JP2019007038A - プレス成形性および耐デント性に優れた自動車パネル用アルミニウム合金板 - Google Patents
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Abstract
【課題】板厚が3mm以下の薄板であっても、特にリジングマークを抑制するなどのプレス成形性と、自動車パネルとした場合の耐デント性に優れ、特にアウタパネルに適した、8000系アルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】特定組成のAl−Fe系アルミニウム合金板の組織を制御して、結晶粒を微細化しサブグレインの形成を促進するとともに、微細な第2相粒子の数を増やし、かつ、粗大な第2相粒子の数を減らし、自動車パネル用としてリジングマークの抑制を含めたプレス成形性と耐デント性(BH後の強度)を向上させる。
【選択図】なし
【解決手段】特定組成のAl−Fe系アルミニウム合金板の組織を制御して、結晶粒を微細化しサブグレインの形成を促進するとともに、微細な第2相粒子の数を増やし、かつ、粗大な第2相粒子の数を減らし、自動車パネル用としてリジングマークの抑制を含めたプレス成形性と耐デント性(BH後の強度)を向上させる。
【選択図】なし
Description
本発明は、アウタパネルなどの自動車用パネル(パネル材)に適した、Al−Fe系アルミニウム合金板(圧延板)に関するものである。
自動車からの排出ガスによる地球環境問題に対して、自動車等の輸送機器による燃費向上が求められている。特に、自動車の車体に対しては、従来から使用されている鋼材に替わって、より軽量なアルミニウム合金材が適用されている。このうち、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフなどのアウタパネル材(外装材)の素材として、アルミニウム合金板(素材圧延板)の需要が高まっている。
これら自動車用パネル材には一般にプレス成形が施されることから、適用されるアルミニウム合金板には優れた成形性が求められる。近年には、車体デザインやキャラクタラインの多様化や先鋭化、複雑化に伴い、プレス成形加工が複雑で、加工条件が厳しくなる事例が増えており、プレス成形性をより向上させることが必要となっている。
従来から、自動車用アウタパネル材の素材としては、時効硬化性や耐食性に優れたAl−Mg−Si系の6000系アルミニウム合金板が使用されている。しかし、近年は、特に優れた外観デザインの要求が高まっており、この6000系アルミニウム合金板でも成形できないような、難成形性のアウタパネルも増加している。
このような難成形性のアウタパネルに対しては、6000系アルミニウム合金板よりも、強度は低いものの、より成形性に優れたAl−Fe系の8000系アルミニウム合金板が注目される。
これまでも、Al−Fe系の8000系アルミニウム合金板のプレス成形性を向上させるために、組成や組織などを制御することが、従来から種々提案されている。
これまでも、Al−Fe系の8000系アルミニウム合金板のプレス成形性を向上させるために、組成や組織などを制御することが、従来から種々提案されている。
例えば、特許文献1では、Al−Fe系の8000系アルミニウム合金板が、鋼板並みの成形性を得るために、3方向の引張試験で引張強さが90N/mm2以上、耐力45N/mm2以上で、全伸び40%以上であり、かつ局部伸びが10%以上を有することが提案されている。
特許文献2では、不可避不純物としてのTiが0.01質量%以下に制限された成分組成を有するとともに、平均結晶粒径が20μm以下、{110}方位結晶の面積率が25%以上に調整された組織を有することが提案されている。
特許文献3では、耐食性および成形性に優れたものとするために、マトリックス中に分散するAl−Fe系化合物の最大円相当直径が10μm以下、円相当直径0.2〜10μmのAl−Fe系化合物の分散密度が1×104〜1×106個/mm2であり、冷間圧延方向に対して、0°方向、45°方向、90°方向の全伸びを[L]、板厚を[T]と表したとき、[L]≧5×LN[T]+40を満足させることが提案されている。
ただ、これら従来の8000系アルミニウム合金素材板は、各々、自動車用の燃料タンクやタンクカバー電子機器のケースや自動車の部材、ヒートインシュレーターなどのプレス成形品を意図しているのみである。したがって、共通して、プレス成形後にベークハード(塗装焼付け硬化処理)して使用される、アウタパネルなどの自動車用アウタパネル材への使用などを意図していない。
このため、従来の組織制御によって、プレス成形性自体を向上させることができても、近年の低温短時間条件下でのベークハード後の強度が低く、特に板厚が3mm以下である、アウタパネルなどの薄板の自動車パネル材では、耐デント性が不足する問題を有する。
このため、従来の組織制御によって、プレス成形性自体を向上させることができても、近年の低温短時間条件下でのベークハード後の強度が低く、特に板厚が3mm以下である、アウタパネルなどの薄板の自動車パネル材では、耐デント性が不足する問題を有する。
また、プレス成形性においても、従来の自動車用の燃料タンクやタンクカバー電子機器のケースや自動車の部材、ヒートインシュレーターなどのプレス成形に比して、特に成形条件が厳しい、アウタパネルなどのプレス成形において発生する、パネル外観や美観に影響する、リジングマークの抑制を全く認識していない。
このリジングマークは、アウタパネルなどの自動車用アウタパネル材をプレス成形後、ベークハード(塗装焼付け硬化処理)工程により塗装されて始めて、外観や美観を阻害する、パネル表面の凹凸として認識されるものである。したがって、従来の8000系アルミニウム合金素材板を自動車アウタパネル材として使用する場合、表面品質を低下させるリジングマークは抑制させることが必要である。
本発明では、このような従来の8000系アルミニウム合金素材板の限界に着目してなされてなされたものであり、板厚が3mm以下の薄板であっても、特にリジングマーク発生限界も考慮されたプレス成形性と、自動車パネルとした場合の耐デント性に優れ、特にアウタパネルに適した、8000系アルミニウム合金板を提供しようとするものである。
