<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について説明する。
III族窒化物半導体からなる結晶を成長させる方法として、例えば、液相成長法および気相成長法が知られている。液相成長法では、熱力学的に平衡状態に近い状態で結晶成長が進むことから、低転位密度の結晶が得られる。現在では、少なくとも部分的に転位密度が103個/cm2程度である結晶を得ることが可能である。しかしながら、液相成長法では、成長レートを高くすることが困難となる傾向がある。一方で、気相成長法では、成長レートを高くすることができるものの、結晶中の転位密度を低くすることが困難となる傾向がある。
そこで、これらの課題を解決するため、液相成長法と気相成長法とをこの順で用いた方法が知られている(例えば、上述の特許文献1)。液相成長法と気相成長法とをこの順で用いることにより、低転位密度を有する結晶を得ることができるとともに、その生産性を向上させることができる。
発明者等は、鋭意検討により、液相成長法および気相成長法をこの順で用いた従来の方法では、結晶品質をさらに向上させる上で、以下のような課題が生じる可能性があることを見出した。
ここで、液相成長法および気相成長法等による結晶成長過程について説明する。結晶成長過程では、まず、原料の分子または原子が基板の上面に付着する。基板の上面に付着した原料の分子または原子は、基板の上面上を移動(マイグレーション)する。基板上を移動する原料の分子または原子のうち一部は基板から脱離し、他部は基板上で集まってクラスタ化し、結晶核となる。結晶核のエッジ(キンク)には原料の分子または原子がさらに付着し、結晶核が大きくなっていく。結晶核の面積が所定以上となったときに、当該結晶核は基板から脱離し難くなる。結晶核は、基板の沿面方向に拡大し、原子状ステップを形成する。その間、原子状ステップのテラス上にも結晶核が形成される。これらを繰り返すことにより、結晶がステップフロー成長していく。
液相成長法では、結晶がステップフロー成長する際に、複数の原子状ステップのそれぞれの成長速度に差が生じると、複数の原子状ステップが集合し、ミクロンオーダーのステップバンチングが生じることがある。結晶中にステップバンチングが生じると、液相成長法の原料が当該ステップバンチングの端部に溜まり始める。結晶中に液相成長法の原料が溜まったまま結晶成長が継続されると、溜まった原料上にせり出すように結晶が成長し、当該溜まった原料が閉じ込められる。このため、液相成長法の原料に由来するインクルージョンが形成される。結晶成長がさらに進行すると、インクルージョン上にせり出すように成長した結晶部分と、インクルージョンに隣接して基板の沿面方向に成長した結晶部分との間に、インクルージョンが閉じ込められながら、基板の法線方向に対して斜めの方向に延びていく。このため、当該結晶中には、インクルージョンによって、複雑に入り組んだ洞(キャビティ、ボイド、溝等を含む)が形成されることとなる。
このような洞が形成された結晶からなるインゴットを得た後、当該インゴットを所定の支持部材にワックスで固定した状態で切削液を用いスライスして複数の種結晶基板を作製すると、種結晶基板の上面または下面に洞が開口し、種結晶基板の洞内にワックスまたは切削液が浸入し残留してしまう可能性がある。また、当該種結晶基板を所定の支持部材にワックスで固定した状態で研磨液および研磨材を用い研磨すると、種結晶基板の洞内にワックス、研磨液または研磨材が浸入し残留してしまう可能性がある。また、当該種結晶基板を所定の洗浄液で洗浄すると、種結晶基板の洞内に洗浄液が浸入し残留してしまう可能性がある。また、洗浄が不充分であると、種結晶基板の洞内にインクルージョン等が残留してしまう可能性がある。
その後、上記工程を経た種結晶基板上に半導体層を気相成長法により成長させると、種結晶基板の洞内に残留したインクルージョン、ワックス、切削液、研磨液、研磨材および洗浄液のうち少なくともいずれかを含む残留不純物(汚染物質)から、アウトガスが生じうる。アウトガスとなって種結晶基板の洞から排出された残留不純物の少なくとも一部は、種結晶基板の上面で再付着して析出しうる。
種結晶基板の上面で析出した残留不純物の表面エネルギーは、種結晶基板の上面の表面エネルギーと異なる。このため、種結晶基板の上面で析出した残留不純物を起点として、結晶核が種結晶基板の結晶方位と異なる方位に成長する可能性がある。このように結晶核の成長方位に変化が生じると、ステップフロー成長した原子状ステップの会合部では、会合する結晶面同士に傾きが生じたり、会合する結晶の格子同士がずれたりする可能性がある。その結果、当該会合部において、転位が発生する可能性がある。
また、種結晶基板の上面で析出した残留不純物上には、優先的に結晶核が形成される可能性がある。このため、当該析出した残留不純物を起点として、半導体層が異常成長する可能性がある。
一方で、種結晶基板の上面で析出した残留不純物上には、結晶核が形成され難くなる可能性がある。このため、当該析出した残留不純物を起点として、半導体層が成長しない非成長領域が形成される可能性がある。
また、種結晶基板の上面に残留不純物が析出すると、通常のステップフロー成長が阻害され、3次元島状成長が生じうる。このため、結晶核が大きくなって島状結晶同士が会合する際に、その会合面で引張応力が生じる可能性がある。その結果、半導体層の結晶面に反りが生じてしまう可能性がある。なお、島状結晶の会合時に引張応力が導入されるモデルについては、R.W. Hoffman, Surf. Interface Anal., 3 (1981) 62に記載されている。
半導体層の成長中における上記現象を抑制するため、半導体層の成長前に、種結晶基板の洞内に残留した残留不純物を直接的にエッチング(除去)することが考えられる。しかしながら、残留不純物を直接的にエッチングしようとしても残留不純物を完全に除去することは困難である。
というのも、種結晶基板の洞内に残留した残留不純物には、上述のように様々な材料が含まれている可能性がある。このため、残留不純物を構成する材料を事前に特定することが困難であり、その適したエッチング方法や条件を選択することが困難である。また、種結晶基板の洞は複雑に入り組んでいるため、その洞の奥に残留した残留不純物までエッチング媒体(溶媒またはエッチングガス)を行き届かせることが困難である。これらの結果、残留不純物を直接的にエッチングしようとしても残留不純物を完全に除去することが困難となる。
以下で説明する本発明は、本発明者等が見出した上記新規課題に基づくものである。
<本発明の第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
(1)半導体積層物の製造方法または窒化物結晶基板の製造方法
図1〜図8を用い、本実施形態に係る半導体積層物の製造方法または窒化物結晶基板の製造方法について説明する。図1は、本実施形態に係る半導体積層物の製造方法または窒化物結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。なお、ステップをSと略している。図2は、本実施形態に係る製造方法に用いられる液相成長装置の概略構成図である。図3(a)〜(e)は、基板用意工程を示す概略断面図である。図4(a)は、スライス工程後の種結晶基板を示す概略断面図であり、(b)は、研磨工程での種結晶基板を示す概略断面図であり、(c)は、洗浄工程後の種結晶基板を示す概略断面図である。図5は、本実施形態に係る製造方法に用いられる気相成長装置の概略構成図である。図6は、本実施形態のエッチング工程から気相成長工程までの種結晶基板の温度変化を示す図である。図7(a)は、種結晶基板の洞内から残留不純物を気化させる様子を示す概略断面図であり、(b)は、種結晶基板の表面に析出した残留不純物をGaNとともに除去する様子を示す概略断面図であり、(c)は、エッチング工程後の種結晶基板を示す概略断面図である。図8(a)は、気相成長工程での半導体積層物を示す概略断面図であり、(b)は、スライス工程で作製される窒化物結晶基板を示す概略断面図である。
なお、以下では、本実施形態で用いられる各種基板等において、上側主面(表面)を「上面」といい、下側主面(裏面)を「下面」という。
本実施形態では、III族窒化物半導体として、例えば、窒化ガリウム(GaN)からなる半導体積層物1または窒化物結晶基板2を製造する場合について説明する。
(S110:基板用意工程)
まず、少なくとも表層がIII族窒化物半導体からなり、該表層が洞20aを含む種結晶基板20(以下、「基板20」と略す)を用意する基板用意工程S110を行う。本実施形態では、一例として、少なくとも表層が液相成長法により形成されたIII族窒化物半導体からなる基板20を用意する。
本実施形態の基板用意工程S110は、例えば、液相成長工程S112と、スライス工程S114と、研磨工程S116と、洗浄工程S118と、を有している。なお、スライス工程S114と、研磨工程S116と、洗浄工程S118と、は結晶の加工工程を構成している。本実施形態では、例えば、以下のようにして、マルチポイントシード結合法により基板20を作製する。
(S112:液相成長工程)
まず、図3(a)に示すように、例えば、マルチポイントシード基板10(MPS基板10)を用意する。MPS基板10は、支持基板11と、ポイントシード部12(PS部12)と、を有している。支持基板11は、例えば、サファイアからなっている。PS部12は、支持基板11上に所定の間隔で配置されている。PS部12は、例えば、気相成長法により形成されている。また、PS部12の上面は、例えば、(0001)面(+c面)、或いは、(0001)面に対して所定のオフ角を有する面である。なお、オフ角の大きさ(オフ量)は、例えば、2°以内である。また、PS部12の上面における転位密度(平均転位密度)は、例えば、1×107個/cm2以上1×109個/cm2以下である。
次に、図2に示す液相成長装置300を用い、MPS基板10上に、III族窒化物半導体からなる液相成長層14を成長させる。
本実施形態の液相成長装置300は、例えば、フラックス法による成長装置として構成されている。液相成長装置300は、ステンレス(SUS)等からなり、加圧室301が内部に構成された耐圧容器303を備えている。加圧室301内は、例えば5MPa程度の高圧状態に昇圧させることが可能なように構成されている。加圧室301内には、坩堝308と、坩堝308内を加熱するヒータ307と、加圧室301内の温度を測定する温度センサ309と、が設けられている。坩堝308は、例えばアルカリ金属または遷移金属を溶媒(フラックス)としたIII族原料溶液を収容するとともに、基板(例えばMPS基板10)を、その主面(結晶成長面)を上向きとした状態で原料溶液中に浸漬させることが可能なように構成されている。耐圧容器303には、加圧室301内へ窒素(N2)ガスやアンモニア(NH3)ガス(あるいはこれらの混合ガス)を供給するガス供給管332が接続されている。ガス供給管332には、上流側から順に、圧力制御装置333、流量制御器341、バルブ343が設けられている。液相成長装置300が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ380に接続されており、コントローラ380上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
液相成長工程S112は、上述の液相成長装置300を用い、例えば以下の処理手順で実施することができる。
MPS基板10を用意したら、坩堝308内に、例えば、フラックス原料としてのナトリウム(Na)と、III族原料としてのGaと、上記のMPS基板10とを収容し、耐圧容器303を封止する。そして、ヒータ307による加熱を開始することで坩堝308内に原料溶液(Naを媒体としたGa溶液)を生成し、原料溶液中にMPS基板10を浸漬させた状態を生成する。この状態で、加圧室301内にN2ガス(あるいはNH3ガスとN2ガスとの混合ガス)を供給し、原料溶液中に窒素(N)を溶け込ませ、この状態を所定時間維持する。
これにより、図3(b)に示すように、MPS基板10のPS部12上に、GaNからなる液相成長層14がエピタキシャル成長する。成長初期では、液相成長層14は、互いに離間した島状結晶となって成長する。液相成長層14の成長が進むにつれて、島状結晶が大きくなり、隣接する結晶同士が会合することで、連続膜としての液相成長層14が形成される(図3(c))。
所定の厚さの液相成長層14の成長が完了したら、耐圧容器303内を大気圧に復帰させ、液相成長層14が形成されたMPS基板10を坩堝308内から取り出す。
このとき、MPS基板10の温度を低下させる際に、図3(d)に示すように、支持基板11と液相成長層14との線膨張係数差を起因とした応力によって、支持基板11から液相成長層14が自発的に剥離する。その結果、液相成長層14で構成されるインゴット16が作製されることとなる。
液相成長工程S112を実施する際の処理条件としては、以下が例示される。
成膜温度(原料溶液の温度):600〜1200℃、好ましくは、800〜900℃
成膜圧力(加圧室内の圧力):0.1〜10MPa、好ましくは、1〜6MPa
原料溶液中のGa濃度〔Ga/(Na+Ga)〕:5〜70%、好ましくは、10〜50%
このとき、上記条件で液相成長工程S112を行うことにより、熱力学的に平衡状態に近い状態で液相成長層14の成長が進むことから、MPS基板10のPS部12よりも低転位密度の液相成長層14を得ることができる。具体的には、液相成長層14の上面における転位密度を、例えば、1×106個/cm2以下、好ましくは5×105個/cm2以下とすることができる。なお、液相成長層14の上面における転位密度の下限値は、低ければ低いほどよいため限定されるものではない。しかしながら、PS部12が1つにつき、液相成長層14に少なくとも1つの貫通転位が形成される可能性があるため、例えば、PS部12のピッチが500μmであるMPS基板10を用いた場合では、液相成長層14の上面における転位密度の下限値は、例えば、400個/cm2程度となると考えられる。
一方で、このとき、上記条件で液相成長工程S112を行うと、原料溶液へのNの溶解量が少ないことから、液相成長法による液相成長層14の成長レートは、気相成長法による成長レートよりも低くなる。具体的には、液相成長層14の成長レートは、例えば、3μm/h以上30μm/h以下となる。
このように液相成長層14の成長レートは低いため、仮に液相成長層14のみから最終的な窒化物結晶基板2を多数枚得ようとすると、かなりの成長時間を要してしまうことになる。そこで、本実施形態では、後述のスライス工程S114において、液相成長工程S112で形成される液相成長層14から、基板20を1枚以上5枚以下切り出すこととする。したがって、液相成長工程S112で形成される液相成長層14の厚さは、例えば、液相成長層14から基板20を1枚以上5枚以下切り出すことが可能な厚さとする。具体的には、液相成長層14の厚さを、例えば、0.5mm以上5mm以下、好ましくは0.5mm以上3mm以下とする。
