TOFという。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る超音波診断装置10の一構成例を示すブロック図である。また、図2は、超音波プローブ30の音響レンズ42を含むプローブ本体40の一例を示す構成図である。
超音波診断装置10は、たとえば超音波プローブ30が受信した被検体Pからのエコー信号にもとづいて超音波画像を生成する。また、第1実施形態に係る超音波診断装置10は、超音波プローブ30のプローブ本体40の音響レンズ42の表面42a(図2参照)で反射された超音波の反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する。
超音波診断装置10は、入力回路21、ディスプレイ22、および超音波プローブ30と接続されて用いることができる。なお、超音波診断装置10は、入力回路21、ディスプレイ22、および超音波プローブ30の少なくとも1つを備えてもよい。
超音波診断装置10は、図1に示すように、送受信回路11、Bモード処理回路12、ドプラ処理回路13、画像生成回路14、画像メモリ15、表示制御回路16、記憶回路17、ネットワーク接続回路18、および処理回路19を有する。
送受信回路11は、送信回路および受信回路を有する。送受信回路11は、処理回路19に制御されて、超音波の送受信における送信指向性と受信指向性とを制御する。なお、図1には送受信回路11が超音波診断装置10に設けられる場合の例について示したが、送受信回路11は超音波プローブ30に設けられてもよいし、超音波診断装置10と超音波プローブ30の両方に設けられてもよい。
送信回路は、パルス発生器、送信遅延回路およびパルサ回路などを有し、超音波振動子に駆動信号を供給する。パルス発生器は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。送信遅延回路は、超音波振動子から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生器が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサ回路は、レートパルスにもとづくタイミングで、超音波振動子に駆動パルスを印加する。送信遅延回路は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面から送信される超音波ビームの送信方向を任意に調整する。
受信回路は、アンプ回路、A/D変換器、加算器などを有し、超音波振動子が受信したエコー信号を受け、このエコー信号に対して各種処理を行なってエコーデータを生成する。アンプ回路は、エコー信号をチャンネルごとに増幅してゲイン補正処理を行なう。A/D変換器は、ゲイン補正されたエコー信号をA/D変換し、デジタルデータに受信指向性を決定するのに必要な遅延時間を与える。加算器は、A/D変換器によって処理されたエコー信号の加算処理を行なってエコーデータを生成する。加算器の加算処理により、エコー信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。
Bモード処理回路12は、受信回路からエコーデータを受信し、対数増幅、包絡線検波処理などを行なって、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。ドプラ処理回路13は、受信回路から受信したエコーデータから速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワーなどの移動態情報を多点について抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。
画像生成回路14は、超音波プローブ30が受信したエコー信号にもとづいて超音波画像データを生成する。たとえば、画像生成回路14は、Bモード処理回路12が生成した2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度にて表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成回路14は、ドプラ処理回路13が生成した2次元のドプラデータから移動態情報を表す平均速度画像、分散画像、パワー画像、または、これらの組み合わせ画像としての2次元のカラードプラ画像の画像データを生成する。
画像メモリ15は、処理回路19が生成した2次元超音波画像を記憶する記憶回路である。
表示制御回路16は、GPU(Graphics Processing Unit)およびVRAM(Video RAM)などを含み、処理回路19により制御されて、処理回路19から表示出力要求のあった画像をディスプレイ22に表示させる。
記憶回路17は、処理回路19に制御されて、レンズ劣化度評価のための反射波伝搬時間TOFの測定条件、反射波伝搬時間TOFの初期値T0、反射波伝搬時間TOFの任意日時の測定値Tn(ただし、nは何度目の測定かを示す正の整数)、反射波伝搬時間TOFの使用許容閾値Tth、反射波伝搬時間TOFの測定値Tnを測定した装置の情報を含む測定情報、劣化度の評価結果などを格納する。
この記憶回路17は、磁気的もしくは光学的記録媒体または半導体メモリなどの、プロセッサにより読み取り可能な記録媒体を含んだ構成を有する。記憶回路17の記憶媒体内のプログラムおよびデータの一部または全部は電子ネットワークを介した通信によりダウンロードされてもよいし、光ディスクなどの可搬型記憶媒体を介して記憶回路17に与えられてもよい。
また、記憶回路17に記憶される情報の一部または全部は、保守装置25の記憶回路26、外部の記憶回路101、超音波プローブ30の記憶回路33、接続インターフェース32の記憶回路34の少なくとも1つに分散されて記憶され、あるいは複製されて記憶されてもよい。たとえば、記憶回路17に記憶される情報の一部または全部は、外部の記憶回路101に記憶されてネットワーク100を介して処理回路19により取得されて記憶回路17に格納されてもよい。