前記目的を達成するため、本発明のプレス成形性および耐デント性に優れた自動車パネル用アルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Fe:1.0〜1.5%、Mn:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%を各々含有し、残部がAlおよび不純物からなり、板厚が0.5〜3mmである、Al−Fe系アルミニウム合金板であって、前記アルミニウム合金板の板表面における組織を、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡により測定した場合の、結晶粒またはサブグレインの平均粒径が3μm以下であるとともに、前記板の圧延方向に平行な断面における組織を、走査型電子顕微鏡により測定した場合の、円相当直径が1μm以下の第2相粒子の平均密度が8000個/mm2以上で、かつ、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度が100個/mm2以下であり、前記アルミニウム合金板の全伸びが30%以上であるとともに、前記アルミニウム合金板に2%の予ひずみを付与後、170℃×20分の熱処理をした際の0.2%耐力が75MPa以上である。
本発明では、8000系アルミニウム合金板において、これまでは制御対象とはなっていなかった、サブグレインを微細化するとともに、円相当直径が1μm以下の微細な第2相粒子と、その逆に、円相当直径が4μm以上の粗大な第2相粒子の平均密度(平均数密度)をともに制御する。
これによって、素材板である8000系アルミニウム合金板の、リジングマークを抑制するなどのプレス成形性を向上させる。また、この8000系アルミニウム合金板を、170℃×20分の低温短時間条件でベークハード(人工時効処理)した場合でも、BH(ベークハード)後の0.2%耐力を75MPa以上に高強度化でき、この素材板のプレス成形品である自動車パネルの耐デント性を併せて向上させることができる。
以下に、本発明の要件について、要件毎に具体的に説明する。
(板厚)
本発明のアルミニウム合金板は、常法の圧延工程によって製造された板厚が0.5〜3mmの圧延薄板であり、アウタパネルなどの自動車用パネル(パネル材)を用途としている。板厚が0.5mm未満では、自動車パネルとしての強度や剛性が不足する。一方で、板厚が3mmを超えた場合には、板厚が厚すぎるため、自動車パネルへのプレス成形が困難となる。また、鋼板や鋼材に代替されるべき、アルミニウム合金の使用による軽量化の効果も損なわれる。
本発明のアルミニウム合金板は、常法の圧延工程によって製造された板厚が0.5〜3mmの圧延薄板であり、アウタパネルなどの自動車用パネル(パネル材)を用途としている。板厚が0.5mm未満では、自動車パネルとしての強度や剛性が不足する。一方で、板厚が3mmを超えた場合には、板厚が厚すぎるため、自動車パネルへのプレス成形が困難となる。また、鋼板や鋼材に代替されるべき、アルミニウム合金の使用による軽量化の効果も損なわれる。
(化学成分組成)
本発明のAl−Fe系(以下、8000系とも言う)アルミニウム合金の化学成分組成について、以下に説明する。
本発明では、前記アウタパネルなどの自動車パネルの素材板として必要なリジングマーク性などのプレス成形性、そして、成形されて自動車パネルとされた際に必要な耐デント性などの要求特性を、8000系アルミニウム合金板の組成の面から満たすようにする。ただし、この場合でも、従来の組成や、圧延による板の製造工程自体を大きくは変えないことを前提とする。
本発明のAl−Fe系(以下、8000系とも言う)アルミニウム合金の化学成分組成について、以下に説明する。
本発明では、前記アウタパネルなどの自動車パネルの素材板として必要なリジングマーク性などのプレス成形性、そして、成形されて自動車パネルとされた際に必要な耐デント性などの要求特性を、8000系アルミニウム合金板の組成の面から満たすようにする。ただし、この場合でも、従来の組成や、圧延による板の製造工程自体を大きくは変えないことを前提とする。
このような課題や特性を組成の面から満たすようにするため、8000系アルミニウム合金板の組成は、質量%で、Fe:1.0〜1.5%、Mn:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%を各々含有し、残部がAlおよび不純物からなる組成とする。この組成に加え、前記アルミニウム合金板が、質量%で、Cr:0.05〜0.5%を選択的に含んだ組成としてもよい。
本発明における自動車パネル用8000系アルミニウム合金板における、各元素の含有範囲と意義、あるいは許容量について以下に説明する。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
Fe:1.0〜1.5%
Feは、板のサブグレインを安定化して、平均粒径を微細化させ、強度および伸びを付与し、リジングマーク性などのプレス成形性と、塗装焼付け硬化処理などのBH後の自動車パネルの強度、耐デント性を向上させる重要な元素である。
Feが1.0%未満ではその効果が少なく、結晶粒が粗大化して、強度や耐デント性が低下する。一方で、Feが1.5%を超えると、第2相粒子が粗大化して、伸びが低下し、プレス成形性を損ない、耐食性も低下する。したがって、Feの含有量は1.0〜1.5%の範囲とする。
Feは、板のサブグレインを安定化して、平均粒径を微細化させ、強度および伸びを付与し、リジングマーク性などのプレス成形性と、塗装焼付け硬化処理などのBH後の自動車パネルの強度、耐デント性を向上させる重要な元素である。
Feが1.0%未満ではその効果が少なく、結晶粒が粗大化して、強度や耐デント性が低下する。一方で、Feが1.5%を超えると、第2相粒子が粗大化して、伸びが低下し、プレス成形性を損ない、耐食性も低下する。したがって、Feの含有量は1.0〜1.5%の範囲とする。
Mn:0.05〜0.5%
Mnも、板のサブグレインを安定化して、平均粒径を微細化させ、強度および伸びを付与し、リジングマーク性などのプレス成形性と、塗装焼付け硬化処理などのBH後の自動車パネルの強度、耐デント性を向上させる重要な元素である。
Mnが0.05%未満ではその効果が少なく、結晶粒が粗大化して、強度や耐デント性が低下する。一方で、Mnが0.5%を超えると、第2相粒子が粗大化して、伸びが低下し、プレス成形性を損ない、耐食性も低下する。したがって、Mnの含有量は0.05〜0.5%の範囲とする。
Mnも、板のサブグレインを安定化して、平均粒径を微細化させ、強度および伸びを付与し、リジングマーク性などのプレス成形性と、塗装焼付け硬化処理などのBH後の自動車パネルの強度、耐デント性を向上させる重要な元素である。