(S114:スライス工程)
次に、図3(e)に示すように、インゴット16をワックスで固定した状態で切削液を用いてスライスし(切り出し)、GaN自立基板としての基板20を複数枚作製する。
このとき、液相成長層14からスライスされる基板20の厚さは、基板20の直径に依存するが、例えば、300μm以上1mm以下とする。典型的には、基板20の直径が2インチの場合には、基板20の厚さを300μm以上450μm以下とする。
上述のように、MPS基板10の上面上にエピタキシャル成長させた液相成長層14からスライスして基板20を作製することにより、基板20の上面は、MPS基板10のPS部12の上面と同様に、(0001)面、或いは、(0001)面に対して所定のオフ角を有する面となる。
なお、上記した液相成長工程S112では液相成長層14は成長が進むほど低転位密度となることから、基板20をスライスした部分が液相成長層14の上層であるほど、基板20の転位密度は低くなる。したがって、スライス工程S114以降の工程では、液相成長層14の最上層からスライスした基板20を用いることとする。
当該基板20の上面における転位密度は、例えば、1×106個/cm2以下、好ましくは5×105個/cm2以下とすることができる。なお、基板20の上面における転位密度の下限値は、低ければ低いほどよいため限定されるものではないが、液相成長層14の上面における転位密度の下限値と同様に、例えば、400個/cm2程度となると考えられる。
ここで、図4(a)に示すように、基板20には、液相成長法を用いた結晶成長時に生じるインクルージョンによって、複雑に入り組んだ洞20a(溝等を含む)が形成されうる。洞20aの少なくとも一部は、基板20の上面または下面に開口している。また、洞20aは、基板20の上面側から下面側に向けて凹んでいたり、これと反対に基板20の下面側から上面側に向けて凹んでいたり、または、基板20の下面から上面に向けて貫通していたりすることがある。また、複数の洞20aが組み合わさって形成されることがある。このような洞20aは、後工程で結晶品質を低下させる原因となる可能性がある。
(S116:研磨工程)
スライス工程S114後の基板20の上面および下面は荒れているため、所定の研磨装置を用い、基板20の少なくとも上面を研磨する。
具体的には、まず、図4(b)に示すように、基板20を所定の支持部材500にワックス30で固定する。基板20が支持部材500に固定された状態で、支持部材500を回転させ、研磨液および研磨材を用いて基板20の上面を研磨する。これにより、基板20の上面をエピレディ面(鏡面)とする。具体的には、基板20の上面の表面粗さを、例えば、5nm以下、好ましくは2nm以下とする。
ここで、図4(b)に示すように、例えば、基板20を支持部材500にワックス30で固定させるとき、ワックス30が基板20の洞20a内に毛細管現象によって入り込む。このため、洞20a内の細部に亘ってワックス30が満たされることとなる。
(S118:洗浄工程)
次に、研磨工程S116後の基板20を洗浄する。具体的には、所定の有機溶媒からなる洗浄液を用い基板20を洗浄することで、研磨工程S116で用いたワックス30を除去する。また、所定の酸溶媒またはアルカリ溶媒からなる洗浄液を用い基板20を洗浄することで、基板20の上面に露出したり、基板20の洞20a内に残留したりしたフラックス原料の残留物を除去する。
しかしながら、図4(c)に示すように、基板20に形成された洞20aは複雑に入り組んでいることから、上記した洗浄工程S118において所定の洗浄液でウエット洗浄を行ったとしても、基板20の洞20aの細部に残留不純物31が残留してしまう。
ここでいう「残留不純物31」は、例えば、液相成長工程S112で基板20内に形成されたインクルージョンの一部(NaまたはGa/Na合金)、スライス工程S114で用いたワックスまたは切削液に由来する不純物、研磨工程S116で用いたワックス30、研磨液または研磨材に由来する残留物、洗浄工程S118で用いた洗浄液に由来する残留物のうち少なくともいずれかを含んでいる。
また、ここでいう「洞20a」は、上述のように、少なくとも一部が基板20の上面または下面に開口した洞だけでなく、開口を有さずに閉ざされた洞も含んでいる。また、「洞20a」は、少なくとも一部に残留不純物31を含む洞、内部全体が残留不純物31で満たされている洞、または空の洞を含んでいる。
このように基板20の洞20a内に残留不純物31が残留した状態で、基板20に半導体層40を気相成長法により成長させると、残留不純物31からアウトガスが生じうる。アウトガスとなって基板20の洞20aから排出された残留不純物31の少なくとも一部は、基板20の上面で再付着して析出しうる。このため、基板20の上面で析出した残留不純物31を起点として、結晶核が基板20の結晶方位と異なる方位に成長する可能性がある。その結果、ステップフロー成長した原子状ステップの会合部において、結晶格子のずれ等を起因として、転位が発生する可能性がある。または、基板20の上面で析出した残留不純物31を起点として、半導体層40が異常成長してしまったり、逆に半導体層40が成長しない非成長領域が形成されてしまったりする可能性がある。または、基板20の上面に残留不純物31が析出すると、ステップフロー成長が阻害され、3次元島状成長が生じうる。このため、島同士が会合する際に、その会合面で引張応力が生じ、半導体層40の結晶面(c面)に反りが生じてしまう可能性がある。
そこで、本実施形態では、気相成長工程S140の前に、以下のエッチング工程S130を行う。
(S130:エッチング工程)
本実施形態では、例えば、図5に示す気相成長装置400を用い、基板20のうちの露出部を気相中でエッチングするエッチング工程S130を行う。
気相成長装置400は、例えば、ハイドライド気相成長装置(HVPE装置)として構成されている。気相成長装置400は、石英等の耐熱性材料からなり、処理室401が内部に構成された気密容器403を備えている。処理室401内には、基板20を保持するサセプタ408が設けられている。サセプタ408は、回転機構416が有する回転軸415に接続されており、該サセプタ408上に載置される基板20を周方向(上面に沿った方向)に回転可能に構成されている。気密容器403の一端には、後述するガス生成器433a内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管432a、処理室401内へ成膜ガスとしてのNH3ガスを供給するガス供給管432b、処理室401内へエッチングガスとしてのHClガスを供給するガス供給管432cがそれぞれ接続されている。なお、ガス供給管432a〜432cは、HClガスやNH3ガスに加えて、キャリアガスまたはエッチングガスとしての水素(H2)ガス、および、不活性ガス、キャリアガスまたはパージガスとしてのN2ガスを供給可能なようにも構成されている。ガス供給管432a〜432cは、流量制御器とバルブと(いずれも図示しない)を、これらガスの種別毎にそれぞれ備えており、各種ガスの流量制御や供給開始/停止を、ガス種別毎に個別に行えるように構成されている。ガス供給管432aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器433aが設けられている。ガス生成器433aには、HClガスとGa融液との反応により生成された成膜ガスとしての塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ408上に保持された基板20に向けて供給するノズル449aが接続されている。ガス供給管432b,432cの下流側には、これらのガス供給管から供給されたガスをサセプタ408上に保持された基板20に向けて供給するノズル449b,449cがそれぞれ接続されている。ノズル449a〜449cは、基板20の上面に対して平行な方向(上面に沿った方向)にガスを流すよう配置されている。一方、気密容器403の他端には、処理室401内を排気する排気管430が設けられている。排気管430には圧力調整器(APC)429を介してポンプ431が設けられている。気密容器403の外周にはガス生成器433a内やサセプタ408上に保持された基板20を所望の温度に加熱するゾーンヒータ407が、気密容器403内には処理室401内の温度を測定する温度センサ409が、それぞれ設けられている。気相成長装置400が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ480に接続されており、コントローラ480上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
エッチング工程S130は、上述の気相成長装置400を用い、例えば以下の処理手順で実施することができる。
まず、基板20を、気密容器403内へ投入(搬入)し、サセプタ408上に保持する。なお、このとき、後述の気相成長工程S140で用いられる原料としてのGa融液をガス生成器433a内に収容しておく。次に、ガス供給管432a〜432cのうちの少なくともいずれかから処理室401内へN2ガスを供給し、処理室401内の加熱および排気を実施する。このとき、サセプタ408の回転も開始する。
図6に示すように、処理室401内の加熱によって基板20の温度が徐々に上昇する。基板20の温度が所定の温度Teに到達し、処理室401内の圧力が所定の圧力に到達したら、基板20の上面に対して所定のエッチングガスを供給する。
これにより、基板20のうちの露出部を気相中でエッチングすることができる。ここでいう基板20のうちの露出部とは、基板20の外側雰囲気に露出し、該外側雰囲気(例えばエッチングガス)に触れることが可能な部分のことを意味している。具体的には、基板20の露出部は、基板20の上面および基板20の側面を含んでおり、基板20の洞20aの内壁の少なくとも一部を含んでいてもよい。
このとき、エッチング工程S130では、例えば、以下のメカニズムにより、基板20の上面に開口された洞20a内に残留した残留不純物31を、基板20を構成するGaNとともに除去する。
図7(a)に示すように、エッチング工程S130で基板20を所定の温度Teに加熱することで、基板20の洞20a内から残留不純物31の少なくとも一部を気化させる(湧き出させる)。洞20a内で気化された残留不純物31の少なくとも一部は、洞20aを通って洞20aの開口まで到達する。洞20aの開口に到達した残留不純物31の少なくとも一部は、エッチングガスによって基板20の外側に排出される。一方で、残留不純物31の他部は、基板20の上面のうちの洞20aの開口から噴出して、該開口付近などに再付着し析出される。なお、残留不純物31の他部は、基板20の上面のうち洞20aの開口付近以外の部分にも再付着し析出される可能性がある。
また、図7(b)に示すように、エッチング工程S130で供給したエッチングガスにより、基板20の露出部をエッチングする。基板20の上面のエッチングが進むと、基板20の上面に析出した残留不純物31の少なくとも一部と、基板20の上面との間にもエッチングガスが入り込む。基板20の上面のうち残留不純物31と接する部分がエッチングされると、基板20の上面から残留不純物31が徐々に剥離していく。剥離された残留不純物31は、基板20の上面に対するエッチングガスの流れにしたがって基板20の外側に除去(排出)される。
このように、本実施形態では、図7(a)および(b)に示す上記プロセスが連続的または同時に生じることで、基板20の洞20a内の残留不純物31を減少させ、後述の気相成長工程S140において洞20aからアウトガスを放出しない程度に枯れさせることができる。また、基板20の上面に析出した残留不純物31を、基板20のマトリクスを構成するGaNとともに除去することができる。
なお、基板10のマトリクスとともに残留不純物31を除去する上記プロセスでは、半導体プロセスにおいて金属膜等のパターニングに用いられる、いわゆる「リフトオフ」に似た原理で、残留不純物31がGaNとともに除去されると考えてもよい。
本実施形態のエッチング工程S130では、例えば、基板20の上面のうち結晶欠陥部を除く領域が平滑となる条件下で、基板20の露出部をエッチングする。なお、ここでいう基板20の「結晶欠陥部」とは、転位、ピットなどのことである。また、ここでいう「基板20の上面のうち結晶欠陥部を除く領域が平滑となる条件」とは、基板20の上面のうち結晶欠陥部を除く領域において、すなわち、エッチピットを含まない視野(例えば1μm角の視野)において比較したときに、エッチング工程S130前の表面粗さ(算術平均粗さRa)と、エッチング工程S130後の表面粗さとの差が10nm以内、好ましくは5nm以内となる条件のことである。なお、上記条件下でエッチングを行った場合であっても、基板20の上面のうちの結晶欠陥部では、所定のファセットが生じることがある。このようなマイルドなエッチング条件により基板20の上面を平滑に維持することで、後述の気相成長工程S140において、基板20の上面上に半導体層40を平滑にエピタキシャル成長させることができる。
具体的なエッチング条件としては、例えば、エッチングガスとしてHClガスおよびH2ガスを含む雰囲気下でエッチングを行う。例えば、ガス供給管432cから基板20の上面に対して、エッチングガスとしてのHClガスおよびH2ガスを供給する。HClガスを含む雰囲気でエッチングを行うことで、以下の反応式(1)により、基板20を構成するGaNをエッチングすることができる。
2GaN+2HCl→2GaCl+H2+N2 ・・・(1)
このとき、反応式(1)以外の反応による副生成物として、Gaドロップレットが生じることがある。ここでは、上述のようにマイルドなエッチング条件を適用することから、上記のGaドロップレットが生じ易い。そこで、HClガスに加えH2ガスを含む雰囲気下でエッチングを行うことで、副生成物としてのGaドロップレットを、Gaの水素化物であるガラン(GaH3)として気化させて除去することができる。
また、例えば、上記したエッチングガスとしてのHClガスおよびH2ガスに加え、不活性ガス(希釈ガス)としてのN2ガスを含む雰囲気下でエッチングを行い、N2ガスの分圧をHClガスおよびH2ガスのそれぞれの分圧よりも高くする。これにより、基板20の露出部をマイルドにエッチングし、基板20の上面のうち結晶欠陥部を除く領域を平滑に維持することができる。
このとき、N2ガスの分圧に対するHClガスおよびH2ガスのそれぞれの分圧の比率(分圧比率)を、例えば、1%以上10%以下とする。分圧比率が1%未満であると、基板20を構成するGaNのエッチング速度が低くなるため、残留不純物31が除去されるまでの時間が過剰に長くなる可能性がある。これに対し、分圧比率を1%以上とすることにより、基板20を構成するGaNのエッチング速度を所定値以上に確保し、残留不純物31が除去されるまでの時間の長期化を抑制することができる。一方で、分圧比率が10%超であると、基板20を構成するGaNが過剰にエッチングされるため、基板20の上面が荒れてしまう可能性がある。これに対し、分圧比率を10%以下とすることにより、基板20の露出部をマイルドにエッチングし、基板20の上面のうち結晶欠陥部を除く領域を平滑に維持することができる。