ネットワーク接続回路18は、ネットワークの形態に応じた種々の情報通信用プロトコルを実装する。ネットワーク接続回路18は、この各種プロトコルに従って、超音波診断装置10と、保守装置25、画像サーバなどに含まれる外部の記憶回路101、および情報処理装置102などの他の機器と、を接続する。この接続には、電子ネットワークを介した電気的な接続などを適用することができる。ここで電子ネットワークとは、電気通信技術を利用した情報通信網全般を意味し、無線/有線の病院基幹LAN(Local Area Network)やインターネット網のほか、電話通信回線網、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワークおよび衛星通信ネットワークなどを含む。
また、ネットワーク接続回路18は、非接触無線通信用の種々のプロトコルを実装してもよい。この場合、超音波診断装置10は、たとえば保守装置25や超音波プローブ30と、ネットワークを介さず直接にデータ送受信することができる。
処理回路19は、超音波診断装置10を統括制御する機能を実現するほか、記憶回路17に記憶された超音波プローブ保守プログラムを読み出して実行することにより、超音波プローブ30の音響レンズ42の劣化度合いを容易に自動的に評価するための処理を実行するプロセッサである。
入力回路21は、たとえばキーボード、タッチパネル、テンキーなどの一般的な入力装置により構成され、ユーザの操作に対応した操作入力信号を処理回路19に出力する。
ディスプレイ22は、たとえば液晶ディスプレイやOLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイなどの一般的な表示出力装置により構成され、処理回路19の制御に従って各種情報を表示する。なお、超音波診断装置10は、入力回路21およびディスプレイ22の少なくとも一方を備えてもよい。
保守装置25は、記憶回路26を備え、超音波プローブ30を保守管理するためにサービスマンによって利用される。保守装置25は、送受信回路11を有してもよい。
外部の記憶回路101は、ネットワーク100上に設けられた記憶回路であり、ネットワーク100を介してデータ送受信可能に超音波診断装置10などの機器と接続される。
情報処理装置102は、ネットワーク100を介してデータ送受信可能に超音波診断装置10などの機器と接続される。情報処理装置102は、たとえば一般的なパーソナルコンピュータやワークステーション、タブレット端末などの携帯型情報処理端末などにより構成することができる。
超音波診断装置10は、超音波プローブ30の音響レンズ42の劣化度を示す情報を情報処理装置102に通知することができる。具体的な通知方法については図7を用いて後述する。たとえば、情報処理装置102は、サービスマンが携帯する携帯型情報処理端末であってもよい。この場合、サービスマンは、情報処理装置102に通知された音響レンズ42の劣化度を示す情報にもとづいて超音波プローブ30のメンテナンスの要否を判断し、必要に応じて保守装置25を用いて超音波プローブ30のメンテナンス作業を行うことができる。
超音波プローブ30は、ケーブル31および接続インターフェース32を介して、超音波診断装置10と着脱自在に接続される。なお、接続インターフェース32が超音波プローブ30の筐体に一体的に設けられている場合は、ケーブル31は不要である。また、超音波プローブ30が超音波診断装置10と無線通信可能な場合は、ケーブル31と接続インターフェース32の両者とも用いられなくてもよい。
また、図1に示すように、超音波プローブ30および接続インターフェース32は、それぞれ記憶回路33および34を有してもよい。この場合、記憶回路33および34は、それぞれ、反射波伝搬時間TOFの測定条件、反射波伝搬時間TOFの初期値T0、反射波伝搬時間TOFの任意日時の測定値Tn、反射波伝搬時間TOFの使用許容閾値Tth、反射波伝搬時間TOFの測定値Tnを測定した装置の情報を含む測定情報、劣化度の評価結果などを格納することができる。
図2に示すように、超音波プローブ30のプローブ本体40は、ケース41、音響レンズ42、整合層43、複数の超音波振動子(圧電振動子)により構成される振動子群44、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材45、フレキシブルプリント基板46、および温度センサ47を有する。
超音波プローブ30としては、スキャン方向(アジマス方向)に複数の超音波振動子が配列されるとともにレンズ方向(エレベーション方向)にも複数の素子が配列された2次元アレイプローブを用いることができる。この種の2次元アレイプローブとしては、たとえば1.5Dアレイプローブ、1.75Dアレイプローブや、2Dアレイプローブなどを用いることができる。
通常の超音波画像データを収集するためのスキャン(以下、撮像スキャンという)を実行する場合は、超音波プローブ30の音響レンズ表面42aを被検体の体表に当接させた状態で超音波の送受信が行われる。この場合、送受信回路11は、超音波プローブ30から被検体に対して超音波を送信させるとともに、超音波プローブ30が受信した被検体からのエコー信号にもとづいてエコーデータを生成する。
一方、超音波プローブ30の音響レンズ42の劣化度を評価するための反射波伝搬時間TOFを測定するためのスキャン(以下、TOF測定スキャンという)を実行する場合は、超音波プローブ30の音響レンズ表面42aが、音響レンズ42とは異なる物性(少なくとも音響インピーダンスを含む)を有する外部媒質(たとえば空気など)に向けられた状態で超音波の送受信が行われる。
TOF測定スキャンを実行する場合、送受信回路11は、振動子群44を構成する複数の超音波振動子(圧電振動子)の少なくとも1つから送信された超音波であって、音響レンズ表面42aと外部媒質とが接する界面で反射された超音波を受信する。たとえば、空気と音響レンズ42とでは、音響インピーダンスが大きく異なる。このため、音響レンズ表面42aを空気に向けた状態で超音波振動子から送信された超音波は、大部分が音響レンズ表面42aと空気との境界面で反射する。この反射波の送信から受信までの伝播時間が反射波伝搬時間TOFとして測定される。