Mnが0.05%未満ではその効果が少なく、結晶粒が粗大化して、強度や耐デント性が低下する。一方で、Mnが0.5%を超えると、第2相粒子が粗大化して、伸びが低下し、プレス成形性を損ない、耐食性も低下する。したがって、Mnの含有量は0.05〜0.5%の範囲とする。
Cu:0.05〜0.5%
Cuは、固溶強化により、塗装焼付け硬化処理などのBH後の自動車パネルの強度、耐デント性を向上させるための元素であり、必要により選択的に含有させる。Cuには、溶解時の湯漏れを防止する効果もある。Cuが0.05%未満ではその効果が少なく、強度や耐デント性が低下する。一方で、Cuが0.5%を超えると、強度が高くなる一方、伸びが低下し、プレス成形性を損ない、耐食性も低下する。したがって、Cuの含有量は0.05〜0.5%の範囲とする。
Cuは、固溶強化により、塗装焼付け硬化処理などのBH後の自動車パネルの強度、耐デント性を向上させるための元素であり、必要により選択的に含有させる。Cuには、溶解時の湯漏れを防止する効果もある。Cuが0.05%未満ではその効果が少なく、強度や耐デント性が低下する。一方で、Cuが0.5%を超えると、強度が高くなる一方、伸びが低下し、プレス成形性を損ない、耐食性も低下する。したがって、Cuの含有量は0.05〜0.5%の範囲とする。
Cr:0.05〜0.5%
Crは、Cuと同じく固溶強化により、塗装焼付け硬化処理などのBH後の自動車パネルの強度、耐デント性を向上させるための元素であり、必要により選択的に含有させる。0.05%未満ではその効果が少なく、0.5%を超えると強度が高くなりすぎ、伸びが低下し、プレス成形性を損ない、耐食性も低下する。したがって、含有させる場合のCrの含有量は0.05〜0.5%の範囲とする。
Crは、Cuと同じく固溶強化により、塗装焼付け硬化処理などのBH後の自動車パネルの強度、耐デント性を向上させるための元素であり、必要により選択的に含有させる。0.05%未満ではその効果が少なく、0.5%を超えると強度が高くなりすぎ、伸びが低下し、プレス成形性を損ない、耐食性も低下する。したがって、含有させる場合のCrの含有量は0.05〜0.5%の範囲とする。
その他の元素
上記以外のその他の元素(Si、Mg、TiおよびBなど)は、基本的に不純物であり、含有してもできるだけ少ないほうが好ましい。Siは晶出物を形成して局部伸びを阻害し、0.10%以下までの含有は許容する。Mgは固溶強化の効果もあり、0.3%までの含有は許容する。TiおよびBは、鋳塊の鋳造組織を微細化し鋳造割れを防止する効果もあり、Tiは0.10%まで、Bは0.002%までの含有は許容する。なお、この範囲内であれば、不可避的不純物として含有される場合だけでなく、積極的に添加された場合であっても本発明の効果を妨げない。
上記以外のその他の元素(Si、Mg、TiおよびBなど)は、基本的に不純物であり、含有してもできるだけ少ないほうが好ましい。Siは晶出物を形成して局部伸びを阻害し、0.10%以下までの含有は許容する。Mgは固溶強化の効果もあり、0.3%までの含有は許容する。TiおよびBは、鋳塊の鋳造組織を微細化し鋳造割れを防止する効果もあり、Tiは0.10%まで、Bは0.002%までの含有は許容する。なお、この範囲内であれば、不可避的不純物として含有される場合だけでなく、積極的に添加された場合であっても本発明の効果を妨げない。
(組織)
以上のAl−Fe系アルミニウム合金組成を前提として、本発明では、この組成を有するアルミニウム合金板における、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡(TEM)、および500倍の倍率の走査型電子顕微鏡(SEM)にて測定した場合の組織を規定する。すなわち、板の表面に平行な断面組織において、結晶粒またはサブグレインの平均粒径を3μm以下と微細化させ、サブグレインの形成を促進させる。同時に、板の圧延方向に平行な断面組織において、円相当直径が1μm以下の第2相粒子の平均密度を8000個/mm2以上に増加させ、かつ、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度を100個/mm2以下に規制する。
以上のAl−Fe系アルミニウム合金組成を前提として、本発明では、この組成を有するアルミニウム合金板における、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡(TEM)、および500倍の倍率の走査型電子顕微鏡(SEM)にて測定した場合の組織を規定する。すなわち、板の表面に平行な断面組織において、結晶粒またはサブグレインの平均粒径を3μm以下と微細化させ、サブグレインの形成を促進させる。同時に、板の圧延方向に平行な断面組織において、円相当直径が1μm以下の第2相粒子の平均密度を8000個/mm2以上に増加させ、かつ、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度を100個/mm2以下に規制する。
これによって、特に、板をプレス成形した後のパネル表面のリジングマークを抑制して、外装材としての優れた表面性状(リジングマークが無い塗膜外観、鮮鋭性、光沢性)を向上させる。
また、自動車パネルを、170℃×20分などの低温短時間条件で、人工時効処理(塗装焼付け硬化処理)した場合に、BH(ベークハード)後の0.2%耐力を75MPa以上に高強度化でき、自動車パネルの耐デント性を併せて向上させることができる。
また、自動車パネルを、170℃×20分などの低温短時間条件で、人工時効処理(塗装焼付け硬化処理)した場合に、BH(ベークハード)後の0.2%耐力を75MPa以上に高強度化でき、自動車パネルの耐デント性を併せて向上させることができる。
結晶粒またはサブグレインの平均粒径:
冷延などにより加工歪が加わった材料(組織)は、最終焼鈍処理などの熱処理によって、転位が合体消滅および再配列することにより、転位セル壁や変形帯などの転位密集領域の転位密度が減少する。このとき、サブグレイン(亜結晶粒)と呼ばれる、転位の再配列により低角粒界に囲まれた領域が形成される。また、これら一連の現象は回復と呼ばれ、転位が導入された材料(組織)が、与えられた温度、時間および応力のもと、エネルギーの低い構造になろうとすることによって生じる。この状態から熱処理を続けると、転位の合体消滅および再配列が更に進行し、歪のない結晶粒(再結晶粒)が形成する。