また、例えば、NH3ガスを非含有とした雰囲気下でエッチングを行う。NH3ガスを含む雰囲気下でエッチングを行うと、基板20を構成するGaNと、HClガスおよびH2ガスのそれぞれとの反応により生成したGa含有ガス(GaClまたはGaH3)と、NH3ガスとが反応して、基板20の露出部にGaNが再成長してしまう。再成長したGaNは不規則な形状で形成されるため、基板20の上面が荒れてしまう可能性がある。これに対し、NH3ガスを非含有とした雰囲気下でエッチングを行うことで、GaNの再成長を抑制することができる。これにより、基板20の上面を平滑に維持することができる。
また、エッチング工程S130での基板20の温度(エッチング温度)Teを、例えば、基板20を構成するGaNがエッチングされ始める臨界温度以上とする。これにより、基板20のマトリクスを構成するGaNをエッチングしつつ、基板20の洞20a内の残留不純物31を除去することができる。
一方で、図6に示すように、エッチング工程S130での基板20のエッチング温度Teを、例えば、後述の気相成長工程S140での基板20の温度(成膜温度)Tgよりも低くする。これにより、基板20の露出部をマイルドにエッチングし、基板20の上面のうち結晶欠陥部を除く領域を平滑に維持することができる。
エッチング工程S130のより詳細なエッチング条件としては、以下が例示される。
エッチング温度Te:500〜900℃、好ましくは600〜800℃
処理室401内の圧力:90〜105kPa、好ましくは、90〜95kPa
HClガス分圧/N2ガス分圧:1〜10%、好ましくは1〜5%
H2ガス分圧/N2ガス分圧:1〜10%、好ましくは3〜7%
ガスの流速:5〜15cm/s
(なお、ガスの流速は、加熱による体積膨張を考慮せず、ガスの供給量から算出した値である。)
エッチング時間:1〜10h、好ましくは2〜5h
エッチングレート:0.1〜10μm/h、好ましくは0.5〜3μm/h
以上のエッチングにより、図7(c)に示すように、基板20の洞20a内の残留不純物31を除去することができる。
基板20の洞20a内の残留不純物31を除去したら、処理室401内へのエッチングガスとしてのHClガスおよびH2ガスの供給を停止し、エッチング工程S130を終了させる。
なお、エッチング工程S130では、基板20の洞20a内の残留不純物31が、後述の気相成長工程S140において洞20aからアウトガスを放出しない程度に枯れるとともに、基板20の上面に析出した残留不純物31が基板20のマトリクスを構成するGaNとともに除去されれば充分である。つまり、基板20の洞20a内の残留不純物31が完全に除去されていなくてもよい。
(S140:気相成長工程)
次に、基板20の上面上に、III族窒化物半導体からなる半導体層(気相成長層)40を気相成長法によりエピタキシャル成長させる気相成長工程S140を行う。例えば、上述の気相成長装置400を用い、HVPE法により半導体層40をエピタキシャル成長させる。
本実施形態では、例えば、上述のエッチング工程S130の終了後、気相成長装置400の処理室401を大気開放することなく、また処理室401内から基板20を搬出することなく、そのまま同一の気相成長装置400の処理室401内で、以下の気相成長工程S140を連続的に行う。その意味において、上述のエッチング工程S130は、その場エッチング工程(in−situエッチング工程)と考えることができる。
具体的には、気相成長工程S140は、例えば以下の処理手順で実施することができる。
エッチング工程S130で、処理室401内へのエッチングガスとしてのHClガスおよびH2ガスの供給を停止した後、処理室401内へのN2ガスの供給と、処理室401内の排気と、サセプタ408による基板20の保持および回転とを継続させた状態で、ガス供給管432bから処理室401内の基板20の上面に対してNH3ガスを供給する。すなわち、処理室401内の雰囲気をエッチングガス非含有の雰囲気、すなわちNH3ガスおよびN2ガスを含む雰囲気に切り替える。これにより、昇温時において、基板20を構成するGaNの分解を抑制し、基板10の表面の荒れを抑制することができる。処理室401内へNH3ガスを供給したら、処理室401内をさらに加熱する。
図6に示すように、処理室401内の加熱によって基板20の温度がエッチング工程S130での基板20の温度Teよりも上昇する。基板20の温度が所定の温度Tgに到達し、処理室401内の圧力が所定の圧力に到達したら、基板20の上面に対してNH3ガスを供給した状態で、ガス供給管432aからガス生成器433a内にHClガスを供給し、基板20の上面に対してGaClガスを供給する。なお、このとき、処理室401内にH2ガスを供給してもよい。
これにより、図8(a)に示すように、基板20の上面上に、GaNからなる半導体層40がエピタキシャル成長する。
このとき、上述のように、エッチング工程S130において基板20の洞20a内の残留不純物31を、アウトガスを放出しない程度に枯れさせたことで、気相成長工程S140において半導体層40を成長させる際に、基板20の上面への残留不純物31の析出を抑制することができる。これにより、半導体層40中の転位の形成、半導体層40の異常成長、半導体層40の非成長領域の形成、または半導体層40の結晶面の反りの発生を抑制することができる。
また、このとき、上述のように、エッチング工程S130において基板20の露出部をマイルドにエッチングしたことで、基板20の上面上に半導体層40を平滑にエピタキシャル成長させることができる。このとき、該半導体層40の上面を構成する結晶面((0001)面)以外のファセットの発生を抑制することができる。また、このとき、基板20の洞20a上に半導体層40が横方向成長することで、基板20の洞20aを、半導体層40によって塞ぐことができる。これらにより、平滑な半導体層40を形成することができる。
また、このとき、液相成長法による低転位密度の基板20の結晶性を引き継ぎつつ、基板20の上面上に半導体層40を気相成長法によりエピタキシャル成長させることができる。これにより、半導体層40の上面における転位密度を、基板20の上面における転位密度と同等とすることができる。具体的には、半導体層40の上面における転位密度を、例えば、1×106個/cm2以下、好ましくは5×105個/cm2以下とすることができる。なお、半導体層40の上面における転位密度の下限値は、基板20の上面における転位密度の下限値と同等程度である。
また、このとき、気相成長法による半導体層40の成長レートを、上述の液相成長工程S112での液相成長法による液相成長層14の成長レートよりも高くすることができる。具体的には、気相成長法による半導体層40の成長レートを、例えば、100μm/h以上1000μm/h以下とすることができる。
また、このとき、基板20としてGaN自立基板を用い、当該基板20上に、基板20の格子定数と等しい格子定数を有するGaNからなる半導体層40をホモエピタキシャル成長させることで、低応力の状態で半導体層40を形成することができる。また、基板20の線膨張係数と半導体層40の線膨張係数とを等しくすることで、半導体層40の成長後に基板20の温度を下げた際であっても、基板20および半導体層40におけるクラックの発生を抑制することができる。これらの結果、半導体層40を厚膜に形成することができる。具体的には、半導体層40の厚さを、例えば、45μm以上5mm以下、好ましくは150μm以上2mm以下とすることができる。
気相成長工程S140を実施する際の成長条件としては、以下が例示される。
成長温度Tg:980〜1100℃、好ましくは1050〜1100℃
処理室401内の圧力:90〜105kPa、好ましくは90〜95kPa
GaClガスの分圧:1.5〜15kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:2〜6
N2ガスの流量/H2ガスの流量:1〜20
ガスの流速:5〜15cm/s
(なお、ガスの流速は、加熱による体積膨張を考慮せず、ガスの供給量から算出した値である。)
本実施形態では、気相成長工程S140で基板20の上面上に流れるガスの流速を、例えば、エッチング工程S130で基板20の上面上に流れるガスの流速と等しくする。
以上の成長条件で半導体層40を成長させることで、基板20および半導体層40を有する半導体積層物1を作製することができる。
半導体層40の成長が完了したら、処理室401内へNH3ガスおよびN2ガスを供給しつつ、処理室401内を排気した状態で、ガス生成器433a内へのHClガスの供給、処理室401内へのH2ガスの供給、ヒータ407による加熱をそれぞれ停止する。処理室401内の温度が500℃以下となったらNH3ガスの供給を停止し、その後、処理室401内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させるとともに、処理室401内を搬出可能な温度にまで低下させた後、処理室401内から半導体積層物1を搬出する。
(S150:スライス工程)
次に、図8(b)に示すように、半導体積層物1の半導体層40をスライスし、GaN自立基板としての窒化物結晶基板2を複数枚作製する。
その後、窒化物結晶基板2の少なくとも上面を研磨し、窒化物結晶基板2の上面をエピレディ面とする。窒化物結晶基板2の研磨が完了後、窒化物結晶基板2に対して所定の洗浄を行う。
以上により、本実施形態の窒化物結晶基板2が製造される。
このように製造された窒化物結晶基板2の上面は、基板20と同様に、(0001)面、或いは、(0001)面に対して所定のオフ角を有する面となる。また、窒化物結晶基板2の上面における転位密度は、上記した半導体層40の上面における転位密度と同様に、例えば、1×106個/cm2以下、好ましくは5×105個/cm2以下となる。なお、窒化物結晶基板2の上面における転位密度の下限値は、上記した半導体層40の上面における転位密度の下限値と同等程度である。
なお、窒化物結晶基板2をスライスした後に残された半導体積層物1や、スライスした窒化物結晶基板2を用いて、上述の気相成長工程S140を再実施してもよい。これにより、結晶品質が良好な窒化物結晶基板2を繰り返し製造することができる。
(2)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
(a)エッチング工程S130では、基板用意工程S110で基板20の洞20a内に残留した残留不純物31の少なくとも一部を気化させ、気化した残留不純物31の少なくとも一部を基板20の上面に析出させる。そして、基板20の上面に析出した残留不純物31の少なくとも一部を、基板20のマトリクスを構成するGaNとともに除去する。これにより、基板20の洞20a内の残留不純物31を減少させ、気相成長工程S140において洞20aからアウトガスを放出しない程度に枯れさせることができる。エッチング工程S130において基板20の洞20a内の残留不純物31を枯れさせることで、気相成長工程S140において半導体層40を成長させる際に、基板20の上面への残留不純物31の析出を抑制することができる。基板20の上面への残留不純物31の析出を抑制することで、基板20の上面で析出した残留不純物31を起因とした結晶方位のずれ等の発生を抑制することができ、半導体層40中の転位の形成を抑制することができる。また、基板20の上面への残留不純物31の析出を抑制することで、基板20の上面で析出した残留不純物31を起因とした、半導体層40の異常成長や、半導体層40が成長しない非成長領域の形成を抑制することができる。また、基板20の上面への残留不純物31の析出を抑制することで、半導体層40をステップフロー成長させ、3次元島状成長の発生を抑制することができる。これにより、半導体層40の成長時に引張応力が生じることを抑制し、半導体層40の結晶面に反りが生じることを抑制することができる。これらの結果、結晶品質が良好な半導体積層物1または窒化物結晶基板2を製造することが可能となる。つまり、半導体積層物1または窒化物結晶基板2の結晶品質を従来の方法よりもさらに向上させることが可能となる。
(b)エッチング工程S130では、残留不純物31を直接エッチングするのではなく、残留不純物31が付着した基板10のマトリクスをエッチングすることで、残留不純物31を除去する。これにより、たとえ、残留不純物31を構成する材料、残留不純物31の量、または残留不純物31の位置等が不明であったとしても、残留不純物31を基板10のマトリクスとともに確実に除去することができる。また、残留不純物31が加熱により炭化されたり窒化されたりして、いかなる溶媒でも容易に溶けない状態となったとしても、残留不純物31を基板10のマトリクスとともに確実に除去することができる。
(c)本実施形態のエッチング工程S130では、基板20の洞20a内から残留不純物31の少なくとも一部を気化させ、気化した残留不純物31の少なくとも一部を基板20の上面に析出させる。つまり、基板20の洞20a内に残留した残留不純物31を、基板20のうちエッチングガスに触れ易い位置に移動させる。基板20の上面に残留不純物31を析出させたら、基板20の上面に析出した残留不純物31の少なくとも一部をGaNとともに除去する。このような二段階のプロセスを経ることにより、たとえエッチングガスが基板20の洞20a内に入り込まなかったとしても、また、エッチング条件がマイルドな条件であったとしても、基板20の洞20a内に残留した残留不純物31を確実に除去することができる。
(d)基板20に洞20aが形成されていると、基板用意工程S110のうち、スライス工程S114、研磨工程S116または洗浄工程S118で使用した、ワックス、切削液、研磨液、研磨材および洗浄液のうち少なくともいずれかに由来する残留不純物31が基板20の洞20a内に残留し易い。そこで、上記したエッチング工程S130を行うことで、上述の残留不純物31を確実に除去することができる。これにより、基板用意工程S110のプロセスで生じた残留不純物31の影響が、後工程としての気相成長工程S140に及ばないようにすることができる。
(e)液相成長法を用いて基板用意工程S110を行い、エッチング工程S130を経て気相成長工程S140を行うことで、液相成長法による低転位密度の基板20の結晶性を引き継ぎつつ、基板20の上面上に半導体層40をエピタキシャル成長させることができる。これにより、半導体層40の上面における転位密度を、基板20の上面における転位密度と同等とすることができる。一方で、このとき、気相成長工程S140において気相成長法により半導体層40をエピタキシャル成長させることで、気相成長法による半導体層40の成長レートを、液相成長法による液相成長層14の成長レートよりも高くすることができる。これにより、厚膜の半導体層40を容易に形成することができる。これらの結果、半導体積層物1または窒化物結晶基板2の結晶品質を向上させつつ、それらの生産性を向上させることができる。つまり、液相成長法および気相成長法をこの順で用いた方法による効果を、従来よりもさらに向上させることが可能となる。