超音波プローブ30は、使用されるにともない、被検体の体表に当接する音響レンズ42が体表との摩擦によって徐々に摩耗していってしまう。また、超音波プローブ30のユーザの取り扱い方によっては、音響レンズ42が突然剥離してしまうなどの異常が発生してしまう場合もある。
摩耗が進行した音響レンズ42には、安全上のリスクや性能上のリスクが存在する。安全上のリスクとしては、被検体を感電させてしまうことや、振動子が発生した熱を過度に被検体に伝えてしまうことなどが挙げられる。性能上のリスクとしては、画質が低下して画像診断の精度が低下することが挙げられる。これは、レンズ方向およびスキャン方向の少なくとも一方のレンズ曲率が変化することに起因する。レンズ曲率が変化すると、音響ビームのフォーカス位置が設計上予定されていた位置からずれてしまい、画質が劣化してしまう。
このため、摩耗が進行し、あるいは剥離が発生するなどして音響レンズ42が劣化してしまった超音波プローブ30は、撮像スキャンでの利用を速やかに取りやめ、補修あるいは交換等する必要がある。したがって、超音波プローブ30は、適切に保守管理されることが好ましい。
ここで、整合層43の厚みは、経年劣化によってもほとんど変化しないものと考えられる。このため、音響レンズ42の厚みは、超音波振動子から音響レンズ表面42aまでの距離から容易に求められるといえる。そして、超音波振動子から音響レンズ表面42aまでの距離は、反射波伝搬時間TOFに比例する。
そこで、本実施形態に係る超音波診断装置10の処理回路19は、超音波プローブ30の音響レンズ表面42aが音響レンズ42とは異なる物性を有する外部媒質に向けられた状態でスキャン(TOF測定スキャン)を行って反射波伝搬時間TOFを測定し、この反射波伝搬時間TOFにもとづいて自動的に音響レンズ42の劣化度を評価する。
まず、処理回路19の基本的な機能について説明する。
図3は、第1実施形態に係る超音波診断装置10の処理回路19のプロセッサによる実現機能の基本例を示す概略的なブロック図である。
第1実施形態に係る超音波診断装置10の処理回路19は、反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する機能を有する。具体的には、図3に示すように、処理回路19のプロセッサは、取得機能51、比較機能52、劣化度評価機能53、格納機能54、および通知機能55を実現する。これらの各機能51−55は、それぞれプログラムの形態で記憶回路17に記憶されている。
取得機能51は、超音波プローブ30の少なくとも1つの超音波振動子で測定された、音響レンズ表面42aで反射された超音波の反射波伝搬時間TOFを取得する。
ここで、反射波伝搬時間TOFの取得とは、取得機能51が送受信回路11を介して超音波プローブ30を制御して反射波伝搬時間TOFを直接測定することを含む。また、反射波伝搬時間TOFの取得とは、あらかじめ測定されて記憶回路17、26、33、34、101など(以下、記憶回路17等という)に記憶された反射波伝搬時間TOFを、事後的に読み出して取得することも含む。事後的に読み出す場合、反射波伝搬時間TOFの測定は、超音波診断装置10とは異なる超音波診断装置により実行されてもよいし、超音波プローブ30が送受信回路および処理回路を備える場合は超音波プローブ30により実行されてもよい。反射波伝搬時間TOFを測定した装置の情報は、測定情報として反射波伝搬時間TOFに関連付けられて記憶されている。
また、超音波プローブ30が温度センサ47を有する場合、取得機能51は、温度センサ47の出力を取得する。温度センサ47は、たとえばサーミスタにより構成される。
比較機能52は、反射波伝搬時間TOFの測定値Tnを、初期値T0および閾値Tthと比較する。
劣化度評価機能53は、反射波伝搬時間TOFの測定値Tnにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する。具体的には、劣化度評価機能53は、比較機能52の比較結果にもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する。
格納機能54は、劣化度評価機能53により評価された音響レンズ42の劣化度を記憶回路17、26、33、34、101(記憶回路17等)の少なくとも1つの記憶部に格納させる
通知機能55は、劣化度評価機能53により評価された音響レンズ42の劣化度を示す情報を、ディスプレイ22に表示させることにより超音波診断装置10のユーザに通知し、またはネットワーク100を介して超音波診断装置10と接続された外部の情報処理装置102に与えることにより情報処理装置102のユーザに通知する。
図4は、第1実施形態に係る超音波診断装置10の処理回路19のプロセッサが、TOF測定スキャンによって反射波伝搬時間TOFの初期値T0を取得する際の手順の一例を示すフローチャートである。図4において、Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。なお、図4には、取得機能51が送受信回路11を介して超音波プローブ30を制御して初期値T0を直接測定する場合の例を示す。
また、図5は、TOF測定スキャンにおける受信信号強度の時間変化を示す波形の一例を示す説明図である。
図4に示す手順は、超音波プローブ30の工場出荷時や、超音波プローブ30の最初の使用時などに実行されるとよい。また、図4に示す手順は、超音波プローブ30が空中に向けられた状態でスタートとなる。
ステップS1において、格納機能54は、反射波伝搬時間TOFの初期値T0を測定した装置の情報として超音波診断装置10の情報を記憶回路17等に格納する。