冷延などにより加工歪が加わった材料(組織)は、最終焼鈍処理などの熱処理によって、転位が合体消滅および再配列することにより、転位セル壁や変形帯などの転位密集領域の転位密度が減少する。このとき、サブグレイン(亜結晶粒)と呼ばれる、転位の再配列により低角粒界に囲まれた領域が形成される。また、これら一連の現象は回復と呼ばれ、転位が導入された材料(組織)が、与えられた温度、時間および応力のもと、エネルギーの低い構造になろうとすることによって生じる。この状態から熱処理を続けると、転位の合体消滅および再配列が更に進行し、歪のない結晶粒(再結晶粒)が形成する。
前記転位密集領域は、新たに移動してきた転位と合体消滅する確率が高く、加工硬化特性が低下するが、サブグレインの境界は転位の移動を妨げ、加工硬化特性が向上すると考えられる。加工硬化特性が向上すると均一変形能が向上するため、プレス成形性が向上し、リジングマークの発生が抑制させると考えられる。
また、このようなサブグレインは、この他に、前記低温短時間の人工時効硬化処理後の強度、耐デント性を向上させる効果もある。
また、このようなサブグレインは、この他に、前記低温短時間の人工時効硬化処理後の強度、耐デント性を向上させる効果もある。
このようなサブグレインは、8000系アルミニウム合金板の、板表面に平行な断面組織を、2万倍の倍率のTEMにて、電子線入射方位が(001)方向となるように傾斜させて測定した場合に、転位または小角粒界で区切られた領域として識別できる。この領域は、その境界である転位または小角粒界で区切られた外縁形状が、シャープ(鮮明で明確)な、内部に転位の少ない、独立あるいは孤立した小さな一つ一つの不定形の粒として識別できる。したがって、この不定形の粒の最大の長さを、サブグレインの粒径(μm)として測定でき、一部サブグレインではない粒も含めて観察視野中の全ての結晶粒またはサブグレインの粒径の平均を、規定する平均粒径として算出することができる。
これに対して、その一部または多くの部分が前記転位密集領域と接するか交わっており、あるいは、転位または小角粒界との境界が幅を持っていて、独立した一つ一つの小さな粒として識別できにくい粒は、本発明ではサブグレインとは見なさず、カウントしない。
以上のサブグレインの定義や測定方法の詳細については、5000系アルミニウム合金板におけるサブグレインの定義や測定方法として、特開2016−79503号公報などに記載されている。
以上のサブグレインの定義や測定方法の詳細については、5000系アルミニウム合金板におけるサブグレインの定義や測定方法として、特開2016−79503号公報などに記載されている。
このように、結晶粒またはサブグレインの平均粒径を3μm以下まで微細化させ、即ちサブグレインの形成を促進させることにより、局部伸びを向上させ、リジングマーク性などのプレス成形性と、BH後の強度および耐デント性が向上する。結晶粒またはサブグレインの平均粒径が3μmを超えて大きくなると、サブグレインの形成が不十分となり、局部伸びが低下して、リジングマーク性などのプレス成形性と、BH後の強度や耐デント性が低下する。言い換えると、同じ強度レベルで比較した場合のリジングマーク性が低下して、リジングマーク性を向上させたプレス成形性と耐デント性とを兼備できなくなる。
第2相粒子:
このような平均粒径とともに、本発明では、板の圧延方向に平行な断面組織において、円相当直径が1μm以下の第2相粒子の平均密度(平均数密度)を8000個/mm2以上と増加させ、かつ、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度(平均数密度)を100個/mm2以下に規制する。
このような平均粒径とともに、本発明では、板の圧延方向に平行な断面組織において、円相当直径が1μm以下の第2相粒子の平均密度(平均数密度)を8000個/mm2以上と増加させ、かつ、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度(平均数密度)を100個/mm2以下に規制する。
本発明で言う第2相粒子とは、Al−Fe系アルミニウム合金組成による、主としてAl−Fe系あるいはAl−Fe−(Mn、Cr)系の析出物である。
本発明では、2万倍の倍率のTEMおよび画像解析装置を用いて、視野内の粒内あるいは粒界上に存在する第2相粒子=析出物として、その大きさを問題としている。したがって、Alマトリックスあるいは粒界などとは、第2相粒子=析出物として識別でき、円相当直径としての大きさが測定できるのであれば、その組成を解析する必要性はない。
本発明では、2万倍の倍率のTEMおよび画像解析装置を用いて、視野内の粒内あるいは粒界上に存在する第2相粒子=析出物として、その大きさを問題としている。したがって、Alマトリックスあるいは粒界などとは、第2相粒子=析出物として識別でき、円相当直径としての大きさが測定できるのであれば、その組成を解析する必要性はない。
円相当直径が1μm以下の、500倍の倍率のSEMにより測定可能(観察可能)な微細な第2相粒子は、サブグレインの安定化に寄与し、板の最終焼鈍時に、転位を蓄積させて、サブグレインを維持し、平均粒径を3μm以下まで微細化させる効果がある。この効果を保証するために、円相当直径が1μm以下の微細な第2相粒子の平均密度は8000個/mm2以上と、その数を多くする必要があり、この平均密度が8000個/mm2未満では、その数が少なすぎて、この効果が小さい。
一方、円相当直径が4μm以上の、500倍の倍率のSEMにより測定可能(観察可能)な、大きな(粗大な)第2相粒子は、その存在自体が局部伸びを低下させ、リジングマーク性を低下させる。
このため、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度は100個/mm2以下と、その数を少なくする必要があり、この平均密度が100個/mm2を超えた場合には、その数が多すぎて、リジングマーク性が低下して、リジングマーク性と耐デント性とを兼備できなくなる。
このため、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度は100個/mm2以下と、その数を少なくする必要があり、この平均密度が100個/mm2を超えた場合には、その数が多すぎて、リジングマーク性が低下して、リジングマーク性と耐デント性とを兼備できなくなる。
ここで、円相当直径(円相当径とも言う)は、粒状だが不定形の第2相粒子の面積Sを求めた上で、この第2相粒子の面積Sと等しい円面積を持つ円の直径Lと定義され、この直径Lは、4×化合物の面積S/πの平方根として算出できる。
(組織の測定方法:板の表面に平行な任意の断面における結晶粒またはサブグレインの平均粒径の規定)