(f)エッチング工程S130では、基板20の上面のうち結晶欠陥部を除く領域が平滑となる条件下で、基板20の露出部をエッチングする。このようなマイルドなエッチング条件により基板20の上面を平滑に維持することで、気相成長工程S140において、基板20の上面上に半導体層40を平滑にエピタキシャル成長させることができる。また、このとき、該半導体層40の上面を構成する結晶面以外のファセットの発生を抑制することができる。仮に半導体層40の成長時に半導体層40の上面を構成する結晶面以外のファセットが生じた場合、半導体層40中への不純物の取り込みが増加することとなる。これに対し、本実施形態では、このようなファセットの発生を抑制することで、半導体層40中への不純物の取り込みを抑制することができる。
(g)エッチング工程S130と気相成長工程S140とを、気相成長装置400の処理室401を大気開放することなく、同一の処理室401内で連続的に行う。これにより、エッチング工程S130から気相成長工程S140までの間に、基板20と半導体層40との界面の汚染(コンタミネーション)を抑制することができる。つまり、エッチング工程S130によって浄化された基板20の上面上に、直接、半導体層40を成長させることができる。このように基板20と半導体層40との界面の汚染を抑制することで、基板20の結晶性を低下させずに半導体層40に引き継ぐことができる。
(h)基板用意工程S110では、例えば、MPS基板10を用いて基板20を作製する。このようなMPS基板10を用いて作製した基板20では、液相成長工程S112での島状結晶の会合部等に多くの洞20aが形成される傾向がある。このため、基板20の洞20a内に残留不純物31が残留し易い。そこで、当該基板20に対して上述の実施形態のエッチング工程S130を適用することで、多くの洞20aを有する基板20を用いた場合であっても、洞20a内の残留不純物を除去することができる。これにより、気相成長工程S140において半導体層40中への結晶欠陥部の形成を抑制することができる。したがって、本実施形態は、MPS基板10により作製された基板20のように多くの洞20aを有する基板20を用いて半導体積層物1または窒化物結晶基板2を製造する場合に特に有効である。
(3)本実施形態の変形例
上述の実施形態のエッチング工程S130は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。なお、本変形例は、エッチング工程S130が後述する気化工程S120を兼ねる場合に相当する。以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
(変形例1)
図9は、本実施形態の変形例1のエッチング工程から気相成長工程までの種結晶基板の上面上に流れるガスの流速変化を示す図である。
図9に示す変形例1のように、エッチング工程S130で基板20の上面上に流れるガスの流速Veを、例えば、気相成長工程S140で基板20の上面上に流れるガスの流速Vgよりも高くしてもよい。これにより、ベンチュリ効果により、基板20の洞20a内の残留不純物31を洞20aの外へ吸い出すことができる。
具体的には、気相成長工程S140でのガスの流速Vgに対する、エッチング工程S130でのガスの流速Veの比率(流速比率)を、例えば、1.1倍以上5倍以下、好ましくは、1.5倍以上3倍以下とする。流速比率が1.1倍未満であると、ベンチュリ効果が充分に得られない可能性がある。これに対し、流速比率を1.1倍以上とすることにより、ベンチュリ効果を充分に得ることができる。さらに、流速比率を1.5倍以上とすることにより、ベンチュリ効果を確実に得ることができる。一方で、流速比率が5倍超であると、エッチングガスが基板20の上面に強く吹き付けられるため、基板20の上面が荒れる可能性がある。これに対し、流速比率を5倍以下とすることにより、エッチングガスが基板20の上面に対して強く吹き付けられることを抑制することができ、基板20の上面の荒れを抑制することができる。さらに、流速比率を3倍以下とすることにより、基板20の上面の荒れを確実に抑制することができる。
例えば、気相成長工程S140でのガスの流速Vgを5cm/s以上10cm/s以下としたとき、エッチング工程S130でのガスの流速Veを、5.5cm/s以上50cm/s以下、好ましくは7.5cm/s以上30cm/s以下とする。
変形例1によれば、エッチング工程S130で基板20の上面上に流れるガスの流速Veを、気相成長工程S140で基板20の上面上に流れるガスの流速Vgよりも高くすることで、ベンチュリ効果を生じさせ、基板20の洞20a内の圧力を洞20aの外の圧力よりも低下させることができる。これにより、基板20の洞20a内の残留不純物31を、洞20aの外へ吸い出すことができる。その結果、エッチング工程S130での残留不純物31の除去効率を向上させることができる。
(変形例2)
図9(b)は、本実施形態の変形例2のエッチング工程および気相成長工程での処理室内の圧力変化を示す図である。
図9(b)に示す変形例2のように、エッチング工程S130での処理室401内の圧力を上下に変動させてもよい。つまり、エッチング工程S130での処理室401内の圧力を低下させることと、該圧力を上昇させることとを含むサイクルを繰り返し行ってもよい。これにより、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを行うことができる。
このとき、エッチング工程S130での処理室401内の最低圧力Pe1を、例えば、気相成長工程S140での処理室401内の圧力Pgよりも低くする。これにより、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを効率よく行うことができる。
なお、エッチング工程S130での処理室401内の最高圧力Pe2は、特に限定されるものではないが、例えば、気相成長工程S140での処理室401内の圧力Pgと等しくすることができる。なお、エッチング工程S130での処理室401内の最高圧力Pe2を、気相成長工程S140での処理室401内の圧力Pgよりも高くしてもよい。
また、このとき、エッチング工程S130での処理室401内の最高圧力Pe2に対する最低圧力Pe1の比率(圧力比率:Pe1/Pe2)を、例えば、1/10以上1/2以下とする。圧力比率が1/10未満であると、最低圧力Pe1を過剰に低く設定することとなり、エッチング速度が低下してしまう可能性がある。また、当該圧力比率で処理室401内の圧力を変動させるための時間が長くなってしまう可能性がある。これに対し、圧力比率を1/10以上とすることにより、エッチング速度の低下を抑制することができる。また、当該圧力比率で処理室401内の圧力を変動させるための時間を短くすることができる。一方で、圧力比率が1/2超であると、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを充分に行うことができない可能性がある。これに対し、圧力比率を1/2以下とすることにより、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを充分に行うことができる。
また、このとき、エッチング工程S130において処理室401内の圧力を変動させるサイクルの繰り返し回数を、例えば、6回以上20回以下とする。繰り返し回数が6回未満であると、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを充分に行うことができない可能性がある。これに対し、繰り返し回数を6回以上とすることにより、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを充分に行うことができる。一方で、繰り返し回数が20回超であると、当該繰り返し回数で処理室401内の圧力を変動させるための時間が長くなってしまう可能性がある。これに対し、繰り返し回数を20回以下とすることにより、当該繰り返し回数で処理室401内の圧力を変動させるための時間を短くすることができる。つまり、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを効率よく行うことができる。
変形例2によれば、エッチング工程S130での処理室401内の圧力を上下に変動させることで、基板20の洞20a内から外側に残留不純物31のアウトガスを排出し、一方で、基板20の洞20aの外側の清浄な雰囲気を洞20a内に取り込むことができる。これにより、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを行うことができる。つまり、基板20の洞20a内において、いわゆるサイクルパージを行うことができると考えてもよい。その結果、基板20の洞20a内の残留不純物31のアウトガスを速く減少させることができる。
<本発明の第2実施形態>
上述の実施形態では、基板用意工程S110の後すぐにエッチング工程S130を行う場合について説明したが、以下の第2実施形態のように、これらの工程の間に、残留不純物31を気化(蒸発)させる気化工程S120を行ってもよい。本実施形態においても、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明する。
(1)半導体積層物の製造方法または窒化物結晶基板の製造方法
図10および図11を用い、本実施形態に係る半導体積層物の製造方法または窒化物結晶基板の製造方法について説明する。図10は、本実施形態に係る半導体積層物の製造方法または窒化物結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。図11(a)は、本実施形態の気化工程から気相成長工程までの種結晶基板の温度変化を示す図であり、(b)は、本実施形態の気化工程から気相成長工程までの種結晶基板の上面上に流れるガスの流速変化を示す図である。
(S120:気化工程)
本実施形態では、基板用意工程S110の後でエッチング工程S130の前に、基板20を所定の温度以上に加熱し、基板20の洞20a内における残留不純物31の少なくとも一部を気化させる気化工程S120を行う。なお、ここでいう「残留不純物31の少なくとも一部を気化させる」処理とは、残留不純物31の少なくとも一部を基板20の洞20a内から湧き出させる処理であると考えてもよい。
気化工程S120は、上述の気相成長装置400を用い、例えば以下の処理手順で実施することができる。
まず、基板20を、気密容器403内へ投入(搬入)し、サセプタ408上に保持する。なお、このとき、気相成長工程S140で用いられる原料としてのGa融液をガス生成器433a内に収容しておく。次に、ガス供給管432a〜432cのうちの少なくともいずれかから処理室401内へ所定のガス(以下、排出ガス)を供給し、処理室401内の加熱および排気を実施する。なお、このとき、サセプタ408の回転も開始する。
このとき、処理室401内へ供給する排出ガスとしては、例えば、主にN2ガスとする。これにより、基板20を構成するGaNのエッチングを抑制することができる。なお、排出ガスとして、H2ガスを含んでいてもよい。これにより、基板20を構成するGaNからのN抜けによってGaドロップレットが生じた場合に、該GaドロップレットをGaH3として気化させて除去することができる。ただし、基板20を構成するGaNのエッチングを抑制する観点から、排出ガスとしては、エッチングガスとしてのHClガスを含まないことが好ましい。つまり、エッチングガス非含有の雰囲気下で気化工程S120を行うことが好ましい。
図11(a)に示すように、処理室401内の加熱によって基板20の温度が徐々に上昇する。本実施形態では、基板20の温度を所定の温度Tdに到達させるとともに、処理室401内の圧力を所定の圧力に到達させ、その後、所定時間、基板20の温度および処理室401内の圧力をそれぞれ一定に維持させる。
これにより、上述の図7(a)に示したように、気化工程S120で基板20を所定の温度Tdに加熱することで、基板20の洞20a内における残留不純物31の少なくとも一部を気化させる(湧き出させる)。洞20a内で気化された残留不純物31の少なくとも一部は、洞20aを通って洞20aの開口まで到達する。洞20aの開口に到達した残留不純物31の少なくとも一部は、排出ガスによって基板20の外側に排出される。一方で、残留不純物31の他部は、基板20の上面のうちの洞20aの開口から噴出して、該開口付近に析出される。なお、残留不純物31の他部は、基板20の上面のうち洞20aの開口付近以外の部分にも再付着し析出される可能性がある。
このとき、図11(a)に示すように、気化工程S120での基板20の温度Tdを、例えば、エッチング工程S130での基板20の温度Teと等しくし、気相成長工程S140での基板20の温度Tgよりも低くする。これにより、気化工程S120において、基板20を構成するGaNの熱分解を抑制することができる。
また、このとき、図11(a)に示すように、基板20を所定の温度Tdに加熱した後、基板20の温度を一定時間保持する。これにより、気化工程S120において、基板20の洞20a内における所定量の残留不純物31を安定的に気化させることができる。
また、このとき、図11(b)に示すように、気化工程S120で基板20の上面上に流れるガスの流速Vdを、例えば、エッチング工程S130で基板20の上面上に流れるガスの流速Veよりも高くする。これにより、ベンチュリ効果により、基板20の洞20a内の残留不純物31を洞20aの外へ吸い出すことができる。
具体的には、エッチング工程S130でのガスの流速Veに対する、気化工程S120でのガスの流速Vdの比率(流速比率)を、例えば、1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上とする。流速比率を1.1倍以上とすることにより、ベンチュリ効果を充分に得ることができる。さらに、流速比率を1.5倍以上とすることにより、ベンチュリ効果を確実に得ることができる。なお、気化工程S120での流速比率の上限値は、高ければ高いほどよいため限定されるものではないが、気相成長装置400の典型的な排気能力を考慮すれば、例えば、5倍程度である。
例えば、エッチング工程S130でのガスの流速Veを5cm/s以上10cm/s以下としたとき、気化工程S120でのガスの流速Vdを、5.5cm/s以上50cm/s以下、好ましくは7.5cm/s以上30cm/s以下とする。