次に、ステップS2において、取得機能51は、あらかじめ記憶回路17等に格納された反射波伝搬時間TOFの測定条件を取得する。測定条件には、TOF測定スキャンで駆動する少なくとも1つの超音波振動子の情報、超音波振動子の駆動電圧、駆動周波数、駆動波形(たとえば波形は正弦波である、ガウシアンであるなど)、ゲイン、駆動時間、超音波波数(たとえば波数は1波である、連続波であるなど)、測定時温度の少なくとも1つを含む。
なお、この測定条件は、超音波プローブ30の機種ごとに、反射波伝搬時間TOFの測定に好ましい条件を設定しておくとよい。たとえば、駆動周波数は、超音波プローブの機種ごとに反射波伝搬時間TOFの測定に好ましい条件を設定しておくことが好ましい。超音波振動子の発振に好適な中心周波数は、超音波プローブの形状等に応じて異なるためである。
TOF測定スキャンで駆動される少なくとも1つの超音波振動子は、振動子群44を構成する全ての超音波振動子であってもよいし、一部の超音波振動子であってもよい。一部の超音波振動子を用いる場合は、画質に大きく寄与する中央領域に設けられた超音波振動子を用いるとよい。なお、以下の説明では、1つの超音波振動子が1チャネルを構成する場合の例を示す。
次に、ステップS3において、取得機能51は、取得した測定条件で、送受信回路11を介して超音波プローブ30を制御し、反射波伝搬時間TOFの初期値T0を測定する。
図5に示すように、TOF測定スキャンの受信信号強度波形は、超音波送信時t=0の直後の期間(初期ノイズ期間)では、送信にともなうノイズ波形WaおよびWbが支配的である。反射波伝搬時間TOFの初期値T0の測定時は、音響レンズ表面42aで反射された超音波が戻ってくる時間t=T0は、プローブ本体40の音響レンズ42や整合層43の厚みなどの設計値から予測可能である。このため、取得機能51は、超音波の送信から初期ノイズ期間経過後の所定期間を注目期間D1とし、この注目期間D1内の波形w1から初期値T0を測定するとよい。
図6は、反射波伝搬時間TOFとして定義されうる3つのタイミング例を示す説明図である。図6は、図5の注目期間D1を拡大した図である。
反射波伝搬時間TOFは、超音波の送信時t=0から、注目期間D1における最大強度Vpの所定割合Rth(たとえば0.1など)の強度Vp×Rthの絶対値に、受信信号強度が注目期間D1で最初に達する時までとするとよい(図6の「ピークの所定割合」参照)。
また、反射波伝搬時間TOFは、超音波の送信時t=0から、注目期間D1で最初に受信信号強度がゼロになるゼロクロス時までとしてもよい(図6の「ゼロクロス」参照)。また、反射波伝搬時間TOFは、超音波の送信時t=0から、注目期間D1における最大強度Vpとなる時までとしてもよい(図6の「ピーク」参照)。
ただし、注目期間D1の最初のゼロクロス時を用いる場合は、ピーク時を用いる場合よりも超音波送信時t=0に近いために理論的にはノイズの影響を受けづらいという利点がある一方で、最初のゼロクロス時は波形の振幅が小さいためにゼロクロス時点を正確に求めることが難しいという欠点がある。また、ピーク時を用いる場合は、最初のゼロクロス時を用いる場合よりも正確にピーク時点を特定できるという利点がある一方で、最初のゼロクロス時よりも超音波送信時t=0から遠くなるためにノイズの影響を受けやすいという欠点がある。
ピークの所定割合時を用いる場合は、ピーク時を用いる場合よりも超音波送信時t=0に近いためにノイズの影響を受けづらいとともに、正確に到達時点を特定できる。したがって、これら3つのタイミングでは、ピークの所定割合時を用いることが最も好ましい。
なお、反射波伝搬時間TOFとするタイミングは、図6に示した3つのタイミングに限られず、たとえばVpとV−pを含む1波長が最初にゼロクロスするタイミングなどを用いることができる。
このように、図4のステップS3において、取得機能51は、これらのいずれかのタイミングを反射波伝搬時間TOFとして、反射波伝搬時間TOFの初期値T0を測定する。
反射波伝搬時間TOFとするタイミングは、劣化度を評価する日時における測定値Tnとで、同一のタイミングとする。このタイミングの情報は、測定条件として記憶回路17等にあらかじめ記憶させておくとよい。
そして、ステップS4において、格納機能54は、初期値T0を記憶回路17等に記憶させる。
以上の手順により、超音波プローブ30の反射波伝搬時間TOFの初期値T0を測定し記憶回路17等に格納することができる。
図7は、第1実施形態に係る超音波診断装置10の処理回路19のプロセッサが、TOF測定スキャンによって反射波伝搬時間TOFの測定値Tnを取得して音響レンズ42の劣化度を評価する際の手順の一例を示すフローチャートである。ただし、nは何度目の測定かを示す正の整数である。なお、図7には、取得機能51が送受信回路11を介して超音波プローブ30を制御して測定値Tnを直接測定する場合の例を示す。また、図7には、測定される値が現在の値(最新の値)である場合の例を示した。
この手順は、図4に示す手順によって初期値T0が記憶回路17等に格納されてスタートとなる。すなわち、図7に示す手順は、図4に示す初期値T0の測定時よりも後の所定の測定時に実行される。
まず、ステップS11において、取得機能51は、記憶回路17等から反射波伝搬時間TOFの初期値T0を測定した装置の情報を含む測定情報を取得し、今からn回目の反射波伝搬時間TOFを測定する装置の情報と照合する。そして、取得機能51は、反射波伝搬時間TOFのn回目の測定値を測定した装置の情報として超音波診断装置10の情報を記憶回路17等に格納する。
この測定装置の情報は、超音波プローブ30の保守管理を担当するサービスマンによって事後的に利用される。たとえば、サービスマンは、劣化度評価機能53による超音波プローブ30の劣化度の評価に疑問を持ったとき、測定装置の情報を用いることで、この評価が測定装置に生じていたトラブルによって影響を受けたものか否かを容易に切り分けることができる。
次に、ステップS12において、取得機能51は、図4のステップS2と同様に、あらかじめ記憶回路17等に格納された反射波伝搬時間TOFの測定条件を取得する。