以上の本発明で規定する組織は、8000系アルミニウム合金板の表面に平行な断面組織を、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡(TEM)により、電子線入射方位が(001)方向となるように傾斜させて測定する。測定に供する試料は、最終焼鈍を施した冷延板に対し、この板の表面に平行な縦断面組織から採取した試料とする。
試料は、前記板の表面に平行な断面として、前記板の任意の部位を板表面が研磨面となるように切断して採取する。そして、この試料からTEM用の薄膜試料を作製した上で、2万倍の倍率のTEMによって測定する。このTEMにより撮影した組織写真を画像処理し、測定視野内(1視野あたりの観察面積が16μm2を5視野)の同定(識別)と測定が可能な、前記のように定義した結晶粒またはサブグレインの粒径を測定する。
以上の本発明で規定する組織は、8000系アルミニウム合金板の表面に平行な断面組織を、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡(TEM)により、電子線入射方位が(001)方向となるように傾斜させて測定する。測定に供する試料は、最終焼鈍を施した冷延板に対し、この板の表面に平行な縦断面組織から採取した試料とする。
試料は、前記板の表面に平行な断面として、前記板の任意の部位を板表面が研磨面となるように切断して採取する。そして、この試料からTEM用の薄膜試料を作製した上で、2万倍の倍率のTEMによって測定する。このTEMにより撮影した組織写真を画像処理し、測定視野内(1視野あたりの観察面積が16μm2を5視野)の同定(識別)と測定が可能な、前記のように定義した結晶粒またはサブグレインの粒径を測定する。
平均粒径は、前記視野内で測定された全ての結晶粒またはサブグレインの粒径の平均値を算出した上で、更に前記5視野で平均化して、本発明で規定する平均粒径とする。
(組織の測定方法:板の圧延方向に平行な断面における第2相粒子の平均密度の規定)
前記板における第2相粒子を測定する場合には、板の圧延方向に平行な断面の組織を、500倍の倍率の走査型電子顕微鏡(SEM)により測定する。測定に供する試料は、板の圧延方向に平行な縦断面組織から採取した試料とする。
試料は、前記板の圧延方向に平行な断面として、前記板の任意の部位を圧延方向に平行な方向の平面方向(水平方向)に対して垂直方向(縦方向)に切断して採取する。そして、この試料を機械研磨、バフ研磨して表面を調製した上で、500倍の倍率のSEMによって測定する。第2相粒子は、SEMの反射電子像(組成像)において母相とのコントラストで認識でき、Al−Fe系やAl−Fe−(Mn、Cr)系第2相粒子はAl母相より白く写る。このSEMにて、1視野あたりの観察面積が0.03mm2となるように20視野分撮影し、画像処理装置などを用いて指定サイズの第2相粒子についての平均数密度を算出する。
前記板における第2相粒子を測定する場合には、板の圧延方向に平行な断面の組織を、500倍の倍率の走査型電子顕微鏡(SEM)により測定する。測定に供する試料は、板の圧延方向に平行な縦断面組織から採取した試料とする。
試料は、前記板の圧延方向に平行な断面として、前記板の任意の部位を圧延方向に平行な方向の平面方向(水平方向)に対して垂直方向(縦方向)に切断して採取する。そして、この試料を機械研磨、バフ研磨して表面を調製した上で、500倍の倍率のSEMによって測定する。第2相粒子は、SEMの反射電子像(組成像)において母相とのコントラストで認識でき、Al−Fe系やAl−Fe−(Mn、Cr)系第2相粒子はAl母相より白く写る。このSEMにて、1視野あたりの観察面積が0.03mm2となるように20視野分撮影し、画像処理装置などを用いて指定サイズの第2相粒子についての平均数密度を算出する。
円相当直径が1μm以下の第2相粒子の平均密度と、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度は、前記視野内で測定されて区分けされた、全ての各円相当直径の第2相粒子の個数を、前記観察面積で除して、各円相当直径の第2相粒子の密度を算出する。そして、その上で、更に前記20視野で平均化して、本発明で規定する各円相当直径の第2相粒子の平均密度とする。
(製造方法)
次に、本発明のアルミニウム合金板の製造方法について、以下に説明する。本発明に係る製造方法は、工程自体は常法による圧延工程とし、鋳造した8000系アルミニウム合金鋳塊を均質化熱処理し、熱間圧延後に、最終板厚まで冷間圧延して、所望の板厚の冷延板とする。
次に、本発明のアルミニウム合金板の製造方法について、以下に説明する。本発明に係る製造方法は、工程自体は常法による圧延工程とし、鋳造した8000系アルミニウム合金鋳塊を均質化熱処理し、熱間圧延後に、最終板厚まで冷間圧延して、所望の板厚の冷延板とする。
溶解、鋳造:
前記した組成を有するアルミニウム合金を溶解した溶湯から、所定形状の鋳塊を作製する。アルミニウム合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されず、常法あるいは公知の方法を用いればよい。
前記した組成を有するアルミニウム合金を溶解した溶湯から、所定形状の鋳塊を作製する。アルミニウム合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されず、常法あるいは公知の方法を用いればよい。
均質化熱処理:
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立ち、均質化熱処理(均熱処理)を施す。この均質化熱処理温度は、460℃〜620℃、好ましくは510℃〜600℃、より好ましくは560℃〜590℃で、4〜24時間(h)保持することが好ましい。
このような条件での均熱処理によって、第2相粒子が微細化され、この第2相粒子により、再結晶粒のピン止め効果が発揮され、最終焼鈍処理での結晶粒粗大化や強度低下が防止される。
次いで、前記鋳造されたアルミニウム合金鋳塊に、熱間圧延に先立ち、均質化熱処理(均熱処理)を施す。この均質化熱処理温度は、460℃〜620℃、好ましくは510℃〜600℃、より好ましくは560℃〜590℃で、4〜24時間(h)保持することが好ましい。
このような条件での均熱処理によって、第2相粒子が微細化され、この第2相粒子により、再結晶粒のピン止め効果が発揮され、最終焼鈍処理での結晶粒粗大化や強度低下が防止される。