また、このとき、気化工程S120の時間を、例えば、エッチング工程S130の時間よりも長くする。これにより、エッチング工程S130の前に、残留不純物31を排出ガスによって基板20の外側に排出するか、或いは、残留不純物31を基板20の上面に析出させることができる。その結果、基板20の洞20a内の奥に入り込んだ残留不純物31を少なくすることができる。なお、気化工程S120でのガスの流速Vdの調整により短時間で残留不純物31を排出できる場合などには、気化工程S120の時間をエッチング工程S130の時間以下としてもよい。
所定時間経過後、基板20の洞20a内における残留不純物31の所定量を排出ガスにより基板20から排出したら、基板20の温度および処理室401内の圧力をそれぞれ一定に維持しつつ、処理室401内へ供給する排出ガスとしてのN2ガス等の流量を少なくし、ガスの流速をエッチング工程S130でのガスの流速Veとなるように調整する。これにより、気化工程S120を終了させる。なお、処理室401内へのN2ガス等の供給は継続させる。
(エッチング工程130以降の工程)
次に、エッチング工程S130および気相成長工程S140を行う。
エッチング工程S130では、上述の図7(b)に示したように、気化工程S120で基板20の上面に析出した残留不純物31の少なくとも一部を、基板20のマトリクスを構成するGaNとともに除去する。
本実施形態では、気相成長装置400の処理室401を大気開放することなく、また処理室401内から基板20を搬出することなく、そのまま同一の気相成長装置400の処理室401内で、気化工程S120、エッチング工程S130および気相成長工程S140を連続的に行う。これにより、気化工程S120から気相成長工程S140までの間において、基板20と半導体層40との界面の汚染(コンタミネーション)を抑制することができる。
気相成長工程S140以降の工程は、第1実施形態と同様である。
(2)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
(a)気化工程S120では、基板用意工程S110の後でエッチング工程S130の前に、基板20を所定の温度以上に加熱し、基板20の洞20a内における残留不純物31の少なくとも一部を気化させ、気化した残留不純物31の少なくとも一部を基板20の上面に析出させる。つまり、エッチング工程S130の前に、基板20の洞20a内に残留した残留不純物31を、基板20のうちエッチングガスに触れ易い位置に移動させる。これにより、基板20の洞20a内の奥に入り込んだ残留不純物31を少なくすることができる。その結果、エッチング工程S130において、たとえエッチングガスが基板20の洞20a内に入り込まなかったとしても、また、エッチング条件がマイルドな条件であったとしても、基板20の洞20a内に残留した残留不純物31を確実に除去することができる。
(b)本実施形態では、残留不純物31を気化させる気化工程S120と、残留不純物31をGaNとともに除去するエッチング工程S130とを別々に行う。これにより、それぞれの工程の作用に適したガスおよび温度等の条件を選択することができる。例えば、気化工程S120に用いる排出ガスにHClガスが含まれないようにしたり、気化工程S120の時間を長くしたりすることができる。これにより、基板20の洞20a内の残留不純物31を確実に気化させることができる。その結果、基板20の洞20a内の奥に入り込んだ残留不純物31を、洞20aの奥から少なくとも洞20aの開口よりも外側に確実に排出することができる。
(c)気化工程S120で基板20の上面上に流れるガスの流速Vdを、エッチング工程S130で基板20の上面上に流れるガスの流速Veよりも高くする。これにより、ベンチュリ効果を生じさせ、基板20の洞20a内の圧力を洞20aの外の圧力よりも低下させることができる。これにより、基板20の洞20a内の残留不純物31を洞20aの外へ吸い出すことができる。その結果、気化した残留不純物31の少なくとも一部を基板20の洞20aの外に排出し易くすることができる。
(3)本実施形態の変形例
上述の実施形態の気化工程S120は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。以下の変形例においても、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明する。
(変形例1)
図12は、本実施形態の変形例1の気化工程から気相成長工程までの種結晶基板の温度変化を示す図である。
図12に示す変形例1のように、気化工程S120での基板20の温度Tdを、例えば、エッチング工程S130での基板20の温度Teよりも高くしてもよい。なお、本変形例では、例えば、気化工程S120での基板20の温度Tdを一定に維持する。このように気化工程S120での基板20の温度Tdを高くすることで、エッチング工程S130前に、基板20の洞20a内における残留不純物31を気化させ易くすることができる。
なお、気化工程S120での基板20の温度Tdは、気相成長工程S140での基板20の温度Tgよりも低いことが好ましい。これにより、気化工程S120において、基板20を構成するGaNの熱分解を抑制することができる。
具体的には、気化工程S120での基板20の温度Tdを、例えば、700℃以上900℃以下とする。温度Tdを700℃以上とすることにより、基板20の洞20a内における残留不純物31の重量減少を加熱によって促すことができる。一方で、温度Tdを900℃以下とすることにより、基板20を構成するGaNの熱分解を抑制することができる。
変形例1によれば、気化工程S120での基板20の温度Tdをエッチング工程S130での基板20の温度Teよりも高くすることで、エッチング工程S130前に、基板20の洞20a内における残留不純物31を気化させ易くすることができる。その結果、エッチング工程S130において、エッチング条件がマイルドな条件であっても、基板20の洞20a内における残留不純物31を確実に除去することができる。
(変形例2)
図13(a)は、本実施形態の変形例2の気化工程から気相成長工程までの処理室内の圧力変化を示す図である。
図13(a)に示す変形例2のように、気化工程S120での処理室401内の圧力Pdを、例えば、エッチング工程S130での処理室401内の圧力Peよりも低くしてもよい。なお、本変形例では、例えば、気化工程S120での処理室401内の圧力Pdを一定に維持する。このように気化工程S120での処理室401内の圧力Pdを低くすることで、エッチング工程S130前に、基板20の洞20a内における残留不純物31の少なくとも一部の気化を促すことができる。
具体的には、気化工程S120での処理室401内の圧力Pdを、例えば、1kPa以下とする。これにより、基板20の洞20a内における残留不純物31の少なくとも一部の気化を促すことができる。なお、気化工程S120での処理室401内の圧力Pdの下限値は、低ければ低いほどよいため限定されるものではないが、気相成長装置400の典型的な排気能力を考慮すれば、例えば、90Pa程度である。
変形例2によれば、気化工程S120での処理室401内の圧力Pdをエッチング工程S130での処理室401内の圧力Peよりも低くすることで、エッチング工程S130前に、基板20の洞20a内における残留不純物31の少なくとも一部の気化を促すことができる。その結果、エッチング工程S130において、エッチング条件がマイルドな条件であっても、基板20の洞20a内における残留不純物31を確実に除去することができる。
(変形例3)
図13(b)は、本実施形態の変形例3の気化工程から気相成長工程までの処理室内の圧力変化を示す図である。
図13(b)に示す変形例3のように、気化工程S120での処理室401内の圧力を上下に変動させてもよい。つまり、気化工程S120での処理室401内の圧力を低下させることと、該圧力を上昇させることとを含むサイクルを繰り返し行ってもよい。これにより、第1実施形態の変形例2のエッチング工程S130と同様に、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを行うことができる。
このとき、気化工程S120での処理室401内の最低圧力Pd1を、例えば、エッチング工程S130や気相成長工程S140での処理室401内の圧力Pe,Pgよりも低くする。これにより、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを効率よく行うことができる。なお、この場合、エッチング工程S130での処理室401内の圧力Peは、気相成長工程S140での処理室401内の圧力Pgと等しいものする。
なお、気化工程S120での処理室401内の最高圧力Pd2は、特に限定されるものではないが、例えば、エッチング工程S130や気相成長工程S140での処理室401内の圧力Pe,Pgと等しくすることができる。なお、気化工程S120での処理室401内の最高圧力Pd2を、エッチング工程S130や気相成長工程S140での処理室401内の圧力Pe,Pgよりも高くしてもよい。
また、このとき、気化工程S120での処理室401内の最高圧力Pd2に対する最低圧力Pd1の比率(圧力比率:Pd1/Pd2)を、例えば、1/10以上1/2以下とする。圧力比率が1/10未満であると、当該圧力比率で処理室401内の圧力を変動させるための時間が長くなってしまう可能性がある。これに対し、圧力比率を1/10以上とすることにより、当該圧力比率で処理室401内の圧力を変動させるための時間を短くすることができる。一方で、圧力比率が1/2超であると、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを充分に行うことができない可能性がある。これに対し、圧力比率を1/2以下とすることにより、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを充分に行うことができる。
また、このとき、気化工程S120において処理室401内の圧力を変動させるサイクルの繰り返し回数を、例えば、6回以上20回以下とする。繰り返し回数が6回未満であると、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを充分に行うことができない可能性がある。これに対し、繰り返し回数を6回以上とすることにより、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを充分に行うことができる。一方で、繰り返し回数が20回超であると、当該繰り返し回数で処理室401内の圧力を変動させるための時間が長くなってしまう可能性がある。これに対し、繰り返し回数を20回以下とすることにより、当該繰り返し回数で処理室401内の圧力を変動させるための時間を短くすることができる。つまり、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを効率よく行うことができる。
変形例3によれば、気化工程S120での処理室401内の圧力を上下に変動させることで、基板20の洞20a内から外側に残留不純物31のアウトガスを排出し、一方で、基板20の洞20aの外側の清浄な雰囲気を洞20a内に取り込むことができる。これにより、基板20の洞20a内の雰囲気の入れ替えを行うことができる。つまり、基板20の洞20a内において、いわゆるサイクルパージを行うことができると考えてもよい。その結果、基板20の洞20a内の残留不純物31のアウトガスを速く減少させることができる。
<本発明の第3実施形態>
上述の実施形態では、気相成長工程S140において所定の成長温度Tgで半導体層40を成長させる場合について説明したが、以下の第3実施形態のように気相成長工程S140での成長温度を変化させてもよい。本実施形態においても、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明する。
(1)発明者等の得た知見
上述の実施形態のようにエッチング工程S130を行うことにより、基板用意工程S110で基板20の洞20a内に残留したインクルージョン、ワックス、切削液、研磨液、研磨材および洗浄液のうち少なくともいずれかを含む残留不純物31を、基板20のマトリクスを構成するGaNとともに除去することができる。しかしながら、基板20中のインクルージョンの状態によっては、以下のような課題が生じる可能性がある。
ここで、液相成長法等により形成された基板20中には、インクルージョンがランダムに分布していることがある。基板20を研磨すると、基板20中のインクルージョンの位置や深さが、無作為に決まってしまう可能性がある。
基板20の上面に洞20aの開口が形成されている場合には、上述のようにエッチング工程S130を行うことにより、洞20a内の残留不純物31としてのインクルージョンを除去することができる。しかしながら、例えば、基板20の上面に洞20aの開口が形成されていない場合や、基板20における洞20aの開口が小さい場合などには、(たとえエッチング工程S130を行ったとしても、)残留不純物31としてのインクルージョンが内包されたままとなる可能性がある。
基板20中にインクルージョンが内包されたまま、気相成長工程S140において基板20の温度を所定の成長温度(例えば、1050℃以上1100℃以下)まで上昇させると、基板20中のインクルージョンは、当該成長温度に加熱され、熱膨張することとなる。このとき、液相成長法等により形成された基板20中のインクルージョンは、気相成長工程S140の成長温度よりも低温(例えば850℃以上950℃以下)で閉じ込められたものである。このため、基板20中にインクルージョンが閉じ込められたときの温度と、気相成長工程S140の成長温度との差に応じて、基板20中のインクルージョンの圧力が上昇する。インクルージョンの圧力が過剰に上昇すると、基板20のうちインクルージョンの上部を塞いでいた結晶部分が破壊され、インクルージョンが爆発する可能性がある。
また、インクルージョンが爆発すると、基板20のうちインクルージョンを塞いでいた結晶部分に塑性変形が生じる可能性がある。このため、当該基板20の塑性変形が生じた部分上に成長した半導体層40中に転位が導入される可能性がある。
また、インクルージョンが爆発すると、基板20のうちインクルージョンを塞いでいた結晶部分が破片となって飛び散る可能性がある。破片は、ランダムな向きで基板20の上面上に載ってしまう可能性がある。このため、破片の大きさに関わらず、基板20の上面上にランダムに載った破片上には、半導体層40が異常成長する可能性がある。
なお、上述のインクルージョンの爆発に関する課題は、基板20が洞20aを含む場合に限られない。すなわち、基板20がインクルージョンのみ(インクルージョンで満たされた洞20aのみ)を含む場合であっても、上述と同様の課題を生じうる。
以下で説明する本実施形態は、本発明者等が見出した上記新規課題に基づくものである。
(2)半導体積層物の製造方法または窒化物結晶基板の製造方法
図14および図15を用い、本実施形態に係る半導体積層物の製造方法または窒化物結晶基板の製造方法について説明する。図14は、本実施形態に係る半導体積層物の製造方法または窒化物結晶基板の製造方法を示すフローチャートである。図15は、本実施形態のエッチング工程から気相成長工程までの種結晶基板の温度変化を示す図である。