次に、ステップS13において、取得機能51は、図4のステップS3と同様に、取得した測定条件で、送受信回路11を介して超音波プローブ30を制御し、n回目の反射波伝搬時間TOFの測定値Tn(たとえばリアルタイムに現在測定している場合は現在の値)を測定する。このとき、図4のステップS4と同様に、格納機能54は、測定値Tnを記憶回路17等に記憶させるとよい。
この結果、取得機能51は、たとえ初期値T0が異なる装置で測定されていたとしても、初期値T0の測定時と同一の測定条件で測定値Tnを測定することができる。
次に、ステップS14において、比較機能52は、初期値T0と測定値Tnとを比較する。このとき、比較機能52は、記憶回路17等のいずれかから初期値T0を読み出して利用する。たとえば、超音波プローブ30の記憶回路33に初期値T0が記憶されていれば、たとえ初期値T0が異なる装置で測定されていたとしても、超音波プローブ30を超音波診断装置10に有線または無線で接続するだけで、比較機能52は、超音波プローブ30の記憶回路33から初期値T0を読み出すことができる。
図8は、反射波伝搬時間TOFの初期値T0と、最新の測定値Tnと、使用許容閾値Tthとの関係を説明するための図である。
図8に示すように、音響レンズ42が摩耗すると、反射波伝搬時間TOFの測定値Tnは、摩耗量に応じて初期値T0から徐々に小さくなっていく。したがって、初期値T0と測定値Tnとを比較することにより、測定値Tnの測定時における音響レンズ42の厚みや、初期値T0の測定時の厚みに対する音響レンズ42の摩耗量を求めることができる。そこで、ステップS14において、比較機能52は、初期値T0と測定値Tnとを比較する。より具体的には、比較機能52は、初期値T0と測定値Tnとを比較し、たとえば測定値Tnの測定時における音響レンズ42の厚みや、初期値T0の測定時の厚みに対する音響レンズ42の摩耗量、または初期値T0と測定値Tnとの比などを求め、劣化度評価機能53に与える。
また、上述したように、摩耗が進行した音響レンズ42には、安全上のリスクや性能上のリスクが存在する。そこで、ステップS14において、比較機能52は、安全上のリスクまたは性能上のリスクを考慮してあらかじめ決定された使用許容閾値Tthと測定値Tnとを比較する(図8参照)。
なお、使用許容閾値Tthは、あらかじめ記憶回路17等に格納される。また、使用許容閾値Tthは、超音波プローブ30の機種に応じて設定されるとよい。
次に、ステップS15において、劣化度評価機能53は、比較機能52の比較結果にもとづいて、音響レンズ42の劣化度を評価する。格納機能54は、劣化度評価機能53が評価した音響レンズ42の劣化度の評価結果を記憶回路17等に格納する。
そして、ステップS16において、通知機能55は、劣化度評価機能53が評価した音響レンズ42の劣化度を示す情報を、ディスプレイ22に表示させ、もしくは図示しないスピーカを介して音声やビープ音により出力させることにより、超音波診断装置10のユーザに通知する。このとき、通知機能55は、劣化度を示す情報を、ネットワーク100を介して超音波診断装置10と接続された外部の情報処理装置102に与えることにより情報処理装置102のユーザ(サービスマンなど)に通知してもよい。
図9は、劣化度を示す情報の第1表示例を示す説明図である。また、図10は、劣化度を示す情報の第2表示例を示す説明図である。なお、図9および図10において、異なるハッチングは異なる色であることを示す。また、図10においてハッチングで示す領域は、音響レンズ42を模した領域である。
たとえば、通知機能55は、劣化度を示す情報として、測定値Tnの測定時の音響レンズ42の厚みをバーの長さで示したバー画像61をディスプレイ22に表示させてもよい。このとき、初期値T0の測定時の厚みを100%としてもよい(図9参照)。また、このとき、使用許容閾値Tthに対応する厚みを0%としてもよい。
また、図10に示すように、通知機能55は、劣化度を示す情報として、測定値Tnの測定時の音響レンズ42の厚みに応じた模擬画像62をディスプレイ22に表示させてもよい。また、通知機能55は、測定値Tnが使用許容閾値Tthよりも大きく超音波プローブ30が使用可能状態か(図1OのOK参照)、Tth以下で超音波プローブ30が使用不可状態か(図10のNG参照)を示す文字情報63をディスプレイ22に表示させてもよい。バー画像61、模擬画像62、文字情報63は、任意に組み合わせて同時に表示させてもよい。
なお、振動子群44を構成する全ての超音波振動子で測定値Tnを測定した場合は、通知機能55は、測定値Tnの測定時の音響レンズ42の形状に忠実な模擬画像62を生成することができる。一方、振動子群44を構成する一部の超音波振動子のみ(たとえば1つのみなど)で測定値Tnを測定した場合は、通知機能55は、当該一部の超音波振動子の測定結果にもとづいて、測定値Tnの測定時の音響レンズ42の形状を推定して模擬画像62を生成すればよい。
図7に示した以上の手順により、超音波プローブ30の反射波伝搬時間TOFの測定値Tnを取得して、測定値Tnの測定時における音響レンズ42の劣化度を自動的に評価し、ユーザやサービスマンに通知することができる。このため、安全上のリスクや性能上のリスクを犯してしまうことによる不都合を容易に未然に防ぐことができる。
なお、測定値Tnの測定は、たとえば超音波プローブ30のユーザや超音波プローブ30の保守管理を行なうサービスマンが保守点検するタイミングで行われてもよいし、深夜などの超音波プローブ30の使用時間外と考えられる時間などのあらかじめ設定された時間および周期で自動的に行われてもよい。また、サービスマンが、情報処理装置102を介して超音波診断装置10の処理回路19に指示を与えることにより、遠隔から測定値Tnを測定させてもよい。
また、劣化度を示す情報をサービスマンが利用する情報処理装置102に与える場合は、通知機能55は、ディスプレイ22に表示させる情報や図示しないスピーカを介して出力させる音声やビープ音と同様の情報を、情報処理装置102のディスプレイやスピーカを介して出力させるように、情報処理装置102の処理回路と連携してもよい。また、劣化度を示す情報を情報処理装置102に与える場合は、劣化度を示す情報を内容とする電子メールを生成して情報処理装置102に送信してもよい。