均質化熱処理温度が460℃未満では、Mn系粒子が微細に分散し、これが最終焼鈍処理の初期においては再結晶粒界のピン止めに効果がある一方で、再結晶粒界の移動速度が大きくなり、ピン止めできなくなると、再結晶粒が一気に粗大化する。このため、サブグレインが形成されずに、強度やリジングマーク性が低下する。
一方、均熱温度が620℃を超えた場合には、鋳塊のバーニングが生じる可能性がある。
一方、均熱温度が620℃を超えた場合には、鋳塊のバーニングが生じる可能性がある。
熱間圧延:
熱間圧延、特に粗圧延の開始温度は、350〜590℃であることが好ましい。粗圧延の開始温度が350℃未満では、圧延時の変形抵抗が大きくなるため好ましくない。
熱間圧延、特に粗圧延の開始温度は、350〜590℃であることが好ましい。粗圧延の開始温度が350℃未満では、圧延時の変形抵抗が大きくなるため好ましくない。
熱間圧延(仕上げ圧延)の巻き取り温度は、220〜340℃、好ましくは270〜310℃とする。この巻き取り温度が340℃を超えると、熱延の段階で再結晶粒が形成し、冷延時の蓄積ひずみ量が少なくなり、最終焼鈍処理において再結晶粒径が粗大化し、サブグレインが形成されずに、強度やリジングマーク性が低下する可能性がある。
冷間圧延、焼鈍:
熱間圧延後の冷間圧延は常法の範囲で行うが、その後の最終焼鈍処理は、連続焼鈍炉の場合は300〜350℃で、0〜30秒(s)保持し、バッチ焼鈍炉の場合は250〜330℃で、4〜12時間(h)保持する条件での、H22調質により、微細なサブグレインが維持できる。
前記各最終焼鈍処理の焼鈍温度が各下限温度より低いと、再結晶せず、等軸粒ではなく圧延方向に伸長した圧延組織が残留して、サブグレインが形成しきれないため、伸びが低下する。一方で、前記各最終焼鈍処理の上限温度より高いと、再結晶粒が粗大化し、サブグレインが形成されず、強度が低下する。
熱間圧延後の冷間圧延は常法の範囲で行うが、その後の最終焼鈍処理は、連続焼鈍炉の場合は300〜350℃で、0〜30秒(s)保持し、バッチ焼鈍炉の場合は250〜330℃で、4〜12時間(h)保持する条件での、H22調質により、微細なサブグレインが維持できる。
前記各最終焼鈍処理の焼鈍温度が各下限温度より低いと、再結晶せず、等軸粒ではなく圧延方向に伸長した圧延組織が残留して、サブグレインが形成しきれないため、伸びが低下する。一方で、前記各最終焼鈍処理の上限温度より高いと、再結晶粒が粗大化し、サブグレインが形成されず、強度が低下する。
アルミニウム合金製自動車パネルの製造:
本発明にかかるアルミニウム合金製自動車パネルは、上記で説明したアルミニウム合金板を素材として、プレス成形により最終の成形品とされて車体に組み込まれた後、あるいはパネル単体のままで、更にカチオン電着塗装などの塗装、および塗装焼付け処理(人工時効処理、ベークハード処理またはBH処理)が施された上で使用される。
本発明にかかるアルミニウム合金製自動車パネルは、上記で説明したアルミニウム合金板を素材として、プレス成形により最終の成形品とされて車体に組み込まれた後、あるいはパネル単体のままで、更にカチオン電着塗装などの塗装、および塗装焼付け処理(人工時効処理、ベークハード処理またはBH処理)が施された上で使用される。
次に、本発明の実施例を説明する。表1に示す合金組成のアルミニウム合金板を、表2に示す製造条件にて、均質化熱処理、熱間圧延、冷間圧延および最終焼鈍を行い、表3のように組織を作り分けた製品板とした。そして、これら製品板の特性を表3の通り、測定および評価した。
ここで、表1中の「−」は、化学組成が検出限界未満であったことを示す。また、表3において、各実施例および各比較例で採用した、表1の合金種(成分組成)と表2の製造条件を各々、各表に記載の記号(英文字)または番号(数字)で示している。
以下に、アルミニウム合金板の具体的な製造条件を説明する。表1に示す各組成の鋳塊を、DC鋳造法(半連続鋳造法)にて溶製した。続いて、表2に示す温度−時間条件にて、各例とも、鋳塊を均質化熱処理した。この均質化熱処理終了後は、室温まで冷却することなく、表2に示す、各熱間圧延開始温度まで冷却した後、熱間圧延の粗圧延を各々実施した。そして、表2に示す巻き取り温度にて仕上げ圧延を終了した。各熱間圧延板の最終板厚は3.5〜10mmとした。
これら熱間圧延後のアルミニウム合金板に対し、表2に示す通り、各冷延圧延率にて冷間圧延を行った後に、連続焼鈍炉またはバッチ式の大気炉にて、各温度−時間の条件にて最終焼鈍を各々実施した。
これら熱間圧延後のアルミニウム合金板に対し、表2に示す通り、各冷延圧延率にて冷間圧延を行った後に、連続焼鈍炉またはバッチ式の大気炉にて、各温度−時間の条件にて最終焼鈍を各々実施した。
これら最終焼鈍後のアルミニウム合金板から供試板を採取し、各供試板の組織と機械的特性、成形性、リジングマーク性を調査した。そして、更に、これら供試板に2%の予ひずみを付与した後で、170℃×20分の熱処理(BH)を施した後の特性として、0.2%耐力を測定した。
(組織の測定方法)
最終焼鈍後のアルミニウム合金板から供試板を採取し、供試板の表面に平行な断面組織を、2万倍の倍率のTEMとして、日本電子社製の電界放出型透過電子顕微鏡:JEM−2010を用いて、加速電圧200kVの条件の下、結晶粒またはサブグレインの平均粒径(μm)を、前記した組織の規定方法にて測定した。また、供試板の圧延方向に平行な断面の組織を、500倍の倍率のSEMとして、日本電子社製の電界放出型走査電子顕微鏡:JSM―7001Fを用いて、加速電圧15kVの条件にて、円相当直径が1μm以下の第2相粒子の平均密度(個/mm2)、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度(個/mm2)を、前記した組織の測定方法により測定した。
なお、表3において、「平均粒径」を「圧延組織」と表記しているのは、圧延組織が残留して、サブグレインが形成しきれず、平均粒径を測定できなかった場合である。
最終焼鈍後のアルミニウム合金板から供試板を採取し、供試板の表面に平行な断面組織を、2万倍の倍率のTEMとして、日本電子社製の電界放出型透過電子顕微鏡:JEM−2010を用いて、加速電圧200kVの条件の下、結晶粒またはサブグレインの平均粒径(μm)を、前記した組織の規定方法にて測定した。また、供試板の圧延方向に平行な断面の組織を、500倍の倍率のSEMとして、日本電子社製の電界放出型走査電子顕微鏡:JSM―7001Fを用いて、加速電圧15kVの条件にて、円相当直径が1μm以下の第2相粒子の平均密度(個/mm2)、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度(個/mm2)を、前記した組織の測定方法により測定した。