(S110:基板用意工程)
まず、基板20を用意する。基板20は、例えば、インクルージョンを含んでいる。また、基板20の表面には、研磨加工が施されている。このため、基板20中のインクルージョンの位置や深さが、無作為に決まっている。例えば、上述のように、基板20の上面に洞20aの開口が形成されている場合だけでなく、基板20の上面に洞20aの開口が形成されていない場合、基板20における洞20aの開口が小さい場合、基板20中に洞20aが形成されずにインクルージョンが形成されている場合などがある。つまり、基板20中のインクルージョンの上部が塞がっている場合がある。
(S130:エッチング工程)
次に、気相成長装置400を用い、基板20のうちの露出部を気相中でエッチングするエッチング工程S130を行う。これにより、基板20の洞20a内に残留したインクルージョンを含む残留不純物31の少なくとも一部を気化させ、気化した残留不純物31の少なくとも一部を基板20の上面に析出させる。そして、基板20の上面に析出した残留不純物31の少なくとも一部を、基板20のマトリクスを構成するGaNとともに除去することができる。
ただし、エッチング工程S130を行ったとしても、基板20の上面に洞20aの開口が形成されていない場合などには、インクルージョンを含む残留不純物31が内包されたままとなる可能性がある。
(S140:気相成長工程)
次に、基板20の上面上に半導体層40を気相成長法によりエピタキシャル成長させる気相成長工程S140を行う。本実施形態では、気相成長工程S140は、例えば、2段階成長工程により構成され、第1層成長工程(爆発抑制層成長工程)S142と、第2層成長工程(本格成長工程)S144と、を有している。
(S142:第1層成長工程)
エッチング工程S130の終了後、基板20の温度をエッチング工程S130での基板20の温度Teよりも上昇させる。基板20の温度が所定の成長温度Tg1に到達したら、基板20の上面上に、III族窒化物半導体として、例えばGaNからなる第1層(爆発抑制層)を成長させる。
このとき、例えば、第1層成長工程S142での成長温度Tg1を、後述の第2層成長工程S144での成長温度Tg2よりも低くする。これにより、第1層によって、インクルージョンの爆発を抑制するように基板20中のインクルージョンの上部を塞ぐ(厚くする)ことができる。すなわち、第1層を、インクルージョンの上部の蓋またはインクルージョンの爆発抑制層として機能させることができる。
また、このとき、第1層成長工程S142での成長温度Tg1を、例えば、インクルージョンの爆発が抑制される臨界温度以下とする。これにより、第1層成長工程S142において、インクルージョンの爆発を抑制しつつ、第1層を成長させることができる。
具体的には、第1層成長工程S142での成長温度Tg1を、例えば、940℃以上1050℃未満とする。成長温度Tg1が940℃未満であると、第1層を単結晶成長させることができない(第1層が多結晶となってしまう)可能性がある。これに対し、成長温度Tg1を940℃以上とすることにより、第1層を単結晶成長させることができる。一方で、成長温度Tg1が1050℃以上であると、第1層成長工程S142中にインクルージョンが爆発してしまう可能性がある。これに対し、成長温度Tg1を1050℃未満とすることにより、第1層成長工程S142でのインクルージョンの爆発を抑制することができる。
また、このとき、第1層の厚さを、例えば、基板20の温度が後述の第2層成長工程S144での成長温度Tg2に加熱されたときに、インクルージョンの爆発が抑制される臨界厚さ以上とする。これにより、基板20の温度が第2層成長工程S144での成長温度Tg2に加熱され、基板20中のインクルージョンの圧力が上昇したとしても、インクルージョンの上部における第1層が破壊されることを抑制することができる。
具体的には、第1層の厚さを、例えば、10μm以上1000μm以下とする。第1層の厚さが10μm未満であると、第2層成長工程S144において、第1層が破壊され、インクルージョンが爆発する可能性がある。これに対し、第1層の厚さを10μm以上とすることにより、第2層成長工程S144において、第1層の破壊を抑制し、インクルージョンの爆発を抑制することができる。一方で、第1層の厚さが1000μm超であると、すなわち、比較的結晶品質が低い第1層の厚さが大きくなると、その影響を受けて第2層の結晶品質も低下する可能性がある。これに対し、第1層の厚さを1000μm以下とすることにより、比較的結晶品質が低い第1層の厚さに起因して第2層の結晶品質が低下することを抑制することができる。
(S144:第2層成長工程)
第1層成長工程S142の終了後、基板20の温度を第1層成長工程S142での基板20の温度Tg1よりも上昇させる。基板20の温度が所定の成長温度Tg2に到達したら、第1層の上面上に、III族窒化物半導体として、例えばGaNからなる第2層(本格成長層)を成長させる。
このとき、基板20の温度が成長温度Tg2に加熱されたとしても、上述の第1層によって蓋をした状態で第2層を成長させることで、インクルージョンの爆発を抑制しつつ、結晶品質が良好な第2層を安定的に成長させることができる。
また、このとき、第2層成長工程S144での成長温度Tg2を、例えば、1050℃以上1100℃以下とする。成長温度Tg2が1050℃未満であると、第2層の結晶品質が低下する可能性がある。これに対し、成長温度Tg2を1050℃以上とすることにより、結晶品質が良好な第2層を得ることができる。一方で、成長温度Tg2が1100℃超であると、第2層の表面が荒れる可能性がある。これに対し、成長温度Tg2を1100℃以下とすることにより、第2層の表面荒れを抑制することができる。
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
(a)気相成長工程S140は、第1層成長工程S142と、第2層成長工程S144と、を有する。また、第1層成長工程S142では、成長温度Tg1を、第2層成長工程S144での成長温度Tg2よりも低くする。これにより、第1層によって、インクルージョンの爆発を抑制するように基板20中のインクルージョンの上部を塞ぐ(厚くする)ことができる。その後、第2層成長工程S144において、第1層で蓋をした状態で第2層を成長させることによって、インクルージョンの爆発を抑制しつつ、結晶品質が良好な第2層を安定的に成長させることができる。具体的には、インクルージョンの爆発を抑制することで、インクルージョンの上部を塞ぐ結晶部分における塑性変形を抑制することができる。これにより、インクルージョンの上部に転位が生じることを抑制することができる。また、インクルージョンの爆発を抑制することで、インクルージョンの上部を塞ぐ結晶部分の破片の飛散を抑制することができる。これにより、破片を起因とする半導体層40の異常成長を抑制することができる。これらの結果、結晶品質が良好な半導体積層物1または窒化物結晶基板2を製造することが可能となる。つまり、半導体積層物1または窒化物結晶基板2の結晶品質を従来の方法よりもさらに向上させることが可能となる。
(b)第1層成長工程S142での成長温度Tg1を、インクルージョンの爆発が抑制される臨界温度以下とする。これにより、第1層成長工程S142において、インクルージョンの爆発を抑制しつつ、第1層を成長させることができる。その結果、第1層によって、基板20中のインクルージョンの上部を安定的に塞ぐことができる。
(c)第1層の厚さを、基板20の温度が第2層成長工程S144での成長温度Tg2に加熱されたときに、インクルージョンの爆発が抑制される臨界厚さ以上とする。これにより、基板20の温度が第2層成長工程S144での成長温度Tg2に加熱され、基板20中のインクルージョンの圧力が上昇したとしても、インクルージョンの上部における第1層が破壊されることを抑制することができる。その結果、第2層成長工程S144において、インクルージョンの爆発を抑制することができる。
(d)第2層成長工程S144において第1層によってインクルージョンの爆発を抑制しつつ第2層を成長させることで、第2層成長工程S144での成長温度を、III族窒化物半導体の良好な結晶品質が得られる温度まで上昇させることができる。これにより、第2層の上面におけるピットの形成を抑制することができる。
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
上述の実施形態では、種結晶基板20および窒化物結晶基板2のそれぞれがGaN自立基板である場合について説明したが、種結晶基板20および窒化物結晶基板2のそれぞれは、GaN自立基板に限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物半導体、すなわち、AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなる自立基板であってもよい。
また、種結晶基板20は、少なくとも表層がIII族窒化物半導体からなる基板であればよく、例えば、サファイア等からなる支持基板と、AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなる半導体層とを有するIII族窒化物半導体テンプレートであってもよい。
上述の実施形態では、液相成長工程S112においてMPS基板10を用いる場合について説明したが、液相成長工程S112の下地基板として、III族窒化物半導体自立基板や、III族窒化物半導体テンプレートを用いてもよい。
上述の実施形態では、液相成長工程S112において液相成長法としてフラックス法を用いる場合について説明したが、液相成長工程S112では、例えば、アモノサーマル法または高温高圧合成法を用いてもよい。
上述の実施形態では、基板用意工程S110において液相成長法により形成された種結晶基板20を用意する方法について説明したが、基板用意工程S110では、他の方法により形成された種結晶基板20を用意してもよい。例えば、特許第3533938号公報に記載の方法などにより形成された種結晶基板20を用意してもよい。
上述の実施形態では、表層が洞20aを含む種結晶基板20を用いる場合について説明したが、表層がインクルージョンのみ(インクルージョンで満たされた洞20aのみ)を含む種結晶基板20を用いてもよい。この場合、基板20の温度を所定の成長温度まで上昇させると、インクルージョンが爆発する可能性がある。したがって、このような場合には、上述の第3実施形態を適用することが有効となる。
上述の実施形態では、エッチング工程S130において、気化した残留不純物31の少なくとも一部を基板20の上面に析出させ、基板20の上面に析出した残留不純物31の少なくとも一部をエッチングガスによりGaNとともに除去する場合について説明したが、基板20の上面に対して供給されたエッチングガスが基板20の洞20a内に入り込んでもよい。この場合、基板20の洞20a内に入り込んだエッチングガスは、洞20aの内壁をエッチングする。このとき、洞20a内に残留した残留不純物31は、エッチングガスによってエッチングされなくてもよい。洞20aの内壁のエッチングが進むと、洞20aの内壁と残留不純物31との間にもエッチングガスが入り込む。洞20aの内壁のうち残留不純物31と接する部分が全てエッチングされると、洞20aの内壁から残留不純物31が剥離する。剥離された残留不純物31は、基板20の上面に対するエッチングガスの流れにしたがって基板20の外側に除去(排出)される。このような場合であっても、基板20の洞20a内に残留した残留不純物31を、基板20のマトリクスを構成するGaNとともに除去することができる。
上述の実施形態では、気相成長工程S140において気相成長法としてHVPE法を用いる場合について説明したが、気相成長工程S140では、例えば、有機金属気相成長法(MOVPE:Metalorganic Vapour Phase Epitaxy)を用いてもよい。ただし、半導体層40の成長レートを高くする必要がある場合では、HVPE法を用いたほうが好ましい。
上述の実施形態では、気相成長工程S140でのドーピングに関して説明しなかったが、半導体層40に所定の導電性または絶縁性を付与するために、気相成長工程S140において半導体層40に不純物をドーピングしてもよい。
上述の第1実施形態および第3実施形態では、エッチング工程S130と気相成長工程S140とを同一の気相成長装置400の処理室401内で連続的に行う場合について説明したが、エッチング工程S130と気相成長工程S140とをそれぞれ別の装置で行ってもよい。ただし、エッチング工程S130と気相成長工程S140とを同一の気相成長装置400の処理室401内で連続的に行うほうが、基板20と半導体層40との界面の汚染を抑制できる点で好ましい。
上述の第2実施形態では、気化工程S120から気相成長工程S140までを同一の気相成長装置400の処理室401内で連続的に行う場合について説明したが、気化工程S120、エッチング工程S130および気相成長工程S140をそれぞれ別の装置で行ってもよい。ただし、気化工程S120から気相成長工程S140までを同一の気相成長装置400の処理室401内で連続的に行うほうが、基板20と半導体層40との界面の汚染を抑制できる点で好ましい。
上述の第3実施形態では、第1層および第2層がそれぞれGaNからなる場合について説明したが、第1層および第2層は、互いに異なるIII族窒化物半導体からなっていてもよい。
上述の実施形態では、半導体積層物1をスライスして窒化物結晶基板2を製造する際に、エッチング工程S130を有する本発明の製造方法を適用する場合について説明したが、ショットキーバリアダイオード(SBD)、高移動度トランジスタ(HEMT)または発光素子などのデバイスを製造するための半導体積層物1を製造する際に、本発明の製造方法を適用してもよい。
以下、本発明の効果を裏付ける各種実験結果について説明する。
<1>エッチング工程の効果の確認
<1−1>種結晶基板について
液相成長法としてフラックス法を用い、GaN自立基板からなる種結晶基板を作製した。作製した種結晶基板を劈開し、その断面を微分干渉顕微鏡、蛍光顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、またはカードルミネッセンス(CL)法により観察した。
図16〜図19を用い、結果について説明する。図16(a)は、種結晶基板の断面の微分干渉像であり、(b)は、種結晶基板の断面の蛍光像である。図17は、種結晶基板の断面のSEM像である。図18は、種結晶基板の断面のSEM像およびカソードルミネッセンス像である。図19は、種結晶基板の断面のカソードルミネッセンス像である。
図16(a)の微分干渉像に示すように、種結晶基板中には、インクルージョンによって、様々な形状の洞が形成されていることを確認した。また、洞の一部が種結晶基板の上面まで到達し、種結晶基板の上面には溝が形成されていることを確認した。