この結果、情報処理装置102を利用するサービスマンは、情報処理装置102に通知された音響レンズ42の劣化度を示す情報にもとづいて超音波プローブ30のメンテナンスの要否を判断し、必要に応じて保守装置25を用いて超音波プローブ30のメンテナンス作業を行うことができる。
また、通知機能55は、劣化度の評価結果に応じて情報処理装置102への通知動作を変更してもよい。たとえば、通知機能55は、超音波プローブ30が使用可能状態との評価結果の場合にはメール送信にとどめる一方、使用不可状態の場合にはその旨の画像を表示させ、その旨の音声やビープ音を出力させ、その旨のメールを送信するよう情報処理装置102の処理回路と連携してもよい。
続いて、超音波プローブ30の内部の超音波伝搬媒質の温度を考慮して劣化度を評価する方法について説明する。
超音波プローブ30の内部の超音波伝搬媒質は、その温度に応じて超音波の伝搬速度が異なる。このため、反射波伝搬時間TOFは、超音波伝播物質の温度に応じて補正することが好ましい。
図11は、図4に示す反射波伝搬時間TOFの初期値T0を取得する際の手順の変形例を示すフローチャートである。この手順は、初期値T0の測定時における超音波プローブ30の内部の超音波伝搬媒質の温度(以下、測定時温度の初期値temp0という)を推定し記憶回路17等に格納しておく点で図4に示す手順と異なる。図4と同等のステップには同一符号を付し、重複する説明を省略する。
超音波プローブ30が温度センサ47を有する場合、ステップS21において、取得機能51は、反射波伝搬時間TOFの初期値T0の測定時における温度センサ47の出力を取得する。劣化度評価機能53は、この温度センサ47の出力にもとづいて、初期値T0の測定時における超音波プローブ30の内部の超音波伝搬媒質の温度(測定時温度の初期値temp0)を推定する。格納機能54は、測定時温度の初期値temp0を記憶回路17等に記憶させる。
以上の手順により、超音波プローブ30の反射波伝搬時間TOFの初期値T0を測定し記憶回路17等に格納することができるとともに、初期値T0の測定時における測定時温度temp0を推定し記憶回路17等に格納しておくことができる。
図12は、図7に示す反射波伝搬時間TOFの測定値Tnを取得して音響レンズ42の劣化度を評価する際の手順の変形例を示すフローチャートである。この手順は、初期値T0の測定時温度temp0と測定値Tnの測定時温度tempnを考慮して劣化度を評価する点で図7に示す手順と異なる。図7と同等のステップには同一符号を付し、重複する説明を省略する。
ステップS31において、取得機能51は、温度センサ47の出力を取得する。劣化度評価機能53は、温度センサ47の出力にもとづいて、測定値Tnの測定時温度tempnを推定する。
ステップS32において、比較機能52は、初期値T0の測定時温度temp0と測定値Tnの測定時温度tempnとにもとづいて、測定値Tnを補正して補正測定値Tnaを求めるとともに、使用許容閾値Tthを補正して補正閾値Tthaを求める。
次に、ステップS33において、比較機能52は、初期値T0と補正測定値Tnaと補正閾値Tthaとを比較する。
以上の手順により、初期値T0の測定時温度temp0と測定値Tnの測定時温度tempnを考慮して、測定値Tnの測定時における音響レンズ42の劣化度を評価することができる。図12に示す手順は、図7に示す手順に比べ、超音波伝搬媒質の温度の変化に応じた超音波の伝搬速度の変化を考慮することができるため、より正確に劣化度を評価することができる。
なお、図12のステップS31において、測定値Tnの測定時温度tempnと初期値T0の測定時温度temp0との差が所定の差より大きい場合は、劣化度評価機能53は、反射波伝搬時間TOFの測定に不適切であると判断し、反射波伝搬時間TOFの測定を行わずに、一連の手順を終了してもよい。
続いて、反射波伝搬時間TOFの経時変化を用いて超音波プローブ30の保守管理を支援する方法について説明する。
図13は、図3に示す処理回路19のプロセッサによる実現機能の第1変形例を示す概略的なブロック図である。反射波伝搬時間TOFの経時変化を用いて超音波プローブ30の保守管理を支援する場合、処理回路19のプロセッサは、図3に示す各機能51−55のほか、原因診断機能56および予測機能57を実現する。これらの機能56−57もまた、機能51−55と同様に、それぞれプログラムの形態で記憶回路17に記憶されている。
原因診断機能56は、反射波伝搬時間TOFを複数の測定時で測定することにより得られる複数の測定値T0、T1、・・・、Tnの経時変化にもとづいて、剥離などの突発的な異常が音響レンズ42に発生しているか否かを診断する。
予測機能57は、反射波伝搬時間TOFの複数の測定値T0、T1、・・・、Tnの経時変化にもとづいて、音響レンズ42の使用許容期限を予測する。
図14は、反射波伝搬時間TOFの経時変化にもとづいて剥離などの突発的な異常が音響レンズ42に発生しているか否かを診断する際の手順の一例を示すフローチャートである。また、図15は、反射波伝搬時間TOFの経時変化の一例を示す説明図である。図15には、k回目の測定時とk+1回目の測定時との間に剥離などの突発的な異常が音響レンズ42に発生した場合の例を示した。
まず、ステップS41において、原因診断機能56は、記憶回路17等から、複数の測定時で測定することにより得られた反射波伝搬時間TOFの測定値を読み出す。読み出す測定値には初期値T0を含んでもよいし、直近の数回分の測定値のみを読み出してもよい。
次に、ステップS42において、原因診断機能56は、記憶回路17等から読み出した測定値Tnの経時変化を近似する直線または曲線70を最小2乗法などにより求める(図15参照)。