なお、表3において、「平均粒径」を「圧延組織」と表記しているのは、圧延組織が残留して、サブグレインが形成しきれず、平均粒径を測定できなかった場合である。
(機械的性質)
機械的性質の測定に供する引張試験片は、前記最終焼鈍後の供試板から引張方向が圧延方向に垂直となるように、JIS2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚1mm)を採取および作製し、室温にて引張試験を行った。引張試験は、0.2%耐力測定までは5mm/min、0.2%耐力以降を30mm/minとした。
ここで、自動車アウタパネルへのプレス成形性としては、As0.2%耐力(BH前の0.2%耐力)は45MPa以上、As全伸び(BH前の全伸び)が30%以上で合格とした。なお、この45MPa以上のAs0.2%耐力は、170℃×20分の低温短時間での人工時効処理で、75MPa以上のAB0.2%耐力(BH後の0.2%耐力)を確実に得るためにも好ましい。
機械的性質の測定に供する引張試験片は、前記最終焼鈍後の供試板から引張方向が圧延方向に垂直となるように、JIS2201の5号試験片(25mm×50mmGL×板厚1mm)を採取および作製し、室温にて引張試験を行った。引張試験は、0.2%耐力測定までは5mm/min、0.2%耐力以降を30mm/minとした。
ここで、自動車アウタパネルへのプレス成形性としては、As0.2%耐力(BH前の0.2%耐力)は45MPa以上、As全伸び(BH前の全伸び)が30%以上で合格とした。なお、この45MPa以上のAs0.2%耐力は、170℃×20分の低温短時間での人工時効処理で、75MPa以上のAB0.2%耐力(BH後の0.2%耐力)を確実に得るためにも好ましい。
(BH後の強度)
BH後の強度は、大型の自動車アウタパネルへの成形を模擬して、最終焼鈍後の板の圧延方向に2%のひずみの引張変形を予め付与した後で、自動車アウタパネルの低温短時間の条件下での人工時効処理(塗装焼き付け処理)を模擬して、170℃×20分の人工時効処理(BH)をした。このBH後の板から、圧延方向に対して直角方向となる引張試験片を採取し、前記要領にて引張試験を行って、AB0.2%耐力(BH後の0.2%耐力)を各々測定した。
ここで、自動車アウタパネルとして、耐デント性に必要なAB0.2%耐力(強度)は75MPa以上で合格とした。
BH後の強度は、大型の自動車アウタパネルへの成形を模擬して、最終焼鈍後の板の圧延方向に2%のひずみの引張変形を予め付与した後で、自動車アウタパネルの低温短時間の条件下での人工時効処理(塗装焼き付け処理)を模擬して、170℃×20分の人工時効処理(BH)をした。このBH後の板から、圧延方向に対して直角方向となる引張試験片を採取し、前記要領にて引張試験を行って、AB0.2%耐力(BH後の0.2%耐力)を各々測定した。
ここで、自動車アウタパネルとして、耐デント性に必要なAB0.2%耐力(強度)は75MPa以上で合格とした。
(リジングマーク)
最終焼鈍後の供試板から切り出した各試験片(幅40mm×長さ200mmの短冊状)に対し、圧延方向に垂直方向に5%の塑性歪みを加えた後、ED塗装(カチオン電着塗装)を施してリジングマークの有無を目視評価した。結果、リジングマークが発生していないものを自動車外装材として合格(○)とし、明瞭なリジングマークが発生しているものを自動車外装材として不合格(×)とした。
最終焼鈍後の供試板から切り出した各試験片(幅40mm×長さ200mmの短冊状)に対し、圧延方向に垂直方向に5%の塑性歪みを加えた後、ED塗装(カチオン電着塗装)を施してリジングマークの有無を目視評価した。結果、リジングマークが発生していないものを自動車外装材として合格(○)とし、明瞭なリジングマークが発生しているものを自動車外装材として不合格(×)とした。
(成形性)
最終焼鈍後の供試板の成形性の評価として、張出し成形性評価のための割れ限界高さ(LDH0)を試験した。この試験は、前記供試板を、長さ200mmおよび幅110mmの試験片に切り、直径100mmの球状張出しパンチを用い、潤滑剤としてR−303Pを用いて、しわ押え圧力50kN、パンチ速度1.5mm/sで張出し成形し、試験片が割れるときの高さ(mm)を求めた。各サンプルに対して3回の試験を行い、その平均値を採用した。
この割れ限界高さが大きい程、張出し成形性に優れていることを意味し、自動車のアウタパネルへの成形に要求される張出し成形性を満足するためには、LDH0が30mm以上で合格とした。
なお、表3において、「成形性LDH0」をNGと表記しているのは、成形初期に割れが発生して、LDH0を測定できなかった場合である。
最終焼鈍後の供試板の成形性の評価として、張出し成形性評価のための割れ限界高さ(LDH0)を試験した。この試験は、前記供試板を、長さ200mmおよび幅110mmの試験片に切り、直径100mmの球状張出しパンチを用い、潤滑剤としてR−303Pを用いて、しわ押え圧力50kN、パンチ速度1.5mm/sで張出し成形し、試験片が割れるときの高さ(mm)を求めた。各サンプルに対して3回の試験を行い、その平均値を採用した。
この割れ限界高さが大きい程、張出し成形性に優れていることを意味し、自動車のアウタパネルへの成形に要求される張出し成形性を満足するためには、LDH0が30mm以上で合格とした。
なお、表3において、「成形性LDH0」をNGと表記しているのは、成形初期に割れが発生して、LDH0を測定できなかった場合である。
表1〜2に示すように、実施例1〜8は、本発明のアルミニウム合金組成の範囲内であり、かつ、好ましい製造条件で製造されている。
このため、表3に示す通り、各実施例は、本発明の規定を満足する組織を有する。この結果、各実施例は、自動車アウタパネルへの成形性に必要な、30%以上のAs全伸び、30mm以上のLDH0、リジングマーク性を有し、自動車アウタパネルとしての耐デント性に必要な45MPa以上のAs0.2%耐力と、75MPa以上のAB0.2%耐力(強度)とを有している。
このため、表3に示す通り、各実施例は、本発明の規定を満足する組織を有する。この結果、各実施例は、自動車アウタパネルへの成形性に必要な、30%以上のAs全伸び、30mm以上のLDH0、リジングマーク性を有し、自動車アウタパネルとしての耐デント性に必要な45MPa以上のAs0.2%耐力と、75MPa以上のAB0.2%耐力(強度)とを有している。