また、図16(b)の蛍光像に示すように、種結晶基板の奥行方向(紙面に垂直な方向)の結晶の状態を蛍光像により観察することにより、種結晶基板中の複数の洞が組み合わさり、その洞の一部が種結晶基板の上面に開口していることを確認した。
また、図17のSEM像に示すように、種結晶基板中に形成された洞は、種結晶基板の厚さ方向に数百μmに亘って延在していることを確認した。また、この部分では、種結晶基板中に形成された洞は、種結晶基板の上面側から下面側に向けて凹んでいたり、これと反対に種結晶基板の下面側から上面側に向けて凹んでいたりすることを確認した。
また、図18のSEM像およびCL像に示すように、種結晶基板中のステップバンチング端には、該ステップバンチング端の延在方向に沿って、複数の洞が形成されていることを確認した。
また、図19のCL像に示すように、種結晶基板中のステップバンチングは入り組んで形成されており、ステップバンチング端に形成された洞は、例えれば鍾乳洞や洞窟のようであることを確認した。
このように、液相成長法により作製した種結晶基板中には、複雑な形状を有する洞が形成されていることを確認した。
<1−2>残留不純物について
種結晶基板(以下、基板と略すことがある)を加熱したときの残留不純物の影響を確認するため、以下のような実験を行った。
(比較例1)
種結晶基板:<1−1>と同じ
気化工程:
ガス:NH3ガス、温度:600℃
エッチング工程1:
溶媒:アセトン、方法:超音波洗浄、時間:5分
エッチング工程2:
溶媒:硝酸、温度:85℃、時間:30分
(実施例1)
種結晶基板:比較例1と同じ
気化工程:
ガス:NH3ガス、温度:600℃
エッチング工程:
装置:HVPE装置
エッチング温度:650℃
処理室内圧力:一定(95kPa)
ガス:N2ガス、HClガス、H2ガス
HClガス分圧/N2ガス分圧:3%
H2ガス分圧/N2ガス分圧:5%
エッチング時間:3h
図20および図21を用い、結果について説明する。図20(a)は、種結晶基板の上面の微分干渉像であり、(b)は、気化工程後の比較例1の種結晶基板の上面の微分干渉像であり、(c)は、エッチング工程後の比較例1の種結晶基板の上面の微分干渉像である。図21(a)は、気化工程後の実施例1の種結晶基板の上面の微分干渉像であり、(b)は、エッチング工程後の実施例1の種結晶基板の上面の微分干渉像である。
図20(a)に示すように、使用した基板の上面には、複数の洞が開口していた。
図20(b)に示すように、比較例1では、基板の加熱により、該基板の洞内における残留不純物の少なくとも一部が気化していた。また、気化した残留不純物の少なくとも一部は、該基板の洞の開口から噴出し、洞の開口付近に析出していた。
図20(c)に示すように、気化工程後の比較例1の基板に対して、アセトンや硝酸による洗浄を行ったものの、基板の洞の開口付近に析出した残留不純物を除去することは出来なかった。残留不純物を構成する材料が不明であったため、エッチング工程でのエッチング方法や条件がその材料に適していなかったと考えられる。または、残留不純物が加熱により炭化されたり窒化されたりしたため、残留不純物がいかなる溶媒でも容易に溶けない状態となったとも考えられる。
これに対し、実施例1の基板では、以下のように残留不純物が除去されることを確認した。
図21(a)に示すように、実施例1の基板においても、気化した残留不純物の少なくとも一部が、該基板の洞の開口から噴出し、洞の開口付近に析出していた。
図21(b)に示すように、実施例1では、気相中でのエッチング工程により、基板の上面に析出した残留不純物を、基板のマトリクスを構成するGaNとともに除去することができることを確認した。基板中のインクルージョンパターンがエッチング工程の前後で一致していることから、析出した残留不純物が除去されていることは明らかである。このように、本発明のエッチング工程を行うことにより、基板の上面に析出した残留不純物を除去し、基板の上面を平滑に維持することができることを確認した。
<1−3>半導体積層物について
(1)半導体積層物の製造
以下の条件下で、比較例2の半導体積層物と実施例2の半導体積層物とを製造した。
(比較例2)
種結晶基板:<1−1>および<1−2>と同じ
エッチング工程:不実施
気相成長工程:
方法:HVPE法
半導体層の材質:GaN
成長温度:1050℃
処理室内圧力:一定(95kPa)
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:3
N2ガスの流量/H2ガスの流量:5
半導体層の厚さ:200μm
(実施例2)
種結晶基板:比較例2と同じ
エッチング工程:実施(<1−2>の実施例1と同じ)
装置:気相成長工程と同じHVPE装置
エッチング温度:650℃
処理室内圧力:一定(95kPa)
ガス:N2ガス、HClガス、H2ガス
HClガス分圧/N2ガス分圧:3%
H2ガス分圧/N2ガス分圧:5%
エッチング時間:3h
気相成長工程:
比較例2と同じ
(2)評価
比較例2および実施例2の半導体積層物について、カソードルミネッセンス法により半導体層の上面における転位密度を測定した。なお、これと同様の方法により種結晶基板の上面における転位密度も測定した。
また、種結晶基板、比較例2の半導体積層物、および実施例2の半導体積層物の上面内において、(0002)面(c面)の回折ピークついてのX線ロッキングカーブの測定を行った。その結果、種結晶基板または半導体積層物の上面での位置に対する回折ピークの角度(ω値)の分布に基づいて、種結晶基板におけるc面の曲率半径、および半導体積層物の半導体層におけるc面の曲率半径を求めた。
(3)結果
図22を用い、結果について説明する。図22(a)は、実施例2の半導体積層物の外観を示す写真であり、(b)は、実施例2の半導体積層物のカソードルミネッセンス像であり、(c)は、比較例2の半導体積層物の外観を示す写真であり、(d)は、比較例2の半導体積層物のカソードルミネッセンス像である。なお、CL像での黒い点は転位を示している。
今回用いた基板の上面における転位密度は、0.5×105〜3×105個/cm2であった。また、基板におけるc面の曲率半径は、30mであった。
しかしながら、比較例2の半導体積層物では、図22(c)に示すように、半導体層の上面が荒れていた。比較例2の半導体積層物では、気相成長工程中に基板の上面に析出した残留不純物を起点として、半導体層が異常成長したり、逆に半導体層が成長しない非成長領域が形成されたりしたため、半導体層の上面が荒れていたと考えられる。なお、比較例2の半導体積層物では、基板中におけるインクルージョンの爆発も生じていたと考えられる。
また、比較例2の半導体積層物では、図22(d)に示すように、半導体層中に多くの転位が生じていた。比較例2の半導体積層物では、半導体層の上面における転位密度は、種結晶基板の上面における転位密度よりも高く、1×107個/cm2であった。
また、比較例2の半導体積層物では、半導体層におけるc面の曲率半径は、3mであった。
比較例2では、気相成長工程において基板の洞内から上面への残留不純物の析出が生じていたと考えられる。このため、比較例2では、気相成長工程において、基板の上面で析出した残留不純物に起因して、結晶方位のずれ等が生じ、半導体層に多くの転位が形成されてしまったと考えられる。また、比較例2では、基板の上面に析出した残留不純物に起因して、ステップフロー成長が阻害され、3次元島状成長が生じていたと考えられる。このため、半導体層の成長時に引張応力が生じ、半導体層のc面に反りが生じてしまったと考えられる。
これに対し、実施例2の半導体積層物では、図22(a)に示すように、半導体層の上面は、平滑な鏡面となり、その表面状態が比較例2と比較して顕著に改善されていた。
また、実施例2の半導体積層物では、図22(b)に示すように、半導体層中の転位が比較例2と比較して顕著に減少していた。実施例2の半導体積層物では、半導体層の上面における転位密度は、基板の上面における転位密度とほぼ同等であり、0.5×105〜3×105個/cm2であった。
また、実施例2の半導体積層物では、半導体層におけるc面の曲率半径は、80mであった。
実施例2では、以下のようなメカニズムにより上記結果が得られたと考えられる。すなわち、実施例2では、基板の洞内に残留した残留不純物の少なくとも一部を気化させ、気化した残留不純物の少なくとも一部を基板の上面に析出させることができた。そして、基板の上面に析出した残留不純物の少なくとも一部を、基板のマトリクスを構成するGaNとともに除去することができた。これにより、基板の洞内の残留不純物を減少させ、気相成長工程において洞からアウトガスを放出しない程度に枯れさせることができた。エッチング工程において基板の洞内の残留不純物を枯れさせることで、気相成長工程において半導体層を成長させる際に、基板の上面への残留不純物の析出を抑制することができた。基板の上面への残留不純物の析出を抑制することで、基板の上面で析出した残留不純物を起因とした結晶方位のずれ等の発生を抑制することができ、半導体層中の転位の形成を抑制することができた。また、基板の上面への残留不純物の析出を抑制することで、基板の上面で析出した残留不純物を起因とした、半導体層の異常成長や、半導体層が成長しない非成長領域の形成を抑制することができた。また、基板の上面への残留不純物の析出を抑制することで、半導体層をステップフロー成長させ、3次元島状成長の発生を抑制することができた。これにより、半導体層の成長時に引張応力が生じることを抑制し、半導体層のc面に反りが生じることを抑制することができた。
以上のように、実施例2では、結晶品質が良好な半導体積層物を製造することができることを確認した。
<2>気相成長工程における2段階成長の効果の確認
(1)半導体積層物の製造
以下の条件下で、比較例3〜4の半導体積層物と実施例3〜4の半導体積層物とを製造した。
(比較例3)
種結晶基板:<1−1>の種結晶インゴットからスライスした基板
エッチング工程:不実施
気相成長工程:
方法:HVPE法
2段階成長:不実施
半導体層の材質:GaN
処理室内圧力:一定(95kPa)
成長温度:1050〜1100℃の範囲内の所定の温度
半導体層の厚さ:600μm
(比較例4)
種結晶基板:比較例3と同じ
エッチング工程:不実施
気相成長工程:
方法:HVPE法
2段階成長:不実施
半導体層の材質:GaN
処理室内圧力:一定(95kPa)
成長温度:比較例3よりも低く、940〜1050℃の範囲内の所定の温度
半導体層の厚さ:600μm
(実施例3)
種結晶基板:比較例3と同じ
エッチング工程:実施(<1−2>の実施例1と同じ)
気相成長工程:
方法:HVPE法
2段階成長:不実施
半導体層の材質:GaN
処理室内圧力:一定(95kPa)
成長温度:940〜1050℃の範囲内の所定の温度
半導体層の厚さ:600μm
(実施例4)
種結晶基板:比較例3と同じ
エッチング工程:実施(<1−2>の実施例1と同じ)
気相成長工程:
方法:HVPE法
2段階成長:実施
第1層の材質:GaN
第1処理室内圧力:一定(95kPa)
第1成長温度:第2層成長温度よりも低く、940〜1050℃の範囲内の所定の温度
第1層の厚さ:200μm
第2層の材質:GaN
第2処理室内圧力:一定(95kPa)
第2成長温度:第1層成長温度よりも高く、1050〜1100℃の範囲内の所定の温度
第2層の厚さ:600μm
(2)評価
比較例3〜4および実施例3〜4の半導体積層物について、カソードルミネッセンス法により半導体層の上面における転位密度を測定した。なお、これと同様の方法により種結晶基板の上面における転位密度も測定した。
(3)結果
図23および図24を用い、結果について説明する。図23(a)は、実施例3の半導体積層物の外観を示す写真であり、(b)は、実施例3の半導体積層物のカソードルミネッセンス像であり、(c)は、実施例4の半導体積層物の外観を示す写真であり、(d)は、実施例4の半導体積層物のカソードルミネッセンス像である。図24(a)は、比較例3の半導体積層物の外観を示す写真であり、(b)は、比較例3の半導体積層物のカソードルミネッセンス像であり、(c)は、比較例4の半導体積層物の外観を示す写真であり、(d)は、比較例4の半導体積層物のカソードルミネッセンス像である。
今回用いた基板の上面における転位密度は、0.5×105〜3×105個/cm2であった。
比較例3の半導体積層物では、図23(a)に示すように、半導体層の上面が荒れていた。比較例3の半導体積層物では、気相成長工程での成長温度が高かったため、インクルージョンの爆発等が生じていたと考えられる。このため、比較例3の半導体積層物では、気相成長工程において、インクルージョンの爆発で生じた結晶の破片を起点として、半導体層が異常成長したため、半導体層の上面が荒れていたと考えられる。
また、比較例3の半導体積層物では、図23(b)に示すように、半導体層中に多くの転位が生じていた。比較例3の半導体積層物では、半導体層の上面における転位密度は、基板の上面における転位密度よりも高く、7.7×106個/cm2であった。
比較例3の半導体積層物では、気相成長工程において、インクルージョンの爆発等が生じ、基板のうちインクルージョンを塞いでいた結晶部分に塑性変形が生じていたと考えられる。このため、基板の塑性変形が生じた部分上に成長した半導体層中に多くの転位が形成されてしまったと考えられる。
比較例4の半導体積層物では、図23(c)に示すように、比較例3と比較して、半導体層の上面が平坦であった。比較例4の半導体積層物では、比較例3よりも気相成長工程での成長温度が低かったため、インクルージョンの爆発が抑制されていたと考えられる。このため、比較例4の半導体積層物では、半導体層の上面が平坦であったと考えられる。
しかしながら、比較例4の半導体積層物では、図23(d)に示すように、半導体層の上面における転位密度は低減されていなかった。具体的には、比較例4の半導体積層物では、半導体層の上面における転位密度は、基板の上面における転位密度よりも高く、1.6×106個/cm2であった。
比較例4の半導体積層物では、気相成長工程において基板の洞内から上面への残留不純物の析出が生じていたと考えられる。このため、比較例4では、気相成長工程において、基板の上面で析出した残留不純物に起因して、結晶方位のずれ等が生じ、半導体層に多くの転位が形成されてしまったと考えられる。
これに対し、実施例3の半導体積層物では、図22(a)に示すように、比較例3と比較して、半導体層の上面が平坦であった。実施例3の半導体積層物では、エッチング工程において基板の洞内の残留不純物を枯れさせることで、気相成長工程中に残留不純物が基板の上面に析出することを抑制することができた。これにより、基板の上面で析出した残留不純物を起因とした、半導体層の異常成長や、半導体層が成長しない非成長領域の形成を抑制することができた。また、実施例3の半導体積層物では、比較例3よりも気相成長工程での成長温度が低かったため、インクルージョンの爆発を抑制することができ、インクルージョンの上部を塞ぐ結晶部分の破片の飛散を抑制することができた。これにより、破片を起因とする半導体層の異常成長を抑制することができた。