次に、ステップS43において、原因診断機能56は、測定値Tnの経時変化曲線70の変化が連続的か否かを判定する。連続的と判定した場合は(ステップS43のYES)、原因診断機能56は、通常使用による摩耗であり突発的な異常はないと判定する(ステップS44)。一方、図15に示す例におけるTOFの測定値TkとTk+1のように、経時変化曲線70から逸脱した測定値があり経時変化曲線70の変化が不連続と判定した場合は(ステップS43のNO)、原因診断機能56は、突発的なレンズ剥がれ等の異常が音響レンズ42に発生したと判定する(ステップS45)。
次に、ステップS46において、格納機能54は、原因診断機能56の判定結果を記憶回路17等に格納する。また、通知機能55は、原因診断機能56の判定結果を示す情報を、ディスプレイ22に表示させ、もしくは図示しないスピーカを介して音声やビープ音により出力させることにより、超音波診断装置10のユーザに通知する。また、通知機能55は、原因診断機能56の判定結果を示す情報を、ネットワーク100を介して超音波診断装置10と接続された外部の情報処理装置102に与えることにより情報処理装置102のユーザ(サービスマンなど)に通知してもよい。
以上の手順により、反射波伝搬時間TOFの経時変化にもとづいて、剥離などの突発的な異常が音響レンズ42に発生しているか否かを診断することができ、診断結果を超音波プローブ30のユーザやサービスマンに通知することができる。
また、経時変化曲線70は予測機能57にも利用される。具体的には、予測機能57は、経時変化曲線70を外挿することにより、閾値Tthに到達する日時を求め、この時を使用許容期限と予測する。この場合、格納機能54は、使用許容期限の予測日時を記憶回路17等に格納する。また、通知機能55は、使用許容期限の予測日時を示す情報を、ディスプレイ22に表示させ、もしくは図示しないスピーカを介して音声やビープ音により出力させることにより、超音波診断装置10のユーザに通知する。また、通知機能55は、使用許容期限の予測日時を示す情報を、ネットワーク100を介して超音波診断装置10と接続された外部の情報処理装置102に与えることにより情報処理装置102のユーザ(サービスマンなど)に通知してもよい。
続いて、反射波伝搬時間TOFにもとづいて超音波のフォーカス位置を補正する方法について説明する。
図16は、図3に示す処理回路19のプロセッサによる実現機能の第2変形例を示す概略的なブロック図である。第2変形例では、処理回路19のプロセッサは、図3に示す各機能51−55のほか、形状補正機能58を実現する。この機能58もまた、機能51−55と同様に、それぞれプログラムの形態で記憶回路17に記憶されている。また、処理回路19のプロセッサは、図13に示した原因診断機能56および予測機能57をさらに実現してもよい。
反射波伝搬時間TOFにもとづいて超音波のフォーカス位置を補正する場合は、取得機能51は、一度の測定時に複数の超音波振動子のそれぞれで測定された反射波伝搬時間TOFの初期値T0および測定値Tnを取得する。
形状補正機能58は、複数の超音波振動子のそれぞれで測定された反射波伝搬時間TOFにもとづいて、音響レンズ42を介して外部に送信される超音波プローブ30の超音波の、測定値Tnの測定時におけるフォーカス位置を推定する。形状補正機能58は、推定したフォーカス位置から正常なフォーカス位置に補正するための位相遅延の補正値を、複数の超音波振動子のそれぞれについて求める。
図17は、反射波伝搬時間TOFにもとづいてフォーカス位置の変化を検知し、フォーカス位置を正常な位置に補正するための位相遅延の補正値を求める際の手順の一例を示すフローチャートである。なお、図17には、1つの超音波振動子が1チャネルを構成する場合の例を示した。また、図17には、一度の測定でスキャン方向において複数の超音波振動子の反射波伝搬時間TOFが測定されており、スキャン方向における音響レンズ42の厚みの分布または音響レンズ表面42aの曲率(以下、厚み分布または曲率という)が算出可能である場合の例を示した。
まず、ステップS51において、形状補正機能58は、記憶回路17等から、一度の測定時に複数の超音波振動子のそれぞれで測定された反射波伝搬時間TOFの初期値T0および測定値Tnを取得する。
次に、ステップS52において、形状補正機能58は、測定値Tnの測定時における音響レンズ42の厚みの分布を推定する。たとえば、一度の測定で、スキャン方向において複数の超音波振動子の反射波伝搬時間TOFが測定されていれば、スキャン方向の厚み分布または曲率を求めることができる。同様に、一度の測定で、レンズ方向において複数の超音波振動子の反射波伝搬時間TOFが測定されていれば、レンズ方向の厚み分布または曲率を求めることができる。
次に、ステップS53において、形状補正機能58は、厚み分布または曲率にもとづいて測定値Tnの測定時におけるフォーカス位置を求める。そして、形状補正機能58は、測定値Tnの測定時におけるフォーカス位置を、超音波プローブ30の設計上予定されていた正常なフォーカス位置に補正するための位相遅延の補正値を、複数の超音波振動子のそれぞれについて求める。
次に、ステップS54において、格納機能54は、形状補正機能58が求めた位相遅延の補正値を記憶回路17等に格納する。この補正値は、撮像スキャンにおいて超音波診断装置10により利用される。
以上の手順により、複数の超音波振動子のそれぞれで測定された反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ表面42aの曲率を求め、求めた曲率にもとづいてフォーカス位置の変化を検知することができるとともに、フォーカス位置を正常な位置に補正するための位相遅延の補正値を求めることができる。形状補正機能58が求めた位相遅延の補正値は、撮像スキャンにおいて超音波診断装置10により利用される。このため、超音波診断装置10は、音響レンズ表面42aの最新の曲率にもとづいて補正されたフォーカス位置で撮像を行なうことができ、摩耗した超音波プローブ30を用いる場合であっても正確な超音波画像を生成することができる。したがって、レンズ摩耗によりフォーカス位置がずれた状態で撮像された超音波画像を用いた診断よりも、はるかに信頼性の高い診断を行なうことができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、保守装置25Mが反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する機能を有する。