これに対して、比較例1〜7は、表1の合金組成がE〜Kの、本発明の成分組成範囲から外れている合金を使用している。このため、これら比較例は、本発明で規定する各組織の条件範囲から外れている。
この結果、各比較例は、自動車アウタパネルへの成形性に必要な、全伸び、LDH0、リジングマーク性、自動車アウタパネルとしての耐デント性に必要なAB0.2%耐力のいずれかが劣っている。
この結果、各比較例は、自動車アウタパネルへの成形性に必要な、全伸び、LDH0、リジングマーク性、自動車アウタパネルとしての耐デント性に必要なAB0.2%耐力のいずれかが劣っている。
比較例1は表1のEに示すようにFeの含有量が、比較例3は表1のGに示すようにMnの含有量が、各々少なすぎる。このため、平均結晶粒が粗大化しており、AB0.2%耐力が低すぎる。
比較例5は表1のIに示すようにCuの含有量が少なすぎる。このため、Cuの固溶量が少なくなり、AB0.2%耐力が低すぎる。
比較例2は表1のFに示すようにFeの含有量が、比較例4は表1のHに示すようにMnの含有量が、比較例6は表1のJに示すようにCuの含有量が、比較例7は表1のKに示すようにCrの含有量が、各々多すぎる。
このため、これら比較例は、第2相粒子が粗大化しており、全伸びが低すぎ、割れ限界高さ(LDH0)が低すぎる。
このため、これら比較例は、第2相粒子が粗大化しており、全伸びが低すぎ、割れ限界高さ(LDH0)が低すぎる。
また、比較例8〜14は、表1〜3に示すように、本発明の成分組成範囲を満足するものの、製造条件が好ましい範囲から外れている。この結果、各比較例も、自動車アウタパネルへの成形性に必要な、As全伸び、LDH0、リジングマーク性、自動車アウタパネルとしての耐デント性に必要なAB0.2%耐力(強度)のいずれかが劣っている。
比較例8は表2の番号5で示すように均熱処理温度が低すぎる(430℃)。このため、第2相粒子が微細化されすぎ、再結晶粒のピン止め効果が低下して、最終焼鈍後の結晶粒が粗大化して、AB0.2%耐力が低い。
比較例9は表2の番号6で示すように均熱処理温度が高すぎる(650℃)。このため、鋳塊のバーニングが生じて、板が製造できなかった。よって、各組織および各特性の測定はできなかったため、表3における各組織および各特性の結果は、全て「−」と表記している。
比較例10は表2の番号7で示すように熱延巻き取り温度が高すぎる(362℃)。このため、冷延時の蓄積ひずみが少なく、結晶粒が粗大化してAB0.2%耐力が低い。
比較例11は表2の番号8で示すように最終焼鈍温度が低すぎる(220℃)。このため、圧延組織が残留して、サブグレインが形成しきれないため、As全伸びが低い。
比較例12は表2の番号9で示すように最終焼鈍温度が高すぎる(410℃)。このため、結晶粒が粗大化し、AB0.2%耐力が低い。
比較例13は表2の番号10で示すように最終焼鈍温度が低すぎる(200℃)。このため、圧延組織が残留して、サブグレインが形成しきれないため、As全伸びが低い。
比較例14は表2の番号11で示すように最終焼鈍温度が高すぎる(390℃)。このため、再結晶粒が粗大化し、サブグレインが形成されず、AB0.2%耐力が低い。
したがって、以上の実施例の結果から、本発明アルミニウム合金板を得るための、本発明において規定する組成や組織の要件を全て満たすことの意義が裏付けられる。
本発明によれば、板厚が3mm以下の薄板であっても、特にリジングマークを抑制するなどのプレス成形性と、自動車パネルとした場合の耐デント性に優れ、特にアウタパネルに適した、8000系アルミニウム合金板を提供できる。この結果、自動車パネルとして、8000系アルミニウム合金板の適用を拡大できる。
Claims (3)
- 質量%で、Fe:1.0〜1.5%、Mn:0.05〜0.5%、Cu:0.05〜0.5%を各々含有し、残部がAlおよび不純物からなり、板厚が0.5〜3mmである、Al−Fe系アルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板の板表面における組織を、2万倍の倍率の透過型電子顕微鏡により測定した場合の、結晶粒またはサブグレインの平均粒径が3μm以下であるとともに、前記板の圧延方向に平行な断面における組織を、走査型電子顕微鏡により測定した場合の、円相当直径が1μm以下の第2相粒子の平均密度が8000個/mm2以上で、かつ、円相当直径が4μm以上の第2相粒子の平均密度が100個/mm2以下であり、
前記アルミニウム合金板の全伸びが30%以上であるとともに、
前記アルミニウム合金板に2%の予ひずみを付与後、170℃×20分の熱処理をした際の0.2%耐力が75MPa以上であることを特徴とする、プレス成形性および耐デント性に優れた自動車パネル用アルミニウム合金板。 - 前記アルミニウム合金板が、更に、質量%で、Cr:0.05〜0.5%を含有する、請求項1に記載のプレス成形性および耐デント性に優れた自動車パネル用アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が自動車のアウタパネル用である、請求項1または2に記載のプレス成形性および耐デント性に優れた自動車パネル用アルミニウム合金板。
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Cited By (1)
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WO2019230722A1 (ja) * | 2018-05-29 | 2019-12-05 | 株式会社Uacj | 成形性、強度及び外観品質に優れたアルミニウム合金板及びその製造方法 |
-
2017
- 2017-06-22 JP JP2017122139A patent/JP2019007038A/ja active Pending
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WO2019230722A1 (ja) * | 2018-05-29 | 2019-12-05 | 株式会社Uacj | 成形性、強度及び外観品質に優れたアルミニウム合金板及びその製造方法 |
JP2019206737A (ja) * | 2018-05-29 | 2019-12-05 | 株式会社Uacj | 成形性、強度及び外観品質に優れたアルミニウム合金板及びその製造方法 |
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