また、実施例3の半導体積層物では、図22(b)に示すように、比較例3および4と比較して、半導体層中の転位が顕著に減少していた。実施例3の半導体積層物では、半導体層の上面における転位密度は、基板の上面における転位密度と同等以下であり、5×104個/cm2であった。
実施例3の半導体積層物では、基板の上面への残留不純物の析出を抑制することで、基板の上面で析出した残留不純物を起因とした結晶方位のずれ等の発生を抑制することができ、半導体層中の転位の形成を抑制することができた。また、実施例3の半導体積層物では、上述のように、比較例3よりも気相成長工程での成長温度を低くし、インクルージョンの爆発を抑制することで、インクルージョンの上部を塞ぐ結晶部分における塑性変形を抑制することができ、インクルージョンの上部に転位が生じることを抑制することができた。これらの結果、半導体層の上面における転位密度を、基板の上面における転位密度と同等以下とすることができた。
ただし、実施例3の半導体積層物では、図22(a)に示すように、半導体層の上面にピットが生じることがあった。実施例3のように成長温度が低いと、成長界面に吸着した原子または分子のマイグレーションが活発にならず、沿面成長(横方向成長)が起こり難くなる。つまり、横方向成長速度が比較的遅くなる。フラックス成長させた種結晶基板の表面には、ステップバンチング端や埋め残し穴などによる洞が高頻度で存在するため、例えば種結晶基板の表面における洞を起点として生じたピットが埋まり難くなることが考えられる。その結果、実施例3の半導体積層物では、半導体層の上面にピットが観察されたと考えられる。
実施例4の半導体積層物では、図22(c)に示すように、比較例3と比較して、第2層の上面が平坦であった。実施例4の半導体積層物では、実施例3と同様に、エッチング工程において基板の洞内の残留不純物を枯れさせることで、気相成長工程中に残留不純物が基板の上面に析出することを抑制することができた。これにより、基板の上面で析出した残留不純物を起因とした、半導体層の異常成長や、半導体層が成長しない非成長領域の形成を抑制することができた。さらに、実施例4の半導体積層物では、低温での第1層成長工程の後に第2層成長工程を行うことで、インクルージョンの爆発を抑制しつつ、結晶品質が良好な第2層を安定的に成長させることができた。これにより、インクルージョンの上部を塞ぐ結晶部分の破片の飛散を抑制することができた。その結果、破片を起因とする半導体層の異常成長を抑制することができた。
また、実施例4の半導体積層物では、図22(d)に示すように、比較例3および4と比較して、半導体層中の転位が顕著に減少していた。実施例4の半導体積層物では、第2層の上面における転位密度は、基板の上面における転位密度と同等以下であり、4.3×104個/cm2であった。
実施例4の半導体積層物では、実施例3と同様に、基板の上面への残留不純物の析出を抑制することで、基板の上面で析出した残留不純物を起因とした結晶方位のずれ等の発生を抑制することができ、半導体層中の転位の形成を抑制することができた。また、実施例4の半導体積層物では、第2層の成長時に第1層によってインクルージョンの爆発を抑制することで、インクルージョンの上部を塞ぐ結晶部分における塑性変形を抑制することができ、インクルージョンの上部に転位が生じることを抑制することができた。これらの結果、半導体層の上面における転位密度を、基板の上面における転位密度と同等以下とすることができた。
さらに実施例4の半導体積層物では、第2層成長工程での成長温度をIII族窒化物半導体の良好な結晶品質が得られる温度まで上昇させることで、第2層での沿面成長を維持し、第2層の上面におけるピットの形成を抑制することができた。
(まとめ)
以上のように、実施例3および4では、結晶品質が良好な半導体積層物を製造することができることを確認した。そのなかでも、2段階成長を行った実施例4では、実施例3よりもさらに結晶品質が良好な半導体積層物を得ることができることを確認した。
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
(付記1)
少なくとも表層がIII族窒化物半導体からなり、該表層が洞を含む種結晶基板を用意する工程と、
前記種結晶基板の少なくとも前記表層のうちの露出部を気相中でエッチングする工程と、
前記種結晶基板上に、III族窒化物半導体からなる半導体層を気相成長法によりエピタキシャル成長させる工程と、
を有し、
前記エッチングする工程では、
前記種結晶基板を用意する工程で前記種結晶基板の前記洞内に残留した残留不純物を、前記種結晶基板の少なくとも前記表層を構成する前記III族窒化物半導体とともに除去する
半導体積層物の製造方法。
(付記2)
前記種結晶基板を用意する工程は、
所定のインゴットをスライスし、前記種結晶基板を作製する工程と、
前記種結晶基板を研磨する工程と、
前記種結晶基板を洗浄する工程と、
のうち少なくともいずれかの結晶の加工工程を含み、
前記エッチングする工程では、
前記加工工程で使用するワックス、切削液、研磨液、研磨材および洗浄液のうち少なくともいずれかに由来する前記残留不純物を除去する
付記1に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記3)
前記エッチングする工程では、
前記表層の上面のうち結晶欠陥部を除く領域が平滑となる条件下で、前記表層の前記露出部をエッチングする
付記1又は2に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記4)
前記エッチングする工程では、
塩化水素ガスおよび水素ガスを含む雰囲気下で前記エッチングを行う
付記1〜3のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記5)
前記エッチングする工程では、
前記塩化水素ガス、前記水素ガスおよび不活性ガスを含む雰囲気下で前記エッチングを行い、
前記不活性ガスの分圧を前記塩化水素ガスおよび前記水素ガスのそれぞれの分圧よりも高くする
付記4に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記6)
前記エッチングする工程では、
前記不活性ガスの分圧に対する前記塩化水素ガスおよび前記水素ガスのそれぞれの分圧の比率を、1%以上10%以下とする
付記5に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記7)
前記エッチングする工程では、
アンモニアガスを非含有とした雰囲気下で前記エッチングを行う
付記1〜6のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記8)
前記エッチングする工程での前記基板の温度を、前記半導体層をエピタキシャル成長させる工程での前記基板の温度よりも低くする
付記1〜7のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記9)
前記エッチングする工程では、
前記種結晶基板の前記洞内から前記残留不純物の少なくとも一部を気化させ、気化した前記残留不純物の少なくとも一部を前記表層の上面に析出させ、
該表層の上面に析出した前記残留不純物の少なくとも一部を前記III族窒化物半導体とともに除去する
付記1〜8のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記10)
前記種結晶基板を用意する工程の後で前記エッチングする工程の前に、前記種結晶基板を所定の温度以上に加熱し、前記種結晶基板の前記洞内から前記残留不純物の少なくとも一部を気化させる工程を有する
付記1〜8のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記11)
前記残留不純物の少なくとも一部を気化させる工程では、
気化した前記残留不純物の少なくとも一部を前記表層の上面に析出させ、
前記エッチングする工程では、
前記表層の上面に析出した前記残留不純物の少なくとも一部を前記III族窒化物半導体とともに除去する
付記10に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記12)
前記残留不純物の少なくとも一部を気化させる工程では、
前記種結晶基板を所定の温度以上に加熱した後、前記種結晶基板の温度を一定時間保持する
付記10又は11に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記13)
前記残留不純物の少なくとも一部を気化させる工程では、
前記種結晶基板に対して所定のガスを供給し、
前記残留不純物の少なくとも一部を気化させる工程で前記種結晶基板の上面上に流れる前記所定のガスの流速を、前記エッチングする工程で前記種結晶基板の上面上に流れるガスの流速よりも高くする
付記10〜12のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記14)
前記残留不純物の少なくとも一部を気化させる工程での前記種結晶基板の最高温度を前記エッチングする工程での前記種結晶基板の温度よりも高くする
付記10〜13のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記15)
前記残留不純物の少なくとも一部を気化させる工程では、
前記種結晶基板を収容する処理室内の圧力を上下に変動させる
付記10〜14のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記16)
前記残留不純物の少なくとも一部を気化させる工程での前記種結晶基板を収容する処理室内の最低圧力を前記エッチングする工程での前記処理室内の圧力よりも低くする
付記10〜15のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記17)
前記エッチングする工程で前記種結晶基板の上面上に流れるガスの流速を、前記半導体層をエピタキシャル成長させる工程で前記種結晶基板の上面上に流れるガスの流速よりも高くする
付記1〜16のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記18)
前記エッチングする工程では、
前記種結晶基板を収容する処理室内の圧力を上下に変動させる
付記1〜17のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記19)
前記半導体層をエピタキシャル成長させる工程は、
前記種結晶基板上にIII族窒化物半導体からなる第1層を成長させる工程と、
前記第1層上にIII族窒化物半導体からなる第2層を成長させる工程と、
を有し、
前記第1層を成長させる工程での成長温度を、前記第2層を成長させる工程での成長温度よりも低くする
付記1〜18のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記20)
前記種結晶基板を用意する工程では、
前記種結晶基板として、前記表層がインクルージョンを含む基板を用意し、
前記第1層を成長させる工程では、
前記第1層によって、前記インクルージョンの爆発を抑制するように前記種結晶基板中の前記インクルージョンの上部を塞ぐ
付記19に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記21)
前記種結晶基板を用意する工程では、
前記種結晶基板として、前記表層がインクルージョンを含む基板を用意し、
前記第1層を成長させる工程では、
成長温度を前記インクルージョンの爆発が抑制される臨界温度以下とする
付記19又は20に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記22)
前記種結晶基板を用意する工程では、
前記種結晶基板として、前記表層がインクルージョンを含む基板を用意し、
前記第1層を成長させる工程では、
前記第1層の厚さを、前記種結晶基板の温度が前記第2層を成長させる工程での成長温度に加熱されたときに前記インクルージョンの爆発が抑制される臨界厚さ以上とする
付記19〜21のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記23)
前記エッチングする工程と前記半導体層をエピタキシャル成長させる工程とを、同一の処理室内で連続的に行う
付記1〜22のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記24)
前記種結晶基板を用意する工程では、
前記種結晶基板として、少なくとも前記表層が液相成長法により形成された基板を用意する
付記1〜23のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記25)
少なくとも結晶内部にインクルージョンを含む結晶の表層に研磨加工を施したIII族窒化物半導体からなる種結晶基板を用意する工程と、
前記種結晶基板の少なくとも前記表層のうちの露出部を気相中でエッチングする工程と、
前記種結晶基板上に、III族窒化物半導体からなる半導体層を気相成長法によりエピタキシャル成長させる工程と、
を有し、
前記エッチングする工程では、
前記種結晶基板を用意する工程で前記種結晶基板の少なくとも前記表層に残留した前記インクルージョンを含む残留不純物を、前記種結晶基板の少なくとも前記表層を構成する前記III族窒化物半導体とともに除去する
半導体積層物の製造方法。
(付記26)
少なくとも表層がIII族窒化物半導体からなり、該表層が洞を含む種結晶基板を用意する工程と、
前記種結晶基板の少なくとも前記表層のうちの露出部を気相中でエッチングする工程と、
前記種結晶基板上に、III族窒化物半導体からなる半導体層を気相成長法によりエピタキシャル成長させる工程と、
前記半導体層をスライスし、窒化物結晶基板を作製する工程と、
を有し、
前記エッチングする工程では、
前記種結晶基板を用意する工程で前記種結晶基板の前記洞内に残留した残留不純物を、前記種結晶基板の少なくとも前記表層を構成する前記III族窒化物半導体とともに除去する
窒化物結晶基板の製造方法。
(付記27)
少なくとも結晶内部にインクルージョンを含む結晶の表層に研磨加工を施したIII族窒化物半導体からなる種結晶基板を用意する工程と、
前記種結晶基板の少なくとも前記表層のうちの露出部を気相中でエッチングする工程と、
前記種結晶基板上に、III族窒化物半導体からなる半導体層を気相成長法によりエピタキシャル成長させる工程と、
前記半導体層をスライスし、窒化物結晶基板を作製する工程と、
を有し、
前記エッチングする工程では、
前記種結晶基板を用意する工程で前記種結晶基板の少なくとも前記表層に残留した前記インクルージョンを含む残留不純物を、前記種結晶基板の少なくとも前記表層を構成する前記III族窒化物半導体とともに除去する
窒化物結晶基板の製造方法。