図18は、本発明の第2実施形態に係る保守装置25Mの一構成例を示すブロック図である。この第2実施形態に示す保守装置25Mは、反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する機能を有する点で第1実施形態に示す保守装置25と異なる。図18に示した他の構成および作用については図1に示した構成と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
保守装置25Mは、送受信回路11M、ネットワーク接続回路18M、記憶回路26M、入力回路27M、ディスプレイ28M、および処理回路29Mを有する。送受信回路11Mおよびネットワーク接続回路18Mは、第1実施形態に係る送受信回路11およびネットワーク接続回路18とそれぞれ同等の構成を有する。また、記憶回路26M、入力回路27M、ディスプレイ28M、および処理回路29Mは、第1実施形態に係る記憶回路17、入力回路21、ディスプレイ22、および処理回路19と同等の構成を有する。
図18に示すように、反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する機能は、保守装置25Mが有している場合であっても、第1実施形態に係る超音波診断装置10が有している場合と同様の効果を奏する。
なお、第2実施形態において、超音波診断装置10は、反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する機能を有さずともよい。
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、超音波プローブ30Pが反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する機能を有する。
図19は、本発明の第3実施形態に係る超音波プローブ30Pの一構成例を示すブロック図である。この第3実施形態に示す超音波プローブ30Pは、反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する機能を有する点で第1実施形態に示す超音波プローブ30と異なる。図19に示した他の構成および作用については図1に示した構成と実質的に異ならないため、同じ構成には同一符号を付して説明を省略する。
超音波プローブ30Pは、音響レンズ42などを含むプローブ本体40(図2参照)のほか、送受信回路11P、ネットワーク接続回路18P、記憶回路33P、および処理回路19Pを有する。送受信回路11Pおよびネットワーク接続回路18Pは、第1実施形態に係る送受信回路11およびネットワーク接続回路18とそれぞれ同等の構成を有する。なお、図19には、超音波プローブ30Pが、超音波診断装置10および保守装置25と非接触無線通信が可能である場合の例を示してある。また、記憶回路33Pおよび処理回路19Pは、第1実施形態に係る記憶回路17および処理回路19と同等の構成を有する。
図19に示すように、反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する機能は、超音波プローブ30Pが有している場合であっても、第1実施形態に係る超音波診断装置10が有している場合と同様の効果を奏する。
なお、第3実施形態において、第3実施形態において、第2実施形態に係る保守装置25Mを組み合わせてもよい。このとき、超音波診断装置10は、反射波伝搬時間TOFにもとづいて音響レンズ42の劣化度を評価する機能を有さずともよい。
また、第3実施形態に係る超音波プローブ30Pは、送受信回路11Pを備えずともよい。この場合、プローブ本体40の振動子群44は、たとえば超音波診断装置10の送受信回路11により駆動される。この場合、処理回路19Pは、超音波診断装置10と接続されていないときには反射波伝搬時間TOFを直接測定することはできないものの、記憶回路33Pに記憶された、またはネットワーク100を介して反射波伝搬時間TOFを取得して利用することができる。
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、超音波プローブ30の音響レンズ42の劣化度合いを容易に自動的に評価することができる。
なお、本実施形態における処理回路19の取得機能51、劣化度評価機能53、格納機能54、通知機能55、原因診断機能56、予測機能57、および形状補正機能58は、それぞれ特許請求の範囲における取得部、評価部、格納部、通知部、原因診断部、予測部、および形状補正部の一例である。
なお、上記実施形態において、「プロセッサ」という文言は、たとえば、専用または汎用のCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、または、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(たとえば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびFPGA)等の回路を意味するものとする。プロセッサは、記憶媒体に保存されたプログラムを読み出して実行することにより、各種機能を実現する。
また、上記実施形態では処理回路の単一のプロセッサが各機能を実現する場合の例について示したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサが各機能を実現してもよい。また、プロセッサが複数設けられる場合、プログラムを記憶する記憶媒体は、プロセッサごとに個別に設けられてもよいし、1つの記憶媒体が全てのプロセッサの機能に対応するプログラムを一括して記憶してもよい。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。